【実施例】
【0034】
(実験例1 成分富化玄米の製造)
原料となる米は、信州大学農学部の圃場で収穫された、2010年度または2011年度産コシヒカリ玄米を用いた。玄米は実験に使用するまで、ポリエチレン袋に入れて密封し、冷蔵庫に貯蔵した。加圧装置は、株式会社東洋高圧製の高圧処理装置「まるごとエキス(登録商標)」を使用した。加圧処理時の圧力保持と、温度調整は、前記高圧処理装置の制御装置を未補正で使用した。処理玄米の乾燥は、送風定温乾燥器(WFO-501W 232090 東京理化器械株式会社製)を用いて実施した。
【0035】
玄米200gと、所定量の純水をポリエチレン袋に入れ、袋の中の空気が残らないよう減圧に保ちながら密閉し、シーラーを用いて封入した。その後、直ちに55℃に設定しておいた高圧処理装置に入れ、温度を保ちながら、100MPa下で24時間処理を行った。処理後の玄米を成分富化玄米試料とし、この玄米を乾燥後精米したものを、本実施例における成分富化精白米の試料とした。
【0036】
玄米50gと、1%コチニール水溶液30ml(色素水溶液が玄米重量の60%量)をポリエチレン袋に入れ、袋の中の空気が残らないよう減圧に保ちながら密閉し、シーラーを用いて封入した。その後、直ちに55℃に設定しておいた高圧処理装置に入れ、温度を保ちながら、100MPa下で24時間処理を行った。処理後の玄米を成分添加玄米の試料とした。
【0037】
(実験例2 成分富化米粉の製造)
上記実験例1で製造した成分富化精白米を、ロータースピードミル(p-14 フリッチュ・ジャパン株式会社製)を用いて製粉し、成分富化米粉の試料とした。
【0038】
(実験例3 コントロール米の製造)
実験例1と同様のコシヒカリ玄米をコントロール玄米とした。また、これを精米して、未処理の精白米を製造し、これをコントロール精白米の試料とした。また、コントロール精白米を実験例2と同様の家庭用ミルで製粉し、これをコントロール米粉の試料とした。
【0039】
(実体顕微鏡による観察)
実験例1、2および3で製造した成分富化精白米およびコントロール精白米断面について、実体顕微鏡を用いて観察を行った。
図1は、成分富化精白米およびコントロール精白米断面の実体顕微鏡像である。図中左上の未処理と記載された図は、コントロール精白米の断面を示し、図中右下の100MPa、55℃、24hと記載された図は、成分富化精白米の断面を示す。この結果から、成分富化精白米において、ひび割れが少なく、コントロール精白米と同程度の砕粒率であることが認められた。これは、本実施例において、成分富化の加工を施しても、粒割れ等による精米歩合の低下が防止されていることを示している。また、ひび割れが少ないことにより、精白米、および米粉の食味を向上させるのに寄与している。
【0040】
(精米歩合の測定)
実験例1で製造した成分富化玄米について、加工時に浸漬する水量による精米歩合の変化を測定した。加工した玄米を乾燥後、家庭用精米機(RSKM5B 株式会社サタケ製)により精米した。
図2は、添加水量と、玄米の吸水率、精米歩合の関係を示すグラフを示す。この結果から、添加水量が増加するに従って精米歩合も向上し、添加水量が50重量%以上となると、精米歩合が80%を超えることが認められた。
【0041】
(色素含浸の観察)
実験例1で製造した成分添加玄米について、断面を肉眼観察し、種皮由来でない成分の含浸を確認した。
図3は、成分添加玄米および低圧、常温で加工した玄米の断面写真を示す。図中、左の2例が低圧、常温の玄米を示し、右の2例が高圧、高温の成分添加玄米である。また、上記高圧、高温の例のうち、左側は加工時間3時間の例であり、右側は加工時間24時間の例である。図から、成分添加玄米において、色素が内部まで含浸している様子が認められた。また、加工時間が長くなるに従って、含浸の程度が向上している様子が認められた。
【0042】
(電子顕微鏡による観察)
実験例1、2および3で製造した成分富化玄米、成分富化精白米およびコントロール精白米の表面、および断面について、走査型電子顕微鏡を用いて観察を行った。
図4は、成分富化精白米表面のSEM像(5000倍)である。また、
図5は、コントロール精白米表面のSEM像(5000倍)である。また、
図6は、成分富化精白米断面のSEM像(1000倍)である。また、
図7は、コントロール精白米断面のSEM像(1000倍)である。また、
図8は、成分富化玄米切片のSEM像(5000倍)である。また、
図9は、コントロール玄米切片のSEM像(5000倍)である。この結果から、成分富化玄米の切片、成分富化精白米の表面および断面において、でんぷんの形状が崩れており、角が取れた角丸状になっていることが認められた。このでんぷんの形状は、米、および米粉の食感、触感を向上させるのに寄与している。
【0043】
(総ポリフェノール量の測定)
本発明に係る成分富化精白米の可溶性総ポリフェノール量およびフェノール酸量を定量した。米試料中の総ポリフェノール量はChandrikaらの方法を参考に、一部改変したFolin-Ciocalteu法で測定した。米に含まれるポリフェノール類の主要な成分はフェルラ酸であることから、総ポリフェノール量をフェルラ酸当量で表わした。
【0044】
フェルラ酸100mgに50%アセトン水を加えて100mlに定容し、1mg/mlのフェルラ酸標準溶液を調製した。この標準溶液に純水を加えて適宜希釈し、複数の濃度のフェルラ酸標準溶液を調製した。各フェルラ酸標準溶液0.5mlに純水を加えた後、フォリン・シオカルト-フェノール試薬1.0ml、20%炭酸ナトリウム水溶液(w/v)1.0ml、純水4.5mlを加えて反応させた。その後、遠心分離(5,000×g, 5分間)し、得られた上清の725nmにおける吸光度を分光光度計(UV-1800 UV/VIS Spectrophotometer 島津株式会社製)を用いて測定し、吸光度の値とフェルラ酸濃度から検量線を作成した。
【0045】
成分富化精白米、およびコントロール精白米について、総ポリフェノール量を上記と同様の方法で吸光度から定量した。測定は各処理試料溶液につき2回ずつ行い、各試料溶液の測定値はフェルラ酸を標準物質として作成した検量線に代入して、可溶性の総ポリフェノール量を算出した。実験では、総ポリフェノール量は、精白米、玄米および米糠100g当たりのフェルラ酸当量(FAE mg/精白米100g)で表わした。
【0046】
表1は、加工時に加温する温度ごとの成分富化玄米およびコントロール玄米それぞれの精米歩合、成分富化玄米およびコントロール玄米をそれぞれ精米した、成分富化精白米およびコントロール精白米100g中に含まれるフェルラ酸当量を表した表である。表中、成分富化玄米と書かれた項目では、付加する圧力と温度を変更してそれぞれの数値を示している。表から、加温する温度が向上するに従って、精米歩合と総ポリフェノール量が向上していることが認められた。特に、55℃、100MPaで処理した成分富化精白米においては、総ポリフェノール量が86.0mg/100gと、コントロール米の31.0mg/100gと比較して、約3倍の量のポリフェノールを含有することが認められた。また、本発明に係る成分富化玄米を製造する際には、付加する圧力、および温度が高いほど、ポリフェノール量が増加し、同時に、精米歩合が向上することが認められた。
【0047】
【表1】
【0048】
(チアミンの測定)
本発明に係る成分富化精白米に富化された成分として、チアミンの定量を行った。測定は、HPLC法を用いて行い、チアミン塩酸塩として定量した。
図10は、成分富化精白米およびコントロール精白米それぞれ100g中に含まれるチアミンの量を表したグラフである。グラフ中、未処理とされるデータがコントロール米を示し、水/温/圧をされるデータが成分富化精白米を示している。この結果から、成分富化精白米において、0.22mg/100gと、コントロール米の0.09mg/100gと比較して、約2.4倍の量のチアミンを含有することが認められた。
【0049】
(ナイアシンの測定)
成分富化玄米に富化された成分として、ナイアシンの定量を行った。測定は、Lactobacillus plantarum ATCC8014菌株を使用した微生物定量法を用いて行った。なお、この際、ニコチン酸相当量、トリプトファンは考慮していない。
図11は、成分富化精白米およびコントロール精白米それぞれ100g中に含まれるナイアシンの量を表したグラフである。グラフ中、未処理とされるデータがコントロール精白米を示し、水/温/圧をされるデータが成分富化精白米を示している。この結果から、成分富化精白米において、4.32mg/100gと、コントロール米の1.78mg/100gと比較して、約2.4倍の量のナイアシンを含有することが認められた。
【0050】
(遊離γ-アミノ酪酸の測定)
成分富化玄米に富化された成分として、γ-アミノ酪酸の定量を行った。測定は、アミノ酸自動分析法を用いて行った。その結果、コントロール精白米では、含有量が検出限界以下であったため、定量できなかったのに対し、成分富化精白米では、16mg/100g検出され、成分富化精白米では、コントロール精白米よりも多くのγ-アミノ酪酸を含有することが認められた。
【0051】
(フィチン酸の測定)
成分富化玄米に富化された成分として、フィチン酸の定量を行った。測定は、バナドモリブデン酸吸光光度法を用いて行い、メソイノシットヘキサリン酸として定量した。その結果、コントロール精白米では、155mg/100gであったのに対し、成分富化精白米では、183mg/100g検出され、成分富化精白米では、コントロール精白米よりも多くのフィチン酸を含有することが認められた。
【0052】
(米粉試料の物性の分析)
成分富化玄米および成分富化米粉の物性を評価するため、米粉の平均粒径と、でんぷん損傷率を測定した。粒度の測定には、レーザー回折・散乱式粒度分析計(MT3000LOW-DRY 日機装株式会社製)を使用し、乾式法による粒度分布計測値から、平均粒径を求めた。粒度分布の測定は、各試料3回ずつ行い、平均値(μm)を算出した。また、でんぷん損傷率の測定には、STARCH DAMAGE KIT(K-SDAM Megazyme社製)を使用した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2は、成分富化米粉およびコントロール米粉の平均粒径およびでんぷん損傷率を測定した結果を示す。表から、成分富化米粉の平均粒径とでんぷん損傷率が、いずれもコントロール米粉の値よりも低いことが認められた。これは、成分富化玄米の製造を行う加工時に、加圧をする工程があるため、これにより米の密度が高まったことによる。米の密度が高いこと、およびでんぷん損傷率が低いことは、炊飯時のでんぷんの糊化、溶出を抑制し、食味を向上させるのに寄与している。