特許第6518510号(P6518510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6518510孔部形成治具、および制振間柱構造の構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6518510
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】孔部形成治具、および制振間柱構造の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/18 20060101AFI20190513BHJP
【FI】
   E04G21/18 A
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-103450(P2015-103450)
(22)【出願日】2015年5月21日
(65)【公開番号】特開2016-217013(P2016-217013A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】谷口 彰
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆二
【審査官】 湊 和也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−035523(JP,A)
【文献】 実開昭58−019051(JP,U)
【文献】 特開平07−088832(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0139321(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/18
E04B 1/16
E04H 9/02
B28B 7/02
B28B 23/00−23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁に上下に貫通する孔部を形成する孔部形成治具であって、
上下方向に延びて梁型枠の内部に配置される棒状部材を備え、
前記棒状部材は、スパイラルシースで形成された筒状の筒部材と、当該筒部材に挿入された芯部材と、を有し、
前記筒部材の上端部には、当該筒部材の高さ調整用で当該筒部材の外径を上回るシースジョイントが取り付けられており、
当該芯部材は、後から挿入される連結部材の外径よりも大きな外径を備えた棒状の芯部材本体と、当該芯部材本体の上部に形成されて前記筒部材の内径よりも大きい鍔部と、前記芯部材本体の上端部に設けられた吊りフックと、を備え
前記芯部材の鍔部は、前記筒部材の最上端に係止されることを特徴とする孔部形成治具。
【請求項2】
下階の制振間柱と、当該下階の制振間柱の上に設けられたコンクリート梁と、当該コンクリート梁の上でかつ前記下階の制振間柱の直上となる位置に設けられた上階の制振間柱と、を備える制振間柱構造の構築方法であって、
前記下階の制振間柱の上に、下側梁主筋およびあばら筋が打ち込まれた鉄筋コンクリート造のハーフPC梁を配置する工程と、
上下方向に延びて梁型枠の内部に配置される棒状部材と、前記梁型枠の上端に配置されて、当該棒状部材が挿通される貫通孔が形成された位置決めテンプレートと、を備える孔部形成治具を用意し、前記棒状部材は、筒状の筒部材と、当該筒部材に挿入された芯部材と、を有し、当該芯部材は、後から挿入される連結部材の外径よりも大きな外径を備えた棒状の芯部材本体と、当該芯部材本体の上部に形成されて前記位置決めテンプレートの貫通孔の内径よりも大きい鍔部と、前記芯部材本体の上端部に設けられた吊りフックと、を備えており、前記ハーフPC梁上に前記孔部形成治具を取り付ける工程と、
前記ハーフPC梁の上側梁主筋を配筋する工程と、
前記ハーフPC梁にコンクリートを打設して、前記コンクリート梁を構築するとともに当該コンクリート梁に孔部を形成する工程と、
前記孔部形成治具の芯部材の吊りフックを引き上げて、当該芯部材を抜き取る工程と、
前記コンクリート梁上に前記上階の制振間柱の建方を行う工程と、
前記コンクリート梁の孔部に前記連結部材を挿通し、当該連結部材で前記下階の制振間柱と前記上階の制振間柱とを連結する工程と、を備えることを特徴とする制振間柱構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、当該階の梁と、下階の梁または上階の梁と、の間に設ける制震間柱を、PC鋼棒等を介して梁に固定させるために、コンクリート体に孔部を形成する、孔部形成治具および孔部形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリートの打設時にシース管を打ち込むことにより、コンクリート体に孔部を形成することが行われている(特許文献1参照)。
この特許文献1では、型枠にシース管取付片(取付部材5)を取り付けて、さらにこのシース管取付片にボルトを取り付ける。そして、このボルトをシース管に挿通させ、ボルトの先端側をシース管の先端側に螺合させる。これにより、シース管は、シース管取付片とボルトの先端側とで両端から挟み込まれて、所定の位置に取り付けられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−255252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1では、シース管の内周面とボルトの外周面との間の隙間が大きく、配筋時に、鉄筋材がシース管に突き当たると、ボルトが位置ずれしなくても、シース管が位置ずれあるいは変形する場合があった。
また、コンクリートの打設時に、シース管にコンクリートホースが衝突したり、シース管がコンクリートの側圧で押されたりして、シース管が位置ずれしたり、あるいは変形したりする場合があった。その結果、孔部の鉛直精度や位置精度を確保することが困難となるおそれがあった。
【0005】
本発明は、シース管などの筒部材を、位置ずれや変形を防止しつつコンクリートに打ち込むことにより、コンクリート体に孔部を精度良く形成できる孔部形成治具、および制振間柱構造の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、制震間柱をRC梁に固定するための梁せい貫通型のシース管保持金物として、シース管の内側に鋼管(ガス管)を挿入し、そのシース管の設置高さを調整するために、シース管の外径部分にシース管のサイズを上回るシースジョイントを用いる。鋼管につば部分を設けて位置固定するとともに、その鋼管の管頭部分を平面位置決めテンプレートの孔部に貫通して配置することで、RC梁断面内において、梁主筋を配筋する際に梁主筋がシース管に突き当たっても、位置ずれを生じることなく、シース管の位置を確保することができる、梁せい貫通型のシース管金物の発明に至った。
【0007】
本発明の特徴は、コンクリート梁断面内を上下に貫通する孔部を形成するための孔部形成治具(シース管)を2重管構造として、外側管を平面位置決め用管材とし、かつ芯部材にて孔部の鉛直精度を確保するとともに、芯部材とコンクリートとの間において非付着領域を確保することで、コンクリート梁内に孔部を精度よく形成する治具とその孔部形成方法である。
【0008】
第一の発明の孔部形成治具(例えば、後述の孔部形成治具50)は、梁(例えば、後述の梁10)に上下に貫通する孔部(例えば、後述の孔部13)を形成するための孔部形成治具であって、上下方向に延びて梁型枠の内部に配置される棒状部材(例えば、後述の棒状部材51)と、前記梁型枠の上端に配置されて、当該棒状部材の水平方向の位置決めを行う位置決めテンプレート(例えば、後述の位置決めテンプレート52)と、を備え、前記棒状部材は、前記位置決めテンプレートの貫通孔(例えば、後述の貫通孔58)に挿通され、当該棒状部材の外周面に設けられた鍔部(例えば、後述の鍔部56)により、前記位置決めテンプレートに係止されることを特徴とする。
【0009】
第二の発明の孔部形成治具(例えば、後述の孔部形成治具50)は、梁に上下に貫通する孔部を形成する孔部形成治具であって、上下方向に延びて梁型枠の内部に配置される棒状部材と、前記梁型枠の上端に配置されて、当該棒状部材が挿通される貫通孔(例えば、後述の貫通孔58)が形成された位置決めテンプレートと、を備え、前記棒状部材は、筒状の筒部材(例えば、後述のシース管12)と、当該筒部材に挿入される芯部材(例えば、後述の芯部材54)と、を有し、当該芯部材は、後から挿入される連結部材(例えば、後述のPC鋼棒41)の外径よりも大きな内径を備えた棒状の芯部材本体(例えば、後述の芯部材本体55)と、当該芯部材本体の上部に形成されて前記位置決めテンプレートの貫通孔の内径よりも大きい鍔部(例えば、後述の鍔部56)と、前記芯部材本体の上端部に設けられた吊りフック(例えば、後述の吊りフック57)と、を備えることを特徴とする。
【0010】
第三の発明の孔部形成治具(例えば、後述の孔部形成治具50A)は、梁に上下に貫通する孔部を形成する孔部形成治具であって、上下方向に延びて梁型枠の内部に配置される棒状部材を備え、前記棒状部材は、筒状の筒部材(例えば、後述のシース管12)と、当該筒部材に挿入される芯部材(例えば、後述の芯部材54)と、を有し、当該芯部材は、後から挿入される連結部材(例えば、後述のPC鋼棒41)の外径よりも大きな内径を備えた棒状の芯部材本体(例えば、後述の芯部材本体55)と、当該芯部材本体の上部に形成されて前記筒部材の内径よりも大きい鍔部(例えば、後述の鍔部56)と、前記芯部材本体の上端部に設けられた吊りフック(例えば、後述の吊りフック57)と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、筒部材に、後から挿入される連結部材の外径よりも大きな内径を備えた芯部材を挿入して、この状態で、梁型枠の内部に配置する。したがって、筒部材と芯部材との隙間が小さいので、梁型枠内に鉄筋を配筋する際、鉄筋材が筒部材に突き当たっても、筒部材が芯部材で内側から支持されて、筒部材の位置ずれや変形を防止できる。また、コンクリートの打設時に、筒部材にコンクリートホースが衝突したり、筒部材がコンクリートの側圧で押されたりしても、筒部材の位置ずれや変形を防止できる。したがって、コンクリート体に孔部を精度良く形成できる。
【0012】
梁断面内を上下に貫通する孔部は、梁部分にコンクリートを打設する前に、孔部位置に棒状部材を配置し、その棒状部材の上端部を位置決めテンプレートに設けた孔部に挿入させ、棒状部材を位置決めテンプレートに係止させることで、孔部の平面位置決めを行うことができる。
また、芯部材に吊りフックを設けたので、作業員が棒状部材の吊りフックを把持して引き上げることで、筒部材の内側に容易に挿入したり、また、筒部材から容易に抜き取ったりすることができる。
また、芯部材に鍔部を設けたので、芯部材が筒部材の下方に抜けて落下するのを防止できる。
【0013】
第四の発明の孔部形成治具は、前記梁の上面および/または下面には、制震振間柱(例えば、後述の制震間柱30)が配置され、当該制震間柱のベースプレート(例えば、後述のベースプレート32A、32B)と前記筒部材の端部との間には、モルタルまたはグラウト材が充填されることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、制震間柱のベースプレートと筒部材の端部との間にモルタルまたはグラウト材を充填したので、この充填したモルタルまたはグラウト材が硬化することにより、筒部材を所定の孔部位置に設けることができる。また、孔部が所定位置に形成されることで、制震間柱の建入れを確実に固定できる。
【0015】
第五の発明の孔部形成方法は、上述の孔部形成治具を用いて、梁に孔部を形成する孔部形成方法であって、梁型枠(例えば、後述のハーフPC梁11)に前記孔部形成治具を取り付ける工程(例えば、後述のステップS1、S2)と、当該梁型枠にコンクリートを打設する工程(例えば、後述のステップS3、S4)と、を備えることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、梁断面内の所定位置に、水平精度及び鉛直精度が確保された孔部を備えたコンクリート梁を構築することができる。また、梁断面内を上下に貫通する孔部に連結部材を挿入し、その連結部材を介して梁上面に設ける制振間柱を固定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シース管などの筒部材を、位置ずれや変形を防止しつつコンクリートに打ち込むことにより、コンクリート体に孔部を精度良く形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係る孔部形成治具の斜視図である。
図2】前記実施形態に係る孔部形成治具のシース管の構造を示す斜視図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る孔部形成治具の斜視図である。
図4】本発明の第3実施形態に係る孔部形成治具および孔部形成方法が適用された建物(制震間柱)の縦断面図である。
図5】孔部形成治具を使用した際の梁縦断面図(図3の破線で囲まれた部分の拡大図)である。
図6】孔部形成治具を使用した制震間柱の構築方法のフローチャートである。
図7】孔部形成治具を使用した制。震間柱の構築手順の説明図(その1)である。
図8】孔部形成治具を使用した制震間柱の構築手順の説明図(その2)である。
図9】孔部形成治具を使用した制震間柱の構築手順の説明図(その3)である。
図10】孔部形成治具を使用した制震間柱の構築手順の説明図(その4)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。本明細書では、本発明の孔部形成治具及び孔部形成方法の適用例として、制震間柱が設けられた建物を挙げて記載した。
以下、孔部形成治具の実施形態およびその孔部形成方法について、説明する。
【0020】
〔第1実施形態〕
本発明の孔部形成治具の第1実施形態は、梁断面内を上下方向に貫通する棒状部材51と、その棒状部材51の平面位置決めを行う位置決めテンプレート52とを備えた孔部形成治具50である。棒状部材51を位置決めテンプレート52の貫通孔58に係止させるために、棒状部材51は外周面に鍔部56を備える。また、棒状部材51は二重管構造であり、外側管である筒状のシース管12と、シース管12の内側に挿入される芯部材54とで構成され、芯部材54は上端部に吊りフック57を備える。
【0021】
孔部形成治具50は、具体的には、図1に示すように、上下方向に延びてハーフPC梁11の内部に配置される棒状部材51と、ハーフPC梁11の上端に配置されて棒状部材51が挿通される複数の貫通孔58が形成された位置決めテンプレート52と、を備える。位置決めテンプレート52は、棒状部材51の平面位置決めを行うものである。
【0022】
棒状部材51は、筒状の筒部材としてのシース管12と、このシース管12に挿入された芯部材54と、を備える。シース管12は、例えば塩化ビニル管またはスパイラルシースである。
図2(a)に示すように、このシース管12の上端部に、シース管12の外径を上回るシースジョイント17を取り付けて、図2(b)に示すように、このシースジョイント17をシース管12に対して上下方向に移動させることで、シース管12の高さを調整できる。
【0023】
芯部材54は、棒状の芯部材本体55と、この芯部材本体55の上部に形成された鍔部56と、芯部材本体55の上端部に設けられた吊りフック57と、を備える。鍔部56は、芯部材本体55の高さ位置固定手段である。吊りフック57は、芯部材本体55の上端部にUボルトを上下反転させて溶接したものである。
【0024】
芯部材本体55は、例えば配管用鋼管(ガス管)または中実棒状材である。この芯部材本体55の外径は、シース管12の内径よりも僅かに小さくなっており、芯部材本体55をシース管12に容易に抜き差しできるようになっている。この芯部材本体55は、シース管12より剛性が高く、かつ当該シース管の下端までの長さとなっている。
鍔部56は、シース管12の内径、および位置決めテンプレート52の貫通孔58の内径よりも大きく、芯部材本体55に溶接されて固定されている。この鍔部56は、例えばワッシャーなど、既製品の鋼材が好ましい。
【0025】
棒状部材51は、筒状のシース管12と、シース管12に挿入される芯部材54で構成されており、この芯部材54は、後から挿入される連結部材40(例えば、PC鋼棒41または鉄筋)の外径よりも大きな径を備えた棒状の芯部材本体55と、この芯部材本体55の頭部に形成されて位置決めテンプレート52の貫通孔58の内径よりも大きい鍔部56と、芯部材本体55の上端部に設けられた吊りフック57と、を備える。具体的には、芯部材本体55の外径は、シース管12の内径より小さく、芯部材本体55とシース管12との間の隙間は10mm以下であることが好ましい。また、芯部材本体55は、筒部材より高剛性であることが好ましい。
【0026】
芯部材54は、位置決めテンプレート52の貫通孔58に挿通され、芯部材54の外周面に設けられた鍔部56により、位置決めテンプレート52の貫通孔58に係止される。
また、シース管12は、コンクリート梁に存置させるものであり、芯部材54は、梁部分にコンクリートを打設した後、上方側に引き抜き、再利用する。よって、芯部材54は、軽量で、かつ高剛性の性能を有する配管用鋼管が好ましい。
【0027】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)梁断面内に形成する孔部は、二重管構造による外側管のシース管12を型枠内に配置し、そのシース管12の内側に芯部材54を設けるとともに、芯部材54を位置決めテンプレート52の貫通孔58に挿入し、その芯部材54を位置決めテンプレート52に係止させた状態で、梁の型枠内にコンクリートを打設するので、孔部の平面位置決め精度および鉛直精度ともに、所定の精度を確保することができる。
【0028】
(2)芯部材54は、芯部材本体55の外周面とシース管12の内周面との隙間は小さく、シース管12よりも高剛性材であるので、鉄筋材がシース管12に突き当たった際、またはシース管12にコンクリート側圧が作用した場合であっても、シース管12の位置ずれや変形を防止できる。
【0029】
〔第2実施形態〕
本発明の孔部形成治具の第2実施形態は、外側管である筒状のシース管12と、このシース管12の内側に挿入する芯部材54とで構成された棒状部材51(二重管構造)を梁断面内に配置して、梁断面内に孔部を形成する孔部形成治具50Aである。孔部形成治具50Aでは、外周面に鍔部56を備える芯部材54をシース管12に係止させる。芯部材54およびシース管(筒部材)12は、改めて特記していない点は、第1実施形態と同様である。
【0030】
孔部形成治具50Aは、図3に示すように、先ず、シース管12を梁断面内の梁主筋やせん断補強筋に結束線を用いて固定させ、その後、鍔部56を有する芯部材54をシース管12内に挿入し、シース管12の最上端の円周縁部分に、芯部材54の鍔部56を係止させる。
【0031】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)筒状のシース管12と外周面に鍔部56を備えた芯部材54との二重管構造である孔部形成治具50Aを使用して、梁断面内を貫通する孔部を形成するので、孔部を簡便にかつ精度よく構築することができる。
(2)シース管12および芯部材54は、市場品で構成することができ、低コストで製作できる。
【0032】
〔第3実施形態〕
図4(a)は、本発明の一実施形態に係る孔部形成方法により孔部が形成された建物1の縦断面図である。図4(b)は、図4(a)のA−A断面図である。図5は、孔部形成治具を使用した際の梁縦断面図であり、図4(b)の破線で囲まれた部分の拡大図である。
【0033】
以下、具体的に孔部形成治具を使用した建物(例えば、制震間柱)の構築手順について説明する。
先ず、本発明について、梁断面内に形成された孔部を使用した建物の梁柱構造(図4図5)について述べる。
【0034】
建物1は、鉄筋コンクリート造のラーメン構造であり、図示しない柱、梁10、および床20を備える。建物1の各階には、上下の梁10同士の間に制震間柱30が設けられており、上下に位置する制震間柱30同士は、複数本の連結部材40で連結されている。
【0035】
制震間柱30は、上下に延びる鋼製の柱本体31と、この柱本体の上下端に設けられたベースプレート32A、32Bと、を備える。ベースプレート32A、32Bには、貫通孔33が複数形成されている。
制震間柱30の下側ベースプレート32Aと梁10の上面との隙間、および、上側ベースプレート32Bと梁10の下面との隙間には、無収縮グラウト材34が充填されている。
【0036】
梁10は、ハーフプレキャストコンクリート梁(以下、ハーフPC梁と呼ぶ)11を用いて構築されている。この梁10には、上下に延びる円筒形状のシース管12が打ち込まれており、これにより、梁10を上下に貫通する孔部13が複数形成されている。
床20は、ハーフプレキャストコンクリート床(以下、ハーフPC床と呼ぶ)21を用いて構築されている。
【0037】
連結部材40は、梁10の孔部13および制震間柱30の貫通孔33に挿通されたPC鋼棒41と、このPC鋼棒41の上下端に螺合されたナット42と、を備える。
PC鋼棒41は、孔部13の内壁面に固定されておらず(アンボンド)、さらに、このPC鋼棒41には、緊張力が導入されている。
【0038】
以下、孔部形成治具を使用した制震間柱の構築方法について、図6のフローチャートを参照しながら説明する。
当該階のコンクリート梁に孔部を形成させる前段階(初期段階)は、図7に示すように、当該階の梁底面に下階の支保工60が組み立てられ、かつ下階に制震間柱30が建込まれた状態とする。
【0039】
ステップS1では、図7および図8に示すように、支保工60上にハーフPC梁11およびハーフPC床21をセットする。ハーフPC梁11は、下側梁主筋14およびあばら筋15が打ち込まれた鉄筋コンクリート造の部材である。また、ハーフPC床21は、図示しない下側主筋が打ち込まれた鉄筋コンクリート造の部材である。
【0040】
ステップS2では、図8に示すように、ハーフPC梁11上に孔部形成治具50をセットする。孔部形成治具50は、図1に示すように、複数の棒状部材51と、これら棒状部材51が挿通される複数の貫通孔58が形成された位置決めテンプレート52と、を備える第1実施形態の孔部形成治具50である。なお、図3に示すように、シース管12と芯部材54とで構成された棒状部材51による第2実施形態の孔部形成治具50Aを用いてもよい。
【0041】
ステップS3では、図8に示すように、梁10および床20の配筋を行う。つまり、ハーフPC梁11上に梁10の上側梁主筋16を配筋するとともに、ハーフPC床21上に床20の図示しない上側主筋を配筋する。
ここで、孔部形成治具50がハーフPC梁11上に既にセットされているので、配筋時には、孔部13を形成するための空間が既に確保されていることになる。
【0042】
ステップS4では、図9に示すように、梁10および床20のコンクリートを打設する。具体的には、ハーフPC梁11およびハーフPC床21上にコンクリートCを流し込む。このとき、梁10の上面の均しを行うため、コンクリートの打設が完了してシース管12を位置決めした後、位置決めテンプレート52を適宜取り外す。位置決めテンプレート52を取り外した後は、芯部材54の鍔部56をシース管12の上端に係止しておく。
【0043】
ステップS5では、コンクリートの打設完了後に、作業員は、芯部材54の吊りフック57を把持して引き上げて、シース管12から芯部材54を抜き取る。
ステップS6では、図10に示すように、梁10上に当階の制震間柱30の建方を行うとともに、当階の支保工60を組み立てる。
ステップS7では、上述のステップS1〜S6を繰り返して、下層から上層に向かって建物1を構築する。
【0044】
ステップS8では、各階の制震間柱30の下側ベースプレート32Aと梁10の上面との隙間、および上側ベースプレート32Bと梁10の下面との隙間に、無収縮グラウト材を充填する。つまり、制震間柱30のベースプレート32A、32Bとシース管12の上下端との間に無収縮グラウト材を充填する。
ステップS9では、各階の制震間柱30に連結部材40を取り付ける。
【0045】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)シース管12に芯部材54を挿入して、この状態で、ハーフPC梁11の上に配置する。したがって、シース管12と芯部材54との隙間が小さいので、ハーフPC梁11の上に鉄筋を配筋する際に、上側梁主筋16などの鉄筋材がシース管12に突き当たっても、シース管12が芯部材54で内側から支持されて、シース管12の位置ずれや変形を防止できる。また、コンクリートの打設時に、シース管12にコンクリートホースが衝突したり、シース管12がコンクリートの側圧で押されたりしても、シース管12の位置ずれや変形を防止できる。したがって、鉄筋コンクリート造の梁10に孔部13を精度良く形成できる。
【0046】
(2)下階の梁10と当該階の梁10との間に設置する制震間柱30は、孔部形成治具50を使用して梁断面内を上下に貫通する孔部13を形成させた後、その孔部13に連結部材40(PC鋼棒41または鉄筋)を挿入して所定の緊張力で固着させた。梁断面内に設ける孔部13は、構造用鋼材である連結部材40を貫通させる孔部13であり、孔部形成治具50を使用して平面位置決め精度および鉛直精度をともに確保することで、制震間柱30を精度良く設置することができる。
【0047】
(3)制震間柱30のベースプレート32A、32Bとシース管12の上下端との間に無収縮グラウト材を充填したので、この充填したグラウト材が硬化することにより、制震間柱30の建入れを確実に固定できる。
【0048】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、芯部材本体55をシース管12の下端までの長さとしたが、これに限らず、芯部材本体55をさらに長くして、下階の制震間柱30の上側ベースプレート32Bの貫通孔33に挿通してもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、梁断面内を上下に貫通するように棒状部材51を配置させて孔部13を形成したが、柱断面内を水平方向に貫通するように棒状部材を配置して孔部を形成してもよい。柱部材において、柱断面内を水平方向に貫通する孔部は、柱梁架構内に設置する補強部材を柱に固着させる際に、PC鋼材を挿入する孔部として利用可能である。また、上記実施形態では、孔部形成治具50、50AをハーフPC梁に設置したが、これに限らず、現場にて梁全断面をコンクリート打設して構築する梁部材内に設置してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…建物 10…梁 11…ハーフPC梁 12…シース管(筒部材) 13…孔部
14…下側梁主筋 15…あばら筋 16…上側梁主筋 17…シースジョイント
20…床 21…ハーフPC床
30…制震間柱 31…柱本体 32A…下側ベースプレート
32B…上側ベースプレート 33…貫通孔 34…無収縮グラウト材
40…連結部材 41…PC鋼棒 42…ナット
50、50A…孔部形成治具 51…棒状部材 52…位置決めテンプレート
54…芯部材 55…芯部材本体 56…鍔部 57…吊りフック 58…貫通孔
60…支保工
図1
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図10