(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6516659
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】模擬ペレット、模擬燃料棒、及び模擬燃料集合体
(51)【国際特許分類】
G21C 17/00 20060101AFI20190513BHJP
G21C 17/06 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
G21C17/00 020
G21C17/06 030
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-228990(P2015-228990)
(22)【出願日】2015年11月24日
(65)【公開番号】特開2017-96758(P2017-96758A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 和夫
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雄一
(72)【発明者】
【氏名】足立 佳代
【審査官】
右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭50-142997(JP,A)
【文献】
特開平5-72376(JP,A)
【文献】
特開2013-213821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料被覆管の内側に配置される核燃料ペレットを模擬する模擬ペレットであって、
前記燃料被覆管の内面と接触する外面を有し、第1材料で形成された外筒部と、
前記外筒部の内側に配置され、第2材料で形成された内芯部と、
を備え、
前記外筒部は、前記内芯部よりも高剛性であり、
前記内芯部は、前記外筒部よりも高比重である、
模擬ペレット。
【請求項2】
前記外筒部は、前記核燃料ペレットと同剛性又は前記核燃料ペレットよりも高剛性であり、
前記内芯部は、前記核燃料ペレットよりも高比重である、
請求項1に記載の模擬ペレット。
【請求項3】
前記外筒部は、セラミックスを含み、
前記内芯部は、タングステンを含む、
請求項1又は請求項2に記載の模擬ペレット。
【請求項4】
前記第1材料は、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、フッ素金雲母、炭素鋼、ステンレス鋼、合金鋼、タングステン、及び炭化タングステンのいずれか一つを含み、
前記第2材料は、タングステン、炭化タングステン、鉛、鉛合金、金、銀、白金、及びタンタルのいずれか一つを含む、
請求項1又は請求項2に記載の模擬ペレット。
【請求項5】
平均密度が10[g/cm3]以上11[g/cm3]以下に調整される、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の模擬ペレット。
【請求項6】
前記外筒部は、前記第1材料からなる単一部材である、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の模擬ペレット。
【請求項7】
燃料被覆管と、
前記燃料被覆管の内側に配置される請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の模擬ペレットと、
を備える模擬燃料棒。
【請求項8】
前記燃料被覆管の内側に、外形が等しい前記模擬ペレットが複数設けられ、
複数の前記模擬ペレットは、第1模擬ペレットと、前記第1模擬ペレットよりも前記燃料被覆管の端部に配置され、前記外筒部の体積が前記第1模擬ペレットよりも大きい第2模擬ペレットと、を含む、
請求項7に記載の模擬燃料棒。
【請求項9】
燃料被覆管と、
前記燃料被覆管の内側に配置され、核燃料ペレットを模擬する複数の模擬ペレットと、
を備え、
複数の前記模擬ペレットは、外形が等しく、第1材料及び第2材料の少なくとも一方で形成され、
前記第1材料は、前記第2材料よりも高剛性であり、
前記第2材料は、前記第1材料よりも高比重であり、
複数の前記模擬ペレットのうち、前記燃料被覆管の端部に配置される前記模擬ペレットにおいて前記第1材料が占める体積は、前記燃料被覆管の中央部に配置される前記模擬ペレットにおいて前記第1材料が占める体積よりも大きい、
模擬燃料棒。
【請求項10】
前記端部に配置される前記模擬ペレットは、前記第1材料のみで形成され、
前記中央部に配置される前記模擬ペレットは、前記第2材料のみで形成される、
請求項9に記載の模擬燃料棒。
【請求項11】
複数の前記模擬ペレットのうち、少なくとも一つの前記模擬ペレットは、
前記燃料被覆管の内面と接触する外面を有し、前記第1材料で形成された外筒部と、
前記外筒部の内側に配置され、前記第2材料で形成された内芯部と、
を有する、
請求項9又は請求項10に記載の模擬燃料棒。
【請求項12】
請求項7から請求項11のいずれか一項に記載の模擬燃料棒を複数備える模擬燃料集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模擬ペレット、模擬燃料棒、及び模擬燃料集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料集合体が収納されるキャスクは、落下時の安全性の評価が求められている。安全性の評価を行う場合、キャスク落下時の燃料集合体の変形又は破損状態を設定する必要がある。燃料集合体の変形又は破損状態を設定するための一つの方法として、燃料集合体を模擬した模擬燃料集合体を用いた落下試験による確認方法がある。ここで、放射性物質を含む燃料集合体の落下試験を行うことは試験場所の制約等の観点から困難なケースが多いため、燃料集合体を模擬した模擬燃料集合体を用意し、その模擬燃料集合体の落下試験を行って、評価に必要なデータを取得することが行われている。
【0003】
模擬燃料集合体とは、実際の燃料棒を模擬した模擬燃料棒の集合体である。模擬燃料棒とは、実際の核燃料ペレットを模擬した模擬ペレットを燃料被覆管の内側に配置したものである(例えば、特許文献1参照)。模擬燃料集合体においては、核燃料ペレットに代えて模擬ペレットが使用されるものの、燃料被覆管をはじめとする核燃料ペレット以外の構成部材として、実際の燃料集合体と同じ部材が使用される。模擬ペレットを使用することにより、試験場所の制約等が緩和される。
【0004】
従来の落下試験においては、模擬ペレットの重量を実際の核燃料ペレットと等価にするため、実際の核燃料ペレットと同レベルの密度を有する模擬ペレットが使用されている。模擬ペレットの材料として、比重が大きく成形が容易な鉛合金が使用される場合が多い。鉛合金の組成を調整することによって、核燃料ペレットと同レベルの密度を有する模擬ペレットが製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−039494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実際の燃料棒は、主に燃料被覆管と、燃料被覆管の内側に配置される核燃料ペレットとを有する。燃料棒を落下させた場合、落下の衝撃により燃料棒が曲げ変形し、燃料被覆管の内面と核燃料ペレットとが接触する。燃料被覆管と核燃料ペレットとの接触の発生は、燃料被覆管の構造健全性に影響を与える。そして、落下時の燃料棒の曲げ変形挙動は、燃料被覆管の内側に配置された核燃料ペレットの剛性の影響を受ける。
【0007】
そのため、実際の燃料集合体の落下試験を模擬するためには、模擬ペレットについて、密度のみならず、剛性についても、核燃料ペレットと同レベルにする必要がある。鉛合金からなる模擬ペレットは、核燃料ペレットに比べて剛性が著しく低いため、その模擬ペレットを使って構築された模擬燃料集合体の落下試験を行うと、実際の燃料棒の変形量に比べて大きな変形量となる場合がある。
【0008】
本発明は、実際の燃料集合体の落下試験を模擬することができる模擬ペレット、模擬燃料棒、及び模擬燃料集合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、燃料被覆管の内側に配置される核燃料ペレットを模擬する模擬ペレットであって、外径及び長さ寸法は核燃料ペレットと等しく、前記燃料被覆管の内面と接触する外面を有し、第1材料で形成された外筒部と、前記外筒部の内側に配置され、第2材料で形成された内芯部と、を備え、前記外筒部は、前記内芯部よりも高剛性であり、前記内芯部は、前記外筒部よりも高比重である、模擬ペレットを提供する。
【0010】
本発明によれば、模擬ペレットを第1材料の外筒部と第2材料の内芯部とからなる2層構造とし、第1材料として高剛性材料を使用し、第2材料として高比重材料を使用することにより、実際の核燃料ペレットと同レベルの剛性及び密度を有する模擬ペレットが提供される。模擬ペレットを使って構築された模擬燃料集合体の落下試験において、実際の燃料集合体の落下試験を模擬するためには、密度のみならず剛性も核燃料ペレットと同レベルの模擬ペレットを使用する必要がある。燃料被覆管と接触する外筒部を、核燃料ペレットの剛性と同レベルの高剛性の第1材料で形成し、燃料被覆管と接触しない内芯部を、高比重の第2材料で形成して模擬ペレットの全体重量(平均密度)を核燃料ペレットの全体重量と同レベルにすることにより、燃料集合体の落下試験を模擬することができ、実際の燃料棒の挙動の評価を適切に行うことができる。また、模擬ペレットを2層構造とすることにより、試験の内容に応じて第1,第2材料を選択したり、外筒部と内芯部との体積比率(重量比率)を調整したりすることによって、模擬ペレットは、必要な剛性及び全体重量を得ることができる。
【0011】
本発明において、前記外筒部は、前記核燃料ペレットと同剛性又は前記核燃料ペレットよりも高剛性であり、前記内芯部は、前記核燃料ペレットよりも高比重であることが好ましい。
【0012】
外筒部を核燃料ペレットよりも高剛性にすることにより、実際の核燃料ペレットが燃料被覆管に与えるダメージよりも大きいダメージを燃料被覆管に与えることができ、厳しい試験条件で燃料被覆管健全性を評価することができる。また、外筒部を核燃料ペレットと同剛性にすることにより、実際の核燃料ペレットが燃料被覆管に与えるダメージと同レベルのダメージを燃料被覆管に与えることができ、核燃料ペレットが燃料被覆管に接触したときの燃料棒の挙動を再現することができる。内芯部を核燃料ペレットよりも高比重にすることにより、模擬ペレット全体として核燃料ペレットの重量を模擬することができる。
【0013】
本発明において、前記外筒部は、セラミックスを含み、前記内芯部は、タングステンを含むことが好ましい。
【0014】
外筒部がセラミックスで形成されることにより、核燃料ペレットと同レベルの剛性を得ることができる。また、内芯部が高比重なタングステンで形成されることにより、模擬ペレットは、核燃料ペレットと同レベルの全体重量を得ることができる。
【0015】
本発明において、前記第1材料は、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、フッ素金雲母、炭素鋼、ステンレス鋼、合金鋼、タングステン、及び炭化タングステンのいずれか一つを含み、前記第2材料は、タングステン、炭化タングステン、鉛、鉛合金、金、銀、白金、及びタンタルのいずれか一つを含むことが好ましい。
【0016】
これらの第1材料は、核燃料ペレットと同剛性又は前記核燃料ペレットよりも高剛性を有する。また、これらの第2材料は、核燃料ペレットよりも比重が高い。したがって、これらの第1,第2材料を使用することにより、核燃料ペレットの剛性及び全体重量を再現することができる。
【0017】
本発明において、平均密度が10[g/cm
3]以上11[g/cm
3]以下に調整されることが好ましい。
【0018】
二酸化ウランの理論密度は、10.96[g/cm
3]程度であると言われている。一方、実際の核燃料ペレットは、粒径が5[μm]以上10[μm]以下の多結晶焼結体であり、その実際密度は、通常理論密度の95[%]以上97[%]以下であると言われている。したがって、模擬ペレットの平均密度(外筒部と内芯部とを合わせた全体密度)は、核燃料ペレットの実際密度に合わせて、10[g/cm
3]以上11[g/cm
3]以下であることが好ましい。
【0019】
本発明において、前記外筒部は、前記第1材料からなる単一部材であることが好ましい。
【0020】
落下試験においては、燃料被覆管の内面と外筒部とが接触し、外筒部に力が加わる。外筒部が複数の部材から構成される場合、落下試験において、外筒部の部材接続部に亀裂が生じたり、外筒部が部材接続部を起点として破損したりする可能性が高くなる。外筒部を単一部材とすることによって、落下試験において、実際の核燃料ペレットには生じない外筒部材の接続部における亀裂や破損が抑制される。
【0021】
本発明は、燃料被覆管と、前記燃料被覆管の内側に配置される上記の模擬ペレットと、を備える模擬燃料棒を提供する。
【0022】
本発明によれば、実際の燃料集合体の落下試験又は実際の燃料棒の落下試験を模擬することができる。
【0023】
本発明において、前記燃料被覆管の内側に、外形が等しい前記模擬ペレットが複数設けられ、複数の前記模擬ペレットは、第1模擬ペレットと、前記第1模擬ペレットよりも前記燃料被覆管の端部に配置され、前記外筒部の体積が前記第1模擬ペレットよりも大きい第2模擬ペレットと、を含むことが好ましい。
【0024】
模擬燃料棒の中央部よりも端部を下方に向けて落下させる落下試験においては、模擬燃料棒の端部は中央部よりも大きく曲げ変形する。第1模擬ペレットと第2模擬ペレットとは外形が等しく、第2模擬ペレットの外筒部の体積は第1模擬ペレットの外筒部の体積よりも大きい。すなわち、第2模擬ペレットは、第1模擬ペレットに比べて、外筒部の占める割合が大きい。そのため、剛性に関しては、第2模擬ペレットの方が、第1模擬ペレットよりも、実際の核燃料ペレットに近似する。実際の核燃料ペレットと同レベルの剛性を有する第2模擬ペレットを、落下試験において大きく曲げ変形する燃料被覆管の端部に配置することにより、模擬燃料棒は、落下時の燃料棒の曲げ変形挙動をより忠実に再現することができる。一方、全体重量に関しては、第1模擬ペレットの方が、第2模擬ペレットよりも、大きい。そのため、模擬燃料棒全体として、実際の燃料棒の重量を再現することができる。
【0025】
本発明は、燃料被覆管と、前記燃料被覆管の内側に配置され、核燃料ペレットを模擬する複数の模擬ペレットと、を備え、複数の前記模擬ペレットは、外形が等しく、第1材料及び第2材料の少なくとも一方で形成され、前記第1材料は、前記第2材料よりも高剛性であり、前記第2材料は、前記第1材料よりも高比重であり、複数の前記模擬ペレットのうち、前記燃料被覆管の端部に配置される前記模擬ペレットにおいて前記第1材料が占める体積は、前記燃料被覆管の中央部に配置される前記模擬ペレットにおいて前記第1材料が占める体積よりも大きい、模擬燃料棒を提供する。
【0026】
本発明によれば、燃料棒が、剛性及び比重が異なる少なくとも2種類の模擬ペレットで構成されるので、実際の燃料棒の特定部位と同レベルの剛性及び実際の燃料棒と同レベルの全体重量を有する模擬燃料棒が提供される。そのため、実際の燃料集合体の落下試験又は実際の燃料棒の落下試験を模擬することができる。また、少なくとも2種類の模擬ペレットを使用することにより、試験の内容に応じて第1,第2模擬ペレットを選択したり、第1,第2模擬ペレットの比率を調整したりすることによって、模擬燃料棒は、必要な剛性及び全体重量を得ることができる。
【0027】
本発明において、前記端部に配置される前記模擬ペレットは、前記第1材料のみで形成され、前記中央部に配置される前記模擬ペレットは、前記第2材料のみで形成されることが好ましい。
【0028】
模擬燃料棒の中央部よりも端部を下方に向けて落下させる落下試験においては、模擬燃料棒の端部は中央部よりも大きく曲げ変形する。端部に配置される模擬ペレットは、高剛性の第1材料のみで形成されており、剛性に関しては、端部に配置される模擬ペレットの方が、中央部に配置される模擬ペレットよりも、実際の核燃料ペレットに近似する。実際の核燃料ペレットと同レベルの剛性を有する模擬ペレットを、落下試験において大きく曲げ変形する燃料被覆管の端部に配置することにより、模擬燃料棒は、落下時の燃料棒の曲げ変形挙動をより忠実に再現することができる。一方、中央部に配置される模擬ペレットは、高比重の第2材料のみで形成されており、模擬燃料棒全体として、実際の燃料棒の重量を再現することができる。また、模擬ペレットが、第1材料のみ又は第2材料のみで形成されることにより、模擬ペレットの製造コストが抑制される。
【0029】
本発明において、複数の前記模擬ペレットのうち、少なくとも一つの前記模擬ペレットは、前記燃料被覆管の内面と接触する外面を有し、前記第1材料で形成された外筒部と、前記外筒部の内側に配置され、前記第2材料で形成された内芯部と、を有してもよい。
【0030】
模擬ペレットが、第1材料で形成される外筒部と第2材料で形成される内芯部とを有することにより、実際の核燃料ペレットと同レベルの剛性及び密度を有する模擬ペレットが提供されるため、模擬燃料棒は、実際の燃料棒の剛性及び全体重量を再現することができる。
【0031】
本発明は、上記の模擬燃料棒を複数備える模擬燃料集合体を提供する。
【0032】
本発明によれば、実際の燃料集合体の落下試験を模擬することができ、実際の燃料棒及び燃料集合体の挙動を把握し、キャスクの安全性の評価を適切に行うことができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、実際の燃料集合体の落下試験を模擬することができる模擬ペレット、模擬燃料棒、及び模擬燃料集合体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る模擬燃料集合体の一例を示す構成図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る模擬燃料集合体の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る模擬燃料棒の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る模擬ペレットの一例を示す側断面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る模擬ペレットの一例を示す平面図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る落下試験時の模擬燃料棒の挙動の一例を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る落下試験時の模擬燃料棒の挙動の一例を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る模擬燃料棒の一例を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、模擬ペレットの変形例を示す図である。
【
図12】
図12は、第3実施形態に係る模擬燃料棒の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する各実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0036】
<第1実施形態>
第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る模擬燃料集合体1の一例を模式的に示す構成図である。
図2は、本実施形態に係る模擬燃料集合体1の断面図である。
図1及び
図2に示すように、模擬燃料集合体1は、複数の模擬燃料棒2と、制御棒3が挿入される制御棒案内管4と、炉内計装用検出器5が挿入される炉内計装用案内管6と、これらを束ねるグリッド7とを備えている。また、模擬燃料集合体1は、模擬燃料棒2の軸方向に関して上部に設けられた上部ノズル8と、軸方向に関して下部に設けられた下部ノズル9とを備えている。上部ノズル8及び下部ノズル9は、制御棒案内管4、及び炉内計装用案内管6の軸方向の上端部及び下端部を固定する。
【0037】
図3は、本実施形態に係る模擬燃料棒2の一例を示す図であって、一部を切断して表わした図である。模擬燃料棒2は、円筒形状の燃料被覆管10と、燃料被覆管10の内側に配置され、核燃料ペレットを模擬する複数の模擬ペレット20とを備えている。模擬ペレット20は、燃料被覆管10の内側において、燃料被覆管10の軸方向に複数配置される。複数の模擬ペレット20の外形は、等しい。また、模擬燃料棒2は、最も上側に配置される模擬ペレット20を抑えるスプリング11と、燃料被覆管10の上端部を塞ぐ上部端栓12と、燃料被覆管10の下端部を塞ぐ下部端栓13とを備えている。スプリング11により、輸送中や取扱い中の模擬ペレット20の移動を防止する。
【0038】
図4は、本実施形態に係る模擬ペレット20の一例を示す側断面図である。
図5は、本実施形態に係る模擬ペレット20の一例を示す平面図である。模擬ペレット20は、燃料被覆管10の内側に配置される核燃料ペレットを模擬する。核燃料ペレットは、二酸化ウランのような原子材料の粉末を圧縮成型し、水素雰囲気中又は水素と窒素と混合雰囲気中で焼結した後、円柱形状に成形したものである。すなわち、核燃料ペレットは、セラミックス体である。模擬ペレット20は、重量が核燃料ペレットと同レベルとなり、燃料被覆管10の内面と接触する部分の剛性が核燃料ペレットと同レベルとなるように製造される。
【0039】
模擬ペレット20は、燃料被覆管10の内面と接触する外面20Sを有し、第1材料で形成された外筒部21と、外筒部21の内側に配置され、第2材料で形成された内芯部22とを備えている。外筒部21は、第1材料からなる単一部材である。内芯部22は、第2材料からなる単一部材である。外筒部21は、円筒形状であり、内芯部22は、円柱形状である。外筒部21の中心と内芯部22の中心とは一致する。模擬ペレット20は、2層同芯構造である。
【0040】
外筒部21は、内芯部22よりも高剛性である。内芯部22は、外筒部21よりも高比重である。外筒部21は、核燃料ペレットと同剛性である。内芯部22は、核燃料ペレットよりも高比重である。
【0041】
外筒部21を形成する第1材料として、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、フッ素金雲母、炭素鋼、ステンレス鋼、合金鋼、タングステン、及び炭化タングステンの少なくとも一つが例示される。
【0042】
内芯部22を形成する第2材料として、タングステン、炭化タングステン、鉛、鉛合金、金、銀、白金、及びタンタルの少なくとも一つが例示される。
【0043】
本実施形態においては、外筒部21は、第1材料のうち、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、及びフッ素金雲母のいずれか一つのセラミックス体である。内芯部22は、タングステン又は炭化タングステンで形成される。
【0044】
外筒部21は、第1材料の円柱形状のセラミックス体を形成し、そのセラミックス体の中心部をドリルで孔あけ加工することによって製造される。又はドリルを用いずに、型を用いて円筒形状に成形して外筒部21を製造しても良い。円筒形状の外筒部21が製造された後、その外筒部21の内側に、第2材料からなる円柱形状の内芯部22を嵌め込むことによって、模擬ペレット20が製造される。外筒部21と内芯部22とは、焼嵌め又は冷嵌めのような外筒部21と内芯部22との熱膨張量差を利用して固定されてもよいし、接着剤を使って固定されてもよい。
【0045】
二酸化ウランの理論密度は、10.96[g/cm
3]程度であると言われている。一方、実際の核燃料ペレットは、粒径が5[μm]以上10[μm]以下の多結晶焼結体であり、その実際の密度は、通常理論密度の95[%]以上97[%]以下であると言われている。したがって、核燃料ペレットの密度は、10.412[g/cm
3]以上10.6312[g/cm
3]以下である。
【0046】
第2材料の密度は、核燃料ペレットの密度よりも大きい。例えば、タングステンの密度は、19.3[g/cm
3]であり、炭化タングステンの密度は、15.63[g/cm
3]であり、鉛の密度は、11.36[g/cm
3]であり、金の密度は、19.32[g/cm
3]であり、銀の密度は、10.49[g/cm
3]であり、白金の密度は、21.45[g/cm
3]であり、タンタルの密度は、16.6[g/cm
3]である。
【0047】
一方、第1材料の密度は、核燃料ペレットの密度よりも小さい。本実施形態においては、模擬ペレット20の平均密度(外筒部21と内芯部22とを合わせた全体密度)が、核燃料ペレットの密度と同レベルになるように、第1材料からなる外筒部21と第2材料からなる内芯部22との比率(体積比率)が調整される。本実施形態においては、模擬ペレット20の平均密度が、10[g/cm
3]以上11[g/cm
3]以下になるように、外筒部21と内芯部22との比率が調整される。
【0048】
次に、模擬ペレット20を使って構築された模擬燃料集合体1の落下試験の一例について説明する。本実施形態においては、模擬燃料棒2の軸方向に関して、模擬燃料集合体1(模擬燃料棒2)の中央部よりも下端部を下方に向けて落下させる落下試験が実施される。すなわち、落下試験においては、
図1の矢印で示すように、模擬燃料集合体1は、下部ノズル9が上部ノズル8よりも下方に配置された状態で、落下する。
【0049】
図6は、模擬燃料集合体1の落下試験における、模擬燃料棒2の挙動を模式的に示す図である。落下の衝撃により、模擬燃料棒2の少なくとも一部が曲げ変形する。
図6に示すように、模擬燃料棒2の下端部が中央部よりも下方に向けられた状態で模擬燃料棒2が落下した場合、模擬燃料棒2の中央部よりも下端部のほうが、大きく曲げ変形する。
【0050】
図7は、模擬燃料棒2が曲げ変形したときの燃料被覆管10と模擬ペレット20との関係を模式的に示す図である。落下により燃料被覆管10が曲がると、燃料被覆管10と模擬ペレット20との相対位置が変化し、模擬ペレット20の外面20Sの一部(特に角部)との接触力が増大する。燃料被覆管10は、模擬ペレット20からダメージを受ける。
【0051】
本実施形態においては、核燃料ペレットと同レベルの剛性を有する外筒部21に、燃料被覆管10の内面と接触する模擬ペレット20の外面20Sが設けられている。換言すれば、模擬ペレット20のうち、核燃料ペレットと同レベルの剛性を有する外筒部21が、燃料被覆管10の内面と接触する。
【0052】
落下時の実際の燃料棒の曲げ変形挙動は、燃料被覆管10の内側の核燃料ペレットの剛性に影響されると考えられる。本実施形態においては、模擬ペレット20のうち、燃料被覆管10の内面と接触する部分が、核燃料ペレットと同レベルの剛性なので、落下時の実際の燃料棒の曲げ変形挙動を、模擬燃料棒2を使って再現することができる。
【0053】
また、外筒部21の剛性は、核燃料ペレットの剛性と同レベル(同剛性)なので、実際の核燃料ペレットが燃料被覆管10に与えるダメージと同レベルのダメージを燃料被覆管10に与えることができ、核燃料ペレットが燃料被覆管10に接触したときの燃料棒の挙動を再現することができる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、模擬ペレット20を第1材料の外筒部21と第2材料の内芯部22とからなる2層構造とし、第1材料として高剛性材料を使用し、第2材料として高比重材料を使用することにより、実際の核燃料ペレットと同レベルの剛性及び密度を有する模擬ペレット20を提供することができる。
【0055】
燃料被覆管10と接触する外筒部21を、核燃料ペレットの剛性と同レベルの剛性の第1材料で形成することにより、落下時の燃料棒の曲げ変形挙動を、模擬燃料棒2を使って再現することができる。また、実際の核燃料ペレットが燃料被覆管10に与えるダメージと同レベルのダメージを燃料被覆管10に与えることができ、核燃料ペレットが燃料被覆管10に接触したときの燃料棒の挙動を再現することができる。
【0056】
第1材料の比重は、核燃料ペレットの比重よりも小さい。燃料被覆管10と接触しない内芯部22を、高比重の第2材料で形成することにより、模擬ペレット20の全体重量(平均密度)を核燃料ペレットの全体重量と同レベルにすることができる。これにより、剛性のみならず、重量に関しても、核燃料ペレットを再現することができる。
【0057】
したがって、実際の燃料棒及び燃料集合体の落下試験を模擬することができ、実際の燃料棒及び燃料集合体の挙動を把握し、キャスクの安全性の評価を適切に行うことができる。
【0058】
また、模擬ペレット20を2層構造とすることにより、試験の内容に応じて第1,第2材料を選択したり、外筒部21と内芯部22との比率(重量比率、体積比率)を調整したりすることによって、模擬ペレット20は、必要な剛性及び全体重量を得ることができる。
【0059】
また、本実施形態においては、外筒部21は、第1材料のうち、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、及びフッ素金雲母のいずれか一つのセラミックスを含み、内芯部22は、タングステンを含む。外筒部21がセラミックスで形成されることにより、核燃料ペレットと同レベルの剛性を得ることができる。また、内芯部22が高比重なタングステンで形成されることにより、模擬ペレット20は、核燃料ペレットと同レベルの全体重量を得ることができる。
【0060】
また、本実施形態においては、外筒部21は、第1材料からなる単一部材である。
図6を参照して説明したように、落下試験においては、燃料被覆管10の内面と外筒部21との接触力が増大する。外筒部21が複数の部材から構成される場合、落下試験において、外筒部21の部材接続部において亀裂が生じたり、外筒部21が部材接続部を起点として破損したりする可能性が高くなる。外筒部21を単一部材とすることによって、落下試験において、実際の核燃料ペレットには生じない外筒部21での部材接続部における亀裂や破損が抑制される。
【0061】
なお、本実施形態においては、外筒部21は、核燃料ペレットと同剛性であることとした。外筒部21は、核燃料ペレットよりも高剛性でもよい。外筒部21を核燃料ペレットよりも高剛性にすることにより、実際の核燃料ペレットが燃料被覆管10に与えるダメージよりも大きいダメージを燃料被覆管10に与えることができ、厳しい試験条件で燃料被覆管10を評価することができる。また、内芯部22の剛性が著しく低くても、外筒部21を核燃料ペレットよりも高剛性にすることにより、模擬ペレット20全体として核燃料ペレットの剛性を模擬することができる。
【0062】
<第2実施形態>
第2実施形態について説明する。本実施形態においては、外筒部21と内芯部22との体積比率が、模擬ペレット20毎に異なる例について説明する。
【0063】
図8は、本実施形態に係る模擬燃料棒2の一例を模式的に示す図である。上述の第1実施形態と同様、燃料被覆管10の内側には、外形が等しい模擬ペレット20が模擬燃料棒2の軸方向に複数設けられる。
【0064】
模擬燃料棒2の軸方向に関して、燃料被覆管10の中央部に配置される模擬ペレット20を第1模擬ペレット20Aと称し、下端部に配置される模擬ペレット20を第2模擬ペレット20Bと称した場合、第2模擬ペレット20Bの外筒部21の体積は、第1模擬ペレット20Aの外筒部21の体積よりも大きい。換言すれば、第2模擬ペレット20Bは、第1模擬ペレット20Aに比べて、外筒部21(第1材料)が占める割合(体積)が大きい。そのため、剛性に関しては、第2模擬ペレット20Bの方が、第1模擬ペレット20Aよりも、実際の核燃料ペレットに近似する。
【0065】
上述のように、模擬燃料棒2の中央部よりも端部を下方に向けて落下させる落下試験においては、模擬燃料棒2の端部は中央部よりも大きく曲げ変形する。実際の核燃料ペレットと同レベルの剛性を有する第2模擬ペレット20Bを、落下試験において大きく曲げ変形する燃料被覆管10の下端部に配置することにより、模擬燃料棒2は、落下時の燃料棒の曲げ変形挙動を忠実に再現することができる。一方、重量に関しては、第1模擬ペレット20Aの方が、第2模擬ペレット20Bよりも大きい。第1材料の比重は、核燃料ペレットの比重よりも小さく、第2材料の比重は、核燃料ペレットの比重よりも大きいので、第2模擬ペレット20Bの第1材料の割合を多くした分、第1模擬ペレット20Aの第2材料の割合を多くすることによって、模擬燃料棒2全体として、実際の燃料棒の重量を再現することができる。
【0066】
(第1,第2実施形態の変形例)
なお、上述の第1,第2実施形態においては、外筒部21が円筒形状であり、内芯部22が円柱形状である2層同芯構造であることとした。内芯部22は、円筒形状でもよい。また、
図9に示すように、外筒部21が、円筒部211と、底部212とを有してもよい。また、
図10に示すように、外筒部21が、円筒部211と、底部212と、開口213Kを有する天部213とを有してもよい。
図10に示す例においては、内芯部22は、開口213Kから外筒部21の内部に第2材料を鋳込むことによって製造される。また、
図11に示すように、外筒部21が2つ設けられていてもよい。
【0067】
<第3実施形態>
第3実施形態について説明する。本実施形態においては、燃料被覆管10に、第1材料のみで形成された模擬ペレットと、第2材料のみで形成された模擬ペレットとが配置される例について説明する。
【0068】
図12は、本実施形態に係る模擬燃料棒2の一例を模式的に示す図である。上述の第1,第2実施形態と同様、燃料被覆管10の内側には、外形が等しい模擬ペレット20が模擬燃料棒2の軸方向に複数設けられる。
【0069】
模擬燃料棒2の軸方向に関して、燃料被覆管10の中央部に配置される模擬ペレット20を第3模擬ペレット20Cと称し、下端部に配置される模擬ペレット20を第4模擬ペレット20Dと称した場合、下端部に配置される第4模擬ペレット20Dは、第1材料のみで形成され、中央部に配置される第3模擬ペレット20Cは、第2材料のみで形成される。
【0070】
剛性に関しては、下端部に配置される第4模擬ペレット20Dの方が、中央部に配置される第3模擬ペレット20Cよりも、実際の核燃料ペレットに近似する。実際の核燃料ペレットと同レベルの剛性を有する第4模擬ペレット20Dを、落下試験において大きく曲げ変形する燃料被覆管10の下端部に配置することにより、模擬燃料棒10は、落下時の燃料棒の曲げ変形挙動を忠実に再現することができる。一方、中央部に配置される第3模擬ペレット20Cは、高比重の第2材料のみで形成されており、模擬燃料棒2全体として、実際の燃料棒の重量を再現することができる。また、模擬ペレット20が、第1材料のみ又は第2材料のみで形成されることにより、模擬ペレット20の製造コストが抑制される。
【0071】
なお、上述の各実施形態において、模擬燃料集合体1は、使用済燃料集合体を模擬するものでもよいし、新燃料集合体を模擬するものでもよい。
【0072】
なお、上述の各実施形態においては、燃料被覆管10の内側に外径及び長さ寸法が等しい模擬ペレットが複数設けられることとした。外径及び長さ寸法が異なる模擬ペレットが燃料被覆管10に複数配置されてもよい。例えば、落下時の変形が大きい模擬燃料棒2の端部に外径が大きい模擬ペレットが配置され、落下時の変形が端部に比べて小さい模擬燃料棒2の中央部に外径が小さい模擬ペレットが配置されてもよい。外径が大きい模擬ペレットは、外径が小さい模擬ペレットに比べて、燃料被覆管10の内面との間隙が小さく、模擬燃料棒2の小さい変形で燃料被覆管10の内面と接触するため、燃料被覆管10に与えるダメージが大きい。そのため、外径が大きい模擬ペレットが、落下時の変形が大きい燃料被覆管10の端部に配置されることが好ましい。一方、制作のし易さの観点から、落下時の変形が小さい模擬燃料棒2の中央部には、燃料被覆管10の内面との間隙が大きい、外径が小さい模擬ペレットが配置されることが好ましい。
【符号の説明】
【0073】
1 模擬燃料集合体
2 模擬燃料棒
3 制御棒
4 制御棒案内管
5 炉内計装用検出器
6 炉内計装用案内管
7 グリッド
8 上部ノズル
9 下部ノズル
10 燃料被覆管
11 スプリング
12 上部端栓
13 下部端栓
20 模擬ペレット
20A 第1模擬ペレット
20B 第2模擬ペレット
20C 第3模擬ペレット
20D 第4模擬ペレット
20S 外面
211 円筒部
212 底部
213 天部
213K 開口