(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
略多角形状の網目を有し、地山の斜面に展設されて該斜面を保護する網状体の上方から、該斜面に点在して設置されたアンカーに取り付けられて前記網状体を斜面側に押圧する受圧板において、
一方の面から突出し、前記アンカーへの取付け状態で前記網状体の少なくとも前記アンカーが挿通される網目とは別の複数の網目内に挿通される複数の突起部を有し、且つ前記突起部の斜面最上部の側部は、前記アンカーへの取付け状態で該突起部が挿通される網目の斜面最上部に位置する該網目の角部に該網目の他の角部より近接し、且つ前記突起部の斜面最下部の側部は、前記アンカーへの取付け状態で該突起部が挿通される網目の斜面最下部に位置する該網目の角部に該網目の他の角部より近接し、
前記突起部が挿通される網目の斜面最上部に位置する該網目の角部と該突起部との距離は前記アンカーが挿通される網目の斜面最上部に位置する該網目の角部と該アンカーとの距離より小さく、且つ前記突起部が挿通される網目の斜面最下部に位置する該網目の角部と該突起部との距離は前記アンカーが挿通される網目の斜面最下部に位置する該網目の角部と該アンカーとの距離より小さく設定されることを特徴とする受圧板。
前記突起部は、前記突起部の前記挿通される部分の水平断面形状が前記網目形状と略相似であり、且つ該挿通状態で前記突起部の側部が前記網目の各辺に近接する大きさであることを特徴とする請求項1に記載の受圧板。
【背景技術】
【0002】
従来、地山の斜面の表層すべりを防止するために種々の方法が提案されている。一般に、地山の斜面は、岩盤等の安定地層(深層)と安定地層上の風化した不安定層(表層)とからなり、両層の境界面がすべり面となる。地山の斜面の表層すべりとは、上記表層(不安定層)が、すべり面に沿って崩落する現象をいう。
【0003】
この表層すべりを防止するために、従来、斜面上に所定間隔(たとえば1〜2m)をおいてロックボルトや鉄筋棒等の補強材を地山の斜面の表層から不動層まで貫通させて設け、ロックボルト等の上端に小型受圧板(例えば、大きさ15〜30cm程度で厚さ10mm〜20mm程度の鋼鉄板)を取付けて表層すべりを抑制する方法が存在した。この方法によれば、斜面の表層すべりの抑制に一定の効果を有するものの、上記小型受圧板によって押え付けられていない斜面領域から表層が中抜けして滑り落ちるおそれがある。
【0004】
かかる表層の中抜けをも防止するために、ロックボルト等補強材の先端に、斜面表面をより広くカバーできる平面視略十字形状や矩形の重量のある大型のコンクリートブロックを取付け、更にその上から小型受圧板を取付け、所定の緊張力を与えロックボルトの先端と係止する斜面の保護方法が提案されている。また、コンクリートブロックの代わりに斜面に型枠を設置してコンクリートを吹付け、あるいは打設して形成した連続法枠工を用いる斜面の保護方法も提案されている。
【0005】
これらの斜面保護方法によれば、斜面全体がコンクリートブロックやコンクリート法枠によって押さえつけられているので、表層の中抜けを抑制することができる。
【0006】
しかし、重量のあるコンクリートブロックを斜面全体に配置すること、あるいは斜面全体に法枠工を施すことは、施工期間の長期化につながり、工費も高いものとなる。
【0007】
そこで、施工期間を短縮した経済的な斜面の保護方法が特許文献1において提案されている。具体的には、特許文献1には、保護すべき斜面に引張り強度の高いワイヤーで製作した金網を展設し、この金網の上面から平面視略8角形の受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し、これらの受圧板配置箇所に相当して斜面に固設されるアンカーを用いて小型の受圧板を地山に対して固定する斜面保護方法が開示されている。
【0008】
この斜面保護方法によれば、金網が小型の受圧板によって斜面に押さえ付けられ、保護すべき斜面の凹凸により的確に追従して設置されることでこの金網によって斜面の表層すべりが未然に防止されるとともに、斜面が金網によって隙間なく押圧されているので、表層の中抜けをも防止することができる。
【0009】
同時に、斜面に対して重量あるコンクリートブロックを設置する必要がなく、あるいは法枠工を施す必要もないので、施工期間が従来よりも短縮され、経済的である。
【0010】
特許文献2には、この受圧板の裏面(斜面側の面)に小突起を設けることが提案されている(特許文献2の
図6参照)。この小突起によれば、受圧板に対する金網の滑り移動を抑制することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1の受圧板によれば、金網は斜面と受圧板とによって挟み込まれ、且つアンカーが網目内に挿通していることで、その金網の面広がり方向への移動が抑制されている。
【0013】
しかしながら、斜面から金網に対して面広がり方向への大きな力が作用した場合には、受圧板下部において金網が変形しつつ位置ズレし、アンカーの側部に当接する金網の網目部位(多くの場合、網目の角部である)に応力が集中し、当該部位において金網が破断するおそれがある。
【0014】
特許文献2には、受圧板の裏面に設けた小突起が網体の網目に係合し、網体の滑り移動を防止することが開示されているが、突起部と網体の位置関係が特定されていない。したがって、金網の位置ズレ・変形に起因してアンカーとの当接部位となる金網の網目部位への応力集中を解消しうるか否かが開示されておらず、当該部位における金網の破断が抑制できるか否かは何ら示唆されていない。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、受圧板下部においてアンカーの側部に当接する網状体の網目部位への応力集中による網状体の破断を抑制しうる受圧板及びこの受圧板を用いた斜面保護システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための発明は、略多角形状の網目を有し、地山の斜面に展設されて該斜面を保護する網状体の上方から、該斜面に点在して設置されたアンカーに取り付けられて前記網状体を斜面側に押圧する受圧板において、一方の面から突出し、前記アンカーへの取付け状態で前記網状体の少なくとも前記アンカーが挿通される網目とは別の
複数の網目内に挿通され
る複数の突起部を有し、且つ該突起部の側部は、前記アンカーへの取付け上体で少なくとも前記網目の斜面最上部及び前記網目の斜面最下部の双方に近接することを特徴とする。
【0017】
斜面に展設された網状体における受圧板下部の領域では、斜面の傾斜方向上方及び下方に強い引張り力が作用する。したがって、網状体の面広がり方向のうち傾斜方向上方に網状体が引っ張られた場合には、アンカーが挿通する網目における斜面最下部にアンカーに対する応力が集中する。また、網状体の面広がり方向のうち傾斜方向下方に網状体が引っ張られた場合には、アンカーが挿通する網目の斜面最上部にアンカーに対する応力が集中する。
【0018】
この構成によれば、受圧板がアンカーに取り付けられた状態で、突起部が斜面に展設された網状体の網目内に挿通されており、その状態で突起部が少なくとも網目の斜面最上部及び斜面最下部に近接しているので、斜面傾斜方向下方に網状体が引っ張られたときには、挿通している網目の斜面最上部に近接する突起部の側部及びアンカーが網状体にそれぞれ当接して網状体に作用する応力が分散され、アンカーと網状体との当接部位における網状体の破れのおそれが低減する。
【0019】
同様に、斜面傾斜方向上方に網状体が引っ張られたときには、挿通している網目の斜面最下部に近接する突起部の側部及びアンカーが網状体にそれぞれ当接して網状体に作用する応力が分散され、アンカーと網状体との当接部位における網状体の破れのおそれが低減する。
【0020】
また、前記突起部が近接する前記斜面最上部及び斜面最下部は、前記網目の角部であることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、斜面の傾斜方向上方又は下方に網状体が引っ張られた場合、網目の角部は鋭角になりつつ変形するので近接する突起部は当該角部で当接して確実に受け止められる。よって、アンカーとの当接部位において網状体に発生する応力をより確実に分散させることができ、アンカーと網状体との当接部位における網状体の破れのおそれをより確実に低減させることができる。
【0022】
また、前記突起部は、前記アンカーへの取付け状態で、少なくとも1個の前記網目の各角部に近接することを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、少なくとも1個の網目の各角部に突起部が近接していることで、アンカーとの当接部位において網状体に発生する応力をさらに分散させることができる。また、突起部が挿通させる網目においては各角部に突起部が近接することでその網目付近の網状体の変形が拘束されているので、この変形に起因する網状体の位置ズレも抑制されている。
【0024】
また、前記突起部は複数設けられ、前記アンカーへの取付け状態で、前記押圧される全ての網目の各角部に近接することを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、受圧板下に位置する網状体の全ての網目の各角部に突起部の側部が近接しているので、網状体の傾斜方向上方及び下方に強い引張力が作用した場合、アンカーが挿通する網目だけでなく各網目の各角部に応力がもれなく分散され、網状体の破れの虞が大きく低減している。
【0026】
そのうえ、受圧板下に位置する網状体の全ての網目の各角部に突起部の側部が近接しているので、受圧板下における網状体の変形がほぼ完全に拘束され、この変形に起因する網状体の位置ズレを大きく抑制することができる。
【0027】
また、前記突起部は、前記突起部の前記挿通される部分の水平断面形状が前記網目形状と略相似であり、且つ該挿通状態で前記突起部の側部が前記網目の各辺に近接する大きさであることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、保護すべき斜面から網状体に対してその面広がり方向に強力な引張力が作用した場合、挿通している網目に近接する突起部の側部及びアンカーが網状体にそれぞれ当接して応力が分散され、アンカーと網状体との当接部位における網状体の破れの虞が低減する。
【0029】
同時に、突起部が挿通する網目付近の網状体の変形が拘束されているので、この変形に起因する網状体の位置ズレも抑制されている。
【0030】
また、前記突起部は前記押圧される全ての網目に挿通される本数設けられたことを特徴とする。
【0031】
この構成によれば、押圧される全ての網目に挿通される突起部部分の水平断面形状が網目形状と略相似であり、且つ挿通状態で突起部の側部が網目の各辺に近接する大きさであるから、網状体の傾斜方向上方及び下方に強い引張力が作用した場合、アンカーが挿通する網目だけでなく突起部が挿通する各網目に応力がもれなく分散され、網状体の破れの虞が大きく低減している。
【0032】
そのうえ、受圧板下における網状体の変形がほぼ完全に拘束され、この変形に起因する網状体の位置ズレを大きく抑制することができる。
【0033】
また、地山の斜面に点在させて設置されたアンカーと、略多角形状の網目を有し、前記斜面上に展設されて該斜面を保護する網状体と、該網状体の上方から前記アンカーに取り付けられて前記網状体を斜面側に押圧する受圧板と、を有する斜面保護システムにおいて、前記受圧板は、一方の面から突出して前記網状体の少なくとも前記アンカーが挿通される網目とは別の
複数の網目内に挿通され
る複数の突起部を有し、且つ該突起部の側部は、少なくとも前記網目の斜面最上部及び前記網目の斜面最下部の双方に近接することを特徴とする。
【0034】
この斜面保護システムによれば、斜面に展設された網状体全体に亘って突起部による網状体への応力分散、及びこれに起因する網状体の破れ抑制効果が維持することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、受圧板下における網状体の破れの虞が抑制される。これにより、網状体の破れ及び該破れ部位から中抜けを未然に防止できると共に、斜面に展設された網状体のメンテナンスの頻度を低下させることができ、経済的である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、本発明の実施の形態について図に基づいて詳細に説明する。地山の斜面保護に用いられる網状体を斜面側に押圧する受圧板及びこの受圧板を用いた斜面保護システムを、
図1〜6を参照して説明する。
図1は本実施の形態に係る受圧板の説明図、
図2は網状体を構成するワイヤーの説明図、
図3は網状体の平面図、
図4はアンカーが設置された斜面に網状体が展設された状態を説明するための図、
図5はアンカーに受圧板が取り付けられた状態を示す図及び
図6は
図5のVI−VI線断面図である。
【0038】
図1に示すように、受圧板10は、平面視で横長六角形状の板材の左右両端部の角を丸めた形状をとる本体部12を有しており、本体部12の略中央部にはアンカー18を挿通させるための挿通孔14が設けられている。同図(A)に示す受圧板10の図示横方向の長さは、200mm〜500mm程度であり、受圧板10の図示縦方向の長さは、200mm〜300mm程度である。受圧板10の厚さは、約10mm〜20mmである。
【0039】
本体部12の角部12a、12b、12c及び12d近傍における下面12eには、下方に突出する円柱状の突起部16a、16b、16c及び16dがそれぞれ設けられている。突起部12a〜12dの長さは、後述する
図2(C)に示す間隔Iと同程度の長さであり、一般に10mm〜30mmの範囲である。なお、下方とは、受圧板10の本体部12が斜面B(
図4参照)に固定されたアンカー18に取り付けられた状態における斜面方向(D矢視方向)を指し、上方とは、斜面から離反する方向(U矢視方向)を指す。
【0040】
網状体20は、引張り強度の高いワイヤーで構成されている。具体的に好ましいものは、硬鋼製のワイヤー、特に、JIS G 3506に規定される硬鋼線材から作製されたワイヤー、例えば、硬鋼線(JIS G 3521)、亜鉛めっき鋼線(JIS G 3548)等である。ワイヤー22は、素線引張強度800N/mm
2〜2,000N/mm
2の範囲のものが用いられ、好ましくは、1,000N/mm
2〜2,000N/mm
2の範囲のものが用いられる。ワイヤー22を構成する硬鋼線の直径φは、2.6mm〜4.0mmの範囲であり、3mm以上のものが好ましい。ワイヤー22には防食処理が施されていることが好ましく、有利な防食処理としては、硬鋼線の表面に先ずZn/Alメッキを施し、その上に飽和ポリエステル(PET)の被覆を設ける方法が挙げられる。しかしながら、他の防食処理も適用可能である。
【0041】
ワイヤー22は、
図2(A)に示すように、平面的に見て鋭角のジグザグ状に、同図(B)に示すように、伸長方向に向かって螺旋状に形成されている。すなわち、ほぼ直線状の直線部22aと直線部22bとがそれらの間の屈曲部22cによって上述の螺旋状になるように形成されている。
【0042】
直線部22aと直線部22bとが成す鋭角的角度は、
図2(A)に示すように、平面視で30〜50°であることが好ましい。また、同図(C)に示すように、直線部22aと直線部22bとの間の高さ方向の間隔Iはワイヤー太さの3倍もしくはそれ以上となっていることが好ましい。
【0043】
上記のように折曲されたワイヤー22は、各ワイヤー22の屈曲部22cにおいて連結され、
図3に示すように、辺20a、20b、20c及び20dからなる菱形の網目を有する菱形金網(網状体20)となされる。
【0044】
菱形の網目の大きさは、長い方の対角線の長さが40mm〜150mmの範囲であり、短い方の対角線の長さが40mm〜80mmの範囲である。
【0045】
アンカー18は、棒状乃至ワイヤー状の長尺部材であって、基部18aが後述する地山の深層G1まで到達した状態で頭部18bが斜面上に突出する長さを有する(
図4参照)。具体的には、当該アンカー18は、直径φが16mm〜32mmの異形棒鋼であり、頭部18bは雌ネジが切られており、キャップナット24(
図5参照)が取り付けられる。
【0046】
アンカー18は、ロックボルトやグラウンドアンカー工法に用いられるグラウンドアンカーが該当する。本実施の形態では、アンカー18としてロックボルトを採用している。
【0047】
次に、斜面Bにおける本実施の形態にかかる受圧板10の使用状態ともいうべき、この受圧板10を使用する斜面保護システム100による斜面保護を説明する。
【0048】
図4には、地山の岩盤等の安定化地層(深層)G1及び深層G1上の風化した不安定層(表層)G2の斜面に沿った断層が示されている。地山の表層G2の層の厚さは、一般に1m〜3m程度である。これら表層G2と深層G1との間にはすべり面Sがあり、表層G2はこのすべり面Sに沿って崩落し、崩落方向にある道路、鉄道、建築物などに被害を及ぼす虞がある。
【0049】
本実施の形態によれば、地山表層G2のすべり発生を防止するために、先ずアンカー18が斜面Bに固定される。アンカー18は、斜面Bに所定間隔を置いて穿設されたアンカー孔26に挿入された後に、セメントミルク19が当該アンカー孔26に注入され、前記アンカー18が斜面Bに固定される。アンカー孔26の直径φは、50mm〜60mmの範囲である。この状態において、アンカーの基部18aは深層G1に固定されている。アンカー18の頭部18bは地表に露出せしめられた状態で維持されている。
【0050】
次に、このアンカー18が点在する斜面上に、網状体20が展設される。網状体20は、アンカー18が点在する斜面上に広げられ、網状体20の面広がり方向(斜面に沿った方向)への張力が加えられ、
図4に示すように、斜面Bの凹凸の凸部に網状体20の斜面側の面が接触するように配置される。
【0051】
なお、網状体20は、
図3に示すように、辺20a及び辺20bの間の屈曲部22cを斜面Bの傾斜方向上方(H矢視方向)となるように、辺20c及び辺20bの間の屈曲部22cを斜面Bの傾斜方向下方(L矢視方向)となるように配置される。
【0052】
次に、網状体20の上方からアンカー18に受圧板10を取り付ける。アンカー18への受圧板10の取り付けは、受圧板10の本体部12に設けられた挿通孔14にアンカー18の頭部18bを挿通させることにより行う。そして、そのまま受圧板10を網状体20ごと斜面方向に押下げ、
図5に示すように、網状体20が斜面に押しつけられた状態でアンカー18の頭部18bにキャップナット24を螺入させ、受圧板10の本体部12のアンカー18への取付けが終了し、同時に斜面保護システム100が完成する。
【0053】
なお、本実施の形態においては、受圧板10の下方には網状体20以外何も設けられていないが、受圧板10下の網状体20と斜面Bとの間に、下敷材110を設けても良い。下敷材110を、
図12により説明する。
【0054】
図12は、斜面Bと網状体20との間に下敷材110が配置された状態を示す、
図5のA部拡大図に相当する図である。図示のように、凹凸のある斜面Bと網状体20との間に下敷材110が設けられていることで斜面Bの凹凸がこの下敷材110によって吸収されている。したがって、斜面Bの凹凸に関わらず網状体20の高さ方向の間隔Iを一定に保つことができ、網目内に確実に突起部16を挿通させることが可能となる。
【0055】
下敷材110は、FRPやゴム等からなる板材であって、厚さは約10mm〜20mm程度である。さらに、下敷材110は、植物繊維製織物、化学材料製不織布等の材料によって製造される袋体(図示はしないが、受圧板10よりも若干大きめのものである。)を設け、この袋体内に一時的流動性のある注入材、例えばセメントミルクを注入し、この注入材を固化させるようにしてもよい。袋体、注入材の具体例は特開2000−80658号公報に記載されている。
【0056】
図6は、
図5のVI−VI線断面図であり、斜面保護システム100における受圧板10を、網状体20の下側(すなわち、斜面側)から見た図である。図示のように、受圧板10の本体部12によって網状体20は斜面Bに押し付けられている。同図では、本体部12の下方に位置する網目群を黒く塗りつぶして示す。
【0057】
各突起部16a、16b、16c及び16dは、菱形の網目を構成するワイヤー22の屈曲部22c近傍において直線状部22a及び直線上部22bにそれぞれ接触して網目内に挿通されている。
【0058】
すなわち、本体部12の下方に位置する黒塗りで示された網目群の範囲内で、4個の突起部16a〜16dのうち2個の突起部16a及び16bの側部が、それぞれ挿通している網目における斜面最上部の角部23aに接触している。また、4個の突起部16a〜16dのうち残りの2個の突起部16c及び16dの側部が、それぞれ挿通している網目における斜面最下部の角部23bに接触している。
【0059】
よって、網状体20が斜面傾斜方向下方(L矢視方向)に強く引っ張られた時は、網状体20は網目形状を斜面の傾斜上下方向に長く変形させつつ突起部16a、16bの側部及びアンカー18が網状体20に合計3箇所(それぞれ、角部23a、23a及びアンカー18が挿通する網目の角部23a)で当接して応力が分散され、アンカー18が当接する網目の角部23aにおける網状体20の破れの虞が低減する。
【0060】
同様に、網状体20が斜面傾斜方向上方(H矢視方向)に強く引っ張られた時は、網状体20は網目形状を斜面の傾斜上下方向に長く変形させつつ突起部16c、16dの側部及びアンカー18が網状体20に合計3箇所(それぞれ、角部23b、23b及びアンカー18が挿通する網目の角部23b)で当接して応力が分散され、アンカー18が当接する網目の角部23bにおける網状体20の破れの虞が低減する。
【0061】
そのうえ、突起部16a及び16bが接触する斜面最上部は網目の角部23aであり、突起部16c及び16dが接触する斜面最下部は網目の角部23bであるから、斜面Bの傾斜方向上方(H矢視方向)及び下方(L矢視方向)に網状体20が引っ張られた場合、網目の角部23a及び23bは鋭角に変形するので突起部16a〜16dはこれらの角部から位置ズレせず、当該角部において突起部16a〜16dから作用する力が確実に受け止められる。よって、アンカー18との当接部位において網状体20に発生する応力を上記角部23a及び23bに確実に分散させることができ、アンカー18と網状体20との当接部位における網状体20の破れの虞をより確実に低減させることができる。
【0062】
また、本実施の形態に係る斜面保護システム100によれば、斜面Bに展設された網状体20全体に亘って突起部16a〜16dによる網状体20への応力分散効果、及びこの応力分散効果に起因する網状体20の破れ抑制効果を維持することが可能となる。
【0063】
なお、本実施の形態においては、受圧板10の裏面に4個の突起部16a、16b、16c及び16dが設けられているが、本発明としては突起部の組み合わせとして上記突起部16a及び16bのうち少なくとも1個の突起部と、上記突起部16c及び16dのうち少なくとも1個の突起部と、が存在することで、網状体20の破れ抑制効果を発揮させることが可能である。
【0064】
また、本実施の形態では、突起部16を、本体部12の角部12a、12b、12c及び12d近傍において下面12eにそれぞれ設ける構成として例示したが、これに限定されるものではなく種々の変形が可能である。
【0065】
以下に、突起部の第1変形例を、
図7に基づいて説明する。
図7において上述の
図1〜
図6に示した実施の形態と同様の要素には、同一の符号を付しその説明を省略する。
図7は、突起部の第1変形例を説明するための、
図5のVI−VI線断面図に対応する図である。
【0066】
図示のように、受圧板10の本体部12の下面12eに、角部12a〜角部12d間の位置で四角筒状の突起部50aが、角部12b〜角部12c間の位置で四角筒状の突起部50bが、それぞれ設けられている。
【0067】
突起部50a及び突起部50bがそれぞれ1個の網目に挿通する部分の水平断面における断面形状は、網目形状と略相似の菱形であり、且つ挿通状態で突起部50a及び50bは1個の網目の辺20a、20b、20c及び20dに近接する大きさであり、当該1個の網目の各辺20a〜20dと突起部50との間には僅かな隙間が存在するのみの状態となっている。
【0068】
この構成によれば、斜面Bから網状体20に対してその面広がり方向のどの方向に強力な引張力が作用した場合でも、挿通している網目に近接する突起部50a及び50bの側部が速やかに挿通する網目の辺20a〜20dや網目の角部に当接して網状体20に作用する応力が分散される。よって、網状体20がアンカー18との当接部位で破れる虞が低減している。
【0069】
同時に、突起部50a及び50bが挿通する網目付近の網状体20の変形が拘束されているので、この変形に起因して網状体20が変形し、この変形により網状体20が位置ズレして網状体20により斜面Bに付与される押圧力が緩和されることが抑制される。
【0070】
なお、本変形例においては、受圧板10の裏面に2個の突起部50a及び突起部50bが設けられているが、本発明としては何れか一方の突起部が存在することでも網状体20に対する応力分散効果、及び網状体20の位置ズレ抑制効果を発揮させることが可能である。
【0071】
次に、突起部の第2変形例を、
図8に基づいて説明する。
図8において
図1〜
図6に示した実施の形態と同様の要素には、同一の符号を付しその説明を省略する。
図8は、突起部の第2変形例を説明するための、
図5のVI−VI線断面図に対応する図である。図示のように、受圧板10の本体部12の下面12eに、角部12a〜角部12d間の位置で断面視略十字形状の柱状体の突起部60が設けられている。また、受圧板10の本体部12の下面12eに、突起部16b及び突起部16cと同じ位置・形状で突起部62a、62bがそれぞれ設けられており、突起部62a及び62bの中間位置であってやや角丸端部側の位置及びやや挿通孔14側の位置に突起部62a及び62bと同形状の突起部62c及び62dが、それぞれ設けられている。
【0072】
断面視十字形状の突起部60の突出する側端部60aは、ワイヤー22の屈曲部22c近傍に位置して辺20a及び辺20b間の角部23aに、突出する側端部60bは、ワイヤー22の屈曲部22c近傍に位置して辺20b及び辺20c間の角部23cに、それぞれ接触する。さらに、突起部60の突出する側端部60cは、辺20c及び辺20d間の角部23bに、突出する側端部60dは、辺20d及び辺20a間の角部23dに、それぞれ接触する。
【0073】
また、突起部62aは、その側部がワイヤー22の屈曲部22c近傍に位置して辺20a及び辺20b間の角部23aに、突起部62cは、その側部が辺20b及び辺20c間の角部23cにそれぞれ接触する。さらに、突起部62bは、その側部がワイヤー22の屈曲部22c近傍に位置して辺20c及び辺20d間の角部23bに、突起部62dは、その側部が辺20d及び辺20a間の角部23dに、それぞれ接触する。
【0074】
したがって、本変形例によれば、突起部60及び突起部62a〜62dが挿通する網目の各角部23a〜23dに突起部の側部が接触しているので、アンカー18との当接部位において網状体20に発生する応力をさらに分散させることができる。また、突起部60及び突起部62a〜62dが挿通している網目においては各角部23a〜23dに突起部の側部が接触していることでその網目付近の網状体20の変形が拘束されているので、この変形に起因する網状体20の位置ズレも抑制されている。
【0075】
さらに、突起部60を断面視十字形状とし、この突起部60の側端部を菱形状の1個の網目の各角部に近接配置させているので、突起部に用いる素材の使用量を削減しつつ網状態20の変形を拘束することができ、且つ応力分散を実現し、コストダウンに資する設計となっている。
【0076】
また、円柱状の突起部62a、62b、62c及び62dをそれぞれ菱形状の1個の網目内の各角部に近接させているので、突起部に用いる素材の使用量を削減しつつ網状体20の変形を拘束することができ、且つ応力分散を実現し、コストダウンに資する設計となっている。
【0077】
なお、本変形例においては、十字形状の突起部60と円柱状の突起部62a、62b、62c及び62dとをそれぞれ1個の菱形の網目内に設ける構成としているが、両者の存在が必須というわけではない。すなわち、本発明としては十字形状の突起部60と円柱状の突起部62a、62b、62c及び62dのうち、何れか一方の突起部が存在することでも網状体20への応力分散効果及び位置ズレ抑制効果を発揮させることが可能である。
【0078】
次に、突起部の第3変形例を、
図9に基づいて説明する。なお、本変形例では、突起部だけでなく網状体の態様も本実施の形態とは異なる。
図9においても上述の
図1〜
図6に示した実施の形態と同様の要素には、同一の符号を付しその説明を省略する。
図9は、突起部の第3変形例を説明するための、
図5のVI−VI線断面図に対応する図である。図示のように、受圧板10の本体部12の下面12eに、角部12a及び角部12d間におけるやや角部12a寄りの位置で円柱状の突起部70aが、角部12b及び角部12c間におけるやや角部12b寄りの位置で円柱状の突起部70bが、それぞれ設けられている。
【0079】
また、受圧板10の本体部12の下面12eに、角部12b及び角部12c間におけるやや角部12c寄りの位置で円柱状の突起部70cが、角部12a及び角部12d間におけるやや角部12d寄りの位置で円柱状の突起部70dが、それぞれ設けられている。
【0080】
本変形例においては、網状体80としていわゆる亀甲金網を採用している。具体的には、並列に並べたワイヤー22を交互に撚り合わせて六角形の網目を形成した網状体80である。この網状体の網目は、1本のワイヤー22の直線部分となる辺80a、80b、80c及び80d並びに2本のワイヤー22、22の捻り部である辺80e及び80fからなる。
【0081】
突起部70aは、その側部が六角形の網目を構成する辺80a及び80b間の角部81aに接触しつつ網目内に挿通されており、突起部70dは、その側部が六角形の網目を構成する辺80d及び80c間の角部81bに接触しつつ網目内に挿通されている。また、突起部70bは、その側部が六角形の網目を構成する辺80a及び80b間の角部81aに接触しつつ網目内に挿通されており、突起部70cは、その側部が六角形の網目を構成する辺80d及び80c間の角部81bに接触しつつ網目内に挿通されている。
【0082】
したがって、本変形例によれば、網状体80が斜面Bの傾斜方向下方Lに引っ張られたときには、挿通している網目における斜面最上部の角部81aに接触する突起部70a及び70bの側部並びにアンカー18が網状体80にそれぞれ当接して応力が分散され、アンカー18と網状体20との当接部位における網状体80の破れのおそれが低減する。
【0083】
同様に、斜面Bの傾斜方向上方に網状体80が引っ張られたときには、挿通している網目における斜面最下部の角部81bに接触する突起部70d及び70cの側部並びにアンカー18が網状体20にそれぞれ当接して応力が分散され、アンカー18と網状体20との当接部位における網状体80の破れのおそれが低減する。
【0084】
そのうえ、突起部70a及び70bが接触する斜面最上部は網目の角部81aであり、突起部70c及び70dが接触する斜面最下部は網目の角部81bであるから、斜面Bの傾斜方向上方(H矢視方向)及び下方(L矢視方向)に網状体80が引っ張られた場合、網目の角部81a及び81bは鋭角に変形するので突起部70a〜70dはこれらの角部から位置ズレせず、当該角部において突起部70a〜70dから作用する力が確実に受け止められる。よって、アンカー18との当接部位において網状体80に発生する応力を上記角部81a及び81bに確実に分散させることができ、アンカー18と網状体80との当接部位における網状体80の破れの虞をより確実に低減させることができる。
【0085】
なお、本変形例においては、受圧板10の本体部12の下面12eに4個の突起部70a、70b、70c及び70dが設けられているが、本発明としては突起部の組み合わせとして上記突起部70a及び70bのうち少なくとも1個の突起部と、上記突起部70c及び70dのうち少なくとも1個の突起部と、が存在することで、応力分散による網状体の破れ抑制効果を発揮させることが可能である。
【0086】
次に、突起部の第4変形例を、
図10に基づいて説明する。
図10において
図1〜
図6に示した実施の形態と同様の要素には、同一の符号を付しその説明を省略する。
図10は、突起部の第4変形例を説明するための、
図5のVI−VI線断面図に対応する図である。図示のように、受圧板10の本体部12の下面12eには、突起部16aと同じ形状の複数の突起部90が設けられている。これら複数の突起部90は、本体部12の下面12eにおいて、本体部12の下方に位置する黒塗りで示された全ての網目(すなわち、本体部12によって押圧される全ての網目)の各角部に接触するように配置されている。
【0087】
したがって、本変形例によれば、受圧板下に位置する網状体20の全ての網目の各角部に突起部90の側部が接触しているので、網状体20の斜面傾斜方向上方(H矢視方向)及び下方(L矢視方向)に強い引張力が作用した場合、アンカー18が挿通する網目だけでなく各網目の角部に応力がもれなく分散され、網状体20の破れのおそれが大きく低減している。
【0088】
そのうえ、受圧板下に位置する網状体20の全ての網目の各角部に突起部90の側部が接触しているので、受圧板下における網状体20の変形がほぼ完全に拘束され、この変形に起因する網状体20の位置ズレを大きく抑制することができる。
【0089】
さらに、突起部の第5変形例を、
図11に基づいて説明する。
図11において
図1〜
図6に示した実施の形態と同様の要素には、同一の符号を付しその説明を省略する。
図11は、突起部の第5変形例を説明するための、
図5のVI−VI線断面図に対応する図である。図示のように、受圧板10の本体部12の下面12eには、第3変形例と同位置及び同じ側面形状であって、中実(この点において第3変形例とは異なる)の略矩形の水平断面形状を有する突起部120a及び120bが設けられており、突起部120aと120bの間には、これらと同形状の突起部120cが設けられている。尚、突起部120cの中央部には、アンカー18が挿通するための挿通孔14が穿設されている。
【0090】
また、これら突起部120a〜120c以外にも、受圧板10の本体部12の下面12eには、本体部12の下方に位置する黒塗りで示された全ての網目の辺に対して挿通状態で側面が僅かに離間する突起部120d〜120mが設けられている。
【0091】
すなわち、見方を変えれば、突起部120a〜120mによって、本体部12の下方に位置する黒塗りで示された全ての網目の辺が菱形の網目形状を保ったまま嵌り込むことが可能となる溝部122が構成されている。
【0092】
したがって、本変形例によれば、受圧板下において押圧される全ての網目に挿通される突起部部分の水平断面形状が網目形状と略相似であり、且つ挿通状態で突起部120a〜120mの側部が網目の各辺に近接する大きさであるから、網状体20の傾斜方向上方(H矢視方向)及び下方(L矢視方向)に強い引張力が作用した場合、アンカー18が挿通する網目だけでなく突起部120a〜120mが挿通する各網目の各辺及び各角部に応力がもれなく分散され、網状体20の破れの虞が大きく低減している。
【0093】
そのうえ、受圧板下における網状体20の変形がほぼ完全に拘束され、この変形に起因する網状体20の位置ズレを大きく抑制することができる。
【0094】
また、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0095】
本実施の形態においては、受圧板10の本体部12を、平面視で横長六角形状の板材の左右両端部の角を丸めた形状として例示したが、この形状に限られるものではない。例えば、平面視で円形、楕円形、四角形、十字形状等、様々な形状をとることが可能である。本実施の形態においては受圧板の材質を示していないが、金属製の受圧板、例えば、鋼鉄製や鋳鉄製のものを用いることができる。