特許第6517059号(P6517059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6517059
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20190513BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20190513BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
   C09D11/38
   B41M5/00 100
   B41J2/01 501
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-64441(P2015-64441)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-193837(P2015-193837A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2018年1月31日
(31)【優先権主張番号】特願2014-64924(P2014-64924)
(32)【優先日】2014年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直也
(72)【発明者】
【氏名】川口 幸治
(72)【発明者】
【氏名】荒木 佑介
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−092071(JP,A)
【文献】 特開2010−222418(JP,A)
【文献】 特開平10−306248(JP,A)
【文献】 特開2009−86292(JP,A)
【文献】 特開2012−57043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−13/00
B41J 2/01
B41J 2/165−2/20
B41J 2/21− 2/215
B41M 5/00
B41M 5/50− 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物(A)着色剤(B)及び水を含有するインク組成物であって、水の含有量が、インク組成物の重量を基準として40〜90重量%であるインク組成物
O(AO)X (1)
[式中、Rは炭素数6〜10の脂肪族炭化水素基を表し、AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を表し、mはアルキレンオキシ基の平均付加モル数を表す0〜5の数であり、Xは−表し、Rは炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を表す。]
【請求項2】
一般式(1)において、Rが分岐鎖を有する脂肪族炭化水素基である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記化合物(A)が、アルキル(炭素数6〜10)アルコールアルキレンオキサイド付加物(アルキレンの炭素数2〜4、重合度=1〜5)のメチルエーテルである請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
インクジェット用インク組成物である請求項1〜3いずれかに記載のインク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷業界、製紙業界及び塗料業界においては、近年の環境問題などの点から、インクや塗料の水性化が進みつつある。しかし、水性インク及び水性塗料は、乾燥スピードが遅いため、溶剤系より生産スピードが遅くなる問題がある。
そこで、生産性を向上するために、印刷及び塗工の高速化への対応が余儀なくされている。したがって、高速印刷や高速塗工に適応したインクや紙コート剤の性能向上が要求されている。
【0003】
このような背景から、水性インクや水性塗料業界においては、基材に対する湿潤性、浸透性及び分散性付与のため、表面張力が低いインク組成物が求められている。表面張力の低いインク組成物としては、シリコーン系界面活性剤やフッ素系界面活性剤を用いたインク組成物が提案されている。また、特定のアルコールにアルキレンオキサイドを付加させた非イオン性界面活性剤を用いたインク組成物が提案されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−91624号公報
【特許文献2】特開2011−509334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリコーン系界面活性剤及び特定のアルコールにアルキレンオキサイドを付加させた非イオン性界面活性剤(特許文献1及び2)を用いたインク組成物では、静的表面張力は低いものの、動的表面張力の低下が不十分であり、印刷及びコーティング等の用途では、改善が求められている。またフッ素系界面活性剤を用いたインク組成物では、静的表面張力及び動的表面張力の低下は十分であるものの、安全性の面から使用が控えられている。
本発明は、安全性が高く、幅広い表面寿命における動的表面張力が低く、静的表面張力も低いインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記一般式(1)で表される化合物(A)着色剤(B)及び水を含有するインク組成物であって、水の含有量が、インク組成物の重量を基準として40〜90重量%であるインク組成物である。
O(AO)X (1)
[式中、Rは炭素数6〜10の脂肪族炭化水素基を表し、AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を表し、mはアルキレンオキシ基の平均付加モル数を表す0〜5の数であり、Xは−表し、Rは炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を表す。]
【発明の効果】
【0007】
本発明のインク組成物は、幅広い表面寿命における動的表面張力が低く、静的表面張力が低い。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のインク組成物は、下記一般式(1)で表される化合物(A)及び着色剤(B)を含有するインク組成物である。
O(AO)X (1)
[式中、Rは炭素数6〜10の脂肪族炭化水素基を表し、AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を表し、mはアルキレンオキシ基の平均付加モル数を表す0〜5の数であり、Xは−R又は−CORを表し、Rは炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を表す。]
【0009】
上記一般式(1)におけるRは炭素数6〜10の脂肪族炭化水素基であり、直鎖脂肪族炭化水素基又は分岐脂肪族炭化水素基でもよく、飽和脂肪族炭化水素基又は不飽和脂肪族炭化水素基でもよい。
分岐脂肪族炭化水素において、分岐の位置はいずれの位置でもよく、分岐の数に特に制限はない。
不飽和脂肪族炭化水素において、二重結合の位置はいずれの位置でもよく、二重結合の数に特に制限はない。
としては、直鎖を有する脂肪族炭化水素基(直鎖アルキル基及び直鎖アルケニル基)、分岐鎖を有する脂肪族炭化水素基(炭素数1〜3の分岐鎖を1〜4本有する分岐炭化水素基が含まれ、分岐アルキル基及び分岐アルケニル基が含まれる)が含まれる。
直鎖アルキル基としては、炭素数6〜10の直鎖アルキル基が含まれ、具体的には、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基及びデシル基等が挙げられる。
直鎖アルケニル基としては、炭素数6〜10の不飽和結合を1〜5個有する直鎖アルケニル基が含まれ、具体的には、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基及びデセニル基等が挙げられる。
分岐アルキル基としては、炭素数1〜3の分岐鎖を1〜6本有する炭素数6〜10の分岐アルキル基が含まれ、具体的には、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、2−エチルヘキシル基、4,6−ジメチルオクチル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基及び2,4,6−トリメチルヘプチル等が挙げられる。
分岐アルケニル基としては、炭素数1〜3の分岐鎖を1〜6本有する炭素数6〜10の分岐アルケニル基が含まれ、具体的には、イソヘキセニル基、イソヘプテニル基、イソオクテニル基、イソノネニル基、イソデセニル基、2−エチルヘキセニル基、4,6−ジメチルオクテニル基、3,5,5−トリメチルヘキセニル基及び2,4,6−トリメチルヘプテニル基等が挙げられる。
【0010】
としては、動的表面張力の観点から、分岐鎖を有する脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくは炭素数1〜3の分岐鎖を1〜6本有する分岐アルキル基であり、特に好ましくは2−エチルヘキシル基及び3,5,5−トリメチルヘキシル基である。
【0011】
上記一般式(1)におけるAOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基であり、具体的にはエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基及びブチレンオキシ基等が挙げられる。
AOとしては、動的表面張力の観点から、エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基が好ましい。
【0012】
上記一般式(1)におけるmはアルキレンオキシ基の平均付加モル数を表す0〜5の数であり、整数であるとは限らない。
mとしては、動的表面張力の観点から、0〜4が好ましく、さらに好ましくは0〜3の数である。
(AO)は、1種のアルキレンオキシ基が付加したものでもよく、2種以上のアルキレンオキシ基が付加したものでもよい。また、2種以上が付加したものである場合、ランダム付加でもブロック付加でもよい。
【0013】
上記一般式(1)におけるXは、−R又は−CORを表し、Rは炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基である。
としては、直鎖又は分岐でもよく、飽和でも不飽和でもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、エチレン基、ビニル基及びプロペニル基等が挙げられる。
としては、動的表面張力の観点から、メチル基が好ましい。
Xとしては、動的表面張力の観点から、−Rが好ましい。
【0014】
一般式(1)で表される化合物(A)として、具体的には、アルキル(炭素数6〜10)アルコールの酢酸エステル、アルキル(炭素数6〜10)アルコールアルキレンオキサイド付加物(アルキレンの炭素数2〜4、重合度=1〜5)の酢酸エステル、アルキル(炭素数6〜10)アルコールのプロピオン酸エステル、アルキル(炭素数6〜10)アルコールアルキレンオキサイド付加物(アルキレンの炭素数2〜4、重合度=1〜5)のプロピオン酸エステル、アルキル(炭素数6〜10)アルコールのメチルエーテル、アルキル(炭素数6〜10)アルコールアルキレンオキサイド付加物(アルキレンの炭素数2〜4、重合度=1〜5)のメチルエーテル、アルキル(炭素数6〜10)アルコールのエチルエーテル及びアルキル(炭素数6〜10)アルコールのプロピルエーテル等が挙げられる。
(A)としては、動的表面張力の観点から、アルキル(炭素数6〜10)アルコールアルキレンオキサイド付加物(アルキレンの炭素数2〜4、重合度=1〜5)のメチルエーテルが好ましく、さらに好ましくは3,5,5−トリメチルヘキサノールのアルキレンオキサイド付加物のメチルエーテル、さらに好ましくは3,5,5−トリメチルヘキサノールEO付加物(重合度=1〜5)のメチルエーテル又は3,5,5−トリメチルヘキサノールPO付加物(重合度=1〜5)のメチルエーテルである。
【0015】
本発明における化合物(A)は炭素数6〜10の脂肪族アルコール(a)に炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(D)を付加し、さらに炭素数2〜4のモノカルボン酸(b)をエステル化する、炭素数4〜10の酸無水物(b’)をエステル化する又は炭素数1〜3のアルキルクロライド(c)をエーテル化することによって得られる。炭素数6〜10の脂肪族アルコール(a)としては、直鎖または分岐の鎖式脂肪族炭化水素基を有するアルコールが挙げられる。
【0016】
(a)として、具体的には、ヘキシルアルコール、イソヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、イソヘプチルアルコール、オクチルアルコール、イソオクチルアルコール、2−エチルヘキサノール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、3,5,5−トリメチルヘキサノール、2,4,6−トリメチルヘプタノール、デシルアルコール、イソデシルアルコール、ヘキセニルアルコール、ヘプテニルアルコール、オクテニルアルコール、ノネニルアルコール、デセニルアルコール等が挙げられる。
(a)としては、動的表面張力低下能の観点から、炭素数6〜10の分岐脂肪族アルコールが好ましく、さらに好ましくは、炭素数1〜3の分岐鎖を1〜6本有する炭素数7〜10の分岐脂肪族アルコールである。
炭素数が6未満の脂肪族アルコールでは、界面活性能が低下するため、好ましくない。また、炭素数が10を越える脂肪族アルコールでは静的表面張力は低下するものの、短い表面寿命での動的表面張力低下能が低いため、好ましくない。
【0017】
炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(D)は、具体的にはエチレンオキサイド(以下、EOと記載することがある)、プロピレンオキサイド(以下、POと記載することがある)及びブチレンオキサイド(以下、BOと記載することがある)等が挙げられる。
【0018】
炭素数2〜4のモノカルボン酸(b)としては、酢酸、プロピオン酸及び酪酸等が挙げられる。
【0019】
炭素数4〜10の酸無水物(b’)としては、酢酸無水物、プロピオン酸無水物及び酪酸無水物等が挙げられる。
【0020】
炭素数1〜3のアルキルクロライド(c)としては、メチルクロライド、エチルクロライド及びプロピルクロライド等が挙げられる。
【0021】
化合物(A)は、炭素数6〜10の脂肪族アルコール(a)に炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(D)を付加したもの又は炭素数6〜10の脂肪族アルコール(a)に、炭素数2〜4のモノカルボン酸(b)又は炭素数4〜10の酸無水物(b’)をエステル化する又は炭素数1〜3のアルキルクロライド(c)をエーテル化することができれば制限なく製造できるが、一例を下記に示す。
炭素数6〜10の脂肪族アルコール(a)を加圧反応容器に仕込み、触媒(E)の存在下に炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(D)[脂肪族アルコール(a)1モルに対して1〜10モル]を吹き込み、常圧又は加圧下で反応を行なう。反応性の観点から、反応温度は50〜200℃が好ましく、反応時間は2〜20時間が好ましい。アルキレンオキサイド(D)の付加反応終了後は、触媒を中和し、吸着剤で処理して触媒を除去・精製し、化合物(A1)を得る。
このようにして得られた化合物(A1)又は炭素数6〜10の脂肪族アルコール(a)と炭素数2〜4のモノカルボン酸(b)を反応容器に仕込み、酸触媒(F)存在下、反応温度80〜150℃で4〜12時間脱水反応することで目的の化合物(A)が得られる。
また、化合物(A1)又は炭素数6〜10の脂肪族アルコール(a)と炭素数4〜10の酸無水物(b’)とを反応容器に仕込み、反応温度80℃〜150℃で4〜12時間開環反応することでも目的の化合物(A)が得られる。
また化合物(A1)又は炭素数6〜10の脂肪族アルコール(a)、及び水酸化ナトリウム[化合物(A1)又は(a)1モルに対して1.05モル]を加圧反応容器に仕込み、炭素数1〜3のアルキルクロライド(c)を吹き込み、常圧又は加圧下、反応温度20〜70℃で4〜12時間エーテル化反応することでも目的の化合物(A)が得られる。
【0022】
触媒(E)としては、酸性触媒(E1)及び塩基性触媒(E2)が挙げられる。
酸性触媒(E1)としては、過ハロゲン酸(塩)、硫酸(塩)、燐酸(塩)、硝酸(塩)、パーフルオロアルキルスルホン酸金属塩が挙げられる。塩を形成する場合の金属は、特に限定されるものではないが、後述するWeibullの分布定数の観点から、2価または3価の金属が好ましい。これら金属としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Co、Ni、Cu、Al、Cd、Ti、Hf、Cr、Mo、Mn、Fe、Pd及び希土類原子であり、更に好ましくは、Mg、Zn、Ca、Sr、Ba、Al、Cu、Cd、Ti、Cr、Fe及び希土類原子であり、特に好ましくは、Mg、Zn、Al、Ti、Fe、Scである。
過ハロゲン酸(塩)のハロゲンとしては塩素、臭素、沃素が挙げられ、Weibullの分布定数の観点から、塩素が好ましい。
パーフルオロアルキルスルホン酸金属塩としてはトリフルオロメタンスルホン酸塩、ペンタフルオロエタンスルホン酸塩が好ましい。
【0023】
酸性触媒(E1)として好ましくは、2価もしくは3価の金属の過塩素酸塩及びパーフルオロアルキルスルホン酸金属塩であり、さらに好ましくは、Mg、ZnおよびAlから選ばれる金属の過塩素酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、ペンタフルオロエタンスルホン酸塩であり、特に好ましくは、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸亜鉛、過塩素酸アルミニウム及びスカンジウムトリフラートである。
酸性触媒(E1)の使用量としては、反応速度と経済性の点から、脂肪族アルコール(a)の重量に基づいて、0.001〜1重量%が好ましい。さらに好ましくは0.003〜0.8重量%、特に好ましくは0.005〜0.5重量%である。
【0024】
塩基性触媒(E2)としてはアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム等)の水酸化物並びにアルコキシド(メトキシド、エトキシド、プロポキシド及びブトキシド等)、3級アミン(トリエチルアミン、トリメチルアミン等)、4級アンモニウム塩(テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド等)が挙げられ、好ましくは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウムである。
塩基性触媒(E2)の使用量としては、反応速度と経済性の点から、脂肪族アルコール(a)の重量に基づいて、0.0001〜1重量%が好ましい。さらに好ましくは0.001〜0.5重量%である。
【0025】
酸触媒(F)としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等が挙げられる。
酸触媒(F)の使用量としては、化合物(A1)又は脂肪族アルコール(a)の重量に基づいて、0.001〜1重量%が好ましい。
【0026】
着色剤(B)としては、従来、塗料及びインク等に使用されている無機顔料及び有機顔料等の顔料並びに染料が使用できる。
【0027】
無機顔料としては、黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミウムレッド、酸化チタン、亜鉛華、ベンガラ、アルミナ、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイト及びチタンブラック等が挙げられる。
【0028】
有機顔料としては、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系アニリド系、アセト酢酸アニリド系、ピラゾロン系等の溶性アゾ顔料、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系、β−オキシナフトエ酸系アニリド系、アセト酢酸アニリド系モノアゾ、アセト酢酸アニリド系ジスアゾ、ピラゾロン系等の不溶性アゾ顔料、銅フタロシニンブルー、ハロゲン化銅フタロシアニンブルー、スルホン化銅フタロシアニンブルー、金属フリーフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、イソシンドリノン系、キナクリドン系、ジオキサンジン系、ペリノン系及びペリレン系等の多環式又は複素環式化合物が挙げられる。
【0029】
染料の具体例として、イエロー染料としては、カップリング成分として、フェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピラゾロン類、ピリドン類若しくは開鎖型活性メチレン化合物類を有するアリール又はヘテリルアゾ染料、カップリング成分として、開鎖型活性メチレン化合物を有するアゾメチン染料、ベンジリデン染料及びモノメチンオキソノール染料等のメチン染料、ナフトキノン染料及びアントラキノン染料等のキノン系染料等、キノフタロン染料、ニトロ、ニトロソ染料、アクリジン染料並びにアクリジノン染料等が挙げ
られる。
【0030】
マゼンタ染料としては、カップリング成分として、フェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピラゾロン類、ピリドン類、ピラゾロトリアゾール類、閉環型活性メチレン化合物類若しくはヘテロ環(ピロール、イミダゾール、チオフェン及びチアゾール誘導体等)を有するアリール又はヘテリルアゾ染料、カップリング成分として、ピラゾロン類又はピラゾロトリアゾール類を有するアゾメチン染料、アリーリデン染料、スチリル染料、メロシアニン染料及びオキソノール染料等のメチン染料、ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料及びキサンテン染料等のカルボニウム染料、ナフトキノン、アントラキノン及びアントラピリドン等のキノン系染料並びにジオキサジン染料等の縮合多環系染料等が挙げられる。
【0031】
シアン染料としては、インドアニリン染料及びインドフェノール染料等のアゾメチン染料、シアニン染料、オキソノール染料及びメロシアニン染料等のポリメチン染料、ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料及びキサンテン染料等のカルボニウム染料、フタロシアニン染料、アントラキノン染料、カップリング成分として、フェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピロロピリミジノン若しくはピロロトリアジノン誘導体を有するアリール又はヘテリルアゾ染料並びにインジゴ・チオインジゴ染料が挙げられる。
【0032】
着色剤(B)の粒子径は、平均粒子径として0.01μm〜2.0μmが好ましく、0.01μm〜1.0μmが更に好ましい。
【0033】
本発明のインク組成物における化合物(A)の含有量は、動的表面張力の観点から、インク組成物の重量を基準として、0.05〜5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜3重量%であり、特に好ましくは0.5〜2重量%である。
着色剤(B)の含有量は、画像濃度の観点から、インク組成物の重量を基準として、1〜40重量%が好ましく、さらに好ましくは3〜20重量%であり、特に好ましくは5〜15重量%である。
【0034】
本発明のインク組成物は、化合物(A)及び着色剤(B)以外に、必要により水、顔料分散剤、水溶性有機溶剤、pH調整剤、酸化防止剤及び(A)以外の界面活性剤等を含有することができる。
【0035】
水の含有量は特に限定されるものではないが、顔料の分散安定性の観点から、インク組成物の重量を基準として、40〜90重量%が好ましく、さらに好ましくは50〜80重量%である。
【0036】
顔料分散剤を使用することにより顔料の分散性が向上し、本発明のインク組成物の保存安定性を向上させることができる。顔料分散剤としては、ビックケミー・ジャパン(株)製顔料分散剤(Anti−Terra−U、Disperbyk−101,103、106、110、161、162、164、166、167、168,170、174、182、184又は2020等)、味の素ファインテクノ社製顔料分散剤(アジスパーPB711、PB821、PB814、PN411及びPA111等)及びルーブリゾール社製顔料分散剤(ソルスパーズ5000、12000、32000、33000及び39000等)が挙げられる。
これらの顔料分散剤は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
顔料分散剤の添加量は特に限定されるものではないが、顔料の分散安定性の観点から、インク組成物の重量を基準として、0〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.2〜8重量%である。
【0037】
水溶性有機溶剤としては、グリコールエーテル(エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル及びトリエチレングリコールモノアルキルエーテル等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等)、エステル(エチルアセテート、ブチルアセテート、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート及びプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート等)、アルコール(メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ブタノール等)、ポリオール(グリセリン、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等)等が挙げられる。
水溶性有機溶剤としては、顔料の分散安定性の観点から、グリコールエーテル及びポリオールが好ましい。
これらは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
インク組成物における水溶性有機溶剤の含有量は、動的表面張力の観点から、インク組成物の重量を基準として、1〜60重量%であることが好ましい。
【0038】
pH調整剤としては、コリジン、イミダゾール、燐酸、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン及びほう酸等が挙げられる。
酸化防止剤としては、アロハネート及びメチルアロハネート等のアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット及びテトラメチルビウレット等のビウレット類等、L−アスコルビン酸及びその塩等、BASF社製のTinuvin328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor252、153、Irganox1010、1076、1035、MD1024等並びにランタニドの酸化物等が挙げられる。
【0039】
(A)以外の界面活性剤としては、アニオン界面活性剤(脂肪族塩類、アルキル硫酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等)、カチオン界面活性剤(アルキルアンモニウム塩等)、両性界面活性剤(アルキルアミドベタイン、アルキルアミドスルホベタイン等)、本発明のアルキレンオキサイド付加物(A)以外の非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアセチレングリコールエーテル等)、ポリエーテル変性シリコーン等の他の界面活性剤が配合されてもよい。
【0040】
上記(A)以外の界面活性剤の含有量は、顔料の分散安定性の観点から、インク組成物の重量を基準として、0.2〜5重量%が好ましい。
また、界面活性剤としては、これらの一種を用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0041】
本発明のインク組成物において、表面寿命が100msにおける動的表面張力(25℃)は、印刷速度の観点から、35mN/m以下であることが好ましい。
これにより、記録媒体にインクが着弾した際のインク滴の拡がりがさらに大きくなり、画像濃度を向上させることができる。
【0042】
本発明のインク組成物は、幅広い表面寿命における動的表面張力が低く、静的表面張力も低いため、記録媒体にインクが着弾した際のインク滴の拡がりが大きくなり、画像濃度を向上させることができるので、印刷及びコーティング等の分野等に使用することができる。特に、印刷分野におけるインクジェット用インク組成物として好適に使用することができ、中でも、インクジェット用の水性インクとして特に好適に使用することができる。
【0043】
本発明のインク組成物は、化合物(A)及び着色剤(B)、必要に応じて、顔料分散剤、水溶性有機溶剤、pH調整剤、酸化防止剤及び(A)以外の界面活性剤を分散又は溶解し、さらに必要に応じて攪拌混合することによって製造される。
攪拌混合は、例えば、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシェイカー、超音波分散機等により行うことができ、攪拌羽を用いた攪拌機、マグネチックスターラー、高速の分散機等で行うこともできる。
着色剤(B)は、顔料、顔料分散剤及び水を分散または溶解し、さらに必要に応じて攪拌混合することによって製造された顔料分散液として含有することが好ましい。攪拌混合は、上記インク組成物の製造と同様の方法により行うことができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。尚、実施例1〜7は参考例である。
【0045】
<製造例1>
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ボンベを備えた耐圧反応容器に、3,5,5−トリメチルヘキサノール144部(1モル部)及び水酸化カリウム0.5部(0.009モル部)を投入し、窒素置換後密閉し、70℃に昇温し、1時間減圧下で脱水を行った。130℃に昇温し、EO132部(3モル部)を圧力が0.2MPaG以下になるように調整しながら10時間かけて滴下した後、140℃で5時間熟成した。次いで70℃に冷却後、吸着処理剤[キョーワード600:協和化学工業(株)製]10部を投入し、70℃で1時間撹拌して処理した後、吸着処理剤をろ過して3,5,5−トリメチルヘキサノールEO3モル付加物(A1−1)を得た。
【0046】
<製造例2>
製造例1において、「3,5,5−トリメチルヘキサノール144部」に代えて「デカノール[KHネオケム(株)製]158部(1モル部)」を用いて、「EO132部(3モル部)」に代えて「PO290部(5モル部)」を用いる以外は製造例1と同様にして、デカノールPO5モル付加物(A1−2)を得た。
【0047】
<製造例3>
製造例1において、「3,5,5−トリメチルヘキサノール144部」に代えて「2−エチルヘキサノール130部(1モル部)」を用いて、「EO132部(3モル部)」に代えて「BO72部(1モル部)」を用いる以外は製造例1と同様にして、2−エチルヘキサノールBO1モル付加物(A1−3)を得た。
【0048】
<製造例4>
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ボンベを備えた耐圧反応容器に、3,5,5−トリメチルヘキサノール144部(1モル部)及び水酸化カリウム0.5部(0.009モル部)を投入し、窒素置換後密閉し、70℃に昇温し、1時間減圧下で脱水を行った。130℃に昇温し、PO58部(1モル部)を圧力が0.2MPaG以下になるように調整しながら10時間かけて滴下した後、140℃で5時間熟成した。次いでEO88部(2モル部)を圧力が0.2MPaG以下になるように調整しながら10時間かけて滴下した後、140℃で5時間熟成した。70℃に冷却後、吸着処理剤[キョーワード600:協和化学工業(株)製]10部を投入し、70℃で1時間撹拌して処理した後、吸着処理剤をろ過して3,5,5−トリメチルヘキサノールのPO1モルEO2モル付加物(A1−4)を得た。
【0049】
<製造例5>
製造例1において、「EO132部(3モル部)」に代えて「PO174部(3モル部)」を用いる以外は製造例1と同様にして、3,5,5−トリメチルヘキサノールのPO3モル付加物(A1−5)を得た。
【0050】
<製造例6>
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ロート備えた反応容器に、2−エチルヘキサノール130部(1モル部)を投入し、滴下ロートに酢酸無水物102部(1モル部)を投入した。窒素置換後密閉し、100℃に昇温し、無水酢酸を2時
間かけて滴下し、8時間熟成後、1時間減圧し酢酸60部(1モル部)を留去し、2−エチルヘキサノール酢酸エステル(A−1)を得た。
【0051】
<製造例7>
製造例6において、「2−エチルヘキサノール130部」に代えて「3,5,5−トリメチルヘキサノール144部」を用いる以外は製造例6と同様にして、3,5,5−トリメチルヘキサノール酢酸エステル(A−2)を得た。
【0052】
<製造例8>
製造例6において、「2−エチルヘキサノール130部」に代えて「3,5,5−トリメチルヘキサノールEO3モル付加物(A1−1)276部」を用いる以外は製造例6と同様にして、3,5,5−トリメチルヘキサノールEO3モル付加物の酢酸エステル(A−3)を得た。
【0053】
<製造例9>
製造例6において、「2−エチルヘキサノール130部」に代えて「デカノールPO5モル付加物(A1−2)448部」を用いる以外は製造例6と同様にして、デカノールPO5モル付加物の酢酸エステル(A−4)を得た。
【0054】
<製造例10>
製造例6において、「2−エチルヘキサノール130部」に代えて「2−エチルヘキサノールBO1モル付加物(A1−3)202部」を用いる以外は製造例6と同様にして、2−エチルヘキサノールBO1モル付加物の酢酸エステル(A−5)を得た。
【0055】
<製造例11>
製造例6において、「2−エチルヘキサノール130部」に代えて「3,5,5−トリメチルヘキサノールのPO1モルEO2モル付加物(A1−4)290部」を用いる以外は製造例6と同様にして、3,5,5−トリメチルヘキサノールPO1モルEO2モル付加物の酢酸エステル(A−6)を得た。
【0056】
<製造例12>
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ロート備えた反応容器に、2−エチルヘキサノール130部(1モル部)及びメタンスルホン酸0.5部を投入し、滴下ロートにプロピオン酸74部(1モル部)を投入した。窒素置換後密閉し、100℃に昇温し、プロピオン酸を2時間かけて滴下した。同温度で減圧下で脱水しながら8時間反応後、2−エチルヘキサノールプロピオン酸エステル(A−7)を得た。
【0057】
<製造例13>
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ボンベを備えた耐圧反応容器に、3,5,5−トリメチルヘキサノールEO3モル付加物276部(1モル部)及び水酸化ナトリウム40部(1モル部)を投入し、窒素置換後密閉し、20℃に冷却した。メチルクロライド51部(1モル部)を温度が20℃となるよう調整しながら10時間かけて滴下した後、20℃で10時間熟成した。次いで水を300部投入し、20℃で1時間攪拌し、静置後、分層した上層を回収し、3,5,5−トリメチルヘキサノールEO3モル付加物メチルエーテル(A−8)を得た。
【0058】
<製造例14>
製造例13において、「3,5,5−トリメチルヘキサノールEO3モル付加物276部」に代えて「3,5,5−トリメチルヘキサノールのPO1モルEO2モル付加物(A1−4)290部」を用いる以外は製造例13と同様にして、3,5,5−トリメチルヘキサノールPO1モルEO2モル付加物メチルエーテル(A−9)を得た。
【0059】
<製造例15>
製造例13において、「3,5,5−トリメチルヘキサノールEO3モル付加物276部」に代えて「3,5,5−トリメチルヘキサノールのPO3モル付加物(A1−5)318部」を用いる以外は製造例13と同様にして、3,5,5−トリメチルヘキサノールPO3モル付加物メチルエーテル(A−10)を得た。
【0060】
<製造例16>
[顔料分散液の作製]
カーボンブラック(B−1)30部とβ−ナフトールEO40モル付加物6部、蒸留水164部を混合し、超音波分散機を用いて1時間分散させカーボンブラック15%含有の顔料分散液(P−1)を得た。得られた顔料分散液のカーボンブラック粒子の平均粒子径(D50)を測定したところ、162.1nmであった。なお、平均粒径(D50)の測定は、 レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、LA−750)を用いた。
【0061】
各インク組成物は表1に従って、(A−1)〜(A−10)、(A1−1)、(A’−1)〜(A’−2)、製造例16で得られた顔料分散液、水溶性有機溶剤及び水を配合し、攪拌して均一に混合することで、実施例1〜10のインク組成物(1)〜(10)及び比較例1〜3の比較用のインク組成物(1’)〜(3’)を作製した。
【0062】
【表1】
【0063】
表1中の略号は以下の通りである。
(A’−1):サーフィノール485(日信化学工業(株)製)
(A’−2):KF−643(信越化学工業(株)製)
【0064】
インク組成物(1)〜(10)及び(1’)〜(3’)の動的表面張力及び静的表面張力を測定した。結果を表1に示す。
動的表面張力及び静的表面張力の測定条件は以下の通りである。
【0065】
<動的表面張力測定>
各インク組成物についてKRUSS社製バブルプレッシャー型動的表面張力計BP−2を用いて、25℃における表面寿命が100ms、500msの場合の動的表面張力を測定した。
【0066】
<静的表面張力測定>
各インク組成物について協和界面科学(株)製表面張力計DM−700を用いて、ペンダントドロップ法によって25℃におけるインク組成物の静的表面張力(mN/m)を測定した。
【0067】
表1から明らかなように、実施例1〜10のインク組成物はいずれも比較例1〜3のインク組成物よりも静的表面張力が低い。また、表面寿命が短い100msにおいて非常に低い動的表面張力を示し、表面寿命が500msにおいても非常に低い動的表面張力を示すことから、幅広い表面寿命において、動的表面張力が低いことがわかる。
また、本発明のインク組成物は、幅広い表面寿命において動的表面張力が低く、静的表面張力も低いことから、記録媒体にインクが着弾した際のインク滴の拡がりが大きくなり、画像濃度を向上させることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のインク組成物は、幅広い表面寿命における動的表面張力が低く、静的表面張力も低いので、記録媒体にインクが着弾した際のインク滴の拡がりが大きくなり、画像濃度を向上させることができるので、印刷及びコーティング等の分野等に使用することができる。特に、印刷分野におけるインクジェット用インク組成物として好適に使用することができ、中でも、インクジェット用の水性インクとして特に好適に使用することができる。