(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制約条件は、前記航空機の役割が誘導弾の発射である場合、誘導弾発射時に該航空機の機首が目標に向いていること、かつ誘導弾の発射時に目標が誘導弾の射程範囲内に位置することである請求項1から請求項7の何れか1項記載の航空機管理装置。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明に係る航空機管理装置、航空機、及び航空機の軌道算出方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0032】
図1は、本実施形態に係る航空機管理装置10の電気的構成を示すブロック図である。本実施形態に係る航空機管理装置10は、編隊に参加している複数の航空機40(
図2参照)の役割及び航空機40の軌道を求める装置である。なお、航空機管理装置10は、航空機40に備えられている。また、以下の説明において、編隊に参加している航空機40を我機ともいい、目標機42を彼機ともいう。
【0033】
本実施形態に係る航空機管理装置10は、各種演算処理を実行するCPU(Central Processing Unit)12、CPU12で実行される各種プログラム及び各種情報等が予め記憶されたROM(Read Only Memory)14、CPU12による各種プログラムの実行時のワークエリア等として用いられるRAM(Random Access Memory)16、各種プログラム及びシミュレーションの対象となる航空機40の機体諸元等の各種情報を記憶する記憶手段としてのHDD(Hard Disk Drive)18を備えている。
【0034】
これらCPU12、ROM14、RAM16、HDD18、受信部20、及び送信部22は、システムバス24を介して相互に電気的に接続されている。
【0035】
さらに、航空機管理装置10は、僚機情報や僚機の索敵や追尾により得られた目標機42(
図2参照)の情報(目標機情報)等の各種情報を僚機から受信する受信部20、及びCPU12による演算結果や自機情報を僚機へ送信する送信部22を備えている。なお、僚機情報には、僚機の位置情報や僚機の速度等が含まれる。自機情報には、自機の位置情報や自機の速度等が含まれる。目標機情報には、目標機42の位置情報や目標機42の速度等が含まれる。
このように、本実施形態に係る航空機40は、各航空機40間で各種情報の送受信(データリンク)が可能とされている。すなわち、データリンクによって各航空機40は、自機情報、僚機情報、目標機情報、及び他の航空機40に対する指示情報等の各種情報を共有するためにネットワーク化されている。
【0036】
図2は、本実施形態に係る航空機40の役割及び軌道を示す模式図である。なお、
図2では、一例として目標機42を一機のみ示しているが、目標機42は複数であってもよい。
図2の例は、MRM(Medium Range Missiles)戦を模しており、航空機40から目標機42が視認できないほど離れた状態である。
【0037】
航空機40は、例えば、目標機42に対する誘導弾(ミサイル)44の発射(シュータ)、誘導弾44の誘導(ガイダ)、及び目標機42の索敵や追尾(センサ)が可能とされている。
【0038】
すなわち、航空機40の役割は、例えば、目標機42の索敵や追尾、誘導弾44の誘導、及び誘導弾44の発射である。誘導弾44の誘導は、自機が発射した誘導弾44の誘導であってもよいし、僚機が発射した誘導弾44の誘導であってもよい。
図2において例えば、航空機40A(シュータ機40A)の役割が誘導弾44の発射であり、航空機40B(ガイダ機40B)の役割が誘導弾44の誘導であり、航空機40C(センサ機40C)の役割は、目標機42の索敵や追尾である。
【0039】
図2の例では、航空機40の索敵・追尾可能範囲、誘導弾44の誘導可能範囲、誘導弾44の射程範囲の順にその範囲は狭い。
【0040】
図2に示されるように、航空機40と目標機42とが向かい合って飛行している場合、シュータ機40Aは、目標機42と対向している状態(機首が向かい合う状態、所謂ヘッドオン)が、最も誘導弾44の射程範囲が長く、目標機42から離れて射撃することができるため好ましい。一方、ガイダ機40Bは、誘導可能範囲の端周辺に目標機42及び誘導弾44を捉えるように位置することが好ましい。センサ機40Cは、索敵・追尾可能範囲の端周辺に目標機42を捉えるように位置することが好ましい。目標機42の射程範囲を小さくすると共に、その射程範囲に自機が近づいたとしても、素早く目標機42の射程範囲から離脱できるためである。
【0041】
次に、
図2を参照して各航空機40の目標機42に対する一連の役割及び軌道について説明する。
【0042】
センサ機40Cは、目標機42の索敵や追尾を行い、目標機42の位置・速度情報をシュータ機40A,40Bへ送信する。シュータ機40Aは、誘導弾44の射程範囲に目標機42が進入すると、目標機42へ誘導弾44を発射する。目標機42がシュータ機40Aの誘導弾44の射程範囲に進入することは、すなわち、目標機42の射程範囲にシュータ機40Aが進入した可能性がある。このため、シュータ機40Aは、誘導弾44の発射直後に目標機42に対して反転、離脱する。このため、誘導弾44を発射したシュータ機40Aは、誘導弾44の誘導ができないので、シュータ機40Aが発射した誘導弾44の誘導を、ガイダ機40Bが行うこととなる。
なお、ガイダ機40Bは、誘導弾44を誘導可能範囲の端周辺で捉えて誘導弾44の誘導を行いながら目標機42からの回避を行う、所謂A−Poleをその軌道とする。同様にセンサ機40Cも、目標機42を索敵・追尾可能範囲の端周辺で索敵や追尾しながら目標機42からの回避を行うA−Poleをその軌道とする。
このように、目標機42に対する航空機40毎の役割に応じて、航空機40の軌道は決定される。
【0043】
次に、本実施形態に係る航空機管理装置10による航空機40の軌道の算出(以下「最適軌道算出」という。)について説明する。
航空機管理装置10は、編隊に参加している複数の航空機40の軌道を算出するために、連続変数(状態変数及び制御変数)を離散化することで最適解を得る計算法、例えばDirect Collocation with Nonlinear Programming(DCNLP)が用いられる。
より詳しくは、DCNLPは、時間の関数である連続問題の連続変数を離散化することで、最適制御問題を非線形計画問題として扱い、目的関数(評価関数)の値が最小又は最大となる解を求めるものである。なお、DCNLPは、状態変数に対する不等式制約条件を扱いやすく、初期条件や制約条件に対するロバスト性が高い。また、運動方程式を制約条件として扱うこともできる。
【0044】
図3は、DCNLPの概念を示す模式図である。なお、
図3の縦軸及び横軸は共に状態変数とされる。
DCNLPでは、問題を時間tによってN個のノード(以下「離散点」ともいう。)t
1〜t
Nに離散化する。本実施形態に係るDCNLPでは、航空機40の挙動を示す運動方程式に対して制御変数を代入することで状態変数をノードとして算出する。なお、これに限らず、他の適切な方法によって状態変数がノードとして設定されてもよい。
まず、ノードt
1〜t
Nの初期推定解を算出するために、制御変数の初期値が運動方程式に代入される。なお、ノードt
1〜t
Nの初期推定解については、制御変数を運動方程式に代入する方法の他に、他の適切な方法によって設定されてもよい。このノードは、各ノードにおける制御変数や状態変数の微小変化に対する目的関数の変化分に基づき、修正される(
図3の計算途中)。そして、後述する制約条件を満たし、かつ目的関数(評価関数ともいう。)の値が最小(又は最大)となるノードが航空機40の軌道としての最適解とされる。なお、算出されたノードの間は、例えば多項式等により補間される。
【0045】
このように、航空機40の軌道を時間的に連続したものとして算出するよりも、DCNLPを用いて状態変数や制御変数を離散化して扱うことにより計算量が少なくなり、短時間での軌道算出が可能となる。
【0046】
しかしながら、このノードは、連続していないために状態変数によっては、実際の航空機40では実現できない軌道ともなり得る。そこで、算出した次のノードと実際にあるべき次のノードとのずれ量が0(零)とする制約条件が与えられる。この制約条件は、DCNLPでいうところのdefectであり、この制約条件を満たすことにより、算出されたノードは航空機40の運動方程式を満たしたものとなり得る。
【0047】
図4は、DCNLPのdefectの概念を示す模式図である。
図4において、横軸が時間であり、縦軸が航空機40の位置を示す状態変数であり、ノードA(t
k,X
k)とノードC(t
k+1,X
k+1)が隣接する二つの離散点である。そして、本来、ノードA,Cは、航空機40の軌道上の位置であるため、微分方程式fの関係で繋がるはずである。
そこで、ノードA,Cの微分値である傾きを各々f
k,f
k+1とし、隣接する二つのノードA,C間の差と二つのノードA,Cにおける傾きf
k,f
k+1に基づく変化量との差を0とすることを、defectで定義される制約条件とする。
【0048】
そして、下記(1)式で表される二つのノードA,Cの平均微分値を用いて、二つのノードA,Cにおける傾きf
k,f
k+1に基づく変化量を下記(2)式のように表す。下記(2)式で算出される値は、
図4における点Bとなる。なお、(2)式に基づく点Bの算出方法は、一例であり、これに限られるものではない。
【0051】
このように、点Bは、前のノードAから帰納的に求まる値であり、状態変数が運動方程式を満たしているならば点BとノードCとは一致するものであり、点BとノードCとのズレがdefectとなる。具体的には、二つのノードA,C間の差(X
k+1−X
k)と(2)式で表される変化量vとの差がdefectとなる。
すなわち、defectは、隣接するノードA,Cの微分値に基づいて求まる点BとノードCとの残差であり、defectをζ
kとした下記(3)式で表される。
【0053】
そして、ζ
k=0となれば、点BとノードCとが一致し、DCNLPを用いて算出されたノードA,Cは運動方程式を満たすこととなる。このように、defectで定義される制約条件を満たす解(状態変数)は運動方程式を満たしながら滑らかに連続することとなる。
【0054】
そして、航空機管理装置10は、defectで定義される制約条件、及び航空機40の役割に応じた制約条件を満たす軌道のうち、役割に応じた目的関数によって得られる目的関数値(評価値)に基づいて最適な軌道を決定する。
【0055】
以下に、航空機40の役割に応じた制約条件について詳細に説明する。
なお、航空機40の役割とは、例えば、上述したように誘導弾44の発射を行うシュータ(シュータ機40A)、目標の索敵や追尾を行うセンサ(センサ機40C)、及び誘導弾44の誘導を行うガイダ(ガイダ機40B)である。
【0056】
まず、本実施形態に係る状態変数Xは、航空機40の姿勢を示す方位角をψ、航空機40の位置を示す我機座標をx,yとして、下記(4)式で表される。なお、一例として、我機座標xは北方向を基準とし、我機座標yは東方向を基準とする。また、本実施形態では、航空機40の速度及び高度は一定としているが、速度及び高度も状態変数としてもよい。
【0058】
運動方程式における制御変数uは、迎角をα、バンク角をφ、推力をTとして、下記(5)式で表される。
【0060】
そして、航空機40の運動方程式は、一例として、質量をm、速度をv、飛行経路角をγ、揚力をL、抗力をDとして、下記(6)式の3自由度運動方程式で表される。(6)式で表される運動方程式に上述した制御変数を離散変数として代入することで、航空機40の状態変数が算出され、これにより航空機40の軌道の初期推定解が算出されることとなる。なお、これに限らず、他の適切な方法によって状態変数を設定することにより、航空機40の軌道の初期推定解が設定されてもよい。
【0062】
次に航空機40の役割に応じた制約条件について具体的に説明する。
まず、航空機40の役割にかかわらず共通の制約条件(以下「共通制約条件」という。)について説明する。
共通制約条件は、下記(7)式から(10)式で表される。
【0064】
(7)式は、defect:ζ
k=0とする制約条件である。(8)式は、速度を一定とする制約条件であり、Dは抗力である。(9)式は、高度を一定とする制約条件である。なお、(7)式から(9)式のように等式で表される制約条件を等式制約条件という。
【0065】
なお、速度の変化を許容する場合は、(8)式の右辺を0とせずに、例えばある一定の範囲としてもよい。また、高度の変化も許容する場合には、(9)式の右辺を0とせずに、例えばある一定の範囲としてもよい。さらに、(8),(9)式とは異なる他の制約条件を追加してもよい。
【0067】
(10)式のNzは航空機40の旋回時に加えられる垂直荷重倍数(以下「旋回G」という。)であり、(10)式では一例として、4G以上の旋回Gが加えられないように制約される。この旋回Gの上限は、航空機40の性能や航空機40の戦闘状況に応じて決定されるものであり、MRM戦よりも近接戦闘においてはより大きな値とされてもよい。
また、(10)式のように不等式で表される制約条件を不等式制約条件という。
【0068】
次にセンサ機40Cに特有の制約条件及び目的関数について、
図5を参照して説明する。
図5において、縦軸方向が南北(図面上方向が北)であり、横軸方向が東西(図面右方向が東)である。なお、ガイダ機40Bの制約条件及び目的関数は、索敵・追尾可能範囲と誘導可能範囲(誘導弾44を捉えることができる誘導電波の覆域)とが同一である場合、センサ機40Cと同様である。
【0069】
また、以下の説明において、目標機42の軌道は、一例として直進と仮定するが、これに限らず、目標機42の軌道を他のシミュレーション等を用いて直進以外としてもよい。
【0070】
センサ機40Cは、彼機である目標機42を常にレーダの覆域内に捉えることが必要あり、これがセンサ機40Cの役割に応じた制約条件となる。この制約条件は、アジマス方向のレーダ覆域をRC
AZとし、我機から見た彼機の方位をψ
BtoRとして、下記(11)式で表される。
【0072】
(11)式は、センサ機40の軌道を算出するための不等式制約条件となる。なお、センサ機40Cの等式制約条件は、一例として不要としているが、何かしらの等式制約条件を設定してもよい。
【0073】
センサ機40Cの役割に応じた目的関数J(ξ)は、彼機座標を(x
red,y
red)とし、重み係数をk
1,k
2として、下記(12)式で表される。なお、目的関数J(ξ)には、状態変数X及び制御変数uが入力され、これによって求められる目的関数値が評価値とされる。
【0075】
目的関数J(ξ)である(12)式の右辺の第1項は、各ノード(離散点)における航空機40(我機)と目標機42(彼機)との距離(以下「彼我間距離」という。)の総和であり、第2項は、各ノードにおける航空機40(我機)のバンク角の二乗和である。
航空機40は、可能な限り目標機42から離れることが好ましいため、第1項の値はより大きい方が好ましい。第2項は、バンク角の安定性を示した項であり、第2項の値が小さい程、バンク角の変動が少ない安定した軌道となるため、第2項の値は小さい方が好ましい。さらに、彼我間距離及びバンク角の目的関数J(ξ)に対する重みを調整するために、第1項及び第2項には重み係数k
1,k
2が乗算される。
また、目的関数値が小さい程評価を高くするために、第1項は負の関数とされ、第1項に第2項が加算される。
【0076】
次にシュータ機40Aに特有の制約条件及び目的関数について、
図6を参照して説明する。なお、
図6において、縦軸方向が南北(図面上方向が北)であり、横軸方向が東西(図面右方向が東)である。
【0077】
シュータ機40Aは、誘導弾発射時に機首が目標機42に向いている必要がある。これがシュータ機40Aの役割に応じた制約条件となる。この制約条件は、誘導弾44の発射時刻をt
shootとし、そのときの我機の方位をψ(t
shoot)として、下記(13)式で表される。
【0079】
なお、(13)式は等式制約条件とはされずに、左辺が所定角度の範囲内(例えば±5°)とされる不等式制約条件とされてもよい。
【0080】
また、シュータ機40Aは、誘導弾発射時に彼我間距離が誘導弾44の射程範囲R
maxl内であり、かつ、シミュレーション時間内に誘導弾44を発射することが不等式制約条件となる。この不等式制約条件は、シミュレーション時間をt
1からt
Nとし、誘導弾発射時間をt
shootとして、下記(14)式で表される。なお、一例として、射程範囲R
maxlは、シュータ機40Aと目標機42との相対角(アングル・オフ)によって異なるものである。
【0082】
また、シュータ機40Aの役割に応じた目的関数J(ξ)は、重み係数をk
3〜k
7として、下記(15)式で表される。
【0084】
(15)式の右辺の第1項はシミュレーションの開始から誘導弾発射までの時間であり、第2項は誘導弾発射時の彼我間距離であり、第3項は被我間距離の最小値(以下「最小彼我間距離」という。)であり、第4項は誘導弾発射後の彼我間距離の総和であり、第5項は各ノードにおける我機のバンク角の二乗和である。なお、第1項から第5項には各々重み係数k
3〜k
7が乗算される。
すなわち、シュータ機40Aは、誘導弾発射時までの時間を小さく、かつ、誘導弾発射時の彼我間距離を大きく、かつ最小彼我間距離を大きく、かつ誘導弾発射後の彼我間距離の和を大きくする軌道であることが好ましい。そして、(15)式で表される目的関数J(ξ)によって算出される値が小さい方がより評価が高い。
【0085】
(12)式及び(15)式に示されるように目的関数J(ξ)は、航空機40の役割にかかわりなく、航空機40と目標機42との間の距離である彼我間距離を算出するための関数が含まれ、彼我間距離が役割に応じて適した値となる軌道が最適な軌道とされる。
【0086】
次に、上述したDCNLPを用いた最適軌道算出(「制約条件付き非線形計画問題」ともいう。)について説明する。
図7は、最適軌道算出の処理の流れを示すフローチャートである。最適軌道算出は、航空機管理装置10によって実行される。
【0087】
まず、ステップ100では、初期推定解となる制御変数uを運動方程式に代入することで航空機40の機動を算出するが、初期推定解は他の適切な方法で設定されてもよい。ここで、初期推定解によって求解の実現可能性や求解までの計算時間が変化するので、制約条件をより確実に満たす初期推定解とする必要がある。なお、初期推定解となる制御変数uは、一例として、航空機40のパイロット自身が経験値に基づいて設定する。
【0088】
ステップ102では、設定された役割に応じた制約条件を満たす制御変数u及び状態変数Xが役割に応じた目的関数J(ξ)に代入され、目的関数値J(評価値)が算出される。
【0089】
次のステップ103では、制御変数・状態変数(制御変数及び状態変数少なくとも一方)の微小変化量を算出する。なお、ステップ103では、一例として、微小変化量を制御変数・状態変数に応じた予め定められた値とする。
【0090】
次のステップ104では、制御変数・状態変数(制御変数及び状態変数少なくとも一方)を修正する。なお、制御変数・状態変数の修正量は、制御変数・状態変数の前回の微小変化に対する目的関数値Jの変化分に応じて算出される。
【0091】
次のステップ106では、修正した制御変数・状態変数を用いて目的関数値Jを算出する。
【0092】
次のステップ108では、制御変数・状態変数の微小変化に対する目的関数値Jの変化量を算出する。
【0093】
次のステップ110では、評価の終了条件を満たしたか否かを判定し、肯定判定の場合は本シミュレーションを終了する。一方、否定判定の場合はステップ104へ戻り、制御変数や状態変数を微小変化させ、目的関数値の変化量の算出を繰り返す。
【0094】
ここで、ステップ110における評価の終了条件について、
図8を参照して説明する。
図8は、横軸が制御変数・状態変数ξを示し、縦軸が目的関数値Jを示し、点a〜eは制御変数・状態変数ξに対する目的関数値Jの変化を示している。
【0095】
終了条件としては、例えば下記のように4つの条件がある。
条件1:制御変数・状態変数ξの変化量が許容値Tolξよりも小さくなった場合。
条件2:目的関数値Jの変化量が許容値TolFunよりも小さくなった場合。
条件3:1次の最適性の尺度が許容値未満となった場合。
条件4:ステップ104からステップ108までの反復回数、又は目的関数値Jの評価回数が許容値よりも大きくなった場合。
【0096】
次に上記条件3における1次の最適性について説明する。
【0097】
制約条件付き非線形計画問題に対する1次の最適性は、Karush-Kuhu-Tucker条件(以下「KKT条件」)に基づいて求められる。
KKT条件は、制約条件が無い場合に目的関数J(ξ)の最小値近傍(
図8における点e近傍であり、目的関数値Jの変化が下に凸の状態)において、傾きである勾配∇J(ξ)が略零になるという条件に相当する。しかし、制約条件を考慮する場合には下記(16)式で表される定義となる。
なお、1次の最適性を満たすことは、必要条件ではあるが十分条件ではない。目的関数値Jの変化が上に凸となる最大値近傍においても勾配∇J(ξ)=0となり得るためである。
【0098】
そして、KKT条件に使用するラグランジュ関数L(ξ,λ)を下記(16)式のように表す。なお、下記(16)式において、g(ξ)は不等式制約条件式であり、h(ξ)は等式制約条件である。そして、λ
gは不等式制約条件式に関するラグランジュ乗数であり、λ
hは等式制約条件式に関するラグランジュ乗数である。
【数16】
【0099】
そして、満たすべきKKT条件は、ラグランジュ関数を用いて下記(17),(18)式のように表される。
【0101】
さらに、最適解の十分性を示す2次の十分条件は、ラグランジュ関数L(ξ,λ)のHessian行列が、下記(19)式で表されるように正定となる条件である。
【数19】
(19)式は、目的関数値Jの変化が制御変数・状態変数ξに対して下に凸の状態であることを示している。このため、必要条件である1次の最適性に加えて2次の十分条件を満たす場合に、目的関数値Jが最適解であるといえる。
【0102】
次に、
図9から
図12を参照して、最適軌道算出結果の例について説明する。
図9から
図12の(A)は最適軌道算出によって得られた我機の最適軌道解を示し、
図9から
図12の(B)は、制御変数である迎角、バンク角、及び推力の離散化された時間変化と共に、参考情報としての旋回Gの時間変化のグラフである。
また、各図(A)のX=0[NM]から最適軌道算出が開始される我機のうち、白色が初期推定解であり、斜線でハッチングされたものが最適軌道算出によって算出された最適軌道解である。なお、目標機42は北方向から直進すると仮定している。
【0103】
図9,10はセンサ機40Cの最適軌道算出結果であり、
図9はセンサ覆域が±60°であり、
図10はセンサ覆域が±120°である。
【0104】
図11,12はシュータ機40Aの最適軌道算出結果であり、
図11は誘導弾44の射程範囲が約50マイル、
図12は誘導弾44の射程範囲が約80マイルである。なお、
図11,12における一点鎖線で囲まれた範囲は誘導弾44の大まかな射程範囲を示している。
【0105】
次に、航空機40の軌道と役割の同時最適化(以下「同時最適化処理」という。)について説明する。
【0106】
本実施形態に係る同時最適化処理は、上述した最適軌道算出と共に行われる。
同時最適化処理では、上述した役割に応じた目的関数及び制約条件をすべて統合して扱う。さらに、役割に応じた目的関数及び制約条件の各々に対して、変数(以下「インディケータ変数」という。)が付与される。このインディケータ変数は、航空機40に設定した役割に対応しない目的関数及び制約条件を無効化するためのものである。
【0107】
そして、同時最適化処理は、航空機40に設定した役割に対応しない目的関数及び制約条件が無効となるように、インディケータ変数の値を目的関数毎及び制約条件毎に決定する。無効化された目的関数及び制約条件は、航空機40の軌道の算出に影響を与えないこととなるので、無効とされない目的関数及び制約条件のみに基づいて軌道が算出されることとなる。
そして、同時最適化処理は、航空機40の役割、すなわち無効とする目的関数及び制約条件を変化させる毎に、航空機40の軌道を算出してその結果を評価することによって、航空機40の最適な役割及び軌道を同時に決定することができる。
【0108】
なお、本実施形態に係るインディケータ係数は、一例として、1又は0に変化される。
これにより、航空機40に設定した役割に対応する目的関数及び制約条件に付与されたインディケータ変数は1とされて有効とされる。一方、航空機40に設定した役割に対応しない目的関数及び制約条件に付与されたインディケータ変数は0とされ、無効化される。
換言すると、インディケータ係数によって航空機40の役割が設定される。すなわち、インディケータ係数が1とされた目的関数及び制約条件に対応する役割が、航空機40の役割として設定されることとなる。
【0109】
次に航空機40の役割の決定について具体的に説明する。なお、以下の説明では、一例として、航空機40である我機が2機であり、目標機42である彼機が2機であると仮定して説明する。このため、2機の我機はB#1、B#2で表記され、2機の彼機はR#1、R#2で表記される。
【0110】
航空機40の役割をシュータ機40A(SHT)とする場合における、目的関数及び制約条件を表1に示す。
【0112】
表1におけるαはB#1又はB#2であり、βはR#1又はR#2である。
一例として、目的関数J
SHTB#1,R#2は、B#1がR#2へ誘導弾44を発射する場合の目的関数値である。また、不等式制約条件g
SHTB#1,R#2は、B#1がR#2へ誘導弾44を発射する場合の不等式制約条件である。また、等式制約条件h
SHTB#1,R#2は、B#1がR#2へ誘導弾44を発射する場合の等式制約条件である。
【0113】
次に、航空機40の役割をセンサ機40C(SNS)とする場合における、目的関数及び制約条件を表2に示す。
【0115】
表2におけるαはB#1又はB#2であり、βはR#1又はR#2である。
一例として、目的関数J
SNSB#1,R#1は、B#1がR#2を索敵・追尾する場合の目的関数である。また、不等式制約条件g
SHTB#1,R#1は、B#1がR#2を索敵・追尾する場合の不等式制約条件である。なお、等式制約条件は、上述したDCNLPで説明したように一例として不要とする。
【0116】
また、設定された役割にかかわらず、2機の我機に共通の制約条件が表3に示すように設定されてもよい。
【0118】
表3における不等式制約条件のαはB#1又はB#2、若しくはB#1とB#2である。そして、特に、αをB#1とB#2とした不等式制約条件は、僚機同士の衝突回避を目的とし、B#1とB#2との距離が所定値よりも長くなることを条件としたものである。
【0119】
次に、インディケータ変数について説明する。
表4はインディケータ変数の種類を示したものである。表4においてインディケータ変数はδ
ijで表記される。タスクiは我機が行う役割を示し、エージェントjはタスク(役割)を行う我機を示す。
【0121】
そして、タスクiをエージェントjに割り当てる場合はδ
ij=1とされ、タスクiをエージェントjに割り当てない場合はδ
ij=0とされる。例えば、エージェントであるB#1がR#1に誘導弾44を発射するというタスクを行う場合は、δ
11は1とされる一方、他のタスクiとエージェントjの組み合わせのδ
ijは0とされる。
【0122】
なお、本実施形態では、一例として、同一の目標機42に対して、同一の役割の航空機40が複数割り当てられることはない。すなわち、例えばδ
11=1の場合にはδ
12=0となる。このことは、タスク(役割)の割り当てに関する等式制約条件h
tsk=0となり、より具体的には下記(20)式で表される。
【0124】
すなわち、タスクの割り当てに関する制約条件は、1機の我機は1つの役割しか割り当てられないというものである。
【0125】
次に、統合した目的関数と統合した制約条件に付いて説明する。
下記(21)式は、統合した目的関数(以下「統合目的関数J
INT」という。)である。
【0127】
統合目的関数J
INTは、目的関数毎にインディケータ変数δ
ijが乗算され、インディケータ変数δ
ijが乗算された目的関数の総和とされる。そして、統合目的関数J
INTから目的関数値(評価値)を算出する場合に、全ての目的関数のインディケータ変数δ
ijが1又は0とされる。
【0128】
下記(22)式は、統合した等式制約条件(以下「統合等式制約条件h
INT」という。)である。統合等式制約条件h
INTは、各等式制約条件を一括して扱う。
【0130】
なお、上述したようにセンサ機40Cには等式制約条件が設定されないので、(22)式はセンサ機40Cに特有の等式制約条件が含まれていない。しかしながら、センサ機40Cにも等式制約条件が設定されている場合は、下記(23)式で表されるセンサ機40Cに特有の等式制約条件が(22)式に追加される。
【0132】
統合等式制約条件h
INTは、等式制約条件毎にインディケータ変数δ
ijが乗算される。そして、統合等式制約条件h
INTの可否を判定する場合に、全ての等式制約条件のインディケータ変数δ
ijが1又は0とされる。
【0133】
上記(21)式から(23)式で表されるように、インディケータ変数δ
ijは、目的関数及び等式制約条件に対して各々乗算される。そして、航空機40に設定した役割に対応する目的関数及び等式制約条件に付与されているインディケータ係数δ
ijは1とされる。一方、航空機40に設定した役割に対応しない、不要な目的関数及び等式制約条件に付与されているインディケータ係数δ
ijは0とされ、不要な目的関数及び等式制約条件は無効化される。
このように、インディケータ係数δ
ijによって不要な目的関数の値は0となるので、統合目的関数J
INTは不要な目的関数の影響を受けることなく、航空機40に設定した役割に応じた目標関数値(評価値)を算出できる。また、不要な等式制約条件の値が0となることで等式制約条件が成立するので、統合等式制約条件h
INTは不要な等式制約条件の影響を受けることなく、航空機40に設定した役割に応じた等式制約条件のみを判定できる。
【0134】
さらに、下記(24)式は、統合した不等式制約条件(以下「統合不等式制約条件g
INT」という。)である。
【数24】
【0135】
統合不等式制約条件g
INTは、不等式制約条件に対して0とされると不等式が成立するようにインディケータ変数δ
ijが付与される。具体的には、(24)式に表されるように、不等式制約条件毎に“(1−δ
ij)・M”の項が付与され、gの値はこの項で減算される。なお、Mは、想定されるgの値よりも十分に大きな正の整数である。そして、統合不等式制約条件g
INTの可否を判定する場合に、全ての不等式制約条件のインディケータ変数δ
ijが1又は0とされる。
すなわち、航空機40の役割に対応した不等式制約条件のインディケータ変数δ
ijは1とされるので、上記項の値は0となり、上記項の影響はない。一方、航空機40の役割に対応しない、不要な不等式制約条件ではインディケータ変数δ
ijが0とされ、上記項は大きな整数となっていかなる状態においても不等式が成立し、統合不等式制約条件g
INTに影響を与えないこととなる。従って、統合不等式制約条件g
INTは不要な不等式制約条件の影響を受けることなく、航空機40に設定した役割に応じた不等式制約条件のみを判定できる。
【0136】
図13は、本実施形態に係る航空機管理装置10における航空機40の役割及び軌道の同時最適化(以下「役割軌道最適化処理」という。)に関する機能ブロック図である。
【0137】
CPU12は予めHDD18に記憶されているプログラムを実行することにより、役割決定部50、軌道決定部52、及び最適解判定部54の機能を有する。また、HDD18には、上述した統合目的関数J
INT、統合等式制約条件h
INT、及び統合不等式制約条件g
INTが記憶されている。
【0138】
役割決定部50は、航空機40の役割を決定する。
具体的には、役割決定部50は、統合目的関数J
INT、統合等式制約条件h
INT、及び統合不等式制約条件g
INTをHDD18から読み出し、航空機40に設定した役割に応じて、統合目的関数J
INT、統合等式制約条件h
INT、及び統合不等式制約条件g
INTのインディケータ変数δ
ijを1又は0とする。
【0139】
軌道決定部52は、役割決定部50によってインディケータ変数δ
ijが1又は0とされた後の統合目的関数J
INT、統合等式制約条件h
INT、及び統合不等式制約条件g
INTに基づいて、
図7に示される最適軌道算出を行うことによって航空機40の役割に応じた最適な軌道を算出する。
【0140】
なお、役割決定部50は、インディケータ変数δ
ijを変化させることで、航空機40に設定する役割を変化させる。そして、軌道決定部52は、航空機40に設定する役割が変化される毎に、航空機40の役割に応じた最適な軌道を算出する。
【0141】
最適解判定部54は、航空機40に設定した役割毎に算出された複数の軌道のうち、統合目的関数を最も小さくする役割とそのときの軌道を、最適な役割及び最適な軌道とし、実際に航空機40に設定する役割及び軌道として決定する。
これにより、航空機40の役割及び軌道が同時に最適化される。
【0142】
なお、役割軌道最適化処理では、航空機40の役割を変化させるために、例えば遺伝的アルゴリズム等の進化的計算手法や分岐限定法を用い、このループの中でDCNLPを解くことで最適な軌道が算出される。
【0143】
なお、航空機管理装置10は、一例として、編隊を構成する全ての航空機40が有しているが、例えば、所定の僚機(例えばリーダ機)が役割軌道最適化処理を実行して僚機の役割及び軌道を決定し、決定した役割及び軌道は役割軌道情報として僚機に送信する。僚機に送信された役割軌道情報は、僚機のMFDに表示され、僚機のパイロットは表示された情報に従って操縦する。
【0144】
以上説明したように、本実施形態に係る航空機管理装置10は、離散化した航空機40の制御変数を航空機40の運動方程式に代入することで軌道を示すN個のノードを算出し、又は他の適切な方法で軌道を示すNこのノードを設定し、各ノード間において、次のノードと実際にあるべき次のノードとのずれ量を0とする制約条件及び航空機40の役割に応じた制約条件を満たす軌道のうち、役割に応じた目的関数によって得られる評価値に基づいて最適な軌道を決定する。
このように、航空機管理装置10は、連続変数を離散化することで最適解を得る計算法を用いることによって、航空機40の役割に応じたより最適な軌道をより短時間で算出できる。
【0145】
また、航空機管理装置10は、役割に応じた目的関数及び制約条件の各々に対してインディケータ変数を付与し、航空機40に設定した役割に対応しない目的関数及び制約条件が無効となるように、インディケータ変数の値を目的関数毎及び制約条件毎に決定する。
従って、航空機管理装置10は、航空機40の役割、すなわち無効とする目的関数及び制約条件を変化させる毎に、航空機40の軌道を算出してその結果を評価することによって、航空機40の最適な役割及び軌道を同時に決定することができる。
【0146】
以上、本発明を、上記実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上記実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0147】
例えば、上記実施形態では、役割軌道最適化処理は航空機40が行う形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、編隊に参加している航空機40全てで分散処理しても良いし、航空機40から各種情報を受信した地上設備が行い、決定した航空機40の役割及び軌道を各航空機40へ送信する形態としてもよい。
【0148】
また、上記実施形態で説明した最適軌道算出及び役割軌道最適化処理に関する処理の流れも一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。