特許第6517839号(P6517839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6517839
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】防火ガラスおよび防火ガラス構造体
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20190513BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20190513BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20190513BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
   C03C27/12 P
   B32B17/06
   B32B18/00 B
   C03C17/34 Z
【請求項の数】18
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-569614(P2016-569614)
(86)(22)【出願日】2015年5月26日
(65)【公表番号】特表2017-523107(P2017-523107A)
(43)【公表日】2017年8月17日
(86)【国際出願番号】EP2015061552
(87)【国際公開番号】WO2015181146
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2018年5月25日
(31)【優先権主張番号】14170271.2
(32)【優先日】2014年5月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゲルデリエ,ウド
(72)【発明者】
【氏名】シュバンクハウス,ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】テ・シュトラーケ,ダービト
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−504261(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/006748(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防火ガラス(10)であって、
大気側(I)とスズ浴側(II)とを有する少なくとも1つのフロートガラス板(1.1)と、
前記大気側(I)および/または前記スズ浴側(II)の上に平坦状に配置された少なくとも1つの保護層(3.1)と、
前記保護層(3.1)の上に平坦状に配置された少なくとも1つの防火層(2.1)とを備え、
前記保護層(3.1)は、多層構造であり、金属がドープされた窒化ケイ素からなる第1のサブ保護層(3.1a)と酸化スズ/亜鉛またはドープされた酸化スズ/亜鉛からなる第2のサブ保護層(3.1b)とを備えるまたは含む、防火ガラス(10)。
【請求項2】
前記保護層(3.1)は2層構造である、請求項1に記載の防火ガラス(10)。
【請求項3】
前記第1のサブ保護層(3.1a)は前記フロートガラス板(1.1)の上に直接配置され、前記第2のサブ保護層(3.1b)は前記第1のサブ保護層(3.1a)と前記防火層(2.1)との間に配置されている、請求項1または2に記載の防火ガラス(10)。
【請求項4】
前記保護層(3.1)は、前記フロートガラス板(1.1)の前記スズ浴側(II)にのみ平坦状に配置されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の防火ガラス(10)。
【請求項5】
前記防火層(2.1)はアルカリ性である、請求項1から4のいずれか一項に記載の防火ガラス(10)。
【請求項6】
前記防火層(2.1)は、アルカリケイ酸塩、アルカリケイ酸塩水ガラス、アルカリリン酸塩、アルカリタングステン酸塩、アルカリモリブデン酸塩、および/またはこれらの混合物もしくは層組成物、好ましくは、アルカリポリケイ酸塩、アルカリポリリン酸塩、アルカリポリタングステン酸塩、アルカリポリモリブデン酸塩、および/またはこれらの混合物もしくは層組成物を含み、アルカリ元素は、好ましくはナトリウム、カリウム、リチウム、および/またはこれらの混合物である、または、
前記防火層(2.1)は、架橋されたモノマーおよび/またはポリマーの、好ましくはポリアクリルアミド、ポリ−N−メチルアクリルアミド、または重合された2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロピルトリメチル塩化アンモニウムの、ヒドロゲルを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の防火ガラス(10)。
【請求項7】
前記第1のサブ保護層(3.1a)のドープ金属の含有量は1重量%〜20重量%、好ましくは3重量%〜7重量%であり、および/または前記第1のサブ保護層(3.1a)のドープ金属はアルミニウムである、請求項1から6のいずれか一項に記載の防火ガラス(10)。
【請求項8】
前記第1のサブ保護層(3.1a)の厚みdは、5nm〜50nm、好ましくは8nm〜13nmである、請求項1から7のいずれか一項に記載の防火ガラス(10)。
【請求項9】
前記第2のサブ保護層(3.1b)において、亜鉛:スズ比率は、5重量%:95重量%〜95重量%:5重量%、好ましくは15重量%:85重量%〜70重量%:30重量%である、請求項1から8のいずれか一項に記載の防火ガラス(10)。
【請求項10】
前記第2のサブ保護層(3.1b)は少なくとも1つのドープ元素を含み、前記ドープ元素は、好ましくはアンチモン、フッ素、ホウ素、銀、ルテニウム、パラジウム、アルミニウム、およびタンタルであり、前記第2のサブ保護層(3.1b)の前記ドープ元素の含有量は、0.1重量%〜5重量%、好ましくは0.5重量%〜2.5重量%である、請求項1から9のいずれか一項に記載の防火ガラス(10)。
【請求項11】
前記第2のサブ保護層(3.1b)の厚みdは10nm〜50nm、好ましくは13nm〜21nmである、請求項1から10のいずれか一項に記載の防火ガラス(10)。
【請求項12】
前記フロートガラス板(1.1)は、ホウケイ酸ガラス、アルモシリケートガラス、アルカリ土類ケイ酸塩ガラス、またはソーダ石灰ガラス、好ましくはEN572−1:2004に準拠するソーダ石灰ガラスを含み、および/または前記フロートガラス板(1.1)は、熱プレストレス処理または部分プレストレス処理されており、および/または前記フロートガラス板(1.1)の厚みbは1mm〜25mm、好ましくは2mm〜12mmであり、および/または前記防火層(3.1)の厚みhは0.5mm〜70mmである、請求項1から11のいずれか一項に記載の防火ガラス(10)。
【請求項13】
防火ガラス構造体(100,101)であって、少なくとも、
請求項1から12のいずれか一項に記載の防火ガラス(10)と、
大気側(I)とスズ浴側(II)とを有するフロートガラス板(1.2)とを備え、
前記大気側(I)は、または、保護層(3.2)を介して前記スズ浴側(II)は、前記防火ガラス(10)の前記防火層(2.1)に平坦状に接続されている、防火ガラス構造体(100,101)。
【請求項14】
前記防火ガラス(10)の前記フロートガラス板(1.1)の前記大気側(I)は防火層(2.2)に平坦状に接続されており、前記防火層(2.2)は、前記大気側(I)に、または、他の保護層(3.3)を介して第3のフロートガラス板(1.3)のスズ浴側(II)に、平坦状に接続されている、請求項13に記載の防火ガラス構造体(101)。
【請求項15】
前記フロートガラス板(1.1)または前記フロートガラス板(1.2)は、他の防火層(2.2)と他のフロートガラス層(1.3)からなる少なくとも1つの連続積層体に平坦状に接続されており、本発明に従う他の保護層(3.2)が、各スズ浴側(II)と、直に隣接して配置された防火層(2.2)との間に配置されている、請求項13または14に記載の防火ガラス構造体(101)。
【請求項16】
防火ガラス構造体(100,101)の製造方法であって、少なくとも、
a.1つの保護層(3.1)をフロートガラス板(1.1)のスズ浴側(II)に配置し、
b.前記フロートガラス板(1.1)および第2のフロートガラス板(1.2)を熱プレストレス処理または部分プレストレス処理し、
c.前記フロートガラス板(1.1)および前記第2のフロートガラス板(1.2)をこれらの間に固定距離を置いて保持して、前記フロートガラス板(1.1)の前記スズ浴側(II)と前記第2のガラス板(1.2)との間に金型キャビティを形成し、
d.防火層(2.1)を前記金型キャビティに投入し硬化させる、方法。
【請求項17】
前記方法のステップは、他のフロートガラス板(1.3)および他の防火層(2.2)に対して少なくとも1度繰り返される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
経年劣化によるフロートガラス板(1.1)の曇りを低減するための、請求項1から12のうちの一項に記載のフロートガラス板(1.1)のスズ浴側(II)と防火層(2.1)との間にある保護層(3.1)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に防火ガラス構造体用の、経年劣化による曇り(くすみ)を低減するための保護層を備えた防火ガラスに関する。本発明はさらに、このような防火ガラス構造体の製造方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
防火ガラス構造体は、さまざまな実施形態で知られており、たとえば建築の分野で応用されている。通常、防火ガラス構造体は2枚のガラス板等の少なくとも2枚の透明なキャリア要素で構成され、これらの間には透明な膨張材料からなる防火層が配置されている。たとえばEP0620781B1から、含水アルカリケイ酸塩からなる防火層が知られている。アルカリケイ酸塩層に含まれる水分は、防火層構造体に対する熱の影響を受けて蒸発し、アルカリケイ酸塩が起泡する。そうすると、防火層の透明度は、特に熱放射のために大幅に低下し、しばらくの間は望ましくない熱伝導から保護する。通常は、防火層が大幅に膨張すると、ガラス板のうちの一方が破砕し、特に熱源に面しているガラス板が破砕する。このため、防火層を間に挟んだ数枚のガラス板を並べることによって、熱保護と機械的安定性を改善する。
【0003】
さらに、たとえばEP0192249A2から、水分含有量が80%〜90%と特に高いアルカリケイ酸塩をベースとする改善された防火層が知られている。
【0004】
このような防火層を備えた防火ガラスおよび防火ガラス構造体は、時間の経過に伴って、目に見える領域に点状または局所的な曇りが生じることが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、本発明の目的は、耐経年劣化性が改善され特に経年劣化に伴う曇りが低減された防火ガラスを提供することである。これらおよびその他の目的は、特許独立請求項の特徴を有する防火ガラスにより、本発明の提案に従って達成される。
【0006】
本発明の好都合な設計は、従属請求項の特徴によって特定される。
防火ガラス構造体の製造方法および防火ガラスの使用は、その他の特許独立請求項から導き出される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従う防火ガラスは、
大気側とスズ浴側とを有する少なくとも1つのフロートガラス板と、
フロートガラス板の大気側および/またはスズ浴側の上に平坦状に配置された少なくとも1つの保護層と、
保護層の上に平坦状に配置された少なくとも1つの防火層とを備え、
保護層は、多層構造であり、金属がドープされた窒化ケイ素からなる第1のサブ保護層と酸化スズ/亜鉛またはドープされた酸化スズ/亜鉛からなる第2のサブ保護層とを備えるまたはこれらのサブ保護層で構成される。
【0008】
本発明に従う防火ガラスのある好都合な設計において、保護層は2層構造となるように設計される。
【0009】
本明細書において、保護層が平坦状に配置されるとは、実質的にフロートガラス板の大気側またはスズ浴側全体に配置されることを意味する。本明細書において、実質的とは、各側の70%以上、好ましくは85%以上、特に95%以上が保護層で覆われることを意味する。このことは、防火層が保護層の上に平坦状に配置される場合にも適用される。特に、保護層は、防火層がフロートガラス板に直に接触せず、防火層とフロートガラス板の間に必ず保護層が介在するように、フロートガラスの各側に平坦状に配置される。
【0010】
本発明は、下記の発明者の認識、言換えると発見に基づいている。すなわち、ガラスの品質によっては、そのスズ浴側が防火層に接しているフロートガラス板の中には、老化試験においてフロートガラス板と防火層からなる構造体の透明性に著しい曇りが生じたものがあった。これに対し、その大気側が防火層に接しているフロートガラス板の場合、老化試験において透明性の曇りは全くなかったまたはわずかしかなかった。このように、老化試験における透明性の曇りは、本発明に従う保護層をフロートガラス板のスズ浴側と防火層の間に組込むことによって回避できるまたは大幅に減じることができる。
【0011】
本発明は以下のモデルによって理解することができる。製造時、熱いフロートガラス板のスズ浴側はスズ浴に接触する。その結果として形成される表面は、典型的にはアルカリ性の防火層に接触すると、スズ層の組織によっては、不均質なストリップ状の曇りが生じ経年劣化後に曇った外観を呈する可能性がある。フロートガラス板の大気側は、アルカリ性の防火層に接触しても、均質な曇りを示すのみであり、この曇りはごくわずかでほとんど認識できない。結果としてストリップ状の曇りは全くないかまたは小さなものでしかない。アルカリ性の防火層と接触するスズ浴側のストリップ状の曇りは、本発明に従う保護層を導入することによって減じられ均質化されるので、大気側と同様、目に見える曇りは全くないかまたはほとんど認識できない均質な曇りしかない。
【0012】
本発明に従う防火ガラスのある好都合な設計において、保護層は、フロートガラス板のスズ浴側にのみ平坦状に配置され、大気側には配置されない。
【0013】
本発明に従う防火ガラスのある好都合な設計において、防火層はアルカリ性である。
好都合には、本発明に従う防火層は、アルカリケイ酸塩またはアルカリポリケイ酸、好ましくはアルカリケイ酸塩水ガラスを含む。このような防火層は、たとえばEP0620781B1またはEP1192249A2から知られている。これに代わる防火層は、アルカリリン酸塩、アルカリタングステン酸塩、および/またはアルカリモリブデン酸塩を含む。これはDE3530968C2から知られている。
【0014】
これに代わる他の防火層は、固相のポリマーの、好ましくはDE2713849C2から知られているようにポリアクリルアミドもしくはN−メチルアクリルアミドの、または、DE4001677C1から知られているように重合された2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドの、ヒドロゲルを含む。
【0015】
防火層は非常に多様な厚みにすることができ、用途の目的の要求に合わせればよい。ケイ酸塩を有する好都合な防火層の厚みhは、0.5mm〜7mm、好ましくは1mm〜6mmである。この厚みは、ヒドロゲルの場合、8mmと70mmの間にある。
【0016】
本発明に従う第2のサブ保護層は、少なくとも酸化スズ/亜鉛またはドープされた酸化スズ/亜鉛を含む。酸化スズ/亜鉛またはドープされた酸化スズ/亜鉛は、好都合には非結晶質である。これは、好ましくは非晶質または部分的に非晶質(したがって部分的に結晶質)であってもよいが、完全な結晶質ではない。このような非結晶質の第2のサブ保護層が有する具体的な利点は、粗さが小さくしたがって第2のサブ保護層の上に設けられる層に対して好都合に平滑な表面を形成することであり、傷および点欠陥は埋められる。
【0017】
本発明に従う防火ガラスのある好都合な設計において、第2のサブ保護層は、たとえばアンチモン、フッ素、ホウ素、銀、ルテニウム、パラジウム、アルミニウム、およびタンタルがドープされている。保護層における金属ドープの含有量は、重力百分率(重量%)にして、好ましくは0.01重量%〜10重量%、特に好ましくは0.1重量%〜5重量%、特に0.5重量%〜2.5重量%である。このようなドーピングが施された第2のサブ保護層を有する防火ガラスは、経年劣化に伴う曇りが特に少ない。結果として、アンチモンがドープされた酸化スズ/亜鉛層が特に好適であることがわかった。
【0018】
本発明に従う防火ガラスのある好都合な設計において、第2のサブ保護層の亜鉛:スズ比率は、5重量%:95重量%〜95重量%:5重量%、好ましくは15重量%:85重量%〜70重量%:30重量%である。このような混合比の酸化スズ/亜鉛またはドープされた酸化スズ/亜鉛からなる保護層は、特に耐久性が高く、特に経年劣化に伴う曇りが少ない。
【0019】
本発明に従う防火ガラスのある好都合な設計において、第2のサブ保護層は、SnZnまたはドープされたSnZn(0<z≦(y+2x)、特に好ましくは0.7*(y+2x)≦z≦(y+2x)、特に好ましくは0.9*(y+2x)≦z≦(y+2x))を含む。このような混合比の第2のサブ保護層を有する防火ガラスは、特に耐久性が高く、経年劣化に伴う曇りが少ない。本発明に従う防火ガラスの特に好都合な設計において、第2のサブ保護層は、ZnSnO、ドープされたZnSnO、ZnSnO、もしくはドープされたZnSnO、またはこれらの混合物を含む。このような混合比の第2のサブ保護層は、特に耐久性が高く、経年劣化に伴う曇りが特に少ない。
【0020】
本発明に従う防火ガラスのある好都合な設計において、第2のサブ保護層は、酸化スズ/亜鉛と、場合によっては、ドーパント金属および製造に固有の混合物とからなる。このような混合比の第2のサブ保護層は、特に耐久性が高く、経年劣化に伴う曇りが特に少ない。
【0021】
スズ/亜鉛混合酸化物の成膜は、たとえばカソードスパッタリング中に反応ガスとして酸素を加えることによって行なわれる。
【0022】
本発明に従う第2のサブ保護層のある好都合な設計において、第2のサブ保護層の厚みdは、2nm〜200nm、好ましくは10nm〜50nm、特に好ましくは13nm〜21nmである。これらの層厚さを有する第2のサブ保護層を備えた防火ガラスは、経年劣化に伴う曇りが特に少ない。
【0023】
本発明に従う第1のサブ保護層は、少なくとも1つの金属がドープされた窒化ケイ素を含む。ドープ金属は、好ましくはアンチモン、銀、ルテニウム、パラジウム、アルミニウム、および/またはタンタルである。アルミニウムがドープされた窒化ケイ素の層の場合、腐食試験およびスクラッチ試験において、製造中の曇りが特に少なく、最高の結果が得られる。
【0024】
本発明に従う防火ガラスのある好都合な設計において、第1のサブ保護層のドープ金属、特にアルミニウムの含有量は、1重量%〜20重量%、好ましくは3重量%〜7重量%である。このような第1のサブ保護層を備えた防火層は、腐食試験およびスクラッチ試験において最良の耐性または耐久性を示した。
【0025】
本発明に従う防火ガラスの他の好都合な設計において、第1のサブ保護層の厚みdは、2nm〜200nm、好ましくは5nm〜50nm、特に好ましくは5nm〜26nm、特に8nm〜13nmである。このような第1のサブ保護層を備えた防火ガラスは、腐食試験およびスクラッチ試験において最高の耐久性と最少の曇りを示した。
【0026】
本発明に従う防火ガラスのある好都合な設計において、第1のサブ保護層は、金属がドープされた、特にアルミニウムがドープされた窒化ケイ素と、製造に固有の混合物とからなる。
【0027】
発明者による実験により、金属がドープされた窒化ケイ素からなるサブ保護層を有する2層保護層には、酸化スズ/亜鉛またはドープされた酸化スズ/亜鉛からなる第2のサブ保護層を、酸化スズ/亜鉛またはドープされた酸化スズ/亜鉛からなる単層の保護層と比較して、より薄く設計できるという利点があることがわかった。それでもなお、このような2層で構成された保護層は、アルカリ性の防火層に対する耐性があり、経年劣化に伴う曇りが少なく、かつ、腐食試験およびスクラッチ試験において非常に優れた耐久性を示す。
【0028】
金属がドープされた窒化ケイ素の層と酸化スズ/亜鉛の層またはドープされた酸化スズ/亜鉛の層との相乗作用によって、酸化スズ/亜鉛またはドープされた酸化スズ/亜鉛からなる第2のサブ保護層を薄くして、2層からなる保護層の全体の厚みとして、酸化スズ/亜鉛またはドープされた酸化スズ/亜鉛からなる単一層の保護層よりも小さい厚みを選択しつつ、防火層に対する耐性は同等に良好なものが得られる。保護層の全体の厚みを小さくすることにより、結果として、防火ガラスの光学特性を改善することができるとともに、透明度を高め色収差を減じることができる。金属がドープされた窒化ケイ素からなる層は、プロセス技術という点では非常に簡単であり製造コストが低く、光透過性が高い。特に、金属がドープされた窒化ケイ素層は、酸化スズ/亜鉛層よりも製造コストが低い。
【0029】
ある好都合な実施形態において、金属がドープされた窒化ケイ素からなる第1のサブ保護層は、フロートガラス板のスズ浴側に直接配置され、酸化スズ/亜鉛またはドープされた酸化スズ/亜鉛からなる第2のサブ保護層は、第1の保護層の上にある。このような層の並びによって最良の結果を得ることができる。しかしながら、これらの材料の並びを入れ替えて、第2のサブ保護層をフロートガラス板のスズ浴側に直接配置し金属がドープされた窒化ケイ素からなる第1のサブ保護層を第2のサブ保護層の上に配置することも可能であることが、理解されるはずである。
【0030】
本発明に従うフロートガラス板は、フロート法によって製造される。このような方法は、たとえばFR1378839Aから知られている。フロートガラスの製造では、連続プロセスにおいて、ペースト状の溶かしたガラスの塊を、連続的に一方側から細長い液体スズ浴上に供給する。溶融ガラスはスズ浴に浮かび、均一的なガラス膜が広がる。スズと液体ガラスの表面張力によって非常に滑らかなガラス面が形成される。スズ浴の終端において溶融ガラスを冷却して固める。製造時にスズ浴に浮かぶフロートガラス板の側を、本願の枠組みではスズ浴側と呼ぶ。スズ浴と反対側にあるフロートガラス板の側を大気側と呼ぶ。
【0031】
フロートガラス板は、好ましくはホウケイ酸ガラス、アルモシリケートガラスまたはアルカリ土類ケイ酸塩ガラス、特に好ましくはソーダ石灰ガラス、特に規格EN572−1:2004に準拠するソーダ石灰ガラスを含むまたはこのガラスからなる。
【0032】
好都合には、フロートガラス板は、熱プレストレス処理または部分プレストレス処理される。熱部分プレストレス処理またはプレストレス処理されたフロートガラス板は、好ましくはプレストレスが30MPa〜200MPa、特に好ましくは70MPa〜200MPaである。このようなプレストレスまたは部分プレストレス処理されたフロートガラス板は、たとえばDE19710289C1から知られている。熱プレストレス処理または部分プレストレス処理されたフロートガラス板は、特にその高い安定性のために防火ガラスに適しており、保護層の発明の効果は特に好都合である。
【0033】
フロートガラス板は非常に多様な厚みにすることができるので、個々の要求への対応に優れている。1mm〜25mm、好ましくは2mm〜12mmという標準的な厚みのガラスを用いるのが好ましい。このガラスは非常に多様なサイズにすることができ、本発明に従う用途のサイズに合うようにする。
【0034】
フロートガラス板の立体形状はどのようなものであってもよい。好ましくは、この立体形状にはシャドーゾーン(shadow zone)がなく、よって、たとえばカソードスパッタリングによってコーティングすることができる。このガラスは、好ましくは平坦である、または、空間の1方向または複数方向に、より大きくまたは小さく曲げられている。フロートガラス板は無色であっても着色されていてもよい。
【0035】
本発明に従うフロートガラス板は、個別の2つ以上のフロートガラス板からなる複合体で構成されていてもよい。これらのフロートガラス板は、その都度少なくとも1つの中間層を介して接続される。中間層は、好ましくはポリビニルブチラール(PVD)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の熱可塑性プラスチック、またはこれらのうちのいくつかで構成され、好ましくは厚みが0.3〜0.9mmである。
【0036】
本発明に従う防火ガラスのある好都合な設計において、少なくとも1つの結合(接着)強化層または結合低減層が、保護層と防火層の間に配置される。結合強化層は、典型的には、シラン、チタン酸塩またはジルコン酸塩をベースとする有機親水性物質を含み、たとえば、EP0001531B1およびEP0590978A1から知られている。結合低減層は、たとえば、フルオロアルキルシラン、パーフルオロアルキルシラン、フルオロアルキルトリクロロシラン、フルオロアルキルアルコキシシラン、パーフルオロアルキルアルコキシシラン、フルオロ脂肪族シリルエーテル、アルキルシラン、およびフェニルシランならびにシリコーン等の疎水性有機官能性シランを含む。このような疎水性有機官能性シランは、たとえば、DE19731416C1から知られている。これに代わる結合低減層は、好ましくはポリエチレンをベースとするポリマーワックスを含む。
【0037】
本発明に従う防火ガラスのある好都合な設計において、たとえば防火ガラスの光学特性に影響を及ぼす少なくとも1つの他の層が、フロートガラス板のスズ浴側と保護層の間に配置される。このような他の層は、たとえば防火ガラスの透過性を高め、反射を減じる、または透過した光に色を与える。
【0038】
保護層は、電磁放射線、好ましくは波長300nm〜1300nmの電磁放射線、特に可視光に対して透過性であることが好都合である。「透過性」は、保護層で覆われたフロートガラス板の総透過率が、50%を超える、好ましくは70%を超える、特に好ましくは90%を超えることを意味する。
【0039】
本発明はさらに、防火ガラス構造体を含み、この防火ガラス構造体は、少なくとも、
本発明に従う防火ガラスと、
大気側とスズ浴側とを有する第2のフロートガラス板とを備え、
第2のフロートガラス板はその大気側を介して防火ガラスの防火層に平坦状に接続されている。
【0040】
本発明に従う防火ガラス構造体の代替設計は、少なくとも、
本発明に従う防火ガラスと、
大気側とスズ浴側とを有する第2のフロートガラス板とを備え、
第2のフロートガラス板はスズ浴側に本発明に従う第2の保護層を含み、第2のフロートガラス板は第2の保護層を介して防火ガラスの防火層に平坦状に接続されている。
【0041】
本発明に従う防火ガラス構造体の好都合な他の発展形において、防火ガラスのフロートガラス板の大気側は、第2の防火層に平坦状に接続され、第2の防火層は、第3のフロートガラス板の大気側に平坦状に接続されている。
【0042】
本発明に従う防火ガラス構造体の代替の他の発展形において、防火ガラスのフロートガラス板の大気側は、第2の防火層に平坦状に接続され、第2の防火層は、第3のフロートガラス板のスズ浴側に、他の保護層を介して接続されている。
【0043】
このような3重の構造体は、特に安定性と防火効果が高い。また、4つ以上のフロートガラス層を有する防火ガラスは同様の原理に従って製造でき、本発明によって経年劣化に伴う透視性の曇りを回避するために、本発明に従う保護層は、各防火層と、直に隣接して配置されたフロートガラス板のスズ浴側との間に配置されることが、理解されるはずである。本明細書において「直に隣接して配置された」は、スズ浴側と防火層との間にガラス板が存在しないことを意味する。
【0044】
本発明はさらに、第1のフロートガラス板と、第1の防火層と、第2のフロートガラス板と、第2の防火層と、末端フロートガラス板とからなる連続積層体で構成された防火ガラス構造体を含み、本発明に従う保護層は、各スズ浴側と、直に隣接して配置された防火層との間に配置されている。
【0045】
本発明に従うこの防火ガラス構造体の他の発展形においては、少なくとも1つの他のフロートガラス板と他の防火層が連続積層体の中に配置されている。本発明に従う他の保護層は、他のフロートガラス板の各スズ浴側と、直に隣接して配置された防火層との間に配置されることが理解されるはずである。
【0046】
防火ガラス構造体、特に外側にあるフロートガラス板は、防火ガラス構造体、特に防火層を熱と紫外線から保護するための紫外線反射および/または赤外線反射効果を有するその他の機能性コーティングを有していてもよい。また、いくつかの防火ガラス構造体が、真空のまたはガスが充填された中間スペースによって、断熱ガラス構造体を形成することができる。
【0047】
本発明は、防火ガラス構造体の製造方法を含み、この方法は、少なくとも、
a.保護層を第1のフロートガラス板のスズ浴側に配置し、
b.第1のフロートガラス板および第2のフロートガラス板をこれらの間に固定距離を置いて保持して、第1のフロートガラス板のスズ浴側と第2のフロートガラス板との間に金型キャビティを形成し、
c.液状の防火層を金型キャビティに投入し硬化させる。
【0048】
本発明に従う方法のある好都合な実施形態において、上記方法のステップは、第3のフロートガラス板が第1または第2のフロートガラス板から固定距離を置いて保持されそれによって形成された金型キャビティが第2の防火層で充填されるように、繰り返される。この方法のステップは、並行して行なわれてもよい、すなわち、3枚以上のフロートガラス板が固定距離を置いて同時に保持され、ケイ酸塩の水溶液またはヒドロゲルが同時に投入されて防火層が形成される。したがってこの方法は4枚以上のフロートガラス板を有する多層防火ガラス構造体を形成するために繰り返し実行し得ることが、理解されるはずである。
【0049】
方法のステップ(a)における保護層の成膜は、それ自体が周知である方法によって、好ましくは磁場強化カソードスパッタリングによって行なうことができる。これは、フロートガラス板が簡単に素早く低コストで均一的にコーティングされるという点において、特に好都合である。
【0050】
反応性カソードスパッタリングによってスズ/亜鉛混合酸化物の層を製造する方法は、たとえばDE19848751C1から知られている。スズ/亜鉛混合酸化物は、好ましくは、5重量%〜95重量%の亜鉛と、5重量%〜95重量%のスズと、0重量%〜10重量%のアンチモンと、製造に固有の混合物とを含むターゲットを用いて成膜される。このターゲットは特に、15重量%〜70重量%の亜鉛と、30重量%〜85重量%のスズと、0重量%〜5重量%のアンチモンと、製造に固有の他の金属の混合物とを含む。酸化スズ/亜鉛によるまたはドープされた酸化スズ/亜鉛による成膜は、たとえばカソードスパッタリング中に反応ガスとして酸素を加えながら行なわれる。
【0051】
金属がドープされた窒化ケイ素の層も同様に、たとえば反応性カソードスパッタリングによって、特に金属がドープされたケイ素ターゲットを用いることによって製造される。次に、金属がドープされた窒化ケイ素からなる第1のサブ保護層が、たとえばカソードスパッタリング中に反応ガスとして窒素を加えながら成膜される。
【0052】
これに代えて、第1および/または第2のサブ保護層は、気相成長、化学気相成長(CVD)、プラズマ強化化学気相成長(PECVD)、ゾル−ゲル法、または湿式化学法によって成膜してもよい。
【0053】
上記方法のステップ(b)において、第1のフロートガラス板と第2のフロートガラス板は、金型キャビティが形成されるよう、固定距離を置いて保持される。これは、たとえばフロートガラス板の端部領域に配置されたスペーサを用いて行なうことができる。よって、スペーサは、防火ガラス構造体の中に固定要素として残してもよく、再び取出してもよい。これに代えて、フロートガラス板を外部ホルダを用いて適所で固定してもよい。
【0054】
方法のステップ(c)において、まだ硬化しておらず注入可能な防火層を金型キャビティに投入し、続いて硬化させる。水溶性アルカリケイ酸塩からなる防火層の場合、たとえばアルカリケイ酸塩を、二酸化ケイ素を含有または放出する硬化剤と合わせる。それによって形成された注入可能な塊を、金型キャビティに投入する。そうすると、この塊が硬化して水分を含有する固体アルカリケイ酸塩層となる。ヒドロゲルからなる防火層の製造方法は、たとえばWO94/04355またはDE4001677C1から知られている。
【0055】
本発明に従う方法の好都合な他の発展形において、第1のフロートガラス板および/または第1のフロートガラス板と第2のフロートガラス板は、方法ステップ(a)の前にまたは方法ステップ(a)と(b)の間に、熱プレストレス処理または部分プレストレス処理される。
【0056】
本発明はさらに、フロートガラス板のスズ浴側と防火層、特にアルカリ性の防火層との間にあり、経年劣化に伴うフロートガラス板の曇りを低減するための、本発明に従う保護層の使用を含む。
【0057】
加えて、本発明は、建築要素として、間仕切りとして、建築物のもしくは陸上車両もしくは海上船舶もしくは航空機の正面の一部もしくは窓の一部として、または、家具および装置の設置部としての、防火ガラスの使用を含む。
【0058】
以下、本発明を図面と実施例を用いてより詳細に説明する。図面の縮尺は完全に一律の縮尺ではない。本発明は決して図面によって限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】本発明に従う防火ガラスの概略断面図である。
図2A】本発明に従う防火ガラス構造体の概略断面図である。
図2B】本発明に従う防火ガラス構造体の代替実施形態の概略断面図である。
図3】本発明に従う防火ガラス構造体の代替実施形態の概略断面図である。
図4A】本発明に従う防火ガラス構造体の代替実施形態の概略断面図である。
図4B】本発明に従う防火ガラス構造体の代替実施形態の概略断面図である。
図5】本発明に従う方法の実施形態の一例のフロー図である。
図6】さまざまな保護層を有する防火ガラスの曇りの図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
図1は、本発明に従う防火ガラス10の断面の概略図を示す。防火ガラス10は、大気側Iとスズ浴側IIとを有するフロートガラス板1.1を含む。フロートガラス板1.1はたとえば厚みbが5mmであり寸法が2m×3mである。フロートガラス板1.1は各用途の目的に合わせてその他の厚みおよび寸法も有し得ることが理解されるはずである。
【0061】
保護層3.1は、フロートガラス板1.1のスズ浴側IIに配置されている。アルカリポリケイ酸塩からなる防火層3.1は保護層3.1の上に配置されている。保護層3.1は、フロートガラス板1.1のスズ浴側IIの一部に、好ましくは実質的に全体にわたって延在する。特に、保護層3.1は、防火層2.1とフロートガラス板1.1との間の面全体にわたって延在する。このため、確実に、フロートガラス板1.1のスズ浴側IIの面は、防火層2.1のアルカリポリケイ酸塩から保護される。
【0062】
保護層3.1は、第1のサブ保護層3.1aと第2のサブ保護層3.1bからなる2層構造として設計されている。
【0063】
第1のサブ保護層3.1aは、たとえばアルミニウムがドープされた窒化ケイ素の層で構成され、カソードスパッタリングによって成膜されたものである。成膜は、アルミニウムがドープされたケイ素をターゲットとしカソードスパッタリング中に反応ガスとして窒素を加えて行なわれた。アルミニウムがドープされた窒化ケイ素の層は、たとえばドープ金属の含有量が5重量%であり厚みdがたとえば8nmである。
【0064】
アンチモンがドープされた酸化スズ/亜鉛からなる第2のサブ保護層3.1bは、カソードスパッタリングによって成膜されたものである。第2のサブ保護層3.1bの成膜のためのターゲットは、68重量%の亜鉛と、30重量%のスズと、2重量%のアンチモンを含んでいた。成膜は、カソードスパッタリング中に反応ガスとして酸素を加えて行なわれた。第2のサブ保護層3.1bの厚みdはたとえば15nmである。したがって、保護層全体3.1の厚みdは23nmである。
【0065】
発明者による実験が示すように、既に、腐食試験およびスクラッチ試験において、厚みdが3nmでありアルミニウムがドープされた窒化ケイ素からなるサブ保護層3.1aにより、有利に高められた耐老化性と大幅に低減された曇りとともに改善された耐久性が得られた。
【0066】
この設計例において、アルミニウムがドープされた窒化ケイ素からなるサブ保護層3.1aは、フロートガラス板1.1のスズ浴側IIに直接配置されており、アンチモンがドープされた酸化スズ/亜鉛からなる第2のサブ保護層3.1bは、アルミニウムがドープされた窒化ケイ素からなる第1のサブ保護層3.1aの上に配置されている。これらの材料の並びを入れ替えて、アンチモンがドープされた酸化スズ/亜鉛からなる層をフロートガラス板のスズ浴側に直接配置しアルミニウムがドープされた窒化ケイ素からなる層をアンチモンがドープされた酸化スズ/亜鉛からなる層の上に配置することも可能であることが、理解されるはずである。
【0067】
防火層2.1は、たとえば、アルカリケイ酸塩と、たとえばケイ酸カリウムまたはコロイド状ケイ酸からなる少なくとも1つの硬化剤とから形成された、硬化ポリケイ酸塩を含む。これに代わる設計において、ケイ酸カリウムは、水酸化カリウム溶液と二酸化ケイ素から直接製造することもできる。二酸化ケイ素と酸化カリウムのモル比(SiO:KO)はたとえば4.7:1である。このような防火層2.1は、典型的にはpH値12のアルカリ性である。防火層2.1の厚みhはたとえば3mmである。
【0068】
図2Aは、本発明に従う防火ガラス構造体100の概略断面図を示す。本発明に従う防火ガラス構造体100は、たとえば図1に示される本発明に従う防火ガラス10を含む。さらに、防火ガラス10の防火層2.1は、保護層3.1と反対側の側面が、第2のフロートガラス板1.2の大気側Iに平坦状に接続されている。第2のフロートガラス板1.2は、その性質がたとえばフロートガラス板1.1に相当する。
【0069】
図2Bは、本発明に従う防火ガラス構造体100の代替例の概略断面図を示す。本発明に従うこの防火ガラス構造体100は、図2Aの防火ガラス構造体に対応する。火災の際の特徴を改善するために、結合低減層4が、保護層3.1と防火層2.1の間と、防火層2.1と第2のフロートガラス板1.2の間に配置されている。結合低減層4は、たとえば疎水効果を有する有機官能シランを含む。結合低減層4の具体的な利点は、火災の際に、破砕したフロートガラス板1.1、1.2の個々の破片を、防火層3.1の結合力は失われないままで、防火層3.1から分離できることである。
【0070】
図3は、本発明に従う防火ガラス構造体100の代替例の概略断面図を示す。本発明に従う防火ガラス構造体100は、たとえば図1に示される本発明に従う防火ガラス10を含む。防火ガラス10の防火層2.1は、保護層3.1の反対側においてさらに第2の保護層3.2を介して第2のフロートガラス1.2のスズ浴側IIに接続されている。この場合も、第2のフロートガラス板1.2および第2の保護層3.2は、防火層2.1とともに本発明に従う防火ガラス10.1を形成する。本発明によれば、経年劣化に伴う防火ガラス構造体100の透明性の曇りは回避される。なぜなら、フロートガラス板1.1のスズ浴側IIも、第2のフロートガラス板1.2のスズ浴側IIも保護層3.1、3.2によって防火層2.1から分離されているからである。
【0071】
第1の保護層3.1も第2の保護層3.2も2層構造からなり、第1のサブ保護層3.1a、3.2aは、たとえばアルミニウムがドープされた窒化ケイ素を含みフロートガラス板1.1、1.2いずれにおいてもそのスズ浴側IIに直接配置され、たとえばアンチモンがドープされた酸化スズ/亜鉛からなる第2のサブ保護層3.1b、3.2bは、第1のサブ保護層3.1a、3.2aと防火層2.1との間に配置されている。
【0072】
このような防火ガラス構造体100は、建築物の中の建築要素としてまたは車両のガラス構造体としての独立した用途に適している。
【0073】
図4Aは、本発明に従う代替例の防火ガラス構造体101の概略断面図を示し、これは、3つのフロートガラス板1.1、1.2、1.3と2つの防火層2.1、2.2とを有する3重ガラス構造体の例である。本発明に従う防火ガラス構造体101は、たとえば図1に示される本発明に従う防火ガラス10を含み、これは、第1のサブ保護層と第2のサブ保護層で構成された2層保護層3.1を有する。加えて、防火ガラス10の防火層2.1は、保護層3.1と反対側の側面が、第2のフロートガラス板1.2の大気側Iに平坦状に接続されている。第2のフロートガラス板1.2のスズ浴側IIは、第2の保護層3.2を含みこれを介して第2の防火層2.2に接続されている。第2のフロートガラス板1.2、保護層3.2、および防火層2.2も同じく本発明に従う防火ガラス11を形成している。第2の防火層2.2の、第2の保護層3.2と反対側の側面は、第3のフロートガラス板1.3の大気側Iに接続されている。
【0074】
図4Bは、本発明に従う代替実施形態の例である防火ガラス構造体101を示す。本発明に従う防火ガラス10の防火層2.1は、第2のフロートガラス板1.2の大気側Iに平坦状に接続されている。フロートガラス板1.1の大気側Iはさらに、第2の防火層2.2に平坦状に接続されている。第2の防火層2.2は、第3のフロートガラス板1.3の大気側Iに平坦状に接続されている。この実施形態の具体的な利点は、耐老化性を有する防火ガラス構造体101を製造するのに、本発明に従う保護層3.1が1つだけあればよいことである。なぜなら、外側のフロートガラス1.2、1.3が上手く配置されているので、ガラスによって隔てられることなく防火層2.1に直に隣接して配置されるのは、フロートガラス板1.1のスズ浴側IIのみであるからである。
【0075】
図4Aおよび図4Bに示される3重ガラス構造体は、特に高い安定性と防火効果を示す。4つ以上のフロートガラス板を有する防火ガラスも同様の原理に従って製造できることが理解されるはずである。この場合、本発明により経年劣化に伴う透明性の曇りを回避するために、本発明に従う保護層は、各防火層とそれに直に隣接するフロートガラス板のスズ浴側との間に配置される。
【0076】
示されている実施形態の防火ガラス10、11および防火ガラス構造体100、101はさらに、隣合うフロートガラス板1.1、1.2、1.3の間のスペーサ、および防火層2.1、2.2の周囲のエッジ封止部を含み得る。上記スペーサはそれ自体が周知であるのでここでは示さない。エッジ封止部に適した材料は、たとえばスペーサとしてのポリイソブチレン、および、エッジ封止部としてのポリスルフィド、ポリウレタン、またはシリコーンを含む。
【0077】
図5は、図2に示される本発明に従う防火ガラス構造体100を製造するための本発明に従う方法の実施形態のフロー図を示す。
【0078】
図6は、個々の層のさまざまな保護層を有する防火ガラス10の老化試験における曇りの図を示す。各フロートガラス板は、加速老化試験において、ケイ酸カリウムの水溶液に温度80℃で4時間浸漬した。ケイ酸カリウムの水溶液は、アルカリポリケイ酸塩ヒドロゲルから本発明に従う防火層を製造する際のアルカリ成分である。曇りは、BYK Gardner社の「haze-gard plus」というタイプの曇り測定装置で測定された。
【0079】
実施例1は、そのスズ浴側IIが1つの酸化スズ/亜鉛層からなる保護層で覆われているフロートガラス板である。よって、亜鉛に対するスズの比率は、50重量%:50重量%であった。保護層の厚みdは25nmであった。老化試験により、0.3%の曇りが測定された。
【0080】
実施例2は、そのスズ浴側IIが1つの酸化亜鉛層からなる保護層で覆われているフロートガラス板である。保護層の厚みDは25nmであった。老化試験より、0.7%の曇りが測定された。
【0081】
実施例3は、そのスズ浴側IIが1つのインジウムスズ酸化物(ITO)層からなる保護層で覆われているフロートガラス板である。よって、スズに対するインジウムの比率は、90重量%:10重量%であった。保護層の厚みdは25nmであった。老化試験により、0.4%の曇りが測定された。
【0082】
比較例は、大気側Iもスズ浴側IIも覆われておらずしたがって両側がケイ酸カリウムの水溶液に露出したフロートガラス板であった。この比較例において、老化試験により、8.9%の曇りが測定された。
【0083】
ここに示す老化試験では、実施例1〜3および比較例のフロートガラス板の大気側Iは保護層で覆われておらずしたがってケイ酸カリウムの水溶液に直に露出していた。このことから、実際のところ、スズ浴側IIがケイ酸カリウムの水溶液に接触することによって曇りが生じると結論付けることができる。
【0084】
実施例1〜3の各保護層は、保護層がない比較例と比較して、フロートガラスの曇りを1%未満の値まで低減する。曇りは、実施例1に従う1つの酸化スズ/亜鉛層からなる保護層によって89分の1にさえ低減する。この結果は当業者にとって予期せぬ驚くべき結果であった。
【0085】
2層または多層構造の保護層3.1を有する本発明の防火ガラス10では、より優れた結果を得ることができる。
【0086】
本発明に従う防火ガラス10のさまざまな実施形態の例および比較例に対する老化試験と曇り試験の結果が最終結果として表1に示されている。
【0087】
【表1】
【0088】
防火ガラス構造体を、腐食試験、スクラッチ試験、および曇り試験において検査した。防火ガラス構造体を製造するために、フロートガラス板1.1のスズ浴側IIに保護層3.1とアルカリ性防火層2.1がある防火ガラス10を、他のフロートガラス板1.2の大気側Iに接続した。
【0089】
腐食試験およびスクラッチ試験において、各防火ガラス構造体を14日間の期間にわたり温度80℃で保管した。腐食試験において、次に防火ガラス構造体をストリップ状の曇りがあるか否か目視検査した。このストリップの向きはフロートガラス板の製造方向である。このようなストリップ状の曇りは、防火層とフロートガラス1.1のスズ浴側IIとの相互作用が原因である。「極めて良好」は、製造方向のストリップ状の曇りはほとんど認識されないことを意味し、「並み」は、比較的多いストリップ状の曇りが認識されることを意味する。
【0090】
さらに、防火ガラス構造体を、スクラッチ試験においてランダムな方向の傷があるか否か目視検査した。このような傷は元来製造に由来し、フロートガラス板1.1のスズ浴側IIにある。「極めて良好」は、ランダム方向の傷はほとんど認識されないことを意味し、「並み」は、認識されるランダム方向の傷が比較的多いことを意味する。
【0091】
曇り試験では、各防火ガラス構造体を1年の期間にわたって温度60℃で保管した。曇りは、BYK Gardner社の「haze-gard plus」というタイプの曇り測定装置で測定され、防火ガラス構造体の均質的な曇りを指す。この場合の「極めて良好」は曇りがごくわずかであることを意味し、「並み」は曇りがより大きいことを意味する。
【0092】
保護層の材料は表1の1列目に示されその(層の)厚みは2列目に示される。各保護層はフロートガラス板1.1のスズ浴側IIに直に隣接して配置される。詳細には、Al:窒化ケイ素(3.1a)/Sb:酸化スズ/亜鉛(3.1b)は、本発明に従う保護層3.1を特定し、たとえば、保護層3.1が2層構造からなることを示す。よって、最初に述べた、アルミニウムがドープされた窒化ケイ素からなる第1のサブ保護層3.1aは、フロートガラス板1.1に直に配置され、アンチモンがドープされた酸化スズ/亜鉛からなる第2のサブ保護層3.1bは、第1のサブ保護層3.1aと防火層2.1との間に配置される。その逆の並びはしたがって、本発明に従うSb:酸化スズ/亜鉛(3.1b)/Al:窒化ケイ素(3.1a)に当てはまる。
【0093】
この表に示される傾向を、驚くべきモデルの枠組みの中で理解することができる。すなわち、アンチモンがドープされた酸化スズ/亜鉛からなる単一層は、フロートガラス板1.1のスズ浴側IIの保護層として作用し、これを、防火層2.1のアルカリによる腐食から効果的に保護する。このため、腐食試験における結果は良好であり、曇り試験における曇りは極めて少ない。しかしながら、スクラッチ試験において防火ガラス構造体の外観を損なうランダム方向の多数の傷は、製造中に、アンチモンがドープされた酸化スズ/亜鉛が比較的軟質であるために生じる。
【0094】
比較的硬質であるアルミニウムがドープされた窒化ケイ素からなる単一層も同様に、腐食試験における結果が良好であり、ストリップ状の曇りは少ない。しかしながら、アルミニウムがドープされた窒化ケイ素からなる単一層は、長期にわたる曇り試験において並みの保護効果しか有しない。
【0095】
アンチモンがドープされた酸化スズ/亜鉛からなる第2のサブ保護層3.1bがフロートガラス板1.1のスズ浴側IIの上に直接位置し、アルミニウムがドープされた窒化ケイ素からなる第1のサブ保護層3.1aが第2のサブ保護層3.1bと防火層2.1との間にある、本発明の保護層3.1は、曇り試験およびスクラッチ試験において良好な結果を示すが、腐食試験における結果は並みでしかない。
【0096】
ホウ素がドープされた窒化ケイ素からなる第1のサブ保護層3.1aがフロートガラス板1.1のスズ浴側IIにあり、アンチモンがドープされた酸化スズ/亜鉛からなる第2のサブ保護層3.1bが第1のサブ保護層3.1aと防火層2.1との間にある、保護層3.1は、曇り試験において極めて良好な結果を示し、スクラッチ試験における傷は少ない。しかしながら、腐食試験では多くのストリップ状の曇りを確認することができる。
【0097】
驚くべきことに、アルミニウムがドープされた窒化ケイ素からなる第1のサブ保護層3.1aがフロートガラス板1.1のスズ浴側IIにあり、アンチモンがドープされた酸化スズ/亜鉛からなる第2のサブ保護層3.1bが第1のサブ保護層3.1aと防火層2.1との間にある、本発明の保護層3.1により、最高の結果が得られる。これらの保護層3.1は、すべての試験において最高の結果を示した。
【0098】
したがって、特に注目すべきことは、本発明に従うアルミニウムがドープされた窒化ケイ素からなる第1のサブ保護層3.1aと、アンチモンがドープされた酸化スズ/亜鉛からなる第2のサブ保護層3.1bを組合わせたものは、第1のサブ保護層がホウ素がドープされた窒化ケイ素からなる場合と比較して、腐食試験およびスクラッチ試験において大幅に改善された結果を示したことである。これは、金属がドープされていない窒化ケイ素の層、ここでは特にホウ素がドープされた窒化ケイ素の層と比較して、金属がドープされた窒化ケイ素の層3.1a、ここでは特にアルミニウムがドープされた窒化ケイ素の層3.1aの硬度がより高いことによって説明できる。硬度がより高い、金属がドープされた窒化ケイ素の層3.1aと、アンチモンがドープされた酸化スズ/亜鉛からなる第2のサブ保護層3.1bを組合わせたものは、すべての試験において最高の結果を示した。
【0099】
この結果は当業者にとって予期せぬ驚くべき結果であった。
【符号の説明】
【0100】
参照番号一覧
1,1.1,1.2,1.3 フロートガラス板
2.1,2.2 防火層
3.1,3.2,3.3 保護層
3.1a,3.2a 第1のサブ保護層
3.1b,3.2b, 第2のサブ保護層
4 接着低減層
10,10.1,11 防火ガラス
100,101 防火ガラス構造体
I フロートガラス板の大気側
II フロートガラス板のスズ浴側
b フロートガラス板の厚み
d,d,d 保護層の厚み
h 防火層の厚み
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6