(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6518909
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】乳酸菌およびそれを用いた乳製品乳酸菌飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20190520BHJP
A23C 9/123 20060101ALI20190520BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20190520BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23C9/123
A23L33/135
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-25148(P2015-25148)
(22)【出願日】2015年2月12日
(65)【公開番号】特開2016-146775(P2016-146775A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2018年2月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人日本食品科学工学会第61回大会事務局、日本食品科学工学会第61回大会講演集、第110頁、平成26年8月28日発行
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-01989
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-01990
(73)【特許権者】
【識別番号】591097702
【氏名又は名称】京都府
(73)【特許権者】
【識別番号】511272521
【氏名又は名称】クロレラ食品ハック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088948
【弁理士】
【氏名又は名称】間宮 武雄
(72)【発明者】
【氏名】上野 義栄
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 敬三
【審査官】
坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−105639(JP,A)
【文献】
特開2009−089626(JP,A)
【文献】
特開2013−215128(JP,A)
【文献】
特開2008−061518(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/013426(WO,A1)
【文献】
特開2015−116129(JP,A)
【文献】
日本食品科学工学会大会講演集,2014年,Vol.61th,p.56
【文献】
日本農芸化学会大会 2013年度大会講演要旨集,2013年,p.2A12P15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
A23C 9/123
A23L 33/135
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無塩発酵漬物すんきから分離されたpH2.5で生存する高い耐酸性を有しアンジオテンシン変換酵素阻害活性を示す物質産生能を有するラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)NITE P−01989菌株からなり乳製品乳酸菌飲料の製造に使用される乳酸菌。
【請求項2】
請求項1に記載の乳酸菌を乳製品原料に接種して培養することを特徴とする乳製品乳酸菌飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無塩発酵漬物すんきから新規に分離された乳酸菌、ならびに、その乳酸菌を用いて機能性を有する乳製品乳酸菌飲料を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳製品乳酸菌飲料の製造には、乳酸菌として、耐酸性や乳酸生成能に優れたラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)が主に使用されてきた。そして、近年では、ラブレ菌など、漬物等から分離された植物性乳酸菌が、日本人の体質に合った乳酸菌として注目され、乳酸菌飲料として製品化されているものもある。このような試みの1つとして、長野県内の木曽地方で伝統的に製造されている無塩乳酸発酵の漬物すんきに着目し、すんき漬またはその漬液から分離された乳酸菌を利用し、動物乳またはその加工調製品等の被発酵原料からヨーグルト等の発酵製品を製造する方法が提案されている。この製造方法では、すんき漬またはその漬液から分離されスクリーニングにより選択された乳酸菌として、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシズ・パラカゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシズ・トレランス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・ブヒネリおよびラクトバチルス・プランタラムが挙げられ、これらのうち1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いるようにする。そして、それらの乳酸菌を牛乳等の被発酵原料に添加して発酵させることによりヨーグルト等の乳酸発酵製品が効率良く製造され、得られた発酵製品は、食味、食感に優れ、また免疫の活性化等の機能性に優れる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−105639号公報(第3−6頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乳酸菌は、腸内環境を整え免疫力を活性化させることが一般に知られている。また、乳酸菌の中には、ラクトバチルス・ヘルベティカスのように血圧降下作用を示すACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害活性を有するペプチドを産生するものが存在することが知られている。特許文献1には、無塩発酵漬物すんきから分離された乳酸菌を用いてヨーグルト等の乳酸発酵製品を製造する方法が記載されており、その方法で得られる発酵製品は、一般の乳酸発酵製品と同様に免疫の活性化といった機能性に優れたものであるが、それ以外の特定の機能性について特許文献1には示されていない。
【0005】
この発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、無塩発酵漬物すんきから分離され、血圧上昇抑制作用を有する乳製品乳酸菌飲料を製造することができる乳酸菌を提供すること、ならびに、その乳酸菌を用いて血圧上昇抑制作用といった機能性を有する乳製品乳酸菌飲料を製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、無塩発酵漬物すんきから種々の乳酸菌株を分離し、分離された乳酸菌株の中から、乳製品乳酸菌飲料の製造に適した耐酸性の高い乳酸菌株を見付け出し、その機能性を評価・確認することによって完成するに至った。すなわち、請求項1に係る発明は、乳製品乳酸菌飲料の製造に使用される乳酸菌において、無塩発酵漬物すんきから分離されたpH2.5で生存する高い耐酸性を
有しアンジオテンシン変換酵素阻害活性を示す物質産生能を有するラクトバチルス・カゼイに属するLB.C11株:NITE P−01989菌株(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託)(以下、単に「LB.C11株」という)であることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、乳製品乳酸菌飲料を製造する方法において、請求項1に記載の乳酸菌を乳製品原料に接種して培養することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明の乳酸菌を使用して、請求項2に係る発明の方法により乳製品乳酸菌飲料を製造すると、血圧上昇抑制作用を示す機能性乳酸菌飲料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】この発明に係る製造方法を用いて得られた乳酸菌培養液を高血圧自然発症ラットに投与したときの収縮期血圧の変化を、注射用水を高血圧自然発症ラットに投与したときの収縮期血圧の変化と対比させて示すグラフである。
【
図2】この発明に係る製造方法を用いて得られた乳酸菌培養液を高血圧自然発症ラットに投与したときの拡張期血圧の変化を、注射用水を高血圧自然発症ラットに投与したときの拡張期血圧の変化と対比させて示すグラフである。
【
図3】この発明に係る製造方法を用いて得られた乳酸菌培養液を使用して動物細胞試験(P388白血病細胞増殖抑制試験)を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の好適な実施形態について説明する。
この発明に係る方法では、無塩発酵漬物すんきから分離された種々の乳酸菌株の中から見付け出された特定の乳酸菌株を用い、その乳酸菌株を乳製品原料に接種して培養することにより、血圧上昇抑制作用を有する機能性乳製品乳酸菌飲料を製造する。
【0011】
すんきからの乳酸菌の分離・同定や特定菌株の選定は、以下のようにして行った。
すんきより20株の乳酸菌を分離し、16S rRNAの遺伝子解析および被検菌の炭水化物代謝を試験するためのキット(シスメックス・ビオメリュー(株)製のApi 50 CH)を使用した生化学試験により乳酸菌の同定を行った。分離された20株の乳酸菌について耐酸性試験を行い、pH2.5でも生存する耐酸性の高い2種の菌株を選抜した。これらのうちの1つは、ラクトバチルス・カゼイに属するLB.C11株であり、他の1つは、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託された、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属するLB.PL9株:NITE P−01990菌株(以下、単に「LB.PL9株」という)であった。なお、LB.C11株については、pH2.0でも生存することを確認した。
【0012】
また、選抜された2種の菌株について、ACE阻害活性を調べた結果、LB.C11株が高いACE阻害活性を示した。ACE阻害活性の測定は、測定用キット((株)同仁化学研究所製、ACE Kit−WST)を用いて行った。培養液の調製は、脱脂粉乳を水で溶解した10%溶液にその溶液の1%量のブドウ糖を添加したものを液体培地として、その培地に乳酸菌を接種し、37℃の温度で5日間、乳酸菌を培養することにより行った。この結果、LB.C11株を用いて調製された培養液のIC50(μl/ml)は、0.038であった。ここで、IC50(μl/ml)は、ACE活性を50%阻害するために必要な培養液の濃度を表し、その数値が小さいほどACE阻害活性が高いことを示す。
以上の結果より、この発明に係る方法では、LB.C11株を乳製品乳酸菌飲料の製造に使用することとした。
【0013】
培養操作は、乳製品原料、例えば脱脂粉乳(スキムミルク)を水で溶解した溶液(培地)にラクトバチルス・カゼイのLB.C11株を接種して行われる。培養時の温度は、例えば37℃とする。培養の時間は、例えば3日〜5日間とする。培養後に、得られた乳酸菌培養液に、果糖、ブドウ糖、液糖などのシロップを添加してホモジナイズ(均質化)した混合液を、乳製品乳酸菌飲料(製品)とする。得られた製品は、乳製品乳酸菌飲料の規格基準である10
7cfu/ml以上の生菌数を4週間以上にわたって保持した。乳酸菌数の測定は、GYP寒天培地を用いた希釈平板培養法を用いて行った。
【0014】
なお、ラクトバチルス・カゼイのLB.C11株は、単独培養してもよいし、他の乳酸菌株、例えばラクトバチルス・プランタラムのLB.PL9株と混合培養してもよい。この場合において、ラクトバチルス・カゼイのLB.C11株とラクトバチルス・プランタラムのLB.PL9株と混合培養したときにも、血圧上昇抑制作用が認められた。すなわち、脱脂粉乳を水で溶解した10%溶液を液体培地として、その培地にラクトバチルス・カゼイのLB.C11株とラクトバチルス・プランタラムのLB.PL9株とを同時に接種し、37℃の温度で5日間、乳酸菌を培養し、得られた培養液のACE阻害活性を、測定用キット((株)同仁化学研究所製、ACE Kit−WST)を用いて調べた結果、培養液のIC50(μl/ml)は、0.040であった。また、ラクトバチルス・カゼイのLB.C11株とラクトバチルス・プランタラムのLB.PL9株とを混合培養したときには、血圧上昇抑制作用と共に、P388白血病細胞増殖抑制試験により抗腫瘍作用が認められた。
【実施例】
【0015】
次に、この発明の実施例について、比較例と対比しながら説明する。
脱脂粉乳を水で溶解し果糖ブドウ糖液糖を少量添加した溶液をオートクレーブ殺菌(121℃、7分間)し、これを液体培地として、その培地にラクトバチルス・カゼイのLB.C11株を0.1%の割合で接種し、37℃の温度で4日間、培養した。得られた乳酸菌培養液に果糖ブドウ糖液糖と香料を添加し、それをホモジナイズして乳製品乳酸菌飲料を調製した。
【0016】
[血圧上昇抑制試験]
脱脂粉乳を水で溶解した10%溶液に果糖ブドウ糖液糖を2%の割合で添加した溶液を液体培地として、その培地にラクトバチルス・カゼイのLB.C11株を接種し、37℃の温度で5日間、培養して乳酸菌培養液を調製し、これを試験液とした。また、12週齢の高血圧自然発症雄ラット(SHR/Izm系)を約1週間、ポリカーボネート製ケージ内で予備飼育したものを使用した。試験群については6匹のラットを、対照群については3匹のラットを使用した。試験群のラットには、試験液を4ml/kg(体重)の容量で強制単回経口投与し、投与してから4時間、8時間および24時間経過後における収縮期血圧および拡張期血圧を測定した。また、対照群のラットには、注射用水を4ml/kg(体重)の容量で強制単回経口投与し、投与してから4時間、8時間および24時間経過後における収縮期血圧および拡張期血圧を測定した。収縮期血圧の変化を
図1に示し、拡張期血圧の変化を
図2に示す。
図1のグラフ中のAが試験群についての血圧変化を、Bが対照群についての血圧変化を示す。また、
図2のグラフ中のCが試験群についての血圧変化を、Dが対照群についての血圧変化を示す。
【0017】
図1および
図2に示した試験結果から分かるように、この発明に係る方法で製造された試験液を投与した試験群のラットでは、投与してから4時間経過後における収縮期血圧および拡張期血圧の降下がいずれも認められた。これに対し、注射用水を投与しただけの対照群のラットでは、投与後における収縮期血圧および拡張期血圧の変化はいずれも認められなかった。
【0018】
[動物細胞試験(P388白血病細胞増殖抑制試験)]
脱脂粉乳を水で溶解した10%溶液に果糖ブドウ糖液糖を2%の割合で添加した溶液を液体培地として、その培地にラクトバチルス・カゼイのLB.C11株およびラクトバチルス・プランタラムのLB.PL9株を同時に接種し、37℃の温度で5日間、混合培養して乳酸菌培養液を調製し、この培養液を殺菌処理(食品用加圧装置により600MPaの圧力で30分間加圧)して、これを試験液とした。動物細胞として、マウス白血病細胞P388を使用し、また、培地として、RPMI−1640培地(牛胎児血清:10vol/%、ペニシリン−ストレプトマイシン:1vol/%、HEPES緩衝液:1.5vol/%)を使用した。
上記した試験液を上記した培地で希釈して、濃度20μL/mL、10μL/mLおよび5μL/mLの検体液を調製した。
【0019】
P388細胞を96ウェルプレートのウェル内に播種した後、各ウェル内のP388細胞に各濃度の検体液をそれぞれ添加した。この場合において、検体の終濃度は、10μL/mL、5μL/mLおよび2.5μL/mLとなる。そして、ウェル内のP388細胞に培地のみを添加したもの(濃度0)を未処置対照とし、カンプトテシン(和光純薬工業(株)製)を、その終濃度が5ng/mLとなるようにウェル内のP388細胞に添加したものを陽性対照とした。また、ウェル内にP388細胞を播種しないで培地のみを注入したものをサンプルブランクとした。それぞれのウェル内において、37℃の温度で3日間、反応させた後、細胞数測定キット((株)同仁化学研究所製品名Cell Counting Kit−8)溶液をウェル内に添加し、37℃の温度で3時間、反応させた。
マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイスコーポレーション(Molecular Devices Corporation)製品名SpectraMax M2e)を使用し、生成されたホルマザン色素の吸光度を測定(測定波長:450nm、対照波長:650nm)し、未処置対照の吸光度に対する各検体の吸光度から、細胞増殖率を算出した。以上の試験は、検体の調製操作以外を一般財団法人日本食品分析センターに委託して行った。試験結果を
図3に示す。
【0020】
図3に示した試験結果から、この発明に係る方法で製造された乳酸菌培養液には、P388白血病細胞増殖抑制作用が認められ、その検体濃度が高くなるほど、その作用が増進することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
この発明により、機能性を有する新たな乳製品乳酸菌飲料を提供することができ、この発明は、食品分野において大いに利用される可能性がある。