(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
サイジングプレスにより、設定された開度に基づいて幅方向に圧延材をプレスし、プレスされた前記圧延材を水平圧延機によって水平圧延する場合における前記サイジングプレスの制御方法であって、
前記サイジングプレスにおけるプレス荷重を予測するステップと、
過去に前記水平圧延機によって圧延材を圧延したときの板幅の目標値と測定値との差であって、そのときの前記サイジングプレスの開度誤差とみなすことが可能な幅制御誤差と、前記サイジングプレスにおけるプレス荷重との関係に基づいて、予測された前記プレス荷重に対応する前記サイジングプレスの開度誤差を予測するステップと、
予測された前記開度誤差に基づいて前記サイジングプレスにおける開度の設定値を決定するステップと、
を有する、サイジングプレスの制御方法。
前記幅制御誤差と前記プレス荷重との関係を決定するステップでは、直交座標の一方の座標軸を前記幅制御誤差とし、他方の座標軸を前記プレス荷重としたとき、前記複数の実績値に対して最小二乗法を適用することで前記関係を決定する、
請求項2に記載のサイジングプレスの制御方法。
決定された前記開度の設定値によって設定された前記サイジングプレスによって幅方向に圧延材をプレスし、プレスされた前記圧延材を水平圧延機によって水平圧延した場合の前記幅制御誤差の実績値と、前記開度誤差及び前記プレス荷重の関係から得られる前記開度誤差の予測値とに基づいて、前記幅制御誤差と前記プレス荷重との関係を更新するステップをさらに有する、
請求項2又は3に記載のサイジングプレスの制御方法。
前記プレス荷重を予測するステップでは、前記水平圧延機によって圧延している圧延材を前記サイジングプレスによって幅方向にプレスしたときのプレス荷重の実績値を、プレス荷重の予測値とする、
請求項1乃至4の何れかに記載のサイジングプレスの制御方法。
サイジングプレスにより、設定された開度に基づいて幅方向に圧延材をプレスし、プレスされた前記圧延材を水平圧延機によって水平圧延する場合に、前記サイジングプレスを制御する制御装置であって、
前記サイジングプレスにおけるプレス荷重を予測するプレス荷重予測手段と、
過去に前記水平圧延機によって圧延材を圧延したときの板幅の目標値と測定値との差であって、そのときの前記サイジングプレスの開度誤差とみなすことが可能な幅制御誤差と、前記サイジングプレスにおけるプレス荷重との関係に基づいて、前記プレス荷重予測手段によって予測された前記プレス荷重に対応する前記サイジングプレスの開度誤差を予測する開度誤差予測手段と、
前記開度誤差予測手段によって予測された前記開度誤差に基づいて前記サイジングプレスにおける開度の設定値を決定する決定手段と、
を備える、サイジングプレスの制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献2では、サイジングプレスの開度誤差の決定のために、サイジングプレスの入側および出側にて圧延材の板幅を測定する必要があるため、圧延設備のコストが増大してしまう。また、サイジングプレスの入側では、幅計を設置するスペースを確保することが困難となる場合が多い。
【0005】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、従来に比して圧延材の板幅の測定箇所を少なくしつつ、サイジングプレスの開度を適切に補正することができるサイジングプレスの制御方法及び制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一の態様のサイジングプレスの制御方法は、サイジングプレスにより、設定された開度に基づいて幅方向に圧延材をプレスし、プレスされた前記圧延材を水平圧延機によって水平圧延する場合における前記サイジングプレスの制御方法であって、前記サイジングプレスにおけるプレス荷重を予測するステップと、過去に前記水平圧延機によって圧延材を圧延したときの板幅の目標値と測定値との差であ
って、そのときの前記サイジングプレスの開度誤差とみなすことが可能な幅制御誤差と、前記サイジングプレスにおけるプレス荷重との関係に基づいて、予測された前記プレス荷重に対応する前記サイジングプレスの開度誤差を予測するステップと、予測された前記開度誤差に基づいて前記サイジングプレスにおける開度の設定値を決定するステップと、を有する。
【0007】
この態様において、前記幅制御誤差と前記プレス荷重との関係は、前記幅制御誤差及び前記プレス荷重の複数の実績値に基づいて決定されてもよい。
【0008】
また、上記態様において、前記幅制御誤差と前記プレス荷重との関係を決定するステップでは、直交座標の一方の座標軸を前記幅制御誤差とし、他方の座標軸を前記プレス荷重としたとき、前記複数の実績値に対して最小二乗法を適用することで前記関係を決定してもよい。
【0009】
また、上記態様において、前記サイジングプレスの制御方法は、決定された前記開度の設定値によって設定された前記サイジングプレスによって幅方向に圧延材をプレスし、プレスされた前記圧延材を水平圧延機によって水平圧延した場合の前記幅制御誤差の実績値と、前記開度誤差及び前記プレス荷重の関係から得られる前記開度誤差の予測値とに基づいて、前記幅制御誤差と前記プレス荷重との関係を更新するステップをさらに有してもよい。
【0010】
また、上記態様において、前記プレス荷重を予測するステップでは、圧延材の変形抵抗と、前記サイジングプレスの金型に対する前記圧延材の接触面積とに基づいて、前記プレス荷重を算出してもよい。
【0011】
また、上記態様において、前記プレス荷重を予測するステップでは、前記水平圧延機によって圧延している圧延材を前記サイジングプレスによって幅方向にプレスしたときのプレス荷重の実績値を、プレス荷重の予測値としてもよい。
【0012】
また、本発明の一の態様のサイジングプレスの制御装置は、サイジングプレスにより、設定された開度に基づいて幅方向に圧延材をプレスし、プレスされた前記圧延材を水平圧延機によって水平圧延する場合に、前記サイジングプレスを制御する制御装置であって、前記サイジングプレスにおけるプレス荷重を予測するプレス荷重予測手段と、過去に前記水平圧延機によって圧延材を圧延したときの板幅の目標値と測定値との差であ
って、そのときの前記サイジングプレスの開度誤差とみなすことが可能な幅制御誤差と、前記サイジングプレスにおけるプレス荷重との関係に基づいて、前記プレス荷重予測手段によって予測された前記プレス荷重に対応する前記サイジングプレスの開度誤差を予測する開度誤差予測手段と、前記開度誤差予測手段によって予測された前記開度誤差に基づいて前記サイジングプレスにおける開度の設定値を決定する決定手段と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来に比して圧延材の板幅の測定箇所を少なくしつつ、サイジングプレスの開度を適切に補正することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0016】
[熱間圧延ラインの構成]
図1は、本実施の形態に係る熱間圧延ラインの構成を示す模式図である。熱間圧延ライン100は、加熱炉200と、サイジングプレス300と、粗圧延機400,401と、仕上げ圧延機500とを備える。
【0017】
加熱炉200の入側には、移載機210が設けられている。移載機210は連続鋳造されたスラグ(圧延材)を加熱炉200に移送するためのものであり、温度計及びスラグの幅を測定する距離計を備えている。移載機210によって圧延材が加熱炉200に供給され、加熱炉200によって加熱される。
【0018】
加熱炉200によって加熱された圧延材は、サイジングプレス300に供給される。サイジングプレス300は、圧延材を幅方向にプレスする。
【0019】
サイジングプレス300によってプレスされた圧延材は、水平圧延機である粗圧延機400,401及び仕上げ圧延機500に与えられ、粗圧延機400,401及び仕上げ圧延機500によって圧延される。
【0020】
図2は、サイジングプレス300の概略構成を示す斜視図である。サイジングプレス300は、一対のプレス用金型301を備えている。一対のプレス用金型301は、水平方向に離れて配置されており、互いに近接及び離反することが可能である。一対のプレス用金型301の間に圧延材600が供給され、プレス用金型301が圧延材600を両側から圧下する。サイジングプレス300は、圧延材600を長手方向(図中矢印方向)に搬送する。
【0021】
サイジングプレス300では、一対のプレス用金型301の離隔距離である開度を設定することが可能である。サイジングプレス300は、設定された開度にしたがい、圧延材600をプレスする。プレス後の圧延材600の幅は、開度に応じた大きさとなる。また、サイジングプレス300は、圧力センサを備えており、圧延材600をプレスするときのプレス荷重を測定可能である。
【0022】
粗圧延機400,401及び仕上げ圧延機500によって圧延材600が圧延される際に、圧延材600の幅が拡張する。サイジングプレス300は、圧延後の圧延材600の幅が目標値となるように、圧延前の圧延材600の幅寸法を調整するためのものである。
【0023】
1つの粗圧延機401の出側には、圧延材600の幅を測定する測定部410が設けられている。
【0024】
サイジングプレス300には、制御装置700が接続されている。制御装置700は、サイジングプレス300を制御するためのものである。制御装置700は、測定部410に接続されており、測定部410から出力される測定値を受信するように構成されている。
【0025】
[制御装置の構成]
図3は、本実施の形態に係るサイジングプレスの制御装置の構成を示すブロック図である。制御装置700は、コンピュータ701によって実現される。
図3に示すように、コンピュータ701は、本体710と、入力部720と、表示部730とを備えている。本体710は、CPU711、ROM712、RAM713、ハードディスク715、読出装置714、入出力インタフェース716、画像出力インタフェース717、及び通信インタフェース718を備えている。
【0026】
CPU711は、RAM713にロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。そして、サイジングプレス300の制御用のコンピュータプログラムであるプレス制御プログラム740を当該CPU711が実行することにより、コンピュータ701が制御装置700として機能する。プレス制御プログラム740は、サイジングプレス300の開度を制御し、圧延材600の圧延後の幅の制御を可能とする。
【0027】
[制御装置の動作]
以下、制御装置700によるサイジングプレス300の制御動作について説明する。
図4は、制御装置700によるサイジングプレス300の制御動作の手順を示すフローチャートである。
【0028】
まず、制御装置700のCPU711は、変数nを初期化する(ステップS101)。nは、現在の圧延対象の圧延材600が、熱間圧延ライン100によって何本目に圧延するものであるかを示す。つまり、nは、熱間圧延ライン100の操業数である。nの初期値は1である。なお、サイジングプレス300のプレス用金型301が交換されると、nは1にリセットされる。
【0029】
次に、CPU711は、サイジングプレス300の設定開度を計算する(ステップS102)。この処理では、圧延材600が所定の幅となるように、圧延材600が粗圧延機400,401を通過した後の圧延材の幅の拡大量(いわゆる、幅戻り量)を推定し、サイジングプレス300による圧延材600のプレス量、即ち開度W
SPcal(n)を計算する。
【0030】
開度W
SPcal(n)の計算には、加熱炉200の出側(即ち、サイジングプレス300の入側)における圧延材600の幅WSが用いられる。幅WSは、例えば以下の式で推定することができる。
【数1】
ここで、α(T)は、圧延材における室温(例えば、20℃)からT℃までの平均線膨張係数を、WmRTは、室温での圧延材600の幅を、Wmは、移載機210での圧延材600の実測幅を、Tmは、移載機210での実測幅Wmを測定したときの圧延材600の温度を、TSは、加熱炉200の出側における圧延材600の温度を、それぞれ示している。
【0031】
次に、CPU711は、nが所定値N以下であるか否かを判定する(ステップS103)。Nは、サイジングプレス300の開度誤差を予測するために必要となる最低限の圧延実績数(圧延ライン100によって過去に圧延した圧延材の数)であり、例えば10である。
【0032】
nがN以下である場合(ステップS103においてYES)、CPU711は、ステップS102において計算した設定開度を、サイジングプレス300の開度指令値に決定する(ステップS104)。制御装置700は、開度指令値をサイジングプレス300に与えて、サイジングプレス300を制御する。これにより、サイジングプレス300は、指令された開度で圧延材600をプレスする。
【0033】
指令された開度でプレスされた圧延材600は、粗圧延機400,401によって水平圧延される。測定部410が圧延材600の幅を測定する。また、サイジングプレス300は、圧延材600をプレスするときのプレス荷重を測定する。制御装置700は、測定部410から圧延後の圧延材600の幅の測定値を受信し、サイジングプレス300からプレス荷重の測定値を受信する。
【0034】
CPU711は、粗圧延機401による水平圧延後における圧延材600の幅制御誤差δWR2(n)を下式によって算出する(ステップS105)。
【数2】
ここで、WR2
act(n)は、測定部410によって得られたn番目の圧延材600の幅の測定値を示し、WR2
cal(n)は、n番目の圧延材600の幅の目標値を示す。
【0035】
CPU711は、算出された幅制御誤差δWR2(n)と、サイジングプレス300から受信したプレス荷重とを互いに対応付け、実績値としてハードディスク715に記憶させる(ステップS106)。
【0036】
熱間圧延ライン100では、圧延材600の圧延工程が終了する。新たな圧延材600の圧延を行わない場合には(ステップS107においてYES)、CPU711は、処理を終了する。
【0037】
新たな圧延材600の圧延を行う場合(ステップS107においてNO)、CPU711は、nを1だけインクリメントし(ステップS108)、ステップS102に処理を戻す。連続鋳造された次の圧延材600が熱間圧延ライン100に供給され、再度圧延が開始される。
【0038】
上記のステップS101〜S108の処理を繰り返すことで、幅制御誤差を0と仮定した操業がNの圧延材600に対して実施される。これにより、直近N個の圧延材600における幅制御誤差の集合δWR2[1〜N]と、直近N個の圧延材600におけるサイジングプレス300のプレス荷重の測定値の集合δP
SPact[1〜N]とが記録される。
【0039】
ステップS103においてnがNより大きい場合(ステップS103においてNO)、CPU711は、サイジングプレス300のプレス荷重を予測する(ステップS109)。
【0040】
プレス荷重の予測には、次式を用いることができる。
【数3】
ここで、P
SPは、サイジングプレス300のプレス荷重を、k
fmは、圧延材600の平均変形抵抗を、Qは、補正項を、Sは、圧延材600におけるプレス金型310との接触面積をそれぞれ示している。
【0041】
なお、圧延材600の先端部付近におけるプレス荷重の測定値を算出する。
【0042】
次に、CPU711は、ハードディスク715に記憶されている実績値に基づいて、サイジングプレス300のオフセット誤差a(n−1)及びプレス荷重によるたわみの計算に使用する荷重比例定数b(n−1)を計算する(ステップS110)。
【0043】
ここで、オフセット誤差a(n−1)及び荷重比例定数b(n−1)について説明する。
図5は、圧延材600の幅制御誤差の分布を示すグラフである。
図5において、縦軸は幅制御誤差を示し、横軸はサイジングプレス300におけるプレス荷重を示している。
【0044】
図5に示すように、プレス荷重が0のとき、幅制御誤差はオフセット誤差a(n−1)である。プレス荷重が増加するにしたがい、幅制御誤差は概ね直線的に増加する(いわゆる、たわみ誤差)。そこで、制御装置700は、プレス荷重と幅制御誤差との関係を、下式による最小二乗法を用いて近似し、オフセット誤差a(n−1)及び荷重比例定数b(n−1)を決定する。
【数4】
【0045】
なお、プレス荷重と幅制御誤差との関係を直線ではなく、多次元曲線によって近似することも可能である。
【0046】
次に、CPU711は、ステップS110において決定したプレス荷重と幅制御誤差との関係を示す式に基づき、開度誤差とプレス荷重との関係式を作成する(ステップS111)。このステップS111では、開度誤差が幅制御誤差と等しいとみなす。つまり、上記のプレス荷重と幅制御誤差との関係式のうち、幅制御誤差を開度誤差に置き換えることで、開度誤差とプレス荷重との関係式が作成される。次式に、作成された開度誤差とプレス荷重との関係式を示す。
【数5】
【0047】
ここで、開度誤差と幅制御誤差とが等しいとみなすことができる理由を説明する。水平圧延の板幅予測値WR2
calは、次式で与えられる。
【数6】
上式において、W
SPはサイジングプレス300の出側での圧延材600の幅を、ΔWR2は粗圧延機400,401の水平圧延による幅戻り量をそれぞれ示す。ΔWR2は、サイジングプレス300の圧下量等に基づいて算出される(幅戻り予測式)。
【0048】
水平圧延での幅制御誤差は、水平圧延前の圧延材600の幅の誤差と水平圧延による幅戻り量ΔWR2の誤差に分類できる。すなわち、次式のように表される。
【数7】
このうち、水平圧延前の幅の誤差については、サイジングプレス300の開度にδxの変化があるとすると、サイジングプレス300による圧延材600のプレス後の幅、つまり水平圧延前の幅にδxの変化を生じる。これは水平圧延後の幅にもおおむねδxの変化を生じると近似できる。
【0049】
一方、幅戻り量ΔWR2の誤差については、ΔWR2は、圧延材600のプレス後の断面形状(バルジ形状)の影響を強く受ける。ただし、サイジングプレス300の圧下量は数百ミリオーダーであるため、数ミリ程度の開度変化δxが生じても、圧延材600の断面形状そのものに与える影響は少ない。従って、サイジングプレス300の開度変化δxが水平圧延後の幅戻り量ΔWR2へ与える影響は少ない。
【0050】
まとめると、サイジングプレス300に開度誤差がある際の、水平圧延後の幅制御誤差は、水平圧延前の圧延材600の幅の誤差によるものが主因であり、水平圧延での幅戻り量ΔWR2の誤差、すなわち、上記δ(ΔWR2)は小さいとして無視できる。つまり、ある程度精度良い幅戻り予測式がある場合には、水平圧延での幅制御誤差をそのままサイジングプレス開度誤差とみなして差し支えない。
【0051】
次に、CPU711は、上記の開度誤差とプレス荷重との関係式(1)を用いて、ステップS109において求めたプレス荷重の予測値に対応する開度誤差を求めることにより、サイジングプレス300の開度誤差を予測する(ステップS112)。
【0052】
図6は、開度誤差とプレス荷重との関係を示すグラフである。図に示すように、開度誤差δW
SPcal(n)がプレス荷重の予測値P
SPcal(n)に対応している。ステップS112においては、このようなδW
SPcal(n)が開度誤差の予測値として得られる。
【0053】
次に、CPU711は、サイジングプレス300の開度指令値W
SPset(n)を次式によって決定する(ステップS113)。
【数8】
【0054】
制御装置700は、開度指令値をサイジングプレス300に与えて、サイジングプレス300を制御する。これにより、サイジングプレス300は、指令された開度で圧延材600をプレスする。上式(2)に示すように、サイジングプレス300の開度の設定値W
SPcal(n)を、幅制御誤差δWR2(n)と等しいとみなされた開度誤差δW
SPcal(n)で補正することによって、開度指令値W
SPset(n)が決定される。このため、幅制御誤差が抑制され、圧延材600の圧延後の幅寸法の精度が改善される。
【0055】
また、プレス荷重の変化に伴う幅制御誤差の変化であるいわゆるたわみ誤差を考慮して、幅制御誤差とプレス荷重との関係式を決定しているため、この関係式に基づいて作成された開度誤差とプレス荷重との関係式を用いることで、たわみ誤差を抑制するようにサイジングプレス300の開度を制御することができる。たわみ誤差は、圧延材からサイジングプレス300への押圧力によって生じ、サイジングプレス300のプレス荷重が大きくなるとたわみ誤差が大きくなる。したがって、上記のように関係式を決定することで、圧延材によってプレス荷重が大きく異なる場合でも、精度よくサイジングプレスの開度を制御することができる。
【0056】
指令された開度でプレスされた圧延材600は、粗圧延機400,401によって水平圧延される。測定部410が圧延材600の幅を測定する。また、サイジングプレス300は、圧延材600をプレスするときのプレス荷重を測定する。制御装置700は、測定部410から圧延後の圧延材600の幅の測定値を受信し、サイジングプレス300からプレス荷重の測定値を受信する。
【0057】
上述したように、圧延材600の幅制御誤差は改善される。
図7は、改善後の幅制御誤差の分布を示すグラフである。幅制御誤差は縮小し、
図7に示すδWR2
RES(n)になる。以下、改善された幅制御誤差を、圧延後の圧延材600の幅予測残差という。CPU711は、圧延後の圧延材600の幅の測定値WR2
act(n)と、圧延材600の幅の設定値WR2
set(n)とによって、幅予測残差δWR2
RES(n)を算出する(ステップS114)。
【数9】
【0058】
圧延材600の幅制御誤差は改善されているため、これをそのまま実績値として使用すると、開度設定値の補正量が減少し、圧延材600の幅の制御が悪化してしまう。幅制御誤差の改善は、開度設定値を幅制御誤差の予測値と等しいとみなされた開度誤差で補正することでもたらされる。したがって、改善された幅制御誤差に開度誤差を付加したものが、改善しなかった場合の本来の幅制御誤差といえる。そこで、CPU711は、開度設定値を補正しなかった場合における幅制御誤差δWR2’(n)を、下式によって算出する(ステップS115)。
【数10】
【0059】
上記の式(3)により、幅制御誤差の実績値が開度誤差の予測値によって修正される。
【0060】
CPU711は、算出された幅制御誤差δWR2’(n)と、サイジングプレス300から受信したプレス荷重とを、実績値としてハードディスク715に記憶させる(ステップS116)。次回以降の幅制御誤差とプレス荷重との関係式の決定(ステップS110)では、修正された幅制御誤差の実績値が用いられ、関係式が更新される。つまり、幅制御誤差とプレス荷重との関係式は、幅制御誤差の実績値(幅予測残差)と開度誤差とに基づいて更新される。幅予測残差と開度誤差とによって、開度設定値を補正しなかった場合の幅制御誤差を正確に推定することができるため、推定された幅制御誤差を実績値として蓄積することで、幅制御誤差とプレス荷重との関係式の精度を維持することができる。また、このようにして更新された幅制御誤差とプレス荷重との関係式に基づき、ステップS111において、開度誤差とプレス荷重との関係式が作成されるため、幅制御誤差の改善による影響を受けることなく、開度誤差の予測精度を維持することができる。また、実績値の蓄積量が増えることで、開度誤差の予測の学習効果が向上し、予測精度が向上する。
【0061】
熱間圧延ライン100では、圧延材600の圧延工程が終了する。新たな圧延材600の圧延を行わない場合には(ステップS107においてYES)、CPU711は、処理を終了する。
【0062】
新たな圧延材600の圧延を行う場合(ステップS107においてNO)、CPU711は、nを1だけインクリメントし(ステップS108)、ステップS102に処理を戻す。連続鋳造された次の圧延材600が熱間圧延ライン100に供給され、再度圧延が開始される。
【0063】
以上のような制御動作により、サイジングプレス300のプレス荷重によって開度誤差を予測し、その開度誤差をなくすようにサイジングプレス300の開度指令値を決定するため、圧延条件の1つであるプレス荷重に応じて、高精度に圧延材の板幅を制御することができる。
【0064】
熱間圧延ライン100では、サイジングプレス300の開度誤差の決定のために、サイジングプレスの入側に板幅を測定するための測定部を設ける必要がないため、設備コストを抑制することができる。また、サイジングプレス300の入側に上述したような測定部の設置スペースを確保することが困難な熱間圧延ライン100であっても、適切に開度制御を行うことができる。
さらに、本実施の形態に係るサイジングプレス300の開度の制御方法では、サイジングプレスのたわみ誤差の影響を考慮することから、より適切にサイジングプレス300の開度を設定することができる。
【0065】
また、N以上の実績値に基づいて、開度誤差とプレス荷重との関係を表す式を決定するため、当該式は、熱間圧延ライン100の圧延動作の傾向を反映したものとなり、この式によって開度誤差を正確に予測することができる。
【0066】
(その他の実施の形態)
上記の実施の形態においては、幅予測残差に開度誤差の予測値を付加することによって、幅制御誤差の実績値を修正し、開度誤差とプレス荷重との関係式を更新する構成について述べたが、これに限定されるものではない。N個の実績値に基づいて作成した開度誤差とプレス荷重との関係式を更新せずに使用する構成としてもよい。
【0067】
また、上記の実施の形態においては、制御装置700によって開度誤差とプレス荷重との関係を決定する構成について述べたが、これに限定されるものではない。ユーザが、開度誤差とプレス荷重との実績値に近似した関係式を決定し、制御装置700がこれを用いて開度誤差の予測を行う構成であってもよい。
【0068】
また、上記の実施の形態においては、幅制御誤差とプレス荷重との複数の実績値に対して最小二乗法を適用し、幅制御誤差とプレス荷重との関係を決定する構成について述べたが、これに限定されるものではない。幅制御誤差とプレス荷重との複数の実績値に対して、スプライン補間、ラグランジュ補間等の公知の補完法を適用し、幅制御誤差とプレス荷重との関係を決定する構成としてもよい。
【0069】
また、上記の実施の形態においては、コンピュータ701によって構成した制御装置700によってサイジングプレス300の開度制御を行う構成について述べたが、これに限定されるものではない。制御装置700を、サイジングプレス300の開度制御を実行するための組み込み型の制御基板によって実現することも可能である。この場合、不揮発性の半導体メモリにサイジングプレス300の制御用のコンピュータプログラムを格納し、組み込み型プロセッサによって当該コンピュータプログラムを実行するようにしてもよいし、サイジングプレス300の制御機能の一部又は全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)によって実現してもよい。