(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6517644
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】ショウブノール合成酵素、ポリペプチド、遺伝子、並びに、組換え細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 9/90 20060101AFI20190513BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20190513BHJP
C12N 15/61 20060101ALI20190513BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
C12N9/90ZNA
C12N15/29
C12N15/61
C12N1/21
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-183200(P2015-183200)
(22)【出願日】2015年9月16日
(65)【公開番号】特開2017-55703(P2017-55703A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】福西 加奈
(72)【発明者】
【氏名】古谷 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】川端 一史
(72)【発明者】
【氏名】原田 尚志
【審査官】
鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−125272(JP,A)
【文献】
特開2011−147432(JP,A)
【文献】
FEBS Letters, 2008, Vol.582, pp.565-572
【文献】
FLAVOUR AND FRAGRANCE JOURNAL, 2000, Vol.15, pp.395-412
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00−9/99
C12N 1/00−1/38
C12N 5/00−5/28
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)、(b)又は(c)のタンパク質からなる単離されたショウブノール合成酵素。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつファルネシル二リン酸をショウブノールに変換する活性を有するタンパク質、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を有し、かつファルネシル二リン酸をショウブノールに変換する活性を有するタンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のショウブノール合成酵素をコードする単離された遺伝子。
【請求項3】
請求項2に記載の遺伝子を有し、当該遺伝子が発現することによりショウブノールを生産可能である、大腸菌の組換え細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショウブノール合成酵素、ポリペプチド、遺伝子、並びに、組換え細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
セスキテルペンは、イソペンテニル二リン酸(IPP)が3分子縮合したファルネシル二リン酸(FPP)を生合成前駆体とする、炭素15個を持つイソプレン則に従う化合物の総称である。セスキテルペンは、現在3000種類以上のものが知られている。セスキテルペンはバラや柑橘類のような芳香を持ち、香水などにも多用されている。また、生理活性物質としても作用し、医薬品にも用いられている。
【0003】
セスキテルペンの一種であるショウブノール(Shyobunol)は、香料、化粧品、医薬品およびその中間体、樹脂原料として有用である。
【0004】
ショウブノールの生合成経路としては、以下の経路が考えられる、まず、ゲラニル二リン酸(GPP)合成酵素の作用によって、イソペンテニル二リン酸(IPP)からゲラニル二リン酸(GPP)が生合成される。続いて、ファルネシル二リン酸(FPP)合成酵素の作用により、ゲラニル二リン酸(GPP)からファルネシル二リン酸(FPP)が生合成される。そして、ショウブノール合成酵素の作用によってファルネシル二リン酸(FPP)からショウブノールが生合成される。しかしながら、現在に至るまでショウブノール合成酵素は同定されていない。
【0005】
ショウブノール合成酵素以外のセスキテルペン合成酵素としては、例えば、特許文献1〜3に開示されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−63063号公報
【特許文献2】特開2011−125272号公報
【特許文献3】特開2011−55721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記現状に鑑み、本発明は、単離されたショウブノール合成酵素及びその遺伝子、並びに、当該遺伝子が導入されショウブノールを生産可能な組換え細胞を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの様相は、下記(a)、(b)又は(c)のタンパク質からなる単離されたショウブノール合成酵素である。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつファルネシル二リン酸をショウブノールに変換する活性を有するタンパク質、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、かつファルネシル二リン酸をショウブノールに変換する活性を有するタンパク質。
【0009】
本発明の他の様相は、上記のショウブノール合成酵素の部分配列を有するポリペプチドであって、ファルネシル二リン酸をショウブノールに変換する活性を有するポリペプチドである。
【0010】
本発明の他の様相は、上記のショウブノール合成酵素又はポリペプチドをコードする単離された遺伝子である。
【0011】
本発明の他の様相は、上記の遺伝子を有し、当該遺伝子が発現することによりショウブノールを生産可能である組換え細胞である。
【0012】
好ましくは、組換え細胞が細菌又は酵母である。
【0013】
好ましくは、前記遺伝子が、宿主細胞に対して外因性のものである。
【0014】
好ましくは、前記遺伝子が、宿主細胞に対して内因性のものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、新規のショウブノール合成酵素及びその遺伝子が提供される。さらに本発明によれば、組換え細胞を用いたショウブノールの生産が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】ショウブノールの化学構造とファルネシル二リン酸からの生合成経路を表す説明図である。
【
図2】実施例で用いたベチバー(Vetiveria zizanioides)の根と葉を表す写真である。
【
図3】ガスクロマトグラフィーの結果を表すクロマトグラムである。
【
図4】質量分析の結果を表すマススペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明において「遺伝子」という用語は、全て「核酸」あるいは「DNA」という用語に置き換えることができる。
【0018】
本発明の1つの様相は、下記(a)、(b)又は(c)のタンパク質からなる単離されたショウブノール合成酵素である。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつファルネシル二リン酸をショウブノールに変換する活性を有するタンパク質、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、かつファルネシル二リン酸をショウブノールに変換する活性を有するタンパク質。
【0019】
配列番号1は、本発明者らがベチバー(Vetiveria zizanioides)から単離したショウブノール合成酵素をコードする遺伝子(cDNA)の塩基配列と、対応のアミノ酸配列である。配列番号2は配列番号1のアミノ酸配列のみを抜粋したものである。すなわち配列番号2は、ベチバー由来のショウブノール合成酵素のアミノ酸配列を表す。
【0020】
本発明のショウブノール合成酵素は、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつファルネシル二リン酸をショウブノールに変換する活性を有するタンパク質を包含する。欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸の数は1〜20個であるが、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個である。
【0021】
本発明のショウブノール合成酵素は、配列番号2で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、かつファルネシル二リン酸をショウブノールに変換する活性を有するタンパク質を包含する。配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性は80%以上であるが、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0022】
本発明は、上記(a)、(b)又は(c)のタンパク質からなるショウブノール合成酵素の機能的断片を包含する。ショウブノール合成酵素の機能的断片とは、ショウブノール合成酵素の部分配列を有するポリペプチドであって、ショウブノール合成酵素の活性(ファルネシル二リン酸をショウブノールに変換する活性)を有するものを指す。例えば、上記ショウブノール合成酵素の断片であって、かつファルネシル二リン酸をショウブノールに変換する活性を有するポリペプチドは、ショウブノール合成酵素の機能的断片である。
【0023】
図1にショウブノールの化学構造とファルネシル二リン酸からの生合成経路を示す。本発明のショウブノール合成酵素は、
図1に示す反応を触媒する。
【0024】
本発明は、上記ショウブノール合成酵素又はその機能的断片をコードする単離された遺伝子を包含する。
【0025】
本発明は、上記の遺伝子を有し、当該遺伝子が発現することによりショウブノールを生産可能である組換え細胞を包含する。
【0026】
宿主細胞に導入される上記遺伝子は、宿主細胞が本来有していない遺伝子、すなわち外因性の遺伝子であってもよいし、宿主細胞が本来有している遺伝子、すなわち内因性の遺伝子であってもよい。後者は所謂セルフクローニングに該当する。
【0027】
宿主細胞としては特に限定はなく、原核細胞、真核細胞のいずれでもよい。原核細胞の例としては、細菌、放線菌、が挙げられる。真核細胞の例としては、酵母、糸状菌、真核微細藻類、植物細胞、動物細胞が挙げられる。
このうち、細菌と酵母が宿主細胞として特に好ましく用いられる。
【0028】
宿主細胞に遺伝子を導入する方法としては特に限定はなく、宿主細胞の種類等によって適宜選択すればよい。例えば、宿主細胞に導入可能でかつ組み込まれた遺伝子を発現可能なベクターを用いることができる。
例えば、宿主細胞が細菌等の原核生物の場合には、当該ベクターとして、宿主細胞において自立複製可能ないしは染色体中への組み込みが可能で、挿入された上記遺伝子(核酸、DNA)を転写できる位置にプロモーターを含有しているものを用いることができる。例えば、当該ベクターを用いて、プロモーター、リボソーム結合配列、上記遺伝子、および転写終結配列からなる一連の構成を宿主細胞内で構築することが好ましい。
【0029】
以下、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
本実施例では、ベチバー由来ショウブノール合成酵素遺伝子の塩基配列を決定し、当該遺伝子を導入した組換え大腸菌を作製し、当該組換え大腸菌を培養してショウブノールの生合成を行った。
【0031】
(1)ベチバーの転写産物解析およびショウブノール合成酵素遺伝子(VzTPS1)の塩基配列決定
ベチバー(Vetiveria zizanioides)の根および葉組織(
図2)を切り取り、液体窒素にて凍結した。ビーズ式破砕装置(FastPrep 24、MPバイオメディカルズ社製)およびFastRNA Pro Green Kit(MPバイオメディカルズ社製)を用いて全RNAを抽出した。得られた全RNAについて、Agilent 2100 バイオアナライザ(アジレント・テクノロジー社製)およびAgilent RNA6000ナノキット(アジレント・テクノロジー社製)を用いてRNA Integrity Number(RIN)によりRNA品質を定量的に評価し、RIN=8以上のサンプルを以降の実験に供した。
【0032】
根および葉より取得した全RNAのうち各5μgを北海道システムサイエンス社に提供し、RNAシーケンス解析、シーケンスデータ混合アセンブル、およびBlastXによる相同性検索を行った。シーケンスおよび混合アセンブルの結果、177,472のコンティグ配列を取得した。これらを相同性検索した結果、Zea maysのterpene synthase 7(Genbank accession DAA38747)と54%、Aegilops tauschiiの(+)-delta-cadinene synthase(Genbank accession EMT11542)と52%の相同性を示す遺伝子断片(配列番号1)を見出した。この遺伝子断片をVzTPS1と命名した。VzTPS1は、1521bpのオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、506アミノ酸残基、分子量58.3kDa、およびpI=5.8と推定されるタンパク質をコードしていた。VzTPS1の推定アミノ酸配列(配列番号2)中には、RxR 、DDxxDといった、多くのテルペン合成酵素に保存されているモチーフが含まれていた。またVzTPS1のN末端アミノ酸配列には、色素体移行配列が含まれないことが予想された。
【0033】
(2)ショウブノール合成酵素遺伝子(VzTPS1)発現プラスミド(pVzTPS1)の作製
VzTPS1の推定アミノ酸配列(配列番号2)をGenScript社に提供し、大腸菌コドン使用頻度に最適化したVzTPS1遺伝子を人工合成により作製した(配列番号3)。この際、開始メチオニンコドンATGを含むように制限酵素NdeI認識配列を5’末端に付加し、終止コドン直下に制限酵素XhoI認識配列を付加した。作製した人工合成遺伝子を含むプラスミドをNdeIおよびXhoIで消化し、得られたDNA断片をpRSFDuet-1プラスミド(Novagen社製)のNdeIおよびXhoI部位に連結した。このプラスミドをpVzTPS1と命名した。
【0034】
(3)プラスミドpVzTPS1を用いた大腸菌発現系によるショウブノールの合成
pVzTPS1プラスミドは、Harada H, Yu F, Okamoto S, Kuzuyama T, Utsumi R, Misawa N 2009, 81: 915-925、に記載の方法に従ってpAC−Mevプラスミドと共に大腸菌に導入し、ドデカンを添加した液体培地にて培養、生産および生産物の抽出を行った。抽出したドデカン層1μLをガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)にて分析を行った結果、pVzTPS1プラスミドを導入した大腸菌由来のサンプルにおいて、対照となるpRSFDuet−1を導入した大腸菌由来サンプルには見られない新規ピークが複数出現した(
図3)。このうち最も大きい保持時間37.5分のピーク(
図2、ピーク1)についてマススペクトル解析を行った結果、このピークがショウブノールのスペクトルと一致することが示された(
図4)。
以上の結果より、VzTPS1はファルネシル二リン酸を基質としてショウブノールを特異的に合成する酵素の遺伝子であることが示された。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]