特許第6516570号(P6516570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6516570
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】グラファイト膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/21 20170101AFI20190513BHJP
【FI】
   C01B32/21
【請求項の数】6
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2015-112132(P2015-112132)
(22)【出願日】2015年6月2日
(65)【公開番号】特開2016-26984(P2016-26984A)
(43)【公開日】2016年2月18日
【審査請求日】2018年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-132041(P2014-132041)
(32)【優先日】2014年6月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-132655(P2014-132655)
(32)【優先日】2014年6月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100121636
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌靖
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
(72)【発明者】
【氏名】田尻 浩三
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−111907(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/045148(WO,A1)
【文献】 特開2002−356317(JP,A)
【文献】 特開2003−342013(JP,A)
【文献】 CAI Jinming et al.,Atomically precise bottom-up fabrication of graphene nanoribbons,NATURE,2010年 7月22日,Vol.466,p.470-473
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
C08F 2/00−2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物を分解・縮合することにより、グラファイト構造を形成する、グラファイト膜の製造方法であって、
該芳香族化合物が、下記に示される化合物から選ばれる少なくとも1種である、
グラファイト膜の製造方法
【化1】
【化2】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化3】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化4】
【請求項2】
加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物を溶媒に分散および/または溶解させた組成物を基板に塗布した後、加熱および/または光照射することにより、グラファイト構造を形成する、グラファイト膜の製造方法であって、
該芳香族化合物が、下記に示される化合物から選ばれる少なくとも1種である、
グラファイト膜の製造方法
【化5】
【化6】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化7】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化8】
【請求項3】
前記芳香族化合物が、加熱および/または光照射によって気体を発生する、請求項1または2に記載のグラファイト膜の製造方法。
【請求項4】
前記気体がCO、CO、N、NOから選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載のグラファイト膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の製造方法に用いる、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物であって、下記に示される化合物から選ばれる少なくとも1種である、芳香族化合物
【化9】
【化10】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化11】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化12】
【請求項6】
請求項2に記載の製造方法に用いる、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物を溶媒に分散および/または溶解させた組成物であって、該芳香族化合物が下記に示される化合物から選ばれる少なくとも1種である、組成物
【化13】
【化14】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化15】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化16】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイト膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトは炭素の同素体の一つであり、黒鉛、石墨と呼ばれることもあり、良電気伝導性を有し、耐腐食性が高く、耐摩耗性にも優れる。
【0003】
グラファイトを構成する1原子層分の層状の膜であって、炭素原子がsp2混成軌道によって同一面内にsp2結合を形成して六角形を形成して蜂の巣状に平面状に広がったシート状のグラファイト膜は、グラフェンと呼ばれている。
【0004】
このようなグラフェンや少数層グラフェン(2〜10層程度のグラファイト膜)などのグラファイト膜を用いて電界効果トランジスタを作製すると、非常に高い移動度が観測される。
【0005】
グラファイト膜の製造方法としては、従来、CVDによる製膜法(化学気相蒸着製膜法)と剥離法が報告されている。
【0006】
グラファイト膜をCVDによる製膜法(化学気相蒸着製膜法)によって製造する方法は、代表的には、1000℃程度の超高温下において、グラファイト膜の原料となるメタンやアセチレンなどのガスを基板上に導入し、基板表面で分解反応等を起こさせながら製膜する方法である。グラファイト膜をCVDによる製膜法によって製造する方法の現在の主流は、Cu等の触媒性能を有する金属基板上にメタンガスを加熱分解しながら製膜させ、その後、任意の基板上に転写する方法である(例えば、非特許文献1)。
【0007】
しかし、CVDによる製膜法においては、メタンやアセチレンなどの危険なガスを使用しなければならないという問題、超高温環境が必要であるという問題、金属基板の触媒作用によって原料ガスを加熱分解させるために絶縁性基板上での製膜ができないという問題、任意の部分に転写させることが容易ではないという問題などがある。また、少数層グラフェン(2〜10層程度のグラファイト膜)などの複層のグラファイト膜を製膜しようとする場合、金属基板の触媒作用が十分に機能せず、十分に製膜させるには原料ガスの供給量を非常に多くする必要がある(例えば、非特許文献2)。ところが、原料ガスの供給量を非常に多くすると、グラファイト膜が急速に成長してしまうことがあり、狙った層数のグラファイト膜を製膜することが容易でないという問題がある。
【0008】
グラファイト膜を剥離法によって製造する方法は、代表的には、高配向熱焼成グラファイト(HOPG)を粘着テープによって劈開し、該粘着テープに付着した清浄なグラファイト表面を、製膜したい基板の表面に擦り付けて転写する方法である(例えば、非特許文献3)。剥離法によれば、高品質な高配向熱焼成グラファイトを用いれば、高品質なグラファイト膜を得ることができる。しかし、剥離法においては、原理的に再現性に乏しいという問題、任意の位置に任意のサイズのグラファイト膜を作製できないという問題、得られるグラファイト膜の大面積化が困難であるという問題などがある。
【0009】
以上のような問題を踏まえ、あらかじめ分解した炭化水素ガスを基板表面上に吹き付けることでグラファイト膜を製膜する技術が報告されている(特許文献1)。この技術によれば、常に同等の反応性を有するガスを吹き付けることができるため、製膜制御が比較的容易になる。しかしながら、依然として、メタンやアセチレンなどの危険なガスを使用しなければならないという問題、超高温環境が必要であるという問題が残る。
【0010】
最近、可燃性ガスを使用せず、また、超高温条件を必要とせずに、グラファイト膜を製膜する技術として、反応性を有する複数の化合物を含む組成物を液相プロセスによって基板表面に塗布し、その後に焼成することによって、組成物中で酸化還元反応が起こり、基板上にグラファイト膜を製膜する技術が報告されている(特許文献2)。しかしながら、この技術では、超高温条件は必要としないものの、なお500℃程度の高温条件は必要とするため、装置や基板等に依然として高い耐熱性が要求されるという問題がある。また、反応性を有する複数の化合物による酸化還元反応を利用しているため、化学反応の副生成物や反応触媒がグラファイト膜中に存在してしまい、これらが致命的な不純物となってしまい、高品質なグラファイト膜が得られないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J.Phys.:Condens.Matter,9,1−20(1997).
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.,vol.64,842−844(1994).
【非特許文献3】Science,vol.306,666−669(2004).
【特許文献1】特開2010−269944号公報
【特許文献2】特開2013−023746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、不純物の混入が低減された高品質のグラファイト膜を、任意の基板の表面の任意の部分に任意の層数で製膜する方法を提供することにある。また、そのような方法に適した原料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第一のグラファイト膜の製造方法は、
加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物を分解・縮合することにより、グラファイト構造を形成する、グラファイト膜の製造方法であって、
該芳香族化合物が、下記に示される化合物から選ばれる少なくとも1種である
【化1】
【化2】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化3】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化4】
【0014】
本発明の第二のグラファイト膜の製造方法は、
加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物を溶媒に分散および/または溶解させた組成物を基板に塗布した後、加熱および/または光照射することにより、グラファイト構造を形成する、グラファイト膜の製造方法であって、
該芳香族化合物が、下記に示される化合物から選ばれる少なくとも1種である
【化5】
【化6】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化7】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化8】
【0015】
好ましい実施形態においては、上記芳香族化合物が、加熱および/または光照射によって気体を発生する。
【0016】
好ましい実施形態においては、上記気体がCO、CO、N、NOから選ばれる少なくとも1種である。
【0017】
本発明の芳香族化合物は、本発明の第一のグラファイト膜の製造方法に用いる、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物であって、下記に示される化合物から選ばれる少なくとも1種である。
【化9】
【化10】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化11】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化12】
【0018】
本発明の組成物は、本発明の第二のグラファイト膜の製造方法に用いる、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物を溶媒に分散および/または溶解させた組成物であって、該芳香族化合物が下記に示される化合物から選ばれる少なくとも1種である。
【化13】
【化14】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化15】
ただし、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【化16】
【0019】
なお、本発明において「ラジカル」とは、加熱および/または光照射の工程により、芳香族環と置換基間の結合が切れ、反応点を生じること、およびその反応点のことである。
【0020】
また、本発明における「加熱および/または光照射」の工程は、ホットプレートでの加熱、焼成炉での加熱、マイクロウェーブ等の照射による加熱等を含み、また可視光、紫外線の光照射またはレーザーの照射、電子線の照射を含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、不純物の混入が低減された高品質のグラファイト膜を、任意の基板の表面の任意の部分に任意の層数で製膜する方法を提供することができる。また、そのような方法に適した原料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、HBTOの13C−NMRチャート図である。
図2図2は、実施例1で得られたラマンスペクトルチャート図である。
図3図3は、実施例2で得られたラマンスペクトルチャート図である。
図4図4は、実施例3で得られたラマンスペクトルチャート図である。
図5図5は、実施例4で得られたラマンスペクトルチャート図である。
図6図6は、比較例2で得られたラマンスペクトルチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
≪≪芳香族化合物≫≫
加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物は、1種のみであっても良いし、2種以上であっても良い。
【0024】
加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物としては、好ましくは、加熱および/または光照射によって気体を発生する芳香族化合物である。
【0025】
加熱および/または光照射によって気体を発生する芳香族化合物としては、芳香族化合物であって、加熱および/または光照射を行うことによって気体が発生するものであれば、任意の適切な芳香族化合物を採用し得る。このような気体としては、好ましくは、CO、CO、N、O、H、NOから選ばれる少なくとも1種である。
【0026】
加熱および/または光照射によってCOおよび/またはCOを発生する芳香族化合物としては、例えば、「−C(=O)−」および/または「−O−C(=O)−」構造を有する芳香族化合物(例えば、芳香族ケトン誘導体、芳香族エステル誘導体、酸無水物など)が挙げられる。加熱および/または光照射によってCOおよび/またはCOを発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0027】
【化17】
【0028】
加熱および/または光照射によってNを発生する芳香族化合物としては、例えば、「−NH−NH−」構造や「−N=N−」構造や、「−N」構造を有する芳香族化合物(例えば、芳香族アゾ化合物、芳香族アジド化合物、トリアゾール置換芳香族化合物、テトラゾール置換芳香族化合物、トリアジンまたはその誘導体、テトラジンまたはその誘導体、芳香族ヒドラジン誘導体など)が挙げられる。加熱および/または光照射によってNを発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。なお、下記の化合物において、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【0029】
【化18】
【0030】
加熱および/または光照射によってOを発生する芳香族化合物としては、例えば、「−O−O−」構造を有する芳香族化合物(例えば、芳香族炭素酸化物、芳香族過酸化物など)が挙げられる。加熱および/または光照射によってOを発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。なお、下記の化合物において、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【0031】
【化19】
【0032】
加熱および/または光照射によってHを発生する芳香族化合物としては、例えば、「−CH−」構造を有する縮合多環式芳香族化合物(例えば、フェナレン系化合物など)が挙げられる。加熱および/または光照射によってHを発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0033】
【化20】
【0034】
加熱および/または光照射によってNOを発生する芳香族化合物としては、例えば、「−NO」構造を有する芳香族化合物(例えば、芳香族ニトロ化合物など)が挙げられる。加熱および/または光照射によってNOを発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0035】
【化21】
【0036】
加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物は、加熱および/または光照射による分解性を有し、骨格の少なくとも一部がかい離・分解することによって気体分子(好ましくは、CO、CO、N、O、H、NOから選ばれる少なくとも1種)が生成し、残った芳香族環上にラジカルが生成する化合物である。このような芳香族化合物を用いることにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の分解のみによる反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒がグラファイト膜中に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、高品質なグラファイト膜を得ることができる。また、このような芳香族化合物を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、グラファイト膜を得ることができる。また、このような芳香族化合物は、触媒作用を必要としない高反応性を有するため、グラファイト膜を製膜させる基板の影響を受けにくく、任意の基板の表面の任意の部分に任意の層数で製膜することができる。
【0037】
≪≪グラファイト膜の製造方法≫≫
本発明のグラファイト膜の製造方法は、下記のように、好ましくは、第一のグラファイト膜の製造方法、第二のグラファイト膜の製造方法が挙げられる。本発明においては、前述したような特徴的な芳香族化合物を用いるため、気相プロセス、液相プロセスのいずれによっても、グラファイト膜を製造することができる。
【0038】
≪第一のグラファイト膜の製造方法≫
本発明の第一のグラファイト膜の製造方法は、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物を分解・縮合することにより、グラファイト構造を形成する。
【0039】
本発明の第一のグラファイト膜の製造方法は、好ましくは、気相プロセスである。
【0040】
本発明の第一のグラファイト膜の製造方法において、分解・縮合する方法としては、好ましくは、加熱による分解、光照射による分解が挙げられる。本発明の第一のグラファイト膜の製造方法において採用する分解・縮合する方法としては、1種のみであっても良いし、2種以上であっても良い。
【0041】
本発明の第一のグラファイト膜の製造方法における分解温度は、好ましくは50℃〜1000℃であり、より好ましくは100℃〜800℃であり、さらに好ましくは200℃〜600℃であり、特に好ましくは250℃〜450℃であり、最も好ましくは300℃〜400℃である。本発明の第一のグラファイト膜の製造方法における分解温度が上記範囲内に収まることにより、比較的温和な温度環境下においてグラファイト膜を提供することができる。
【0042】
本発明の第一のグラファイト膜の製造方法における分解時間は、形成させたいグラファイト膜の層数等によって、任意の適切な分解時間を採用し得る。このような分解時間としては、例えば、好ましくは10秒〜24時間であり、より好ましくは1分〜10時間であり、さらに好ましくは10分〜5時間であり、特に好ましくは30分〜4時間であり、最も好ましくは1時間〜3時間である。
【0043】
本発明の第一のグラファイト膜の製造方法は、より具体的には、例えば、任意の適切な基板上に、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物を蒸着させ、該蒸着させた芳香族化合物を分解・縮合することにより、グラファイト構造を形成する。
【0044】
本発明の第一のグラファイト膜の製造方法においては、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物を任意の膜厚を狙い蒸着等を行うことで、その後の加熱および/または光照射によって分解して任意の厚さをもつグラファイト構造が作製できる。
【0045】
本発明の第一のグラファイト膜の製造方法においては、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物の分解を促進させるために、分解助剤を使用しても良い。このような分解助剤としては、例えば、任意の適切なラジカル発生剤、任意の適切な増感剤などが挙げられる。このような分解助剤は、1種のみであっても良いし、2種以上であっても良い。
【0046】
本発明の第一のグラファイト膜の製造方法においては、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物に対して、適切な処理条件を適用することにより、グラファイト膜以外に、例えば、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなどのナノカーボン構造を作製することも可能である。
【0047】
また、本発明の第一のグラファイト膜の製造方法の好ましい実施形態の一つとして、CVD(Chemical Vapor Deposition)のように、加熱した基板上に、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物を逐次製膜・分解させながらグラファイト膜を製造する方法が挙げられる。
【0048】
≪第二のグラファイト膜の製造方法≫
本発明の第二のグラファイト膜の製造方法は、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物を溶媒に分散および/または溶解させた組成物を基板に塗布した後、加熱および/または光照射することにより、グラファイト構造を形成する。
【0049】
本発明の第二のグラファイト膜の製造方法は、好ましくは、液相プロセスである。
【0050】
本発明の第二のグラファイト膜の製造方法において、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物を溶媒に分散および/または溶解させた組成物は、任意の適切な方法によって調製し得る。このような方法において用い得る溶媒としては、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物を分散および/または溶解させることができる溶媒であれば、任意の適切な溶媒を採用し得る。
【0051】
本発明の第二のグラファイト膜の製造方法において、組成物中の加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物の含有割合は、好ましくは0.01重量%〜50重量%であり、より好ましくは0.1重量%〜30重量%であり、さらに好ましくは1重量%〜20重量%である。
【0052】
本発明の第二のグラファイト膜の製造方法において、組成物中には、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な他の成分が含まれていても良い。
【0053】
本発明の第二のグラファイト膜の製造方法において、組成物を基板に塗布する方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。このような方法としては、例えば、スピンコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、バーコーティング、スプレーコーティング、ナイフコーティング、ワイヤーコーティング、ディップコーティング、ダイコーティング、カーテンコーティング、ディスペンサーコーティング、スクリーン印刷、メタルマスク印刷などの、任意の適切な塗布方法が挙げられる。
【0054】
本発明の第二のグラファイト膜の製造方法においては、組成物を基板に塗布した後、加熱および/または光照射することにより、グラファイト構造を形成する。
【0055】
本発明の第二のグラファイト膜の製造方法において、グラファイト構造を形成する方法としては、好ましくは、加熱による分解、光照射による分解が挙げられる。本発明の第二のグラファイト膜の製造方法において採用するグラファイト構造を形成する方法としては、1種のみであっても良いし、2種以上であっても良い。
【0056】
本発明の第二のグラファイト膜の製造方法における分解温度は、好ましくは50℃〜1000℃であり、より好ましくは100℃〜800℃であり、さらに好ましくは200℃〜600℃であり、特に好ましくは250℃〜450℃であり、最も好ましくは300℃〜400℃である。本発明の第二のグラファイト膜の製造方法における分解温度が上記範囲内に収まることにより、比較的温和な温度環境下においてグラファイト膜を提供することができる。
【0057】
本発明の第二のグラファイト膜の製造方法における分解時間は、形成させたいグラファイト膜の層数等によって、任意の適切な分解時間を採用し得る。このような分解時間としては、例えば、好ましくは10秒〜24時間であり、より好ましくは1分〜10時間であり、さらに好ましくは10分〜5時間であり、特に好ましくは30分〜4時間であり、最も好ましくは1時間〜3時間である。
【0058】
本発明の第二のグラファイト膜の製造方法においては、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物を溶媒に分散および/または溶解させた組成物は濃度、塗布条件等(例えば、スピンコート法では回転数を調整すること)を調整することで任意の膜厚を狙い、その後の加熱および/または光照射によって分解して任意の厚さをもつグラファイト構造が作製できる。
【0059】
本発明の第二のグラファイト膜の製造方法においては、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物の分解を促進させるために、分解助剤を使用しても良い。このような分解助剤としては、例えば、任意の適切なラジカル発生剤、任意の適切な増感剤などが挙げられる。このような分解助剤は、1種のみであっても良いし、2種以上であっても良い。
【0060】
本発明の第二のグラファイト膜の製造方法においては、加熱および/または光照射によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物に対して、適切な処理条件を適用することにより、グラファイト膜以外に、例えば、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなどのナノカーボン構造を作製することも可能である。
【0061】
本発明の好ましい形態として、分解前の化合物を基板上に製膜したのちに分解処理を行うことである。また気相中もしくは液相中で化合物を分解し、分解物を基板上に製膜、縮合させることも本発明の好ましい形態である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。また、本明細書において、「質量」は「重量」と読み替えても良い。
【0063】
<ラマン分光分析>
ラマン分光分析は以下の装置、条件により行った。
測定装置:顕微ラマン(日本分光NRS−3100)
測定条件:532nmレーザー使用、対物レンズ20倍、CCD取り込み時間5秒、積算4回(分解能=4cm−1
グラファイト構造が存在する場合は、該グラファイト構造に特有のGバンド(1600cm−1付近)、Dバンド(1350cm−1付近)、G’バンド(2700cm−1付近)が観察される。
【0064】
〔製造例1〕:ヘキサヒドロキシベンゼントリスオキサレート(HBTO)の製造
以下の反応式により、HBTOを合成した。
【化22】
ヘキサヒドロキシベンゼン(1.04g、東京化成工業株式会社)を脱水テトラヒドロフラン(15.6ml、和光純薬株式会社)に懸濁させたのち、その液に、オキサリルクロリド(3.43g、東京化成工業株式会社)を加え、4時間環流させた。反応後、室温まで冷却すると、固体が析出した。固体を濾取したのち、得られた固体をテトラヒドロフランから2回再結晶を行うことで、HBTO精製品(淡黄色固体)0.8gを得た。
HBTOの13C−NMRチャート(400MHz、DMSO−d6)を図1に示した。δ124.82ppm、δ147.64ppmにピークが見られた。
【0065】
〔実施例1〕
製造例1で得られた精製HBTOを、脱水アセトン(和光純薬工業)に溶解し(20重量%溶液)、その溶液をスピンコーター(2000rpm、30s)により洗浄済みのマイカ基板に塗布した。この塗布基板をホットプレートで窒素雰囲気下、350℃で2時間焼成した。焼成膜をラマン分光分析法によって分析した結果、グラファイト構造の存在が確認された。ラマン分光分析法によって得られたラマンスペクトルチャートを図2に示した。
【0066】
〔実施例2〕
製造例1で得られた精製HBTOを、蒸着により、洗浄済みのマイカ基板に製膜(厚み:3000nm)した。この蒸着基板をホットプレートで窒素雰囲気下、350℃で2時間焼成した。焼成膜をラマン分光分析法によって分析した結果、グラファイト構造の存在が確認された。ラマン分光分析法によって得られたラマンスペクトルチャートを図3に示した。
【0067】
〔実施例3〕
製造例1で得られた精製HBTOを、蒸着により、洗浄済みのマイカ基板に製膜(厚み:3000nm)した。この蒸着基板を、焼成炉を用いて窒素雰囲気下、室温から100分間かけて350℃まで昇温したのち、そのまま350℃で80分焼成した。焼成膜をラマン分光分析法によって分析した結果、グラファイト構造の存在が確認された。ラマン分光分析法によって得られたラマンスペクトルチャートを図4に示した。
また、同等の膜(実施例2および3)でもその後の焼成条件を変えることで、明らかに異なるグラファイト構造を得ることができた(図3、4参照)。このことから、本発明を用いると様々なグラファイト構造が達成できることが示唆された。
【0068】
〔実施例4〕
簡易的なCVDを模した手法として、製造例1で得られた精製HBTO(100mg)を、真空蒸着によりあらかじめ400度に加熱した銅基板に製膜した(HBTOが蒸着しきるまで)。この膜をラマン分光分析法によって分析した結果、グラファイト構造の存在が確認された。ラマン分光分析法によって得られたラマンスペクトルチャートを図5に示した。このことから、本発明の好ましい形態として、低温CVDの原料として利用できることが挙げられる。つまり本発明の好ましい形態の一つに、CVDのような、加熱した基板上に化合物を逐次製膜・分解させながら作製する手法が挙げられる。
【0069】
〔比較例1〕
ペリレン(東京化成工業)をクロロホルムに溶解しようと試みたが、非常に溶解性が悪く、0.1%も溶けなかった。飽和溶液で、スピンコーター(2000rpm、30s)により、洗浄済みのマイカ基板に塗布したが、難溶性、良結晶性のため良好な塗布基板が作製不可能であった。
【0070】
〔比較例2〕
ペリレン(東京化成工業)を、蒸着により、洗浄済みのマイカ基板に製膜(厚み:3000nm)した。この蒸着基板を、ホットプレートで窒素雰囲気下、350℃で2時間焼成した。焼成膜をラマン分光分析法によって分析した結果、グラファイト構造の存在は確認できなかった。ラマン分光分析法によって得られたラマンスペクトルチャートを図6に示した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の製造方法で得られるグラファイト膜は、例えば、耐腐食性、耐摩耗性や潤滑性保護膜、また、電界効果トランジスタなどに利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6