(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
付加反応型シリコーンと、熱伝導性充填材のうちその80体積%以上が金属水酸化物である当該熱伝導性充填材と、アクリロイル基を有するシランカップリング剤とを混合して熱伝導性組成物を製造する熱伝導性組成物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発熱体と放熱体との間に熱伝導性組成物や熱伝導性シートを配置して発熱体と放熱体とを密着させるには、発熱体と放熱体の位置や大きさ、材質等の様々な影響を受けるため、その取付け操作が容易ではなかった。
そこで、予め発熱体や放熱体等の被着体の一方に対して熱伝導性シートを固着しておけば、この熱伝導性シートの取付け作業が容易になるが、熱伝導性シートを予め被着体に固着するには別途接着剤や両面テープで両者を接着する必要があり熱拡散性が劣る可能性があった。また、熱伝導性シートとなる前段階の熱伝導性組成物を被着体に塗布し熱伝導性組成物を硬化させても、その硬化物が被着体から簡単に剥離してしまうため、予め被着体に対して熱伝導性シートを固着した熱伝導性部材を得ることは困難であった。
【0005】
本発明はこうした課題を解決するためになされたものであり、発熱体や放熱体等の被着体と熱伝導性シートとが固着した熱伝導性部材と、被着体に固着する前の熱伝導性組成物並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明は次のとおり構成される。
即ち、付加反応型シリコーンと、熱伝導性充填材と、アクリロイル基を有するシランカップリング剤とを含有する混合物であり、熱伝導性充填材のうちその80体積%以上が金属水酸化物である熱伝導性組成物である。
【0007】
付加反応型シリコーンと、体積割合で80体積%以上が金属水酸化物である熱伝導性充填材と、アクリロイル基を有するシランカップリング剤とを含有する熱伝導性組成物としたため、予め発熱体や放熱体、熱拡散部材等の被着体と固着し硬化することで、熱伝導性組成物の硬化体が被着体から脱落し難い熱伝導性部材を得ることができる。
【0008】
前記混合物を硬化させてなる硬化体は、その硬さが
ASTM D2240規定に従ってタイプOOデュロメータを用いて測定した硬さで60以下である熱伝導性組成物とすることができる。
前記混合物を硬化させてなる硬化体は、その硬さが
ASTM D2240規定に従ってタイプOOデュロメータを用いて測定した硬さで60以下であるため、この硬化体が柔軟であり、取付け対象側の発熱体や放熱体とも密着して熱伝導性を高めることができる。
【0009】
前記シランカップリング剤を、付加反応型シリコーン100質量部に対して0.1〜0.8質量部の割合で含有する熱伝導性組成物とすることができる。
アクリロイル基を有するシランカップリング剤を、付加反応型シリコーン100質量部に対して0.1〜0.8質量部の割合で含有する熱伝導性組成物としたため、0.1質量部未満や0.8質量部を超えてアクリロイル基を有するシランカップリング剤を含む場合に比べて被着体との接着力が大きくなり、熱伝導性組成物の硬化
体が被着体から容易に剥がれない熱伝導性部材とすることができる。
【0010】
本発明はまた、前記何れか記載の熱伝導性組成物の硬化体と、その硬化体が固着する被着体とを備える熱伝導性部材を提供する。
前記何れか記載の熱伝導性組成物の硬化体と、その硬化体が固着する被着体とを備える熱伝導性部材とすることで、熱伝導性組成物中の各成分の組合せが好適に相互作用して硬化の際に被着体との間で接着力が発現することにより、その熱伝導性組成物の硬化体と被着体とが強固に接着した熱伝導性部材とすることができる。また、被着体を発熱体や放熱体、熱拡散部材などとすれば、予めこれらの被着体に熱伝導性組成物の硬化体を固着させているので、電子機器の組立ての工程では、この発熱体や放熱体、熱拡散部材などの被着体と、熱伝導性組成物の硬化体とを密着させる工程を省略できる。さらに、発熱体または放熱体の間に熱伝導性組成物の硬化体を配置し易く、発熱体と放熱体が熱伝導性組成物の硬化体によって接続された熱伝導性構造を容易に構築することができる。なお、被着体には、熱伝導性組成物中の付加反応型シリコーンを硬化させて硬化物を得る際に耐え得る程度の耐熱性が要求される。
【0011】
前記熱伝導性組成物の硬化体が薄板形状である熱伝導性部材とすることができる。
前記熱伝導性組成物の硬化体が薄板形状であるため、この硬化体を熱伝導性シートに代えて用いることができ、さらに既に被着体と接着した便利な熱伝導性部材として利用することができる。
【0012】
前記熱伝導性組成物の硬化体が、前記被着体の固着面よりも大きく形成されている熱伝導性部材とすることができる。
前記熱伝導性組成物の硬化体を、前記被着体の固着面よりも大きく形成されているため、その被着体の一方面を熱伝導性組成物の硬化体で覆うことができ、被着体と熱伝導性組成物の硬化体との間の熱伝導性を高めることができる。また、被着体と熱伝導性組成物の硬化体との間の固着面積を大きくすることができ、その接着性が高い熱伝導性部材とすることができる。
【0013】
前記熱伝導性組成物の硬化体が前記被着体の端部を覆う被覆部を有する熱伝導性部材とすることができる。
前記熱伝導性組成物の硬化体が前記被着体の端部を覆う被覆部を有するため、被着体の端部を保護することができる。そのため、被着体が黒鉛シートのようなもろい材質の物である場合にはその保護をすることができる。また、被着体が金属シートのような導電性の材質の物である場合には、他部品との間での予期せぬ導通を防ぎ、また硬い端面を柔らかい硬化体で覆うことで取扱い性に優れた熱伝導性部材とすることができる。
【0014】
前記熱伝導性組成物の硬化体が前記被着体の表面全体を覆うものである熱伝導性部材とすることができる。
前記熱伝導性組成物の硬化体が前記被着体の表面全体を覆うものであるため、被着体の表面全体を保護するとともに、その表面全体から熱を放散することができる。
【0015】
前記被着体が、黒鉛、アルミニウム、銅またはステンレス製の何れかからなる放熱体または熱拡散部材である熱伝導性部材とすることができる。
前記被着体を黒鉛、アルミニウム、銅またはステンレス製の何れかからなる放熱体または熱拡散部材としたため、黒鉛、アルミニウム、銅またはステンレスが熱を効率良く放散できるため、熱拡散性に優れた熱伝導性部材とすることができる。また、被着体を黒鉛とする場合は、その黒鉛が熱伝導性組成物に対する接着性が劣り、熱伝導性組成物を付着させることが極めて難しい素材であることや、黒鉛は脆いため取り扱いが難しい素材であることから、予めこの黒鉛と
熱伝導性組成物の硬化体とが固着した熱伝導性部材は、その取扱い性や耐久性、黒鉛保護性に優れ極めて有用である。
【0016】
そしてまた本発明は、付加反応型シリコーンと、熱伝導性充填材のうちその80体積%以上が金属水酸化物である当該熱伝導性充填材と、アクリロイル基を有するシランカップリング剤とを混合して熱伝導性組成物を製造する熱伝導性組成物の製造方法を提供する。
付加反応型シリコーンと、熱伝導性充填材のうちその80体積%以上が金属水酸化物である当該熱伝導性充填材と、アクリロイル基を有するシランカップリング剤とを混合して熱伝導性組成物を製造するため、被着体に対する接着性に優れた熱伝導性組成物を簡単に得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱伝導性部材によれば、発熱体と放熱体との間に熱伝導性のものを介在させる熱伝導性構造を容易に構築することができる。
また、本発明の熱伝導性組成物によれば、黒鉛シートのような接着し難い被着体に対しても高い接着力で固着することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の熱伝導性部材と熱伝導性組成物について実施形態に即してさらに詳しく説明する。熱伝導性部材は、本発明の熱伝導性組成物を硬化した硬化体(以下単に「硬化体」ともいう)が発熱体、放熱体または熱拡散部材の何れか(以下「被着体」ともいう)と固着したものである。また、本発明の熱伝導性組成物は、付加反応型シリコーンと、体積割合でその80体積%以上が金属水酸化物である熱伝導性充填材と、アクリロイル基を有するシランカップリング剤とを含有する組成物である。
最初にこの熱伝導性組成物に含まれる材料について説明する。
【0020】
付加反応型シリコーン:
付加反応型シリコーンは、液状であるが、所定の条件で硬化反応をして架橋構造をするゴム状またはゲル状のマトリクスとなる。反応前の状態で熱伝導性充填材を高充填しやすく、柔軟な熱伝導性組成物を得ることができる。
【0021】
付加反応型シリコーンには、アルケニル基を有するポリオルガノシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの組合せを例示することができる。2種のオルガノシロキサンを混合して硬化させるので、アルケニル基を有するポリオルガノシロキサンを主剤、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを硬化剤とすることができる。但し、主剤と硬化剤は、混合前の少なくとも2成分の一方を主剤とし他方を硬化剤と呼んで区別するものであって、どちらを主剤と定義しても硬化剤と定義しても良い。従って、混合割合の少ない方、粘度の低い方を主剤とすることもできる。
【0022】
主剤と硬化剤を組合せた具体例としては、アルケニル基を有するポリオルガノシロキサンと熱伝導性充填材、シランカップリング剤を混合した主剤混合組成物と、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと熱伝導性充填材、シランカップリング剤を混合した硬化剤混合組成物の2種の混合組成物の組合せを例示できる。
【0023】
付加反応型シリコーンの粘度は常温で100〜10000mPa・sであることが好ましい。粘度が100〜10000mPa・sの範囲であれば、熱伝導性充填材を高充填して、熱伝導率の高い硬化体を得ることができる。一方、100mPa・s未満の場合には、凝集力が低くなりすぎるため、硬化体の強度が弱くなり、接着力も小さくなるおそれがある。また、10000mPa・sを超える場合には、熱伝導性充填材を高充填することが難しくなり、熱伝導率が低くなるおそれがある。
【0024】
熱伝導性充填材:
熱伝導性充填材は、熱伝導性組成物中に含有させるその熱伝導性充填材の全量のうち80体積%以上を水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物としたものである。
【0025】
含有させる熱伝導性充填材のうちの80体積%以上を金属水酸化物とすることで、付加反応型シリコーンと、後述するアクリロイル基を有するシランカップリング剤との組合せにおいて、金属や樹脂フィルムに加えて黒鉛シートなどの接着性に乏しい被着体に対しても充分な接着力を発揮する。
【0026】
金属水酸化物以外の熱伝導性充填材としては、例えば、金属や炭素、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、黒鉛、炭素繊維等が挙げられる。金属としては、銅、アルミニウムなどが挙げられ、金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、石英などが挙げられ、金属窒化物としては、窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムなどが挙げられる。また、金属炭化物としては、炭化ケイ素などが挙げられる。黒鉛としては鱗片状黒鉛粉末や球状黒鉛などが挙げられ、炭素繊維としては黒鉛化炭素繊維などが挙げられる。こうした熱伝導性充填材は、熱伝導性組成物の硬化体の中で一定方向に配向させることもでき、配向させた方向に熱伝導性が高まる点で好ましい。熱伝導性シートに耐電圧性が求められる場合には、金属や黒鉛以外の熱伝導性充填材を用いることが好ましい。
【0027】
熱伝導性充填材の平均粒径は0.5〜50μmであることが好ましい。平均粒径が0.5μm未満の熱伝導性充填材は、比表面積が大きくなるため粘度が上昇し易く高充填し難くなる。一方、平均粒径が50μmを超えても充填量に見合った熱伝導性の向上を得ることができない。但し、充填性に悪影響がない場合は、0.5μm未満の熱伝導性充填材を多く含んでもよい。熱伝導性充填材の平均粒径は、レーザ回折散乱法(JIS R1629)により測定した粒度分布の体積平均粒径で示すことができる。
なお、上記熱伝導性充填材については、平均粒径の異なる複数の熱伝導性充填材を用いるようにしてもよい。
【0028】
熱伝導性充填材は、熱伝導性組成物の全体積に対して、20〜80体積%の範囲となるように添加することが好ましい。添加量が20体積%未満では、熱伝導性充填材の充填量が不足し熱伝導性が悪くなるおそれがある。一方、添加量が80体積%を超えると接着力が悪くなるおそれがある。また、熱伝導性充填材は、50〜70体積%の範囲で添加することがより好ましい。50〜70体積%の範囲ではあれば、熱伝導率と接着力が共に高い熱伝導性組成物とすることができるためである。
【0029】
このような熱伝導性充填材の中で、黒鉛化炭素繊維等の炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末を含むのであれば、そのアスペクト比が2は超えることが好ましい。熱伝導性組成物の硬化体の中でアスペクト比が2を超える熱伝導性充填材を一定方向に配向させたときに、配向方向の熱伝導率がより高まるためである。ここで、鱗片状黒鉛粉末はそのアスペクト比が5以上であることがより好ましい。鱗片状黒鉛粉末のアスペクト比は「鱗片面の長軸の長さ/厚み(短軸)」の値である。鱗片状黒鉛粉末はそのアスペクト比が高いほど単位重量当りの配向方向の熱伝導率を高める効果が高まるが、一方でアスペクト比が高すぎると熱伝導性組成物の粘度が高くなりやすいため、アスペクト比は10〜1000の範囲であることがなお好ましい。
【0030】
一方、黒鉛化炭素繊維等の炭素繊維や扁平状黒鉛粉末以外の熱伝導性充填材は、アスペクト比が2以下であることが好ましい。アスペクト比が2を超えると、粘度が上昇しやすく高充填し難いためである。したがって、金属や金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物でなる熱伝導性充填材の形状は球状であることが好ましい。
【0031】
炭素繊維の繊維直径は、好ましくは5〜20μmである。繊維直径が5〜20μmの範囲が工業的に生産しやすく、また熱伝導性を高め易い。一方、繊維直径が5μmよりも小さく、或いは20μmよりも大きいと生産性が低下する。
炭素繊維の平均繊維長は、好ましくは10〜600μm、より好ましくは80〜500μmである。平均繊維長が10μmより短いと、熱伝導性が低下するおそれがある。一方、平均繊維長が600μmよりも長いと、炭素繊維が嵩高くなり、マトリクス中に高充填することが困難になる。なお、この平均繊維長は、炭素繊維を顕微鏡で観察した粒度分布から算出することができる。
【0032】
また、炭素繊維の平均繊維長は、熱伝導性組成物を硬化した硬化体の厚みの40%以下が好ましく、且つその厚みの80%を超える繊維長の炭素繊維の含有量が5質量%以下であることが好ましい。80%を超える繊維長の炭素繊維の含有量が5質量%を超えると熱伝導性組成物の硬化体を圧縮したときに、その圧縮厚みを超える炭素繊維が多くなるからである。あるいは、炭素繊維の平均繊維長が前記厚みの50%以下であれば、圧縮時にもその厚みを超える炭素繊維の量を少なくすることができる。こうした懸念を考慮すると、炭素繊維の粒度分布は狭い方が好ましい。また、異なる粒度分布を備える複数の炭素繊維を混合して用いることは、熱伝導率を高めるという観点から好ましい。
【0033】
鱗片状黒鉛粉末としては、扁平状等とも称される扁形した黒鉛粉末を含むものである。鱗片状黒鉛粉末はグラファイトの結晶面が面方向に広がっており、その面内において等方的に極めて高い熱伝導率を備える。そのため、その鱗片面の面方向をシートの厚み方向に揃えることで、シートの厚み方向の熱伝導率を高めることができる。そうした一方で、鱗片面に対する法線方向はランダムな方向を向いている。したがって、シートの広がり方向では異方性を発現せずに、等方的に熱を伝えるように構成されている。
【0034】
この鱗片状黒鉛粉末には天然黒鉛や人造黒鉛が挙げられるが、高分子フィルムを熱分解し、得られた人造黒鉛シートを粉砕して作製した鱗片状黒鉛粉末を用いることが好ましい。こうした鱗片状黒鉛粉末はシート面方向への熱伝導率を高めることができる。黒鉛化の原料となる高分子フィルムにはポリイミド等の芳香族高分子を用いることが好ましい。グラファイト構造が発達した熱伝導性の高い黒鉛フィルムを得ることができるからである。
【0035】
鱗片状黒鉛粉末は、その平均粒径が10〜400μmの範囲であることが好ましい。平均粒径が10μm未満では、粘度上昇が大きくなり特性が向上し難い。また、平均粒径が400μmを超えると、シートからの脱落が目立つようになる。
【0036】
アクリロイル基含有シランカップリング剤:
一般的なシランカップリング剤には、Siに結合する3つの結合がメトキシ基またはエトキシ基でなり、残余の結合に種々の置換基が結合する構造のものが例示でき、この置換基には、種々の炭素数のアルキル基やビニル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、アニリノ基、イソシアネート基、アクリロイル基を挙げることができる。こうした種々のシランカップリング剤の中でも、アクリロイル基含有シランカップリング剤を用いることとしている。付加反応型シリコーンと前述の特定の熱伝導性充填材との組合せに対してアクリロイル基含有シランカップリング剤の適用が接着力を高めることになるからである。
【0037】
アクリロイル基含有シランカップリング剤の配合量は、付加反応型シリコーン100質量部に対して0.1〜0.8質量部とすることが好ましく、0.15〜0.6質量部とすることがより好ましい。0.1質量部未満や0.8質量部を超えると、被着体に対する接着力が低くなるからである。一般に、液状物中への固形物の分散性を高めるためにシランカップリング剤を添加する場合には、固形物の含有量に対応させて1.0〜20質量部程度のシランカップリング剤を添加している。これは固形物の表面処理を目的としているためであるが、こうした多量のシランカップリング剤の添加は、被着体との接着力を高める効果が無いばかりか、かえって低くすることがあり好ましくない。
【0038】
添加剤:
熱伝導性組成物には、生産性、耐候性、耐熱性など種々の性質を高める目的で種々の添加材を含むことができる。そうした添加材を例示すれば、可塑剤、補強材、着色剤、耐熱向上剤、難燃剤、触媒、硬化遅延剤、劣化防止剤など、種々の機能性向上剤が挙げられる。
【0039】
熱伝導性組成物の製造:
熱伝導性組成物を製造するには、付加反応型シリコーンに熱伝導性充填材やアクリロイル基含有シランカップリング剤、その他の必要な添加剤を加えて十分に攪拌、分散させることで行う。付加反応型シリコーンをその主剤と硬化剤との混合により硬化させる場合は、主剤と硬化剤の何れか一方、または両方に熱伝導性充填材等を分散させることができ、主剤と硬化剤とを混合して熱伝導性組成物を得る。
【0040】
熱伝導性組成物の性質:
上記成分を含む熱伝導性組成物は、常温で10〜1000Pa・s程度の粘度を有する液状またはパテ状の組成物とすることが好ましく、被着体に塗布して付加反応型シリコーンの硬化温度に加熱することで、付加反応型シリコーンを硬化して被着体に固着させることができる。粘度が、10Pa・s未満では、熱伝導性充填材が沈降するおそれがあり、また熱伝導性充填材の配合量が少ないことに起因して熱伝導率が低くなるおそれがある。一方、1000Pa・sを超える場合には、熱伝導性充填材を十分に分散させるように製造することが困難である。
【0041】
アスペクト比が高い熱伝導性充填材を磁場配向させるには、熱伝導性組成物の粘度は、常温で10〜500Pa・sであることが好ましい。10Pa・s未満では配向工程中に熱伝導性充填材が沈降するおそれがあり、500Pa・sを超えると流動性が低く熱伝導性充填材が配向しないか、配向に時間がかかりすぎるためである。しかしながら、沈降し難い熱伝導性充填材を用いたり、沈降防止剤等の添加剤を組合せたりすることによって10Pa・s未満にできる場合もある。磁場配向を行う場合の磁力線発生源としては、超電導磁石、永久磁石、電磁石、コイル等が挙げられるが、高い磁束密度の磁場を発生することができる点で超電導磁石が好ましい。これらの磁力線発生源から発生する磁場の磁束密度は、好ましくは1〜30テスラである。この磁束密度が1テスラ未満であると、熱伝導性充填材を配向させることが難しくなる。一方、30テスラを超える磁束密度は実用上得られにくい。
【0042】
上記熱伝導性組成物は、被着体に対して簡単に塗布することができ、その後、付加反応型シリコーンの硬化温度で付加反応型シリコーンを硬化させることで熱伝導性組成物の硬化体と被着体とが一体になった熱伝導性部材が得られる。詳細については後述する。
なお、熱伝導性組成物は、後述する熱伝導性部材とせずに、発熱体と放熱体の間に塗布し硬化することで、発熱体と放熱体との間で熱伝導性組成物が硬化した熱伝導性構造を構築するように利用することも可能である。
【0043】
被着体:
被着体は、熱伝導性組成物を固着させる対象物であり、発熱体、放熱体または熱拡散部材の何れとすることができ、また、これら以外の部品等とすることができる。
発熱体は、電子機器の中で熱を発する部品等であり、例えばICチップやパワー半導体、バッテリー、モーターなどが挙げられる。放熱体は、この発熱体から発せられる熱の拡散に寄与する部品等であり、例えばヒートシンクや電子機器の筐体などが挙げられる。熱拡散部材は、局所的に発熱が起こる箇所や発熱源が人体と接する箇所等に配置しヒートスポットを解消させる目的で放熱体とは別に配置される部品等であり、例えば黒鉛シートや、銅などの金属シート、ヒートパイプなどが挙げられる。但し、熱拡散部材は厳密に放熱体と区別するものではなく、熱拡散部材が放熱体として機能する場合もあり得る。
【0044】
さらに、発熱体や放熱体、熱拡散部材以外の部品等としては、熱伝導性組成物の硬化体を発熱体と放熱体との間に組み込み易いように、これらの間に位置合わせして配置可能とするための樹脂成形品や、電子機器内で用いられる各種の部品、電子機器の筐体等が挙げられる。
【0045】
こうした被着体は、その使用目的や形状、大きさ等さまざまであるが、熱拡散部材として利用される黒鉛シートは表面が不活性であり、熱伝導性組成物の硬化体を密着させることが困難な材質である。しかしながら、黒鉛シートのような接着性が乏しい材質、形状であっても被着体として好適に選択することができる。また、こうした被着体のうち、放熱体であるヒートシンクの材質としては、アルミニウム、銅、ステンレスが好適であり、熱伝導性と耐候性、コストの観点からアルミニウムがより好適である。熱拡散部材としては熱伝導率の高い銅または黒鉛が好適である。
【0046】
熱伝導性部材の製造:
熱伝導性部材の製造について説明する。
【0047】
熱伝導性部材を製造するには、上述の熱伝導性組成物を所定の型内に注入する。被着体は型内にインサートしたり、型の開口に密着させたりして固化前の熱伝導性組成物と被着体とを接触させる。炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末等のようなその配向の程度が熱伝導性に影響する熱伝導性充填材を含有しているときは、磁場を印加するなどして炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末を所望の方向に配向させる。磁場配向によって炭素繊維等を配向させるためには、熱伝導性組成物の粘度は、常温で10〜500Pa・sであることが好ましい。10Pa・s未満では炭素繊維等や炭素繊維以外の熱伝導性充填材が沈降するおそれがあり、500Pa・sを超えると流動性が低すぎて磁場で炭素繊維等が配向しないか、配向に時間がかかりすぎるためである。しかしながら、沈降し難い熱伝導性充填材を用いたり、沈降防止剤等の添加剤を組合せたりすることによって10Pa・s未満にできる場合もある。
【0048】
磁力線を印加するための磁力線発生源としては、超電導磁石、永久磁石、電磁石、コイル等が挙げられるが、高い磁束密度の磁場を発生することができる点で超電導磁石が好ましい。これらの磁力線発生源から発生する磁場の磁束密度は、好ましくは1〜30テスラである。この磁束密度が1テスラ未満であると、炭素繊維等を配向させることが難しくなる。一方、30テスラを超える磁束密度は実用上得られにくい。
【0049】
炭素繊維等を含む場合はその配向状態を維持したままで、炭素繊維等を含まない場合は配向工程を省略して、次の付加反応型シリコーンの硬化工程を実施する。これは熱伝導性組成物を付加反応型シリコーンの硬化温度に加熱して行う。付加反応型シリコーンが硬化したら型から取り出し、熱伝導性組成物の硬化体と被着体とが密着した熱伝導性部材を得る。
【0050】
炭素繊維等の配向は、磁場の印加に変えて押出成形によって行うことができる。押出成形では、流動配向の性質を利用して押出成形中の熱伝導性組成物の流動方向に炭素繊維等を配向させることができるからである。また、スリットコーター等で薄く伸ばすように塗布することで、コーティング方向に炭素繊維等を配向させることができる。こうして得られた薄膜配向シートを被着体に付着させた状態で付加反応型シリコーンを硬化させて熱伝導性部材を得ることができる。
【0051】
また、炭素繊維等の配向方向と略垂直な平面でスライスすれば、炭素繊維等が厚み方向に配向した熱伝導性組成物の硬化体を得ることができる。ここでスライス手段としては、刃物、線材、レーザなど種々の切断手段を利用することができ、刃物としてはせん断刃、押し切り刃、カンナなどを用いることができる。
【0052】
熱伝導性組成物の硬化体:
熱伝導性組成物の硬化体は、
ASTM D2240規定に従ってタイプOOデュロメータを用いて測定した硬さで
、60以下とすることが好ましい。
ASTM D2240規定に従ってタイプOOデュロメータを用いて測定した硬さ
が60以下である柔軟な硬化体とすることで、硬化後に接触する部材とも密着して熱伝導性を高めることができる。しかしながら、
ASTM D2240規定に従ってタイプOOデュロメータを用いて測定した硬さ
が60を超えると、接着力が小さくなるおそれがある。また、
ASTM D2240規定に従ってタイプOOデュロメータを用いて測定した硬さの下限
は10以上とすることが好ましい。
ASTM D2240規定に従ってタイプOOデュロメータを用いて測定した硬さ
が10未満の場合には、熱伝導性組成物の硬化体の強度が弱くなり凝集破壊しやすくなるおそれがある。
【0053】
熱伝導性部材の性質:
上記熱伝導性部材によれば、熱伝導性組成物の硬化体が接着層などの別の層を介さずに被着体に対して直接固着しているため、両者間の熱伝導性を高めることができる。また、電子機器の組立工程において、従来は、発熱体と放熱体の何れに対しても、熱伝導性組成物または熱伝導性シート等を取り付けていたのに対し、発熱体と放熱体の何れか一方に熱伝導性組成物の硬化体が固着した熱伝導性部材を準備しておけば、これを発熱体と放熱体の何れか他方に取り付けるという一の工程を行うだけで熱伝導性部材の取付けを完了させることができ、組立て工数を減らすことができる。
【0054】
また、上記熱伝導性部材では、熱伝導性組成物の硬化体が発熱体または放熱体などの被着体と強固に固着しているため、この製品の輸送や、他の被着体への取付け作業の際に、熱伝導性組成物の硬化体が剥がれ難い。そうした一方で、熱伝導性部材の硬化体を後から発熱体または放熱体のもう一方と接触させたものは、予め固着しているほどには強く接着性を有しないため、部品の取替修理や故障修理のために、それらを分離するときには、あとから固着した部分の分離が容易であり、再利用することが簡単にできる。
【0055】
熱伝導性部材の態様:
第1態様(図1〜図3):
第1態様として示す熱伝導性部材11は、熱伝導性組成物の硬化体12を板状(または薄膜状)に形成するとともに、この硬化体12と固着する発熱体や放熱体または熱拡散部材等の被着体13に対して積層したものである。
【0056】
図1に示す熱伝導性部材11a(11)は、薄板状の熱拡散部材として、金属シート13aのような被着体13に対し、熱伝導性組成物の硬化体12が付着したものである。また、
図2に示す熱伝導性部材11b(11)は、被着体13にヒートシンクなどの放熱体13bを適用したものであり、これを熱伝導性組成物の硬化体12に付着したものである。さらに、
図3に示す熱伝導性部材11c(11)は、薄板状の被着体13に対し熱伝導性組成物の硬化体12が付着したものである点は熱伝導性部材11aと同じであるが、平面視で熱伝導性組成物の硬化体12を被着体13よりもひとまわり大きく形成した点で異なる。
【0057】
熱伝導性部材11a,11cは、金属シート13aのみを取付ける場合に比べて金属シート13aの剥れ易さなどの欠点を克服でき、これら被着体13と硬化物12の一体物11として扱うことで、固着性や耐久性、取扱い性を高めることができる。
【0058】
熱伝導性部材11aを取り上げてその使用例について説明する。熱伝導性組成物の硬化物12が金属シート13aと固着した熱伝導性部材11aは、熱伝導性部材11aの硬化物12側を発熱体または放熱体の何れか一方に固着し、金属シート13
a側を、発熱体または放熱体の何れか他方に当接するように配置する。こうした態様は、金属シート13
aが熱伝導性組成物の硬化体12に固着し、この硬化体12が発熱体または放熱体の何れか一方に固着しているため、金属シート13
aが剥がれ難く、金属シート13
aと発熱体または放熱体の何れか他方との接触面を摺動させる用途に好適に用いることができる。
【0059】
熱伝導性組成物の硬化体12は、
ASTM D2240規定に従ってタイプOOデュロメータを用いて測定した硬さで60以下とすることができ、こうした硬化体12とすれば柔軟に変形するため、金属シート13
aと発熱体または放熱体の何れか他方との密着を確実にすることできる。また、摺動時に金属シート13
aが受ける圧力を緩和して、金属シート13
aに過大な圧力が加わることを抑制でき、摩擦力を下げつつ、金属シート13
aの摩耗を抑制することできる。
【0060】
第2態様(図4):
第2態様としての熱伝導性部材21は、
図4で示すように、平面視で熱伝導性組成物の硬化体12を被着体13よりもひとまわり大きく形成するとともに、被着体13の端部Eを硬化体12で覆ったものである。硬化体12のうち、被着体13を覆う部分が被覆部Cである。この態様は、被着体13が熱拡散部材の黒鉛シート13cなどのように、他の物質に対して接着性が悪く、もろい素材に対して好適に適用できる。
【0061】
第3態様(図5):
第3態様として示す熱伝導性部材31を
図5(a)で示す。この熱伝導性部材31は、被着体13の表面全体を
熱伝導性組成物の硬化体12で覆うように形成したものである。
こうした構成は、被着体13が、例えば黒鉛シート13cのように、脆い材質や、腐食されやすい材質の場合に好適に適用でき、その破損や腐食を抑制することができる。また、被着体13が、例えば発熱体13dである場合のように、その発熱体13dからの熱が四方八方に拡散し易い場合に好適に適用できる。
【0062】
熱伝導性部材31の使用例について説明すると、
図5(b)で示すように、例えば電子機器の筐体などのケース14内に発熱体13dが配置されている場合に、その発熱体13dを熱伝導性組成物の硬化体12で覆い、封止するように構成するとともに、この硬化体12をケース14とも密着させる。このように熱伝導性構造を構築することで発熱体13の破損や腐食を抑制し、かつその発熱を効果的に拡散することができる。
【0063】
第4態様(図6):
第4態様として示す熱伝導性部材41を
図6で示す。この熱伝導性部材41は被着体13を熱伝導性組成物の硬化体12と樹脂フィルム等の保護部材15で覆う構成としたものである。こうした構成も被着体13が黒鉛シート
13cや放熱体13dの場合に好適に適用できる。
【0064】
熱伝導性部材41で用いる保護部材15としては、剥離フィルムを例示することができる。剥離フィルムとすることで、発熱体または放熱体への取付けの際に、この剥離フィルムを剥がし、被着体13の表面を発熱体または放熱体に密着させるとともに、熱伝導性組成物の硬化体12をこの発熱体または放熱体に貼付することができる。このようにすれば、被着体13を覆うことでその破損や腐食を抑制することができ、かつ被着体13と発熱体または放熱体とを直接的に接触させて熱拡散を十分に行わしめることができる。剥離フィルムとしてはフッ素系樹脂フィルムやフッ素系剥離層を有する樹脂フィルム等を例示することができる。
【0065】
第5態様(図7):
第5態様として示す熱伝導性部材51は、
図7で示すように、被着体13の離れた複数箇所に熱伝導性組成物の硬化体12を固着したものである。こうした構成とすれば、被着体13が熱拡散部材13eである場合に、所定の大きさ、形状の熱拡散部材13eを取り付ける一の工程で、熱拡散部材13eを発熱体と放熱体の間に簡単に配置することができる。即ち、発熱体との接触部位に熱伝導性組成物の硬化体12aを配置し、放熱体との接触部位に熱伝導性組成物の硬化体12bを配置することで、発熱体と熱拡散部材13e、熱拡散部材13eと放熱体との間の熱伝導性を高めることができる。
【実施例】
【0066】
試料1〜試料39の熱伝導性組成物の調製:
付加反応型シリコーンの主剤50質量部、付加反応型シリコーンの硬化剤50質量部、炭素繊維(平均繊維長100μm)95質量部およびアクリロイル基含有シランカップリング剤である3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部を十分に混合して試料1の熱伝導性組成物を得た。
【0067】
また、これらの原材料を表1〜表4に示す原材料と配合(質量部)に変更する以外は試料1と同様に原材料を十分に混合して試料2〜試料39の熱伝導性組成物を得た。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
各表に示す原材料は次のとおりである。
付加反応型シリコーンは、比重が0.98であり、付加反応型シリコーンの主剤と付加反応型シリコーンの硬化剤の等量(質量部)を混合した合計質量部を示す。
付加反応型ポリイソブチレンは、比重が0.92であり、付加反応型ポリイソブチレンの主剤と付加反応型ポリイソブチレンの硬化剤の等量(質量部)を混合した合計質量部を示す。
【0073】
鱗片状黒鉛は、平均粒径が130μmであり、アスペクト比が約10、比重が2.23のものである。
アルミニウムは、球状であり、平均粒径が20μm、比重が2.70の粉末である。
水酸化アルミニウムは、破砕状であり、平均粒径10μm、比重が2.42の粉末である。
水酸化マグネシウムは、不定形であり、平均粒径3.5μm、比重が2.36の粉末である。
酸化アルミニウムは、球状であり、平均粒径20μm、比重が3.98の粉末である。
酸化マグネシウムは、破砕状であり、平均粒径5μm、比重が3.65の粉末である。
酸化亜鉛は、不定形であり、平均粒径5.0μm、比重が5.61の粉末である。
窒化アルミニウムは、破砕状であり、平均粒径15μm、比重が3.26の粉末である。
窒化ホウ素は、鱗片状であり、平均粒径11μm、比重が3.49の粉末である。
【0074】
シランカップリング剤は、含有する官能基名を表中に表示した。
アクリロイル基とは、試料1でも用いたアクリロイル基含有シランカップリング剤の3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランである。
メタクロイル基とは、メタクロイル基含有シランカップリング剤の3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。
ビニル基とは、ビニル基含有シランカップリング剤のビニルトリメトキシシランである。
デシル基とは、デシル基含有シランカップリング剤のn−デシルトリメトキシシランである。
【0075】
イソシアネート基とは、イソシアネート基含有シランカップリング剤の3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランである。
アミノ基とは、アミノ基含有シランカップリング剤の3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランである。
メルカプト基とは、メルカプト基含有シランカップリング剤の3−メルカプトプロピルトリメトキシシランである。
エポキシ基とは、エポキシ基含有シランカップリング剤のグリシドキシプロピルトリメトキシシランである。
アニリノ基とは、アニリノ基含有シランカップリング剤の3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシランである。
【0076】
上記原材料について、炭素繊維の平均繊維長は電子顕微鏡により測定した値である。具体的には、電子顕微鏡で100本の炭素繊維の長さを測定し、その平均値を平均繊維長とした。鱗片状黒鉛粉末およびそれら以外の熱伝導性充填材の平均粒径は、レーザ回折散乱法(JIS R1629)により測定した粒度分布の体積平均粒径を示した。
【0077】
試料1〜試料39の熱伝導性部材の調製:
各表の「被接着体の材質」で示す材質からなる25mm×30mmの大きさの被接着体(被着体)である基材(23)と、25mm×10mmの大きさで厚みが50μmの剥離フィルム(16)を準備した。そして
図8で示すように、基材(23)の一短辺側に端から5mmの長さだけ剥離フィルム(16)を重ねるとともに、基材(23)と同じ大きさに厚み0.5mmとなるように試料1〜試料38の熱伝導性組成物(17)を塗布した。これを150℃30分加熱し、硬化後に剥離フィルム(16)を取り去ることで熱伝導性組成物(17)を硬化体(22)とし、
図9で示す評価用の試料1〜試料38の熱伝導性部材(61)を得た。この熱伝導性部材(61)は、各基材(23)に対して熱伝導性組成物の硬化体(22)が25mm×25mmの範囲で固着し、基材(23)の一短辺側の端から5mmまでは熱伝導性組成物の硬化体(22)と基材(23)とが剥離した未着部位(F)を有するものである。
【0078】
また、試料39の熱伝導性組成物は、表4の被接着体の材質で示すシート状の黒鉛の表面にメタノールで10%に希釈したシランカップリング剤を塗布し、150℃30分加熱して、表面処理を施したシート状黒鉛(基材)を得た。この表面処理したシート状黒鉛に対し他の試料と同様に試料39の熱伝導性組成物を塗布し、150℃30分加熱した。こうして試料39の熱伝導性部材を得た。
【0079】
試料1〜試料39の性質:
硬さ:
試料1〜試料39の熱伝導性部材における熱伝導性組成物の硬化体について、ASTM D2240規定に従ってタイプOOデュロメータを用いて硬さを測定した。その結果、何れの試料についても、OO40〜60の範囲内であった。
【0080】
接着力:
試料1〜試料39の熱伝導性部材(61)について、熱伝導性組成物の硬化体(22)が基材(23)から剥離している一端(把持部(25))を把持し基材(23)から垂直方向にゆっくりと引き剥がした(
図10参照)後の様子を観察し、熱伝導性組成物の硬化体と基材との接着力を評価した。
図11(c)の模式図で表したように、熱伝導性組成物の硬化体(22)と基材(23)の界面で綺麗に剥離したものを“×”、
図11(b)の模式図で表したように、基材(23)に微量の熱伝導性組成物の硬化体(22)が固着するものの、概ね界面で剥離したものを“△”、
図11(a)の模式図で表したように、熱伝導性組成物の硬化体(22)が剥離せずに把持部(25)付近で材破したものであって、基材(23)の表面に残った熱伝導性組成物の硬化体(22)をヘラで落とせたものを“○”、熱伝導性組成物の硬化体(22)が剥離せずに把持部(25)付近で材破したものであって、基材(23)の表面に残った熱伝導性組成物の硬化体(22)をヘラで落とせなかったものを“◎”として、各表の「接着力の評価結果」に示した。
【0081】
考察:
熱伝導性充填材に水酸化アルミニウムを用いた試料4と水酸化マグネシウムを用いた試料5では接着力の評価が◎であったのに対して、熱伝導性充填材の種類をこれら以外の熱伝導性充填材に変えた試料1〜試料3、試料6〜試料10では接着力が×であった。このことから、熱伝導性充填材として金属水酸化物を用いたときには接着力が高く良好であるが、鱗片状黒鉛や金属粉、金属酸化物粉、金属窒化物粉を用いたときには要求する接着力を発揮できなかったことがわかる。
【0082】
また、水酸化アルミニウムの配合量が、付加反応型シリコーン100質量部に対して60質量部とした試料29、560質量部とした試料30で接着力の評価が◎となり、950質量部とした試料31で接着力の評価が〇となった。熱伝導性組成物の全体積に対する熱伝導性充填材の体積割合は、試料29で20体積%、試料30で70体積%、試料31で80体積%であることから、熱伝導性充填材の添加量が20〜80体積%の範囲であれば、所定の接着力が得られ、20〜70体積%の範囲であれば、特に高い接着力となることがわかる。
【0083】
接着力の強化が望める熱伝導性充填材である水酸化アルミニウムと、所望の接着力が望めない熱伝導性充填材である酸化アルミニウムの両者を配合し、その配合量割合を変化させた試料11〜19の接着力を評価したところ、水酸化アルミニウムを92.88質量部と酸化アルミニウムを16.77質量部配合し、これらの混合量である全熱伝導性充填材量に対して、水酸化アルミニウム量が90体積%に相当する試料11では接着力が◎であった。一方、水酸化アルミニウム量が80体積%に相当する試料12では接着力が○であり、同70体積%以下に相当する試料13〜試料19では接着力が×となった。これらの結果から、熱伝導性充填材の全体積に対して金属水酸化物を少なくとも80体積%以上含めば、所望の接着力を発現できることがわかる。
【0084】
付加反応型シリコーンを用いずに付加反応型ポリイソブチレンを用いた試料20については、接着力の評価が×となり、付加反応型ポリイソブチレンでは所望の接着力が得られないことがわかる。
【0085】
アクリロイル基含有シランカップリング剤に代えて別の官能基含有シランカップリング剤を用いた試料21〜試料28では、メタクロイル基含有シランカップリング剤とイソシアネート基含有シランカップリング剤を用いた試料21と試料24で接着力の評価が△になった以外は全ての試料で接着力の評価が×となった。この結果から、アクリロイル基含有シランカップリグ剤以外のシランカップリング剤を用いたのでは、充分な接着力が得られないことがわかる。
【0086】
シランカップリング剤の配合量を変えた試料32〜試料35では、その配合量を0.15質量部とした試料33、同0.6質量部とした試料34で接着力の評価が◎となった。そうした一方で、配合量を0.1質量部まで減らした試料32と、配合量を0.8質量部まで多くした試料35で接着力がやや弱まりその評価が〇となった。この結果から、アクリロイル基含有シランカップリング剤の配合量が0.15〜0.6質量部の範囲で特に高い接着力となることがわかる。
【0087】
熱伝導性組成物を固着する対象となる基材を黒鉛からアルミニウムに変えた試料36や、ステンレスに変えた試料37、銅に変えた試料38の何れでも接着力の評価は◎となった。この結果から、試料36〜試料38の熱伝導性組成物では、基材を選ばず、金属や黒鉛に対して高い接着力を有することがわかる。
【0088】
試料39の熱伝導性部材のように、熱伝導性組成物の調製の際にアクリロイル基含有シランカップリング剤を配合せずに、基材に表面をアクリロイル基含有シランカップリング剤で処理しただけでは接着力の評価が×となった。このことから、アクリロイル基含有シランカップリング剤を接着層またはプライマー層として用いても所望の接着力が得られず、熱伝導性組成物の調製の際に配合することが必要であることがわかる。
【0089】
上記実施形態や実施例で示した形態は本発明の例示であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、実施形態や実施例の変更または公知技術の付加や、組合せ等を行い得るものであり、それらの技術もまた本発明の範囲に含まれるものである。