特許第6517068号(P6517068)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6517068フッ化ビニリデン系樹脂組成物および成形物ならびにそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6517068
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】フッ化ビニリデン系樹脂組成物および成形物ならびにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20190513BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20190513BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20190513BHJP
   E21B 43/16 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
   C08L27/16
   C08L27/18
   C08L33/06
   E21B43/16
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-77188(P2015-77188)
(22)【出願日】2015年4月3日
(65)【公開番号】特開2016-196584(P2016-196584A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2018年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和元
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 民人
(72)【発明者】
【氏名】日高 知之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康弘
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−329212(JP,A)
【文献】 特開平06−287390(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0055658(US,A1)
【文献】 特表2010−531380(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0189946(US,A1)
【文献】 国際公開第2009/007615(WO,A1)
【文献】 特表2010−531911(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0251331(US,A1)
【文献】 国際公開第2009/001324(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン系重合体とアクリル変性したポリテトラフルオロエチレンである結晶核剤とを含み、
上記結晶核剤は、上記フッ化ビニリデン系重合体100重量部に対して0.1〜3重量部含まれていることを特徴とする、フッ化ビニリデン系樹脂組成物。
【請求項2】
上記フッ化ビニリデン系重合体は、フッ化ビニリデンの単独重合体もしくはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、またはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載のフッ化ビニリデン系樹脂組成物。
【請求項3】
上記フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体は、フッ化ビニリデンモノマー由来のユニットを75重量%以上含むことを特徴とする、請求項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂組成物。
【請求項4】
上記フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体は、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンのモル比が98/2〜80/20であることを特徴とする、請求項またはに記載のフッ化ビニリデン系樹脂組成物。
【請求項5】
上記フッ化ビニリデン系重合体は、溶液粘度が1.0〜2.1dl/gであることを特徴とする、請求項1〜の何れか1項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂組成物。
【請求項6】
フッ化ビニリデン系重合体100重量部と、アクリル変性したポリテトラフルオロエチレンである結晶核剤0.1〜3重量部とを混合する工程を含むことを特徴とする、フッ化ビニリデン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜の何れか1項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂組成物を溶融成形する工程を含むことを特徴とする、フッ化ビニリデン系樹脂成形物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか1項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂組成物からなる海底油田採掘用フレキシブルパイプの部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ化ビニリデン系樹脂組成物および成形物ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン系重合体は、結晶性ポリマーであり、機械的強度の良好なポリマーとして種々の成形物に使用されている。フッ化ビニリデン系重合体の用途の1つとして、海底油田の採掘用パイプの材料がある。この用途において必要とされる物性としては、例えば、柔軟性(低弾性率)、耐薬品性、耐熱性、および低温衝撃強度等が挙げられ、このような物性を向上させる技術が開発されている。特許文献1には、海底油田の採掘用パイプの材料として用いられ得る、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ホモポリマーとフルオロコポリマーとをベースとするポリマー組成物であって、所定量のPVDFホモポリマー、所定量のフッ化ビニリデン(VF)と他のフルオロモノマーとの熱可塑性コポリマー、および所定量の低分子量または高分子量可塑剤を含むポリマー組成物が記載されている。このポリマー組成物では、低温での力学特性が改善されていることが記載されている。
【0003】
当該用途では特に低温における衝撃強度が重要となるが、成形物の衝撃強度は、フッ化ビニリデン系重合体の分子量に大きく依存し、分子量が高いほど衝撃強度は高くなる。しかしながら、分子量が増大すると溶融時の粘度が上昇し、成形機にかかる負荷電流が高くなるため、加工性が著しく低下する。一方、粘度を下げるために加工温度を高温にすると、着色が発生してしまう。そのため、高粘度フッ化ビニリデン系重合体の成形品には、着色を改良するために、溶融時の粘度を下げる効果のある高密度ポリエチレン(HDPE)を内滑剤として添加するのが一般的である。一方で、フッ化ビニリデン系重合体は球晶構造を形成するため、成形の際に球晶が大きく成長すると、成形体の衝撃強度が低下してしまう。このため、溶融成形において球晶サイズが増大しにくく、低温における耐衝撃性に優れるフッ化ビニリデン系樹脂が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−287390号公報(1994年10月11日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、低温における衝撃強度が高いフッ化ビニリデン系樹脂成形物および当該成形物の製造に好適に用いることができるフッ化ビニリデン系樹脂組成物を提供すること等にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、フッ化ビニリデン系重合体にある種の結晶核剤を所定量添加することにより、低温における衝撃強度が改善されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物は、フッ化ビニリデン系重合体とアクリル変性したポリテトラフルオロエチレンである結晶核剤とを含み、上記結晶核剤は、上記フッ化ビニリデン系重合体100重量部に対して0.05〜5重量部含まれていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物において、上記結晶核剤は、上記フッ化ビニリデン系重合体100重量部に対して0.1〜3重量部含まれていることが好ましい。
【0009】
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物において、上記フッ化ビニリデン系重合体は、フッ化ビニリデンの単独重合体もしくはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、またはそれらの混合物であることが好ましい。
【0010】
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物において、上記フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体は、フッ化ビニリデンモノマー由来のユニットを75重量%以上含むことが好ましい。
【0011】
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物において、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンのモル比が98/2〜80/20であることが好ましい。
【0012】
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物において、上記フッ化ビニリデン系重合体は、懸濁重合によって得られたものであることが好ましい。
【0013】
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物において、上記フッ化ビニリデン系重合体は、溶液粘度が1.0〜2.1dl/gであることが好ましい。
【0014】
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物の製造方法は、フッ化ビニリデン系重合体100重量部と、アクリル変性したポリテトラフルオロエチレンである結晶核剤0.05〜5重量部とを混合する工程を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂成形物の製造方法は、上記フッ化ビニリデン系樹脂組成物を溶融成形する工程を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂成形物は、上記フッ化ビニリデン系樹脂成形物の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【0017】
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂成形物は、海底油田採掘用フレキシブルパイプの部品であり得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、低温における衝撃強度が高いフッ化ビニリデン系樹脂成形物および当該成形物の製造に好適に用いることができるフッ化ビニリデン系樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例における、アイゾット衝撃試験の結果を示す図である。
図2】本発明の実施例における、引張り試験の結果を示す図である。
図3】本発明の実施例における、結晶核剤の効果確認の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔フッ化ビニリデン系樹脂組成物〕
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物は、フッ化ビニリデン系重合体とアクリル変性したポリテトラフルオロエチレンである結晶核剤とを含んでおり、結晶核剤はフッ化ビニリデン系重合体100重量部に対して0.05〜5重量部含まれている。
【0021】
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物は、成形した際に、結晶核剤を含まない場合と比較して低温衝撃強度が高い。なお、本発明において、「低温衝撃強度」とは、低温における衝撃強度を指す。ここで、「低温」とは、20℃以下、好ましくは−20℃〜20℃、より好ましくは−10℃〜10℃をいう。また、「衝撃強度」とは、例えば、アイゾット衝撃強度、シャルピー衝撃強度、または落下衝撃強度等であり、特にはアイゾット衝撃強度をいう。
【0022】
(フッ化ビニリデン系重合体)
本発明において、「フッ化ビニリデン系重合体」とは、フッ化ビニリデンモノマーの単独重合体、およびフッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとフッ化ビニリデンモノマーとの共重合体を指す。本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物に含まれるフッ化ビニリデン系重合体は、フッ化ビニリデンモノマーの単独重合体およびフッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとフッ化ビニリデンモノマーとの共重合体の何れであってもよい。また、本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物には、組成および/または平均分子量の異なる2種類以上のフッ化ビニリデン系重合体が含まれていてもよい。フッ化ビニリデン系重合体において、フッ化ビニリデンモノマー由来のユニットは50重量%以上含まれていることが好ましく、85重量%以上含まれていることがより好ましい。
【0023】
フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびパーフルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられるが、必ずしもそれらに限定されるものではない。また、フッ素を含まないモノマーとして、エチレン、マレイン酸モノメチルおよびアリルグリシジルエーテル等も使用可能であるが、必ずしもそれらに限定されるものではない。フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、弾性率および耐薬品性の観点から、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレンおよびパーフルオロアルキルビニルエーテルが好ましく、ヘキサフルオロプロピレンがより好ましい。
【0024】
フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体において、弾性率および耐薬品性の観点から、フッ化ビニリデンモノマー由来のユニットは60重量%以上、95重量%以下であることが好ましく、75重量%以上、95重量%以下であることがより好ましく、85重量%以上、95重量%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
フッ化ビニリデン系重合体は、衝撃強度および加工性の観点から、溶液粘度(インヘレント粘度)が0.72〜2.5dl/gであることが好ましく、1.0〜2.1dl/gであることがより好ましく、1.3〜1.7dl/gであることがさらに好ましい。溶液粘度は、フッ化ビニリデン系重合体4gを1リットルのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液の30℃における対数粘度である。
【0026】
フッ化ビニリデン系重合体の平均分子量は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量として20万〜70万とすることができる。重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)法で測定することができる。測定では、例えば、標準ポリマーとしてポリスチレン、溶離液としてNMPを用いればよい。
【0027】
フッ化ビニリデン系重合体は、生産性および加工性の観点から、フッ化ビニリデンの単独重合体もしくはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、またはそれらの混合物であることが好ましい。
【0028】
フッ化ビニリデン系重合体は、上述したようなフッ化ビニリデンモノマー単独を、または、上述したようなフッ化ビニリデンモノマーと共重合可能なモノマーとフッ化ビニリデンモノマー(以下、これらを総称して「フッ化ビニリデン系モノマー」と称する)とを重合させて得る。
【0029】
フッ化ビニリデン系モノマーを重合させる方法としては、例えば、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法、塊状重合法および溶液重合法等が挙げられるが、懸濁重合法が好ましい。懸濁重合法は、得られるフッ化ビニリデン系重合体の結晶性が高く、乳化剤および凝集剤を用いないため不純物を低減し易い。また、懸濁重合法は、反応系および反応機構が単純であり、使用できるモノマーの汎用性が高く、制限が少ない。さらに、懸濁重合法は、分子量の制御が容易である。
【0030】
フッ化ビニリデン系モノマーの重合は、重合開始剤、懸濁剤および連鎖移動剤等の存在下で行ってもよい。
【0031】
なお、フッ化ビニリデン系モノマーを重合させる具体的な方法は、例えば、従来公知の方法に従えばよい。また、市販のフッ化ビニリデン系重合体を用いてもよい。
【0032】
(結晶核剤)
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物に含まれる結晶核剤は、アクリル変性したポリテトラフルオロエチレンである。
【0033】
アクリル変性したポリテトラフルオロエチレンとは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリルが付加または混合されたポリテトラフルオロエチレンである。アクリル変性したポリテトラフルオロエチレンの分子量は、特に限定されないが、例えば100万以上である。アクリル変性したポリテトラフルオロエチレンは、粉体であってもよいし、ディスパージョン、ペレット、またはフレーク等であってもよい。あるいは、アクリル変性したポリテトラフルオロエチレンは、マスターバッチの形態であり得る。粉体の場合、粒径は、例えば1μm〜5000μmとすることができる。
【0034】
アクリル変性したポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば、「メタブレンA−3000」、「メタブレンA−3800」、「メタブレンA−3750」および「メタブレンA−3700」(商品名、三菱レイヨン(株)製)等が挙げられる。
【0035】
フッ化ビニリデン系樹脂組成物に含まれる結晶核剤は、1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。
【0036】
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物において、結晶核剤は、フッ化ビニリデン系重合体100重量部に対して0.05〜5重量部含まれている。より高い低温衝撃強度を実現する観点から、結晶核剤は、フッ化ビニリデン系重合体100重量部に対して、0.1〜3重量部含まれていることが好ましく、0.3〜3重量部含まれていることがより好ましい。なお、2種類以上の結晶核剤が含まれている場合は、合計の含有量が上記範囲に含まれる。また、2種類以上のフッ化ビニリデン系重合体が含まれている場合は、合計の含有量を100重量部とする。
【0037】
(その他の成分)
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物は、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、上述のフッ化ビニリデン系重合体および結晶核剤以外の成分を含み得る。そのような成分としては、例えば、酸化防止剤、滑剤、安定剤、着色防止剤、可塑剤、分散剤および帯電防止剤等が挙げられる。
【0038】
酸化防止剤としては、例えば、IRGANOX(登録商標)1076、およびIRGANOX1010等が挙げられる。
【0039】
滑剤としては、例えば、高密度ポリエチレン、ワックスおよびグリセリン等が挙げられる。
【0040】
安定剤および着色防止剤としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛等が挙げられる。
【0041】
上記成分の添加量は、フッ化ビニリデン系重合体100重量部に対して、例えば、0.01〜3.0重量部とすることができる。
【0042】
〔フッ化ビニリデン系樹脂組成物の製造方法〕
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物の製造方法は、フッ化ビニリデン系重合体100重量部と、アクリル変性したポリテトラフルオロエチレンである結晶核剤0.05〜5重量部とを混合する工程を含む。本発明に係る製造方法によれば、上述したフッ化ビニリデン系重合体を好適に得ることができる。
【0043】
フッ化ビニリデン系重合体および結晶核剤の説明は、上記〔フッ化ビニリデン系樹脂組成物〕の項と同様である。
【0044】
フッ化ビニリデン系重合体と結晶核剤との混合は、乾燥状態での粉体混合によってもよいし、重合で得られたスラリー、ラテックス状または脱水後の湿潤状態のフッ化ビニリデン系重合体に結晶核剤を添加して混合物を得た後、乾燥してもよい。この際、結晶核剤は、粉体状、溶液状あるいは分散液として添加してもよく、フッ化ビニリデン系重合体への混合を助けるために、エタノールもしくは酢酸エチル等の有機溶媒、界面活性剤または分散補助剤等を添加してもよい。また、マスターバッチの形態で添加してもよい。
【0045】
フッ化ビニリデン系重合体に対して、結晶核剤を混合機等により混合した後、二軸押出機等により、溶融混練後、ペレットまたはフレークなどの形状に粒状化して、組成を安定化させた状態のフッ化ビニリデン系樹脂組成物を得てもよい。このように、組成を安定化させた状態のフッ化ビニリデン系樹脂組成物を用いて溶融成形を行うによって、得られる製品の組成および物性を安定化させることができる。
【0046】
結晶核剤を混合する割合は、フッ化ビニリデン系重合体100重量部に対して、0.05〜5重量部である。より高い低温衝撃強度を実現する観点から、結晶核剤を混合する割合は、フッ化ビニリデン系重合体100重量部に対して、0.1〜3重量部であることが好ましく、0.3〜3重量部であることがより好ましい。
【0047】
フッ化ビニリデン系重合体および結晶核剤以外の成分は、フッ化ビニリデン重合体と結晶核剤とを混合する際に同時に混合してもよいし、遂次的に混合してもよい。
【0048】
混合する装置としては、例えば、ヘンシェルブレンダー、円筒型混合機、スクリュー型混合機、スクリュー型押出機、タービュライザー、ナウター型混合機、V型混合機、リボン型混合機、双腕型ニーダー、流動式混合機、気流型混合機、回転円盤型混合機、ロールミキサー、転動式混合機およびレディゲミキサー等が挙げられる。
【0049】
押出機としては、例えば、一軸押出機、同方向二軸押出機および異方向二軸押出機等が挙げられる。
【0050】
ペレット化する方法としては、例えば、ストランドカット、ミストカット、ホットカットおよびアンダーウォーターカット等が挙げられる。
【0051】
〔フッ化ビニリデン系樹脂成形物およびその製造方法〕
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂成形物の製造方法は、上述のフッ化ビニリデン系樹脂組成物を溶融成形する工程を含む。
【0052】
溶融成形の方法としては、射出成型機、押出成型機、ブロー成型機および圧縮成型機等を用いる方法が挙げられるが、製造する成形物の使用目的等によって適宜選択すればよい。溶融成形の具体的な方法は、例えば、従来公知の方法に従えばよい。
【0053】
本発明に係る製造方法によって製造されるフッ化ビニリデン系樹脂成形物は、後述の実施例で示されるとおり、結晶核剤を含まない場合と比較して低温衝撃強度が向上している。そのため、本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂成形物は、例えば、低温で使用される物品に好適に使用することができる。一実施形態において、本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂成形物は、海底油田採掘用フレキシブルパイプの部品である。
【0054】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0055】
〔フッ化ビニリデン系樹脂組成物の製造〕
フッ化ビニリデン系重合体100重量部に対し、所定量の結晶核剤(表1参照)、滑剤(HF560(日本ポリエチレン(株)製)(粉砕品))0.5重量部、安定剤(IRGANOX1076(BASF社製))0.12重量部、および安定剤(Brilliant−1500(白石カルシウム(株)製))0.03重量部を添加し、同方向2軸押出機(東芝機械(株)製 TEM−26)により、所定の温度(℃)(C1/C2/C3/C4/C5/C6/DH=190/190/190/190/190/190/190)で押出し、ペレット状のフッ化ビニリデン系樹脂組成物を得た。
【0056】
なお、フッ化ビニリデン系重合体Aは、フッ化ビニリデンの単独重合体であり、溶液粘度η=1.7(dl/g)である。フッ化ビニリデン系重合体Bは、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン=98/2の共重合体であり、η=1.7(dl/g)である。フッ化ビニリデン系重合体Cは、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン=88/12の共重合体であり、η=1.1(dl/g)である。
【0057】
また、メタブレンA−300(三菱レイヨン(株)製)は、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンの粉末である。エヌジェスターNU−100(新日本理化(株)製)は、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキサミドの粉末である。KTL−500F((株)喜多村製)は、ポリテトラフルオロエチレンの粉末である。ボロンナイトSP−2(電気化学工業(株)製)は、窒化ホウ素の粉末である。
【0058】
〔フッ化ビニリデン系樹脂成形物の製造〕
上記で得たフッ化ビニリデン系樹脂組成物を、押出機(プラ技研(株)製 PEX40−24)を用いて、温度(℃):C1/C2/C3/C4/AD/D=200/220/230/230/230/230、引取り速度:0.6mm/分の条件で矩形成型し、幅30mm、厚さ3.2mmのフッ化ビニリデン系樹脂成形物を得た。
【0059】
〔アイゾット衝撃試験〕
上記で得たフッ化ビニリデン系樹脂成形物を、幅12.7mm、長さ60mm、幅12.7に切削し、45°、2.7mmのVノッチを入れた。測定環境の雰囲気は、−10℃、0℃、および10℃とした。東洋精機社製のアイゾット測定機を用い、JIS K7110に準拠して試験を行った。
【0060】
フッ化ビニリデン系樹脂組成物の配合およびフッ化ビニリデン系樹脂成形物のアイゾット衝撃強度を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
〔フッ化ビニリデン系樹脂組成物の製造−2〕
フッ化ビニリデン系重合体D(フッ化ビニリデンの単独重合体であり、溶液粘度η=1.0(dl/g))100重量部に対し、結晶核剤0.3重量部、滑剤(HF560)0.5重量部、安定剤(IRGANOX1076)0.12重量部、および安定剤(Brilliant−1500)0.03重量部を添加し、上述と同様の方法でペレット状のフッ化ビニリデン系樹脂組成物を得た。
【0063】
〔フッ化ビニリデン系樹脂成形物の製造−2〕
上記で得たフッ化ビニリデン系樹脂組成物を上述と同様の方法で矩形成型し、幅30mm、厚さ3.2mmのフッ化ビニリデン系樹脂成形物を得た。
【0064】
〔アイゾット衝撃試験−2〕
上記で得たフッ化ビニリデン系樹脂成形物について、上述と同様の方法でアイゾット衝撃試験を行った。
【0065】
フッ化ビニリデン系樹脂成形物のアイゾット衝撃試験の結果を図1に示す。図1に示されるように、メタブレンA−3000を添加した場合には、各温度において、アイゾット衝撃強度が向上した。
【0066】
〔引張り試験〕
ダンベルカッター(ASTM D638−4)に準拠し、打抜きサンプルを作製した。作製したサンプルについてオートグラフAG−2000を用いて引張り試験を行った。また、サンプル破断後の破断面を、デジタル顕微鏡(キーエンス製、VHX)を用いて観察した。
【0067】
結果を図2に示す。図2の(a)は引張り試験の結果を示す図である。図2の(b)は破断後の破断面の顕微鏡画像である。図2の(a)に示されるように、メタブレンA−3000以外の結晶核剤では、結晶核剤なしの場合と比較して破断伸度の顕著に低下したが、メタブレンA−3000では、破断伸度の顕著な低下はみられなかった。また、図2の(b)に示されるように、メタブレンA−3000では、大きなクラックが入っていなかった。
【0068】
〔結晶核剤の効果確認(参考)〕
熱加圧成形機でサンプルを作製した。作製したサンプルの球晶を、偏光顕微鏡(オリンパス社、BH−2)を用いて観察した。また、球晶半径を顕微鏡標準スケールで求めた。また作製したサンプルの結晶化温度をDSCの降温時の発熱量から求めた。
【0069】
結果を図3に示す。図3の(a)は偏光顕微鏡画像である。図3の(b)は球晶半径および結晶化温度を示す図である。図3に示されるように、使用した全ての結晶核剤について、球晶を小さくする効果があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、フッ化ビニリデン系樹脂組成物およびフッ化ビニリデン系樹脂成形物の製造に利用することができる。
図1
図2
図3