特許第6518314号(P6518314)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6518314
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】圧延用複合ロール
(51)【国際特許分類】
   B21B 27/00 20060101AFI20190513BHJP
   C22C 37/00 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
   B21B27/00 C
   C22C37/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-237480(P2017-237480)
(22)【出願日】2017年12月12日
(62)【分割の表示】特願2014-72468(P2014-72468)の分割
【原出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-75638(P2018-75638A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2017年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大段 剛
(72)【発明者】
【氏名】木村 広之
(72)【発明者】
【氏名】小川 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】松原 基行
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−234274(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/077377(WO,A1)
【文献】 特開2004−082209(JP,A)
【文献】 特開2010−279989(JP,A)
【文献】 特開平11−229072(JP,A)
【文献】 特開2009−066633(JP,A)
【文献】 特開2008−050681(JP,A)
【文献】 特開2004−009063(JP,A)
【文献】 特開昭57−101646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 27/00−35/14
C22C 37/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層を有する圧延用複合ロールであって、
前記外層は、質量%にて、C:3.0%〜4.5%、Si:0%を越えて2.0%以下、Mn:0%を越えて1.5%以下、Ni:3.0%〜5.0%、Cr:1.4%〜4.0%、Mo:0.1%〜1.5%、V:0.4%以上3.0%以下、残部Fe及び不可避的不純物、但し、4.0%≦C+Si/3+Cr/7.5≦5.5%であり、
前記外層の圧延に供される周面の金属組織は、セメンタイトの面積率が40%以上46%未満、黒鉛の面積率が0.5%〜2.0%である、
ことを特徴とする圧延用複合ロール。
【請求項2】
前記外層は、さらにNb:0%を越えて2.0%以下を含有する、
請求項1に記載の圧延用複合ロール。
【請求項3】
前記外層は、さらにB:0.01%以上0.3%以下を含有する、
請求項1又は請求項2に記載の圧延用複合ロール。
【請求項4】
前記外層の圧延に供される周面の金属組織は、型炭化物の面積率が1.5%〜5.5%である、
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の圧延用複合ロール。
【請求項5】
前記外層は、Crを2.0%以上含有する、
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の圧延用複合ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延に用いられる圧延用複合ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延に用いられる圧延用複合ロールは、鋼板と接する外層にすぐれた耐摩耗性、耐肌荒れ性及び耐クラック性が求められている。このため、外層材には、ハイス系鋳鉄材や高合金グレン鋳鉄材が用いられている。
【0003】
熱間仕上げ圧延の後段スタンドでは、一般的に前段スタンドに比べ通板速度が速く、且つ圧延荷重が大きくなり、圧延事故(例えば絞り事故)が発生し易い。また、圧延事故が発生すると鋼板とロール外層とで局所的に熱衝撃及び高負荷荷重を受けるため、ロール外層表面にクラックが発生する。このクラックを加工により除去(研削)する場合、圧延による摩耗量以上に大きく消耗する。
【0004】
また、ロール外層材は圧延による摩耗で、ロール外層の表面粗度が大きくなり表面性状が悪化する。そのため、鋼板が最終製品に近いスタンドについては、ロールの表面性状が鋼板の品質を左右する。
【0005】
このような事情から、熱間圧延の後段スタンド(特に最終スタンド)では、耐クラック性及び耐肌荒れ性が基本的に要求されている。
【0006】
そのため後段スタンドに使用されるロール外層材は、耐摩耗性はハイス系鋳鉄材に劣るが、耐肌荒れ性及び耐クラック性にすぐれる高合金グレン鋳鉄材が好適に用いられている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−321807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、熱間圧延では高級鋼板の製造や生産性の向上等の要求が高まっており、ロール外層材へ求められる性能がより高度化している。そのため、ハイス系鋳鉄材よりも耐肌荒れ性及び耐クラック性に優位である高合金グレン鋳鉄材には、耐摩耗性の向上が永続的に要求されている。つまり、耐肌荒れ性及び耐クラック性を基本性能として、さらに耐摩耗性が望まれている。
【0009】
外層の耐摩耗性を向上させるために、炭化物形成元素を添加することにより外層の金属組織内に硬質な炭化物を増量させることが考えられる。しかしながら、高合金化は、耐肌荒れ性を低下させる組織ムラを発生し易い傾向にあり、鋳造時に組織制御が必要となる。
【0010】
特に、斑点偏析による外層の肌荒れは、粗大なデンドライトが密集することで斑点組織として形成することが主な原因である。この斑点組織は、周囲の組織に比べ硬度が低く、圧延により摩耗差が生じる。この摩耗差がロール外層表面上に斑点模様として出現し、圧延材に転写されて、圧延材の品質を低下させる。
【0011】
圧延の絞り事故によるクラックは、ロール外層と圧延材が焼付き、外層が熱衝撃を受けることで発生する。このクラックは、金属組織内の黒鉛によってその進展が妨げられると考えられている。しかしながら、黒鉛量が増加すると硬度低下を招き、耐摩耗性の低下に繋がる。また、黒鉛量の増加により、組織均一性も損なわれるため、耐肌荒れ性も低下してしまう。
【0012】
いずれの場合であっても、外層に摩耗や肌荒れ、クラック等が出現すると、外層の表面を研磨や研削する必要があり、ロールが著しく消耗する。特にクラック深さが深いと、研削深さも深くせざるを得ないため、ロールの早期廃棄に繋がってしまう。
【0013】
本発明の目的は、耐摩耗性、耐肌荒れ性、耐クラック性にすぐれる圧延用複合ロールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、鋭意研究の結果、主に基地・セメンタイト・黒鉛・M型炭化物で構成される外層の金属組織中に硬質なセメンタイトを多量に晶出させることで、耐肌荒れ性を維持し、耐摩耗性の向上を図ると共に、黒鉛面積率を調整することでセメンタイトの面積率が多くなっても耐クラック性を維持できることを見出した。また、固液共存域が狭い範囲において、外層溶湯を凝固させることで、多量のセメンタイトを早期に晶出させることができ、晶出したセメンタイトによりデンドライトの成長を抑制することができることを見出し、本発明に至った。
【0015】
本発明の圧延用複合ロールは、
外層を有する圧延用複合ロールであって、
前記外層は、圧延に供される外周面の金属組織が、セメンタイトの面積率が40%〜60%、黒鉛の面積率が0.5%〜2.0%である。
【0016】
前記外層は、前記セメンタイトの面積率が、46%〜60%であることが望ましい。
【0017】
また、本発明の圧延用複合ロールは、
外層を有する圧延用複合ロールであって、
前記外層は、質量%にて、C:3.0%〜4.5%、Si:0%を越えて2.0%以下、Mn:0%を越えて1.5%以下、Ni:3.0%〜5.0%、Cr:1.4%〜4.0%、Mo:0.1%〜3.0%、V:0%を越えて3.0%以下、残部Fe及び不可避的不純物、但し、4.0%≦C+Si/3+Cr/7.5≦5.5%であり、
前記外層の圧延に供される周面の金属組織は、セメンタイトの面積率が40%〜60%である。
【0018】
前記外層は、さらにNb:0%を越えて2.0%以下を含有することができる。
【0019】
前記外層は、さらにB:0%を越えて0.3%以下を含有することができる。
【0020】
前記外層の圧延に供される周面の金属組織は、セメンタイトの面積率が46%〜60%であり、黒鉛の面積率が0.5%〜2.0%であることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の圧延用複合ロールは、外層に上記のとおり硬質なセメンタイトを面積率で40%〜60%に調整することで、高硬度化を図り、耐摩耗性の向上を達成できる。
【0022】
また、本発明の圧延用複合ロールは、外層に硬質なセメンタイトを面積率で40%〜60%に調整することで、デンドライトの成長の抑制を図り、斑点偏析の出現が抑えられるから、良好な耐肌荒れ性を確保することができる。
【0023】
さらに、本発明の圧延用複合ロールは、上記のとおり外層の黒鉛面積率を0.5%〜2.0%に調整することで、クラックの進展を抑制することができ、耐クラック性を向上させることができる。
【0024】
本発明の圧延用複合ロールは、外層が耐摩耗性、耐肌荒れ性及び耐クラック性にすぐれるから、圧延材の品質を低下することなく、また、研削頻度を低減できるから、圧延事故によるロールの消耗を低減することができる。本発明の圧延用複合ロールは、とくに、操業安定性が求められる熱間仕上げ圧延の後段スタンドへの適用に好適である。
【0025】
本発明の圧延用複合ロールは、外層成分を上記のとおり調整することで、外層に硬質なセメンタイトを晶出させ、その面積率を40%〜60%とすることで、外層の高硬度化を図り、耐摩耗性の向上を達成できる。特に、C、Si、Crを4.0%≦C+Si/3+Cr/7.5≦5.5%に成分調整することにより固液共存域を狭めることで、凝固の際に共晶セメンタイトを多く晶出できる。
【0026】
また、本発明の圧延用複合ロールは、硬質なセメンタイトを晶出させることで、デンドライト成長の抑制を図り、斑点組織の形成を抑えられるから、良好な耐肌荒れ性を確保することができる。特に、C、Si、Cr間の成分調整により固液共存域を狭めることで、デンドライトの成長を抑え、デンドライトの微細化を達成できる。
【0027】
さらに、本発明の圧延用複合ロールは、上記のとおり外層の黒鉛面積率を調整することで、クラックの進展を抑制することができ、耐クラック性を向上させることができる。
【0028】
本発明の圧延用複合ロールは、外層材が耐摩耗性、耐肌荒れ性及び耐クラック性にすぐれるから、圧延材の品質を低下することなく、また、研削頻度を低減できるから、圧延事故によるロールの消耗を低減することができる。本発明圧延用複合ロールは、とくに、操業安定性が求められる熱間仕上げ圧延の後段スタンドへの適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、発明例3のミクロ組織写真である。
図2図2は、発明例3のミクロ組織拡大写真である。
図3図3は、比較例12のミクロ組織写真である。
図4図4は、比較例12のミクロ組織拡大写真である。
図5図5は、大越式摩耗試験で使用される試験片の形状である。
図6図6は、大越式摩耗試験で使用される相手材の形状である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の圧延用複合ロールは、圧延に供される外層と、外層の内側に中間層及び/又は内層と、軸材によって構成することができる。
【0031】
外層は、たとえば、遠心力鋳造によって鋳込むことができる。遠心力鋳造は、縦型(回転軸が鉛直方向)、傾斜型(回転軸が斜め方向)や横型(回転軸が水平方向)の何れであってもよい。遠心力鋳造の場合、金型回転数はGNo.が100〜140Gとすることが好適である。もちろん、静置鋳造によって外層を作製することもできる。
【0032】
鋳込み時の溶湯温度はできるだけ低い温度にすることが望ましい。溶湯温度が低いと、溶湯が投入されてから凝固するまでの時間を短くすることができ、セメンタイトの晶出を早めることができると共に、デンドライトの成長を抑えることができる。具体的には、温度を、液相線温度T以上、液相線温度T+70〜100℃以下にすることが望ましい。
【0033】
そして、本発明においては、外層は、圧延に供される外周面の金属組織が、セメンタイトの面積率が40%〜60%、望ましくは、46%〜60%であって、黒鉛の面積率が0.5%〜2.0%、望ましくは、1.0%〜1.8%である。セメンタイトの面積率が上記のように多くなると耐クラック性は低下するが、金属組織中の黒鉛の面積率を0.5%〜2.0%に調整することで、耐クラック性を維持することができる。なお、外層は、M型炭化物の面積率が1.5%〜5.5%で、金属組織中に均一分散していることがより望ましい。
【0034】
<成分限定理由>
本発明の圧延用複合ロールの外層である高合金グレン鋳鉄材の成分限定理由を説明する。なお、以下において、特に明示しない場合、「%」は、質量%である。
【0035】
C:3.0%〜4.5%
Cは、主としてFeと結合してM型炭化物のセメンタイトを形成する。また、黒鉛を晶出させ、耐摩耗性耐クラック性を改善する。Cの含有量が3.0%に満たないと、セメンタイトの面積率を40%〜60%、黒鉛面積率を0.5%〜2.0%にすることができない。また、炭化物の晶出量が不足して、耐摩耗性や耐肌荒れ性が不十分となる。なお、M型炭化物の面積率は、1.5%〜5.5%が好適である。また、Cの含有量が4.5%を越えると、炭化物が過剰に晶出して、炭化物の粗大化を招く。従って、Cは、3.0%〜4.5%とする。望ましくは、3.2%〜3.8%とする。但し、後述するとおり、C、Si、Crは、4.0%≦C+Si/3+Cr/7.5≦5.5%とする。
【0036】
Si:0%を越えて2.0%以下
Siは、溶湯の脱酸剤として必要な元素である。とくに、遠心力鋳造では、湯流れ性の確保のためにも必要である。また、高合金グレン鋳鉄材の場合、黒鉛晶出(一部は析出)の促進元素として必要である。従って、0%超、望ましくは1.0%以上含有させる。しかし、2.0%を超えると脆化して耐クラック性低下の原因となる。従って、2.0%以下とする。望ましくは、1.8%以下とする。
【0037】
Mn:0%を越えて1.5%以下
Mnは、溶湯の脱硫剤としてあるいは脱酸剤として溶湯の健全性を向上させるため、および基地組織の強化に必要な元素である。従って0%超、望ましくは0.4%以上含有させる。しかし、1.5%を超えて含有すると、脆化して耐クラック性が低下するため、1.5%以下とする。望ましくは、1.2%以下とする。
【0038】
Ni:3.0%〜5.0%
Niは、黒鉛晶出の補助元素として、また基地の焼入れ性を改善してベイナイト化を促進し、基地強化を図るのに有効な元素である。3.0%未満ではこのような効果が十分ではなく、高硬度が得られず、耐摩耗性が不十分となる。このため、下限は3.0%とする。望ましくは4.0%以上とする。一方、5%を超えて含まれると残留オーステナイト量が多くなり、熱間圧延中に残留オーステナイトが分解して耐肌荒れ性が低下する。従って、上限は5%とする。望ましくは4.6%以下とする。
【0039】
Cr:1.4%〜4.0%
Crは、主としてCと結合して晶出セメンタイト中に固溶され、耐摩耗性の向上に寄与する。また、一部は析出炭化物を形成して、基地を強化する。含有量が1.4%に満たないとこのような効果が十分ではない。一方、4.0%を超えて含有すると、黒鉛の晶出及び析出が阻害され、摩擦係数が増大し、耐焼付き性も低下する。このため、圧延材の通板性が損なわれ、ロール表面に圧延材が焼き付くトラブルの原因となる。また、脆化して耐クラック性低下の原因にもなる。従って、含有量は1.4%〜4.0%に規定する。望ましくは、2.0%〜3.5%とする。但し、後述するとおり、C、Si、Crは、4.0%≦C+Si/3+Cr/7.5≦5.5%とする。
【0040】
Mo:0.1%〜3.0%
Moは、主としてCと結合して晶出セメンタイトの中に固溶し、耐摩耗性の向上に寄与する。また、一部は析出炭化物を形成して、基地を強化する作用を有するため、0.1%以上含有させる。望ましくは、0.2%以上とする。しかし、3.0%を越えると、黒鉛の晶出及び析出が阻害され、摩擦係数が増大し、耐焼付き性も低下する。このため、圧延材の通板性が損なわれてロール表面に圧延材が焼き付いたり、脆化して、耐クラック性低下の原因となる。従って、上限は3.0%以下とする。望ましくは、1.5%以下とする。
【0041】
V:0%を越えて3.0%以下
Vは、主としてCと結合し、M11型の硬質炭化物を形成する。このM11型炭化物は耐摩耗性を改善する作用がある。また、これらの元素はミクロ組織を微細化させる作用があり、斑点状偏析を目立ち難くする。一方、含有量があまり多くなると、黒鉛の晶出(一部は析出)が阻害され、摩擦係数の増大と耐焼付き性の低下を招き、圧延材の通板性と耐クラック性が低下する。このため、Vは、0%を越えて3.0%以下含有させる。望ましくは、1.5%〜2.5%とする。
【0042】
残部Fe及び不可避的不純物
高合金グレン鋳鉄材は、残部実質的にFeであり、溶製時に不可避的に混入する不純物は鋳鉄材の特性に影響を及ぼさない範囲でその含有は許容される。なお、P、Sはいずれも材質の靱性を低下させるため、少ない程好ましく、両者とも0.2%以下に抑えることが望ましい。
【0043】
上記外層は、さらに以下の成分を含有させることができる。
【0044】
Nb:0%を越えて2.0%以下
Nbは、Cと結合して炭化物を晶出し、耐摩耗性の向上を図るために含有させる。NbとCの結合したM型炭化物は、極めて高硬度であり、耐摩耗性を改善させると共に、基地中に入って基地の強化に寄与するため含有させることが望ましい。一方、M型炭化物であるNbCは溶湯に比べて比重が大きいため、たとえば遠心力鋳造により外層を作製した場合、径大側に偏析してしまう。従って、その上限を2.0%とすることが望ましい。なお、望ましくは、0.01%〜0.5%とする。
【0045】
B:0%を越えて0.3%以下
BはBNとして黒鉛の晶出時(一部は析出)の核となり、黒鉛を微細化させる。同時にセメンタイトや基地も微細化させる効果があり、斑点状偏析も微細化され、圧延製品への影響も小さくなるため含有させることが望ましい。一方、あまり多く含まれると、黒鉛の晶出(一部は析出)が過多となり、耐肌荒れ性と耐摩耗性の低下を招く。また、Bは焼入れ性を低下させる弊害もあり、高硬度が得難くなる。従って、0.3%以下の範囲で含有させることが望ましい。なお、より望ましくは、0.01%〜0.1%とする。
【0046】
4.0%≦C+Si/3+Cr/7.5≦5.5%
C、Si、Crは、上記組成の高合金グレン鋳鉄材が凝固する際の基地のデンドライト成長を抑制する目的で、4.0%≦C+Si/3+Cr/7.5≦5.5%とする。このように成分調整を行なうことで、より固液共存域を狭め、液相線温度Tからセメンタイトの晶出温度TFe3Cまでの差ΔTを0≦ΔT≦95℃に調整することができる。
【0047】
そして、固液共存域を狭めることで、凝固過程でデンドライトが粗大に成長する前にセメンタイトを晶出させ、粗大なデンドライトの成長を抑制し、良好な耐肌荒れ性を維持することができる。
【0048】
Cに対して、Si/3、Cr/7.5としたのは、Si、Crのカーボン当量(CE)に基づくものである。
【0049】
上記のようにC、Si、Crの成分調整を行なうことで、デンドライトの成長を2000μm以下に抑えることができる。
【実施例】
【0050】
高周波誘導溶解炉にて、表1に示す各種成分の合金溶湯を溶製し、遠心力鋳造を行なった。表1中、No.1〜7は発明例、No.11〜14は比較例である。また、表1中、式1とは、C+Si/3+Cr/7.5の値である。
【0051】
【表1】
【0052】
発明例、比較例共に、遠心力鋳造時の金型回転数は、GNo.が100〜140Gであり、鋳込み温度は各主成分の液相線温度T+70〜100℃とした。得られた外層素材は、外径240mmで、長さ200mmである。得られた外層素材に対し、400〜500℃、約20時間保持して、焼戻しを実施した。そして、各外層素材を表面から15mmの位置で30mm×30mmの供試材を採取した。
【0053】
得られた各供試材について、三谷商事株式会社製WinROOFの画像解析ソフトを用いて、金属組織中のセメンタイトと黒鉛の面積率を測定した。また、デンドライト長さについては上記で得られた供試材からミクロ組織観察にて測定した。結果を合わせて表1に示す。
【0054】
表1を参照すると、発明例1乃至発明例7は、何れも実施形態にて説明した成分範囲と式1(4.0%≦C+Si/3+Cr/7.5≦5.5%)を満たしている。そして、セメンタイトの面積率及び黒鉛の面積率も夫々40%〜60%、0.5%〜2.0%を満たしている。また、デンドライト長も2000μm以下となっている。
【0055】
一方、比較例11は、成分範囲は満たしているが、式1が4.0%未満である。このため、セメンタイトの晶出量が少なく、その面積率が36%に留まっている。その結果デンドライトが成長して粗大となり、2000μmを越えていることがわかる。また、黒鉛の面積率が2.0%を越えているため、後述するとおり、耐クラック性にはすぐれるが、耐摩耗性が低下することとなる。
【0056】
比較例12は、Cの含有量が多いため、式1が5.5%を越えている。その結果、セメンタイトの晶出量が多くなり、その面積率が60%を越えている。
【0057】
比較例13は、Cの含有量が少ないため、式1が4.0%未満である。このため、比較例11と同様にセメンタイトの面積率が40%未満となっており、デンドライトが成長して粗大となり、2000μmを越えている。
【0058】
比較例14は、式1の値及びセメンタイトの面積率は満たしているが、Siの含有量が少ないため、黒鉛の晶出量が少なく、その面積率が0.1%に留まっている。そのため、次に説明する耐クラック性に劣ることとなる。
【0059】
上記発明例1乃至発明例7、比較例11乃至比較例14について、耐クラック性と耐摩耗性を測定した。
【0060】
耐クラック性は、熱衝撃試験によって実施した。より詳細には、各供試材を500℃に保持された熱処理炉内に投入し、20分後に水冷を実施した。そして、各供試材を断面方向に切断し、切断面のミクロ組織観察によって最新のクラック進展深さLを測定した。L≦2.0mmであれば「○」、2.0mm<L≦5.0mmであれば「△」、5.0mm<Lであれば「×」とした。結果を表1に示す。
【0061】
なお、図1及び図2は、発明例3のミクロ組織写真及びミクロ組織拡大写真であり、図3及び図4は、比較例12のミクロ組織写真である。図1及び図3共に供試材にクラックが発生していることがわかる。しかしながら、図1図3を比較すると、図1の発明例3のクラック進展深さは約1mmであるが、図3の比較例12のクラック進展深さは約8mmである。発明例3はセメンタイト面積率及び黒鉛面積率も大きい金属組織であり、図2に示すようにクラックの進展が黒鉛により抑制されていることがわかる。一方、図3の比較例12は、セメンタイト面積率が大きく、且つ黒鉛面積率が少ない金属組織であり、図4に示すように、黒鉛でクラックが抑制されることなく進展していることがわかる。
【0062】
表1を参照すると、発明例については何れもクラック進展深さLが2.0mm以下であり、耐クラック性にすぐれることがわかる。また、比較例11も同様に耐クラック性にすぐれることがわかる。一方、比較例12乃至比較例14は、クラックが深くまで進展しており、耐クラック性に劣ることがわかる。これは、比較例12が、セメンタイト晶出量が多く、その面積率が60%を越えてしまった結果である。また、比較例13及び比較例14は、クラックの進展を抑制する黒鉛の面積率が小さいため、クラックが進展していることがわかる。
【0063】
次に、耐摩耗性を比較するために、株式会社東京試験機製大越式摩耗試験により比摩耗量(単位は[mm/kgf])を測定した。上記で得られた供試材から試験片として図5に示す通り、縦25mm×横40〜60mm×厚さ5〜10mmに加工した。また、相手材(SUJ-2)は図6に示す通り、φ30×11mmの回転円板を使用した。その他測定条件として、摩擦距離:400mm、設定荷重18.35kgf、滑り速度:3.40m/sとした。
結果を表1に示す。比摩耗量は、小さい程好適であり、15×10−8mm/kgf以下が好適であり、10×10−8mm/kgf以下がより望ましい。
【0064】
表1を参照すると、発明例1乃至発明例7は何れも、好適な耐摩耗性を具備している。また、比較例12及び比較例14も好適な耐摩耗性を具備していることがわかる。一方、比較例11及び比較例13は、比摩耗量が大きく、耐摩耗性に劣ることがわかる。これは、これら比較例が基地組織または黒鉛の量が多く耐摩耗性が低下しているからである。
【0065】
なお、発明例同士を比較すると、発明例1、発明例3、発明例6及び発明例7は、比摩耗量が10×10−8mm/kgf以下であり、耐摩耗性にすぐれることがわかる。一方、発明例2、発明例4及び発明例5は、比摩耗量が10×10−8mm/kgfを越えており、他の発明例に比して若干劣っている。これは、基地組織またはM型炭化物量が他の発明例に比して若干少ないためであり、また、黒鉛の面積率が1.0%未満であるためである。従って、望ましいセメンタイトの面積率は、46%〜60%、黒鉛の面積率は、1.0%〜1.8%がより好適であることがわかる。
【0066】
発明例及び比較例について、耐クラック性と耐摩耗性を総合評価した。総合評価は、耐クラック性と耐摩耗性(15×10−8mm/kgf以下)の両方にすぐれるものを「◎」、何れか一方が劣るものを「○」、結果を表1に示す。表1を参照すると、発明例1、発明例3、発明例6及び発明例7は、何れも耐クラック性及び耐摩耗性にすぐれており、総合評価が「◎」になっている。一方、発明例2、発明例4及び発明例5は、耐摩耗性にやや劣るため、総合評価は「○」となっている。一方、比較例11及び比較例13は、耐摩耗性に劣り、比較例12及び比較例14は、耐クラック性に劣るため総合評価は「△」となっている。
【0067】
以上のように、本発明の圧延用複合ロールは、外層が耐摩耗性、耐肌荒れ性及び耐クラック性にすぐれるから、圧延材の品質を低下することなく、また、研削頻度を低減できるから、圧延事故によるロールの消耗を低減することができる。本発明圧延用複合ロールは、とくに、操業安定性が求められる熱間仕上げ圧延の後段スタンドへの適用に好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6