特許第6518110号(P6518110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6518110クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiellapneumoniae)を検出するためのプライマー及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6518110
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiellapneumoniae)を検出するためのプライマー及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/689 20180101AFI20190513BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20190513BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
   C12Q1/689 ZZNA
   C12Q1/04
   C12N15/11 Z
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-70999(P2015-70999)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-189715(P2016-189715A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2018年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】足立 達司
(72)【発明者】
【氏名】佐野 創太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 重彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 穂積
【審査官】 山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3313358(JP,B2)
【文献】 特許第3897805(JP,B2)
【文献】 国際公開第2014/178401(WO,A1)
【文献】 Microbial pathogenesis,2002年,Vol.33 ,p.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12N 15/00−90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
等温核酸増幅法によってクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)を検出するためのプライマーセットであって、
該セットが、標的配列である、配列番号1によって表される塩基配列、又は配列番号1によって表される塩基配列において1若しくは数個の塩基の欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入を含む塩基配列において、3’末端側から5’末端側に向かってF3c配列、F2c配列、F1c配列、R1配列、R2配列、及びR3配列を規定し、それぞれの相補的配列をF3配列、F2配列、F1配列、R1c配列、R2c配列、及びR3c配列としたときに、下記の(a)及び(b)のプライマーを含み、かつ、下記の(c)〜(e)のプライマーのいずれか一つ以上を含
(a)プライマーの3’末端側にF2配列を含み、5’末端側にF1c配列を含むプライマー;
(b)プライマーの3’末端側にR2配列を含み、5’末端側にR1c配列、又は相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に有する折り返し配列、を含むプライマー;
(c)前記標的配列におけるF2c配列の3'末端の塩基から、F1c配列の3'末端の3'末端側に隣接する塩基までの配列の部分配列である配列A又は配列Aに相補的な配列Bを含むプライマー及び/又は前記標的配列におけるR2配列の5'末端の塩基から、R1配列の5'末端の5'末端側に隣接する塩基までの配列の部分配列である配列C又は配列Cに相補的な配列Dを含むプライマー;
(d)F3配列を含むプライマー;
(e)R3配列を含むプライマー;かつ、
(a)のプライマーにおいて、F2配列が、配列番号2、10、若しくは11によって表される塩基配列、又は配列番号2、10、若しくは11によって表される塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列であり、
(a)のプライマーにおいて、F1c配列が、配列番号12若しくは13によって表される塩基配列、又は配列番号12若しくは13によって表される塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列であり、
(b)のプライマーにおいて、R2配列が、配列番号3によって表される塩基配列、又は配列番号3によって表される塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列であり、
(b)のプライマーにおいて、折り返し配列が、配列番号8若しくは9によって表される塩基配列、又は配列番号8若しくは9によって表される塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列であり、
(c)のプライマーが、配列番号4若しくは7によって表される塩基配列、又は配列番号4若しくは7によって表される塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列を含み、
(d)のプライマーにおいて、F3配列が配列番号5によって表される塩基配列、又は配列番号5によって表される塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列であり、
(e)のプライマーにおいて、R3配列が配列番号6によって表される塩基配列、又は配列番号6によって表される塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列である、プライマーセット
【請求項2】
請求項1に記載の(a)〜(e)のプライマーにおいて、F1c配列、F2配列、R1c配列又は折り返し配列、R2配列、配列A、B、C、又はD、F3配列、及びR3配列の組合せが、以下の表の組合せ1〜17のいずれかであるか、又は
以下の表の組合せ1〜17のいずれかのプライマーセットにおいて、表中の各組合せにおける1つ以上の塩基配列が、1若しくは2個の塩基の欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入を含むプライマーセットである、請求項1に記載のプライマーセット。
【請求項3】
請求項1に記載の(a)〜(e)のプライマーにおいて、F1c配列、F2配列、R1c配列又は折り返し配列、R2配列、配列A、B、C、又はD、F3配列、及びR3配列の組合せが、以下の表の組合せ1〜17のいずれかである、請求項に記載のプライマーセット。
【請求項4】
等温核酸増幅法が、LAMP法又はSmartAmp法である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のプライマーセット。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載のプライマーセットを含む、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)を検出するためのキット。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載のプライマーセットを用いて等温核酸増幅法によりサンプル由来の核酸を増幅する工程、及び増幅産物の量又は存在を測定する工程を含む、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)を検出するためのプライマー、及びKlebsiella pneumoniaeの検出法に関する。
【背景技術】
【0002】
病原微生物が生体内に侵入することにより引き起こされる感染症は、生体の恒常性を損なうことが知られている。感染症に対する有効な対策として、抗生物質の投与が知られているが、近年、不適切な抗生物質の投与により多剤耐性菌が出現するなどの問題が生じている。この問題を防ぐために、早期に適切な抗生物質投与を行うことが求められており、そのためには、迅速かつ正確な微生物の同定が必要である。近年開発が進んでいる遺伝子検査法は、比較的短時間(数時間)で病原菌を検出できるだけでなく菌種の詳細な同定も可能であるが、訓練が必要な高度な手技と高価な専用装置を必要とし、広く普及していない。
【0003】
一方、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)は、ヒトにおいて感染症を生ずるのみならず、乳房炎の原因菌ともなることから、その早期検出による感染拡大防止が求められている。Klebsiella pneumoniaeの検出に関する文献として特許文献1〜2が知られているが、特許文献1〜2に記載されたKlebsiella pneumoniaeの検出法は、検出に必要な時間や特異性の面で十分とは言えないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009-521244
【特許文献2】特表2010-532987
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、Klebsiella pneumoniaeを簡便かつ迅速に検出するためのプライマーセットを提供することを目的とする。また、本発明は、Klebsiella pneumoniaeの簡便かつ迅速な検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者はKlebsiella pneumoniaeに特異的な塩基配列から設計したプライマーを用いることで、Klebsiella pneumoniaeを特異的に検出し得ることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0007】
したがって、本発明は以下の態様(1)〜(16)を包含する。
(1)等温核酸増幅法によってクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)を検出するためのプライマーセットであって、
該セットが、標的配列である、配列番号1によって表される塩基配列、又は配列番号1によって表される塩基配列において1若しくは数個の塩基の欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入を含む塩基配列において、3’末端側から5’末端側に向かってF3c配列、F2c配列、F1c配列、R1配列、R2配列、及びR3配列を規定し、それぞれの相補的配列をF3配列、F2配列、F1配列、R1c配列、R2c配列、及びR3c配列としたときに、下記の(a)及び(b)のプライマーを含み、かつ、下記の(c)〜(e)のプライマーのいずれか一つ以上を含む、プライマーセット:
(a)プライマーの3’末端側にF2配列を含み、5’末端側にF1c配列を含むプライマー;
(b)プライマーの3’末端側にR2配列を含み、5’末端側にR1c配列、又は相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に有する折り返し配列、を含むプライマー;
(c)前記標的配列におけるF2c配列の3'末端の塩基から、F1c配列の3'末端の3'末端側に隣接する塩基までの配列の部分配列である配列A又は配列Aに相補的な配列Bを含むプライマー及び/又は前記標的配列におけるR2配列の5'末端の塩基から、R1配列の5'末端の5'末端側に隣接する塩基までの配列の部分配列である配列C又は配列Cに相補的な配列Dを含むプライマー;
(d)F3配列を含むプライマー;
(e)R3配列を含むプライマー。
(2)等温核酸増幅法が、LAMP法又はSmartAmp法である、(1)に記載のプライマーセット。
(3)(a)のプライマーにおいて、F2配列が、配列番号2、10、若しくは11によって表される塩基配列、又は配列番号2、10、若しくは11によって表される塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列である、(1)又は(2)に記載のプライマーセット。
(4)(a)のプライマーにおいて、F1c配列が、配列番号12若しくは13によって表される塩基配列、又は配列番号12若しくは13によって表される塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列である、(3)に記載のプライマーセット。
(5)(b)のプライマーにおいて、R2配列が、配列番号3によって表される塩基配列、又は配列番号3によって表される塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列である、(1)〜(4)のいずれかに記載のプライマーセット。
(6)(b)のプライマーにおいて、折り返し配列が、配列番号8若しくは9によって表される塩基配列、又は配列番号8若しくは9によって表される塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列である、(1)〜(5)のいずれかに記載のプライマーセット。
(7)(c)のプライマーが、配列番号4若しくは7によって表される塩基配列、又は配列番号4若しくは7によって表される塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列を含む、(1)〜(6)のいずれかに記載のプライマーセット。
(8)(d)のプライマーにおいて、F3配列が配列番号5によって表される塩基配列、又は配列番号5によって表される塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列である、(1)〜(7)のいずれかに記載のプライマーセット。
(9)(e)のプライマーにおいて、R3配列が配列番号6によって表される塩基配列、又は配列番号6によって表される塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列である、(1)〜(8)のいずれかに記載のプライマーセット。
(10)(1)に記載の(a)〜(e)のプライマーにおいて、F1c配列、F2配列、R1c配列又は折り返し配列、R2配列、配列A、B、C、又はD、F3配列、及びR3配列の組合せが、以下の表の組合せ1〜17のいずれかである、(1)又は(2)に記載のプライマーセット。
【0008】
【表1】
【0009】
(11)(1)〜(10)のいずれかに記載のプライマーセットを含む、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)を検出するためのキット。
(12)(1)〜(10)のいずれかに記載のプライマーセットを用いて等温核酸増幅法によりサンプル由来の核酸を増幅する工程、及び増幅産物の量又は存在を測定する工程を含む、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)の検出方法。
(13)等温核酸増幅法がLAMP法又はSmartAmp法である、(12)に記載の方法。
(14)配列番号1によって表される塩基配列、又は配列番号1によって表される塩基配列において1若しくは数個の塩基の欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入を含む塩基配列、又はその部分配列からなる核酸の量又は存在を測定する工程を含む、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)を特異的に検出する方法。
(15)前記核酸を増幅する工程を含む、(14)に記載の方法。
(16)増幅を等温核酸増幅法により行う、(14)又は(15)に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、Klebsiella pneumoniaeの簡便かつ迅速な検出及び同定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、LAMP法とSmartAmp法の相違点の概略を示す図である。
図2図2は、各濃度のK. pneumoniae由来精製DNAを鋳型として、等温核酸増幅反応を行い、リアルタイム蛍光測定により、検出下限を評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<標的配列>
一態様において、本発明は、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae、以下、「K.pneumoniae」とも称する)を検出するためのプライマーセットに関する。本発明において、K.pneumoniaeを検出するための標的配列は、特に配列番号1によって表される、K.pneumoniaeのhemolysinをコードするDNA配列である。
【0013】
本発明の標的配列は、K.pneumoniaeに特異的である限り上記配列番号1によって表される配列に限定されず、配列番号1によって表される塩基配列において1若しくは数個の塩基の欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入を含む塩基配列を含む。本明細書において、「1若しくは数個」の範囲は、1から10個、好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、あるいは1個又は2個である。
【0014】
また、本発明の標的配列は、K.pneumoniaeに特異的である限り上記配列番号1によって表される配列に限定されず、配列番号1によって表される塩基配列と70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、最も好ましくは95%以上の同一性、例えば97%以上、98%以上若しくは99%以上の同一性を有する塩基配列を含む。本明細書において、同一性の値は、複数の塩基酸配列間の同一性を演算するソフトウェア(例えば、FASTA、DANASYS、及びBLAST)を用いてデフォルトの設定で算出した値を示す。塩基配列の同一性の値は、一致度が最大となるように一対の塩基配列をアライメントした際に一致する塩基の数を算出し、当該一致する塩基の数の、比較した塩基配列の全塩基数に対する割合として算出される。ここで、ギャップがある場合、上記の全塩基数は、1つのギャップを1つの塩基として数えた塩基数である。同一性の決定方法の詳細については、例えばAltschul et al, Nuc. Acids. Res. 25, 3389-3402, 1977及びAltschul et al, J. Mol. Biol. 215, 403-410, 1990を参照されたい。
【0015】
同様に、本発明の標的配列は、K.pneumoniaeに特異的である限り上記配列番号1によって表される配列に限定されず、配列番号1によって表される塩基配列に相補的な配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであってよい。
【0016】
本明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばGreen and Sambrook, Molecular Cloning, 4th Ed (2012), Cold Spring Harbor Laboratory Press を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェントな条件を設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ハイブリダイゼーション工程では、ナトリウム濃度が25〜500mM、好ましくは25〜300mMであり、温度が40〜68℃、好ましくは40〜65℃である。より具体的には、ハイブリダイゼーションは、1〜7×SSC、0.02〜3% SDS、温度40℃〜60℃で行うことができる。また、ハイブリダイゼーションの後に洗浄工程を行っても良く、洗浄工程は、例えば0.1〜2×SSC、0.1〜0.3% SDS、温度50〜65℃で行うことができる。
【0017】
また、本発明の標的配列は、K.pneumoniaeに特異的である限り上記配列番号1によって表される塩基配列、配列番号1において、1若しくは数個の塩基の欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入を含む塩基配列、配列番号1と70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、最も好ましくは95%以上の同一性、例えば97%、98%若しくは99%の同一性を有する塩基配列、又は配列番号1に相補的な配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを構成する配列に限定されず、上記標的配列の部分配列であってよい。該部分配列は、例えば、配列番号1の配列の連続する少なくとも50塩基、60塩基、70塩基、80塩基、90塩基、又は100塩基を含む塩基配列、例えば配列番号1の1番目〜350番目の塩基配列、1番目〜300番目の塩基配列、1番目〜250番目の塩基配列、1番目〜200番目の塩基配列、好ましくは1番目〜150番目の塩基配列、特に好ましくは9番目〜127番目の塩基配列、又はこれらの配列において、1若しくは数個の塩基の欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入を含む塩基配列を含む、又はからなるものであってよい。
【0018】
<プライマー>
一態様において、本発明は、上記標的配列から設計されたプライマー又はプライマーセットに関する。例えば、本発明は、上記標的配列の一部と同一又は相補的な塩基配列を含むか若しくはからなるプライマー、又は該プライマーを二種以上含むプライマーセットに関する。
【0019】
本発明のプライマー及びプライマーセットは、等温核酸増幅法によって、上記標的配列を増幅し得るものであってよい。等温核酸増幅法とは、標的核酸配列を等温で増幅する方法である。本明細書において、等温核酸増幅法における「等温」とは、酵素及びプライマー等が機能し得る一定の温度、例えば40℃〜75℃、好ましくは50℃〜72℃、特に55℃〜70℃を意味する。代表的な等温核酸増幅法であるLAMP法及びSmartAmp法について、以下に説明する。
【0020】
LAMP法は、プライマーとして、好ましくは少なくとも4種類のオリゴヌクレオチドを用いる核酸増幅法であり、2本鎖DNA、4つのプライマー、鎖置換型DNA polymerase、基質等を同一容器に入れ、一定温度(65℃付近)で保温することにより、検出までを1ステップの工程で行う。LAMP法は、増幅効率が高く、DNAを15分〜1時間程度で約109〜1010倍に増幅することができ、増幅産物の有無によって、短時間で標的DNA配列の有無を判定することが可能である(例えば、国際特許公開WO 00/28082号公報)。
【0021】
LAMP法では、標的遺伝子に対して、3’末端側から5’末端側に向かってF3c配列、F2c配列、F1c配列、R1配列、R2配列、及びR3配列を規定し、この6領域に対して、プライマーを設計する。プライマーとして、FIP(forward inner primer)及びBIP(back inner primer)を含むインナープライマーを用い、好ましくはさらにF3プライマー及びB3プライマーを含むアウタープライマーを用いる。FIPは、標的遺伝子のF2c領域と相補的なF2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的遺伝子のF1c領域と同一の配列を含む。F3プライマーは、標的遺伝子のF3c領域と相補的なF3領域を含む。BIPは、標的遺伝子のR2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的遺伝子のR1領域と相補的なR1c領域を含む。B3プライマーは、標的遺伝子のR3配列を含む。LAMP法では、ループプライマーと呼ばれるプライマーを用いて、反応をさらに促進することもできる。ループプライマーは、LAMP法の反応中間体として生じる構造の両端に存在するループ構造の一部の配列に相補的な配列を含む。
【0022】
SmartAmp法は、LAMP法と類似する方法であるが、フォールディングプライマーと呼ばれる、5’側が自己相補的な配列、すなわち、相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に有する折り返し配列であるプライマーを用いる点で、LAMP法と相違する。また、上記の通りLAMP法では両端にループ構造を有する中間体が形成されるのに対し、SmartAmp法では、一方がループ構造、もう一方が折りたたみ構造を有する中間体が形成される点でも相違する。さらに、各プライマーの名称も、LAMP法とSmartAmp法では異なる。LAMP法とSmartAmp法の相違点の概略を図1に示す。
【0023】
本発明のプライマーセットは、上記「標的配列」の項目で記載した標的配列において、3’末端側から5’末端側に向かってF3c配列、F2c配列、F1c配列、R1配列、R2配列、及びR3配列を規定し、それぞれの相補的配列をF3配列、F2配列、F1配列、R1c配列、R2c配列、及びR3c配列としたときに、少なくとも以下の(a)及び(b)のプライマーを含む:(a)プライマーの3’末端側がF2配列を含むか又はからなり、5’末端側がF1c配列を含むか又はからなるプライマー;及び(b)プライマーの3’末端側がR2配列を含むか若しくはからなり、5’末端側がR1c配列、又は相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に有する折り返し配列、を含むか若しくはからなるプライマー。ここで、(b)のプライマーが5’末端側にR1c配列を含む場合には、該プライマーセットはLAMP法に用いることができ、(b)のプライマーが5’末端側に折り返し配列を含む場合には、該プライマーセットはSmartAmp法に用いることができる。
【0024】
上記(a)及び(b)のプライマーにおいて、「5’末端側」とは、二つの配列の相対的な位置関係を表し、「5’末端側」の配列が他方の配列に対して、5’末端により近いことを意味する。「5’末端側に含む」とは、好ましくは「5’末端」に含むことを意味する。同様に、「3’末端側」とは、二つの配列の相対的な位置関係を表し、「3’末端側」の配列が他方の配列に対して、3’末端により近いことを意味する。「3’末端側に含む」とは、好ましくは「3’末端」に含むことを意味する。
【0025】
限定するものではないが、F2c配列の3’末端〜R2配列の5’末端の塩基長は60〜500塩基であってよく、F2cとF3c配列間、及びR2とR3配列間の塩基長は、0〜20塩基であってよい。また、限定するものではないが、F2cとF1c配列間、及びR2とR1の配列間の塩基長は、0〜60塩基であってよい。
【0026】
本発明のプライマーセットは、上記(a)及び(b)のプライマーに加えて、さらに以下の(c)〜(e)のいずれか一つ以上を含んでもよい:(c)標的配列におけるF2c配列の3'末端の塩基から、F1c配列の3'末端の3'末端側に隣接する塩基までの配列の部分配列である配列A又は配列Aに相補的な配列Bを含む(好ましくは3'末端に含む)か若しくはからなるプライマー及び/又は標的配列におけるR2配列の5'末端の塩基から、R1配列の5'末端の5'末端側に隣接する塩基までの配列の部分配列である配列C又は配列Cに相補的な配列Dを含む(好ましくは3'末端に含む)か若しくはからなるプライマー;(d)F3配列を含む(好ましくは3'末端に含む)か又はからなるプライマー;及び(e)R3配列を含む(好ましくは3'末端に含む)か又はからなるプライマー。好ましくは、本発明のプライマーセットは、上記(a)及び(b)のプライマーに加えて、さらに上記(c)のプライマーを少なくとも含む。
【0027】
LAMP法において用いる場合には、本発明のプライマーセットは、上記(a)及び(b)のプライマーに加えて、好ましくは上記(d)及び(e)のプライマーを含む。LAMP法において用いる場合には、本発明のプライマーセットは、さらに好ましくは、上記(c)のプライマーをさらに含む。
【0028】
上記(a)〜(b)のプライマーの長さは、プライマーセットが標的配列を増幅可能であれば特に限定しない。上記F3c配列、F2c配列、F1c配列、R1配列、R2配列、及びR3配列の長さは、それぞれ例えば12〜32ヌクレオチド、好ましくは15〜30ヌクレオチドであり、上記折り返し配列の長さは、例えば4〜60ヌクレオチド、好ましくは6〜40ヌクレオチドである。また、(a)のプライマーは、F2配列とF1c配列の間に、反応に影響を与えない0〜50ヌクレオチドからなる任意のオリゴヌクレオチドを含んでいてよく、同様に(b)のプライマーは、R2配列とR1c配列又は折り返し配列の間に、反応に影響を与えない0〜50ヌクレオチドからなる任意のオリゴヌクレオチドを含んでいてよい。したがって、(a)及び(b)のプライマーの長さは、例えば30〜100ヌクレオチド、好ましくは30〜50ヌクレオチド、特に好ましくは30〜40ヌクレオチドである。同様に、(c)〜(e)のプライマーの長さは、プライマーセットが標的配列を増幅可能であれば特に限定しないが、例えば12〜32ヌクレオチド、好ましくは15〜30ヌクレオチドである。
【0029】
上記(a)のプライマーにおいて、F2配列は、配列番号2、10、若しくは11によって表される塩基配列、又は配列番号2、10、若しくは11によって表される塩基配列において1若しくは数個(例えば2〜3個、好ましくは2個)の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列であってよく、特に配列番号2、10、若しくは11によって表される塩基配列において5'末端及び3'末端の一方又は両方から合計で1若しくは数個の塩基が欠失した配列や、5'末端に1若しくは数個の塩基が付加した配列であることができる。また、F2配列は、配列番号2、10、若しくは11によって表される塩基配列と70%以上の同一性、80%以上の同一性、90%以上の同一性、95%以上の同一性、又は97%以上の同一性を有する塩基配列であってよい。また、F2配列は、配列番号2、10、若しくは11に相補的な配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを構成する塩基配列であってよい。F2配列はまた、配列番号1で表される塩基配列の相補的な塩基配列に含まれる部分塩基配列であって、配列番号2、10、若しくは11によって表される塩基配列と、配列番号2、10、若しくは11によって表される塩基配列の5'末端及び3'末端の一方又は両方に付加した合計で好ましくは9以下、より好ましくは6以下、最も好ましくは1、2又は3の塩基とからなる前記部分塩基配列であってよい。ここで、(a)のプライマーにおいて、F1c配列は、配列番号12若しくは13によって表される塩基配列、又は配列番号12若しくは13によって表される塩基配列において1若しくは数個(例えば2〜3個、好ましくは2個)の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列であってよく、特に配列番号12若しくは13によって表される塩基配列において5'末端及び3'末端の一方又は両方から合計で1若しくは数個の塩基が欠失した配列や、5'末端に1若しくは数個の塩基が付加した配列であることができる。また、F1c配列は、配列番号12若しくは13によって表される塩基配列と70%以上の同一性、80%以上の同一性、90%以上の同一性、95%以上の同一性、又は97%以上の同一性を有する塩基配列であってよい。また、F1c配列は、配列番号12若しくは13に相補的な配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを構成する塩基配列であってよい。F1c配列はまた、配列番号1で表される塩基配列に含まれる部分塩基配列であって、配列番号12若しくは13によって表される塩基配列と、配列番号12若しくは13によって表される塩基配列の5'末端及び3'末端の一方又は両方に付加した合計で好ましくは9以下、より好ましくは6以下、最も好ましくは1、2又は3の塩基とからなる前記部分塩基配列であってよい。
【0030】
上記(b)のプライマーにおいて、R2配列は、配列番号3によって表される塩基配列、又は配列番号3によって表される塩基配列において1若しくは数個(例えば2〜3個、好ましくは2個)の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列であってよく、特に配列番号3によって表される塩基配列において5'末端及び3'末端の一方又は両方から合計で1若しくは数個の塩基が欠失した配列や、5'末端に1若しくは数個の塩基が付加した配列であることができる。また、R2配列は、配列番号3によって表される塩基配列と70%以上の同一性、80%以上の同一性、90%以上の同一性、95%以上の同一性、又は97%以上の同一性を有する塩基配列であってよい。また、R2配列は、配列番号3に相補的な配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを構成する塩基配列であってよい。R2配列はまた、配列番号1で表される塩基配列に含まれる部分塩基配列であって、配列番号3によって表される塩基配列と、配列番号3によって表される塩基配列の5'末端及び3'末端の一方又は両方に付加した合計で好ましくは9以下、より好ましくは6以下、最も好ましくは1、2又は3の塩基とからなる前記部分塩基配列であってよい。
【0031】
上記(b)のプライマーにおいて、折り返し配列は、相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に有する配列であれば、特に限定しない。折り返し配列中に存在する相互にハイブリダイズする2つの核酸配列は、他の配列を介さずに直接隣接していてもよいし、他の配列を介して接していてもよい。折り返し構造を形成する各核酸の長さは、限定するものではないが、例えば2〜30塩基、好ましくは2〜20塩基である。また、折り返し構造を形成する2つの核酸配列の間に存在し得る他の配列の長さは、限定するものではないが、例えば1〜40塩基、好ましくは1〜20塩基又は1〜10塩基である。
【0032】
上記(b)のプライマーにおける折り返し配列は、配列番号8若しくは9によって表される塩基配列、又は配列番号8若しくは9によって表される塩基配列において1若しくは数個(例えば2〜3個、好ましくは2個)の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列であってよい。また、折り返し配列は、配列番号8若しくは9によって表される塩基配列と70%以上の同一性、80%以上の同一性、90%以上の同一性、95%以上の同一性、又は97%以上の同一性を有する塩基配列であってよい。また、折り返し配列は、配列番号8若しくは9に相補的な配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを構成する塩基配列であってよい。
【0033】
上記(c)のプライマーは、例えば、標的配列におけるF2c配列とF1c配列の間の部分配列又は該部分配列に相補的な配列を含む(好ましくは3'末端に含む)か若しくはからなるプライマー及び/又は標的配列におけるR1配列とR2配列の間の部分配列若しくは該配列に相補的な配列を含む(好ましくは3'末端に含む)か若しくはからなるプライマーであってよい。
【0034】
上記(c)のプライマーは、配列番号4若しくは7によって表される塩基配列、又は配列番号4若しくは7によって表される塩基配列において1若しくは数個(例えば2〜3個、好ましくは2個)の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列を含む、又はからなるものであってよく、特に配列番号4若しくは7によって表される塩基配列において5'末端及び3'末端の一方又は両方から合計で1若しくは数個の塩基が欠失した配列や、5'末端に1若しくは数個の塩基が付加した配列であることができる。また、(c)のプライマーは、配列番号4若しくは7によって表される塩基配列と70%以上の同一性、80%以上の同一性、90%以上の同一性、95%以上の同一性、又は97%以上の同一性を有する塩基配列を含むか又はからなるものであってよい。また、(c)のプライマーは、配列番号4若しくは7に相補的な配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを構成する塩基配列を含むか又はからなるものであってよい。
【0035】
上記(d)のプライマーにおいて、F3配列は、配列番号5によって表される塩基配列、又は配列番号5によって表される塩基配列において1若しくは数個(例えば2〜3個、好ましくは2個)の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列であってよく、特に配列番号5によって表される塩基配列において5'末端及び3'末端の一方又は両方から合計で1若しくは数個の塩基が欠失した配列や、5'末端に1若しくは数個の塩基が付加した配列であることができる。また、F3配列は、配列番号5によって表される塩基配列と70%以上の同一性、80%以上の同一性、90%以上の同一性、95%以上の同一性、又は97%以上の同一性を有する塩基配列であってよい。また、F3配列は、配列番号5に相補的な配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを構成する塩基配列であってよい。F3配列はまた、配列番号1で表される塩基配列の相補的な塩基配列に含まれる部分塩基配列であって、配列番号5によって表される塩基配列と、配列番号5によって表される塩基配列の5'末端及び3'末端の一方又は両方に付加した合計で好ましくは9以下、より好ましくは6以下、最も好ましくは1、2又は3の塩基とからなる前記部分塩基配列であってよい。
【0036】
上記(e)のプライマーにおいて、R3配列は、配列番号6によって表される塩基配列、又は配列番号6によって表される塩基配列において1若しくは数個(例えば2〜3個、好ましくは2個)の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された配列であってよく、特に配列番号6によって表される塩基配列において5'末端及び3'末端の一方又は両方から合計で1若しくは数個の塩基が欠失した配列や、5'末端に1若しくは数個の塩基が付加した配列であることができる。また、R3配列は、配列番号6によって表される塩基配列と70%以上の同一性、80%以上の同一性、90%以上の同一性、95%以上の同一性、又は97%以上の同一性を有する塩基配列であってよい。また、R3配列は、配列番号6に相補的な配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを構成する塩基配列であってよい。R3配列はまた、配列番号1で表される塩基配列に含まれる部分塩基配列であって、配列番号6によって表される塩基配列と、配列番号6によって表される塩基配列の5'末端及び3'末端の一方又は両方に付加した合計で好ましくは9以下、より好ましくは6以下、最も好ましくは1、2又は3の塩基とからなる前記部分塩基配列であってよい。
【0037】
また、一態様において、本発明は、上記(a)〜(e)のプライマーにおいて、F1c配列、F2配列、R1c配列又は折り返し配列、R2配列、配列A、B、C、又はD、F3配列、及びR3配列の組合せが、以下の表の組合せ1〜17のいずれかである、プライマーセットに関する。
【0038】
【表2】
【0039】
ここで、組合せ1〜17において、各プライマーは、表中に記載された配列を含むか又はからなる。
【0040】
本発明の他の一態様では、上記表に示す組合せ1〜17のいずれかのプライマーセットにおいて、配列番号X(Xは表中の各組合せにおける配列番号の1つ以上を指す)によって表される塩基配列が、
配列番号Xによって表される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入された塩基配列;
配列番号Xによって表される塩基配列と70%以上の同一性、80%以上の同一性、90%以上の同一性、95%以上の同一性、又は97%以上の同一性を有する塩基配列;
配列番号Xに相補的な配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを構成する塩基配列(特に配列番号Xによって表される塩基配列において5'末端及び3'末端の一方又は両方から合計で1若しくは数個の塩基が欠失した配列や、5'末端に1若しくは数個の塩基が付加した配列);或いは
配列番号1で表される塩基配列に含まれる部分塩基配列又は配列番号1で表される塩基配列の相補的な塩基配列に含まれる部分塩基配列であって、配列番号X(ただし配列番号Xが配列番号8又は9である場合を除く)によって表される塩基配列と、配列番号Xによって表される塩基配列の5'末端及び3'末端の一方又は両方に付加した合計で好ましくは9以下、より好ましくは6以下、最も好ましくは1、2又は3の塩基とからなる前記部分塩基配列
に置き換えられてもよい。これらの塩基配列については、(a)〜(e)のプライマーに関して説明した通りである。
【0041】
本発明の方法において増幅される配列は、LAMP法の場合、例えば、F1c配列とR1配列及びF1c配列とR1配列の間の配列、又はF1配列とR1c配列及びF1配列とR1c配列の間の配列を含む配列である。ここで、F1c配列とR1配列の間、又はF1配列とR1c配列の間の塩基長は、例えば0〜60塩基又は5〜50塩基であってよい。また、本発明の方法において増幅される配列は、SmartAmp法の場合、例えば、F1c配列とR2配列及びF1c配列とR2配列の間の配列、又はF1配列とR2c配列及びF1配列とR2c配列の間の配列を含む配列である。ここで、F1c配列とR2配列の間、又はF1配列とR2c配列の間の塩基長は、例えば0〜60塩基又は5〜50塩基であってよい。
【0042】
<キット>
一態様において、本発明は、本発明のプライマー又はプライマーセットを含む、K.pneumoniaeを検出するためのキットに関する。本発明のキットは、上記プライマー又はプライマーセットに加えて、例えば、バッファー、酵素、及び/又は使用説明書等を含んでもよい。
【0043】
<方法>
一態様において、本発明は、上記標的配列、例えば配列番号1によって表される塩基配列、又は配列番号1によって表される塩基配列において1若しくは数個の塩基の欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入を含む塩基配列、又はその部分配列からなる核酸の量又は存在を測定する工程を含む、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)を特異的に検出する方法に関する。特に、該方法は、該核酸を増幅する工程を含み、増幅は等温核酸増幅法により行われるのが好ましいが、PCR法等の公知の核酸増幅法により行ってもよい。ここで、該部分配列は、例えば、配列番号1の配列の連続する少なくとも50塩基、60塩基、70塩基、80塩基、90塩基、又は100塩基を含む塩基配列、例えば配列番号1の1番目〜350番目の塩基配列、1番目〜300番目の塩基配列、1番目〜250番目の塩基配列、1番目〜200番目の塩基配列、好ましくは1番目〜150番目の塩基配列、特に好ましくは9番目〜127番目の塩基配列、又はこれらの配列において、1若しくは数個の塩基の欠失、置換、付加、及び/若しくは挿入を含む塩基配列を含む、又はからなるものであってよい。
【0044】
核酸の増幅を等温核酸増幅法により行う場合には、上記プライマーセットのいずれかを用いればよいが、核酸の増幅をPCR法等の公知の核酸増幅法で行う場合には、例えば以下のプライマーセット:
配列番号2の配列を含む、又はからなるプライマー、及び配列番号3の配列を含む、又はからなるプライマー;
配列番号10の配列を含む、又はからなるプライマー、及び配列番号3の配列を含む、又はからなるプライマー;
配列番号11の配列を含む、又はからなるプライマー、及び配列番号3の配列を含む、又はからなるプライマー;を使用することができる。
【0045】
本発明の方法において使用するプライマーは、上記プライマーセットに限定されず、標的配列に基づいて、公知の方法に従って作製してもよい。
本発明の方法は、設計したプライマー、DNAポリメラーゼ、増幅しようとする標的遺伝子を含むサンプル、及びバッファーを混合する工程、並びに該混合物をインキュベーションする工程を含む。この方法により、遺伝子増幅反応が進行し、増幅産物を得ることができる。
【0046】
核酸増幅法に用いる酵素としては、例えば、Aac Polymerase、Bst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント、Vent(Exo-)DNAポリメラーゼ(Vent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、DeepVent(Exo-)DNAポリメラーゼ(DeepVent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、KOD DNAポリメラーゼ等の鎖置換型DNAポリメラーゼ等が挙げられる。
【0047】
本発明における「サンプル」としては、例えば単離されたDNAを含む懸濁液、又は単離されていないDNAを含む懸濁液、例えば菌体を含む懸濁液が挙げられる。また、本発明におけるサンプルは、ヒト、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等の哺乳動物の体液(例えば乳汁、唾液、血液、糞便等)又は組織(例えば、乳房近傍の皮膚組織等)等の生体由来サンプルであってよい。また、本発明におけるサンプルは、食品及び乳業の加工機器、装置、器具、及び用具等から採取してもよい。サンプルは、必要に応じて増幅の前に分離及び/又は濃縮等の前処理を行うことができる。
【0048】
核酸増幅法に用いられ得るバッファーとして、例えばトリス塩酸バッファー、リン酸ナトリウムバッファー、リン酸カリウムバッファー等のバッファーが挙げられる。これらのバッファーには、必要に応じて、塩化マグネシウム等の塩やdNTPs等の基質を加えても良い。本発明の等温核酸増幅法に用い得るバッファーの具体例として、例えばDnaform社のReaction bufferが挙げられる。
【0049】
上記インキュベーション工程は、プライマーのアニーリング温度等を考慮して適宜定めることができる。例えば、等温増幅の場合には、使用する酵素の活性を維持できる温度により保つことで実施することができ、温度は、用いるプライマーの融解温度(Tm)又はそれ以下にすることが好ましい。等温増幅法におけるインキュベーション温度として、例えば40℃〜75℃、好ましくは50℃〜72℃、特に55℃〜70℃が挙げられ、インキュベート時間として、増幅産物の量又は存在を測定可能であれば特に限定しないが、例えば15分〜120分、好ましくは30〜90分が挙げられる。
【0050】
一態様において、本発明は、本発明のプライマーセットを用いて核酸増幅法、特に等温核酸増幅法によりサンプル由来の核酸を増幅する工程、及び増幅産物の量又は存在を測定する工程を含む、K.pneumoniaeの検出方法に関する。
【0051】
本発明において、増幅産物の量又は存在を測定する工程は特に限定しない。本発明において、増幅産物の量を測定するとは、増幅産物の量を定量的に評価することを意味し、増幅産物の存在を測定するとは、増幅産物の有無を定性的に評価することを意味する。増幅産物の量又は存在の測定は、例えば増幅された遺伝子配列を特異的に認識する標識オリゴヌクレオチドを用いて行うことができ、さらに増幅反応終了後の反応液をそのまま電気泳動(例えば、アガロース電気泳動、及びポリアクリルアミドゲル電気泳動等)して増幅産物の有無の確認により行うことができる。また、反応液中にあらかじめ二本鎖核酸の分子内に特異的に取り込まれるインターカレーターであるエチジウムブロマイドやSYBR Green(Molecular Probes 社製)等を添加することによっても増幅を検出することが可能である(特開2001-242169)。また、伸長反応の際、副産物としてピロリン酸が生成され、反応液中のマグネシウムイオンと結合し、ピロリン酸マグネシウムの白濁・沈殿が生じるため、これを指標として肉眼又は吸光度計で検出することもできる。さらに、増幅された遺伝子配列を、該配列に特異的にハイブリダイズするヌクレオチドを固相化したDNAマイクロアレイやDNAチップを用いて検出することも可能である。また、特開2013-247968に記載の核酸目視検出法によって増幅した核酸を染色することによって検出することも可能である。
【0052】
本発明の方法によって、K.pneumoniaeを特異的に検出することが可能となり、K.pneumoniaeは乳房炎の原因ともなるため、本発明の方法により簡便かつ迅速に乳房炎の罹患又は罹患リスクの有無を判定することもできる。
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
<実施例1:プライマーの設計>
高い特異性を有するプライマーを取得するため、本発明者らは、まずK. pneumoniaeのhemolysin遺伝子と、K. pneumoniaeの近縁種(14種)のhemolysin遺伝子の塩基配列を、Genetyx(株式会社ゼネティックス)を用いて比較した。比較を行った生物種と、そのhemolysinの配列のAccession numberを以下の表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
その結果、K. pneumoniaeのみに特異的な塩基配列として、配列番号1の配列を見出した。次に、この塩基配列から以下の表5に記載する各プライマーを、Genetyx(株式会社ゼネティックス)を用いて設計した。
【0057】
<実施例2:精製DNAを検体とした等温核酸増幅反応>
以下の方法に従って、設計した各プライマーにより、K. pneumoniae由来精製DNAを等温核酸増幅が可能か、リアルタイム蛍光測定法により評価した。
1)試料
K. pneumoniae(ATCC 13883)培養液から、QIAamp DNA Mini Kit(QIAGEN社)を用いて、添付の取り扱い説明書に従ってDNAを精製し、精製DNAを鋳型として等温核酸増幅反応を実施した。
【0058】
2)反応溶液組成及び反応条件
以下の表4に示す反応溶液25 μL中に、各50 μMに調製したプライマーをTP(Turn back Primer)、FP(Folding Primer)、FIP(Foward Inner Primer)、BIP(Back Inner Primer)の場合は1.6 μL、BP(Boost Primer)、LP(Loop Primer)の場合は0.8 μL、OF(Outer Foward primer)、OR(Outer Reverse Primer)、F3プライマー、及びB3プライマーの場合は0.1 μL添加した。
【0059】
【表4】
【0060】
増幅反応は、リアルタイム蛍光測定装置LightCyclerR 96システム(Roche)を用い、60℃、70分間にて実施し、SYBR Greenの蛍光を経時的にモニタリングすることにより解析した。
【0061】
3)プライマー
以下の表5に示すプライマーを用いた。本実施例で用いた各プライマーは、以下の表5に示す配列のみからなる。例えば、組合せ1において、TPは5'末端側のターンバック部及び3'末端側のアニール部からなり、ターンバック部は配列番号12からなり、アニール部は配列番号2からなる。同様に、組合せ1において、FPは5'末端側のフォールディング部及び3'末端側のアニール部からなり、フォールディング部は配列番号8からなり、アニール部は配列番号3からなる。同様に、組合せ1において、BPは配列番号4からなる。表5に示す他の組合せ2〜18についても同様である。
【0062】
4)結果
表5に示したように、プライマー組合せ1〜17にて60℃において、60分以内で増幅反応が確認された。SmartAmp法による増幅反応においては、プライマーとしてTP及びFPのみを用いた場合には増幅が検出されなかったが(比較例1、組合せ18)、TP及びFPに加えてBP、OF、及びORのいずれか1種以上があれば、増幅反応が生じることを確認した(組合せ1〜17)。また、5種全てのプライマーを使用した場合、速い増幅反応が確認された(例えば、組合せ4〜8及び10等)。
【0063】
【表5】
【0064】
<実施例3:検出感度の確認>
以下の方法に従って、設計したプライマーの検出感度を評価した。
1)試料
実施例1と同様の方法により精製したK. pneumoniae (ATCC 13883)精製DNAを段階的に希釈し、鋳型として増幅反応を実施した。
すなわち、K. pneumoniaeのゲノムDNAが約6fg/copyであることを考慮して、実施例1の方法で得られた精製DNA溶液(60ng/μl)を段階的に(10倍ずつ)希釈し、各鋳型DNA濃度(100〜104copy/μL)となるように調製を行った。
【0065】
2)反応溶液組成及び反応条件
表5に記載した、組合せ4のプライマーセット(TP(ターンバック部:配列番号12、アニール部:配列番号2)、FP(フォールディング部:配列番号8、アニール部:配列番号3)、BP(配列番号4)、OF(配列番号5)、OR(配列番号6))を用いて増幅反応を実施した。反応溶液の組成及び増幅反応の条件は、実施例2に従った。
増幅反応は、ブロックインキュベータMiniT100H(Hangzhou Allsheng Instruments)を用い、60℃、60分間にて実施した。増幅の評価は、特開2013-247968に記載の核酸目視検出法に従って、反応後の溶液に1 μLの核酸検出試薬(0.1%ゲンチアナバイオレットB/2.0%亜硫酸ナトリウム/1.2%βシクロデキストリン/40%エタノール)を加え、溶液の色調変化から核酸増幅の有無を解析することにより行った。
【0066】
3)結果
プライマー組合せ4にて等温下60分以内で、102 copy相当以上の鋳型DNAが含まれる反応液で増幅反応が生じたことを示す青色を呈した(図2、D)。また、増幅反応前の溶液(データ示さず)及び鋳型DNAを含まない反応溶液(図2、A)においては、色調変化は確認されなかった。以上より、設計したプライマーセットを用いれば、特別な解析装置や煩雑な菌体前処理を必要とせずに、102 copy相当のK. pneumoniaeに由来するDNAを検出することができることが明らかとなった。
【0067】
<実施例4:菌体懸濁液を検体とした等温核酸増幅反応>
K. pneumoniae菌体懸濁液から直接核酸を増幅することが可能であるか、また、その増幅が菌種に特異的なものであるか検討した。
1)試料
ヒツジ血液寒天培地にて37℃、24時間培養したK. pneumoniae(ATCC 13883)、Klebsiella oxytoca、Escherichia coli、Enterobacter cloacae、Citrobacter spp.、及びSeratia marcescensのコロニーを10 μLの蒸留水に懸濁し、懸濁液1μLを鋳型として増幅反応を実施した。対照として、菌体懸濁液を含まない反応溶液も作成した。
【0068】
2)反応溶液組成及び反応条件
表5に記載した、組合せ4のプライマーセット(TP(ターンバック部:配列番号12、アニール部:配列番号2)、FP(フォールディング部:配列番号8、アニール部:配列番号3)、BP(配列番号4)、OF(配列番号5)、OR(配列番号6))を用いて増幅反応を実施した。以下の表6に示す反応溶液25 μL中に、各50 μMに調製したプライマーをTP、FPは1.6 μL、BPは0.8 μL、OF、ORは0.1 μL添加した。
【0069】
【表6】
【0070】
増幅反応は、ブロックインキュベータMiniT100H(Hangzhou Allsheng Instruments)を用い、60℃、60分間にて実施した。増幅の評価は、特開2013-247968に記載の核酸目視検出法に従って、反応後の溶液に1 μLの核酸検出試薬(0.1%ゲンチアナバイオレットB/2.0%亜硫酸ナトリウム/1.2%βシクロデキストリン/40%エタノール)を加え、溶液の色調変化から核酸増幅の有無を解析することにより行った。
【0071】
3)結果
結果を以下の表7に示す。
【表7】
【0072】
上記プライマーセットにて増幅反応を行い、核酸検出試薬を添加したところ、K. pneumoniae菌体懸濁液を含むサンプルは、増幅反応が生じたことを示す青色を呈した(表7、A)。一方で、増幅反応前の溶液(データ示さず)及び菌体懸濁液を含まない反応溶液(表7、G)においては、色調変化は確認されなかった。以上より、本発明のプライマーセットを用いれば、特別な解析装置や煩雑な菌体前処理を必要とせずに、K. pneumoniaeを検出できることが明らかとなった。
【0073】
また、K. pneumoniae以外の菌体懸濁液を含むサンプルにおいても、色調変化は確認されなかった(表7、B〜F)。以上より、本発明のプライマーセットは、K. pneumoniaeの近縁種や、乳汁中に存在する可能性のある他の微生物と交差反応せずに、K. pneumoniaeを特異的に検出できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のプライマー及び方法により、K. pneumoniaeの簡便かつ迅速な検出及び同定が可能となる。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]