【実施例1】
【0015】
図1は本発明の軸流タービンの第1の実施の形態である蒸気タービンの鉛直方向の子午断面の一部を示す断面図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る蒸気タービンのタービン段落は、回転可能に支承されたタービンロータ3と、タービンロータ3に周方向に1枚または複数枚固定されたタービン動翼5a,5bと、図示しないケーシングの内周に設けられたダイヤフラム外輪1a,1bと、ダイヤフラム外輪1a,1bの内側に設けられたダイヤフラム内輪2a,2bと、ダイヤフラム外輪1a,1bとダイヤフラム内輪2a,2bの間にタービン周方向に1枚または複数枚固定されたタービン静翼4a,4bから構成されている。
【0016】
また、タービン動翼5a,5bのタービン回転径方向外周側の先端にはカバー6a,6bが設けられており、カバー6a,6bとダイヤフラム外輪1a,1bとの間隙において、ダイヤフラム外輪1a,1bからタービンロータ3の径方向に突出するように設けられた外周側径方向シールフィン7a,7bを備えている。
【0017】
さらに、タービンロータ3とダイヤフラム内輪2a,2bとの間隙においても、ダイヤフラム内輪2a,2bからタービンロータ3の径方向に突出するように設けられた内周側径方向シールフィン8a,8bを備えている。これら径方向シールフィンは間隙を最小化し、漏れ流れを抑制するためタービンロータ3の回転軸方向に複数枚設けられている。
【0018】
また、下流側タービン段落のダイヤフラム外輪1bにおける内周側端壁面の子午面形状は、上流側タービン段落のタービン動翼5aと下流側タービン段落のタービン静翼4bの段落間において変曲点Hを有すると共に、蒸気流れ方向に対する変曲点Hにおける接線の傾きが正となる(蒸気流れ方向に向けて増加する)ように構成されている。
【0019】
蒸気主流9は、上流側のタービン段落に流入した際に、その大半がタービン静翼4aへ流入し、一部はダイヤフラムリークとして、静止体であるダイヤフラム内輪2aと回転体であるタービンロータ3の間に形成された漏れ流路へと流入する。
【0020】
タービン静翼4aから流出した蒸気主流9は、前記ダイヤフラムリークと合流し、その大半がタービン動翼5aへと流入する。このとき、一部はチップリークとして、静止体であるダイヤフラム外輪1aと回転体であるカバー6aの問に形成された漏れ流路へと流入する。
【0021】
タービン動翼5aから流出した蒸気主流9はチップリークと合流し、下流側のタービン段落へ流入する。
【0022】
ここで、本実施の形態における本発明の作用効果の理解を容易にするために、
図2を用いて従来の蒸気タービンにおけるタービン段落の流れの状況について説明する。
図2は従来の蒸気タービンの鉛直方向の子午断面の一部を示す断面図である。
【0023】
図2において、上流側タービン段落のタービン動翼5aから流出した蒸気主流9はカバー6aをバイパスしたチップリーク10と合流し、下流側タービン段落へと流入する。下流側タービン段落の流路では、ダイヤフラム外輪1bの内周側端壁面にフレアが存在するので、下流に向かうにつれて流路面積が拡大する流路が形成されている。
【0024】
ここで、本明細書においては、ダイヤフラム外輪1bの内周側端壁面の子午断面をなす線分と回転軸方向の線分とがなす角度をフレア角度という。このフレア形状の流路において、フレア角度が大きくて流路面積の拡大に、流体である蒸気の膨張が追従できない場合に、
図2に示す剥離11が生じる。
【0025】
また、上流側タービン段落のタービン動翼5aと下流側タービン段落のタービン静翼4bの段落間の流路はディフューザとしても機能し、蒸気主流9が圧力回復する。このため、逆圧力勾配が形成されるので、剥離11を助長することになる。この剥離11は蒸気タービンの損失を増加させる要因となる。
【0026】
さらに、下流側タービン段落のダイヤフラム外輪1bの内周側端壁面は、子午断面をなす線分を直線状に形成されることが一般的である。このため、ダイヤフラム外輪1bの最上流側において流路断面積変化率が不連続に変化する。
図2において、流路断面積は、上流側タービン段落のダイヤフラム外輪1aの内周側端壁面の下流側において、一定値の範囲が設けられている。この流路断面積一定値の範囲の下流にフレア角度を有するダイヤフラム外輪1bの最上流側が接続されている。このため、この接続点において、流路断面積変化率は、0から一定値に不連続に変化する。
【0027】
このように、流路断面積変化率が不連続であることも、剥離11を助長する要因となる。さらに、剥離11は損失要因となるだけでなく、そのプロッケージ効果により過度な径方向速度成分を有した流れ12を誘起する。この剥離により誘起された流れ12は翼高さ方向の流量配分にも影響するため、下流側タービン段落の静翼4bから流出する際の速度三角形にも影響する。
【0028】
その結果、動翼5bに対する蒸気流入角が変化し、インシデンス損失が増加するなど付随的な損失が生じる。すなわち、従来の蒸気タービンでは、ダイヤフラム外輪の内周側端壁面におけるフレア角度が大きい場合に、剥離が生じるとともに、剥離下流に位置するタービン段落のフローパターンが変化するため、過度に損失が生じる。
【0029】
次に、チップリーク10がダイヤフラム外輪の内周側端壁面において生じる剥離11に与える影響について
図2乃至4を用いて説明する。
図3は従来の蒸気タービンのタービン動翼の下流における、翼高さに対する周方向速度分布を示す特性図、
図4は従来の蒸気タービンのタービン動翼の下流における、翼高さに対する軸方向速度分布を示す特性図である。
図3において、横軸は動翼回転方向を正方向とする周方向速度を示し、縦軸はタービン動翼5aの翼高さを示す。
図4において、横軸は上流から下流を正方向とする軸方向速度を示し、縦軸はタービン動翼5aの翼高さを示す。
【0030】
図2において、カバー6aをバイパスしたチップリーク10はタービン動翼5aにおいて転向することなく下流へと向かうため、大きな周方向速度成分を残したまま蒸気主流9と合流することになる。
【0031】
そのため、タービン動翼5aの下流では、
図3のような翼先端側で大きな周方向速度を有した分布を形成する。チップリーク10が有する周方向速度成分は蒸気主流9に対して遠心力を作用させるため、剥離11を抑制する効果がある。また、チップリーク10は外周側径方向シールフィン7aから流出する際に噴流として流出するため、大きな軸方向速度成分も有している。そのため、タービン動翼5aの下流では、
図4のような翼先端側で大きな軸方向速度を有した分布を形成する。チップリーク10が有する周方向速度成分は剥離11を抑制する作用を有していたが、軸方向速度成分はダイヤフラム剥離を誘起する作用がある。すなわち、この軸方向速度成分を減衰させることでも剥離11の抑制を期待できる。
【0032】
次に、本実施の形態における構成及び作用の詳細を
図1及び
図5を用いて説明する。
図5は本発明の軸流タービンの第1の実施の形態における蒸気流れ方向位置に対する流路断面積変化率を示す特性図である。
図5において、横軸は蒸気流れ方向の位置を示し、縦軸は流路断面積変化率を示す。
【0033】
図1に示すように、本実施の形態においては、下流側タービン段落のダイヤフラム外輪1bにおける内周側端壁面の子午面形状を、上流側タービン段落のタービン動翼5aと下流側タービン段落のタービン静翼4bの段落間において変曲点Hを有すると共に、蒸気流れ方向に対する変曲点Hにおける接線の傾きが正となるように、S字状に湾曲させている。
【0034】
このように、S字状に湾曲させることで、下流側タービン段落のタービン静翼4b内部におけるフレア角度を維持したまま、カバー6の内周側壁面の傾き(スラント角度という)にダイヤフラム外輪1bの内周側端壁面のフレア角度を近づけることができる。ここで、本明細書においては、カバー6の内周側壁面の子午断面をなす線分と回転軸方向の線分とがなす角度をスラント角度という。
【0035】
本実施の形態と異なり、ダイヤフラム外輪1bの内周側端壁面を直線状に形成した従来例の場合、
図5に示すように、下流側タービン段落のダイヤフラム入口の位置P1において流路断面積変化率が不連続に変化する。これに対し、本実施の形態では、S字状に湾曲させることで連続的に変化させることができる。
【0036】
すなわち、下流側タービン段落のダイヤフラム入口近傍においても流路が緩やかに拡大するため、蒸気主流9は端壁面で剥離することなく下流へと流れることができる。また、S字状に湾曲させることで変曲点H近傍における流路断面積変化率が大きくなるが、直線状に形成した場合に比べ最大値を取る位置が下流に移っている。そのため、蒸気主流9は漏れ流れと混合拡散するとともに、端壁面近傍において壁面摩擦により減速することになる。
【0037】
また、軸方向速度成分が低減された状態で流路断面積変化率が大きな位置に到達することになり、流路断面積の変化に蒸気主流9が追従することができる。このことにより、剥離を抑制することができる。さらに、この剥離を抑制することにより過度な径方向速度分布を誘起することなく下流側タービン段落に流入することができる。
【0038】
したがって、本実施の形態では、下流タービン段落のフローパターンに影響を与えることなく、ダイヤフラム外輪の内周側端壁面で生じる剥離を抑制することができる。
【0039】
さらに、剥離を抑制するという観点からダイヤフラム外輪1bの内周側端壁面のフレア角度を大きくとることができないため、従来の蒸気タービンでは段落間の距離をある程度必要としていたが、ダイヤフラム外輪1bの内周側端壁面をS字状に湾曲させることでフレア角度を変更することなく段落問の距離を縮めることができる。
【0040】
すなわち、ダイヤフラム外輪1bの内周側端壁面をS字状に湾曲させることで蒸気タービンの短軸化も図ることができる。本実施の形態では、カバー6の外周側壁面の形状をフラット状にした場合を図示しているが、ステップ状など他の形状であっても本発明の効果は変わらない。
【0041】
上述した本発明の軸流タービンの第1の実施の形態によれば、下流側タービン段落のフローパターンに影響を与えることなく、ダイヤフラム外輪の内周側端壁面で生じる剥離を抑制することができる高効率で高性能な軸流タービンを提供することができる。
【実施例2】
【0042】
以下、本発明の軸流タービンの第2の実施の形態を図面を用いて説明する。
図6は本発明の軸流タービンの第2の実施の形態である蒸気タービンの鉛直方向の子午断面の一部を示す断面図、
図7は本発明の軸流タービンの第2の実施の形態における蒸気流れ方向位置に対する流路断面積変化率を示す特性図、
図8は本発明の軸流タービンの第2の実施の形態である蒸気タービンのタービン動翼の下流における、翼高さに対する軸方向速度分布を示す特性図である。
図6乃至8において、
図1乃至
図5に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0043】
図6に示す本発明の軸流タービンの第2の実施の形態は、大略第1の実施の形態と同様の機器で構成されるが、以下の構成が異なる。本実施の形態においては、上流側タービン段落のタービン動翼5aのカバー6aの内周側壁面が傾斜している点が異なっている。換言すると、第1の実施の形態におけるカバー6aのスラント角度は0度であったのに対して、本実施の形態では、スラント角度を有している点が異なる。
【0044】
カバー6aの内周側壁面がスラント角度を有していることで、ダイヤフラム外輪1bのタービン静翼内における端壁面のフレア角度との差を小さくできるため、より滑らかな流路面を形成することができる。
【0045】
図7において、横軸は蒸気流れ方向の位置を示し、縦軸は流路断面積変化率を示す。また、破線は従来例の特性を、一点鎖線はスラント角度なしの特性を、実線はスラント角度ありの特性をそれぞれ示している。
【0046】
本実施の形態においては、
図7に示す通り、流路断面積変化率も連続的かつより緩やかに変化させることができる。すなわち、流路断面積の変化に蒸気主流9がより追従しやすくなり、蒸気主流9がダイヤフラム外輪1bの内周側端壁面で剥離することなく下流へと流れることができる。
【0047】
さらに、本実施の形態においては、カバー6aの内周側壁面がスラント角度を有していることで、カバー6aの厚みに起因するウェークも低減することができ、チップリーク10と蒸気主流9の混合拡散を加速させることができる。
【0048】
図8において、横軸は上流から下流を正方向とする軸方向速度を示し、縦軸はタービン動翼5aの翼高さを示す。また、破線はスラント角度なしの特性を、実線はスラント角度ありの特性をそれぞれ示している。本実施の形態においては、スラント角度を有していることにより、チップリーク10と蒸気主流9の混合拡散を加速できるので、
図8に示すように翼先端側において軸方向速度を低減することができ、剥離11をより効果的に抑制することできる。
【0049】
したがって、本実施の形態では、より効果的に下流タービン段落のフローパターンに影響を与えることなく、ダイヤフラム外輪の内周側端壁面で生じる剥離を抑制することができる。
【0050】
上述した本発明の軸流タービンの第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0051】
以下、本発明の軸流タービンの第3の実施の形態を図面を用いて説明する。
図9は本発明の軸流タービンの第3の実施の形態である蒸気タービンの鉛直方向の子午断面の一部を示す断面図である。
図9において、
図1乃至
図8に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0052】
図9に示す本発明の軸流タービンの第3の実施の形態は、大略第1の実施の形態と同様の機器で構成されるが、以下の構成が異なる。本実施の形態においては、ダイヤフラム外輪1bの内周側端壁面の子午断面におけるS字形状をベジエ曲線として形成した点が異なる。本実施の形態の構成の詳細を第1の実施の形態と異なる点を中心に説明する。
【0053】
本実施の形態では、S字状端壁面を2次のベジエ曲線2つから構成したことを特徴とする。そのため、2つの制御点を決定する必要がある。まず、1つ目の制御点の求め方について説明する。
【0054】
図9において、ダイヤフラム外輪1bの内周側端壁面の子午断面の最上流に位置する点A14とタービン静翼4bの翼先端前縁に位置する点B15の中点C16を求める。
【0055】
次に、カバー6aの内周側壁面の最下流に位置する点D17と、点D17からカバー6aの内周側壁面を延長した直線上にあって、中点C16、点D17と二等辺三角形を形成する点E18を求める。
【0056】
さらに、中点C16と点E18を結ぶ線分と点A14から回転軸方向に伸ばした直線との交点を求め、1つ目の制御点13aとする。
【0057】
次に、2つ目の制御点の求め方について説明する。ダイヤフラム外輪1aとカバー6aとの間に設けられた漏れ流路の入口に位置するダイヤフラム外輪1a上の点F19と点B15を結ぶ線分と、中点C16と点E18を通る直線との交点を求め、2つ目の制御点13bとする。点A14、中点C16、制御点13aから2次ベジエ曲線を形成することができる。
【0058】
また、点B15、中点C16、制御点13bからも2次ベジエ曲線を形成することができる。すなわち、これら2つの2次ベジエ曲線よりS字状端壁面を形成することができる。ベジエ曲線とすることでS字状を一意に決定することができる。ここでは、2次ベジエ曲線を一例として説明したが、本発明の効果はスプライン曲線など、他の曲線で構成されていたとしても変わらない。
【0059】
上述した本発明の軸流タービンの第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【実施例4】
【0060】
以下、本発明の軸流タービンの第4の実施の形態を図面を用いて説明する。
図10は本発明の軸流タービンの第4の実施の形態である蒸気タービンの鉛直方向の子午断面の一部を示す断面図、
図11は本発明の軸流タービンの第4の実施の形態である蒸気タービンのタービン動翼の下流における、翼高さに対する軸方向速度分布を示す特性図である。
図10及び11において、
図1乃至
図9に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0061】
図10に示す本発明の軸流タービンの第3の実施の形態は、大略第1の実施の形態と同様の機器で構成されるが、以下の構成が異なる。本実施の形態においては、上流側タービン段落のタービン動翼下流にキャビティを設けた点が異なる。本実施の形態の構成の詳細を第1の実施の形態と異なる点を中心に説明する。
【0062】
図10に示すように、本実施の形態においては、上流側タービン段落におけるタービン動翼5aの先端に設けられたカバー6aの外周側壁面と対向するダイヤフラム外輪1aの内周側壁面の半径位置よりも、下流側タービン段落のダイヤフラム外輪1bの内周側壁面の最小半径位置の方が小さくなるように構成している。
【0063】
このような構成により、カバー6aの内周側壁面がフラット状であったとしても、連続的な流路面を形成させることができる。そのため、蒸気主流9がダイヤフラム外輪の内周側端壁面で剥離することなく下流へと流れることができる。
【0064】
さらに、本構成により、カバー6aの下流にはキャビティが形成される。このことにより、噴流として外周側径方向シールフィン7aから流出したチップリーク10はキャビティ内部で旋回流を形成することになる。
【0065】
図11において、横軸は上流から下流を正方向とする軸方向速度を示し、縦軸はタービン動翼5aの翼高さを示す。また、破線はキャビティなしの特性を、実線はキャビティありの特性をそれぞれ示している。本実施の形態においては、キャビティを有していることにより、旋回流が形成されチップリーク10を減速させる。このことにより、軸方向速度が低減される。その結果、剥離をより効果的に抑制することできる。
【0066】
したがって、本実施の形態では、より効果的に下流タービン段落のフローパターンに影響を与えることなく、ダイヤフラム外輪の内周側端壁面で生じる剥離を抑制することができる。
【0067】
上述した本発明の軸流タービンの第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0068】
なお、本発明は上述した第1乃至第4の実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。