特許第6518854号(P6518854)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6518854
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】栽培土壌改質材
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20190513BHJP
【FI】
   A01G7/00 604Z
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-218788(P2017-218788)
(22)【出願日】2017年11月14日
【審査請求日】2018年10月31日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】717000562
【氏名又は名称】田中 聡
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−112163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 24/00
C09K 17/00
C12N 1/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物ろ過法を用いてろ材に捕集された鉄バクテリアを含む、浄水工程から取り出した使用済ろ材であって、前記使用済ろ材は、基体と、基体の主として空隙部に存在する鉄バクテリアと、鉄バクテリアが産出する複数の金属酸化物、即ち付着物から構成され、前記鉄バクテリアは死滅しておらず、栽培作物中の鉄含有量低減機能を有することを特徴とする使用済ろ材から成る栽培土壌改質材。
【請求項2】
前記ろ材の基体には、少なくとも鉄及び/又はマンガンの、酸化物及び/又は水酸化物を主体とする付着物の重量が100ml当たり5g以上であることを特徴とする請求項に記載の使用済ろ材から成る栽培土壌改質材。
【請求項3】
前記使用済ろ材の使用量が、作物一株当たりの栽培土壌に対して20vol%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の使用済ろ材から成る栽培土壌改質材。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培作物中の鉄含有量低減機能を有する栽培土壌改質材に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜を中心とした農作物に対して、特定成分のみを低減させた技術は多くない。
腎臓透析患者向けに、カリウム成分を低減させた野菜の製造方法が、特許文献1に記されている。特許文献2には、鉄含有量を増加させた野菜の製造方法が記載されている。
一方、浄水工程の廃棄物利活用としては、鉄バクテリアを含んだ木材チッフ゜を培養土に混合させて野菜の成長促進を図る方法や、鉄バクテリア含有凝集物と有機物とを発酵させた後培養土に混入させて草花の成長促進を図る方法が、各々特許文献3,4に記載されているが、本発明のように廃棄物を利用して作物中の鉄含有量を低減させる技術は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4792587号
【特許文献2】特開2007−153699号
【特許文献3】特開2009−73687号
【特許文献4】特開2009−72702号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「土と肥料の新知識」 全国肥料商連合会編 p.109、p.200
【非特許文献2】日本工業規格 JIS K 0350-80-10:2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄分摂取の重要性が叫ばれて久しいが、本当に不足しているのは月経年代の女性であって、それ以外の人々はむしろ僅かに過剰気味である。その僅かな過剰分が長年体内に蓄積されることで活性酸素を増加させてしまい、結果的に女性に比べて男性の平均寿命が短いという現実をもたらしているという考え方が広まってきている。
【0006】
自らの血液を定期的に抜き取って、結果的に体内の鉄分を低減させる、いわゆる瀉血療法という治療法がある。特に中重度のC型肝炎患者に代表されるこの治療法では、適用患者は瀉血のみならず、当然食事においても鉄分摂取をできる限り少なくすることが求められる。患者らの生活の質の向上という観点からすると、鉄分の含有量を低減した食材や野菜等の作物を提供することが望まれている。
【0007】
作物の代表例として、植物にとっての鉄とは、成長過程において不可欠な微量必須元素の中の一つである。光合成に必要な葉緑素の形成に不可欠で、欠乏すると葉の生長点が黄化してきて十分な成育ができなくなる。
一般的な土壌や培養土には、鉄分は数十ppmのオーダーで含まれていることが多い。
【0008】
ここで、一般的な野菜の鉄分の吸収の仕組みを以下に説明する。
畑土壌では、鉄は水酸化第二鉄のような水に溶けにくい鉄化合物として存在しているために、植物はそのままでは吸収することができない。
そこで、根から酸性の物質を出すことで、土壌中の根圏に存在する不溶性の鉄を、水に可溶な鉄(iii)イオンに変える。次にこの鉄(iii)イオンが、根細胞の表面に存在する酵素によって、鉄(ii)イオンに還元されることではじめて、根の細胞膜を通して植物体内に吸収されていく。このメカニズムは非特許文献1に詳述されている。
【0009】
仮に作物中の鉄分を減らす目的で、鉄分を一切含まない土壌を使用して栽培を実施すれば、作物は鉄欠乏症を引き起こして十分な成育ができなくなってしまう。
植物の根が吸収可能な鉄分、いわゆる鉄イオンを一般土壌から低減する為には、土壌のpHをアルカリ側に上昇させて、鉄化合物の土中水分への溶解度を低下させるという方法が考えられる。しかし、pHをアルカリ側にシフトさせると、鉄イオンの生成が減少してしまうばかりでなく、その他のマンガン、ホウ素、銅、亜鉛などの微量必須元素までもが吸収しづらくなり、いわゆる欠乏症となって、成育不良となってしまう。
従って、土壌で作物を栽培する場合には、適度に鉄分を含んだ土壌であって、かつ作物に適したpH等の一般的性質を備えた土壌を使用することは不可避である。
【0010】
一方、昨今の環境意識の高まりから、全ての産業・生活面において廃棄物の削減または利活用が広く求められている。浄水場に限らず、さまざまな産業で発生する廃棄物を、単に産業廃棄物として埋め立て処分するのではなく、有用な用途を見出し、利活用することは全国的な共通の課題である。この産業廃棄物を利活用して、鉄分を低減した作物を提供することができれば、非常に有意なこととなる。
つまり、一般的な土壌を使用して作物栽培する際に、成育を阻害すること無く作物中の鉄含有量を低減させる、しかもそれを、産業廃棄物を利用して行うことが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者はこれらの課題を一挙に解決できる手段として、浄水工程の使用済みのろ材が適用しうることを見出した。この使用済みのろ材は、少なくとも死滅していない鉄バクテリアを含むことを特徴とする栽培土壌改質材である。
具体的には、生物ろ過法で使用した使用済ろ材を用いる。使用済ろ材は、基体と、基体の主として空隙部に存在する鉄バクテリアと、鉄バクテリアが産出する複数の金属化合物、即ち付着物から構成される。このろ材を用いることで、作物の吸収可能な土壌中の鉄分すなわち鉄イオンの低減が可能となる。
【0012】
ろ材には様々な基体がある。合成繊維の集合体や粒状活性炭、アンスラサイトと呼ばれる無煙炭、珪砂と呼ばれるケイ酸質の鉱物粒など、バクテリアが住み着ける微小空間を有することが必須条件となる。アンスラサイトはろ過砂より比重が軽く、洗浄性に富んでいることから、珪砂と同様多くの浄水場で使用されている。
【0013】
生物ろ過法におけるろ材は、原水中に含まれる鉄バクテリアを捕集し、それらを活動させ、また繁殖させる役割を持つ。捕集された鉄バクテリアは、原水中に含まれる鉄イオンやマンガンイオンを酸化することでエネルギーを得ながらそれらの金属の酸化物や水酸化物を産出する。使用済ろ材には鉄バクテリアと、産出物であるそれらの酸化物や水酸化物が主として付着している。
【0014】
鉄の酸化物等の付着したこの使用済ろ材を土壌に混入させることは、土壌中に含まれる見かけ上の鉄分を増加させることになる。
しかし作物が吸収しうる鉄分すなわち鉄(ii)イオンは、鉄ハ゛クテリアによって部分的に奪われ消費されてしまうために、結果的に作物が取り込める鉄(ii)イオン量が低下する。従って、作物中に含まれる鉄含有量を低減させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
浄水工程における使用済ろ材を実際に土壌に混合させた場合の、土壌中の成分測定を行った。測定に使用した機器は、市販のト゛クターソイルである。この機器については非特許文献1に詳述されている。この機器によって測定される各成分は、植物が吸収しうる養分濃度であって、特に注目している鉄分については、TPTZ法(トリヒ゜リシ゛ルトリアシ゛ン法)という、一般的な鉄濃度測定法が使用されている。これをト゛クターソイルでは可給態鉄と称している。この方法は溶液中の鉄(ii)イオンを発色させることで比色分析を行って濃度を導出する方法である。比色分析には、ト゛クターソイルテ゛シ゛タル検定器を使用している。また試薬には、鉄(iii)イオンを鉄(ii)イオンに還元する還元剤も含まれている。
【0016】
土壌には、一般的な土すなわち並土と、泥土を用いた。使用済ろ材は、抽出液として用いた。
抽出液とは、使用済ろ材を純水に投入し、攪拌した際の抽出懸濁液を示す。
純水は200ccとし、使用済ろ材は40cc(淡)と120cc(濃)の2水準とし、抽出懸濁液濃度の濃淡を準備した。
【0017】
各土試料は、各々畑から採取し、ほぐして風乾させた後、粉砕し、3つのプラスチック容器へ20gずつ、出来るだけ均等となるように分配した。各々のプラスチック容器へ、懸濁液の濃(S2)と淡(S1)および純水(Ref)を各15ccずつ滴下し蓋をして、1分間手動攪拌した。3日間室内放置後、4日目にろ紙上へ掻き出し、風乾させた。
この風乾試料を使用し、ト゛クターソイルの土壌成分分析を行った。泥土においては、鉄濃度が過剰気味の91ppmである泥土Aと、一般的な値である46ppmの泥土Bの2種を準備した。
【0018】
結果を表1に示す。全6項目に対して、各々上段が濃度で、下段がRefに対する保持率を表している。
【表1】
【0019】
まず全6項目において、可給態鉄のみが安定的に低減されていることが判る。
換言すると、並土および泥土A、Bにおいて、抽出懸濁液添加によっていずれも鉄含有量が低減できていることが判る。加えて泥土における鉄分の多寡に関わらず鉄含有量が低減できていることが判った。さらには、抽出懸濁液濃度が濃い方が鉄成分の低減効果が大きいことも考えられる。これは、土中に含まれていた鉄(ii)イオンを、懸濁液中に含まれている鉄ハ゛クテリアが横取り、つまり部分的に酸化して消費してしまうためと考えている。
【0020】
そこで実際に、浄水工程における使用済ろ材を用いて作物を栽培し、作物中に含まれる鉄含有量の多寡を調べた。
作物中の鉄含有量低減率を表2にまとめた。鉄含有量とは、作物の可食部100g当たりの鉄含有量を示す。
作物としては、手軽にフ゜ランター栽培の可能な空心菜と春菊、露地栽培ではモロヘイヤ、果樹としては近年人気のフ゛ルーヘ゛リーを選んで適用した。また、各作物一株当たりの栽培土壌見積量に対する使用済ろ材の使用量も示した。
【0021】
【表2】
【0022】
表2で示したように、いずれも適量の使用済ろ材を栽培土壌に混在させることで、ろ材を使用しないいわゆる一般的な栽培法に比べて、概ね1乃至2割の鉄含有量低減が可能であった。
この使用済ろ材とは、生物ろ過法を用いた浄水工程において使用されたろ材をいい、何らかの理由で使用されなくなった使用済みのろ材のことを示す、つまり産業廃棄物の活用といえる。
【0023】
また本発明においては、浄水工程から取り出された使用済ろ材に対し、何ら新しい加工や材料の追加を必要とせずそのまま使用できる。
【0024】
この使用済ろ材は、浄水工程から取り出した後の保管において、何ら特別な管理は必要としない。鉄バクテリアを死滅させない為には、強酸強塩基等の薬品類や過剰な乾燥状況さえ避けられればよい。
【0025】
例えば最も簡便な保管方法として、単にフレコンバッグへ詰め込むだけでよい。その場合、2か年の屋外保管後であっても、その低減効果に劣化は見られなかったことから、本使用済ろ材は安定な材料といえる。
【0026】
また、この使用済ろ材はそれ自体が無臭であることから、臭気面においても特別な管理を必要としない。
【0027】
さらに、使用済ろ材には基本的に原水中に含まれている物質以外を含むことはなく、使用済ろ材の利用によって新たな土壌汚染を引き起こすことはない。
【0028】
加えて、使用済ろ材は長期間に渡って使用することができる。基本的に、土壌中の鉄分低減効果は、鉄バクテリアが生存してさえいれば継続される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】使用済ろ材の拡大外観写真
図2】未使用のろ材の拡大外観写真
図3】使用済ろ材の拡大断面写真
図4】使用済ろ材の拡大断面写真
図5】使用済ろ材の拡大断面写真
図6】使用済ろ材の懸濁液の拡大写真
図7】使用済ろ材の懸濁液の拡大写真
図8】使用済ろ材の懸濁液の拡大写真
図9】使用済ろ材の懸濁液の拡大写真
図10】使用済ろ材の懸濁液の拡大写真
図11】使用済ろ材の懸濁液の拡大写真
【発明を実施するための形態】
【0030】
原水としての地下水を生物ろ過方式で浄化する浄水場において、使用済みのろ材を浄化工程から取り出す。この使用済ろ材を用いて、様々な作物栽培に対する栽培土壌の改質効果を調べた。つまり表1に示すような土壌中の鉄分低減が可能なことを確認した上で、実際に作物を栽培し、その作物中の鉄含有量の多寡を調べた。
【0031】
以下実施例について詳細に説明する。
ただし、これらは本発明を限定することを意図するものではない。
【0032】
実験には生物ろ過法によって原水のろ過処理を継続的に行ってきたろ材をろ過工程から取り出した後、フレコンバッグ内で保管中の使用済ろ材を用いた。基体は、ポリエステル繊維の集合体で、未使用時の空隙率は93%、粒径は5〜7mmのものを使用した。
使用したろ材の光学顕微鏡写真を図1から図5に示す。撮影にはキーエンス社マイクロスコープVR3200を使用した。
【0033】
まず図1は、使用済ろ材の外観拡大写真である。直径は5mm程度で球状である。直径0.05mm程度の繊維1の球状の集合体に、0.1から0.6mm程度の茶色の小さな塊状の多数の付着物2が観察された。
【0034】
図2には、未使用のろ材、即ちろ材の基体の外観拡大写真を示している。倍率は図1と同じである。直径5mm程度の球状の、繊維の集合体であって、直径0.05mm程度の繊維1で構成されている。
【0035】
図3図4および図5は、使用済ろ材の断面拡大写真を示している。図3図1図2と同じ拡大倍率である。0.1から0.6mm程度の茶色の小さな塊状の付着物層3が、使用済ろ材の表面層部分の0.5mm厚程度に局在化していることが明らかとなった。図4図5は表面層部分の拡大写真で、図5は拡大尺度をさらに大きくしている。図4からは、表面層部分に付着物2が局在化していること、また図5からも、表面層以外の内部には繊維1ばかりであって付着物が殆ど存在しないことが明らかとなった。
【0036】
次に鉄バクテリアの存在について述べる。
非特許文献2の「工業用水中の鉄細菌試験方法」には、鉄細菌とは、「鉄分の多い地下水及び伏流水に広く生息し、鉄(ii)又はその化合物を鉄(iii)に酸化し菌体の中に蓄積、菌体の外に沈着する性質を持つ細菌類の総称」と定義されている。
さらに備考欄では、鉄細菌の外形を顕微鏡によって確認することで直接的な判定が可能である、との記載があり顕微鏡観察を実施した。以下詳細について述べる。
【0037】
サンプル瓶に、使用済ろ材と純水各1mlを入れ攪拌した際に生じた懸濁液の顕微鏡観察を行った。
具体的には、Olympus社光学顕微鏡BX51を用い、懸濁液の一部をスライドガラス上に載せてプレパラートを作製し、微分干渉観察を含め実施した。グラム染色には日水製薬製フェイバーG「ニッスイ」を染色液として用いた。結果の写真を図6から図11に示した。写真の短辺長は、図6及び図9が約185μm、図7図8図10及び図11が約93μmである。
【0038】
図6の微分干渉像の矢印部には、鉄バクテリアのGallionella属を、図7および図8のグラム染色像の矢印部には、鉄バクテリアのGallionella属を示している。
図9および図10の微分干渉像の矢印部には、鉄バクテリアのLeptothrix属を示している。図10ではLeptothrix属の鞘の表面に酸化鉄や酸化マンガン等で覆われている様子を示している。
Gallionella属ではねじったリボン状の、Leptothrix属では鞘状の、それぞれに特徴的な外形が見て取れる。観察からはこれらが多数確認された。つまり、使用済ろ材にはこれらの鉄バクテリアが多数存在することを表している。
また鉄バクテリア以外にも、図11の微分干渉像に示すように、多数の一般細菌の存在も確認された。
【0039】
次に、使用済ろ材について述べる。実験に用いた使用済ろ材は、100mlあたり26gの付着物質を有している。ここで付着物重量は以下のように測定した。
S1.使用済ろ材を100ml採取し、5分間流水洗を実施しゴミを取り除いた。
S2.この使用済ろ材を取り出し軽く水切り後、アセトン中への15分間の浸漬を2回繰り返した。
S3.取り出した使用済ろ材をキッチンタオル上にて20時間風乾させ、重量測定(Wa)を実施した。
S4.7%塩酸溶液の入ったビーカーに、S3の使用済ろ材を徐々に添加、4時間攪拌し、20時間放置した。
S5.一旦S4の使用済ろ材を取り出した後、再度7%塩酸溶液の入ったビーカーに、上記使用済ろ材を徐々に添加、4時間攪拌し、20時間放置した。
S6.上記使用済ろ材を取り出し、5分間の流水洗を2回繰り返した。
S7.茶色であった使用済ろ材が白色となって付着物がほぼ完全に除去されたことを確認後、アセトン中への15分間の浸漬を2回繰り返した。
S8.取り出した使用済ろ材をキッチンタオル上にて20時間風乾させ、重量測定(Wb)を実施した。
このWaからWbを差し引いた重量を、使用済ろ材の付着物重量と定義した。
【0040】
また上記S4の塩酸溶液をICP発光分光分析法にて分析の結果、最も多い元素は、マンガン、鉄、次いでケイ素であった。以下実施例においては、これと同梱の使用済ろ材を使用した。
【実施例1】
【0041】
まず、使用済ろ材の混入適量の検討を実施した。
作物としては、コマツナとハツカダイコンを用いプランターにて成育状況を比較した。栽培場所はほぼ一日中日射の得られる地面上である。プランターサイズは、18×58×12cmで、実容量は約8Lである。
そこに、使用済ろ材の混入量は、比較としての0%から、20%、40%、60%、そして100%までの5水準とした。
使用した培養土は、市販の(株)フ゜ロトリーフ製「花と野菜の培養土」で、土壌のpH(H2O)は6.5であった。
各プランターに規定量の使用済ろ材と合わせて8Lとなるように土壌を混入した。プランターの奥半分をコマツナ域、手前半分をハツカダイコン域とし、各々1条で計20粒播きとした。種子はそれぞれ市販の松永種苗(株)および(株)ク゛リーンフィールト゛フ゜ロシ゛ェクト製を使用した。
その後定期観察を実施した結果、ハツカダイコンでは20%混入までは比較と同じ成育と重量が得られたのに対し、コマツナでは20%混入では若干成育が劣り、20%を越えると極端に成育が劣勢になることが判った。
【実施例2】
【0042】
作物としては、空心菜(エンサイ)を用いプランターにて栽培比較した。栽培場所は、鉄筋ビルの2階ベランダでほぼ一日中日射の得られる場所である。プランターサイズは、18×58×12cmで、実容量は約8L、使用した培養土は、市販の(株)フ゜ロトリーフ製「花と野菜の培養土」で、2つのプランターに8Lずつ投入した。土壌のpH(H2O)は6.5であった。
種子は、市販の(株)トーホク製エンサイを使用し、約8cmの間隔で2粒ずつ播種し、薄く覆土し、軽く押圧したのち、各1Lの純水を灌水した。虫害を防ぐために栽培期間中はネット掛けを行った。
4日後に発芽を確認。本葉が出始めた8日目までに間引きを実施し、各プランターでの株数を6株に揃えた。2つのプランターで発育に有意差の無いことを目視確認の後、片方のプランターにのみ、使用済ろ材約40mlを作物の両側に設置し埋め込んだ。
栽培のための灌水は、降雨を含めて2日に1回で、降雨以外は純水を使用し、1回当たり如露を用いて各1Lとした。
播種から24日後、2つのプランターで発育に有意差の無いことを目視確認の後、株元からハサミでカットし、分析を実施した。
【0043】
分析方法はICP発光分析法である。
測定装置は、アシ゛レント・テクノロシ゛ー株式会社製で、機種が725-ES。
高周波出力は1200W、フ゜ラス゛マカ゛ス、キャリアカ゛ス、補助カ゛スは全てアルコ゛ンカ゛スを使用、流量は各々15、0.7、1.5L/minであって、鉄の測定波長は238.204nmである。測定の作業手順は、作物の可食部を秤量し、灰化、蒸発乾固後塩酸で溶解しろ過し、ろ液と残渣に分離。残渣にはさらに灰化、蒸発乾固を繰り返し、ろ液を得る。ろ液を合わせて、塩酸希釈溶液としICP発光分析に供した。
分析の結果、可食部100g当たりの鉄含有量は、リファレンスが1.27mgであったのに対し、ろ材含有培土栽培では1.06mgと、16.5%の低減を得た。
【実施例3】
【0044】
ここでは、実施例2の実験を、作物の種類を変えて実施した。
作物としては春菊を用いた。栽培場所および栽培方法は実施例2に同じとした。種子は、市販の(株)アタリア農園製の中葉しゅんぎくを使用し、条播きし、ごく薄く覆土し、軽く押圧したのち、各1Lの純水を灌水した。虫害を防ぐために栽培期間中はネット掛けを行った。
7日後には発芽を確認。本葉が出始めた13日目に間引きを実施し、2つのプランターで発育に有意差の無いことを目視確認の後、片方のプランターにのみ、使用済ろ材約40mlを実施例2と同様に、作物の両側に設置し埋め込んだ後、溜めていた雨水を灌水した。使用済ろ材施用後の灌水には、純水または汲み置き水を使用した。
19日目には2回目の間引きを実施、各プランターでの株数を6株に揃えた。23日目には、追肥として市販の住友化学園芸(株)製ベジフル液肥を純水で1%に希釈し、各プランターに330mlずつ与えた。
30日目には、2回目追肥として同上の液肥を、各プランターに330mlずつ与えた。
播種から34日後、約20cm程度の草丈になっており、2つのプランターで発育に有意差の無いことを目視確認の後、株元からハサミでカットし、分析を実施した。分析は実施例2に同じである。
【0045】
可食部100g当たりの鉄含有量は、リファレンスが5.70mgであったのに対し、ろ材含有培土栽培では4.92mgと、14.7%の低減を得た。
【実施例4】
【0046】
ここでは、実施例2の実験を、作物の種類と栽培場所を変えて実施した。
作物としては、モロヘイヤを用い、まずはホ゜ットで育苗を行った。種子は市販のタキイ種苗(株)製モロヘイヤを使用した。6cmホ゜ットに2粒ずつ播種し、薄く覆土し、軽く押圧したのち水道水を灌水し育苗を行った。7日後には発芽を確認、本葉2~3枚となった時に1本立とし、本葉5枚で畑土に移植を行った。
【0047】
路地の畑土の場所は奈良県大和高田市内で、ほぼ一日中日射の得られる場所である。当該畑土の前作はサツマイモであり、土壌のpH(H2O)は7.0であった。この畑土の黒マルチフィルムを張った畝1本に対し、本葉5枚の成長した苗11株を30cmの間隔で一列に移植、栽培した。本葉が約20枚、草丈約18cmとなったときに、西端から4,5,6番目のサンフ゜ルク゛ルーフ゜と、西端から8,9,10番目の比較対象ク゛ルーフ゜のク゛ルーフ゜分けをした。
サンフ゜ルク゛ルーフ゜には、各株の根元4カ所に黒マルチフィルムを破って各約30mlの使用済ろ材を埋込み覆土した。つまり3株で計12カ所に各30mlの使用済ろ材を埋め込んだ。一方、比較の方にも、公平を期すために3株の株元12カ所において黒マルチフィルムを破ってスコッフ゜で掘って埋め戻すという、サンフ゜ルク゛ルーフ゜と同様な作業を行っている。路地での栽培を継続、灌水は降雨のみとした。3回の収穫を経て、移植から45日目、草丈が約60cm程度となった時に、2つのグループで発育に有意差の無いことを目視確認の後、食用に供する枝先を約100gずつハサミでカットし、分析を実施した。分析は実施例2に従った。
【0048】
可食部100g当たりの鉄含有量は、リファレンスが2.32mgであったのに対し、ろ材含有培土栽培では2.14mgと、7.8%の低減を得た。
【実施例5】
【0049】
ここでは、実施例2の実験を、作物の種類と栽培場所を変えて実施した。
作物としては、果樹のブルーベリーを用い、場所は、奈良県明日香村のブルーベリー果樹園で、ほぼ一日中日射の得られる場所である。
果樹園は概ね2反程度の面積で長方形であり、畝数は13。東西方向の畝に、畝当たり10~15本のフ゛ルーヘ゛リーが斜交いに栽培されている、総計150本程度の果樹園である。樹木ピッチは概ね1mで、樹齢は8年程度である。
この中で、樹形の似通った3本ずつの組合せを、同じ畝かもしくは隣接した畝から3ペア選んだ。
一方、使用済ろ材は、約1Lを市販のキッチン用水切りネットへ入れ、口を縛ったものを15袋準備した。
サンプルグループには、株元から約40cmの距離で、約20cmの深さにスコップで穴を掘って、そこに1袋ずつ埋め込んだ。具体的には計5袋を、なるだけ3本に対して均等になるようにして、3本当たり5袋を埋め込んだ。
リファレンスグループには、公平を期すために、同様にスコップで穴を掘って埋め戻した。3月3日に埋込作業を実施し、それ以降は特別な管理はしていない。4ヶ月後通常の収穫時期となった時に果実を収穫し、サンプルとリファレンスに対し分析を実施した。分析は実施例2に従った。
【0050】
可食部100g当たりの鉄含有量を以下に示した。
ペア一組目:リファレンスが0.21mgで、サンプルが0.19mg(10%の低減)
ペア二組目:リファレンスが0.23mgで、サンプルが0.18mg(12%の低減)
ペア三組目:リファレンスが0.22mgで、サンプルが0.18mg(18%の低減)
で、平均16.7%の低減を得た。
【実施例6】
【0051】
ここでは使用済ろ材の混入量を一定とし、ろ材の付着量依存についての検討を実施した。実験は、実施例2に従った。使用済ろ材の混入量はプランター当たり40ml一定とし、使用済ろ材100ml当たりの付着物量がこれまで使用してきた26gろ材に加え、5gと2gを用いた。Refは使用済ろ材なしとした。
播種から28日後、4つのプランターで発育に有意差の無いことを目視確認の後、株元からハサミでカットし、分析を実施した。分析方法も実施例2に従った。
結果を表3に示した。
【0052】
【表3】
可食部100g当たりの鉄含有量は、Refが1.21mgであったのに対し、26gろ材では1.03mg、5gろ材では1.11mgおよび2gろ材では1.22mgであった。つまりS1、S2ではそれぞれ14.9%および8.3%の低減が得られたが、2gろ材では低減が得られなかった。すなわち鉄含有量低減には、使用済ろ材100ml当たりの付着物量が5g以上有することが望ましいことが判った。
【実施例7】
【0053】
ここでは使用済ろ材の混入条件に対する作物の鉄含有量についての検討を実施した。実験は、実施例2に従った。 ただしプランターサイズは13×31×8cmで実容量約4Lのものとした。混入条件としては、使用済ろ材の混入する時期を播種時と、本葉が2枚になってからの2水準、混入形態としては使用済ろ材をそのまま混入する場合と、使用済ろ材の純水との攪拌懸濁液を灌水する場合の2水準、加えて滅菌済の使用済ろ材も比較として使用した。懸濁液作製時の純水量が300mlであるのは、プランター当たりの1回の灌水量を300mlとしたためである。
【0054】
播種から33日後、6つのプランターで発育に有意差の無いことを目視確認の後、株元からハサミでカットし、分析を実施した。分析方法も実施例2に従った。滅菌は(株)平山製作所製の高圧蒸気滅菌器HV-50LBを使用し、滅菌条件は、2気圧、121℃、20分間とした。
結果を表4に示した。
【0055】
【表4】
滅菌した使用済ろ材においてのみ、鉄含有量低減効果が見られなかったが、それ以外では1割程度の低減が図れた。
使用済ろ材の土壌への混入時期は、播種時でも本葉が出てきてからでもどちらでも有効であること、また混入には使用済ろ材そのままの形態でも、懸濁液としての灌水でも有効であることが判明した。つまり通常の農作業に比べてなんら煩雑な作業や管理が不要であること、ただ鉄バクテリアを死滅させないように注意するだけで鉄分低減作物が栽培可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
実施例では、小規模な栽培での適用について述べたが、大規模に適用するには溝施肥の要領をそのまま活用できる。つまり、機械耕耘しながら必要な溝を掘り進め、そこに従来の施肥をする際に、使用済ろ材を追加撒布すればよく、複雑な作業は不要と言える。
土壌への混入方法については、使用済ろ材をそのまま投入する以外に、水切りネットなど、使用済ろ材中の鉄バクテリア類を保持できるものであれば使用可能である。
さらには、予め使用済ろ材を水などの液体と混合攪拌し、鉄バクテリア類を抽出させた溶液を土壌へ撒液してもよい。この場合は、当該溶液が肥料分を含んでいてもよく、使用済ろ材の設置または必要に応じ回収の手間が省ける。
【0057】
水切りネット中へ使用済ろ材を入れて、実際に土壌へ投入し、作物収穫後掘り出してみた。結果、ブルーベリーや雑草の根がネット中に入り込んで本来の土壌と一体化の様相を呈していたこと、またネット内からミミズが這い出してきたことから、植物や土中への悪影響は見受けられない。さらには、この掘り出した使用済ろ材に対し一般細菌培養試験を行った。細菌培養には標準寒天培地を用い、滅菌済シャーレにサンプルをセットし培養液を振りかけて放冷1時間後、36±1℃で24時間培養した。比較には、室内保管の使用済ろ材を用いた。
【0058】
結果、室内保管ろ材ではシャーレ当たり10個と殆ど細菌は存在しなかったが、掘り出しろ材では数百個と多くの細菌の存在が明らかとなった、即ち多くの土中細菌が使用済ろ材に住み着いていたことを示した。以上のことから、使用済ろ材を土中に投入した場合、ミミズなど小動物のみならず、細菌レベルにおいても悪影響は見られず、安心な材料といえる。
【0059】
この使用済ろ材は、使用済であっても使用前であっても適度な空隙を有することから、土壌の保水性と気相性の向上を図ることができるとともに、使用済ろ材の粒同士あるいは土壌との間で形成させる隙間によって排水性の向上をも図ることができる。
【0060】
使用済ろ材に対し、鉄バクテリア類を死滅させた場合の変化を、電気伝導度(EC)および全有機体炭素(TOC)を用いて調べた。
実験には、奈良県大和郡山市内の地下水を原水として用い、その水質変化を見ている。具体的には、200mlの原水を入れたコニカルビーカーを3つ準備し、一つ目は滅菌なしの使用済ろ材200mlを、二つ目は滅菌処理有りの使用済ろ材200mlをそれぞれビーカーへ投入する。三つ目は比較例として何も投入していない。各々22時間放置後に、全てNo.1ろ紙でろ過し溶液を得た。
【0061】
滅菌は(株)平山製作所製の高圧蒸気滅菌器HV-50LBを使用し、滅菌条件は、2気圧、121℃、20分間とした。
ECは東亜電波工業社製WM-50EGを、TOCは島津製作所製の全有機体炭素計TOC-Vcshを使用した。結果を表5に示した。参考として水道水質基準値も併記している。
【0062】
【表5】
【0063】
電気伝導度ECは滅菌の有無、さらには使用済ろ材の有無にかかわらず有意差は見られなかった。一方、全有機体炭素TOCについては、滅菌処理のない使用済ろ材の場合は、比較例と同様、水質基準値の範囲内であり問題は見られなかったが、滅菌済ろ材においては、原水よりも一桁以上の大きな数値を示した。さらには、この滅菌済ろ材の試料は悪臭がした。これは細菌の死骸が全有機体炭素としてカウントされたものと考えられる。
【0064】
使用済ろ材に対し以下のことが言える。
・作物中の鉄含有量を低減させるには、死滅していない鉄ハ゛クテリアの存在が必要であること
・使用済ろ材は滅菌の有無にかかわらず適度な空隙を有することから、土壌中の保水性、排水性の向上が図れること
・滅菌した使用済ろ材を用いれば、作物中の鉄含有量は低減できないがTOCが激増することから、若干の有機肥料効果が期待できること
が判った。
【0065】
本文では、鉄バクテリアと一般細菌との共存について述べているが、特にそれらの組み合わせを限定するものでは無く、例えば硝化菌など記載以外の細菌を含んでいてもかまわない。
【要約】
【課題】産業廃棄物を活用し、成育を阻害すること無く作物中の鉄含有量を低減させる栽培土壌改質材を提供する。
【解決手段】本願発明の栽培土壌改質材は、死滅していない鉄バクテリアを含み、栽培作物中の鉄含有量低減機能を有する。
原水の浄化法である生物ろ過法で使用した使用済ろ材を、土壌に混入させることで、鉄含有量を低減させた作物の提供が可能となる。
【選択図】
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