(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミニウム基材又はアルミニウム合金基材の表面に陽極酸化皮膜を有し、フッ素と、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、クロム、タングステン、バナジウム及びコバルトからなる群から選択された一種又は二種以上の金属とを含む成分で封孔されるアルマイト部材であり、
JIS Z 2371記載の試験方法に従って中性塩水噴霧試験であるSST試験で360時間以上、且つ、JIS H 8681(1988)記載の試験方法に従ってCASS試験を24時間実施したときR.N9以上の耐食性を有するアルマイト部材。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理技術の一つとして、アルマイト(陽極酸化)処理が古くから行われている。アルマイト処理は陽極電解によりアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に多孔質層とバリア層からなる酸化膜を形成させ、その後に多孔質層に生じる孔を封孔することでアルミニウム部材に耐食性を付与させる技術である。また、アルマイト処理後に染料等の着色剤に浸漬させ、多孔質層の孔に染料を染み込ませ、その後に封孔処理を行うことで優れた色調と耐食性を付与させることが可能な技術でもある。染料を選択することで多くの色調が得られ、更に耐食性も優れていることから、アルマイト処理は古くから工業分野で広く利用されている。
【0003】
ここで、封孔処理としては、処理対象部材を酢酸ニッケル等を含有した処理剤に浸漬して行うのが一般的である。また、例えば特許文献1には、第一段階として常温封孔処理を行い、第二段階として熱水封孔処理を行うことを特徴とするアルミニウム陽極酸化皮膜の封孔処理方法が開示されている。そして、このような構成によれば、アルミニウム製品の耐久性(耐候性、耐蝕性、耐薬品性など)及び外観を向上させることができると記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、アルミニウム又はアルミニウム合金に陽極酸化皮膜を生成させた後、第1封孔処理として通常使用されている封孔剤の5〜80℃の水溶液に浸漬し、次いで、第2封孔処理として60〜100℃の加温した水中に浸漬することを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の2段階封孔処理法が開示されている。そして、このような構成によれば、優れた封孔効果を有するだけでなく、処理浴の管理が容易であり、しかも簡単な設備で安価に実施し得るアルミニウムの陽極酸化皮膜の封孔処理法を提供することができると記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム又はアルミニウム合金を、コバルトイオン及び/又はクロムイオンと、フッ素イオンとを含有する処理剤で処理することで封孔処理されたアルマイト部材を製造する方法が開示されている。そして、このような構成によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金で優れた耐食性と封孔性を有するアルマイト処理部材を得ることができると記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、アルミニウム部材は鉄と比較して比重が1/3であり、軽量化が求められる製品では鉄の代替材料として使用されている。特に、近年では、車体部品又は車載部品等の過酷な環境下で使用されており、アルマイト部材についても従来にも増して良好な耐食性が求められている。
【0008】
アルマイト部材の耐食性の評価方法としては、酸性の塩水噴霧試験であるCASS試験、及び、中性の塩水噴霧試験であるSST試験が知られている。しかしながら、特許文献1〜3に開示された技術では、優れた封孔性を有すると同時に、これらCASS試験とSST試験との両方の評価試験を満足し得るアルマイト部材を製造することはできていない。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、優れた封孔性と耐食性を有するアルマイト部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来技術の抱える前記問題点であるアルマイトの耐食性向上の手段について鋭意検討した。その結果、陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材に対し、所定の温度に加温した水中に浸漬する第1封孔処理工程と、所定の組成を有する処理剤による第2封孔処理工程とをこの順で含む2段階の封孔処理を実施することによって、当該課題を解決し得ることを見出した。
【0011】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材を、80〜100℃の加温した水中に1〜20分間浸漬する第1封孔処理工程と、前記浸漬後の陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材に、フッ素化合物と金属塩とを含む処理剤を用いて表面処理する第2封孔処理工程とを含み、前記処理剤中のフッ素イオン濃度が0.05〜40g/Lであり、前記処理剤中の金属塩がアルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、クロム、タングステン、バナジウム及びコバルトからなる群から選択された一種又は二種以上の金属の塩であり、且つ、前記処理剤中の前記金属のイオン濃度が0.05〜20g/Lであるアルマイト部材の製造方法である。
【0012】
本発明のアルマイト部材の製造方法は一実施形態において、前記処理剤中の前記金属のイオン濃度が0.1〜10g/Lである。
【0013】
本発明のアルマイト部材の製造方法は別の一実施形態において、前記処理剤中のフッ素イオン濃度が0.1〜20g/Lである。
【0014】
本発明のアルマイト部材の製造方法は更に別の一実施形態において、前記処理剤が、硝酸塩及び/又は有機酸をさらに含む。
【0015】
本発明は別の一側面において、アルミニウム基材又はアルミニウム合金基材の表面に陽極酸化皮膜を有し、フッ素と、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、クロム、タングステン、バナジウム及びコバルトからなる群から選択された一種又は二種以上の金属とを含む成分で封孔されるアルマイト部材であり、SST試験で360時間以上、且つ、CASS試験を24時間実施したときR.N9以上の耐食性を有するアルマイト部材である。
【0016】
本発明のアルマイト部材は一実施形態において、前記SST試験で1008時間以上、且つ、CASS試験を24時間実施したときR.N9.5以上の耐食性を有する。
【0017】
本発明は更に別の一側面において、本発明のアルマイト部材の製造方法の前記第2封孔処理工程で用いるための前記処理剤である。
【0018】
本発明は更に別の一側面において、本発明のアルマイト部材の製造方法の前記第2封孔処理工程で用いるための前記処理剤であり、前記硝酸塩が、硝酸アルミニウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、硝酸セリウム及び硝酸カルシウムからなる群から選択される一種又は二種以上であり、前記有機酸が、クエン酸、コハク酸、グルコン酸、シュウ酸、マロン酸、グルタミン酸、乳酸、酢酸、蟻酸、フタル酸及びフミン酸からなる群から選択される一種又は二種以上である処理剤である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた封孔性と耐食性を有するアルマイト部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(アルマイト部材の製造方法)
陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材に対し、2工程で封孔を行うことで耐食性を向上させる方法として、前述の特許文献1及び特許文献2に開示された技術があるが、これらの方法ではCASS耐食性は若干向上しても、SST耐食性を向上させることは困難である。すなわち、特許文献1及び特許文献2に開示された方法は、1工程目の封孔で金属塩等をアルマイト細孔内、アルマイト表面に析出させ、2工程目で熱水処理を行い、陽極酸化皮膜を水和・膨張させて封孔を完了させる。このとき、1工程目で細孔内壁等に金属塩が析出するが、2工程目で陽極酸化皮膜が水和・膨張するため、析出した金属塩にダメージを与え、耐食性の性能が向上しないと考えられる。
【0021】
このように、特許文献1及び特許文献2等の1工程目の封孔で金属塩等をアルマイト細孔内、アルマイト表面に析出させ、2工程目で熱水処理を行い、陽極酸化皮膜を水和・膨張させて封孔を完了させる方法ではCASS耐食性及びSST耐食性の両方を満足させる封孔処理が困難であるため、本発明者らは、当該2工程の順序を逆にした場合を想定した。しかしながら、従来の2工程を単純に逆にすると、1工程目で熱水処理を行うことで陽極酸化皮膜の細孔が小さくなり、2工程目で金属塩の細孔内での析出が阻害され、耐食性が向上しないことになってしまう。このように、従来の封孔処理の2工程の順序を単純に逆にした場合を想定しても、そのままではCASS耐食性及びSST耐食性の両方を満足させる封孔処理が困難であると考えられる。
【0022】
しかしながら、本発明者らは、従来の封孔処理の2工程の順序を逆にした上で、さらに、2工程目の金属塩処理で用いる処理剤を適切に調製することに着目した。その結果、1工程目で熱水処理を行い、2工程目で金属塩封孔を行う方法では、1工程目で陽極酸化皮膜が水和・膨張して封孔され、細孔は小さくなるが、2工程目の金属塩封孔処理剤として細孔の僅かな隙間から細孔内、奥深くまで金属塩を析出させるような処理剤を用いることで、当該問題を解決するであろうという考えに至った。また、熱水処理による封孔処理が1工程目であるために、析出した金属塩にダメージも与えない。このような方法によって、CASS耐食性及びSST耐食性の両方を満足させる封孔処理が可能となる。また、従来の酢酸ニッケル系封孔処理に比べて、封孔処理時間の短縮化が望める。
【0023】
本発明のアルマイト部材の製造方法は、前述の知見に基づき、陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材を、80〜100℃の加温した水中に1〜20分間浸漬する第1封孔処理工程と、浸漬後の陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材に、フッ素化合物と金属塩とを含む処理剤を用いて表面処理する第2封孔処理工程とを含む。処理剤中のフッ素イオン濃度は0.05〜40g/Lである。処理剤中の金属塩がアルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、クロム、タングステン、バナジウム及びコバルトからなる群から選択された一種又は二種以上の金属の塩であり、且つ、処理剤中の前記金属のイオン濃度が0.05〜20g/Lである。
【0024】
アルミニウム基材又はアルミニウム合金基材は、ADC、AC、A1000〜A7000等を用いることができ、ADC12、A2000、A7000を用いることが好ましい。
【0025】
第1封孔処理工程は、陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材を、80〜100℃の加温した水中に1〜20分間浸漬する。加温する温度が80℃未満であると、水和・膨張不足による耐食性の低下という問題が生じる。加温する温度は好ましくは95〜100℃であり、浸漬時間は好ましくは5〜15分である。
【0026】
第2封孔処理工程は、浸漬後の陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材に、フッ素化合物と金属塩とを含む処理剤を用いて表面処理する。処理剤中のフッ素イオン濃度は0.05〜40g/Lであり、好ましくは0.1〜20g/Lである。処理剤中のフッ素イオン濃度が0.05g/L未満であると、反応不足による耐食性の低下という問題が生じる。また、処理剤中のフッ素イオン濃度が40g/Lを超えると、過処理による耐食性の低下という問題が生じる。
【0027】
第2封孔処理工程で用いる処理剤中の金属塩がアルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、クロム、タングステン、バナジウム及びコバルトからなる群から選択された一種又は二種以上の金属の塩であり、当該金属は好ましくはチタン、ジルコニウム、タングステン、クロム、コバルトである。また、当該処理剤中の金属のイオン濃度は0.05〜20g/Lであり、好ましくは0.1〜10g/Lである。
【0028】
処理剤中のアルミニウム源としては、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、コルイダルアルミナ等のアルミニウム化合物が利用できる。
【0029】
処理剤中のチタン源としては、塩化チタン、シュウ酸チタンカリウム、チタンフッ化アンモン、フッ化チタンカリウム、硫酸チタン等のチタン化合物が利用できる。
【0030】
処理剤中のジルコニウム源としては、オキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ジルコンフッ化アンモニウム、ジルコンフッ化水素酸、ジルコニウムゾル等のジルコニウム化合物が利用できる。
【0031】
処理剤中の亜鉛源としては、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、炭酸亜鉛等の亜鉛化合物が利用できる。
【0032】
処理剤中のクロム源としては、硝酸クロム、硫酸クロム、塩化クロム、リン酸クロム、酢酸クロム、水酸化クロム等の3価クロム塩、およびクロム酸や重クロム酸等の6価クロムを還元剤により3価に還元した3価クロム等のクロム化合物が利用できる。
【0033】
処理剤中のタングステン源としては、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムが利用できる。
【0034】
処理剤中のバナジウム源としては、硝酸バナジウム、硫酸バナジウム、塩化バナジウム、バナジン酸、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸アンモニウム等のバナジウム化合物が利用できる。
【0035】
処理剤中のコバルト源としては、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト、リン酸コバルト、酢酸コバルト、フッ化コバルト、水酸化コバルト等のコバルト化合物が利用できる。
【0036】
第2封孔処理工程で用いる処理剤には、硝酸塩及び/又は有機酸をさらに含んでもよい。硝酸塩を含有すると、処理剤のハンドリング性が向上する点で好ましい。また、硝酸塩及び有機酸は処理剤のpH調整剤として用いることができる。硝酸塩としては、硝酸アルミニウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、硝酸セリウム及び硝酸カルシウムから選択される一種又は二種以上が挙げられ、硝酸ナトリウム、硝酸セリウム、硝酸マグネシウムが好適に用いられる。硝酸塩の濃度は0.01〜100g/L、好ましくは0.1〜30g/Lである。有機酸としては、クエン酸、コハク酸、グルコン酸、シュウ酸、マロン酸、グルタミン酸、乳酸、酢酸、蟻酸、フタル酸及びフミン酸から選択される一種又は二種以上が挙げられ、マロン酸、シュウ酸、フタル酸、酢酸が好適に用いられる。有機酸の濃度は0.1〜100g/L、好ましくは1〜70g/Lである。
【0037】
第2封孔処理工程における当該処理剤を用いた表面処理としては、浸漬後の陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材に当該処理剤を噴霧してもよく、浸漬後の陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材を当該処理剤中に浸漬してもよい。この際、処理温度は10〜60℃、好ましくは30〜60℃であり、処理時間は1〜20分、好ましくは5〜15分であり、処理剤のpHは3〜12、好ましくは3〜6であり、さらに好ましくは4程度である。
【0038】
本発明のアルマイト部材の製造方法によれば、封孔処理について、このように1工程目で熱水処理を行い、2工程目で金属塩封孔を行っている。1工程目でアルマイト皮膜が水和・膨張し封孔され細孔は小さくなるが、2工程目の金属塩封孔処理剤として細孔の僅かな隙間から細孔内、奥深くまで金属塩が析出する。また、熱水処理による封孔処理が1工程目であるために、析出した金属塩にダメージも与えない。このような方法によって、CASS耐食性及びSST耐食性の両方を満足させる封孔処理が可能となる。また、従来の酢酸ニッケル系封孔処理に比べて、封孔処理時間の短縮化が望める。
【0039】
本発明のアルマイト部材の製造方法は、陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材に、前述のように封孔処理を行うが、陽極酸化皮膜を形成する前に陽極酸化前処理を行っていてもよく、当該封孔処理後に乾燥処理を行ってもよい。
【0040】
(陽極酸化前処理)
陽極酸化前処理の処理剤は、苛性アルカリ、シリカ、硝酸、鉱酸、有機酸、フッ素化合物、及び、界面活性剤を含有するのが好ましい。このような構成であれば、油や離型剤や汚れの除去が可能で、後の工程で均一なアルマイト外観や良好な耐食性が得られる。
【0041】
陽極酸化前処理として脱脂を行うことで、本発明のアルマイト部材の処理外観、耐食性および塗装密着性を向上させることができる。脱脂には酸性タイプやアルカリタイプの脱脂剤が使用できる。脱脂時間に関しては部材の油付着度合いにより処理条件を変化させる必要があるが、脱脂時間が短い場合は脱脂不良となり、最終的な処理物で外観ムラや優れた耐食性が得られなくなる。
【0042】
陽極酸化前処理としてエッチングを行うことで、本発明のアルマイト部材の処理外観、染色性、耐食性および塗装密着性を向上させることが可能である。離型剤などが付着している部材ではエッチングにより離型剤の除去が可能である。酸やアルカリを用いたエッチング処理を行うことで離型剤が除去でき、耐食性が向上する。離型剤等の除去が不十分であった場合、最終的な処理物で外観ムラや優れた耐食性が得られなくなる。
【0043】
処理物表面にスマットが発生した場合には、脱スマット処理(例えば、硝酸につけることでスマット(しみ)を除く処理)が可能である。陽極酸化前処理として脱スマット処理を行うことで、本発明のアルマイト部材の処理外観、染色性、耐食性および塗装密着性を向上させることが可能である。脱スマット処理が不十分であった場合には最終的な処理物で外観ムラや優れた耐食性が得られなくなる。
【0044】
陽極酸化前処理として研磨処理を行うことで、本発明のアルマイト部材の処理外観、染色性、耐食性および塗装密着性を向上させることが可能である。特に処理物の意匠性や湯じわ除去等の効果を得ることが可能となる。酸性型やアルカリ性型研磨剤を使用でき、また化学研磨処理や電解研磨処理を行うことができる。
【0045】
陽極酸化前処理として梨地処理(艶等を無くす処理)を行うことで、本発明のアルマイト部材の処理外観、染色性、耐食性および塗装密着性を向上させることが可能である。特に処理物の意匠性や湯じわ除去等の効果を得るため、梨地処理を行うことが可能である。酸性型やアルカリ性型梨地剤を使用でき、また化学梨地処理や電解梨地処理を行うことが出来る。
【0046】
(アルミニウム陽極酸化処理)
上記陽極酸化前処理後の金属基材を、アルマイト処理液の処理浴に浸漬することで、アルミニウム陽極酸化処理を行う。陽極酸化処理による酸化膜の膜厚は1〜70μmが好ましく、5〜30μmがより好ましい。1μm未満であると耐食性が低下するとともに染色処理が困難となり、70μm超では生産性が低下するため好ましくない。1μm以上の膜厚が得られるのであればアルマイト処理液や温度・電圧等は自由に選択することができる。一般的なアルマイトや硬質アルマイトの浴に用いる処理液となる硫酸、硫酸アンモニウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素アンモニウム、燐酸、燐酸ナトリウム、硼酸、硼砂、炭酸アンモニウム、クロム酸、重クロム酸、スルファミン酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、クエン酸アンモニウム、蟻酸、アンモニア水、水酸化ナトリウム、フッ化アンモニウム、フェリシアン化カリウム、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、過酸化水素水、チタン酸シュウ酸カリウム、スルホサリチル酸、スルホフタル酸、スルホイソフタル酸、フェノールスルホン酸等を含有し、−5〜250℃で使用される処理剤を利用できる。
【0047】
(アルミニウム陽極酸化処理後の染色処理)
陽極酸化処理と、封孔処理との間に、染色処理を行うことができる。このとき、その後のアルミニウム陽極酸化後処理を行うことで、泣き出しと呼ばれる染料の流出もなく、良好な外観と耐食性を得ることが可能である。染色処理を行うことで、本発明のアルマイト部材の処理外観を向上させることが可能である。
【0048】
(封孔処理の後の湯洗)
封孔処理の後に湯洗を行うことも可能である。湯洗の有無で外観や耐食性に影響はないが、湯洗を行うことで洗浄能力が向上するとともに、部材の温度が上昇しその後の乾燥工程での乾燥を容易に、短時間で行うことができる。温度や時間に指定はないが、40〜80℃、10秒〜5分浸漬が量産性に優れている。
【0049】
(封孔処理の後のコーティング、プライマー、塗装、クリアコート)
封孔処理の後に、ケイ素、樹脂及びワックスからなる群のうち一種以上を含有するコーティング、プライマー、塗装、クリアコートのいずれか一つ以上の処理を行っても良い。当該コーティングは、主に耐食性を付与することができる。当該プライマーは、主に塗装の下地として使用され、密着性を付与することができる。当該塗装は主に色調を制御するために使用される。当該クリアコートは、主にワックスのような艶出しのために使用される。これらコーティング、プライマー、塗装、クリアコートに特に限定はなく、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、アルキド樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート等の樹脂類やケイ酸塩、コロイダルシリカ等を成分とするコーティング、プライマー、塗装、クリアコートを用いても良い。これらの濃度は、0.01〜800g/Lが好ましいが、適切な濃度は成分の種類により異なる。コーティング剤としては、具体的には、コスマーコート(商品名、関西ペイント(株))、ハイシール272(商品名、日本表面化学(株))、ストロンJコート(商品名、日本表面化学(株))、トライナーTR−170(商品名、日本表面化学(株))、フィニガード(商品名、Coventya社)等が挙げられる。アクリル樹脂としては、具体的には、GX−235T(商品名、日本表面化学(株))、ヒロタイト(商品名、日立化成(株))、アロセット(商品名、(株)日本触媒)等があり、オレフィン樹脂については、フローセン(商品名、住友精化(株))、PES(商品名、日本ユニカー(株))、ケミパール(商品名、三井化学(株))、サンファイン(商品名、旭化成(株))、エポキシ樹脂としてはALプライマー(商品名、イサム塗料(株))、イサムエポロ500(商品名、イサム塗料(株))等が、挙げられる。また、電着塗装を行うこともできる。
【0050】
(乾燥処理)
封孔処理の後、或いは、上記コーティング、プライマー、塗装又はクリアコートが行われた場合はそれらの後に、乾燥処理を行う。乾燥温度は部材を乾燥させることができれば制限はないが、20〜200℃の範囲が好ましく、60〜120℃の範囲であることがより好ましい。乾燥温度が20℃より低い場合は乾燥時間がかかり生産性を低下させ、また200℃以上の場合はコストが上昇するため好ましくない。乾燥時間は部材を乾燥させることができれば制限はないが、1〜20分の範囲が好ましく、5〜15分の範囲であることがより好ましい。乾燥時間が1分より短い場合は乾燥不足を招きやすく、また20分以上の場合は生産性が低下するため好ましくない。
【0051】
(アルマイト部材)
本発明のアルマイト部材は、前述のアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材の表面に陽極酸化皮膜を有し、フッ素と、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、クロム、タングステン、バナジウム及びコバルトからなる群から選択された一種又は二種以上の金属とを含む成分で封孔されるアルマイト部材であり、SST試験で360時間以上、且つ、CASS試験を24時間実施したときR.N9以上の耐食性を有する。このような構成によれば、優れた封孔性を有するとともに、SST試験及びCASS試験の両方の評価が良好である、優れた耐食性を有するアルマイト部材を提供することができる。本発明のアルマイト部材は、SST試験で1008時間以上、且つ、CASS試験を24時間実施したときR.N9.5以上の耐食性を有するのがより好ましい。
【0052】
(処理剤)
本発明の処理剤は、本発明のアルマイト部材の製造方法の第2封孔処理工程で用いるための処理剤である。当該処理剤は、前述した第2封孔処理工程で用いた処理剤と同様の構成であり、本発明のアルマイト部材を製造するための第1封孔処理工程後(熱水処理後)、陽極酸化皮膜が水和・膨張し封孔されて細孔は小さくなるが、第2封孔処理工程の封孔処理剤として細孔の僅かな隙間から細孔内、奥深くまで金属塩を析出させるような処理剤となっている。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明の実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0054】
実施例1〜30、比較例1〜3について、処理対象の金属基材(素材)としては、アルミニウム合金基材としてADC12材を用い、当該ADC12材に、脱脂処理、エッチング処理、脱スマット処理、アルマイト処理、封孔処理、乾燥処理の各処理をこの順で行った。また、各処理間では十分に水洗を行った。各処理条件は以下の通りであった。
【0055】
(脱脂処理)
脱脂処理液:ケイクリン6(日本表面化学株式会社製アルミ用脱脂剤)、濃度30mL/L
処理液温度:50℃
処理時間:5分
【0056】
(エッチング処理)
エッチング処理液:水酸化ナトリウム、濃度50g/L
処理液温度:50℃
処理時間:1分
【0057】
(脱スマット処理)
脱スマット処理液:RK456(日本表面化学株式会社製アルミ用脱スマット剤)、原液の濃度
処理液温度:室温
処理時間:2分
【0058】
(アルマイト処理)
アルマイト処理液:98%精製濃硫酸、濃度150g/L
処理液温度:20℃
処理時間:40分
【0059】
(封孔処理)
・実施例1〜30
実施例1〜30の封孔処理は、以下の条件で第1封孔処理工程及び第2封孔処理工程をこの順で行った。
(1)第1封孔処理工程
95℃のイオン交換水中に10分間浸漬
(2)第2封孔処理工程
表1及び2に示す組成を有する封孔処理剤を用い、処理液温度40℃、pH4.0に調製し、3分間の表面処理を行った。
【0060】
・比較例1
比較例1の封孔処理は、特許文献1(特開平03−277797号公報)の実施例1に記載された方法で実施した。すなわち、第1封孔処理工程として、フッ化ニッケル5g/L、30℃、pH6.0の封孔処理液に5分間浸漬した後、第2封孔処理工程として、沸騰水(イオン交換水)に60分間浸漬した。
【0061】
・比較例2
比較例2の封孔処理は、特許文献2(特開昭56−062991号公報)の実施例に記載された方法で実施した。すなわち、第1封孔処理工程として、硫酸ニッケル15g/L、20℃の封孔処理液に5分間浸漬した後、第2封孔処理工程として、沸騰水に10分間浸漬した。
【0062】
・比較例3
比較例3の封孔処理は、特許文献3(特開2015−232155号公報)の実施例1に記載された方法で実施した。すなわち、40%硝酸クロム(III)3g/L、40%硫酸クロム(III)3g/L、硝酸コバルト(II)6水和物2g/L、硫酸コバルト7水和物2g/L、フッ化カリウム2g/L、フッ化アンモニウム2g/Lを含み、40℃、pH3.7の封孔処理液に3分間浸漬した。
【0063】
(評価試験)
・CASS試験
JIS H 8681(1988)記載の試験方法に従って、50℃の恒温室で処理試験片に対し、5%塩化ナトリウムおよび塩化第二銅0.26g/L含有のpH3の調整液を24時間噴霧し、陽極酸化皮膜の腐食率をレイティングNo.(R.N)で評価した。本試験では、R.N=10の場合に腐食率ゼロで耐蝕性が最良であり、R.N値が小さくなるほど耐蝕性が悪いことを示す。
評価は、以下の基準による。
A:R.N9.5以上
B:R.N9
C:R.N8
【0064】
・SST試験
JIS Z 2371記載の試験方法に従って、35℃の恒温室で処理試験片に対し、5%塩化ナトリウム、pH7.0に調整した液を噴霧し、白錆びが発生した時間で評価した。
評価は、以下の基準による。
A:1008時間白錆び発生なし
B:360時間後白錆び発生
C:48時間後白錆び発生
【0065】
・封孔性を示すインク試験
インク試験はJIS H 8683−1に従う試験を行った。
評価は、以下の基準による。
A:インク残り無し
B:インク残り有り
【0066】
試験条件及び評価結果を下記表1及び2に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
(評価)
実施例1〜30はいずれも優れた封孔性を有しており、SST試験及びCASS試験の両方の耐食性試験について良好な結果を示した。
なお、実施例1〜30で用いた基材であるADC12材は、アルミニウム基材、アルミニウム合金基材の中でも腐食しやすい基材であるが、上述のように実施例1〜30はいずれも良好な耐食性を示している。このため、他のADC、AC、A1000〜A7000等のアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材で実施しても、当然に耐食性が良好となることがわかる。
比較例1はSST試験結果が不良であり、比較例2はSST試験及びCASS試験の結果がいずれも不良であり、比較例3はCASS試験結果が不良であった。
【解決手段】陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材を、80〜100℃の加温した水中に1〜20分間浸漬する第1封孔処理工程と、浸漬後の陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム基材又はアルミニウム合金基材に、フッ素化合物と金属塩とを含む処理剤を用いて表面処理する第2封孔処理工程とを含み、処理剤中のフッ素イオン濃度が0.05〜40g/Lであり、処理剤中の金属塩がアルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、クロム、タングステン、バナジウム及びコバルトからなる群から選択された一種又は二種以上の金属の塩であり、且つ、処理剤中の金属のイオン濃度が0.05〜20g/Lであるアルマイト部材の製造方法。