特許第6516962号(P6516962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6516962ゼロ面アンカリング状態を活用した液晶表示素子およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6516962
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】ゼロ面アンカリング状態を活用した液晶表示素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20190513BHJP
【FI】
   G02F1/1337 520
【請求項の数】1
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-268256(P2013-268256)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-125205(P2015-125205A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年12月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501426046
【氏名又は名称】エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 治
(72)【発明者】
【氏名】戸木田 雅利
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 順次
【審査官】 磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−231757(JP,A)
【文献】 特表2009−530040(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01158349(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上偏光板を備えた上基板および下偏光板を備えた下基板の少なくとも一方の基板上に凹凸構造を形成し、前記上基板上、前記下基板上、および前記凹凸構造上のそれぞれにメタクリレート系モノマー、アクリレート系モノマー及びビニル系モノマーからなる群から選択されるラジカル重合性モノマーをリビングラジカル重合させてガラス転移温度Tgが−5℃以下であるポリマーブラシを形成する工程と、
クロスニコルに配置された前記上偏光板と前記下偏光板の一方の透過軸と、前記凹凸構造の長軸方向とを一致させる工程と、
前記上基板および前記下基板の間に常温において液晶を注入し、前記液晶を常温で注入した直後は液晶分子が均一に配向して、それにより、磁場または熱を加えることなく常温において前記ポリマーブラシと前記液晶との共存部にゼロ面アンカリング状態を与える工程と、
を有し、液晶の一様配向を、加熱、加圧以外の方法を用いずに、前記ゼロ面アンカリング状態と前記凹凸構造により実現するゼロ面アンカリング状態を活用した液晶表示素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便かつ安価な方法により非接触配向、低電圧駆動を実現するための、ゼロ面アンカリング状態を活用した液晶表示素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、薄型、軽量、低消費電力などの特性を有していることから、携帯電話、コンピュータ及びテレビのディスプレイなどの幅広い領域に用途が拡大している。液晶ディスプレイの表示原理として、TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)など様々な表示モードが提案されているが、そのほとんどは、基板によって液晶分子の配向方向を予め強制する必要がある。
【0003】
液晶分子の配向方向を強制する方法として、基板上にポリイミドなどからなる配向膜を形成した後に、レーヨンや綿などの布を巻いたローラーを回転数及びローラーと基板との距離を一定に保った状態で回転させ、配向膜の表面を一方向に擦る方法(ラビング法)や、偏光紫外線を照射してポリイミド膜表面に異方性を発生させる手法(光配向法)などが採用されている。これらの処理により、液晶分子は、基板表面に強く束縛され、一定方向に配向するようになる。その結果、FLC以外の表示モードでは、原理的にメモリー性を発現しなくなり、また、V−Shapeモードなどの特殊な表示モード以外では、駆動閾値が存在するようになる。
【0004】
一方、外場(電場、磁場など)によって液晶分子の配向方向を任意の方向に向け、その状態を維持する(メモリーする)新たな概念のディスプレイも提案されている。このような動作を実現するためには、基板表面の配向強制力(アンカリング)をなくす必要があるが、その実現に向けて、液晶デバイスを完全ぬれ状態の液体−液晶界面で構成する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この方法では、液晶物質に不溶な物質(例えば、ポリスチレン)を混合し、液体−液晶相分離を生じさせ、基板表面を液晶物質から相分離した液体相と強い親和性を持たせるか、或いは、逆に液晶分子との非親和性を与えた2枚の基板間に充填し、液晶物質が液体層でサンドイッチされた状態とし、基板表面の配向強制力がない、いわゆるゼロ面アンカリングの状態を実現している。この手法では、更に界面活性剤として、液晶物質に不溶な物質(例えば、ポリスチレン分子)と液晶分子双方に親和性を有する部分を1分子中に併せ持つブロック共重合体を少量添加し、液体−液晶界面を安定化させる手法がとられている。
【0006】
なお、本明細書において「ゼロ面アンカリング」とは、水平又は斜め方向の液晶分子の配向を強制するが、面内方向の液晶分子の配向強制力はゼロの状態のこと、すなわち、基板に対して水平方向に液晶分子を配向させるが、水平面内における液晶分子の配向強制力がない状態のことを意味する。
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法は、基板の表面処理、並びに液晶、液晶に添加する液晶物質に不溶な物質、及び界面活性剤の絶妙なバランスによってゼロ面アンカリング状態を実現しているため、そのバランスを適切に保持しなければ、液体と液晶との間の相分離が不安定となり、所望の状態を実現することができない。
【0008】
また、基板の処理法によっては、時間の経過とともに基板の表面状態が変化するため、ゼロ面アンカリング状態を安定して維持することができない。従って、ゼロ面アンカリング状態を安定的に実現するためには、基板の表面処理方法、並びに液晶、液晶に添加する液晶物質に不溶な物質、及び界面活性剤の種類や添加量を最適化しなければならず、条件設定に多大な労力、時間及びコストを必要とする。
【0009】
そこで、上記のような問題を解決するために、本発明の発明者によって、平坦化処理を施した基板にポリマーブラシを形成し、この基板間に液晶を挟持した液晶セルにおいて、ポリマーブラシと液晶との共存部のTg(ガラス転移温度)よりも高く且つ共存部の形状を自由に変動させ得る温度に加熱することで、ゼロ面アンカリング状態を実現する方法(ゼロ面アンカリング液晶配向法)が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
また、本発明の発明者によって、上記のゼロ面アンカリング液晶配向法を応用して、幾何学的凹凸構造を有する基板にポリマーブラシを形成し、この基板間に液晶を挟持した液晶セルにおいて、ポリマーブラシと液晶との共存部のTgよりも高く且つ共存部の形状を自由に変動させ得る温度に加熱することで、非接触な手段によって液晶分子の配向を強制する方法(非接触液晶配向法)が提案されている(同じく、特許文献2参照)。
【0011】
ここで、本明細書において「非接触液晶配向法」とは、従来のラビング法のように配向膜面を擦る必要のない液晶配向法を意味しており、この手法によって、液晶分子は、基板に対して水平方向だけでなく、水平面内においても特定の方向に配向が強制される。
【0012】
さらに、本発明の発明者によって、上記のゼロ面アンカリング液晶配向法又は非接触液晶配向法によって作製された液晶セルを備えた液晶表示装置が提案されている(同じく、特許文献2参照)。
【0013】
これにより、ゼロ面アンカリング状態を簡便且つ安定的に実現する手法、及びその手法により実現されたゼロ面アンカリング状態を利用した液晶表示装置、並びに非接触液晶配向法を簡便且つ安定的に実現する手法、及びその手法により実現された液晶表示装置を、低コストで容易に得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第4053530号公報
【特許文献2】特開2013−231757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
すなわち、液晶表示装置のさらなる低消費電力化が求められており、液晶表示素子の低電圧駆動を実現することが望まれている。
【0016】
また、液晶配向法としての従来技術としては、ラビング法、光配向法が実用化されている。しかしながら、ラビング法は、画質低下/歩留まり低下の問題があり、光配向法は、偏光UVを用いるため、装置が高価でコストアップの要因となっていた。
【0017】
加えて、特許文献2に記載されたゼロ面アンカリング液晶配向法又は非接触液晶配向法では、液晶セルを100℃以上の高温に加熱しなければ、ゼロ面アンカリング状態を実現することができず、実用化する際の障害となる恐れがある。
【0018】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、常温において、簡便且つ安価な方法で非接触配向と低駆動電圧化を同時に実現できる、安定的なゼロ面アンカリング状態を活用した液晶表示素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係るゼロ面アンカリング状態を活用した液晶表示素子は、上偏光板を備えた上基板と、下偏光板を備えた下基板との間に液晶が挟持され、上基板および下基板の少なくとも一方の基板上に凹凸構造を有し、上基板上、下基板上、および凹凸構造上のそれぞれに設ける配向膜として、常温において方位角方向の配向規制力がないゼロ面アンカリング状態を実現する物質を用い、液晶の配向方向が凹凸構造によって規定された、ゼロ面アンカリング状態を活用した液晶表示素子であって、クロスニコルに配置された上偏光板と下偏光板の一方の偏光板の透過軸と、凹凸構造の長軸方向とを一致させて、配向膜は、メタクリレート系モノマー、アクリレート系モノマー及びビニル系モノマーからなる群から選択されるラジカル重合性モノマーをリビングラジカル重合させてガラス転移温度Tgが−5℃以下であるポリマーブラシによって形成され、液晶は、上基板および下基板の間に常温において注入され、常温においてポリマーブラシと液晶との共存部にゼロ面アンカリング状態を与えるものである。
【0020】
さらに、本発明に係るゼロ面アンカリング状態を活用した液晶表示素子の製造方法は、上偏光板を備えた上基板および下偏光板を備えた下基板の少なくとも一方の基板上に凹凸構造を形成し、上基板上、下基板上、および凹凸構造上のそれぞれにメタクリレート系モノマー、アクリレート系モノマー及びビニル系モノマーからなる群から選択されるラジカル重合性モノマーをリビングラジカル重合させてガラス転移温度Tgが−5℃以下であるポリマーブラシを形成する工程と、クロスニコルに配置された上偏光板と下偏光板の一方の透過軸と、凹凸構造の長軸方向とを一致させる工程と、上基板および下基板の間に常温において液晶を注入して、常温においてポリマーブラシと液晶との共存部にゼロ面アンカリング状態を与える工程と、を有し、液晶の一様配向を、加熱、加圧以外の方法を用いずに、ゼロ面アンカリング状態と凹凸構造により実現するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、クロスニコルに配置された偏光板の一方の透過軸が、凹凸構造の長軸方向と一致するように配置させることにより、常温において、簡便且つ安価な方法で非接触配向と低駆動電圧化を同時に実現できる、安定的なゼロ面アンカリング状態を活用した液晶表示素子およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のゼロ面アンカリング液晶配向法を用いて作製される液晶セルの断面図である。
図2】本発明のゼロ面アンカリング液晶配向法を用いて作製される液晶セルの拡大断面図である。
図3】(a)は幾何学的凹凸構造が形成されていない基板を用いた液晶セルの上面図であり、(b)は幾何学的凹凸構造が形成された基板を用いた液晶セルの上面図である。
図4】実施例で作製した液晶セルの配向状態を示す顕微鏡写真であり、(a)はクロスニコルに配置した2枚の偏光板の間に液晶セルを置き、一方の偏光板の透過軸を櫛歯電極の方向に一致させた状態で撮影した写真であり、(b)は偏光板のない状態で撮影した写真である。
図5】実施例で作製した本発明の液晶表示素子の断面構成図である。
図6】実施例で作製した液晶セルについて、電圧と相対透過率との関係を表すグラフである。
図7】ポリイミド配向膜をラビング処理した強アンカリング状態の液晶セルについて、電圧と相対透過率との関係を表すグラフである。
図8】実施例で作製した液晶セルに電圧を印加/除去した際の透過率変化の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るゼロ面アンカリング液晶配向法及び非接触液晶配向法、並びにこれらを用いた液晶表示素子の好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、又は相当する部分については、同一符号を付して説明する。
【0024】
実施の形態1.
本実施の形態のゼロ面アンカリング液晶配向法は、平坦化処理を施した基板にポリマーブラシを形成し、この基板間に液晶を挟持した液晶セルにおいて、ポリマーブラシは、次の一般式(1)で表され、
【化1】
一般式(1)において、XはH又はCHであり、mは正の整数であって、ポリマーブラシのTg(ガラス転移温度)が−5℃以下であるものである。
【0025】
以下、本実施の形態のゼロ面アンカリング液晶配向法(以下、「ゼロ面配向法」と略す。)について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施の形態のゼロ面配向法を用いて作製される液晶セルの断面図であり、図2は、この液晶セルの拡大断面図である。
【0026】
図1及び2において、液晶セルは、ポリマーブラシ2を形成した基板1間に液晶5が挟持された構造を有する。液晶5は、基板1上に形成されたポリマーブラシ2の表層部分に浸透しており、液晶5と接したポリマーブラシ2の表層部分は膨潤している(図中では、膨潤した状態は示していない)。
【0027】
本明細書においては、液晶5が浸透したポリマーブラシ2の部分を共存部4として表し、液晶5が浸透していないポリマーブラシ2の部分をポリマーブラシ層3として表す。なお、図1では、本発明を理解し易くする観点から、共存部4とポリマーブラシ層3とを明確に区別して表したが、実際には、共存部4とポリマーブラシ層3との境界を区別することは難しい。
【0028】
本実施の形態のゼロ面配向法では、液晶セルにおいて、ポリマーブラシ2として、上記の一般式(1)で表され、一般式(1)において、XはH又はCHであり、mは正の整数であって、ポリマーブラシのTgが−5℃以下であるものを用いることにより、共存部4のTg(ガラス転移温度)が、常温(25℃程度)よりもかなり低い温度になるので、常温において、共存部4の形状を自由に変動させることができる。そのため、共存部4と液晶5との界面において共存部4の状態が変化し、基板1に対して水平方向に液晶分子6を配向強制しつつ、面内ではいずれの方向にも配向強制力をもたない状態(ゼロ面アンカリング状態)を共存部4に与えることができる。
【0029】
共存部4のTgは、使用するポリマーブラシ2及び液晶5の種類によって異なるため、一義的に定義することはできないが、一般に、ポリマーブラシ2単独のTgに比べて低くなる。また、共存部4のTgは、ポリマーブラシ2に対する液晶5の浸透の程度(すなわち、ポリマーブラシ2と液晶5との割合)によっても変化する。具体的には、共存部4において、液晶5の割合が多い液晶5側の共存部4はTgが低く、液晶5の割合が少ないポリマーブラシ層3側の共存部4はTgが高くなる。
【0030】
しかしながら、ポリマーブラシ2として、上記一般式(1)で表され、一般式(1)において、XはH又はCHであり、mは正の整数であって、ポリマーブラシのTgが−5℃以下であるものを用いることにより、共存部4のTgを、常温よりも十分低い温度にすることができるので、常温において、共存部4の形状を自由に変動させることができる。
【0031】
次に、本実施の形態のゼロ面配向法に用いられる液晶セル及びその製造方法について詳細に説明する。本実施の形態のゼロ面配向法に用いられる液晶セルは、ポリマーブラシ2を形成した基板1間に液晶5を注入することによって製造することができる。
【0032】
基板1としては、平坦化処理が施されていれば特に限定されず、当該技術分野において一般に公知のものを用いることができる。基板の表面が凹凸構造を有する場合、液晶分子が凹凸構造に沿って配向するため、ゼロ面アンカリング状態を実質的に実現できない。
【0033】
平坦化処理としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いて行うことができる。平坦化処理の例としては、基板1の表面に平坦化膜を形成する方法が挙げられ、例えば、UV硬化性の透明樹脂などを基板1の表面に塗布してUV硬化すればよい。
【0034】
基板1の例としては、アレイ基板及び対向基板が挙げられる。アレイ基板の例としては、アクティブマトリックスアレイ基板が挙げられる。このアクティブマトリックスアレイ基板は、一般的に、ガラス基板上にゲート配線及びソース配線がマトリックス状に配置されており、その交点部分に、薄層トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)などのアクティブ素子が形成され、このアクティブ素子に画素電極が接続されたものである。
【0035】
また、対向基板の例としては、カラーフィルタ基板が挙げられる。このカラーフィルタ基板は、一般的に、ガラス基板上に、不要な光の漏れを防止するためにブラックマトリックスを形成した後、R(赤)、G(緑)、B(青)の着色層をパターン形成し、必要に応じて保護膜を形成し、画素電極に対向する対向電極を形成したものである。これらの基板1を用いる場合、基板1の表面に透明樹脂を塗布して硬化し、平坦化膜を形成すればよい。
【0036】
基板1上に形成されるポリマーブラシ2としては、上記一般式(1)で表され、一般式(1)において、XはH又はCHであり、mは正の整数であって、ポリマーブラシのTgが−5℃以下であるものを用いることができる。ここで、本明細書において「ポリマーブラシ2」とは、多数のグラフトポリマー鎖が高密度で基板1表面に対して垂直方向に伸張した構造を有するものを意味する。
【0037】
一般的に、一端が基板1表面に固定されたグラフトポリマー鎖は、グラフト密度が低いと、糸まり状の縮んだ構造をとるが、ポリマーブラシ2は、グラフト密度が高いため、隣接したグラフトポリマー鎖の相互作用(立体反発)により、基板1表面に対して垂直方向に伸張した構造をとる。
【0038】
なお、本明細書において「高密度」とは、隣接するグラフトポリマー鎖間で立体反発が生じる程度に密集したグラフトポリマー鎖の密度を意味し、一般的に0.1本/nm以上、好ましくは0.1〜1.2本/nmの密度である。また、本明細書において「グラフトポリマー鎖の密度」とは、単位面積(nm)あたりの基板1表面上に形成されたグラフトポリマー鎖の本数を意味する。
【0039】
ポリマーブラシ2は、基板1の表面上でポリマーブラシ2の層を形成する。このポリマーブラシ2の層の厚さは、特に限定されないが、一般に数十nm、具体的には1nm以上100nm未満、好ましくは10nm〜80nmである。また、このポリマーブラシ2の層にはサイズ排除効果があり、一定の大きさの物質はポリマーブラシ2の層を通過することはできない。そのため、ポリマーブラシ2の層の厚さを薄くしても、下地から液晶5への不純物の侵入を防止することができる。
【0040】
ポリマーブラシ2の形成方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いて行うことができる。具体的には、ポリマーブラシ2は、ラジカル重合性モノマーをリビングラジカル重合させることにより形成することができる。ここで、本明細書において「リビングラジカル重合」とは、ラジカル重合反応において、連鎖移動反応及び停止反応が実質的に起こらず、ラジカル重合性モノマーが反応し尽くした後も連鎖成長末端が活性を保持する重合反応のことを意味する。
【0041】
この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、ラジカル重合性モノマーを加えると再び重合反応を開始させることができる。また、リビングラジカル重合は、ラジカル重合性モノマーと重合開始剤との濃度比を調節することによって任意の平均分子量をもつ重合体の合成ができ、そして、生成する重合体の分子量分布が極めて狭いなどの特徴がある。
【0042】
リビングラジカル重合の代表例は、原子移動ラジカル重合(ATRP:Atom Transfer Radical Polymerization)である。例えば、重合開始剤の存在下で、ハロゲン化銅/リガンド錯体を用いてラジカル重合性モノマーの原子移動リビングラジカル重合を行う。高分子末端ハロゲンをハロゲン化銅/リガンド錯体が引き抜くことにより可逆的に成長する成長ラジカルにラジカル重合性モノマーが付加して進行し、十分な頻度での可逆的活性化・不活性化により分子量分布が規制される。
【0043】
リビングラジカル重合に用いられるラジカル重合性モノマーは、有機ラジカルの存在下でラジカル重合を行うことが可能な不飽和結合を有するものであり、例えば、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−オクチルメタクリレートなどのメタクリレート系モノマー;t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレートなどのアクリレート系モノマー;スチレン、スチレン誘導体(例えば、o−、m−、p−メトキシスチレン、o−、m−、p−t−ブトキシスチレン、o−、m−、p−クロロメチルスチレンなど)、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸ビニルなど)、ビニルケトン類(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトンなど)、N−ビニル化合物(例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドールなど)、(メタ)アクリル酸誘導体(例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミドなど)、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプレン、フッ化ビニルなど)などのビニルモノマーが挙げられる。これらの各種ラジカル重合性モノマーは、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0044】
重合開始剤としては、特に限定されず、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。重合開始剤の例としては、p−クロロメチルスチレン、α−ジクロロキシレン、α,α−ジクロロキシレン、α,α−ジブロモキシレン、ヘキサキス(α−ブロモメチル)ベンゼン、塩化ベンジル、臭化ベンジル、1−ブロモ−1−フェニルエタン、1−クロロ−1−フェニルエタンなどのベンジルハロゲン化物;プロピル−2−ブロモプロピオネート、メチル−2−クロロプロピオネート、エチル−2−クロロプロピオネート、メチル−2−ブロモプロピオネート、エチル−2−ブロモイソブチレート(EBIB)などのα位がハロゲン化されたカルボン酸;p−トルエンスルホニルクロリド(TsCl)などのトシルハロゲン化物;テトラクロロメタン、トリブロモメタン、1−ビニルエチルクロリド、1−ビニルエチルブロミドなどのアルキルハロゲン化物;ジメチルリン酸クロリドなどのリン酸エステルのハロゲン誘導体が挙げられる。これらの各種重合開始剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0045】
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるハロゲン化銅としては、特に限定されず、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。ハロゲン化銅の例としては、CuBr、CuCl、CuIなどが挙げられる。これらの各種ハロゲン化銅は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0046】
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるリガンド化合物としては、特に限定されず、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。リガンド化合物の例としては、トリフェニルホスファン、4,4’−ジノニル−2,2’−ジピリジン(dNbipy)、N,N,N’,N’N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミンなどが挙げられる。これらの各種リガンド化合物は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0047】
ラジカル重合性モノマー、重合開始剤、ハロゲン化銅及びリガンド化合物の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよいが、一般的に、重合開始剤1molに対して、ラジカル重合性モノマーが5〜10,000mol、好ましくは50〜5,000mol、ハロゲン化銅が0.1〜100mol、好ましくは0.5〜100mol、リガンド化合物が0.2〜200mol、好ましくは1.0〜200molである。
【0048】
リビングラジカル重合は、通常、無溶媒で行うが、リビングラジカル重合で一般的に使用される溶媒を使用してもよい。使用可能な溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼンなどの有機溶媒;水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノールなどの水性溶媒が挙げられる。これらの各種溶媒は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、溶媒の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよいが、一般的にラジカル重合性モノマー1gに対して、溶媒が0.01〜100mL、好ましくは0.05〜10mLである。
【0049】
リビングラジカル重合は、上記の原料を含むポリマーブラシ形成用溶液中に基板1を浸漬し、加熱することによって行うことができる。加熱条件は、特に限定されることはなく、使用する原料などに応じて適宜調節すればよいが、一般的に、加熱温度は60〜150℃、加熱時間は0.1〜10時間である。この重合反応は、一般的に常圧で行われるが、加圧又は減圧しても構わない。なお、基板1は、必要に応じて、ポリマーブラシ2の形成前に洗浄を行ってもよい。
【0050】
リビングラジカル重合により形成されるポリマーブラシ2の分子量は、反応温度、反応時間や使用する原料の種類や量によって調整可能であるが、一般的に数平均分子量が500〜1,000,000、好ましくは1,000〜500,000のポリマーブラシ2を形成することができる。また、ポリマーブラシ2の分子量分布(Mw/Mn)は、1.05〜1.60の間に制御することができる。
【0051】
ポリマーブラシ2は、基板1とポリマーブラシ2との間の固着性を高める観点から、必要に応じて、固定化膜を介して基板1の表面上に形成してもよい。固定化膜としては、基板1及びポリマーブラシ2との固着性に優れたものであれば特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。固定化膜の例としては、次の一般式(2)で表されるアルコキシシラン化合物から形成される膜が挙げられる。
【0052】
【化2】
【0053】
一般式(2)において、Rはそれぞれ独立してC1〜C3のアルキル基、好ましくはメチル基又はエチル基であり、Rはそれぞれ独立してメチル基又はエチル基であり、Xはハロゲン原子、好ましくはBrであり、nは3〜10の整数、より好ましくは4〜8の整数である。
【0054】
固定化膜には、ポリマーブラシ2が共有結合していることが好ましい。固定化膜とポリマーブラシ2とが結合力の強い共有結合で結ばれていれば、ポリマーブラシ2の剥がれを十分に防止することができる。その結果、液晶セルの特性が低下する可能性が低くなり、液晶セルの信頼性が向上する。
【0055】
固定化膜の形成方法は、特に限定されず、使用する材料に応じて適宜設定すればよい。例えば、固定化膜形成用溶液に、基板1を浸漬させた後、乾燥させることによって固定化膜を形成することができる。ここで、所定の部分に固定化膜を形成させるために、固定化膜を形成させない部分にマスキングを施してもよい。また、基板1は、必要に応じて、固定化膜の形成前に洗浄を行ってもよい。
【0056】
ポリマーブラシ2を形成した2つの基板1間に液晶5を注入する方法としては、特に限定されず、毛細管現象を利用した真空注入法、液晶滴下注入法(ODF:One Drop Fill)などの公知の方法を用いることができる。例えば、毛細管現象を利用した真空注入法を用いる場合には、次のようにして行えばよい。
【0057】
まず、一方の基板1上にフォトリソグラフィーなどの公知の方法によってスペーサー、固定化膜(必要な場合)及びポリマーブラシ2を形成する。他方の基板1上には、電極、固定化膜(必要な場合)及びポリマーブラシ2を形成する。ここで、面内に配向強制力がないゼロ面アンカリング状態とするためには、基板1上に電極を形成した後、平坦化膜などを形成することによって平坦化し、その上に固定化膜(必要な場合)及びポリマーブラシ2を形成する。
【0058】
次に、一方の基板1を洗浄して乾燥させた後、シール材を塗布し、他方の基板1と重ね合わせ、加熱又はUV照射などによってシール材を硬化させて接着する。ここで、シール材の一部には、液晶5を注入するための注入口を開けておく必要がある。次に、注入口から真空注入法によって基板1の間に液晶5を注入した後、注入口を封止する。
【0059】
本発明において用いられる液晶5としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。その中でも、液晶5としては、液晶5のNI点(N相からI相への相転移温度)が共存部4のTgよりも高いものが好ましい。
【0060】
上記のようにして行われる本実施の形態のゼロ面配向法によれば、液晶分子6を基板1に対して水平方向の配向強制力は有するが、面内の配向強制力がないゼロ面アンカリング状態を、常温において、簡便且つ安定的に実現することができる。
【0061】
本実施の形態のゼロ面配向法を用いて作製された液晶セルは、上記のような特性を有するため、液晶表示素子に用いることができる。この液晶表示素子において、液晶セル以外の構成は特に限定されず、当該技術分野において公知の構成を採用することができる。
【0062】
本実施の形態の液晶表示素子は、外場の変化による液晶配向回転手段によって液晶のスイッチングを行うことができる。外場としては、特に限定されず、電場、磁場、光照射又はこれらの組み合わせを用いることができる。
【0063】
例えば、外場に電場を用いる場合、対向する2枚の基板1にそれぞれ櫛歯電極を線対称になるように配置し、回転させたい方向によって電場を印加する基板1を選択する方法や、90度毎に4つの電極を配置し、対向する2つの電極間に異なる電圧(一般には、位相の揃った低周波の交流)を印加する方法がある。後者の方法では、直交した2つの電場の比を変えることにより、合成された電場の方向を任意の角度に向けることができる。また、外場に光照射を用いる場合、アゾ基を持つ液晶分子を混合することによって配向回転トルクを与えることができる。
【0064】
実施の形態2.
本実施の形態の非接触液晶配向法(以下、「非接触配向法」と略す。)は、上記のゼロ面配向法を応用したものであり、ゼロ面配向法を、基板表面に形成した幾何学的凹凸構造と組み合わせることで、非接触配向技術として活用することができる。
【0065】
すなわち、本実施の形態の非接触配向法は、幾何学的凹凸構造を有する基板にポリマーブラシを形成し、この基板間に液晶を挟持した液晶セルにおいて、ポリマーブラシは、次の一般式(3)で表され、
【化3】
一般式(3)において、XはH又はCHであり、mは正の整数であって、ポリマーブラシのTgが−5℃以下であるものである。
【0066】
なお、本実施の形態の非接触配向法は、上記のゼロ面配向法を応用したものであり、ゼロ面配向法と基本的な構成は同じであるため、ゼロ面配向法と異なる部分について主に説明する。
【0067】
本実施の形態の非接触配向法においては、基板の表面に幾何学的凹凸構造が形成される。幾何学的凹凸構造は、液晶5の配向方向を規定し、この構造に沿って液晶5を配向させる機能を果たす。ここで、図3に、幾何学的凹凸構造が形成されていない基板1を用いた液晶セルの上面図(a)及び幾何学的凹凸構造が形成された基板1を用いた液晶セルの上面図(b)を示す。
【0068】
図3に示すように、幾何学的凹凸構造7が形成されていない基板1を用いた液晶セルでは、基板1に対して水平方向への液晶分子6の配向制御が可能であるものの、その水平面での配向方向を制御することはできない。これに対して、幾何学的凹凸構造7が形成された基板1を用いた液晶セルでは、基板1に対して水平方向への液晶分子6の配向制御だけでなく、その水平面における液晶分子6の配向方向を幾何学的凹凸構造7に沿って配向させることができる。
【0069】
本実施の形態の非接触配向法では、幾何学的凹凸構造7を有する基板を用いて作製された液晶セルにおいて、ポリマーブラシとして、上記一般式(3)で表され、一般式(3)において、XはH又はCHであり、mは正の整数であって、ポリマーブラシのTgが−5℃以下であるものを用いることにより、共存部4のTgが、常温よりもかなり低い温度になるので、常温において、共存部4の形状を自由に変動させることができる。そのため、液晶分子6を基板に水平且つ幾何学的凹凸構造7に沿って配向させることができる。
【0070】
幾何学的凹凸構造7としては、特に限定されないが、例えば、リブ構造や電極構造などが挙げられる。特に、幾何学的凹凸構造7が、櫛歯電極などの電極構造であれば、液晶5の配向方向を強制するための構造を別途形成する必要がないため、液晶セルの製造効率の向上及び製造コストの削減につながる。幾何学的凹凸構造7を形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法に準じて行うことができる。
【0071】
本実施の形態の非接触配向法を用いて作製された液晶セルは、上記のような特性を有するため、液晶表示素子に用いることができる。この液晶表示素子において、液晶セル以外の構成は特に限定されず、当該技術分野において公知の構成を採用することができる。
【0072】
本実施の形態の非接触配向技術によって製作された液晶表示素子は、従来のラビング処理や磁場配向法に起因する様々な問題を防止することができると共に、磁場配向装置や加熱装置などの新たな設備を導入する必要もなく、設備投資費用を抑制することができる。また、セル状態で配向処理が為されるため、ラビング処理で生じる配向軸のずれ(ラビング方向のずれ、重ねずれ)もなく、コントラストなどの特性も向上することができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。酸化インジウムスズ(ITO)からなる櫛歯電極を形成したガラス基板及び約3μmの高さのフォトスペーサーを形成した対向ガラス基板を用意し、ポリマーブラシを形成させる必要がない部分をマスキングした。次に、エタノール38g、アンモニア水(28%)2g、2−ブロモ−2−メチルプロピオニロキシヘキシルトリエトキシシラン(BHE)0.4gを含む固定化膜形成用溶液に、マスキングを施した2つのガラス基板を常温で一晩浸漬させた後、乾燥させることによって固定化膜を形成した。
【0074】
次に、固定化膜を形成した2つのガラス基板を洗浄し、乾燥させた後、ヘキシルメタクリレート(ラジカル重合性モノマー、17.2g、0.101mol)、エチル−2−ブロモイソブチレート(重合開始剤、0.045g、0.23mmol)、CuBr(ハロゲン化銅、0.096g、0.67mmol)及びペンタメチルジエチレントリアミン(リガンド化合物、0.167g、0.96mmol)をアニソールに溶解させたポリマーブラシ形成用溶液に浸漬させ、90℃で4時間加熱してリビングラジカル重合させることにより、ポリマーブラシ(以下、「PHMAブラシ」という。)を形成した。次に、PHMAブラシを形成した2つのガラス基板を洗浄し、乾燥させた。
【0075】
形成されたPHMAブラシの分子量について、GPC測定装置(日本分光株式会社製LC−2000plus)を用いて評価した。標準試料にはポリメチルメタクリレートを用い、検出器にはUV検出器を用いた。その結果、このPHMAブラシは、数平均分子量(Mn)が69,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.36であった。
【0076】
また、PHMAブラシの層(PHMAブラシ層)の厚さについて、X線反射率測定装置(株式会社リガク製Ultima IV)を用いて評価した。その結果、PHMAブラシの層の厚さは44.5nmであった。また、PHMAブラシのグラフト密度について評価した結果、0.46本/nmであった。
【0077】
次に、PHMAブラシが形成されたガラス基板の一方にシール剤を塗布した後、2つのガラス基板を貼り合わせ、窒素雰囲気下、120℃で2時間加熱することによってシール剤を硬化させた。そして、常温において、2つのガラス基板の間に液晶(チッソ株式会社製JC−5051××、NI点:112℃)を真空注入法によって注入し、液晶注入完了後、注入口を閉じて封止することによって液晶セルを作製した。
【0078】
ここで、常温で液晶を注入した直後の液晶セルの配向状態を観察した結果を示す顕微鏡写真を図4に示す。図4において、(a)はクロスニコル配置した2枚の偏光板の間に液晶セルを置き、一方の偏光板の透過軸を櫛歯電極の方向に一致させた状態で撮影した写真であり、(b)は偏光板のない状態で撮影した写真である。これらの顕微鏡写真からも明らかなように、液晶分子が配線に沿って均一に配向していることが確認された。
【0079】
そこで、これらの検証結果を踏まえると、図5に示すような構成の液晶表示素子を実現できる。図5では、上基板11aと下基板11bのうち、下基板11b側に凹凸構造12を有している場合を例示している。ここで、凹凸構造12は、上基板11a側だけに設ける、あるいは、上基板11aと下基板11bの両方に設けることも可能である。換言すると、凹凸構造12は、実用上の液晶表示素子ではTFT基板側、カラーフィルタ基板側のいずれか一方、あるいは両方に設けることができる。
【0080】
上基板11a上、下基板11b上、および下基板11bに設けられた凹凸構造12上には、ポリマーブラシ13が形成されている。そして、上基板11aと下基板11bとの間に液晶14が挟持されている。さらに、上基板11aの上側には上偏光板15aが設けられており、下基板11bの下側には下偏光板15bが設けられている。
【0081】
ここで、上偏光板15aと下偏光板15bとは、クロスニコルに配置されており、さらに、いずれか一方の偏光板の透過軸が、凹凸構造12と平行となって構成されている。すなわち、凹凸構造12が櫛歯電極で形成されていたとすると、上偏光板15aあるいは下偏光板15bのいずれか一方の偏光板の透過軸が、櫛歯電極の長軸方向と平行になるように配置されている。
【0082】
次に、LCD評価装置(大塚電子株式会社製LCD−5200)を用い、図5の構成として作製した液晶セルについて、25℃において、電圧と相対透過率との関係を測定した。この関係を表すグラフを図6に示す。また、図6と対比するために、ポリイミド(PI)配向膜をラビング処理した強アンカリング状態の液晶セルについて、25℃において、電圧と相対透過率との関係を測定したグラフを図7に示す。
【0083】
なお、相対透過率は、以下のようにして求められる。
まず、光源と検出器との間に何も置かない状態を透過率100%とし、検出器側への光の入射を遮断した状態を透過率0%とする。
続いて、LCDを光源と検出器との間に置き、電圧−透過率曲線を測定する。このとき、透過率は、0〜100%の間の数値となる。
次に、上記の方法で得られた電圧−透過率曲線の中から、最も透過率の高い値と最も低い値をそれぞれ、100%と0%として、電圧−透過率曲線を書き直す。このときの透過率が相対透過率である。
【0084】
図6のグラフに示されているように、PHMAブラシを用いた液晶セルでは、25℃以上の温度条件では、0Vに近い電圧で相対透過率の変化が始まっており、常温以上の温度では、閾値電圧が0Vに極めて近い状態となっていることが確認された。これに対して、図7のグラフに示されているように、強アンカリング状態の液晶セルの閾値電圧は約4.5Vであることが確認された。このように、この実施例で作製した液晶セルでは、常温において、ゼロ面アンカリング状態が実現されていることが分かる。
【0085】
さらに、図6図7とを比較すると、ゼロ面アンカリング状態である図6では、駆動電圧が1.6V程度で最大の透過率が得られているのに対して、強アンカリング状態である図7では、最大の透過率を得るためには8.5V程度の駆動電圧を必要としていることがわかる。従って、図5の構成を備えた本発明の液晶表示素子を用いることで、低電圧駆動を実現できることが確認できる。
【0086】
図8は、PHMAブラシを用いた液晶セルに電圧を印加/除去した際の透過率変化を測定した結果を示した図である。より具体的には、100〜200msの間で、4Vの電圧を印加した場合の透過率の変化を示している。この図8からわかるように、電圧印加時には、ゼロ面アンカリング状態である液晶が即座に反応し、透過率が急峻に上昇している。一方、電圧OFF時には、櫛歯電極に沿った平行な初期配向状態に液晶が戻るまでには、立ち上がり時の応答よりも時間を要しているものの、表示装置として機能できることがわかる。
【0087】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、水平又は斜め方向の液晶分子の配向強制力は存在するが、面内方向の配向強制力はないゼロ面アンカリング状態を、常温において、加熱、加圧以外の方法を用いずに、簡便且つ安定的に実現する手法、及びその手法により実現されたゼロ面アンカリング状態を利用した液晶表示素子を提供することができる。また、本発明によれば、非接触配向法を、常温において、加熱、加圧以外の方法を用いずに、簡便且つ安定的に実現する手法、及びその手法により実現された液晶表示素子を提供することができる。
【0088】
さらに、上基板、あるいは、下基板の少なくとも一方に凹凸構造を有する基板上に、配向膜として、常温においてゼロ面アンカリング状態を実現する物質を形成し、クロスニコルに配置した一対の偏光板の一方の透過軸が、凹凸構造の長軸方向と一致するように配置して液晶表示素子を構成することで以下のような優れた効果を実現できる。
・簡便、且つ安価な方法で、非接触配向を実現できる。
・ラビングに起因する画質低下/歩留まり低下の問題を解決できる。
・光配向法のような高価な装置は不要であり、工程の簡略化、コストダウンが実現できる。
・低電圧駆動が可能であり、低消費電力化が実現できる。
【符号の説明】
【0089】
1 基板、2 ポリマーブラシ、3 ポリマーブラシ層、4 共存部、5 液晶、6 液晶分子、7 幾何学的凹凸構造、11a 上基板、11b 下基板、12 凹凸構造、13 ポリマーブラシ、14 液晶、15a 上偏光板、15b 下偏光板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8