(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
1. インクジェット記録媒体の基本構成
図1は、本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録媒体(以下、単に記録媒体という)の基本構成を示す縦断側面図である。本発明においては、本実施形態におけるインクジェット記録媒体は、
図1に示すように、基材上に2層以上の層構造を有するインク受容層53を設け、インク受容層の上に樹脂層を設けたインクジェット記録用記録媒体である。インク受容層53は、基材50側のインク受容層をインク溶媒吸収性に優れた厚膜の空隙吸収型の溶媒吸収層1601と、表層側のインク受容層を溶融膜化可能な空隙吸収型の顔料浸透層1600とを備える。顔料浸透層1600は、溶媒吸収層の空隙構造は顔料粒子よりも十分に小さな細孔により構成され、顔料浸透層の空隙構造は顔料粒子よりも十分に大きな空隙径により構成されている。基材50に面する位置にあるインク受容層は、インクの溶媒成分の吸収性に優れた厚膜の空隙吸収型の溶媒吸収層1601である。また、基材50から離れた位置、すなわち、溶媒吸収層1601に面する位置にあるインク受容層53は、溶融膜化可能な薄膜の空隙吸収型の顔料浸透層1600である。溶媒吸収層1601のインク吸収速度は、顔料浸透層のインク吸収速度より高く設定している。樹脂層は、顔料浸透層の表面に露出部を残すように、顔料浸透層の表面に熱可塑性樹脂が離散的に設けられたものである。さらに、基材50は、インク受容層53の支持体となるシート体によって構成されている。前記樹脂層は、前記顔料浸透層の表面に露出部を残すように、前記顔料浸透層の表面に熱可塑性樹脂を離散的に設けた。
【0037】
空隙吸収型のインク受容層では、空隙の毛細管現象によってインクを速やかに吸収するが、平均空隙径の大きさが小さくなるほどインク吸収速度が高くなる。また、インク吸収容量は空隙の容量の総和に応じて吸収するため、膜厚が大きいほどインク液体吸収容量が高くなる。従って、本実施形態におけるインクジェット記録媒体では、顔料浸透層1600の平均空隙径よりも溶媒吸収層1601の平均空隙径が小さくなるように構成すると共に、顔料浸透層1600の膜厚よりも溶媒吸収層1601の膜厚を大きくしている。
【0038】
また、本実施形態のインクジェット記録媒体1は、顔料インクで記録することを前提としているため、顔料浸透層1600の平均空隙径は顔料粒子の平均粒子径よりも十分に大きくなるように構成されている。また、溶媒吸収層1601の平均空隙径は顔料粒子の平均粒子径よりも小さくなるように構成されている。従って、前述のように、溶媒吸収層1601のインク吸収速度は顔料浸透層1600よりも格段に高くなる。
【0039】
従って、
図3(b)に示ように、顔料インク1003の顔料粒子は顔料浸透層1600の底部に吸収され、溶媒成分1607は、ほぼ全量が厚膜の溶媒吸収層1601に吸収される。すなわち、本実施形態の記録媒体では、顔料浸透層の空隙構造が顔料粒子よりも十分に大きな空隙径により構成されている。従って、顔料浸透層の毛細管力は比較的小さく、インク吸収速度はやや遅いが、流路抵抗は小さいので、
図3(a)に示すように、顔料浸透層の表面に記録された顔料インクは、顔料粒子も含めてスムーズに顔料浸透層内に浸透吸収される。
【0040】
一方、溶媒吸収層1601の空隙構造は、顔料粒子よりも十分に小さな細孔により構成されていることから、毛細管力が格段に大きく、インク吸収速度も格段に速い。但し、溶媒吸収層に形成される空隙は、顔料粒子よりも小さく流路抵抗も大きいため、顔料粒子は溶媒吸収層1601の表面に留まり、顔料インクの溶媒成分のみが溶媒吸収層1601内に高速で吸収される。すなわち、顔料インクは、溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600との界面で、固体である顔料粒子と液体である溶媒とに固液体分離される。顔料浸透層1600の表面から吸収浸透してきた顔料インクが溶媒吸収層1601の界面に到達すると、溶媒吸収層1601の格段に大きな毛細管力によって、顔料インクの溶媒成分が高速で吸収され始めるので、顔料浸透層内にある顔料インクの浸透速度も急速に早まる。従って、顔料浸透層1600の底部(溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600との界面)で顔料粒子が固液分離される際には、溶媒吸収層1601で高速に吸収される溶媒の流れによって顔料粒子が圧縮されながら薄膜で稠密に堆積し、顔料画像を形成する。このように、色材である顔料粒子が薄膜状に稠密に堆積した顔料画像は、光吸収特性に優れ、発色性に優れる。
【0041】
また、本実施形態では、顔料インクの主体をなす溶媒成分を溶媒吸収層1601で全て吸収できるように、溶媒吸収層1601を十分な厚さで形成し、大きな吸収容量を確保している。このため、顔料浸透層1600は、顔料粒子を全て収納できるだけの空隙容量があれば良く、薄層に構成することができる。従って、顔料浸透層1600の表面に着弾した顔料インクは、顔料浸透層1600内の空隙に吸収・浸透する際に、平面方向にも拡散するが、その浸透拡散幅は顔料浸透層の膜厚とほぼ同程度である。このため、厚膜の溶媒吸収層全体に亘って浸透拡散するインク受容層に較べて、本実施形態のインク受容層では、顔料浸透層における顔料インクの浸透拡散幅は軽微であり、形成される画像の解像度の劣化も大幅に軽減される。インクジェット記録方式では、隣接する顔料ドットが重なり合って各々の画素を埋めるように画像設計がなされている。従って、形成すべき顔料浸透層の膜厚は、所望の顔料ドットのにじみ量に合わせて調整すればよい。
【0042】
このように、本実施形態のインクジェット記録媒体では、インク受容層1601を少なくとも2層以上に形成して各層の界面で固液分離を行うと共に、溶媒吸収層1601の厚さを大きく設定し、溶媒成分を全て吸収可能な溶媒吸収容量を確保している。このため、インク受容層での画像にじみを懸念することなく顔料インクを高濃度かつ稠密に堆積させることが可能であり、顔料浸透層1600の底部に高濃度で高精細な顔料画像を形成することが可能になる。従って、高密度かつ高速でカラー画像などを記録しても、インク溢れが生じることがなく高濃度なカラー画像の形成が可能になる。また、顔料インクは、耐水性、耐光性および耐オゾン性等の耐候性に優れているが、前述のように、画像記録媒体の表面に形成された顔料画像は、一般的には顔料粒子相互の結合力が弱いため、耐擦過性の向上が必要である。本実施形態のインクジェット記録媒体1では、顔料粒子1600は、溶媒吸収層1601との界面で溶媒成分と固液分離して、顔料浸透層底部に薄膜状で稠密な顔料画像を形成するので、顔料浸透層自体が顔料画像の保護層となって耐擦過性を向上させることができる。
【0043】
さらに、インクジェット記録媒体の顔料浸透層1600は、好ましくは
図2(b)に示すように顔料画像を形成した後、
図2Cに示すようにヒートローラ21と加圧ローラ22とによって加熱圧着(加熱加圧)させることで、溶融膜化(
図2(d)参照)し得るよう構成されている。顔料浸透層1600を加熱圧着させる場合、顔料浸透層1600に付与された顔料インクが十分に顔料浸透層1600および溶媒受容層1601内に浸透し、顔料浸透層1600の表面に顔料インクが残留していないことが必要となる。本実施形態のインクジェット記録媒体では、インク受容層に付与されたインクが顔料浸透層1600と溶媒吸収層1601との界面に達すると、前述のように、溶媒吸収層1601による高速な溶媒成分の吸収が開始される。その結果、インクの粘度および表面張力により顔料浸透層の表面に残っている顔料インクも千切れることなく、高速で内部に浸透し始める。そのため、顔料浸透層への浸透初期において、顔料粒子を浸透透過させるための大きな空隙で、インク浸透がやや低速であっても、顔料インクの一部が溶媒吸収層に到達した後には、細孔による大きな毛細管力により、顔料インクの溶媒成分が高速に吸収され始めることから、顔料浸透層内にある後続の顔料インクも高速にインク浸透され始める。
【0044】
従って、本実施形態におけるインクジェット記録媒体では、顔料インクが顔料浸透層1600の表面に滞留する時間は極めて短く、付与されたインクの全てが短時間で内部に吸収・浸透する。従って、インクジェット記録直後であっても、特別な乾燥手段や乾燥時間を必要とせずに、顔料浸透層を溶融膜化のための加熱圧着処理を開始することが可能になる。すなわち、インクが付与された後、直ちに加熱圧着処理で顔料浸透層の空隙を除去したとしても、顔料インクの溶媒成分は既に溶媒吸収層1601に吸収されているため、溶媒成分が顔料浸透膜側へと染み出すことはない。従って、溶媒成分が染み出すことによって記録物の表面が汚れたり、画像劣化が生じたりすることはない。
【0045】
また、顔料浸透層1600を溶融膜化は、市販のラミネータ装置を加圧加熱手段として利用することができる。この際、顔料インクの溶媒成分がインクジェット記録媒体の表面側に染み出すと、ラミネータ装置に設けられている加熱ローラなどの表面に溶剤などが付着することとなる。しかし、本実施形態における記録媒体では、前述のように、表面へのインクの染み出しが生じることはないため、加圧ローラを汚れることもない。
【0046】
図2(b)に示すように、本実施形態のインクジェット記録媒体1では、顔料インクを用いて記録すると、顔料画像1606は顔料浸透層1600の底部界面に薄膜状に稠密に形成され、溶媒成分1607は溶媒吸収層1601内にほぼ全量が吸収される。
図2Cに示すように、ヒートローラ21および加圧ローラ22により加熱圧着することで、顔料浸透層1600は溶融膜化する。この際、溶媒吸収層1601の空隙構造が維持されているため、溶媒成分1607は溶媒吸収層1601から染み出すことなく内部に保持される。また、
図2(d)に示すように、顔料浸透層1600は、顔料画像1606を包み込むように溶融膜化して顔料保護膜1650を形成することができる。
【0047】
顔料保護膜1650は溶融膜化しているので、空隙構造を有する顔料浸透層1600に比べて強固な保護膜として顔料画像を保護することができる。すなわち、顔料保護膜1650を形成することにより、顔料画像において耐擦過性などの機械的強度が向上すると共に、記録物の表面側から、汚染ガスや汚染液体が侵入するのを防止することができ、顔料画像の保存性を向上させることができる。また、顔料画像は、顔料浸透層1600が溶融膜化した顔料保護膜1650の底部に、顔料粒子1606が包み込まれるように保持されるため、顔料画像は強固に保護される。さらに、顔料保護膜1650が、光学的透明かつ平坦に膜化すれば、ヘイズが低下し、表面グロス性が向上するため、顔料画像の画像視認性も向上する。
【0048】
また、顔料浸透層を、複数の層によって形成することも可能である。例えば、溶媒吸収層の表面に第1の顔料浸透層を形成し、さらにその第1の顔料浸透層の表面に第2の顔料浸透層を設けることにより、顔料浸透層を複層化(ここでは2層化)しても良い。第2の顔料浸透層は、第1の顔料浸透層の空隙径よりも大きな空隙径を有しており、いずれの顔料浸透層も溶融膜化可能な材料によって形成されている。なお、第2の顔料浸透層は、第1の顔料浸透層の膜厚よりも小さな膜厚となっていることが好ましい。
【0049】
第1の顔料浸透層の空隙径を第2の顔料浸透層の空隙径より小さいため、第1の顔料浸透層のインク吸収速度は、第2の顔料浸透層のインク吸収速度より高くなっている。第1の顔料浸透層のインク吸収速度をより高めることで、第2の顔料浸透層の空隙が吸収浸透した顔料インクを速やかに第1の顔料浸透層に吸収させることができる。
【0050】
またインクジェット記録媒体に対して加熱圧着することにより、第1、第2の顔料浸透層および樹脂層は溶融膜化して、透明化する。これにより、第1の顔料浸透層底部に記録された薄膜状の稠密な顔料画像は、溶融膜化した第1、第2の顔料浸透層、樹脂層によって覆われ、保護される。つまり、第1、第2の顔料浸透層、樹脂層は、顔料画像の保護膜として機能する。このように、溶融膜化した第1の顔料浸透層の表層側に、同様に溶融膜化した第2の顔料浸透層が追加されることにより、表面からのガス液体侵入防止や、耐擦過性などの機械的強度をより向上させることができる。
【0051】
また、上記第1、第2の顔料浸透層は、加熱圧着前には各顔料浸透層に空隙を形成し、加熱圧着後には溶融膜化して顔料画像を保護するように機能する樹脂微粒子を含む材料によって構成されている。しかし、この樹脂微粒子とは異なる特性の樹脂微粒子を用いて、別の機能を有する第2の保護膜を形成することもできる。例えば、軟化溶融膜化する際に、より平面性を向上させる樹脂を用いて表面グロス性に優れた画像記録物を得られるようにしたり、軟化溶融膜化した後により高い表面硬度が得られる樹脂を用いて機械的強度に優れた記録物を得られるようにしたりすることもできる。
【0052】
しかしながら、空隙の大きな顔料浸透層では、インク吸収速度が遅くなるため、第2の顔料浸透層の内部で、顔料粒子や水および溶媒成分が長い時間保持されやすい。このため、第2の顔料浸透層は、顔料浸透層内でインクが千切れない範囲で、薄膜にすることが好ましい。第2の顔料浸透層を厚膜にし過ぎると、顔料インクがにじみ過ぎて、画像にじみが発生したり、記録解像度が実質的に低下したりする場合がある。
図31(a)〜
図31(c)に示すように、複層化して厚膜となった顔料浸透層全体に顔料インクが浸透拡散することでドットは拡がる。この際、顔料インク浸透性が
図31(a)に示すように等方的であれば、複層化して厚膜となった顔料浸透層全体の厚みに相当する幅でドットが拡がってしまう(
図31(b)参照)。また、インク吸収速度が格段に速い溶媒吸収層に溶媒成分の一部が吸収され始めると、インク吸収速度の遅い第2の顔料浸透層1680内部で、顔料インク1690が途切れて(
図31(b)参照)、顔料粒子1606が分散して取り残されやすくなる場合がある(
図31(c)参照)。従って、第2の顔料浸透層1680は、顔料浸透層内でインクが千切れない範囲で厚く構成することが好ましく、顔料浸透層が薄膜の場合には、保護膜機能の強化にも制限がある場合がある。
【0053】
また、顔料画像は第1の顔料浸透層と溶媒吸収層の吸収層の界面に形成されているため、顔料画像は第1顔料浸透層と第2の顔料浸透層を介して視認することができる。
図33(a)は、インクを吸収するメカニズムについて示した図であって、インク受容層を拡大して示している。このとき、
図33(a)に示すように、第2の顔料浸透層1600の空隙を形成している樹脂粒子の下部の部分1700には顔料粒子1606が回り込めないため、この領域1704は記録できない非画像部となり、この非画像部はホワイトポイントとなる。このホワイトポイントが形成された場合、画像の濃度が低下して、高精彩な画像形成が困難になる場合がある。このような場合は、
図33(b)に示すように、多量の顔料インクを吐出して記録媒体への打ち込み量を高くして、顔料粒子1606を第1の顔料浸透層1680との界面まで積み上げる。このようにして、第2の顔料浸透層1600の高さ1702以上になるように顔料粒子を積み上げれば、ホワイトポイント1700が発生している樹脂粒子の上部1701にも顔料粒子が積み上げられるため、ホワイトポイントがなくなり、高濃度の画像形成が可能となる。なお、打ち込み量を多くした場合は、顔料インクの溶媒1607が顔料浸透層内で滞留しないように、打ち込まれた顔料インクの多量の溶媒成分がほぼ全量溶媒吸収層に速やかに吸収されるように、溶媒吸収層の厚み1703を厚くすればよい。
【0054】
また、空隙の大きな顔料浸透層は、溶融膜化する前は、機械的強度が脆くなりやすく、顔料画像記録時に粉落ちするなど搬送性に課題が生ずる場合もある。さらに、大きな空隙径を構成するためには、大粒径の樹脂微粒子を用いる必要がある。しかし、樹脂材料によっては大粒径の樹脂微粒子は、造粒しにくく樹脂材料自体が制限され、所望の保護膜機能を実現しにくい場合もある。
【0055】
また、記録媒体のインク受容層53に形成される画像を保護する目的で、加熱圧着により溶融可能であり且つ顔料インクを殆ど吸収しない熱可塑性樹脂1002を設けることも考えられる。但し、インク受容層53のうち、顔料粒子よりも小さい空隙を有する溶媒吸収層の表面に上記熱可塑性樹脂を設けると、形成される画像に色材を付着させることができない(記録できない)非画像部としてのホワイトポイント1608が発生することがある。
【0056】
図4は、溶媒吸収層1601の表面に、上記のような特性を有する熱可塑性樹脂1002を、顔料画像の追加的な保護膜として離散的に設けた例を示している。このインクジェット記録媒体では、溶媒吸収層1601が露出した部分1001で、顔料インク1003の顔料粒子1606が固液分離されることになり、インク受容層53内へは浸透しない。このため、離散的に配した非インク吸収性の熱可塑性樹脂1002の直下部のインク受容層53には顔料粒子1606が回り込めない領域1608が発生する。この領域1608が記録できない非画像部であるホワイトポイントとなり、このホワイトポイントが形成されることによって記録媒体中のエリアファクターが減少し、画像濃度の低下を招くこととなる。
【0057】
これに対して、本実施形態のインクジェット記録媒体1では、
図2(a)ないし2(d)に示すように、顔料浸透層1600の表面に、加熱圧着により溶融可能であり且つ顔料インクをほぼ吸収しない熱可塑性樹脂1002を、熱可塑性樹脂部1000として離散的に配置することで樹脂層1012を形成している。すなわち、顔料浸透層1600が直接露出した露出部1001を海状に残し、熱可塑性樹脂1000を複数の島状に形成している。このように、海島状に樹脂層1012を構成した場合、
図3(a)に示すように、樹脂層1012に着弾した顔料インク滴1003は、熱可塑性樹脂1002には吸収されず、顔料浸透層1600が露出した露出部1001に一部が垂れ落ちる。その結果、空隙構造でインク吸収速度の速い顔料浸透層1600の内部に顔料インクの滴1003の全てが速やかに引き込まれる。
【0058】
顔料浸透層1600の平均細孔径は、顔料インクの色材である顔料粒子径よりも大きいため、顔料粒子も顔料浸透層1600内に入り込むことが可能である。顔料インクは、顔料粒子よりも空隙が大きい顔料浸透層1600の内部へ速やかに浸透拡散するが、顔料粒子よりも空隙が小さい溶媒吸収層1601との界面で、顔料画像1606と溶媒成分1607とに固液分離される。
図3(a)に示すように、顔料浸透層1600内では、顔料インク1003は膜厚方向だけでなく、膜平面方向にも拡散浸透するため、
図3(b)に示すように、熱可塑性樹脂1002の直下にも顔料インクが回り込んで、非画像部となるホワイトポイントの発生を抑制しながら、顔料浸透層底部に顔料画像1606を形成することができる。すなわち、顔料浸透層1600の空隙吸収構造における毛細管効果により、顔料浸透層1600内に顔料インクが浸透拡散することで、顔料インクを殆ど吸収しない熱可塑性樹脂1002の直下にも顔料粒子1606が入り込むことが可能となる。このため、インクジェット記録媒体におけるエリアファクターを向上させることができる。
【0059】
顔料浸透層の内部に吸収浸透した顔料インクは、顔料浸透層の浸透異方性に応じて、膜厚方向及び水平方向に拡がりながら吸収される。顔料浸透層の浸透異方性は、インクジェット記録画像設計の根幹となるインクドットの拡がりを適切に制御できるように設計、製膜すればよい。すなわち、大きめのインクドットを必要とする場合は、膜厚方向の浸透性よりも水平方向の浸透性を高くする。逆に、小さめのインクドットを必要としてインクの吸収可能量を大きくする場合には、水平方向の浸透性よりも膜厚方向の浸透性を高めると共に顔料浸透層の膜厚を調整すればよい。
【0060】
また、浸透異方性を持たせずに、等方的に浸透させることで顔料浸透層の製膜生産性を向上させることも可能である。この場合、所望のインクドットの拡がりになるように顔料受浸透層全体の浸透拡散性を制御して、所望のインク吸収可能量に応じて、膜厚などで調整すればよい。顔料浸透層の顔料インク浸透性が等方的であれば、顔料浸透層の厚みにほぼ相当する幅でドットが拡がり、ホワイトポイントの発生を抑制することが可能になり、これによってエリアファクターを向上させることができる。
【0061】
樹脂層1012は、
図16(b)に示すように、顔料画像を形成した後、
図16(c)に示すように加熱圧着することで溶融膜化させることができる。顔料浸透層1600も同様に、加熱圧着によって溶融膜化するように構成し、
図16(d)に示すように、樹脂層1012と同時に溶融膜化させるようにしてもよい。
【0062】
また、
図29(a)に示すように顔料浸透層1600自体は溶融膜化させずに空隙構造を維持したままで、
図29(b)に示すように加熱圧着によって軟化溶融した熱可塑性樹脂1002を、顔料浸透層1600の空隙構造を埋めるように浸透させて顔料浸透層1600を膜化させてもよい(
図29(c))。前述のように、顔料インクの液体成分である溶媒成分1607は、殆ど全量が溶媒吸収層1601に吸収され、顔料浸透層1600には残留しない。そのため、画像を記録した直後に加熱圧着を行い、熱可塑性樹脂1002もしくは顔料浸透層1600自体も同時に溶融膜化して顔料浸透層1600の空隙を消滅させたとしても、溶媒吸収層1601の空隙が維持されていれば、溶媒成分が染み出すことはない。従って記録物や加熱ローラの表面が溶媒によって汚すことなく、速やかに熱可塑性樹脂1002や顔料浸透層1600の溶融膜化処理を行うことができる。
【0063】
本実施形態のインクジェット記録媒体では、顔料浸透層1600の空隙(
図16(a)参照)に生じる毛細管現象によって、顔料浸透層1600内に顔料インクが浸透拡散することから、熱可塑性樹脂1002直下にも顔料粒子1606が入り込む。このため、
図16(b)に示すように、顔料画像1606は顔料浸透層1600の底部界面に薄膜状に稠密に形成され、溶媒成分1607は溶媒吸収層1601内にほぼ全量が吸収される。
図16(c)に示すように、ヒートローラ21及び加圧ローラ22により加圧加熱することで、熱可塑性樹脂1002、もしくは顔料浸透層1600自体も同時に溶融することで、顔料浸透層1600は溶融膜化し、強固な強化顔料保護膜1651を形成する。この際、溶媒吸収層1601の空隙構造は維持されているため、溶媒成分1607は染み出すことなく保持される。
図16(d)に示すように、顔料浸透層1600は熱可塑性樹脂1002とともに、顔料画像1606を包み込むように溶融膜化して空隙構造を消滅させる。これにより、強化顔料保護膜1651が形成される。
【0064】
強化顔料保護膜1651は熱可塑性樹脂1002と合わせて溶融膜化しているので、顔料浸透層1600だけを溶融膜化した顔料保護膜1650に比べて、より厚膜で強固な保護膜として顔料画像を保護することができる。すなわち、擦過性など機械的強度がさらに向上すると共に、インクジェット画像記録物表面からの刺激光に対する顔料画像の耐光性がさらに向上する。また、顔料画像1606は、溶融膜化した強化顔料保護膜1651の底部に、顔料粒子が包み込まれるように保持されているので、顔料画像1606は強固に保持される。さらに、強化顔料保護膜1651が、光学的に透明であり、且つ平坦に膜化すれば、ヘイズが少なくなり、表面グロス性も向上するため、顔料画像1606の画像視認性も向上する。
【0065】
上記のように、本実施形態におけるインクジェット記録媒体では、薄膜の顔料浸透層1600の表面に、加熱圧着によって溶融可能な熱可塑性樹脂1002を、熱可塑性樹脂部1000として離散的に配置している。これにより、ホワイトポイントを発生させることなく、樹脂層1012を積層することができ、顔料インクを吸収しない熱可塑性樹脂を用いて樹脂層1012を形成することも可能である。従って、膜状もしくは粒子状などの様々な形状の熱可塑性樹脂を広く樹脂層1012として適用可能である。また、樹脂層1012は顔料インクを殆ど吸収しないため、画像のにじみや解像度の低下を発生させるおそれはないため、十分な厚さの保護膜を形成することができる。すなわち、顔料インクの浸透拡散が適切に制御された薄膜の顔料浸透層の表面に、顔料インクを吸収せず、かつ溶融可能な熱可塑性樹脂を離散的に配する場合、顔料インクの液滴径程度の厚さの樹脂層1012を設けても、顔料浸透層での吸収特性は十分に維持される。従って、顔料浸透層1600の底部に顔料画像を形成した後、加熱圧着を行うことで、顔料浸透層1600と十分な厚さの樹脂層1012を溶融膜化することで、長期保存性に優れた高品質、高精細な画像記録物が得られる。但し、インクを殆ど吸収しない熱可塑性樹脂上に着弾した顔料インクの液滴が、着弾衝撃により変形しても、液滴の一部が高速吸収性を有する顔料浸透層1600の表面に速やかに到達できないほどに、樹脂層1012を厚くすることは避ける必要がある。すなわち、インクジェット記録時の、顔料インクの液滴の大きさよりも、樹脂層1012を格段に厚くすることは、インクジェット記録媒体のインク吸収性を低下させるため、好ましくない。
【0066】
一方、海島状の樹脂層1012は、顔料インクの吸収性に囚われることなく、十分な厚さで構成することができるので、種々の樹脂材料を含有してもよい。例えば、樹脂層1012に、記録物の表面質感を改善する表面質感向上材を加えることで、インクジェット記録媒体および記録物における表面の質感を向上させることができる。例えば、記録物表面のベタツキや指紋残りなどを抑制することができる。また、同様に、樹脂層1012に、UV吸収剤、着色材、遮光材、発光材(蛍光燐光蓄光)などの光学的な機能向上材を加えて、さらなる機能強化を図ることもできる。
【0067】
本発明のインクジェット記録媒体では、
図32(a)〜
図32(d)に示すように、顔料画像を形成した後に加熱圧着処理を行うことで溶媒吸収層1601も溶融膜化するように構成することができる。すなわち、前記の顔料浸透層1600と同様に、加熱圧着によって溶融変形し易い樹脂微粒子をバインダー樹脂により結合することで、空隙が形成された空隙吸収型の溶媒吸収層1601として構成すれば良い。但し、前記の如く、顔料インクを用いてインクジェット記録を行った直後には、顔料インクの液体成分である溶媒成分1607は、殆ど全量が溶媒吸収層1601に吸収されている。そのため、溶媒吸収層1600の樹脂微粒子が軟化溶融して空隙構造が消滅しても、溶媒指浸透層1601からの溶媒成分の染み出しが生じないようにすることが望ましい。
【0068】
溶剤成分の染み出しを解消する方法としては、インクジェット記録を行った後に、溶媒吸収層1601が吸収した揮発性の溶媒成分を蒸発させるための時間を設定したり、溶媒成分を積極的に蒸発させたりするための、乾燥工程または乾燥装置などを設ければよい。顔料インクの溶媒成分の中で、主要な溶媒成分として水やアルコールなどの揮発性溶剤が用いられるのが一般的であり、溶媒吸収層1601に吸収された後でも十分に乾燥させることが可能である。但し、極少量の不揮発性溶剤を顔料インクの溶媒成分として用いる場合もある。そのため、加熱圧着によって、溶媒吸収層1601の空隙を形成している樹脂微粒子が軟化溶融して膜化しても、顔料インクに含まれる少量の不揮発性溶剤を保持できるように構成することが好ましい。
【0069】
図32(d)に示すように、軟化溶融して透明に膜化した溶媒吸収層1660は、顔料浸透層1600に形成された顔料画像1606の強固な保護膜としても機能する。このため、空隙構造を維持したままの溶媒吸収層に比べて、記録物の端面などから汚染液体や有害ガスなどが進入することによる汚染による劣化を防止することができるので、長期保存性をさらに向上させることができる。
【0070】
また、
図32(a)〜
図32(d)に示すように、インクジェット記録媒体の基材50が透明で、形成された反転画像1606(
図32(b))を、矢印1649に示す方向から(基材50側から)視認するように利用することも可能である。この場合は、顔料浸透層1600や樹脂層1012が画像の裏面の保護層となり、透明な基材50自体を顔料画像の厚膜の表面保護層として機能させることができる。この場合、
図32(c)に示すように加熱圧着によって溶媒吸収層1601が軟化溶融して膜化すると(
図32(d)参照)、溶媒吸収層1601の空隙や樹脂粒子界面で光が散乱することによって生ずる透明性の低下を抑制することができる。その結果、顔料浸透層1600の底部に稠密な薄膜状に形成された顔料画像の、溶媒吸収層1601側からの視認性を向上させることができる。
【0071】
また、顔料画像の裏面保護層となる樹脂層1012に、着色材や発光材(蛍光燐光蓄光)などの光学的な機能向上材1656を加えて、顔料画像の視認性の向上を行うなど、さらなる機能強化をすることもできる。
【0072】
また、
図5(c)に示すように、溶媒吸収層1601を複数の層に分けて積層することも可能である。この場合、各溶媒吸収層1601が、各空隙吸収型のインク受容層としての基本的な機能を有し、かつ各溶媒吸収層1601のインクの吸収速度が顔料浸透層1600側から基材50側に向かって順次大きくなるように構成してあればよい。また、インク吸収速度の最も大きい最下層の溶媒吸収層(最も基材50に近い溶媒吸収層)は、着弾した顔料インクのほぼ全ての溶媒成分が吸収されることでほぼ満杯になるので、最下層の溶媒吸収層には十分なインク吸収容量が必要である。
【0073】
本実施形態におけるインクジェット記録媒体では、
図10(a)〜
図10(d)に示すように、基材の裏面に、加熱圧着処理によって接着性を発現するヒートシール層1200を設けることができる。前述のように、顔料浸透層1600もしくは樹脂層1012は、加熱圧着処理によって、溶融膜化できるように構成することが可能である。顔料画像1606を顔料浸透層1600の底部に記録した後に、基材裏面のヒートシール層1200と、表層の顔料浸透層1600もしくは樹脂層1012とを、インクジェット画像記録物の表裏のヒートシール層として利用することが可能である。このため、インクジェット記録媒体を、包装シートなどにも活用することができる。すなはち、内容物を収容した被包装物を本実施形態におけるインクジェット画像記録物で包装すれば、包装材料として利用することもできる。
【0074】
以上のように、本実施形態のインクジェット記録媒体は、耐水性、耐光性および耐オゾン性など耐候性に優れた顔料インクで記録した場合に課題となっていた、画像の耐擦過性の低下や画像品質の低下(濃度低下や画像にじみの発生)を解決することができる。すなわち、本実施形態におけるインクジェット記録媒体によれば、耐擦過性に優れた画像を記録することができると共に、画像の濃度低下や画像にじみを抑えて高精細・高濃度の画像を形成することが可能になる。
【0075】
また、本実施形態におけるインクジェット記録媒体は、高いレベルでの画像の耐久性が要求されるサイン&ディスプレイやグラフィックアーツなどの分野の店頭POPや店頭プライス等の屋内あるいは屋外の広告用途において得に有効である。すなわち、従来は、顔料インクで記録した記録物に、ラミネートフィルムを位置合わせして、空気抜き処理を行いながら貼り合せる工程や、端面を切り落とす工程などの特別な前処理および後処理が必要であった。これに対し、本実施形態のインクジェット記録媒体を用いる場合には、記録物を直接ラミネータ装置で加熱圧着するだけで強固な保護膜を形成できるので、簡易な工程で保存性に優れたインクジェット記録物を作成することでできる。さらに、基材、インク受容層としての溶媒吸収層と顔料浸透層、海島状の樹脂層の各々を、顔料インクの受容や吸収などのインクジェット記録時の基本的な機能と、顔料画像を形成した記録物の保存性向上や視認性向上など溶融膜化後に活用するための機能とを、明確に分離させて構成している。このため、用途に応じて、各々の層に付加的な機能を加える機能付加設計を容易に行うことができる。
【0076】
また、
図5(a)、5(b)に示すように、各層の間のいずれかの界面に、各々の層の材質・製膜方法などを考慮して、層同士の密着性を向上させるための密着層1603を設けてもよい。これによれば、各々の不用意な層間剥離を防止することが可能になる。但し、密着層1603は、層間で顔料インクの毛細管浸透が必要な場合は、毛細管現象による顔料インクの移動を妨げないように親水性を考慮した材料などを用いて極薄膜状に構成する必要がある。
【0077】
また、インクジェット記録媒体1は、用途に応じて、基材50と溶媒吸収層1601を介してあるいは顔料浸透層を介して画像を視認することも可能である。例えば、基材50と溶媒吸収層1601を介して画像を視認する場合は、記録媒体1に反転画像を記録する。この場合、基材50と溶媒吸収層1601は、顔料浸透層1600の底部に記録された顔料画像を、厚膜の溶媒吸収層1601と強度に優れた厚い基材50とで覆うこととなるため、これらが顔料画像の強固な保護層としても作用する。但し、基材50と溶媒吸収層1601は、光学的な透明性が必要となる。特に、溶媒吸収層1601においては、インク吸収速度が高く、かつ光学的にも透明性に優れるようにすることが好ましい。そのためには、溶媒吸収層1601の空隙構造が可視光の波長よりも格段に小さくなる平均細孔径とすると共に、十分なインク吸収容量を得る細孔容積を確保し得る厚膜にすればよい。あるいは、溶媒吸収層を加圧加熱によって溶融膜化可能な材料で構成しておき、顔料画像形成後、溶媒吸収層に吸収した溶媒成分を十分に乾燥させた上で、顔料浸透層1600や樹脂層1012と共に溶融膜化して透明化しても良い。
【0078】
逆に、顔料浸透層1600を介して画像を視認する場合は、インクジェット記録媒体に正像画像を記録する。このような場合、前述したように、顔料浸透層1600が顔料浸透層1600底部に記録された顔料画像の保護層となる。このとき、基材50と溶媒吸収層1601は、光学的な透明性を低くするため、不透明あるいは白色に形成することが望ましい。特に溶媒吸収層1601は、空隙構造が可視光の波長と同等または大きい平均細孔径を用いればよい。あるいは、白色隠蔽層、蛍光燐光蓄光発光層としての光学的な機能層を基材50と溶媒吸収層1601との間に設けてもよい。
【0079】
また、本実施形態の記録媒体1は、
図34(a)に示すように、基材50の裏面に粘着層1900および剥離シート1901を設けてもよい。
図34(b)に示すように、顔料画像を形成後に、加熱圧着処理(
図34(c))によって顔料浸透層および樹脂層は溶融膜化し (
図34(d))する。その後、剥離シートを剥がして(
図34(e))、粘着層と画像支持体を張り合わせる(
図34(f))。これによって、様々な画像支持体に記録後の記録媒体(記録物)を貼付することができる。なお、本例において、加熱圧着(
図34(c))により顔料浸透層および樹脂層を溶融膜化させた場合、ヒートローラ21により加熱された熱は顔料浸透層1600、溶媒吸収層1601、基材50を介して粘着層1900に伝わる。このとき、加圧ロール21、22による剥離シート1901と基材50との間の粘着層1900に対するせん断力が、剥離シート1901と基材50との間の粘着力を超えないように、粘着層の粘着剤が溶融しない範囲で加熱を行う。これによれば、加熱圧着処理における加熱によっても粘着層の温度を低く保つことができるため、粘着層1900の熱による劣化を少なくすることができ、良好な粘着性を保つことができる。本例におけるインクジェット記録媒体は、ラベル用途で用いる場合や、サイン&ディスプレイ用途で本実施形態におけるインクジェット記録媒体を画像支持体に貼り付けて使用する場合などに有効である。
【0080】
以下、本実施形態におけるインクジェット記録媒体1の各構成要素について、より具体的に説明する。
【0081】
1.2 基材
基材50は、インクジェット記録画像を形成する画像記録時において、インクジェット記録媒体1のカールを抑制し、搬送性を良好にする搬送層としての機能を有する。また、基材50の搬送性をさらに向上すべく、滑り性などを改善するための公知の搬送補助層を裏面側に設けてもよい。また、基材50の表面には密着層1603(
図5(a)ないし5(d)参照)などを付与してもよい。このとき密着層1603に前画像層などの機能層など他の機能を付与してもよい。また、顔料浸透層1600と熱接着を可能にするヒートシール層などを設けてもよい。さらには、基材の裏面に、
図34(a)ないし
図34(f)に示すように、粘着層と剥離シートなどを設けてもよい。
【0082】
また、基材50はグラビア記録やレーザー加工などの汎用的な描画手段で、予め有色画像やホログラム画像などの前画像層を設けておくことも可能である。さらに、基材50は、透明なもの、不透明なもの、有色なものなどを適宜選択して用いることが可能であり、顔料画像を視認する方向および用途に適したものを選択すればよい。なお、透明な基材50の一部分にのみ、前画像層として白色記録を施して部分白色層を設けてもよい。部分白色層は、包装材料の中でも薬包や分包用途などに好適である。すなわち、部分白色層により、部分白色層の上部に形成されたカラー画像の視認性が向上する。また、白色層のない部分は、透明のフィルムとなるため、包装された内容物の視認、確認も行うことができ、薬の飲み間違えも防止できる。
【0083】
インクジェット記録媒体における基材50は、機械的強度や耐水層としての物理的な裏面保護膜やUV・オゾン保護層としての保護機能を有することも可能であるが、さらに、白色隠蔽層、蛍光燐光蓄光発光層としての光学的な機能層として活用することも可能である。
【0084】
1.2.1 基材の材料
本発明のインクジェット記録媒体は、サイン&ディスプレイの分野や、グラフィックアートの分野等の業務用あるいは産業用途での使用に加え、写真記録、名刺、はがき等の個人向け記録用途等、様々な用途に使用することができる。このような用途において、高速で画像記録を行う場合、および大判での画像記録を行う場合などには、ロール状の記録媒体を用いることが望ましい。基材50の厚みは、好ましくは5μm以上、100μm以下、より好ましくは15μm以上50μm以下とすることにより、インクジェット記録媒体の搬送性を向上させることができる。
【0085】
逆に、カットシートやプレート状のインクジェット記録媒体のための基材50は、耐カール性や給紙性能などから、機械的強度や固さに優れている厚い基材50を搬送層として用いるのが好ましく、基材50の厚みは30μm以上300μ以下、より好ましくは50μm以上150μ以下とすればよい。但し、基材50の厚みは、搬送性や材料強度を考慮して適宜決定すればよく、特に限定されない。要は、用途に応じて、良好な搬送性を維持できればよい。
【0086】
機械的特性と熱的特性から、好ましい基材50の材料としてはポリエチレンテレフタレート(PET)の場合が多いが、基材50を構成する樹脂は、インクジェット記録媒体の用途に応じて適宜選択すればよく、以下の様々な材質のものを用いることができる。
【0087】
例えば、基材50を構成する樹脂フィルムの材料としては、・ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等のポリエステル樹脂;・ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂;・ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ4フッ化エチレン、エチレン−4フッ化エチレン共重合体等のポリフッ化エチレン系樹脂;・ナイロン6、ナイロン6,6等の脂肪族ポリアミド樹脂;・ポリ塩化ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ビニロン等のビニル重合体樹脂;・三酢酸セルロース、セロハン等のセルロース系樹脂;・ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系樹脂;・ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリイミド等の、その他の合成樹脂、例えば、ポリアミド系樹脂;が挙げられ、市販品としては東レ株式会社製のミクロトロン等が挙げられる。
【0088】
樹脂フィルムは、1種を単独で用いること、または2種以上を複合あるいは積層して用いることができる。その他、ガラス、金属板、木材などを用いることも可能である。また、樹脂の中にシリカやアルミナ、グラファイト等のフィラーを添加し、熱伝導性を高めたものを用いてもよい。フィラーとしては上記以外にも公知のものを用いることができる。
【0089】
以上の材料の中でも、高速記録を想定すれば、ポリアミド系樹脂は熱伝導率が高く、強度、寸法安定性などに優れるため、好ましく用いることができる。例えば市販品としては東レ株式会社製のミクロトロン(商品名)等を用いることが好ましい。また、低速記録を想定すれば、安価であり、かつ強度、寸法安定性に優れたポリエチレンテレフタレート等を用いることが好ましい。
【0090】
また、基材50として、紙をベースとしたものを用いてもよい。なお、紙の種類も特に限定されない。例えば、紙ベースの材料としては、コンデンサーペーパー、グラシン紙、硫酸紙、サイズ度の高い紙、合成紙(ポリオレフィン系、ポリスチレン系)、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、壁紙、裏打用紙、合成樹脂またはエマルジョン含浸紙、合成ゴムラテックス含浸紙、合成樹脂内添紙、板紙、セルロース繊維紙などが挙げられる。その他、基材50として、合成ゴムシートに薄板状の磁性体を含有したマグネットシートを用いてもよい、マグネットシートを基材に用いることで、インクジェット記録媒体は、金属製の冷蔵庫等、厨房に設置のものに容易に付けることができる。
【0091】
また、本発明のインクジェット記録媒体を、各種ギフトや医薬品等のパッケージ包装や薬等の分包、PTP包装、ブリスターパック等の包装フィルムとして用いることもできる。このような場合は、基材50のインク受容層1601に接する面とは反対の面にヒートシール層を用いてもよい。包装フィルムとして用いる場合は、前述した基材50のなかでも、ポリプロピレン系樹脂からなる樹脂フィルムを基材50として用いることが好ましい。包装フィルムにおいては、開封時の裂け目部分においてインク受容層に発生するバリ、基材50からのインク受容層53の剥がれ落ち、折り曲げによるインク受容層の割れ、および基材50からのインク受容層の剥がれ落ち、などを防止することが望ましい。この観点から、特にポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、インク受容層に含まれる水溶性樹脂と親和性が高く、基材50とインク受容層との接着性をさらに高めることができる。ポリプロピレン系樹脂としては、結晶性ポリプロピレン(ホモポリプロピレン)の他、エチレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン等を共重合したコポリマーやターポリマーであっても、ある程度の剛性を確保できるものであれば使用することができる。
【0092】
また、基材50の透明性は特に限定されず、画像を視認する方向や用途に応じて適宜選択することができる。例えば、顔料浸透層底部に稠密な薄膜状に形成された顔料画像を、顔料浸透層1600側から視認する場合は、基材50に、可視光を散乱し易い大粒径の金属または樹脂の微粒子や中空の樹脂微粒子などの白色顔料を含有させることで、基材を背景隠蔽層として機能させるようにしてもよい。さらには、基材に蛍光体微粒子などの発光粒子を付加することで、蛍光燐光蓄光発光層として活用し、さらなる画像視認性の向上を図ることも可能である。このように溶媒吸収層や基材に背景隠蔽層としての機能を持たせる場合、溶媒吸収層には透明性を要求されないため、溶媒吸収層の本来の機能である顔料インクの溶媒成分の高速吸収性・大容量吸収性など、液体の吸収特性に特化した設計をすることが可能になる。従って、溶媒吸収層や基材に背景隠蔽層としての機能を持たせる場合には、本発明のインクジェット記録媒体の基本的な機能であるインク吸収性をさらに高めることが可能になり、より高精細・高画質で視認性に優れた画像を形成することができる。一方、例えば、顔料浸透層底部に稠密な薄膜状に形成された顔料画像を、基材側から視認する場合は、透明性の高い基材を用いればよい。このような場合は、溶媒吸収層にも透明性を要求されるため、溶媒吸収層1601が軟化溶融して膜化するなどして、溶媒吸収層1601の空隙や樹脂粒子の界面による光散乱によって生ずる透明性の低下を回避するようにすればよい。
【0093】
1.2.2 前記録層
また、記録物の意匠性を向上させるために、基材50には、画像が記録された前記録層を設けてもよい。基材50上に補助的な画像(プレプリント)を施してもよい。また、基材の一部に白色記録を施して部分白色層を形成してもよい。部分白色層を予め基材50に付与することにより、部分白色層の上部に形成されたカラー画像の視認性を向上することができる。前記録層は、グラビア印刷など公知の印刷方法で基材上に予め印刷しておいてもよい。また、ホログラム層などレーザー描画など公知の光学的付加画像層を基材上に付加しておいてもよい。
【0094】
1.2.3 粘着層と剥離シート
本実施形態の記録媒体1をサイン&ディスプレイやラベル等の用途で画像支持体に貼付して使用する場合、
図34(a)に示すように、基材50の裏面に粘着層1900および剥離シート1901を設けてもよい。
図34(b)に示すように、顔料画像を形成した後(b)に、加熱圧着処理(
図34(c))によって顔料浸透層1600を溶融膜化する加熱圧着処理(
図34(d))後、剥離シートを剥がして(
図34(e))、粘着層と画像支持体を張り合わせる(
図34(f))ことによって、様々な画像支持体に貼付することができる。上記粘着層を構成する粘着材の材料としては、特に限定されず、常温で短時間、わずかな圧力を加えるだけで画像支持体に接着可能なものが好ましく使用できる。また、剥離シートは、基材上に離型剤をコーティングしたものが使用できる。剥離シート901の基材としては、上述したインクジェット記録媒体の基材と同様のものが使用できる。一方、離型剤としては、シリコーンワックスなどのワックス類に代表されるシリコーンワックス、シリコーン樹脂などのシリコーン系材料;フッ素樹脂などのフッ素系材料;、ポリエチレン樹脂等、が挙げられる。
【0095】
1.2.4 ヒートシール層
本実施形態の記録媒体1を包装材料として用いる場合、基材50はその基材50の片面あるいは両面にヒートシール層を備えていてもよい。
図6に示すように、基材50にヒートシール層を備えた構成を挙げることができる。基材50には、インク吸収層53側の面とは反対の面(
図6中の下面)に、接着性に優れたヒートシール層1200(1)が備えられている。基材50と溶媒吸収層1601との間のヒートシール層1200(2)は、必ずしも備える必要はないが、ヒートシール層1200(2)は密着層1603として作用する。記録媒体1は、このような基材50上に空隙吸収型の溶媒吸収層1601を設け、その溶媒吸収層1601の表面に、顔料浸透層1600を設けることにより構成される。
【0096】
上記の記録媒体1を折り返すことにより、顔料浸透層1600を介して、ヒートシール層1201(1)と接着することができる。例えば、
図6(b)のように、顔料浸透層1600にヒートシール層1200(1)が接着可能、あるいは
図6(c)にように、顔料浸透層1600に他の顔料浸透層1600が接着可能である。もしくは、
図6(d)のように、ヒートシール層1200(1)に他のヒートシール層1200(1)が接着可能である。また、顔料浸透層の表面に設けた樹脂層1012を表側のヒートシール層とし、裏側のヒートシール層と合わせて表裏のヒートシール層として活用してもよい。
【0097】
ヒートシール層を構成するヒートシール性樹脂材料としては、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の少なくとも一方であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂としては、HDPE、LDPE、L・LDPEを挙げることができる。一方、ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン−α−オレフィン共重合体、及びこれらの混合物を挙げることができる。このとき、ヒートシール性、フィルムの透明性、及び耐傷付き性等を勘案すると、α−オレフィンに由来する構成単位の含有率が3〜50モル%のものが好適である。樹脂は、ランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれでもよいが、ランダム共重合体が好ましい。上記のα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン等の炭素数2〜10のものを挙げることができる。これらのα−オレフィンは、2種以上を用いてもよい。
【0098】
以上のヒートシール性樹脂材料のなかでも、プロピレン系樹脂は比較的低温度で接着可能であるために好ましい。また、ヒートシール性樹脂材料は、基材を形成し得るポリプロピレン系樹脂等よりも融点が低いことが好ましい。このような材料としては、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン−1共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体を金属イオンにより架橋したアイオノマー、ポリブテン−1、ブテン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・ペンテン共重合体などの中の2種以上の混合物、およびポリプロピレンと前記の混合物が好ましい。なお、目的・用途に応じた接着性が得られるものであれば何ら制限を受けるものではない。
【0099】
上記構成を有する記録媒体1は、箱体を包装する包装材などの用途において好ましく使用することができる。包装材として使用する場合、基材50は、インクジェット記録後の画像の保護層としての機能に加え、箱体を包装して包装体を製造する場合に箱体を保護する保護層としても機能する。基材50と溶媒吸収層1601との間にもヒートシール層1200(2)を備えてもよい。この場合、ヒートシール層1200(2)の構成材料と顔料浸透層1600や溶媒吸収層1601の水溶性樹脂との親和性が高いため顔料浸透層1600や溶媒吸収層1601との接着性を向上させることが可能になる。このため、包装材として用いた場合の耐折り曲げ性を向上させることができる。
【0100】
1.2.4.1 包装体としての使用例
ここで、本実施形態における記録媒体を包装体として使用した例を
図7(a)ないし11(c)に示す。
【0101】
(キャラメル包装)
図7(a)は、包装体の一例を模式的に示す斜視図である。
図7(a)の包装体2100は、記録媒体1によって被包装物をキャラメル包装したものである。包装体2100の表面は、顔料浸透層1600であってもヒートシール層1200(1)のいずれであってもよく、用途に応じて使い分けることができる。重なり部2200および2300は、顔料浸透層1600とヒートシール層1200(1)とが接着される部分である。顔料浸透層1600とヒートシール層1200(1)との重なり部2200および2300を加熱圧着して、それらを接着することにより包装体2100が作製される。
【0102】
図7(b)は、包装体2100の作製例の説明図、
図7(c)は、包装体2100の他の作製例の説明図である。
図7(b)に示す包装体2100場合には、包装体2100の表面に顔料浸透層1600が位置する。そのため、包装体2100を作製した後に、その表面に画像を記録することができる。また、
図7(c)の場合には、包装体2100の表面にヒートシール層1200(1)が位置する。そのため、包装体2100を形成する前に画像を記録することができる。包装体2100を形成する過程において、
図7(b)における重なり部3700では顔料浸透層1600同士が接し、
図7(c)における重なり部3800ではヒートシール層1200(1)同士が接する。このように、基材50の片方の面にヒートシール層1200(1)を設けることにより、ヒートシール層1200(1)同士を接着することができる。
【0103】
以上のように、
図7(a)における包装体2100では、重なり部2200および2300において良好な接着状態が得られるため、接着不良によって重なり部に発生する浮きを防止することができる。
【0104】
また、
図7(b)に示す包装体では、三角状の重なり部3700において顔料浸透層1600同士が接するため、それらの顔料浸透層1600同士を相互に熱接着させることができる。そのため、その後における折り返し台形部分などの熱接着(顔料浸透層1600とヒートシール層1200との熱接着、およびヒートシール層1200同士の熱接着)を正確に実施することが可能になり、包装体を折り目正しく安定的に作製することができる。
【0105】
さらに、
図7(c)に示す包装体では、三角状の重なり部3800においてヒートシール層1200同士が接するため、それらのヒートシール層1200を相互に熱接着させることができる。そのため、その後における折り返し台形部分などの熱接着(ヒートシール層1200と顔料浸透層1600との熱接着、および顔料浸透層1600同士の熱接着)を正確に実施することが可能になり、包装体を折り目正しく安定的に作製することができる。
【0106】
(合掌貼り)
図8は、包装体2110の他の例を模式的に示す上面図である。本例の包装体2110は、袋タイプの包装体である。袋タイプの包装体2110は、顔料浸透層が内面に位置し、かつヒートシール層1200(1)が外面に位置するように、インクジェット記録媒体を折り部2900にて折り返す。そして、顔料浸透層1600同士が重なった重なり部2700を加熱圧着(合掌貼り)することによって、顔料浸透層1600同士を接着させて、包装体2110を作製する。この場合、記録媒体1のインクジェット記録面、すなわち、包装体2110の内面に位置する顔料浸透層1600には反転画像を記録する。また、インクジェット記録媒体のインクジェット記録面と内容物との接触に起因する記録面の剥がれ、およびインク受容層53の脱離(粉落ち)を抑制するために、インクジェット記録後には、顔料浸透層1600の表面の全てを溶融膜化することによって保護することが好ましい。
【0107】
なお、内容物が粉体2800などである場合は、記録面の剥がれ、およびインク受容層53の脱離(粉落ち)をより確実に抑制することが必要となる。このような場合には、ヒートシール面1200(1)が内側に位置し、かつ、顔料浸透層1600が外側に位置するように、インクジェット記録媒体を折り部2900にて折り返す。また、ヒートシール層1200(1)同士が重なる重なり部2700を加熱圧着(合掌貼り)して、包装体2110を作製してもよい。この場合は、包装体2110を作製後、外面側の顔料浸透層1600に正像画像72を記録する。その正面画像72の記録方式として、非接触で画像を記録可能なインクジェット方式を採用することにより、熱による内容物へのダメージを低減することができる。また、熱転写方式とは異なり、内容物(紛体2800)を封入後に画像が記録できるため、画像の種類、記録位置などを自由に選択することができ、好ましい。なお、擦れによる記録面の剥がれを抑制するために、熱による内容物へのダメージが生じない範囲において記録面を熱処理することによって顔料浸透層1600を溶融膜化させることにより、記録した画像を保護膜によって保護することができる。
【0108】
1.3 溶媒吸収層
本実施形態におけるインクジェット記録媒体1における溶媒吸収層1601は、インクジェット記録方式によって付与される顔料インクの水成分と溶媒成分を受容吸収する層である。
図6(a)で説明したように、薄膜の顔料浸透層1600に浸透・拡散した顔料インク1003は、溶媒吸収層1601との界面に速やかに到達する。て顔料浸透層1600の平均細孔径は顔料粒子に比べて大きく構成されているので、顔料インクは顔料も含めて薄膜の顔料浸透層1600内に浸透拡散する。但し、顔料粒子1606に比べて平均細孔径の小さな溶媒吸収層1601内へは顔料粒子は浸透できず、顔料浸透層1600側の界面に稠密で薄膜状の顔料画像が形成される。また、顔料浸透層1600内に浸透した溶媒成分1607は、インク吸収速度が顔料浸透層1600よりも高くなるように構成された溶媒吸収層1601に吸収される。その結果、溶媒成分1607は顔料浸透層1600側には殆ど残ることはなく、ほぼ全量が厚膜の溶媒吸収層1601に吸収される(
図6(b)参照)。このように、溶媒成分1607の全てを速やかに溶媒吸収層1601に吸収させるようにするため、溶媒吸収層1601としては、格段に早いインク吸収速度と、十分な吸収容量を有する空隙吸収型の厚膜の溶媒吸収層1601を用いることが好ましい。溶媒吸収層1601は、顔料粒子よりも小さな空隙を構成すればよい。例えば、空隙構造を可視光波長(380nm〜780nm程度)よりも十分に小さな微粒子とバインダーとで形成する場合、可視光波長よりも十分に小さな微粒子を用いて構成することが可能である。これによれば、空隙構造と微粒子表面での可視光散乱によるヘイズ劣化を抑制可能となり、優れた画像視認性を得ることができる。また、
図5(c)に示したように、溶媒吸収層1601の透明性を向上させつつ、かつインクの吸収容量も向上させるために、溶媒吸収層を複数の層1601に分け形成することも可能である。この場合、複数の溶媒吸収層1601の間に密着層1603を介在させることも有効である。このように複数層で溶媒吸収層を形成する場合には、各溶媒吸収層が空隙吸収型のインク受容層としての基本的な機能を有し、かつ複数の溶媒吸収層それぞれのインクの吸収速度が基材50側に向かって順次大きくなるように構成することが好ましい。
【0109】
空隙吸収型のインク受容層は、細孔構造による毛細管現象によって、顔料インクを速やかに吸収するための空隙を有していればよい。例えば、珪藻土、スポンジ、マイクロファイバー、吸水性ポリマー、樹脂微粒子と水溶性樹脂で構成されたもの、無機微粒子と水溶性樹脂から構成されたもの等が挙げられる。空隙吸収型の溶媒吸収層1601としては、無機微粒子と水溶性樹脂とを含有させて、微細な空隙構造にインクを受容する構成とすることが好ましい。無機微粒子と水溶性樹脂とにより構成される空隙吸収型のインク受容層は、粒子を樹脂で結合させた隙間に、インクを吸収するための空隙が形成され、その空隙に多量のインクを吸収することができる。また、水溶性樹脂によって結着された無機微粒子間の空隙が、インク受容層内の全域にほぼ均一に配置されることによって、インクをほぼ等方的に浸透させることができる。
【0110】
空隙吸収型のインク受容層では、顔料浸透層1600を溶融膜化するための加熱圧着時に、インク受容層の空隙構造が壊れると、インクの液体成分が顔料浸透へ染み出すことがある。また、インクの液体成分が突沸して溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600との間に空気層などが発生した場合には、顔料浸透層1600の溶融膜化が阻害される場合がある。しかし、無機微粒子を水溶性樹脂のバインダーで結合させることによって空隙が設けられたインク受容層は、無機微粒子が非常に硬い材質であるため、圧力や熱によっても空隙構造が壊れにくく、加熱圧着後も空隙構造をほぼ保持することが可能である。また、加熱圧着時の熱によっても空隙構造が維持されていれば、インクの液体成分が個々の空隙内で突沸して蒸気が発生したとしても、発生した蒸気を各々の空隙内に封じ込めることができるため、接着面に空気層が形成されるのを抑制することができ、顔料浸透層1600の溶融膜化を適正に行うことができる。このため、インクの主要溶媒である水や不揮発性溶剤の表面への染み出しは抑制され、顔料インクによるインクジェット記録直後であっても、溶媒の顔料浸透層1600への逆流を減少させることができる。従って、溶媒吸収層内に吸収された溶媒の乾燥を待たずに、速やかに画像支持体への加熱圧着工程を行うことが可能になる。その結果、溶媒成分を乾燥させるための膨大なエネルギーや時間が削減され、簡易な工程で効率的に顔料浸透層および樹脂層の溶融膜化を実現することができる。また、無機微粒子と水溶性樹脂より構成される空隙吸収型のインク受容層は、特別な配向処理がなくても作製できるため、生産性も良好である。
【0111】
本発明者らの検討によれば、無機微粒子および水溶性樹脂によって構成される空隙吸収型の溶媒吸収層1601の空隙容量は、0.1cm3/g〜約3.0cm3/g程度であった。細孔容積が0.1cm3/g未満の場合には、十分なインク吸収性能が得られず、インクが溢れて、顔料浸透層1600に未吸収のインク溶媒が残存するおそれがある。また、細孔容積が3.0cm3/gを超える場合には、溶媒吸収層1601の強度が弱くなり、溶媒吸収層1601内にクラックや粉落ちが生じ易くなる。無機微粒子および水溶性樹脂で構成される空隙吸収型の溶媒吸収層1601において、上記の空隙容量を有する場合、インク受容層の空隙率は60%〜90%程度であった。溶媒吸収層1601の空隙率が60%以下の場合には、十分なインク吸収容量が得られず、インクが溢れて、顔料浸透層1600に未吸収のインク溶媒が残存してしまう場合があった。また、空隙率が90%を超える場合には、溶媒吸収層1601の強度が弱くなり、溶媒吸収層1601内にクラックや粉落ち、が生じ易くなるおそれがある。
【0112】
また、本発明者らの検討によれば、無機微粒子および水溶性樹脂によって構成される空隙吸収型の溶媒吸収層1601の細孔直径の平均(平均細孔直径)は、5nm〜100nmの程度であった。平均細孔直径が5nm未満の場合には、十分なインク吸収容量が得られず、インクが溢れて、顔料浸透層1600に未吸収のインク溶媒が残存するおそれがある。また、平均細孔直径が100nm以上の場合には、顔料粒子が顔料浸透層1600との界面で十分に固液分離できずに溶媒吸収層1601内部にも浸透拡散してしまうことにより、画像の発色性や解像性が不十分となり、また、溶媒吸収層1601の強度が弱くなることでクラックや粉落ちが生じ易くなるおそれがある。無機微粒子としては、一次粒子径が5nm〜100nm、凝集した二次粒子径として20nm〜500nm程度のものを用いて良好な空隙構造が得られた。さらに良好で安定したインク溶媒吸収性と顔料固液分離性、および光学的により高い透明性を得るためには、好ましくは、一次粒子径が10nm〜40nm、凝集した二次粒子径が50nm〜200nmとなる無機微粒子を用いればよい。一般に、顔料粒子の平均粒子径は、40nm〜110nm程度であるので、小粒径の顔料粒子を用いた顔料インクを用いる場合には、好ましくは、溶媒吸収層1601の平均細孔直径が10nm〜40nmとなるように調整すればよい。また、溶媒吸収層1601は、その厚みが10μm〜50μmであるときに良好なインク溶媒吸収性を示した。しかし、視認性が高く高濃度で高精彩の画像記録が必要になる場合には、溶媒吸収層1601の厚みを15μm〜30μmとなるように調整することが好ましい。
【0113】
本発明において、空隙容量、空隙率、および空隙の細孔直径は、BET法により算出できる。「BET法」とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、細孔容積は、窒素脱着等温線よりBJH法によって計算される細孔半径0.7〜100nmに基づいて定められる。また、平均細孔半径とは、窒素脱着等温線よりBJH法によって求められた累積細孔容積分布曲線において、細孔半径0.7〜100nmに対応する細孔容積の累積値の1/2に対応する半径である。本発明において、平均細孔直径とは平均細孔半径を2倍することにより算出した値である。空隙率は、細孔容積の全細孔容積に対する割合である。吸着気体としては、通常、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表す方法としてはBET法(Brunauer、Emmett、Tellerの式)が知られており、比表面積決定に広く用いられている。
【0114】
空隙吸収型のインク受容層における溶媒吸収層1601を、無機微粒子以外の樹脂粒子を用いて形成することも可能である。例えば、加熱圧着時に溶融変形しにくいように、加熱圧着温度が顔料浸透層1600を構成する樹脂粒子、および樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の溶融膜化温度Tgよりも高い樹脂微粒子を用い、その樹脂微粒子をバインダー樹脂により結合することによって、空隙が形成された溶媒吸収層を形成することも可能である。樹脂微粒子の中でも溶融膜化温度Tgが加熱圧着温度よりも高い樹脂微粒子を用いて空隙構造を形成すれば、加熱圧着時の熱によっても粒子構造が維持されるため、加熱圧着時の熱で樹脂粒子が溶融して空隙が潰れることがない。また、顔料浸透層1600を構成する樹脂粒子の溶融膜化温度Tgが高い樹脂微粒子は、一般に、樹脂微粒子を構成する分子構造が剛直であるものが多く、比較的硬い粒子である。そのため、圧力によって空隙が潰れることがない。このような溶融膜化温度Tgが高い樹脂微粒子を用いて溶媒吸収層1601を形成すれば、加圧加熱工程により水などの主要溶媒や不揮発性溶剤が顔料浸透に逆流して染み出すことはなく、顔料浸透層1600および樹脂層の溶融膜化を適正に行なうことができる。
【0115】
インクジェット記録媒体における空隙吸収型の溶媒吸収層1601を、上記とは逆に、加熱圧着時に溶融変形し易い樹脂微粒子をバインダー樹脂により結合することによって構成することも可能である。顔料インクの溶媒成分の中で、不揮発性溶剤を除く主要な溶媒成分は、水やアルコールなどの揮発性溶剤が溶媒として用いられるのが一般的であり、溶媒吸収層1601に吸収された後でも乾燥させることが可能である。
【0116】
図32(a)は、加熱圧着時に溶融変形し易い樹脂微粒子で構成した溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600とを有するインクジェット記録媒体1に、顔料インクを用いてインクジェット記録を行い、溶媒吸収層1601に溶剤が吸収された状態を示している。この状態から、
図32(b)に示すように、溶媒吸収層に溶媒成分がほぼ残存しない状態まで十分に乾燥させた後、溶媒吸収層の樹脂粒子を軟化溶融させれば、溶媒吸収層1601に残留するごく少量の不揮発性溶剤が顔料浸透層へ逆流するのを回避できる。すなわち、溶媒吸収層1601を十分に乾燥させた後、顔料浸透層1600を、
図32(c)に示すように、加熱ローラ21などを用いて加熱圧着することにより、顔料浸透層1600と溶媒吸収層1601とが溶融して一体化する。これにより、透明膜化した溶媒吸収層1660が形成され、顔料インクに含まれる少量の不揮発性溶剤1607は、この透明膜化した溶媒吸収層1660内に保持された状態となる(
図32(d)参照)。従って、溶剤吸収層1601に残留していた少量の不揮発性溶剤1607が顔料浸透層1600へと逆流することはなくなり、顔料浸透層1600の溶融膜1665は、不揮発性溶剤1607を含まない良好な状態で形成される。
【0117】
また、溶媒吸収層1601が軟化溶融して膜化することにより、溶媒吸収層1601の空隙や樹脂粒子の界面による光散乱によって生ずる透明性の低下を回避することができる。このため、顔料浸透層底部に稠密な薄膜状に形成された顔料画像を、溶媒吸収層側から視認するようなインクジェット記録媒体の使用形態において、形成された画像に対する視認性は、空隙構造を維持したままの溶媒吸収層に比べて大幅に向上する。
【0118】
また、軟化溶融して透明膜化した溶媒吸収層1660は、顔料浸透層1600に形成された顔料画像1606の強固な保護膜としても機能する。このため、空隙構造を維持したままの溶媒吸収層に比べて、記録物の端面などからの汚染液体や有害ガスなどが進入することによる汚染による劣化を防止することが可能になると共に、耐擦過性などの機械的強度を向上させることが可能になり、長期保存性を向上させることができる。
【0119】
一方、用途によっては顔料浸透層1600側からの画像視認性が重要になる場合がある。この場合は、顔料浸透層1600内の溶媒吸収層1601との界面に稠密な薄膜状に記録された顔料画像に対して反対側に位置する溶媒吸収層1601や基材50を、顔料画像の背景部分を隠蔽し、所望の背景を形成する背景隠蔽層として活用することも可能である。すなわち、溶媒吸収層1601や基材50に高い透明性が求められる上記の用途とは異なり、顔料浸透層側からの画像視認性が求められる場合には、溶媒吸収層1601や基材50を、白色または半透明とし、画像の背景を白色の背景隠蔽層で形成することが好ましい。
【0120】
このような背景隠蔽層は、例えば、基材50にとして白色顔料を添加したり、基材50上に白色の樹脂層を形成したりすることによって形成することができる。また、基材50上に金属膜などを付加することによって光散乱層を形成し、これを背景隠蔽層としてもよい。さらに、背景隠蔽層として溶媒吸収層1601を活用する場合に、溶媒吸収層1601に小さめの空隙を構成するための小粒径の微粒子の他に、可視光を散乱し易い大粒径の金属または樹脂の微粒子や中空の樹脂微粒子などを加えてもよい。さらに、基材50もしくは溶媒吸収層1601に、蛍光体微粒子などの発光粒子を付加することで、蛍光燐光蓄光発光層として活用し、さらなる画像視認性の向上を図ることも可能である。このように溶媒吸収層や基材に背景隠蔽層としての機能を持たせる場合、溶媒吸収層には透明性を要求されないため、溶媒吸収層の本来の機能である顔料インクの溶媒成分の高速吸収性・大容量吸収性など、液体の吸収特性に特化した設計をすることが可能になる。従って、溶媒吸収層や基材に背景隠蔽層としての機能を持たせる場合には、本発明のインクジェット記録媒体の基本的な機能であるインク吸収性をさらに高めることが可能になり、より高精細・高画質で視認性に優れた画像を形成することができる。
【0121】
1.4 顔料浸透層
顔料浸透層1600は、インクジェット記録方式によって付与される顔料インクの顔料を浸透・拡散させて吸収する層である。顔料インクの液滴が顔料浸透層1600に接することで、液滴のほぼ全量が速やかに顔料浸透層1600内に引き込まれるように、顔料浸透層1600は、十分なインク吸収速度が得られるように構成されている。また、インクの乾燥速度よりも顔料浸透層1600のインク吸収速度が遅いと、インクが吸収される前に顔料浸透層1600の表面のインクが乾燥増粘して、顔料インクの一部が表面に残る可能性がある。この場合、形成された画像の耐擦過性が低下する。従って、顔料浸透層1600のインクの吸収速度は、インクの乾燥速度よりも十分に速くすることが重要である。顔料浸透層表面から吸収浸透してきた顔料インクの一部が溶媒吸収層の界面に到達すると、格段に小さな空隙径の溶媒吸収層のさらに大きな毛細管力によって、顔料インクの溶媒成分がさらに高速で吸収され始めるので、顔料浸透層内にある顔料インクの浸透速度も急速に早まる。溶媒吸収層による高速な溶媒成分の吸収が始まると、空隙径の大きな顔料浸透層の流抵抗が小さいためにインクの粘度・表面張力によりインクが千切れることなく、接着層や顔料浸透層内に残っている顔料インクも高速で浸透し始める。そのため、本発明のインクジェット記録媒体は、顔料粒子を浸透透過できるほどの大きな空隙構造の顔料浸透層であっても、格段に小さな空隙構造の溶媒吸収層による大きな毛細管力によって、顔料浸透層での顔料インクの浸透滞留時間を短くできる。そのため、加圧加熱により顔料浸透層を溶融膜化する場合に、顔料浸透層内での顔料インクの残留や、近接する顔料浸透層内への溶媒成分の残留を生じにくくすることができ、良好に顔料浸透層を溶融膜化することができる。顔料浸透層1600は、その平均細孔径が顔料粒子に比べて大きくなるように構成されている。顔料インクは顔料も含めて薄膜の顔料浸透層1600内に浸透拡散するが、顔料粒子に比べて平均細孔径の小さな溶媒吸収層1601内へは顔料粒子は浸透できない。このため、顔料浸透層1600側の界面に薄膜で稠密な顔料画像を形成しながら、インク吸収速度が顔料浸透層1600よりも高くなるように構成された溶媒吸収層1601側に溶媒成分のみが順次吸収される。その結果、溶媒成分は顔料浸透層1600側にはほぼ残ることなくほぼ全量が厚膜の溶媒吸収層1601に吸収される。すなわち、本発明のインクジェット記録媒体にから記録された顔料インクは、顔料浸透層1600内の溶媒吸収層1601との界面に色材である顔料粒子による画像が稠密な薄膜状に形成され、溶媒成分の殆どは溶媒吸収層1601に吸収されることになる。このようなインク吸収特性を実現するため、本実施形態におけるインクジェット記録媒体の顔料浸透層1600には、高いインク吸収速度を有する薄膜の空隙吸収型のインク受容層が用いられている。
図5(d)に示すように、顔料浸透層を複数の層1600に分けて順次形成することなども可能である。この場合、いずれの顔料浸透層1600も、空隙吸収型のインク受容層としての基本的な機能を有するとともに、顔料粒子が浸透拡散可能な空隙構造を有し、インクの吸収速度が基材50側に向かって順次大きくなるように構成することが好ましい。
【0122】
空隙吸収型のインク受容層である顔料浸透層1600は、基本的な構成および材料は溶媒吸収層1601と同様に、樹脂によって結合された微粒子間の空隙の細孔構造による毛細管現象によってインクを吸収するように構成されている。さらに、顔料浸透層1600は、顔料粒子を含めて、顔料インクを速やかに吸収浸透拡散するための空隙を有していることが必要になる。顔料浸透層1600の表面から吸収されたインクは、順次顔料浸透層1600の内部に浸透して、顔料浸透層1600の浸透異方性に応じて、膜厚方向および水平方向に拡がりながら吸収される。顔料浸透層1600の浸透異方性は、インクジェット記録画像の品質に大きく影響するインクドットの拡がりを適切に制御できるように、設計する。すなわち、やや大きめのインクドットを形成する必要がある場合には、顔料浸透層1600の膜厚方向の浸透性よりも水平方向(インク受容層の表面に沿う方向)の浸透性を高くすると共に、顔料浸透層1600の厚さを厚めに構成すればよい。逆に、小さめのインクドットで高解像度な画像を形成する必要がある場合には、顔料浸透層1600の水平方向の浸透性よりも膜厚方向の浸透性を高めると共に、顔料浸透層1600の膜厚をさらに薄めに構成すればよい。さらに、顔料浸透層1600に浸透異方性を持たせる必要がない場合には、顔料浸透層1600の製膜生産性を向上させるため、インクを等方的に浸透させるように構成してもよい。この場合には、所望のインクドットの拡がりが得られるように顔料浸透層1600全体の浸透性を制御すると共に、所望のインク吸収量に応じて顔料浸透層1600の膜厚などを調整すればよい。
【0123】
一方、顔料浸透層1600の空隙細孔径が顔料の平均粒子径よりも格段に大きく、かつ顔料浸透層1600の空隙がインクの液体成分である不揮発性溶剤などによってある程度満たされる場合もある。このような場合、記録物の保存条件によっては、画像滲み(色材マイグレーション)を誘発するおそれがある。そこで、保存性の観点からも、顔料インクの溶媒成分を顔料浸透層1600に残さず、殆ど全てを溶媒吸収層1601へと速やかに吸収させるように、溶媒吸収層1601のインク吸収速度は顔料浸透層1600のインク吸収速度よりも格段に大きくしておくことが重要である。
【0124】
また、本実施形態における顔料浸透層1600は、溶融膜化可能な空隙型顔料浸透層1600で構成されている。溶融膜化可能な顔料浸透層1600は、前述の加熱圧着処理によって顔料浸透層1600底部に形成された稠密な画像を包み込むように膜化する。このため、顔料色材を完全に固定化することができ、顔料浸透層1600と顔料色材との結着状態を強固に維持することが可能になる。つまり、膜化した顔料浸透層は、画像に対する強固な保護膜として機能し、画像の耐擦過性を向上させる。また、顔料浸透層1600内では、顔料色材が分散した状態に保たれる。このため、顔料色材の反射光や膜化した顔料浸透層1600の反射光などによって光の経路を複雑化し、形成された画像には、油絵のような重厚感が得られる。
【0125】
また、一般に表面光沢を有するインクジェット記録媒体に顔料インクで画像を形成するすると、顔料色材が記録媒体表面を覆ってしまうため、記録部分の光沢性が損なわれて、記録部分と非記録部分とで光沢ムラが発生する場合がある。さらに、特許文献1のように顔料インクをインク受容層内部に浸透させるように構成する場合には、インク受容層に顔料インクの粒子径よりも大きな細孔を設ける必要がある。顔料色材をインク受容層の内部に浸透させるようにするために細孔を顔料色材より大きくする場合には、空隙構造を形成するための無機微粒子の平均粒子径を顔料色材より大きくすることが必要となる。インク受容層の表面には、無機微粒子が剥き出しのままの無数の凹凸が存在する。このとき、平均粒子径の大きい無機微粒子で形成されるインク受容層の表面は、表面の凹凸が大きくなる。従って、平均粒子径の大きい無機微粒子を使用する場合は、インク受容層表面の平滑性が損なわれるため、表面の光沢性が低下し、高品質の画像が得られない場合があった。以上のように、顔料インクで画像を形成する場合には、記録画像表面に光沢性を付与することは困難であった。
【0126】
これに対し、本実施形態においては、顔料浸透層1600の底部に形成された稠密な画像を包み込むように溶融膜化することにより、顔料浸透層1600が透明になるため、顔料インクで記録した部分にも光沢性を付与することが可能で、非記録部分と記録部分の光沢差を改善することができる。
【0127】
本実施形態においては、顔料浸透層1600を溶融膜化する場合は、画像を形成したインクジェット記録物を加熱したヒートローラと加圧ローラとの間に通して搬送する。この際、ヒートロールの表面に存在する微小な凹凸が、溶融膜化した顔料浸透層の表面に転写されてしまうことで、溶融膜化した顔料浸透層の表面グロスが低下して、顔料画像の画像視認性が低下することがある。そこで、鏡面加工などを施した平滑性の高いローラを用いることが有効である。すなわち、平滑処理された加熱ローラと加圧ローラとの間に記録媒体を挟持しつつ搬送することによって加熱ローラの平滑な鏡面を顔料浸透層に転写すれば、表面グロス性が向上し、顔料画像の画像視認性を向上させることができる。また、加熱ローラのローラ表面の表面状態により、顔料浸透層のグロスを、用途に応じた最適な状態に、任意に調整することもできる。例えば、平滑性の高いローラを用いれば、顔料浸透層の表面を平滑にできるため、顔料浸透層のグロスを光沢感の高いものにすることができる。また、梨地調やエンボス加工されている加熱ローラ、あるいは表面に凸凹構造を設けて、構造的潜像が形成されている加熱ローラを用いれば、ローラ上に形成された凹凸画像が顔料浸透層表面に転写されるため、顔料浸透層の表面グロスをマット調にしたり、顔料浸透層1600の表面に凹凸形状の構造的潜像を形成したりすることができる。
【0128】
また、平滑性の高い表面質感調整シートを用いて、表面質感調整シートの平滑な面を顔料浸透層と重ね合わせ、それらを加熱ローラ21と加圧ローラ22との間に供給し、表面質感調整シートの平滑な表面状態を顔料浸透層に転写するようにしてもよい。このように、表面質感調整シートの表面状態を転写することにより、インクジェット記録媒体の表面グロス性が向上し、顔料画像の画像視認性を向上させることができる。すなわち、表面質感調整シートを用いることで、顔料浸透層のグロスを、用途に応じた最適な状態に、任意に調整することができる。
【0129】
例えば、平滑な表面質感調整シートを用いれば、表面質感調整シートの平滑な表面が顔料浸透層に転写されるため、顔料浸透層のグロスを光沢感の高いものにすることができる。また、梨地調やエンボス加工されている表面質感調整シートを用いれば、表面質感調整シート上に形成された凹凸画像が顔料浸透層表面に転写されるため顔料浸透層のグロスをマット調にすることもできる。さらに表面質感調整シートの表面に予め凸凹構造を設けて、構造的潜像を形成しておけば、顔料浸透層の表面に凹凸形状の構造的潜像を形成することもできる。なお、構造的潜像は、ホログラム画像として機能するため、記録物のセキュリティー性を向上させることができる。
【0130】
本実施形態における溶融膜化可能な顔料浸透層1600は、加熱圧着前は空隙を構成するため粒子状態であり、加熱圧着後には溶融膜化する微粒子と水溶性樹脂とで構成される。
【0131】
上記微粒子としては樹脂材料からなる微粒子(樹脂微粒子)を用いることが好ましい。樹脂微粒子は、インク受容層に色材を受容する空隙を形成する機能を有する。また、樹脂微粒子は溶融膜化温度Tgにより、粒子状態もしくは膜状態を容易にコントロールすることができるため好ましい。すなわち、本実施形態においては、溶融膜化温度Tgが、インクジェット記録媒体を製造する際の乾燥温度よりも高く、かつ加熱圧着時の加熱温度よりも低い範囲にあればよい。
【0132】
本発明者らの検討によれば、溶融膜化温度Tgとしては30℃〜120℃程度であった。溶融膜化温度Tgが30℃以下であると、室温で保存した場合において、顔料浸透層1600が溶融膜化してしまう場合がある。また、溶融膜化温度Tgが120℃以上であると、加熱圧着に大きな熱量が必要となる。従って、光沢性を有する記録物の作製に適したインクジェット記録媒体を構成する場合には、加熱圧着前には、顔料浸透層が粒子状態を保って空隙構造を維持し、加熱圧着後には顔料浸透層の樹脂粒子が溶融して膜化するように、顔料浸透層を構成すればよい。
【0133】
本実施形態におけるインクジェット記録媒体では、樹脂微粒子および水溶性樹脂によって構成される空隙吸収型の顔料浸透層1600の細孔直径の平均(平均細孔直径)を、50nm〜200nm程度とした。一般に、顔料粒子の平均粒子径は、40nm〜110nm程度であるので、大粒径の顔料粒子を用いた顔料インクを用いる場合には、好ましくは、顔料浸透層1600の平均細孔直径が120nm〜180nmとなるように調整すればよい。平均細孔直径が50nm未満の場合には、顔料粒子が顔料浸透層1600内に十分に浸透拡散できずに、顔料浸透層1600の表面で固液分離して堆積しまい、画像の耐擦過性が低下するおそれがある。また、平均細孔直径が200nm以上の場合には、顔料浸透層1600の強度が弱くなることでクラックや粉落ちが生じ易くなるおそれがある。
【0134】
さらに、顔料浸透層1600の空隙が大きくなると、それに伴って空隙の毛細管力も弱くなるので、顔料インクを顔料浸透層1600内へ引き込む際のインク吸収速度が低下する。インク吸収速度が低下すると、顔料インクが顔料浸透層1600内で滞留して画像に滲みが発生し、画像品質が低下するおそれがある。樹脂微粒子としては、一次粒子径が50nm〜200nm、凝集した二次粒子径が250nm〜1μm程度のものを用いることで、良好な空隙構造が得られた。さらに良好で安定したインク吸収性と顔料浸透性を得るためには、好ましくは、一次粒子径が100nm〜150nm、凝集した二次粒子径が500nm〜800nmの樹脂微粒子を用いればよい。
【0135】
また、顔料浸透層1600の厚さを1μm〜10μmとすることで、良好な顔料浸透性および顔料拡散性が得られた。顔料浸透層1600が1μmよりも薄くなると、顔料浸透層1600内に記録された顔料の全てを収納しきれずに表面へ溢れて画像の耐擦過性の低下が懸念される。一方、顔料浸透層1600の厚さが10μmを超えると、画像視認性の劣化が懸念される。すなわち、顔料浸透層1600の空隙を顔料粒子より十分に大きくすべく顔料浸透層1600には大粒径の無機微粒子が用いられるため、顔料浸透層1600の厚さが10μmを超えると、顔料浸透層1600の透明度が低下して、画像視認性の劣化が懸念される。さらに、顔料浸透層1600の厚さが10μmを超えると、顔料浸透層1600でのインク吸収速度も遅くなることから、溶媒吸収層1601へインクが到達するのにやや時間を要するようになる。その結果、顔料浸透層1600内部における顔料インクの溶媒の滞留時間が長くなり、顔料の浸透拡散が過大になることで画像のにじみが懸念される。また、顔料浸透層1600の内部に色材である顔料粒子が広く分散して取り残されやすくなることから、顔料浸透層1600底部に稠密で薄膜状の顔料画像が形成されず、画像発色性が低下する場合もある。そのため、視認性が高く高濃度で高精彩の画像記録が求められる場合には、顔料浸透層1600の厚みを2μm〜8μmとなるように調整したインクジェット記録媒体を用いることが望ましい。
【0136】
1.5 空隙吸収型のインク受容層の材料説明
以下、溶媒吸収層1601あるいは顔料浸透層1600として用いる空隙吸収型のインク受容層の構成材料について説明する。ここでは、無機微粒子あるいは樹脂微粒子と、水溶性樹脂と、を含有したインク受容層53の構成材料について具体的に説明する。
【0137】
1.5.1 無機微粒子
無機微粒子は、無機材料からなる微粒子である。無機微粒子は、インク受容層に色材を受容する空隙を形成する機能を有する。無機微粒子を構成する無機材料の種類としては、特に制限はない。但し、インク吸収能が高く、発色性に優れ、高品質の画像が形成可能な無機材料であることが好ましい。例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、ケイソウ土、アルミナ、コロイダルアルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト構造のアルミナ水和物、擬ベーマイト構造のアルミナ水和物、リトポン(硫酸バリウムと硫化亜鉛の混合物)、ゼオライト等を挙げることができる。
【0138】
これらの無機材料からなる無機微粒子の中でも、アルミナおよびアルミナ水和物からなる群より選択される少なくとも1種の物質からなるアルミナ微粒子が好ましい。アルミナ水和物としては、ベーマイト構造のアルミナ水和物、擬ベーマイト構造のアルミナ水和物等を挙げることができる。アルミナ、ベーマイト構造のアルミナ水和物、擬ベーマイト構造のアルミナ水和物は、インク受容層の透明性および画像の記録濃度、構造的潜像の視認性を向上させることができる点において好ましい。
【0139】
無機微粒子は、その平均粒子径を精密に制御することが好ましい。無機微粒子の平均粒子径を小さくすることにより、光散乱を抑制して、インク受容層の透明性を向上させることができる。例えば、基材50側からの画像を視認する場合には、十分な透明性が必要となると共に、インク受容層自体にもある程度の透明性が必要となる。そのため、インク受容層に、平均粒子径が小さい無機微粒子を用いることが有効である。また、無機微粒子の平均粒子径を小さくした場合には、インク受容層の空隙径が小さくなってインクの吸収容量が低下するため、インク受容層の厚みを十分に大きくする必要がある。
【0140】
一方、インク受容層における無機微粒子の平均粒子径を大きくした場合には、インク受容層の空隙径を大きくすることができる。このようにすると、インク受容層は、無機微粒子による光散乱によって透明性が低下するため、記録情報の隠蔽性が求められる場合には、無機微粒子の粒子径を大きくすることが有効となる。一方、無機微粒子の粒子径を大きくした場合には、インク受容層の強度が低下する。このような場合、インク受容層の強度を確保するためには、無機微粒子を固定化する水溶性樹脂のバインダー量を多くすればよい。このように、無機微粒子の平均粒子径は、インク受容層の吸収性とインク受容層の透明性を考慮して、インクジェット記録媒体および記録物の使用用途に応じて適宜選択すればよい。無機微粒子は、1種を単独で用いたり、または2種以上を混合して用いたりすることができる。「2種以上」とは、材質自体が異なるものの他、平均粒子径、多分散指数等の特性が異なるものでもよい。
【0141】
1.5.2 樹脂微粒子
樹脂微粒子は、樹脂材料からなる微粒子である。樹脂微粒子は、インク受容層に色材を受容する空隙を形成する機能を有する。樹脂微粒子を構成する樹脂材料の種類としては、特に制限はない。但し、インク吸収能が高く、発色性に優れ、高品質の画像が形成可能な樹脂材料であることが好ましい。このような樹脂としては、アクリル系樹脂、酢ビ樹脂、塩ビ樹脂、エチレン/酢ビ共重合樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン樹脂等の樹脂、またはそれらの共重合体樹脂が好ましい。
【0142】
1.5.3 水溶性樹脂
水溶性樹脂は、25℃において、水と十分に混和する樹脂、あるいは水に対する溶解度が1(g/100g)以上の樹脂である。また、空隙吸収型の場合、水溶性樹脂は、無機微粒子を結着するバインダーとして機能する。水溶性樹脂としては、例えば、・澱粉、ゼラチン、カゼインおよびこれらの変性物;・メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;・ポリビニルアルコール(完全けん化、部分ケン化、低けん化等)またはこれらの変性物;・尿素系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、エピクロルヒドリン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸またはその共重合体樹脂、アクリルアミド系樹脂、無水マレイン酸系共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂等の樹脂;等を挙げることができる。
【0143】
水溶性樹脂の中でも、ポリビニルアルコール、特に、ポリ酢酸ビニルを加水分解(けん化)することにより得られる、けん化ポリビニルアルコールが好ましい。インク受容層は、けん化度70〜100mol%のポリビニルアルコールを含有する組成物からなることが好ましい。けん化度とは、ポリビニルアルコールの酢酸基と水酸基の合計モル数に対する水酸基のモル数の百分率を意味する。
【0144】
けん化度を、好ましくは70mol%以上、さらに好ましくは86mol%以上とすることにより、インク受容層に適度な硬さと柔軟性を付与することができる。このため、基材50とインク受容層との密着性を向上させることができ、密着性の不足により基材50からインク受容層が剥がれるといった不具合をさらに抑制することができる。また、無機微粒子とポリビニルアルコールとを含む塗工液の粘度を低下させることができる。従って、基材50に対して塗工液を塗工し易くなり、インクジェット記録媒体の生産性を向上させることができる。
【0145】
一方、けん化度を、好ましくは100mol%以下、さらに好ましくは90mol%以下とすることにより、インク受容層に適度な柔軟性と親水性を付与することができ、インクの吸収性が良好となる。従って、顔料浸透層1600に高品質の画像を記録することが可能となる。
【0146】
けん化度の範囲を満たす、けん化ポリビニルアルコールとしては、完全けん化ポリビニルアルコール(けん化度98〜99mol%)、部分けん化ポリビニルアルコール(けん化度87〜89mol%)、低けん化ポリビニルアルコール(けん化度78〜82mol%)等を挙げることができる。それらの中でも、部分けん化ポリビニルアルコールが好ましい。
【0147】
インク受容層は、重量平均重合度が2,000〜5,000のポリビニルアルコールを含有する組成物からなることが好ましい。重量平均重合度を、好ましくは2,000以上、さらに好ましくは3,000以上とすることにより、インク受容層に適度な柔軟性を付与することができると共に、基材50とインク受容層との接着強度を向上させることができる。さらに、接着強度の不足により基材50からインク受容層が剥離するといった不具合を抑制することもできる。
【0148】
一方、重量平均重合度を、好ましくは5,000以下、さらに好ましくは4,500以下とすることにより、無機微粒子とポリビニルアルコールとを含む塗工液の粘度を低下させることができる。塗工液の粘度を低下させることにより、保護層に対して塗工液を塗工し易くなり、インクジェトの生産性を向上させることができる。また、インク受容層の細孔が埋まることを防止して細孔の開口状態を良好に保つことができるため、インクの吸収性が良好になる。従って、インク受容層に高品質の画像を記録することが可能となる。重量平均重合度の値は、JIS−K−6726に記載の方法に準拠して算出された値である。
【0149】
水溶性樹脂は、1種を単独で用いることが可能であり、また、2種以上を混合して用いることもできる。「2種以上」とは、けん化度、重量平均重合度等の特性が異なるものも含まれる。水溶性樹脂の量は、無機微粒子の100質量部に対して、3.3〜20質量部とすることが好ましい。水溶性樹脂の量を、好ましくは3.3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上とすることにより、空隙が圧力や熱によっても崩れることがない、適度な強度を有する空隙型のインク受容層を形成することができる。
【0150】
一方、水溶性樹脂の量を、好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下とすることにより、インク受容層53内の空隙のバインダー量を最適な量にすることも可能である。そのため、インクの吸収性を良好とし、水溶性樹脂によって結着された無機微粒子間の空隙をインク受容層53内の全域にほぼ均一に配置して、インクをほぼ等方的に浸透させることができる。なお、水溶性樹脂の量を3.3質量部以下にした場合には、無機微粒子を結着するためのバインダー量が少なくなるため、インク受容層の強度が低下して、インク受容層53のひび割れおよび粉落ちが発生するおそれがある。従って、水溶性樹脂の量を3.3質量部以下にすることは、好ましくない。一方、水溶性樹脂の量を20質量部以上とした場合には、水溶性樹脂の量が過剰になり、水溶性樹脂がインク受容層の空隙を埋めてインクの吸収性を損う可能性があるため、好ましくない。
【0151】
1.5.4 密着層の材料
基材50層、溶媒吸収層1601、複層化された溶媒吸収層1601、顔料浸透層1600または複層化された顔料浸透層1600の何れかの境界面には、必要に応じて密着層1603を設けてもよい(
図5(a)〜
図5(d)参照)。密着層1603を設けることにより、インク受容層の粉落ちを防止することができる。密着層1603を構成する密着剤の種類は特に限定されない。但し、密着剤としては、基材50層、および溶媒吸収層1601、多層の溶媒吸収層1601、顔料浸透層1600または多層の顔料浸透層1600を構成する水溶性樹脂と親和性の高い材料を選択することが好ましい。
【0152】
このような材料としては、例えば、熱可塑性の合成樹脂、天然樹脂、ゴム、ワックス等を用いて形成することができる。より具体的には、エチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース誘導体、ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン等のスチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等のアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等のビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アイオノマー、エチレンアクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等の合成樹脂、粘着性付与剤としてのロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、エステルガム、ポリイソブチレンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、ポリアミド樹脂、ポリ塩素化オレフィン等の天然樹脂や合成ゴムの誘導体等が挙げられる。
【0153】
また、本発明のインクジェット記録媒体を包装材料として用いる場合は、ポリエチレンやポリプロピレン等も使用できる。なお、溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600との境界面や多層の溶媒吸収層1601および多層の顔料浸透層1600の界面に密着層1603を付加する場合は、密着層1603の厚みは、各々のインク吸収速度を損なわないように、その厚さを薄くすればよい。具体的には、良好な密着機能を有しかつ溶媒吸収層インク吸収速度を損なわない剥離層の厚さとしては、乾燥状態で0.1μm以上10μm以下、より好ましく0.1μm以上、好ましくは1μm以下とすることが好ましい。また密着層1603は、顔料浸透層1600に形成された画像の視認性を向上するため、白色顔料や蛍光燐光発光層を含有していてもよい。
【0154】
また、インクジェット記録媒体を構成する基材や各層の密着性を向上させる方法としては、密着層を用いる方法以外に、基材や各層の表面に、各表面改質処理を行う方法がある。例えば、密着性を向上させるべき表面に対し、予めコロナ放電処理やプラズマ放電処理を行ったり、IPAやアセトン等の有機溶剤を表面に塗工したりすることにより、表面の粗さを増大させ、それらの密着性を増大させる。このような表面処理を、基材50層、保護層の構成材料、および溶媒吸収層1601、多層の溶媒吸収層1601A、顔料浸透層1600または多層の顔料浸透層1600Aの表面に対して行うことにより、各層の密着性を向上させることができる。
【0155】
1.6 樹脂層1012
本実施形態のインクジェット記録媒体1は、必要に応じて、顔料浸透層1600の表面が直接露出した部分を残すように、熱可塑性樹脂1002を離散的に設けることによって樹脂層1012を形成することも可能である(
図1参照)。この樹脂層1012を形成することにより、顔料浸透層1600の耐擦過性をさらに向上させることができる。
【0156】
以下の説明においては、インク受容層53の表側である顔料浸透層1600の表面が直接露出した部分を残すように、熱可塑性樹脂1002を離散的に設けた樹脂層1012の構成を「海島構造」あるいは「海島状の樹脂層1012」と記述する場合がある。また、樹脂層1012に離散的に設けられた熱可塑性樹脂1002の一つの集まりを「熱可塑性樹脂部1000」あるいは「島部」と記述し、顔料浸透層1600の表面が直接露出した部分を「(顔料浸透層1600の)露出部1001」と記述する。また、樹脂層1012の中でも熱可塑性樹脂1002の無いバイパス部を「海部」あるいは「バイパス部」と記述する場合がある。従って、海部(バイパス部)の下部は顔料浸透層1600の露出部1001となる。
【0157】
インクジェット記録媒体1は、
図1に示すように基材50の表面に空隙吸収型のインク受容層53が配されており、その表面側のインク受容層である顔料浸透層1600の表面には、熱可塑性樹脂1002を含む樹脂層1012が配されている。熱可塑性樹脂1002は、インクをほぼ吸収しない、もしくはインクを吸収したとしても吸収速度が遅いものである。一方、2層以上で構成された空隙吸収型のインク受容層53はいずれも、熱可塑性樹脂1002に比べて格段にインク吸収性が良好でインク吸収速度の速いものである。顔料浸透層1600の表面に熱可塑性樹脂1002を離散的に設けることにより、樹脂層1012は、熱可塑性樹脂1002が集まった熱可塑性樹脂部1000としての島部1000と、熱可塑性樹脂1002のないバイパス部としての海部1014と、を含む。海部1014に対応する顔料浸透層1600の表面は、直接露出する露出部1001を構成する。樹脂層1012に着弾したインクの一部は、熱可塑性樹脂1002をほぼ介すことなく、
図2(a)、2(b)に示すように、海部1014を介してバイパス的に顔料浸透層1600の露出部1001にすばやく接し、その露出部1001に引き込まれるように吸収される。
【0158】
1.6.1 熱可塑性樹脂1002とインク滴との大小関係
樹脂層1012における個々の熱可塑性樹脂1002もしくは熱可塑性樹脂1002の凝集部が顔料インクのインク滴1003の大きさよりも十分に小さければ個々のインク滴1003の一部は海状に露出した顔料浸透層1600に直接接触することになる。このため、上述のように速やかに顔料浸透層1600に吸収される。
【0159】
一方、個々の熱可塑性樹脂1002もしくは熱可塑性樹脂1002の凝集部である熱可塑性樹脂部1000の面積がインク滴1003の直径と同程度の大きさに構成されている場合もある。この場合、樹脂層1012を構成する熱可塑性樹脂部1000の中心付近に着弾したインク滴1003は、着弾直後には、そのインク滴の一部がインク受容層1601の露出部1001に接触できない可能性がある。しかし、その場合でも、そのインク滴は着弾衝撃によってマイクロ秒〜ミリ秒のオーダーで着弾変形し、拡がるため、樹脂層1012に吸収される前に、着弾衝撃により変形した一部がバイパス部1014を介してインク受容層53の露出部1001に接触し、吸収される。
図9に示すように、インクジェット記録においては、一般的な顔料インクのインク滴1003Aは高速で飛翔してきて熱可塑性樹脂部1000に着弾し、そのときの衝撃によって、インク滴1003Aの直径Dの約2倍の直径2Dを有し、かつ約1/6の高さTの円柱状のインク1003Bに拡がることが知られている。
【0160】
図10(a)ないし10(f)は、樹脂層1012における熱可塑性樹脂部1000の上部付近に着弾したインク滴1003Aが吸収されるメカニズムの説明図である。
図10(b)に示すように、樹脂層1012における熱可塑性樹脂部1000に着弾して広がったインク1003Bは、熱可塑性樹脂部1000からはみ出す。そのはみ出したインク1003の一部は、
図10(c)に示すように、熱可塑性樹脂部1000の相互間の空間(バイパス部1014)をバイパス的に通過して、顔料浸透層1600の露出部1001に垂れ込む。このように垂れ込んだインク1003の一部は、熱可塑性樹脂部1000の中を通ることなく、顔料浸透層1600の露出部1001に直接接することができる。インクジェット記録用のインク1003は、表面張力や粘度が適切に制御されている。そのため、
図10(d),(e),(f)のように、露出部1001に接したインク1003Bの一部がインク吸収速度の速い顔料浸透層1600に吸収され始めると、それに連なる他の部分のインク1003Bも途切れることなく、顔料浸透層1600に引き込まれてゆく。つまり、露出部1001に接したインク1003Bの一部に連なる他の部分のインク1003Bも、熱可塑性樹脂部1000の外側を順次バイパス的に通過して、顔料浸透層1600内に引き込まれる。このように顔料浸透層1600に接したインク1003は、層状に構成された顔料浸透層1600の内部に浸透していく。このようにして、熱可塑性樹脂部1000に着弾したインク1003Aは熱可塑性樹脂部1000には殆ど吸収されず、インク吸収速度の速い空隙吸収型の顔料浸透層1600の露出部1001に引き込まれて素早く吸収される。このため、熱可塑性樹脂部1000の上部付近に着弾したインク滴1003Aは、熱可塑性樹脂部1000の表面もしくは内部には残留しにくい。
【0161】
さらに、個々の熱可塑性樹脂1002もしくは熱可塑性樹脂1002の凝集部(熱可塑性樹脂部1000)の面積がインク滴よりも大きく構成された場合には、着弾時の衝撃により変形して拡がったインク1003Bであっても、バイパス部1000を介して顔料浸透層1600の露出部1001に接触することができないことがある。この場合には、熱可塑性樹脂部1000にインクが残ってしまうことで、良好な画像形成が困難になると共に、画像1606の耐擦過性が低下するおそれがある。従って、熱可塑性樹脂1002もしくは熱可塑性樹脂1002の凝集部(熱可塑性樹脂部1000)は、インクジェット記録に用いられる顔料インクのインク滴1003Aよりも格段に大きくならないように構成することが好ましく、インク滴1003Aの大きさよりも十分に小さければより好ましい。
【0162】
本発明者による検討によれば、熱可塑性樹脂部1000の表面もしくは内部にインク1003の一部が残存すると、後述の加熱圧着処理によって熱可塑性樹脂1002を溶融膜化した際に、残存インクが熱可塑性樹脂1002の表面に浮き出て膜化することがあった。この場合、熱可塑性樹脂1002の表面で膜化した画像部分が露出することとなり、記録物における画像の耐擦過性が低下した。また、熱可塑性樹脂部1000の表面もしくは内部にインク1003の一部が残存していると、加熱圧着時に熱可塑性樹脂1002を溶融膜化させた場合に、残留したインク1003の成分の一部が蒸発し、蒸気層などを形成して溶融膜化不良を引き起こす場合があった。本実施形態のインクジェット記録媒体1では、上述したように、熱可塑性樹脂部1000の表面もしくは内部にインク1003が殆ど残留せず、顔料インク1003のほぼ全ての液体成分が溶媒吸収層1601に速やかに吸収される。このため、インクジェット記録後に即時に加熱圧着処理を行なっても顔料浸透層1600および樹脂層1012の溶融膜化不良が生じにくく、記録物の画像に良好な耐擦過性を得ることができる。
【0163】
1.6.2 熱可塑性樹脂1002の形状
顔料浸透層1600の上に樹脂層1012を設け、その樹脂層1012の熱可塑性樹脂1002を離散的に設けた構造では、顔料浸透層1600に形成される顔料画像に熱可塑性樹脂1002の直下部が非画像部としてホワイトポイントが発生する場合がある。ホワイトポイントの発生を抑制するためには、顔料浸透層1600の面積をなるべく大きくし、かつ各々の露出部1001の間の距離を小さくして、熱可塑性樹脂1002の下部が顔料浸透層1600の表層に接する面積を小さく設定することが好ましい。一方、良好な耐擦過性を得るには、離散的に配置された熱可塑性樹脂部1000のそれぞれを十分な量の熱可塑性樹脂1002によって形成し、かつ各熱可塑性樹脂部1000を近接して設け、熱可塑性樹脂1002が溶融膜化し易いように構成することが好ましい。
【0164】
そこで、本実施形態では、ホワイトポイントの発生を抑制し、かつ熱可塑性樹脂1002を膜化し易いように構成するために、粒子状の熱可塑性樹脂1002を用いる。すなわち、粒子状の熱可塑性樹脂1002を用いることにより、樹脂層1012の下層での顔料浸透層1600との接触面積を小さく抑えつつ、樹脂層1012の中層もしくは上層では十分な熱可塑性樹脂1002の体積を得ることが可能になる。例えば、
図11(a)に示すような球状の微粒子1002aを主体とする熱可塑性樹脂1002、あるいは
図11(b)、(c)に示すように、多面体形状の微粒子1002を主体とする熱可塑性樹脂1002等を用いることができる。このような熱可塑性樹脂1002を用いることにより、空隙吸収型の顔料浸透層1600の露出部1001に大きな面積を確保して良好なインク吸収性を得ると共に、良好な保護性能を担保することができる。インクジェット記録媒体の製膜生産性を考慮すると、熱可塑性樹脂1002としては、特別な配向処理などを必要としない球状の粒子(
図11(a))を用いることが好ましい。このような球状の微粒子1002と同様に、多面形状を有する微粒子も好ましく用いることができる。また、
図11(d)、(e)に示すように、膜状の熱可塑性樹脂1002を離散的に設けてもよい。
【0165】
1.6.3 熱可塑性樹脂1002の粒子径
インクジェット記録媒体1の製膜過程で熱可塑性樹脂1002が顔料浸透層1600の空隙に入り込んで熱可塑性樹脂1002が顔料浸透層1600の空隙を埋めてしまうと、顔料浸透層1600のインク吸収性が大幅に低下する場合がある。そのため、粒子状の熱可塑性樹脂1002を用いる場合は、その平均粒子径が顔料浸透層1600の空隙径より小さくならないように、熱可塑性樹脂1002の平均粒子径および顔料浸透層1600の平均細孔直径を設定することが好ましい。
【0166】
一方、前述のように、熱可塑性樹脂部1000の上にインクを残さないようにするためには、樹脂層1012の上に着弾したインク1003を千切ることなく、顔料浸透層1600の露出部1001に引き込んで吸収させることも必要である。そのため、想定されるインク滴1003Aの直径よりも熱可塑性樹脂1002の平均粒子径を小さく設定することが好ましい。
【0167】
具体的には、熱可塑性樹脂1002の平均粒子径を、100nmよりも大きく、5μmよりも小さくすることが好ましい。熱可塑性樹脂1002の平均粒子径を100nmよりも大きくすることにより、熱可塑性樹脂1002の粒子径が空隙吸収型の顔料浸透層1600の空隙径より十分大きくなるため、熱可塑性樹脂1002が顔料浸透層1600の空隙の中に入り込みにくくなる。但し、熱可塑性樹脂1002の粒子が塗工液中に凝集し易い粒子であった場合には、平均粒子径が100nm以下の熱可塑性樹脂1002粒子を用いても、製膜時には粒子が凝集して顔料浸透層1600の空隙を埋めないように大きな2次粒子を形成していればよい。従って、このような場合には平均粒子径が100nmよりも小さくても良く、熱可塑性樹脂1002の性質に応じて、顔料浸透層1600の空隙を埋めないように、適宜、熱可塑性樹脂1002の平均粒子径を調整すればよい。また、大きめの顔料粒子を想定して、顔料浸透層1600の空隙を大きめにする場合などは、150nm以上の大きめの平均粒子径の熱可塑性樹脂1002を用いることがさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂1002の粒子1002aの凝集体によって熱可塑性樹脂部1000を構成する場合は、個々の島状の熱可塑性樹脂部1000の面積を小さめに製膜し得るように、平均粒子径が2μm以下の微粒子を含む熱可塑性樹脂1002を用いることが好ましい。
【0168】
熱可塑性樹脂部1000の間隔樹脂層1012を介して記録される顔料インクを、樹脂層1012に残さずに全てを顔料浸透層1600側に吸収させるようにするためには、インク吸収の基点となる顔料浸透層1600の露出部1001を適切な間隔で配することが重要である。そのため、想定されるインクジェット記録の1画素に、バイパス部(海部)1014を少なくとも1つ以上、すなわち、インク吸収速度の速い顔料浸透層1600の露出部1001が1つ以上存在するようにすればよい。
図12では、想定されるインクジェット記録の1画素に対して、十分な画像濃度が得られる大きさのインク滴の直径をDとした場合に、着弾衝撃で2倍に拡がった直径2Dのインク滴1003Bを示している。
図12に示すように、直径2Dのインク滴1003Bの中には、膜状の熱可塑性樹脂1002で離散的に形成された島部1000で囲まれた海部1014が含まれている。同様に、
図13(a)および13(b)では、粒子状の熱可塑性樹脂1002がいくつか連結して、離散的に配置された島状の熱可塑性樹脂1002を形成し、着弾衝撃で拡がったインク液滴の下に、顔料浸透層1600が直接露出した海部が含まれている様子を示した。これにより、顔料インクは島状の熱可塑性樹脂部1000の上に残らず、顔料浸透層1600および溶媒吸収層1601に速やかに吸収されるため、保護性能の不良を引き起こさない。また、1画素に1つ以上の海部が存在することにより、着弾したインク(
図13(a)参照)は、所定の画素から大きく外れずに顔料浸透層1600に吸収されて浸透拡散する(
図17(b)参照)。このため、熱可塑性樹脂1002直下にも顔料粒子が拡散浸透してホワイトポイントの発生を抑制でき、かつ、溶媒吸収層1601との界面で顔料粒子が溶媒成分と固液分離して、薄膜状に稠密な顔料画像を形成する。その結果、画像の記録特性も良好になる。インクジェット画像記録の方式によっては、1画素を複数のインク滴によって記録する場合もあり、各々のインク滴が1画素よりも小さくなるが、それに応じて、1画素に存在する海部の数を増やせばよい。
【0169】
1.6.5 熱可塑性樹脂のその他の構成
1.6.5.1 粒子形状の熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂1002は一種に限らず複数種を使用してもよいが、少なくとも顔料浸透層1600と接する熱可塑性樹脂1002は粒子形状をほぼ保持していることが重要である。顔料浸透層1600と接する熱可塑性樹脂1002が粒子形状をほぼ保持していることにより、インクの色材が熱可塑性樹脂1002の下部に回りこみやすくなり、インクジェット記録による画像の記録特性が向上する。
【0170】
例えば、粒径の異なる熱可塑性樹脂1002を複数使用してもよい。粒径の大小は熱可塑性樹脂1002の体積に関係する。粒径が大きいと、熱可塑性樹脂1002の体積も大きくなり、熱可塑性樹脂1002の島部1000の高さを高くすることができるため、擦過性を向上させることができる。従って、粒径の大きい熱可塑性樹脂1002には、比較的硬い粒子を選定し、粒径の小さい熱可塑性樹脂1002は、粒径の大きい熱可塑性樹脂1002同士、および粒径の大きい熱可塑性樹脂1002と顔料浸透層1600とのバインダーとすることもできる。粒径の小さい熱可塑性樹脂1002をバインダーとすることにより、粒径の大きい熱可塑性樹脂1002の粒子間の空隙構造をほぼ維持しつつ、樹脂層1012を成膜することが可能となる。
【0171】
擦過性を良好にするために、熱可塑性樹脂を複数で構成することもできる。例えば、用途に応じた記録物の耐候性を考慮して、複数の材質の熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、
図18に示すように、樹脂層1012のバインダーとして作用する小粒径の熱可塑性樹脂1002S、極性溶媒でも剥離しにくい大粒径の熱可塑性樹脂1002L1、および非極性溶媒でも剥離しにくい大粒径の熱可塑性樹脂1002L2等の複数種類の材質の樹脂を用いてもよい。
【0172】
また、樹脂層1012は単層でも複層でもよい。例えば、
図19に示すように、顔料浸透層1600に密着し易い構成と、画像の保護性能に優れる構成として、それぞれの樹脂層1012に保護機能を分離してもよい。本発明のインクジェット記録媒体は熱可塑性樹脂1002の膜化温度以上の温度で十分な時間をかけて加熱すれば、樹脂層1012を膜化させることができ、顔料画像の保護性能をさらに高めることができる。
【0173】
1.6.5.2 熱可塑性樹脂の量(体積)
熱可塑性樹脂の量は用途に応じて調整すればよい。例えば、強い保護性能を必要とする場合は、加熱圧着後に軟化溶融した熱可塑性樹脂が、顔料浸透層の凹凸を吸収して膜化できる量であることが好ましい。
【0174】
1.6.5.3 膜状の熱可塑性樹脂
一方、本発明のインクジェット記録媒体では、顔料インクを顔料浸透層内で浸透拡散させられるので、粒子状の熱可塑性樹脂に限らず、例えば、
図15に示すように膜状の熱可塑性樹脂1002(c)を用いて、海島状に樹脂層1012を形成することも可能である。すなわち顔料も含めて顔料インクを等方的に浸透拡散させる顔料浸透層1600の場合、顔料浸透層1600の厚みと同程度の範囲であれば熱可塑性樹脂1002(c)の直下部に顔料インクが回り込んで、非画像部(ホワイトポイント)の発生を抑制することができる。従って、島状に離散的に配置された膜状の熱可塑性樹脂1002の各々の平面的な大きさが、顔料浸透層1600の厚みと同程度か、それより小さくなるようにすればよい。
【0175】
図15では、顔料浸透層1600の膜厚よりもやや小さい大きさの膜状の熱可塑性樹脂部1000を、顔料浸透層1600の表層面積に対して熱可塑性樹脂部1000の面積比率が50%以下になるように、顔料浸透層1600の表面に離散的に配置している。溶媒吸収層1601の厚みは、着弾した全ての顔料インクの溶媒成分を吸収できるように、想定される顔料インクのインク滴の大きさと同等かそれよりも厚く構成している。また、顔料浸透層1600の厚みは、溶媒吸収層1601の厚みよりも小さく構成されているので、インク滴の大きさに対して同等か、それより小さくなっている。
【0176】
一方、個々の熱可塑性樹脂部1000の大きさは、顔料浸透層1600の厚みと同程度か、それより小さくなるようにしている。従って、熱可塑性樹脂部1000の大きさは、インク滴の大きさに対して同等かより小さくなっている。個々のインク滴は着弾時の衝撃によって水平方向に約2倍程度広がるため、熱可塑性樹脂部1000の大きさがインク滴の大きさと同程度であっても、熱可塑性樹脂部1000上に着弾したインク滴は着弾時の衝撃により変形することで熱可塑性樹脂部1000から十分にはみ出して、顔料浸透層1600の露出部1001に垂れ込ますことができる。また、顔料浸透層1600に一部が接した顔料インクは、インク吸収速度の速い空隙吸収型の顔料浸透層1600内に全体が速やかに引き込まれ、熱可塑性樹脂1002(c)には残らない。また、顔料浸透層1600内部では、インク吸収速度のより速い溶媒吸収層1601に向けて、顔料インクは浸透拡散する。同時に、顔料インクは熱可塑性樹脂1002(c)直下の顔料浸透層1600内部にも浸透拡散することで、膜状の熱可塑性樹脂1002(c)直下の部分でも色材である顔料が回り込んで、非画像部となるホワイトポイントの発生を抑制できる。
【0177】
1.6.5.4 樹脂層の厚み
着弾したインクを引き込むように顔料浸透層1600の露出部1001に主体的に吸収させる上においては、着弾して広がったインクの一部が熱可塑性樹脂部1000からはみ出して顔料浸透層1600の露出部1001に垂れ込むときに、そのインクが千切れないように樹脂層1012の厚みを制御することが好ましい。すなわち、インクの粘度および表面張力を考慮して、樹脂層1012上のインクと、顔料浸透層1600の露出部1001に接したインクと、が千切れないように樹脂層1012の厚みを制御することが好ましい。また樹脂層1012の厚みは、視認性と擦過性が良好となるように調整することが肝要である。擦過性を良好にするために、軟化溶融膜化して接着する際に画像支持体の表面凹凸を吸収できる程度に樹脂層1012の厚みを調整する必要がある。すなわち、使用する用途に応じて適宜熱可塑性樹脂熱可塑性樹脂の厚みは適宜決定すればよい。
【0178】
例えば、色材である顔料が顔料浸透層1600と溶媒吸収層1601の界面で固液分離して、その全てが顔料浸透層1600の底部に残る場合を想定する。インクジェット記録により安定して吐出可能な水系インクにおける顔料などの固形分の重量濃度は、インクの顔料濃度を5%程度とする。このような場合には、樹脂層1012の厚みを溶媒吸収層1601の厚みの100分の3から2分の1程度の範囲とする。これによれば、熱可塑性樹脂1002の高さよりも顔料粒子が高く突出することがない。従って、顔料浸透層1600に受容された顔料粒子が溢れ出して擦過性が低下するおそれもなく、適正に保護膜を形成できる。また、加熱転写時に溶融した十分な量の熱可塑性樹脂1002により、溶融した顔料浸透層1600と溶融した熱可塑性樹脂1002により厚い保護膜を形成することができるため、さらに高い保護性能性が得られる。
【0179】
1.6.5.5 熱可塑性樹脂部の面積、露出部の面積
本発明において、前記顔料浸透層の前記露出部の面積は、前記顔料浸透層の全面積の50%以上を占めることが好ましい。顔料浸透層の露出部の面積は、インクの粘度、表面張力、および浸透異方性等を考慮して、エリアファクターがほぼ100%になるように、顔料浸透層の全表面に対する露出部の面積の比率(面積比率)を調整すれば良く、例えば、顔料浸透層内にほぼ等方的にインクが浸透する場合、インクジェット方式により安定に吐出可能な水系インクのにじみ率は約2倍となり、インク滴の直径は、着弾して浸透すると約2倍に広がることが知られている。ほぼ等方的に浸透したインクは、顔料浸透層内において水平方向に約25%程度広がるため、顔料浸透層の露出部の面積比率が50%以上であれば、エリアファクターをほぼ100%として、白抜けが無く、高濃度の濃度を得ることができる。
【0180】
次に、露出部の面積の測定方法について説明する。インクジェット記録媒体の断面をSEM(走査電子顕微鏡)によって観察し、熱可塑性樹脂粒子1002が顔料浸透層1600と接している部分の直径を測定する。このとき、顔料浸透層1600と接している熱可塑性樹脂粒子100個の直径の平均値を算出し、その平均値から1つの熱可塑性樹脂粒子が顔料浸透層1600と接している部分の面積を算出する。次に、記録面からのSEMの投影図より顔料浸透層1600と接する熱可塑性樹脂粒子の数を算出して、熱可塑性樹脂1002が顔料浸透層1600と接する部分の全面積を求める。測定範囲の全面積から熱可塑性樹脂1002が顔料浸透層1600と接する部分の全面積を引くことにより、表面に熱可塑性樹脂1002がない顔料浸透層1600の露出部1001の面積(露出部1001面積)を算出することが出来る。また、記録面側からのSEMの投影図より、熱可塑性樹脂部1000の面積(接着部面積)を確認することが出来る。
【0181】
1.6.5.6 熱可塑性樹脂の材料
本実施形態のインクジェット記録媒体1は、上述したように、基材50上に空隙吸収型の溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600が設けられ、その顔料浸透層1600の表面に樹脂層1012の熱可塑性樹脂1002を離散的に設けられている。このため、顔料浸透層1600の表面は、直接露出する露出部1001が残るように構成されている。樹脂層1012の熱可塑性樹脂1002は、インクをほぼ吸収しない熱可塑性樹脂、もしくはインクを吸収したとしても吸収速度が遅い熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0182】
樹脂層1012に着弾したインクの一部は、樹脂層1012における熱可塑性樹脂部1000の相互間の空間をバイパス的に通過して、顔料浸透層1600の露出部1001に直接接触する。そして、露出部1001に接触したインクが顔料浸透層1600に吸収され始めると、それに連なる他の部分のインクも途切れることなく順次顔料浸透層1600に引き込まれてゆく。すなわち、インクは、熱可塑性樹脂1002を殆ど介すことなく、顔料浸透層1600の露出部1001に素早く接することにより、その露出部1001との接触点を中心として、インク吸収速度の速い海部の顔料浸透層1600に引き込まれるように吸収される。従って、熱可塑性樹脂部1000の表面および熱可塑性樹脂部1000の内部にはインクが残りにくい。このように、熱可塑性樹脂1002はインクの吸収には直接的に関与しないため、その熱可塑性樹脂1002の材質はインクとは関係なく、擦過性を重視して選定することができる。また、包装材料として用いる場合はヒートシール層との接着性を重視して選定することができる。熱可塑性樹脂の材質は、特に限定されない。
【0183】
熱可塑性樹脂の材料としては、例えば、アクリル系樹脂、酢ビ樹脂、塩ビ樹脂、エチレン/酢ビ共重合樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン樹脂等の樹脂、またはそれらの共重合体樹脂が好ましい。上記の中でもアクリル系樹脂、ウレタン樹脂は、保護性能に優れると共に、加熱圧着工程で比較的低温での造膜が可能であって塗膜の透明性が高く、しかも包装材として用いた場合に裏面のヒートシール剤との良好な接着性を示すことから好ましく用いられる。熱可塑性樹脂1002は、1種もしくは複数種選択してもよい。
【0184】
図14の熱可塑性樹脂1002のように、顔料画像の保護性能に優れた熱可塑性樹脂1002(1)と、顔料浸透層1600への密着性に優れた熱可塑性樹脂1002(2)と、を選択しても良く、用途に応じて最適なものを選択できる。
【0185】
熱可塑性樹脂1002の色および透明性は、インクジェット記録媒体の使用目的に応じて決めればよい。熱可塑性樹脂1002は、透明であっても、半透明または不透明であってもよく、着色されていてもよい。例えば、顔料画像を基材50側と熱可塑性樹脂側の両面から視認可能とする場合には、樹脂層1012は透明であってもよい。また、顔料画像を基材50側からのみ視認可能とする場合には、背景色として樹脂層は着色してあってもよい。例えば、記録した顔料画像の画像視認性を向上させるための背景色として樹脂層1012を白色としてもよく、その場合には、熱可塑性樹脂1002の粒子径を可視光波長よりも大きくしたり、樹脂層1012の熱可塑性樹脂1002に白色顔料などを加えたりしておけばよい。また、記録内容を熱可塑性樹脂側から視認を可能とする場合には、熱可塑性樹脂1002は、十分に溶融膜化して高い透明性が得られるようにすることが好ましい。
【0186】
2. インクジェット記録媒体の製造方法 基材は、公知の方法によって製造可能であり、用途に応じて、基材の両面あるいは片面にヒートシール層を形成することができる。また、用途に応じて、5μm〜300μの厚さの基材が用いられる。機械的特性と熱的特性の面で好ましい基材の材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルム、包装材料としてはポリプロピレンフィルムなどを使用可能である。
【0187】
2.1 基材の形成方法
基材50上にインク受容層53を設けるにあたり、インク受容層53と基材50との密着力を高める目的で、基材50上に、公知の塗膜装置で予め密着層1603を設けておくこともできる。
【0188】
密着層1603は、基材50に前述した密着層1603を含有する組成物を、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、スプレーコーティング法、エアーナイフコーティング法、スロットダイコーティング法等により塗工して、乾燥することで形成する。塗工液中の離型剤の粒子濃度は、塗工液の塗工性などを考慮して適宜決定すればよく、特に限定されないが、塗膜速度と膜の均一性の観点から、塗工液の全質量に対して、0.1質量%以上かつ5質量%以下とすることが好ましい。塗工液の塗工量は、固形分換算で0.1g/m
2以上かつ1g/m
2以下とすることが好ましい。塗工量を0.1g/m
2以上、好ましくは1g/m
2以下とすることにより、溶剤吸収層1601と基材50との密着性を良好に保つことができる。
【0189】
また、基材50には、表面改質を行ってもよい。基材50の表面を粗面化する表面改質を行うことにより、基材50の濡れ性を向上させて、溶媒吸収層1601の塗膜性を向上させてもよい。表面改質の方法としては、特に制限はない。例えば、基材50の表面に、予めコロナ放電処理やプラズマ放電処理を行う方法、基材50の表面にIPAやアセトン等の有機溶剤を塗工する方法等を挙げることができる。これらの表面処理は、基材50と溶媒吸収層1601との密着性を高めて、それらの強度を向上させることもできるので、基材50から溶媒吸収層1601が剥離することを防止することができる。
【0190】
また、基材50の裏面に粘着層と剥離シートを設ける場合は、予め剥離シート上に粘着層を設けておき、これらを基材50と張り合わせるようにすればよい。また、基材50の裏面に前述した粘着層を構成する粘着材を含有する組成物を、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、スプレーコーティング法、エアーナイフコーティング法、スロットダイコーティング法等により塗工して、乾燥し、その後剥離シートを張り合わせることも可能である。この場合、塗工液中の粘着材の濃度は、塗工液の塗工性などを考慮して適宜決定すればよく、特に限定されないが、塗膜速度と膜の均一性の観点から、塗工液の全質量に対して、0.1質量%以上かつ5質量%以下とすることが好ましい。塗工液の塗工量は、固形分換算で0.1g/m
2以上かつ1g/m
2以下とすることが好ましい。塗工量を0.1g/m
2以上、好ましくは1g/m
2以下とすることにより、画像支持体に貼付した場合の接着性を良好に保つことができる。
【0191】
一方、基材50の両面あるいは片面にヒートシール層を設ける場合は、ヒートシール層は、ヒートシール性樹脂材料を、ドライラミネートや押出しラミネート等によって基材50に積層して形成することができる。押出しラミネートによってヒートシール層を形成する方法としては、(i)基材50に対して、有機チタネート系、ポリエチレン・イミン、ウレタン系、ポリエステル系等のアンカー剤を塗布し、このアンカー剤の塗布面に、PP、EVA、アイオノマー等によるヒートシール層をフィルム状に溶融押出し成形する押出しラミネート法;(ii)2台以上の押出し機を用いて基材50になる樹脂とヒートシール層になる樹脂とを、溶融状態でダイ内部またはダイの開口部で接合させる共押し出しラミネート法等を使用することができる。
【0192】
2.2 溶媒吸収層1601の形成方法
溶媒吸収層1601は、少なくとも無機微粒子または樹脂微粒子と、水溶性樹脂とを適当な媒体と混合して塗工液を調製し、これを基材50の表面に塗布して乾燥させることによって形成することができる。用途に応じて、その他の添加剤として、例えば、界面活性剤、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、インク定着剤、ドット調整剤、着色剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、pH調整剤などを塗工液に加えてもよい。塗工液中の無機微粒子または樹脂微粒子の粒子濃度は、塗工液の塗工性などを考慮して適宜決定すればよく、特に限定されない。但し、塗膜速度と膜の均一性の観点から、塗工液の全質量に対して、10質量%以上かつ30質量%以下とすることが好ましい。
【0193】
溶媒吸収層1601は、前述した基材50の表面に、上記の塗工液を塗工することにより形成することできる。その塗工後は、必要により塗工液の乾燥を行う。
【0194】
塗工方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ブレードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、スロットダイコーティング法、バーコーティング法、グラビアコーティング法、ロールコーティング法などを利用することができる。
【0195】
塗工液の塗工量は、固形分換算で10g/m
2以上かつ40g/m
2以下とすることが好ましい。塗工量を10g/m
2以上、好ましくは15g/m
2以上とすることにより、インク中の溶媒成分の吸収性に優れた溶媒吸収層1601を形成することができる。一方、塗工量を40g/m
2以下、より好ましくは20g/m
2以下とすることにより、塗工層を乾燥させる際に、インクジェット記録媒体にカールが発生し難くなる。なお、顔料浸透層1600と溶媒吸収層1601の密着層1603を設ける場合は、密着剤と適当な媒体を混合した塗工液を調製し、これを溶媒吸収層1601の表面に塗布して乾燥させることによって形成することができる。なお、塗工液には、必要に応じて界面活性剤を添加してもよい。さらに、粒子状の密着剤の塗工液で密着層1603を塗工する場合、微細な密着剤粒子が溶媒吸収層1601の空隙に入り込まないように、溶媒吸収層1601の表面を予め湿し水・浸し水などで処理して、溶媒吸収層1601の空隙を液体で充たしてから、密着剤を塗工すればよい。
【0196】
2.3 顔料浸透層の形成方法
顔料吸収層1600は、少なくとも樹脂微粒子と、水溶性樹脂とを適当な媒体と混合して塗工液を調製し、これを溶媒吸収層1601の表面に塗布して乾燥させることによって形成することができる。但し、溶媒吸収層1601の表面に顔料浸透層1600形成用の塗工液を塗工する場合は、溶媒吸収層1601の空隙に顔料浸透層1600の塗工液の水分とともに水溶性樹脂も浸透することにより、溶媒吸収層1601の空隙が埋まってしまう場合がある。また、顔料吸収層1600には溶媒吸収層1601の空隙よりも大きな樹脂粒子を用いているが、粒度分布がシャープでなく微粒子カットが不十分な場合など、空隙よりも小粒径の樹脂微粒子が塗工液に含まれる場合もある。この場合、溶媒吸収層1601の空隙が埋まってしまうことがある。
【0197】
本実施形態のインクジェット記録媒体1における溶媒吸収層1601では、溶媒吸収層1601にインク中の水分や溶媒成分をほぼ全量や速やかに吸収できるように、高いインク吸収速度を持たせる必要上、空隙は重要である。また、顔料浸透層1600の塗工液の水分が溶媒吸収層1601の空隙内に浸透して溶媒吸収層1601の空隙に残存する空気と置き換わる過程で発生した気泡は、顔料浸透層1600の塗工液を介して排出される。この際、顔料浸透層1600の塗工液中で気泡がトラップされて塗工面に残ると、塗工不良を引き起こす場合もある。このような場合には、溶媒吸収層1601の表面を予め湿し水・浸し水などで処理して、溶媒吸収層1601の空隙を液体で充たしてから、顔料浸透層1600形成用の塗工液を塗工すればよい。湿し水・浸し水が、溶媒吸収層1601の空隙を埋めることにより、顔料浸透層1600形成用の塗工液を塗工する前に溶媒吸収層1601の空隙に存在する気泡を外に放出することができる。さらに、顔料浸透層1600形成用の塗工液にあたり、水溶性樹脂や微細な樹脂微粒子の空隙への侵入を防止することができる。
【0198】
なお、塗工液中の樹脂微粒子の粒子濃度は、溶媒吸収層1601と同様に塗工液の塗工性などを考慮して適宜決定すればよく、特に限定されない。但し、塗膜速度と膜の均一性の観点から、塗工液の全質量に対して、10質量%以上かつ30質量%以下とすることが好ましい。塗工液の塗工量は、固形分換算で1g/m
2以上かつ10g/m
2以下とすることが好ましい。塗工量を1g/m
2以上、好ましくは10g/m
2以下とすることにより、良好な顔料浸透性および顔料拡散性を示すことができる。
【0199】
また、塗工方法としては、溶媒吸収層1601の形成方法で記載した同等の方法を用いることができる。なお、溶融膜化可能な顔料浸透層1600の形成には、顔料浸透層1600の塗工液を塗工後の乾燥温度を厳密制御する。すなわち、顔料浸透層1600を形成する樹脂微粒子が粒子状態を維持して空隙構造を形成するように、顔料浸透層1600の形成時の乾燥温度を、樹脂微粒子の溶融膜化温度Tgよりも低く設定すればよい。顔料浸透層1600の形成時に、樹脂微粒子溶融膜化温度以上の温度で加熱乾燥すると、樹脂微粒子が造膜状態となり、空隙構造を形成することができないため、注意が必要である。なお、顔料浸透層1600の形成時の乾燥温度が高いと塗工速度を高めることができるため、生産性の観点からは、顔料浸透層1600の形成時の乾燥温度をできるだけ高くするほうが好ましい。
【0200】
2.4 樹脂層の形成
本実施形態のインクジェット記録媒体1は、基材50上に積層された空隙吸収型のインク受容層である溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600の表面に、熱可塑性樹脂1002を含有する樹脂層1012を形成するための塗工液を塗布する。この際、顔料浸透層1600の表面に樹脂層1012の熱可塑性樹脂1002を島状に(離散的に)設けることにより、顔料浸透層1600の表面が海状に露出する露出部1001が残こるように構成する。
【0201】
塗工液中の熱可塑性樹脂の濃度は、塗工液の塗工性などを考慮して適宜決定すればよく、特に限定されない。塗工液中の熱可塑性樹脂濃度は、塗工液の塗工性や熱可塑性樹脂部1000の離散性などを考慮して、適宜決定すればよい。但し、塗膜速度と膜の均一性の観点からは、塗工液の全質量に対して、2質量%以上かつ40質量%以下とすることが好ましい。
【0202】
塗工方法としては、空隙吸収型の顔料浸透層1600の表面に、樹脂層1012の熱可塑性樹脂1002を離散的に設ける必要があるため、グラビアコーティング法を用いることが好ましい。その場合、グラビアロールの溝の線数は、好ましく200線、より好ましくは300線、さらに好ましくは600線とする。この線数が多くなるほど、インクジェット記録による画像の1画素内に、1つ以上の空隙吸収型の顔料浸透層1600の露出部1001を容易に形成することができる。また線数を増やすことで島と島の間隔が短くなり、少しの熱可塑性樹脂1002の流動で島と島が結合して膜形成することができるため、加熱圧着した場合に溶融膜化時間が少なくなる 基材50上に形成された顔料浸透層1600の表面に、粒子状の熱可塑性樹脂1002の塗工液で樹脂層1012を塗工する場合、熱可塑性樹脂1002の粒子が顔料浸透層1600の空隙に入り込まないように注意が必要である。顔料浸透層1600の空隙よりも大きな熱可塑性樹脂1002の粒子を用いている。しかし、熱可塑性樹脂1002の粒子が2次凝集体であったり、粒度分布がシャープでなく微粒子カットが不十分であったりした場合、空隙よりも小粒径の熱可塑性樹脂1002が塗工液に含まれる場合もある。
【0203】
本実施形態のインクジェット記録媒体1における顔料浸透層1600では、樹脂層1012に顔料インクを殆ど残すことなく速やかに吸収できるような高いインク吸収速度を持たせる上で、空隙は重要である。そのため、熱可塑性樹脂1002の塗工液を塗る前に、予め顔料浸透層1600の空隙を浸し水などで処理して、顔料浸透層1600の空隙を液体で充たしてから、熱可塑性樹脂1002の塗工液を塗工することにより、微細な熱可塑性樹脂1002の粒子が空隙へと侵入するのを防止することができる。
【0204】
また、熱可塑性樹脂1002は、加熱圧着によりに加熱されると軟化溶融膜化する材料で構成されており、樹脂層1012の塗膜後の乾燥工程にも十分な配慮が必要である。すなわち、熱可塑性樹脂1002が軟化溶融する膜化温度、あるいはガラス転移温度以下で乾燥することが好ましい。もちろん、顔料浸透層1600の露出部1001が顔料インクでのインクジェット記録に見合うだけの空隙構造を維持できていれば、乾燥工程において熱可塑性樹脂1002が溶融軟化して、一部が流動したとしても構わない。従って、予め軟化溶融膜化する温度を測定しておき、樹脂層1012の海と島の構造を維持しつつ生産性に優れた乾燥温度を設定することが好ましい。
【0205】
また、熱可塑性樹脂1002に複数種の粒子を含ませ、ある1つの粒子に、粒子状で残存する熱可塑性樹脂のバインダーとしての機能、および顔料浸透層1600の水溶性樹脂との接着性を向上させる機能を持たせてもよい。このような場合には、バインダーとして機能する熱可塑性樹脂1002の膜化温度以上、かつ粒子状で残存する熱可塑性樹脂の膜化温度以下で乾燥することが好ましい。このように、熱可塑性樹脂1002の性質に応じて乾燥温度を適宜選択することにより、インクジェットの記録特性と保護性能とを両立させることができる。
【0206】
また、熱可塑性樹脂塗工液は、乾燥の過程において熱可塑性樹脂塗工液中の水分が蒸発するため、塗工成膜時には熱可塑性樹脂塗工液の濃度が高くなる。そのため、乾燥前においては、熱可塑性樹脂塗工液を構成する熱可塑性樹脂粒子はほぼ単粒子として分散されているが、乾燥の過程において熱可塑性樹脂塗工液の濃度が高くなると、熱可塑性樹脂粒子の分散が破壊され易くなる。その結果、熱可塑性樹脂粒子同士の衝突・合一により、複数の粒子が凝集することになる。熱可塑性樹脂塗工液は、このように複数の粒子が凝集した状態で成膜されることにより、顔料浸透層1600の表面に、樹脂層1012の熱可塑性樹脂1002を離散的に設けることができる。従って、熱可塑性樹脂1002を単粒子で離散的に設ける場合には、乾燥前の熱可塑性樹脂1002塗工液の濃度を低くすればよい。また、熱可塑性樹脂1002を複数の粒子が凝集した状態で離散的に設ける場合には、乾燥前の熱可塑性樹脂1002塗工液の濃度を高くすればよい。
【0207】
このように、乾燥前の熱可塑性樹脂塗工液の濃度を適宜調整することにより、成膜時における樹脂層1012の熱可塑性樹脂1002の離散状態を調整することができる。樹脂層1012の熱可塑性樹脂1002の離散状態は、インクジェット記録媒体および記録物の用途に応じて制御することができる。熱可塑性樹脂1002を単粒子で離散的に設けた場合には、離散的に配された各々の熱可塑性樹脂1002の強度が低く、耐擦過性が低下する場合が有る。一方、熱可塑性樹脂1002を複数の粒子が凝集した状態で離散的に設けた場合には、離散的に配された各々の熱可塑性樹脂1002の強度が高く、耐擦過性を高めることが可能である。
【0208】
また、転写ローラや転写フィルムなど表面上に、島状に離散した形で熱可塑性樹脂1002の接着膜を設けておき、顔料浸透層1600の表面に圧着転写してもよい。転写ローラや転写フィルムなど表面形成した熱可塑性樹脂の離散パターンをそのまま顔料浸透層1600に転写できることから、顔料浸透層1600表面に形成された熱可塑性樹脂1002の離散状態を任意にコントロールすることができる。この方法によれば、顔料浸透層1600の空隙への熱可塑性樹脂1002の浸透を考慮することないため、顔料浸透層1600に浸し水等の特別な処理を行うことなく、樹脂層1012を顔料浸透層1600の表面に離散的に形成できる。
【0209】
さらに、基材50上に、密着層1603の塗工液、溶媒吸収層1601の塗工液、顔料浸透層1600の塗工液、樹脂層1012の塗工液をスライドダイコーターやスロットダイコーター、カーテンコーターを使用して、同時に塗工して、密着層1603、溶媒吸収層1601、顔料浸透層1600、樹脂層1012を同時に形成してもよい。上述の方法は、密着層1603、溶媒吸収層1601、顔料浸透層1600、樹脂層1012の各々の塗工液の粘度や表面張力を適切に調整することにより、各々塗工液を乾燥の過程で混合させることなく製膜することができる。すなわち、溶媒吸収層1601や顔料吸収層の空隙を埋めずに、溶媒吸収層1601や顔料浸透層1600を形成でき、さらに樹脂層1012の熱可塑性樹脂1002を離散的に顔料浸透層1600に設けることができる。
【0210】
3. 記録物の製造方法
3.1 インクジェット方式による画像記録工程
まず、本実施形態のインクジェット記録媒体1に対する画像記録方法について説明する。本実施形態では、基材50上に空隙吸収型のインク受容層53を構成する溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600とを有するインクジェット記録媒体1(
図1参照)を用いる。このインクジェット記録媒体1に対し、顔料インクを用いてインクジェット記録方式で記録を行うことにより、
図2(a)および2(b)に示すように、顔料浸透層1600に顔料画像1606を形成することができる。その後、必要に応じて、顔料浸透層1600を加熱ローラ21を用いて加熱圧着するにより(
図2(c)参照)、顔料浸透層で顔料画像を包み込むように溶融膜化(
図2(c)参照)することで、顔料保護膜1650を形成して、強固な保護膜とすることができる。なお、加熱ローラ21以外の加熱圧着手段を用いて、顔料浸透層1600を溶融膜化してもよい。
【0211】
上述のインクジェット記録方式とは、記録ヘッドに形成された複数のノズルから、インクジェット記録媒体のインクジェット記録面に対してインク(インク滴)を吐出して画像を記録する方式である。インクジェット記録方式の種類は特に限定されず、サーマルインクジェット方式やピエゾ方式のどちらも使用できる。サーマルインクジェット方式は、駆動パルスに応じた熱エネルギーをノズル内のインクに付与して、そのインクに膜沸騰により気泡を形成させ、この気泡によってノズルからインク滴を吐出させる。このようなサーマルインクジェット記録方式は、高解像度で高品質な画像を高速記録できるため好ましい。
【0212】
インクジェット記録装置は、記録ヘッドを本発明の顔料浸透層1600表面に接触させる必要が無く、極めて良好で安定した画像を記録することができる。シリアルスキャン方式の場合には、記録ヘッドがインクを吐出しつつ主走査方向に移動する動作と、主走査方向と交差(例えば、直交)する副走査方向に記録媒体を搬送する動作と、を繰り返すことによって画像を記録する。このようなシリアルスキャン方式においては、記録ヘッドから吐出するインク滴を小さくして、高品質な画像を容易に記録することができる。
【0213】
このようなシリアルスキャン方式のプリンタとしては、顔料インクを用いて記録するものであれば、公知の小型のインクジェットプリンタ、あるいは大判プリンタを使用することができる。また、シリアルスキャン方式において、同一の記録領域に対して複数回の記録ヘッドの走査によって所定の時間差をもって顔料インクを複数回着弾(分割重複走査)させて記録することも可能である。この場合にも、顔料インクの蒸発速度に比べて空隙吸収型の顔料浸透層1600のインク吸収速度が十分に速いため、顔料浸透層1600あるいは熱可塑性樹脂1002上にインクは残留しにくく高い擦過性が維持できる。
【0214】
一方、フルライン方式の場合には、インクの吐出口およびインク流路などからなるノズルを複数集積した長尺なマルチノズルヘッドを用いる。そして、吐出口の配列方向と交差(例えば、直交)する方向に、記録媒体を連続的に搬送しつつ、マルチノズルヘッドからインクを吐出することによって画像を記録する。このようなフルライン方式のプリンタは、高解像度で高品質な画像を高速に記録することができる。なお、インクジェット記録媒体に画像を記録する際には、画像を視認する方向に応じて、反転画像あるいは正像画像を記録すればよく、その画像は使用用途に応じて選択することができる。
【0215】
3.1.1 顔料インク
本実施形態のインクジェット記録媒体では、顔料粒子が浸透拡散可能な顔料浸透層1600を用いることで、顔料浸透層1600の底部に稠密な顔料画像を形成し、溶媒吸収層1601に顔料インクの水成分および溶媒成分をほぼ全量浸透させる。これにより、記録特性と保護性能とを両立させることができる。様々な用途に利用可能な記録画像の保存性・耐久性を考慮すると、本実施形態のインクジェット記録媒体1には、顔料インクを用いることが好ましい。
【0216】
また、水系顔料インクは、インクの成分の内、60〜80%が溶媒としての水成分であり、20%〜30%がその他の溶媒成分、1〜10%が顔料成分で構成されている。水性顔料インクにおいては、溶媒成分の殆どは水溶性であり、不揮発性であり、かつ不活性成分(反応性がすくない)のため、人体に対する刺激性が少ない成分で構成されている。従って、画像記録後に、溶媒成分が長時間に亘って揮発し続けたり、あるいは、活性の高い成分が未反応のまま残存しない。このため、揮発性溶剤を主体とする溶剤インクや、活性成分を含む(反応性の高い)モノマーを用いているUVインクなどと比較して、水系顔料インクは、極めて安全性が高いため、特に好ましく用いられる。
【0217】
顔料インクにおいては、インクの顔料色材の平均粒子径と、顔料浸透層1600と溶媒吸収層1601それぞれの平均細孔直径と、に応じて顔料インクの吸収状態が異なる。すなわち、想定される顔料インクの平均粒子径に対して、顔料浸透層1600の平均細孔直径が大きく、溶媒浸吸収層の平均細孔直径が小さなインクジェット記録媒体を用いればよい。一般に、顔料粒子の平均粒子径は、40nm〜110nm程度であるので、高精細な画像が得られる小粒径の顔料粒子を用いた顔料インクを用いる場合には、顔料粒子の平均粒子径は40nm〜50nm程度である。一方、安価で安定的な大粒径の顔料粒子を含んだ顔料インクを用いる場合、顔料粒子の平均粒子径は90nm〜110nm程度である。従って、顔料浸透層と溶媒吸収層の平均細孔径を、想定される顔料インクに合わせて調整すれば良い。各々のインク受容層の空隙の大きさが、顔料粒子の大きさに対して適切な組合せのインクジェット記録媒体を用いることによって、顔料浸透層1600と溶媒吸収層1601との界面に、稠密で高精細な顔料画像が形成できる。また、顔料インクの溶媒である液体成分は溶媒吸収層1601側に速やかにほぼ全量が吸収されるため、顔料浸透層1600に液体成分が殆ど残らないので、インクジェット記録の後、直ちに加熱ローラ21を用いて加熱圧着工程を行うことができ、顔料浸透層1600を速やかに溶融膜化することが可能になり、記録物の製造が高速に行うことが可能になる。
【0218】
顔料インク中の顔料成分としては、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、およびスルホン基のうちの少なくとも1種の官能基またはその塩を結合された自己分散顔料、あるいは顔料粒子の周りを樹脂で被覆した樹脂分散型の顔料を用いることができる。本実施形態のインクジェット記録媒体1においては、顔料浸透層1600の厚みを適切に調整することにより、固液分離して顔料浸透層1600内に顔料色材を全て収納し、顔料浸透層1600から色材が溢れて表面に露出しないようにすることができる。このように、顔料浸透層1600の厚みを調整することにより、加熱圧着時に顔料浸透層1600が溶融膜化した場合に顔料浸透層1600が顔料画像を包み込むように膜化することで、顔料色材を完全に固定化することができ、強固な保護膜とすることが可能になる。従って、顔料粒子自体に接着性をもたない自己分散顔料を用いる場合に好適である。
【0219】
また、樹脂分散型の顔料は、インク媒体と分離した後の顔料粒子同士の結着力を高めて、顔料浸透層1600の底部に強固な薄膜状の顔料画像を形成することができる。顔料インク中の液体成分である溶媒は、顔料浸透層1600よりもインク吸収速度がさらに速い溶媒吸収層1601にほぼ全量が吸収されるため、顔料画像の水分は殆ど残らない。そのため、樹脂分散型の顔料粒子は、顔料分散用に加えられた分散樹脂によって近接し、より強固に互いに結合する。また、分散樹脂は、インク受容層53の水溶性樹脂のポリビニルアルコールと親和性が高いため、加熱圧着時の熱によって分散樹脂、水溶性樹脂が溶融すると、樹脂分散顔料は顔料浸透層1600内で強固に接着される。
【0220】
顔料粒子の周りを被覆する樹脂としては、酸価が100〜160mgKOH/gである(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が好ましい。酸価を100mgKOH/g以上とすると、サーマル方式でインクを吐出するインクジェット記録方式において、インクの吐出安定性が向上する。一方、酸価を160mgKOH/g以下とすると、顔料粒子に対して相対的に疎水性を有するようになり、インクの定着性および耐滲み性が良好になる。従って、インクの高速定着および高速記録に適する。
【0221】
ここで酸価とは、1gの樹脂を中和するために必要となるKOHの量(mg)であり、その親水性を示す指標となり得るものである。また、この場合の酸価は、樹脂分散剤を構成する各モノマーの組成比から計算により求めることもできる。具体的な顔料分散体の酸価の測定方法としては、電位差滴定により酸価を求める、Titrino(Metrohm製)等を使用することができる。
【0222】
3.1.2 顔料インクの浸透拡散性
本発明においては、インクジェット記録用のインクの表面張力や粘度が適切に制御されることによって、顔料浸透層1600の表面の露出部1001に接したインクが顔料浸透層1600に吸収され始めると、顔料浸透層1600内部に引き込まれていく。このようなインクの粘度ηは、1.5〜10.0mPa・sであることが好ましく、さらに好ましくは、1.6〜5.0mPa・s、特に好ましくは1.7〜3.5mPa・sである。
【0223】
一方、インクの表面張力γは、25〜45mN/mであることが好ましい。すなわち、インクの表面張力や粘度は、着弾したインクが顔料浸透層1600の表面に接した後、そのインクが速やかに顔料浸透層1600に吸収されるように、制御すればよい。また、顔料浸透層1600に浸透したインクが、顔料インクは顔料も含めて薄膜の顔料浸透層1600内に浸透拡散するように、インクの表面張力や粘度を制御すればよい。インクの粘度を上記の範囲に適切に調整することにより、顔料インクは、顔料浸透層1600内を顔料浸透層1600の浸透異方性に応じて、膜厚方向および水平方向に拡がりながら拡散しながら浸透する。これにより、適切なドットが形成され、高精彩の画像記録が可能となる。
【0224】
顔料浸透層1600を通過した顔料インクが溶媒吸収層1601との界面に到達すると、顔料インクの顔料成分と、水成分および溶剤成分とが、固液分離して、顔料浸透層1600側の界面に薄膜で稠密な顔料画像が形成される。このとき画像の形成と共に、溶媒吸収層1601には溶媒成分のみが吸収されるため、高濃度の画像を形成することができる。また、インクの粘度を上記の範囲に適切に調整することにより、インクの吐出時におけるインクの流動性が向上し、ノズルへのインク供給性、延いてはインクの吐出安定性も向上する。また、インクの表面張力を上記の範囲に調整することにより、インクを吐出時に、インク吐出口のメニスカスを維持することができる。なお、顔料浸透層1600の表面に海島状に樹脂層1012を設けた場合においても、上述した範囲内にインクの表面張力や粘度を制御すれば、インクジェット記録媒体1の記録面に着弾したインクの一部が保護強化部からはみ出してインク受容層1601の露出部1001に垂れ込む際に、樹脂層1012表面においてインクが千切れないようにすることができる。さらには、インクの一部が樹脂層1012における熱可塑性樹脂部1000の相互間の空間をバイパス的に通過して、インク受容層の表面の露出部1001に接した後、そのインクがインク受容層に引き込まれて吸収されるように、制御することもできる。
【0225】
インクの粘度は、JIS Z 8803に準拠し、温度25℃の条件下、E型粘度計(例えば、東機産業製「RE−80L粘度計」等)を用いて測定した値を意味するものとする。インクの粘度は、界面活性剤の種類や量の他、水溶性有機溶媒の種類や量等により調整することができる。インクの表面張力は、温度25℃の条件下において自動表面張力計(例えば、協和界面科学製「CBVP−Z型」等)を用い、白金プレートを用いたプレート法により測定した値を意味するものとする。インクの表面張力は、界面活性剤の添加量、水溶性有機溶剤の種類及び含有量等により調整することができる。
【0226】
3.1.3 顔料濃度
本実施形態において、インク中の色材濃度は特に規定はされない。但し、好ましくは0.5%以上10%以下、より好ましくは1%以上5%以下である。色材濃度をこのような範囲とすることにより、画像の視認性と擦過性とを両立させることができる。特に、顔料インクの場合、顔料浸透層1600内部に浸透した顔料粒子を顔料浸透層1600内部にほぼ全て収納するためには、色材濃度を厳密に制御する必要がある。すなわち、顔料粒子が顔料浸透層1600の空隙を満たすことによる顔料粒子の溢れが生じない範囲で、かつ画像の視認性を向上させることができる範囲において、顔料濃度をできる限り高くすることが好ましい。要は顔料浸透層1600内で顔料を受容できるように、顔料濃度や記録密度に応じて、顔料浸透層1600の空隙容量を調整すればよい。すなわち、インクの顔料濃度が高くして、顔料濃度や記録密度を高くする場合は、空隙容量を高くして、顔料粒子を空隙内部に全て収納できるようにすればよい。インク濃度を上述した範囲に制御することにより、インクの粘度を最適に制御して、インクの吐出時におけるインクの流動性を向上させて、記録ヘッドのノズルへのインク供給性、延いてはインクの吐出安定性を向上させることができる。
【0227】
3.1.4 白インク
本発明においては、任意の画像の記録後もしくは記録前に、顔料浸透層の少なくとも一部に、白インク(白色のインク)を用いてインクジェット記録を行うことができる。用途に応じて、顔料浸透層に記録された画像の背景となるように、白インクで記録すれば、隠蔽性が向上し、画像の視認性を向上させることが出来る。白色インクの組成物としては、インクジェット記録方法において通常使用されている任意の白色インクの組成物を用いることができる。このような白色顔料としては、公知の材料を適用可能であり、例えば、無機白色顔料、有機白色顔料、白色の中空ポリマー微粒子などを挙げることができる。白インクの白色顔料粒子の平均粒子径が顔料浸透層の平均細孔直径よりも大きい場合には、顔料浸透層の表面で、白色顔料成分と、水成分および溶媒成分と、が固液分離する。樹脂層における熱可塑性樹脂部(島部)の高さが十分あれば、加熱圧着により、樹脂層によって白インク顔料成分も被覆されるため、白インクの顔料が表面に残らず、良好な耐擦過性が得られる。
【0228】
3.2 加熱圧着工程
本実施形態におけるインクジェット記録媒体1の顔料浸透層1600は、
図16(a)ないし16(d)に示すように、画像形成後に加熱圧着することにより、顔料浸透層1600が顔料画像を包み込むように膜化することで、顔料色材を完全に固定化することができる。このため、強固な保護膜を形成することが可能になる。記録物を作製する場合には、まず本実施形態のインクジェット記録媒体1の顔料浸透層1600表面に、画像を視認する方向に応じて正像画像あるいは反転画像を記録する。次に、加熱圧着により顔料浸透層1600の樹脂微粒子を溶融膜化(自己溶融)させることによって記録物を得る。
【0229】
加熱圧着工程では、特別な乾燥処理を行わなくても、溶媒吸収層1601が水分を十分に含んだ状態であれば、顔料浸透層1600を加熱溶融膜化することが可能である。すなわち、顔料インクの溶媒である液体成分は、顔料浸透層1600に殆ど残っておらず、ほぼ全量が溶媒吸収層1601に吸収保持されている。また、加熱圧着時おいて、溶媒吸収層1601の空隙構造は壊れにくく、加熱圧着後も空隙構造を保持することが可能である。従って、顔料浸透層1600の樹脂微粒子が溶融膜化しても、溶媒吸収層1601は吸収したインクを溶媒吸収層1601の内部に保持することができる。また、溶媒吸収層1601の内部に保持された蒸気が発生しても、その水蒸気を内部に封じ込めることができるため、溶媒吸収層1601内に水分が十分に含まれた状態でも顔料浸透層1600を溶融膜化することができる。本発明において好ましく用いる加熱装置としては、加熱ファン、加熱ベルト、熱転写ヘッド等を用いる装置が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0230】
3.2.1 ヒートローラによる圧着
本発明においては、顔料浸透層に、熱や圧力によって溶融膜化する樹脂微粒子を用いることが特に好ましいため、上記の加熱圧着方法の中でも、加熱と圧着とを併用した加熱圧着する方法が好ましい。このような加熱圧着のための構成としては、ヒートローラと加圧ローラを併用した構成が挙げられる。本実施形態では、インクジェット記録媒体の顔料浸透層1600に画像1606を形成した後、加熱したヒートローラ21と加圧ローラ22との間を通して搬送することにより、顔料浸透層1600を溶融膜化して記録物を得ることができる。
【0231】
また本実施形態において、顔料浸透層1600を溶融膜化する際、加熱圧着後にも溶媒吸収層1601の空隙構造が維持されるように、加熱圧着時の熱や圧力を制御することが重要である。
図2(c)に示すように、ヒートローラ21と加圧ローラ22とによって加圧加熱されることにより、顔料浸透層1600は溶融膜化されるが、溶媒吸収層1601に吸収された顔料インクの溶媒成分1607は空隙構造に保持されたままである。空隙構造を維持することにより、加熱圧着時の熱や圧力によってインクの液体成分が溶媒吸収層1607の空隙内で突沸して蒸気が発生したとしても、各々の空隙内に蒸気を封じ込めることができる。その結果、顔料浸透層1600に空気層などが形成されず、顔料浸透層1600の溶融膜化を良好に行うことができる。また、加熱圧着を行った場合にも、溶媒吸収層1601が空隙構造を維持し、圧力による空隙の潰れ、および加熱による空隙の溶解を抑制する。このため、インクの液体成分である不揮発性溶剤が顔料浸透層1601に染み出すことは抑制され、顔料浸透層の溶融膜化は良好に行われる。
【0232】
加熱圧着の温度は、顔料浸透層の樹脂微粒子が溶融膜化する温度以上になるように制御することが好ましい。顔料浸透層の樹脂微粒子が溶融膜化する温度以上に制御することにより、顔料浸透層1600は顔料画像を包み込んだ状態で膜化する。その結果、顔料粒子を完全に固定化することができ、強固な保護膜を形成することが可能になる。また、顔料浸透層1600の表面に離散的に熱可塑性樹脂1002を配したインクジェット記録媒体1を用いた場合は、熱可塑性樹脂1002が溶融膜化する温度以上になるように加熱圧着温度を制御する。加熱圧着温度を熱可塑性樹脂1002が溶融膜化する温度以上にすることにより、離散的に配された熱可塑性樹脂1002が顔料浸透層1600と一体化して顔料画像を包み込むように膜化する。これにより、顔料粒子を完全に固定化することができ、より強固な保護膜を形成することができる。
【0233】
また、加熱圧着温度は、溶媒吸収層の空隙構造を必要以上に潰すことなく、加熱圧着後も空隙構造を維持するように制御することも重要である。すなわち、加熱によって、空隙が溶解してインクの液体成分である不揮発性溶剤が表面に染み出さないように、空隙を構成する成分の溶解温度以下で加熱圧着させることが好ましい。また、インクの水や溶媒成分が個々の空隙内で突沸や蒸発しないように、加熱圧着温度を、溶媒成分の沸点以下、特に水の沸点以下とすることが好ましい。
【0234】
加熱圧着の圧力は、0.5kg/cm以上かつ7.0kg/cm以下とすることが好ましい。加熱圧着の圧力を0.5kg/cm以上とすることにより、顔料浸透層が顔料画像を包み込むように膜化することで、顔料粒子を完全に固定化することができ、強固な保護膜を形成することが可能になる。一方、加熱圧着の圧力を7.0kg/cm以下とすることにより、溶媒吸収層の空隙構造を必要以上に潰さず、空隙を維持しながら加熱圧着を行うことができる。これにより、インクの液体成分である不揮発性溶剤が表面に染み出すことを抑制することができ、顔料浸透層の溶融膜化を良好に行うことができる。
【0235】
また、顔料浸透層1600と加圧ローラ22としては、シリコーンローラを使用することが好ましい。シリコーンローラは、ヒートローラ21と加圧ローラ22との間を顔料浸透層1600が通過する際に、顔料浸透層1600の表面がヒートローラ21に接着し難くなる。
【0236】
4. ヒートシール可能な記録シートの包装と加熱圧着
本実施形態のインクジェット記録媒体を包装フィルムとして使用する場合、封緘部をヒートシールによって形成するには、次のような方法を用いることが可能である。例えば、一定温度に加熱した熱板をシール予定面に圧着するヒートシール法、インパルスシール法、熱溶断シール法、インパルス溶断シール法、溶融シール法、高周波シール法、超音波シール法等を適用することができる。
【0237】
このとき、加熱圧着の温度は60℃以上に制御することが好ましく、60℃以上160℃以下に制御することがさらに好ましい。加熱圧着の温度を60℃以上とすることにより、ヒートシール層と顔料浸透層1600およびヒートシール層同士を接着することができる。一方、加熱圧着の温度を160℃以下とすることにより、過剰な熱よる基材50の熱変形を避けることができる。また、被包装物の変形は上記の温度範囲で短時間の加熱により防止することができる。さらに、被包装物にヒートシール層が張り付くことを防止することができる。
【0238】
4.1 包装体の開封
包装体の一部分に切れ込みをいれることで引き手部を形成することができる。ユーザーが引き手部を手でつまんで引くことにより、引き手部から裂け目が直ぐに発生する。これにより、容易に開封することができる。本実施形態におけるヒートシール可能な記録シートは、溶媒吸収層1601と基材50との接着性が良好であるため、裂け目におけるバリの発生や、基材50からの溶媒吸収層1601の剥がれ落ちを防止することができる。なお、精度良く開封するため、強度の高い引き手芯部を引き手部に設けてもよい。
【0239】
5. 記録物の製造装置
上述のインクジェット記録媒体を用いて記録物を製造する製造装置を説明する。本発明の記録媒体に画像を記録する装置としては、顔料インクを用いて記録するものであれば、公知の小型のインクジェットプリンタ、あるいは大判プリンタを使用することができる。また、記録媒体を画像支持体に接着転写して、必要に応じて、基材を剥離する装置としては、ダイニック社製のD−10や、フジテックス社製のLPD3223 CLIVIA等の公知のラミネーターが使用できる。ラミネータとしては、一対のヒートローラ21,加圧ローラ22を備えており、それらのローラ間を画像支持体と転写材が通過する際に、記録媒体の顔料浸透層が画像支持体に加熱圧着されるであればよい。また、製造装置は記録媒体を記録部へ送り出す供給部と、インクジェット記録方式などにより画像を記録する記録部と、加熱圧着部、基材を剥離する剥離部、顔料画像が転写された記録物を排出して集積する排出部とを全て一体型的に構成されているものも使用できる。このような、一体型の装置は、例えば、特許05944947に記載されているものも使用できる。
製造装置は用途に応じて、被包装物11を供給する被包装物供給部12と、ヒートシール層を有するインクジェット記録媒体1で、被包装物11を包装する包装部7と、を備えても良い。包装部7においては、ヒートシール層を有するインクジェット記録媒体で被包装物11を包装するとともに、顔料浸透層1600とヒートシール層、およびヒートシール層同士が重なり合う部分を加熱圧着する。これにより、顔料浸透受容層とヒートシール層、およびヒートシール層同士が強固に接着し、包装体が作製される。また、加熱圧着の温度は、60℃以上160℃以下に制御すればよい。この温度で加熱圧着することで、基材50や被包装物11の過剰な熱よる変形、または内容物へのダメージを防止することができると共に、被包装物11にヒートシール層が張り付くことを防止することができる。
【0240】
6.記録物
顔料浸透層1600の表面に樹脂層1012を設けたインクジェット記録媒体1を用いて記録物を製造する際には、まずインクジェト記録媒体1の記録面S1(
図1参照)に、記録ヘッドによってインクを付与して画像を記録する。このとき、顔料インクの一部は、樹脂層1012における熱可塑性樹脂部1000の相互間の空間をバイパス的に通過して、吸収速度の速い顔料浸透層1600の露出部1001に接する。これにより、インクは、熱可塑性樹脂部1000内を通ることなく、顔料浸透層1600に引き込まれるように吸収される(
図2(a)参照)。その後、顔料浸透層1600内を拡散浸透して溶媒吸収層1601との界面に顔料インクが到達すると、顔料粒子よりも空隙が小さい溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600との界面で固液分離が生じて、界面に薄膜状の稠密な顔料画像1606が形成される。また、溶媒成分1607はインク吸収速度がより高い溶媒吸収層1601側にほぼ全量が吸収されることで記録物を得ることができる(
図2(b)参照)。
【0241】
次に、必要に応じて、記録物の離散的に配した熱可塑性樹脂1002と顔料浸透層1600を、第1の製造装置25を用いて、加熱圧着させることにより(
図2(c)参照)、強化顔料保護膜1651を保護層とする記録物を得る(
図2(d)参照)。樹脂層1012および顔料浸透層1600が溶融膜化することにより、顔料粒子1606を強化顔料保護膜1651で包み込むことができるため、格段に強固な保護膜の形成が可能になる。樹脂層を完全に膜化させて記録物を作製した場合、水、薬品などの液体や、オゾンなどの気体の記録物への進入をより確実に抑えることが可能になり、耐水性、耐薬品性に加え、耐候性も向上させることができる。加えて、海島状の樹脂層1012に含まれる機能性材料を隠蔽性粒子とすれば、熱可塑性樹脂1002層が膜化し、隠蔽性粒子が全面に広がるため、隠蔽性をより向上させることも可能でき、基材50側から見た場合の視認性を向上させることができる。
【0242】
6.3 表面向上剤は樹脂層1012に海島状に設けられたた画像記録物
次に、顔料浸透層1600の表面に、表面質感向上剤1653を含んだ樹脂層1012を設けたインクジェット記録媒体1(
図17(a)参照)を用いた記録物の作製について説明する。まず、上記のインクジェト記録媒体1の記録面S1(
図17(a)参照)に、記録ヘッド20によりインクを付与して画像を記録する(
図17(b))。次に、顔料浸透層1600を、製造装置1を用いて加熱圧着させることにより(
図17(c)参照)、顔料浸透層1600と樹脂層1012とを溶融膜化する。これにより、表面質感向上剤1653が強化顔料保護膜1651に海島状に設けられた記録物(
図17(d))を得る。
【0243】
このように、加熱圧着によって樹脂層1012および顔料浸透層1600を溶融膜化させ、それらの溶融膜によって画像を形成する顔料粒子1606を包み込んだとしても、表面質感向上剤1653は溶融膜化しない。すなわち、表面質感向上剤1653は粒子状態を保ち、強化顔料保護膜1651表面に海島状に設けられたままの状態となる。このとき、表面質感向上剤1653の一部は、溶融膜化した顔料浸透層1600と保護強化層1651に埋め込まれるため、表面質感向上剤1653は強固に固定化される。従って、記録物の表面には、海島状の表面質感向上剤によって微小な凹凸を形成することができる。これにより、記録物の手触り感の向上、あるいは光沢を抑えたマット調の表面形成など、記録物の表面質感の向上が可能になる。
【0244】
6.4 溶媒吸収層を溶融膜化した画像記録物
次に、加熱圧着時に溶融変形し易い樹脂微粒子で構成した溶媒吸収層で構成するインクジェット記録媒体を用いた記録物の作製について説明する。記録物の作成に際しては、まずインクジェト記録媒体の記録面(
図32(a))に、記録ヘッドによりインクを付与して、画像を記録する。次に、画像が記録されたインクジェット記録媒体(
図32(b)参照)を、
図32(c)に示すように加熱圧着することによって顔料浸透層1600と溶媒吸収層1601とを溶融膜化して一体化し、記録物(
図32(d))を得る。このとき、溶媒吸収層1601に吸収された揮発性の溶媒成分を十分に乾燥させる工程や時間を設けたり、乾燥装置などを用いたりすることにより、溶媒吸収層1601に溶媒成分が殆ど残存しない状態まで十分に乾燥させることが望ましい。溶媒成分を十分に乾燥させることにより、溶媒吸収層1601の樹脂微粒子が軟化溶融しても、僅かに残留する不揮発性溶剤が顔料浸透層1600へ逆流するのを抑制することができる。従って、溶媒吸収層1601の溶媒成分を十分に乾燥させた後に加熱圧着を行えば、顔料浸透層1600と一体化した溶媒吸収層1670によって、顔料インクに含まれる少量の不揮発性溶剤を溶媒吸収層1601内に保持することが可能になる。
【0245】
以上のようにして、顔料浸透層1600と溶媒吸収層1600とを溶融膜化し、その膜化した溶媒吸収層1600の中に顔料粒子1606を包み込むようにすれば、溶媒吸収層の空隙や樹脂粒子界面による光散乱によって生ずる透明性の低下を抑制できる。その結果、顔料浸透層の底部に形成された稠密で薄膜状の顔料画像に対する、溶媒吸収層側からの視認性を向上させることができる。
【0246】
6.5 ヒートシール層を有する基材に空隙吸収型の溶媒吸収層と顔料浸透層を設けたインクジェット記録媒体を用いた記録物
次に、基材の記録面側に溶媒吸収層と顔料浸透層とからなるインク受容層を備える一方、基材のインク受容層を形成する面(表面)とは反対の面(裏面)にヒートシール層を備えるインクジェット記録媒体を用いた記録物の作成について説明する。記録物を作成する場合には、まず、インクジェット記録媒体1に対し、インクジェット記録媒体1の表面に顔料インクによって画像を形成する。なお、顔料浸透層1600は、加圧加熱によって溶融膜化可能な材料で構成されている。
【0247】
顔料浸透層1600を構成する樹脂微粒子および水溶性樹脂(PVAにおいては接着性に寄与する酢酸ビニル基)の構成材料は、ヒートシール層1200の構成材料と親和性が高い。このため、溶融膜化した記録物(
図27(d)参照)の顔料浸透層1650は、熱接着可能となる。すなわち、ヒートシール層1200同士、およびヒートシール層1200と顔料浸透層1600、および顔料浸透層1600同士が熱接着可能である。従って、基材50の裏面のヒートシール層1200と、表面側の顔料浸透層1600もしくは樹脂層1012とを、記録物の表裏のヒートシール層として利用することが可能であり、包装シートなどにも活用することができる。すなわち、内容物を収容した被包装物を本発明のインクジェット画像記録物で包装すれば、包装材料として利用することもできる。
【0248】
(第1の実施形態の具体的な実施例)
以下、本発明をより具体的に示す実施例について説明する。但し、本発明は、下記の実施例によって制限を受けるものではない。なお、以下の記載における「部」、「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0249】
[ポリビニルアルコール水溶液1の調製]
これとは別に、ポリビニルアルコール(商品名「PVA123」、株式会社クラレ製)をイオン交換水に溶解し、固形分含量が8%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。なお、ポリビニルアルコールは、重量平均重合度が2300、けん化度が98〜99mol%であった。
【0250】
[溶媒吸収層塗工液1の調製]
シリカ水溶液(商品名「スノーテックスST−OL」(固形分(SiO2)濃度 20%、平均一次粒子径40nm)日産化学工業株式会社製)を100部と、ポリビニルアルコール水溶液1を25部加え、スタティックミキサーにより混合し、溶媒吸収層塗工液1を得た。
【0251】
[溶媒吸収層塗工液2の調製]
シリカ水溶液(商品名「スノーテックスO」(固形分(SiO2)濃度 20%、平均粒子径10nm)日産化学工業株式会社製)を100部とポリビニルアルコール水溶液1を50部加え、スタティックミキサーにより混合し、溶媒吸収層塗工液2を得た。
【0252】
[溶媒吸収層塗工液3の調製]
第1のガラス製反応容器に攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素ガス導入管を備えつけた後、ノニオン系乳化剤としてアクアロンRN−30(第1工業製薬株式会社製)6g、アニオン系乳化剤アクアロンHS−30(第1工業製薬株式会社製)6g、メチルメタアクリレート100.0g、エチルアクリレート20.0g、2−ヒドロキシルエチルアクリレート10.0g、メタクリル酸5.0gを用い、水275gを入れ攪拌し総量427.0gの混合物を調整した。次にこの混合物の36gを取り出し、同様の第2の反応容器に移した後、窒素ガス導入下73℃で40分間乳化を行った。次いで重合開始剤としてペルオキソニ硫酸アンモニウム17gを水36gに溶解し、乳化液に添加した。その後、混合物の残量を第1の反応容器より取りだし100分間かけて、第2の反応容器内に徐々に滴下し、73℃で重合を行った。混合物残量を滴下終了した後、73℃で80分間攪拌を継続し、エマルジョン水溶液1(Tg:78℃、樹脂固形分35.0%)を合成した。この分散粒子の平均一次粒径は10nmであった。次に、エマルジョン水溶液1を100部とポリビニルアルコール水溶液1を43.75部加え、スタティックミキサーにより混合し、溶媒吸収層塗工液3を得た。
【0253】
[溶媒吸収層塗工液4の調製]
シリカ水溶液(商品名「スノーテックスMP2040」(固形分(SiO2)濃度40%、平均一次粒子径200nm)日産化学工業株式会社製)を100部と、ポリビニルアルコール水溶液1を200部加え、スタティックミキサーにより混合し、溶媒吸収層塗工液4を得た。
【0254】
[顔料浸透層塗工液1の調製]
エマルジョン水溶液1と同様にして、懸濁重合により、固形分濃度20%、平均一次粒子径180nm、Tg:78℃のエマルジョン水溶液2を得た。なお、ノニオン系乳化剤としてアクアロンRN−30(第1工業製薬株式会社製)およびアニオン系乳化剤アクアロンHS−30(第1工業製薬株式会社製)は使用しなかった。次に、エマルジョン水溶液2を100部とポリビニルアルコール水溶液1を25部加え、スタティックミキサーにより混合し、顔料浸透層塗工液1を得た。
【0255】
[顔料浸透層塗工液2の調製]
エマルジョン水溶液2と同様にして、懸濁重合により、固形分濃度20%、平均一次粒子径120nm、Tg:78℃のエマルジョン水溶液3を得た。次に、エマルジョン水溶液3を100部とポリビニルアルコール水溶液1を25部加え、スタティックミキサーにより混合し、顔料浸透層塗工液2を得た。
【0256】
[顔料浸透層塗工液3の調製]
エマルジョン水溶液2の同様にして、メチルメタアクリレート130.0g、エチルアクリレート5.0g、メタクリル酸5.0gを用に変更した以外は、その他はエマルジョン水溶液2と全く同じ方法でエマルジョン水溶液4(Tg:101℃、樹脂固形分20.0%)を合成した。この分散粒子の平均粒径は120nmであった。次に、エマルジョン水溶液4を100部とポリビニルアルコール水溶液1を25部加え、スタティックミキサーにより混合し、顔料浸透層塗工液3を得た。
【0257】
[樹脂層塗工液1の調製]
VANORA社製DXA4081(固形分濃度50%、平均粒子径300nm)を10部とイオン交換水40部を加えて、樹脂層塗工液1を得た。樹脂層塗工液に含まれるVANORA樹脂の膜化温度は80℃であった。
【0258】
[樹脂層塗工液2の調製]
まず、エマルジョン水溶液1の2−ヒドロキシエチルヘキシルアクリレート55g、メチルアクリレート30.0g、メチルメタアクリレート50.0g、アクリル酸10.0gとした以外は、エマルション1と同様にして、エマルジョン水溶液5(Tg:40℃、樹脂固形分47.0%)を合成した。この分散粒子の平均粒径は130nmであった。
【0259】
VANORA社製DXA4081(固形分濃度50%、平均2次粒子径300nm)を5部、エマルジョン水溶液5を15部とイオン交換水40部を加えて、樹脂層塗工液2を得た。
【0260】
[樹脂層塗工液3の調製]
VANORA社製DXA4081(固形分濃度50%、平均2次粒子径300nm)を10部、DIC社製ボンディック1640((固形分濃度50%)を10部とイオン交換水40部を加えて、樹脂層塗工液3を得た。樹脂層塗工液2に含まれるVANORA社製樹脂の膜化温度は80℃で、樹脂層塗工液3に含まれるボンディック1640樹脂の膜化温度は180℃あった。
【0261】
[樹脂層塗工液4の調製]
VANORA社製DXA4081(固形分濃度50%、平均2次粒子径300nm)を5部、白色顔料粒子として、JSR社製中空樹脂粒子水溶液(商品名「SX8022−04EM」、固形分濃度28.2%)を10部、イオン交換水30部を加えて、樹脂層塗工液4を得た。
【0262】
[樹脂層塗工液5の調製]
VANORA社製DXA4081(固形分濃度50%、平均2次粒子径300nm)を10部、白色顔料粒子としてJSR社製中空樹脂粒子水溶液(商品名「SX8022−04EM」、固形分濃度28.2%)を10部、蓄光発光粒子1617として、根本化学社製N夜光Luminova BGL−300FFを5部、イオン交換水25部を加えて、樹脂層塗工液5を得た。
【0263】
[基材1]
基材1として、白色PET基材(商品名「メリネックス」 厚さ125μm 帝人デュポンフィルム株式会社製)用いた。基材上に東洋紡株式会社製バイロナールMD−1985を塗工した後、乾燥させることにより、基材上に機能層として密着層を形成した。その塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は0.5g/m
2とした。乾燥温度は60℃とした。
【0264】
[基材2]
基材2として、PET基材(商品名「テトロンG2」 厚さ100μm 帝人デュポンフィルム株式会社製)用いた。基材上に東洋紡株式会社製バイロナールMD−1985を塗工した後、乾燥させることにより、基材上に機能層として密着層を形成した。その塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は0.5g/m
2とした。乾燥温度は60℃とした。
【0265】
[基材3]
基材3として、厚さ25μm、ポリプロピレン系の基材の両面にポリプロピレン系のヒートシール層が形成されたシート(商品名「アルファンBDH−224」、王子エフテックス株式会社製)を用いた。
【0266】
[基材4]
白色PET基材上に密着層を形成した基材1の裏面に、粘着層と剥離シートを設けて、基材4を調整した。粘着層としては、基材1の裏面に、DIC社製ボンコートW−386 (固形分濃度50%)を10部と、イオン交換水を90部と、を混合して調整した粘着性接着層塗工液を塗布して、粘着層を形成した。その塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は0.5g/m
2とした。乾燥温度は60℃とした。次に剥離シートとして、住友加工紙製の剥離シート(商品名「SLタイプ」、150μ)を用いて、剥離シートを基材の裏面に張り合わせることにより、基材4調整した。
【0267】
[大粒子径顔料インク1の調製]
<(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の合成>
撹拌装置と、滴下装置と、温度センサと、上部に窒素導入装置を有する還流装置と、を取り付けた反応容器に、メチルエチルケトン1,000部を仕込み、そのメチルエチルケトンを撹拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸2−ヒドロキシエチル63部、メタクリル酸141部、スチレン417部、メタクリル酸ベンジル188部、メタクリル酸グリシジル25部、重合度調整剤(商品名「ブレンマーTGL」、日本油脂株式会社製)33部、及びペルオキシ−2−エチルヘキサン酸−t−ブチル 67部を混合して得た混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で10時間反応を継続させて、酸価110mgKOH/g、ガラス転移点(Tg)89℃、重量平均分子量8,000の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)の溶液(樹脂分:45.4%)を得た。
【0268】
<水性顔料分散体の調製1>
冷却機能を備えた混合槽に、フタロシアニン系ブルー顔料1,000部、上記の合成により得られた(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)の溶液、25%水酸化カリウム水溶液、及び水を仕込み、撹拌及び混合して混合液を得た。なお、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)は、フタロシアニン系ブルー顔料に対して、不揮発分で40%の比率となる量を用いた。また、25%水酸化カリウム水溶液としては、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)が100%中和される量を用いた。さらに、水は、得られる混合液の不揮発分を27%とする量を用いた。得られた混合液は、直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置に通し、循環方式により4時間分散させた。分散液の温度は40℃以下に保持した。
【0269】
混合槽から分散液を抜き取った後、水10,000部で混合槽と分散装置との流路を洗浄し、洗浄液と分散液とを混合して希釈分散液を得た。得られた希釈分散液を蒸留装置に入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を留去して、濃縮分散液を得た。室温まで放冷した濃縮分散液を撹拌しながら2%塩酸を滴下して、pH4.5に調整した後、ヌッチェ式濾過装置にて固形分を濾過して水洗した。得られた固形分(ケーキ)を容器に入れ、水を加えた後、分散撹拌機を使用して再分散させ、25%水酸化カリウム水溶液によってpH9.5に調整した。その後、遠心分離器を使用し、6000Gで30分間かけて粗大粒子を除去した後、不揮発分を調整して、平均2次粒子径が90nmの水性顔料分散体1(水性シアン顔料分散体1(顔料分:14% 酸価110))を得た。
【0270】
フタロシアニン系ブルー顔料を、カーボンブラック系ブラック顔料、キナクリドン系マゼンタ顔料またはジアゾ系イエロー顔料に変更したことを除いては、水性シアン顔料分散体と同様にして、平均2次粒子径が91nmの水性ブラック顔料分散体1、平均2次粒子径が93nmの水性マゼンタ顔料分散体1、または平均2次粒子径が90nmの水性イエロー顔料分散体1を得た。
【0271】
[大粒子径顔料インク2の調製]
<水性顔料分散体2の調製>
顔料インクとしては、市販のカーボンブラック「45L」(2次粒子径40nm、DBP吸油量45ml/100g、三菱化学株式会社製)100gを、水1000mlによく混合、微分散した後、これに次亜塩素酸ソーダ(有効塩素酸塩濃度12%)300gを滴下して、100〜104℃で10時間撹拌して湿式酸化した。得られたスラリーを東洋濾紙No.2(アドバンティス社製)で濾過し、表面改質カーボンブラック粒子が洩れるまで水洗した。このウエットケーキを水5キロリットルに再分散し、電導度2mSまで逆浸透膜で脱塩し、さらに、表面改質カーボンブラック濃度15質量%に濃縮して水性顔料分散体2を得た。また、カーボンブラック系ブラック顔料をフタロシアニン系ブルー顔料、キナクリドン系マゼンタ顔料またはジアゾ系イエロー顔料に変更したことを除いては、カーボンブラック系ブラック顔料分散体と同様にして、平均2次粒子径が42nm水性シアン顔料分散体2、平均2次粒子径が45nmの水性マゼンタ顔料分散体2、または平均2次粒子径が48nmの水性イエロー顔料分散体2を得た。
【0272】
[インクの調製]
下表1に示す組成(合計:100部)となるように、水性顔料分散体1および水性顔料分散体2および各成分を容器に投入し、プロペラ撹拌機を使用して30分以上撹拌した。その後、孔径0.2μmのフィルター(日本ポール株式会社製)で濾過して、顔料インクを調製した。なお、表1中の「AE−100」は、アセチレングリコール10モルエチレンオキサイド付加物(商品名「アセチレノールE100」、川研ファインケミカル株式会社製)を示す。なお、上記の顔料インクの平均2次粒子径を表1に示す。
【0274】
[インクジェット記録媒体1の製造](実施例1)
まず、溶媒吸収層塗工液1を基材1の表面に塗工した後、乾燥することにより、密着層を介して、基材上に厚膜の溶媒吸収層を形成した。塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分で、乾燥後の塗工量は40g/m
2とした。乾燥温度は60℃とした。溶媒吸収層の厚さは40μmであった。その後、溶媒吸収層の表面に湿し水処理を行いながら、顔料浸透層塗工液1を塗工し、乾燥することにより、薄膜の顔料浸透層を形成した。顔料層の塗工には、ダイコーターを用い、塗工速度は5m/分で、乾燥後の塗工量は5g/m
2とした。乾燥温度は60℃とした。以上のように、基材、密着層、溶媒吸収層、顔料浸透層が順次積層されたインクジェット記録媒体1(
図20(a))を製造した。
【0275】
インクジェット記録媒体1は、インクジェット記録装置で搬送・記録し易いように、カットシート状に裁断加工した。なお、得られたインクジェット記録媒体1の顔料浸透層の空隙の細孔直径は、BET法により測定した。インクジェット記録媒体1の顔料浸透層の空隙の細孔直径は180nmであった。一方、インクジェット記録媒体1の溶媒吸収層の空隙の細孔直径は、40nmであった。
【0276】
記録媒体1−1(FT004070の記録媒体1−1)と同様に、記録媒体の断面をSEMによって観察し、熱可塑性樹脂粒子が顔料浸透層と接している部分の直径を測定した。このとき、顔料浸透層と接している熱可塑性樹脂粒子100個の直径の平均値を算出し、その平均値から接着材粒子の1つが顔料浸透層と接している部分の面積を算出した。次に、記録媒体の記録面からのSEMの投影図より、顔料浸透層と接する熱可塑性樹脂粒子の数を算出して、熱可塑性樹脂が顔料浸透層と接する部分の全面積を求めた。測定範囲の全面積から、熱可塑性樹脂の粒子が顔料浸透層と接する部分の全面積を引くことにより、表面に熱可塑性樹脂がない顔料浸透層の露出部の面積(露出部面積)を算出した。また、記録面側からのSEMの投影図から、記録媒体の記録面側から熱可塑性樹脂部を見たときの面積(熱可塑性樹脂部面積)を確認した。その結果、熱可塑性樹脂の粒子が顔料浸透層と接する接触面積は、熱可塑性樹脂部面積よりも小さく、露出部面積は顔料浸透層の全面積の75%であった。
【0277】
得られたインクジェット記録媒体1(
図20(a))に、上述した第1の製造装置25を用いて、樹脂分散顔料インク1により、正像画像を記録することにより、実施例1の記録物1(
図20(b))を得た。
【0278】
実施例1では、インクジェット記録媒体は、基材上にインク溶媒吸収性に優れた溶媒吸収層と、顔料浸透性に優れた顔料浸透層で構成されている。インクジェット記録媒体1は、
図20(a)に示すように、溶媒吸収層1601は小粒径の無機微粒子を用いて、厚膜で構成することによって、高い溶媒吸収性を確保している。溶媒吸収層1601は無機微粒子と水溶性樹脂からなる強固な空隙構造を有している。一方、顔料浸透層1600は溶媒吸収層1601に比べて大きい粒径の無機微粒子を用いることで、顔料粒子の浸透性を確保し、薄膜に構成することで顔料浸透層の底部に顔料画像を高発色で形成するように構成されている。
【0279】
インクの受容に関わる、顔料浸透層1600、溶媒吸収層1601各々のインク吸収速度は、基材層側に向けて順にインク吸収速度が速くなるように構成されている。さらに顔料浸透層1600の平均細孔直径は顔料粒子の平均2次粒子径よりも大きく、溶媒吸収層1601の平均細孔直径は顔料粒子の平均2次粒子径よりも小さくなるように構成され、
図20(b)に示すように、顔料浸透層1600と溶媒吸収層1601の境界で顔料インクが顔料粒子と溶媒成分とに固液分離するように構成されている。すなわち、本実施例においては、顔料インクの顔料粒子の平均2次粒子径が90nm〜110nm、顔料浸透層1600の細孔直径を120〜180nm、溶媒吸収層1601の細孔直径を10〜40nmの範囲で調整されている。
【0280】
第1の製造装置25の記録部6から吐出されて顔料浸透層表面に着弾した顔料インクは、顔料浸透層に接した瞬間にインクが顔料浸透層内部に瞬時に引き込まれ、顔料浸透層に引き込まれたインクは、顔料浸透層内をほぼ等方的に浸透した。これにより、エリアファクターが良好で、転写材全面に亘って十分な画像濃度の記録ができた。
【0281】
続いて、薄い顔料浸透層を浸透し、溶媒吸収層に接したインクは溶媒吸収層に瞬時に引き込まれる。このとき、
図20(b)に示すように、溶媒吸収層の平均細孔直径は顔料の平均2次粒子径よりも小さいため、顔料インクが顔料浸透層の底部で固液分離され、顔料が顔料浸透層の底部で薄膜状の稠密な画像が形成された。このため、画像の彩度は良好であった。さらに顔料浸透層1600が薄く形成されており、ドットが広がりすぎる前に顔料インクが溶媒吸収層1601に到達して、顔料浸透層1600の底部で顔料粒子が固液分離されるため、適切なドット径に制御されて薄膜状に稠密な顔料画像が形成された。このため、解像度の高い画像でも画像にじみは見られなかった。固液分離したインクの溶媒1607は、顔料浸透層1600に残存すること無く、厚く設けられた溶媒吸収層1601にほぼ完全に吸収された。
【0282】
このようにインクジェット記録媒体1では、顔料粒子は、溶媒吸収層との界面で溶媒成分と固液分離して、顔料浸透層底部に薄膜状で稠密な顔料画像を形成するので、顔料浸透層自体が顔料画像の保護層となって記録物の耐擦過性を向上させることができた。
【0283】
すなわち、インクジェット記録媒体1は、高いレベルでの画像の耐久性が要求されるサイン&ディスプレイやグラフィックアーツ分野の店頭POPや店頭プライス等の屋内あるいは屋外の広告用途において、顔料インクで記録した後の記録物に対し、ラミネート工程などの特別な処理工程を施す必要はなくなり、好適に使用することができた。
【0284】
(実施例2−1)
図21(a)に示す実施例1の記録物1を、第1の製造装置の加熱圧着部のヒートローラと加圧ローラの間を搬送して加熱圧着することにより、実施例2−1の記録物2−1(
図21(b)参照)を得た。尚、加熱圧着は、実施例1の記録物1に、平滑な表面質感調整シートとしてPET基材(商品名「テトロンG2」 厚さ25μm 帝人デュポンフィルム株式会社製)を重ね合わせて、加熱圧着部のヒートローラと加圧ローラの間を搬送して行った。このとき、ヒートローラの加熱温度を140℃、圧力3.9Kg/cm、搬送速度50mm/secとした。なお、SEMによる表面観察により、記録物2−1の顔料浸透層は膜化していることを確認した。
【0285】
実施例2−1においては、実施例1の記録物1(
図21(a)の顔料浸透層が、加圧加熱することで溶融膜化するように構成している。実施例1で述べたように、顔料浸透層1601の底部には稠密な顔料画像が形成されており、顔料インクの溶媒である液体成分1607は、ほぼ全量が溶媒吸収層1601に吸収保持されている。溶媒吸収層1601は無機微粒子と水溶性樹脂からなる強固な空隙構造体であるため、加熱圧着によっても、空隙構造が維持される。このため、溶媒成分は、溶媒吸収層1600から染み出すことなく溶媒吸収層1600の内部に保持され、顔料浸透層1601の表面には殆ど残留しない。従って、インクジェット画像記録直後でも、加熱圧着処理を施すことができる。加熱圧着処理を施すことにより、顔料浸透層1600は、
図21(b)に示すように、顔料浸透層1600を構成する樹脂微粒子が溶融膜化温度Tg以上に加熱され、顔料画像1606を包み込むように溶融膜化して、顔料保護膜1650を形成する。
【0286】
このように、顔料保護膜1650が溶融膜化しているため、実施例1と比較して、強固な保護膜として顔料画像を保護することができた。すなわち、擦過性など機械的強度が向上すると共に、記録物に対し、その表面からの汚染ガスや汚染液体の侵入を防止することが可能となり、顔料画像の保存性を向上させることができた。また、顔料画像1606は、顔料浸透層1600が溶融膜化した顔料保護膜1650の底部に、顔料粒子が包み込まれるように保持されているので、顔料画像1606は強固に保持されている。さらに、顔料保護膜1650が、溶融膜化しているため、膜化顔料浸透層の空隙がなくなり、ほぼ光学的透明な層となり、さらに平坦に膜化されているため、ヘイズ劣化がなく、表面グロス性も向上して、顔料画像1606の画像視認性も向上させることができた。
【0287】
尚、実施例2−1の変形例として、実施例2−1の基材1を基材4とした以外は実施例2−1と同様にして、実施例2−1の変形例の記録物を作成した。この記録物は、実施例2−1の記録物の機能を有していた。さらに、加熱圧着によっても、粘着材が劣化せず、記録物の裏面の剥離紙を剥離して、発泡パネル(画像支持体)に貼り付けても、良好な接着性を示すことが確認できた。
【0288】
(実施例2−2)
まず、溶媒吸収層塗工液1を基材1の表面に塗工した後、乾燥することにより、密着層を介して、基材上に厚膜の溶媒吸収層を形成した。塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分で、乾燥後の塗工量は25g/m
2とした。乾燥温度は60℃とした。溶媒吸収層の厚さは25μmであった。その後、溶媒吸収層の表面に湿し水処理を行いながら、顔料浸透層塗工液2を塗工し、乾燥することにより、薄膜の第1の顔料浸透層を形成した。第1の顔料浸透層の塗工には、ダイコーターを用い、塗工速度は5m/分とし、乾燥後の塗工量は3g/m
2とした。乾燥温度は60℃とした。さらに、溶媒吸収層、顔料浸透層の表面に湿し水処理を行いながら、顔料浸透層塗工液1を塗工し、乾燥することにより、薄膜の第2の顔料浸透層を形成した。第2の顔料浸透層の塗工には、ダイコーターを用い、塗工速度は5m/分で、乾燥後の塗工量は3g/m
2とした。乾燥温度は60℃とした。以上のように、基材50、密着層1603、溶媒吸収層1600、第1の顔料浸透層1600、第2の顔料浸透層1680が順次積層されたインクジェット記録媒体2−2(
図30(a)参照)を製造した。
【0289】
なお、インクジェット記録媒体2−2の第1の顔料浸透層1600の空隙の細孔直径は180nm、第2の顔料浸透層1680の空隙の細孔直径は120nmであった。一方、インクジェット記録媒体1の溶媒吸収層1601の空隙の細孔直径は、40nmであった。
【0290】
得られたインクジェット記録媒体2−2(
図30(a)参照)に、実施例1と同様に、第1の製造装置を用いて、樹脂分散顔料インク1により、正像画像を記録することにより、記録物(
図30(b)参照)を得た。
【0291】
その後、
図30(b)に示す記録物を、第1の製造装置25の加熱圧着部29のヒートローラ21と加圧ローラ22の間を搬送して加熱圧着することにより、実施例2−2の記録物2−2(
図30(c))を得た。尚、加熱圧着は、
図30(b)に示す記録物に、平滑な表面質感調整シートとしてPET基材(商品名「テトロンG2」 厚さ25μm 帝人デュポンフィルム株式会社製)を重ね合わせて、加熱圧着部のヒートローラと加圧ローラの間を搬送して行った。このとき、ヒートローラ21の加熱温度を140℃、圧力3.9Kg/cm、搬送速度50mm/secとした。なお、SEMによる表面観察により、記録物2−2の第1の顔料浸透層1600および第2の顔料浸透層1680は膜化していることを確認した。
【0292】
実施例2−2においては、2層の顔料浸透層1600、1680で顔料浸透層を構成している。第2の顔料浸透層1680は第1の顔料浸透層1600の表面に積層されており、その空隙径は第1の顔料浸透層1600の空隙径よりも大きな空隙径で構成されている。また、第2の顔料浸透層1680は、第1の顔料浸透層1600と同様に、加圧加熱することで溶融膜化するように構成されている。
【0293】
第1の装置の記録部で吐出され、顔料浸透層表面に着弾した顔料インクは、第2の顔料浸透層1680に浸透し、さらに、第2の顔料浸透層1680の空隙に浸透した顔料インクは速やかに第1の顔料浸透層1600に吸収される。このとき、顔料インクは、第1の顔料浸透層1600内にほぼ等方的に浸透するため、エリアファクターが良好で、転写材全面に亘って十分な画像濃度の画像を記録することができた。顔料インクは、第1の顔料浸透層1600の底部で固液分離され、顔料インクの溶媒である液体成分1607は、ほぼ全量が溶媒吸収層1601に吸収保持され、顔料粒子が第1の顔料浸透層の底部で薄膜状の稠密な画像を形成するため、画像の彩度は良好であった。また、第1の顔料浸透層1600および第2の顔料浸透層1680は薄膜で形成されており、ドットが広がりすぎる前に顔料インクが溶媒吸収層1601に到達して、第1の顔料浸透層1600の底部で顔料粒子が固液分離される。このため、適切なドット径に制御されて薄膜状に稠密な顔料画像が形成されており、解像度の高い画像でも画像にじみは見られなかった。さらに第2の顔料浸透層1680も、第1の顔料浸透層1600の底部に記録された薄膜状の稠密な顔料画像を保護するための透明な保護膜になり、記録物の耐擦過性を向上させることができた。
【0294】
また、インクジェット記録媒体2−2は、第2の顔料浸透層1680を有している。このため、インクジェット記録媒体2−2には、多量の顔料インクを打ち込み、顔料粒子1606を第1の顔料浸透層1600よりも高く積み上げて記録することができる。このような記録を行うことにより、ホワイトポイントがなくなり、実施例1のインクジェット記録媒体に顔料インクを吐出して画像を記録した場合と比較して、より高濃度の画像を形成することができることを確認した。
【0295】
また、実施例2−1と同様に、加熱圧着処理により、第1の顔料浸透層1600が、顔料画像1606を包み込むように溶融膜化した。このとき、溶融膜化した第1の顔料浸透層1600の最表層に、同様に溶融膜化した第2の顔料浸透層1680が第2の保護膜として追加されるため、表面からのガス液体侵入防止や、耐擦過性などの機械的強度を向上させることができた。また第1顔料層1600および第2の顔料浸透層1680が、溶融膜化しているため、両者が一体化して形成された顔料保護膜1650には空隙構造がなくなり、ほぼ光学的透明な層となると共に、平坦に膜化された。このため、ヘイズ劣化がなく、表面グロス性も向上して、顔料画像1606の視認性も向上した。
【0296】
(実施例3−1)
溶媒吸収層塗工液2を基材1の表面に塗工した後、乾燥することにより、密着層を介して、基材1上に厚膜の溶媒吸収層を形成した。塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分で、乾燥後の塗工量は40g/m
2とした。乾燥温度は60℃とした。溶媒吸収層の厚さは40μmであった。その後、溶媒吸収層の表面に湿し水処理を行いながら、顔料浸透層塗工液1を塗工し、乾燥することにより、薄膜の顔料浸透層1600を形成した。顔料層の塗工には、ダイコーターを用い、塗工速度は5m/分で、乾燥後の塗工量は5g/m
2とした。乾燥温度は60℃とした。この顔料浸透層1600の表面に、樹脂層塗工液1を塗工して乾燥させることにより、基材50上に設けた顔料インクの顔料浸透層1600の表面に樹脂層1012を形成した。このとき、樹脂層1012は、熱可塑性樹脂1002を顔料浸透層1600の表面に離散的に設けることにより、顔料浸透層1600の表面が直接露出した部分を残してインクジェット記録媒体3−1(
図22(a)参照)を作製した。溶媒吸収層1601の樹脂層塗工液1の塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分とした。乾燥温度は60℃とした。このとき、グラビアロールの溝の線数は200線とした。なお、島状に形成される樹脂層1012の厚さは1.24μmであった。インクジェット記録媒体3−1の溶媒吸収層1600の空隙の細孔直径は、10nmであった。インクジェット記録媒体3−1の顔料浸透層1600の空隙の細孔直径は、180nmであった。
【0297】
インクジェット記録媒体3−1の断面をSEMによって観察し、熱可塑性樹脂粒子が顔料浸透層と接している部分の直径を測定した。このとき、顔料浸透層1600と接している熱可塑性樹脂1002の粒子100個の直径の平均値を算出し、平均値から熱可塑性樹脂1002の粒子一つが顔料浸透層1600と接している部分の面積を算出した。次に、記録面からのSEMの投影図より顔料浸透層1600と接する熱可塑性樹脂1002の粒子の数を算出して、熱可塑性樹脂1002が顔料浸透層1600と接する部分の全面積を求めた。測定範囲の全面積から熱可塑性樹脂1002が顔料浸透層1600と接する部分の全面積を引くことにより、表面に熱可塑性樹脂1002が存在しない顔料浸透層1600の露出部1001の面積(露出部1001面積)を算出した。また、記録面側からのSEMの投影図より、直接臨める熱可塑性樹脂部1000の面積(接着部面積)を確認した。その結果、接触面積は、熱可塑性樹脂部1000面積よりも小さく、露出部1001面積は顔料浸透層1600の全面積の75%であった。
【0298】
上記の工程を経て得られたインクジェット記録媒体3−1に、実施例1と同様に、第1の製造装置25を用いて、顔料インク1により、画像を記録することにより、実施例3−1の記録物3−1(
図22(b)参照)を得た。
【0299】
インクジェット記録媒体3−1(
図22(a)参照)は、インクジェット記録媒体3−1の顔料浸透層1600の表面にインク吸収性に劣る熱可塑性樹脂1002を離散的に設けることにより、空隙吸収体の表面が直接露出した部分1001を残して樹脂層1012を構成している。インクの受容に関わる、樹脂層1012、顔料浸透層1600、溶媒吸収層1601各々のインク吸収速度は、基材側に向けて順にインク吸収速度が速くなるように構成されている。樹脂層1012側から着弾した顔料インクは、顔料浸透層1600が直接露出した露出部1001に顔料インクの液滴の一部が触れると、空隙構造でのインク吸収速度が速く、顔料粒子より大きな空隙を有する顔料浸透層1600の内部に顔料インクの液滴の全てが速やかに引き込まれる。
図22(b)に示すように、顔料インクは、顔料粒子よりも空隙が大きい顔料浸透層1600の内部へ速やかに浸透拡散するが、顔料粒子よりも空隙が小さい溶媒吸収層1601との界面で、顔料画像1606と溶媒成分1607とに固液分離される。従って、顔料浸透層1600の底部で薄膜状の稠密な画像を顔料が形成するため、画像の彩度は良好であった。また、顔料浸透層1600が薄く形成されており、ドットが広がり過ぎる前に顔料インクが溶媒吸収層1601に到達して、顔料浸透層1600の底部で顔料粒子が固液分離される。このため、適切なドット径に制御されて薄膜状の稠密な顔料画像が形成され、解像度の高い画像でも画像にじみは認められなかった。
【0300】
さらには、顔料浸透層1600内では、顔料インクは膜厚方向だけでなく、膜平面方向にも拡散浸透する。従って、熱可塑性樹脂1002の直下にも顔料インクが回り込んで、非画像部となるホワイトポイントの発生を抑制しながら、顔料浸透層1600の底部に顔料画像1606を形成することができ、高解像度の画像を形成することができた。
【0301】
なお、顔料浸透層1600に加えて、樹脂層1012も顔料画像の保護膜として機能するため、擦過性を向上させることができた。なお、顔料インクの溶媒は、顔料浸透層1600に残存することなく、厚く設けられた溶媒吸収層1601にほぼ完全に吸収された。
【0302】
(実施例3−2)
図23(a)に示す実施例3−1の記録物3−1を第1の製造装置の加熱圧着部のヒートローラ21と加圧ローラ22の間を搬送して加熱圧着することにより、実施例3−2の記録物3−2(
図23(b)参照)を得た。尚、加熱圧着は、
図23(a)に示す記録物に、平滑な表面質感調整シートとしてPET基材(商品名「テトロンG2」 厚さ25μm 帝人デュポンフィルム株式会社製)を重ね合わせて、加熱圧着部のヒートローラと加圧ローラの間を搬送して行った。このとき、ヒートローラ21の加熱温度を140℃、圧力3.9Kg/cm、搬送速度50mm/secとした。なお、SEMによる表面観察により、記録物3−2の顔料浸透層1600および樹脂層1012は膜化していることを確認した。
【0303】
実施例3−2においては、実施例3−1の記録物3−1(
図23(a)参照)の顔料浸透層1601が熱可塑性樹脂1002と共に、加熱圧着によって溶融膜化するように構成している。
【0304】
また、実施例2−1と同様に、顔料インクの液体成分である溶媒成分は、殆ど全量が溶媒吸収層1601に吸収されており、溶媒吸収層1601は加熱圧着によっても空隙構造が維持される。このため、溶媒成分は溶媒吸収層1601から染み出すことなく、溶媒吸収層1601の内部に保持され続ける。従って、インクジェット画像記録直後でも、加熱圧着処理を施すことができた。また、
図23(b)に示すように、顔料浸透層1600に含まれる樹脂微粒子は、加熱圧着によって溶融膜化温度Tg以上に加熱されることで溶融膜化可能である。このため、顔料浸透層1600は熱可塑性樹脂1002と共に、顔料画像1606を包み込むように溶融膜化して空隙構造を消滅させるため、強化顔料保護膜1651を形成することができる。
【0305】
このように、強化顔料保護膜1651は熱可塑性樹脂1002と顔料浸透層1600とを合わせて溶融膜化しているため、顔料浸透層1600だけを溶融膜化した顔料保護膜1650と比べて、より厚膜で強固な保護膜となる。このため、より強固に顔料画像を保護することができた。すなわち、耐擦過性など機械的強度向上がさらに向上すると共に、インクジェット画像記録物表面からの刺激光に対する顔料画像の耐光性をさらに向上させることができた。また、溶融膜化した強化顔料保護膜1651の底部に、顔料粒子が包み込まれるように保持されるので、顔料画像1606は強固に保持される。さらに、強化顔料保護膜1651は、顔料浸透層と樹脂層1012を一体化して溶融膜化する際、ほぼ光学的に透明な層となり、しかも平坦に膜化されているため、ヘイズが少なく、表面グロス性も向上して、顔料画像1606の視認性を向上させることができた。
【0306】
(実施例3−3)
実施例1の顔料浸透層塗工液1を顔料浸透層塗工液3とし、樹脂層塗工液1を樹脂層塗工液2とし、かつインクジェット記録媒体製造時の乾燥温度を35℃とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体3−3を得た。インクジェット記録媒体3−3の顔料浸透層の空隙の細孔直径は120nmであった。一方、インクジェット記録媒体3−3の溶媒吸収層の空隙の細孔直径は、40nmであった。次に、実施例1と同様に、上述した第1の製造装置25を用いて、樹脂分散顔料インク1により、画像を記録することにより、
図24(a)に示す記録物を得た。この
図24(a)に示す記録物を、第1の製造装置の加熱圧着部のヒートローラと加圧ローラの間を搬送して加熱圧着することにより、実施例3−3の記録物3−3(
図24(b)参照)を得た。尚、加熱圧着は、
図24(a)に示す記録物に、平滑な表面質感調整シートとしてPET基材(商品名「テトロンG2」 厚さ25μm 帝人デュポンフィルム株式会社製)を重ね合わせて、加熱圧着部のヒートローラと加圧ローラの間を搬送して行った。このとき、ヒートローラの加熱温度を95℃、圧力3.9Kg/cm、搬送速度50mm/secとした。なお、SEMによる表面観察により、記録物3−3の顔料浸透層が溶融膜化せずに空隙構造を維持した状態で、熱可塑性樹脂が溶融膜化して顔料浸透層の空隙構造を埋めていることを確認した。
【0307】
実施例3−3においては、記録物3−3の顔料浸透層1600が、加熱圧着によっても溶融膜化せず、加熱圧着によって軟化溶融した熱可塑性樹脂1002が顔料浸透層1600の空隙構造を埋めるように膜化する点が、実施例3−2と異なる。すなわち、顔料浸透層を構成する樹脂粒子の溶融膜化温度がヒートローラによる加熱温度よりも高いため、
図24(b)に示すように、顔料浸透層1600の空隙構造は維持される。一方、熱可塑性樹脂粒子1002の溶融膜化温度は低いため、加熱圧着により、熱可塑性樹脂粒子は軟化溶融して流動し、顔料浸透層1600に浸透して、顔料浸透層1600の空隙を埋めて膜化する。これにより、顔料画像1606は、溶融膜化した強化顔料保護膜1651の底部に、顔料粒子が包み込まれるように保持される。
【0308】
従って、実施例3−2と同様に、顔料画像を保護する強固な保護膜を形成することができ、擦過性など機械的強度を向上させることができると共に、インクジェット画像記録物表面からの刺激光に対する顔料画像の耐光性も向上させることができた。樹脂層1012は顔料浸透層の空隙を埋めるように膜化するため、記録物の表面を覆う保護膜は、ほぼ透明で平坦化された膜となる。このため、ヘイズが少なくなり、表面グロス性が向上するため、顔料画像の画像視認性を向上させることができた。
【0309】
(実施例3−4)
実施例3−4の樹脂層塗工液1を樹脂層塗工液3とした以外は実施例3−1と同様にして、インクジェット記録媒体3−4を作成し、顔料インク1で画像を記録して、
図25(a)に示す記録物を得た。次に
図25(a)に示す記録物を実施例3−2と同様にして、加熱圧着することにより、
図25(b)に示す実施例3−4の記録物3−4を得た。なお、SEMによる表面観察により、樹脂層1012の一部は膜化しないで粒子状態で残存していることを確認した。
【0310】
実施例3−4においては、
図25(a)に示すように、樹脂層1012の熱可塑性樹脂1002が、加圧加熱しても溶融膜化しない表面質感向上剤1653を含有している点で、実施例3−2と異なる。すなわち、
図25(b)に示すように、質感向上剤1653は溶融膜化温度がヒートローラによる加熱温度よりも高いため、加熱圧着処理によっても溶融膜化せず、粒子状態のまま残存した。すなわち、顔料浸透層1600と保護強化層1012とが一体化して溶融膜化し、顔料粒子1606を強化顔料保護膜1651で包み込むように溶融膜化しても、表面質感向上剤は加圧加熱しても溶融膜化しない。このため、表面質感向上剤1653は粒子状態を保ち、表面質感向上剤1653は強化顔料保護膜1651表面に海島状に設けられたままの状態となった。なお、表面質感向上剤粒子の一部が、強化顔料保護膜1651内に埋め込まれており、強化顔料保護膜1651によって強固に固定化されていた。従って、記録物3−4は、表面質感向上剤により、手触り感が向上した。また、強化顔料保護膜1651は透明な膜となるため、画像視認性も向上した。また、表面質感向上剤により、表面に凹凸が残るため、表面の光沢を抑えてマット調の表面とすることができ、高級な質感を持たせることができた。
【0311】
なお、インクジェット記録媒体の樹脂層1012が表面質感向上剤1653を含有している以外は実施例3−2と同様であるため、強固な保護膜として顔料画像を保護することができ、擦過性など機械的強度向上がさらに向上すると同時に、インクジェット画像記録物表面からの刺激光に対する顔料画像の耐光性をさらに向上させることができた。
【0312】
(実施例4−1)
実施例1の顔料浸透層1を顔料浸透層2とし、溶媒吸収層塗工液1を溶媒吸収層塗工液3とした以外は実施例1と同様にして実施例4のインクジェット記録媒体4−1を得た。このインクジェット記録媒体4−1の顔料浸透層の空隙の細孔直径は120nmであり、溶媒吸収層の空隙の細孔直径は10nmであった。このインクジェット記録媒体4−1に、実施例1の顔料インク1を顔料インク2として画像を記録し、十分に乾燥させ、
図26(a)に示す記録物を得た。この
図26(a)に示す記録物を140℃に加熱したヒートローラを用いて加熱圧着することにより、
図26(b)に示す実施例4−1の記録物4−1を得た。尚、加熱圧着は、
図26(a)に示す記録物に、平滑な表面質感調整シートとしてPET基材(商品名「テトロンG2」 厚さ25μm 帝人デュポンフィルム株式会社製)を重ね合わせて、加熱圧着部のヒートローラと加圧ローラの間を搬送して行った。なお、SEMによる表面観察により、顔料浸透層、溶媒吸収層は膜化していることを確認した。
【0313】
インクジェット記録媒体4−1は、実施例1と比較していくつかの点で異なる。
【0314】
まず第1に、顔料インクとして、小粒径の顔料粒子を用いた高画質の顔料インクでインクジェット記録を行う点である。次に、小粒径の顔料粒子に合わせて、顔料浸透層1600の空隙径もやや小さめにしている。さらに、小粒径の顔料粒子に合わせて、溶媒吸収層1601を構成する無機微粒子の平均粒子径を極めて小さくしており、インク吸収速度を最適に保っている。
【0315】
また、実施例4−1では、
図26(b)に示すように、
図26(a)に示す溶媒吸収層1601が、加圧加熱することで溶融膜化する点が実施例2−1と異なる。すなわち、顔料浸透層1600と同様に、加圧加熱により溶融変形し易い樹脂微粒子をバインダー樹脂により結合することで空隙が形成された空隙吸収型の溶媒吸収層1601を形成している。溶媒吸収層1601の細孔は実施例1と同様であるため、顔料インクを用いてインクジェット記録を行った直後には、顔料浸透層1600を通過したインクは、顔料浸透層1600と溶媒吸収層1601との界面で固液分離し、顔料粒子は顔料浸透層の底部で薄膜状の稠密な画像を形成し、顔料インクの液体成分である溶媒成分は、殆ど全量が溶媒吸収層1601に吸収されている。従って、
図26(a)に示すように、溶媒吸収層1601の樹脂微粒子が軟化溶融して空隙構造が解消されても、溶媒成分の染み出しが生じないように、顔料インクを用いてインクジェット記録を行った後に、溶媒吸収層1601に吸収した揮発性の溶媒成分を十分に乾燥させている。
図26(b)に示すように、加熱圧着により、顔料浸透層1600とともに溶媒吸収層1601も一体化して、溶融膜化するため、軟化溶融して透明に膜化した溶媒吸収層1601が、顔料浸透層1600に形成された顔料画像1606の強固な保護膜1655としても機能する。このため、空隙構造を維持したままの溶媒吸収層に比べて、画像記録物端面からの汚染液体や有害ガスなどによる汚染を防止できるので、長期保存性をさらに向上させることができる。
【0316】
(実施例4−2)
実施例4−1の基材1を透明な基材2に変更し、インクジェット記録媒体4−1の顔料浸透層の表面に、樹脂層塗工液4を塗工して乾燥させることにより、インクジェット記録媒体4−2(
図27(a)参照)を得た。インクジェット記録媒体4−2の顔料浸透層の空隙の細孔直径は120nmであった。一方、インクジェット記録媒体4−2の溶媒吸収層の空隙の細孔直径は、10nmであった。また、実施例2−1と同様の方法で測定した結果、製造した記録媒体の顔料浸透層の露出部の面積は、顔料浸透層の全面積に対して75%であった。
【0317】
得られたインクジェット記録媒体4−2(
図27(a)参照)に、上述した第1の製造装置25を用いて、樹脂分散顔料インク2により反転画像1606を記録した後、十分に乾燥させることにより、
図27(b)に示す記録物を得た。第1の製造装置25の記録部6としては、シリアルヘッドを搭載した顔料インクジェットプリンタ(商品名「PIXUS PRO−1」、キヤノン株式会社製)を用いた。このプリンタに、前述の顔料インク2を搭載し、きれいモード(吐出量4pl、解像度1200dpi、カラー記録)で反転画像を記録した。この、
図27(b)に示す記録物を、第1の製造装置25の加熱圧着部のヒートローラ21と加圧ローラ22の間を搬送して加熱圧着することにより、実施例4−2の記録物4−2(
図27(c))を得た。このとき、ヒートローラ21の加熱温度を95℃、圧力3.9Kg/cm、搬送速度50mm/secとした。なお、SEMによる表面観察により、記録物4−2の顔料浸透層1600および樹脂層1012、さらに溶媒吸収層1601も膜化していることを確認した。
【0318】
実施例4−2は、基材50を、記録された顔料画像の強固な保護層として使用し、画像1606を基材50側より視認可能とするため、実施例4−1の記録物4−1といくつかの点で異なる。先ず、第1は、基材50が厚く、透明である点である。次に、顔料インクとして、小粒径の顔料粒子を用いた高画質の顔料インクでインクジェット記録を行う点である。このため、小粒径の顔料粒子に合わせて、顔料浸透層1601の空隙径もやや小さめにしている。さらに、溶媒吸収層1601を構成する無機微粒子の平均粒子径を極めて小さくすることで、空隙径が可視光よりも十分に小さくなり、可視光がほぼ透過し溶媒吸収層の透明性が極めて高くなるように構成されている点である。もう一点は、
図27(c)に示すように、顔料浸透層1600および樹脂層1012とともに溶媒吸収層1601も、加圧加熱によって溶融膜化する点である。このとき、樹脂層1012は白色顔料を含有しているため、加熱圧着によって、溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600と樹脂層1012とが一体化して溶融膜化することにより、強化顔料保護膜1651は隠蔽層として機能した。
【0319】
また、
図27(c)に示すように、基材50が透明で厚い層を形成しているため、優れた画像視認性を得ることができ、さらに、基材50が極めて強固な保護膜として機能するため、顔料画像を強固に保護することができた。一方、顔料浸透層1600や樹脂層1012は、画像裏面の保護層として機能した。すなわち、擦過性など機械的強度向上が極めて向上するとともに、刺激光に対する顔料画像の耐光性も向上させることができた。
【0320】
また、溶媒吸収層1601の平均空隙直径が10nm程度と極めて小さくなるように制御されており、可視光よりも十分に小さいため、ヘイズが非常に低く、透明性が非常に高いため、優れた画像視認性が得られた。なお、
図27(c)に示すように、溶媒吸収層1601は、加熱圧着により、溶媒吸収層の樹脂微粒子が軟化溶融して空隙構造が消滅し、透明な膜となるため、画像視認性をさらに高めることができた。従って、
図27(c)に示すように、記録物4−2の反転画像を、基材50、密着層1602、溶媒吸収層1601を介して矢印1649側から視認したとき、画像濃度は極めて良好であった。
【0321】
また、
図27(c)に示すように、実施例4−2においては、溶媒吸収層1601、顔料浸透層1600と樹脂層1012は、顔料画像1606を包み込んだ状態で溶融膜化する。このため、樹脂層1012が白色顔料1656を含む場合には、強化顔料保護膜1670は背景隠蔽層となり、画像は白色散乱層を背景として形成されることとなる。従って、基材、密着層、溶媒吸収層を介して視認される画像は、コントラストの高い画像となり、より高い視認性を得ることができた。また、顔料浸透層1600や樹脂層1012が画像裏面の保護層となるため、記録物4−2の耐久性、保存性を高めることができる。
【0322】
さらに、軟化溶融して透明に膜化した溶媒吸収層1601が、顔料浸透層1600に形成された顔料画像1606の強固な保護膜としても機能する。このため、空隙構造を維持したままの溶媒吸収層に比べて、画像記録物端面からの汚染液体や有害ガスなどでの汚染を防止することができるので、長期保存性をさらに向上させることができる。
【0323】
(実施例4−3)
実施例4−2の樹脂層塗工液4を樹脂層塗工液5とした以外は実施例4−2と同様にしてインクジェット記録媒体4−3および記録物4−3を得た。この実施例4−3は、樹脂層1012が、白色粒子と蛍光粒子とを含んだ白色蛍光保護層となる点が実施例4−2と異なる。インクジェット記録媒体4−3は、実施例4―2で説明した機能と同様の機能を維持している。また、強化顔料保護膜が、白色蛍光の機能を有するため、背景隠蔽層となって、顔料画像の視認性を高め、さらに白色蛍光保護層に含まれる蛍光粒子が発光することから、暗めの室内での画像視認性をさらに高めることができた。また、白色蛍光保護層の発光が溶媒吸収層を透過し易くなり、顔料画像の視認性がより高まることが確認できた。
【0324】
(実施例5)
実施例1の基材1を基材3とし、実施例1の乾燥後の溶媒吸収層の塗工量を40g/m
2を10g/m
2に変更して溶媒吸収層の厚さを10μmとし、顔料浸透層1を顔料浸透層2とし、第2の製造装置30を用い、かつカットシート状のインクジェット記録媒体1をロール状のインクジェット記録媒体5とした以外は実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体5(
図28(a)参照)を得た。インクジェット記録媒体5の顔料浸透層の空隙の細孔直径は120nmであった。一方、インクジェット記録媒体5の溶媒吸収層の空隙の細孔直径は、40nmであった。
【0325】
その後、インクジェット記録媒体5に画像を記録して、
図28(b)に示す記録物を得た後、
図28(b)に示す記録物を100℃に加熱したヒートローラを用いて加熱圧着することにより、実施例5の記録物5(
図28(c)参照)を得た。なお、S(e)Mによる表面観察により、顔料浸透層は膜化していることを確認した。
【0326】
インクジェット記録媒体5(
図28(a))は、基材50の裏面にヒートシール層1200を有しており、包装材料に好適である。基材以外のインクジェット記録媒体5の構成は実施例1と同様であるため、インクジェット記録媒体5の基本的な機能は実施例1と同様であった。従って、高解像度・高濃度なインクジェット記録を行うことで、
図28(b)に示すように、薄膜状の稠密高精細な正像の顔料画像を顔料浸透層底部に形成できた。加熱圧着を行うと、
図28(c)に示すように、顔料浸透層1600が溶融膜化して顔料保護膜1650を形成するため、顔料画像の保護機能がさらに強化され、耐擦性が特に良好になった。また、加熱圧着時に顔料浸透層1600が最表層の顔料画像を包み込むように軟化溶融膜化して平坦な記録面を形成しているので、不要な光散乱がなく、表面グロス性も向上しており、さらに高い画質が得られた。
【0327】
このインクジェット記録媒体5(
図28(a))は、顔料浸透層1600を構成する樹脂微粒子および、水溶性樹脂(PVAにおいては接着性に寄与する酢酸ビニル基)の構成材料のSP値とヒートシール層1200の構成材料のSP値とが近いため、顔料浸透層1600とヒートシール層1200とが熱接着可能であり、さらに顔料浸透同士、ヒートシール層同士も熱接着可能であった。また、基材50と溶媒吸収層1601との間に設けたヒートシール層は密着層1603として作用し、溶媒吸収層1601を構成する水溶性樹脂(PVAにおいては接着性に寄与する酢酸ビニル基)の構成材料のSP値と密着層1603の構成材料のSP値とが近いため、基材50と溶媒吸収層1601との密着性が向上している。従って、特に包装材料として用いた場合においては、開封時に裂け目部分でインク受容層がバリとして残ったり、インク受容層が包装フィルムを構成する基材から剥がれたり、鋭角に折り曲げた場合に、折り曲げ部分にて基材からインク受容層が剥がれ落ちたり、インク受容層が割れたりすることはなく、良好な折り曲げ性能を示した。
【0328】
(比較例1)
実施例1の顔料浸透層を形成する顔料浸透層塗工液1を溶媒吸収層塗工液1に、溶媒吸収層を形成する溶媒吸収層塗工液1を顔料浸透層塗工液1とした以外は実施例1と同様にして比較例1のインクジェット記録媒体6および記録物6を得た。
【0329】
比較例1においては、顔料浸透層の細孔が顔料インクの平均2次粒子径よりも小さいため、顔料インクの顔料粒子が、顔料浸透層内部に浸透できずに顔料浸透層表面で固液分離し、表面に色材が残留した。従って、耐擦過性が極めて低い記録物となった。
【0330】
(比較例2)
実施例1の溶媒吸収層塗工液1を溶媒吸収層塗工液6とした以外は実施例1と同様にして比較例2のインクジェット記録媒体7および記録物7を得た。
【0331】
比較例2においては、顔料浸透層の細孔よりも溶媒吸収層の空隙を大きく形成している。顔料浸透層の細孔は、顔料インクの平均2次粒子径よりも大きいため、顔料インクの顔料粒子は顔料浸透層内部に浸透した後、溶媒吸収層にも浸透するため、顔料粒子が広く分散してしまい、画像濃度が低下した。また、この比較例2では、溶媒吸収層のインクの吸収速度が顔料浸透層の吸収速度よりも遅くなるため、顔料浸透層内部における顔料インクの溶媒の滞留時間が長くなり、顔料の浸透拡散が過大になることで画像のにじみが発生した。
【0332】
(擦過性)
実施例または比較例のインクジェット記録媒体にブラックインクでベタ100%画像を記録した際の、記録面(色材受容層)を学振試験機により、重り500gの負荷をかけながら、シルホン紙で記録面を30回擦った際の擦過性を評価した。評価は、ブラックインク画像の光学濃度を、光学反射濃度計(商品名「RD−918」、グレタグマクベス社製)を用いて測定し、下記式(1)より残存OD率を算出し評価した。その結果を表2ないし表3に示す。
【0333】
残存OD率=(試験後のOD/試験前のOD)×100%・・・式(1)
☆:残OD率が99%以上
◎:残OD率が97%以上、残OD率が99%未満
○:残OD率が90%以上、残OD率が97%未満
△:残OD率が80%以上90%未満
×:残OD率が80%未満
【0334】
(画像特性(画像にじみ、画像濃度))
実施例または比較例のインクジェット記録媒体にBKのベタ100%画像を記録した記録物の、記録面(色材受容層)における画像特性(画像のにじみ、画像濃度)を評価した。評価は目視により行った。その結果を表2ないし表3に示す。
【0335】
○:画像濃度が1.5以上で、にじみがない
△:画像濃度が1.0以上1.5未満で、あるいは画像にじみが若干ある
×:画像濃度が1.0未満あるいは、画像がにじんでいる
【0336】
(保存特性(耐水性試験))
実施例または比較例のインクジェット記録媒体にBKのベタ100%画像を記録した記録物の、印刷部を48時間、水に浸漬させることで長期保存性を評価した。その結果を表2乃至表3に示す。
【0337】
○:インクジェット記録媒体のインク受容層に水が浸透していない
△:インクジェット記録媒体のインク受容層に若干水が浸透して、画像に若干のにじみがあるが、画像の判別は可能である
×:インクジェット記録媒体のインク受容層に水が浸透して、画像がにじんで判別できない
【0340】
(第2の実施形態)
まず、本発明の第2の実施形態の概要について説明する。
第2の実施形態においては、主に、第1の実施形態と違いがある項目について記載する。
【0341】
(本発明の概要)
本発明の記録媒体1は、
図35のように、基材50上に、2層以上のインク受容層53と、樹脂層1012と、が順次設けられている。基材寄りのインク受容層53は、顔料インクの溶媒成分の吸収性に優れた厚膜の空隙吸収型の溶媒吸収層1601である。樹脂層寄りのインク受容層53は、顔料インクの顔料成分および溶媒成分の浸透性に優れた薄膜の空隙吸収型の顔料浸透層1600である。樹脂層1012は、顔料浸透層1600の表面が露出する部分1001を残すように、離散的に設けられた熱可塑性樹脂1002によって形成される。
【0342】
図2(a)のように、樹脂層1012を介して付与された顔料インク1003は、顔料浸透層1600の全面に亘って速やかに拡散浸透する。これにより、エリアファクターに優れた記録が可能となる。
図3(b)のように、顔料インク1003は、顔料成分と溶媒成分が浸透可能な顔料浸透層1600と、溶媒成分を吸収可能な溶媒吸収層1601と、の界面において固液分離し、色材である顔料粒子によって、顔料浸透層1600の底部に稠密な薄膜状に顔料画像1606が形成される。
【0343】
樹脂層1012は、熱可塑性樹脂1002が離散的に樹脂層に配置された海島状に構成されており、海部に露出する顔料浸透層1600のインク吸収速度(浸透速度)は、島部1000である熱可塑性樹脂1002のインク吸収速度よりも速い。そのため、前述した実施形態における
図10のように、顔料インク1003は、その一部が顔料浸透層1600の露出部1001に接触すると、顔料浸透層1600内に速やかに引き込まれる。顔料インク1003は、空隙吸収構造の顔料浸透層1600の毛細管効果により、
図37のように、熱可塑性樹脂1002の直下にも入り込むことが可能となる。そのため、エリアファクターを向上させることができる。顔料浸透層1600内に浸透した顔料インク1003は、顔料浸透層1600の浸透異方性に応じて、膜厚方向および水平方向に拡がりながら吸収される。顔料浸透層1600における顔料インクの浸透性が等方的であれば、顔料浸透層1600の厚みにほぼ相当する幅でドットが拡がり、エリアファクターを向上させることができる。
【0344】
さらに、顔料浸透層1600内における顔料インク1003の広がりを適切に制御することにより、
図53(a)に示すように、画像にじみ、および記録解像度の低下を発生しにくくして、画像の記録特性に優れた記録媒体を得ることができる。
図53Aにおいて、部分(a―3)は記録媒体の記録面の平面図であり、部分(a−1),(а―2)は、部分(a―3)のa―a線に沿う断面図である。部分(a−1)に示すように付与された顔料インク1003は、部分(а―2)に示すように吸収される。
【0345】
溶媒吸収層1601の空隙は顔料浸透層1600の空隙よりも小さく、溶媒吸収層1601のインク吸収速度は、顔料浸透層1600よりも高い。したがって、
図3(b)のように、顔料インク1003の顔料粒子は薄膜の顔料浸透層1600の底部に吸収され、溶媒成分1607は、ほぼ全量が厚膜の溶媒吸収層1601に吸収される。
【0346】
すなわち、本発明の記録媒体において、空隙構造の顔料浸透層は、その空隙径が顔料粒子よりも十分に大きいため、毛細管力が小さくてインクの吸収速度はやや遅い。しかし、流路抵抗が小さいため、樹脂層を介して、顔料浸透層の表面に付与された顔料インクは、その顔料粒子も含めてスムーズに顔料浸透層内に浸透吸収される。一方、溶媒吸収層の空隙構造は、顔料粒子よりも十分に小さな細孔により構成されているため、毛細管力が格段に大きく、インクの吸収速度が格段に速い。溶媒吸収層は、顔料粒子よりも空隙が小さくて流路抵抗が大きいため、顔料粒子は溶媒吸収層の表面で固液分離され、顔料インクの溶媒成分のみが溶媒吸収層に高速で吸収される。すなわち、樹脂層を介して顔料浸透層の表面から吸収浸透された顔料インクは、その一部が顔料浸透層と溶媒吸収層の界面に到達すると、溶媒吸収層の格段に大きな毛細管力によって、顔料インクの溶媒成分が高速で吸収され始め、顔料浸透層内の顔料インクの浸透速度も急速に早まる。したがって、顔料浸透層の底部において顔料粒子が固液分離される際には、顔料インクの流れが速い。そのため、顔料粒子は、圧縮されながら薄膜状の稠密な顔料画像を形成する。色材である顔料粒子が薄膜状に稠密に堆積して顔料画像を形成するため、その顔料画像は、光吸収特性および発色性に優れる。
【0347】
また、溶媒吸収層に関しては、顔料インクの主体を成す溶媒成分の全てを吸収できるように、十分な厚さとして大きな吸収容量を確保する。そのため顔料浸透層は、顔料粒子の全てを収納できるだけの空隙容量があればよく、薄層に構成することができる。樹脂層を介して顔料浸透層の表面に付与された顔料インクは、顔料浸透層内の空隙に吸収浸透される際に、平面方向にも拡散する。その拡散の幅は、薄膜の顔料浸透層の膜厚とほぼ同程度であり、厚膜の溶媒吸収層の全体に亘って顔料インクが浸透拡散する場合に較べて、薄膜の顔料浸透層における顔料インクの拡散の幅は極めて小さい。そのため、高い記録解像度を得ることができる。顔料画像を設計する際には、隣接する顔料ドット(顔料インクの顔料によって形成されるドット)が重なり合わせて、それらの顔料ドットに対応する画素を顔料ドットによって埋めるようにしている。したがって、所望の顔料ドットのにじみ量に合わせて、顔料浸透層の膜厚を調整すればよい。また本発明の記録媒体は、上述したように、インク受容層を少なくとも2層以上とし、それらの層の機能を分離することによって顔料インクを固液分離させ、溶媒吸収層に関しては、顔料インクの主体を成す溶媒成分を全て吸収できるように、それを十分な厚さとして大きな吸収容量を確保する。したがって、インク受容層における画像にじみを懸念することなく、薄膜の顔料浸透層の底部に高濃度で高精細な顔料画像を形成することができる。
【0348】
顔料インク1003の色材成分である顔料粒子は、一般的には、通常数十ナノメーター以下の微粒子がいくつか凝集し、数十から百ナノメーター程度の2次粒子を形成して、インク中に分散されている。したがって、顔料浸透層1600は、その空隙径が顔料2次粒子径よりも大きくなるように、やや大粒径の微粒子を用いて形成する。これにより顔料粒子は、顔料浸透層1600の空隙の細孔を通って、顔料浸透層1600と溶媒吸収層1601との界面に速やかに到達する。粒子状の熱可塑性樹脂1002を島状に配した樹脂層1012を形成した場合には、樹脂層1012の空隙が顔料浸透層1600の空隙よりも大きくなるように、熱可塑性樹脂1002の粒子をさらに大きくする。これにより、樹脂層の空隙に入り込んだ顔料インクの一部は、顔料浸透層1600に接しているインクに連なっている限り、顔料浸透層1600に引き込まれることになる。
【0349】
上述したように、樹脂層を介して顔料浸透層の表面から吸収浸透された顔料インクは、その一部が顔料浸透層と溶媒吸収層の界面に到達すると、溶媒吸収層の格段に大きな毛細管力によって、顔料インクの溶媒成分が高速で吸収され始め、顔料浸透層内の顔料インクの浸透速度も急速に早まる。溶媒吸収層による溶媒成分の高速な吸収が始まると、顔料浸透層における流抵抗が小さいため、その顔料浸透層および樹脂層内に残っている顔料インクは、その粘度または表面張力のために、千切れることなく溶媒吸収層内に引き込まれるようにして高速に吸収される。
【0350】
また、顔料粒子を透過させるための大きな空隙を含む顔料浸透層に対して、顔料インクがやや低速に浸透し始める浸透初期において、顔料インクの一部が溶媒吸収層に到達することにより、樹脂層および顔料浸透層内の顔料インクの他の部分は、溶媒吸収層の大きな毛細管力により高速に浸透され始める。したがって、本発明の記録媒体では、空隙の小さな溶媒吸収層による大きな毛細管力によって、樹脂層および顔料浸透層における顔料インクの滞留時間を短くすることができる。この結果、例えば、加圧加熱により溶融膜化される樹脂層における顔料インクの残留、および、その樹脂層に近接する顔料浸透層内における顔料インクの溶媒成分の残留が生じにくい。後述するように、樹脂層を接着層として利用することにより、樹脂層を介して様々な支持体に転写する際に、樹脂層の加圧加熱による画像支持体への記録媒体の転写性が向上する。また、加圧加熱によっても空隙構造を維持する膜厚の溶媒吸収層によって、顔料インクの溶媒成分のほぼ全てを高速に吸収させることにより、顔料インクを付与した画像の記録直後であっても、特別な乾燥手段および時間を要することになく、画像支持体に記録媒体を良好に転写することができる。すなわち、インク吸収速度が最も速く、かつインク吸収容量の大きな厚膜の溶媒吸収層が、その空隙構造を維持したまま、顔料インクのほぼ全ての溶媒成分を吸収保持することにより、画像を記録後に速やかに記録媒体を画像支持体に接着しても、溶媒成分の逆流および染み出しによる接着性の低下が生じにくい。
【0351】
本発明の記録媒体1においては、熱可塑性樹脂1002直下に、ホワイトポイント(非画像部)が発生しにくく、顔料浸透層1600の全域に亘って稠密な顔料画像1606を形成することが可能となる。また、顔料浸透層1600の底部に、顔料が薄膜状に凝縮されることにより、高精細かつ高濃度であって視認性に優れた顔料画像1606を形成することができる。さらに、樹脂層1012には、顔料インクの溶媒である液体成分がほぼ残らないため、樹脂層を接着層と利用し、樹脂層を介して様々な支持体に転写する際には、顔料画像1606の記録直後においても、記録媒体1を画像支持体に加圧、加熱もしくは加圧加熱して接着(転写)させることができる。
【0352】
本発明の記録媒体は、樹脂層を接着層として利用して、樹脂層を介して様々な支持体に転写することができ、耐候性に優れた顔料画像が形成された顔料浸透層を画像支持体に接着(転写)することにより、表面の擦過性に優れた記録物を製造することができる。さらに、溶媒吸収層の一部もしくは全部、あるいは、層状に構成した基材の一部の層を残すように基材を剥離することができ、その残した層は、顔料画像の保護層などとして機能させることができる。基材の一部の層を特定の機能層として画像支持体側に転写させる場合には、剥離層を設けることにより、安定した層間剥離を行うことができる。
【0353】
また、
図50および
図51に示すように、記録媒体1を構成する層の境界面に、適宜、剥離層1603を設けることにより、記録物の用途に応じた機能を画像に付与することができる。また、記録媒体1を構成する層の境界面に、各々の層の材質および製膜方法などを考慮して、転写時の不如意な層間剥離を防止して密着性を向上させるための密着層1602を設けてもよい。但し、このような剥離層および密着層は、それらが位置する層間において顔料インクの浸透が必要な場合には、毛細管現象による顔料インクの移動を妨げないように、親水性を考慮した材料などによって極薄膜状、あるいは海島状に構成する必要がある。
【0354】
例えば、本発明の記録媒体に、顔料インクを用いてインクジェット方式により画像を記録してから、その記録媒体を画像支持体へ転写した後に、溶媒吸収層を残して基材を剥離して記録物を作成することにより、その記録物の最表面を溶媒吸収層とすることができる。この場合には、その記録物に対して、インクジェット方式などによる画像の追記が可能となる。また、基材上に、顔料浸透層、溶媒吸収層、顔料浸透層、および海島状の樹脂層を順次形成した記録媒体を用いて記録物を作成し、その記録物の最表層に顔料浸透層を残すことにより、その顔料浸透層に対して、耐擦過性に優れた画像を、顔料インクを用いて追記することもできる。
【0355】
平均細孔径が可視光の波長よりも格段に小さな溶媒吸収層は、インク吸収速度が高い上に光学的にも透明性に優れているため、屋外用途に向けた保護層としても十分に活用可能である。さらに過酷な条件の屋外用途において、
図51に示すように、剥離層1603、保護層1623、密着層1602を設けることにより、厚膜な溶媒吸収層1601に加えて、保護層1623を画像支持体に転写させることができる。これにより、厚膜の溶媒吸収層1601と保護層1623とによって、顔料浸透層1600の底部に記録された顔料画像を覆うことができる。
【0356】
また、保護層および溶媒吸収層に、白色背景隠蔽層としての機能、および予め画像が記録された前画像層などの機能を持たせてもよい。
【0357】
また、過度な保存性および耐候性を必要としない屋内用写真インテリア物などの用途においては、
図54に示すように、インクの浸透性を大きく損なわないように、顔料浸透層と溶媒吸収層との間に、極薄膜状の剥離層1603を設けてもよい。この場合には、厚膜の溶媒吸収層1601が基材50と共に剥離されるため、保護層および厚膜の溶媒吸収層による画像への光学的な影響は発生しない。また、加圧加熱による転写時に軟化溶融して膜化する材料によって顔料浸透層1600を構成することにより、
図54のように、転写時に、顔料浸透層1600を膜化状態1611として、顔料画像1606を包み込むようにしてもよい。
【0358】
また、溶媒吸収層および顔料浸透層は、それぞれ複数の層に分けて形成してもよく、何れも、空隙吸収型のインク受容層としての基本的な機能を有し、かつインクの吸収速度が樹脂層側から基材側に向かって順次高くなるように構成されていればよい。
図46(a)から(e)における溶媒吸収層は、剥離層1603を介して位置する厚い層(第1の溶媒吸収層)1601と薄い層(第2の溶媒吸収層)1655とを含み、これらの層は、剥離層1603を介して位置する。
【0359】
また、樹脂層に、白色背景層および発光層などとしての光学的な機能を付加して、顔料画像の視認性を高めることも可能である。また、粘着膜などの膜状の熱可塑性樹脂を海島状に離散的に設けることによって、樹脂層を形成してもよい。
【0360】
以下、本発明の第2の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0361】
[1]記録媒体
本発明では、基材上に少なくとも2層のインク受容層を設け、そのインク受容層の表面に樹脂層を設けた記録媒体において、それぞれのインク受容層を空隙吸収型とし、記録媒体の表面側のインク受容層(基材から遠い側のインク受容層)の表面に熱可塑性樹脂を離散的に設けて樹脂層を形成することにより、インク受容層の表面が直接露出した部分を残す。基材に近い側のインク受容層である溶媒吸収層は、顔料インクの顔料粒子は浸透させずに、顔料インクの溶媒成分のみが吸収できるように、平均細孔径が比較的小さい空隙吸収型の厚膜のインク受容層とする。一方、基材から遠い側のインク受容層、つまり樹脂層に近い側のインク受容層は顔料浸透層とし、顔料粒子を含む顔料インクの全体が浸透拡散できるように、平均細孔径が比較的大きい空隙吸収型の薄膜のインク受容層とする。このようにインク受容層は、少なくとも2層構造とする。本発明の記録媒体は、樹脂層を接着層として利用することにより、樹脂層を介して様々な支持体に転写することも可能である。
【0362】
[1−1]基材
本実施形態の記録媒体1は、
図56に示すように基材50を備えている。基材50は、インク受容層53としての溶媒吸収層1601および顔料浸透層1600、顔料浸透層1600の表面に離散的に設けられた熱可塑性樹脂の樹脂層1012と、の支持体となるシート体である。この基材50は、インクジェット記録時および画像支持体との接着時において、記録媒体1のカールを抑制し、記録媒体1の搬送性を良好にする搬送層として機能する。また、基材50の搬送性をさらに向上させるために、滑り性を改善する公知の搬送補助層などを裏面側に設けてもよい。
【0363】
基材50には、保護層、前記録層、およびマグネットシート層などの機能層、または剥離層および密着層などの転写制御層等、他の機能を付与してもよい。例えば、後述するように樹脂層1012を溶融膜化させて、顔料インクによって画像が記録された顔料浸透層1600を画像支持体に転写させる際に、基材50と保護層との剥離、もしくは基材50と溶媒吸収層1601との剥離および密着など、基材50側と顔料浸透層1601側との間の剥離性および密着性を制御するための剥離層および密着層を設けてもよい。すなわち、基材50と溶媒吸収層1601との剥離によって、溶媒吸収層1601を、そのまま画像転写後の画像支持体の表面とする場合には、その画像支持体を搬送用の支持体として活用することにより、その画像支持体に対して、二次的なインクジェット記録が可能となる。あるいは、基材50側に剥離可能な保護層を設けて、画像支持体への転写後に、その保護層を溶媒吸収層1601と共に画像支持体側に残すことにより、その保護層を画像の保護層として機能させることができる。さらに、剥離される基材50側の境界面に、凸凹状の構造的潜像を含む前記録層を予め設けておくことにより、画像支持体への転写時に、凹凸状の構造的潜像も転写することができる。このような構造的潜像と同様に、保護層または溶媒受容層1601の表面に、光沢層およびマット層、さらには手で触れた際の質感を与える所望の表面粗さなどを付与してもよい。また、保護層に対して、グラビア印刷またはレーザー加工などの汎用的な描画手段によって、予め、有色画像またはホログラム画像などの前記録層を設けておくことも可能である。
【0364】
また、後述するように、画像支持体への転写時に、基材50自体を保護層として残すことにより、画像の保存性を向上させることも可能である。顔料インクを用いたインクジェット記録によって樹脂層1012側から反転画像を記録して、その反転画像を不透明の画像支持体に転写した場合、顔料浸透層1600の底部の顔料画像1606(
図3(a)参照)は、保護層としての基材50または溶媒吸収層1601を介して視認されることになる。その画像の視認性を向上させるためには、溶媒吸収層1601または保護層自体の光学的な透明性を高めればよい。一方、顔料インクによって樹脂層1012側から正像を記録して、その正像を透明の画像支持体に転写した場合、顔料浸透層1600の底部の顔料画像1606は、透明化した顔料浸透層1600、樹脂層1012、および画像支持体を介しての視認性を向上させることが必要となる。また、保護層としての基材50または溶媒吸収層1601が白色もしくは不透明として、顔料画像1606の背景層として活用することにより、さらに画像の視認性を向上させることができる。
【0365】
本発明の記録媒体における基材および基材の一部である保護層は、機械的強度の他、耐水層、物理的な裏面保護膜、およびUV(紫外線)、オゾン保護層としての機能を有することも可能である。さらに、後述するように、基材および基材の一部である保護層は、白色隠蔽層、および蓄光して蛍光(燐光)する発光層などの光学的な機能層として活用することも可能である。
【0366】
[1−1−1]基材の材料
本発明の記録媒体は、IDカード、社員証、およびクレジットカード等の各種セキュリティーカード分野、マイナンバーカードおよびパスポート等の公的文書通知の分野、包埋カセット等の薬理/病理分野において用いることができる。このような用途において、画像の記録および転写を高速で行うためにロール状の記録媒体をロールツーロール搬送する場合には、基材の厚みを好ましくは5μm以上、より好ましくは15μm以上とすることにより記録媒体の搬送性を向上させることができ、また基材の厚みを100μm以下、より好ましくは50μm以下とすることにより良好な熱伝達性が得られる。一方、カットシートおよびプレート状の記録媒体用の基材は、耐カール性および供給性能などの観点から、機械的強度に優れた厚い基材を搬送層として用いることが好ましく、この場合には、基材の厚みを30μm以上、より好ましくは50μm以上とすればよい。また、画像転写時に加熱する場合、本発明における記録媒体は、主として基材側からの加熱が行われるため、基材の厚みを300μm以下、より好ましくは150μm以下とすることにより、インクジェット記録後に記録媒体を画像支持体に加熱して接着する際に、熱伝達性を良好とすることができる。このように基材の厚みは、搬送性および材料強度を考慮して適宜決定すればよく、特に限定されない。記録媒体の形態および用途に応じて、良好な搬送性および熱伝達性が維持できればよい。
【0367】
機械的特性および熱的特性の観点から、基材の好ましい材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)を挙げることができる。基材を構成する樹脂は、記録媒体の用途に応じて適宜選択すればよく、特に制限されず、以下のような様々な材質のものを用いることができる。例えば、基材を構成する樹脂フィルムとして、第1の実施形態の基材と同様のものを用いることができる。
【0368】
[1−2]保護層
記録媒体は、樹脂層を接着層として利用し、画像支持体に転写して、記録物を製造することも可能であり、転写した記録物の画像の記録面の耐候性、耐摩擦性、および耐薬品性などの耐久性を向上させるために、保護層を含んでいてもよい。保護層には、無色透明の保護層の他、半透明の保護層、着色された透明の保護層、白色などに着色された保護層なども含まれる。透明な保護層は、JIS K7375に準拠して測定される全光線透過率が50%以上、好ましくは90%以上のシートに相当する。保護層の種類は特に限定されない。保護層としては、耐候性、耐摩擦性、および耐薬品性などの耐久性に優れ、インク受容層との相溶性が高い材質からなるシートおよびフィルムが好ましい。
【0369】
[1−3]前記録層
記録物のセキュリティー性を向上させるために、基材上に、画像が記録されて剥離されない前記録層を備えてもよい。前記録層に補助的な画像(プレプリント)を施して、機能性の高い画像を予め基材50上に付与することにより、記録物73のセキュリティー性を向上させることができる。前記録層1637は、第1の形態と同様のものを用いればよい。
【0370】
本発明における記録媒体の基材は、記録物の用途に応じて、基材の全部または一部を剥離してもよく、剥離しなくてもよい。基材の一部を記録物に残す場合には、その基材の一部に、種々の機能を付与することができる。
【0371】
[1−4]画像支持体
本発明の記録媒体は、樹脂層を接着層として利用し、樹脂層を介して、様々な材質の画像支持体に転写することもできる。画像支持体の材質は、特に制限されない。画像支持体としては、例えば、樹脂を構成材料とする画像支持体(樹脂ベース支持体)、紙を構成材料とする画像支持体(紙ベース支持体)等を挙げることができる。樹脂ベース支持体を構成する樹脂は、画像支持体の用途に応じて適宜選択すればよく、特に制限されず、例えば、基材と同様の材質のものを用いることができる。画像支持体の材質としては、ガラス、金属、または木材等も挙げられる。画像支持体のとの良好な接着性を得るためには、画像支持体の材質に合わせて、接着性に優れた熱可塑性樹脂を適宜選定し、熱可塑性樹脂を顔料浸透層上に離散的に形成すればよい。
【0372】
[1−5]溶媒吸収層
本発明の記録媒体における溶媒吸収層は、インクジェット記録方式によって付与される顔料インクの溶媒を吸収する層である。インクを吸収するメカニズムは、第1の形態で説明したメカニズムと同様である。溶媒吸収層の層構成および材質は、第1の形態のものと同様である。
【0373】
第2の形態においては、転写時に、溶媒吸収層の空隙構造が壊れて、インクの液体成分が顔料浸透層の表面に染み出して膜化したり、インクの液体成分が突沸して、顔料浸透層と画像支持体との間の接着面に空気層などを生じたりした場合には、顔料浸透層と画像支持体との接着が阻害されるおそれがある。しかし、無機微粒子を水溶性樹脂のバインダーによって結合させることにより、無機微粒子が非常に硬い材質であるため、空隙が設けられた溶媒吸収層は、圧力や熱によっても空隙構造が壊れにくく、接着後も空隙構造をほぼ保持することが可能となる。この結果、溶媒吸収層は、吸収したインクを内部に保持することができ、また蒸気が発生しても内部に封じ込めることができる。また、加熱圧着時の熱によっても空隙構造が維持されることにより、インクの液体成分が個々の空隙内で突沸して蒸気が発生したとしても、接着面に空気層などが形成されないように蒸気を各々の空隙内に封じ込めて、接着性を良好とすることができる。また、加熱圧着時に、空隙が潰れたり加熱によって溶解したりせずに、空隙構造がほぼ維持されることにより、インクの液体成分である水などの主要溶媒、および不揮発性溶剤を表面に染み出させることなく、接着性を良好とすることができる。
【0374】
また、顔料インクによるインクジェット記録直後であっても、顔料インクの液体成分である水および不揮発性溶剤などの溶媒の樹脂層への逆流が抑えられるため、溶媒吸収層内に吸収された溶媒の乾燥を待つことなく、速やかに画像支持体への転写工程を行うことができる。したがって、溶媒成分を乾燥するための膨大な乾燥エネルギーおよび時間を必要とせずに、簡易な工程により、記録媒体を効率的に画像支持体に接着してから基材を剥離することができ、良好な転写性が実現できる。また、無機微粒子と水溶性樹脂とより構成される空隙吸収型の溶媒吸収層は、特別な配向処理なくても安定的に作製することができ、生産性も良好である。
【0375】
無機微粒子および水溶性樹脂によって構成される空隙吸収型の溶媒吸収層の空隙容量は、第1の実施形態と同様の範囲に設定できる。溶媒吸収層の空隙率は,第1の実施形態と同じであってもよい。無機微粒子および水溶性樹脂によって構成される空隙吸収型の溶媒吸収層の細孔直径の平均(平均細孔直径)は、第1の実施形態と同様の範囲に設定できる。
【0376】
加熱圧着時に記録媒体の溶媒吸収層を溶融変形しにくくするために、溶媒吸収層として、無機微粒子の代わりに、溶融温度Tgが転写温度よりも高い樹脂微粒子を用いて、この樹脂微粒子をバインダー樹脂により結合して、空隙が形成された空隙吸収型のインク受容層を形成することも可能である。樹脂微粒子の中から、溶融温度Tgが転写温度よりも高い樹脂微粒子を用いて空隙構造を形成することにより、転写時の熱によっても粒子構造が維持されて、転写時の熱により樹脂粒子が溶融して空隙が潰れることがない。また、転写温度よりも軟化溶融温度が高い樹脂微粒子は高Tg樹脂であり、一般に、樹脂微粒子を構成する分子構造が剛直であるものが多く、比較的硬い粒子である。そのため、圧力によって空隙が潰れることがない。このように、転写工程における圧力および加熱によっても空隙が潰れないことにより、インクの液体成分である水などの主要溶媒および不揮発性溶剤が接着面に逆流して染み出すことがなく、良好な接着性を実現することができる。
【0377】
記録媒体1の溶媒吸収層1601として、上記とは逆に、加熱圧着時に溶融変形しやすい樹脂微粒子をバインダー樹脂により結合することにより空隙が形成された、空隙吸収型のインク受容層を用いることも可能である。
図52(a)は、このような溶媒吸収層1601を備えた記録媒体1の断面図である。顔料インクの溶媒成分として、不揮発性溶剤を除く主要な溶媒成分は、水およびアルコールなどの揮発性溶剤が一般的であり、溶媒吸収層1601に吸収された後でも乾燥させることが可能である。したがって、顔料インクを用いてインクジェット記録を行った後に、記録媒体の溶媒吸収層1601に吸収された揮発性の溶媒成分を十分に乾燥させるための工程、時間、および装置などを備えることにより、溶媒吸収層の樹脂微粒子が軟化溶融しても、極少量残る不揮発性溶剤の樹脂層1602への逆流を抑えることができる。この結果、
図52(b)のように、画像支持体55への記録媒体1の良好な接着性が得られる。
【0378】
このように溶媒吸収層1601は、空隙を形成している樹脂微粒子が加圧加熱により軟化溶融するものであっても、顔料インクに含まれる少量の不揮発性溶剤が保持できるように構成すればよい。溶媒吸収層1601が軟化溶融して膜化することにより、溶媒吸収層1601の空隙および樹脂粒子界面の光散乱によって生ずる透明性の低下を抑制することができる。この結果、顔料浸透層1600の底部に薄膜状に形成された稠密な顔料画像は、溶媒吸収層1601側からの視認性が向上する。また、軟化溶融状態となって透明に膜化した溶媒吸収層1601の部分1639は、
図52(c)のように、顔料浸透層1600に形成された顔料画像1606の強固な保護膜としても機能する。したがって、空隙構造を維持したままの溶媒吸収層に比べて、汚染液体および有害ガスなどによる汚染をより防止することができると共に、耐擦過性などの機械的強度を向上させて、記録物73長期保存性を向上させることができる。
【0379】
インテリア用の写真プレートなどの記録物の用途においては、ガラス板およびアクリル板などの透明な画像支持体に、記録媒体を用いて顔料画像を転写して、画像支持体側からの画像の視認性を重要視する場合がある。この場合には、顔料浸透層と溶媒吸収層との界面に薄膜状に記録された稠密な顔料画像に対して、画像支持体側との接着面の反対側に位置する溶媒吸収層、保護層もしくは基材を背景層として活用することができる。すなわち、溶媒吸収層、保護層もしくは基材は、高い透明性が必要とされる用途の場合とは異なり、白色の背景層として光学的に白色または半透明とすることが好ましい。
【0380】
例えば、
図62および
図63に示すように、保護層1627として、中空樹脂粒子(白色材料)1616を含む白色の樹脂層を用いることが可能であり、また、保護層1627などに金属膜または光散乱性の金属微粒子などを付加して、光散乱層とすることが可能である。背景層として溶媒吸収層1601を活用する場合には、溶媒吸収層1601に、比較的小さい空隙を構成するための小粒径の微粒子に加えると共に、光学的に可視光を散乱し易い大粒径の金属微粒子、樹脂微粒子、または中空樹脂微粒子などを加えてもよい。さらに、保護層1627もしくは溶媒吸収層1601に、蛍光体微粒子などの発光粒子1617を付加することにより、それらの層を、蓄光して蛍光(燐光)する発光層として活用して、さらなる画像視認性の向上を図ることができる。このような溶媒吸収層1601の背景層としての用途において、溶媒吸収層1601は、透明性などの光学的特性の制約を受けることなく、本来の機能である顔料インクの溶媒成分の高速吸収性および大容量吸収性等、液体の吸収特性に特化して設計することができる。この結果、記録媒体の基本的な機能であるインク吸収性をさらに高めて、より高精細および高画質であって視認性に優れた画像を転写することができる。
【0381】
[1−6]顔料浸透層
記録媒体1における顔料浸透層1600は、インクジェット記録方式によって付与される顔料インクの顔料を浸透させる層である。インクを吸収するメカニズムは、第1の形態で説明したメカニズムと同様である。顔料浸透層の層構成および材質は、第1の形態のものと同じであってもよい。第2の形態においては、インクの乾燥速度よりも顔料浸透層1600のインク吸収速度が遅い場合には、インクが吸収される前に熱可塑性樹脂1002の表面のインクが乾燥増粘して、顔料インク1003の一部が樹脂層1012に残って接着性を低下させるおそれがある。したがって、顔料浸透層1600のインクの吸収速度は、熱可塑性樹脂1002のインクの乾燥速度よりも十分に速くすることが重要である。このように、樹脂層1012にインクが残らないように、顔料浸透層1600の露出部がインクを引き込む速度を十分に早くすることが重要である。
【0382】
顔料浸透層が顔料粒子を浸透透過できるほどの大きな空隙構造であっても、格段に小さな空隙構造の溶媒吸収層による大きな毛細管力によって、樹脂層および顔料浸透層における顔料インクの滞留時間を短くすることができる。したがって、例えば、加圧加熱により溶融膜化される樹脂層における顔料インクの残留、および、その樹脂層に近接する顔料浸透層内における顔料インクの溶媒成分の残留が生じにくく、樹脂層の加圧加熱による画像支持体への記録媒体の転写性を向上させることができる。
【0383】
顔料浸透層1600は、複数の層に分けて順次形成することも可能である。顔料浸透層1600は、空隙吸収型のインク受容層としての基本的な機能を有すると共に、顔料粒子が浸透拡散可能な空隙構造を有して、インクの吸収速度が樹脂層1012側から基材50側に向かって順次大きくなるように構成してもよい。
【0384】
本発明の記録媒体において、空隙吸収型の顔料浸透層の細孔直径の平均(平均細孔直径)は、第1の実施形態と同様の範囲に設定できる。ただし、平均細孔直径が200nm以上であって、転写時に熔融軟化した熱可塑性樹脂が、顔料浸透層の表面の空隙を覆い尽くすことができない場合には、転写性の劣化、および顔料浸透層内における層内剥離が生じるおそれがある。また、空隙が大きくなることに伴って空隙の毛細管力も弱くなるため、顔料インクを顔料浸透層内へ引き込むためのインク吸収速度も低下し、樹脂層に顔料インクが残りやすくなって接着性が低下するおそれもある。
【0385】
また、顔料浸透層の厚みは、第1の実施形態と同様の範囲に設定できる。ただし、第2の実施形態においては、顔料浸透層が1μmよりも薄い場合に、顔料浸透層内に顔料の全てを収納することができなくなって、その一部が樹脂層側へ溢れて接着不良の低下を招くおそれがある。
【0386】
ここで、2層のインク受容層(顔料浸透層および溶媒吸収層)の界面において色材である顔料が固液分離して、その全てが顔料浸透層の底部に残る場合を想定する。インクジェット方式により安定して吐出可能な水系インクにおける顔料などの固形分の重量濃度に関しては、インクの顔料濃度を5%程度とする。例えば、インク滴の体積が2〜4pl、空隙吸収型の溶媒吸収層の空隙率が80%、記録画像がカラー画像である場合には、溶媒吸収層の厚みは8〜25μm程度、顔料浸透層の厚みは2μm〜8μm、熱可塑性樹脂部の厚みは0.3μmから8μm程度が好ましい。これにより、顔料インクが樹脂層に残ることなく、顔料粒子のほぼ全量が顔料浸透層の底部に薄膜状の稠密な顔料画像を形成すると共に、溶媒成分のほぼ全てが溶媒吸収層に吸収されて良好な接着性が得られる。
【0387】
[1−7]空隙吸収型のインク受容層材料
以下、溶媒吸収層および顔料浸透層として用いる空隙吸収型のインク受容層の一例として、無機微粒子あるいは樹脂微粒子と、水溶性樹脂と、を含有するインク受容層の構成材料について説明する。
【0388】
[1−7−1]無機微粒子
無機微粒子は、無機材料からなる微粒子であり、インク受容層に色材を受容する空隙を形成する機能を有する。無機微粒子としては、第1の実施形態と同様のものを用いることができる。
【0389】
無機微粒子は、その平均粒子径を精密に制御することが好ましい。無機微粒子の平均粒子径を小さくすることにより、光散乱を抑制して、インク受容層の透明性を向上させることができる。例えば、保護層付の記録媒体を用いて、透明保護層側から画像を視認する場合には、通常、基材の一部である保護層には十分な透明性が要求される共に、インク受容層自体にもある程度の透明性が必要となる。そのため、インク受容層に、平均粒子径が小さい無機微粒子を用いることが有効である。また、無機微粒子の平均粒子径を小さくした場合には、インク受容層の空隙径が小さくなってインクの吸収容量が低下するため、インク受容層の厚みを充分に大きくする必要がある。
【0390】
一方、インク受容層における無機微粒子の平均粒子径を大きくした場合には、インク受容層の空隙径を大きくすることができる。そのため、顔料インクを用いた場合には、顔料などの固形成分の一部をインク受容層の内部に浸透させることが可能となる。また、インク受容層は、無機微粒子による光散乱によって透明性が低下するため、記録情報の隠蔽性が求められる場合には、無機微粒子の粒子径をさらに大きくすることが有効となる。一方、無機微粒子の粒子径を大きくした場合には、インク受容層の強度が低下するおそれがある。このような場合、インク受容層の強度を確保するためには、無機微粒子を固定化する水溶性樹脂のバインダー量を多くすればよい。このように、無機微粒子の平均粒子径は、インク受容層の吸収性と、インク受容層の透明性と、を考慮して、記録媒体および記録物の使用用途に応じて最適に選択すればよい。無機微粒子は、1種を単独で用いてもよく、または2種以上を混合して用いてもよい。「2種以上」とは、材質自体が異なるものの他、平均粒子径および多分散指数等の特性が異なるものを含む。
【0391】
[1−7−2]樹脂微粒子
樹脂微粒子は、樹脂材料からなる微粒子であり、インク受容層に色材を受容する空隙を形成する機能を有する。樹脂微粒子としては,第1の実施形態と同様のものを用いることができる。
【0392】
[1−7−3]水溶性樹脂
水溶性樹脂は、25℃において、水と十分に混和する樹脂、あるいは水に対する溶解度が1(g/100g)以上の樹脂である。水溶性樹脂としては、第1の実施形態と同様のものを用いることができる。
【0393】
水溶性樹脂の中でも、ポリビニルアルコール、特に、ポリ酢酸ビニルを加水分解(けん化)することにより得られる、けん化ポリビニルアルコールが好ましい。接着に寄与するポリビニルアルコールのポリ酢酸ビニル基は、後述するPVCやPET−Gと親和性が高い。したがって、転写時の熱によって水溶性樹脂および画像支持体が溶融すると、両者の相溶性が高まり、水溶性樹脂が画像支持体に強固に接着される。ポリビニルアルコールは、画像支持体としてPVCやPET−Gを使用した場合に、画像支持体とインク受容層との密着性(転写性能)を向上させることができて、特に好ましい。
【0394】
インク受容層のけん化度は、第1の実施形態と同様の範囲に設定することができる。
【0395】
けん化度を、好ましくは70mol%以上、さらに好ましくは86mol%以上とすることにより、インク受容層に適度な硬さを付与することができる。特に、搬送層が剥離可能であって、かつ保護層などの機能層が剥離されない基材を用いた記録媒体においては、剥離工程においてインク受容層の箔切れ性が向上し、端部のバリの発生を抑制することができる。一方、けん化度を、好ましくは100mol%以下、さらに好ましくは90mol%以下とすることにより、インク受容層に適度な柔軟性を付与することができる。これにより、特に、搬送層が剥離可能であって、かつ保護層などの機能層が剥離されない基材、を用いた記録媒体においては、保護層とインク受容層との接着強度を向上させて、接着強度の不足による保護層からのインク受容層の剥離を抑制することができる。
【0396】
インク受容層の重量平均重合度は、第1の形態と同様の範囲に設定することができる。
【0397】
重量平均重合度を、好ましくは2,000以上、さらに好ましくは3,000以上とすることにより、インク受容層に適度な柔軟性を付与することができる。したがって、剥離工程においてインク受容層の箔切れ性を向上させて、端部のバリの発生を抑制することができる。一方、重量平均重合度を、好ましくは5,000以下、さらに好ましくは4,500以下とすることにより、インク受容層に適度な硬さを付与することができる。これにより、保護層とインク受容層との接着強度を向上させて、接着強度の不足による保護層からのインク受容層の剥離を抑制することができる。また、無機微粒子とポリビニルアルコールとを含む塗工液の粘度を低下させることができる。したがって、保護層に対して塗工液を塗工し易くなり、記録媒体の生産性を向上させることができる。また、インク受容層の細孔が埋まることを防止して細孔の開口状態を良好に保つことができ、インクの吸収性が良好となる。したがって、インク受容層に高品位の画像を記録することが可能となる。重量平均重合度の値は、JIS−K−6726に記載の方法に準拠して算出された値である。
【0398】
水溶性樹脂の量は、第1の実施形態と同様の範囲に設定することができる。
【0399】
[1−8]剥離層
[1−8−1]剥離層材料
剥離層1603を、
図51に示すように基材50と保護層1623との海面、または
図50(a)に示すように基材50と溶媒吸収層1601との界面に設けることにより、転写工程における剥離性を制御することができる。さらに、
図54に示すように、溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600との界面に剥離層1603を設けて、転写時に溶媒吸収層1601も剥離することにより、樹脂層1012と顔料浸透層と1600が画像支持体55に転写されて、溶媒吸収層1601が基材50と共に剥離される。この場合、保護層1623および厚膜の溶媒吸収層1601による画像への光学的な影響は一切発生しないため、溶媒吸収層1601は、光学的特性、柔軟性、箔切れ性などを考慮せずに、インク吸収速度および吸収容量などのインク吸収性に特化して機能を向上させることが可能となる。
【0400】
[1−8−2]剥離層の材質
剥離層に用いる離型剤の種類は特に限定されない。好ましくは、離型性に優れ、ヒートローラの熱およびインクジェット記録ヘッド(特に、吐出エネルギー発生素子として電気熱変換素子(ヒータ)を用いたサーマル式のインクジェット記録ヘッド)が発生する熱によって容易に溶融しない材料である。また、離型剤としては、保護層に使用される材料、溶媒吸収層または顔料浸透層に使用される水溶性樹脂などの、剥離する層の結合材とは、親和性が低いものが好ましい。親和性が低いことによって、離型剤と、剥離する層の材料と、の相溶性が低くなるため、基材と、保護層、溶媒吸収層または顔料浸透層と、の境界面における剥離が容易となる。
【0401】
このような離型剤の材料としては、例えば、シリコーンワックスなどのワックス類に代表されるシリコーンワックス、シリコーン樹脂などのシリコーン系材料;フッ素樹脂などのフッ素系材料;、ポリエチレン樹脂等、が挙げられる。上述の中でも、ポリエチレン系樹脂は、ポリエチレン樹脂が溶融する温度Tg以上において離型性が優れているため、転写時の熱を利用して容易に剥離することできて好ましい。なお、一般的に、離型剤は離型機能を有すると同時に撥水機能を有する。そのため、溶媒吸収層と顔料浸透層との境界面に剥離層を付加する場合には、溶媒吸収層のインク吸収速度を損なわないように、剥離層の厚さを薄くする。具体的には、良好な離型機能を有しかつ溶媒吸収層のインク吸収速度を損なわない、剥離層の厚さとして、乾燥状態において0.1μm以上10μm以下、より好ましく0.1μm以上、好ましくは1μm以下とする。
【0402】
また、剥離層に、ポリエチレン系、シリコーン樹脂系、およびフッ素系の樹脂粒子を用いる場合、それらの樹脂粒子の平均粒子径は、溶媒吸収層の細孔径よりも大きくする。その理由は、溶媒吸収層の細孔にポリエチレン系の樹脂粒子が浸透して、溶媒吸収層の細孔が埋められた場合に、溶媒吸収層のインク吸収速度が損なわれるからである。
【0403】
[1−9]密着層
図50のように、記録媒体1における各々の層の境界面であって、かつ剥離層1603が設けられていない境界面には、必要に応じて密着層1602を設けてもよい。
図50(a)においては、溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600との境界面に密着層1602が設けられ、
図50(b)においては、基材50と溶媒吸収層1601との境界面に密着層1602が設けられている。
図50(c)においては、基材50と溶媒吸収層1601との境界面、および第2の溶媒吸収層1655と顔料浸透層1600との境界面に、密着層1602が設けられている。
図50(d)においては、基材50と溶媒吸収層1601との境界面、および溶媒吸収層1601と第2の顔料浸透層1658との境界面に、密着層1602が設けられている。また、
図51のように、保護層1623と溶媒吸収層1601との間に密着層1602を設けることにより、保護層1623と溶媒吸収層1601との間の転写時における不如意な剥離(層間剥離)を防止することができる。また、
図50(b),(c),(d)のように、基材50と溶媒吸収層1601との間に密着層1602を設けることにより、転写後の剥離動作時に、顔料浸透層1600から、溶媒吸収層1601を基材50と共に剥離することができる。
【0404】
密着層を構成する密着剤の種類は特に限定されない。但し、密着剤としては、基材および保護層の構成材料、溶媒吸収層、多層の溶媒吸収層、顔料浸透層および多層の顔料浸透層を構成する水溶性樹脂と親和性が高い材料を選択することが好ましい。このような材料としては、例えば、熱可塑性の合成樹脂、天然樹脂、ゴム、ワックス等を挙げることができる。より具体的には、エチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース誘導体、ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン等のスチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等のアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等のビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アイオノマー、エチレンアクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等の合成樹脂、粘着性付与剤としてのロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、エステルガム、ポリイソブチレンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、ポリアミド樹脂、ポリ塩素化オレフィン等の天然樹脂や合成ゴムの誘導体等が挙げられる。
【0405】
なお、溶媒吸収層と顔料浸透層との境界面、および多層の溶媒吸収層と多層の顔料浸透層との境界面に密着層を付加する場合には、境界面を形成する層のインク吸収速度を損なわないように、密着層の厚みを薄くする。具体的には、良好な密着機能を有し、かつ溶媒吸収層のインク吸収速度を損なわない剥離層の厚さとしては、乾燥状態において0.1μm以上10μm以下、より好ましく0.1μm以上、好ましくは1μm以下とする。
【0406】
また、記録媒体において重なる層の密着性を向上させる別の方法としては、表面改質処理がある。すなわち、予めコロナ放電処理またはプラズマ放電処理、あるいは、IPAまたはアセトン等の有機溶剤を塗工して、基材、保護層、溶媒吸収層、多層の溶媒吸収層、顔料浸透層、または多層の顔料浸透層の表面を荒らすことにより、塗れ性を改良して密着性を向上させることもできる。
【0407】
[1−10]海島状の樹脂層
樹脂層1012の基本的な構成およびインク吸収のメカニズムは、第1の形態と同様である。本発明の第2の形態における記録媒体の樹脂層は、接着層としても利用することができ、これにより、樹脂層を介して様々な支持体に転写することもできる。
【0408】
[1−10−1]熱可塑性樹脂とインク滴の大小関係
熱可塑性樹脂とインク滴の大小関係は、第1の形態と同様である。
【0409】
また、熱可塑性樹脂もしくは熱可塑性樹脂の凝集部(熱可塑性樹脂部)の表面の面積がインク滴よりも大きいために、着弾衝撃により変形して拡がったインクの一部がバイパス部を介して顔料浸透層の露出部に接触できない場合には、熱可塑性樹脂部にインクが残るおそれがある。その場合には、良好な画像を記録することが難しくなり、接着性の阻害要因ともなる。したがって、熱可塑性樹脂もしくは熱可塑性樹脂の凝集部(熱可塑性樹脂部)は、インクジェット記録に用いられる顔料インクのインク滴よりも格段に大きくならないように構成し、より好ましくは、インク滴の大きさよりも十分に小さくする。
【0410】
本発明者による検討によれば、熱可塑性樹脂部の表面もしくは内部にインクの一部が残存した場合には、後述する加熱転写により熱可塑性樹脂を溶融させたときに、その残存するインクが熱可塑性樹脂の表面に浮き出て画像支持体と熱可塑性樹脂との境界面にて膜化し、接着不良を生ずることがあった。また加熱転写時に、残存するインクの成分の一部が蒸発し、画像支持体と熱可塑性樹脂との間に蒸気層などを形成して、接着不良を生じることがあった。本発明の記録媒体は、上述したように、熱可塑性樹脂部の表面もしくは内部にインクがほぼ残留せず、顔料インクのほぼ全ての液体成分が溶媒吸収層に速やかに吸収されるため、インクジェット記録後、即時に加熱転写しても接着阻害が生じにくく、良好な接着性を得ることができる。
【0411】
[1−10−2]熱可塑性樹脂の形状
熱可塑性樹脂の形状は第1の実施形態と同様である。良好な接着性を得るためには、溶融軟化した際に熱可塑性樹脂が互いに結合して膜化し易いように、十分な量の熱可塑性樹脂を離散的に配置することが好ましい。
【0412】
粒子形状あるいは多面体形状を主体とする熱可塑性樹脂等を用いることができる。このような熱可塑性樹脂を用いることにより、空隙吸収型の顔料浸透層の露出部の面積を最大にしつつ、インク吸収性を可能な限り良好とし、さら接着性を担保することができる。記録媒体の製膜生産性を考慮した場合、熱可塑性樹脂としては、特別な配向処理などを必要としない球状の粒子形状のものが好ましい。このような粒子形状と同様に、高次の多面体も好ましく用いることができる。本発明の記録媒体では、樹脂層の下部に、顔料粒子が浸透拡散可能な顔料浸透層を備えているため、熱可塑性樹脂の直下のホワイトポイントが発生し難い。また、膜状の熱可塑性樹脂を離散的に設けてもよい。
【0413】
[1−10−3]熱可塑性樹脂の粒子径
熱可塑性樹脂の粒子径は第1の実施形態と同様である。熱可塑性樹脂の粒子の凝集体によって接着部を構成する場合には、個々の島状の熱可塑性樹脂部の面積を小さくしやすいように、平均粒子径が2μm以下の熱可塑性樹脂の粒子を用いることが好ましい。
【0414】
[1−10−4]熱可塑性樹脂部の間隔
熱可塑性樹脂の間隔は、第1の実施形態と同様である。1画素1007に1つ以上の海部1001が存在することにより、顔料インク1003は島部(熱可塑性樹脂部)1000の上に残らず、顔料浸透層1600および溶媒吸収層1601に速やかに吸収されて、接着不良を引き起こさない。
【0415】
[1−10−5]熱可塑性樹脂のその他の構成
例えば、粒径の異なる熱可塑性樹脂1002を使用してもよい。粒径の大小は、熱可塑性樹脂の体積に関係する。粒径が大きいと、熱可塑性樹脂1002の体積も大きくなり、画像支持体との接着面積も大きくなるため、接着性を向上させることができる。したがって、粒径の大きい熱可塑性樹脂は、画像支持体への親和性に優れたものとし、粒径の小さい熱可塑性樹脂は、粒径の大きい熱可塑性樹脂同士、および粒径の大きい熱可塑性樹脂と顔料浸透層1600とのバインダーとすることもできる。粒径の小さい熱可塑性樹脂をバインダーとすることにより、粒径の大きい熱可塑性樹脂の粒子間の空隙構造をほぼ維持しつつ、樹脂層を成膜することが可能となる。
【0416】
接着性を良好にするために、複数の熱可塑性樹脂粒子によって構成することもできる。例えば、記録物の用途に応じた耐候性を考慮して、複数の材質の熱可塑性樹脂を用いることができる。具体的には、樹脂層のバインダーとして作用する小粒径の熱可塑性樹脂、極性溶媒でも剥離しにくい大粒径の熱可塑性樹脂、および非極性溶媒でも剥離しにくい大粒径の熱可塑性樹脂等の、複数種類の材質の樹脂を用いてもよい。また、大粒径の熱可塑性樹脂として、特定の画像支持体に対して優れた接着性を現す材質の樹脂を複数種用いてもよい。表面が粗い紙などの画像支持体と接着する場合には、一部が軟化溶融して、粗い表面にも密着できるようなクッション性の良い接着剤を用いてもよい。また、樹脂層は単層でも複層でもよい。例えば、顔料浸透層1600に接着しやすい層と、画像支持体に接着しやすい層と、を含むように、それぞれの層に接着機能を分けてもよい。熱可塑性樹脂は、その熱可塑性樹脂の膜化温度以上の温度で十分な時間をかけて加圧加熱することにより、樹脂層を軟化溶融膜化させることができる。
【0417】
[1−10−6]熱可塑性樹脂の量(体積)
熱可塑性樹脂の量は、記録媒体および記録物の用途に応じて調整すればよい。例えば、強い接着力が要求される場合には、軟化溶融して、画像支持体と顔料浸透層との接着面の凹凸を吸収するように膜化できる量、であることが好ましい。一方、転写後の顔料浸透層を画像支持体から引き剥がして、画像支持体を再利用する場合などにおいては、熱可塑性樹脂の接着力は弱くてもよい。この場合には、熱可塑性樹脂の量を少なくすることができる。また、加圧加熱による転写時に熱可塑性樹脂を軟化溶融させる際に、加圧力、加熱温度、および加圧加熱時間などを調整することにより、顔料浸透層と画像支持体の間の全面に亘って熱可塑性樹脂を膜化させないようにすることも可能である。また、加圧粘着型の熱可塑性樹脂を顔料浸透層の上に離散的に設けて、島状の樹脂層を形成してもよい。また、接着力を弱く調整した場合には、顔料浸透層の露出部の面積を大きくして、インクによる画像の記録特性を向上させることができる。
【0418】
[1−10−7]膜状の熱可塑性樹脂
第1の実施形態と同様に、熱可塑性樹脂は粒子状に限定されず、例えば、膜状の熱可塑性樹脂1002を用いて、海島状の樹脂層1012を形成することもできる。膜状の熱可塑性樹脂を使用することにより得られる効果は、第1の形態において説明した効果と同様である。
【0419】
[1−10−8]樹脂層の厚み
樹脂層の厚みは、第1の実施形態と同様に設定することができる。
【0420】
また樹脂層の厚みは、視認性と接着性が良好となるように調整することが重要である。接着性を良好にするためには、樹脂層が軟化して溶融膜化する際に画像支持体の表面凹凸を吸収できる程度に、樹脂層の厚みを調整する必要がある。また、画像支持体との接着性が劣る場合には、熱可塑性樹脂の総量が多くなるように、樹脂層の厚みを厚くすればよい。このように、熱可塑性樹脂の厚みは、使用する熱可塑性樹脂および画像支持体の種類に応じて適宜調整すればよい。
【0421】
[1−10−9]熱可塑性樹脂部の面積、露出部の面積
本発明において、前記顔料浸透層の前記露出部の面積は、第1の実施形態と同様に設定することができ、顔料浸透層の全面積の50%以上を占めることが好ましい。
【0422】
[1−10−10]熱可塑性樹脂の材料
前述のインクの吸収メカニズムからも明らかなように、熱可塑性樹脂はインクの吸収には直接的に関与しないため、その熱可塑性樹脂の材質は、インクとは関係なく画像支持体との接着性を重視して選定することができる。したがって本発明の記録媒体は、様々な画像支持体と接着することができる。具体的に、使用者は、記録媒体と接着される特定の画像支持体の材質に応じて、その画像支持体に対する接着性に優れた熱可塑性樹脂を公知の熱可塑性樹脂の中から選択して用いることができる。例えば、熱可塑性樹脂として、PET、PVC、PET−G、アクリル、ポリカーボネート、POM、ABS、PE、PPなどのプラスチック、紙、ガラス、木材、金属等の特定の画像支持体との接着性に優れたものを選択して用いることができる。熱可塑性樹脂の材料として、第1の実施形態と同様のものを用いることができる。
【0423】
特定の画像支持体への接着性に優れた熱可塑性樹脂としては、外的刺激によって特定の画像支持体への接着性が発現するような、刺激活性型の熱可塑性樹脂を用いてもよい。刺激活性型の熱可塑性樹脂としては特に限定されず、公知の刺激活性型の熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、熱、圧力、水、光、反応剤等を外的刺激とする刺激活性型熱可塑性樹脂が挙げられる。例えば、刺激活性型熱可塑性樹脂として、熱を外的刺激とし、熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上に加熱することによって樹脂が溶融して、画像支持体との接着性が発現する熱可塑性樹脂を主成分とする感熱型熱可塑性樹脂を用いてもよい。または、刺激活性型熱可塑性樹脂として、圧力を外的刺激とし、常温で短時間、わずかな圧力を加えるだけで画像支持体に接着可能な感圧型熱可塑性樹脂、すなわち粘着剤を用いてもよい。または、刺激活性型熱可塑性樹脂として、水を外的刺激とし、乾燥状態の熱可塑性樹脂に水を塗布して湿潤状態にすることより接着性を発現させる水活性型熱可塑性樹脂、すなわち再湿性熱可塑性樹脂を用いてもよい。ただし、水活性型熱可塑性樹脂を用いる場合には、接着時に接着面に水が付着するため、インクの色材としては耐水性のものが好ましく、例えば、耐水染料でもよく、より好ましくは顔料である。
【0424】
熱可塑性樹脂の色および透明性は、記録媒体および記録物の使用目的に応じて決めればよい。熱可塑性樹脂は透明であってもよく、半透明または不透明であってもよく、あるいは着色されていてもよい。例えば、顔料画像を基材側と樹脂層側の両面から視認可能とする場合には、転写後の樹脂層は透明であってもよい。また、顔料画像を基材側からのみ視認可能とする場合には、熱可塑性樹脂が背景色として着色されていてもよく、画像支持体を背景色とする場合には熱可塑性樹脂が透明であってもよい。また、記録した顔料画像の画像視認性を向上させるための背景色として、転写後の樹脂層を白色としてもよい。その場合には、熱可塑性樹脂の粒子径を可視光の波長よりも大きくてもよく、または、
図58(a)から(c)のように、樹脂層の熱可塑性樹脂1002に白色顔料1616などを加えてもよい。また、記録内容を樹脂層側から視認可能とする場合、熱可塑性樹脂は、完全な溶融膜化などにより高い透明性が有することが好ましい。
【0425】
[1−10−11]再剥離可能な樹脂材料
海島状の樹脂層は、転写時の膜化状態を自由にコントロールできるように設計可能である。すなわち、海島状の樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂全体を溶融軟化させることにより完全な膜を形成して、樹脂層を面接着の状態にして転写することが可能である。また、海島状の樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂の表面だけを溶融軟化させて、樹脂層を点接着の状態にして転写することも可能である。樹脂層の大部分、あるいは全部を完全に膜化して転写することにより、接着面積を最大限に増やし、面接着の状態として接着性を良好とすることができる。また、樹脂層を完全に膜化させて、海島状の樹脂層のバイパス部を埋めてしまうことにより、記録物を成したときに、記録物に対する水、薬品などの液体、およびオゾンなどの気体の進入の大幅に抑えて、耐水性および耐薬品性などの耐候性を向上させることもできる。一方、樹脂層をあまり膜化させずに点接着の状態として転写することにより、画像支持体などを剥離可能とすることができる。
【0426】
[1−10−12]加圧粘着材料
上述したように、顔料インクは、顔料浸透層内にて浸透拡散され、熱可塑性樹脂の直下部にも回り込んで画像を記録可能であるため、粒子状の熱可塑性樹脂に限定されない。例えば、
図47(a)のように、膜状の加圧粘着材料の熱可塑性樹脂1630を用いて、加圧粘着性の樹脂層1631を海島状に形成することも可能である。
【0427】
一般的に、加圧粘着剤は膜化温度Tgが低いため、室温状態にて膜化しており、粘着剤自体が接着性を有している。このような粘着剤を用いることにより、引き剥がし強度が調整しやすくなる。すなわち、離散的に配する膜状の加圧粘着材料の粘着剤の量を多くし、あるいは強粘着の粘着剤を使用することにより、加熱工程を必要とせずに、
図47(b),(c)に示すように、加圧工程のみで画像支持体55に転写することができる。また、
図47(d),(e)に示すように、調整された引き剥がし強度以上の力により画像支持体55を剥離して、それを再利用することも可能となる。
【0428】
一方、離散的に配する膜状の加圧粘着材料の粘着剤の量を少なくし、あるいは微粘着の粘着剤を使用することにより、画像支持体に転写する際、画像支持体に対する記録媒体の仮止、および貼り直しが可能となる。したがって、画像支持体と記録媒体とを張り合わせる際に、それらの位置合わせを簡単かつ正確に行うことができる。例えば、
図48(a)に示すように、熱によって接着性を現す熱可塑性樹脂1002と、微粘着の粘着剤1630と、を併用してもよい。この場合には、インクジェット記録装置600により顔料画像1606を形成した後、
図48(b)に示すように、記録媒体1を手で押さえて撫でる程度の軽圧によって、画像支持体55に記録媒体1を仮固定する。その後、
図48(c)に示すように、加熱ローラ装置21により加圧加熱し、樹脂層1012を軟化溶融により膜化させて画像支持体55と本接着させる。この結果、画像支持体55と記録媒体1との位置合わせが容易となり、転写時におけるしわの発生を抑制することができる。画像支持体55と記録媒体1と本接着した後は、
図48(d)のように、基材50を剥離して記録物73を作成する。
【0429】
[2]記録媒体の製造方法
記録媒体の基材は、用途に応じて、基材を構成する搬送層が剥離されない構成、または、その搬送層が剥離される構成などとすることができ、公知の方法によって製造可能である。また、用途に応じて、基材として5μm〜300μのフィルムが用いることができる。機械的特性および熱的特性の面において好ましい基材の材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルムを挙げることができる。
【0430】
[2−1]基材の形成方法
基材が搬送層と剥離層と保護層とを含み、接着処理後に剥離層を介して搬送層のみを剥離する場合、つまり基材の一部を溶媒吸収層の表面の保護層として残して、基材を剥離する場合には、公知の塗膜装置によって、基材上に、予め剥離層を設けておいてもよい。一方、溶媒吸収層と顔料浸透層の界面において、基材と溶媒吸収層とを一体的に剥離する場合には、公知の塗膜装置によって、基材上に、溶媒吸収層と密着する密着層を予め設けておいてもよい。剥離層および密着層は、基材に対して、公知の塗工方法により、述した離型剤および密着層を含有する組成物を塗工して、乾燥することにより形成される。
【0431】
[2−2]保護層の形成方法
保護層用塗工液を調整し、公知の塗工方法によって、予め剥離層を設けた基材の表面に保護層用塗工液を塗工して、乾燥(加熱)させることにより、保護膜を形成することができる。
【0432】
保護層は、用途に応じて、転写後に透明、半透明、または不透明であってもよく、また着色されていてもよい。転写後に保護層が所望の光学的特性となるように、適宜、保護層材料を選択して、保護層の厚み等を調整することができる。
【0433】
保護層用の塗工液の媒体としては、水性媒体を用いることが好ましい。水性媒体としては、水;水と水溶性有機溶剤との混合溶媒;等を挙げることができる。
【0434】
保護層用の塗工液には、本発明の効果を妨げない限り、各種の添加剤を含有させることができる。保護層用の塗工液の塗工量は、固形分換算で1〜40g/m
2とすることが好ましく、さらに好ましくは2〜30g/m
2、さらにより好ましくは4〜20g/m
2である。塗工量を好ましくは1g/m
2以上、さらに好ましくは2g/m
2以上、さらにより好ましくは4g/m
2以上とすることにより、保護層の耐水性や耐擦過性を確保することができる。一方、塗工量を、好ましくは40g/m
2以下、さらに好ましくは30g/m
2以下、さらにより好ましくは20g/m
2以下とすることにより、保護層の透明性を用途に応じて向上させることができる。さらに、加熱圧着の際の熱伝導を良好として、保護層とインク受容層との密着性(転写性能)を向上させることもできる。
【0435】
保護層の形成する場合には、保護層に含有されている樹脂E1を造膜させて、樹脂E2を粒子状態とするための乾燥(加熱)工程を含んでもよい。乾燥温度は、膜状態、転写時の箔切れ性、インク受容層への接着性、耐薬品性、層間剥離、および生産性等を考慮して設定すればよい。
【0436】
また、基材もしくは保護層には、公知の表面改質を行ってもよい。基材の表面を粗面化する表面改質を行うことにより、基材の濡れ性を向上させて、保護層の塗膜性を向上させることができる。
【0437】
[2−3]溶媒吸収層の形成方法
溶媒吸収層は、第1の実施形態と同様の方法によって形成することができる。塗工液の粒子濃度および塗工量等は、第1の実施形態と同様に設定することができる。
【0438】
[2−4]剥離層の形成方法
顔料浸透層と溶媒吸収層との間に剥離層を設ける場合には、離型剤と適当な媒体とを混合した塗工液を調製し、これを溶媒吸収層の表面に塗布して乾燥させることによって、剥離層を形成することができる。なお、必要に応じて界面活性剤を添加してもよい。粒子状の離型剤の塗工液によって剥離層を塗工する場合には、微細な離型剤粒子が溶媒吸収層の空隙に入り込まないように、予め、溶媒吸収層の表面を湿し水または浸し水などによって処理して、溶媒吸収層の空隙を液体で充たしてから、離型剤を塗工すればよい。塗工液中の離型剤の粒子濃度は、塗工液の塗工性などを考慮して適宜決定すればよく、特に限定されない。塗膜速度と膜の均一性の観点からは、塗工液の全質量に対して、0.1質量%以上かつ5質量%以下とすることが好ましい。塗工液の塗工量は、固形分換算で0.1g/m
2以上、かつ1g/m
2以下とすることが好ましい。塗工量を0.1g/m
2以上、好ましくは1g/m
2以下とすることにより、溶剤浸透層へのインク中の水成分および溶媒成分の吸収速度を良好に保つことができる。
【0439】
また、塗工方法としては、溶媒吸収層の形成方法と同等の方法を用いることができる。
【0440】
[2−5]顔料浸透層の形成方法
顔料浸透層は、第1の実施形態と同様の方法によって形成することができる。塗工液中の粒子濃度および塗工液の塗工量は、第1の実施形態と同様に設定することができる。
【0441】
[2−6]樹脂層の形成
樹脂層は、第1の実施形態と同様の方法によって形成することができる。
【0442】
[3]記録物の製造方法
[3−1]インクジェット方式による画像記録方法
インクジェット方式の画像記録方法は、第1の実施形態と同様の方法を採用することができる。樹脂層の上方から、顔料インクを用いてインクジェット記録方式により画像を記録することにより、顔料浸透層に顔料画像が形成される。
【0443】
マルチパス記録、カラー記録、あるいはフルライン方式のカラー記録などにおいて、記録媒体1の記録面上に未吸収のインク1632が残っている状態のまま、その記録面上に次のインク滴1633が着弾した場合には、インクミスト1636が飛散して、画像品位が低下するおそれがある。
【0444】
また、プラスチックカードおよび塩ビシートなどの樹脂フィルム、またはガラスまたは金属などの特別なインク受容層を、画像支持体上に設けなくても、UVインクまたは溶剤インクを用いることにより、インクジェット記録が可能な場合がある。マルチパス記録およびカラー記録においては、
図49(a)と同様に、直前に記録された未反応・未乾燥のUVインクまたは溶剤インク1632の液体面上に、次のUVインクまたは溶剤インク1633の液滴が着弾した場合に、ミスト1636が発生するおそれがある。未反応のUVインクのミストは人体に刺激があり、また溶剤インクの溶剤成分のミストは、臭気を発生させることから画像記録を行う作業環境において刺激的である。また、未反応のUVインク、または乾燥不十分の溶剤インクが付着したままの画像支持体に付着は、利用者にとって刺激となる。
【0445】
本発明の記録媒体は、特別なインク受容層を設けられていない種々の画像支持体に、安全性の高い水系顔料インクを用いて、高精細なインクジェット画像を転写および形成することが可能である。また、本発明の記録媒体は、樹脂層の上方から、インク吸収速度が速い空隙吸収型の顔料浸透層にインクジェット方式により画像を記録するため、
図49(b)に示すように、顔料インク1634は、速やかに顔料浸透層1600に吸収され、顔料成分1606と溶媒成分1607とに固液分離して、溶媒成分1607が溶媒吸収層1601吸収される。そのため、次のインク液滴1635の着弾時には、顔料浸透層1600の上に、前の顔料インク1634の液体状の膜が存在し難い。したがって、インクミストの飛び散りも生ぜず、また安全性の高い水系の顔料インクを用いているために、安全かつ解像度の高い高品位な画像が得られる。
【0446】
[3−1−1]顔料インク
本発明の記録媒体は、顔料粒子が浸透拡散可能な顔料浸透層を用いることにより、熱可塑性樹脂の下部も含めて記録媒体の全面に亘って適切な顔料画像を形成し、かつ樹脂層の表面および内部にインクを残りにくくする。この結果、記録特性と接着性とを両立させることができる。様々な用途に適用可能な記録画像の保存性および耐久性を考慮すると、顔料インクを好ましく用いることができる。顔料インクとしては、第1の実施形態と同様のものを用いることができる。
【0447】
顔料インクの溶媒である液体成分は、そのほぼ全量が溶媒吸収層側に速やかに吸収されるため、樹脂層には液体成分がほぼ残らない。そのため、インクジェット記録後に、記録画像を速やかに画像支持体に転写することができる。
【0448】
本発明の記録媒体においては、顔料粒子によって、顔料浸透層の底部に稠密な顔料画像を薄膜状に形成するため、顔料浸透層の表層には、接着性の阻害要因となる顔料粒子が残留しない。このことは、顔料粒子自体が接着性をもたない自己分散顔料を用いる場合にも好適である。
【0449】
また、樹脂分散型の顔料は、インク媒体と分離した後の顔料粒子同士の結着力を高めて、顔料浸透層の底部に強固な薄膜状の顔料画像を形成することができる。顔料インク中の液体成分である溶媒は、顔料浸透層よりもインク吸収速度がさらに速い溶媒吸収層に、ほぼ全量が吸収されるため、顔料画像の水分がほとんど残らない。そのため、樹脂分散型の顔料粒子は、顔料分散用に加えられた分散樹脂により近接して、より強固に互いに結合する。また分散樹脂は、インク受容層の水溶性樹脂のポリビニルアルコール、および樹脂層の熱可塑性樹脂の構成材料などと親和性が高い。そのため、転写時の熱によって分散樹脂、水溶性樹脂、および熱可塑性樹脂が溶融すると、両者の相溶性が高まり、樹脂分散顔料は顔料浸透層にも強固に接着される。さらに、分散樹脂は画像支持体の構成材料と親和性が高いため、転写時の熱によって分散樹脂および顔料浸透層の構成材料が溶融すると、両者の相溶性が高まり、樹脂分散顔料は顔料浸透層内に強固に定着される。顔料粒子の周りを被覆する樹脂の質、および酸価は、第1の実施形態と同様に設定することができる。
【0450】
[3−1−1−1]顔料インクの浸透拡散性
顔料インクの粘度および表面張力は、第1の実施形態と同様に設定することができる。
【0451】
[3−1−1−2]顔料濃度
顔料インク中の色材濃度(顔料濃度)は、第1の実施形態と同様に設定することができる。色材濃度をこのような範囲に調整することにより、画像の視認性と接着性とを両立させることができる。
【0452】
[3−1−2]白インク
本発明においては、任意の画像の記録後もしくは記録前に、顔料浸透層の少なくとも一部に、白インク(白色のインク)を用いてインクジェット記録を行うことができる。用途に応じて、顔料浸透層に記録された画像の背景となるように、白インクを付与することにより、記録画像の隠蔽性が向上し、記録画像の視認性を向上させることができる。白インクの白色顔料粒子の平均粒子径が顔料浸透層の平均細孔直径よりも大きい場合には、顔料浸透層の表面において、白色顔料成分と、水成分および溶媒成分と、が固液分離する。樹脂層における熱可塑性樹脂部(島部)の高さが十分であれば、加熱圧着により、樹脂層によって白インクの顔料成分も被覆されるため、白インクの顔料が表面に残らず、良好な耐擦過性が得られる。白色インクの組成物としては、インクジェット記録方法において通常使用されている任意の白色インクの組成物を用いることができる。このような白色顔料としては、公知の材料を適用可能であり、例えば、無機白色顔料、有機白色顔料、または白色の中空ポリマー微粒子を挙げることができる。
【0453】
[3−2]転写方法
基材が剥離されない記録媒体を用いて記録物を作製する際には、まず、その記録媒体の樹脂層を介して、顔料浸透層に顔料インクを付与することにより画像を記録(例えば、インクジェット記録)する。画像を視認する方向に応じて、その画像として、正像あるいは反転画像を記録する。次に、離散的に配された熱可塑性樹脂を介して記録媒体を画像支持体に転写させることによって記録物を得る。
【0454】
また、搬送層を含む基材の全てが剥離される記録媒体を用いて記録物を作製する際には、その記録媒体の記録面に、例えば反転画像を記録する。次に、離散的に配された熱可塑性樹脂を介して、記録媒体を画像支持体に転写してから、搬送層(基材の全部)を剥離する。これにより、顔料浸透層に、顔料画像が薄膜状に稠密に形成された記録物が得られる。
【0455】
また、基材が透明保護層、ホログラム層、および記録層などの機能層を備えている場合には、まず、それらの機能層を含む記録媒体の記録面に、例えば反転画像を記録する。次に、離散的に配された熱可塑性樹脂を介して、記録媒体を画像支持体に転写してから、搬送層、透明保護層、ホログラム層、記録刷層などの機能層を含む基材から、搬送層のみ(基材の一部)を剥離する。これにより、機能層が一体化され、かつ画像が記録された顔料浸透層が画像支持体上に積層された、記録物を得ることができる。
【0456】
本発明においては、転写工程において、溶媒吸収層が水分を十分に含んだ状態でも良好に転写することができる。空隙吸収型の溶媒吸収層は、前述したように、インクを多量に吸収でき、かつ転写時に溶媒吸収層の空隙構造が壊れにくく、転写後も空隙構造を保持することが可能である。そのため、溶媒吸収層の内部に吸収したインクの溶媒は、転写時に、熱可塑性樹脂およびバインダーが溶融しても溶媒吸収層の内部に保持することができ、また、蒸気が発生しても溶媒吸収層の内部に封じ込めることができる。したがって、水分を十分に含んだ状態でも良好に転写することができる。また、顔料浸透層上に離散的に配された熱可塑性樹脂の樹脂層において、その熱可塑性樹脂は、インクをほぼ吸収しない、もしくはインクを吸収したとしても吸収速度が遅い熱可塑性樹脂である。そのため、樹脂層の表面および樹脂層の内部にはインクが残りにくい。この結果、樹脂層に転写を阻害するインクが残留しにくく、記録媒体を画像支持体に良好に転写することができる。
【0457】
本発明において好ましい接着方法は、熱可塑性樹脂の特性に応じて選択することができる。例えば、熱可塑性樹脂に刺激応答性の材料を使用した場合、熱可塑性樹脂が水活性型であれば、記録媒体に画像を形成した後に、水塗布装置を用いる水塗布工程によって水を塗布する。これにより、離散的に配した熱可塑性樹脂の樹脂層に、接着性を発現させることができる。また、熱可塑性樹脂が紫外線活性型であれば、記録媒体に画像を形成した後に、紫外線照射装置を用いる紫外線照射工程によって紫外線を照射する。これにより、離散的に配した熱可塑性樹脂の樹脂層に、接着性を発現させることができる。
【0458】
熱可塑性樹脂が熱活性型であれば、記録媒体に画像を形成した後に、加熱装置を用いる加熱工程によって加熱することにより、離散的に配した熱可塑性樹脂の樹脂層に接着性を発現させることができる。加熱装置としては、加熱ファン、加熱ベルト、熱転写ヘッド等を用いる装置が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0459】
熱可塑性樹脂が粘着型であれば、離散的に配した熱可塑性樹脂の樹脂層は、それ自体が接着性を発現している状態にあるため、圧着工程によって圧着することにより、離散的に配した熱可塑性樹脂の樹脂層に接着性を発現させることができる。熱可塑性樹脂が複数の材料により構成されている場合には、複数の装置を組み合わせによる複数の転写工程を含んでもよい。
【0460】
[3−2−1]ヒートローラ転写
本発明においては、熱可塑性樹脂として、熱や圧力により軟化溶融膜化して接着性を発現する熱可塑性の粒子を用いることが特に好ましいため、転写方法として、加熱と圧着とを併用した加熱圧着工程により転写方法を用いることが好ましい。このような転写のための構成としては、ヒートローラと加圧ローラとを併用した構成が挙げられる。
【0461】
図55の例においては、画像が形成された記録媒体1と、画像支持体55と、を重ね合わせてから、それらを、加熱されたヒートローラ21と加圧ローラ22との間に通す。前述したように、記録媒体1の顔料浸透層1600には顔料画像1606が形成され、その顔料浸透層1600を、樹脂層1012を介して画像支持体55と重ね合わせてから、それらをヒートローラ21と加圧ローラ22との間を通して搬送する。これにより、離散的に配した熱可塑性樹脂1002の樹脂層を介して、記録媒体と画像支持体55とが接着され、その後、基材50を剥離することによって、記録物を得ることができる。熱可塑性樹脂1002は、加圧加熱により軟化溶融して膜化部1605となることにより、画像支持体55と強固に接着する。
【0462】
また本発明においては、加熱圧着によって、顔料浸透層に顔料画像が記録された記録媒体を画像支持体に転写する場合に、加熱圧着後にも溶媒吸収層の空隙構造が維持されるように、加熱圧着時の熱や圧力を制御することが重要である。
図55に示すように、ヒートローラ21と加圧ローラ22とによって加圧加熱により、粒子状の熱可塑性樹脂1002は溶融して膜化されるものの、溶媒吸収層1601に吸収された顔料インクの溶媒成分1607は、空隙構造に保持されたままである。このように空隙構造を維持することにより、加熱圧着時の熱や圧力によって、インクの液体成分が溶媒吸収層1601の空隙内において突沸して、蒸気が発生したとしても、その蒸気を各々の空隙内に封じ込めることができる。この結果、接着面に空気層などが形成されずに、接着性を良好とすることができる。また、転写時に溶媒吸収層1601の空隙構造が維持されず、圧力による空隙の潰れ、および加熱による空隙の溶解が抑制されるため、インクの液体成分である不揮発性溶剤の染み出しを防止して、接着性を良好とすることができる。
【0463】
基材50は、
図56のように、分離部材1626および剥離ローラ1609を用いて剥離することができる。上述したように、樹脂層1012は、加熱ローラ21と加圧ローラ22とによって加圧加熱されることにより膜化して、顔料画像1606が底部に形成された顔料浸透層1600と、画像支持体55と、を接着する。その後、分離部材1626および剥離ローラ1609によって、顔料画像1606が形成された顔料浸透層1600、溶媒成分1607を吸収した溶媒吸収層1601、および保護層1623を画像支持体55に残すようにして、基材50が分離される。
【0464】
また、
図42(e)および(f)に示すように、凹凸状の溶媒吸収層1601が表面となる記録物73に対して、さらに画像を記録(多層記録)することもでき、また
図43(b)から(d)に示すように、第2の顔料浸透層1620が表面となる記録物73に対して、さらに画像を記録(多層記録)することもできる。前者の場合には、溶媒吸収層1601に形成された構造的潜像の凹凸が維持されるように、また後者の場合には、第2の顔料浸透層1620の空隙構造が維持されるように、加熱圧着時の熱および圧力を制御することが重要である。凹凸状の溶媒吸収層1601または第2の顔料浸透層の空隙構造が表面となる記録物73に、顔料インクを用いて多層記録した場合にも、擦過性に優れた追記画像1621を形成することができる。
【0465】
加熱圧着時の温度は、離散的に配した熱可塑性樹脂の熱可塑性樹脂が接着性を発現する、ガラス転移温度以上に制御する。これにより、離散的に配した熱可塑性樹脂を介して、画像支持体に記録媒体を転写させることができる。より好ましくは、空隙吸収型のインク受容層(溶媒吸収層および顔料浸透層など)を形成する水溶性樹脂が溶解するガラス転移温度以上に、加熱圧着の温度を制御する。これにより、インク受容層の水溶性樹脂と、熱可塑性樹脂と、が互いに溶融して接着し、接着性が向上させることができる。さらに好ましくは、透明保護層を構成する樹脂粒子E2が溶融する温度以上に、加熱圧着の温度を制御することにより、箔切れ性を良好にすることができる。
【0466】
また、加熱圧着時の温度は、画像支持体と記録媒体を加熱圧着させる際に、溶媒吸収層の空隙構造を必要以上に潰すことなく、接着後も空隙構造を維持するように制御することも重要である。すなわち、加熱によって、空隙が溶解してインクの液体成分である不揮発性溶剤が表面に染み出さないように、空隙を構成する成分の溶解温度以下で転写させることが好ましい。また、インクの水および溶媒成分が個々の空隙内で突沸や蒸気しないように、特に、水の沸点以下の温度で転写させることが好ましい。
【0467】
加熱圧着時の圧力は、0.5kg/cm以上、かつ7.0kg/cm以下とすることが好ましい。加熱圧着時の圧力を0.5kg/cm以上とすることにより、樹脂層を介して、顔料画像が記録された顔料浸透層の表面を画像支持体に密着させて、画像支持体と記録媒体とを圧着させることができる。すなわち、顔料浸透層と画像支持体との間に、空隙吸収型の顔料浸透層の微細な凹凸によって生じる空間を、離散的に配した熱可塑性樹脂の軟化溶融した熱可塑性樹脂によって、十分に満たして膜化することができる。一方、加熱圧着時の圧力を7.0kg/cm以下とすることにより、画像支持体と記録媒体とを加熱圧着させる際に、溶媒吸収層の空隙構造を必要以上に潰すことなく維持することができる。この結果、顔料インクの液体成分である水および不揮発性溶剤が表面に染み出すことを防止して、接着性を良好とすることができる。
【0468】
また、画像支持体55の裏面側に接する加圧ローラ22としては、離型性に優れたシリコーンローラを使用することが好ましい。シリコーンローラは、顔料浸透層および樹脂層との親和性が低いため、ヒートローラ21と加圧ローラ22との間に画像支持体55が存在しないときでも、つまり離散的に配した熱可塑性樹脂の樹脂層を有する顔料浸透層の表面が直接的に加圧ローラ22に接するときでも、顔料浸透層の表面を転写させないようにできる。したがって、離散的に配した熱可塑性樹脂を介して、インク受容層の表面が加圧ローラ22へ不如意に接着することが防止できる。
【0469】
[3−3]剥離方法
基材が加熱時に剥離される熱時剥離タイプのものである場合には、加熱圧着後、温度が下がらないうちに、直ちに基材を剥離することが好ましい。
図56に示すように、基材50が熱時剥離タイプの場合は、分離爪1626を備えた剥離機構、または剥離ロールを用いて、基材50を剥離することが好ましい。このような剥離方法は、記録媒体をロール・ツー・ロール(roll to roll)によって供給する場合、つまりロール状の記録媒体50を繰り出して供給し、その記録媒体から剥離した基材をロール状に巻き取る場合に、生産性を高めることができる。
【0470】
基材が冷温時に剥離される冷時剥離タイプの場合には、温度が下がっても基材を剥離することができるため、ロールおよびピール機構による剥離だけではなく、手動による剥離も可能になる。したがって、冷時剥離タイプの基材は、特に、記録媒体がカットシート状に加工されている場合に好適である。
【0471】
図41(a)のインクジェット記録装置は、搬送機構410によってカットシート状の記録媒体1を矢印A1方向に搬送しつつ、記録ヘッド600によって、記録媒体1の顔料浸透層1600に顔料画像1606,1624を記録する。その後、
図41(b)のように、顔料画像1606,1624が記録された記録媒体1を折り曲げて、画像支持体55を挟み込む。そして、それらの記録媒体1と画像支持体55を、上下の加熱ローラ21によって構成された両面加圧加熱式の転写装置に挿入して加圧加熱することにより、顔料浸透層1600を画像支持体55の表裏面に密着させる。その後、
図41(c)に示すように、手動により、基材50の表裏面を溶媒吸収層1601から剥離する。溶媒吸収層1601は、空隙構造を保持できるように構成されているため、顔料インクの溶媒成分1607,1625は溶媒吸収層1601に残っていてもよい。
【0472】
基材を剥離する際の剥離角度θは0〜165°であり、さらに好ましくは90°〜165°である。この剥離角度θを設定することにより、箔切れ性を良好にすることができる。搬送角度θは、上記の角度のみに限定されない。
【0473】
加熱圧着および剥離の工程においては、公知の2本ロールタイプ、あるいは4本ロールタイプのラミネート機を使用してもよい。4本ロールタイプは、2本ロールタイプに比べて加熱圧着時の熱が伝わりやすく、剥離工程を容易に行うことができるため好ましい。
【0474】
本発明において、搬送層を含む基材の全てが剥離される記録媒体を用いる場合には、離散的に配された熱可塑性樹脂を介して、反転画像を記録することができる。その後、画像が記録された記録媒体を画像支持体に転写(接着)した後、剥離工程により、搬送層(基材の全部)を剥離する。これにより、画像が記録された顔料浸透層が、離散的に配された熱可塑性樹脂を介して画像支持体に積層された、記録物を得ることができる。また、基材が透明保護層、ホログラム層、記録層などの機能層をさらに備えている場合には、記録媒体と画像支持体とを接着した後の剥離工程において、基材の搬送層(基材の一部)のみを剥離してもよい。これにより、それらの機能層と一体化した溶媒吸収層と、顔料画像が記録された顔料浸透層と、が熱可塑性樹脂を介して画像支持体に積層された、記録物を得ることできる。
【0475】
[4]記録物の製造装置
次に、上述の記録媒体を用いて記録物を製造する製造装置を説明する。本発明の記録媒体に画像を記録する装置は、顔料インクを用いて画像を記録する構成であればよく、例えば、公知の小型のインクジェットプリンタ、あるいは大判プリンタを使用することができる。また、記録媒体を画像支持体に接着(転写)し、かつ必要に応じて基材を剥離する装置としては、例えば、ダイニック社製のD−10、フジテックス社製のLPD3223 CLIVIA等の公知のラミネーターが使用できる。ラミネーターは、一対のヒートローラ21と加圧ローラ22を備えていて、それらのローラ間に、画像支持体と記録媒体とが通過する際に、記録媒体の顔料浸透層を画像支持体に加熱圧着させる構成であればよい。また、
図40に示すように、記録物の製造装置として、記録媒体を記録部へ送り出す供給部と、インクジェット記録方式などにより画像を記録する記録部と、加熱圧着部と、基材を剥離する剥離部と、顔料画像が転写された記録物を排出して集積する排出部と、を全て一体型的に備えたものも使用できる。このような一体型の装置は、例えば、特許05944947号に記載されているものが使用できる。
【0476】
[5]記録物
記録物を製造する際には、まず
図39(b)のように、記録ヘッド600により記録媒体1の記録面にインクを付与して、第1の画像1606を記録する。このとき、インクの一部は、樹脂層1012における熱可塑性樹脂部1000の相互間の空間をバイパス的に通過して、吸収速度の速い顔料浸透層1600の露出部1001に接する。これにより、インクは、熱可塑性樹脂部1000内を通ることなく、顔料浸透層1600に引き込まれるようにして吸収される。顔料インクは、前述したように、顔料浸透層1600の底部に薄膜状の稠密な顔料画像1606を形成し、溶媒成分は固液分離して溶媒吸収層1601に吸収される。次に、
図39(c)のように、離散的に配した熱可塑性樹脂1002によって顔料浸透層1699を画像支持体55に接着(転写)させることにより、
図39(d)のような記録物を得る。この記録物は、画像支持体55上に、樹脂層1012、顔料浸透層1600、溶媒吸収層1601、および基材50が順次積層された構造となる。基材50を剥離することにより、溶媒吸収層1601は、樹脂層1012側から記録された顔料画像1606の保護層となり、画像の耐候性を向上させることができる。顔料画像1606は、画像支持体55が透明である場合には、その透明な画像支持体55側を通して視認可能である。一方、透明な溶媒吸収層1601側から顔料画像1606を視認する場合には、記録媒体1に反転画像を記録する。
【0477】
[5−1]基材が剥離される記録物
[5−1−1]基材の全てが剥離される記録物
搬送層を含む基材の全てが剥離される記録媒体と、この記録媒体を用いて作成した記録物と、について説明する。
【0478】
搬送層を含む基材の全てが剥離される記録媒体1は、
図42(a)のように、基材50上に、空隙吸収型の溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600とを設け、その顔料浸透層1600の表面に、樹脂層1012として熱可塑性樹脂1002を離散的に設けることにより、構成される。顔料浸透層1600の表面には、樹脂層1012の熱可塑性樹脂部1000が位置する部分と、熱可塑性樹脂のないバイパス部と、が形成される。記録物を作成する際には、まず、
図42(b)のように、インクジェット記録ヘッド600から吐出される顔料インクによって、樹脂層1012を介して、記録媒体1に反転画像を記録する。その際、顔料インクの一部は、樹脂層1012における熱可塑性樹脂部1000の相互間の空間をバイパス的に通過して、顔料浸透層1600の露出部1001に接する。これにより、顔料インクは、顔料浸透層1600に引き込まれるようにして吸収される。顔料インクは、顔料浸透層1600内を拡散浸透して溶媒吸収層1601との界面に到達すると、顔料浸透層1600と、顔料粒子よりも空隙が小さい溶媒吸収層1601と、の界面にて固液分離する。これにより、顔料浸透層1600の界面側の底部に、薄膜状の稠密な顔料画像1606が形成され、溶媒成分1607のほぼ全量は、インク吸収速度がより高い溶媒吸収層1601側に吸収される。次に、
図42(c)のように、離散的に配された熱可塑性樹脂1002によって、画像が記録された記録媒体1を画像支持体55に接着(転写)させる。その後、
図4(d)のように、搬送層(基材50の全部)を剥離することにより、
図42(e)のような記録物73を得る。
【0479】
このようにして作製した記録物73は、
図42(e)のように、最表層が溶媒吸収層1601となるため、この記録物73の表面に対して、第2の次画像(顔料画像)1622の形成が可能である。また、前述したように、溶媒吸収層1601は、加熱圧着による転写によっても空隙構造が維持されるように形成されているため、インク吸収性に優れた記録表面を再形成することができる。これにより、顔料浸透層1600に記録されて改竄できない顔料画像1606に加えて、加筆および捺印などによって新たな画像の記録(追記)も可能となる。このような追記は、例えば、記録物がIDカード、社員証、マイナンバー、パスポート等の公的文書の通知等の用途に使用される場合に好ましい。さらに、最表層の溶媒吸収層1600に構造的潜像1300が形成されていれば、第2の画像1622を形成した場合に、その耐擦過性を向上させることができる。具体的には、
図42(e)のように、記録媒体1に樹脂層1012側から、予めセキュリティー性の高い文字情報等を含む顔料画像(反転画像)1606を記録した記録物を作成する。その後、必要に応じて、
図42(g)のように、その記録物の表面に第2の画像(顔料画像;正像)1622を形成することができる。
【0480】
第2の画像1622は、
図42(f)のように記録ヘッド600を用いたインクジェット記録、あるいは加筆および捺印等によって、追記することができる。第2の画像を顔料インクによって追記した場合、溶媒吸収層1601の表面において固液分離した顔料粒子は、互いに近接して顔料分散樹脂により結合される。また、溶媒吸収層1601の表面が凹凸状の構造的潜像を有する場合には、その表面の凹部に残った顔料粒子が擦れにくくなるため、その表面の擦過性を向上させることができる。溶媒吸収層1601の表面上の構造的潜像は、基材上の凸凹状の構造的潜像を転写させることによって形成できる。このような溶媒吸収層の表面に第2の画像を追記する場合には、擦過性の課題が緩和されるため、色材自体の耐候性が高い顔料インクを用いることが好ましい。また、意匠性および視認性をさらに向上させるために、基材上の凸凹状の構造的潜像に、半光透過性または半光反射性の光透過調整層を設けることもできる。その場合には、基材上における凸凹状の構造的潜像の上に光透過調整層を設け、その上に、アンカー層を介して、空隙吸収型の溶媒吸収層と顔料浸透層とを設け、さらに海島状の樹脂層を設ければよい。
【0481】
[5−1−2]基材の一部が剥離される記録物
基材の搬送層(基材の一部)のみが剥離される記録媒体を用いて製造した記録物は、クレジットカード等の各種セキュリティーカードの分野、およびパスポート等に用いることができる。このような用途においては、より高いレベルの耐久性およびセキュリティー性が要求される。このような用途の記録物においては、基材に、透明保護層および予め画像が記録された記録層などの、機能層を単層あるいは複層として設けてもよい。
【0482】
基材が機能層を含む記録媒体は、
図44(a)のように、保護層などの機能層1623を含む基材50上に、空隙吸収型の溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600とを設け、さらに、その顔料浸透層1600の表面に、離散的に配される熱可塑性樹脂1002によって樹脂層1012を設けることによって構成される。機能層1623は、例えば、透明保護層、または予め画像が記録された前記録層などである。顔料浸透層1600の表面には、樹脂層1012の熱可塑性樹脂部1000が位置する部分と、熱可塑性樹脂のないバイパス部(顔料浸透層1600の露出部1001)と、が形成される。
【0483】
記録物を作成する際には、まず、
図44(b)のように、インクジェット記録ヘッド600から吐出される顔料インクによって、記録媒体1の顔料浸透層1600に顔料画像(反転画像)1606を記録する。次に、
図44(c)のように、反転画像が記録された記録媒体1と画像支持体55とを重ねて、離散的に配された熱可塑性樹脂1002を加熱ローラ21に加圧および加熱することによって、記録媒体1を画像支持体55に接着(転写)する。その後、
図44(d)のように、機能層1623を除く基材50の一部(搬送層)を剥離する。これにより、
図44(e)のように、保護層または記録層などの機能層1623が積層された記録物73を作製することができる。このような記録物73は、その最表層が保護層、ホログラム層、あるいは前記録層などの機能層1623であるため、高い耐久性およびセキュリティー性を得ることができる。
【0484】
[5−2]他の構成の記録物
また、本発明の記録媒体における海島状の樹脂層は、転写時に膜化される状態を自由にコントロールすることができる。すなわち、樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂全体を溶融軟化させて完全に膜化し、樹脂層を面接着の状態にして、転写することも可能であり、あるいは、樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂の表面だけを溶融軟化させ、樹脂層を点接着の状態にして転写することも可能である。樹脂層の大部分あるいは全部を完全に膜化して転写することにより、接着面積を最大限に増やして、接着性を良好にすることができる。さらに、樹脂層を完全に膜化させて、海島状の樹脂層のバイパス部を埋めてしまうことにより、記録物を構成したときに、水または薬品などの液体、およびオゾンなどの気体の進入を大幅に抑えて、耐水性および耐薬品性などの耐候性を向上させることもできる。加えて、海島状の樹脂層に含まれる機能性材料を隠蔽性粒子とし、樹脂層を膜化させて、隠蔽性粒子を全面に広げることにより、隠蔽性をより向上させることもできる。
【0485】
また、樹脂層をあまり膜化させずに転写することにより、インク受容層(顔料浸透層,溶媒吸収層)と画像支持体とを剥離可能とすることができる。樹脂層を完全に膜化して面接着の状態にして転写した場合、製造された記録物を水に浸漬したときには、顔料浸透層および溶媒吸収層の端部からしか水は吸収されない。そのため、顔料浸透層および溶媒吸収層の膨潤は非常に遅くなる。この結果、長時間の浸漬によって顔料浸透層および溶媒吸収層が膨潤したとしても、
図45(b)のように、膨潤した顔料浸透層1600および溶媒吸収層1601は画像支持体55の全面を押すだけであって、顔料浸透層1600と画像支持体55とを引き剥がす剥離力は発生しない。
【0486】
一方、
図45(a)のように樹脂層を点接触の状態にして転写した場合には、製造された記録物を水に浸漬したときに、水を吸って膨潤した露出部1001の顔料浸透層1600が画像支持体55を押して、熱可塑性樹脂1002と画像支持体55を引き剥がす方向に力が働く。その力が顔料浸透層1600と画像支持体55とを引き剥がす剥離力となるため、顔料浸透層1600と画像支持体55との剥離が可能となる。このように樹脂層を点接触の状態で転写した場合には、海島状の樹脂層1012のバイパス部1014は維持されているため、水がバイパス部1014を通って熱可塑性樹脂全体に急速に染み渡り、短時間で画像支持体55の引き剥がしが可能となる。さらに、記録物を温度の高い水などに漬けて、顔料浸透層1600の膨潤率を高くすることにより、さらに短時間で顔料浸透層1600を画像支持体55から容易に引き剥がしが可能となる。また、画像支持体55をリサイクルして利用することもできる。
【0487】
画像支持体55の再利用を図る上において、本発明の記録媒体に顔料インクによって画像を記録することは有利である。すなわち、顔料画像1606は、顔料浸透層1600内の底部に薄膜状に稠密に形成されていて画像支持体55に直接接しないため、画像支持体55の再利用時の障害となる、画像支持体55への画像移りの発生を抑えることができる。仮に、空隙径の小さいインク受容層(溶媒吸収層)の表面において顔料インクを固液分離させる記録媒体の場合には、転写時に、インク受容層上において固液分離して形成された顔料画像と、画像支持体と、が直接接するおそれがある。そのため、画像支持体に顔料画像が転写される画像移りが発生して、画像支持体に記録情報が残る場合があり、画像支持体の再利用性が低下するおそれがある。
【0488】
(第2の実施形態の具体的な実施例)
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は、下記の実施例によっていかなる制限を受けるものではない。なお、以下の記載における「部」、「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0489】
[ポリビニルアルコール水溶液1の調製]
ポリビニルアルコール(商品名「PVA123」、クラレ製)をイオン交換水に溶解して、固形分含量が8%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。なお、ポリビニルアルコールは、重量平均重合度が2300、けん化度が98〜99mol%であった。
【0490】
[溶媒吸収層塗工液1の調製]
シリカ水溶液(商品名「スノーテックスO−40」(固形分(SiO2)を濃度40%、平均1次粒子径25nm)日産化学工業株式会社製)を100部と、ポリビニルアルコール水溶液1を125部と、をスタティックミキサーにより混合して、溶媒吸収層塗工液1を得た。
【0491】
[溶媒吸収層塗工液2の調製]
シリカ水溶液(商品名「スノーテックスO」(固形分(SiO2)濃度20%、平均一次粒子径10nm)日産化学工業株式会社製)を100部と、ポリビニルアルコール水溶液1を50部と、をスタティックミキサーにより混合して、溶媒吸収層塗工液2を得た。
【0492】
[溶媒吸収層塗工液3の調製]
第1のガラス製反応容器に攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素ガス導入管を備え付けた後、その反応容器に、ノニオン系乳化剤としてのアクアロンRN−30(第一工業製薬(株)製)6g、アニオン系乳化剤アクアロンHS−30(第一工業製薬(株)製)6g、メチルメタアクリレート130.0g、エチルアクリレート5.0g、メタクリル酸5.0g、水275gを入れて攪拌し、総量427.0gの混合物を調整した。次に、この混合物の36gを取り出し、同様の第2の反応容器に移した後、窒素ガス導入下において73℃で40分間乳化を行った。次いで、重合開始剤としてのペルオキソニ硫酸アンモニウム17gを水36gに溶解し、乳化液に添加した。その後、混合物の残量を第1の反応容器より取り出し、それを100分の時間をかけて第2の反応容器内に徐々に滴下し、73℃で重合を行った。混合物の残量の滴下を終了した後、73℃で80分間攪拌を継続し、樹脂水溶液1(Tg:101℃、樹脂固形分35.0%)を合成した。この分散粒子の平均一次粒径は20nmであった。次に、樹脂水溶液1を100部と、ポリビニルアルコール水溶液1を43.75と、をスタティックミキサーにより混合して、溶媒吸収層塗工液3を得た。
【0493】
[溶媒吸収層塗工液4の調製]
第1のガラス製反応容器に攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素ガス導入管を備え付けた後、その反応用容器に、ノニオン系乳化剤としてのアクアロンRN−30(第一工業製薬(株)製)6g、アニオン系乳化剤アクアロンHS−30(第一工業製薬(株)製)6g、メチルメタアクリレート100.0g、エチルアクリレート20.0g、2−ヒドロキシルエチルアクリレート10.0g、メタクリル酸5.0g、水275gを入れて攪拌し、総量427.0gの混合物を調整した。次に、この混合物の36gを取り出し、同様の第2の反応容器に移した後、窒素ガス導入下において73℃で40分間乳化を行った。次いで、重合開始剤としてのペルオキソニ硫酸アンモニウム17gを水36gに溶解し、乳化液に添加した。その後、混合物の残量を第1の反応容器より取り出し、それを100分の時間をかけて、第2の反応容器内に徐々に滴下し、73℃で重合を行った。混合物の残量の滴下を終了した後、73℃で80分間攪拌を継続し、樹脂水溶液1(Tg:78℃、樹脂固形分35.0%)を合成した。この分散粒子の平均一次粒径は40nmであった。次に、樹脂水溶液2を100部と、ポリビニルアルコール水溶液1を43.75部と、をスタティックミキサーにより混合して、溶媒吸収層塗工液4を得た。
【0494】
[顔料浸透層塗工液1の調製]
シリカ水溶液(商品名「スノーテックスST−PS−MO」(固形分(SiO2)濃度18%、平均一次粒子径125nm)日産化学工業株式会社製)を100部と、ポリビニルアルコール水溶液1と、をスタティックミキサーにより混合して、顔料浸透層塗工液1を得た。
【0495】
[顔料浸透層塗工液2の調製]
第1のガラス製反応容器に攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素ガス導入管を備え付けた後、その反応容器にメチルメタアクリレート100.0g、エチルアクリレート20.0g、2−ヒドロキシルエチルアクリレート10.0g、メタクリル酸5.0g、水275gを入れて攪拌し、総量427.0gの混合物を調整した。次に、この混合物の36gを取り出し、同様の第2の反応容器に移した後、窒素ガス導入下において、73℃で40分間乳化を行った。次いで、重合開始剤としてのペルオキソニ硫酸アンモニウム17gを水36gに溶解して、乳化液に添加した。その後、混合物の残量を第1の反応容器より取り出し、それを100分の時間をかけて第2の反応容器内に徐々に滴下し、73℃で重合を行った。混合物の残量の滴下終了した後、73℃で80分間攪拌を継続し、樹脂水溶液3(Tg:78℃、樹脂固形分35.0%)を合成した。この分散粒子の平均一次粒径は120nmであった。次に、樹脂水溶液1を100部と、ポリビニルアルコール水溶液3を43.75部と、をスタティックミキサーにより混合して、顔料浸透層用塗工液2を得た。
【0496】
[顔料浸透層塗工液3の調製]
顔料浸透層塗工液2の調製と同様にして、チルアクリレート20.0g、エチルアクリレート115.0g、2−ヒドロキシルアクリレート5.0g、メタクリル酸10.0gとして、樹脂水溶液4(Tg:90℃、樹脂固形分35.0%)を合成した。この分散粒子の平均一次粒径は110nmであった。次に、樹脂水溶液4を100部と、ポリビニルアルコール水溶液1を43.75と、をスタティックミキサーにより混合して、顔料浸透層用塗工液3を得た。
【0497】
[顔料浸透層塗工液4の調製]
顔料浸透層塗工液4の調製と同様にして、チルアクリレート20.0g、エチルアクリレート115.0g、2−ヒドロキシルアクリレート5.0g、メタクリル酸10.0gとして、樹脂水溶液5(Tg:90℃、樹脂固形分35.0%)を合成した。この分散粒子の平均一次粒径は180nmであった。次に、樹脂水溶液5を100部と、ポリビニルアルコール水溶液1を43.75と、をスタティックミキサーにより混合して、顔料浸透層用塗工液4を得た。
【0498】
[樹脂層塗工液1の調製]
VANORA社製DXA4081(固形分濃度50%、平均2次粒子径300nm)を50部と、DIC社製ボンディック1940NE(固形分濃度50%、平均2次粒子径620nm)50部と、イオン交換水10部と、によって樹脂層塗工液1を得た。なお、上記の樹脂層は、アクリル樹脂とウレタン樹脂で構成されている。その樹脂層は、顔料浸透層を構成する水溶樹脂のPVA樹脂の酢酸ビニル基と親和性が高いため、転写後に顔料浸透層と樹脂層とを強固に接着することができる。一方、画像支持体がアクリルおよびPET基材の場合には、樹脂層の構成材料と、画像支持体の構成材料と、の親和性が高いため、転写後に画像支持体と顔料浸透層とを良好に接着することができる。
【0499】
[樹脂層塗工液2の調製]
VANORA社製DXA4081(固形分濃度50%、平均2次粒子径300nm)を50部と、DIC社製ボンディック1940NE(固形分濃度50%、平均2次粒子径620nm)50と、JSR社製中空樹脂粒子水溶液(商品名「SX8022−04EM」、固形分濃度28.2%)を10部と、イオン交換水10部と、によって樹脂層塗工液2を得た。
【0500】
[樹脂層塗工液3の調製]
樹脂層塗工液1に、軟化溶融して膜化する第1の樹脂粒子1002に加え、さらに第2の樹脂粒子の蓄光発光粒子1617として、根本化学社製N夜光Luminova BGL−300FFを5部添加することによって、樹脂層塗工液3を得た。
【0501】
[保護層塗工液1の調製]
アクリルエマルジョン水溶液(BASF社製ジョンクリル352D、Tg56℃、固形分濃度45%)を9部と、ウレタンエマルジョン水溶液(第一工業製薬社製スーパーフレックス130、Tg103℃、固形分濃度35%)を1部と、ポリビニルアルコール水溶液1を0.5部と、を分攪拌混合して、保護層塗工液1を得た。
【0502】
[保護層塗工液2の調製]
VANORA社製DXA4081(固形分濃度50%)を50部と、JSR社製中空樹脂粒子水溶液(商品名「SX8022−04EM」、固形分濃度28.2%)を50部と、根本化学社製N夜光Luminova BGL−300FFを5部と、アクリルエマルジョン水溶液(BASF社製ジョンクリル352D、Tg56℃、固形分濃度45%)を90部と、ウレタンエマルジョン水溶液(第一工業製薬社製スーパーフレックス130、Tg103℃、固形分濃度35%)を10部と、ポリビニルアルコール水溶液1を5部と、を5分攪拌混合し、保護層塗工液2を得た。
【0503】
[顔料インク1の調製]
<(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の合成>
撹拌装置と、滴下装置と、温度センサと、上部に窒素導入装置を有する還流装置と、を取り付けた反応容器に、メチルエチルケトン1,000部を仕込み、そのメチルエチルケトンを撹拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置より、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル63部、メタクリル酸141部、スチレン417部、メタクリル酸ベンジル188部、メタクリル酸グリシジル25部、重合度調整剤(商品名「ブレンマーTGL」、日本油脂社製)33部、およびペルオキシ−2−エチルヘキサン酸−t−ブチル 67部を混合して得た混合液を4時間かけて滴下した。その滴下の終了後、さらに同温度で10時間反応を継続させて、酸価110mgKOH/g、ガラス転移点(Tg)89℃、重量平均分子量8,000の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)の溶液(樹脂分:45.4%)を得た。
【0504】
<水性顔料分散体の調製1>
冷却機能を備えた混合槽に、フタロシアニン系ブルー顔料1,000部、上記の合成により得られた(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)の溶液、25%水酸化カリウム水溶液、および水を仕込み、それらを撹拌および混合して混合液を得た。なお、フタロシアニン系ブルー顔料に対して、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)を、その不揮発分が40%となる比率の量で用いた。また、25%水酸化カリウム水溶液としては、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)が100%中和される量を用いた。さらに、水は、得られる混合液の不揮発分を27%とする量を用いた。得られた混合液は、直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置に通し、循環方式により4時間分散させた。分散液の温度は40℃以下に保持した。
【0505】
混合槽から分散液を抜き取った後、水10,000部で混合槽と分散装置との流路を洗浄し、洗浄液と分散液とを混合して希釈分散液を得た。得られた希釈分散液を蒸留装置に入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を留去して、濃縮分散液を得た。室温まで放冷した濃縮分散液を撹拌しながら、そこに2%塩酸を滴下して、pH4.5に調整した後、ヌッチェ式濾過装置にて固形分を濾過して水洗した。得られた固形分(ケーキ)を容器に入れ、水を加えた後、分散撹拌機を使用して再分散させ、25%水酸化カリウム水溶液によってpH9.5に調整した。その後、遠心分離器を使用し、6000Gで30分の時間をかけて粗大粒子を除去した後、不揮発分を調整して水性シアン顔料分散体(顔料分:14% 酸価110、顔料の平均2次粒子径90nm)を得た。
【0506】
水性シアン顔料分散体におけるフタロシアニン系ブルー顔料を、カーボンブラック系ブラック顔料、キナクリドン系マゼンタ顔料、またはジアゾ系イエロー顔料に変更することにより、水性シアン顔料分散体と同様にして、水性ブラック顔料分散体、水性マゼンタ顔料分散体、または水性イエロー顔料分散体を得た。ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のそれぞれの顔料インクにおける顔料粒子の平均2次粒子径は、表1に記載した。
【0507】
<顔料インク1の調製>
表1に示す組成(合計:100部)となるように、水性顔料分散体および各成分を容器に投入し、プロペラ撹拌機を使用して30分以上撹拌した。その後、孔径0.2μmのフィルター(日本ポール社製)で濾過して、顔料インクを調製した。なお、表1中の「AE−100」は、アセチレングリコール10モルエチレンオキサイド付加物(商品名「アセチレノールE100」、川研ファインケミカル製)である。
【0508】
[顔料インク2の調製]
顔料インクとしては、市販のカーボンブラック「45L」(DBP吸油量45ml/100g、三菱化学社製)100gを、水1000mlによく混合して微分散した後、これに、次亜塩素酸ソーダ(有効塩素酸塩濃度12%)300gを滴下して、100〜104℃で10時間撹拌して湿式酸化した。得られたスラリーを東洋濾紙No.2(アドバンティス社製)で濾過し、表面改質カーボンブラック粒子が洩れるまで水洗した。このウエットケーキを水5キロリットルに再分散して、電導度2mSまで逆浸透膜で脱塩し、さらに、表面改質カーボンブラック濃度15質量%に濃縮して、表面改質カーボンブラック分散液を得た。
【0509】
次に、表1に示す組成(合計:100部)となるように、水性顔料分散体および各成分を容器に投入し、プロペラ撹拌機を使用して30分以上撹拌した。その後、孔径0.2μmのフィルター(日本ポール社製)で濾過して、顔料インクを調製した。得られた顔料インクの平均2次粒子径は40nmであった。カーボンブラック系ブラック顔料分散体のカーボンブラック系ブラック顔料を、フタロシアニン系ブルー顔料、キナクリドン系マゼンタ顔料、またはジアゾ系イエロー顔料に変更することにより、カーボンブラック系ブラック顔料分散体と同様にして、平均2次粒子径が42nm水性シアン顔料分散体、平均粒子径が45nmの水性マゼンタ顔料分散体、または平均2次粒子径が48nmの水性イエロー顔料分散体を得た。
【0510】
[実施例1−1]
[基材1の調製]
構造的潜像を形成する装置を用いて、PET基材(商品名「テトロンG2」、厚さ19μm、帝人デュポンフィルム株式会社製)の表面に凹凸加工を施し、構造的潜像を形成した。構造的潜像の凹凸の幅は10μm、その凹凸の厚みは2μmであった。なお、構造的潜像の凹凸の幅および厚みは、基材の断面をSEMによって観察して測定した。次に、その表面に、離型剤としての中京油脂社製ポリロン788を塗工して、剥離層を形成して基材1を調整した。その塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は0.5g/m
2とした。
【0511】
[記録媒体1−1の製造]
溶媒吸収層塗工液1を基材1の表面に塗工してから乾燥させることにより、記録媒体の構成素材として、基材と溶媒吸収層とを含む積層シートを製造した。その塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は25g/m
2とした。乾燥温度は60℃とした。溶媒吸収層の厚さは25μmであった。その後、基材と溶媒吸収層とを含む積層シート1の表面に、湿し水による処理を行いながら顔料浸透層塗工液1を塗工した後に、乾燥させることにより、記録媒体の構成素材として、基材と溶媒吸収層と顔料浸透層とを含む積層シートを製造した。顔料浸透層の塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は5g/m
2とした。乾燥温度は60℃とした。顔料浸透層の厚さは5μmであった。
【0512】
さらに、積層シート1における顔料浸透層表面に、樹脂層塗工液1を塗工して乾燥させることにより、顔料浸透層の表面に海島状の樹脂層を設けた。すなわち、顔料浸透層の表面に、インク吸収性に劣る熱可塑性樹脂を離散的に設けることにより、顔料浸透層の表面が露出した部分が残こるように樹脂層を形成して、記録媒体1−1を製造した。塗工液の塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分とした。また、乾燥温度は60℃とし、グラビアロールの溝の線数は200線とした。記録媒体は、基材を内側にしてロール状に巻いて、ロール状記録媒体とした。島状に形成される樹脂層の厚さは1.24μmであった。
【0513】
記録媒体1−1の断面をSEMによって観察し、熱可塑性樹脂粒子が顔料浸透層と接している部分の直径を測定した。このとき、顔料浸透層と接している熱可塑性樹脂粒子100個の直径の平均値を算出し、その平均値から接着材粒子の1つが顔料浸透層と接している部分の面積を算出した。次に、記録媒体の記録面からのSEMの投影図より、顔料浸透層と接する熱可塑性樹脂粒子の数を算出して、熱可塑性樹脂が顔料浸透層と接する部分の全面積を求めた。測定範囲の全面積から、熱可塑性樹脂の粒子が顔料浸透層と接する部分の全面積を引くことにより、表面に熱可塑性樹脂がない顔料浸透層の露出部の面積(露出部面積)を算出した。また、記録面側からのSEMの投影図から、記録媒体の記録面側から熱可塑性樹脂部を見たときの面積(熱可塑性樹脂部面積)を確認した。その結果、熱可塑性樹脂の粒子が顔料浸透層と接する接触面積は、熱可塑性樹脂部面積よりも小さく、露出部面積は顔料浸透層の全面積の75%であった。
【0514】
このようにして得られた記録媒体1−1に関して、顔料浸透層の空隙の細孔直径、および溶媒吸収層の空隙の細孔直径をBET法により測定した。顔料浸透層の空隙の細孔直径は125nmであり、溶媒吸収層の空隙の細孔直径は25nmであった。
【0515】
[記録物1−1の製造]
上述した
図40の第1の製造装置25により、記録媒体1−1に、樹脂分散顔料インクを用いて第1の画像を記録した。その後、その記録媒体を画像支持体に加熱圧着させてから、PETの基材を剥離することにより、溶媒吸収層の表面が構造的潜像を有する記録物を得た。次に、この構造的潜像を有する溶媒吸収層の表面に、樹脂分散顔料インク1により、第2の画像(正像)を記録した。さらに、溶媒吸収層にサインペンによって加筆し、かつ朱肉によって捺印した。このようにして、実施例1−1の記録物1−1を得た。この記録物1−1は、
図57(c)の記録物73に対応する。
【0516】
第1の画像および第2の画像を記録する製造装置の記録部として、シリアルヘッドを搭載した顔料インクジェットプリンタ(商品名「PIXUS PRO−1」、キヤノン株式会社製)を用いた。このプリンタに、前述の樹脂分散顔料インクを搭載し、普通紙モード(吐出量4pl、解像度1200dpi、カラー記録)によって、画像を記録した。画像支持体としては、1mm程度の厚みのPET製のカード(商品名「ペットカード」、合同技研株式会社製)を用いた。加熱圧着の条件は、温度160℃、圧力3.9Kg/cm、搬送速度50mm/secとした。樹脂層を軟化溶融させて膜化し、溶媒吸収層および顔料浸透層の空隙を維持するように転写を行った。
【0517】
本実施例1−1において、
図57(a)のように、基材50上に設けた顔料インクのインク受容層53の表面に樹脂層1012を設けた記録媒体1−1を用いる。インク受容層53は、少なくとも溶媒吸収層1601と顔料浸透層1600を含む。さらに、顔料浸透層1600上には、インク吸収性に劣る熱可塑性樹脂1002を離散的に設けることにより、顔料浸透層1600の表面に露出した露出部1001を残こすように樹脂層1012が形成されている。
【0518】
本実施例1−1の溶媒吸収層は、小粒径の無機微粒子を用いることによって高い透明性が確保され、かつ、厚膜に構成することによって高い溶媒吸収性が確保されている。溶媒吸収層は、無機微粒子と水溶性樹脂からなる強固な空隙構造を持ち、転写後も空隙構造を維持するように構成されている。転写後に基材が剥離された顔料吸収層の表面には、凸凹状の構造的潜像が形成され、その表面がマット調の質感に調整される。
【0519】
本実施例1−1の顔料浸透層は、溶媒吸収層に比べて大きい粒径の無機微粒子を用いることによって顔料粒子の浸透性が確保され、かつ、薄膜に構成することによって、顔料浸透層の底部に高発色の顔料画像を形成することができる。溶媒吸収層は、無機微粒子と水溶性樹脂からなる強固な空隙構造を持ち、転写後も空隙構造を維持するように構成されている。
【0520】
インクの受容に関わる樹脂層、顔料浸透層、溶媒吸収層は、その順序にしたがってインク吸収速度が速くなるように構成されている。また、顔料浸透層の平均細孔直径は顔料の平均2次粒子径よりも大きく、溶媒吸収層の平均細孔直径は顔料の平均2次粒子径よりも小さい。また、顔料浸透層と溶媒吸収層は、それらの境界において顔料インクが顔料粒子と溶媒成分とに固液分離するように構成されている。
【0521】
第1の製造装置の記録部において吐出されて、樹脂層に着弾した顔料インクは、顔料浸透層に接した瞬間に顔料浸透層に瞬時に引き込まれ、樹脂層の表面には残りにくい。そのため、UVインクまたは溶剤インクを用いるインクジェット記録とは異なり、次に吐出されるインク滴が着弾するときには、先に吐出されたインク滴が記録媒体の表面にない状態となる。この結果、インクの着弾時におけるインクミストがほぼ発生せず、インクミストの飛散に起因する記録解像度の低下は見られなかった。
【0522】
顔料浸透層に引き込まれたインクは顔料浸透層内をほぼ等方的に浸透し、熱可塑性樹脂の下部にも等しく画像を形成する。したがって、樹脂層の上方からインクを付与して画像を記録しても、ホワイトポイントの発生を抑えて、エリアファクターを高めて、記録媒体の全面に亘って濃度が十分な画像を記録できた。
【0523】
薄い顔料浸透層を浸透したインクは、溶媒吸収層に接することにより、その溶媒吸収層に瞬時に引き込まれる。溶媒吸収層の平均空隙直径は顔料の平均粒子径よりも小さいため、顔料インクは、顔料浸透層の底部において固液分離される。これにより、インクの顔料粒子は、顔料浸透層の底部において薄膜状の稠密な画像を形成する。その画像の彩度も良好であった。また、顔料浸透層が薄く形成されているため、インクのドットが広がりすぎる前にインクが溶媒吸収層に到達して、顔料浸透層の底部にて顔料粒子が固液分離される。そのため、ドット系を適切に制御して、稠密な薄膜状の顔料画像を形成することができ、解像度の高い画像においても、にじみは見られなかった。
【0524】
固液分離したインクの溶媒は、厚く形成された溶媒吸収層にほぼ完全に吸収された。そのため、インクの溶媒は、樹脂層および顔料浸透層に残存しない。また、溶媒吸収層が無機微粒子と水溶性樹脂からなる強固な空隙構造体であるため、転写後にも空隙構造が維持される。したがって、水分を蒸発させる乾燥動作を行うことなく、画像の記録直後に加熱圧着による転写を行っても、溶媒吸収層に吸収された溶媒が逆流することがなく、転写性が良好であった。
【0525】
画像支持体としてのPETカードと、第1の画像(反転画像)としてのカラー画像を記録した記録媒体1−1と、を重ねて、ヒートローラと加圧ローラを用いて、それらを加圧加熱して転写した。その結果、画像支持体に圧接する樹脂層の圧接部の熱可塑性樹脂粒子が軟化溶融して膜化され、画像支持体および顔料浸透層に対する接着面積が増えて、接着性が良好であった。また、基材を剥離する際には、画像支持体に圧接する溶媒吸収層および顔料浸透層の圧接部においては、水溶性樹脂が軟化しても無機微粒子の空隙構造が維持されており、インクの溶媒成分が保持された。
【0526】
厚みのある画像支持体の端面近傍に生ずる非圧接部には、ヒートローラからの熱が伝わり難い。そのため、その非圧接部においては、熱可塑性樹脂粒子が粒子形状を維持し、溶媒吸収層および顔料吸収層の水溶性樹脂は軟化しない。したがって、転写の境界部において、樹脂層には、膜化状態および粒子状態の違いが生じ、また溶媒吸収層および顔料浸透層には、結合樹脂の軟化状態および非軟化状態の違いが生じる。この結果、箔切れ性が良好であった。
【0527】
また記録媒体1−1は、画像支持体の端面部にまでも画像を良好に転写することができた。また、画像支持体から離れた部分の樹脂層が加圧ローラにより加圧加熱されて、その樹脂層の部分の熱可塑性樹脂が軟化溶融して膜化しても、加熱ローラとして、離型性の高いシリコンゴムローラを用いていることにより、熱可塑性樹脂は、加熱ローラ側には接着せずに基材側に残る。そのため、溶融した熱可塑性樹脂による加圧ローラの汚れの発生が生じなかった。
【0528】
本実施例1−1における記録媒体1−1は、溶媒吸収層の平均空隙直径が10nm以上、かつ40nm以下に調整されており、空隙の直径が可視光の波長よりも小さいため、ヘイズが低く、透明性が高い。したがって、
図57(b)、(c)のように、視認者1649が矢印1646の視認方向から第1の画像1606を見たときに、その画像濃度は良好であった。
【0529】
本実施例1−1においては、樹脂層の熱可塑性樹脂として、接着対象の材質および耐性の異なる異種複数の熱可塑性樹脂を用いることができる。したがって、幅広い種々の材質の画像支持体に対しての接着性を示すと共に、幅広い溶剤に対する耐溶剤性を示した。画像支持体として、PETカードに代えて、厚さ3mmの白色アクリル板を用いて記録物を作成したところ、同様に、良好な記録特性、転写特性、箔切れ性、画像保存性、第2画像の記録特性が確認できた。
【0530】
また、軟化溶融して膜化した熱可塑性樹脂のために樹脂層のバイパス部がなくなる。そのため、樹脂層を通して、液体および気体等が記録物の内部に侵入することがなく、耐候性が良好であった。特に、耐溶剤性に関しては、極性溶剤、非極性溶剤、および沸騰水などの高温環境下での浸漬試験においても剥がれ等の不具合が発生せず、良好な接着性が得られた。
【0531】
また、本実施例1−1においては、
図57(b)に示すように、転写後に基材50を剥離することにより溶媒吸収層1601が露出した状態となる。そのため、その露出した溶媒吸収層1601に対しては、
図57(c)に示すように、インクジェット等による第2の画像(正像)1318の追記、および、筆記用具による加筆、捺印等が可能となる。溶媒吸収層1601の表面は、細かな凸凹状の構造的潜像1300を有していて、マット調の所望の表面質感に調整されている。顔料浸透層1600に形成された第1の画像1606は、溶媒吸収層1601に覆われて偽造および改竄されにくいため、セキュリティー性の高い記録物73が作成できた。基材50を剥離して露出した面に対して、前述した第1の実施形態の実施例1における記録物1と同様に擦過性を評価した結果、残存OD率が99%以上あり、擦過性が極めて良好であった。また、顔料インクにより第2の画像1318を追記した場合、そのインクの顔料成分1621は、溶媒吸収層1601の表面の凸凹状の構造的潜像1300によって保護されるため、第2の画像1318の耐擦過性も向上させることができた。
【0532】
[実施例1−2]
[記録媒体1−2の製造]
本実施例1−2における記録媒体1−2は、前述した基材1の代わりに、PET基材(商品名「テトロンG2」、厚さ19μm、帝人デュポンフィルム株式会社製)を用い、樹脂層塗工液1の代わりに樹脂層塗工液2を用いた。それ以外は、記録媒体1−1と同様にして、海島状の樹脂層が、白色半透明の散乱層としての機能も有する記録媒体1−2を得た。この記録媒体1−2は、
図58(a)の記録媒体1に対応する。記録媒体1−1の場合と同様の方法によって、記録媒体1−2の露出部の面積を確認した。記録媒体1−2の露出部の面積は、顔料浸透層の全面積の75%であった。
【0533】
[記録物1−2の製造]
本実施例1−2における記録物1−2は、記録媒体1−1の代わりに記録媒体1−2を用い、画像支持体として厚さ1mmの透明ガラス板を用いた。それ以外は、実施例1−1と同様にして、記録物1−2を得た。この記録物1−2は、
図58(c)の記録物73に対応する。
【0534】
実施例1−2においては、
図58に示すように、樹脂層1012が中空樹脂粒子1616を含んでいて白色散乱層として機能し、ガラスのような透明な画像支持体55に対して顔料浸透層1600を接着(転写)する。このような点において、実施例1−2は実施例1−1と異なる。
【0535】
通常、画像支持体が透明な場合には、転写画像の背景が透明となって、背景からの反射光がないため、転写画像の視認性が劣るおそれがある。実施例1−2においては、顔料画像の背景の樹脂層が白色散乱層として機能するため、その白色散乱層を背景とする転写画像は、コントラストが高くなって視認性が良好となった。また、画像支持体を厚さ10mmの透明アクリル板とした場合にも転写画像の視認性が良好となり、実施例1−1と同様に、良好な画像の記録特性、接着転写特性、箔切れ性、画像保存性、擦過性、および第2の画像の記録特性が確認できた。
【0536】
[実施例1−3]
[記録媒体1−3の製造]
本実施例1−3の記録媒体1−3においては、
図59のように、基材50としてのPET基材(商品名「テトロンG2」、厚さ19μm、帝人デュポンフィルム株式会社製)の表面に、中京油脂社製ポリロン788(固形分濃度3%)を極めて薄く塗工して剥離層1603を設けた。この剥離層1603の表面に、前記の保護層塗工液1を塗工した後、それを乾燥させることにより、剥離層1603の上に、機能層としての保護層1623を形成した。その保護層1623の塗工液の塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は5g/m
2、乾燥温度は90℃とした。さらに、溶媒吸収層1601との密着性を向上させるために、保護層1623の表面に、東洋紡社製バイロナールMD−1985を塗工してから乾燥させることにより、薄膜の密着層1602を設けた。その密着層1602の塗工液の塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は5g/m
2とした。
【0537】
このように、本実施例1−3における記録媒体1−3は、前述した基材1の代わりに、剥離層を介して機能層として保護層を設けた基材を用い、前述した積載シート1に密着層を設け、さらに、溶媒吸収層塗工液1の代わりに溶媒吸収層塗工液2を用い、さらに前述した顔料浸透層塗工液1の代わりに顔料浸透層塗工液2を用いた。それ以外は、記録媒体1−1と同様にして製造して、記録媒体1−3として
図59(a)の記録媒体1−3を得た。この記録媒体1−3における溶媒吸収層の空隙の細孔直径は、BET法により測定した結果、10nmであった。一方、記録媒体1−3における顔料浸透層の空隙の細孔直径は120nmであった。記録媒体1−1と同様の方法で露出部の面積を確認した。記録媒体1−3の露出部の面積は、顔料浸透層の全面積の75%であった。
【0538】
[記録物1−3の製造]
本実施例1−3は、記録物1−3を高画質の写真インテリアとしての記録物とするために、下記の点において実施例1−1と異なる。すなわち記録物1−3においては、顔料インクとして、小粒径の顔料粒子を用いた高画質の顔料インク2を用いてインクジェット記録を行う。また記録物1−3においては、溶媒吸収層を構成する無機微粒子の平均1次粒子径を極めて小さくし、溶媒吸収層の細孔径を可視光の波長よりも十分に小さくする。これにより、可視光が溶媒吸収層をほぼ透過して、その溶媒吸収層の透明性が極めて高くなる。また記録物1−3における顔料浸透層は、無機微粒子ではなく、軟化溶融可能な樹脂微粒子によって構成されており、転写後に顔料浸透層を軟化溶融して膜化させることができる。また記録物1−3においては、小粒径の顔料粒子に合わせて、顔料浸透層の細孔径もやや小さくし、さらに、基材と溶媒吸収層との間に設けた保護層によって、記録物の表面の転写画像を保護する。
【0539】
本実施例1−3においては、このような記録媒体1−3を用い、顔料インクとして小粒径の顔料粒子を含む高画質顔料インクを用い、画像支持体として20mm厚の白色アクリル板を用いて、
図59(b)の記録物1−3を製造した。それ以外は、記録物1−1の製造方法と同様である。
【0540】
本実施例1−3の記録媒体1−3は、前述したように、溶媒吸収層1601の平均細孔直径が10nm程度であって可視光の波長よりも十分に小さいため、ヘイズが非常に低く、透明性が非常に高い。さらに、顔料浸透層1600が無機微粒子ではなく、溶融可能な樹脂微粒子によって構成されていて、転写後に軟化溶融して膜化させることにより、顔料浸透層1600の空隙がなくなり、顔料浸透層1600はほぼ透明となる。したがって、
図59(b)のように、視認者1649が矢印1646の視認方向から、保護膜1623、密着層1602、および溶媒吸収層1601を介して第1の画像1606を見たときに、その画像濃度が極めて良好であった。
【0541】
転写時に、顔料浸透層1600および樹脂層1012が軟化溶融して膜化することにより、樹脂層1012の大きな空隙であった海状のバイパス部は、溶融した顔料浸透層および接着樹脂によって埋められる。このように樹脂層の空隙がなくなることにより、画像支持体55に対する接着性が大幅に向上した。また、顔料画像1606を保持する顔料浸透層1600は、その顔料画像を包み込むように溶融して膜化するため、顔料浸透層内の空隙によって生ずる不要な光散乱も抑制できた。さらに、顔料浸透層の空隙、および樹脂層のバイパス部が十分に埋められるため、記録物の内部に液体および気体が侵入しにくく、顔料インクの性質と相俟って、高温高湿の環境下等における記録物の各種耐候性(耐水、耐溶剤、耐オゾン等)および保存性がきわめて良好であった。また、溶媒吸収層1601の外側の最表層には保護層1623が設けられているため、特に、耐光性、および耐オゾン性がきわめて良好であった。前述した第1の実施形態の実施例1における記録物1と同様に、擦過性を評価した結果、残存OD率が99%以上あり、擦過性が極めて良好であった。また、記録物の製造装置の転写部において顔料浸透層および樹脂層を軟化溶融させて膜化した際に、非転写部において接着剤粒子が粒子状態を維持し、転写部において熱可塑性樹脂粒子が膜化状態となる。そのため、転写の境界部における顔料浸透層および樹脂層には、膜化状態と粒子状態の違いが生じて、切れ性がきわめて良好となった。
【0542】
[実施例2−1]
[記録媒体2−1の製造]
本実施例2−1の記録媒体2−1においては、
図60(a)のように、基材50としてのPET基材(商品名「テトロンG2」、厚さ100μm、帝人デュポンフィルム株式会社製)の表面に、東洋紡社製バイロナールMD−1985を塗工した後、それを乾燥させることにより、基材50上に、機能層としての密着層1602を形成した。その密着層1602の塗工液の塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は0.5g/m
2、乾燥温度は90℃とした。密着層1602の表面に、溶媒吸収層塗工液2を塗工して、やや厚い溶媒吸収層1601を設けて、画像濃度を高めるための十分な量のインク溶媒が吸収できるようにした。溶媒吸収層1601の表面に、中京油脂社製ポリロン788(固形分濃度3%)を、インク溶媒の浸透吸収を妨げないように極めて薄く塗工して、剥離層1603を設けた。この剥離層1603によって、転写後に、溶媒吸収層1601を顔料浸透層1600から剥離しやすくした。また、前述した顔料浸透層塗工液1の代わりに、転写時の加圧加熱によって軟化溶融して膜化可能な顔料浸透層塗工液4を用いて、剥離層1603の上に顔料浸透層1600を形成し、かつその顔料浸透層1600の表面上に海島状に樹脂層1012を設けることにより、本実施例2−1における記録媒体2−1(
図60(a))を製造した。この記録媒体2−1は、前述した小粒径の顔料インク2を用いるインクジェット記録装置において搬送および記録しやすいように、カットシート状に裁断加工して、カットシート状の記録媒体2−1とした。この記録媒体2−1における溶媒吸収層の空隙の細孔直径は、BET法により測定した結果、10nmであった。一方、記録媒体2−1における顔料浸透層の空隙の細孔直径は180nmであった。記録媒体1−1と同様の方法で露出部の面積を確認した。記録媒体2−1の露出部の面積は、顔料浸透層の全面積の75%であった。
【0543】
[記録物2−1の製造]
まず、カットシート状の記録媒体2−1の樹脂層1012側から、前述した小粒径の顔料インク2を用いて第1の画像(反転画像)1606をインクジェット方式により記録した。次に、画像支持体55である20mm厚の白色アクリル板の表面に記録媒体2−1の樹脂層1012を合わせて、それらをヒートローラと加圧ローラとにより加圧加熱して接着(転写)させた。その後、基材50、密着層1602、インク溶媒成分のほぼ全てを含んだ溶媒吸収層1601、および剥離層1603を剥離して、本実施例2−1の記録物2−1(
図60(b))得た。この記録物2−1においては、画像支持体55上に、軟化溶融して膜化された樹脂層1012と顔料浸透層1600が積層され、その顔料浸透層1600は、薄膜状に稠密に記録された高画質な顔料画像(反転画像)1606を包み込むように膜化される。
【0544】
本実施例2−1は、下記の点において実施例1−1と異なる。すなわち、本実施例2−1においては、高画質な反転画像を形成するために小粒径の顔料インクを用い、また、基材と溶媒吸収層との間に密着層を設け、かつ顔料浸透層と溶媒吸収層との間に剥離層を設けることにより、転写時に基材と共に溶媒吸収層が剥離される。また、本実施例2−1においては、顔料浸透層が無機微粒子ではなく、軟化溶融して膜化可能な樹脂微粒子によって構成されることにより、顔料浸透層が樹脂層と同様に、転写後に軟化溶融して膜化される。
【0545】
本実施例の記録物2−1は、高画質で長期保存性が求められる写真インテリア物などに用いて好適である。小粒径の顔料インクを用いるインクジェット記録方式により、高解像度かつ高濃度な顔料画像を記録することができた。また、本実施例の記録媒体2−1は、多量に付与された顔料インクの溶媒成分を速やかにかつ漏れなく吸収できるように、十分に厚くてインク吸収速度が速い溶媒吸収層1601を備える。そのため、高濃度の画像を記録しても、顔料インクは、記録媒体からの溢れを生じることなく界面にて固液分離して、薄膜状の稠密な高精細な顔料画像1606を顔料浸透層1600の底部に形成した。また、インク溶媒成分を多量に含んだ厚い溶媒吸収層1601は、剥離層1603によって、基材50と共に顔料浸透層1600から剥離される。そのため、顔料画像1606は記録物2−1の最表層に位置し、溶媒吸収層1601のヘイズによる画像の視認性の低下が生じない。
【0546】
また、転写時に、顔料浸透層1600は、樹脂層と同様に、顔料画像1606を包み込むように軟化溶融して膜化し、平坦な記録面を形成する。そのため、顔料画像1606上に不要な光散乱が生ぜず、表面のグロス性も向上して、さらに高い画質が得られた。一方、長期保存性の観点から、耐候性に優れた顔料粒子を色材とする顔料インクを用いているため、耐光性、耐オゾン性、耐水性に優れた顔料画像1606が得られた。また、顔料浸透層は、インクジェット記録時には、樹脂微粒子と結合樹脂とによって形成されている空隙に、顔料粒子が稠密に内在し、転写時には、それらの樹脂微粒子と結合樹脂とが軟化溶融して顔料粒子を包み込むように膜化する。この結果、耐擦過性などの機械的強度、および長期保存性に優れた記録物が得られた。また、記録物の製造装置の転写部において顔料浸透層1600および樹脂層1012を軟化溶融させて膜化した際に、非転写部において熱可塑性樹脂粒子が粒子状態を維持し、転写部において熱可塑性樹脂粒子が膜化状態となる。そのため、転写の境界部における顔料浸透層および樹脂層には、膜化状態と粒子状態の違いが生じて、画像支持体55の端部における切れ性が良好となり、高品質の写真インテリア用の記録物が得られた。前述した第1の実施形態の実施例1における記録物1と同様に、擦過性を評価した結果、残存OD率が99%以上あり、擦過性が極めて良好であった。
【0547】
[実施例2−2]
本実施例2−2においては、前述した樹脂層塗工液1に、第2の樹脂粒子として蓄光発光粒子を加えて、この塗工液により発光性樹脂層を設けて記録媒体2−2を作成し、この記録媒体2−2を用いて写真インテリア用の記録物2−2を得た。記録媒体2−2は、樹脂層塗工液1を樹脂層塗工液3に変更した以外は、実施例2−1の記録媒体と同様である。記録媒体1−1と同様の方法で露出部の面積を確認した。記録媒体2−2の露出部の面積は、顔料浸透層の全面積の75%であった。さらに、実施例2−1と同様の方法によって、
図61(b)の写真インテリア用の記録物73を作成した。通常、蛍光発光粒子および蓄光発光粒子は、水分によって発光特性の劣化が生じやすい。本実施例においては、顔料インク中の水分を含む溶媒成分のほぼ全量が溶媒吸収層1601に吸収され、転写後に、その溶媒吸収層1601が基材50と共に剥離される。そのため、記録物2−2における顔料画像1606は、例えば、照度の低下した室内においても優れた視認性を得ることができ、発光特性の劣化も生じにくかった。前述した第1の実施形態の実施例1における記録物1と同様に、擦過性を評価した結果、残存OD率が99%以上あり、擦過性が極めて良好であった。
【0548】
[実施例2−3]
図66は、実施例2の変形例(実施例2−3)としての記録媒体2−3および記録物2−3の説明図である。
【0549】
本実施例2−3の記録媒体2−3(
図66(a))は次のように作成した。まず、基材50としてのPET基材(商品名「テトロンG2」、厚さ100μm、帝人デュポンフィルム株式会社製)の表面に、東洋紡社製バイロナールMD−1985を塗工した後、それを乾燥させることにより、基材50上に、機能層として密着層1602を形成した。その密着層1602の塗工液の塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は0.5g/m
2、乾燥温度は90℃とした。次に、密着層1602の表面に、溶媒吸収層塗工液3と塗工することにより、厚くて十分なインク溶媒吸収容量を有する空隙吸収型の第1の溶媒吸収層1601を設けた。その溶媒吸収層1601の表面に、中京油脂社製ポリロン788(固形分濃度3%)を、インク溶媒の浸透吸収を妨げないように極めて薄く塗工して、極薄の剥離層1603を設けた。さらに、剥離層1603の上に、前述した溶媒吸収層塗工液4と塗工することにより、溶融膜化可能な薄膜の空隙吸収型の第2の溶媒吸収層1655を設けた。次に、実施例1−1と同様にして、第2の溶媒吸収層1655の上に溶融膜化可能な薄膜の空隙吸収型の顔料浸透層1600を設け、さらに顔料浸透層1600の上に、海島状に熱可塑性樹脂1002を設けて樹脂層1012を形成した。記録媒体1−1と同様の方法で露出部の面積を確認した。記録媒体2−3の露出部の面積は、顔料浸透層の全面積の75%であった。
【0550】
実施例2−3において、顔料インクの顔料粒子の平均粒子径は90nm〜110nmであり、顔料浸透層1600の平均空隙径は約125nm程度であって、顔料浸透層1600の厚さは約4μmである。顔料インクは、厚さ約2μmの樹脂層1012を介して付与されることにより第1の画像1607を形成し、熱可塑性樹脂1002の直下部も含めて、顔料浸透層1600内に速やかに浸透拡散して、第2の溶媒吸収層1655との界面に達する。第2の溶媒吸収層1655の平均空隙径は約40nm程度であり、その空隙には顔料粒子は吸収できない。そのため、顔料インクは、顔料浸透層1600と第2の溶媒吸収層1655との界面において固液分離され、顔料浸透層1600の底部に薄膜状で稠密な顔料画像1606を形成する。顔料インクの溶媒成分1607は、インク吸収速度がより速い第2の溶媒吸収層1655に速やかに吸収浸透される。厚さ6μm程度の第2の溶媒吸収層1655に吸収された溶媒成分1607は、さらにインク吸収速度が速い第1の溶媒吸収層1601に吸収される。第1の溶媒吸収層1601の平均空隙径は約20nm程度であり、その溶媒吸収層1601の厚さは25μmである。この溶媒吸収層1601は、十分なインク吸収容量を有しているため、複数色の高濃度の顔料インクを用いてのカラー記録が可能となる。
【0551】
顔料浸透層1600は、樹脂層1012に比べてインク吸収速度が格段に速く、また平均空隙径が小さい第2の溶媒吸収層1655は、インク吸収速度がさらに速い。また、平均空隙径がさらに小さい第1の溶媒吸収層1601は、インク吸収速度が圧倒的に速く、かつ十分なインク吸収容量を有する。そのため、溶媒成分1607のほぼ全ては、第1の溶媒吸収層1601に速やかに吸収される。
【0552】
実施例2−3の記録物2−3の製造に際しては、前述した顔料インク1を用いて、
図66(b)のように、インクジェット記録ヘッド600によって記録媒体に第1の画像1606を記録する。その後、
図66(c)のように、加熱ローラ21を用いて加圧加熱することにより、樹脂層1012、顔料浸透層1600、および第2の溶媒吸収層1655を溶融膜化して、20mm厚の白色アクリル板からなる画像支持体55に接着(転写)する。その後、
図66(d)のように、剥離層1603、第1の溶媒吸収層1601、および密着層1602を基材50と共に剥離して、
図66(e)の記録物を作成した。
【0553】
本変形例の記録物は、高い長期保存性が求められる写真インテリア物などに用いて好適である。顔料浸透層1600は、転写時に、顔料画像1606を包み込むように膜化し、その表面に、第2の溶媒吸収層1655が透明保護層を形成する。そのため、汚染液体および有害ガスなどによる顔料画像1606の汚染を防止し、また耐擦過性などの機械的強度を向上させて、記録物の長期保存性を飛躍的に向上させることができた。前述した実施例2−1と同様に、第1の溶媒吸収層1601を剥離することにより、ヘイズが大幅に改善されて、画像の視認性が向上していることも確認できた。また、良好な画像の記録特性および転写特性も同様に確認できた。第1の溶媒吸収層1601は、光学的特性、柔軟性、および箔切れ性などを考慮せずに、インク吸収速度および吸収容量などのインク吸収性に特化して機能を向上させることがでるため、高濃度な画像のインクジェット記録も可能となった。前述した第1の実施形態の実施例1における記録物1と同様に、擦過性を評価した結果、残存OD率が99%以上あり、擦過性が極めて良好であった。
【0554】
[実施例3−1]
[記録媒体3−1の製造]
本実施例3−1における記録媒体3(
図62(a))の製造に際しては、基材50としてのPET基材(商品名「テトロンG2」、厚さ30μm、帝人デュポンフィルム株式会社製)の表面に、中京油脂社製ポリロン788(固形分濃度3%)を極薄く塗工して剥離層1603を設けた。剥離層1603の表面に、前述した保護層塗工液2を塗工した後、それを乾燥させることにより、白色粒子1616と蛍光粒子1617とを含む耐水性の白色蛍光保護層1627を形成した。白色蛍光保護層1627の表面に東洋紡社製バイロナールMD−1985を塗工した後、それを乾燥させることにより、密着層1602を形成した。その密着層1602の塗工液の塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は0.5g/m
2、乾燥温度は90℃とした。密着層1602の表面に、実施例1−1と同様にして、やや厚い空隙吸収型の溶媒吸収層1601を設けて、画像濃度を高めるための十分な量のインク溶媒が吸収できるようにした。さらに、前述した顔料浸透層塗工液2を用いて、溶媒吸収層1601の表面に、転写時の加圧加熱によって軟化溶融して膜化可能な空隙吸収型の顔料浸透層1600を形成した。さらに、実施例1−1と同様にして、顔料浸透層1600表面上に、海島状に熱可塑性樹脂1002を配した樹脂層1012を設けることにより、本実施例3−1における記録媒体(
図62(a))3−1を製造した。この記録媒体3−1は、前述した小粒径の顔料インク2を用いるインクジェット記録装置において搬送および記録しやすいように、カットシート状に裁断加工して、カットシート状の記録媒体3とした。記録媒体1−1と同様の方法で露出部の面積を確認した。記録媒体3−1の露出部の面積は、顔料浸透層の全面積の75%であった。
【0555】
[記録物3−1の製造]
まず、カットシート状の記録媒体3−1の樹脂層1012側から、前述した小粒径の顔料インク2を用いて第1の画像(反転画像)1606をインクジェット方式により記録した。次に、画像支持体55である30mm厚の透明アクリル板の表面に記録媒体3−1の樹脂層1012を合わせて、それらをヒートローラと加圧ローラとにより加圧加熱して接着(転写)させた、その後、基材50を剥離して記録物3−1(
図62(b))を得た。この記録物3−1においては、画像支持体55上に。軟化溶融して膜化された樹脂層1012と顔料浸透層1600が積層され、その顔料浸透層1600は、薄膜状に稠密に記録された高画質な顔料画像1606を包み込むように膜化される。また、記録媒体3−1には、顔料インクの溶媒成分を吸収した溶媒吸収層1601と、密着層1602と、白色粒子1616および蛍光粒子1617を含む白色蛍光保護層1627と、が積層される。
【0556】
本実施例3−1は、下記の点において実施例2−1と異なる。すなわち、本実施例3−1においては、小粒径の顔料インクを用いて高画質な正像の顔料画像を形成し、その顔料画像を厚い透明なアクリル板を通して見る。また、本実施例3−1においては、白色粒子と蛍光粒子とを含む白色蛍光保護層を、密着層を介して溶媒吸収層に密着させることによって、白色蛍光保護層を顔料浸透層と共に画像支持体に転写する。また、実施例3−1においては、顔料浸透層が無機微粒子ではなく、軟化溶融して膜化可能な樹脂微粒子によって構成されており、顔料浸透層が樹脂層と同様に、転写後に軟化溶融して膜化される。
【0557】
本実施例3−1の記録物3−1は、記録物2−1と同様に、高画質で長期保存性が求められる写真インテリア物などに用いて好適である。実施例2−1と同様に、小粒径の顔料インクを用いるインクジェット記録方式により、高解像度かつ高濃度な顔料画像を記録することにより、薄膜状の稠密で高精細な顔料画像(正像画像)を顔料浸透層の底部に形成することができた。本実施例3−1においては、画像支持体への転写後も、インク溶媒成分を多量に含む厚い溶媒吸収層が、記録物3−1の最表層である白色蛍光保護層と共に、画像支持体に残る。視認者1649は、
図61(b)のように矢印1646方向から、透明な画像支持体と、透明膜化した樹脂層と、転写時に樹脂層と同様に溶融することにより透明膜化した顔料浸透層と、を通して見る。したがって、顔料画像の視認性は良好である。また、白色蛍光の保護層は、背景隠蔽層として顔料画像の視認性を高め、さらに白色蛍光保護層に含まれる蛍光粒子が発光することにより、暗めの室内における顔料画像の視認性をさらに高める。
【0558】
記録物3−1においては、記録物2−1と同様に、顔料浸透層が顔料画像を包み込むように膜化して、平坦な記録面を形成するため、不要な光散乱が生ぜず、高画質の顔料画像が得られた。一方、長期保存性の観点から、記録物2−1と同様に、耐候性に優れた顔料粒子を色材とする顔料インクを用いているため、耐光性、耐オゾン性、耐水性に優れた顔料画像が得られた。また、顔料浸透層は、空隙を形成する樹脂微粒子と結合樹脂とが軟化溶融して、顔料粒子を包み込むように膜化するため、液体やガスなど侵入しにくく、長期保存性に優れた記録物3−1が得られた。本実施例の記録媒体3−1における溶媒吸収層は、インクの溶媒成分の逆流によって接着性(転写性)が低下しないように、インクジェット記録直後に、加圧加熱を伴う転写を行っても空隙構造が維持されるように構成した。前述した第1の実施形態の実施例1における記録物1と同様に、擦過性を評価した結果、残存OD率が99%以上あり、擦過性が極めて良好であった。
【0559】
[実施例3−2]
本実施例3の第1の変形例(実施例3−2)として、転写時の加圧加熱によって溶媒吸収層も軟化溶融して膜化する記録媒体3−2を作成し、画像の記録後かつ転写前に、乾燥手段によって顔料インクの溶媒成分を乾燥、または、その溶媒成分を乾燥させるための十分な時間を確保してから、転写を行った。加圧加熱により溶融膜化する溶媒吸収層は、実施例3−1の溶媒吸収層塗工液1の代わりに溶媒吸収層塗工液4を用い、顔料浸透層塗工液1の代わりに顔料浸透層塗工液4を用いた以外は、実施例3−1と同様にして構成した。溶媒吸収層も溶融膜化させることにより、保護層との密着性を高めて、溶媒吸収層の端面からの水およびガスの浸入を防止することができた。この結果、実施例3−1と同様の画像記録を可能とし、さらに長期保存性が極めて高い記録物を得ることができた。また、白色蛍光保護層の発光が溶媒吸収層を透過しやすくて、顔料画像の視認性がより高まることが確認できた。この記録媒体3−2における溶媒吸収層の空隙の細孔直径は、BET法により測定した結果、40nmであった。一方、記録媒体3−2における顔料浸透層の空隙の細孔直径は180nmであった。記録媒体1−1と同様の方法で露出部の面積を確認した。記録媒体3−2の露出部の面積は、顔料浸透層の全面積の75%であった。
【0560】
[実施例3−3]
本実施例3の第2の変形例(実施例3−3)においては、
図63(a)のように、記録媒体における白色蛍光保護層1627上に、予め、前記録層1648を形成する。前記録層1648として、基材50上に剥離層1603の表面に、予め、ホログラム画像を加工したホログラム層を積層する。そのホログラム層1648の表面には、実施例3−2と同様に、加圧加熱により溶融膜化する溶媒吸収層1601を、白色保護層1627および密着層1602を介して設けた。前述した第1の実施形態の実施例1における記録物1と同様に、擦過性を評価した結果、残存OD率が75%であった。記録媒体1−1と同様の方法で露出部の面積を確認した。記録媒体3−3の露出部の面積は、顔料浸透層の全面積の75%であった。このような記録媒体3−3を用いて製造した記録物3−3(
図63(b))において、顔料画像1606の裏側に位置する白色蛍光保護層1627の表面に、予め形成されたホログラム画像が現れた。
【0561】
本実施例の記録物3−3は、透明な画像支持体側から高精細な写真画像を見ることができるため、写真インテリア物としても好適に用いることができる。また、顔料画像の裏側に位置する白色蛍光保護層にホログラム画像が現れるため、より意匠性の高い記録物が得られた。前述した第1の実施形態の実施例1における記録物1と同様に、擦過性を評価した結果、残存OD率が99%以上あり、擦過性が極めて良好であった。
【0562】
前記録層1648はホログラム層に限らず、グラビア印刷など公知の印刷手段によって設けられた種々の前記録層とすることができる。ホログラム加工には、剥離層1603が形成された基材50を用い、構造的潜像を形成する装置を用いた。
【0563】
[実施例4]
[記録媒体4の製造]
本実施例4における記録媒体4(
図64(a))の製造に際しては、基材50としてのPET基材(商品名「テトロンG2」、厚さ19μm、帝人デュポンフィルム株式会社製)の表面に、中京油脂社製ポリロン788(固形分濃度3%)を極薄く塗工して剥離層1603を設けた。剥離層1603の上に、前述した顔料浸透層塗工液1を塗工し、第2の顔料浸透層1620を形成した。前述した実施例1−1と同様に溶媒吸収層1601を設けた。さらに、顔料浸透層塗工液3を用いて、転写時の加圧加熱によって軟化溶融して膜化可能な第1の顔料浸透層1600を形成した。さらに、実施例1−1と同様にして、顔料浸透層1600の表面上に、海島状に熱可塑性樹脂1002を配して樹脂層1012を設けることにより、本実施例4における記録媒体4(
図64(a))を製造した。この記録媒体4は、やや大粒径の顔料インク(安価で高速記録性に優れる顔料インク)を用いるインクジェット記録装置において搬送および記録しやすく、しかも転写装置において転写および剥離しやすいように、ロールシート状に加工して、ロール状の記録媒体4とした。この記録媒体4における溶媒吸収層の空隙の細孔直径は、BET法により測定した結果、25nmであった。一方、記録媒体4における第一の顔料浸透層の空隙の細孔直径は110nm、第2の顔料浸透層の空隙の細孔直径は125nmであった。記録媒体1−1と同様の方法で露出部の面積を確認した。記録媒体4の露出部の面積は、顔料浸透層の全面積の75%であった。
【0564】
[記録物4の製造]
ロール状の記録媒体4に対して、実施例1−1と同様に、インクジェット記録により第1の顔料浸透層1600に第1の画像(反転画像)1606を形成する。次に、インク溶媒1607のほぼ全量を溶媒吸収層1601に吸収させたまま、ヒートローラにより加圧加熱して、画像支持体55としての厚さ約1mmの白色PVCカード上に記録媒体4の顔料画像1606を接着(転写)する。その後、基材50を剥離して、
図64(b)の記録物4を作成した。加圧加熱により、樹脂層1012および第1の顔料浸透層1600は溶融膜化するものの、溶媒吸収層1601は空隙構造を維持している。そのため、インクジェット記録直後に転写においても、溶媒成分1607が溶媒吸収層1601に保持されて、良好な接着性が得られる。また、第2の顔料浸透層1620も空隙構造を維持する。
【0565】
記録物4は、
図64(b)に示すように、画像支持体55上に、溶融膜化した樹脂層1012と、第1の画像(反転画像)1606が形成されかつ溶融膜化した顔料浸透層1600と、が積層されている。さらに、顔料浸透層1600の上に、空隙構造を維持したまま顔料インクの溶媒成分1607を吸収している溶媒吸収層1601と、空隙構造が維持されている最表層としての第2の顔料浸透層1620と、が積層されている。本実施例の記録物4は、
図64(c)のように、実施例1−1の記録物と同様にインクジェット記録による第2の画像(正像)1318の記録、およびペンまたは捺印などによる加筆が可能である。
【0566】
本実施例4は、下記の点において実施例1−1と異なる。すなわち、実施例1−1においては記録物の最表面が凸凹の溶媒吸収層であり、一方、本実施例4においては、記録物4の最表面が第2の顔料浸透層1600であるため、第2の顔料画像1318の耐擦過性が格段に向上する。本実施例4においては、
図64(c)のように、顔料インクを用いて第2の画像(正像)1318を記録した。本実施例4においては、第2の顔料浸透層1620の表面に着弾した顔料インクは、顔料粒子も含めて速やかに第2の顔料浸透層1601内に浸透拡散し、溶媒吸収層1601との界面において、顔料粒子が固液分離されて稠密な薄膜状の顔料画像1616を形成する。本実施例4において、顔料インクの溶媒成分1617は、よりインクの吸収速度の速い溶媒吸収層1601に速やかに吸収される。また、本実施例4においては、第2の顔料画像1318が、加圧加熱によっても空隙構造を維持する膜強度の強い第2の顔料浸透層1620の底部に形成され、その第2の顔料画像1318は優れた耐擦過性を示す。
【0567】
以下、本実施例4において確認できた効果について詳述する。
【0568】
海島状の樹脂層を介して付与される顔料インクは、第1の顔料浸透層と溶媒吸収層との海面において固液分離することにより、第1の顔料浸透層の底部界面に、薄膜状の稠密な第1の画像を形成する。第1の画像の形成時には、樹脂層側から基材側に向けて、順次、インク吸収速度が高くなるようにインク受容層(顔料浸透層および溶媒吸収層)が形成されているため、顔料インクは、海島状の樹脂層には残らずに、顔料浸透層に高速に浸透吸収される。第1の顔料浸透層の平均細孔径は、顔料インクの色材である顔料粒子径よりも大きいため、顔料インクは、第1の顔料浸透層内に素早く浸透する。溶媒吸収層の平均細孔径は顔料粒子径よりも小さいため、顔料インクは、第1の顔料浸透層と溶媒吸収層との界面にて固液分離され、顔料粒子は、薄膜状の稠密で高画質の第1の画像を形成する。
【0569】
空隙の毛細管現象によってインクを吸収する際には、空隙の細孔径が小さいほどインク吸収速度が高くなる。そのため、顔料インクの溶媒成分は、第1の顔料浸透層に残ることなく、そのほとんど全てが溶媒吸収層に吸収される。その溶媒成分は、溶媒吸収層の内部に高速に浸透拡散して、第2の顔料浸透層との界面に到達する。しかし、第2の顔料浸透層平均細孔径が顔料粒子径よりも大きいため、溶媒成分は、第2の顔料浸透層の内部に浸透しない。このように、第1の画像記録用の顔料インクを浸透吸収させる範囲においては、インク吸収速度が徐々に速くなるようにインク受容層(第1の顔料浸透層および溶媒吸収層)が構成されている。
【0570】
海島状の樹脂層には、顔料インクが残らないため、第1の画像を記録した後に、即時、樹脂層を溶融軟化させて画像支持体に転写させることができる。第1の顔料浸透層は、加圧加熱を伴う転写時の温度によって、樹脂層と同時に溶融膜化させてもよい。一方、溶媒吸収層と第2の顔料浸透層は、転写時の加圧加熱によっても空隙構造を維持するように構成されている。転写後に基材が剥離された記録物の表面には、顔料インクが浸透拡散可能な空隙構造を維持した第2の顔料浸透層が位置するため、その第2の顔料浸透層に、顔料インクを用いて第2の画像(正像)を形成することができる。第2の顔料浸透層の表面に、顔料インクを付与して第2の画像を記録した場合、第2の顔料浸透層の平均細孔径が顔料インクの顔料粒子径よりも大きいために、顔料インクは第2の顔料浸透層内に浸透する。また、溶媒吸収層の平均細孔径が顔料粒子径よりも小さいため、第2の顔料浸透層との界面において顔料粒子が分離されて、薄膜状の稠密で高画質の第2の画像が形成される。
【0571】
空隙の毛細管現象によってインクを吸収する場合、空隙の細孔径が小さいほどインク吸収速度が高くなるため、顔料インクの溶媒成分は、第1の画像の形成時と同様に、そのほとんど全てが溶媒吸収層に吸収されて、第2の顔料浸透層には残らない。第2の画像は、第2の顔料浸透層の底部に記録されるため、顔料インクを用いるインクジェット記録においえ懸念される顔料の耐擦過性が向上し、記録物の保存性にも優れる。前述した第1の実施形態の実施例1における記録物1と同様に、擦過性を評価した結果、残存OD率が99%以上あり、擦過性が極めて良好であった。
【0572】
このように、溶媒吸収層と第2の顔料浸透層は、転写時の加圧加熱によっても空隙構造を維持するように構成されている。それらの空隙は、転写時よりもさらに高い温度で加圧加熱した場合に溶融膜化する樹脂微粒子によって構成してもよい。この場合には、第2の画像を記録した後に、転写時よりも高い温度で加圧加熱することにより、それらの層を溶融膜化することができる。また、この場合には、画像を追記するための加筆性は低下するものの、さらに高い保存性が得られ、第2の画像の表面グロスも向上して、さらに高画質の第2の画像が得られる。また、溶媒受容層は溶融軟化しなくてもよい、しかし、溶媒受容層を溶融膜化させることにより、空隙構造が解消されて透明性が高くなって、第1の料画像の視認性を向上させることができる。なお、第2の顔料浸透層を溶融膜化させる際には、記録媒体を画像支持体へ転写させる場合とは異なり、加熱ローラを、基材を介さずに第2の顔料浸透層に直接接触させて、より高い温度で加圧加熱する必要がある。そのため、離型性により優れた、シリコーンゴム製などの加圧ローラおよび加熱ローラを用いることが望ましい。
【0573】
[実施例5]
本発明の実施例5においては、実施例4における海島状の樹脂層を粘着性の熱可塑性樹脂によって形成した。そのため、本実施例5の記録媒体は、樹脂層を加圧加熱して溶融膜化させることなく、記録媒体を加圧するだけで画像支持体に転写することができる。したがって、高温で加圧加熱することが難しい低Tg温度の材料からなる種々の画像支持体に対して、特別な装置を用いることなく、粘着性のテープのように、記録媒体を手動により加圧して簡易に接着(転写)することができる。
【0574】
また、画像支持体として1mm厚のIC回路付白色PVCカードを用いて、セキュリティーカードなどの用途の記録物を製造する場合には、ICカードが極めて高価であることから、ICカードの再利用性が求められる場合もある。
【0575】
[粘着性樹脂層の材料の調製]
DIC社製ボンコートW−386 (固形分濃度50%)を10部と、イオン交換水を90部と、を混合してによって粘着性樹脂層塗工液1を得た。
【0576】
[記録媒体5の製造]
本実施例5における記録媒体5(
図65(a))の製造に際しては、基材50としてのPET基材(商品名「テトロンG2」、厚さ30μm、帝人デュポンフィルム株式会社製)の表面に、中京油脂社製ポリロン788(固形分濃度3%)を極薄く塗工して剥離層1603を設けた。実施例4の記録媒体4と同様に、剥離層1603の上に、前述した顔料浸透層塗工液1を塗工して第2の顔料浸透層1620を形成した。その顔料浸透層1620の上に溶媒吸収層1601を設け、さらに、その上に、前述した顔料浸透層塗工液3を用いて第1の顔料浸透層1600を形成した。さらに、顔料浸透層1600の表面上に、上記の粘着性樹脂層塗工液1を用いて、海島状に粘着性の熱可塑性樹脂1630を配して樹脂層を設けることにより、記録媒体5(
図65(a))を製造した。この記録媒体5は、汎用のインクジェット記録装置において搬送および記録がしやすいように、カットシート状に裁断加工して、カットシート状の記録媒体5とした。記録媒体1−1と同様の方法で露出部の面積を確認した。記録媒体5の露出部の面積は、顔料浸透層の全面積の75%であった。
【0577】
[記録物5の製造]
カットシート状の記録媒体5に対して、
図65(b)のように、汎用の顔料インクジェット記録装置によって、第1の顔料浸透層1600に第1の画像(反転画像)を記録する。次に、インク溶媒1607のほぼ全量を溶媒吸収層1601に吸収させたまま、
図65(c)のように、画像転写体55としての厚さ約1mmのIC回路付きの白色PVCカード上に、あたかも粘着テープのように、記録媒体を手で貼り合わせる。その後、
図65(d)のように基材50を手で剥離して、
図65(e)の記録物5を作成した。本実施例5において、記録媒体5は、その面積が画像支持体55である白色PVCカードよりも僅かに小さくなるように裁断されている。これにより、転写時の箔切れ性を懸念する必要がなく、基材50は単純に端部から剥離すればよい。
【0578】
本実施例の記録媒体における樹脂層1631は、
図65(a)のように、離散的に配置された島状の粘着剤1630によって構成されている。顔料インクは、第1の顔料浸透層1600内に高速に吸収されて浸透拡散することにより、熱可塑性樹脂1630の直下部にホワイトポイント(空白部)を形成することなく、実施例4と同様に、良好な顔料画像が形成できた。また、
図65(c)に示すように、手で貼り合せる程度の軽圧によって、記録媒体を画像支持体55に転写することができ、その後、剥離層1603の作用により、基材50を手によって簡単に剥離することができた。また、島状に点在する膜状の粘着剤1630を用いて記録物は、通常の使用条件において不如意な剥離が生ぜず、実用性に問題はなかった。また、本実施例の記録物5は、第2の顔料浸透層1620に対して、記録物4と同様に、インクジェット記録および加筆などによる追記が可能である。本実施例の記録媒体および記録物は、実用的に十分な画像記録特性、転写特性および画像の追記性を示した。前述した第1の実施形態の実施例1における記録物1と同様に、擦過性を評価した結果、残存OD率が99%以上あり、擦過性が極めて良好であった。
【0579】
さらに、本実施例の記録物5は、島状に点在する膜状の粘着剤によって、記録媒体が画像支持体に貼り合せされる。そのため、所定以上の機械的な引き剥がし力を記録物の端部から加えることにより、画像支持体から画像の記録部(記録媒体の一部)を引き剥がすこともできた。また、熱可塑性樹脂を化学的に溶融させることが可能なアルコール、または水などの液体に浸漬することにより、やや弱い引き剥がし力によっても、画像支持体から画像の記録部を引き剥がすことができた。このように、画像支持体としてのICカードを毀損することなく、画像の記録部だけを剥離することができるため、例えば、ICカード内の情報を公知の手段によって電気的に書き直すことにより、高価なICカードを再利用することができた。
【0580】
また、本実施例の記録媒体5において、樹脂層1631と第1の顔料浸透層1600は、転写時に加圧加熱されることにより、軟化溶融して膜化するようにも構成されている。したがって、
図67(a)から(f)のように、ヒートローラ22などによる加圧加熱を伴う転写によって、より強固に転写させることができた。