【実施例】
【0050】
高周波誘導溶解炉にて、表1に示す各種成分の合金溶湯を溶製し、遠心力鋳造を行なった。表1中、No.1〜7は発明例、No.11〜14は比較例である。また、表1中、式1とは、C+Si/3+Cr/7.5の値である。
【0051】
【表1】
【0052】
発明例、比較例共に、遠心力鋳造時の金型回転数は、GNo.が100〜140Gであり、鋳込み温度は各主成分の液相線温度T
L+70〜100℃とした。得られた外層素材は、外径240mmで、長さ200mmである。得られた外層素材に対し、400〜500℃、約20時間保持して、焼戻しを実施した。そして、各外層素材を表面から15mmの位置で30mm×30mmの供試材を採取した。
【0053】
得られた各供試材について、三谷商事株式会社製WinROOFの画像解析ソフトを用いて、金属組織中のセメンタイトと黒鉛の面積率を測定した。また、デンドライト長さについては上記で得られた供試材からミクロ組織観察にて測定した。結果を合わせて表1に示す。
【0054】
表1を参照すると、発明例1乃至発明例7は、何れも実施形態にて説明した成分範囲と式1(4.0%≦C+Si/3+Cr/7.5≦5.5%)を満たしている。そして、セメンタイトの面積率及び黒鉛の面積率も夫々40%〜60%、0.5%〜2.0%を満たしている。また、デンドライト長も2000μm以下となっている。
【0055】
一方、比較例11は、成分範囲は満たしているが、式1が4.0%未満である。このため、セメンタイトの晶出量が少なく、その面積率が36%に留まっている。その結果デンドライトが成長して粗大となり、2000μmを越えていることがわかる。また、黒鉛の面積率が2.0%を越えているため、後述するとおり、耐クラック性にはすぐれるが、耐摩耗性が低下することとなる。
【0056】
比較例12は、Cの含有量が多いため、式1が5.5%を越えている。その結果、セメンタイトの晶出量が多くなり、その面積率が60%を越えている。
【0057】
比較例13は、Cの含有量が少ないため、式1が4.0%未満である。このため、比較例11と同様にセメンタイトの面積率が40%未満となっており、デンドライトが成長して粗大となり、2000μmを越えている。
【0058】
比較例14は、式1の値及びセメンタイトの面積率は満たしているが、Siの含有量が少ないため、黒鉛の晶出量が少なく、その面積率が0.1%に留まっている。そのため、次に説明する耐クラック性に劣ることとなる。
【0059】
上記発明例1乃至発明例7、比較例11乃至比較例14について、耐クラック性と耐摩耗性を測定した。
【0060】
耐クラック性は、熱衝撃試験によって実施した。より詳細には、各供試材を500℃に保持された熱処理炉内に投入し、20分後に水冷を実施した。そして、各供試材を断面方向に切断し、切断面のミクロ組織観察によって最新のクラック進展深さLを測定した。L≦2.0mmであれば「○」、2.0mm<L≦5.0mmであれば「△」、5.0mm<Lであれば「×」とした。結果を表1に示す。
【0061】
なお、
図1及び
図2は、発明例3のミクロ組織写真及びミクロ組織拡大写真であり、
図3及び
図4は、比較例12のミクロ組織写真である。
図1及び
図3共に供試材にクラックが発生していることがわかる。しかしながら、
図1と
図3を比較すると、
図1の発明例3のクラック進展深さは約1mmであるが、
図3の比較例12のクラック進展深さは約8mmである。発明例3はセメンタイト面積率及び黒鉛面積率も大きい金属組織であり、
図2に示すようにクラックの進展が黒鉛により抑制されていることがわかる。一方、
図3の比較例12は、セメンタイト面積率が大きく、且つ黒鉛面積率が少ない金属組織であり、
図4に示すように、黒鉛でクラックが抑制されることなく進展していることがわかる。
【0062】
表1を参照すると、発明例については何れもクラック進展深さLが2.0mm以下であり、耐クラック性にすぐれることがわかる。また、比較例11も同様に耐クラック性にすぐれることがわかる。一方、比較例12乃至比較例14は、クラックが深くまで進展しており、耐クラック性に劣ることがわかる。これは、比較例12が、セメンタイト晶出量が多く、その面積率が60%を越えてしまった結果である。また、比較例13及び比較例14は、クラックの進展を抑制する黒鉛の面積率が小さいため、クラックが進展していることがわかる。
【0063】
次に、耐摩耗性を比較するために、株式会社東京試験機製大越式摩耗試験により比摩耗量(単位は[mm
2/kgf])を測定した。上記で得られた供試材から試験片として
図5に示す通り、縦25mm×横40〜60mm×厚さ5〜10mmに加工した。また、相手材(SUJ-2)は
図6に示す通り、φ30×11mmの回転円板を使用した。その他測定条件として、摩擦距離:400mm、設定荷重18.35kgf、滑り速度:3.40m/sとした。
結果を表1に示す。比摩耗量は、小さい程好適であり、15×10
−8mm
2/kgf以下が好適であり、10×10
−8mm
2/kgf以下がより望ましい。
【0064】
表1を参照すると、発明例1乃至発明例7は何れも、好適な耐摩耗性を具備している。また、比較例12及び比較例14も好適な耐摩耗性を具備していることがわかる。一方、比較例11及び比較例13は、比摩耗量が大きく、耐摩耗性に劣ることがわかる。これは、これら比較例が基地組織または黒鉛の量が多く耐摩耗性が低下しているからである。
【0065】
なお、発明例同士を比較すると、発明例1、発明例3、発明例6及び発明例7は、比摩耗量が10×10
−8mm
2/kgf以下であり、耐摩耗性にすぐれることがわかる。一方、発明例2、発明例4及び発明例5は、比摩耗量が10×10
−8mm
2/kgfを越えており、他の発明例に比して若干劣っている。これは、基地組織またはM
1C
1型炭化物量が他の発明例に比して若干少ないためであり、また、黒鉛の面積率が1.0%未満であるためである。従って、望ましいセメンタイトの面積率は、46%〜60%、黒鉛の面積率は、1.0%〜1.8%がより好適であることがわかる。
【0066】
発明例及び比較例について、耐クラック性と耐摩耗性を総合評価した。総合評価は、耐クラック性と耐摩耗性(15×10
−8mm
2/kgf以下)の両方にすぐれるものを「◎」、何れか一方が劣るものを「○」、結果を表1に示す。表1を参照すると、発明例1、発明例3、発明例6及び発明例7は、何れも耐クラック性及び耐摩耗性にすぐれており、総合評価が「◎」になっている。一方、発明例2、発明例4及び発明例5は、耐摩耗性にやや劣るため、総合評価は「○」となっている。一方、比較例11及び比較例13は、耐摩耗性に劣り、比較例12及び比較例14は、耐クラック性に劣るため総合評価は「△」となっている。
【0067】
以上のように、本発明の圧延用複合ロールは、外層が耐摩耗性、耐肌荒れ性及び耐クラック性にすぐれるから、圧延材の品質を低下することなく、また、研削頻度を低減できるから、圧延事故によるロールの消耗を低減することができる。本発明圧延用複合ロールは、とくに、操業安定性が求められる熱間仕上げ圧延の後段スタンドへの適用に好適である。