(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
組成物が、Arg−Ala(配列番号2)、Phe−Ala(配列番号3)、Trp−Ala(配列番号4)、Tyr−Ala(配列番号5)、R−11(配列番号6)、W−11(配列番号7)、R−BiP(配列番号8)、およびR−BiPD(配列番号9)からなる群から選択される1種以上のペプチドをさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
化合物が、p62 ZZドメインに結合して、p62タンパク質のPB1ドメインおよびLlRドメインを活性化し、p62のオリゴマー化および凝集体形成の誘導をもたらす、請求項1に記載の医薬組成物。
神経変性疾患が、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、プリオン病(PD)、多発性硬化症(MS)、ライムボレリア症、致死性家族性不眠症、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、認知症、てんかん、脳卒中、ピック病、および筋萎縮性側索硬化症(ALS;ルー・ゲーリック病)からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明の好ましい態様の適用は、添付の図面を参照して極めてよく理解される;
【
図1】
図1は、本発明において提案されている薬剤の標的およびメカニズムを説明する図である。
【0024】
【
図2】
図2は、N−末端タンパク質分解経路を説明するスキーム図である。この経路においては、Nt−ArgなどのN−末端残基が、分解リガンドとして作用し、N−レコグニンに認識されて結合することができ、結果として基質の分解をもたらす。従来の経路では、Nt−Argがユビキチン化を誘導し、それにより基質のプロテアソームへのターゲティングが増強される。本発明においては、Nt−Argはそれを活性化させるp62に結合するのみならず、オートファジー経路も活性化することが見出された。
【0025】
【
図3】
図3は、N−末端タンパク質分解経路(N−末端則経路)におけるN−レコグニンの構造および配列を説明する図である。(a):UBRボックスタンパク質グループ(UBR1〜UBR7)の一次構造を説明するスキーム図。このグループは、Nt−Argに結合できるUBRボックスを有し、そのうちUBR1、UBR2、UBR4、およびUBR5がNt−Argに結合することが確認されている。(b):UBRボックス配列を比較する図。(c、d):UBR1のUBRボックスの結晶構造。
【0026】
【
図4】
図4は、ユビキチン−プロテアソーム系(UPS)、シャペロンを介したオートファジー、およびマクロオートファジーが、どのように互いに協力してミスフォールドタンパク質を除去するかを説明するスキーム図である。
【0027】
【
図5】
図5は、N−末端則新規N−レコグニン、Nt−ArgおよびNt−TrpなどのN−リガンドへのp62の選択的結合を説明する図である。(a):新規N−レコグニンを同定するために、ラット組織抽出物においてN−デグロン(degron)と一緒にロードされた合成ペプチドに結合する種々のタンパク質について調べた、スキーム図。(b、c):ラット精巣抽出物を用いて行われたX−ペプチドプルダウン(pull down)により得られたそれらのタンパク質についての銀染色の結果。(d):X−ペプチドプルダウンにより得られたそれらのタンパク質を用いて行われたiTRAQ(Isobaric tags for relative and absolute quantitation(アイソバリックタグ相対および絶対定量法))の結果。(e−i):X−ペプチドプルダウンにより得られたそれらのタンパク質を用いて行われたイムノブロッティングの結果。
【0028】
【
図6】
図6は、Biacoreアッセイを用いることによりp62のNt−Arg(Kd、40nM)およびNt−Phe(Kd、3.4μM)に対する結合力を測定した結果を説明する図である。
【0029】
【
図7】
図7は、p62が、そのZZドメインを介してN−末端則リガンドに結合することを説明する図であり、また、ZZドメインおよびUBRボックスドメインの一次構造の比較を表す。(a、c、e、g、i):p62の様々なフラグメントを説明するスキーム図。(b、d、f、h、j):それらのp62フラグメントを用いて行われたX−ペプチドプルダウン解析の結果。(l):p62 ZZドメインおよびUBRボックスの一次構造の比較結果。
【0030】
【
図8】
図8は、Arg−Alaがp62の自己オリゴマー化を誘導し、p62のLC3への結合を増加させることを説明する図である。(a−c):p62の自己オリゴマー化の解析。p62の自己オリゴマー化および凝集体形成が、N−リガンド Arg−Alaがp62 ZZドメインに結合する際に、誘導され得るかどうかを調べるため、インビトロオリゴマー化アッセイを、全長p62を発現するHEK293細胞溶解液を用いて非還元SDS−PAGEで行った。(d):Arg−11ペプチドに結合することができないp62 ZZ変異体を用いることにより行われたインビトロp62オリゴマー化アッセイの結果。(e):p62 PB1ドメインが、p62の凝集体形成に関与しているかどうかを調べるため、D69A変異体の凝集能を評価した。(f−h):p62のLC3への結合におけるArg−Alaの効果を調べるため、ELISAを行った。(i):Nt−Argのp62 ZZドメインへの結合によるp62の構造的活性化の誘導を説明する図である。
【0031】
【
図9】
図9は、小胞体シャペロンの一次タンパク質配列の比較を説明する図である。これらのタンパク質は、翻訳後小胞体に入るとそのシグナルペプチドを喪失する。この際、N−リガンドは成熟タンパク質で露出される(ボックスとして示す)。ミスフォールドタンパク質が細胞質において蓄積すると、シャペロンは細胞質に移動してN−末端アルギニル化される。
【0032】
【
図10】
図10は、N−末端アルギニル化を介してN−リガンドとしてNt−Argを得る小胞体タンパク質のスクリーニングを説明する図である。(a):N−末端アルギニル化を説明するスキーム図。細胞がミスフォールドタンパク質の蓄積によりストレスを受けると、シャペロンが細胞質に移動して、ATE1 R−トランスフェラーゼによりN−末端アルギニル化をもたらす。(b):R−BiP抗体の特異性および結合力を測定するために行われたペプチド結合アッセイの結果。(c):R−BiP抗体を用いたドットブロットアッセイ。(d):ATE1 R−トランスフェラーゼイソメラーゼを過剰発現させて、次いで上記R−BiP抗体を用いてR−BiPの形成を確認した。(e):siRNAを用いてATE1をノックダウンした際、R−BiPの形成は減少することが確認された。
【0033】
【
図11】
図11は、BiP、CRT、およびPDIのN−末端アルギニル化がATE1を介していることを説明する図である。(a):アルギニル化は、Ub−X−BiP−フラグ(flag)(X=GluまたはVal)を発現させることにより調べた。(b):組み換えタンパク質Ub−X−Bip−myc/his構造の形成を説明するスキーム図である。(c):Nt−Glu19におけるX−BiPアルギニル化は、上記構造を用いて確認した。(d):R−BiPは、ATE1ノックアウト細胞においては生成されないことが確認された。(e):ERストレスを引き起こすタプシガルジンを用いると、R−BiPは、ERストレスによっては生成されないが、ATE1 R−トランスフェラーゼにより引き起こされる酵素反応における生成物であることが確認された。(f):上記の生成されるR−BiPは、細胞分画を用いることにより、大きい容積で細胞質に移動することが確認された。(g):細胞質中のR−BiPは、シクロヘキシミドタンパク質分解法を用いることにより、小胞体中の非アルギニル化BiPと比較して、相対的に分解されないことが確認された。(h):ATE1により誘導されるCRTおよびPDIのN−アルギニル化を調べた。結果として、ATE1アイソザイムを過剰発現すると、R−CRTおよびR−PDIが生成されることが確認された。
【0034】
【
図12】
図12は、R−BiP生成が、細胞質における外部DNAにより誘導されることを説明する図である。(a、b):二重らせんDNA(dsDNA)が細胞質に導入されると、R−BiP生成が特異的に誘導される。(b、c):R−CRT生成もまた、R−BiPと同様に、dsDNAが細胞質に導入されると、誘導される。(d):R−BiPは、dsDNAが細胞質に移動することにより生成されることが、細胞分画により確認された。(e−g):R−BiP、R−CRT、およびP−PDIは、DNAを含む病原体(ウイルスまたは細菌)を模倣するポリ(dA:dT)を用い、侵襲DNAに対する先天性免疫反応の一部として生成された。(f):オートファジーはまた、上記プロセスとも連動して活性化される。
【0035】
【
図13】
図13は、R−BiPは、p62と連動してオートファゴソームに移行することを説明する図である。(a):R−BiPは、細胞質に移行して斑点状(in puncta)に蓄積することが免疫組織化学染色により確認された。(b−d):R−BiPの斑点は、p62の斑点と共局在化しており(a、c)、LC3ともまた共局在化していた(b−d)。(e):マウス胎仔心臓において、BiPはLC3陽性オートファゴソームに移行することが確認された。(f−h):ATE1またはBiPがsiRNAを用いてノックダウンされた場合には、R−BiPはオートファゴソームに移動しなかった。p62がノックダウンされた場合にも同様の結果が得られた。
【0036】
【
図14】
図14は、R−BiPがオートファゴソームに移行する際に、Nt−Argが必要とされることを説明する図である。(a):細胞におけるUb−X−BiP−GFP組み換えタンパク質(X=Arg、Glu、またはVal)の過剰発現によるX−BiP−GFPの生成を説明するスキーム図である。(b):オートファゴソームへの組み換えタンパク質の移動を、免疫染色を用いて調べた。(c):R−BiPはオートファゴソームに移行したが、Val−BiP(アルギニル化の基質として用いることができないように、Nt−Glu19がValで置換されている)は、Nt−Argがないためオートファゴソームに移行しなかった。(d):R−BiPの細胞内での位置をLC3の斑点の細胞内部位と比較したところ、同様の結果が得られた。(e):Ub−X−BiP
Δ(
図14a)を過剰発現後(ここではBiPのほとんどが除去されて19〜124残基が残る)、X−BiP
ΔDの細胞内での位置を、免疫染色を用いて調べた。(f):X−BiPおよびLC3の細胞内での位置を、免疫染色を用いて調べたところ、同様の結果が得られた。
【0037】
【
図15】
図15は、R−BiPのNt−Argが、p62 ZZドメインに直接結合することを説明する図である。(a、b):R−BiPのNt−Argがp62 ZZドメインに直接結合することができるかどうかを調べるため、X−ペプチドプルダウンアッセイを行った。(c、d):R−BiPは、細胞抽出物からp62をプルダウンしたが、E−BiPまたはV−BiPはp62をプルダウンしなかった。(e):R−BiPのNt−Argに対する、p62の結合領域を調べるために調製したp62フラグメントを説明するスキーム図。(f):プルダウンアッセイは、p62フラグメントおよびR−BiPペプチドを用いて行った。結果として、R−BiPのNt−Argは、p62 ZZドメインに結合した。(g):p62 ZZドメインのみを切り出して、p62−ZZ83−175−GSTおよびp62−ZZ(D129A)83−175と名付けた。(h):GSTプルダウンアッセイを、p62フラグメントを用いて行った。(i):p62−ZZ83−175−RFPおよびユビキチン−X−Bip19−124−GFPをMEF細胞に同時に過剰発現させると、Arg18−Bip19−124は、p62−ZZ83−175−RFPと斑点形成を示しながら共局在するが、一方で、Val19−Bip19−124−GFPは、p62−ZZ83−175−RFPと共局在せず斑点形成も示さなかった。
【0038】
【
図16】
図16は、R−BiPがp62依存性のオートファジー作用により分解されることを説明する図である。(a、b):Ub−X−BiP
Δ−GSTを構築して、+/+およびp62−/−細胞において過剰発現させ、次に、BiP分解アッセイを行った。(c)Ub−X−BiP
Δ−GSTのR−BiPは、オートファジー欠損ATG5−/−細胞においては分解されずに蓄積された。(d、e):Ub−R−BiP−myc/hisを用いて、シクロヘキシミドタンパク質分解定量アッセイを行った。結果として、R−BiPは、細胞内で極めて安定であることが確認された。
【0039】
【
図17】
図17は、R−BiPが、細胞質においてユビキチン化タンパク質により生成され、次いで、細胞質のミスフォールドタンパク質と結合し、オートファジーにそれらを送達することを説明する図である。(a):ポリ(dA:dT)により処理したHeLa細胞を用いてイムノブロッティングを行った。結果として、R−BiPが生成されるのに伴って、ユビキチンが結合した細胞内タンパク質が蓄積されることが確認された。(b):ユビキチン化された細胞内タンパク質の一部は、斑点としてp62に移動し、その構造内でR−BiPが共局在した。(c):種々の化学物質により細胞を処理した後、R−BiPの形成を調べるためイムノブロッティングを行った。結果として、R−BiPの形成は、プロテアソーム阻害剤により誘導されることが確認された。(d,e):プロテアソーム阻害剤と小胞体ストレスを引き起こすタプシガルジンとで同時に細胞を処理した場合には、R−BiP、R−CRT、およびR−PDIの生成が強く誘導された。(f):細胞内のミスフォールドタンパク質の生成を加速させるため、 Hsp90阻害剤であるゲルデナマイシンで処理した。結果として、R−BiPの生成が誘導されることが確認された。(g):フォールドされていないモデル基質であるYFP−CL1を過剰発現したところ、R−BiPとの直接結合体が得られた。(h、i):YFP−CL1がオートファジー小胞(vacuole)に移行してその構造内でR−BiPおよびp62と共局在することを確認するため、免疫蛍光染色を行った
【0040】
【
図18】
図18は、小化合物(small compound)ZZ−L1およびZZ−L2がp62のオリゴマー化およびLC3への結合を増加させることを説明する図である。(a、b):p62を過剰発現する細胞抽出物をZZ−L1で処理した後、P62凝集体を測定するためにインビトロオリゴマー化アッセイを行った。(c):ZZ−L1が、Arg−Algと同じ様式でP62の活性化を誘導し得るかどうかを調べた。結果として、p62のLC3への結合は、ZZ−L1用量依存的に(0、10、25、100、500、および1000μM)増加することが確認された。(d−f):ZZ−L1およびZZ−L2がp62の斑点形成を誘導し得るかどうかを調べるため、免疫蛍光共焦点顕微鏡法を行った。
【0041】
【
図19】
図19は、ZZ−L1およびZZ−L2がオートファジー活性化剤であることを説明する図である。(a):ZZリガンドが、HeLa細胞において、p62のオートファジー斑点の形成のみならずLC3のオートファジー斑点の形成をも加速させ得ることを免疫蛍光染色により確認したが、このことは、ZZリガンドがオートファジー活性化剤として機能し得ることを示唆している。(b):ZZ−L1およびZZ−L2のオートファジーにおける効果を調べるため、ウェスタンブロッティングを行った。(c):LC3の増加およびLC3−IIの形成は、si−コントロールを形質導入して、ZZ化合物であるZZ−L1およびZZ−L2により誘導された。しかしながら、この効果は、p62のノックダウンにより抑制された。(d):+/+およびp62−/−細胞を用いた同様の実験においては、ZZ−1(5mM)は、p62−/−細胞においてオートファジー活性化剤として機能しないことが確認された。(e):ZZリガンドで処理した細胞を、オートファジー阻害剤であるヒドロキシクロロキン(HCQ)で処理した後、LC3を定量するためにイムノブロッティングを行った。(f):HeLa細胞に、酸感受性GFPと酸非感受性RFPとを組み合わせて調製したRFP−GFP−LC3を安定導入し、上記と同様の方法によりオートファジー動態解析を行った。(g):ZZリガンドにより活性化されるp62は、オートファジー活性化剤として機能することを説明するスキーム図。
【0042】
【
図20】
図20は、ZZリガンドと組み合わせたp62が、mTOR非依存性オートファジーを活性化することを説明する図である。(a):HeLa細胞をZZ−L1で処理した後、シクロヘキシミドタンパク質分解アッセイを行った。結果として、p62の分解はZZ−L1により加速されることが確認された。(b、c):オートファジー活性化剤としての効果およびメカニズムをそれらの間で比較するため、HeLa細胞をZZリガンドおよびラパマイシンにより、種々の濃度で、種々の処理時間にわたって処理した。次いで、LC3生成およびLC3−II変換を比較した。(d):ラパマイシンがmTOR(mammalian Target Of Rapamycin(哺乳類ラパマイシン標的))阻害剤として作用することを説明するスキーム図。mTORが阻害されると、オートファジーの主要制御因子(ULK、ベクリン(Beclin)など)が活性化され、LC3合成およびLC3−II変換の増加が引き起こされて、オートファゴソーム生成の増加がもたらされた。(e):HeLa細胞をZZリガンドおよびラパマイシンにより処理した。次いで、mTORにより制御されるp70S6Kのリン酸化を調べた。(f):ZZリガンドが、ユビキチン化された細胞内タンパク質のオートファジーへの移動を増加させ得るかどうか調べるため、免疫蛍光アッセイを行った。結果として、5mM ZZ−L1が、オートファジー小胞へのユビキチン化タンパク質の移動を誘導することが確認された。オートファジー阻害剤であるヒドロキシクロロキンをこれに処理すると、ユビキチン化タンパク質は、オートファジー小胞に蓄積された。
【0043】
【
図21】
図21は、変異ハンチントンタンパク質凝集体が、ZZリガンドにより除去されることを説明する図である。(a):野生型ハンチントン(HDQ25-GFP)および変異ハンチントン(HDQ103−GFP;CAGが103回繰り返している)を説明するスキーム図。(b):ハンチントンタンパク質を過剰発現する細胞を、10mM ZZ−L1または1mM ラパマイシンで処理した後、細胞内の残留ハンチントンタンパク質を調べるためにドットプロットアッセイを行った。(c):HDQ103−GFPタンパク質凝集体を過剰発現するHeLa細胞を、10mM ZZリガンドで処理した後、免疫蛍光染色を行った。(d):細胞を、0.5%TritonX−100における可溶性画分と(凝集体を含む)不溶性画分とに分けた後、イムノブロッティングを行った。結果として、フォールドされていないハンチントンタンパク質は、ZZ−L1処理した凝集体画分から効率的に除去されることが確認された。(e):HeLa細胞をZZ−L1、ZZ−L2、およびラパマイシンで処理した後、イムノブロッティングを行った。(f):+/+およびATG5−/−細胞を、10mM ZZリガンドおよび1mM ラパマイシンで処理した後、イムノブロッティングを行った。
【0044】
【
図22】
図22は、HDQ103−GFPハンチントンタンパク質凝集体により形成される封入体におけるR−BiPとp62との共局在を説明する図である。(a、b、c):HDQ103−GFPを過剰発現するHeLa細胞を10mM ZZリガンドで処理した後、免疫蛍光染色を行った。
【0045】
【
図23】
図23は、p62−ZZ1、p62−ZZ2、およびラパマイシンの化学的特徴の比較を説明する図である。
【0046】
【
図24】
図24は、マウスにおけるp62−ZZ1の薬物動態学的プロファイルを説明する図である。
【0047】
好ましい態様の記載
以後、本発明を詳細に記載する。
【0048】
本発明は、活性成分としてp62 ZZドメインに結合するリガンドを用いることによりp62の機能を活性化するための方法を提供する。
【0049】
本発明はまた、活性成分としてp62 ZZドメインに結合するリガンドを含む、オートファジー活性化剤をも提供する。
【0050】
本発明はさらに、活性成分としてp62 ZZドメインに結合するリガンドを用いることにより、フォールドされていないタンパク質凝集体を除去するための方法を提供する。
【0051】
加えて、本発明は、神経変性疾患の抑制および処置のための医薬組成物であって、活性成分としてp62 ZZドメインに結合するリガンドを含む、前記組成物を提供する。
【0052】
前記p62は、配列番号1により表されるアミノ酸配列から構成されている。前記ZZドメインは、特徴として、配列番号1により表されるp62タンパク質のアミノ酸配列の128〜163残基を含有する。
【0053】
上記リガンドは、以下のペプチドを含有する。下記の配列番号2〜9により表されるリガンドにおいて、p62 ZZドメインに直接結合することができる活性成分は、Nt−Arg(式1)、Nt−Phe(式2)、Nt−Trp(式3)、またはNt−Tyr(式4)のN−末端残基であった:
配列番号2:Arg−Ala;
配列番号3:Phe−Ala;
配列番号4:Trp−Ala;
配列番号5:Tyr−Ala;
配列番号6:Arg−Ile−Phe−Ser−Thr−Ile−Glu−Gly−Arg−Thr−Tyr−Lys(R−11);
配列番号7:Trp−Ile−Phe−Ser−Thr−Ile−Glu−Gly−Arg−Thr−Tyr−Lys(W−11);
配列番号8:BiPタンパク質のN−末端のGlu19がアルギニル化されている(R−BiP);および
配列番号9:アルギニル化されたBiP N−末端ペプチド(R−BiPD)。
[式1]
【化1】
[式2]
【化2】
[式3]
【化3】
[式4]
【化4】
【0054】
上記リガンドは、下記の式5(p62−ZZ1;2−(3,4−ビス(ベンジルオキシ)ベンジルアミノ)エタノール)により表される化合物または式6により表される化合物(p62−ZZ2;1−(3,4−ビス(ベンジルオキシ)フェノキシ)−3−(イソプロピルアミノ)プロパノール)を含む。特に、p62−ZZ2はNCI314953として知られている。
[式5]
【化5】
[式6]
【化6】
【0055】
加えて、上記リガンドは、p62 ZZドメインに結合し、PB1ドメインおよびp62のLIRドメインを活性化することで、p62のオリゴマー化および凝集体形成を誘導し、また、p62凝集体形成を誘導することによりオートファゴソーム形成を増加させる。上記で説明したプロセスにより、ミスフォールドタンパク質を効率的に除去することができる(
図1参照)。
【0056】
本明細書において、神経変性疾患は、ライムボレリア症、致死性家族性不眠症、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、多発性硬化症(MS)、認知症、アルツハイマー病(AD)、てんかん、パーキンソン病(PD)、脳卒中、ハンチントン病(HD)、ピック病、および筋萎縮性側索硬化症(ALS)からなる群から選択される。
【0057】
本発明の好ましい態様においては、本発明者らは、Nt−Arg、Nt−Phe、Nt−Trp、およびNt−Tyrに結合することができるN−レコグニンとしてp62を同定した(
図5参照)。特に、p62は、Nt−Argに対する優れた結合力を有することが確認された(
図6参照)。本発明者らはまた、p62 ZZドメインが上記結合に関与していることを確認した(
図7参照)。N−リガンドであるArg−Alaは、p62の自己オリゴマー化および凝集体形成を誘導し(
図8d参照)、また、p62のLC3への結合をも増加させた(
図8f)。N−末端がアルギニル化されたBiP(R−BiP)、カルレティキュリン(calreticulin)(R−CRT)、およびタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(R−PDI)は、N−末端アルギニル化を介したNt−Argを得ることにより、小胞体タンパク質から同定された(
図9参照)。これらのタンパク質のN−末端アルギニル化は、ATE1を介していることが確認された(
図10参照)。また、細胞質内の外来DNAは、R−BiP生成を誘導し得ること(
図12参照)、およびこの際に、R−BiPはp62と一緒にオートファゴソームへ送達されること(
図13参照)が確認された。R−BiPは、P62依存的にオートファジー作用によって分解され、次いでユビキチン化された(
図16参照)。本発明者らはまた、Nt−Trpに構造的に類似している小化合物(ZZ−L1およびZZ−L2)をも同定した(
図18参照)。さらに、本発明者らは、ZZ−L1およびZZ−L2が細胞内オートファゴソーム形成を増加させることを確認した(
図19参照)。ZZ化合物は、リソソームおよびオートファゴソームに融合すること(
図20)、ならびにオートファジーの活性化を介して、ハンチントン凝集体を含むミスフォールドタンパク質を除去すること(
図21および22参照)が確認された。
【0058】
したがって、p62 ZZドメインに結合する本発明のリガンドは、p62のオリゴマー化および凝集体形成を誘導することができるため、これを用いてオートファジーを制御することにより、神経変性疾患の抑制および処置のための医薬組成物のための活性成分として効果的に用いることができる。
【0059】
本発明による治療薬剤または医薬組成物は、通常用いられる薬学的に許容し得る担体と一緒に適切な形態に製剤することができる。本明細書において、前記「薬学的に許容し得る」は、生理学的に許容し得るものであって、いかなるアレルギー反応または胃腸疾患やめまいなどのアレルギー様反応を引き起こすことがない組成物を意味する。薬学的に許容し得る担体としては、水、適切な油、生理食塩水、含水グルコースおよびグリコールなどが例示され、追加的に安定剤および防腐剤を含み得る。適切な安定剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、およびアスコルビン酸などの抗酸化剤が例示される。適切な防腐剤としては、塩化ベンザルコニウム、メチル−またはプロピル−パラベン、およびクロロブタノールが例示される。加えて、本発明の組成物は、懸濁剤、可溶化剤、安定剤、等張化剤、防腐剤、吸収阻害剤、界面活性剤、希釈剤、賦形剤、pH調整剤、鎮痛剤、緩衝剤、抗酸化剤などの様々な添加剤を含有し得る。本発明に適切な、薬学的に許容し得る担体および製剤は、上記に例示されたものが含まれるが、Remingtons’s Pharmaceutical Science(最新版)に詳細に記載されている。
【0060】
本発明の組成物は、単回投与または複数回投与の容器の形態で、薬学的に許容し得る担体および/または賦形剤を用いることにより、当業者により実施し得る方法で製剤することができる。製剤は、溶液、懸濁液、油溶性もしくは水溶性媒体中の懸濁液またはエマルジョン、粉末、顆粒、錠剤あるいはカプセルの形態であり得る。
【0061】
本発明の式5または式6により表される化合物は、薬学的に許容し得る塩の形態として用いることができ、ここで塩は、好ましくは、薬学的に許容し得る遊離酸により形成される酸付加塩である。酸付加塩は、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜硝酸および亜リン酸などの無機酸、または、脂肪族一価/二価カルボン酸塩、フェニル置換アルカン酸塩、ヒドロキシアルカン酸塩、アルカン二酸塩、芳香族酸および脂肪族/芳香族スルホン酸などの非毒性有機酸から得ることができる。薬学的に非毒性である塩としては、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソブチル酸塩、カプリン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオール酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、カバカート(cabacate)、フマル酸塩、マリアート(maliate)、ブチン―1,4―ジオエート、ヘキサン―1,6―ジオエート、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、テレフタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、クロロベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニルブチル酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、ヒドロキシブチル酸塩、グリコール酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン−1−スルホン酸塩、ナフタレン−2−スルホン酸塩およびマンデル酸が例示される。
【0062】
本発明における酸付加塩は、当業者に既知の慣用の方法により調製することができる。例えば、式5または式6の化合物を、アセトン、メタノール、エタノール、またはアセトニトリルなどの水混和性有機溶媒に溶解して、そこに過剰の有機酸または無機酸の酸性水溶液を加え、沈殿または結晶化を誘導する。次いで、溶媒または過剰の酸を混合物から蒸発させて、混合物を乾燥させ付加塩を得る、あるいは、沈殿した塩を吸引ろ過して付加塩を得る。
【0063】
薬学的に許容し得る金属塩は、塩基を用いることにより調製することができる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩は、以下のプロセスにより得られる:化合物を過剰の水酸化アルカリ金属または水酸化アルカリ土類金属溶液に溶解するプロセス;不溶性の化合物塩をろ過するプロセス;残留溶液を蒸発させて、それを乾燥させるプロセス。この際、金属塩は、好ましくは、薬学的に適切な形態のナトリウム、カリウム、またはカルシウム塩で調製される。また、対応する銀塩は、適切な銀塩(例;硝酸銀)とアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩の反応により調製される。
【0064】
本発明の医薬組成物の投与方法は、剤形にしたがって容易に選択することができ、様々な経路を用いて家畜およびヒトなどの哺乳類に投与することができる。例えば、粉末、錠剤、丸薬、顆粒、糖衣錠、ハードまたはソフトカプセル、液剤、エマルジョン、懸濁剤、シロップ、エリキシル、外用剤、坐剤および滅菌注射液の形態に製剤することができ、全身または局所投与、あるいは経口または非経口投与することができる。この際、非経口投与が特に好ましい。
【0065】
非経口投与の剤形は、滅菌水溶液、水不溶性賦形剤、懸濁剤、エマルジョン、凍結乾燥製剤、坐剤である。水不溶性賦形剤および懸濁剤は、活性化合物または化合物に加えて、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、エチルオラート(ethylolate)などの注射可能なエステルを含有し得る。坐剤は、活性化合物または化合物に加えて、ウイテプゾール(witepsol)、マクロゴール、tween61、カカオバター、ラウリンバター、グリセロール、ゼラチンなどを含有し得る。
【0066】
経口投与のための固形製剤は、錠剤、丸薬、粉末、顆粒およびカプセルである。これらの固形製剤は、式5または式6により表される化合物を、デンプン、炭酸カルシウム、蔗糖または乳糖、ゼラチン等、といった1種以上の適切な賦形剤と混合することにより調製される。簡単な賦形剤以外に、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の潤滑剤を使用することができる。経口投与のための液体製剤は、懸濁剤、溶液、エマルジョン、およびシロップであり、上記製剤は、一般的に用いられる水や流動パラフィンなどの簡単な希釈剤に加えて、湿潤剤、甘味料、香料、および防腐剤などの様々な賦形剤を含有し得る。
【0067】
本発明の医薬組成物の効果的な用量は、体重、年齢、性別、健康状態、食習慣、投与頻度、投与方法、排泄および疾患の重症度にしたがって決定することができる。経口投与の場合には、医薬組成物は、成人(60kg)に対して、1日あたり1ng〜10mg、好ましくは、1日あたり1mg〜1gで投与することができる。当業者には、用量は様々な条件に依存して変化し得るため、用量は、追加しても、減じてもよく、したがって、用量によっては決して本発明の範囲を限定することはできない。
【0068】
投与頻度は、望ましい範囲内で、1日に1回または1日に2〜3回であり、投与期間は特に限定されない。
【0069】
本発明はまた、神経変性疾患の抑制および改善のための健康機能食品サプリメントであって、活性成分としてp62 ZZドメインに結合するリガンドを含む、前記サプリメントをも提供する。
【0070】
上記リガンドが、Arg−Ala(配列番号2)、Phe−Ala(配列番号3)、Trp−Ala(配列番号4)、Tyr−Ala(配列番号5)、R−11(配列番号6)、W−11(配列番号7)、R−BiP(配列番号8)、およびR−BiPD(配列番号9)からなる群から選択される。上記リガンドの活性成分は、Nt−Arg(式1)、Nt−Phe(式2)、Nt−Trp(式3)、およびNt−Tyr(式4)からなる群から選択される、N末端残基である。
【0071】
上記リガンドは、p62−ZZ1(式5)またはp62−ZZ2(式6;NCI314953)である。
【0072】
本発明の化合物を含有することができる食品の種類は、限定されないが、健康食品の生産に適用可能なほぼすべてのあらゆる食品が含まれ得る。
【0073】
本発明の化合物は、そのままで加えることができ、または、慣用の方法にしたがって、他の食品成分と混合して加えることもできる。活性成分の混合比は、使用の目的(抑制または健康増進)にしたがって、調整され得る。一般には、健康食品または飲料を生産するためには、本発明の化合物は、好ましくは0.1〜90重量部で加えられる。しかしながら、健康および衛生のためまたは健康状態を制御するために、長期投与が必要である場合には、含有量は、上記よりも少なくてもよいが、化合物は極めて安全であることが証明されているので、より高い含有量もまた許容され得る。
【0074】
本発明の健康飲料のための組成物は、化合物に加えて、他の飲料のように、様々なフレーバーまたは天然の炭水化物を追加的に含んでもよい。上記の天然の炭水化物は、ブドウ糖および果糖などの単糖類、マルトースおよび蔗糖などの二糖類、デキストリンおよびシクロデキストリンなどの多糖類、ならびにキシリトール、ソルビトールおよびエリスリトールなどの糖アルコール類の1種であってもよい。さらに、甘味料としては、天然甘味料(タウマチン、ステビア抽出物、例えば、レバウジオシドA、グリシリジン等)、および合成甘味料(サッカリン、アスパルテート等)が含まれ得る。天然の炭水化物の含有量は、組成物100ml中、好ましくは、1〜20g、およびより好ましくは5〜10gである。
【0075】
上記成分に加えて、本発明の健康食品組成物は、様々な栄養素、ビタミン、ミネラル(電解質)、天然フレーバーおよび合成フレーバーを含むフレーバー、着色料、および増量剤(チーズ、チョコレート等)、ペクチン酸およびその塩、アルギン酸およびその塩、有機酸、保護コロイド増粘剤、pH調整剤、安定剤、殺菌剤、グリセリン、アルコール、ソーダに加えるのに用いられる炭酸ガス(carbonator)等を含んでもよい。本発明の健康食品組成物はまた、野菜飲料に加えることができる天然の果汁、果物飲料および/または果肉を含んでもよい。
【0076】
全ての上記成分は、単一で加えてもよく、一緒に加えてもよい。これらの成分の混合比は、実際には問題とならないが、一般的には、本発明の化合物100重量部あたりそれぞれ0.1〜20重量部で加えることができる。
【0077】
したがって、本発明のp62 ZZドメインに結合するリガンドは、p62のオリゴマー化および凝集体形成を誘導することができるため、これを用いてオートファジーを制御することにより、神経変性疾患の抑制および改善のための健康食品サプリメントとして効果的に用いることができる。
【0078】
加えて、本発明は、p62 ZZドメインまたはp62タンパク質に結合するリガンドで細胞を処理するステップを含む方法であって、リガンドをp62 ZZドメインに結合させることにより、p62のオリゴマー化を誘導するための;p62とLC3との間の結合を増加させるステップを含む、p62の活性を増加させるための;p62 ZZドメインにリガンドを結合させることによりオートファゴソームへの662の輸送を増加させるための;p62 ZZドメインにリガンドを結合させることにより、オートファジーの活性化を誘導するための;p62 ZZドメインにリガンドを結合させることにより、フォールドされていないタンパク質凝集体をオートファゴソームへ送達するため;ならびに、p62 ZZドメインに結合するリガンドを用いてオートファジーを活性化させることによって、ミスフォールドタンパク質凝集体のリソソームを介した分解を増加させるための、前記方法を提供する。
【0079】
したがって、本発明のp62 ZZドメインに結合するリガンドは、p62のオリゴマー化および凝集体形成を誘導することができるため、これを用いてオートファジーを制御することにより、神経変性疾患の抑制および処置のために効果的に用いることができる。
【0080】
本発明の実際的で代表的な好ましい態様は、下記例に示されるように説明される。
しかしながら、当業者は、本開示を考慮すれば、本発明の意図および範囲を逸脱することなく改変および改善し得ることが理解されるであろう。
【0081】
例1:p62の新規N−レコグニンとしての同定
N−デグロンに結合する新規N−レコグニンを同定するため、N−末端にN−デグロンを付加うすることにより、ペプチドを合成した。次いで、ラット組織抽出物中で、合成されたペプチドに結合し得るタンパク質の種類を調べた。
【0082】
特に、iTRAQ((アイソバリックタグ相対および絶対定量法))に関連してX−ペプチドプルダウンアッセイおよび質量分析を行った。N−末端則相互作用タンパク質として、ラット精巣抽出物を用い、ストレプトアビジンビーズに固定したビオチンラベルしたX−ペプチド(R11配列:RIFSTIEGRTY(タイプ1))、F11配列(FIFSTIEGRTY(タイプ2)、およびV11(安定化されたコントロール)(VIFSTIEGRTY)も用いた(
図5aおよびd)。X−ペプチドに連結された10−merリンカーは、N−末端則の基質であるシンドビスウイルスポリメラーゼnsP4に由来した。混合物を5×PBSで希釈した後、4℃で一晩培養した。各X−ペプチドを用いることによってプルダウンされたタンパク質は、iTRAQにより異なる蛍光色素でラベルした。Mascotスコアに基づき、約200種のタンパク質が同定されたが、これには、N−末端則経路に関与する、哺乳類UBRボックスE3ファミリー、URB1、UBR2、UBR4、およびUBR5が含まれていた。
【0083】
結果は、X−ペプチドプルダウンアッセイ後のイムノブロッティングにより確認された(
図5e−i)。UBR1は、R11およびF11プルダウンアッセイの両方において観察された。UBR2は、F11プルダウンアッセイにおいてのみ観察された。UBR4およびUBR5は、R11アッセイにおいて観察された。V11(安定化されたコントロール)プルダウンアッセイの結果として、UBRタンパク質は沈降しなかった。UBR E3リガーゼに加えて、R11沈降サンプルにおいて質量分析によって同定されたタンパク質は、セクエストソーム1(p62)タンパク質であった。
【0084】
図5cにおいて示されるように、銀染色ゲルのR11プルダウンサンプルにおいては62kDa周辺領域に強いバンドが観察されたが、このバンドは、ネガティブコントロールであるV11プルダウンサンプルにおいては観察されなかった。質量分析の結果によれば、バンドはp62/sqstm1(以後、p62という)であることが確認された(
図5c)。上記の実験結果から、p62が新規N−レコグニンであることが確認された。
【0085】
例2:Nt−Arg、Nt−Phe、Nt−Trp、およびNt−Tyrに結合することができるN−レコグニンとしてのp62の同定
例<1−1>におけるp62タンパク質をより明確に同定するため、以下の実験を行った。
【0086】
特に、ヒトp62のアミノ酸1〜440に対応する全長組み換えタンパク質により産生されたマウスモノクローナルp62抗体(1:500、ab56416, Abcam, Cambridge, UK)を用いてウェスタンブロッティングを行った。結果として、
図5dに示されるように、インビトロ転写および翻訳されたp62は、R11ペプチドに対して特異的に強い結合親和性を示したが、F11ペプチドに対しては弱い結合親和性を示し、V11ペプチドに対しては有意な結合を示さなかった(
図5d)。R11ペプチドは、本明細書の実験に用いられた濃度に基づき、少なくとも40%の効率でp62を沈殿させることができるが、一方で、F11ペプチドは、5%の効率であった。この結果は、ジペプチド競合アッセイにより確認された。RAペプチド(Arg−Ala)は、p62の結合において、極めて効果的にR11ペプチドと競合した。次に効率的な競合ペプチドは、もう一つのタイプ1N−末端則ペプチドである、HA(His−Ala)であった(
図5hおよびi)。タイプ2ペプチドでは、WA(Trp−Ala)が効率的であったが、FA(Phe−Ala)は効率的でなかった。ARを用いた競合アッセイの結果から、RA、HAおよびWAは、N−末端則に特異的であることが確認された。上記結果は、p62がタイプ1およびタイプ2N−末端則ペプチドの両方に結合できることを意味する。
【0087】
p62のN−末端残基への結合特異性を直接決定するため、X−ペプチドプルダウン法を用いることにより、様々なN−末端残基を有するペプチドとのp62の結合を調べた。
【0088】
結果として、
図5hにおいて示されるように、p62は、三種類のN−末端則N−末端残基R11、H11、およびK11に結合できることが確認された(
図5h)。また、p62は、R11ペプチドに強く結合し、K11に中程度に結合し、H11に弱く結合することも確認された。内在性p62もまた、4種のN−末端則N−末端残基のうちの3種であるF11、W11およびY11に結合し、L11に結合しなかった(
図5h)。
Arg(R)、His(H)およびLys(K)は、正電荷を持つ側鎖を有し、一方で、Phe(F)、Trp(W)およびTyr(Y)は、芳香族側鎖を有する。p62に結合するアミノ酸の特徴から、p62は、正に荷電しているかまたは、芳香族側鎖を好む可能性があることが確認された。p62は、Val(V)、Leu(L)およびGly(G)などの疎水性側鎖を有するアミノ酸、ならびにAsp(D)などの負に電荷している側鎖を有するアミノ段を好まなかった。上記結果は、p62が、Nt−Arg、Nt−Trp、Nt−Phe、およびNt−Tyrに選択的に結合することを意味する。
【0089】
例3:p62のNt−ArgおよびNt−Pheに対する結合力の評価
p62のNt−ArgおよびNt−Pheに対する結合定数を決定するために以下の実験を行った。
【0090】
特に、大腸菌においてp62−D3−GSTを発現させた後、純度50%で精製した。ビオチンラベルしたX−ペプチドを、表面プラズモン共鳴バイオセンサー(Biacore)を用いて、ストレプトアビジンコートしたチップに固定し、次いでp62−D3−GSTタンパク質を固定したペプチドに挿入した。
【0091】
結果として、
図6において示されるように、p62−D3−GSTは、R11ペプチドに強く結合し、F11に弱く結合し、V11には結合しなかった(
図6)。R11およびF11のKd値は、それぞれ44nMおよび3.4μMであった。特に、p62のNt−Argに対する結合力は、UBRボックスを含むN−レコグニンに対する結合力(Kd,3.2μM)よりも約50倍も高かった。この結果は、p62が新規薬剤のターゲットであることを意味する。
【0092】
例4:p62 ZZドメインに対するNt−ArgおよびNt−Pheの直接結合
Nt−Argが結合するp62の位置を調べるため、一連のp62の欠失変異体(D1〜D8)を構築し、R11およびW11に対するこれらの結合を、例1に記載されているのと同じ方法によるX−ペプチドプルダウンアッセイによって確認した。
【0093】
特に、D1〜D4は、一連のp62C−末端欠失変異体である。D5〜D8は、一連のp62N−末端欠失変異体である。Nt−ArgおよびNt−Trpは、ZZドメインを含むD2、D3、D4、およびD5に結合したが、ZZドメインを含まないD1、D6、およびD7には結合しなかった(
図7a−b)。p62のNt−ArgおよびNt−Trpとの結合領域をさらに正確に調べるため、p62 D3C−末端において欠失変異体を作製し、そのN−末端則N−末端との結合をX−ペプチドプルダウンアッセイにより調べた(
図7c)。全部で9種のp62欠失変異体のうち、CD1〜CD6がNt−ArgおよびNt−Trpと結合した(
図7d)。ZZドメインのジンクフィンガーモチーフ構造である、2個のヒスチジン残基がないCD7由来の変異体は、これには結合しなかった。N−末端の最小ZZドメインは、X−ペプチドプルダウンアッセイにより決定された(
図7e)。全長p62のPB1ドメインから始まってZZドメインの真ん中領域までの領域において、6種のN−末端変異体を構築した。ND−1、ND−2、ND−3、およびND−4はNt−Argに結合したが、ND−5およびND−6はこれに結合しなかった(
図7f)。ND5は、UBRボックスにおいて保存されている非定型二核Zn−フィンガーの要素である、システイン残基(C128)およびアスパラギン酸(D129)を含まない。ZZドメインがないp62変異体は、Nt−Argに結合することができなかった(
図7g−h)。ZZドメイン(#83〜175)のみを含むフラグメントが、Nt−Argに結合することができたが、D129A変異体は、これに結合することができなかった(
図7i−j)。上記結果は、Nt−ArgおよびNt−Trpが、p62 ZZドメインに結合することを意味する。
【0094】
Nt−ArgおよびNt−Trpのp62への結合が、N−末端則によるものであるかどうかを調べるため、p62(1−440)のD129、D142_145、D147_149、D151_154、H160_163およびE177をアラニンにより置換することにより構築し、X−ペプチドプルダウンアッセイを行った。ZZドメイン変異体は、Nt−ArgおよびNt−Trpに結合することができなかった(
図7k)。上記結果は、ZZドメインおよびUBRボックスが、N−末端則を介してNt−ArgおよびNt−Trpに結合することを意味する。CysおよびHis残基は構造的要素として作用し、アスパラギン酸は、N−デグロンの認識において重要な役割を果たす。以前に記載したように、上記結果は、N−末端則N−末端に基づくp62 ZZドメインの結合特性は、UBRボックスの結合特性を類似していることを意味し、これはまた、ZZドメインが、構造においてUBRボックスと類似していることを意味する。X−ペプチドがp62に結合する際、Nt−ArgおよびNt−TrpなどのN−末端残基は、N−リガンドの活性成分である。
【0095】
例5:p62 ZZドメインのUBR N−レコグニンUBRボックスとの構造的および機能的相同性
UBRボックスは、UBR1〜UBR7として指定されているN−末端則E3ファミリーに存在する基質認識ドメインである70残基から構成されている。p62 ZZドメインの一次配列を、ClustalWプログラムを用いることにより、種々の生物に由来するUBR E3リガーゼのUBR領域配列と比較した。
【0096】
結果として、p62 ZZドメインは、構造においてUBRボックスと類似していることが確認された(
図7l)。UBRボックスの典型的なC2H2ジンクフィンガーフォールドは、p62 ZZドメインにおいてもよく保存されていた。加えて、UBRボックスの非定型二核Zn−フィンガーフォールドは、p62 ZZドメインにおいて部分的に保存されていた。UBR領域は、3つのよく保存されたアスパラギン酸(D118、D150およびD153)を含んでいたが、これは、基質のN−末端則N−末端残基への結合に必要であった。p62 ZZドメインもまた、D129、D147およびD149を含む3つのアスパラギン酸残基を含んでいた。ZZドメインのD147のみが、UBRボックスにおいて保存されていた(D118)。これら3つの負に荷電した(酸性)アスパラギン酸残基は、UBRボックスにおいてそうであるように、N−末端則N−末端残基への結合に必須であることが証明された。上記結果は、p62が正に荷電した(塩基性)側鎖への結合を好むことを証明した前記のプルダウンアッセイの結果と一致していた。C2H2ジンクフィンガー構造および3つのアスパラギン酸残基に加えて、3つの同一(赤い)残基(Y140、D147およびL150)がZZドメインにおいて観察され、2つの同一残基(G173およびW184)ならびに1つの保存された(赤い)残基(E177)がZZドメインの外側に観察された(
図2b)
【0097】
例6:N−リガンドArg−Alaにより誘導される、p62の自己オリゴマー化および凝集体形成
N−リガンドArg−Alaが、p62 ZZドメインへ結合することにより、p62の自己オリゴマー化および凝集体形成を誘導することができるかどうかを調べるため、全長p62を発現させたHEK293細胞溶解物を用いてインビトロオリゴマー化アッセイを行い、非還元SDS−PAGEを行った(
図8)。
【0098】
HEK293細胞はp62−myc/hisを発現するDNAプラスミドを形質導入した。24時間後、細胞を溶解バッファー(50mM HEPES、pH7.4、0.15M KCl、0.1%Nonidet P−40、10%グリセロール、プロテアーゼ阻害剤、およびホスファターゼ阻害剤)で溶解し、次いで2回の低温−解凍サイクルを行った。細胞懸濁液は、1時間、氷中で培養した後、4℃で13,000xgにて20分間遠心した。Bradfordアッセイによりタンパク質濃度を測定した。p62オリゴマー化実験においては、1μgのp62タンパク質を、100μMのベスタチン存在下において室温で、(最終濃度0.5または1.0Mで水に溶解した)ジペプチドと一緒にまたはジペプチド無しで、培養した。サンプルは、4%ドデシル硫酸リチウム(LDS)を含有する非還元ローディングバッファーと混合し、95℃で10分間加熱した後、SDS電気泳動を行った。p62のモノマー、オリゴマー、および凝集体は、p62およびmyc抗体の混合物を用いて検出した。Arg−Ala、Lys−AlaおよびHis−Ala(タイプ1);Phe−Ala、Trp−AlaおよびTyr−Ala(タイプ2);ならびにAla−ArgおよびAla−Phe(安定化)などの様々なペプチドは、溶解液中で培養され、myc/p62抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。
【0099】
結果として、
図8aにおいて示される通り、これらのペプチドのうち、Nt−Argを含むArg−Alaのみが、特異的なp62のオリゴマー化および凝集体形成を誘導することができた(
図8a−ca)。この結果は、N−リガンドArg−Alaが、p62の自己オリゴマー化および凝集体形成を誘導することを意味する。
【0100】
p62のPB1ドメインが、p62の凝集体形成に関与しているかどうかを調べるため、D69A変異体の凝集能を評価した。結果として、D69A変異体は、Nt−Argに結合したが、Arg−Alaは、p62変異体凝集体の形成を誘導しなかった(
図8e)。
【0101】
例7:ZZドメインは、Arg−Alaにより誘導されるp62のオリゴマー化に必須である
p62のオリゴマー化を誘導するために、ZZドメインがArg−Alaへ結合することが必要かどうかを調べるため、Arg−11ペプチドに結合することができないp62 ZZ変異体を用いてp62オリゴマー化アッセイを行った。
【0102】
結果として、
図8dにおいて示される通り、野生型p62は、効果的にオリゴマー化/凝集したのに対し、ZZ変異体はしなかった(
図8d)。この結果は、Arg−AlaがZZドメインに結合することによりp62のオリゴマー化を誘導することを意味する。
【0103】
例8:Arg−Alaにより誘導されるp62およびLC3の間の結合増加
p62のオリゴマー化は、まずオートファゴソーム開始部位へのp62の送達が必要とされ、次いでLC3とp62のオリゴマーとの相互作用を介して、自己小胞体の膜へ導入される(Itakura et al., 2011)。p62のLC3への結合におけるArg−Alaの効果を確認するため、ELISAを行った(
図8f−h)。
【0104】
p62KOマウス胎仔繊維芽細胞に全長p62およびp62変異体を形質導入した。24時間後、細胞を溶解バッファーで溶解した後、4℃にて13000rpmで遠心した。細胞溶解液(20μg)を、タイプ1およびタイプ2ジペプチドを室温で1.5時間培養したGSHでコートされたプレートに固定されたGSTタグが付いたLC3組み換えタンパク質(Enzo lifescience, BML-UW1155)と培養した。p62結合体は、抗p62抗体(SC-28359, Santa Cruz)と室温で1時間培養した。HRP結合2次抗体を45分間培養した後、検出した。プレートをPBSで3回洗浄した。TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)基質(Priece, 34021)をプレートの各ウェルに加え、これを室温で10分間暗室において色素変化を誘導した。TMB停止溶液である2NH
2SO
4をこれに加え、次いでOD
450を測定した。
【0105】
結果として、
図8fにおいて示される通り、種々のペプチドのうち、Arg−Alaがp62とLC3との結合を増強する唯一のペプチドであった。例えば、129A、C142/145A、D147/149A、C151/154A、H160/163AおよびZZ delといったp62 ZZ変異体、ならびに例えば、D56AといったPB1変異体は、LC3と結合しなかった(
図8gおよびh)。したがって、上記結果から、Arg−Alaはp62 ZZドメインと結合して立体構造変化を誘導し、PB1ドメインを介してp62凝集体を活性化し、LIRドメインを介してp62−LC3相互結合を誘導することが確認された。
図8iは、p62の不活性化形態と活性化形態とを説明する図である。
【0106】
例9:N−末端アルギニル化を介してNt−Argを得る小胞体タンパク質の同定
p62 ZZドメインの生理的N−リガンドであるNt−Argは、ATE1 R−トランスフェラーゼによるN−末端アルギニル化を介して生成されるため、小胞体タンパク質のN−末端配列を、バイオインフォマティクスを用いて調べた。
【0107】
結果として、Nt−ArgおよびNt−Gluは、N−末端分解経路(N−末端則経路)に基づいてATE1 R−トランスフェラーゼによるアルギニル化のための基質として作用することが確認され;ならびにしたがって、Nt−ArgがN−リガンドとして機能する可能性が確認された(
図10a)。バイオインフォマティクス技術を用いることにより、Nt−AspまたはNt−Gluおよびアミノ酸L−Argを含むBiP、カルレティキュリン(CRT)、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)、GRP94およびERdJ5などの多数の小胞体シャペロンが、アルギニル化を媒介するATE1 R−トランスフェラーゼにより得られた(
図9)。
【0108】
例10:N−末端アルギニル化BiP、CRTおよびPDI亜集団特異的抗体の構築
N−末端アルギニル化BiP(R−BiP)、カルレティキュリン(R−CRT)、およびタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(R−PDI)を特異的に認識する抗体を構築するため、REEEDKKEDVG(R−BiP)、REPAVYFKEQ(R−CRT)、およびRDAPEEEDHVL(R−PDI)などのこれらN−末端アルギニル化タンパク質のN−末端に対応するペプチドを合成した。これらのペプチドをウサギに接種し、抗体血清を得た。抗体はIgGクロマトグラフィーにより精製した。抗体群は、非特異的抗体を除くために、リガンドとしてEEEDKKEDVGC、EPAVYFKEQ、およびDAPEEEDHVLなどの非アルギニル化ペプチドを用いたクロマトグラフィーに通した。最後に、アルギニル化特異的抗体は、リガンドとしてREEEDKKEDVGC(R−BiP)、REPAVYFKEQ(R−CRT)、およびRDAPEEEDHVL(R−PDI)などのアルギニル化ペプチドを用いたクロマトグラフィーに通すことにより精製した(
図10b)。
【0109】
例11:BiP、CRT、およびPDIの、ATE1を介したN−末端アルギニル化
ATE1 R−トランスフェラーゼイソメラーゼを過剰発現させ、次いでR−BiP形成をR−BiP抗体を用いて調べた(
図10d)。siRNAを用いてATE1をノックダウンした場合、R−BiPの形成は減少した(
図10e)。さらに、Ub−X−BiPフラグ(X=GluまたはVal)を過剰発現させて、アルギニル化を調べた(
図11a)。Ub−X−BiP−フラグは、翻訳と同時に脱ユビキチン化酵素によりUbとX−BiP−フラグに変換される。組み換えタンパク質を用いることで、X−BiPのNt−Glu19は、アルギニル化される残基であることが明らかになった(
図11a)。
【0110】
もう一つの組み換えタンパク質であるUb−X−BiP−myc/hisコンストラクトも作製した(
図11b)。ここでXには、Arg18、Glu19、またはVal19が含まれていた。コンストラクトは、ERシグナルを含まないため、細胞質に留まった。いったんユビキチンが、ユビキチン加水分解酵素により除去されると、N−末端領域が露出する。このコンストラクトを用いることで、X−BiPはNt−Glu19がアルギニル化された(
図11c)。R−BiPは、ATE1ノックアウト細胞においては生成されなかった(
図11d)。ERストレスを引き起こすタプシガルジンを用いた実験によって、R−BiPはERストレスによって生成するのではなく、ATE1 R−トランスフェラーゼにより誘導される酵素反応の生成物として生成することが確認された(
図11e)。細胞分画によって調べたところ、生成されたR−BiPは大量に細胞質に移動した(
図11f)。シクロヘキシミドタンパク質分解法により調べたところ、細胞質中の移動したR−BiPは、小胞体中の非アルギニル化BiPと比べて、相対的に分解されていなかった(
図11g)。これは、R−BiPがオートファジーに移行する実験結果と一致する。これらの結果は、BiPが細胞質に移動すると、BiPのN−末端Nt−Glu19がATE1によりアルギニル化されることを意味する。
【0111】
CRTおよびPDIもまたATE1によるアルギニル化を受けるかどうかを調べた。結果として、ATE1アイソザイムを過剰発現させた場合には、R−CRTおよびR−PDIが生成されることが確認された(
図11h)。これらの結果は、BiP、CRT、およびPDIに加えて、多数の小胞体シャペロンならびに他のタンパク質が、ATE1を介したN−末端アルギニル化により修飾され得ることを意味する。
【0112】
例12:細胞質における外来DNAにより誘導されるR−BiP生成
R−BiP生成の原因を調べるため、小胞体タンパク質のN−末端アルギニル化を引き起こし得るストレスを種々の方法で調べた。
【0113】
結果として、
図12において示される通り、R−BiPの生成は、細胞質に二重らせんDNA(dsDNA)が導入された場合に特異的に誘導された(
図12aおよびb)。R−BiPに加えて、R−CRT生成もまた、細胞質にdsDNAが導入された場合に特異的に誘導された(
図12bおよびc)。細胞質へのBiPの移行およびその引き続くR−BiPへのアルギニル化が、細胞質のdsDNAにより誘導されることが、細胞分画法を用いて観察された(
図12d)。R−BiP、R−CRT、およびP−PDIは、DNAを含む病原体(ウイルスまたは細菌)を模倣するポリ(dA:dT)を用いることで、侵襲DNAに対する先天性の免疫反応の一部として生成されることが確認された(
図12e−g)。侵襲DNAはまた、オートファジー活性化を引き起こした(
図12bおよびf)。
【0114】
例13:R−BiPのp62を伴ったオートファゴソームへの輸送
R−BiPおよびp62のオートファゴソームへの同時輸送を観察するため、免疫染色を行った。
【0115】
結果として、
図13において示される通り、細胞質のR−BiPは、細胞構造のように斑点になって集結することが確認された(
図13a)。R−BiPの斑点は、p62の斑点と共局在しており(
図13aおよびc)、またLC3とも共局在していた(
図13b−d)。また、BiPは、マウス胎仔心臓においてはLC3陽性オートファゴソームに移行することが確認された(
図13e)。siRNAを用いてATE1またはBiPをノックダウンすると、R−BiPはオートファゴソームに移動することができなくなった(
図13f−h)。p62がノックアウトされた場合にも、同様の結果が観察された(
図13f−h)。これらの結果は、細胞質のR−BiPが、p62を介してオートファゴソームに移行し、最終的にリソソームにより分解されることを意味する。
【0116】
例14:
Nt−ArgはR−BiPのオートファゴソームへの送達に必要である
細胞においてUb−X−BiP−GFP組み換えタンパク質(X=Arg、Glu、またはVal)を過剰発現することによりX−BiP−GFPを生成し(
図14a)、その移動を調べるため、免疫染色を行った。R−BIPは、オートファゴソームに移行した(
図14c)。一方、Val−BiP(アルギニル化の基質としては用いることができないようにNt−Glu19がValで置換されている)は、Nt−Argがないためにオートファゴソームに移行しなかった(
図14c)。LC3の斑点と比較すると、R−BiPの細胞内局在は、LC3のそれと一致していた(
図14d)。BiPタンパク質のもう一つの領域がオートファジーのターゲティングに影響を与えることができるので、BiPのほとんどの領域が除去され19〜124の範囲の残基配列のみが残っているUb−X−BiP
Δ(
図14a)を過剰発現させた。ついで、BiP
Δの細胞内局在を調べるため、免疫染色を行った(
図14e)。結果として、p62+/+細胞においてはR−BiP
Δは斑点を形成し、オートファゴソームに移動することが確認された(
図14e)。正常にオートファゴソームに移動できるようにp62+/+細胞においてアルギニル化され得るE−BiP
Δは、p62−/−細胞においてオートファゴソーム移動しなかった(
図14e)。X−BiPおよびLC3の細胞内局在は、免疫染色により調べた。結果は、上記と一致していた(
図14f)。したがって、これらの結果により、BiPまたは他の小胞体タンパク質が細胞質に移行すると、(ミスフォールドタンパク質または他の基質に結合した後に)アルギニル化され、翻訳後修飾により生成されるNt−Argが、p62 ZZドメインに結合するためのN−リガンドとして作用することが確認された。
【0117】
例15:R−BiP Nt−Argのp62 ZZドメインへの直接結合
R−BiP Nt−Argがp62 ZZドメインに結合し得るかどうかを調べるため、X−ペプチドプルダウンアッセイを行った(
図15aおよびb)。
【0118】
結果として、
図15において示される通り、R−BiPペプチドは、細胞抽出物中でp62をプルダウンしたが、E−BiPまたはV−BiPはしなかった(
図15cおよびd)。Nt−Argがp62のどこに結合するかを調べるため、p62欠失変異体を作製した(
図15e)。これらのp62変異体とR−BiPペプチドとを用いてプルダウンアッセイを行った。結果として、R−BiP Nt−Argは、p62 ZZドメインに対してのみ結合することができた(
図15f)。
【0119】
R−BiPとp62 ZZドメインとの間の結合を確認するため、p62 ZZドメインのみの変異体をp62−ZZ83−175−GSTおよびp62−ZZ(D129A)83−175と名付け、GSTプルダウンアッセイを行った(
図15g)。ZZ83−175は、Arg18−Bip19−654をプルダウンすることができたが、Val19−Bip19−654をプルダウンしなかった。ZZ変異体であるZZ(D129A)83−175は、Arg−BiP18−654またはVal−BiP19−654のいずれもプルダウンすることができなかった。したがって、機能的p62 ZZドメインは、アルギニル化されたBipおよびp62のN−末端則依存的な相互作用に必要であることが確認された(
図15h)。
【0120】
p62−ZZ83−175−RFPおよびユビキチン−X−Bip19−124−GFPをMEF細胞において共発現させた場合、Arg18−Bip19−124は、斑点形成を示してp62−ZZ83−175−RFPと共局在したが、一方で、Val19−Bip19−124−GFPは、p62−ZZ83−175−RFPと共局在せず、斑点形成もしなかった(
図15i)。
【0121】
例16:オートファジーによるR−BiPのP62依存的分解
R−BiPがp62を介したオートファジーにより分解されるかどうかを調べるため、Ub−X−BiP
Δ−GSTを構築し、次いでp62+/+およびp62−/−細胞において過剰発現させた(
図16a)。
【0122】
結果として、
図16において示される通り、R−BiPは、V−BiPと比較して、p62+/+細胞においては容易に分解されたが、p62−/−細胞においては、分解されずにその代わりに蓄積された(
図16aおよびb)。その一方、V−BiPは、p62+/+およびp62−/−細胞の両方において分解されずに蓄積した(
図16aおよびb)。ヒドロキシクロロキン(オートファジー阻害剤)を用いた場合には、R−BiPは、分解されずに蓄積された(
図16aおよびb)。R−BiPは、オートファジー欠損ATG5−/−細胞においては、分解されずに蓄積した(
図16c)。Ub−R−BiP−myc/hisを用い、シクロヘキシミドタンパク質分解定量アッセイを行った。結果として、R−BiPは、ATG5−/−細胞において極めて安定していることが確認された(
図16dおよびe)。上記結果は、R−BiPが、p62によりリソソームに送達された後、その中で分解されることを意味する。
【0123】
例17:細胞質中のユビキチン化タンパク質によるR−BiPの誘導
R−BiPを誘導するストレスの種類を調べるため、細胞を種々の化学物質で処理し、イムノブロッティングを行ってR−BiPの形成を調べた。
【0124】
結果として、R−BiPの形成は、一般的にプロテアソーム阻害剤により誘導された(
図17c)。R−BiPの形成が誘導される場合、それは、ユビキチンが結合した細胞内タンパク質と一緒に蓄積された(
図17c)。この現象はまた、細胞がポリ(dA:dT)と処理した場合にも観察された(
図17c)。それらのユビキチン化された細胞内タンパク質の一部は、斑点を形成し、p62集団(p62由来のタンパク質がオートファゴソームに移行する前に凝集体の形態として一時的に存在する構造物)に送達された。ここで、R−BiPとp62は共局在していた(
図17b)。これらの上記結果は、細胞質に蓄積されたミスフォールドタンパク質が、ユビキチン化されてオートファゴソームに送達されることを意味する。加えて、プロテアソーム阻害剤およびポリ(dA:dT)は、小胞体シャペロンを誘導し、これらのシャペロンのN−末端アルギニル化が生じる細胞質へ移動させた。細胞質中のR−BiPは、ユビキチン化タンパク質と一緒にp62集団へ移行させた。
【0125】
例18:R−BiPは細胞質中でミスフォールドタンパク質と結合し、それらをオートファジーに送達する
細胞をゲルデナマイシン(Hsp90阻害剤)で処理し、細胞内ミスフォールドタンパク質の形成を促進した。
【0126】
結果として、R−BiPの形成が誘導されることが確認された(
図17f)。自己フォールドして変性するモデル基質であるYFP−CL1を過剰発現した場合、これはR−BiPに直接結合した(
図17g)。免疫蛍光染色を行って、YFP−CL1が、R−BiPおよびp62が共局在するオートファジー小胞に送達されることを確認した(
図17hおよびi)。これらの結果は、R−BiPが細胞質中で蓄積されたミスフォールドタンパク質に結合し、p62と一緒にオートファゴソームに移行することを意味する。
【0127】
図1において示される通り、ミスフォールドタンパク質とその凝集体が細胞質に蓄積すると、それらは小胞体にシグナルを送り、次いでBiP、CRT、およびPDIなどの種々のシャペロンが細胞質に移動し、ここでそれらはATE1によるN−末端アルギニル化を受け、Nt−Argを生成する。これらのシャペロンは、そのNt−Argリガンドを介してp62 ZZドメインに結合する一方で、ミスフォールドタンパク質にも結合する。Nt−ArgリガンドがZZドメインに結合する際、p62は、閉じた構造から開いた構造に変化する。結果的に、p62のPB1ドメイン(オリゴマー化を媒介する)が露出し、p62が自己オリゴマー化して、ミスフォールドタンパク質であるR−BiPを伴ったp62集団を形成する。p62のLC3結合ドメインはまた、露出して、オートファゴソーム膜上で突出したLC3との結合を加速させた。結果として、ミスフォールドタンパク質−R−BiP−p62は、凝集体複合体の形態でオートファゴソームに送達され、その後、リソソームタンパク質分解により分解された。
【0128】
実験例1:低分子量化合物p62−ZZ1によるp62オリゴマー化およびLC3結合の増加
p62 ZZドメインリガンドをさらに同定するために、研究を行って、N−末端則リガンドであるNt−Trpに対して構造的類似性を有する小化合物2−((3,4−ビス(ベンジルオキシ)ベンジル)アミノ)エタン−1−オール塩酸塩(ZZ−L1と名付けた;式5)および1−(3,4−ビス(ベンジルオキシ)フェノキシ)−3−(イソプロピルアミノ)−2−プロパノール(ZZ−L2と名付けた;式6)が、p62活性、特に、オリゴマー化およびオートファジー活性を促進することを確認した。ZZ−L2は、NCI314953として知られている物質である。これらの低分子量化合物は、Arg−AlaよりもむしろPhe−AlaまたはTrp−Alaに対して構造的類似性を有するため、ZZドメインのタイプ2結合サブドメインに結合する。
【0129】
Arg−Alaのようなこれら低分子化合物がp62 ZZドメインに結合する際、p62のオリゴマー化および活性化が増加するかどうかを調べた。
【0130】
インビトロオリゴマー化アッセイを行い、用量依存的なp62の凝集を測定した(0、10、100、および1,000μM)。
【0131】
結果として、
図18において示される通り、Arg−Alaのように、ZZ−L1はp62の凝集を用量依存的に誘導した(
図18aおよびb)。また、Arg−Alaを用いてp62/LC3結合を調べるための実験に用いられたのと同じ方法により、ZZ−L1がp62を活性化させることができるかどうかも調べた。結果として、ZZ−L1は、p62のLC3との結合を用量依存的に増加させることができた(0、10、25、100、500、および1000μM)(
図18c)。したがって、ZZ−L1は、p62 ZZドメインへ結合することにより、Arg−Alaのそれと同様のパターンで、p62の構造的活性化を誘導することができることが確認された。
【0132】
また、ZZ−L1およびZZ−L2がp62の斑点形成を媒介することを調べるため、免疫蛍光共焦点顕微鏡法を行った(
図18d−g)。特に、カバースリップ上に層をなしたHeLa細胞を、XIE ZZ化合物により異なる濃度(0、1、2.5、5、および10μM)で12時間処理し(
図18fおよびg)、またはXIE ZZ化合物10μMにより異なる処理時間(0、1、3、6、および12時間)で処理した(
図18e)。結果として、ZZ−L1およびZZ−L2は、p62の斑点形成を、12時間、用量依存的に(0、1、5、および10μM)誘導することができ、または10μMの濃度で時間依存的に(1、3、6、および12時間)誘導することができた(
図18d−g)。
【0133】
実験例2:ZZ−L1およびZZ−L2による細胞内オートファゴソーム形成の増加
ZZ−L1およびZZ−L2のオートファジーにおける効果を調べるため、ウェスタンブロッティングを行った。
【0134】
結果として、ZZ−L1およびZZ−L2はLC3を用量依存的(0、1、5、および10μM)および時間依存的(1、3、6、および12時間)に増加させ、また、LC3−1(不活性化形態)のLC3−II(活性化形態)への変換をも増加させた(
図19b)。免疫蛍光染色を用いることにより、ZZリガンドは、HeLa細胞においてp62オートファジー斑点の形成のみならず、LC3オートファジー斑点の形成をも促進することもまた確認された(
図19a)。これらの結果は、ZZリガンドがオートファジー活性化剤として機能することを意味する。
【0135】
これらの化合物により誘導されるLC3タンパク質の増加およびLC3−IIの形成が、p62に起因するかどうかもまた調べた。p62ノックダウンを誘導するために、6ウェルプレート上のHeLa細胞(1x10
6/ウェル)を、RNAi Max reagent(Invitrogen)を用いることによりp62siRNA 40nMで処理した。この際、siRNAコントロール群もまたこれらで処理した。DMSOまたはZZ化合物5mMは3または6時間培養した。
【0136】
結果として、LC3の増加およびLC3−IIの形成は、ZZ化合物であるZZ−L1およびZZ−L2により誘導された。しかしながら、この効果は、p62ノックダウンにより完全に抑制された(
図19c)。p62+/+およびp62−/−細胞を用いたもう一つの実験においては、ZZ−L1(5mM)は、p62−/−細胞においてオートファジー活性化剤として機能することができなかった(
図19d)。上記結果は、Arg−Alaのように、ZZ化合物がp62 ZZドメインに結合することで、p62 PB1ドメインを介したp62凝集およびさらなるオートファゴソーム形成が増加することを意味する。
【0137】
実験例3:ZZリガンドによるオートファジーフラックス(flux)の増加
ZZリガンド処理により誘導されるLC3合成およびLC3−II形成の増加は、オートファゴソーム形成におけるオートファジーフラックスの上流(主要因子の合成および翻訳)または下流(オートファゴソームおよびリソソームの融合またはリソソームおける分解プロセス)のいずれかの活性化に起因することができた。ZZリガンドで処理した細胞においてオートファジーフラックスが正常であるかどうかを調べるため、細胞をまたオートファジー阻害剤で処理した。次いで、LC3レベルを測定するため、イムノブロッティングを行った。リソソーム分解阻害剤として作用するNH
4Cl(Sigma, A9434)、バフィロマイシンA1(Sigma, B1793)、およびヒドロキシクロロキン(HCQ)(Sigma, H0915)を用いることにより、オートファジーフラックスアッセイを行った(
図19e)。細胞をXIE ZZ化合物で3時間処理し、これにオートファゴソーム阻害剤を処理してさらに3時間培養した。細胞溶解液を用いてウェスタンブロッティングを行った。LC3−IIバンドの強度は、imageJを用いて測定した。LC3−II形成の増加は、GAPDHで正規化して計算した。
【0138】
結果として、XIE ZZ化合物を処理した後でさえも、ヒドロキシクロロキン(HCQ)によるオートファジー阻害は、少なくとも2倍高いLC3−IIの蓄積を含むオートファジー動態を増加させた(
図19e)。上記結果は、ZZリガンドがLC3のようなオートファジー主要因子の合成を増加させ、その結果、オートファゴソームの形成を増加させ、生成されたオートファゴソームをリソソームに正常に結合させて、それによって、そこに送達された基質を分解した(p62、R−BiP、フォールドされていないタンパク質等)ことを意味する(
図19g)。
【0139】
実験例4:ZZリガンドにより誘導されたオートファゴソームのリソソームとの誘導
ZZリガンドにより誘導されたオートファゴソームがリソソームに送達されるかどうかを調べるため、その中に酸感受性GFPおよび非感受性RFPを組み合わせたRFP−GFP−LC3を安定的に形質導入したHeLa細胞を用いる実験において用いられたのと同じ方法で、オートファジー動態アッセイを行った。
【0140】
結果として、ZZ−L1およびZZ−L2は、RFP+GFP+オートファゴソーム形成(中性pH)を加速させることが確認され、同時に、GFP+シグナルは、RFP+斑点の一部から消失することも確認された(
図19f)。これは、RFP+GFP+オートファゴソームとリソソームが融合してオートリソソーム(酸性pH)を形成する際、酸感受性GFP蛍光が、酸性環境下で消失したためである。上記結果は、ZZリガンドにより形成されるオートファゴソームが、リソソームへ送達されるのに成功して、その中で分解されたことを意味する(
図19g)。
【0141】
p62の細胞内濃度を直接的に測定したが、これはZZリガンドにより誘導されるオートファジーフラックスを調べるためのもう一つの方法である。HeLa細胞をZZ−L1で処理して、シクロヘキシミドタンパク質分解アッセイを行った。結果として、p62の分解は、ZZ−L1により誘導されることが確認された(
図20a)。これらの結果は、ZZリガンドと組み合わせたp62が、オートファジー活性化因子として作用することを意味する。
【0142】
実験例5:ZZリガンドと組み合わせたp62よる、mTOR非依存的なオートファジー活性化
これまで知られている最も代表的なオートファジー活性化剤は、ラパマイシンである。ラパマイシンは、mTOR(哺乳類ラパマイシン標的)阻害剤である[参考文献]。mTORがラパマイシンにより阻害されると、ULKやベクリンなどのオートファジー関連主要因子が活性化され、それによりLC3の合成およびLC3−IIの変換が誘導され、オートファゴソーム生成の増加をもたらす(
図20d)。オートファジー活性化剤としてのラパマイシンの効果ゆえに、治療剤としてのその価値は高い。しかしながら、mTORを介した広範囲な生物学的効果などの副作用のために治療剤としての使用は未だ限定されている。したがって、mTORを介さない新規オートファジー活性化剤の開発が緊急に必要とされている。
【0143】
オートファジー活性化剤としてのZZリガンドおよびラパマイシンの効果とメカニズムを比較するため、HeLa細胞を、それらにより異なる濃度および異なる時間で処理した。次いで、LC3の生成およびLC3−IIの変換を調べた。
【0144】
結果として、ZZリガンドはラパマイシンと同様の効率かまたはラパマイシンよりも優れた効率を有することが確認された(
図20bおよびc)。
【0145】
ZZリガンドがmTORを介してオートファジーを活性化することができるかどうか調べるため、HeLa細胞をZZリガンドまたはラパマイシンで処理し、mTORにより制御されるp70S6Kのリン酸化を調べた(
図20d)。予測された通り、p70S6Kのリン酸化は、mTORを抑制することにより、ラパマイシンによって阻害されたが、ZZリガンドは、p70S6Kのリン酸化を阻害しなかった(
図20e)。この結果は、ZZリガンドが、従来のラパマイシンとは違って、mTORを経ることなくオートファジーを活性化し得ることを意味する。したがって、ZZリガンドは、新規オートファジー活性化剤であることが確認された。
【0146】
実験例6:細胞内ユビキチンにより標的とされるタンパク質の、ZZリガンドによるオートファジーへの輸送
細胞内のミスフォールドタンパク質は、最初にユビキチン化の標的となり、次いでプロテアソームにより分解される。ミスフォールドタンパク質が凝集体化する条件下(例:変異ハンチントンタンパク質)では、プロテアソーム活性が減少しているか、またはミスフォールドタンパク質がプロテアソームに入ることができないため、ミスフォールドタンパク質はオートファジーにより集結され、ついでリソソームにより分解される。ZZリガンドがオートファジーフラックスを増加させる結果に基づき、ZZリガンドがユビキチン化された細胞内タンパク質のオートファジーへの輸送を増加させることができるかどうかを免疫染色により調べた。
【0147】
結果として、ZZ−L1 5mMは、ユビキチン化されたタンパク質のオートファジー小胞への移動を誘導することが確認された(
図20f)。オートファジー阻害剤であるヒドロキシクロロキンをそれに処理すると、ユビキチン化されたタンパク質は、オートファジー小胞に蓄積した(
図20f)。これらの結果は、ZZリガンドがオートファジーにおける細胞内ミスフォールドタンパク質の蓄積を促進することを意味する。
【0148】
実験例7:ZZリガンドによるハンチントンタンパク質凝集体の除去
ハンチントン病において観察されるハンチントンは、CAGコドンの過剰な繰り返し(少なくとも36リピート)のためにミスフォールドされやすいのみならず、凝集体(凝集塊)に迅速に変換されることから、タンパク質はユビキチン−プロテアソーム系により分解されないことが示唆される(
図21a)。ラパマイシンを用いてオートファジーの活性化を誘導することによりそのような変異タンパク質を除去する技術が開発されたとしても、ラパマイシンは、mTORを介する様々な生物学的経路に影響を与えるため、治療剤としては適切でない。ZZリガンドがmTORを経ることなしにオートファジーを活性化することを考慮し、ZZリガンドがハンチントンタンパク質凝集体を除去することができるかどうかを調べた。
【0149】
野生型ハンチントン(HDQ25−GFP)および変異ハンチントン(HDQ103−GFP;CAGが103回繰り返す)をHeLa細胞に発現させ、免疫染色により観察した。結果として、HDQ25−GFPは細胞全体に分布したのに対し、HDQ103−GFPは、タンパク質凝集体として集結した(
図21c)。ハンチントンタンパク質を過剰発現させた細胞を、ZZ−L1 10mMまたはラパマイシン1mMで処理した後、ドットブロットアッセイを行って、細胞内ハンチントンタンパク質を調べた。結果として、ZZ−1は、変異ハンチントンタンパク質凝集体をより効率的に除去した(
図21b)。同様の実験を設定し、ここで細胞は、0.5% TritonX−100に溶解することができる可溶性画分と(凝集体を含む)不溶性画分とに分けた後、免疫ブロッティングを行った。結果として、ハンチントンタンパク質は、ZZ−L1により処理された凝集体画分からより効率的に除去された(
図21d)。これにラパマイシンを処理した場合、同様の結果が得られた(
図21d)。HeLa細胞をZZ−L1、ZZ−L2、およびラパマイシンで処理し、その結果を上記結果と比較した(
図21e)。結果として、この結果は上記と一致していた。
【0150】
ハンチントンタンパク質凝集体の除去が、ZZリガンドにより誘導されるオートファジー活性化に起因するかどうかを調べるため、ATG5+/+およびATG5−/−細胞(ATG5非存在下ではオートファゴソームは形成されない)をZZリガンド10mMおよびラパマイシン1mMで処理し、イムノブロッティングを行った。ATG5+/+細胞においては、ZZリガンドによりハンチントン凝集体は効率的に除去されたのに対し、ATG5−/−細胞においては、そのような効果は観察されなかった(
図21f)。上記結果は、ZZリガンドが、オートファジー活性化を誘導することにより、ハンチントンタンパク質凝集体を除去することができることを意味する。
【0151】
ハンチントン凝集体を除去するZZリガンドのメカニズムを調べるため、HDQ103−GFPタンパク質凝集体を過剰発現したHeLa細胞を、ZZリガンド10mMで処理した後、免疫蛍光染色を行った。ZZ−L1で処理していない細胞においては、HDQ103−GFPは、封入体を形成した。この構造内では、p62はR−BiPと共局在していた(
図22aおよびb)。ZZ−L1で処理した細胞においては、ハンチントン封入体は減少したか、または効率的に除去されていた(
図22a−c)。上記結果から、ZZリガンドは、オートファジーを活性化して、ミスフォールドタンパク質凝集体を効率的に除去することが確認された。
【0152】
当業者は、前述の記載において開示された概念および特定の態様が、本発明と同じ目的を実施するために改変するまたは他の態様を設計するための基礎として、容易に用い得ることを理解するであろう。当業者はまた、そのような同等である態様が、添付の特許請求の範囲に記載の発明の意図および範囲から逸脱しないことも理解するであろう。