(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0037】
1. 画像処理装置および電子顕微鏡
まず、本実施形態に係る画像処理装置を含む電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る画像処理装置100を含む電子顕微鏡1000の構成を模式的に示す図である。
【0038】
電子顕微鏡1000は、透過電子顕微鏡である。すなわち、電子顕微鏡1000は、試料2を透過した電子で結像して、透過電子顕微鏡像を得る装置である。
【0039】
電子顕微鏡1000は、
図1に示すように、電子顕微鏡本体10と、画像処理装置100と、を含む。
【0040】
電子顕微鏡本体10は、電子線源11と、集束レンズ12と、対物レンズ13と、試料ステージ14と、試料ホルダー15と、中間レンズ16と、投影レンズ17と、撮像部(デジタルカメラ)18と、を含む。
【0041】
電子線源11は、電子線EBを発生させる。電子線源11は、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線EBを放出する。電子線源11としては、例えば、電子銃を用いる
ことができる。電子線源11として用いられる電子銃は特に限定されず、例えば熱電子放出型や、熱電界放出型、冷陰極電界放出型などの電子銃を用いることができる。
【0042】
集束レンズ(コンデンサーレンズ)12は、電子線源11の後段(電子線EBの下流側)に配置されている。集束レンズ12は、電子線源11で発生した電子線EBを集束して試料2に照射するためのレンズである。
【0043】
対物レンズ13は、集束レンズ12の後段に配置されている。対物レンズ13は、試料2を透過した電子線EBで結像するための初段のレンズである。対物レンズ13は、図示はしないが、上部磁極(ポールピースの上極)、および下部磁極(ポールピースの下極)を有している。対物レンズ13では、上部磁極と下部磁極との間に磁場を発生させて電子線EBを集束させる。
【0044】
試料ステージ14は、試料2を保持する。図示の例では、試料ステージ14は、試料ホルダー15を介して、試料2を保持している。試料ステージ14は、例えば、対物レンズ13の上部磁極と下部磁極との間に試料2を位置させる。試料ステージ14は、試料ホルダー15を移動および静止させることにより、試料2の位置決めを行うことができる。試料ステージ14は、試料2を水平方向(電子線EBの進行方向に対して直交する方向)や鉛直方向(電子線EBの進行方向に沿う方向)に移動させることができる。試料ステージ14は、さらに、試料2を傾斜させることができる。
【0045】
中間レンズ16は、対物レンズ13の後段に配置されている。投影レンズ17は、中間レンズ16の後段に配置されている。中間レンズ16および投影レンズ17は、対物レンズ13によって結像された像をさらに拡大し、撮像部18に結像させる。電子顕微鏡1000では、対物レンズ13、中間レンズ16、および投影レンズ17によって、結像系が構成されている。
【0046】
撮像部18は、結像系によって結像された透過電子顕微鏡像(TEM像)を撮影する。撮像部18は、例えば、CCDカメラや、CMOSカメラ等のデジタルカメラである。撮像部18は、TEM像をデジタル画像として取得することができる。撮像部18で撮影されたTEM像の像情報(画像データ)は、画像処理装置100に出力される。
【0047】
電子顕微鏡本体10は、図示の例では、除振器20を介して架台22上に設置されている。
【0048】
画像処理装置100は、電子顕微鏡本体10で撮影されたTEM像(画像データ)を取得し、取得したTEM像のコントラストを調整して表示部122に表示する処理を行う。画像処理装置100は、処理部110と、操作部120と、表示部122と、記憶部124と、を含む。
【0049】
操作部120は、ユーザーによる操作に応じた操作信号を取得し、処理部110に送る処理を行う。操作部120の機能は、例えば、ボタン、キー、タッチパネル型ディスプレイ、マイクなどにより実現できる。
【0050】
表示部122は、処理部110によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRTなどにより実現できる。表示部122は、例えば、処理部110でコントラストが調整されたTEM像を表示する。
【0051】
記憶部124は、処理部110が各種の計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部124は、処理部110の作業領域として用いら
れ、処理部110が各種プログラムに従って実行した算出結果等を一時的に記憶するためにも使用される。記憶部124の機能は、ハードディスク、RAMなどにより実現できる。
【0052】
処理部110は、TEM像を取得する処理や、画像処理等を行う。処理部110の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。処理部110は、画像取得部112と、ヒストグラム生成部114と、ビニング処理部116と、コントラスト調整部118と、表示制御部119と、を含む。
【0053】
画像取得部112は、撮像部18から出力された像情報に基づきTEM像(画像)を取得する。
【0054】
ヒストグラム生成部114は、画像取得部112で取得されたTEM像から、TEM像の各画素の輝度の分布を示すヒストグラムを生成する。ヒストグラム生成部114は、TEM像から、横軸に輝度値、縦軸にその輝度値を持つ画素の数(頻度)とするヒストグラム(以下、「輝度ヒストグラム」ともいう)を生成する。
【0055】
ヒストグラム生成部114は、TEM像の最大輝度値に応じた輝度ヒストグラムを生成する。ここで、画像(TEM像)の最大輝度値とは、画像を構成している画素が持つ輝度値のうち、最大の輝度値をいう。ヒストグラム生成部114は、TEM像の最大輝度値に対応する要素数(すなわちビン数)を持つ輝度ヒストグラムを生成する。例えば、TEM像の最大輝度値が40000である場合、ヒストグラム生成部114は、ヒストグラムの要素数、すなわち、ヒストグラムのビン数が40000の輝度ヒストグラムを生成する。
【0056】
ビニング処理部116は、TEM像の最大輝度値に基づいて、ヒストグラム生成部114で生成された輝度ヒストグラムに対してビニング処理を行う。ここで、ヒストグラムに対するビニング処理とは、ヒストグラムの隣接する複数のビンを1つのビンにまとめて、ヒストグラムのビン数(すなわちヒストグラムの要素数)を減少させる処理である。複数のビンを1つのビンにまとめるときには、そのビンの頻度値として当該複数のビンの頻度値の平均値を用いる。なお、複数のビンを1つのビンにまとめるときの頻度値として、当該複数のビンの頻度値の和を用いてもよい。
【0057】
ここで、輝度ヒストグラムでは、上述したように画像の最大輝度値はヒストグラムのビン数に対応している。そのため、ビニング処理部116では、後述するコントラスト調整部118での処理の高速化を図るために、輝度ヒストグラムのビン数が所定の数(目標ビン数)以下となるように、TEM像の最大輝度値に基づいてビニング処理を行う。目標ビン数は、要求される処理速度に応じて適宜設定される。目標ビン数の情報は、例えば、あらかじめ記憶部124に記憶されている。
【0058】
具体的には、ビニング処理部116は、例えば、輝度ヒストグラムの隣接する複数(例えば2つ)のビンを1つのビンとする処理を、TEM像の最大輝度値に基づき決定された回数だけ繰り返す。繰り返し回数は、ビニング処理後の輝度ヒストグラムのビン数が上述した目標ビン数以下となるように設定される。なお、以下では、このTEM像の最大輝度値に基づき決定される繰り返し回数を「ビニング係数」ともいう。
【0059】
例えば、TEM像の最大輝度値(すなわち輝度ヒストグラムのビン数)が40000、目標ビン数が5000である場合、ビニング処理部116は、ビニング係数を「3」と設定し、2つのビンを1つのビンとする処理を3回繰り返して、輝度ヒストグラムのビン数を5000とする。
【0060】
コントラスト調整部118は、ビニング処理部116においてビニング処理された輝度ヒストグラムに基づいて、TEM像のコントラストを調整する処理を行う。以下、コントラスト調整部118における処理について説明する。
【0061】
コントラスト調整部118は、ビニング処理された輝度ヒストグラムに対して公知の手法によりノイズを除去する処理を行った後、輝度ヒストグラムに存在するピークの位置を特定する。ピークの位置の特定は、例えば、ノイズが除去された輝度ヒストグラムに対して一階微分と、二階微分と、を行い、一階微分がゼロ、かつ二階微分が負である位置(輝度値)を求めることで行われる。この一階微分がゼロ、かつ二階微分が負である輝度値をピーク位置とする。
【0062】
次に、コントラスト調整部118は、輝度ヒストグラム中のピークの数(ピーク位置の数)を計算する。コントラスト調整部118は、ピークの数が1以下でない場合(すなわちピークの数が2以上である場合)には、輝度ヒストグラムからTEM像の最大輝度値に基づき算出された閾値以下のピークを除外して、TEM像のコントラストを調整する処理を行う。このとき、コントラスト調整部118は、TEM像の最大輝度値に所与の係数を掛けて閾値を算出する。当該閾値は、観察対象物以外の構造物に由来するピークを輝度ヒストグラムから除外するための閾値である。このような観察対象物以外の構造物としては、例えば、試料を保持する試料保持グリッド等の試料保持部材が挙げられる。
【0063】
ここで、透過電子顕微鏡において、目的の観察対象物となる試料を試料保持グリッドに保持して観察を行う場合、試料は極薄膜化されて電子線を透過させるのに対して、試料を保持する試料保持グリッドは電子線をほとんど透過させない。そのため、これらが視野内に含まれる場合、TEM像の輝度ヒストグラムには、2つの独立したピークが現れる。このとき、試料に由来するピークの輝度値P1と試料保持グリッドに由来するピークの輝度値P2の比P2/P1は、試料条件(試料の厚さ、構成元素等)や、観察条件(試料に照射される照射電流量等)によらずほぼ一定の値となる。これは、試料の電子線に対する透過率(99%以上)に対して試料保持グリッドの電子線の透過率(1%以下)が極めて小さいためである。このように比P1/P2が一定(ほぼ一定)であるため、TEM像の最大輝度値に所定の係数を乗算することで、試料条件や観察条件によらず、試料に由来するピークと試料保持グリッドに由来するピークとを分離するための閾値を算出することができる。すなわち、当該所定の係数は、比P2/P1に基づき設定することができる。
【0064】
コントラスト調整部118は、例えば、閾値以下のピークが除外された輝度ヒストグラムに基づいてTEM像のコントラストを調整するときには、輝度ヒストグラムから除外されなかったピーク(すなわち観察対象物由来のピーク)の位置から輝度ヒストグラムの横軸の両方向に向かって縦軸(頻度)の値を読み取っていき、縦軸の値がある閾値以下になった位置をそれぞれ観察対象物に由来のピークの最小輝度値、およびピークの最大輝度値とする。ここでの閾値は、あらかじめ設定されている任意の値である。そして、この観察対象物由来のピークの最小輝度値とピークの最大輝度値を、表示部122上の最小輝度値と最大輝度値に対応させてTEM像のコントラストを調整する。
【0065】
このようにピーク位置から輝度ヒストグラムの横軸の両方向に向かって値を読み取っていき縦軸の値がある閾値以下になった位置をピークの最小輝度値およびピークの最大輝度値とすることにより、例えば観察対象物に由来する複数のピークが重なっている場合でも、ピークの最小輝度値と最大輝度値との間に、この複数のピークからなる波形全体を含めることができる。したがって、複数のピークが重なっている場合においても、TEM像に対して適切なコントラスト調整を行うことができる。
【0066】
一方、コントラスト調整部118は、ピークの数が1以下(すなわちピークの数が1ま
たは0)の場合には、輝度ヒストグラムの頻度がゼロのものを除いた輝度値のうちの最小の輝度値と最大の輝度値を、それぞれ表示部122上の最小輝度値と最大輝度値に対応させてTEM像に対するコントラストの調整を行う。
【0067】
表示制御部119は、コントラスト調整部118でコントラストが調整されたTEM像を表示部122に表示する制御を行う。
【0068】
2. 画像処理方法
次に、本実施形態に係る画像処理装置における画像処理方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る画像処理装置100における画像処理の一例を示すフローチャートである。
【0069】
まず、画像取得部112が電子顕微鏡本体10で撮影されたTEM像を取得する(ステップS102)。
【0070】
次に、ヒストグラム生成部114が輝度ヒストグラムを生成する(ステップS104)。
【0071】
次に、ビニング処理部116がTEM像の最大輝度値からビニング係数を決定し、コントラスト調整部118がTEM像の最大輝度値から観察対象物以外の構造物に由来するピークを除外するための閾値を算出する(ステップS106)。
【0072】
次に、ビニング処理部116が、TEM像の最大輝度値に基づいて、ビニング処理を行う(ステップS108)。ビニング処理部116は、輝度ヒストグラムの隣接する複数(2つ)のビンを1つのビンとする処理を、TEM像の最大輝度値に基づき決定された回数(ビニング係数に応じた回数)だけ繰り返す。これにより、輝度ヒストグラムのビン数(要素数)が予め設定された目標ビン数以下となる。
【0073】
次に、コントラスト調整部118が、ビニング処理された輝度ヒストグラムに基づいて、TEM像のコントラストを調整する(ステップS108〜S124)。
【0074】
まず、コントラスト調整部118が、ビニング処理された輝度ヒストグラムのノイズを除去する処理を行う(ステップS110)。
【0075】
次に、コントラスト調整部118が、輝度ヒストグラムに存在するピークの位置を特定する処理を行う(ステップS112)。
【0076】
次に、コントラスト調整部118が輝度ヒストグラムに存在するピークの数を計算し(ステップS114)、ピークの数が1以下でない場合(ステップS116のNO)、コントラスト調整部118が輝度ヒストグラムからステップS106で求めた閾値以下のピークを除外して(ステップS118)、ピークの最小輝度値と最大輝度値を計算し(ステップS120)、TEM像のコントラストを調整する(ステップS122)。コントラスト調整部118は、ステップS122において、計算したピークの最小輝度値と最大輝度値を、表示部122上の最小輝度値と最大輝度値に対応させてTEM像のコントラストを調整する。
【0077】
一方、ピークの数が1以下の場合(ステップS116のYES)、コントラスト調整部118が、輝度ヒストグラムの頻度がゼロのものを除いた輝度値のうちの最小の輝度値と最大の輝度値を、表示部122上の最小輝度値と最大輝度値に対応させてTEM像に対するコントラストの調整を行う(ステップS124)。
【0078】
次に、表示制御部119が、コントラスト調整部118においてコントラストが調整されたTEM像を、表示部122に表示する制御を行う(ステップS126)。
【0079】
以上の処理により、電子顕微鏡本体10で撮影されたTEM像を、コントラストを調整して表示部122に表示させることができる。
【0080】
画像処理装置100は、例えば、以下の特長を有する。
【0081】
画像処理装置100では、ヒストグラム生成部114が取得したTEM像から各画素の輝度の分布を示す輝度ヒストグラムを生成し、ビニング処理部116がTEM像の最大輝度値に基づいて輝度ヒストグラムに対するビニング処理を行い、コントラスト調整部118がビニング処理された輝度ヒストグラムに基づいて、TEM像のコントラストを調整する。このように画像処理装置100では、輝度ヒストグラムに対するビニング処理を行うため、輝度ヒストグラムに対するビニング処理を行わない場合と比べて、ビン数(要素数)の少ない輝度ヒストグラムに基づいて、TEM像のコントラストを調整することができる。したがって、画像処理装置100では、画像処理の高速化を図ることができる。
【0082】
例えば、上記の実施形態では、輝度ヒストグラムにおいてピークの位置を特定する際に、輝度ヒストグラムに対して一階微分、および二階微分が行われる。この際、輝度ヒストグラムに対してコンボリューションが行われるが、ビニング処理を行い輝度ヒストグラムのビン数(要素数)を減らすことにより、コンボリューションの回数を減らすことができ、処理の高速化を図ることができる。
【0083】
画像処理装置100では、ビニング処理部116が、輝度ヒストグラムの隣接する複数のビンを1つのビンとする処理を、TEM像の最大輝度値に基づき決定された回数だけ繰り返す。ヒストグラム生成部114で生成された輝度ヒストグラムのビン数は、TEM像の最大輝度値と等しい。そのため、TEM像の最大輝度値に基づき決定された回数だけ、輝度ヒストグラムの隣接する複数のビンを1つのビンとする処理を繰り返すことにより、輝度ヒストグラムを所望のビン数にすることができる。
【0084】
画像処理装置100では、コントラスト調整部118が、ビニング処理された輝度ヒストグラムに存在するピークの数を求める処理と、輝度ヒストグラムに存在するピークの数が2以上である場合に、ビニング処理された輝度ヒストグラムからTEM像の最大輝度値に基づき算出された閾値以下のピークを除外して、TEM像のコントラストを調整する処理と、を行う。そのため、観察対象物と観察対象物以外の構造物とが視野内に入った場合でも、観察対象物のコントラストが低く表示されてしまうことを防ぐことができ、観察対象物を適切なコントラストで表示させることができる。
【0085】
画像処理装置100では、コントラスト調整部118は、TEM像の最大輝度値に所与の係数を乗算して、観察対象物以外の構造物に起因するピークを輝度ヒストグラムから除外するための閾値を算出する。上述したように、透過電子顕微鏡像の輝度ヒストグラムにおいて、観察対象物に由来するピークの輝度値P1と試料保持グリッドに由来するピークの輝度値P2の比P2/P1は、試料条件や、観察条件によらずほぼ一定の値となる。そのため、TEM像の最大輝度値に所与の係数を乗算して閾値を決定することにより、容易に閾値を算出することができ、その閾値を用いて、観察対象物以外の構造物に起因するピークを輝度ヒストグラムから確実に除外することができる。
【0086】
電子顕微鏡1000は、画像処理装置100を含むため、TEM像に対するコントラスト調整処理を高速に行うことができる。したがって、例えば、電子顕微鏡1000では、
撮影視野を探すための視野探しの際などに、観察中に連続して取得される一連の像に対してコントラストの調整を行うことができ、コントラストが調整されたTEM像をリアルタイムに表示部122に表示させることができる。
【0087】
本実施形態に係る画像処理方法は、TEM像を取得する画像取得工程と、取得したTEM像から各画素の輝度の分布を示す輝度ヒストグラムを生成するヒストグラム生成工程と、TEM像の最大輝度値に基づいて、輝度ヒストグラムに対するビニング処理を行うビニング処理工程と、ビニング処理された輝度ヒストグラムに基づいて、TEM像に対してコントラストを調整する処理を行うコントラスト調整工程と、を含む。このように本実施形態に係る画像処理方法では、輝度ヒストグラムに対するビニング処理を行うため、輝度ヒストグラムに対するビニング処理を行わない場合と比べて、ビン数(要素数)の少ない輝度ヒストグラムに基づいて、TEM像のコントラストを調整することができる。したがって、画像処理の高速化を図ることができる。
【0088】
本実施形態に係る画像処理方法では、コントラスト調整工程は、輝度ヒストグラムに存在するピークの数を求める工程と、ピークの数が2以上である場合に、輝度ヒストグラムからTEM像の最大輝度値に基づき算出された閾値以下のピークを除外し、TEM像のコントラストを調整する工程と、を有する。そのため、観察対象物と観察対象物以外の構造物とが視野内に入った場合でも、観察対象物のコントラストが低く表示されてしまうことを防ぐことができ、観察対象物を適切なコントラストで表示させることができる。
【0089】
3. 実験例
以下に実験例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実験例によって何ら限定されるものではない。
【0090】
まず、輝度ヒストグラム中の最小輝度値と最大輝度値(すなわちTEM像の最小輝度値と最大輝度値)を、表示部の最小輝度値と最大輝度値に対応させてコントラストの調整を行った場合と、目的の観察対象物由来のピークの最小輝度値と最大輝度値を、表示部の最小輝度値と最大輝度値に対応させてコントラストの調整を行った場合と、を比較した。
【0091】
図3(a)は、視野内に目的の観察対象物のみが含まれているTEM像である。
図3(a)に示すTEM像では、輝度ヒストグラム中の最小輝度値と最大輝度値を表示部の最小輝度値と最大輝度値に対応させてコントラストの調整を行った。
図3(b)は、
図3(a)に示すTEM像の輝度ヒストグラムを示す図である。なお、
図3(b)に示す輝度ヒストグラムの破線間の領域が表示コントラスト(
図3(a)に示すTEM像のコントラスト)に対応している。
【0092】
図3(a)に示すTEM像では、目的の観察対象物である、格子状の模様と多数の黒い点を明瞭に確認することができる。
【0093】
ここで、
図3(b)に示すように、輝度ヒストグラムには、輝度値(count数)が2250counts付近に1つのピークが存在している。このピークは目的の観察対象物由来のものである。このように輝度ヒストグラムに目的の観察対象物由来のピークが1つ存在している場合、輝度ヒストグラム中の最小輝度値と最大輝度値が、目的の観察対象物由来のピークの最小輝度値と最大輝度値に対応する。そのため、輝度ヒストグラム中の最小輝度値と最大輝度値を、表示部の最小輝度値と最大輝度値に対応させてコントラストの調整を行うことにより、
図3(a)に示すように、目的の観察対象物を明瞭に確認することができる。
【0094】
図4(a)は、視野内に目的の観察対象物と、観察対象物以外の構造物(試料保持グリ
ッド)とが含まれているTEM像である。なお、
図4(a)は、
図3(a)の視野から視野を移動させて撮影されたTEM像である。
図4(a)に示すTEM像では、
図3(a)に示すTEM像と同様に、輝度ヒストグラム中の最小輝度値と最大輝度値を表示部の最小輝度値と最大輝度値に対応させてコントラストの調整を行った。
図4(b)は、
図4(a)に示すTEM像の輝度ヒストグラムを示す図である。
図4(b)に示す輝度ヒストグラムの破線間の領域が表示コントラスト(
図4(a)に示すTEM像のコントラスト)に対応している。
【0095】
図4(a)に示すTEM像では、
図3(a)に示すTEM像と比べて、目的の観察対象物のコントラストが低く表示されてしまい、
図3(a)に示すTEM像で明瞭に確認できた格子状の模様と多数の黒い点が確認しづらくなっている。
【0096】
これは、
図4(b)に示す輝度ヒストグラムに、ピーク輝度値が100counts付近の試料保持グリッド由来のピークと、ピーク輝度値が2250counts付近の目的の観察対象物由来のピークとが存在しているためである。このような場合、輝度ヒストグラム中の最小輝度値が試料保持グリッド由来のピークの最小輝度値に、輝度ヒストグラム中の最大輝度値が目的の観察対象物由来のピークの最大輝度値に対応することとなる。そのため、輝度ヒストグラム中の最小輝度値と最大輝度値を、表示部の最小輝度値と最大輝度値に対応させてコントラストの調整を行うと、目的の観察対象物のコントラストが低く表示されてしまうこととなる。
【0097】
図5(a)は、
図4(a)と同じ視野のTEM像である。
図5(a)に示すTEM像では、目的の観察対象物由来のピークの最小輝度値と最大輝度値を、表示部の最小輝度値と最大輝度値に対応させてコントラストの調整を行った。
図5(b)は、
図5(a)に示すTEM像の輝度ヒストグラムを示す図である。
図5(b)に示す輝度ヒストグラムの破線間の領域が表示コントラスト(
図5(a)に示すTEM像のコントラスト)に対応している。
【0098】
図5(a)に示すTEM像では、ピーク位置が500counts以下にあるピークを除外して、ピーク位置が2250counts付近の目的の観察対象物由来のピークのみに着目してコントラストの調整を行っている。すなわち、目的の観察対象物由来のピークの最小輝度値と最大輝度値を、表示部の最小輝度値と最大輝度値に対応させてコントラストの調整を行っている。この結果、
図5(a)に示すように、格子状の模様と多数の黒い点を、
図3(a)に示すTEM像と同様に、明瞭に確認することができた。
【0099】
なお、
図5(a)に示すTEM像のコントラストを調整する際に、上述した本実施形態に係る画像処理方法で処理を行った結果、
図5(a)に示すTEM像の輝度ヒストグラムを取得してから、コントラストを調整する処理が終わるまでの処理時間は、3msecであった。この処理時間は、CMOSカメラの〜100fpsという高いフレームレートにも十分対応可能である。
【0100】
次に、
図3(a)〜
図5(a)に示すTEM像における試料とは、異なる試料で同様の実験を行った。
【0101】
図6(a)は、視野内に目的の観察対象物と、観察対象物以外の構造物(試料保持グリッド)とが含まれているTEM像である。
図6(a)に示すTEM像では、輝度ヒストグラム中の最小輝度値と最大輝度値を表示部の最小輝度値と最大輝度値に対応させてコントラストの調整を行った。
図6(b)は、
図6(a)に示すTEM像の輝度ヒストグラムを示す図である。
図6(b)に示す輝度ヒストグラムの破線間の領域が表示コントラスト(
図6(a)に示すTEM像のコントラスト)に対応している。
【0102】
図6(b)に示す輝度ヒストグラムには、ピーク位置が35000counts付近の目的の観察対象物由来のピークと、ピーク位置が2000counts付近の試料保持グリッド由来のピークとが存在しているため、
図6(a)に示すTEM像では、目的の観察対象物のコントラストが低く表示されている。また、
図6(a)に示すTEM像では、目的の対象物由来のピークのピーク位置が35000counts付近と入力信号が強い(輝度値が大きい)。
【0103】
図7(a)は、
図6(a)と同じ視野のTEM像である。
図7(a)に示すTEM像では、目的の観察対象物由来のピークの最小輝度値と最大輝度値を、表示部の最小輝度値と最大輝度値に対応させてコントラストの調整を行った。
図7(b)は、
図7(a)に示すTEM像の輝度ヒストグラムを示す図である。
図7(b)に示す輝度ヒストグラムの破線間の領域が表示コントラスト(
図7(a)に示すTEM像のコントラスト)に対応している。
【0104】
図7(a)に示すTEM像では、ピーク位置が5000counts以下にあるピークは除外して、ピーク位置が35000counts付近の目的の観察対象物由来のピークのみに着目してコントラストの調整を行っている。すなわち、目的の観察対象物由来のピークの最小輝度値と最大輝度値を、表示部の最小輝度値と最大輝度値に対応させてコントラストの調整を行っている。この結果、
図7(a)に示すように、目的の観察対象物を明瞭に確認することができた。
【0105】
なお、
図7(a)に示すTEM像のコントラストを調整する際に、上述した本実施形態に係る画像処理方法で処理を行った。ここでは、試料保持グリッド由来のピークを除外するための係数をK=0.2と設定した。
【0106】
図7(a)に示すTEM像では、輝度ヒストグラム中の最大輝度値は40000であり、K=0.2とすると、閾値は8000となる。したがって、
図7(b)に示す輝度ヒストグラム中の試料保持グリッド由来のピークを除外することができる。
【0107】
なお、上述した
図5(a)に示すTEM像では、輝度ヒストグラム中の最大輝度値は25000であり、K=0.2とすると、閾値は500となる。したがって、
図5(b)に示す輝度ヒストグラム中の試料保持グリッド由来のピークを除外することができる。
【0108】
このように、あらかじめ閾値を設定するための係数Kを設定することで、入力信号の強度(輝度ヒストグラム中の最大輝度値)が異なる場合でも、試料保持グリッド由来のピークを除外するための閾値を適切に設定することができる。
【0109】
また、
図7(a)に示すTEM像では、輝度ヒストグラム中の最大輝度値が40000と大きいため、
図7(b)に示す輝度ヒストグラムの隣接する2つのビンを1つのビンとする処理を、3回繰り返してビニング処理を行った。この結果、
図7(b)に示す輝度ヒストグラムのビン数(要素数)を5000にすることができ、処理速度を向上させることができた。具体的には、
図7(a)に示すTEM像のヒストグラムを取得してから、コントラストを調整する処理が終わるまでの処理時間は、5msecであった。この処理時間は、CMOSカメラの〜100fpsという高いフレームレートにも十分対応可能である。
【0110】
4. 変形例
次に、本実施形態に係る画像処理装置における画像処理の変形例について図面を参照しながら説明する。本変形例に係る画像処理装置の構成は、
図1に示す画像処理装置100
の構成と同様であり、図示および説明を省略する。
図8は、本実施形態に係る画像処理装置における画像処理の変形例を示すフローチャートである。なお、
図8に示すフローチャートにおいて、
図2に示すフローチャートの処理と同じ処理には、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0111】
上述した実施形態では、
図2に示すように、ステップS108〜ステップS116の処理を行った後に、ステップS106で求めた閾値以下のピークを除外することにより、輝度ヒストグラムから観察対象物以外の構造物由来のピークを除外していた(ステップS118)。
【0112】
これに対して、本変形例では、
図8に示すように、ビニング処理部116がビニング係数を決定し、コントラスト調整部118がTEM像の最大輝度値に基づき閾値を算出する処理(ステップS106)を行った後に、コントラスト調整部118が、輝度ヒストグラムから算出された閾値以下の輝度値を除外する処理を行う(ステップS200)。以下、本変形例に係る画像処理装置における画像処理について、
図1および
図8を参照しながら説明する。
【0113】
まず、画像取得部112が電子顕微鏡本体10で撮影されたTEM像を取得する(ステップS102)。
【0114】
次に、ヒストグラム生成部114が輝度ヒストグラムを生成する(ステップS104)。
【0115】
次に、ビニング処理部116がTEM像の最大輝度値からビニング係数を決定し、コントラスト調整部118がTEM像の最大輝度値から観察対象物以外の構造物に由来するピークを除外するための閾値を算出する(ステップS106)。
【0116】
次に、コントラスト調整部118が輝度ヒストグラムから、ステップS106で算出された閾値以下の輝度値を除外する(ステップS200)。これにより、目的の観察対象物以外の構造物由来のピークを除外することができる。
【0117】
次に、ビニング処理部116が、TEM像の最大輝度値に基づいて、閾値以下の輝度値が除外された輝度ヒストグラムに対してビニング処理を行う(ステップS108)。
【0118】
次に、コントラスト調整部118が、ビニング処理された輝度ヒストグラムに基づいて、TEM像のコントラストを調整する(ステップS108〜S126)。
【0119】
まず、コントラスト調整部118が、ビニングされた輝度ヒストグラムのノイズを除去する処理を行う(ステップS110)。
【0120】
次に、コントラスト調整部118が、輝度ヒストグラムに存在するピークの位置を特定する処理を行う(ステップS112)。
【0121】
次に、コントラスト調整部118が、特定されたピークの最小輝度値と最大輝度値を計算し(ステップS120)、TEM像のコントラストを調整する(ステップS122)。
【0122】
次に、表示制御部119が、コントラスト調整部118においてコントラストが調整されたTEM像を、表示部122に表示する制御を行う(ステップS126)。
【0123】
以上の処理により、電子顕微鏡本体10で撮影されたTEM像を、コントラストを調整
して表示部122に表示させることができる。
【0124】
本変形例に係る画像処理装置では、コントラスト調整部118が、輝度ヒストグラムから、TEM像の最大輝度値に基づき算出された閾値以下の輝度値を除外し、閾値以下の輝度値が除外された輝度ヒストグラムに基づいて、TEM像のコントラストを調整する。そのため、観察対象物と観察対象物以外の構造物とが視野内に入った場合でも、観察対象物のコントラストが低く表示されてしまうことを防ぐことができ、観察対象物を適切なコントラストで表示させることができる。
【0125】
また、本変形例に係る画像処理方法では、TEM像を取得する画像取得工程と、取得したTEM像から各画素の輝度の分布を示す輝度ヒストグラムを生成するヒストグラム生成工程と、輝度ヒストグラムから、取得したTEM像の最大輝度値に基づき算出された閾値以下の輝度値を除外し、閾値以下の輝度値が除外された輝度ヒストグラムに基づいて、TEM像のコントラストを調整するコントラスト調整工程と、を含む。そのため、観察対象物と観察対象物以外の構造物とが視野内に入った場合でも、観察対象物のコントラストが低く表示されてしまうことを防ぐことができ、観察対象物を適切なコントラストで表示させることができる。
【0126】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0127】
例えば、上述した実施形態および変形例に係る画像処理装置では、画像処理の対象となる画像がTEM像であり、TEM像の輝度ヒストグラムに対してビニング処理を行い処理の高速化を図る例について説明したが、本発明に係る画像処理装置では、画像処理の対象となる画像はTEM像に限定されず、輝度ヒストグラムを用いてコントラストの調整を行うことが可能な様々な画像に適用できる。
【0128】
また、例えば、上述した実施形態および変形例に係る画像処理装置では、画像処理の対象となる画像がTEM像であり、輝度ヒストグラムに存在するピークの数が2以上である場合に、輝度ヒストグラムからTEM像の最大輝度値に基づき算出された閾値以下のピークを除外して、TEM像のコントラストを調整する例について説明したが、本発明に係る画像処理装置では、画像処理の対象となる画像はTEM像に限定されず、観察対象物と、目的の観察対象物以外の構造物であって目的の観察対象物との輝度値の差が比較的大きい構造物とが視野内に含まれる画像に適用できる。このような画像としては、走査透過電子顕微鏡像(STEM像)、走査電子顕微鏡像(SEM像)等の電子顕微鏡像、走査イオン顕微鏡像(SIM像)等が挙げられる。
【0129】
また、例えば、上述した実施形態および変形例に係る電子顕微鏡が透過電子顕微鏡である例について説明したが、本発明に係る電子顕微鏡は、走査透過電子顕微鏡、走査電子顕微鏡等の電子顕微鏡であってもよいし、走査イオン顕微鏡であってもよい。
【0130】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。