(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る高機能多孔質セルロースビーズの製造方法は、架橋多孔質セルロースビーズにセルロース分解酵素を作用させる工程を含むことを特徴とする。当該架橋多孔質セルロースビーズとその前駆体である多孔質セルロースは、市販品があればそれを使用してもよいが、セルロースから製造してもよい。以下、セルロースから架橋多孔質セルロースビーズを製造する工程を含め、本発明方法を工程ごとに説明する。
【0025】
1.多孔質セルロースビーズの製造工程
本工程では、セルロースエマルションに凝固溶媒を加えることにより多孔質セルロースビーズを得る。
【0026】
本発明において「セルロースエマルション」とは、セルロースを含む液滴が油溶性溶媒に分散しているものをいう。セルロースを含む液滴は、セルロース分散液であってもセルロース溶液であってもよいものとする。
【0027】
セルロース分散液の溶媒としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液などの塩基性水溶液を挙げることができる。セルロースは溶解し難いが親水性であり、また、水酸基を多く有するため、溶解はできなくても塩基性水溶液に分散させることが可能である。セルロース溶液の溶媒としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートなどのイオン液体を挙げることができる。原料であるセルロースとしては、分散または溶解し易いことからセルロース粉末を用いることが好ましい。
【0028】
セルロースエマルションを構成する油溶性溶媒としては、例えば、動植物油脂、水素添加動植物油脂、脂肪酸トリグリセリド、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒を挙げることができる。また、非イオン界面活性剤などの界面活性剤を用いてもよい。
【0029】
セルロースエマルションは、常法により調製すればよい。例えば、セルロースの分散液または溶液、脂溶性溶媒および界面活性剤を含む混合液を激しく攪拌することにより調製することができる。
【0030】
本工程では、セルロースエマルションに凝固溶媒を加えることにより、セルロースの液滴から溶媒を除去し、多孔質セルロースビーズを得る。セルロースエマルションは不安定である場合があるので、液滴同士が結合しないよう激しく攪拌した状態で凝固溶媒を添加することが好ましい。
【0031】
凝固溶媒は、セルロースの分散液または溶液の溶媒に親和性を示すものであれば特に制限されないが、例えば、アルコールおよびアルコール水溶液を挙げることができる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、s−ブタノール、t−ブタノールなどのC
1-4アルコールを挙げることができる。アルコール水溶液における水とアルコールの割合は、例えば、体積比で水:アルコール=80:20〜5:95とすることができる。
【0032】
凝固溶媒を添加した後は、凝固した多孔質セルロースビーズを濾過や遠心分離などにより分離し、水やアルコールなどで洗浄すればよい。得られた多孔質セルロースビーズは、粒径を揃えるため、篩などを用いて分級してもよい。
【0033】
なお、前述したように多孔質セルロースビーズとしては市販のものを用いてもよく、本工程の実施は任意である。
【0034】
2.多孔質セルロースビーズの架橋工程
本工程では、多孔質セルロースビーズを架橋剤により架橋して、架橋多孔質セルロースビーズを得る。
【0035】
架橋剤は、セルロース上の水酸基と共有結合を形成できる反応性基を2以上有し、セルロース分子間を架橋できるものをいう。本発明で用いることができる架橋多孔質セルロースビーズの架橋の条件や架橋剤に特に限定は無い。例えばWO2008/146906に記載の方法を用いることができる。
【0036】
一方で、本発明においては、前記多孔質セルロースビーズをグリシジルエーテル系化合物で架橋した場合、より顕著な効果を示す場合があることを見出した。詳しくは、特に分子量が大きく、および/または多官能性の架橋剤を用いて高度架橋を行った場合、多孔質セルロースビーズの表面孔が閉塞してしまう場合がある。このような場合においても、架橋剤としてグリシジルエーテル系化合物を用いることによって、ビーズの表面孔を生じさせることが可能となる場合がある。また、この場合、明らかにセルロース分解酵素が作用しているにも関わらず、ビーズの強度は低下しない。
【0037】
架橋剤として用いることができるグリシジルエーテル系化合物、即ちグリシジルエーテル系架橋剤としては、より好ましくは、レソルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ヒドロゲナートビスフェノールAジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ジグリシジルテレフタレート、ジグリシジルオルトフタレート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0038】
架橋剤は、一種のみを単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。例えば、エピクロロヒドリン等の他の架橋剤とグリシジルエーテル系架橋剤を混合して使用することもできる。
【0039】
多孔質セルロースビーズを架橋剤により架橋する反応の溶媒は適宜選択すればよいが、例えば、水の他、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒や、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒などの水混和性有機溶媒を挙げることができる。また、架橋反応溶媒は、2以上を混合して用いてもよい。
【0040】
また、グリシジルエーテル系架橋剤を用いることによって、セルロース分解酵素を作用させているにも関わらず、むしろ強度が向上した高機能の多孔質セルロースビーズが得られる場合がある。この現象は、前記セルロースビーズの架橋反応溶媒が水である場合や、前記グリシジルエーテル系架橋剤を用いて架橋された場合において発現しやすい。架橋反応溶媒が水であるとは、水の体積が反応系中の液体の組成の50%以上であることを示す。当該割合としては、60%以上、70%以上または80%以上が好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。
【0041】
架橋反応は、複数回実施してもよく、各回で反応溶媒や架橋剤を変更してもよい。例えば、1回目の架橋反応を水混和性有機溶媒中で行い、最終回の架橋反応を水中で行ってもよい。この場合、途中の溶媒組成は、1回目と最終回のどちらかと同じであっても異なっていてもよく、それらの中間組成であってもよい。さらには全ての回を水溶媒中で実施してもよい。架橋剤についても同様である。なお、反応溶媒として水を用いれば特別な効果が得られることは上記のとおりであり、架橋反応を複数回実施する場合には反応溶媒として全て水を用いることが好ましい。なお、架橋反応を複数回繰り返す場合、各架橋反応の間では、架橋多孔質セルロースを水などで洗浄して架橋剤を除去することが好ましい。
【0042】
架橋反応を促進するために、反応液には塩基を添加してもよい。かかる塩基としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムなどアルカリ金属の炭酸水素塩;炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなどアルカリ金属の炭酸塩;トリエチルアミンやピリジンなどの有機塩基を挙げることができる。
【0043】
架橋反応後は、架橋多孔質セルロースビーズは不溶性であることから、水などの溶媒で洗浄すればよい。
【0044】
なお、前述したように架橋多孔質セルロースビーズとしては市販のものを用いてもよく、本工程の実施は任意である。ただし、架橋剤としてグリシジルエーテル系架橋剤を用いたり架橋反応の溶媒として水を用いることにより良好な特性を有する高機能多孔質セルロースビーズが得られるため、好適には本工程を実施する。
【0045】
3.セルロース分解酵素による処理工程
本工程では、架橋多孔質セルロースビーズにセルロース分解酵素を作用させることにより、高機能多孔質セルロースビーズを得る。
【0046】
本発明に係る高機能多孔質セルロースビーズは、架橋多孔質セルロースビーズにセルロース分解酵素を作用させて製造されることを特徴とし、強度に優れるとともに、高吸着量を示す吸着体が得られるという特性を有する。理由は定かではないが、驚くべきことに、本発明により得られた高機能多孔質セルロースビーズは、セルロース分解酵素を作用させたにも関わらず、作用前の強度を維持することができる。
【0047】
また、本発明に係る高機能多孔質セルロースビーズを用いた吸着体は、セルロース分解酵素を用いない場合に比べて、吸着量が大きくなることを本発明者らは見出した。おそらく、セルロース分解酵素によって、高機能多孔質セルロースビーズを構成するセルロース分子から未架橋のグルコースユニットが遊離することにより、多孔質セルロースビーズ内の細孔容量が増大し、その結果、高機能多孔質セルロースビーズから吸着体を製造した場合、目的物の吸着サイトが増大し、吸着量が大きくなるものと考えられる。また、グルコースユニットが架橋されている場合には、セルロース分解酵素により基質として認識されなかったり、或いはセルロース分解酵素により攻撃されても架橋によりセルロース分子に結合したままであるので、ビーズの強度が維持されているものと考えられる。
【0048】
本発明に用いることができるセルロース分解酵素に特に限定は無いが、例えば、エンド−β−1,4−グルカナーゼやカルボキシメチルセルラーゼなどのエンド型セルロース分解酵素;エキソ−β−1,4ーグルカナーゼなどのエキソ型セルロース分解酵素を挙げることができる。
【0049】
本発明においては、セルロース分解酵素が未架橋のグルコースユニットを選択的に攻撃していると考えられる。また、エンド型セルロース分解酵素は、セルロースに対してランダムに作用してセロデキストリン、セロビオース、グルコースを生成する。よって、エンド型セルロース分解酵素を用いれば、未架橋のグルコースユニットがセルロース分子中の非末端部に存在していても、そのグルコースユニットを脱離させることができ、強度が維持されながらも細孔容量が増加した高機能多孔質セルロースビーズが得られ易いといえる。
【0050】
エキソ型セルロース分解酵素は、一般的に、セルロース分子を末端からセロビオース単位で切断する作用を示す。未架橋セルロースに対しては、一般にエンド型よりもエキソ型のセルロース分解酵素の方が分解能が高いとされており、セルロース分子の末端部のグルコースユニットが架橋されていない場合もあり得ることから、エキソ型セルロース分解酵素を用いることも好ましい。
【0051】
セルロース分解酵素は、一種のみを単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。例えば、エンド型セルロース分解酵素とエキソ型セルロース分解酵素の混合物を使用してもよい。さらに、セロビオースをグリコースに分解するβ−グルコシダーゼを使用してもよい。なお、エンド型とエキソ型の両方の作用を示すセルロース分解酵素もある。
【0052】
セルロース分解酵素の由来としては、特に制限されず、高等植物、細菌、糸状菌、木材腐朽菌、シロアリの共生原生動物などに由来する天然のセルラーゼを用いてもよいし、遺伝子工学的方法で人工的に産生したものを用いてもよい。セルラーゼの由来として具体的には、トリコデルマ属(Trichoderma)菌、アスペルギルス属(Aspergillus)菌、フミコーラ属(Humicola)菌、スタフィロトリクム属(Staphylotrichum)菌、リゾプス属(Rhizopus)菌、ムコール属(Mucor)菌、アクレモニウム属(Acremonium)菌、カエトミウム属(Chaetomium)菌、アシドサーマス属(Acidothermus)菌、セルロモナス属(Cellulomonas)菌等を好適に例示することができる。入手のし易さからアスペルギルス属(Aspergillus)菌とトリコデルマ属(Trichoderma)菌がより好ましく、アスペルギルス属(Aspergillus)菌が最も好ましい。
【0053】
本発明に用いるセルロース分解酵素の使用量は特に限定されないが、例えば、酵素製剤の比活性が20000〜30000u/g、特に22900u/gの場合、湿潤ビーズ1gあたり0.01g以上であることが好ましい。また酵素反応後の洗浄効率やコストの観点から湿潤ビーズ1gあたり10g以下であることが好ましい。より好ましくは0.1g以上5g以下であり、さらに好ましくは0.2g以上1g以下であり、最も好ましくは0.5g以上0.8g以下である。なお、湿潤ビーズとは、ビーズのスラリーを濾過してビーズ周囲の余分な溶媒を除去した状態にあるビーズをいうものとする。
【0054】
酵素反応の溶媒としては、通常、水を用いる。
【0055】
本発明においてセルロース分解酵素を作用させる反応液のpHに特に限定は無いが、酵素反応を効率良く進行させる観点から、2以上、7以下であることが好ましい。当該pHとしては、より好ましくは3以上、6以下、さらに好ましくは4以上5.5以下、最も好ましくは4.5以上5.1以下である。pHの制御方法に特に限定は無いが、pH緩衝作用のある物質を用いることが好ましい。pH緩衝作用のある物質は特に限定されないが、例えば、酢酸、酢酸塩、クエン酸、クエン酸塩、リン酸、リン酸塩、炭酸、炭酸塩等が挙げられ、少なくとも1種以上を用いることが好ましい。pH緩衝作用のある物質の使用量については特に限定は無いが、pHの変動を抑制しやすいことから、反応液の0.01重量%以上であることが好ましく、コストの観点から50重量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.05重量%以上、10重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以上5重量%以下である。
【0056】
セルロース分解酵素を作用させる際の反応液温度に特に限定は無いが、効率的に反応を進行させるために0℃以上、100℃以下であることが好ましい。より好ましくは10℃以上、80℃以下、さらに好ましくは25℃以上、70℃以下、特に好ましくは35℃以上、60℃以下、最も好ましくは40℃以上、55℃以下である。
【0057】
セルロース分解酵素を作用させる時間に特に限定は無いが、反応効率を高めるために1分間以上であることが好ましく、生産効率の観点から48時間以内であることが好ましい。当該反応時間としては、10分以上がより好ましく、30分以上がさらに好ましく、1時間以上が特に好ましく、また、24時間以内がより好ましく、12時間以内がさらに好ましく、6時間以内が特に好ましく、3時間以内が最も好ましい。特に、当該反応時間が1時間以上であれば、強度が維持されつつ、吸着性能の高い吸着体が製造できる高機能多孔質セルロースをより確実に得ることができる。また、当該反応時間が10時間以内であれば、高機能多孔質セルロースビーズの強度をより確実に維持することが可能になる。
【0058】
本工程により得られた高機能多孔質セルロースビーズは、セルロース分解酵素による処理にもかかわらず、原料である架橋多孔質セルロースビーズに対して強度が維持されているか或いはかえって高まっている上に、アフィニティーリガンドを固定化して吸着体とした場合に、目的吸着物質に対して優れた吸着能を示す。本発明に係る高機能多孔質セルロースビーズの強度の目安としては、例えば、20%圧縮応力として0.03MPa以上、0.4MPa以下程度、好ましくは0.08MPa以上、0.3MPa以下程度である。なお、20%圧縮応力とは、ビーズの沈降体積が20%減少するように圧縮した際においてビーズが示す応力をいうものとする。
【0059】
4. リガンドの固定化工程
本発明に係る高機能多孔質セルロースビーズは、高強度である上に、目的吸着物質と相互作用するリガンドを固定化して吸着体とした場合に、目的吸着物質に対する吸着能に優れている。本工程では、本発明に係る高機能多孔質セルロースビーズにリガンドを固定化することにより吸着体を得る。
【0060】
本発明における「リガンド」とは、目的吸着物質に対して特異的な親和力を有し、目的吸着物質と相互作用するアフィニティーリガンドをいう。例えば、目的吸着物質が抗体である場合、抗体に特異的に相互作用する抗原、タンパク質、ペプチド断片などを挙げることができる。 本発明に係る吸着体のために用いることができるリガンドは、本発明に係る吸着体を用いて精製すべき目的吸着物質に特異的な親和性を有するものであれば特に制限されない。
【0061】
本発明に係る高機能多孔質セルロースビーズにリガンドを固定化する方法は特に制限されず、常法を用いることができる。例えば、笠井献一ら著,「アフィニティークロマトグラフィー」東京化学同人,1991年の表8・1、表8・2、
図8・15に示されるような、臭化シアン法、トリクロロトリアジン法、エポキシ法、トレシルクロリド法、過ヨウ素酸酸化法、ジビニルスルホン酸法、ベンゾキノン法、カルボニルジイミダゾール法、アシルアジド法等を用いてアミノ基含有リガンドを固定化する方法;エポキシ法、ジアゾカップリング法等を用いて水酸基含有リガンドを固定化する方法;エポキシ法、トレシルクロリド法、ジビニルスルホン酸法等を用いて、チオール基含有リガンドを固定化する方法;アミノ化担体にカルボン酸含有リガンドやホルミル基含有リガンドを固定化する方法等の様々な固定化方法を挙げることができる。当該文献の全内容が、本願に参考のため援用される。
【0062】
本発明に係る吸着体は、精製用吸着体として用いることが可能であるが、近年注目されている抗体医薬品精製用吸着体としても用いることが可能である。抗体医薬品精製用吸着体などに用いられる場合のリガンドとしては、特に限定は無いが、例えば、抗体に特異性の高い抗原やタンパク質や、プロテインA、プロテインG、プロテインLやそれらの変異体、抗体結合活性を有するペプチド等のアミノ基含有リガンドを挙げることができる。
【0063】
特に、免疫グロブリン(IgG)を特異的に吸着できる吸着体として、プロテインA、プロテインG、またはそれらの変異体をリガンドとして多孔質担体に固定化した吸着体が注目されている。本発明に用いることができる上記プロテインA等には特に限定は無く、天然物や遺伝子組み換え物等を制限なく使用することができる。また、抗体結合ドメイン、その変異体、それらのオリゴマーを含むもの、融合蛋白質等であってもよい。かかるオリゴマーの重合数としては、2以上、10以下とすることができる。また、菌体抽出物もしくは培養上清より、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー及び膜分離技術を用いた分子量分画、分画沈殿法等の手法から選択される精製法を組合せ、および/または繰り返すことにより製造された、プロテインA等を用いることもできる。特に、国際公開特許公報WO2006/004067や米国特許公報US5151350、WO2003/080655、特開2006−304633、WO2010/110288に記載されている方法で得られたプロテインAであることが好ましい。これら公報の全内容が、本願に参考のため援用される。プロテインAを固定化した本発明の吸着体は、拡張性心筋症などの治療に使用できる治療用吸着体として利用することもできる。また、デキストラン硫酸などを固定化した本発明の吸着体は、高コレステロール血症治療用吸着体として利用することができる。
【0064】
リガンドを高機能多孔質セルロースビーズに導入する方法としては、前述の様々な固定化方法から選択することができるが、より好ましいのは多孔質粒子が含有するホルミル基と、リガンドのアミノ基との反応を利用して固定化を行う方法である。例えば、特開平1−278534号公報に記載の方法がある。当該公報の全内容が、本願に参考のため援用される。
【0065】
本発明の吸着体のリガンドの固定化量は特に制限されないが、例えば、高機能多孔質セルロースビーズ1mL当り、1mg以上、1000mg以下とすることができる。当該割合が1mg以上であれば、目的吸着物質に対する吸着量が大きくなるため好ましく、1000mg以下であれば、製造コストを抑制できるため好ましい。リガンドの導入量としては、高機能多孔質セルロースビーズ1mL当り、2mg以上がより好ましく、4mg以上がさらに好ましく、5mg以上が特に好ましく、また、500mg以下がより好ましく、250mg以下がさらに好ましく、200mg以下が特に好ましく、100mg以下が最も好ましい。
【0066】
本発明に係る吸着体は、本発明方法で製造された高機能多孔質セルロースビーズを用いて得られるものである。高機能多孔質セルロースビーズや吸着体の強度の評価法に特に限定は無いが、本願の試験例2に示すような圧縮応力測定により評価することができる。
【0067】
本発明は、架橋セルロースビーズにセルロース分解酵素を作用させるという極めて簡便な方法で、強度を維持しながら、あるいは強度を向上させつつ、多孔質セルロースビーズの表面開孔度を向上させたり、吸着体として用いた場合に、吸着量を大きくする効果がある。用いることができる吸着体に特に限定は無いが、医療用吸着体、中でも表面開孔度を向上できることから、サイズの大きい病因物質(LDLコレステロール等)を吸着除去する治療用吸着体に好適に用いることができる。また、各種クロマト担体、なかでも大径カラムに充填される産業用クロマト担体として用いることができる。特に近年需要が旺盛な抗体医薬品精製用吸着体として用いる場合に、その効果を発揮することができる。このような観点から、本発明の高機能多孔質ビーズにプロテインAやプロテインG、プロテインLを導入した吸着体として好適に用いることができる。
【0068】
本発明に係る吸着体を使って目的吸着物質を精製するには、当該吸着体と、当該目的吸着物質を含む溶液とを接触させればよい。接触方法は特に制限されず、目的吸着物質を含む溶液中に本発明に係る吸着体を添加してもよいし、上記のようにカラムに本発明の吸着体を充填し、目的吸着物質を含む溶液を通液することにより、本発明の吸着体に目的吸着物質を選択的に吸着させればよい。本発明に係る吸着体は強度が高いため、特にカラムに充填する場合、高速度での通液が可能になり、目的吸着物質を効率的に精製することができる。
【0069】
次に、目的吸着物質が選択的に吸着した本発明の吸着体を、濾過や遠心分離などにより溶液から分離する。この工程により、目的吸着物質とその他の物質を分離することができる。さらに、溶出液を用い、目的吸着物質を本発明吸着体から分離する。溶出液としては、例えば、pHが2.5以上、4.5以下程度の酸性緩衝液を用いることができる。
【0070】
本願は、2013年10月15日に出願された日本国特許出願第2013−215119号に基づく優先権の利益を主張するものである。2013年10月15日に出願された日本国特許出願第2013−215119号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例をあげてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではないことは言うまでもない。
【0072】
試験例1 走査型電子顕微鏡(SEM)観察
各製造例と実施例で得られたビーズを5倍体積量の30%エタノールで洗浄し、ビーズに含まれる液体部分を30%エタノールで置換した。次いで、50%エタノール、70%エタノール、90%エタノール、特級エタノール、特級エタノール、特級エタノールを順に用いてビーズを同様に処理し、液体部分をエタノールで置換した。さらにt−ブチルアルコール/エタノール=3/7の混合液を用いてビーズを同様に処理した。次いで、t−ブチルアルコール/エタノール=5/5、7/7、9/1、10/0、10/0、10/0の混合液を順に用いてビーズを処理し、液体部分をt−ブチルアルコールで置換した後、凍結乾燥した。表面観察の場合は、凍結乾燥を行なったビーズに金/パラジウムを蒸着源とした蒸着処理を行い、走査型電子顕微鏡(日立製作所「S−800」)にてSEM観察像を撮影した。割断面観察の場合は、凍結乾燥を行ったビーズを割ってビーズ内部を露出させ、四塩化オスミウム結晶を蒸着源とした蒸着処理を行った後、走査型電子顕微鏡(CarlZeiss社製「ULTRAplus」)にてSEM観察像を撮影した。
【0073】
試験例2 20%圧縮応力の測定
(1) 試料調製
試料ビーズに純水を加えて濃度約50体積%のスラリーを調製した。このスラリーの攪拌による均質化と、それに続く30分以上の減圧による脱気とからなる均質・脱気操作を3回繰り返して実施し、脱気スラリーを得た。この操作とは別に、処理対象を純水に変えて、前記均質・脱法操作を90分以上実施し、脱気水を得た。
【0074】
(2) ビーズ充填シリンジ調製
5mLのルアロック付ディスポーサブルシリンジ(HANKE SASS WOLF社製「商標名:NORM−JECT」)の先端にディスポーサブルフィルター(ザルトリウス社製,孔径:5.00μm,親水性)を取り付けた。シリンジのピストンを外し、シリンジ後端側から脱気水を約3mL投入し、この脱気水が0mLの標線を下回らないうちに、脱気スラリーを投入した。ディスポーザブルフィルターの二次側にアスピレーターを接続し、前記脱気スラリーを吸引した。ただし、ビーズがサクションドライ状にならないように注意し、ビーズの沈降体積+0.5mL程度まで液面が下がったところで吸引を停止した。以降の作業は、液面がビーズの沈降体積+0.5mLを下回らないよう、減圧脱気した純水を追加しながら実施した。振動を与えながら前記脱気スラリーを追加またはビーズを除去し、ビーズ充填高さを3mLの標線に合わせ、振動を与えてもビーズ充填高さが低下しないことを確認した。ビーズが舞い上がらないようゆっくりと脱気水を溢れるまで追加し、気泡が入らないように注意しながらピストンを挿入した。以下、このシリンジを「ビーズ充填シリンジ」という。
【0075】
(3) 測定
物性測定器(レオテック社製「FUDOH RHEO METER」)に10Kのロードセルを取り付け、変位速度のダイヤルを2cm/MINに合わせ、前記ビーズ充填シリンジをセットし、ピストンの変位を開始した。変位と応力との関係を記録し、下記式に基づき、20%圧縮応力を求めた。
【0076】
20%圧縮応力=(充填ビーズが20%圧縮された時の応力)−(ピストンがビーズ面に達する直前の応力)
試験例3 RT(Residence time)3分でのIgGの動的吸着量測定
(1) 溶液作成
下記A〜E液および中和液を調製し、使用前に脱気した。
【0077】
A液:シグマ社製「Phosphate buffered saline」とRO水(逆浸透膜精製水)を用いてpH7.4のPBS緩衝液を調製した。
【0078】
B液:酢酸、酢酸ナトリウムおよびRO水を用いてpH3.5の35mM酢酸ナトリウム水溶液を調製した。
【0079】
C液:酢酸とRO水を用いて1M酢酸水溶液を調製した。
【0080】
D液:ポリクロナール抗体(バクスター社製「ガンマガード」)と前記A液を用いて濃度1mg/mLのIgG水溶液を調製した。
【0081】
E液:尿素とRO水で6M尿素水溶液を調製した。
【0082】
中和液:トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとRO水で2Mのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン水溶液を調製した。
【0083】
(2) 充填、準備
架橋ビーズにリガンドを固定化したものを吸着体試料とした。また、移動相には、RO水にNaClを加えて調製した0.2M NaCl水溶液を用いた。カラムクロマトグラフィー用装置として、AKTAexplorer100(GEヘルスケア社製)を用い、直径0.5cm、高さ15cmのカラムに、吸着体試料を3mL入れ、線速230cm/hで0.2MのNaCl水溶液を15分通液して充填した。フラクションコレクターに15mLの採取用チューブをセットし、溶出液の採取用チューブについては、あらかじめ中和液を入れておいた。
【0084】
(3) IgG精製
前記カラムにA液を15mL通液し、次いでD液を150mL通液した。次いで、A液を21mL通液後、B液を12mL通液してIgGを溶出させた。次にC液を6mL、E液を6mL、A液を15mL通液した。なお各液の流速は1mL/分とし、吸着体との接触時間が3分となるようにした。
【0085】
(4) 動的吸着量
IgGが5%破過するまでに吸着体に吸着したIgG量と吸着体体積からRT3minでのIgGの動的吸着量を求めた。以下、当該動的吸着量を「5%DBC」と略記する。
【0086】
製造例1 架橋多孔質セルロースビーズの作製
(1) アルカリ水溶液の作製
和光純薬社製の水酸化ナトリウムと純水を用いて、33重量%の水酸化ナトリウム水溶液を作製し、温度を4℃に調整した。
【0087】
(2) セルロース分散液の作製
粉末状のセルロース(旭化成ケミカルズ社製「局方セルロース PH−F20JP」)76gと純水800gを混合し、攪拌しながら4℃に調整した。次いで設定温度と攪拌を維持しながら4℃に調整した前記アルカリ水溶液を400g投入し、30分間攪拌した。
【0088】
(3) 多孔質セルロースビーズの作製
4℃に調整されたセルロース分散液1276gと、4℃に調整したオルトジクロロベンゼン7801gと、4℃に調整したソルビタンモノオレエート(span80相当品)78gを混合し、ディスクタービン(Rushton turbine)翼2枚を取り付けた温調ジャケット付ステンレス容器内にて460rpm(Pv値:5.0kW/m
3)で4℃、15分間攪拌し、エマルションを作製した。設定温度と攪拌を維持しながら4℃に調整されたメタノール592gを凝固溶媒として加えた。また凝固溶媒の添加所要時間は5秒であった。その後、攪拌数と設定温度を維持しながら30分間攪拌した。加圧濾過を行なった後、洗浄液としてメタノール3000gを用いて洗浄を行い、次いで3000gの水で洗浄を行い、多孔質セルロースビーズを得た。得られた多孔質セルロースビーズは、
図1に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。
【0089】
(4) 架橋多孔質セルロースビーズの作製
得られた多孔質セルロースビーズを、38μmと90μmの篩を用いて湿式分級した後、ビーズ体積として20mLに相当する多孔質セルロースビーズと水とのスラリーを反応容器に入れた。ビーズを自然沈降させた後、過剰の水を抜き取ることにより、液量を22mLに調整した。グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX−314」)とアセトニトリルを体積比1:1で混合した架橋剤溶液22mLを投入し、一晩攪拌した。
【0090】
グラスフィルター上にて濾過を行った後、ビーズに前記架橋剤溶液を22mL通液し、再度濾過を行った。ビーズを反応容器に移し、前記架橋剤溶液で液量を22mLに調整した。次いで2Mの水酸化ナトリウム水溶液(純水と和光純薬社製の水酸化ナトリウムで作製)を18mL添加し、40℃で10分間攪拌した。次いで、芒硝(和光純薬社製)7.6gとグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX-314」)を3mL添加し、40℃で4時間50分攪拌した。濾過後、大量の純水で洗浄し、1回目架橋ビーズを得た。得られた1回目架橋ビーズと水のスラリーを反応容器に移し、ビーズを自然沈降させた後、過剰の水を抜き取ることにより、液量を22mLに調整した。これを40℃に加熱し、2Mの水酸化ナトリウム水溶液18mLと芒硝7.6gとグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX-314」)を3.0mL添加し、40℃で5時間攪拌した。濾過後、大量の純水で洗浄し、2回目架橋ビーズを得た。得られた2回目架橋ビーズと水のスラリーを反応容器に移し、ビーズを自然沈降させた後、過剰の水を抜き取ることにより、液量を29mLに調整した。これを40℃に加熱し、4Mの水酸化ナトリウム水溶液(純水と和光純薬社製の水酸化ナトリウムで作製)3.7mLと芒硝7.6gとエピクロロヒドリン2.6gを添加し、40℃で2時間攪拌した。濾過後、大量の純水で洗浄し、3回目架橋ビーズを得た。得られた架橋3回ビーズを容器に移し、純水を加えて、全量をセルロースビーズの10倍体積量とし、オートクレーブを用いて120℃で60分間加温した。室温まで放冷した後、ビーズの5倍体積量以上の蒸留水で洗浄し、オートクレーブ済みの架橋3回ビーズを得て、これを架橋セルロースビーズとした。このビーズ表面のSEM観察像を
図2に示す。また、このビーズの20%圧縮応力は0.252MPaであった。
【0091】
実施例1 高機能多孔質セルロースビーズの作製
製造例1で作製した架橋されたセルロースビーズを15分間吸引濾過し、濾過後のビーズ6gを反応容器に投入した。0.1wt%のクエン酸一水和物(和光純薬社製)水溶液と0.1wt%のクエン酸三ナトリウム(和光純薬社製)水溶液を混合してpH5.0の緩衝液を作製した。この緩衝液にセルラーゼ(東京化成工業社製,Aspergillus niger由来,Lot:YQ211−QM,比活性:22900u/g)が1wt%になるように添加し、溶解した。このセルラーゼが溶解したクエン酸系緩衝液400mLを前記反応容器へ投入し、45℃で1時間攪拌した。反応容器の内容物を濾過後、大量の水で洗浄することにより、高機能多孔質セルロースビーズを取得した。得られたビーズ表面のSEM観察像を
図3に示す。
【0092】
図2のとおり、セルラーゼ処理前のビーズには微細な表面孔がほとんど観察されなかったのに対して、
図3のとおり、セルラーゼ処理した本発明に係る高機能多孔質セルロースビーズには微細な表面孔が発現していた。また、得られたビーズの20%圧縮応力は0.256MPaであり、セルラーゼ処理にもかかわらず、強度が維持されていた。
【0093】
製造例2 架橋多孔質セルロースビーズの作製
製造例1における架橋剤溶液のアセトニトリルをイソプロピルアルコールに替えた以外は、製造例1と同様の方法で架橋セルロースビーズを得た。このビーズ表面のSEM観察像を
図4に示した。
【0094】
実施例2 高機能多孔質セルロースビーズの作製
架橋セルロースビーズとして製造例2で得られたものを用いること以外は、実施例1と同様の方法で、セルラーゼで処理された高機能多孔質セルロースビーズを得た。このビーズ表面のSEM観察像を
図5に示した。
【0095】
図4と
図5との比較においても、セルラーゼ処理前のビーズには微細な表面孔がほとんど観察されなかったのに対して、セルラーゼ処理した本発明に係る高機能多孔質セルロースビーズには微細な表面孔が発現していた。
【0096】
製造例3 架橋多孔質セルロースビーズの作製
製造例1と同様に作製された未架橋の多孔質セルロースビーズ20mLを計量し、40℃に温調した。その後、グラスフィルター上で濾過し、濾過後のビーズを反応容器に移した。この反応容器に40℃に温調した2M水酸化ナトリウム水溶液を12.2mL投入し、30分間攪拌した。次いで、水素化ホウ素ナトリウム(和光純薬社製)を24.4mg、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX-314」)を0.5mL投入し10分間40℃で攪拌した。その後、芒硝を7.6g、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX-314」)を6.1mL投入し、40℃で4時間50分攪拌した。濾過後、大量の純水で洗浄し、1回目架橋ビーズを得た。さらに、得られた1回目架橋ビーズに対して、上記の40℃への温調から大量の純水での洗浄までの架橋操作をもう1回繰り返し、架橋2回ビーズを得た。得られた2回目架橋ビーズと水のスラリーを反応容器に移し、ビーズを自然沈降させた後、過剰の水を抜き取ることにより、液量を29mLに調整した。これを40℃に加熱し、4Mの水酸化ナトリウム水溶液(純水と和光純薬社製の水酸化ナトリウムで作製)3.7mLと芒硝7.6gとエピクロロヒドリン2.6gを添加し、40℃で2時間攪拌した。濾過後、大量の純水で洗浄し、3回目架橋ビーズを得た。得られた3回目架橋ビーズを容器に移し、純水を加えて、全量をセルロースビーズの10倍体積量とし、オートクレーブを用いて120℃で60分間加温した。室温まで放冷した後、ビーズの5倍体積量以上の蒸留水で洗浄し、オートクレーブ済みの架橋3回ビーズを得て、これを架橋セルロースビーズとした。このビーズの割断面のSEM観察像を
図6に示した。得られたビーズの20%圧縮応力は0.084MPaであった。
【0097】
実施例3 高機能多孔質セルロースビーズの作製
架橋セルロースビーズを製造例3で得られたものを用いること以外は、実施例1と同様の方法で、セルラーゼで処理された高機能多孔質セルロースビーズを得た。このビーズの割断面のSEM観察像を
図7に示した。
【0098】
図6と
図7のとおり、ビーズの内部において、セルラーゼ処理前のビーズは骨格が比較的太く細孔容量が少ないといえるのに対して、セルラーゼ処理した本発明に係る高機能多孔質セルロースビーズでは骨格が比較的細く、細孔容量が増大しているといえる。また、驚くべきことに、このように骨格がセルラーゼ処理により細くなっているにもかかわらず、得られた高機能多孔質セルロースビーズの20%圧縮応力は0.140MPaであり、強度はかえって向上されていた。
【0099】
製造例4 吸着体の作製
(1) プロテインA調製工程
国際公開WO2011/118699号の実施例を参照して、改変型プロテインAとして、国際公開WO2011/118699号記載のアルカリ耐性を有する改変Cドメイン5連結体を調製した。
【0100】
(2) プロテインA固定化工程
製造例3で得られた架橋多孔質セルロースビーズ5mLを遠沈管に入れ、RO水を加えて、全量を7.5mLとした。これを25℃にてミックスローター(アズワン社製「ミックスローターMR−3」)上に取り付けた後、撹拌した。次に、過ヨウ素酸ナトリウムをRO水に溶解して得られた12.84mg/mL過ヨウ素酸ナトリウム水溶液を2.5mL加え、25℃で1時間撹拌した。反応後、グラスフィルター(シバタ社製「11GP100」)上で、濾液の電気伝導度が1μS/cm以下となるまでRO水で洗浄し、ホルミル基含有架橋多孔質セルロースビーズを得た。洗浄濾液の電気伝導度は、導電率計(EUTECH INSTRUMENTS社製「ECTester10 Pure+」)で測定した。
【0101】
得られたホルミル基含有架橋多孔質セルロースビーズ5mLをグラスフィルター(シバタ社製「11GP100」)に移し、クエン酸三ナトリウム二水和物をRO水に溶解して得られた0.25Mクエン酸三ナトリウム水溶液を15mL以上通液して、ビーズ内の液体を前記クエン酸三ナトリウム水溶液に置換した。前記0.25Mクエン酸三ナトリウム水溶液を用い、置換後のホルミル基含有架橋多孔質セルロースビーズを、遠沈管に入れた。ホルミル基含有多孔質セルロースビーズを沈降させた後、総体積量7.5mLとなるように上清を除去して調整した。ここに、前記改変型プロテインAが入った水溶液(プロテインAの濃度:66.67mg/mL)を1.50g加えた後、0.08Nの水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整した。6℃にて23時間、ミックスローター(アズワン社製「ミックスローターMR−3」)を用い、攪拌させながら反応した。
【0102】
その後、反応液のpHが5になるまで、クエン酸一水和物をRO水に溶解して得られた2.4Mクエン酸水溶液を加え、引き続き6℃で4時間ミックスローターを用いて攪拌した。続いて、ジメチルアミンボランをRO水に溶解して得られた5.5重量%ジメチルアミンボラン水溶液を1.13mL加えて、6℃で1時間攪拌した。その後、反応温度を25℃に上昇させ、25℃で18時間攪拌しながら反応した。
【0103】
反応後のビーズをグラスフィルター(シバタ社製「11GP100」)上で、ビーズの3倍体積量のRO水で洗浄した。次いで、クエン酸一水和物をRO水に溶解して得られた0.1Mクエン酸一水和物を3倍体積量加え、当該ビーズに0.1Mクエン酸一水和物を加えて全量を30mL以上とし、遠沈管に入れ、25℃で30分間攪拌しながら、酸洗浄を行った。
【0104】
酸洗浄後、ビーズをグラスフィルター(シバタ社製「11GP100」)上で、ビーズの3倍体積量のRO水で洗浄し、次いで、水酸化ナトリウムをRO水に溶解して得られた0.05M水酸化ナトリウムと、硫酸ナトリウムをRO水に溶解して得られた1M硫酸ナトリウム水溶液を、それぞれ3倍体積量加えた。次に、当該ビーズに、0.05M水酸化ナトリウムと1M硫酸ナトリウム水溶液を加えて全量を30mL以上とし、遠沈管に入れ、室温で30分間攪拌しながら、アルカリ洗浄を行った。
【0105】
アルカリ洗浄後、ビーズをグラスフィルター(シバタ社製「11GP100」)上で、ビーズの20倍体積量のRO水で洗浄した。次に、クエン酸三ナトリウム二水和物をRO水に溶解して得られた0.1Mクエン酸ナトリウム水溶液をビーズの3倍量加え、濾液が中性になっていることを確認した後、RO水を用いて、洗浄濾液の電導度が1μS/cm以下になるまで洗浄することにより、プロテインAを固定化した吸着体を得た。洗浄濾液の電導度は導電率計(EUTECH INSTRUMENTS社製「ECTester10 Pure+」)で測定した。この吸着体のRT3minでの5%DBCは22.0g/Lであった。
【0106】
実施例4 吸着体の作製
高機能多孔質セルロースビーズを実施例3で得られたものを用いること以外は製造例4と同様に吸着体を得た。この吸着体のRT3minでの5%DBCは24.4g/Lであった。かかる結果のとおり、通常の吸着体に比べ、セルラーゼ処理を経た高機能多孔質セルロースビーズを含む吸着体の吸着性能は改善された。