特許第6517822号(P6517822)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6517822
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】無線中継局
(51)【国際特許分類】
   H04W 84/00 20090101AFI20190513BHJP
   H04W 4/42 20180101ALI20190513BHJP
   H04W 88/04 20090101ALI20190513BHJP
【FI】
   H04W84/00 110
   H04W4/42
   H04W88/04
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-546678(P2016-546678)
(86)(22)【出願日】2015年9月2日
(86)【国際出願番号】JP2015074976
(87)【国際公開番号】WO2016035827
(87)【国際公開日】20160310
【審査請求日】2018年7月11日
(31)【優先権主張番号】特願2014-179445(P2014-179445)
(32)【優先日】2014年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】392026693
【氏名又は名称】株式会社NTTドコモ
(74)【代理人】
【識別番号】100125689
【弁理士】
【氏名又は名称】大林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100128598
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 聖一
(74)【代理人】
【識別番号】100121108
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 太朗
(72)【発明者】
【氏名】沈 紀▲ユン▼
(72)【発明者】
【氏名】須山 聡
(72)【発明者】
【氏名】奥村 幸彦
【審査官】 伊東 和重
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−115446(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/110229(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/070049(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24−7/26
H04W 4/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動する乗物に設けられる無線中継局であって、
前記乗物の外に固定された少なくとも1つの固定基地局から下りリンク無線信号を受信する第1の無線受信部と、
前記乗物内の複数のユーザ装置から上りリンク無線信号を受信するとともに、前記複数のユーザ装置のうち少なくとも一部の複数のユーザ装置から、前記固定基地局が送信した下りリンク無線信号を示す補助的無線信号を受信する第2の無線受信部と、
前記第1の無線受信部で受信された前記固定基地局からの下りリンク無線信号に由来する下りリンク無線信号を前記乗物内の宛先のユーザ装置に送信する第1の無線送信部と、
前記第2の無線受信部で受信された前記複数のユーザ装置からの上りリンク無線信号に由来する上りリンク無線信号を前記固定基地局に送信する第2の無線送信部と、
前記補助的信号の受信結果内で、前記乗物内のユーザ装置宛ての下りリンク無線信号を検出する信号検出部とを備え、
前記信号検出部で検出された前記乗物内のユーザ装置宛ての下りリンク無線信号を、前記第1の無線送信部は当該ユーザ装置に送信することを特徴とする
無線中継局。
【請求項2】
前記第1の無線受信部で受信される前記固定基地局からの電波の品質を測定する第1の品質測定部と、
前記信号検出部および前記第1の無線送信部を制御するモード制御部とをさらに備え、
前記モード制御部は、
前記固定基地局からの電波の品質が第1の閾値より高い場合には、前記信号検出部が前記補助的信号の受信結果内での下りリンク無線信号を検出せずに、前記第1の無線受信部で受信された前記固定基地局からの下りリンク無線信号に由来する下りリンク無線信号を前記第1の無線送信部が前記宛先のユーザ装置に送信するように、前記信号検出部および前記第1の無線送信部を制御し、
前記固定基地局からの電波の品質が前記第1の閾値より低い場合には、前記信号検出部が前記補助的信号の受信結果内での下りリンク無線信号の検出を試行し、前記乗物内のユーザ装置宛ての下りリンク無線信号が前記信号検出部で検出されれば、その下りリンク無線信号を前記第1の無線送信部は当該ユーザ装置に送信するように、前記信号検出部および前記第1の無線送信部を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の無線中継局。
【請求項3】
前記モード制御部は、
前記固定基地局からの電波の品質が前記第1の閾値より低く、前記第1の閾値より低い第2の閾値より高い場合には、前記信号検出部は、前記補助的信号の受信結果と前記第1の無線受信部で受信された前記固定基地局からの下りリンク無線信号の受信結果内で、前記乗物内のユーザ装置宛ての下りリンク無線信号の検出を試行し、前記乗物内のユーザ装置宛ての下りリンク無線信号が前記信号検出部で検出されれば、その下りリンク無線信号を前記第1の無線送信部は当該ユーザ装置に送信するように、前記信号検出部および前記第1の無線送信部を制御し、
前記固定基地局からの電波の品質が前記第2の閾値より低い場合には、前記信号検出部は、前記第1の無線受信部で受信された前記固定基地局からの下りリンク無線信号の受信結果を用いずに、前記補助的信号の受信結果内で、前記乗物内のユーザ装置宛ての下りリンク無線信号の検出を試行し、前記乗物内のユーザ装置宛ての下りリンク無線信号が前記信号検出部で検出されれば、その下りリンク無線信号を前記第1の無線送信部は当該ユーザ装置に送信するように、前記信号検出部および前記第1の無線送信部を制御する
ことを特徴とする請求項2に記載の無線中継局。
【請求項4】
前記乗物内の複数のユーザ装置のうち、前記補助的信号を送信すべき複数のユーザ装置を決定するユーザ装置決定部を備え、
前記ユーザ装置決定部で決定された複数のユーザに補助的信号を送信するように要請するための送信要請信号を送信する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の無線中継局。
【請求項5】
前記補助的信号の電波の品質を測定する第2の品質測定部とをさらに備え、
前記ユーザ装置決定部は、前記補助的信号の電波の品質が第3の閾値より低い場合には、過去に決定されたユーザ装置と異なるユーザ装置、または過去に決定されたユーザ装置に加えた他のユーザ装置を、前記補助的信号を送信すべきユーザ装置として決定する
ことを特徴とする請求項4に記載の無線中継局。
【請求項6】
前記乗物内の少なくとも1つのユーザ装置から再送要求を受信すると、
まず、前記信号検出部が前記補助的信号の受信結果内での下りリンク無線信号を検出せずに、前記第1の無線受信部で受信された前記固定基地局からの過去の下りリンク無線信号に由来する前記再送要求を送信した前記ユーザ装置宛ての下りリンク無線信号が前記無線中継局に蓄積されているか否かをチェックし、その下りリンク無線信号が蓄積されていれば、前記第1の無線送信部により前記再送要求を送信した前記ユーザ装置にその下りリンク無線信号を送信し、
その下りリンク無線信号が蓄積されていなければ、
過去の下りリンク無線信号を示す前記補助的信号の受信結果内、または過去の下りリンク無線信号を示す前記補助的信号の受信結果と前記固定基地局からの過去の下りリンク無線信号の受信結果での下りリンク無線信号の検出を試行し、前記再送要求を送信した前記ユーザ装置宛ての下りリンク無線信号が検出されれば、前記第1の無線送信部により前記再送要求を送信した前記ユーザ装置にその下りリンク無線信号を送信する
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の無線中継局。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動する乗物に設けられる無線中継局に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、グループモビリティの概念が開示されている。グループモビリティは、乗物に設けられた車載局が乗物内のユーザ装置と無線通信し、さらに乗物の外の固定基地局と無線通信することにより、乗物内のユーザ装置に移動通信サービスを提供する技術である。車載局は無線中継局であり、乗物内のユーザ装置にとっては基地局である。車載局が乗物とともに移動することにより、車載局のセルも移動する。乗物が移動しても、乗物内のユーザ装置と車載局の間の電波の伝搬状態は常に安定している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】安田浩人、外5名、「5G将来無線アクセスネットワークにおけるムービングセルの実現法」、RCS2014−3、電子情報通信学会技術研究報告、一般社団法人 電子情報通信学会、2014年4月、第114巻、第8号、p.13ー18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グループモビリティのための固定基地局は、乗物の経路の途中に設置される。乗物内のユーザ装置は、車載局を介してその固定基地局と通信するだけでなく、他の基地局とも通信することができる。グループモビリティのための固定基地局のセルの範囲外では、ユーザ装置は、他の基地局との伝搬状態が良好であれば他の基地局と通信する。グループモビリティのための固定基地局のセルの範囲内では、固定基地局と車載局の通信が可能であるので、ユーザ装置は車載局を介してその固定基地局と通信する。
【0005】
しかし、グループモビリティのための固定基地局の近傍に乗物があっても、固定基地局と乗物の間に障害物(例えば、建物、架線、壁、電柱、他の乗物)がある時には、固定基地局と車載局の間の電波の伝搬が悪化し、この結果、車載局を介するユーザ装置と固定基地局の通信品質が劣化する。場合によっては、乗物内のユーザ装置に対する通信が途絶する。
【0006】
そこで、本発明は、固定基地局と乗物に設けられた無線中継局の間の電波の伝搬状態が悪くても、乗物内のユーザ装置に対する通信品質を向上することができる無線中継局を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、移動する乗物に設けられる無線中継局が提供される。無線中継局は、前記乗物の外に固定された少なくとも1つの固定基地局から下りリンク無線信号を受信する第1の無線受信部と、前記乗物内の複数のユーザ装置から上りリンク無線信号を受信するとともに、前記複数のユーザ装置のうち少なくとも一部の複数のユーザ装置から、前記固定基地局が送信した下りリンク無線信号を示す補助的無線信号を受信する第2の無線受信部と、前記第1の無線受信部で受信された前記固定基地局からの下りリンク無線信号に由来する下りリンク無線信号を前記乗物内の宛先のユーザ装置に送信する第1の無線送信部と、前記第2の無線受信部で受信された前記複数のユーザ装置からの上りリンク無線信号に由来する上りリンク無線信号を前記固定基地局に送信する第2の無線送信部と、前記補助的信号の受信結果内で、前記乗物内のユーザ装置宛ての下りリンク無線信号を検出する信号検出部とを備える。前記信号検出部で検出された前記乗物内のユーザ装置宛ての下りリンク無線信号を、前記第1の無線送信部は当該ユーザ装置に送信する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る乗物に設けられた無線中継局では、乗物内の複数のユーザ装置のうち少なくとも一部の複数のユーザ装置から、固定基地局が送信した下りリンク無線信号を示す補助的無線信号を第2の無線受信部が受信する。信号検出部は、補助的信号の受信結果内で、乗物内のユーザ装置宛ての下りリンク無線信号の検出を試行し、信号検出部で検出された乗物内のユーザ装置宛ての下りリンク無線信号を第1の無線送信部は当該ユーザ装置に送信する。このように、無線中継局は、複数のユーザ装置を無線中継局の下りリンク用の複数の受信アンテナの代わりとして使用し、固定基地局が送信した下りリンク無線信号を受信することができる。したがって、固定基地局と乗物に設けられた無線中継局の間の電波の伝搬状態が悪く、第1の無線受信部による固定基地局からの下りリンク無線信号の受信品質が悪くても、乗物内のユーザ装置に対する通信品質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】グループモビリティの概略を示す図である。
図2】グループモビリティのための装置の構成を示す図である。
図3】グループモビリティでの課題を示す図である。
図4】本発明の実施の形態に係る課題の解決策を示す図である。
図5】本発明の実施の形態に係る無線中継局を示す図である。
図6】列車の車両内のユーザ装置の配置を示す図である。
図7】本発明の実施の形態に係る無線中継局の処理の例を示すフローチャートの一部である。
図8図7のフローチャートの続きである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。
グループモビリティ
図1および図2を参照してグループモビリティ(GM)の概念を詳しく説明する。図1に示すように、鉄道車両、より具体的には列車(乗物)2が所定の経路すなわち軌道4に沿って走行する。軌道4の近辺には、複数のGM固定基地局(固定基地局)6が配備されている。列車2の各車両の外側には、GMアンテナセット20が設けられており、GMアンテナセット20は、送信受信ともに可能であり、GM固定基地局6から電波を受信し、GM固定基地局6に電波を送信する。
【0011】
図2に示すように、列車2の複数の車両の各々に設けられたGMアンテナセット20は、列車2の複数の車両のうち1つの車両2aに設けられたGM中継局30に接続されている。また、列車2の複数の車両には、各車両内のユーザ装置(UE、移動局)8と無線通信するための車内アンテナセット22が設けられている。車内アンテナセット22はGM中継局30に接続されている。車内アンテナセット22は、送信受信ともに可能であり、ユーザ装置8から電波を受信し、ユーザ装置8に電波を送信する。
【0012】
さらに、車両2aには、マクロセル基地局(固定基地局)10と無線通信するためのアンテナセット24と、スモールセル基地局(固定基地局)12と無線通信するためのアンテナセット26が設けられている。アンテナセット24は、送信受信ともに可能であり、マクロセル基地局10から電波を受信し、マクロセル基地局10に電波を送信する。アンテナセット26は、送信受信ともに可能であり、スモールセル基地局12から電波を受信し、スモールセル基地局12に電波を送信する。
【0013】
GM固定基地局6は、GMのために設けられており、送信受信ともに可能であり、列車2に搭載されたGMアンテナセット20に電波を送信し、GMアンテナセット20から電波を受信する。列車2に設けられたGM中継局(車載局、無線中継局)30は、車内アンテナセット22によって、列車2内のユーザ装置8と無線通信し、さらにGMアンテナセット20によって、列車2の外のGM固定基地局6と無線通信することにより、列車2内のユーザ装置8に移動通信サービスを提供することができる。より具体的には、GMアンテナセット20はGM固定基地局6から下りリンク無線信号を受信し、車内アンテナセット22はGM固定基地局6からの下りリンク無線信号に由来する下りリンク無線信号を列車2内の宛先のユーザ装置8に送信する。他方、車内アンテナセット22はユーザ装置8からの上りリンク無線信号を受信し、GMアンテナセット20はユーザ装置8からの上りリンク無線信号に由来する上りリンク無線信号をGM固定基地局6に送信する。
【0014】
下りリンクの中継方法としては、GM中継局30は、GM固定基地局6から受信した下りリンク信号を復号し、さらに車両内での下りリンクの信号形式で下りリンク信号を送信するDF(decode-and-forward)リレーを使用してもよいし、信号形式を変えないAF(amplified-and-forward)リレーを使用してもよい。
【0015】
車両内での伝送方式は、各種の方式から選択することができる。例えば、WiFi(登録商標)、MIMOなどの電波を用いた無線伝送、可視光通信を利用することができる。可視光を下りリンク通信に使う場合には、車内アンテナセット22の代わりに、可視光源が使用される。
【0016】
GM中継局30は、列車2内のユーザ装置8にとっては基地局である。GM中継局30およびGMアンテナセット20が列車2とともに移動することにより、GMアンテナセット20で形成されるセルも移動する。列車2が移動しても、列車2内のユーザ装置8とGM中継局30の間の電波の伝搬状態は常に安定している。また、列車2が移動しても、GM中継局30が現在のGM固定基地局6から他のGM固定基地局6への接続を切り替えてゆくことができる限り、列車2内の個々のユーザ装置8のためのハンドオーバまたはセル再選択は必要ない。車内アンテナセット22は列車2の車両の内部に配置されているので、車両の壁による電波の透過損失はないため、列車2内のユーザ装置8は、GM中継局30と安定して通信することができる。
【0017】
また、GM中継局30には、列車2の車両内の情報処理装置(例えばパーソナルコンピュータ)と接続されるケーブル28に接続されてもよい。この場合には、GM中継局30は、情報処理装置とGM固定基地局6との通信を中継する。
【0018】
図1に示すように、複数のGM固定基地局6のセル6aが重なっているが、セル6aは重なっていなくてもよい。換言すれば、GM固定基地局6の間隔は、より離れていてもよい。
【0019】
GM固定基地局6、マクロセル基地局10およびスモールセル基地局12は、1つの通信事業者のネットワークの一部である。列車2内のユーザ装置8は、GM中継局30を介してGM固定基地局6と通信するだけでなく、マクロセル基地局10およびスモールセル基地局12とも通信することができる。列車2がGM固定基地局6のセル6aの範囲外にある時には、ユーザ装置8は、他の基地局との伝搬状態が良好であれば他の基地局と通信する。列車2がGM固定基地局6のセル6aの範囲内にある時には、GM固定基地局6とGM中継局30の通信が可能であるので、ユーザ装置8はGM中継局30を介してGM固定基地局6と通信する。GM固定基地局6を設けることにより、マクロセル基地局10およびスモールセル基地局12といった既存の通信設備の処理の負荷が軽減される。
【0020】
GM中継局30も、アンテナセット24およびアンテナセット26によって、マクロセル基地局10およびスモールセル基地局12と通信することが可能である。例えば、GM固定基地局6が故障した時、または列車2がGM固定基地局6のセル6aの範囲外にある時には、GM中継局30はGM固定基地局6の代わりにマクロセル基地局10またはスモールセル基地局12と通信することができる。
【0021】
マクロセル基地局10は低周波数帯(例えば、2 GHzの周波数帯)を用い、スモールセル基地局12は例えば3.5 GHzの周波数帯を用い、GM固定基地局6は高周波数帯(例えば、10 GHz以上の周波数帯)を用いる。周波数が高いほど伝搬損失が増大するため、マクロセル基地局10のカバレッジが大きいのに対して、GM固定基地局6およびスモールセル基地局12のカバレッジは小さい。そこで、GM中継局30は、ユーザ装置8のCプレーン(control plane)の処理のためにマクロセル基地局10と接続し、ユーザ装置8のUプレーン(user plane)の処理のためにGM固定基地局6またはスモールセル基地局12と接続してもよい。GM中継局30がGM固定基地局6またはスモールセル基地局12と通信できない時には、GM中継局30はユーザ装置8のCプレーンの処理のためにマクロセル基地局10と接続してもよい。列車2内のユーザ装置8も、ユーザ装置8のCプレーンの処理のためにマクロセル基地局10と接続し、ユーザ装置8のUプレーンの処理のためにGM中継局30と接続してもよい。
【0022】
マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12から送信された下りリンク信号の中継方法としては、GM中継局30は、マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12から受信した下りリンク信号を復号し、さらに車両内での下りリンクの信号形式で下りリンク信号を送信するDFリレーを使用してもよいし、信号形式を変えないAFリレーを使用してもよい。
【0023】
高周波数帯での伝搬損失を補って、GM固定基地局6およびGMアンテナセット20からの電波の到達距離を延長するため、GM固定基地局6とGMアンテナセット20の間の下りリンクおよび上りリンクの通信には、好ましくは、Massive MIMOが利用される。Massive MIMOは、多数の送信アンテナ素子によって電波を送信する技術であり、プリコーディング(precoding)を行うことにより、電波のビームの指向性および形状を制御することができる。ビームの形状を鋭くすることにより、電波の到達距離を延長することができる。また、GM固定基地局6とGM中継局30の協調によって、ビームの送信元はビームの受信先に向けて、ビームの方向を制御することができる。したがって、GM固定基地局6のセル6aの範囲内では、列車2が移動していても、GM固定基地局6は、各車両に搭載されたGMアンテナセット20に向けてビームを放出することができ、GMアンテナセット20はGM固定基地局6に向けてビームを放出することができる。また、MIMOの複数ストリーム送信および高周波数帯での広い帯域幅(例えば、200 MHz以上)の利用により、高速なデータ通信が実現される。
【0024】
GM固定基地局6は、例えば1024の送受信アンテナ素子を有する。GM固定基地局6のアンテナ素子数と列車2のアンテナ素子数は、異なってもよいが好ましくは同じである。したがって、列車2は全車両で1024の送受信アンテナ素子を有する。例えば、列車2が16車両を有する場合には、各車両のGMアンテナセット20は64の送受信アンテナ素子を有するのが好ましい。このように、複数の車両に送受信アンテナ素子を分散することにより、空間ダイバーシティ効果を高めることができる。但し、列車2に1つのGMアンテナセット20を設置し、費用を削減してもよい。この場合には、GMアンテナセット20は、好ましくは1024の送受信アンテナ素子を有する。
【0025】
列車2には、マクロセル基地局10との通信のための1つのアンテナセット24、およびスモールセル基地局12との通信のための1つのアンテナセット26が設けられている。しかし、空間ダイバーシティ効果を高めるため、複数のアンテナセット24および複数のアンテナセット26を列車2に設けてもよい。
【0026】
図3を参照し、GMの課題を説明する。図3に示すように、GM固定基地局6の近傍に列車2があっても、GM固定基地局6と列車2の車両の間に障害物29(例えば、建物、架線、壁、電柱、他の乗物)がある時には、GM固定基地局6とその車両のGMアンテナセット20の間の電波の伝搬が悪化し、この結果、GM中継局30を介するユーザ装置8とGM固定基地局6の通信品質が劣化する。場合によっては、車両内のユーザ装置8に対する通信が途絶する。列車2がセル6aに進入すると、GM固定基地局6がGMアンテナセット20に見通し内通信(line-of-sight communication)を行うように、通常、セル6aには大きな建物は配置されないと想定される。しかし、列車2は他の列車とすれ違うことがある。
【0027】
実施の形態
そこで、本発明に係る実施の形態は、GM固定基地局6と乗物に設けられたGM中継局30の間の電波の伝搬状態が悪くても、乗物内のユーザ装置8に対する通信品質を向上させる。図4は、本発明の実施の形態に係るGMの課題の解決策の概略を示す。GMの基本的なシステム構成は、図1および図2に示された構成と同じである。図4において、既に説明した構成要素を示すために同一の符号が使用されており、実施の形態に係るGM中継局30以外のこれらの構成要素については詳細には説明しない。図2と異なり、図4ではケーブル28が示されていないが、実施の形態のGM中継局30にケーブル28を接続してもよい。
【0028】
実施の形態に係るGM中継局30では、列車2内の複数のユーザ装置8のうち少なくとも一部の複数のユーザ装置8から、GM固定基地局6(またはマクロセル基地局10またはスモールセル基地局12)が送信した下りリンク無線信号を示す補助的無線信号を車内アンテナセット22が受信する。つまり、列車2内の複数のユーザ装置8は、いずれかの固定基地局から受信した下りリンク無線信号を、矢印Bで示すように、GM中継局30に転送する。
【0029】
GM中継局30は、補助的信号の総合受信結果内で、列車2内のいずれかのユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出を試行し、検出された乗物内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号を車内アンテナセット22によって、矢印Cで示すように、当該ユーザ装置8に送信する。このように、GM中継局30は、複数のユーザ装置8をGM中継局30の下りリンク用の複数の受信アンテナの代わりとして使用し、GM固定基地局6(またはマクロセル基地局10またはスモールセル基地局12)が送信した下りリンク無線信号を受信することができる。
【0030】
GM固定基地局6の近傍に列車2があって、GM固定基地局6と列車2の車両の間に障害物29がある時には、GM固定基地局6とその車両のGMアンテナセット20の間の電波の伝搬が悪化するが、障害物29による散乱波が、矢印Aで示すように、列車2内のユーザ装置8に到達する。GM固定基地局6の近傍に列車2がある場合、一般的には、GMアンテナセット20で受信されるGM固定基地局6からの電波が強い時には、ユーザ装置8で受信されるGM固定基地局6からの電波は弱く、GMアンテナセット20で受信されるGM固定基地局6からの電波が弱い時には、ユーザ装置8で受信されるGM固定基地局6からの電波は強い。とはいえ、ユーザ装置8でのGM固定基地局6からの散乱波の受信品質は、ユーザ装置8が下りリンク無線信号を復号することができるほど良好ではない。しかし、複数のユーザ装置8から収集された補助的信号(矢印B)は、列車2内では一般に複数のユーザ装置8が離れているため、GM中継局30に空間ダイバーシティ効果をもたらす。GM中継局30は複数のユーザ装置8から収集された補助的信号の総合受信結果内で列車2内のいずれかのユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号を検出することができる。
【0031】
障害物29が大きい場合には、GM固定基地局6からの電波がGMアンテナセット20だけでなく、列車2内のユーザ装置8にも到達しないことがありうる。しかし、その場合でも、ユーザ装置8はマクロセル基地局10またはスモールセル基地局12から電波を受信できることがある。ユーザ装置8は、マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12から受信した下りリンク無線信号を示す補助的無線信号を送信してよい。たとえマクロセル基地局10またはスモールセル基地局12からの電波が弱く、ユーザ装置8が受信した下りリンク無線信号を復号することができなくても、GM中継局30は複数のユーザ装置8から収集された補助的信号の総合受信結果内で列車2内のいずれかのユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号を検出することができる。
【0032】
したがって、GM固定基地局6と車両2aに設けられたGM中継局30の間の電波の伝搬状態が悪く、GMアンテナセット20によるGM固定基地局6からの下りリンク無線信号の受信品質が悪くても、GM中継局30は列車2内のユーザ装置8に対する通信品質を向上することができる。
【0033】
この実施の形態に係るGM中継局30は、下りリンク通信に関しては、以下の3つのモードを使用することができる。
1.GMモードでは、GM中継局30は、GM固定基地局6から受信した下りリンク無線信号のみに由来する下りリンク無線信号を宛先のユーザ装置8に送信する。GM中継局30は、ユーザ装置8に補助的信号の送信を要請せず、補助的信号の総合受信結果を使用しない。
【0034】
2.端末収集モードでは、GM中継局30は、ユーザ装置8に補助的信号の送信を要請し、ユーザ装置8からの補助的信号の総合受信結果のみを使用して、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出を試行し、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号が検出されれば、その下りリンク無線信号を当該ユーザ装置8に送信する。GM中継局30は、GM固定基地局6から下りリンク無線信号を受信できても、受信した下りリンク無線信号を使用しない。好ましくは、ユーザ装置8は同期して補助的信号を送信し、GM中継局30は補助的信号の合成波を受信する。ユーザ装置8からの補助的信号の総合受信結果とは、これらの補助的信号の合成波のGM中継局30での解析結果である。
【0035】
3.複合受信モードでは、GM中継局30は、ユーザ装置8に補助的信号の送信を要請し、ユーザ装置8からの補助的信号の総合受信結果とGM固定基地局6からの下りリンク無線信号の受信結果を使用し、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出を試行し、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号が検出されれば、その下りリンク無線信号を当該ユーザ装置8に送信する。好ましくは、ユーザ装置8は同期して補助的信号を送信し、GM中継局30は補助的信号の合成波を受信し、GM固定基地局6からの下りリンク無線信号を補助的信号の合成波と同期した形式で分析し、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出を試行する。
【0036】
複合受信モードでは、GM中継局30は、GM固定基地局6からの電波とユーザ装置8からの電波を使用する。列車2内では一般に複数のユーザ装置8が離れていることに加え、ユーザ装置8はGMアンテナセット20から離れているため、空間ダイバーシティ効果が得られる。
【0037】
補助的信号の送信を要請されると、ユーザ装置8は、いずれかの固定無線基地局から受信した下りリンク無線信号を復号せずに、車両内で使用される上りリンク無線信号の形式で補助的信号として送信する。但し、好ましくは、通常の上りリンク無線信号とは区別される形式を補助的信号は有する。
【0038】
図5に示すように、GM中継局30は、GM通信部32、マクロセル通信部34、スモールセル通信部36、乗物内通信部38、通信制御部40、品質測定部48、および品質測定部50を有する。GM通信部32はGMアンテナセット20を用いてGM固定基地局6と通信するための通信インタフェースである。マクロセル通信部34はアンテナセット24を用いてマクロセル基地局10と通信するための通信インタフェースである。スモールセル通信部36はアンテナセット26を用いてスモールセル基地局12と通信するための通信インタフェースである。乗物内通信部38は車内アンテナセット22を用いて列車2内のユーザ装置8と通信するための通信インタフェースである。
【0039】
GM通信部32、マクロセル通信部34、およびスモールセル通信部36は、それぞれ対応する固定基地局から下りリンク無線信号を受信する第1の無線受信部として機能する。乗物内通信部38は、列車2内の複数のユーザ装置8から上りリンク無線信号を受信する第2の無線受信部として機能する。
【0040】
また、乗物内通信部38は、第1の無線受信部で受信された固定基地局からの下りリンク無線信号に由来する下りリンク無線信号を列車2内の宛先のユーザ装置8に送信する第1の無線送信部として機能する。GM通信部32、マクロセル通信部34、およびスモールセル通信部36は、第2の無線受信部で受信された複数のユーザ装置8からの上りリンク無線信号に由来する上りリンク無線信号を固定基地局に送信する第2の無線送信部として機能する。
【0041】
また、乗物内通信部38は、列車2内の複数のユーザ装置8のうち、GM中継局30の要請に応じて補助的信号を送信する少なくとも一部の複数のユーザ装置8から、固定基地局(GM固定基地局6、マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12)が送信した下りリンク無線信号を示す補助的無線信号を受信する。
【0042】
品質測定部(第1の品質測定部)48は、GM通信部32で受信されるGM固定基地局6からの電波の品質を測定する。「品質」としては、参照信号受信電力(Reference Signal Received Power,RSRP)、参照信号受信品質(Reference Signal Received Quality,RSRQ)、またはその他の品質の指標であってよい。
【0043】
通信制御部40は、CPU(Central Processing Unit)であり、信号検出部42、モード制御部44、およびユーザ装置決定部46を有する。信号検出部42、モード制御部44、およびユーザ装置決定部46は、通信制御部40が図示しない記憶部に記憶されたコンピュータプログラムを実行し、そのコンピュータプログラムに従って機能することにより実現される機能ブロックである。
【0044】
信号検出部42は、ユーザ装置8から受信された補助的信号の総合受信結果を用いて、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出を試行する。複合受信モードでは、信号検出部42は、ユーザ装置8からの補助的信号の総合受信結果とGM固定基地局6からの下りリンク無線信号の受信結果を使用し、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出を試行する。信号検出部42で検出された乗物内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号を、乗物内通信部38は当該ユーザ装置8に送信する。
【0045】
総合受信結果を用いる列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出には、たとえば、逐次干渉キャンセル(successive interference cancellation(SIC))、最尤検出法(maximum likelihood detection(MLD))などを利用することができる。
【0046】
品質測定部48で測定されるGM固定基地局6からの電波の品質に基づいて、モード制御部44は、GM中継局30が上記のGMモード、端末収集モード、および複合受信モードのいずれで動作するかを決定する。モード制御部44が端末収集モードまたは複合受信モードを決定すると、ユーザ装置決定部46は、列車2内の複数のユーザ装置8のうち、補助的信号を送信すべき複数のユーザ装置8を決定し、決定されたユーザ装置8に補助的信号を送信するように要請するための送信要請信号を乗物内通信部38によって送信する。
【0047】
品質測定部(第2の品質測定部)50は、乗物内通信部38で受信されるユーザ装置8からの補助的信号の電波の品質を測定する。「品質」としては、参照信号受信電力、参照信号受信品質、ビットエラーレート、ブロックエラーレートまたはその他の品質の指標であってよい。ユーザ装置決定部46は、補助的信号の電波の品質が閾値より低い場合には、過去に決定されたユーザ装置8と異なるユーザ装置8、または過去に決定されたユーザ装置8に加えた他のユーザ装置8を、補助的信号を送信すべきユーザ装置8として決定し、決定されたユーザ装置8に補助的信号を送信するように要請するための送信要請信号を乗物内通信部38によって送信する。
【0048】
ユーザ装置決定部46による補助的信号を送信すべきユーザ装置8の決定の手法を説明する。GM中継局30の通信制御部40は、列車2内のユーザ装置8から送信されるチャネル状態情報(CSI)およびユーザ装置8の識別子を認識しており、列車2内に存在し、GM中継局30と通信することができる状態にあり、補助的信号を送信する機能を有するユーザ装置8、すなわちGM中継局30が補助的信号を収集すべきユーザ装置8を認識している。GM中継局30が補助的信号を収集すべきユーザ装置8の条件は、下記の通りである
1)ユーザ装置8が列車2内に存在すること、
2)ユーザ装置8が電源オンであり、通信モードであること、
3)GM中継局30でのユーザ装置8からの受信品質が十分高いこと、
4)特定のユーザ装置8のみがGM中継局30と通信する機能を持つ場合には、ユーザ装置8がGM中継局30と通信する機能を持つこと、
5)特定のユーザ装置8のみが補助的信号を送信する機能を持つ場合には、ユーザ装置8が補助的信号を送信する機能を持つこと。
【0049】
ユーザ装置決定部46は、これらの条件を満たすユーザ装置8のすべてを、補助的信号を送信すべきユーザ装置8として決定してもよい。補助的信号の送信はユーザ装置8の処理負担および電力消費を増加させるので、ユーザ装置決定部46は、これらの条件を満たすユーザ装置8の一部を補助的信号を送信すべきユーザ装置8として選択してもよい。ユーザ装置決定部46は、補助的信号を送信すべきユーザ装置8の数の最大限度と最小限度を限定してもよい。
【0050】
ユーザ装置決定部46がユーザ装置8の一部を選択する場合、その選択の基準としては、例えば、下記が考えられる。
1)ユーザ装置決定部46は、ランダムに補助的信号を送信すべきユーザ装置8を選択してもよい。
【0051】
2)ユーザ装置決定部46は、各車両内のユーザ装置8の位置に応じて、補助的信号を送信すべきユーザ装置8を選択してもよい。例えば、図6に示す車両内の列車進行方向右側のユーザ装置8Rを選択してもよいし、左側のユーザ装置8Lを選択してもよい。ユーザ装置8の位置が車両内の右か左かは、例えば、ユーザ装置8からの上りリンク無線信号の強度またはCQIによって判断される。車両内の車内アンテナセット22が車両の右側にあれば、右側のユーザ装置8Rからの上りリンク無線信号は、左側のユーザ装置8Lからの上りリンク無線信号よりも強いし、右側のユーザ装置8Rが報告するCQIは左側のユーザ装置8Lが報告するCQIより良好である。また、列車2の付近のマクロセル基地局10またはスモールセル基地局12からの下りリンク無線信号の強さをユーザ装置8がGM中継局30に通知することによって、ユーザ装置決定部46は、車両内のユーザ装置8の位置を判断することもできる。マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12が列車2の右側にあれば、右側のユーザ装置8Rがマクロセル基地局10またはスモールセル基地局12から受信する下りリンク無線信号は、左側のユーザ装置8Lがマクロセル基地局10またはスモールセル基地局12から受信する下りリンク無線信号よりも強い。
【0052】
3)ユーザ装置決定部46は、CQIが良好な(ある閾値より高い)ユーザ装置8を選択してもよい。
4)ユーザ装置決定部46は、マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12から受信する下りリンク無線信号が強い(ある閾値より高い)ユーザ装置8を選択してもよい。
上記の手法を組み合わせてもよい。
【0053】
上記のように、品質測定部50で測定される補助的信号の電波の品質が閾値より低い場合には、ユーザ装置決定部46は、過去に決定されたユーザ装置8と異なるユーザ装置8、または過去に決定されたユーザ装置8に加えた他のユーザ装置8を、補助的信号を送信すべきユーザ装置8として決定する。
【0054】
図7および図8で構成されるフローチャートを参照し、GM中継局30の処理の例を説明する。この処理は、GM中継局30がGMのカバレッジエリアに進入すると開始する。GMのカバレッジエリアとは、少なくとも1つのGM固定基地局6のセル6aから構成される。複数のセル6aが隙間なく連続していれば、GMのカバレッジエリアはそれらの複数のセル6aから構成される。GMのカバレッジエリアにGM中継局30が進入したか否かは、例えば、列車の時刻表、GM固定基地局6からの信号の強さ、GM固定基地局6からのカバレッジエリアを示す特別な信号などによって判断することができる。
【0055】
ステップS1で、モード制御部44は、品質測定部48で測定されるGM固定基地局6からの電波の品質Qが第1の閾値QTH1より高いか否か判断する。ステップS1の判断が肯定的な場合、モード制御部44は、信号検出部42および乗物内通信部38をGMモードになるように制御する。GMモードは、ステップS2およびステップS3により構成される。ステップS2で、信号検出部42は、GM通信部32で受信されたGM固定基地局6からの下りリンク無線信号に、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号があるか否か判断する。ステップS2の判断が肯定的な場合、乗物内通信部38は、GM通信部32で受信されたGM固定基地局6からの下りリンク無線信号に由来する下りリンク無線信号を宛先のユーザ装置8に送信する(ステップS3)。
【0056】
GMモードでは、GM中継局30は、ユーザ装置8に補助的信号の送信を要請せず、補助的信号を受信することもない。したがって、GM中継局30は、補助的信号の総合受信結果内で、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出を試行しない。
【0057】
ステップS4で、通信制御部40は、GMのカバレッジエリアをGM中継局30が通過したか否か判断する。GMのカバレッジエリアをGM中継局30が通過したか否かは、例えば、列車の時刻表、GM固定基地局6からの信号の強さ、GM固定基地局6からのカバレッジエリアを示す特別な信号などによって判断することができる。ステップS4の判断が肯定的な場合、処理は終了する。ステップS4の判断が否定的な場合、処理はステップS1に戻る。
【0058】
GM中継局30は、現在のGM固定基地局6から他のGM固定基地局6への接続を切り替えてゆく機能を有しており、図7および図8には図示しないが、このような接続の切り替えに必要な工程を通信制御部40は実行する。GMのカバレッジエリアが複数のセル6aから構成されていれば、GM中継局30は現在のGM固定基地局6から他のGM固定基地局6への接続を実行する。
【0059】
ステップS1の判断が否定的な場合、処理はステップS6に進む。ステップS6で、モード制御部44は、品質測定部48で測定されるGM固定基地局6からの電波の品質Qが第2の閾値QTH2より高いか否か判断する。第2の閾値QTH2は第1の閾値QTH1よりも低い。ステップS6の判断が否定的な場合、モード制御部44は、信号検出部42および乗物内通信部38を端末収集モードになるように制御する。端末収集モードは、ステップS7〜ステップS15により構成される。
【0060】
ステップS7で、通信制御部40は、補助的信号を収集するユーザ装置8の決定回数mが閾値mTHより高いか否か判断する。ステップS7の判断が否定的な場合、処理はステップS8に進み、mを1インクリメントする。mの初期値はゼロである。
【0061】
ステップS9で、ユーザ装置決定部46は、決定回数mに応じて、補助的信号を収集するユーザ装置8の選択基準を決定する。例えば、ユーザ装置決定部46は、決定回数mが1であれば、ユーザ装置8が車両の右側にあることを選択基準とし、決定回数mが2であればユーザ装置8が車両の左側にあることを選択基準とし、決定回数mが3であればすべてのユーザ装置8を選択するようにしてもよい。あるいは、ユーザ装置決定部46は、決定回数mが1であれば、マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12からユーザ装置8が受信する下りリンク無線信号が閾値STH1より強いことを選択基準とし、決定回数mが2であれば、マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12からユーザ装置8が受信する下りリンク無線信号が閾値STH2より強いことを選択基準とし(STH2<STH1)、決定回数mが3であれば、マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12からユーザ装置8が受信する下りリンク無線信号が閾値STH3より高いことを選択基準とし(STH3<STH2)、徐々にユーザ装置8を増やしてもよい。
【0062】
ステップS10で、ユーザ装置決定部46は、選択基準に該当するユーザ装置8があるか否か判断する。より具体的には、選択基準に該当するユーザ装置8の数が最小限度(例えば2)以上であるか否か判断する。ステップS10の判断が否定的な場合、処理はステップS7に戻る。ステップS10の判断が肯定的な場合、処理はステップS11に進み、ユーザ装置決定部46は、選択基準に該当するユーザ装置8に補助的信号を送信するように要請するための送信要請信号を乗物内通信部38によって送信する。選択基準に該当するユーザ装置8の数が最大限度より多い場合には、ユーザ装置決定部46は、最大限度までの数のユーザ装置8に送信要請信号を送信してもよい。
【0063】
ステップS12で、通信制御部40は、送信要請信号の宛先のユーザ装置8から補助的信号を受信する。ステップS13で、通信制御部40は、品質測定部50で測定された補助的信号の電波の品質が第3の閾値QTH3より高いか否か判断する。ステップS13の判断が否定的な場合、処理はステップS7に戻る。
【0064】
ステップS13の判断が肯定的な場合、信号検出部42は、ユーザ装置8からの補助的信号の総合受信結果のみを使用して、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出を試行する。ステップS14で、信号検出部42は、補助的信号の総合受信結果内に、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号があるか否か判断する。ステップS14の判断が肯定的な場合、乗物内通信部38は、補助的信号の総合受信結果に由来する下りリンク無線信号を宛先のユーザ装置8に送信する(ステップS15)。
【0065】
端末収集モードでは、GMアンテナセット20がGM固定基地局6から下りリンク無線信号を受信できても、信号検出部42は受信した下りリンク無線信号を使用しない。端末収集モードは、GM固定基地局6からの電波の品質Qが第1の閾値QTH1よりも低い第2の閾値QTH2より低い場合、つまり極めて劣悪な場合に発動される。このような場合には、GM固定基地局6からの電波がGMアンテナセット20だけでなく、列車2内のユーザ装置8にも到達しないことがありうる。したがって、端末受信モードでは、ユーザ装置8が送信する補助的信号は、マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12からユーザ装置8が受信した下りリンク無線信号を示すことが多いと考えられる。したがって、ステップS9では、マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12からユーザ装置8が受信する下りリンク無線信号の強さを、補助的信号を収集するためのユーザ装置8の選択基準にするのが好ましい。
【0066】
ステップS6の判断が肯定的な場合、モード制御部44は、信号検出部42および乗物内通信部38を複合受信モードになるように制御する。複合受信モードは、ステップS17〜ステップS25により構成される。
【0067】
ステップS17で、通信制御部40は、補助的信号を収集するユーザ装置8の決定回数mが閾値mTHより高いか否か判断する。ステップS17の判断が否定的な場合、処理はステップS18に進み、mを1インクリメントする。mの初期値はゼロである。
【0068】
ステップS19で、ユーザ装置決定部46は、決定回数mに応じて、補助的信号を収集するユーザ装置8の選択基準を決定する。例えば、ユーザ装置決定部46は、決定回数mが1であれば、ユーザ装置8が車両の右側にあることを選択基準とし、決定回数mが2であればユーザ装置8が車両の左側にあることを選択基準とし、決定回数mが3であればすべてのユーザ装置8を選択するようにしてもよい。あるいは、ユーザ装置決定部46は、決定回数mが1であれば、マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12からユーザ装置8が受信する下りリンク無線信号が閾値STH1より強いことを選択基準とし、決定回数mが2であれば、マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12からユーザ装置8が受信する下りリンク無線信号が閾値STH2より強いことを選択基準とし(STH2<STH1)、決定回数mが3であれば、マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12からユーザ装置8が受信する下りリンク無線信号が閾値STH3より高いことを選択基準とし(STH3<STH2)、徐々にユーザ装置8を増やしてもよい。
【0069】
ステップS20で、ユーザ装置決定部46は、選択基準に該当するユーザ装置8があるか否か判断する。より具体的には、選択基準に該当するユーザ装置8の数が最小限度(例えば2)以上であるか否か判断する。ステップS20の判断が否定的な場合、処理はステップS17に戻る。ステップS20の判断が肯定的な場合、処理はステップS21に進み、ユーザ装置決定部46は、選択基準に該当するユーザ装置8に補助的信号を送信するように要請するための送信要請信号を乗物内通信部38によって送信する。選択基準に該当するユーザ装置8の数が最大限度より多い場合には、ユーザ装置決定部46は、最大限度までの数のユーザ装置8に送信要請信号を送信してもよい。
【0070】
ステップS22で、通信制御部40は、送信要請信号の宛先のユーザ装置8から補助的信号を受信する。ステップS23で、通信制御部40は、品質測定部50で測定された補助的信号の電波の品質が第3の閾値QTH3より高いか否か判断する。ステップS23の判断が否定的な場合、処理はステップS17に戻る。
【0071】
ステップS23の判断が肯定的な場合、信号検出部42は、GM固定基地局6からの下りリンク無線信号の受信結果とユーザ装置8からの補助的信号の総合受信結果を使用して、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出を試行する。ステップS24で、信号検出部42は、GM固定基地局6からの下りリンク無線信号の受信結果と補助的信号の総合受信結果内に、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号があるか否か判断する。ステップS24の判断が肯定的な場合、乗物内通信部38は、GM固定基地局6からの下りリンク無線信号の受信結果と補助的信号の総合受信結果に由来する下りリンク無線信号を宛先のユーザ装置8に送信する(ステップS25)。
【0072】
複合受信モードでは、ユーザ装置8が送信する補助的信号は、マクロセル基地局10またはスモールセル基地局12からユーザ装置8が受信した下りリンク無線信号を示すこともあり、マクロセル基地局10からユーザ装置8が受信した下りリンク無線信号を示すこともあると考えられる。
【0073】
以上のように、この実施の形態では、GM固定基地局6からの電波の品質Qが第1の閾値QTH1より高い場合(良好である場合)には、GMモードが使用されて、GM中継局30は、ユーザ装置8からの補助的信号を使用せずに、GM固定基地局6からの下りリンク無線信号に由来する下りリンク無線信号を乗物内通信部38が宛先のユーザ装置8に送信する。一方、GM固定基地局6からの電波の品質Qが第1の閾値QTH1より低い場合には、ユーザ装置8からの補助的信号の受信結果内での下りリンク無線信号の検出を試行し、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号が信号検出部42で検出されれば、その下りリンク無線信号を乗物内通信部38は当該ユーザ装置8に送信する。したがって、GM固定基地局6と車両2aに設けられたGM中継局30の間の電波の伝搬状態が悪く、GMアンテナセット20によるGM固定基地局6からの下りリンク無線信号の受信品質が悪くても、GM中継局30は列車2内のユーザ装置8に対する通信品質を向上することができる。
【0074】
また、この実施の形態では、GM固定基地局6からの電波の品質Qが第1の閾値QTH1より低く、第1の閾値QTH1より低い第2の閾値QTH2より高い場合には、複合受信モードが使用されて、GM中継局30は、ユーザ装置8に補助的信号の送信を要請し、ユーザ装置8からの補助的信号の総合受信結果とGM固定基地局6からの下りリンク無線信号の受信結果を使用し、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出を試行し、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号が検出されれば、その下りリンク無線信号を当該ユーザ装置8に送信する。複合受信モードにより、ユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出精度が向上する。GM固定基地局6からの電波の品質Qが第2の閾値QTH2より低い場合(非常に低い場合)には、端末収集モードが使用されて、GM中継局30は、ユーザ装置8に補助的信号の送信を要請し、ユーザ装置8からの補助的信号の総合受信結果のみを使用して、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出を試行し、列車2内のユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号が検出されれば、その下りリンク無線信号を当該ユーザ装置8に送信する。端末収集モードにより、ユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出精度が向上する。
【0075】
さらに、この実施の形態では、GM中継局30は、列車2内の複数のユーザ装置8のうち、補助的信号を送信すべき複数のユーザ装置8を決定するユーザ装置決定部46を備え、
ユーザ装置決定部46で決定された複数のユーザ8に補助的信号を送信するように要請するための送信要請信号を送信する。したがって、列車2内のすべてのユーザ8が補助的信号を送信する必要はなく、ユーザ装置8の処理負担および電力消費を増加させる補助的信号を送信するユーザ8が限定される。
【0076】
ユーザ装置決定部46は、複合受信モードおよび端末収集モードにおいて、補助的信号の電波の品質が第3の閾値QTH3より低い場合には、補助的信号を収集するための選択基準を変更し、過去に決定されたユーザ装置8、または過去に決定されたユーザ装置8に加えた他のユーザ装置8と異なるユーザ装置8を、補助的信号を送信すべきユーザ装置8として決定する。したがって、ユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号の検出精度を向上させることができる。選択基準の変更後は、列車2内のすべてのユーザ8に補助的信号を送信するように要請するための送信要請信号を送信してもよい。
【0077】
変形
上記の実施の形態において、下りリンク無線信号を受信した少なくとも1つのユーザ装置8が信号の誤りを検出した場合には、ユーザ装置8は再送要求をGM中継局30に送信する。少なくとも1つのユーザ装置8から再送要求を受信すると、GM中継局30のモード制御部44は、HARQ(hybrid automatic repeat request)のために、まずGMモードを発動して、GM固定基地局6から受信した過去の下りリンク無線信号に由来する再送要求を送信した当該ユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号がGM中継局30に蓄積されているか否かをチェックし、その下りリンク無線信号が蓄積されていればその下りリンク無線信号を乗物内通信部38によりユーザ装置8に送信する。
【0078】
GM固定基地局6とGM中継局30の間の伝搬状態が悪かったために、GM中継局30に当該ユーザ装置8宛ての下りリンク無線信号が蓄積されていない場合には、モード制御部44は、端末収集モードまたは複合受信モードを発動して、ユーザ装置8に過去の下りリンク無線信号を示す補助的信号の送信を要請する。モード制御部44は、ユーザ装置8からの補助的信号の総合受信結果(または補助的信号の総合受信結果とGM固定基地局6からの下りリンク無線信号の受信結果)を使用して、再送要求を送信したユーザ装置8宛ての過去の下りリンク無線信号の検出を試行し、当該ユーザ装置8宛ての過去の下りリンク無線信号が検出されれば、その下りリンク無線信号を当該ユーザ装置8に送信する。それでも、当該ユーザ装置8宛ての過去の下りリンク無線信号が検出されなければ、通信制御部40は、GM固定基地局6に再送を要求する。
【0079】
この変形は、GM固定基地局6からの電波の品質Qに応じてモードが決定される上記の実施の形態とは無関係に実行してもよい。
【0080】
上記の実施の形態では、乗物は鉄道列車であるが、本発明は一両編成の鉄道車両(単一の車両)、バス、船舶、飛行機など、その他の乗物にも、適用することができる。
【0081】
GM中継局30において、CPUが実行する各機能は、CPUの代わりに、ハードウェアで実行してもよいし、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array),DSP(Digital Signal Processor)等のプログラマブルロジックデバイスで実行してもよい。
【符号の説明】
【0082】
2 列車(乗物)、4 軌道、6 GM固定基地局(固定基地局)、8 ユーザ装置、10 マクロセル基地局(固定基地局)、12 スモールセル基地局(固定基地局)、20 GMアンテナセット、22 車内アンテナセット、24 アンテナセット、26 アンテナセット、28 ケーブル、29 障害物、30 GM中継局、32 GM通信部(第1の無線受信部)、34 マクロセル通信部(第1の無線受信部)、36 スモールセル通信部(第1の無線受信部、第2の無線送信部)、38 乗物内通信部(第2の無線受信部、第1の無線送信部)、40 通信制御部、42 信号検出部、44 モード制御部、46 ユーザ装置決定部、48 品質測定部(第1の品質測定部)、50 品質測定部(第2の品質測定部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8