特許第6518061号(P6518061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オートモーティブエナジーサプライ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6518061-リチウムイオン二次電池 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6518061
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20190513BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190513BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190513BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20190513BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20190513BHJP
【FI】
   H01M10/0525
   H01M4/36 C
   H01M4/36 D
   H01M4/36 E
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/587
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-256331(P2014-256331)
(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公開番号】特開2016-119154(P2016-119154A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社エンビジョンAESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】須賀 創平
(72)【発明者】
【氏名】篠原 功一
(72)【発明者】
【氏名】小原 健児
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】青柳 成則
(72)【発明者】
【氏名】西山 淳子
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2002/073718(WO,A1)
【文献】 特開2011−054371(JP,A)
【文献】 特表2014−513408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とを含む炭素系負極材料を含む負極と、
下記一般式:
[化1]
LiNiMnCo(1−y−z)
(ここで、一般式中のxは1以上1.2以下の数であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数である。)
で表されるリチウム複合酸化物を含む正極と、
を少なくとも備えるリチウムイオン二次電池であって、
当該リチウム複合酸化物が層状結晶構造を有し、比表面積が0.6m/g以上1.1m/g以下の粒子であり;
当該リチウム複合酸化物において、zに対するyの比y/zの値が1.70以下であり;
電池容量に対するリチウム複合酸化物の総表面積の比が4.7〜8.8m/Ahである、
ことを特徴とする、前記リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
リチウム複合酸化物のメジアン粒径(D50)が4.0μm以上7.5μm以下の粒子である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
当該リチウム複合酸化物が、式LiNi1/3Mn1/3Co1/3で表されるリチウム複合酸化物と、式LiNi0.4Mn0.3Co0.3(ここで、各式中のxは1以上1.2以下の数である。)で表されるリチウム複合酸化物とを含む、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
負極中に含まれる黒鉛の重量割合が、炭素系負極材料の重量に基づいて50%以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
リチウム複合酸化物の表面が被覆されている、請求項1〜4の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
リチウム複合酸化物が、さらにドーピング元素を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池、特にリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車等を含む自動車用電池として実用化されている。このような車載電源用電池としてリチウムイオン二次電池を使用する場合に、エネルギー密度が高く、かつ入出力特性に優れ、寿命の長い電池を提供することが求められている。特に自動車の発進時の加速性能を向上させるために高出力化を図ることが重要である。
【0003】
リチウムイオン電池の出力特性を向上させるために、リチウムイオン電池用負極材料として黒鉛と非晶質炭素(アモルファスカーボン)とを所定の割合で混合した材料を用い、正極材料としてリチウム複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池が提案されている(特許文献1)。特許文献1には、黒鉛材料が非晶質炭素材料と比べて電池電圧を高く維持でき放電末期における出力低下が小さいことから、黒鉛材料と非晶質炭素材料とを混合した材料を用いると、電池の出力特性を向上させることができる旨が開示されている。そして、混合負極材料に用いることができる黒鉛材料と非晶質炭素材料の特性の例がそれぞれ開示されている。また特許文献1には、正極活物質としてリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いることが開示されている。
【0004】
このように、電気抵抗が低いとされている混合負極材料とリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を含む正極材料とを高い出力特性を必要とする電池、たとえば車両用電池などに用いることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2011−54371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような電気抵抗の低い材料を用いた電池は、万一内部短絡が生じた場合に、大電流が流れて電池が発熱するおそれがあった。そこで本発明は、電池の出力特性を維持しつつ、内部短絡が生じた場合でも電池の発熱が効果的に抑制できるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様は、「黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とを含む炭素系負極材料を含む負極と、
下記一般式:
[化1]
LiNiMnCo(1−y−z)
(ここで、一般式中のxは1以上1.2以下の数であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数である。)
で表される層状結晶構造を有するリチウム複合酸化物を含む正極と、
を少なくとも備えるリチウムイオン二次電池であって、
当該リチウム複合酸化物が層状結晶構造を有し、メジアン粒径(D50)が4.0μm以上7.5μm以下の粒子である、前記リチウムイオン二次電池。」である。本発明の一の態様は、黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とを含む炭素系負極材料を含む負極と、一般式:LiNiMnCo(1−y−z)(ここで、一般式中のxは1以上1.2以下の数であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数である。)で表され、層状結晶構造を有し、メジアン粒径(D50)が4.0μm以上7.5μm以下の粒子であるリチウム複合酸化物を含む正極と、を少なくとも備えるリチウムイオン二次電池である。
【0008】
本態様に用いる負極は、黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とを含む炭素系負極材料を含む。ここで黒鉛は、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。黒鉛は粒子の形状をしていることが好ましい。
【0009】
また非晶質炭素は、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムにネットワークした構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことを意味する。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボンファイバー、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン等が挙げられる。本発明に用いる非晶質炭素は粒子の形状をしていることが好ましい。
【0010】
本態様に用いる正極は、リチウム複合酸化物を含む。リチウム複合酸化物は、一般式:
[化2]
LiNiMnCo(1−y−z)
で表される、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物である。ここで、一般式中のxは1以上1.2以下の数であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数である。マンガンの割合が大きくなると単一相の複合酸化物が合成されにくくなるため、z≦0.4とすることが望ましい。また、コバルトの割合が大きくなると高コストとなり容量も減少するため、1−y−z<y、1−y−z<zとすることが望ましい。高容量の電池を得るためには、y>z、y>1−y−zとすることが特に好ましい。本態様に用いるリチウム複合酸化物は、層状結晶構造を有することが好ましく、またメジアン粒径(D50)が4.0μm以上7.5μm以下の粒子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池は、粒径を所定の範囲に制御した特定の正極活物質を用いることにより、電池の出力特性を確保しつつ電極の内部抵抗を所定の範囲に維持することができる。これにより、電池の出力特性を低下させることなく、内部短絡が生じた際にも電池の発熱を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一の実施形態のリチウムイオン電池を表す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第一の実施形態を説明する。第一の実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とを含む炭素系負極材料を含む負極と、一般式:LiNiMnCo(1−y−z)(ここで、一般式中のxは1以上1.2以下の数であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数である。)で表されるリチウム複合酸化物を含む正極と、を少なくとも備え、当該リチウム複合酸化物が層状結晶構造を有し、メジアン粒径(D50)が4.0μm以上7.5μm以下の粒子であることを特徴とする。すなわち本実施形態は、黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とを含む炭素系負極材料を含む負極と、一般式:LiNiMnCo(1−y−z)(ここで、一般式中のxは1以上1.2以下の数であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数である。)で表され、層状結晶構造を有し、メジアン粒径(D50)が4.0μm以上7.5μm以下の粒子であるリチウム複合酸化物を含む正極と、を少なくとも備えるリチウムイオン二次電池に係る。
【0014】
本実施の形態において、電池の充放電に伴いリチウムイオンを脱蔵・吸蔵するリチウムイオン二次電池正極活物質として、層状結晶構造を有するリチウム複合酸化物を用いることが好ましい。リチウム複合酸化物は粒子の形状をしており、当該粒子のメジアン径は4.0μm以上7.5μm以下であることが特に好ましい。リチウム複合酸化物のメジアン粒径を所定の範囲に制御することにより、電池内部抵抗を所定の範囲に維持することができるため、電池の内部短絡等が発生した場合においても電池の発熱を抑制することが可能となる。
【0015】
本実施の形態において、負極材料として黒鉛粒子と非晶質炭素粒子との混合物を用いることが好ましい。この際、黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とは、通常の方法で混合することができる。たとえば、これらの粒子を所定の重量比で量り取り、ボールミル、ミキサー等に代表される機械的混合手段を用いて混合することができる。
【0016】
本発明の第二の実施の形態は、黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とを含む炭素系負極材料を含む負極と、一般式:LiNiMnCo(1−y−z)(ここで、一般式中のxは1以上1.2以下の数であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数である。)で表されるリチウム複合酸化物を含む正極と、を少なくとも備えるリチウムイオン二次電池であって、当該リチウム複合酸化物が層状結晶構造を有し、比表面積が0.6m/g以上1.1m/g以下の粒子であることを特徴とする。すなわち本実施形態は、黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とを含む炭素系負極材料を含む負極と、一般式:LiNiMnCo(1−y−z)(ここで、一般式中のxは1以上1.2以下の数であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数である。)で表され、層状結晶構造を有し、比表面積が0.6m/g以上1.1m/g以下の粒子であるリチウム複合酸化物を含む正極と、を少なくとも備えるリチウムイオン二次電池に係る。
【0017】
本実施の形態において、電池の充放電に伴いリチウムイオンを脱蔵・吸蔵するリチウムイオン二次電池正極活物質として、層状結晶構造を有するリチウム複合酸化物を用いることが好ましい。リチウム複合酸化物は粒子の形状をしており、当該粒子の比表面積は0.6m/g以上1.1m/g以下であることが特に好ましい。ここで比表面積とはBET法により測定した、BET比表面積のことである。物体が粒子である場合は、一般的には比表面積が大きいほど粒子が細かいことを意味する。リチウム複合酸化物の比表面積を所定の範囲に制御することにより、正極材料を流れる電流を所定の範囲に維持することができる。正極活物質の質量当たりの化学反応の速度と、正極材料を流れる電流とは比例関係にあるので、正極材料を流れる電流を特定の範囲に制御するためには正極活物質の質量当たりの化学反応速度を所定の範囲に維持する必要がある。正極活物質における化学反応は、電解液と正極活物質との接触により起こるものであるため、正極活物質における化学反応速度は正極活物質単位重量当たりの面積(比表面積)に依存する。よって、正極活物質の比表面積を所定の範囲に制御して正極材料を流れる電流を所定の範囲に維持することができることになる。正極材料を流れる電流を所定の範囲に維持することは、電池内部抵抗を所定の範囲に維持することを意味し、もって電池の内部短絡時の電池の発熱を抑制することが可能となる。
【0018】
なお、本実施の形態においても、負極材料としては黒鉛粒子と非晶質炭素粒子との混合物を用いることが好ましい。この際、黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とは、通常の方法で混合することができる。たとえば、これらの粒子を所定の重量比で量り取り、ボールミル、ミキサー等に代表される機械的混合手段を用いて混合することができる。
【0019】
第一および第二の実施形態において、電池容量に対するリチウム複合酸化物の総表面積の比が4.7〜8.8m/Ahであることができる。リチウム複合酸化物の総表面積は、BET法により測定したBET比表面積の値とリチウム複合酸化物の重量との積により求められる値である。上に説明したとおり、正極活物質における化学反応は電解液と正極活物質との接触により起こるものであるから、正極活物質における化学反応速度は正極活物質の面積に依存する。リチウム複合酸化物の総表面積と電池容量との比を上記の範囲とすることは、電池の比容量当たりの反応速度を所定の範囲に制御することを意味する。このようにして電池の熱安定性を保持し、電池の出入力特性を向上させることができる。
【0020】
第一および第二の実施形態において、リチウム複合酸化物の一般式:LiNiMnCo(1−y−z)における、zに対するyの比y/zの値が1.70以下であることが好ましい。リチウム複合酸化物中のニッケル元素とマンガン元素との存在比が特定の割合であると、リチウム複合酸化物の結晶構造がより安定になり、正極材料の耐久性が向上する。
【0021】
第一および第二の実施形態において、y:(1−y−z):zが1:1:1であるリチウム複合酸化物と、y:(1−y−z):zが4:3:3であるリチウム複合酸化物と、を少なくとも含むリチウム複合酸化物混合物を用いることができる。ここで、y:(1−y−z):zが1:1:1であるリチウム複合酸化物は、一般的に「NCM111」と称され、y:(1−y−z):zが4:3:3であるリチウム複合酸化物は一般的に「NCM433」と称されるものである。本明細書においても、y:(1−y−z):zが1:1:1であるリチウム複合酸化物を「NCM111」、y:(1−y−z):zが4:3:3であるリチウム複合酸化物を「NCM433」とそれぞれ称することがある。NCM111においてy/zの値は1.0であり、NCM433においてy/zの値は1.3であるから、これらは、ともに単独で正極材料として用いることができる。しかしながらこれらを混合してリチウム複合酸化物混合物として用いることにより、より適切な結晶構造を形成することができ、正極活物質の耐久性をより向上することが可能となる。なお、リチウム複合酸化物の混合は、通常の方法で行うことができる。たとえば、リチウム複合酸化物の粒子を所定の重量比で量り取り、ボールミル、ミキサー等に代表される機械的混合手段を用いて混合することができる。
【0022】
第一および第二の実施形態において、負極中に含まれる炭素系負極材料の重量に基づく黒鉛の割合は、50重量%以上、好ましくは70重量%以上であることができる。負極において、黒鉛粒子、および非晶質炭素粒子とも、電池の充放電サイクル中に膨張と収縮を繰り返すが、黒鉛粒子や非晶質炭素粒子の膨張により、負極電極層に応力が生じることがあり、生じた応力が電極層に不利な影響を及ぼしうる。一方、非晶質炭素粒子は、黒鉛粒子よりも膨張しにくい物質であることが知られている。そこで、黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とを混合して用いることによって、黒鉛粒子の膨張により生じうる電極層の応力を緩和することが可能となる。ただし非晶質炭素粒子の重量割合が多すぎると、電池の残容量(以下、「SOC」と称する。)が50%以下であるときの電池電圧が低下し、電池エネルギー低下時の電池出力が低下するという不利益が生じるおそれがあるため、非晶質炭素粒子の重量割合は50%を超えないことが好ましい。
【0023】
第一及び第二の実施形態において、電池容量に対する黒鉛粒子のメジアン径の比が1.3〜2.5μm/Ahであり、電池容量に対する黒鉛粒子の比表面積の比が0.35〜0.75であり、電池容量に対する非晶質炭素粒子のメジアン径の比が0.7〜1.6μm/Ahであり、電池容量に対する非晶質炭素粒子の比表面積の比が0.75〜1.70であることが好ましい。このような黒鉛粒子および非晶質炭素粒子の組み合わせを用いることにより、電池の内部抵抗を低くすることが可能となるので、電池の用途をより拡大することができる。
【0024】
第一および第二の実施形態において、リチウム複合酸化物の表面は被覆されていることができる。リチウム複合酸化物の表面を被覆すると正極活物質の比表面積が増加し、正極活物質と電解液との親和性が向上するため、正極の耐久性が向上するという利点がある。リチウム複合酸化物の表面を被覆する物質としては、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属や、ポリビニリデンフルオライド等の撥水性樹脂コーティング、あるいはSTOBA(登録商標)(三井化学)等の樹木状構造を有するポリマーコーティング等が挙げられる。
【0025】
第一および第二の実施形態において、リチウム複合酸化物は、さらにドーピング元素を含むことができる。リチウム複合酸化物がドーピング元素を含むと、リチウム複合酸化物の結晶構造が安定し、正極の耐久性が向上するという利点がある。ドーピング元素としては、ジルコニウム、マグネシウム、チタニウム、アルミニウム、鉄等の遷移金属元素、あるいはホウ素等が挙げられる。
【0027】
第一および第二の実施形態において、黒鉛粒子および非晶質炭素粒子を含む負極炭素系材料およびリチウム複合酸化物を含む正極活物質は、金属箔等の集電体上に塗布または圧延して乾燥させることにより、負極ならびに正極を形成することができる。この際、結着剤、導電助剤、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる添加剤を適宜使用して、適切な負極ならびに正極を形成することができる。
【0028】
第一および第二の実施形態においては、非水電解液を用いることができる。非水電解液は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等の環状カーボネート、およびジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネートから選ばれる1種またはそれ以上の有機溶媒の混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)等のリチウム塩を溶解させたものを用いることができる。
【0029】
また第一及び第二の実施形態においては、負極と正極とを隔離して負極・正極間のリチウムイオンの伝導性を確保するためのセパレータを用いることができる。セパレータとしてポリオレフィン類の多孔性膜や微孔性膜を用いることができる。
【0030】
第一及び第二の実施形態にかかるリチウムイオン電池の構成例を、図面を用いて説明する。図1はリチウムイオン電池の断面図の一例を表す。リチウムイオン電池10は、主な構成要素として、負極集電体11、負極活物質層13、セパレータ17、正極集電体12、正極活物質層15を含む。図1では、負極集電体11の両面に負極活物質層13が設けられ、正極集電体12の両面に正極活物質層15が設けられているが、各々の集電体の片面上のみに活物質層を形成することもできる。負極集電体11、正極集電体12、負極活物質層13、正極活物質層15、及びセパレータ17が一つの電池の構成単位である(図中、単電池19)。このような単電池19を、セパレータ17を介して複数積層する。各負極集電体11から延びる延出部を負極リード25上に一括して接合し、各正極集電体12から延びる延出部を正極リード27上に一括して接合してある。複数の単電池を積層してできた電池は、負極リード25および正極リード27を外側に引き出す形で、外装体29により包装される。外装体29の内部には電解液31が注入されている。
【実施例】
【0031】
<負極の作製>
負極活物質として、メジアン径9.3μm、比表面積2.6m/gを有する黒鉛粉末と、メジアン径5.5μm、比表面積6.0m/gを有する非晶質性炭素粉末とを80:20(重量比)で混合したものを用いた。混合材料と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンと、導電助剤としてカーボンブラック粉末とを、固形分質量比で92:6:2の割合でN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と称する。)中に添加して攪拌し、これらの材料をNMP中に均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、負極集電体となる厚み8μmの銅箔上に塗布した。次いで、125℃にて10分間、スラリーを加熱し、NMPを蒸発させることにより負極活物質層を形成した。更に、負極活物質層をプレスすることによって、負極集電体の片面上に負極活物質層を塗布した負極を作製した。この負極を実施例1〜6および比較例1、2および5で用いた。
このほか、メジアン径9.3μm、比表面積2.6m/gを有する黒鉛粉末を単独で負極活物質として用いた負極(比較例3)、およびメジアン径5.5μm、比表面積6.0m/gを有する非晶質性炭素粉末を単独で負極活物質として用いた負極(比較例4)を作製した。
【0032】
<正極の作製>
正極活物質として、リチウム複合酸化物と、バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデンと、導電助剤としてカーボンブラック粉末とを、固形分質量比で88:8:4の割合で、溶媒であるNMPに添加した。さらに、この混合物に有機系水分捕捉剤として無水シュウ酸(分子量90)を、上記混合物からNMPを除いた固形分100質量部に対して0.03質量部添加した上で攪拌することで、これらの材料を均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、正極集電体となる厚み15μmのアルミニウム箔上に塗布した。次いで、125℃にて10分間、スラリーを加熱し、NMPを蒸発させることにより正極活物質層を形成した。さらに、正極活物質層をプレスすることによって、正極集電体の片面上に正極活物質層を塗布した正極を作製した。
表1に示したとおり、実施例1および2に用いたリチウム複合酸化物はNCM433、実施例3に用いたリチウム複合酸化物はNCM433とスピネル型構造を有するマンガンとを重量割合で70:30に混合したものである。実施例4に用いたリチウム複合酸化物は、NCM433とNCM111とを重量割合で70:30で混合したリチウム複合酸化物混合物である。実施例5に用いたリチウム複合酸化物はNCM433とNCM111とを重量割合で70:30で混合したリチウム複合酸化物混合物にアルミニウム粒子0.1重量%を混合し、その後450℃で焼成して得た被覆リチウム複合酸化物混合物である。さらに実施例6で用いたリチウム複合酸化物は、NCM433とNCM111とを重量割合で70:30で混合したリチウム複合酸化物混合物にジルコニウム粒子0.1mol%を混合して得たジルコニウムドーピングリチウム複合酸化物混合物である。これらのリチウム複合酸化物を用いて、正極を作製した。
【0033】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記のように作製した各負極と正極を、各々切り出した。このうち、端子を接続するための未塗布部にアルミニウム製の正極端子を超音波溶接した。同様に、正極端子と同サイズのニッケル製の負極端子を負極における未塗布部に超音波溶接した。ポリプロピレンからなるセパレータの両面に上記負極と正極とを活物質層がセパレータを隔てて重なるように配置して電極積層体を得た。2枚のアルミニウムラミネートフィルムの長辺の一方を除いて三辺を熱融着により接着して袋状のラミネート外装体を作製した。ラミネート外装体に上記電極積層体を挿入した。下記非水電解液を注液して真空含浸させた後、減圧下にて開口部を熱融着により封止することによって、積層型リチウムイオン電池を得た。この積層型リチウムイオン電池について高温エージングを数回行い、電池容量5Ahの積層型リチウムイオン電池を得た。
【0034】
なお非水電解液として、プロピレンカーボネート(以下、「PC」と称する。)とエチレンカーボネート(以下、「EC」と称する。)とジエチルカーボネート(以下、「DEC」と称する。)とをPC:EC:DEC=5:15:70(体積比)の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度が0.9mol/Lとなるように溶解させたものに対して、添加剤として鎖状ジスルホン酸エステル(メチレンメタンジスルホン酸エステル、MMDS)とビニレンカーボネートとをそれぞれ濃度が1重量%となるように溶解させたものを用いた。
【0035】
<リチウムイオン電池の初期性能の測定>
上記のように作製した積層型リチウムイオン電池について、1サイクル充放電した。充放電条件は、温度25℃、充電終止電圧4.2VまでのCCCV充電(2時間)および放電終止電圧3.0Vまでの放電であった。このような充放電サイクルから充電容量および放電容量を求め、これらの比を初回充放電効率とした。一方、残容量(以下、「SOC」と称する。)50%の電池を用意し、10Aで5秒間放電して、電池抵抗を測定した。表には、実施例1の初期電池抵抗の値を100%とし、これと各実施例で測定された初期抵抗との比較をパーセントで表した値を示している。
【0036】
<サイクル特性試験>
上記のように作製した積層型リチウムイオン電池について、電池電圧が4.2Vと3Vとの間で、1C電流での充放電を55℃環境下で1ヶ月間繰り返した。これによる容量維持率を、(1ヶ月間サイクル後の電池容量)/(初期電池容量)なる計算式で計算した。
【0037】
<リチウムイオン電池の電圧降下量の測定>
上記のように作製した積層型リチウムイオン電池について、4.2Vまで充電して電池の電圧を電圧計にて測定した。次いで太さφ=3mmの釘を80mm/秒の速度で電池に貫通させた。釘の貫通から5分間経過した後に再度電池の電圧を測定した。(釘の貫通前の電池電圧)−(釘の貫通後の電池電圧)(V)を求め、電圧降下量とした。
【0038】
(実施例1〜実施例6)
上記の通り作製した積層型リチウムイオン電池の特性評価を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
本発明のリチウムイオン二次電池は、電池抵抗が小さくかつ釘指し試験による電圧降下量が少ない。電池抵抗を小さくしすぎると、釘指し等による内部短絡が生じたときに、発熱するおそれがあるが、本発明のリチウムイオン二次電池は内部抵抗が比較的小さいにもかかわらず電圧降下量が少ない。正極材料であるリチウム複合酸化物として、NCM433とNCM111とのリチウム複合酸化物混合物を用いたり、さらにアルミニウムによる被覆を施したり、あるいはジルコニウム元素をドーピングしたりすることにより、1ヶ月間のサイクル試験後の電池容量維持率を向上させることができた(実施例4〜6)。すなわち本発明のリチウムイオン二次電池は、安全性が高くかつ電池耐久性に優れることがわかる。
【0041】
以上、本発明の実施例について説明したが、上記実施例は本発明の実施形態の一例を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲の実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0042】
10 リチウムイオン電池
11 負極集電体
12 正極集電体
13 負極活物質層
15 正極活物質層
17 セパレータ
25 負極リード
27 正極リード
29 外装体
31 電解液
図1