特許第6517688号(P6517688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6517688
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 37/02 20060101AFI20190513BHJP
   F16D 25/0638 20060101ALI20190513BHJP
   F16H 3/093 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
   F16H37/02 Q
   F16D25/0638
   F16H3/093
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-253442(P2015-253442)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-116018(P2017-116018A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽介
(72)【発明者】
【氏名】大槻 武
(72)【発明者】
【氏名】藤田 博
【審査官】 木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−218898(JP,A)
【文献】 特開2015−232380(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/176208(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0087463(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0184728(US,A1)
【文献】 特開昭62−167933(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0065507(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 37/02
F16D 25/0638
F16H 3/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪へ駆動力を伝達する動力伝達装置であって、
無段変速機構によって駆動力を伝達する第1動力伝達経路と、これと並列に設けられ、ギヤ列によって駆動力を伝達する第2動力伝達経路とを備え、それら無段変速機構またはギヤ列を切り換えて、駆動力を共通の出力軸に伝達するように構成され、
前記無段変速機構から出力軸への駆動力の伝達を断接するクラッチ機構が設けられるとともに、当該出力軸には、前記ギヤ列から駆動力が伝達される従動ギヤが設けられ、
前記クラッチ機構のクラッチドラムまたはクラッチハブのいずれか一方が、前記従動ギヤと一体に回転するとともに、少なくとも前記出力軸の軸線方向に所定以上の相対変位を許容するように連結されていることを特徴とする動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される動力伝達装置に関し、特に、駆動力を無段変速機構またはギヤ列のいずれかを介して、駆動輪に伝達するようにしたものに係る。
【背景技術】
【0002】
従来より自動車などの車両においては、エンジンからの駆動力を駆動輪に伝達する動力伝達経路に、入力回転を無段階に変速することのできるベルト式の無段変速機構(CVT:Continuously Variable Transmission)を備えたものがある。一例として特許文献1に記載の車両用駆動装置では、エンジンからの駆動力をCVTによって伝達する第1トルク伝達経路と並列に、より低速段を構成するギヤ列によって駆動力を伝達する第2トルク伝達経路が設けられており、これら2つの経路を切り換えて、共通の出力軸へ駆動力を伝達するようになっている。
【0003】
すなわち、車両の発進時などを含む低車速時には、前記第2トルク伝達経路に設けられた噛合式クラッチが係合されることにより、出力軸に設けられた従動ギヤにはギヤ列から駆動力が伝達されるようになる。このとき、CVTと出力軸との間に設けられた第2クラッチ機構は解放され、第1トルク伝達経路における駆動力の伝達は遮断される。一方、所定車速以上になれば第2クラッチ機構が締結され、CVTの従動プーリから出力軸へ、即ち前記の第1トルク伝達経路によって駆動力が伝達されるようになる。このとき第2トルク伝達経路の噛合式クラッチは解放され、前記ギヤ列による駆動力の伝達が遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2013/176208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記従来例のようにCVTを備えた第1トルク伝達経路と並列に、ギヤ列を備えた第2トルク伝達経路を設けると、そのギヤ列や噛合式クラッチなどを収容するために、動力伝達装置が大型化することは避けられない。また、そのギヤ列を介して駆動力が伝達されるように、出力軸には従動ギヤを設けなくてはならず、そのレイアウトも問題になる。
【0006】
この点について、前記特許文献1の図10に表れているように第2クラッチ機構と出力軸の従動ギヤとを近接させて配置し、そのクラッチハブ(第2クラッチ機構の出力側の部材であればクラッチドラムでもよい)を従動ギヤと一体的に設けることが考えられる。すなわち、例えば図5に示すように、クラッチハブ11の端部を大径ギヤ71(従動ギヤ)の側面に溶接して、両者が一体に回転するようにすればよい。
【0007】
しかしながら一般的に、はすば歯車である大径ギヤ71にはスラスト力が作用するので、前記のように第1トルク伝達経路と第2トルク伝達経路との切り換えが行われるときには、スラスト力の大きな変化によって、図5に矢印Aとして示すように大径ギヤ71が撓み、出力軸7の軸線Xの方向に倒れるように変形する。
【0008】
こうなるとクラッチハブ11も撓んでしまい、その外周部に配設されているクラッチプレート12が、クラッチドラム13のクラッチプレート14と偏当たりするようになる。そして、この状態で第2クラッチ機構C2を断接する動作が行われると、前記のように偏当たりしているクラッチプレート12,14が押し付けられることによって、いわゆるジャダーが発生するおそれがあり、さらには焼き付きを招く心配もある。
【0009】
このような実状を考慮して本発明の目的は、無段変速機構(CVT)およびギヤ列を並列に設けた動力伝達装置において、そのギヤ列から駆動力が伝達される出力軸の従動ギヤを、クラッチ機構の出力側の部材(クラッチドラムまたはクラッチハブ)と連結する構造に工夫を凝らし、従動ギヤの撓みに起因してクラッチ機構に生じる不具合を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成すべく本発明では、出力軸の従動ギヤとクラッチ機構の出力側の部材とを連結する部分に所定の隙間(ガタ)を設けた構造とし、スラスト力を受けて従動ギヤが撓んでも、クラッチハブなどの変形は抑制できるようにした。
【0011】
具体的に本発明は、車両の駆動輪へ駆動力を伝達する動力伝達装置の構造に係るもので、この動力伝達装置は、無段変速機構によって駆動力を伝達する第1動力伝達経路と、これと並列に設けられ、ギヤ列によって駆動力を伝達する第2動力伝達経路とを備え、それら無段変速機構またはギヤ列を切り換えて、駆動力を共通の出力軸に伝達するように構成されている。
【0012】
そして、前記無段変速機構から出力軸への駆動力の伝達を断接するクラッチ機構が設けられるとともに、当該出力軸には、前記ギヤ列から駆動力が伝達される従動ギヤが設けられている場合に、前記クラッチ機構のクラッチドラムまたはクラッチハブのいずれか一方を、前記従動ギヤと一体に回転するとともに、少なくとも前記出力軸の軸線方向に所定以上の相対変位を許容するよう、当該従動ギヤに連結したものである。
【0013】
前記の構成により、車両の走行中に第1および第2動力伝達経路の切り換えが行われるときには、出力軸の従動ギヤへ加わるスラスト力が大きく変化することで、当該従動ギヤが撓むようになる。しかそ、この従動ギヤとクラッチ機構の出力側の部材(クラッチドラムまたはクラッチハブ)との連結部においては、両者の出力軸線方向への相対変位が或る程度、許容されるようになっているので、従動ギヤが撓んでもクラッチドラムなどの変形は抑制できる。
【0014】
よって、前記第1および第2動力伝達経路の切り換えのためにクラッチ機構を断接する動作が行われ、クラッチドラムとクラッチハブとの間でクラッチプレートが押し付けられも、その偏当たりの度合いはあまり大きくはならない。このため、いわゆるジャダーの発生が抑制されるとともに、焼き付きを招く心配も少なく、クラッチ機構の耐久性の確保に有利になる。
【0015】
なお、そのようにしてクラッチドラムまたはクラッチハブと従動ギヤとの連結部において、出力軸の軸線の方向について所定以上の相対変位を許容するために、好ましいのは、その連結部において出力軸の軸線の方向に所定以上の隙間を設けるとともに、出力軸を中心とする径方向についても所定以上の隙間を設けることである。
【発明の効果】
【0016】
以上、説明したように本発明に係る動力伝達装置によると、無段変速機構とギヤ列とを並列に設けた動力伝達装置において、そのギヤ列から駆動力が伝達される出力軸の従動ギヤを、クラッチ機構の出力側の部材と連結するとともに、この連結部において両者の相対変位を或る程度、許容するようにしたので、動力伝達経路の切り換えの際にスラスト力の変化によって従動ギヤが撓んでも、クラッチ機構におけるジャダーの発生を抑制でき、焼き付きを招く心配も少なくなって、クラッチ機構の耐久性の確保に有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置の一例を示す概略構成図である。
図2】ベルト伝達用クラッチのクラッチハブと出力軸の大径ギヤとの連結構造を示す部分断面図である。
図3】出力軸の大径ギヤを軸線方向に見た正面図である。
図4】ベルト伝達用クラッチのクラッチハブを軸線方向に見た正面図(a)および断面図(b)である。
図5】クラッチハブの端部を従動ギヤの側面に溶接した場合の図2相当図であり、従動ギヤの撓みを模式的に示す。
図6】従動ギヤに負荷される駆動力の変化と撓み量との関係を調べた実験結果の一例を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。一例として本実施形態では、図1に概略を示すように車両に横置きに搭載されたパワートレインに本発明を適用した場合について説明する。なお、本実施形態の記載はあくまで例示に過ぎず、本発明の構成や用途などについても限定することを意図しない。
【0019】
−パワートレインの概略構成−
図1には概略的に示すように本実施形態のパワートレインは、エンジン1と、その駆動力を駆動輪10側へ伝達する動力伝達装置2と、を備えている。一例としてエンジン1はガソリンエンジンであり、図示はしないクランク軸からの出力(特に区別しない場合、トルクや駆動力などと同義)は動力伝達装置2のトルクコンバータ3に入力される。そして、トルクコンバータ3からの出力は、前後進切換機構4およびベルト式の無段変速機構5(以下、CVT5)に伝達されるとともに、その前後進切換機構4を介して変速ギヤ機構6(ギヤ列)にも伝達される。
【0020】
つまり、トルクコンバータ3よりも駆動輪10側の動力伝達経路において、CVT5および変速ギヤ機構6は互いに並列に設けられており、トルクコンバータ3からの出力は、CVT5または変速ギヤ機構6のいずれかを介して共通の出力軸7に伝達される。そして、この出力軸7から減速歯車機構8を介して駆動力が差動歯車機構9に伝達され、ここにおいて左右の駆動輪10へ分配されるようになる。
【0021】
言い換えると、本実施の形態の動力伝達装置2は、エンジン1から出力される駆動力をCVT5を介して駆動輪10側へ伝達する第1動力伝達経路と、変速ギヤ機構6を介して駆動輪10側へ伝達する第2動力伝達経路とを備えている。そして、後述の如く車両の走行状態に応じて動力伝達経路を切り換えるために、動力伝達装置2には、第1動力伝達経路を断接するベルト伝達用クラッチC2(クラッチ機構)と、第2動力伝達経路を断接する噛合式クラッチD1とが設けられている。
【0022】
−トルクコンバータ、前後進切換機構−
以下、トルクコンバータ3、前後進切換機構4、CVT5、および変速ギヤ機構6について簡単に説明する。まず、周知の如くトルクコンバータ3は、入力側のポンプインペラ31と、出力側のタービンランナ32と、トルク増幅機能を有するステータ33とを備えており、ポンプインペラ31とタービンランナ32との間で流体を介して動力を伝達するようになっている。タービンランナ32には出力軸としてタービンシャフト34が連結されている。
【0023】
また、前後進切換機構4は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構40、ローギヤ伝達用クラッチC1およびリバースブレーキB1を備えており、その入力軸41がトルクコンバータ3のタービンシャフト34に連結されている。この入力軸41は、遊星歯車機構40のキャリア42にも連結されており、一方、遊星歯車機構40のサンギヤ43は、入力軸41に対して回転可能に設けられた小径ギヤ44に連結されている。
【0024】
そして、ローギヤ伝達用クラッチC1が係合され、リバースブレーキB1が解放されると、入力軸41が小径ギヤ44に直結され、前記第2動力伝達経路において前進用の動力伝達経路が成立する。一方、リバースブレーキB1が係合され、共にローギヤ伝達用クラッチC1が解放されると、小径ギヤ44は入力軸41とは逆向きに回転するようになり、第2動力伝達経路において後進用の動力伝達経路が成立する。なお、ローギヤ伝達用クラッチC1およびリバースブレーキB1が共に解放されると、前後進切換機構4は動力を伝達しないニュートラル状態になる。
【0025】
−変速ギヤ機構−
変速ギヤ機構6には、前記の小径ギヤ44と噛み合ってカウンタ軸61と一体に回転する大径ギヤ62が設けられており、このカウンタ軸61にはアイドラギヤ63が相対回転可能に設けられている。そして、このカウンタ軸61およびアイドラギヤ63を断接可能な噛合式クラッチD1が設けられている。噛合式クラッチD1は、ハブスリーブ64のスライド移動によって、カウンタ軸61の被係合部61aとアイドラギヤ63の被係合部63aとを係合、離脱に切り換えるものであり、図示しないが、係合時に回転を同期させるためのシンクロ機構を備えている。
【0026】
そうして噛合式クラッチD1において、ハブスリーブ64によって2つの被係合部61a,被係合部63a同士が係合されると、前記のカウンタ軸61およびアイドラギヤ63が接続されて一体に回転するようになる。このアイドラギヤ63は、出力軸7に設けられた大径ギヤ71(従動ギヤ)と噛み合っており、前記のように前後進切換機構4の小径ギヤ44から変速ギヤ機構6に伝達された駆動力は、アイドラギヤ63および大径ギヤ71によって出力軸7へ伝達される。
【0027】
−CVT−
CVT5は、前後進切換機構4の入力軸41と一体に回転するプライマリプーリ51と、これと並んで設けられたセカンダリプーリ52とを備え、これらのプーリ51,52間に巻き掛けられた伝動ベルト53(チェーンであってもよい)によって、動力を伝達するようになっている。プライマリプーリ51は、固定シーブ51aおよび可動シーブ51bを備えており、その可動シーブ51b側に配設された油圧アクチュエータ54によって、固定シーブ51aと可動シーブ51bとの間のV溝幅を変更する。
【0028】
同様にセカンダリプーリ52も、油圧アクチュエータ55によって固定シーブ52aと可動シーブ52bとの間のV溝幅を変更するようになっており、こうしてプライマリプーリ51およびセカンダリプーリ52のV溝幅を変更することにより、これらの有効径を連続的に変化させて、変速比を無段階に変化させることができる。なお、セカンダリプーリ52の油圧アクチュエータ55は、伝動ベルト53に滑りを生じない程度の挟圧力が加わるように制御する。
【0029】
そうしてCVT5のプライマリプーリ51からセカンダリプーリ52へ動力が伝達されるときに、そのセカンダリプーリ52に連結されたベルト伝達用クラッチC2を係合させると、セカンダリプーリ52が出力軸7と一体に回転するようになる。すなわち、図2を参照して後述するように本実施の形態では、出力軸7の大径ギヤ71とベルト伝達用クラッチC2のクラッチハブ11とが一体に回転するように連結されており、これにより、CVT5から出力軸7へ駆動力が伝達されるようになる。
【0030】
−動力伝達装置の基本的な動作−
前記のように構成された動力伝達装置2は、例えば車両の発進時などを含む低車速時には、上述した第2動力伝達経路により変速ギヤ機構6を介して駆動輪10側へ伝達するギヤ走行モードとされる。このとき、動力伝達装置2においてはローギヤ伝達用クラッチC1および噛合式クラッチD1が係合される一方、ベルト伝達用クラッチC2およびリバースブレーキB1は解放される。
【0031】
これにより、前後進切換機構4の遊星歯車機構40が一体となって回転し、小径ギヤ44が入力軸41とともに回転するので、この小径ギヤ44と噛み合う大径ギヤ62によってカウンタ軸61が回転される。そして、噛合式クラッチD1を介してアイドラギヤ63が回転され、これと噛み合う大径ギヤ71によって出力軸7が回転される。この出力軸7の回転は、その小径ギヤ72に噛み合う減速歯車機構8の大径ギヤ81に伝達され、減速歯車機構8の小径ギヤ82から差動歯車機構9に伝達される。
【0032】
つまり、エンジン1の動力は第2動力伝達経路であるトルクコンバータ3、前後進切換機構4、変速ギヤ機構6を介して出力軸7に伝達され、さらに減速歯車機構8および差動歯車機構9を介して駆動輪10へ伝達されるようになる。
【0033】
また、車両の所定車速以上になると、上述した第1動力伝達経路によりCVT5を介して駆動輪10側へ伝達するベルト走行モードとなる。このときには、ベルト伝達用クラッチC2が係合されて、CVT5のセカンダリプーリ52と出力軸7とが連結されるので、CVT5からの出力が出力軸7に伝達される。つまり、エンジン1の動力はトルクコンバータ3およびCVT5を介して出力軸7に伝達され、さらに減速歯車機構8および差動歯車機構9を介して駆動輪10へ伝達されるようになる。なお、このときローギヤ伝達用クラッチC1、リバースブレーキB1、および噛合式クラッチD1は解放されている。
【0034】
こうしてCVT5を介して駆動力を伝達するときには、前記したように油圧アクチュエータ54の動作によって、プライマリプーリ51のV溝幅を変更することにより、このプライマリプーリ51およびセカンダリプーリ52の有効径を連続的に変化させて、変速比(入力軸回転数/出力軸回転数)を無段階に変化させることができる。なお、そうしてCVT5により形成される変速比の最大値(最も低速段の変速比)は、動力伝達装置2における第2速に相当し、前記変速ギヤ機構6によって形成される変速比は、さらに大きな(さらに低速段の)値に設定されて、第1速に相当している。
【0035】
上述したように前後進切換機構4やCVT5を制御するための油圧制御回路20は、詳細は図示しないが、CVT5の変速制御のための変速制御部、ベルト挟圧力の制御のための挟圧力制御部、ギヤ走行モードとベルト走行モードとを切り換えるモード切換部などを有している。そして、それら各部のソレノイドバルブが、図示しない制御装置からの制御信号を受けて動作し、リバースブレーキB1、ローギヤ伝達用クラッチC1、ベルト伝達用クラッチC2、噛合式クラッチD1などに制御油圧(ベルト伝達用クラッチC2への制御油圧を太線の矢印Oとして示す)を供給するようになっている。
【0036】
−ベルト伝達用クラッチC2および従動ギヤの連結構造−
本実施の形態では、図2に拡大して示すように、ベルト伝達用クラッチC2の出力側にできるだけ近接させて出力軸7の大径ギヤ71を配置するべく、クラッチハブ11を大径ギヤ71と一体的に設けている。この場合に、仮に図5に示すように、クラッチハブ11の端部を大径ギヤ71の側面に溶接などすると、はすば歯車である大径ギヤ71に大きなスラスト力が作用することに起因して、ベルト伝達用クラッチC2においてジャダーが発生するおそれがあり、さらに焼き付きのような不具合を招く心配もあった。
【0037】
すなわち、前記のように第1および第2動力伝達経路の切り換えが行われるときには、スラスト力の大きな変化によって、図5に矢印Aとして示すように大径ギヤ71が撓み、出力軸7の軸線X(以下、単に軸線Xともいう)の方向に倒れるように変形する。この大径ギヤ71の撓みの大きさは、一例を図6に示すように、大径ギヤ71に伝達される駆動力(ギヤ負荷トルク)の大きさ(絶対値)に概ね比例するようになる。
【0038】
そうして大径ギヤ71の撓みが大きくなると、その側面に端部が溶接されたクラッチハブ11は、大径ギヤ71の撓みに追従するように変形してしまい、その外周部に配設されたクラッチプレート12がクラッチドラム13のクラッチプレート14と偏当たりするようになる。よって、このときにベルト伝達用クラッチC2を断接する動作が行われると、前記のように偏当たりしているクラッチプレート12,14が押し付けられることによって、いわゆるジャダーが発生したり、焼き付きを招いたりする心配があった。
【0039】
このような問題点に着目して本実施の形態では、前記図2の他、図3および図4を参照して以下に説明するように、出力軸7の大径ギヤ71とベルト伝達用クラッチC2のクラッチハブ11(出力側の部材)とを連結する部分に所定の隙間(ガタ)を設けている。これにより、前記のように大きなスラスト力の変化によって大径ギヤ71が撓んでも、これによるクラッチハブ11の変形を抑制できる。
【0040】
すなわち、まず、図2および図3に表れているように、出力軸7の一側(図2の左側)の端部近傍には、概略円盤状の大径ギヤ71が配設されている。この大径ギヤ71は、一側に向かって拡大する浅いコーン状の部分71a(以下、コーン状部71a)を有し、その内周側に設けられたボス部71bが出力軸7に外挿されて、焼き嵌めなどにより固定されている。一方、大径ギヤ71のコーン状部71aよりも外周側には円環状部71cが形成され、その外周面に円周方向に並んで、はす歯形状の外歯が形成されている。
【0041】
また、大径ギヤ71の円環状部71cにはその厚み方向(軸線Xの方向)の貫通孔71dが円周方向に長い長穴状に形成されており、図3には仮想線(二点差線)で示すように、その貫通孔71dにクラッチハブ11の係合部11a(図4も参照)が挿入されている。図3に表れているように貫通孔71dは、円環状部71cにおいて円周方向にほぼ等間隔で4つ並んでおり、それぞれの中心角は概略60°とされている。
【0042】
一方、クラッチハブ11は円筒状とされ、その外周部には円環状のクラッチプレート12が複数枚(図の例では6枚)、スプライン嵌合されている。図2に表れているようにクラッチプレート12は、クラッチドラム13の内周に設けられた複数枚のクラッチプレート14と交互に重ね合わされている。そして、図示しないピストンによって前記のクラッチプレート12,14が軸線Xの方向に押圧されることにより、ベルト伝達用クラッチC2が締結されるようになっている。
【0043】
本実施の形態においてクラッチハブ11には、図4にも表れているように軸線X方向の一側(図2では右側、図4(b)では左側)の端部に、大径ギヤ71の4つの貫通孔71dにそれぞれ対応するように突出する係合部11aが形成されている。そして、これらの係合部11aがそれぞれ4つの貫通孔71dに挿入され、係止部材15(図1にのみ示す)によって貫通孔71dの周縁部に係止されることにより、クラッチハブ11が大径ギヤ71と一体に回転するように連結される。
【0044】
そうしてクラッチハブ11の係合部11aが係止部材15によって貫通孔71dの周縁部に係止された部位から、当該係合部11aの基端部までの長さは、大径ギヤ71の貫通孔71dの貫通長さ(貫通孔71dの周縁部における円環状部71cの厚み)よりも少しだけ長く設定されている。この長い分が、貫通孔71dおよび係合部11aの軸線X方向の隙間(ガタ)であり、この隙間の分だけクラッチハブ11および大径ギヤ71は軸線X方向に相対変位可能になっている。
【0045】
また、前記の図3に表れているように、貫通孔71dおよび係合部11a(仮想線で示す)の間には、円環状部71cの径方向にも小さな隙間が形成されており、このことで、係合部11aは、貫通孔71dの内部で軸線Xの方向から径方向に倒れるように傾斜することができる。よって、図5を参照して上述したように大径ギヤ71が撓み、軸線Xの方向に倒れるように変形すると、その貫通孔71dに対しては係合部11aが斜めになるように変位することになる。
【0046】
このように、出力軸7の大径ギヤ71とベルト伝達用クラッチC2のクラッチハブ11とを連結する部分には、軸線Xの方向および径方向にそれぞれ隙間が形成されて、両者の相対変位を許容するようになっているので、大径ギヤ71が撓んでも、これによるクラッチハブ11の変形は抑制される。
【0047】
以上、説明したように本実施の形態に係る動力伝達装置によると、車両の走行中に第1および第2動力伝達経路の切り換えが行われるときには、これに伴い出力軸7の大径ギヤ71へ加わるスラスト力が大きく変化し、当該大径ギヤ71が大きく撓むことになるが、この大径ギヤ71とベルト伝達用クラッチC2のクラッチハブ11との連結部において、両者の相対変位を或る程度、許容するようにしているので、大径ギヤ71の撓みに起因するクラッチハブ11の変形を抑制できる。
【0048】
よって、前記の動力伝達経路の切り換えのために、ベルト伝達用クラッチC2を断接する動作が行われ、クラッチハブ11のクラッチプレート12がクラッチドラム13のクラッチプレート14に押し付けられるときでも、それらの偏当たりの度合いはあまり大きくならず、いわゆるジャダーの発生が抑制されるとともに、焼き付きを招く心配も少ないので、ベルト伝達用クラッチC2の耐久性の確保に有利になる。
【0049】
−他の実施形態−
本発明の構成は上述した実施の形態に限定されることなく、その他の種々の形態を包含する。すなわち、前記実施の形態では、出力軸7の大径ギヤ71とベルト伝達用クラッチC2のクラッチハブ11との連結部において、大径ギヤ71の4つの貫通孔71dにクラッチハブ11の4つの係合部11aを挿入する構造としているが、貫通孔71dや係合部11aの数は4つに限らず、2つまたは3つでもよいし、5つ以上であってもよい。また、大径ギヤ71に突部を設けて、クラッチハブ11に設けた貫通孔に挿入する構造としてもよい。
【0050】
また、前記実施の形態では、ベルト伝達用クラッチC2の出力側の部材がクラッチハブ11である場合について説明したが、これにも限定されず、出力側の部材はクラッチドラム13であってもよい。この場合、クラッチドラム13の端部を出力軸7の大径ギヤ71と連結し、この連結部において少なくとも軸線X方向に所定以上の相対変位を許容する構造とする。
【0051】
また、前記実施の形態では、無段変速機構としてベルト式のCVT5を用いた例を示しているが、本発明はこれにも限定されず、例えばトロイダルCVTや静油圧式CVTなど、種々の無段変速機構を備えた動力伝達装置に適用することができる。
【0052】
さらに、前記実施の形態では、ガソリンエンジンを搭載した車両の動力伝達装置に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、ディーゼルエンジンなどの他のエンジンを搭載した車両の動力伝達装置にも適用可能である。また、車両の動力源についてはエンジンの他に電動モータ、あるいはエンジンと電動モータの両方を備えたハイブリッド形動力源であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、無段変速機構およびギヤ列を並列に設けた動力伝達装置において、その無段変速機構よりも駆動輪側に設けたクラッチ機構のジャダーや焼き付きなどの不具合を抑制できるものであり、例えば乗用車などに適用して効果が高い。
【符号の説明】
【0054】
2 動力伝達装置
5 CVT(無段変速機構)
6 変速ギヤ機構(ギヤ列)
7 出力軸
71 出力軸の大径ギヤ(出力軸の従動ギヤ)
10 車両の駆動輪
C2 ベルト伝達用クラッチ(クラッチ機構)
11 クラッチハブ
13 クラッチドラム
X 出力軸の軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6