(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、米国における慢性肝疾患の最も一般的な原因であり、その推定罹患率は成人人口の30〜40%である。一般的に、NAFLD患者のうち非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の病理組織学的基準を満たすのは5〜20%のみであると考えられているが、それでも米国全体で人口の2〜5%が罹患し、肝硬変になる高いリスクを有していることとなる。肝硬変は、それ自体が、肝細胞癌(HCC)などの肝臓癌の十分な危険因子である。肥満もまたHCC発症リスクの一因と考えられ、コホート研究のメタ解析によると、肥満症ではHCCのリスクが90%増加する。これは、先進国におけるHCCの増加、および米国におけるHCCの年間発症率が過去20年間で80%増加していることの、部分的な説明となるかもしれない(非特許文献1:Torresら、Semin Liver Dis., 2012, 32(1): 30-38)。
【0003】
さらに驚くべきは、非硬変性NASH患者がHCCを発症しているという事実である。発症率を求めるにはより大規模な前向き研究が必要であるが、このデータを累積すると、HCCが非硬変性NASH患者において硬変症NASH患者よりも起こりやすいことの強力な証拠となるかもしれない。NASHと肝臓癌との関係は十分に確立されている。多くの症例研究から、具体的表現型、すなわちメタボリックシンドロームである男性の高齢患者が肝硬変の背景を有さずにHCCを発症しうることが明らかになっている。この原因とされる複雑な病態生理学的メカニズムがいくつか報告されているが、NASHの進行と癌化プロセスとの相互関係の完全な解明は、未だ研究途上である(非特許文献1)。
【0004】
肝炎およびHCCの主な原因は、(1)B型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)への感染と、(2)アルコール摂取やNAFLDなどの代謝性の原因、の2種類に分類できる。通常、慢性的なウイルス感染による肝炎が、肝炎の最も一般的な原因であり、アルコール性肝臓疾患とNAFLDがこれに続く。ウイルス感染による肝炎の薬物療法はすでに確立されており、インターフェロンアルファや核酸系薬剤を用いる抗ウイルス療法が一般的に行われている。他方、NAFLD、NASHや肝臓癌に関連する疾患の薬物療法は、疾患自体が最近になって認識されたこともあり、未だ確立されていない。
【0005】
肥満は世界的な健康問題となっており、糖尿病、心血管疾患、および数種の癌のリスクを高めることが知られている。肥満に関連する癌のうち、肝臓癌は、肥満と強い関係があることが疫学的研究によって明らかにされている(非特許文献2:Bhaskaranら、Lancet, 2014, 384: 755-765;非特許文献3:CalleおよびKaaks、Nature Reviews Cancer, 2004, 4: 579-591;非特許文献4:Calleら、New England J. Med., 2003, 348(17): 1625-1638)。HCCの最も一般的な危険因子は、HBVまたはHCVの長期感染である(非特許文献5:El-Serag、New England J. Med., 2011, 365: 1118-1127;非特許文献6:Marengoら、Annual Review of Medicine, 2016, 67: 103-117)。しかし、肥満に関連するNAFLDおよびNASHが、肝臓癌の危険因子であることが、最近明らかになった(非特許文献6;非特許文献7:Michelottiら、Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol., 2013, 10: 656-665;非特許文献8:Strebaら、World J. Gastroenterology, 2015, 21(14): 4103-4110)。現時点では、NAFLD、NASH、およびNASH関連肝臓癌の治療法は知られていない。したがって、NASH関連肝臓癌の治療法の開発が急がれている。
【0006】
プロスタグランジン類は、炎症に関連する痛み、発熱などの症状のメディエーターである。プロスタグランジンE2(PGE2)は、炎症状態で発現する主なエイコサノイドである。PGE2は、痛覚過敏、子宮収縮、消化蠕動、覚醒、胃酸分泌の抑制、血圧、血小板機能、骨代謝、血管形成、癌細胞の増殖、浸潤、転移などの種々の生理学的状態および/または病理学的状態にも関連する。非特許文献には、プロスタノイド受容体の性質、治療との関連、最も一般的に使用される選択的作動薬および拮抗剤が開示されている(例えば、非特許文献9:Konyaら、Pharmacology & Therapeutics, 2013, 138: 485-502;非特許文献10:Yokoyamaら、Pharmacol. Rev., 2013, 65: 1010-1052参照)。
【0007】
PGE2は、種々の癌の癌組織で高度に発現していることが報告されており、またPGE2が、癌の発生、増殖、進行や、患者の病状に関連することも明らかになっている。PGE2が、細胞増殖と細胞死(アポトーシス)の活性化に関係し、癌細胞の増殖、疾患の進行および癌転移の過程で重要な役割を果たしていることは、一般に認められている(例えば、非特許文献9、非特許文献10参照)。
【0008】
PGE2受容体には4つのサブタイプ、すなわちEP1、EP2、EP3およびEP4があり、異なった薬理的特徴を示す。EP4受容体サブタイプは、7回膜貫通ドメインを有する受容体として知られている、Gタンパク質共役型受容体サブファミリーに属している。さらに、EP4は、cAMPシグナルが関与する機能を刺激することによって、生物学的現象において重要な役割を果たす。薬理的研究の観点から、EP4受容体拮抗活性を有する化合物の探索がなされており、EP4受容体に対する選択的拮抗薬が明らかになっている(非特許文献9)。
【0009】
癌におけるEP4受容体の役割に関しては、非特許文献(例えば、非特許文献10;非特許文献11:Maら、Oncoimmunology, 2013, 2(1): e22647)や特許文献(特許文献1:U.S. Patent No. 8,921,391 B2)に、EP4受容体拮抗薬を用いた動物腫瘍モデルでの大腸癌、乳癌、胃癌、肺癌、前立腺癌などの癌腫の増殖阻害および/または転移が示されている。別の特許文献(例えば、特許文献2:WO2015/179615 A1や特許文献3:US2015/0004175 A1)では、EP4受容体拮抗薬の治療効果が示されており、EP4シグナル伝達の阻害により腫瘍増殖が抑制される。さらに、EP4シグナル阻害を別の抗癌剤または放射線治療と組み合わせると、それぞれの単独治療法よりも有効である(特許文献2参照)。
【0010】
肝臓癌におけるEP4受容体の役割が、最近の非特許文献において報告されている。PKA/CREB活性化を介したPGE2/EP4受容体シグナル伝達は、c−Myc発現をアップレギュレートし、その結果、インビトロでのHCC細胞の細胞増殖を促進した(非特許文献12:Xiaら、Oncology Reports, 2014, 32: 1521-1530)。PGE2はまた、インビトロおよびインビボの実験において肝星細胞から誘導された骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)の蓄積を促進したが、これは肝臓癌の増殖を刺激すると考えられる(非特許文献13:Xuら、Oncotarget, 2016, 7(8): 8866-8878)。この文献から、PGE2/EP4シグナル伝達が、肝臓癌の増殖に関与する可能性が示唆された。しかし、これらの参考文献は、動物におけるPGE2/EP4シグナル阻害が肝臓癌を抑制することについては明らかにしていない。PGE2/EP4受容体シグナル伝達のみの抑制(またはPD−1抗体との組み合わせ)は、CD8
+T細胞(CTL)機能活性を回復させる(非特許文献14:Chenら、Nature Medicine, 2015, 21(4):327-334;特許文献3)。これらの参考文献から、EP4シグナル阻害が宿主のCTL活性の上昇をもたらすことは明らかであるが、EP4シグナル阻害またはEP4拮抗活性がHCCの増殖および/または転移に有効であることの直接的な証拠はない。
【0011】
U.S. Patent No. 8,921,391 B2(特許文献1)では、動物腫瘍モデルにおける胃癌、肺癌、前立腺癌、および他の癌種での化合物A、Bおよび/またはCの抗腫瘍効果が示されている。この特許には、肝臓癌についての実験例はなく、請求項に肝臓癌は記されていない。さらに、この特許では、「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)関連」肝臓癌の治療は開示されておらず、NASHやNAFLDに関する情報も開示されていない。
【0012】
2015年に、肝臓癌治療、特にHBVやHCVが関与する肝疾患などの慢性のウイルス感染関連疾患における、PGE2/EP4シグナル阻害の重大な懸念が報告された。動物モデルにおいて、PGE2/EP4シグナルを阻害すると、ウイルス特異的なCD8
+T細胞(CTL)において、PD−1発現が顕著に誘導または活性化されることである(非特許文献14)。CTL上でのPD−1発現の上昇は、ウイルス感染に対する、T細胞による重要な免疫機能が抑制されることを強く示唆している。慢性的なHBVまたはHCVの感染による肝臓癌の場合、CTL上のPD−1発現が上昇すると、ウイルスの増殖が刺激され、腫瘍が進行、増殖する。腫瘍の増殖や進行におけるCTL上のPD−1発現上昇の影響は、近年の臨床癌治療において、それらの阻害剤(例えば、抗PD−1抗体や免疫チェックポイント阻害剤)の顕著な効果によって明確に示されている。したがって、この研究により、肝臓癌治療におけるPGE2/EP4シグナル阻害が、腫瘍をさらに増殖させる恐れがあるという全般的な懸念が生じたこととなる(非特許文献14)。すなわち、PGE2/EP4シグナルの阻害は、PD−1の発現を活性化することでウイルス感染に対する免疫学的反応を抑制し、ウイルスの成長や肝臓癌の進行を促進することが予想された。
【0013】
肝臓癌治療におけるEP4シグナル阻害に関するこの不都合な問題に鑑み、本発明者らは、NASH関連肝臓癌における顕著な抗腫瘍効果およびCD8
+T細胞(CTL)上のPD−1発現抑制を予期せずして見出した。これは、動物モデルにおける、単剤療法および他の薬物との組み合わせとしてのEP4拮抗薬の、ウイルス関連肝臓癌モデルにおけるPD−1発現の結果とは逆である。NASH関連肝臓癌は、ウイルス感染関連肝臓癌とは異なった原因を有する。これまでに、NASH関連肝臓癌の治療法において、EP4拮抗活性などのEP4メカニズムの効果を裏付ける証拠はない。また、NASH関連肝臓癌の治療における、EP4受容体と別の治療法との併用療法の有効性についても何ら開示されていない。したがって、EP4拮抗薬のNASH関連肝臓癌への使用は、当技術分野の予想を超えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】U.S. Patent No. 8,921,391 B2
【特許文献2】WO 2015/179615
【特許文献3】US 2015/0004175 A1
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Torres et al., Semin Liver Dis., 2012, 32(1): 30-38
【非特許文献2】Bhaskaran et al., Lancet, 2014, 384: 755-765
【非特許文献3】Calle and Kaaks, Nature Reviews Cancer, 2004, 4: 579-591
【非特許文献4】Calle et al., New England J. Med., 2003, 348(17): 1625-1638
【非特許文献5】El-Serag, New England J. Med., 2011, 365: 1118-1127
【非特許文献6】Marengo et al., Annual Review of Medicine, 2016, 67:103-117
【非特許文献7】Michelotti et al., Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol., 2013, 10: 656-665
【非特許文献8】Streba et al., World J. Gastroenterology, 2015, 21(14): 4103-4110
【非特許文献9】Konya et al., Pharmacology & Therapeutics, 2013, 138: 485-502
【非特許文献10】Yokoyama et al., Pharmacol. Rev., 2013, 65: 1010-1052
【非特許文献11】Ma et al., Oncoimmunology, 2013, 2(1): e22647
【非特許文献12】Xia et al., Oncology Reports, 2014, 32:1521-1530
【非特許文献13】Xu et al., Oncotarget, 2016, 7(8): 8866-8878
【非特許文献14】Chen et al., Nature Medicine, 2015, 21(4): 327-334
【非特許文献15】Ohtani et al., Cancer Research, 2014, 74: 1885-1889
【非特許文献16】Fuertes et al., J. Exp. Med., 2011, 208: 2005-2016
【非特許文献17】Salmon et al., Immunity, 2016, 44: 924-938
【非特許文献18】Zelenay et al., Cell, 2015, 162: 1257-1270
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
先に述べた通り、肥満は世界的な健康問題となっており、数種の癌のリスクを高めることが知られている。肥満関連肝臓癌の原因危険因子は、HBVまたはHCVの長期感染により引き起こされるHCCの危険因子とは異なっている。疫学的研究によると、肝臓癌は肥満と強い相関があることが明らかになっている。さらに、肥満に関連するNAFLDおよびNASHが、肝臓癌の危険因子であることが、最近明らかになった。その結果、肥満および/またはNASH関連肝臓癌を進行させる正確な分子メカニズムとともに、これらの疾患の治療法が早急に必要とされている。PGE2/EP4シグナル阻害による慢性HBVやHCV感染肝臓癌の治療は、CTL上のPD−1発現上昇による肝臓癌増悪の診断が予測された。その結果、慢性ウイルス感染性肝臓癌だけでなく、アルコール性、NAFLD、およびNASH関連肝臓癌においても、EP4シグナル阻害による肝臓癌治療には懸念があった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的は、EP4受容体拮抗薬を単独でまたは利用可能な治療法と組み合わせて用いる、NASH関連肝臓癌を治療する方法を提供することである。この目的を達成する過程で、本発明者らは、以下の3種の化合物および薬学的に許容されるその塩がそれぞれ、適切なマウスモデルを用いた試験で肥満誘発NASH関連肝臓癌の増殖および進行を顕著に抑制することを発見した。
4−[(1S)−1−({[5−クロロ−2−(3−フルオロフェノキシ)ピリジン−3−イル]カルボニル}アミノ)エチル]安息香酸(化合物A)、
4−((1S)−1−{[5−クロロ−2−(4−フルオロフェノキシ)ベンゾイル]アミノ}エチル)安息香酸(化合物B)、および
3−[2−(4−{2−エチル−4,6−ジメチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル}フェニル)エチル]−1−[(4−メチルベンゼン)スルホニル]尿素(化合物C)。
【0018】
上述のごとく、本発明は、本発明の化合物が肥満誘発NASH関連肝臓癌マウスモデルにおいてEP4選択的な拮抗活性を有し、肥満誘発NASH関連肝臓癌の増殖および進行を抑制したという発見に基づく。これは、EP4拮抗薬が肥満誘発NASH関連肝臓癌に対して治療効果を有するという、世界初の発見である。さらに本発明者らは、EP4拮抗薬をPD−1抗体と併用したNASH関連肝臓癌の治療が、各薬物の単剤療法と比較してより効果が高いという相乗効果を示すことを発見した。
【0019】
具体的には、本発明は以下の通りである。
[1]薬学的有効量のEP4拮抗薬を、その必要のあるヒトまたは動物に投与することを含む、NASH関連肝臓癌を治療する方法。
【0020】
[2]薬学的有効量のEP4拮抗薬を、第2の活性薬剤、抗腫瘍療法またはその両方と組み合わせて投与することをさらに含む、[1]の方法。
【0021】
[3]第2の活性薬剤が免疫チェックポイント阻害剤またはPD−1阻害剤である、[2]の方法。
【0022】
[4]EP4拮抗薬が、
4−[(1S)−1−({[5−クロロ−2−(3−フルオロフェノキシ)ピリジン−3−イル]カルボニル}アミノ)エチル]安息香酸(化合物A)、
4−((1S)−1−{[5−クロロ−2−(4−フルオロフェノキシ)ベンゾイル]アミノ}エチル)安息香酸(化合物B)、および
3−[2−(4−{2−エチル−4,6−ジメチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル}フェニル)エチル]−1−[(4−メチルベンゼン)スルホニル]尿素(化合物C)
からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、または薬学的に許容されるその塩である、[1]〜[3]のいずれか1つの方法。
【0023】
[5]その必要のあるヒトまたは動物において、抗腫瘍免疫機能を活性化しうるDCであるCD103
+DCを増加させること、
その必要のあるヒトまたは動物において、抗腫瘍免疫機能を抑制するFoxp3
+Treg細胞を減少させること、
その必要のあるヒトまたは動物において、CD8
+/Treg存在比を増加させること、
その必要のあるヒトまたは動物において、活性化されたCD8
+T細胞(CD69
+細胞)を増加させること、および
その必要のあるヒトまたは動物において、CD8
+T細胞のPD−1発現を低下させること、
からなる群から選択される、1以上の治療法であって、
薬学的有効量のEP4拮抗薬を、NASH関連肝臓癌の治療のために、その必要のあるヒトまたは動物に投与することを含む、治療法。
【0024】
[6]薬学的有効量のEP4拮抗薬を、第2の活性薬剤、抗腫瘍療法またはその両方と組み合わせて投与することをさらに含む、[5]の方法。
【0025】
[7]第2の活性薬剤が免疫チェックポイント阻害剤またはPD−1阻害剤である、[5]または[6]の方法。
【0026】
[8]EP4拮抗薬が、
4−[(1S)−1−({[5−クロロ−2−(3−フルオロフェノキシ)ピリジン−3−イル]カルボニル}アミノ)エチル]安息香酸(化合物A)、
4−((1S)−1−{[5−クロロ−2−(4−フルオロフェノキシ)ベンゾイル]アミノ}エチル)安息香酸(化合物B)、および
3−[2−(4−{2−エチル−4,6−ジメチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル}フェニル)エチル]−1−[(4−メチルベンゼン)スルホニル]尿素(化合物C)
からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、または薬学的に許容されるその塩である、[5]〜[7]のいずれか1つの方法。
【0027】
[9]EP4拮抗薬と、薬学的に許容される添加剤、希釈剤または担体とを含む、NASH関連肝臓癌を治療するための医薬組成物。
【0028】
[10]第2の活性薬剤および/または抗腫瘍性抗生物質をさらに含む、[9]の医薬組成物。
【0029】
[11]EP4拮抗薬が、
4−[(1S)−1−({[5−クロロ−2−(3−フルオロフェノキシ)ピリジン−3−イル]カルボニル}アミノ)エチル]安息香酸(化合物A)、
4−((1S)−1−{[5−クロロ−2−(4−フルオロフェノキシ)ベンゾイル]アミノ}エチル)安息香酸(化合物B)、および
3−[2−(4−{2−エチル−4,6−ジメチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル}フェニル)エチル]−1−[(4−メチルベンゼン)スルホニル]尿素(化合物C)
からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、または薬学的に許容されるその塩である、[9]または[10]の医薬組成物。
【0030】
[12]ヒトまたは動物のNASH関連肝臓癌を治療するための、EP4拮抗薬または薬学的に許容されるその塩の使用。
【0031】
[13]EP4拮抗薬を、第2の活性薬剤、抗腫瘍療法またはその両方と組み合わせて使用することを特徴とする、[12]の使用。
【0032】
[14]EP4拮抗薬が、
4−[(1S)−1−({[5−クロロ−2−(3−フルオロフェノキシ)ピリジン−3−イル]カルボニル}アミノ)エチル]安息香酸(化合物A)、
4−((1S)−1−{[5−クロロ−2−(4−フルオロフェノキシ)ベンゾイル]アミノ}エチル)安息香酸(化合物B)、および
3−[2−(4−{2−エチル−4,6−ジメチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル}フェニル)エチル]−1−[(4−メチルベンゼン)スルホニル]尿素(化合物C)
からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、または薬学的に許容されるその塩である、[12]または[13]の使用。
【0033】
[15]ヒトまたは動物のNASH関連肝臓癌を治療するための薬剤の製造における、EP4拮抗薬または薬学的に許容されるその塩の使用。
【0034】
[16]EP4拮抗薬を、第2の活性薬剤、抗腫瘍療法またはその両方と組み合わせて使用することを特徴とする、[15]の使用。
【0035】
[17]EP4拮抗薬が、
4−[(1S)−1−({[5−クロロ−2−(3−フルオロフェノキシ)ピリジン−3−イル]カルボニル}アミノ)エチル]安息香酸(化合物A)、
4−((1S)−1−{[5−クロロ−2−(4−フルオロフェノキシ)ベンゾイル]アミノ}エチル)安息香酸(化合物B)、および
3−[2−(4−{2−エチル−4,6−ジメチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル}フェニル)エチル]−1−[(4−メチルベンゼン)スルホニル]尿素(化合物C)
からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、または薬学的に許容されるその塩である、[15]または[16]の使用。
【発明の効果】
【0036】
したがって、本発明の化合物は、NASH関連肝臓癌の治療を要する患者において有用である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
NASH関連肝臓癌の治療に有用な本発明の化合物は、
4−[(1S)−1−({[5−クロロ−2−(3−フルオロフェノキシ)ピリジン−3−イル]カルボニル}アミノ)エチル]安息香酸(化合物A)、
4−((1S)−1−{[5−クロロ−2−(4−フルオロフェノキシ)ベンゾイル]アミノ}エチル)安息香酸(化合物B)、および
3−[2−(4−{2−エチル−4,6−ジメチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル}フェニル)エチル]−1−[(4−メチルベンゼン)スルホニル]尿素(化合物C)、
または薬学的に許容されるその塩である。
本発明の化合物には、その溶媒和物、錯体、多形体、プロドラッグ、異性体、同位体標識化合物も含まれる。
【0047】
本発明の化合物はWO 2005/021508に開示されている。
【0048】
薬学的に許容される塩には、その酸付加塩および塩基塩が含まれる。適切な酸付加塩は、非毒性塩を形成する酸から形成される。例としては、酢酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、重炭酸塩/炭酸塩、重硫酸塩/硫酸塩、ホウ酸塩、カンシル酸塩、クエン酸塩、エジシル酸塩、エシル酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヒベンズ酸塩、塩酸塩/塩化物、臭化水素酸塩/臭化物、ヨウ化水素塩/ヨウ化物、イセチオン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸塩、ナフチル酸塩、2−ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、リン酸塩/リン酸水素塩/リン酸二水素塩、糖酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩およびトリフルオロ酢酸塩が挙げられる。
【0049】
適切な塩基塩は、非毒性塩を形成する塩基から形成される。例としては、アルミニウム、アルギニン、ベンザチン、カルシウム、コリン、ジエチルアミン、ジオールアミン、グリシン、リシン、マグネシウム、メグルミン、オーラミン、カリウム、ナトリウム、トロメタミンおよび亜鉛の塩が挙げられる。
【0050】
適切な塩に関する総説としては、StahlおよびWermuthによる「Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use」(Wiley-VCH、Weinheim、Germany、2002)を参照されたい。
【0051】
本発明の化合物の薬学的に許容される塩は、本発明の化合物の溶液と、必要に応じた望ましい酸または塩基の溶液とを混合することにより容易に調製することができる。塩を溶液から沈殿させて濾過により回収してもよく、溶媒を蒸発させて回収してもよい。塩におけるイオン化の程度は、完全にイオン化した状態からから、ほとんどイオン化していない状態まで様々であってよい。
【0052】
本発明の化合物は、非溶媒和と溶媒和の両形態で存在することができる。本明細書において、用語「溶媒和物」は、本発明の化合物と、1種以上の薬学的に許容される溶媒分子、例えばエタノールとを含む分子錯体について記載するために使用される。
【0053】
前述の溶媒和物と対照的に、薬物とホストが化学量論的または非化学量論的な量で存在する包接体、薬物−ホスト包接錯体などの錯体も、本発明の範囲内に含まれる。化学量論的または非化学量論的な量であってよい2種以上の有機成分および/または無機成分を含有する化合物の錯体も含まれる。得られる錯体は、イオン化されていてもよく、部分的にイオン化されていてもよく、イオン化されていなくてもよい。そのような錯体の総説としては、HaleblianによるJ. Pharm. Sci., 64(8):1269-1288(1975年8月)を参照されたい。
【0054】
以下、本発明の化合物の記述はすべて、その塩、溶媒和物および錯体、ならびにその塩の溶媒和物および錯体への言及を含む。
【0055】
本発明の化合物には、上で規定した本発明の化合物、以下に規定するその多形体、プロドラッグおよび異性体(光学異性体、幾何異性体および互変異性体を含む)ならびに同位体標識された本発明の化合物が含まれる。
【0056】
上述のように、本発明は、本明細書に規定される本発明の化合物のすべての多形体を含む。
【0057】
本発明の化合物のいわゆる「プロドラッグ」も本発明の範囲内にある。したがって、本発明の化合物の特定の誘導体は、それ自体は薬理活性をほとんどあるいは全く有さないものの、体内にあるいは体表に投与された場合、例えば加水分解などを受けて、所望の活性を有する、本発明の化合物のいずれかの式を有する化合物に変換されうる。そのような誘導体を「プロドラッグ」と呼ぶ。プロドラッグの使用に関するさらなる情報は、「Pro-drugs as Novel Delivery Systems」, Vol. 14, ACS Symposium Series(T. HiguchiおよびW. Stella)および「Bioreversible Carriers in Drug Design」、Pergamon Press、1987(E.B.Roche編、American Pharmaceutical Association)中に見出すことができる。
【0058】
本発明のプロドラッグは、例えば、本発明の化合物中に存在する適切な官能基を、例えば、H Bundgaardによる「Design of Prodrugs」(Elsevier、1985)に記載の「プロモイエティ(pro−moieties)」として当業者に知られている特定の部分に置換することにより製造することができる。
【0059】
本発明によるプロドラッグの例としては、
(i)本発明の化合物がカルボン酸官能基(−COOH)を含む場合、例えば、その水素を(C
1〜C
8)アルキルで置換することなどにより得られる、そのエステル、
(ii)本発明の化合物がアルコール官能基(−OH)を含む場合、例えば、その水素を(C
1〜C
6)アルカノイルオキシメチルで置換することなどにより得られる、そのエーテル、および
(iii)本発明の化合物が第一級または第二級アミノ官能基(−NH
2または−NHR、ただしRはHではない)を含む場合、例えば、一方または両方の水素を(C
1〜C
10)アルカノイルで置換することなどにより得られる、そのアミド、
が挙げられる。
【0060】
上記の例以外の置換基の例も当業者には知られており、上述の参考文献中に見出すことができるが、それらに限定はされない。
【0061】
本発明の化合物はそれ自体で、本発明の別の化合物のプロドラッグとしての役割を果たすこともある。
【0062】
1個以上の不斉炭素原子を含む本発明の化合物は、2種以上の立体異性体として存在しうる。本発明の化合物がアルケニル基またはアルケニレン基を含む場合、幾何学的なシス/トランス(すなわちZ/E)異性体が存在しうる。本発明の化合物が、例えば、ケト基、オキシム基または芳香族部分を有する場合、互変異性現象(「互変異性」)が起こりうる。その結果、単一の化合物が2種以上の異性化現象を示すことがある。
【0063】
本発明の化合物の立体異性体、幾何異性体および互変異性体はすべて本発明の範囲内に含まれ、3種以上の等価な異性現象を示す化合物、およびそれらの1以上の混合物も含まれる。対イオンが、D−乳酸塩もしくはL−リジンなどの光学活性体であるか、またはDL−酒石酸塩もしくはDL−アルギニンなどのラセミ体である酸付加塩または塩基塩も含まれる。
【0064】
シス/トランス異性体は、当業者によく知られている従来技法、例えば、クロマトグラフィー、分別結晶などによって分離してもよい。
【0065】
個々の鏡像異性体を調製/分離するための従来技法としては、光学的に純粋であり適切な前駆体からのキラル合成や、ラセミ化合物(または塩もしくは誘導体のラセミ化合物)のキラル高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などを用いた分割が挙げられる。
【0066】
別法として、ラセミ化合物(またはラセミ前駆体)を、適切な光学活性化合物、例えばアルコールと反応させてもよく、本発明の化合物が酸性部分または塩基性部分を含む場合には、酒石酸や1−フェニルエチルアミンなどの酸または塩基と反応させてもよい。得られるジアステレオマー混合物を、クロマトグラフィーおよび/または分別結晶によって分離してもよく、ジアステレオ異性体の一方または両方を、当業者によく知られている手段によって対応する純粋な鏡像異性体に変換することができる。
【0067】
本発明のキラル化合物(およびそのキラル前駆体)は、クロマトグラフィー、通常はHPLCを用い、目的の光学異性体を含有する化合物を、固定相である不斉樹脂上で、0〜50(w/w)%、通常は2〜20(w/w)%のイソプロパノールと、0〜5(w/w)%のアルキルアミン、通常は0.1%のジエチルアミンとを含有する炭化水素、通常はヘプタンまたはヘキサンからなる移動層により展開することで、キラル化合物を含むフラクションとして溶出させることができる。溶出したフラクションの濃縮により、キラル化合物が得られる。
【0068】
立体異性体混合物は、当業者に知られている従来技法によって分離してもよい(例えば、E L ElielによるStereochemistry of Organic Compounds(Wiley, New York, 1994)参照)。
【0069】
本発明には、1個以上の原子が、同じ原子番号を有するが、原子量または質量数が天然に通常見出される原子量または質量数とは異なる原子によって置換されている、薬学的に許容される本発明の化合物の同位体標識化合物がすべて含まれる。
【0070】
本発明の化合物中に含まれるに適した同位体としては、
2Hや
3Hなどの水素同位体、
11C、
13Cや
14Cなどの炭素同位体、
36Clなどの塩素同位体、
18Fなどのフッ素同位体、
123Iおよび
125Iなどのヨウ素同位体、
13Nや
15Nなどの窒素同位体、
15O、
17Oや
18Oなどの酸素同位体、
32Pなどのリン同位体、および
35Sなどのイオウ同位体が挙げられる。
【0071】
本発明の特定の同位体標識化合物、例えば、放射性同位体を組み入れた同位体標識化合物は、癌の治療(診断、症状の緩和、QOLの向上、予防を含む)に伴う薬物および/または基質の組織分布検査において有用である。放射性同位体であるトリチウム、すなわち
3H、および炭素−14、すなわち
14Cは、組み入れの容易さおよび即時に検出可能な手段であるという観点から、この目的に特に有用である。
【0072】
重水素、すなわち
2Hなどの重同位体による置換は、代謝安定性が高まることによる特定の治療上の利点があり、例えば、in vivo半減期が長くなったり必要用量を低減できたりするため、環境によっては好ましいことがある。
【0073】
11C、
18F、
15Oおよび
13Nなどの陽電子放出同位体による置換は、基質受容体占有率を調べるためのポジトロン放出断層撮影(PET)検査において有用でありうる。
【0074】
通常、本発明の同位体標識化合物は、当業者に知られている従来技法により、または添付の実施例および調製に記載の方法と類似した方法により、使用された非標識試薬の代わりに適切な同位体標識試薬を用いて調製することができる。
【0075】
本発明による薬学的に許容される溶媒和物には、D
2O、d
6−アセトン、d
6−DMSOなどの同位体置換された溶媒を結晶溶媒として含有する溶媒和物も含まれる。
【0076】
医薬使用を目的とする本発明の化合物は、結晶性製品または無定形製品として投与することができる。それらは、沈殿、結晶化、凍結乾燥、噴霧乾燥などの方法または蒸発乾燥により、例えば、固体プラグ(solid plug)、粉末またはフィルムとして得ることができる。この目的には、マイクロ波またはラジオ波乾燥を使用することができる。
【0077】
本発明の各化合物(すなわち、化合物A、BまたはC)は、単独でもしくは組み合わせて、または1種以上の別の薬物(またはそれらの任意の組み合わせ)と組み合わせて投与してもよい。通常、それらは、1種以上の薬学的に許容される添加剤を用いた製剤として投与される。本明細書において、用語「添加剤」は、本発明の化合物以外の任意の成分についての記載に使用される。添加剤の選択は、具体的な投与方法、溶解度や安定性への添加剤の影響、および剤型の性質などの様々な要素に、かなりの程度まで依存するであろう。本発明の化合物は、単独でまたは薬学的に許容される担体もしくは希釈剤と組み合わせて、上記の経路のいずれかで投与してもよく、このような投与は、単回または複数回行うことができる。さらに詳細には、本発明の化合物は、多種多様な異なる剤型で投与することができる。すなわち、薬学的に許容される不活性な種々の担体と組み合わせて、錠剤、カプセル剤、ロゼンジ剤、トローチ剤、ハードキャンデー、散剤、スプレー剤、クリーム剤、軟膏剤、坐剤、ゼリー剤、ゲル剤、ペースト剤、ローション剤、軟膏剤、水性懸濁剤、注射剤、エリキシル剤、シロップ剤などの剤型にしてもよい。このような担体には、固形の希釈剤や増量剤、滅菌水系媒体および種々の非毒性有機溶媒などが含まれる。さらに、経口医薬組成物には、甘味および/または風味を適切に付与してもよい。本発明の化合物は、このような剤型中に、概して5%〜95重量%の濃度で存在する。経口投与には、微結晶性セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸二カリウムおよびグリシンなどの種々の賦形剤、デンプン、好ましくはトウモロコシデンプン、バレイショデンプンまたはタピオカデンプン、アルギン酸および特定の複合ケイ酸塩などの種々の崩壊剤、ポリビニルピロリドン、ショ糖、ゼラチンおよびアラビアガムなどの造粒結合剤を共に含有する錠剤を用いてもよい。さらに、錠剤化には、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウムおよびタルクなどの滑潤剤が、極めて有用である場合が多い。同種の固形組成物を増量剤としてゼラチンカプセル剤中に用いてもよく、この場合の好ましい材料には、ラクトースすなわち乳糖や高分子量ポリエチレングリコールも含まれる。経口投与に水懸濁液および/またはエリキシル剤が所望される場合、活性成分を、種々の甘味剤または香料、着色剤または染料、さらに必要であれば、乳化剤および/または懸濁化剤とともに、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、およびこれらの様々な組み合わせなどの希釈剤と混合してもよい。
【0078】
したがって、本発明は、本発明の化合物、その溶媒和物、そのプロドラッグ、これらの組み合わせ、および1種以上の別の薬理学的活性薬剤との組み合わせを提供する。さらに本発明は、本発明の化合物と、薬学的に許容される添加剤、希釈剤または担体とを含む、特にNASH関連肝臓癌を治療するための、医薬組成物を提供する。また本発明は、本発明の化合物または薬学的に許容されるその塩を含む第1の医薬組成物、第2の医薬組成物、および容器を含むキットを提供する。第2の医薬組成物が本発明の化合物を含んでもよい。
【0079】
NASH関連肝臓癌を治療するための、本発明の化合物または薬学的に許容されるその塩を含むキットもまた、本発明の1つである。本発明の化合物または薬学的に許容されるその塩を含む医薬組成物と、それに関する書面とを含む市販パッケージも、本発明の1つであり、書面には、本発明の化合物がNASH関連肝臓癌の治療のために使用可能であることまたはその治療に使用されるべきであることが記載されている。
【0080】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および請求の範囲から明らかであろう。本発明の特定の態様について説明されるが、本分野において既知の、または通常行われる他の変更および修正も本発明に包含され、本発明の請求の範囲内にある。本発明は、本発明の本質の範囲内にある均等物、変化物、使用、または改作物をも包含する。
【0081】
本発明の化合物は、癌を縮小、癌腫瘍サイズを縮小、癌転移を抑制、免疫細胞機能を調節、かつ/または癌治療効果を増強できる有効量で投与される。このような治療有効量は、本発明の具体的な化合物、治療すべき具体的な状態、患者の状態、投与経路、剤型、医師の判断、その他の要因によって変化する。本開示に照らし、当業者に明らかな要因に応じて、日常的な最適化技術を用いて、治療有効量の決定がなされる。本発明の化合物は、経口、非経口で、または局所的に、哺乳動物に投与することができる。一般的に、これらの化合物は、ヒトに対して1mg〜1000mg、好ましくは10mg〜600mgの用量で投与されることが最も望ましく、投与は単回でも1日に複数回でもよいが、治療対象者の体重および状態、治療する疾患の進行段階、ならびに選択された具体的な投与経路に応じた変更が必要であろう。
【0082】
医薬組成物は、本発明の化合物またはその薬学的塩を、薬学的に許容される輸送媒体または担体とともに含みうる。
【0083】
本明細書において、用語「薬学的に許容される輸送媒体」には、薬学的投与に適合する、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤や抗真菌剤、等張剤や吸収遅延剤などが含まれる。上記媒体は、他の活性な、あるいは不活性な成分も包含し、その組成に基づいて、癌組織を標的とするものである。
【0084】
本発明の化合物の治療効果は、細胞培養または実験動物を用いた標準的な治療的手順により、本開示に照らして測定することができる。例えば、ED
50(集団において50%の治療効果を認める投与量)を評価することである。
【0085】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトにおける使用のための用量範囲を決定する際に使用することができる。この投与量は、剤型および投与経路によって変動しうる。本発明の方法において使用されるEP4受容体拮抗薬(すなわち、化合物A、BまたはC)に関しては、この治療的有効投与量を、まず、細胞培養アッセイから推定することができる。細胞培養において決定されたIC
50値を含む循環血漿中薬物濃度範囲を達成するように、動物モデルにおける投与量を処方してもよい。このような情報を用いて、ヒトまたは動物において有用な投与量をより正確に決定することができる。血漿中の濃度は、例えば高速液体クロマトグラフィーにより計測してもよい。
【0086】
哺乳動物の効果的治療のために必要とされる用量およびタイミングに、特定の要因が影響を与える場合があることは、当業者にはよく知られており、その要因には、疾患または疾病の重症度、治療歴、哺乳動物の全般的健康状態および/または年齢、ならびにその他の疾患の存在が含まれるが、これらに限定はされない。さらに、治療上有効量の本発明の化合物を用いた哺乳動物の治療には、単回投与、隔日投与または連続投与を含むことができるが、これらに限定はされない。本発明の化合物は、経口、非経口で、または局所的に、哺乳動物に投与することができる。一般的に、これらの化合物は、ヒトに対して、例えば、1日1回、または1日に2〜4回に分けて投与することが最も好ましい。
【0087】
ヒト患者に投与する化合物の正確な量は、具体的には担当医の責任で決定されるであろう。とは言え、その用量は、患者の年齢および性別、治療しようとする詳細な症状およびその重篤度、投与経路などの複数の要因に依存するであろう。例えば経口投与の場合、本発明の化合物の1日投与量は、通常、哺乳動物(ヒトを含む)の体重1kgあたり、約0.02〜200mg、好ましくは約0.1〜100mgであり、これを1日1回、または1日に2〜4回に分けて投与する。より詳細には、例えば、ヒトへの投与は、体重1kgあたり1日に約0.02〜20mg、さらに詳細には、体重1kgあたり1日に約0.2〜12mgである。例えば、イヌへの投与は、体重1kgあたり1日に約0.5〜25mg、さらに詳細には、体重1kgあたり1日に約1〜10mgである。例えば、マウスへの投与は、体重1kgあたり1日に約1〜100mg、さらに詳細には、体重1kgあたり1日に約3〜30mgである。
【0088】
NASH関連肝臓癌の治療のために、本発明の化合物を医薬組成物の形で簡便に投与することができる。このような組成物は、1種以上の薬学的に許容される担体または賦形剤との混合物として常法により簡便に使用できるように提供してもよい。
【0089】
本発明の化合物は原料薬品として投与することもできるが、医薬製剤の形態にある医薬組成物として提供することが好ましい。該製剤には、本発明の化合物と、1種以上の許容可能な担体または希釈剤と、所望により別の治療成分とが含まれる。担体は、製剤の他の成分に適合するという意味において「許容可能」でなければならず、その受容者に対して有害であってはならない。
【0090】
医薬組成物は、所望の投与経路に適するよう製剤化される。投与経路は、例えば、非経口投与(例えば、静脈内、皮膚内、皮下)、経口投与(例えば、経口摂取または吸入)、経皮投与(局所)、経粘膜投与、直腸投与、および局所投与(経皮、口内および舌下を含む)である。溶液または懸濁液の形で処方された医薬組成物は、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th ed., Gennaro編、Mack Publishing Co., Easton, PA (1990)に記載の方法などによって調製することができる。
【0091】
最も好適な投与経路は、例えば、治療を受ける患者の状態や疾病によって異なる可能性がある。製剤は、単位剤型として簡便に提供されてもよく、製薬分野で公知の任意の方法によって製造できる。いずれの方法も、本発明の化合物(すなわち「活性成分」)を、1種以上の副成分を成す担体と混合するステップを含む。一般的に製剤は、活性成分を、液体担体、細かく粉砕した固形担体またはそのいずれもと、均一かつ均質に混合し、さらに必要であれば生成物を所望の製剤に成形することにより製造される。
【0092】
経口投与に好適な本発明の製剤は、各々所定量の活性成分を含有するカプセル剤、カシェ剤、錠剤(例えば、特に小児に投与されるチュアブル錠)などの個別単位として、散剤や顆粒剤として、水性液もしくは非水性液の液剤や懸濁剤として、または水中油液体エマルションや油中水液体エマルションとして提供してもよい。また、活性成分をボーラス剤、舐剤またはペースト剤として提供してもよい。
【0093】
必要に応じて1種以上の副成分を加えて圧縮または成形することにより、錠剤を製造してもよい。粉末や顆粒などの流動状態にある活性成分を、必要に応じて結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、滑沢剤、界面活性剤または分散剤と混合し、適切な機械で圧縮することにより、圧縮錠剤を製造してもよい。不活性な液体希釈剤で湿潤させた粉末活性成分の混合物を、適切な機械で成形することにより、成形錠剤を製造してもよい。必要に応じて、錠剤にコーティングしたり、割線を入れたりしてもよく、活性成分の徐放または制御放出ができるように製剤化してもよい。
【0094】
非経口投与用の製剤としては、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、製剤を目的の受容者の血液と等張にする溶質を含んでもよい水性および非水性滅菌注射液、ならびに懸濁化剤や増粘剤を含んでもよい水性および非水性滅菌懸濁液が挙げられる。製剤は、単位用量容器または複数用量容器、例えば密封アンプルやバイアルで提供してもよく、注射用蒸留水などの滅菌液体担体を使用直前に添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存してもよい。上記の種類の滅菌散剤、顆粒剤および錠剤から、即時注射液および懸濁液を調製してもよい。
【0095】
直腸投与用の製剤は、カカオバター、硬化脂またはポリエチレングリコールなどの通常の担体を用いた坐剤として提供してもよい。
【0096】
頬側投与や舌下投与などの口腔内局所投与用の製剤としては、スクロースおよびアラビアガムまたはトラガカントガムなどの香味基剤中に有効成分を含有するロゼンジ剤、およびゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアラビアガムなどの基剤中に有効成分を含有する香錠が挙げられる。
【0097】
本発明の化合物は、デポー製剤(持続性製剤)として製剤化してもよい。このような長時間作用性製剤は、埋植(例えば、皮下や筋肉内)または筋肉注射により投与してもよい。したがって本発明の化合物は、例えば好適な高分子もしくは疎水性材料とともに(例えば、許容される油中のエマルションとして)、またはイオン交換樹脂とともに、または例えば遅溶性塩のような遅溶性誘導体として、製剤化してもよい。
【0098】
製剤は、具体的に言及した上記成分に加えて、その製剤のタイプに応じた、当技術分野で通常使用される別の薬剤を含んでもよく、例えば、経口投与に好適なものとしては香料が挙げられる。
【0099】
また、低分子である第2の活性薬剤を使用して、本発明の化合物の投与に伴う有害作用を軽減することができる。しかし、いくつかの高分子と同様に、多くは、本発明の化合物とともに(例えば、前に、後に、または同時に)投与されると相乗効果をもたらしうると考えられる。低分子である第2の活性薬剤としては、抗癌剤、抗生物質、免疫抑制剤およびステロイド剤が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0100】
本発明はまた、別々の薬剤組成物をキットの形態に組み合わせることも含む。このキットは、2種の別々の薬剤組成物、すなわち本発明の化合物と、本明細書に述べるような第2の活性薬剤とを含む。このキットは、分割式ボトルまたは分割式ホイルパケットなどの、別々の組成物を収容するための単一の容器を含むが、該別々の組成物は、単一の非分割式容器に収容されてもよい。該キットは通常、該別々の組成物を投与するための説明書を含む。別々の成分を異なる投与形態(例えば、経口と非経口)で投与することが好ましい場合、別々の成分を異なる投与間隔で投与する場合、または組み合わせた個々の成分の用量設定を処方医師が行うことが望ましい場合、キット形態は特に好都合である。
【0101】
このようなキットの一例は、いわゆるブリスターパックである。ブリスターパックは包装業界において周知されており、製剤単位剤型(錠剤、カプセル剤など)の包装に広く用いられている。ブリスターパックは通常、好ましくは透明なプラスチック材料のホイルで覆われた比較的硬質な材料のシートを含む。包装工程中に、プラスチックホイルに凹みを形成する。凹みは、包装される錠剤またはカプセル剤の大きさや形状を有する。次に、錠剤またはカプセル剤を凹みに入れ、比較的硬質な材料のシートをプラスチックホイルに、凹みを形成した方向とは逆のホイル面でシールする。その結果、錠剤またはカプセル剤は、プラスチックホイルとシートとの間にある凹みの中にシールされる。該シートは、手で凹みに圧力を加えることで、凹みの位置でシートに開口が形成され、ブリスターパックから錠剤またはカプセル剤を取り出すことができるような強度を有することが好ましい。このようにして、錠剤またはカプセル剤を前記開口から取り出すことができる。
【0102】
特定の実施形態において、本明細書に提供される方法は、本発明の化合物を、1種以上の第2の活性薬剤、ならびに/または放射線治療および/もしくは外科手術と組み合わせて投与することを含む。第2の活性薬剤の例としては、別のEP4拮抗薬、免疫チェックポイント阻害剤、PD−1阻害剤、PD−L1阻害剤、CTLA4阻害剤、養子免疫細胞療法、癌ワクチン、およびコロニー刺激因子1受容体(CSF1R)、インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)、癌胎児性抗原(CEA)などを標的とした他の癌免疫剤が挙げられる。さらに、分子標的抗癌剤や癌化学療法剤も第2の活性薬剤に含まれる。より詳細には、第2の活性薬剤には、例えば、ニボルマブ、ランブロリズマブ/ペムブロリズマブ、REGE2810などのPD−1抗体、アベルマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、ペムブロリズマブなどのPD−L1抗体、イピリムマブやトレメリムマブなどのCTLA−4抗体、抗HER2抗体、抗VEGF抗体、抗EGFR抗体、およびEGFR受容体、PDGFR受容体、VEGFR受容体キナーゼ、c−キット、Bcr−Ablに対するチロシンキナーゼ阻害剤などの分子標的薬、アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗腫瘍性抗生物質、抗感染症薬、微小管阻害剤、ホルモン療法剤、白金製剤、トポイソメラーゼ阻害剤などの抗腫瘍化学療法剤、アロマターゼ阻害剤、抗エストロゲン剤、抗アンドロゲン剤、プロゲステロン、エストラジオール、LH−RH作動薬などの体液療法剤、ならびに養子T細胞療法、養子樹状細胞療法、養子NK細胞療法、癌ワクチン療法などの免疫療法が挙げられる。本発明の化合物と第2の活性薬剤の患者への投与は、同時にまたは連続的に、同一または異なった投与経路で行うことができる。特定の活性薬剤に用いられる特定の投与経路の適合性は、活性薬剤自体(例えば、血流に入る前に分解することなく経口投与できるかどうか)および治療される疾患に依存するであろう。第2の活性薬剤の推奨される投与経路は、当業者に公知である。放射線治療には、陽子線治療などの肝臓癌に適応される治療のすべてが含まれる。外科手術には、肝臓癌治療に適応される治療のすべてが含まれる。
【0103】
用語の定義
「EP4拮抗薬」とは、PGE2のΕΡ4受容体との相互作用により引き起こされる細胞のシグナル伝達を阻害または遮断する化合物を言う。ΕΡ4拮抗薬の例としては、IUPHARデータベースにΕΡ4受容体拮抗薬として列挙されている、ER−819762、MK−2894、MF498、ΟΝΟ−ΑΕ3−208、エバタネパグ(evatanepag)、ΟΝΟ−ΑΕ2−227、BGC201531、ΟΝΟ−ΑΕ3−240、GW627368およびΑΗ23848が挙げられるが、これらに限定はされない。化合物A、BおよびC、ならびに薬学的に許容されるその塩(本発明の化合物)もまた、EP4拮抗薬の例である。
【0104】
「免疫チェックポイント阻害剤」とは、T細胞などのある種の免疫細胞と癌細胞から形成される特定のタンパク質を遮断する種類の薬物を言う。これらのタンパク質は、免疫反応を阻止し、T細胞が癌細胞を殺傷しないようにできる。これらのタンパク質を遮断すると、免疫系のブレーキが解除され、T細胞が癌細胞をより殺傷できるようになる。免疫チェックポイント阻害剤の例としては、PD−1阻害剤、CTLA−4阻害剤、LAG−3阻害剤、TIM−3阻害剤、BTLA阻害剤、PD−L1阻害剤、PD−L2阻害剤、B7−1阻害剤、B7−2阻害剤、ガレクチン−9阻害剤、およびHVEM阻害剤が挙げられるが、これらに限定はされない。免疫チェックポイント阻害剤は、小分子、ペプチド、抗体などのタンパク質、核酸などであってもよい。
【0105】
「PD−1阻害剤」とは、プログラム細胞死タンパク質1(PD1)機能を阻害する抗体または他の分子を言う。阻害剤/抗体の例としては、U.S. Patent Nos. 7,029,674、7,488,802, 7,521,051, 8,008,449, 8,354,509, 8,617,546および8,709,417に記載の抗体が挙げられるが、これらに限定はされない。抗体の特定の実施形態には、MDX−1106/ニボルマブ、BMS−936558(ブリストル−マイヤーズスクイブ)、ランブロリズマブ(メルク)、MK−3475/ペムブロリズマブ(KEYTRUDA(登録商標)、メルク)、AMP−224(GSK)およびCT−011(Cure Tech)が含まれる。
【0106】
「PD−L1阻害剤」とは、プログラム細胞死リガンド1(PDL1)機能を阻害する抗体または他の分子を言う。抗体の例としては、U.S. Patent Nos. 8,217,149, 8,383,796, 8,552,154および8,617,546に記載の抗体が挙げられるが、これらに限定はされない。特定の実施形態において、抗体は、MPDL3280A/RG7446(ロシュ)、BMS−936559(BMS)、MEDI4736(アストラゼネカ)、またはMSB0010718C(メルクセローノ)である。
【0107】
「CTLA4阻害剤」とは、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)機能を阻害する抗体または他の分子を言う。阻害剤/抗体の例としては、CTLA4拮抗薬である抗体や、U.S. Patent Nos. 8,685,394および8,709,417に記載のCTLA4抗体が挙げられるが、これらに限定はされない。抗体の実施形態には、MDX−010(イピリムマブ、ブリストル−マイヤーズスクイブ)およびCP−675,206(トレメリムマブ、アストラゼネカ)が含まれる。特定の実施形態において、抗体は、イピリムマブまたはトレメリムマブである。
【0108】
「治療」および「治療する」とは、それを必要としている対象者の癌の進行を、緩和、抑制および/または後退させることを言う。用語「治療」には、癌の治療または寛解における成功の何らかの徴候が含まれ、これには、緩和、緩解、症状の軽減や、損傷、病状または状態を対象者にとって許容しやすいものとすること、進行を遅らせるまたは減速することなどの、客観的または主観的な任意のパラメーターが含まれる。治療または寛解の判断は、例えば、この技術分野において公知の理学的検査、病理学的検査および/または診断検査の結果に基づいて行うことができる。治療とは、処置が行われなかった場合と比較して、癌の発症または発現を抑制すること、またはその再発を抑制すること(寛解期間の延長など)も言う。本明細書において、用語「治療」には、腫瘍組織の縮小だけでなく、症状の緩和、生活の質(QOL)の改善、予防(放射線治療、術後再発の予防、補助化学療法など)も含まれる。
【0109】
「薬学的有効量」とは、癌の治療に有効な量を言い、臨床試験や評価、患者観察などを通じて明らかになる。「有効量」は、生物学的または化学的活性について検出可能な変化を起こす量も示しうる。検出可能な変化は、関連するメカニズムや方法を用いて、当業者により、検出および/またはさらに定量化されてもよい。さらに、「有効量」は、所望の生理学的状態を維持する量、すなわち、状態の顕著な悪化を抑制もしくは予防する量および/または改善を促進する量を示しうる。「有効量」はさらに治療上有効量を意味しうる。
【0110】
本明細書において、用語「薬学的に許容される塩」は、上記の例と一致し、比較的非毒性の、本発明の化合物の無機酸塩または有機酸塩を言う。これらの塩は、化合物の最終的な単離および精製の際にそのまま調製してもよく、あるいは遊離の形の精製化合物を、別途適切な有機酸または無機酸と反応させ、生成した塩を単離することにより調製してもよい。代表的な酸塩には、酢酸塩、アジピン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、重炭酸塩/炭酸塩、重硫酸塩/硫酸塩、ホウ酸塩、カンシル酸塩、クエン酸塩、シクラミン酸塩、エジシル酸塩、エシル酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヒベンズ酸塩、塩酸塩/塩化物、臭化水素酸塩/臭化物、ヨウ化水素塩/ヨウ化物、イセチオン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸塩、ナフチル酸塩、2−ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、リン酸塩/リン酸水素塩/リン酸二水素塩、ピログルタミン酸塩、糖酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、トリフルオロ酢酸塩およびキシナホ酸塩が含まれるが、これらに限定はされない。一実施形態において、薬学的に許容される塩は塩酸塩/塩化物塩である。
【0111】
「第2の活性薬剤」は、薬理学的な活性を有する低分子量薬物または生物学的製剤であり、これには、別のEP4拮抗薬などのPGE2シグナル阻害剤、ミクロソームプロスタグランジンEシンターゼ(mPGES)−1阻害剤、COX−2阻害剤、NSAID、免疫チェックポイント阻害剤、免疫細胞を標的とした薬物、分子標的抗癌剤、アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗腫瘍性抗生物質、抗感染症薬、微小管阻害剤、ホルモン療法剤、白金製剤、トポイソメラーゼ阻害剤、分子標的薬、分子標的癌療法、免疫療法などが含まれるが、これらに限定はされない。
【0112】
「抗腫瘍療法」には、抗腫瘍ワクチン療法を用いた治療や、養子T細胞療法、養子樹状細胞療法または養子NK細胞療法などの養子免疫細胞療法が含まれ、さらに癌放射線治療や外科手術治療も含まれるが、これらに限定はされない。
【0113】
「生物学的製剤」には、インターフェロンガンマやインターロイキン2などの薬理学的に活性なタンパク質、薬理学的に活性なペプチド、核酸および多糖が含まれるが、これらに限定はされない。
【0114】
「分子標的薬」には、抗HER2抗体、抗VEGF抗体、抗EGFR抗体、およびEGFR受容体、PDGFR受容体、VEGFR受容体キナーゼ、c−キット、Bcr−Ablに対するチロシンキナーゼ阻害剤が含まれるが、これらに限定はされない。
【0115】
「免疫療法」には、免疫調節薬、養子免疫細胞療法、抗腫瘍ワクチン療法などが含まれるが、これらに限定はされない。
【0116】
「NASH」とは、アルコール依存ではない患者に発生する症候群である非アルコール性脂肪性肝炎を言い、組織学的にアルコール性肝炎と区別できない肝臓損傷を引き起こす。これは、肥満、脂質異常症および耐糖能障害のうち少なくとも1つの危険因子を有する患者に最も多く発症する。発生病理はほとんど解明されていないが、インスリン抵抗性(例えば、肥満やメタボリックシンドロームなど)と関係しているようである。
【0117】
「NASH関連肝臓癌」とは、NASHによってかつ/または関連して誘発される、肝細胞癌(HCC)や、肝血管や胆管などの肝臓に関係する臓器で発生する他の癌を含む癌を言う。NASH関連肝臓癌は、疾患の発生病理に関して、肝炎B型またはC型ウイルスによって誘発される肝細胞癌とは異なる。
【0118】
「転移癌」とは、臓器または身体部位からの癌細胞が、(「転移」により)隣接していない別の臓器または身体部位に広がっている癌を言う。隣接していない臓器または身体部位の癌(「二次性腫瘍」または「転移腫瘍」)は、癌または癌細胞が広がる元の臓器または身体部位に由来する癌細胞を含む。二次性腫瘍が発生しうる部位には、リンパ節、肺、脳および/または骨が含まれるが、これらに限定はされない。
【0119】
本明細書において、用語「EP4シグナル」または「EP4シグナル伝達」は、cAMPの上昇と、その後の、EP4受容体の作動性刺激に関連するシグナル伝達を意味する。
【実施例】
【0120】
実施例1
化合物Aは、高脂肪食で誘発したNASH関連マウス肝臓癌モデルにおいて、肝臓癌の増殖を抑制した。
【0121】
動物実験
C57/BL6マウスは、日本クレア株式会社から購入した。Tlr2
−/−マウス(C57/BL6)は、オリエンタル酵母工業株式会社から購入した。
【0122】
組織学および免疫蛍光分析
ヘマトキシリン−エオシン染色と免疫蛍光分析を常法により行った(Yoshimotoら、Nature, 2013, 499:97-101)。
【0123】
免疫細胞の単離
免疫細胞をマウス肝臓から得て、サイトカイン産生とフローサイトメトリーの解析を行った。
【0124】
統計解析
データの解析は、ウェルチ補正を伴う独立t検定(両側)またはマン・ホイットニー検定(両側)により行った。p値が0.05未満であれば有意差ありとした。「NS」は有意差がないことを示す。
【0125】
試験結果
このマウスモデルは、DMBA、すなわち7,12−ジメチルベンズ(a)アントラセンの投与と、高脂肪食(HFD)の給餌により発症させた(非特許文献15)。このマウスモデルでは、腫瘍組織中でEP4の発現が顕著にアップレギュレートされているが、他のPGE2受容体はアップレギュレートされていなかった。このことは、肥満誘発NASH関連肝腫瘍組織において、主にEP4がPGE2シグナル伝達に介在している可能性を示唆する。この実験において、30mg/kgの化合物Aを1日1回、マウスに19週齢から30週齢まで毎日投与した(
図1)。対照として、別のマウス群にはビヒクルのみを投与し、活性成分は投与しなかった。化合物A投与マウスにおける肝細胞癌(HCC)の進行は、ビヒクル投与マウスと比較して、強く抑制された(
図2および
図3)。一方、化合物A投与が体重に影響を特に与えなかったことは注目に値する(
図4)。
【0126】
EP4遮断の、免疫細胞の数と活性化状態への影響を調べた。CD11c
hiMHC class II
hi樹状細胞(DC)とCD11b
+DCの割合は変化しなかったが、抗癌免疫応答に必須である(非特許文献16:Fuertesら、J. Exp. Med., 2011、208:2005-2016;非特許文献17:Salmonら、Immunity, 2016、44:924-938;非特許文献18:Zelenayら、Cell, 2015, 162:1257-1270)CD103
+DCの数は、化合物A投与群で増加した(
図5)。化合物Aの投与により、CD4
+Foxp3
+制御性T細胞(Treg)の割合は有意に減少したが、CD4
+Foxp3
−T細胞の度数は減少しなかった(
図6)。さらに、CD8
+T細胞のTreg細胞に対する比は、化合物A投与マウスで増加したが、CD8
+T細胞の度数は変化しなかった(
図6)。さらに、活性化マーカーCD69を発現しているCD8
+T細胞の数は、化合物A投与マウスから単離した肝臓において、有意に増加していた(
図7)。一方、化合物Aの投与により、腫瘍微小環境におけるT細胞上の重要な抑制性受容体である、プログラム細胞死−1(PD−1)を発現しているCD8
+T細胞の数は、有意に減少した(
図8)。これらの結果は、EP4経路の遮断が、NASH関連肝腫瘍微小環境において、抗腫瘍免疫を再活性化する可能性を示唆する。
【0127】
結論
EP4拮抗薬である化合物Aは、肥満誘発NASH関連マウス肝臓癌モデルの増殖および進行を有意に抑制した。マウスモデルに化合物Aを投与すると、腫瘍組織中で、抗癌免疫反応に必須であるDCサブタイプの割合は増加し(CD103
+)、細胞傷害性CD8
+T細胞上のPD−1の発現は低下した。化合物Aを投与すると、腫瘍組織中の免疫抑制Treg細胞(Foxp3
+)の割合も減少した。
【0128】
実施例2
化合物AをPD−1抗体と組み合わせると、HFD誘発NASH関連マウス肝臓癌モデルにおいて、化合物A単独よりも高い抗腫瘍効果を示すことが期待される。
【0129】
試験方法
実施例1と同じマウスモデルを用いて、HFD誘発NASH関連マウス肝臓癌モデルにおける、PD−1抗体と組み合わせた化合物Aの効果を試験することとした。したがって、化合物A処置群においてPD−1抗体を化合物Aとともに投与すること以外は、実施例1を繰り返す。
【0130】
結果
化合物AをPD−1抗体と組み合わせた治療は、HFD誘発NASH関連マウス肝臓癌モデルにおいて、実施例1の化合物A投与マウスよりも高い抗腫瘍効果を示すことが期待される。
【0131】
実施例3
化合物Bの投与は、HFD誘発NASH関連マウス肝臓癌モデルにおいて、肝臓癌の増殖を抑制することが期待される。
【0132】
試験方法
実施例1と同じマウスモデルを用いて、化合物Bの効果を試験することとした。すなわち、化合物Aの代わりに化合物Bを使用すること以外は、実施例1を繰り返す。
【0133】
試験結果
化合物Bによる治療は、HFD誘発NASH関連マウス肝臓癌モデルにおいて、肝臓癌の増殖を抑制することが期待される。化合物Bは、実施例1の化合物Aと同様に、腫瘍組織における免疫細胞機能を制御することが期待される。
【0134】
結論
EP4拮抗薬である化合物Bは、実施例1における化合物Aの結果と同様に、NASH関連マウス肝臓癌モデルにおける増殖および進行を抑制することが期待される。化合物Bのマウスモデルへの投与は、腫瘍組織において、抗癌免疫反応に必須なDCサブタイプ(CD103
+)の度数を増加させ、細胞傷害性CD8
+T細胞上のPD−1の発現を低下させることが期待される。化合物Bの投与は、腫瘍組織中の免疫抑制Treg細胞(Foxp3
+)の数を減少させることも期待される。
【0135】
実施例4
化合物BをPD−1抗体と組み合わせると、HFD誘発NASH関連マウス肝臓癌モデルにおいて、化合物B単独よりも高い抗腫瘍効果を示すことが期待される。
【0136】
試験方法
実施例3と同じマウスモデルを用いて、HFD誘発NASH関連マウス肝臓癌モデルにおける、PD−1抗体と組み合わせた化合物Bの効果を試験することとした。すなわち、化合物B投与群において、PD−1抗体を化合物Bとともに投与すること以外は、実施例3を繰り返す。
【0137】
結果
化合物BをPD−1抗体と組み合わせた治療は、HFD誘発NASH関連マウス肝臓癌モデルにおいて、実施例3の化合物B投与マウスよりも高い抗腫瘍効果を示すことが期待される。
【0138】
実施例5
化合物C投与は、HFD誘発NASH関連マウス肝臓癌モデルにおいて、肝臓癌の増殖を抑制することが期待される。
【0139】
試験方法
実施例1と同じマウスモデルを用いて、化合物Cの効果を試験することとした。すなわち、化合物Aの代わりに化合物Cを使用すること以外は、実施例1を繰り返す。
【0140】
試験結果
化合物Cによる治療は、HFD誘発NASH関連マウス肝臓癌モデルにおいて、肝臓癌の増殖を抑制することが期待される。化合物Cは、実施例1の化合物Aと同様に、腫瘍組織における免疫細胞機能を制御することが期待される。
【0141】
結論
EP4拮抗薬である化合物Cは、実施例1における化合物Aの結果および実施例3における化合物Bの予想される結果と同様に、NASH関連マウス肝臓癌モデルにおける増殖および進行を抑制することが期待される。化合物Cのマウスモデルへの投与は、腫瘍組織において、抗癌免疫反応に必須なDCサブタイプ(CD103
+)の度数を増加させ、細胞傷害性CD8
+T細胞上のPD−1の発現を低下させることが期待される。化合物Cの投与は、腫瘍組織中の免疫抑制Treg細胞(Foxp3
+)の数を減少させることも期待される。
【0142】
実施例6
化合物CをPD−1抗体と組み合わせると、HFD誘発NASH関連マウス肝臓癌モデルにおいて、化合物C単独よりも高い抗腫瘍効果を示すことが期待される。
【0143】
試験方法
実施例5と同じマウスモデルを用いて、HFD誘発NASH関連マウス肝臓癌モデルにおける、PD−1抗体と組み合わせた化合物Cの効果を試験することとした。すなわち、化合物C投与群において、PD−1抗体を化合物Cとともに投与すること以外は、実施例5を繰り返す。
【0144】
結果
化合物CをPD−1抗体と組み合わせた治療は、HFD誘発NASH関連マウス肝臓癌モデルにおいて、実施例5の化合物C投与マウスよりも高い抗腫瘍効果を示すことが期待される。