特許第6516481号(P6516481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッドの特許一覧

特許6516481ポリマースプレー堆積方法およびシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6516481
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】ポリマースプレー堆積方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/209 20170101AFI20190513BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20190513BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20190513BHJP
【FI】
   B29C64/209
   B29C64/112
   B33Y30/00
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-7951(P2015-7951)
(22)【出願日】2015年1月19日
(65)【公開番号】特開2015-140019(P2015-140019A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2018年1月4日
(31)【優先権主張番号】14/166,834
(32)【優先日】2014年1月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502096543
【氏名又は名称】パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド・マシュー・ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】アーミン・アール・ヴォルケル
(72)【発明者】
【氏名】ヴィクター・ベック
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・スティーヴン・パスケヴィッツ
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−537812(JP,A)
【文献】 米国特許第04034670(US,A)
【文献】 国際公開第97/011837(WO,A1)
【文献】 国際公開第03/004280(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00−64/40
B05B 7/00− 7/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの発散表面の間にある流体を、流体フィラメントがスプレーを形成する複数の液滴に分かれるまで、前記流体フィラメント延伸することによって、流体供給源から流体を受容し、前記複数の流体液滴を発生させるスプレー発生器と、
前記スプレー発生器から前記スプレーを運び出し、第1の方向に移動させるキャリアガスフローと、
前記スプレー発生器からのスプレーを受容し、キャリアガスフローにスプレーを取り込むハーベスティング要素と、
前記キャリアガスフローと、前記キャリアガスフローに混入されたスプレーと、を受容し、前記キャリアガスフローを空気力によって前記ターゲット表面に向かって前記第1の方向とは直角の方向に方向付ける空気の交差流を生じさせ、前記スプレーの液滴の少なくとも一部を前記ターゲット表面に到達させ、一方で余剰の液滴を前記粒体供給源にリサイクルするマルチノズルアレイと、
前記マルチノズルアレイを制御して、前記キャリアガスフローをターゲット表面に繰り返し適用して、ターゲット表面に三次元対象物を形成する対象物製造ステージと、
を含むポリマースプレー堆積システム。
【請求項2】
前記流体が、高分子量のポリマー性流体の溶液である、請求項1に記載のポリマースプレー堆積システム。
【請求項3】
前記スプレー発生器が、前記流体を前記2つのローラー間に規定されるニップの上流側に引き込み、前記流体を前記ニップの下流側で前記2つのローラーのそれぞれの発散表面の間で延伸する2つのローラーを含む、請求項1に記載のポリマースプレー堆積システム。
【請求項4】
前記スプレー発生器が、前記2つの発散表面間の流体を、前記第1の流体フィラメントが分かれて複数の第1の液滴になるまで第1の流体フィラメントに延伸することによって複数の第1の流体液滴を発生させる第1のスプレー発生器であり、前記流体供給源からの流体を受容し、第2の流体フィラメントが複数の第2の流体液滴に分かれるまで前記2つの発散表面間の流体を第2の流体フィラメントに延伸することによって複数の第2の流体液滴を発生させる第2のスプレー発生器をさらに含み、前記複数の第1の流体液滴および前記複数の第2の流体液体がスプレーを形成する、請求項1に記載のポリマースプレー堆積システム。
【請求項5】
前記流体が、融点を有する熱可塑性物質であり、前記ハーベスティング要素が、前記融点を超える温度にキャリアガスフロー中の熱可塑性物質を維持する、請求項1に記載のポリマースプレー堆積システム。
【請求項6】
前記ハーベスティング要素が、放射線状に前記キャリアガスフローを囲む空気の層、および前記空気層を放射線状に囲む加熱要素を含む、請求項1に記載のポリマースプレー堆積システム。
【請求項7】
前記ハーベスティング要素がさらに、前記加熱要素を放射線状に囲む断熱を含む、請求項6に記載のポリマースプレー堆積システム。
【請求項8】
前記マルチノズルアレイが、キャリアガスフローを前記ターゲット表面に空気圧で方向付ける、請求項1に記載のポリマースプレー堆積システム。
【請求項9】
前記マルチノズルアレイが、複数のノズルを含み、さらに前記ノズルに垂直な方向においてノズルの周りを循環するシースガスを放出するシースガス供給源を含み、前記対象物製造ステージが温度制御されたハウジングに封入され、このハウジングがキャリアガスフローを、前記スプレーおよび前記ステージの凍結温度を超え、前記三次元対象物のガラス転移温度未満に維持する、請求項1に記載のポリマースプレー堆積システム。
【請求項10】
前記対象物製造ステージが、前記ターゲット表面に垂直な方向においてマルチノズルアレイに対して転換し、前記三次元対象物を形成する、請求項1に記載のポリマースプレー堆積システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
部品のカスタム製造は、成長期の産業であり、広範囲の用途がある。一般的には、射出成形機および他の機械加工技術を使用して、対象物のモデルを創出していた、または対象物自体を創出していた。より詳細には、ガラス、金属、熱可塑性物質および他のポリマーのような加熱された材料を、所望の対象物の形状に特別に形成された射出モールドに射出する。材料は、モールド中で冷却されて、モールドの形状をとり、対象物を形成する。射出モールドは高価であり、創出するのに時間がかかり、対象物の形状への変更は、対象物を創出する時間および費用をさらに増大させることなく、適合させるのが困難である。
【背景技術】
【0002】
付加製造産業は、モデルまたは対象物自体を創出するために射出モールドを変更する際の費用、時間および問題に対応するように生じたものである。既知の付加製造技術としては、特に熱溶解積層法(FDM)、ステレオリソグラフィ(SLA)、選択的レーザー焼結(SLS)、および噴射システムが挙げられる。それぞれ既知の付加製造技術は、材料、費用、および/または体積能において制限があり、小規模の製造、カスタマイズされた製造および完全な熱可塑性材料一式を用いるプロトタイピングを妨げる。さらに、既知の付加製造技術は、射出成形のような一般的な技術によって製造される高品質の対象物の機械的特性、表面仕上げ、およびフィーチャ複製を備えた部品を正確に創出することはできない。
【0003】
付加製造が、用途に十分な性能を有する部品を製造できない状況では、ラピッドコンピュータ数値制御(CNC)機械加工および低コストツールを用いるラピッド射出成形の全体的な産業が生まれている。しかし、こうした技術は、付加製造技術よりも十分高価であり、それ自体のプロセス制限もある。
【0004】
この産業では、射出成形のような一般的ではあるが、高価で柔軟性のない時間のかかる技術によって製造される高品質、高体積能の対象物か、所望の構造上の一体性を有しておらず、時には所望の材料も用いないが、速度が速く、柔軟性の高い、低品質の対象物を製造する付加製造技術かのどちらかを選択しなければならなかった。例えば、FDMおよびSLSは、使用できる材料のタイプが制限され、100%未満の密度の対象物を創出する。ラピッドCNC成形は、優れたフィーチャ詳細および仕上げを有する良好な品質の対象物を得るが、高価なままである。既知の付加製造技術を用いて創出されたプロトタイプは、多くの場合、最終設計が選択されるまで精錬され、選択された時点で射出モールドを大規模な高品質射出成形製造のために創出する。こうした多相製造プロセスも時間がかかり、高価である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
製造産業は、広範囲の熱可塑性材料一式を用いるデジタル付加製造の利点、およびより一般的な製造技術を用いて得られる複雑性および構造上の一体性を有する対象物を製造できるようなフィーチャ解像度を実現する製造プロセスから利益を享受する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A図1Aは、開示の態様に従う、ポリマースプレー堆積システムのブロック図である。
図1B図1Bは、開示に従う、ポリマースプレー堆積システムおよび方法を用いて、三次元対象物を創出する方法における工程を示す図である。
図2A図2Aは、例としての2つのローラースプレー発生器を示す図である。
図2B図2Bは、例としての2つのピストンスプレー発生器を示す図である。
図3図3は、輸送チャンネルを含む例としてのハーベスティング要素を示す図である。
図4A図4Aは、例としての液滴サイズセレクタを示す図である。
図4B図4Bは、別の例としての液滴サイズセレクタを示す図である。
図5図5は、例としてのマルチノズルアレイを示す図である。
図6A図6Aは、ノズルに対して垂直に循環する空気フローを有する例としてのマルチノズルアレイを示す図である。
図6B図6Bは、ノズルに対して垂直に循環する空気フローを有する例としてのマルチノズルアレイを示す図である。
図7図7は、別の例としてのマルチノズルアレイを示す図である。
図8A図8Aは、例としてのポリマースプレー堆積システムを示す図である。
図8B図8Bは、図8Aに示される例としてのポリマースプレー堆積システムにおけるノズルを示す図である。
図9図9は、ターゲット表面上にスプレーを方向付けるための例としてのゲーティング機構を示す図である。
図10A図10Aは、図9に示されるゲーティング機構から離れた位置での個々のノズルを示す図である。
図10B図10Bは、図9に示されるゲーティング機構にある位置での個々のノズルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
開示されるポリマースプレー堆積システムおよび方法は、より広範囲の熱可塑性材料を用い、射出成形プロセスのようなより一般的な製造技術と同様の複雑性および構造上の一体性で製造された対象物のフィーチャサイズ解像度を有する3次元デジタル付加製造技術の利益を実現するのに役立つ。開示されたポリマースプレー堆積システムおよび方法は、高分子量ポリマーおよびこれらの溶液ならびに他の熱可塑性物質、例えばナイロン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリスルホンおよびアセタールを噴霧化し、これらから3次元対象物を創出できる。ポリマースプレー堆積システムおよび方法は、高度に粘弾性特性を有するニュートンおよび非ニュートン流体を噴霧化できる。
【0008】
図1Aは、例としてのポリマースプレー堆積システム100のブロックダイアグラムを示し、これはスプレー発生器102、ハーベスティング要素104、マルチノズルアレイ106、および対象物製造ステージ108を含む。スプレー発生器102は、流体供給源110から流体を受容し、複数の流体液滴を発生させ、これがスプレーを形成する。複数の流体液滴は、流体延伸技術によって発生し、ここで流体は延伸されて流体フィラメントを形成する。流体フィラメントは、複数の液滴に分かれてスプレーを形成する。
【0009】
図2Aおよび2Bは、2つの発散表面間の流体を、流体フィラメントがスプレーを形成する複数の液滴に分かれるまで流体フィラメントに延伸することによって、複数の流体液滴を発生する例としてのスプレー発生器方法およびシステムを示す。2つの発散表面間の流体を延伸する他の好適な方法は、複数のローラー配置、同方向に回転するローラー、反対方向に回転するローラー、リングまたはベルト内のローラーなどを含む種々の選択肢を用いて達成できる。
【0010】
図2Aは、反対方向に回転するローラー200、202の対によって延伸される流体の行程を示す。ニップ204は、2つのローラー200、202間の空間として定義され、ローラー200、202が反対方向に回転するときにここに流体が引き込まれる。ニップ204の上流側206にて流体がプールされ、ニップ204を通って引き込まれる。ニップ204の下流側208においては、流体は、2つの反対方向に回転するローラー200、202の発散表面間で流体フィラメント210に延伸される。ローラー200、202が反対方向に回転するので、流体フィラメント210が接着したローラー200、202の発散表面は、同じままであるが、こうした表面間の空間は大きくなる。流体フィラメント212は、ローラー200、202の表面が互いに離れるように回転するときにより長く、薄くなる。
【0011】
流体フィラメント212が、液体ブリッジのポイントに到達したときに、不安定になり、これはまた流体フィラメント212のためのキャピラリー破断ポイントであり、流体フィラメント212は破断して、いくつかの液滴214に分かれ、ローラーの各表面に過剰の流体216を残し得る。過剰の流体216は、そのそれぞれのローラーの表面に引き戻され、流体の一部となることができ、これがリサイクルされて、ニップの上流側にプールされ、ローラーの次の回転で再びニップを通して引き込まれる。このプロセスが、繰り返されて連続ミストを提供できる。
【0012】
図2Bは、最終的には破断して複数の液滴224に分かれる流体フィラメントを形成するために一対のピストン220、222間で延伸される流体218の行程を示す。流体218は、ピストン220、222間に置かれる。ピストン220、222は引き離され、連続的な歪が適用されて、流体218がピストン220、222間で延伸され、流体フィラメント226を形成する。流体フィラメント226がより長くなり、より薄くなるにつれて、流体フィラメント226は最終的には、そのキャピラリー破断ポイントに到達して、その時点で複数の液滴224に分かれ、過剰の流体228がそれぞれのピストン220、222の表面に残る。図2Bは、ビーズ・オン・ストリング構造230を示し、これは流体フィラメントの前駆体であり、そのキャピラリー破断ポイントに到達した時点で流体フィラメントが複数の液滴224に分かれる。過剰の流体228はピストン220、222にプールされ、ピストン220、222は、再び一緒になって、流体を延伸でき、それによってプロセスが繰り返され、追加のミスト液滴を形成する。
【0013】
図1Aを再び参照して、ポリマースプレー堆積システム100は、複数のスプレー発生器112を含むことができる。複数のスプレー発生器112は、主要なスプレー発生器102と平行に液滴を発生できる。すべてのスプレー発生器102、112は、図1Aに示される例としての実施形態において同じ流体供給源110からの流体を受容する。複数のスプレー発生器102、112はそれぞれ、複数の液滴を発生させ、これが一緒になってスプレーを形成する。ハーベスティング要素104は、複数のスプレー発生器102、112からの形成されたスプレーをキャリアガスフローに取り込む。
【0014】
ハーベスティング要素104は、スプレー発生器102、112によって発生された液滴を、スプレー発生器102、112からマルチノズルアレイ106へ、および複数のノゾルアレイ106からターゲット表面へ輸送するために十分な速度を提供できる送達システムであり、この表面にて三次元対象物が創出される。ハーベスティング要素104はまた、液滴を複数のノゾルアレイに円滑に輸送するために均一な定常状態のフローを提供し、液滴の合一またはアグロメレーションが発生するのを防止する。
【0015】
ハーベスティング要素104は、任意の温度調節器114を含むことができ、これがキャリアガスフローの温度を調節する。例えば、流体は、特定の融点を有する熱可塑性物質である。熱可塑性物質の液滴がハーベスティング要素104によってキャリアガスフローに取り込まれる場合、温度調節器114は、熱可塑性物質の液滴を液滴形態に維持するために、それらの融点を超える温度にキャリアガスフロー中の熱可塑性物質の液滴を維持する。熱可塑性物質の液滴の温度がそれらの融点未満に低下する場合に、液滴は、硬化または凍結する場合があり、マルチノズルアレイ106を通して方向付けることができなくなる、または方向付ける効率が落ちる。ハーベスティング要素104は、それらの融点を維持するためにハーベスティング要素104のフローパス全体に沿ってキャリアガスフロー中に取り込まれた液滴に対して均一に温度を提供し、液滴がマルチノズルアレイを通して方向付けられることができることを確実にする。
【0016】
例えば、図3は、例としてハーベスティング要素300を示す。ハーベスティング要素は、ポリマースプレー304が移動する輸送チャンネル302を有するシースフロー設計300であることができる。ポリマースプレー304は、空気層306によって放射状に取り囲まれ、これは多くの場合、その融点を超えるポリマースプレー304を維持する温度まで加熱される。空気層306は、加熱要素308、例えば抵抗性パイプヒーターによって囲まれ、これが空気フロー306およびポリマースプレー304の一方または両方を、ポリマースプレー304の融点を超える所望の温度に維持するのに役立つ。任意の断熱310が、図3に示されるように、効率を増大させ、ポリマースプレー304の温度を維持するのに役立つように含まれることができる。
【0017】
図1Aを再び参照して、ハーベスティング要素104はまた、液滴サイズセレクタ116を含むことができる。液滴サイズセレクタ116は、マルチノズルアレイ106に輸送される液滴のサイズを制御する。複数のノゾルアレイ106に輸送され、最終的に三次元対象物を創出するためにターゲット表面に方向付けられた液滴のサイズを制御することにより、三次元対象物の解像度を制御する。マルチノズルアレイからターゲット表面に方向付けられたより小さい液滴は、より高い解像度の三次元対象物を得る。液滴のサイズは、マルチノゾルアレイに輸送される液滴のサイズを制御する補助機構によって調整できる。所望の三次元対象物を創出するために必要とされる液滴のサイズは、用途に依存し、単一対象物を創出するプロセス内であっても変動し得る。
【0018】
いくつかの液滴サイズセレクタの例としては、フローマニフォールド幾何学形状および捕捉フィーチャを用いる慣性衝突、渦濃縮および分離技術、および静電ステアリングが挙げられる。液滴サイズセレクタのタイプは、ポリマースプレー堆積システム100全体の幾何学形状および処理量に基づいて選択されてもよい。
【0019】
慣性衝突技術の一例を図4Aに示す。左のフローパス400は、液滴402、404が、異なるサイズを有し、それらがフローパス400において仕切板410または壁のようなベンドに向かって流れるときに、それぞれ異なるパス406、408をとることを示す。より大きな液滴の慣性は、より小さい液滴の慣性よりも大きい。取り込まれたキャリアガスフローが壁、仕切板または他の対象物にぶつかるときに、より大きな液滴は、対象物を横断できず、または効率良く横断できず、より小さい液滴は、対象物の周りに上手く移動でき、所望のフローパスに沿って持続する。
【0020】
例えば、液滴サイズセレクタは、複数の仕切板414および壁416を含むことができ、これらが所望の液滴サイズを有する取り込まれたキャリアガスフロー420を生じるフローパス418を規定する。所望のサイズを超える液滴は、仕切板414および壁416によって創出されたフローパス418の幾何学形状の周りに曲がることができない。仕切板414および壁416の形状、長さ、サイズ、外形、テクスチャ、材料および他の特徴は、所望の液滴サイズを有するキャリアガスフローを生じるように調節できる。
【0021】
図4Bは、別のタイプの液滴サイズセレクタ422を示し、これは、ポリマースプレー428がスプレー発生器430から放出されるときに、より大きな液滴424をより小さな液滴426に沈降させる重力に依る。重力の力は、より大きな液滴424を、スプレー発生器430に落とす。一部の場合には、落ちて戻ったより大きな液滴424は、ポリマースプレー堆積システムにリサイクルされ、これは再び延伸される流体であることができ、スプレー発生器430によって新しい一式の液滴になる。任意の空気フロー432は、より小さい液滴426に方向付けられることができ、この場合に液滴がスプレー発生器から噴出される方向に対して垂直な角度である。空気フロー432は、輸送チャンネルに沿ってマルチノズルアレイの方へ、より小さい液滴を方向付ける。空気フロー432は、分離ライン434の上方に位置し、これはより大きな液滴424がスプレー発生器430に落ちて戻るポイントとして定義される。
【0022】
再び図1Aを参照して、ポリマースプレー堆積システム100は、ターゲット表面上にスプレーを方向付けるための複数のマルチノズルアレイ106、118を含むことができる。ポリマースプレー堆積システム100は、いずれかの好適な数のマルチノズルアレイを含むことができる。図1Aに示される例は、2つのマルチノズルアレイ106、118を含み、これらそれぞれが、ハーベスティング要素104からのキャリアガスフローを受容し、液滴をターゲット表面に方向付けて、三次元対象物を形成する。マルチノズルアレイの数は、三次元対象物の解像度を増大すると共に、3D対象物の創出の効率を増大させることもできる。例えば、一部の場合には、第2のマルチノズルアレイは、構造の大部分を埋める粗い解像度ノズルを含むことができる。別の例において、マルチノズルアレイの数を増大させると、形成された三次元対象物の解像度が増大する。さらに、複数のマルチノズルアレイシステムにおいて、個々のマルチノズルアレイは、ターゲット表面に方向付けられるときに、キャリアガスフローの濃度、液滴サイズおよび方向を制御することによって形成された三次元対象物の解像度をさらに精錬し、制御するように個々に作動させるまたは停止させる。
【0023】
いずれかのマルチノズルアレイシステムにおいて、マルチノズルアレイの個々のノズルは、ターゲット表面に方向付けられるときに、キャリアガスフローの幾何学形状、濃度、液滴サイズ、方向などの詳細な制御を与えるために作動させ、停止させることができ、これが形成された三次元対象物の全体解像度および形状に影響を与えるおよび制御する。
【0024】
システムのいくつかの例では、例えば図1Aに示されるポリマースプレー堆積システム100において、マルチノズルアレイは、流体リサイクラ120を含む。流体リサイクラ120は、リサイクルされた流体を流体供給源110に戻すことによって、マルチノズルアレイ106からターゲット表面上に方向付けられていない液滴をリサイクルする。
【0025】
図5は、複数のノズル502を有する例としてのマルチノズルアレイ500を示し、そのそれぞれがそれぞれのバルブ504を有する。キャリアガスフローは、マルチノズルアレイ500のノズル502を通って空気圧で方向付けられる。各ノズル502からのキャリアガスフローの出口は、バルブ504によって制御される。ノズル502のすべてのバルブ504は、同時に、グループにおいて、または個々に作動させて、キャリアガスフローをターゲット表面に方向付けることができる。各ノズルは、デバイスの解像度に依存して、1〜100ミクロンの範囲の直径を有するオリフィスを有する。オリフィスは、ターゲット表面上のノズルから方向付けられた液滴の体積、および液滴が方向付けられた領域のサイズを制御する。
【0026】
例えば、単一の液滴または少数の液滴のみが各ノズルからターゲット表面上に方向付けられることができるより小さいオリフィスは、ターゲット表面上の形成された三次元対象物の解像度を増大させる。比較として、より大きなオリフィスは、より多数の液滴をノズルからターゲット表面上に分配することができ、これにより解像度が低下するが、適用される液滴の体積は増大する。一部の例において、同じマルチノズルアレイ内のノズルは、同じサイズのオリフィスを有し、他の例では同じマルチノズルアレイにおけるノズルのオリフィスサイズは、異なることができる。さらに他の例において、同じマルチノズルアレイ内のノズルのオリフィスサイズは、サイズに応じて調整でき、これにより形成された三次元対象物の解像度も同様に調整できる。
【0027】
再び図5を参照して、マルチノズルアレイは、ノズル502およびバルブ504の組み合わせを通してターゲット表面に空気圧で方向付けられた連続的に循環するキャリアガスフローを有する。ノズル502は、キャリアガスフローを輸送管506に方向付ける。シースガス供給源は、シースガス508を放出し、これが放射線状に輸送管506を囲み、ノズル付近を循環して、キャリアガスフローにおける液滴が凍結するのを防止し、ノズル502から輸送管506への漏れを防止する。
【0028】
いくつかの例において、シースガスフロー604、606は、ノズル608、610に対して垂直であり、例えば図6Aおよび6Bに示される例としてのマルチノズルアレイ600、602である。図6Aに示されるマルチノズルアレイ600において、シースガスフロー604は、ノズル608に対して垂直であり、バルブ612の軸に沿う。図6Bに示されるマルチノズルアレイ602は、ノズル610に対して垂直であり、さらにバルブ614の軸に対して垂直のシースガスフロー606を有する。図6Aおよび6Bにおいて示される例としてのマルチノズルアレイ600、602において、バルブ612、614は正方形の形状で示される平面バルブである。
【0029】
図7は、複数のノズル702およびそれぞれのバルブ704を有する代替マルチノズルアレイ700を示す。この例において、バルブ704は、ノズル702からオフセットし、ノズル702の許容可能な空間を増大させる。バルブ704は、互いに隣接して配置され、それぞれがそれぞれのノズル702に連結される。ノズル702は、2つの列706、708に配置され、ここで1つの列706からのノズル702は、他の列708からのノズル702と交互に続いてそれぞれのバルブ704に連結される。バルブに連結するノズルに好適ないずれかの配置を実行することができ、いくつかの例において、マルチノズルアレイにおいて利用可能な物理的な間隔に基づくことができる。
【0030】
図8Aは、スプレー発生器802、ハーベスティング要素804または送達システム、マルチノズルアレイ806、および対象物製造ステージ808を有する例としてのポリマースプレー堆積システム800である。スプレー発生器802は、2つのローラー810、812の実施形態であり、これは流体を、2つの反対方向に回転するローラーの発散表面間で流体フィラメントに延伸する。スプレー発生器802は、大きな液滴814および小さい液滴816を含む複数の液滴を発生する。スプレー発生器によって製造された小さい液滴は、一部の例において10ミクロン以下の範囲にあることができる。空気フロー818は、発生した流体液滴814、816に方向付けられ、ハーベスティング要素804に向かうようにそれらを導く。
【0031】
上記で議論されるように、流体は、高い粘弾性のポリマーおよびこれらの溶液、例えば高温熱可塑性物質溶融物またはその溶液を含むいずれかの流体であることができる。いずれかの好適な量の溶媒は、流体に添加でき、流体の濃度、ひいてはスプレー発生器によって生じる液滴のサイズを制御するのに役立ち得る。
【0032】
図8Aに示される例としてのハーベスティング要素804は、図3に示されるように、シースフロー設計ハーベスティング要素300において上記で議論されるように、断熱配管、断熱シースフロー、および濾過を含む。このハーベスティング要素804は、小さい液滴816を大きい液滴814と分離するための慣性衝撃機に依る。ハーベスティング要素804は、小さい液滴816をマルチノズルアレイ806に輸送する。マルチノズルアレイ806は、ターゲット表面820上の液滴の方向をデジタル制御する。空気822のクロスフローは、マルチノズルアレイ806に方向付けられ、以下で議論されるように、および図8Bにおいて示されるように、流体の単一液滴を、ターゲット表面820に方向付ける。過剰の液滴は、リサイクル経路840を通ってスプレー発生器802に提供されるべき流体供給源に戻ってリサイクルできる。
【0033】
対象物の製造ステージ808は、マルチノズルアレイ806からターゲット表面820に方向付けられる液滴の各層のためにマルチノズルアレイ806に対して転換される。三次元対象物の第1の層824は、マルチノズルアレイ806が液滴824の第一の層を方向付け、三次元対象物の第1の層を形成するときに、創出される。対象物の製造ステージ808は、マルチノズルアレイ806から離れて、マルチノズルアレイ806に垂直な方向でこれらから離れる方向に移動し、結果としてシステムは、液滴826の第2の層を創出する準備をする。
【0034】
対象物の製造ステージ808は、ポリマースプレー堆積システム800へインプットされる三次元対象物についてのデジタル情報に基づいてマルチノズルアレイ806に対する移動を継続する。図8Aに示される例としてのシステムにおいて、対象物の製造ステージ808は、マルチノズルアレイ806に対して移動する。マルチノズルアレイ806、ハーベスティング要素804、およびスプレー発生器802は、対象物製造ステージ808がシステムが創出している三次元対象物を詳述するデジタル情報と一致するようにマルチノズルアレイ806に対して移動する間は、静止したままである。他の例において、マルチノズルアレイはまた、ターゲット表面に対して移動してもよく、対象物製造ステージは移動してもよく、または移動しなくてもよい。
【0035】
図8Bは、ターゲット表面820に流体の液滴を方向付ける図8Aのマルチノズルアレイのノズル828の1つを示す。図8Bは、オリフィス832および入口開口部834を有するノズル828の断面図を示す。圧力836は、ノズルの入口開口部834を通ってノズルに適用でき、流体の単一液滴838をノズルのオリフィス832を通してノズル828から出し、ターゲット表面820に方向付ける。上記で議論されるように、ポリマースプレー堆積システムは、ノズルに対する圧力の適用、ひいてはターゲット表面に向かう流体液滴の方向を選択的に制御できる。いずれかの好適な基材が、ターゲット表面として使用できる。
【0036】
マルチノズルアレイ内の個々のノズルは、対象物製造ステージがマルチノズルアレイに対して移動し、三次元対象物について所望の幾何学形状を創出するために、選択的に作動するまたは停止する。マルチジェットシステムを使用する従来の付加製造方法は、停止がデフォルトであり、次いでインクを噴出するように作動させるか、または停止できる。本願に開示される個々のノズル制御システムは、マルチノズルアレイの1つ以上のノズルから噴出されるべき液滴をターゲット表面に方向付ける空気または圧力のオンデマンドのまたは計画的なバーストを伴う連続液滴ジェットを有するクロスフローシステムを提供する。
【0037】
対象物製造ステージ808は、図8Bに示されるノズル828のようなノズルから液滴が方向付けられるときにターゲット表面820を制御する。上記で議論されたように、対象物製造ステージ808は、マルチノズルアレイ806に垂直で、マルチノズルアレイ806から離れる方向にターゲット表面820を転換し、多層の三次元対象物を層毎に創出する。図8Bは、対象物製造ステージ808が、マルチノズルアレイ806のオリフィスに平行で、マルチノズルアレイ806の軸に沿った方向838に転換できることを示し、これがターゲット表面820に方向付けられた液滴の各層の形状、外形、テクスチャなどを創出する。図8Aおよび8Bに示される対象物製造ステージ808は、マルチノズルアレイ806に関して2つの方向に転換する。他の例において、対象物製造ステージは、マルチノズルアレイに関していずれかの好適な方向に転換できる。
【0038】
図9は、キャリアガスフローをターゲット表面に方向付けられた連続インクジェットゲーティング機構を含むマルチノズルアレイ900の別の実施形態を示す。ポリマー液滴902の連続ジェットは、主要チャンバ904において第1のノズルアレイ906を通ってマルチノズルアレイ900の主要チャンバ904から噴出される。主要チャンバ904に適用される圧力により、液滴が主要チャンバ開口部908を通って中間チャンバ912に至るように主要チャンバ904から噴出される。中間チャンバ912は、主要チャンバ904からの液滴フローが中間チャンバ912に至り、中間チャンバ912からの液滴フローが主要チャンバ904に戻るのを防止するように主要チャンバ904の圧力未満の圧力を有する。
【0039】
中間チャンバ912は、複数の開口部914を有する第2のノズルアレイ910を含む。第2のノズルアレイ910の開口部914は、第1のノズルアレイ906の開口部908と整列され、液滴がターゲット表面916上に分配されるようなスルーパスを提供する。上記で議論されるように、ポリマー液滴902の連続ジェットは、主要チャンバ904から中間チャンバ912に至るように噴出される。しかし、第2のノズルアレイ910の個々のノズルは、液滴を中間チャンバ912からターゲット表面916の方に選択的に噴出するように作動でき、停止できる。個々のノズルが作動するかまたは停止するかに依存して、液滴は、個々のノズルから噴出される。図9に示される例としての機構において、第2のノズルアレイ910は、作動中の2つのノズル経路918を有し、液滴は、2つの「作動中」ノズルからターゲット表面916に噴出される。
【0040】
回収ガター130を、中間チャンバ910に配置できる。回収ガター130は、第2のノズルアレイ910において作動中のノズルを通過しない第1のノズルアレイ906から回収された液滴を収集する。収集された液滴は、リサイクルされ、一部の例にあるスプレー発生器に再利用され得る。
【0041】
図10Aおよび10Bは、それぞれ停止中および作動中にある図9に示されるマルチノズルアレイの個々のノズルを示す。図10Aは、停止位置のノズルを示す。液滴は、第1のノズルアレイ906のノズル開口部908を通るように方向付けられ、それを通ったポリマー液滴922の連続ジェットは、主要チャンバ904から中間チャンバ912に噴出される。この例において、第1のノズルアレイの開口部908および第2のノズルアレイ910の開口部914は、互いにオフセット状態である。この例において、任意のガスジェット924を使用して、ポリマー液滴922のジェットを回収ガター920の方に方向付け、第2のノズルアレイ910のノズルの開口部914から離す。ガスジェット924は、開口部908に対して垂直であり、第2のノズルアレイ910の開口部914から離れた角度で第1のノズルアレイ906の開口部908に方向付けられる。故に、ポリマー液滴922のジェットは、ノズルが停止位置にあるときに、第2のノズルアレイ910の開口部914を通って噴出されない。
【0042】
ノズルが作動位置にあるとき、ポリマー液滴922のジェットは、第2のノズルアレイ910の開口部914を通りターゲット表面916に方向付けられる。オンデマンドで、方向付けられた空気パルス926を、ノズルが停止しているときに使用されるガスジェット924とは反対の方向であるだけでなく、第1のノズルアレイ906の開口部908と垂直な方向にポリマー液滴922のジェットに方向付ける。方向付けられた空気パルス926により、ポリマー液滴922のジェットは、第2のノズルアレイ910の開口部914、ひいてはターゲット表面916に方向付けられる。
【0043】
ターゲット表面916の周りおよびターゲット表面916付近の圧力は、周囲圧力であり、これは中間チャンバ912と主要チャンバ904との両方の圧力よりも低い。一部の代替例において、中間チャンバ912の圧力は、ターゲット表面の周りの周囲圧力に等しくできる。ガスジェット924および方向付けられた空気パルス926は、第1のノズルアレイ906および第2のノズルアレイ910に適合したノズルアレイ(図示せず)から分配され、液滴を分配する各ノズルについて独立に切り替えることができる。いずれかの好適なゲーティング機構が、開示されたポリマースプレー堆積システムに含まれることができる。
【0044】
本明細書に開示されるポリマースプレー堆積システムは、三次元プリンタのためのプリントヘッドに埋め込まれることができる。三次元プリンタは、複数のプリントヘッドを含むことができる。一部のマルチプリントヘッドの例において、1つ以上のプリントヘッドが使用されて、三次元対象物のための支持体材料を印刷でき、別の1つ以上のプリントヘッドを使用して、この支持体材料上に主要材料をプリントできる。一部の支持体材料は、溶解性であることができ、結果としてそれらは、三次元対象物が創出される間は支持体を提供するが、三次元対象物が完成した後は溶解する。
【0045】
図1Bは、ポリマースプレー堆積システムを用いて三次元対象物を得る方法における工程のブロックダイアグラムを示し、これは、流体122からのスプレーを発生させ、このスプレー124をハーベスティングし、スプレーをターゲット表面126に方向付け、方向付けられたスプレーから対象物128を創出することを含む。

図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B