(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記式(1)で表されるエステル化合物において、Rは炭素数6乃至16のアルキル基、炭素数6乃至10のシクロアルキルアルキル基のいずれかを示し、Xは水素原子、炭素数1乃至8のアルキル基、炭素数1乃至8のアルコキシ基のいずれかを示し、Yは水素原子、炭素数1乃至8のアルキル基、炭素数1乃至8のアルコキシ基のいずれかである、請求項1に記載の組成物。
前記(a)成分が、フタリド化合物、フルオラン化合物、スチリノキノリン化合物、ジアザローダミンラクトン化合物、ピリジン化合物、キナゾリン化合物、ビスキナゾリン化合物からなる群より選ばれる化合物である、請求項1にまたは2に記載の組成物。
前記成分(b)および前記成分(c)の構成比が、質量基準で、前記成分(a)1部に対して、それぞれ、0.1〜50部、および1〜800部である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の感温変色性色彩記憶性組成物及びそれを用いた感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料(色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物及びそれを用いた色彩記憶性を有する可逆熱変色性マイクロカプセル顔料)のヒステリシス特性を
図1の色濃度−温度曲線で表されるグラフに基づき説明する。
【0011】
図1において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度は矢印に沿って変化する。ここで、Aは完全消色状態に達する温度T
4(以下、完全消色温度と称す)における濃度を示す点であり、Bは完全発色状態を保持できる温度T
3(以下、消色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Cは完全消色状態を保持できる温度T
2(以下、発色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Dは完全発色状態に達する温度T
1(以下、完全発色温度と称す)における濃度を示す点である。
【0012】
変色温度領域はT
1とT
4間の温度域であり、T
2とT
3の間の温度域が実質変色温度域、即ち、着色状態或いは消色状態のいずれかの状態を保持できる温度域である。
【0013】
具体的には、消色状態にある感温変色性色彩記憶性組成物を、発色開始温度(T
2)以下の温度まで冷却することにより発色状態への変化を開始させることができ、完全発色温度(T
1)以下の温度に冷却することにより完全な発色状態とすることができ、感温変色性色彩記憶性組成物の温度を消色開始温度(T
3)まで上げない限り、その状態を維持することができる。
【0014】
また、発色状態にある感温変色性色彩記憶性組成物に摩擦等により生じた熱を加え、消色開始温度(T
3)以上の温度まで加熱することにより消色状態への変化を開始させることができ、完全消色温度(T
4)以上の温度まで加熱することにより完全な消色状態とすることができ、感温変色性色彩記憶性組成物の温度を発色開始温度(T
2)まで下げない限り、その状態を維持することができる。
【0015】
また、線分EFの長さが変色のコントラストを示す尺度であり、線分HGの長さがヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ヒステリシス幅といい、ΔHで表す)であり、このΔH値が大きい程、変色前後の各状態の保持が容易である。変色前後の各状態の保持できるΔH値は8℃以上であり、具体的には8℃乃至80℃の範囲である。ここで、T
4とT
3の差、或いは、T
2とT
1の差であるΔtが変色の鋭敏性を示す尺度であり、好ましくは1℃乃至15℃の範囲、より好ましくは1℃乃至10℃の範囲が実用的である。
【0016】
更に、変色前後の両状態のうち常温域では特定の一方の状態のみ存在させるためには、完全消色温度(T
4)が好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上であり、且つ、発色開始温度(T
2)が好ましくは0℃以下、より好ましくは−5℃以下、さらに好ましくは−10℃以下である。
【0017】
以下に(a)、(b)、および(c)の各成分について具体的に化合物を例示する。
【0018】
本発明の(a)成分、即ち電子供与性呈色性有機化合物は、色を決める成分であって、顕色剤である(b)成分に電子を供与し、発色する化合物である。
【0019】
本発明における(a)成分、即ち電子供与性呈色性有機化合物としては、フタリド化合物、フルオラン化合物、スチリノキノリン化合物、ジアザローダミンラクトン化合物、ピリジン化合物、キナゾリン化合物、ビスキナゾリン化合物等が挙げられ、これらのうちフタリド化合物およびフルオラン化合物が好ましい。フタリド化合物としては、例えばジフェニルメタンフタリド化合物、フェニルインドリルフタリド化合物、インドリルフタリド化合物、ジフェニルメタンアザフタリド化合物、フェニルインドリルアザフタリド化合物、およびそれらの誘導体などが挙げられ、これらの中でも、フェニルインドリルアザフタリド化合物、ならびにそれらの誘導体が好ましい。また、フルオラン化合物としては、例えば、アミノフルオラン化合物、アルコキシフルオラン化合物、およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0020】
以下に本発明に好ましく用いられる電子供与性呈色性有機化合物を例示する。
3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、
3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、
3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、
3,3−ビス(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−4−アザフタリド、
3−〔2−エトキシ−4−(N−エチルアニリノ)フェニル〕−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、
3,6−ジフェニルアミノフルオラン、
3,6−ジメトキシフルオラン、
3,6−ジ−n−ブトキシフルオラン、
2−メチル−6−(N−エチル−N−p−トリルアミノ)フルオラン、
3−クロロ−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、
2−メチル−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、
2−(2−クロロアミノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、
2−(2−クロロアニリノ)−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、
2−(3−トリフルオロメチルアニリノ)−6−ジエチルアミノフルオラン、
2−(N−メチルアニリノ)−6−(N−エチル−N−p−トリルアミノ)フルオラン、
1,3−ジメチル−6−ジエチルアミノフルオラン、
2−クロロ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、
2−アニリノ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、
2−アニリノ−3−メトキシ−6−ジエチルアミノフルオラン、
2−アニリノ−3−メチル−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、
2−アニリノ−3−メトキシ−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、
2−キシリジノ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、
1,2−ベンツ−6−ジエチルアミノフルオラン、
1,2−ベンツ−6−(N−エチル−N−イソブチルアミノ)フルオラン、
1,2−ベンツ−6−(N−エチル−N−イソアミルアミノ)フルオラン、
2−(3−メトキシ−4−ドデコキシスチリル)キノリン、
スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−d)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3′−オン、
2−(ジエチルアミノ)−8−(ジエチルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、
2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(ジ−n−ブチルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、
2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(ジエチルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、
2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(N−エチル−N−i−アミルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、
2−(ジブチルアミノ)−8−(ジペンチルアミノ)−4−メチル−スピロ[5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)−イソベンゾフラン]−3−オン、
3−(2−メトキシ−4−ジメチルアミノフェニル)−3−(1−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、
3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、
3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−ペンチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、
4,5,6,7−テトラクロロ−3−[4−(ジメチルアミノ)−2−メチルフェニル]−3−(1−エチル−2−メチル−1H−インドール−3−イル)−1(3H)−イソベンゾフラノン、
3′,6′−ビス〔フェニル(2−メチルフェニル)アミノ〕−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9′−〔9H〕キサンテン]−3−オン、
3′,6′−ビス〔フェニル(3−メチルフェニル)アミノ〕−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9′−〔9H〕キサンテン]−3−オン、
3′,6′−ビス〔フェニル(3−エチルフェニル)アミノ〕−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9′−〔9H〕キサンテン]−3−オン、
4−[2,6−ビス(2−エトキシフェニル)−4−ピリジニル]−N,N−ジメチルベンゼンアミン、
2−(4′−ジメチルアミノフェニル)−4−メトキシ−キナゾリン、
4,4′−(エチレンジオキシ)−ビス〔2−(4−ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕
【0021】
なお、フルオラン化合物としては、キサンテン環を形成するフェニル基に置換基を有する化合物の他、キサンテン環を形成するフェニル基に置換基を有すると共にラクトン環を形成するフェニル基にも置換基(例えば、メチル基等のアルキル基、クロロ基等のハロゲン原子)を有する青色や黒色を呈する化合物であってもよい。
【0022】
本発明の(b)成分、即ち電子受容性化合物は、(a)成分から電子を受け取り、(a)成分の顕色剤として機能する化合物である。
【0023】
電子受容性化合物としては、活性プロトンを有する化合物群及びその誘導体、偽酸性化合物群(酸ではないが、組成物中で酸として作用して(a)成分を発色させる化合物群)、電子空孔を有する化合物群等から選択される化合物があり、これらの中でも活性プロトンを有する化合物群から選択される化合物が好ましい。
【0024】
活性プロトンを有する化合物及びその誘導体としては、例えばフェノール性水酸基を有する化合物及びその金属塩、カルボン酸及びその金属塩、好ましくは、芳香族カルボン酸、炭素数2〜5の脂肪族カルボン酸及びそれらの金属塩、酸性リン酸エステル及びその金属塩、並びにアゾ−ル系化合物及びその誘導体、1、2、3−トリアゾール及びその誘導体が挙げられ、これらの中でも、有効な熱変色特性を発現させることができることから、フェノール性水酸基を有する化合物が好ましい。
【0025】
フェノール性水酸基を有する化合物はモノフェノール化合物からポリフェノール化合物まで広く含まれ、更にビス型、またはトリス型フェノール等およびフェノール−アルデヒド縮合樹脂等もこれに含まれる。フェノール性水酸基を有する化合物の中でも、少なくともベンゼン環を2以上有するもの、またはビスヒドロキシフェニルスルフィド構造を有するものが好ましい。また、これら化合物は置換基を有していてもよく、置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等が挙げられる。
【0026】
活性プロトンを有する化合物が金属塩である場合、その金属塩が含む金属としては、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、亜鉛、ジルコニウム、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、コバルト、スズ、銅、鉄、バナジウム、チタン、鉛およびモリブデン等が挙げられる。フェノール性水酸基を有する化合物としては、モノフェノール類からポリフェノール類があり、さらにその置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等を有するもの、及びビス型、トリス型フェノール等、フェノール−アルデヒド縮合樹脂等が挙げられる。又、フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩であってもよい。
【0027】
以下にフェノール性水酸基を有する化合物具体例を挙げる。
フェノール、o−クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ドデシルフェノール、n−ステアリルフェノール、p−クロロフェノール、p−ブロモフェノール、o−フェニルフェノール、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸n−オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ノナン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ドデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,3−ジメチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,7−ジメチルオクタン、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ペプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ノナン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−デカン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ドデカン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン等がある。
【0028】
本発明の(c)成分、即ち前記した(a)成分及び(b)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体として、特定のエステル化合物を適用することにより、様々な変色温度の感温変色性色彩記憶性組成物を得ることができる。
本発明に用いられるエステル化合物は、式(1):
【化2】
で示される化合物であって、エステル結合−C(=O)−O−を2個有するジエステル化合物であるが、フタル酸エステルのような、対象構造を有する通常のジエステル化合物と異なり、二つのエステル結合の間に位置する芳香環を基準とすると、非対称な構造を有している。
【0029】
式中のRは炭素数4乃至22のアルキル基、炭素数4乃至22のアルケニル基、炭素数6乃至11のシクロアルキルアルキル基、炭素数5乃至7のシクロアルキル基のいずれかであり、好ましくは、炭素数6乃至16のアルキル基、炭素数6乃至10のシクロアルキルアルキル基、より好ましくは、炭素数6乃至14のアルキル基、炭素数6乃至8のシクロアルキルアルキル基である。
【0030】
式中のXは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子のいずれかであり、好ましくは、水素原子、炭素数1乃至8のアルキル基、炭素数1乃至8のアルコキシ基のいずれかであり、より好ましくは、水素原子、炭素数1乃至3のアルキル基、炭素数1乃至3のアルコキシ基のいずれかである。それぞれのXは同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
式中のYは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子のいずれかであり、好ましくは、水素原子、炭素数1乃至8のアルキル基、炭素数1乃至8のアルコキシ基のいずれかであり、より好ましくは、水素原子、炭素数1乃至3のアルキル基、炭素数1乃至3のアルコキシ基のいずれかである。それぞれのYは同一であっても異なっていてもよい。
【0032】
式中のnは0又は1を示し、好ましくは0である。
【0033】
式(1)で示されるエステル化合物は任意の方法で製造することができるが、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸誘導体のエステル(パラベン類化合物)のフェノール性水酸基を更にエステル化し、新たなエステル基を生成させて得ることができる。
【0034】
式(1)で示されるエステル化合物のうち、好ましい化合物を具体的に以下に例示する。
【化3】
【0041】
本発明による感温変色性色彩記憶性組成物は、特定のエステル化合物を含むことによって、従来のエステル化合物を用いた組成物と同程度以上の広いヒステリシス幅を達成することができ、変色温度域より低温側の色と高温側の色とのいずれかを選択的に保持できる機能に優れ、様々な用途への応用性に優れる。
【0042】
式(1)で表される化合物以外の化合物を含んでなる場合、その含有量は、(c)成分全質量に対して、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは2〜25質量部、更に好ましくは3〜20質量部である。
【0043】
本発明における(a)、(b)、および(c)成分の構成割合は、色濃度、変色温度、変色形態や各成分の種類に左右されるが、一般的に所望の特性が得られる成分比は、(a)成分1部に対して、(b)成分を好ましくは0.1〜50部、より好ましくは0.5〜20部、更に好ましくは2〜20部、(c)成分を好ましくは1〜800部、より好ましくは5〜200部、更に好ましくは10〜200部の範囲である(これらの割合はいずれも質量部である)。
【0044】
又、本発明における(a)、(b)、および(c)成分は各々2種以上の混合であってもよい。本発明における(c)成分は、式(1)を満たす化合物を二種以上含んでなるものであってもよい。また、前記(c)成分は、式(1)以外のエステル、アルコール、カルボン酸、ケトン及びアミド等、従来より公知の、(a)成分及び(b)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体と組み合わせて用いることもできる。
【0045】
本発明において、(a)、(b)、および(c)の三成分は、マイクロカプセルに内包させて感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を形成することもでき、カプセル膜壁で保護することによって酸性物質、塩基性物質、過酸化物等の化学的に活性な物質又は他の溶剤成分と接触しても、その機能を低下させることがないことは勿論、耐熱安定性を向上させることができる。
更にマイクロカプセル顔料の表面には、目的に応じて二次的な樹脂被膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
【0046】
マイクロカプセル顔料の平均粒子径が小さいと、インキ組成物、塗料、或いは熱可塑性樹脂中へのブレンドに際して、分散安定性や加工適性が改善される傾向にあり、また、顔料を微粒子化することにより、ΔH値を三成分の組成物のΔHに対して大きくすることができる。一方、平均粒子径が大きいと、高濃度の発色性を示すことができる傾向にある。このため、マイクロカプセル顔料は、平均粒子径が0.1〜50μmであることが好ましく、0.1〜30μmであることがより好ましく、0.5〜20μmであることがより好ましい。マイクロカプセル顔料の平均粒子径がこの範囲内にあることが実用性が向上する。
なお、粒子径、粒度分布の測定はレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置〔株式会社堀場製作所製;LA−300〕を用いて測定し、その数値を基に平均粒子径(メジアン径)を体積基準で算出することができる。
【0047】
マイクロカプセル顔料を構成する内包物と壁膜との構成比は、内包物:壁膜=7:1〜1:(質量比)の範囲であることが好ましく、その比率が前記した範囲内にあることにより、発色時の色濃度及び鮮明性の低下を防止することができる。より好適には、内包物:壁膜=6:1〜1:1(質量比)である。
【0048】
マイクロカプセル化の方法には、従来より公知のイソシアネート系の界面重合法、メラミン−ホルマリン系等を用いたin Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり、用途に応じて適宜選択される。
なお、マイクロカプセル顔料には、一般の染顔料(非熱変色性)を配合し、有色(1)から有色(2)への変色挙動を呈することもできる。
【0049】
感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、必要により添加剤を含むビヒクル中に分散させてインキ組成物とすることで、(i)スクリーン印刷、オフセット印刷、プロセス印刷、グラビヤ印刷、コーター、タンポ印刷等に用いられる印刷インキ、(ii)刷毛塗り、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装、流し塗り、ローラー塗り、浸漬塗装等に用いられる塗料、(iii)マーキングペン用、ボールペン用、万年筆用、筆ペン用等の筆記具用インキ、(iv)塗布具用インキ、(v)絵の具、(vi)化粧料、(vii)繊維用着色液等に利用することができる。
【0050】
添加剤としては、樹脂、架橋剤、硬化剤、乾燥剤、可塑剤、粘度調整剤、分散剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、溶解助剤、沈降防止剤、平滑剤、ゲル化剤、消泡剤、つや消し剤、浸透剤、pH調整剤、発泡剤、カップリング剤、保湿剤、防かび剤、防腐剤、防錆剤等が挙げられる。
【0051】
本発明によるインキ組成物(以下、簡単に「インキ」ということがある)を、筆記具用インキ組成物として用いる場合、それに含まれるビヒクルとしては、有機溶剤を含む油性ビヒクル、或いは、水と、必要により有機溶剤を含む水性ビヒクルが挙げられる。
本発明において用いることができる有機溶剤としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、スルフォラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等を挙げることができる。
【0052】
インキとしては、ビヒクル中に剪断減粘性付与剤を含む剪断減粘性インキ、ビヒクル中に水溶性高分子凝集剤を含み、顔料を緩やかな凝集状態に懸濁させた凝集性インキを挙げることができる。
インキが剪断減粘性付与剤を含むことにより、顔料の凝集、沈降を抑制することができると共に、筆跡の滲みを抑制することができるため、良好な筆跡を形成できる。
更に、インキをボールペンに充填する場合、不使用時のボールとチップの間隙からのインキ漏れを防止したり、筆記先端部を上向き(正立状態)で放置した場合のインキの逆流を防止することができる。
【0053】
剪断減粘性付与剤としては、キサンタンガム、ウェランガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100万乃至800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万〜15万の重合体、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する増粘多糖類、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体、無機質微粒子、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸アミド等のHLB値が8〜12のノニオン系界面活性剤、ジアルキル又はジアルケニルスルホコハク酸の塩類。N−アルキル−2−ピロリドンとアニオン系界面活性剤の混合物、ポリビニルアルコールとアクリル系樹脂の混合物を例示できる。
【0054】
本発明に用いることができる水溶性高分子凝集剤としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、水溶性多糖類等が挙げられる。
【0055】
水溶性多糖類としてはトラガントガム、グアーガム、プルラン、サイクロデキストリン、水溶性セルロース誘導体等が挙げられ、水溶性セルロース誘導体の具体例としてはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
【0056】
高分子凝集剤と共に、側鎖にカルボキシル基を有する櫛型高分子分散剤及び有機窒素硫黄化合物を併用することにより、高分子凝集剤によるマイクロカプセル顔料のゆるい凝集体の分散性を向上させることができる。
【0057】
側鎖にカルボキシル基を有する櫛型高分子分散剤としては、側鎖に複数のカルボキシル基を有する櫛型高分子化合物であれば特に限定されるものではないが、側鎖に複数のカルボキシル基を有するアクリル高分子化合物が好適であり、日本ルーブリゾール社製の商品名:ソルスパース43000を例示できる。
【0058】
有機窒素硫黄化合物は、インキを筆記具などに充填して実用に供する際、振動によるマイクロカプセル顔料の沈降をいっそう抑制する。これは、マイクロカプセル顔料のゆるい凝集体を側鎖にカルボキシル基を有する櫛型高分子分散剤によって分散させる分散性をより向上させるものである。
【0059】
有機窒素硫黄化合物としては、チアゾール系化合物、イソチアゾール系化合物、ベンゾチアゾール系化合物、ベンゾイソチアゾール系化合物から選ばれる化合物が用いられる。
【0060】
有機窒素硫黄化合物として具体的には、2−(4−チアゾイル)−ベンズイミダゾール(TBZ)、2−(チオシアネートメチルチオ)−1,3−ベンゾチアゾール(TCMTB)、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンから選ばれる一種又は二種以上の化合物が用いられ、好ましくは2−(4−チアゾイル)−ベンズイミダゾール(TBZ)、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンから選ばれる一種又は二種以上の化合物が用いられる。
【0061】
有機窒素硫黄化合物としては、株式会社パーマケム・アジア製、商品名:トップサイド88、同133、同170、同220、同288、同300、同400、同500、同600、同700Z、同800、同950、北興産業(株)製、商品名:ホクスターHP、同E50A、ホクサイドP200、同6500、同7400、同MC、同369、同R−150を例示できる。
【0062】
なお、側鎖にカルボキシル基を有する櫛型高分子分散剤と、有機窒素硫黄化合物の質量比率は1:1〜1:10であることが好ましく、1:1〜1:5であることがより好ましい。前記した範囲を満たすことにより、マイクロカプセル顔料のゆるい凝集体の分散性、及び、振動によるマイクロカプセル顔料の沈降抑制を十分に発現させることができる。
【0063】
更に、水溶性樹脂を添加することにより、筆跡の紙面への顔料固着性や粘性をインキに付与することができる。この水溶性樹脂は、前述の側鎖にカルボキシル基を有する櫛型高分子分散剤と有機窒素硫黄化合物を含むインキ中でマイクロカプセル顔料の安定性をいっそう向上させる効果も有する。
【0064】
水溶性樹脂としては、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等が挙げられ、好ましくはポリビニルアルコールが用いられる。
【0065】
更に、ポリビニルアルコールの中でも、けん化度が70〜89モル%の部分けん化度型ポリビニルアルコールは、インキのpHがが酸性域でも可溶性に富むため、より好適に用いられる。
水溶性樹脂の添加量としては、インキ中に0.3〜3.0質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%の範囲で添加される。
【0066】
また、インキをボールペンに充填して用いる場合は、オレイン酸等の高級脂肪酸、長鎖アルキル基を有するノニオン性界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル、チオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルメチルエステル)やチオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルエチルエステル)等のチオ亜燐酸トリエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、或いは、それらの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカノールアミン塩等の潤滑剤を添加してボール受け座の摩耗を防止することが好ましい。
【0067】
更に、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール及び/又はその塩を含有させることにより、インキのpHが酸性或いはアルカリ領域であっても、一度凍結したインキが再度解凍された後に生じるマイクロカプセル顔料の分散不良や凝集を抑制でき、インキの粘度の上昇やそれに伴う筆跡カスレや淡色化を防止することができると共に、ボールペンに用いる場合はボールの腐食を防止することもできる。
【0068】
その他、必要に応じて(i)アクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等の、紙面へのインキの固着性や粘性を付与する樹脂、(ii)炭酸ナトリウム、燐酸ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等のpH調整剤、(iii)ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、サポニン等の防錆剤、(iv)フェノール、1、2−ベンズチアゾリン3−オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン等の防腐剤或いは防黴剤、(v)尿素、ノニオン系界面活性剤、還元又は非還元デンプン加水分解物、トレハロース等のオリゴ糖類、ショ糖、サイクロデキストリン、ぶどう糖、デキストリン、ソルビット、マンニット、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤、(vi)消泡剤、(vii)分散剤、(viii)インキの浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン系の界面活性剤を添加してもよい。
【0069】
インキの全質量に対し、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜40質量%、さらに好ましくは10〜30質量%の感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を含有することができる。マイクロカプセル顔料の含有量が上記の範囲であることにより、望ましい発色濃度が達成でき、更にインキ流出性の低下を防止することができる。
【0070】
本発明によるインキ組成物を収容することができる筆記具について説明する。一実施形態において、筆記具は、インキを収容した軸筒及び軸筒内のインキを導出するペン体を備えてなる。ペン体としては、マーキングペン体、ボールペン体、筆ペン体等が挙げられる。マーキングペン体としては、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ等のマーキングチップが挙げられる。ボールペン体としては、ボールペンチップが挙げられる。筆ペン体としては、繊維相互を長手方向に密接状に束ねた繊維集束体、連続気孔を有するプラスチックポーラス体、合成樹脂繊維の熱融着乃至樹脂加工体、軟質性樹脂乃至エラストマーの押出成形加工体が挙げられる。
【0071】
以下に、本発明によるインキ組成物をボールペン、またはマーキングペンに使用する場合についてより詳細に説明する。
【0072】
本発明によるインキ組成物をボールペンに充填する場合、ボールペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒内に剪断減粘性インキを充填したインキ収容管を有し、該インキ収容管はボールを先端部に装着したボールペンチップに連通しており、さらに収容管内のインキの端面には逆流防止用の液栓が密接しているボールペンを例示できる。
【0073】
ボールペンチップについて更に詳しく説明すると、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属又はプラスチック製チップ内部に樹脂製のボール受け座を設けたチップ、或いは、チップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を適用できる。
又、ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック、樹脂、ゴム等を材料とするものを用いることができる。ボールの直径は、好ましくは0.3〜2.0mm、より好ましくは0.3〜1.5mm、さらに好ましくは0.3〜1.0mmである。
【0074】
インキを収容するインキ収容管は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体、金属製管状体が用いられる。
【0075】
インキ収容管にはチップを直接連結する他、接続部材を介してインキ収容管とチップを連結してもよい。
【0076】
尚、インキ収容管はレフィルの形態として、レフィルを樹脂製、金属製等の軸筒内に収容するものでもよいし、先端部にチップを装着した軸筒自体をインキ収容体として、軸筒内に直接インキを充填してもよい。
【0077】
ボールペンは、ボールペンチップを覆うキャップを備えていてるものであってもよいし、キャップを備えていない出没式ボールペンであってもよい。
【0078】
インキを出没式のボールペンに収容する場合、出没式ボールペンの構造、形状は特に限定されるものではなく、ボールペンレフィルに設けられた筆記先端部が外気に晒された状態で軸筒内に収納されており、出没機構の作動によって軸筒開口部から筆記先端部が突出する構造であれば全て用いることができる。
【0079】
出没式ボールペンは、例えば、ノック式ボールペン、回転式ボールペン、スライド式ボールペン等に分類することができる。
【0080】
ノック式ボールペンは、軸筒後端部や軸筒側面にノック部を有し、該ノック部の押圧により、ボールペンチップを軸筒前端開口部から出没させる構成、或いは、軸筒に設けたクリップ部を押圧することにより、ボールペンチップを軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
【0081】
回転式は、軸筒後部に回転部を有し、該回転部を回すことによりボールペンチップを軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
【0082】
スライド式ボールペンは、軸筒側面にスライド部を有し、該スライドを操作することによりボールペンチップを軸筒前端開口部から出没させる構成、或いは、軸筒に設けたクリップ部をスライドさせることにより、ボールペンチップを軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
【0083】
出没式ボールペンは軸筒内に複数のボールペンレフィルを収容してなり、出没機構の作動によっていずれかのボールペンレフィルの筆記先端部が軸筒前端開口部から出没する複合タイプの出没式ボールペンであってもよい。
【0084】
インキ収容管に収容されたインキの後端の端面にはインキ逆流防止体が充填されるのが一般的である。
【0085】
インキ逆流防止体組成物は、一般に不揮発性液体又は難揮発性液体からなる。具体的には、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α−オレフィン、α−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等があげられ、一種又は二種以上を併用することもできる。
【0086】
不揮発性液体及び/又は難揮発性液体は、増粘剤を添加して好適な粘度まで増粘させることが好ましく、増粘剤としては表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイトやモンモリロナイトなどの粘土系増粘剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸、トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物、セルロース系化合物等を挙げることができる。
更に、液状のインキ逆流防止体と、固体のインキ逆流防止体を併用することもできる。
【0087】
本発明によるインキ組成物をマーキングペンに充填する場合、マーキングペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒内に繊維集束体からなるインキ吸蔵体を内蔵し、毛細間隙が形成された繊維加工体からなるマーキングペンチップを直接或いは中継部材を介して軸筒に装着してなり、インキ吸蔵体とチップが連結されてなるマーキングペンのインキ吸蔵体に凝集性インキを含浸させたマーキングペンや、チップの押圧により開放する弁体を介してチップとインキ収容管とを配置し、該インキ収容管内にインキを直接収容させたマーキングペン等を例示できる。
【0088】
チップは、繊維の樹脂加工体、熱溶融性繊維の融着加工体、フェルト体等の従来より汎用の気孔率が概ね30〜70%の範囲から選ばれる連通気孔の多孔質部材であり、一端を砲弾形状、長方形状、チゼル形状等の目的に応じた形状に加工して実用に供される。
【0089】
インキ吸蔵体は、捲縮状繊維を長手方向に集束させたものであり、プラスチック筒体やフィルム等の被覆体に内在させて、気孔率が概ね40〜90%の範囲に調整して構成される。
【0090】
また、弁体は、従来より汎用のポンピング式形態が使用できるが、筆圧により押圧開放可能なバネ圧に設定したものが好適である。
【0091】
更に、ボールペンやマーキングペンの形態は前述したものに限らず、相異なる形態のチップを装着させたり、相異なる色調のインキを導出させるペン先を装着させた両頭式筆記具であってもよい。
【0092】
なお、本発明によるインキを収容した筆記具を用いて被筆記面に筆記して得られる筆跡は、加熱具又は冷却具により変色させることができる。
【0093】
加熱具としては、抵抗発熱体を装備した通電加熱変色具、温水等を充填した加熱変色具、ヘアドライヤーの適用が挙げられるが、好ましくは、簡便な方法により変色可能な手段として摩擦部材が用いられる。特に、擦過時に実質的に磨耗しない弾性体が好ましい。
【0094】
摩擦部材としては、弾性感に富み、擦過時に適度な摩擦を生じて摩擦熱を発生させることのできるエラストマー、プラスチック発泡体等の弾性体が好適である。
【0095】
なお、鉛筆による筆跡を消去するための、一般的な消しゴムを使用して筆跡を摩擦することもできるが、摩擦時に消しカスが発生するため、消しカスが殆ど発生しない前述の摩擦部材が好適に用いられる。
【0096】
摩擦部材の材質としては、シリコーン樹脂やSEBS樹脂(スチレンエチレンブタジエンスチレンブロック共重合体)、ポリエステル系樹脂等が用いられる。
【0097】
摩擦部材は筆記具と別体の任意形状の部材(摩擦体)とを組み合わせて筆記具セットを得ることもできるが、筆記具に摩擦部材を設けることにより、携帯性に優れる。
【0098】
キャップを備える筆記具の場合、摩擦部材を設ける箇所は特に限定されるものではないが、例えば、キャップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、クリップを設ける場合はクリップ自体を摩擦部材により形成したり、キャップ先端部(頂部)或いは軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)に摩擦部材を設けることができる。
【0099】
出没式の筆記具の場合、摩擦部材を設ける箇所は特に限定されるものではないが、例えば、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、クリップを設ける場合はクリップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒開口部近傍、軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)或いはノック部に摩擦部材を設けることができる。
【0100】
冷却具としては、ペルチエ素子を利用した冷熱変色具、冷水、氷片等の冷媒を充填した冷熱変色具、冷蔵庫や冷凍庫の適用が挙げられる。
【0101】
感温変色性色彩記憶性液状組成物を塗布又は印刷する場合、支持体の材質は特定されず、総て有効であり、紙、合成紙、繊維、布帛、合成皮革、レザー、プラスチック、ガラス、陶磁材、金属、木材、石材等を例示でき、平面状に限らず、凹凸状であってもよい。
【0102】
支持体上に、感温変色性色彩記憶性組成物を含む可逆熱変色層を設けて積層体(印刷物)が得られる。
【0103】
支持体上に非熱変色性着色層(像を含む)が予め形成されているものにあっては、温度変化により着色層を、可逆熱変色層によって隠顕させることができ、変化の様相を更に多様化させることができる。
【0104】
更に、感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ワックス類等に溶融ブレンドしてペレット、粉末、又はペースト形態として感温変色性色彩記憶性成形用樹脂組成物として利用することもでき、汎用の射出成形、押出成形、ブロー成形、又は注型成形等の手段により、任意形象の立体造形物、フィルム、シート、板、フィラメント、棒状物、パイプ等の形態の成形体が得られる。
【0105】
また、熱可塑性樹脂やワックス類に溶融ブレンドしてクレヨンを得ることもできる。
【0106】
なお、液状組成物や樹脂組成物中には、一般の染顔料(非熱変色性)を配合し、有色(1)から有色(2)への変色挙動を呈することもできる。
【0107】
積層体、或いは、樹脂組成物を用いて成形した成形体上には、光安定剤及び/又は透明性金属光沢顔料を含む層を積層することによって耐光性を向上させたり、或いは、トップコート層を設けて耐久性を向上させることもできる。
【0108】
光安定剤としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤、一重項酸素消光剤、スーパーオキシドアニオン消光剤、オゾン消光剤を例示できる。
【0109】
透明性金属光沢顔料としては、芯物質として天然雲母、合成雲母、ガラス片、アルミナ、透明性フィルム片の表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆した顔料を例示できる。
【0110】
感温変色性色彩記憶性組成物及びそれを内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料およびインキを用いた製品として具体的には、以下のものを例示することができる。
(1)玩具類
人形又は動物形象玩具、人形又は動物形象玩具用毛髪、人形の家や家具、衣類、帽子、鞄、および靴等の人形用付属品、アクセサリー玩具、ぬいぐるみ、描画玩具、玩具用絵本、ジグソーパズル等のパズル玩具、積木玩具、ブロック玩具、粘土玩具、流動玩具、こま、凧、楽器玩具、料理玩具、鉄砲玩具、捕獲玩具、背景玩具および乗物、動物、植物、建築物、および食品等を模した玩具等、
(2)衣類
Tシャツ、トレーナー、ブラウス、ドレス、水着、レインコート、およびスキーウェア等の被服、靴や靴紐等の履物、ハンカチ、タオル、およびふろしき等の布製身の回り品、手袋、ネクタイ、帽子等、
(3)屋内装飾品
絨毯、カーテン、カーテン紐、テーブル掛け、敷物、クッション、額縁、造花、写真立て等、
(4)家具
布団、枕、マットレス等の寝具、照明器具および冷暖房器具等、
(5)装飾品
指輪、腕輪、ティアラ、イヤリング、髪止め、付け爪、リボン、およびスカーフ等時計、眼鏡等、
(6)文房具類
筆記具、スタンプ具、消しゴム、下敷き、定規、粘着テープ等、
(7)日用品
口紅、アイシャドー、マニキュア、染毛剤、付け爪、付け爪用塗料等の化粧品、歯ブラシ等、
(8)台所用品
コップ、皿、箸、スプーン、フォーク、鍋、フライパン等、
(9)その他
カレンダー、ラベル、カード、記録材、および偽造防止用の各種印刷物、絵本等の書籍、鞄、包装用容器、刺繍糸、運動用具、釣り具、コースター、楽器、カイロ、蓄冷剤、財布等の袋物、傘、乗物、建造物、温度検知用インジケーター、および教習具等。
【実施例】
【0111】
以下に本発明の実施例を示すが本発明はこれに限定されるものではない。
各実施例における感温変色性色彩記憶性組成物及びそれを内包したマイクロカプセル顔料の製造方法と、感温変色性色彩記憶性組成物及びマイクロカプセル顔料の温度変化によるヒステリシス特性の測定方法について説明する。
なお、実施例中の部は質量部を表す。
【0112】
実施例1
感温変色性色彩記憶性組成物の調製方法
(a)成分として、3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド1部、(b)成分として、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン2部、(c)成分として、p−ヒドロキシ安息香酸デシルの安息香酸エステル(化合物5)50部からなる三成分を混合し、加温して均質に溶解して感温変色性色彩記憶性組成物を得た。
感温変色性色彩記憶性組成物は青色から無色に変色するものであった。
【0113】
測定試料の作製
感温変色性色彩記憶性組成物を内径1mm、長さ78mmの透明ガラス製毛細管に、毛細管底部から約10mmの高さまで封入し、測定試料を得た。
【0114】
変色温度の測定
測定試料の感温変色性色彩記憶性組成物を封入した部分全体を透明熱媒体の中に浸漬し、透明熱媒体の温度を変化させながら、感温変色性色彩記憶性組成物の変色状態を目視で観察して、T
1(完全発色温度)、T
2(発色開始温度)、T
3(消色開始温度)、T
4(完全消色温度)を測定し、T
H〔T
1とT
2の中間の温度(T
1+T
2)/2〕、T
G〔T
3とT
4の中間の温度(T
3+T
4)/2〕、ΔH(ヒステリシス幅T
G−T
H)を求めた。
実施例1の感温変色性色彩記憶性組成物はT
1:21℃、T
2:23℃、T
3:62℃、T
4:68℃、T
H:22℃、T
G:65℃、ΔH:43℃のヒステリシス特性を示した。
【0115】
実施例2〜6
以下の表に記載した感温変色性色彩記憶性組成物の(a)成分、(c)成分を変更した以外は実施例1と同一方法で、実施例2〜6の感温変色性色彩記憶性組成物を調製し、実施例1と同様にして変色温度を測定した。
【0116】
【表1】
【0117】
表中の(a)成分のPは3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリドであり、Qは1,2−ベンツ−6−(N−エチル−N−イソアミルアミノ)フルオランであり、Rは2−(2−クロロアニリノ)−6−ジ−n−ブチルアミノフルオランである。
ジ−n−ブチルアミノフルオランである。また、配合量の単位は質量部である。
【0118】
実施例1〜6の感温変色性色彩記憶性組成物の色変化、T
1、T
2、T
3、T
4、T
H、T
G、ΔHの値を以下の表に示す。
【表2】
【0119】
実施例7
感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料の調製方法
(a)成分として3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド1部、(b)成分として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5部、(c)成分としてp−ヒドロキシ安息香酸オクチルの安息香酸エステル(化合物3)50部及びミリスチン酸デシル3部からなる感温変色性色彩記憶性組成物を混合し、均一に加温溶解し、さらに壁膜材料として芳香族多価イソシアネートプレポリマー20部、酢酸エチル40部を混合した溶液を15%ゼラチン水溶液100部中に投入し、微小滴になるように乳化分散した。
【0120】
分散液を70℃で約1時間攪拌を続けた後、水溶性アミン化合物(三菱化学株式会社製、商品名:jERキュアU、エポキシ樹脂のアミン付加物)2部を水23部に溶解させた水溶液を攪拌しながら徐々に添加し、さらに液温を90℃に保って約3時間攪拌を続けて感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料の懸濁液を得た。
【0121】
マイクロカプセル顔料の懸濁液から、遠心分離により感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を単離し、青色から無色に変色する感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を得た(平均粒子径1.7μm)。
【0122】
測定試料の作製
感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料40部を、エチレン−酢酸ビニル樹脂エマルジョン50部、レベリング剤1部、消泡剤1部、粘度調整剤0.5部、水7.5部からなる水性インキビヒクルに均一に分散させて感温変色性色彩記憶性インキを調製した。そのインキで上質紙にベタ柄をスクリーン印刷して測定試料を得た。
【0123】
ヒステリシス特性の測定
測定試料を色差計(TC−3600型色差計、東京電色株式会社製)の測定部分にセットし、試料部分を2℃/分の速度で昇温、降温させ、各温度における色濃度として明度値を測定し、色濃度−温度曲線を作成した。その色濃度−温度曲線よりT
1、T
2、T
3、T
4、T
H〔T
1とT
2の中間の温度(T
1+T
2)/2〕、T
G〔T
3とT
4の中間の温度(T
3+T
4)/2〕、ΔH(ヒステリシス幅T
G−T
H)を求めた。
感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料はT
1:−15℃、T
2:−11℃、T
3:40℃、T
4:64℃、T
H:−13℃、T
G:52℃、ΔH:65℃のヒステリシス特性を示した。
【0124】
実施例8及び9
マイクロカプセルに内包させる感温変色性色彩記憶性組成物の(a)成分、(c)成分、及びそれらの配合量を、以下の表3に記載した化合物と配合量に変更した以外は実施例7と同一の方法により実施例8及び9の感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を調製し、実施例7と同様にしてヒステリシス特性を測定した。
【表3】
【0125】
表中の(a)成分のAは3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリドであり、Bは1,2−ベンツ−6−(N−エチル−N−イソアミルアミノ)フルオランである。また、表中、配合量の単位は質量部である。
【0126】
実施例7〜9の感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料の色変化、T
1、T
2、T
3、T
4、T
H、T
G、ΔHの値を以下の表に示す。
【表4】
【0127】
応用例1
実施例7で調製した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料27部(予め−15℃以下に冷却して青色に発色させたもの)を、サクシノグリカン(剪断減粘性付与剤)0.3部、糖混合物〔三和澱粉工業(株)製、商品名:サンデック70〕3.0部、リン酸エステル系界面活性剤0.5部、防黴剤0.1部、トリエタノールアミン1.0部、水68.1部ビヒクルに均一に分散させて感温変色性色彩記憶性液状組成物(筆記具用インキ組成物)を調製した。
【0128】
筆記具の作製
インキをポリプロピレン製パイプからなるインキ収容管に吸引充填し、樹脂製ホルダーを介して0.5mmステンレス鋼ボールを先端に抱持したボールペンチップと連結させた。
【0129】
次いで、ポリプロピレン製パイプの後端より、ポリブテンを主成分とする粘弾性を有するインキ逆流防止体(液栓)を充填してボールペンレフィルを得た。
ボールペンレフィルを、軸筒内に組み込み、筆記具(出没式ボールペン)を得た。
【0130】
なお、筆記具は、ボールペンレフィルに設けられたチップが外気に晒された状態で軸筒内に収納されており、軸筒側面に設けられたクリップ形状の出没機構(スライド機構)の作動によって軸筒前端開口部からチップが突出する構造である。
【0131】
なお、軸筒後端部には、SEBS樹脂製の摩擦部材を設けてなる。
【0132】
出没機構の作動により軸筒前端開口部からボールペンチップの先端を出没させた状態で紙面に筆記して青色の文字(筆跡)を形成した。
筆跡は、軸筒後端部に設けたSEBS樹脂製の摩擦部材を用いて摩擦すると、該文字は消色して無色となり、この状態は室温下で維持することができた。
【0133】
なお、消色後の紙面を冷凍庫に入れて−15℃以下の温度に冷却すると、再び文字が青色になる変色挙動を示し、挙動は繰り返し再現することができた。
【0134】
応用例2
実施例8で調製した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料27部(予め−14℃以下に冷却して青色に発色させたもの)を、キサンタンガム(剪断減粘性付与剤)0.33部、尿素10.0部、グリセリン10部、ノニオン系界面活性剤0.6部、変性シリコーン系消泡剤0.1部、防黴剤0.2部、水51.77部からなる水性インキビヒクルに均一に分散させて感温変色性色彩記憶性液状組成物(筆記具用インキ)を調製した。
【0135】
筆記具の作製
インキをポリプロピレン製パイプに吸引充填し、樹脂製ホルダーを介して0.5mmステンレス鋼ボールを先端に抱持したボールペンチップと連結させた。
【0136】
次いで、ポリプロピレン製パイプの後端より、ポリブテンを主成分とする粘弾性を有するインキ逆流防止体(液栓)を充填し、更に尾栓をパイプの後部に嵌合させ、先軸筒、後軸筒を組み付け、キャップを嵌めた後、遠心分離により脱気処理を行い、筆記具(ボールペン)を得た。
【0137】
なお、後軸筒後部には摩擦体としてSEBS製ゴムを装着してなる。
筆記具を用いて紙面に筆記して青色の文字(筆跡)を形成した。筆跡は、室温(25℃)では青色を呈しており、摩擦体を用いて文字を擦過すると、該文字は消色して無色となり、この状態は室温下で維持することができた。
【0138】
なお、消色後の紙面を冷凍庫に入れて−14℃以下の温度に冷却すると、再び文字が青色になる変色挙動を示し、挙動は繰り返し再現することができた。
【0139】
応用例3
実施例9で調製した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料25部(予め−18℃以下に冷却してピンク色に発色させたもの)、ヒドロキシエチルセルロース0.5部、櫛型高分子分散剤〔日本ルーブリゾール(株)製、商品名:ソルスパース43000〕0.2部、有機窒素硫黄化合物〔北興化学工業(株)製、商品名:ホクサイドR−150、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンの混合物〕1.0部、ポリビニルアルコール0.5部、グリセリン25.0部、消泡剤0.02部、水47.78部を混合して感温変色性色彩記憶性液状組成物(筆記具用インキ)を得た。
【0140】
中詰式筆記具の作製
ポリエステルスライバーを合成樹脂フィルムで被覆したインキ吸蔵体内にインキを含浸させ、ポリプロピレン樹脂からなる軸筒内に収容し、ホルダーを介して軸筒先端部にポリエステル繊維の樹脂加工ペン体(砲弾型)と接続状態に組み立て、キャップを装着して筆記具(マーキングペン)を得た。
軸筒後端部には摩擦部材としてSEBS樹脂を装着してなる。
【0141】
筆記具を用いて紙面に筆記してピンク色の文字(筆跡)を形成した。筆跡は、室温(25℃)ではピンク色を呈しており、摩擦体を用いて文字を擦過すると、該文字は消色して無色となり、この状態は室温下で維持することができた。
【0142】
なお、消色後の紙面を冷凍庫に入れて−18℃以下の温度に冷却すると、再び文字がピンク色になる変色挙動を示し、挙動は繰り返し再現することができた。
【0143】
応用例4
実施例8で調製した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料2.5部及び非熱変色性蛍光ピンク色顔料1.5部を、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂12.5部、キシレン38.3部、酢酸ブチル45部、粘度調整剤0.2部からなる油性インキビヒクルに均一に分散させて感温変色性色彩記憶性液状組成物(塗料)を調製した。
【0144】
塗料を−14℃以下の温度に冷却して紫色に変色させた後、家庭用電気コードのプラグ部分(白色)にスプレー塗装して可逆熱変色層を設け、感温変色性色彩記憶性プラグを得た。
【0145】
プラグは室温(25℃)で紫色を呈しているが、加温により65℃以上の温度でピンク色となった。この変色状態から冷却すると、−14℃以下の温度で再び紫色となった。
感温変色性色彩記憶性プラグは、65℃以上の温度でピンク色になると−14℃以下の温度に冷却されない限りピンク色の変色状態を保持することができるため、プラグが異常過熱状態となり、65℃以上の高温域に達した場合の温度履歴を目視により検知できた。
【0146】
応用例5
実施例7で調製した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料(予め−15℃以下に冷却して青色に発色させたもの)30部をアクリル系樹脂エマルジョン(固形分45%)60部、粘度調整剤1部、消泡剤0.2部、水8.8部からなる水性インキビヒクルに均一に分散させて感温変色性色彩記憶性液状組成物(印刷インキ)を調製した。
【0147】
インキを用いて白地のTシャツ(綿製)に、100メッシュのスクリーン版で多数の星のパターンをスクリーン印刷して感温変色性色彩記憶性Tシャツを得た。
【0148】
Tシャツは室温(25℃)では多数の青色の星柄が視認され、体温や環境温度では変化しないが、64℃以上に加熱すると星柄部分が無色となり、−15℃以下に冷却すると再び青色の星柄が視認された。
【0149】
Tシャツの星柄の一部をアイロン等による加温で消色させて、任意の星のみを消色させた白抜きパターンや、星の部分で文字やパターンを形成し、Tシャツの柄を任意に変化させることができた。また、その変色状態を室温温度域で保持させることができ、全体を64℃以上に加温して星柄部分を全面消色させた後、−15℃以下に冷却して星柄全面を発色させ、再び前記のように任意の柄を形成することができた。
【0150】
応用例6
実施例8で調製した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料5部、分散剤1部、非熱変色性ピンク色顔料0.1部、ポリプロピレンホモポリマー93.9部をエクストルーダーにて180℃で溶融混合して感温変色性色彩記憶性成形用樹脂組成物(ペレット)を得た。
【0151】
ペレットを用いて、射出成形機にてシリンダー温度180℃でプラスチックカップを成形した。
【0152】
カップは−14℃以下に冷却すると紫色になり、室温下(25℃)で放置しても紫色を呈しているが、65℃以上の飲料を注いだところ、飲料を入れた箇所がピンク色になった。飲料を取り除き、−14℃以下に冷却したところ、ピンク色に変色した箇所が再び紫色になった。
【0153】
応用例7
実施例9で調製した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料20部(予め−18℃以下に冷却してピンク色に発色させたもの)を、アクリル系樹脂エマルジョン(固形分40%)78.0部、消泡剤2.0部からなる水性インキビヒクルに均一に分散させて感温変色性色彩記憶性液状組成物(印刷インキ)を調製した。
【0154】
上質紙上に非熱変色性インキを用いて印刷された商品券に、感温変色性色彩記憶性インキを用いてグラビア印刷により偽造判別マークを印刷した。偽造判別マークは室温(25℃)ではピンク色を呈しており、体温や環境温度では色変化しないが、64℃以上に加熱すると無色となり、−18℃以下に冷却すると再びピンク色となった。
【0155】
商品券の偽造判別マークは室温温度域ではピンク色を呈して色変化しないため、偽造判別マークであることを識別できないが、64℃以上に加熱すると無色となることから、偽造防止機能を有していた。