【文献】
HONDA, K et al.,Altered plasma apolipoprotein modifications in patients with pancreatic cancer: protein characterization and multi-institutional validation,PLoS One,2012年10月 8日,7(10),e46908
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
APOA2−ATQタンパク質及びAPOA2−ATタンパク質の前記C末端領域が、それぞれC末端を含む6以上の連続したアミノ酸を含む配列からなる、請求項1に記載の検出方法。
前記ロジスティック回帰式が、APOA2−ATQタンパク質の前記測定値、及び/又はAPOA2−ATタンパク質の前記測定値、及び/又はAPOA2−ATQタンパク質の前記測定値とAPOA2−ATタンパク質の前記測定値の積を変数として含む、請求項1又は2に記載の検出方法。
前記第3の工程において、膵臓癌又は膵良性腫瘍に罹患していると決定された被験体について、当該被験体の体液試料中における膵臓癌マーカーCA19−9又はDU−PAN−2の量を測定し、その測定値が、所定の基準値を超える場合には、その被験体は膵臓癌に罹患していると決定し、当該基準値以下である場合には、その被験体は膵良性腫瘍に罹患していると決定する第4の工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の検出方法。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の測定対象となるのは膵腫瘍である。本明細書において「膵腫瘍」は膵臓において形成される全ての腫瘍を指す。具体的には、悪性腫瘍である「膵臓癌」と、良性腫瘍である「膵良性腫瘍」である。
【0036】
本明細書において「膵臓癌」とは、膵臓において形成される全ての悪性腫瘍をいう。具体的には、浸潤性膵管癌、膵管内管状腺癌、膵腺房細胞癌、膵漿液性嚢胞腺癌、膵粘液性嚢胞腫瘍(膵粘液性嚢胞腫瘍の一種)、膵管内乳頭粘液性腫瘍(膵管内乳頭粘液性腫瘍の一種)、膵神経内分泌腫瘍(膵内分泌腫瘍の一種)等が含まれる(「膵癌取り扱い規約」、第6版補訂版、2013年、日本膵臓学会、金原出版)。対象とする膵臓癌の進行度は問わない。早期癌、進行癌、及び末期癌のいずれも包含する。
【0037】
本明細書において「早期癌」とは、腫瘍が発生した局所(粘膜内)に限局していて、周囲組織への浸潤の無いもの、あるいは浸潤があってもその範囲が局所に限局しているものである。具体的には、UICC(Unio Internationalis Contra Cancrum)のステージ分類において、0、IA、IB、IIA、IIBであるものを指す(「TNM悪性腫瘍の分類」、第7版 日本語版、2012年、UICC日本委員会 TNM委員会、金原出版)。前述のように膵臓癌は、極めて予後が悪い難治性癌であるが、早期膵臓癌を発見できれば5年生存率を著しく向上させることができる。
【0038】
また「膵良性腫瘍」には、膵粘液性嚢胞腺腫(膵粘液性嚢胞腫瘍の一種)、膵管内乳頭粘液性腺腫(膵管内乳頭粘液性腫瘍の一種)、膵神経内分泌腫瘍(膵内分泌腫瘍の一種)、膵漿液性嚢胞腺腫、膵臓に発生する異型上皮及び上皮内癌が含まれる(「膵癌取り扱い規約」、第6版補訂版、2013年、日本膵臓学会、金原出版)。
【0039】
1.抗APOA2抗体及びその断片
本発明の第一の実施形態は、抗APOA2抗体(抗APOA2タンパク質末端抗体及び抗APOA2タンパク質非末端抗体を含む)、及びその断片である。
【0040】
1−1.抗APOA2抗体
本明細書において「APOA2タンパク質」とは、各生物種APOA2タンパク質が該当するが、好ましくはヒト由来のAPOA2タンパク質(GenBankアクセッションNo.NP_001634.1)である。具体的には、配列番号1、2又は3に示されるヒト由来の野生型APOA2タンパク質のバリアントが含まれ、さらに、それらの天然変異体、及びそれらの断片も含む。
【0041】
本明細書において前記「バリアント」とは、ヒト又は動物の血漿、血清、又は他の体液中に存在しえる、APOA2タンパク質の異なる分子形態を意味する。例えば、APOA2タンパク質においてC末端領域の構造が異なるAPOA2タンパク質又はそれらの天然変異体が該当する。具体的には、例えば、配列番号1で示されるC末端領域のアミノ酸配列がATQで終わるAPOA2−ATQタンパク質、配列番号2で示されるC末端領域のアミノ酸配列がATで終わるAPOA2−ATタンパク質、又は配列番号3で示されるC末端領域のアミノ酸配列がAで終わるAPOA2−Aタンパク質がAPOA2タンパク質のバリアントに該当する。
【0042】
本明細書において「C末端領域(カルボキシル末端領域)」とは、アミノ酸配列においてC末端のアミノ酸及びその周辺の連続する数アミノ酸を含む、6〜25アミノ酸、好ましくは8〜20アミノ酸又は10〜17アミノ酸からなる領域をいう。
【0043】
本明細書において「天然変異体」とは、自然界に存在する変異体であって、例えば、前記配列番号1、2又は3に示されるアミノ酸配列において1個若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたもの、前記アミノ酸配列と90%以上、92%以上又は94%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、一層好ましくは98%以上又は99%以上の同一性を有するものをいう。「同一性」とは、二つのアミノ酸配列が、最大の一致度となるようにギャップを導入して、又は導入しないで整列(アラインメント)させたときに、一方のアミノ酸配列の全アミノ酸残基数(ギャップ数も含む)に対する他方のアミノ酸配列の同一アミノ酸残基数の割合(%)をいう。「複数個」とは、2〜10の整数、例えば、2〜7、2〜5、2〜4、2〜3の整数をいう。天然変異体の具体例としては、SNP(一塩基多型)等の多型に基づく変異体やスプライス変異体(スプライスバリアント)等が挙げられる。また、前記置換は、保存的アミノ酸置換であることが好ましい。保存的アミノ酸置換であれば、前記アミノ酸配列を有するAPOA2タンパク質と実質的に同等な構造又は性質を有し得るからである。保存的アミノ酸とは、同じアミノ酸群に分類されるアミノ酸どうしの関係をいう。前記アミノ酸群には、非極性アミノ酸群(グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、トリプトファン)、極性アミノ酸群(非極性アミノ酸以外のアミノ酸)、荷電アミノ酸群(酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)及び塩基性アミノ酸群(アルギニン、ヒスチジン、リジン))、非荷電アミノ酸群(荷電アミノ酸以外のアミノ酸)、芳香族アミノ酸群(フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)、分岐鎖アミノ酸群(ロイシン、イソロイシン、バリン)、ならびに脂肪族アミノ酸群(グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン)等が知られている。
【0044】
前記「それらの断片」とは、APOA2タンパク質の各種バリアント、及びそれらの天然変異体のC末端領域を含むAPOA2タンパク質のバリアント及びその変異体の断片をいう。具体的には、APOA2タンパク質の各種バリアント及びその変異体のプロテアーゼ消化物等がこれに該当する。
【0045】
本発明は、抗APOA2−ATQ末端抗体及び抗APOA2−AT末端抗体を含む、抗APOA2タンパク質末端抗体を提供する。
【0046】
「抗APOA2−ATQ末端抗体」は、APOA2−ATQタンパク質のC末端領域に存在するエピトープを特異的に認識し、かつ結合することができる抗体、又はその断片をいう。「特異的に認識し、かつ結合する」とは、他のAPOA2タンパク質のバリアントとの交差反応性が無いか又は極めて弱いため、他のAPOA2タンパク質のバリアントに対して認識も結合もできないか、又はほとんどしないことを意味する。具体的には、APOA2−ATQタンパク質のC末端領域に特異的に結合するが、APOA2−ATタンパク質のC末端領域及びAPOA2−Aタンパク質等のC末端領域には結合を示さない抗体をいう。このような末端抗体は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体、又はその断片のいずれであってもよい。大量生産を可能にするため、及び均質の効果を得るためには、モノクローナル抗体が好ましい。
【0047】
一方、「抗APOA2−AT末端抗体」は、APOA2−ATタンパク質のC末端領域に存在するエピトープを特異的に認識し、かつ結合することができる抗体、又はその断片をいう。具体的には、APOA2−ATタンパク質のC末端領域に特異的に結合するが、APOA2−ATQタンパク質のC末端領域、及びAPOA2−Aタンパク質等のC末端領域には結合を示さない抗体をいう。このような末端抗体は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体又はその断片のいずれであってもよい。大量生産を可能にするため、及び均質の効果を得るためには、モノクローナル抗体が好ましい。
【0048】
本発明は、さらに、APOA2タンパク質のC末端領域以外のアミノ酸配列を認識する、「抗APOA2タンパク質非末端抗体」を提供する。
【0049】
「抗APOA2タンパク質非末端抗体」とは、APOA2タンパク質のバリアントにおける全長アミノ酸配列において、前記C末端領域以外の領域に存在するエピトープを認識し、結合する抗APOA2抗体をいう。つまり、抗APOA2タンパク質非末端抗体と抗APOA2タンパク質末端抗体は、それぞれが認識するエピトープが完全に異なる。抗APOA2タンパク質非末端抗体は、「非末端」抗体と称するが、これは抗APOA2タンパク質末端抗体に対する便宜的な名称である。したがって、C末端領域以外に存在するエピトープであれば特に限定はなく、N末端に存在するエピトープを認識し、結合する抗体も含まれ得る。
【0050】
本発明で用いる抗APOA2タンパク質非末端抗体は、ある特定のC末端配列を持つAPOA2タンパク質に対する結合活性と、そのAPOA2タンパク質とは異なるC末端配列を持つAPOA2タンパク質に対する結合活性を比較した場合に、両者の結合活性がほぼ同等であり、かつ、前記抗APOA2タンパク質末端抗体のC末端領域への結合を阻害しないものが好ましい。具体的には、例えば、配列番号1で示されるAPOA2−ATQタンパク質のC末端領域以外のアミノ酸配列と結合する「抗APOA2−ATQ非末端抗体」と、配列番号2で示されるAPOA2−ATタンパク質のC末端領域以外のアミノ酸配列と結合する「抗APOA2−AT非末端抗体」がAPOA2タンパク質に対して同等の結合活性を有し、またいずれの抗体も抗APOA2−ATQ末端抗体や抗APOA2−AT末端抗体がAPOA2タンパク質のC末端領域に結合することを阻害しないものが挙げられる。抗APOA2タンパク質非末端抗体は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体又はその断片のいずれであってもよい。大量生産を可能にするため、及び均質な効果を得るためには、モノクローナル抗体が好ましい。
【0051】
本明細書で使用する「モノクローナル抗体」とは、単一の免疫グロブリンからなる、又はそのフレームワーク領域(Frame work region:以下、「FR」とする)及び相補性決定領域(Complementarity determining region:以下、「CDR」とする)を含み、特定の抗原(エピトープ)を特異的に認識し、かつ結合することのできる、抗体をいう。
【0052】
典型的な免疫グロブリン分子は、重鎖及び軽鎖と呼ばれる2本のポリペプチド鎖一組がジスルフィド結合によって2組相互接続された四量体として構成される。重鎖は、N末端側の重鎖可変領域(H鎖V領域:以下、「VH」とする)とC末端側の重鎖定常領域(H鎖C領域:以下、「CH」とする)からなり、軽鎖は、N末端側の軽鎖可変領域(L鎖V領域:以下、「VL」とする)とC末端側の軽鎖定常領域(L鎖C領域:以下、「CL」とする)からなる。このうち、VH及びVLは、抗体の結合特異性に関与する点で特に重要である。このVH及びVLは、いずれも約110個のアミノ酸残基からなり、その内部に抗原との結合特異性に直接関与する3つのCDR(CDR1、CDR2、CDR3)と、可変領域の骨格構造として機能する4つのFR(FR1、FR2、FR3、FR4)を有している。CDRは、抗原分子と相補的な立体構造を形成し、抗体の特異性を決定することで知られている(E.A.Kabat et al、1991、Sequences of proteins of immunological interest、Vol.1、eds.5、NIH publication)。定常領域のアミノ酸配列が種内抗体間ではほとんど一定なのに対して、CDRのアミノ酸配列は各抗体間において変異性が高く、それ故、超可変領域(Hyper variable region)とも呼ばれている。可変領域において、前記CDRとFRは、N末端からC末端方向にFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配列されている。免疫グロブリン分子内においてVL及びVHは、相対して二量体を形成することによって抗原結合部位を形成している。免疫グロブリンには、IgG、IgM、IgA、IgE、及びIgDの各クラスが知られているが、本発明の抗体は、いずれのクラスであってもよい。好ましくはIgGである。
【0053】
本発明の抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体は、配列番号1で示されるAPOA2−ATQタンパク質のC末端領域には特異的に結合するが、配列番号2で示されるAPOA2−ATタンパク質、及び配列番号3で示されるAPOA2−Aタンパク質には結合性を示さない。このような抗体の具体的な例としては、例えば、後述する実施例1に記載の、抗体クローン名7F2及び6G2で表される抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体クローン等が挙げられる。7F2クローンは、重鎖におけるCDR1が配列番号4で示される配列、CDR2が配列番号5で示される配列、そしてCDR3が配列番号6で示される配列からなり、かつ軽鎖におけるCDR1が配列番号7で示される配列、CDR2が配列番号8で示される配列、そしてCDR3が配列番号9で示される配列からなる。また、6G2クローンは、重鎖におけるCDR1が配列番号10で示される配列、CDR2が配列番号11で示される配列、そしてCDR3が配列番号12で示される配列からなり、かつ軽鎖におけるCDR1が配列番号13で示される配列、CDR2が配列番号14で示される配列、そしてCDR3が配列番号15で示される配列からなる。
【0054】
本発明の抗APOA2タンパク質非末端抗体は、配列番号1〜3のいずれかで示されるAPOA2タンパク質のバリアントに対する結合活性を比較した場合、結合活性が同等であるものが好ましい。具体的な例としては、例えば、後述する実施例5に記載の、抗体クローン名MAB1及びMAB2で表される抗APOA2抗体クローン等が挙げられる。MAB1クローンは、重鎖におけるCDR1が配列番号16で示される配列、CDR2が配列番号17で示される配列、そしてCDR3が配列番号18で示される配列からなり、かつ軽鎖におけるCDR1が配列番号19で示される配列、CDR2が配列番号20で示される配列、そしてCDR3が配列番号21で示される配列からなる。また、MAB2クローンは、重鎖におけるCDR1が配列番号22で示される配列、CDR2が配列番号23で示される配列、そしてCDR3が配列番号24で示される配列からなり、かつ軽鎖におけるCDR1が配列番号25で示される配列、CDR2が配列番号26で示される配列、そしてCDR3が配列番号27で示される配列からなる。また、抗APOA2タンパク質非末端抗体としては、前記抗APOA2−ATQ非末端抗体や、前記抗APOA2−AT非末端抗体を使用することができる。
【0055】
前記「ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体又はその断片」における「その断片」とは、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の部分断片であって、該抗体が有する抗原特異的結合活性と実質的に同等の活性を有するポリペプチド鎖又はその複合体をいう。例えば、前述の抗原結合部位を少なくとも1つ包含する抗体部分、すなわち、少なくとも1組のVLとVHを有するポリペプチド鎖、又はその複合体が該当する。具体例としては、免疫グロブリンを様々なペプチダーゼで切断することによって生じる多数の十分に特徴付けられた抗体断片等が挙げられる。より具体的な例としては、Fab、F(ab’)
2、Fab’等が挙げられる。Fabは、パパインによりIgG分子がヒンジ部のジスルフィド結合よりもN末端側で切断されることによって生じる断片であって、VH及びCHを構成する3つのドメイン(CH1、CH2、CH3)のうちVHに隣接するCH1からなるポリペプチドと、軽鎖から構成される。F(ab’)
2は、ペプシンによりIgG分子がヒンジ部のジスルフィド結合よりもC末端側で切断されることによって生じるFab’の二量体である。Fab’は、Fabよりもヒンジ部を含む分だけH鎖が若干長いが実質的にはFabと同等の構造を有する(Fundamental Immunology、Paul ed.、3d ed.、1993)。Fab’は、F(ab’)
2をマイルドな条件下で還元し、ヒンジ領域のジスルフィド連結を切断することによって得ることができる。これらの抗体断片は、いずれも抗原結合部位を包含しており、抗原(すなわち本発明においてはAPOA2タンパク質の特定のバリアント)と特異的に結合する能力を有している。
【0056】
本発明のモノクローナル抗体の断片は、化学的に、又は組換えDNA法を用いることによって、合成したものであってもよい。例えば、組換えDNA法を用いて新たに合成された抗体断片が挙げられる。具体的には、限定はしないが、本発明のモノクローナル抗体の一以上のVL及び一以上のVHを適当な長さと配列を有するリンカーペプチド等を介して人工的に連結させた一量体ポリペプチド分子、又はその多量体ポリペプチドが該当する。このようなポリペプチドの例としては、一本鎖Fv(scFv:single chain Fragment of variable region)(Pierce catalog and Handbook、1994−1995、Pierce Chemical co.、Rockford、IL参照)、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)又はテトラボディ(tetrabody)等の合成抗体等が挙げられる。免疫グロブリン分子において、VL及びVHは、通常別々のポリペプチド鎖(L鎖とH鎖)上に位置する。一本鎖Fvは、これらの可変領域を十分な長さの柔軟性リンカーによって連結し、1本のポリペプチド鎖にVL及びVHを包含した構造を有する合成抗体断片である。一本鎖Fv内において両可変領域は、互いに自己集合して1つの機能的な抗原結合部位を形成することができる。一本鎖Fvは、それをコードする組換えDNAを、公知技術を用いてファージゲノムに組み込み、発現させることで得ることができる。ダイアボディは、一本鎖Fvの二量体構造を基礎とした構造を有する分子である(Holliger et al、1993、Proc.Natl.Acad.Sci USA、90:6444−6448)。例えば、前記リンカーの長さが約12アミノ酸残基よりも短い場合、一本鎖Fv内の2つの可変部位は自己集合できないが、ダイアボディを形成させることにより、すなわち、2つの一本鎖Fvを相互作用させることにより、一方のFv鎖のVLが他方のFv鎖のVHと集合可能となり、2つの機能的な抗原結合部位を形成することができる(Marvin et al、2005、Acta Pharmacol.Sin.、26:649−658)。さらに、一本鎖FvのC末端にシステイン残基を付加させることにより、2本のFv鎖同士のジスルフィド結合が可能となり、安定的なダイアボディを形成させることもできる(Alafsen et al、2004、Prot.Engr.Des.Sel.、17:21−27)。このようにダイアボディは二価の抗体断片であるが、それぞれの抗原結合部位は、同一エピトープと結合する必要はなく、それぞれが異なるエピトープを認識し、特異的に結合する二重特異性を有していても構わない。トリアボディ、及びテトラボディは、ダイアボディと同様に一本鎖Fv構造を基本としたその三量体、及び四量体構造を有する。それぞれ、三価、及び四価の抗体断片であり、多重特異性抗体であってもよい。さらに、本発明の抗体断片は、ファージディスプレイライブラリーを用いて同定された抗体断片(例えば、McCafferty et al.、1990、Nature、Vol.348、
552−554参照)であって、かつ抗原結合能力を有しているものが含まれる。この他、例えば、Kuby、J.、Immunology、3rd Ed.、1998、W.H.Freeman&Co.、New York、も参照されたい。
【0057】
本発明において、抗APOA2抗体又はその断片は、修飾することができる。ここでいう修飾は、抗APOA2抗体又はその断片がAPOA2タンパク質と特異的結合活性を有する上で必要な機能上の修飾(例えば、グリコシル化)、及び本発明の抗体又はその断片を検出する上で必要な標識のいずれをも含む。前記抗体標識には、例えば、蛍光色素(FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、蛍光タンパク質(例えば、PE、APC、GFP)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジンによる標識が挙げられる。また、前記抗体のグリコシル化は、抗原に対する抗体の親和性を調整するために改変されていてもよい。このような改変は、例えば、抗体配列内の一以上のグリコシル化部位を変更することで達成できる。より具体的に説明すると、例えば、FR内の一以上のグリコシル化部位を構成するアミノ酸配列に一以上のアミノ酸置換を導入して該グリコシル化部位を除去することにより、その部位のグリコシル化を喪失させることができる。このような脱グリコシル化は、抗原に対する抗体の親和性を増加させる上で有効である(米国特許第5714350号、及び同第6350861号)。
【0058】
1−2.免疫原の調製
本発明において、抗APOA2タンパク質末端抗体を作製する場合には、まず免疫原(抗原)としてのAPOA2タンパク質のバリアントを調製する。本発明において免疫原として使用可能なAPOA2タンパク質のバリアントは、例えば、配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列を有するAPOA2タンパク質若しくはその変異体又はそれらのポリペプチド断片、あるいはそれらと他のペプチド(例えば、シグナルペプチド、標識ペプチド等)との融合ポリペプチドが挙げられる。免疫原としてのAPOA2タンパク質のバリアントは、例えば、配列番号1〜3のいずれかのアミノ酸配列情報を利用して、当技術分野で公知の手法、例えば固相ペプチド合成法等により合成することができる。例えば、以下の方法によって調製することができる。
【0059】
APOA2タンパク質のバリアントとしては、天然型APOA2タンパク質、組換え型APOA2タンパク質のいずれも用いることができ、その全部又は一部がペプチド合成のように化学的に合成された合成APOA2タンパク質であってもよい。例えば、APOA2タンパク質のC末端に結合する抗体(抗APOA2タンパク質末端抗体)を取得するために調製するAPOA2タンパク質のバリアントは、天然型APOA2タンパク質、組換え型APOA2タンパク質又は少なくともAPOA2タンパク質の各種バリアントのC末端領域の連続した6アミノ酸以上のアミノ酸配列を含む限り、全部又は一部をペプチド合成のように化学的に合成した合成APOA2タンパク質のいずれであってもよい。
【0060】
天然型APOA2タンパク質は、血液(血清、及び血漿を含む)のような体液をはじめとする試料、又は培養細胞の培養上清から公知のタンパク質分離・精製技術、例えば、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーを用いて回収することができる。
【0061】
組換え型APOA2タンパク質は、該タンパク質をコードするDNAを導入した微生物、昆虫細胞、又は動物細胞で発現させた後、当該細胞から公知のタンパク質分離・精製技術を用いて回収することができる。
【0062】
合成APOA2タンパク質は、例えば、公開されたAPOA2タンパク質のアミノ酸配列情報を利用して、当技術分野で公知の手法、例えば、固相ペプチド合成法等により合成することができる。この合成APOA2タンパク質には、KLH(スカシ貝ヘモシアニン)、OVA(卵白アルブミン)、BSA(ウシ血清アルブミン)等のキャリアータンパク質に連結させてもよい。
【0063】
抗APOA2タンパク質末端抗体の作製において、APOA2タンパク質のバリアントの断片を免疫原とする場合も、天然型APOA2タンパク質断片、組換え型APOA2タンパク質断片、又は合成APOA2タンパク質断片のいずれを使用することもできる。例えば、APOA2タンパク質断片としては、配列番号1〜3のいずれかで示される配列において、C末端を含む6以上、好ましくは10アミノ酸以上、好ましくは18アミノ酸以上、より好ましくは30アミノ酸以上の連続したアミノ酸残基を含むオリゴペプチド又はポリペプチドを抗原として使用することができる。例えば、配列番号28又は29で示されるアミノ酸配列を含むペプチドが使用できる。
【0064】
天然型APOA2タンパク質の断片を免疫原として用いる場合は、例えば、抗APOA2タンパク質末端抗体の作製では、精製したAPOA2タンパク質をトリプシン等の適切なプロテアーゼで処理した後、逆相カラムでピークを分離分取し、各ピークに含まれるペプチドのアミノ酸配列を質量分析器により決定して、配列番号1〜3のいずれかで示されるAPOA2タンパク質のC末端領域の連続した6アミノ酸以上の配列を部分配列として含むペプチドのピークを免疫原として用いることができる。
【0065】
組換え型APOA2タンパク質のアミノ酸部分配列を免疫原として用いる場合は、例えば、抗APOA2タンパク質末端抗体の作製では、前述したAPOA2タンパク質をコードするDNA配列のうち、配列番号1〜3のいずれかで示されるAPOA2タンパク質のC末端アミノ酸残基を含む連続した6アミノ酸以上の部分配列をコードするDNA配列部分を発現用ベクターに挿入し、各種細胞に導入することで、配列番号1〜3のいずれかで示される各種APOA2タンパク質のバリアントのアミノ酸部分配列を得ることができる。
【0066】
また、本発明において、抗APOA2タンパク質非末端抗体を作製する場合も、基本的な調製方法は、前記抗APOA2タンパク質末端抗体の作製方法と同じでよい。ただし、APOA2タンパク質の免疫原として使用可能な領域は、抗APOA2タンパク質末端抗体の作製で使用する免疫原としての領域と異なる領域を用いる。すなわち、APOA2タンパク質のC末端領域以外の領域の全部又は一部を免疫原として使用すればよい。抗APOA2タンパク質末端抗体を作製する場合と同様に、抗APOA2タンパク質非末端抗体を作製する場合においても、APOA2タンパク質のC末端領域以外の領域のアミノ酸残基を含むオリゴペプチド又はポリペプチドを抗原として使用することができる。
【0067】
(組み換え型APOA2タンパク質の調製)
以下で、配列番号1〜3のいずれかで示される組み換え型APOA2タンパク質(組み換え型APOA2タンパク質のバリアント)の調製について詳述する。
【0068】
(a)組換え型APOA2タンパク質のバリアントをコードするポリヌクレオチドの調製
APOA2タンパク質の各種バリアントの発現に用いるベクターとしては、宿主微生物で自律的に増殖し得るファージ又はプラスミドを使用することができる。例えば、プラスミドとしては、大腸菌由来のプラスミド(pET30a、pGEX6p、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19等)、枯草菌由来のプラスミド(pUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(YEp13、YEp24、YCp50等)が挙げられる。また、ファージとしては、λファージ(λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、ワクシニアウイルス等の動物ウイルス、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスベクターも用いることができる。
【0069】
上記ベクターにAPOA2タンパク質のバリアントをコードするポリヌクレオチドを挿入するには、例えば、精製した該ポリヌクレオチドを適当な制限酵素で切断し、適当な制限酵素で切断したベクター内部にDNAリガーゼ等を用いて連結する方法がある。
【0070】
(b)APOA2タンパク質のバリアント発現ベクターの宿主内への導入
得られたAPOA2タンパク質のバリアント発現ベクターを、その発現ベクターを発現し得る宿主中に導入して、APOA2タンパク質のバリアント発現形質転換体を得る。使用する宿主については、使用したベクターに適する宿主であって、APOA2タンパク質のバリアントを発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌(例えば、エシェリヒア・コリ:Escherichia coli)、枯草菌(例えば、バチルス・サブチリス:Bacillus subtilis)等)、酵母、昆虫細胞、動物細胞(COS細胞、CHO細胞(Journal of immunology、1998、Vol.160、3393−3402))等が好適に用いられる。細菌への前記ベクターの導入方法は、細菌に該ベクターを導入する公知の方法であれば特に限定されない。例えば、ヒートショック法、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。これらの技術は、いずれも当該分野で公知であり、様々な文献に記載されている。例えば、Green &Sambrook、2012、Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New Yorkを参照されたい。また、動物細胞の形質転換には、リポフェクチン法(PNAS、1989、Vol.86、6077;PNAS、1987、Vol.84、7413)、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法(Virology、1973、Vol.52、456−467)、DEAE−Dextran法等が好適に用いられる。
【0071】
細菌を宿主とする場合は、APOA2タンパク質のバリアント発現ベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター配列、リボゾーム結合配列、APOA2タンパク質のバリアントをコードするDNA配列、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する調節因子をコードする遺伝子が含まれていてもよい。プロモーターは、大腸菌等の宿主中で機能できるものであればいずれを用いてもよい。
【0072】
酵母、動物細胞、昆虫細胞等の真核細胞を宿主とする場合にも、同様に当技術分野で公知の手法に従ってAPOA2タンパク質のバリアント発現形質転換体を得ることができる。真核細胞において用いられるAPOA2タンパク質のバリアント発現ベクターには、プロモーター配列、APOA2タンパク質のバリアントをコードするDNA配列のほか、所望によりエンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル(ドナー部位、アクセプター部位、ブランチポイント等)、ポリA付加シグナル、選択マーカー配列、リボソーム結合配列(SD配列)等が連結されていてもよい。
【0073】
(c)形質転換体の培養及び組換え型APOA2タンパク質のバリアントの発現
続いて、上記作製した形質転換体を培養する。形質転換体を培地で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。例えば、細菌を宿主とする場合、培地は、細菌が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、かつ生育、増殖可能なものであれば、特に限定はしない。天然培地、合成培地のいずれを用いることもできる。より具体的な例としては、LB培地が挙げられるが、もちろんこれに限定はされない。また、形質転換体の培養を選択的に行うために、必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。培養は、通常、通気攪拌培養等の好気的条件下、37℃で6〜24時間行う。培養期間中、pHは中性付近に保持することが好ましい。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。形質転換体がCHO細胞等の動物細胞である場合には、Gibco社製DMEM培地に1×10
5細胞/mLとなるように宿主細胞を接種し、37℃の5%CO
2インキュベータにて培養すればよい。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0074】
前記APOA2タンパク質のバリアント発現ベクターがタンパク質発現制御システム(例えば、宿主が細菌の場合、リプレッサー遺伝子及びオペレーター等が該当する)を含むタンパク質発現誘導型ベクターである場合には、前記形質転換体に所定の処理を行い、APOA2タンパク質のバリアントの発現を誘導させる必要がある。発現誘導の方法は、ベクターに含まれるタンパク質発現制御システムによって異なるため、そのシステムに適した誘導処理を行えばよい。例えば、細菌を宿主とするタンパク質発現誘導型ベクターにおいて最も一般的に利用されているタンパク質発現制御システムは、lacリプレッサー遺伝子及びlacオペレーターからなるシステムである。本システムは、IPTG(isopropyl−1−tio−β−D−Galactoside)処理により発現を誘導することが可能である。このシステムを含むAPOA2タンパク質発現ベクターを有する形質転換体において、目的とするAPOA2タンパク質のバリアントを発現させるためには、培地中に適当量(例えば、終濃度1mM)のIPTGを添加すればよい。
【0075】
(d)組換え型APOA2タンパク質のバリアントの抽出及び/又は回収
培養後、APOA2タンパク質のバリアントが菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を回収して破砕することによりタンパク質を抽出することができる。また、APOA2タンパク質のバリアントが菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去し、上清を使用すればよい。その後、一般的なタンパク質の精製方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で、又は適宜組合せて用いることにより、前記培養物中からAPOA2タンパク質のバリアントを単離精製することができる。APOA2タンパク質のバリアントが得られたか否かは、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動等により確認すればよい。
【0076】
1−3.抗APOA2モノクローナル抗体の作製
1−3−1.抗APOA2モノクローナル抗体及びハイブリドーマ作製方法
本発明の抗APOA2モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、以下に記載する方法によって作製することができる。ただし、本方法に限定されるものではなく、当該分野で公知の他のあらゆる方法で作製することもできる。
【0077】
(1)抗APOA2モノクローナル抗体作製方法
APOA2タンパク質を構成するアミノ酸配列のうち、配列番号1、2又は3で示されるAPOA2タンパク質のいずれかのC末端領域と特異的に結合する抗APOA2タンパク質末端モノクローナル抗体を作製するには、APOA2タンパク質のバリアント若しくはAPOA2タンパク質のバリアントのC末端領域を含むペプチドを免疫原としてモノクローナル抗体を作製し、その後、配列番号1〜3のいずれかで示されるAPOA2タンパク質自体若しくはAPOA2タンパク質のバリアントのC末端領域を含むペプチドを用いてAPOA2タンパク質の特定のバリアントにのみ結合する抗体をスクリーニングすればよい。例えば、抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体については、配列番号1で示されるAPOA2−ATQタンパク質のC末端領域と特異的に結合し、配列番号2又は3で示されるAPOA2タンパク質のバリアントとは結合しないか、又はほとんどしないことを指標にスクリーニングできる。また、抗APOA2−AT末端モノクローナル抗体については、配列番号2で示されるAPOA2−ATタンパク質のC末端領域と特異的に結合し、配列番号1又は3で示されるAPOA2タンパク質のバリアントとは結合しないか、又はほとんどしないことを指標にスクリーニングできる。
【0078】
また、APOA2タンパク質のC末端領域以外のアミノ酸を認識する抗APOA2タンパク質非末端抗体を作製するには、APOA2タンパク質のバリアント若しくは部分配列を含むペプチドを免疫原としてモノクローナル抗体を作製し、その後、配列番号1〜3のいずれかで示されるAPOA2タンパク質のバリアント若しくはC末端の異なるペプチドに対する結合活性を比較した場合に結合活性が同程度であることを指標に、抗体をスクリーニングすることにより得ることができる。
【0079】
(2)抗APOA2抗体の産生細胞の作製
前記1−2で得られた免疫原である組換え型APOA2タンパク質を、緩衝液に溶解して免疫原溶液を調製する。この際、免疫を効果的に行うために、必要であればアジュバントを添加してもよい。アジュバントの例としては、市販の完全フロイントアジュバント(FCA)、不完全フロイントアジュバント(FIA)等が挙げられ、これらを単独で又は混合して用いてもよい。
【0080】
次に、前記調製した免疫原溶液を哺乳動物、例えばラット、マウス(例えば近交系マウスのBALB/c)、ウサギ等に投与し、免疫する。免疫原の投与方法としては、例えば、FIA又はFCAを用いた皮下注射、FIAを用いた腹腔内注射、又は0.15mol塩化ナトリウムを用いた静脈注射が挙げられるが、この限りでない。免疫原の1回の投与量は、免疫動物の種類、投与経路等により適宜決定されるものであるが、動物1匹当たり約50〜200μgである。また、免疫の間隔は特に限定されず、初回免疫後、数日から数週間間隔で、好ましくは1〜4週間間隔で、2〜6回、好ましくは3〜4回追加免疫を行う。初回免疫より後に、免疫動物の血清中の抗体価の測定をELISA(Enzyme−Linked Immuno Sorbent Assay)法等により行い、抗体価が充分な上昇を見せれば、免疫原を静脈内又は腹腔内に注射し、最終免疫とする。そして、最終免疫の日から2〜5日後、好ましくは3日後に、抗体産生細胞を採取する。
【0081】
1−3−2.抗APOA2モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ作製方法
(1)免疫動物からの抗体産生細胞の回収と細胞融合
免疫動物から得た抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行うことで、APOA2タンパク質の特定の領域を特異的に認識するモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを作製することができる。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞又は局所リンパ節細胞が好ましい。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞としては、一般に入手可能なマウス等由来の株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生育できる性質を有するものが好ましい。また、株化細胞は、免疫動物と同種系の動物に由来するものが好ましい。ミエローマ細胞の具体例としては、BALB/cマウス由来のヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ(HGPRT)欠損細胞株である、P3X62−Ag.8株(ATCCTIB9)、P3X63−Ag.8.U1株(JCRB9085)、P3/NSI/1−Ag4−1株(JCRB0009)、P3x63Ag8.653株(JCRB0028)又はSP2/0−Ag14株(JCRB0029)等が挙げられる。
【0082】
上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させるには、血清を含まないDMEM、RPMI1640培地等の動物細胞培養用培地中で、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを約1:1〜20:1の割合で混合し、細胞融合促進剤の存在下にて融合反応を行う。細胞融合促進剤としては、平均分子量1,500〜4,000Daのポリエチレングリコール等を約10〜80%の濃度で使用することができる。また、場合によっては、融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を併用してもよい。さらに、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる(Nature、1977、Vol.266、550−552)。
【0083】
(2)目的とするハイブリドーマの選抜
細胞融合処理後の細胞から目的とする抗APOA2モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選別する方法としては、細胞懸濁液を、例えば、ウシ胎児血清含有RPMI1640培地等で適当に希釈後、96ウェルマイクロタイタープレート上に2×10
6個/ウェル程度播種し、各ウェルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。培養温度は20〜40℃、好ましくは約37℃である。ミエローマ細胞がHGPRT欠損株又はチミジンキナーゼ(TK)欠損株のものである場合には、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジンを含む選択培地(HAT培地)を用いることにより、抗体産生細胞とミエローマ細胞のハイブリドーマのみを選択的に生育、増殖させることができるため、選択培地で培養開始後約10日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして選択することができる。
【0084】
HAT培地で選択されたハイブリドーマは、まず、配列番号1〜3のいずれかで示されるAPOA2タンパク質の各種バリアントに対する結合活性を指標としてスクリーニングを行う。次いでAPOA2タンパク質のバリアントへの結合活性を持つ抗体を産生するハイブリドーマについては、交差性の試験を行い、許容できるものを選択する。許容できる交差性とは、目的とする抗体の用途において、無視しうる程度の交差性を意味する。たとえば、免疫学的な測定に用いるためのモノクローナル抗体であれば、最終的な測定系において交差反応によるシグナル強度が、バックグラウンドレベルから特異的反応によるシグナル強度の1%未満に抑えられれば、事実上交差反応しないということができる。
【0085】
APOA2タンパク質の特定のバリアントへの反応特異性を確認するには、例えば、ELISA法を利用することができる。ELISA法では、抗原となるAPOA2タンパク質の各種バリアント又はその断片を、それぞれ異なるウェルに固相化したマイクロプレートを用意し、これに前記ハイブリドーマの培養上清を適当に希釈した試料を加えて反応させる。十分に反応させた後にウェルを洗浄し、免疫グロブリンに対する2次抗体の標識体を加えて更に反応させる。再度ウェルを洗浄し、最終的にウェルに結合した2次抗体の標識を利用して測定すれば、培養上清中に存在する抗体の、抗原に対する結合活性を定量的に知ることができる。例えば、抗APOA2タンパク質末端モノクローナル抗体を作製するには、特定のAPOA2タンパク質のバリアントにおけるC末端領域にのみ結合活性を示し、APOA2タンパク質の他のバリアントに交差性を示さないことを指標にして、特異性の判断を行えばよい。また、抗APOA2タンパク質非末端モノクローナル抗体を作製するには、APOA2タンパク質のC末端が異なるいずれのバリアントに対しても同程度の結合性を示し、かつ、作製した抗体によって、抗APOA2タンパク質末端モノクローナル抗体のC末端領域への結合を阻害しないことを指標に、抗体の選抜を行う。
【0086】
ハイブリドーマは組換えDNA技術を用いて選抜することもできる。まず、前述の方法に従って取得したハイブリドーマ群からmRNAを抽出する。mRNAの抽出は、当該技術分野で公知の方法を用いればよい。続いて、Oligo dTプライマーやランダムプライマーを用いて前記mRNAのcDNAを取得する。このcDNAを鋳型に、可変領域をコードする遺伝子の上流にあるシグナル配列の塩基配列と、定常領域側の塩基配列を含むプライマーセットを利用してPCRを行う。得られた増幅産物を適当なクローニングベクターに挿入してクローン化し、そのハイブリドーマが生産する抗体の可変領域遺伝子のライブラリーを得ることができる。より具体的な例として、限定はしないが、Novagen社の提供するMouse Ig Primerを用いてPCRを行い、増幅産物(マウス免疫グロブリン可変領域cDNA)をInvitrogen社の提供するZERO BLUNT PCR TOPO VectorのEcoRI部位に挿入してクローン化し、得られたベクター群を、可変領域アミノ酸配列をコードする遺伝子ライブラリーとすることができる。次に、前記本発明で開示された可変領域又は各CDRのアミノ酸配列を元にプローブを設計し、前記ライブラリーからポジティブクローンをスクリーニングすることで、本発明の抗体を生産するハイブリドーマを選抜することができる。
【0087】
(3)ハイブリドーマを用いた抗体産生
本発明におけるハイブリドーマは、マウスを用いて腹水化することにより抗体生産に用いることができる。具体的には、ハイブリドーマを作製する際の融合パートナーに用いた細胞の由来のマウスや、ヌードマウスの腹腔内にハイブリドーマを接種し、腹水を適宜採取することにより、抗体を含む腹水液を回収することができる。より具体的には、SP2/0細胞を融合パートナーとしたハイブリドーマを、プリスタン接種後10日間を経たBALB/cマウスの腹腔中に接種することにより、抗体を含む腹水液を回収できる。
【0088】
また、本発明におけるハイブリドーマは、適した培地を用いて培養を行うことにより抗体生産に用いることができる。具体的には、Gibco社製のハイブリドーマSFM培地中に1×10
5細胞/mLとなるようにハイブリドーマを接種し、37℃の5%CO
2インキュベータにてハイブリドーマが死滅するまで培養することにより抗体を含む培養液上清を得ることができるが、この限りではない。
【0089】
(4)組換え抗APOA2モノクローナル抗体又はその断片の組換えDNA操作による作製方法
本発明の抗体又はその断片は、当該抗体のアミノ酸配列をコードするcDNA配列を利用して、組換えDNA操作によって得ることもできる。
【0090】
抗APOA2モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ由来、例えば、上記「1−3−2(2)」の手法で取得した抗APOA2タンパク質末端モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ由来の該抗体の可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列を用いて、VH及びVLの塩基配列を任意のCL、及びCHをコードする塩基配列にそれぞれ連結し、それぞれのポリヌクレオチドを適当な発現ベクターに組み込み、宿主細胞に導入後、完全な免疫グロブリン分子として発現させることもできる。また、CDRグラフト抗体技術を用いて、上記「1−3−2(2)」の手法で取得した可変領域のアミノ酸配列のうち、CDR配列のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを適当な発現ベクターに組み込み、宿主細胞に導入後、完全な免疫グロブリン分子として発現させてもよい。このとき重鎖と軽鎖とが同一宿主細胞内で発現し、重鎖/軽鎖からなる二量体として産生できるようにすると便利である。具体的には、例えば、軽鎖発現ベクター及び重鎖発現ベクターにより細胞を共形質転換し、この形質転換細胞から本発明による抗体を得ることもできる。又は、上記アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドをそのまま適当な発現ベクターに組み込み、宿主細胞に導入後、免疫グロブリン分子の断片として発現させることもできる。あるいは、上述したように、前記アミノ酸配列を含むVL及びVH、又は軽鎖及び重鎖をそれぞれコードするポリヌクレオチドを適当なリンカーで連結してファージに組み込んだ一本鎖Fvとして、又はダイアボディ等の合成抗体断片として発現させてもよい。その他、近年開発された、遺伝子工学技術を活用して組換え抗体をファージ表面に発現させるファージディスプレイ抗体技術(Brinkmann et al、1995、J Immunol Methods、182、41−50、国際公開WO97/13844号、同90−02809号)により、人工的に重鎖、軽鎖をコードする遺伝子をシャッフリングさせ多様化した一本鎖Fv抗体をファージ融合タンパクとして発現させ、特異抗体を得ることもできる。
【0091】
組換え抗APOA2抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドの調製、該ポリヌクレオチドを組み込んだベクター、該ベクターの宿主導入法については、当該分野で公知の組換えDNA技術を用いて行えばよい。目的とする組換え抗APOA2タンパク質抗体又はその断片は、形質転換細胞の培養液中又は当該細胞内から得ることができる。
【0092】
免疫グロブリン発現ベクターとしては、例えば、プラスミド、ファージミド、コスミド、ウイルスベクター(例えば、SV40 viru basedベクター、EB virus basedベクター、BPV basedベクター)等を用いることができるが、これらに限定されない。例えば、BPV basedベクターの1種であるBCMGS Neoベクターは、COS7細胞等に形質転換することによって外来遺伝子を効率良く発現する望ましいベクターである(烏山一「ウシパピローマウイルスベクター」、村松正実及び岡山博人編、実験医学別冊:遺伝子工学ハンドブック、1991、羊土社、297−299)。
【0093】
前記ベクターは、抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドの他に、前記抗体又はその断片を発現する上で必要な制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、ポリアデニル化部位、スプライシング部位)、又は、必要であれば選択マーカーを含むことができる。
【0094】
形質転換の宿主としては、上記「1−2.免疫原の調製」に記載した宿主の他、SP2/0(マウスミエローマ)細胞(Europian Journal of Cancer
Prevention(1996) Vol.5、512−519;Cancer Resarch(1990)Vol.50、1495−1502)が好適に用いられる。
【0095】
本発明における、抗体又はその断片を発現するベクターを含有する宿主細胞は、常法に従って培養を行うことにより、その培養液上清又は宿主細胞内に抗体を産生させることができる。具体的には、CHO細胞を宿主とした場合にはGibco社製DMEM培地に1×10
5細胞/mLとなるように宿主細胞を接種し、37℃の5%CO
2インキュベータにて培養することにより抗体を含む培養液上清を得ることができる。また、例えば、宿主細胞を大腸菌とした場合には、LB培地等大腸菌の培養に用いられる一般的な培地に接種して培養し、タンパク質の発現を誘導することにより、培養液上清又は宿主細胞内に抗体を産生することができる。
【0096】
発現産物である抗体又はその断片が定常領域を含む場合には、プロテインAカラム、プロテインGカラム、抗イムノグロブリン抗体アフィニティーカラム等を用いて培養液上清や、細胞破砕液から精製・回収することができる。一方、可変領域のみで構成され、定常領域を含まない状態で発現させた場合には、前記精製方法は適用できないので、他の適当な精製方法を応用する。例えば、そのC末端にヒスチジンタグ等の精製に有利なタグ配列を融合させた構造として発現させれば、対応するリガンドを利用したアフィニティークロマトグラフィーによって精製することが可能である。タグとの融合タンパク質ではない場合は、硫安沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーといったタンパク質精製の常法に従って精製することができる。
【0097】
なお、本発明で使用されるモノクローナル抗体又はその断片は、APOA2タンパク質の特定のバリアント又はその断片に対する特異性を確認するため、前述のように使用前に予め他のバリアントとの交差反応性を検証しておくことが好ましい。例えば、本発明の抗APOA2−ATQタンパク質末端モノクローナル抗体又はその断片において、交差性を確認すべき抗原は、APOA2−ATタンパク質とAPOA2−Aタンパク質である。
【0098】
また、前記タンパク質以外にも、部分構造がAPOA2タンパク質のバリアントと共通する他のタンパク質についても本発明で使用される抗体又はその断片の交差反応性を確認しておくことがより好ましい。交差反応の確認には、例えば、APOA2−ATQタンパク質を抗原としたELISA法を使うことが可能である。反応特異性を試験すべき抗体、すなわち、抗APOA2タンパク質末端抗体、及びその断片とAPOA2タンパク質のバリアントとの反応の場に、交差性を確認すべき他の抗原タンパク質を共存させれば、両者の競合状態を観察することによって交差性の確認を行うことができる。競合阻害の原理を利用したこのような交差性の確認方法は、すべての抗原について反応系を調製する必要がないのでスクリーニングを迅速に行うことができる。
【0099】
1−3−3.得られた抗APOA2タンパク質末端モノクローナル抗体が認識するAPOA2タンパク質の領域構造の確認
得られた抗APOA2モノクローナル抗体が特異的に認識するAPOA2タンパク質のバリアントの種類については、該タンパク質の遺伝子をもとにPCR反応等を用いて各種のAPOA2タンパク質のバリアント遺伝子を作製し、該遺伝子から得られるAPOA2タンパク質の各種バリアントとモノクローナル抗体の結合性を解析することにより決定できる。
【0100】
抗APOA2タンパク質末端モノクローナル抗体の場合は、具体的には、次のような方法により行われる。まずAPOA2遺伝子全長、又はAPOA2遺伝子の終始コドンから、5’末端側に終始コドンを含む6塩基、若しくは9塩基が欠失した種々の長さの断片を調製し、これら断片を挿入した発現ベクターを作製する。このような欠失変異を伴う遺伝子断片の調製法は「続生化学実験講座、第1巻、遺伝子研究法II、289−305頁、日本生化学会編」に記載されている。次に、それぞれのAPOA2タンパク質のバリアント発現ベクターを導入した宿主細胞から、前述の方法によりAPOA2タンパク質の各種バリアントを調製する。続いて、これらのタンパク質を抗原としてELISA法により、抗APOA2タンパク質モノクローナル抗体の各種APOA2タンパク質のバリアントへの結合性の評価を行う。特定のバリアントに対してのみ結合性が見られ、その他のバリアントへの結合性は見られないか、若しくはほとんど見られない場合、該モノクローナル抗体は特定のAPOA2タンパク質のバリアントにのみ特異的に結合する末端モノクローナル抗体であると判断できる。
【0101】
得られた抗APOA2タンパク質末端モノクローナル抗体が認識するAPOA2タンパク質のバリアントは、次のような方法によって確認することもできる。
【0102】
まず、公知の方法で、各種APOA2タンパク質のバリアントのC末端領域の配列ペプチドを、それぞれ固相合成する。続いて、これらペプチドを抗原としてELISA法により、抗APOA2タンパク質末端モノクローナル抗体の各種ペプチドへの結合性の評価を行う。特定のC末端領域の配列ペプチドにのみ、抗APOA2タンパク質モノクローナル抗体の結合性が見出された場合、該モノクローナル抗体は特定のAPOA2タンパク質のバリアントにのみ特異的に結合する、抗APOA2タンパク質末端モノクローナル抗体であると判断できる。
【0103】
1−4.抗APOA2ポリクローナル抗体の作製
抗APOA2ポリクローナル抗体は、当該技術分野で公知の方法によって作製することができる。以下に、例として、APOA2タンパク質の特定のバリアントのみと特異的に結合する抗APOA2タンパク質末端抗体の取得法を具体的に示す。
【0104】
1−4−1.抗血清の取得
抗APOA2タンパク質末端ポリクローナル抗体を作製するためには、まず、特定のAPOA2タンパク質のバリアント配列上の少なくとも6アミノ酸以上の長さを持つC末端断片、例えば配列番号28又は29で示されるペプチドを緩衝液に溶解して免疫原溶液を調製する。必要であれば、免疫を効果的に行うためにアジュバントを添加してもよい。アジュバントの例としては、市販の完全フロイントアジュバント(FCA)、不完全フロイントアジュバント(FIA)等が挙げられ、これらを単独で又は混合して用いることができる。
【0105】
次に、前記調製した免疫原溶液を、哺乳動物、例えばラット、マウス(例えば近交系マウスのBalb/c)、ウサギ等に投与し、免疫する。免疫原溶液の1回の投与量は、免疫動物の種類、投与経路等により適宜決定されるものであるが、動物1匹当たり約50〜200μgの免疫原を含んでいればよい。免疫原溶液の投与方法としては、例えば、FIA又はFCAを用いた皮下注射、FIAを用いた腹腔内注射、又は150mMの塩化ナトリウムを用いた静脈注射が挙げられるが、この限りでない。また、免疫の間隔は特に限定されず、初回免疫後、数日から数週間間隔で、好ましくは1〜4週間間隔で、2〜10回、好ましくは3〜4回追加免疫を行う。初回免疫の後、免疫動物の血清中の抗体価の測定をELISA(Enzyme−Linked Immuno Sorbent Assay)法等により繰り返し行い、抗体価の上昇が充分見られたとき、免疫原溶液を静脈内又は腹腔内に注射し、最終免疫とする。免疫後は、血液からAPOA2タンパク質を認識するポリクローナル抗体を含む抗血清が回収できる。
【0106】
1−4−2.抗APOA2抗体の精製
(1)ペプチド固定化カラムの作製
APOA2タンパク質のC末端領域ペプチド、及びAPOA2タンパク質のC末端領域ペプチドのC末端にアミド基を付加したペプチドをそれぞれ固定化したアフィニティーカラムを作製する。詳しい方法は「抗ペプチド抗体実験プロトコール」、第2版、秀潤社に記載されている。アフィニティーカラムに使用する担体は、ホルミルセルロファインやCNBrアガロースのように、担体上の官能基をペプチドのアミノ基へ結合可能なもの、若しくは担体に共有結合させたマレイミド基を介して、ペプチド配列上のシステイン残基へ結合可能なものなどが利用可能である。また、固定化するペプチドの長さは、APOA2タンパク質のC末端を含む限り、6アミノ酸以上、好ましくは10アミノ酸以上、好ましくは18アミノ酸以上、より好ましくは30アミノ酸以上である。
【0107】
(2)抗体精製
抗APOA2タンパク質末端ポリクローナル抗体は、前記抗血清からペプチド固定化アフィニティーカラムを用いて精製することができる。例えば、前記抗血清を適切な緩衝液で希釈し、抗血清に含まれるIgG抗体を、APOA2タンパク質のC末端領域ペプチドを固定化したアフィニティーカラムに吸着させ、この吸着画分を回収する。続いて、C末端をアミド化したAPOA2タンパク質ペプチドを固定化したアフィニティーカラムを用いて、ペプチドのC末端領域以外への結合性を示すイムノグロブリンを吸着除去する。最終的に、この非吸着画分を特定のAPOA2タンパク質のバリアントを特異的に認識する抗APOA2タンパク質末端ポリクローナル抗体として取得する。
【0108】
2.膵腫瘍の検出方法
本発明の第二の態様は、膵腫瘍、すなわち膵臓癌又は膵良性腫瘍をインビトロで検出する方法に関する。本発明は、2種のAPOA2タンパク質のバリアント、すなわちAPOA2−ATQタンパク質及びAPOA2−ATタンパク質の両方、若しくはどちらか一方の血中量が健常者よりも膵腫瘍患者で有意に低下する知見に基づき、それぞれのAPOA2タンパク質のバリアントのC末端領域を特異的に認識する末端抗体(抗APOA2タンパク質末端抗体)又はその断片と、C末端領域以外の領域のアミノ酸配列を認識する抗APOA2タンパク質抗体(抗APOA2タンパク質非末端抗体)又はその断片を使用して、前記2種のAPOA2タンパク質のバリアントを測定することを特徴とする。さらに、測定した2種のAPOA2タンパク質のバリアントの測定値を用いた多変量解析により、膵腫瘍を検出する方法を特徴とする。
【0109】
本発明の方法は、膵腫瘍検出用マーカー測定工程、及び罹患決定工程を含む。以下、それぞれの工程について詳細に説明をする。
【0110】
2−1.膵腫瘍検出用マーカー測定工程
「膵腫瘍検出用マーカー測定工程」とは、被験体由来の体液中に存在する膵腫瘍検出用マーカー、すなわち、APOA2−ATQタンパク質及びAPOA2−ATタンパク質からなる、2種のAPOA2タンパク質のバリアントの量をインビトロで測定する工程である。
【0111】
本明細書において、「被験体」は、膵腫瘍の検出対象となる個体、好ましくは膵腫瘍に罹患している疑いのある個体を指す。ここでいう個体の例として、脊椎動物が挙げられる。好ましくは哺乳動物、例えば霊長類(ヒト、サル、チンパンジー、オランウータン、ゴリラ等)、げっ歯類(マウス、ラット、モルモット等)、有蹄類(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等)など、より好ましくはヒトである。本明細書において、被験体がヒトの場合には、被験体を、以降、特に「被験者」と称する。
【0112】
本明細書において「体液」とは、膵腫瘍の検出のために供される試料であって、生物学的流動体を意味する。体液は、本発明の膵腫瘍検出用マーカーが含まれる可能性のある生物学的流動体であればよく、特に限定はされない。例えば、血液、尿、リンパ球培養上清、髄液、消化液(例えば、膵液、大腸液、食道腺分泌液、唾液を含む)、汗、腹水、鼻水、涙、膣液、精液等が含まれる。好ましくは、血液又は尿である。本明細書中、「血液」とは、全血、血漿及び血清を含む。全血は、静脈血、動脈血又は臍帯血等の種類を問わない。体液は、同一個体から得られる異なる二以上の組合せであってもよい。本発明の膵腫瘍の検出方法は、侵襲性の低い血液や尿からも検出可能であることから、簡便な検出法として非常に有用である。
【0113】
「被験体由来の体液」とは、被験体から既に採取された体液をいい、体液を採取する行為自体は、本発明の態様には包含されない。被験体由来の体液は、被験体から採取されたものを直ちに本発明の方法に供してもよいし、採取後、直接、又は適当な処理を施した後に、冷蔵又は凍結したものを本発明の方法に供する前に、室温に戻して使用してもよい。冷蔵又は凍結前の適当な処理としては、例えば、全血にヘパリン等を添加して抗凝固処理を施した後、又は血漿若しくは血清として分離すること等が含まれる。これらの処理は、当該分野で公知の技術に基づいて行なえばよい。
【0114】
本明細書において「APOA2タンパク質のバリアントの量」とは、被験体由来の体液中に存在する前記2種のAPOA2タンパク質のバリアントにおけるそれぞれの分量をいう。この分量は、絶対量又は相対量のいずれであってもよい。絶対量の場合、所定の体液量中に含まれる前記2種のAPOA2タンパク質のバリアントにおける質量又は容量が該当する。相対量の場合、例えば、標準物質を使用し、その標準物質の測定値に対する被験体由来の2種のAPOA2タンパク質のバリアントの測定値の相対的な値をいう。例えば、濃度、蛍光強度、吸光度等が挙げられる。
【0115】
APOA2タンパク質のバリアントの量は、インビトロで公知の方法を用いて測定することができる。例えば、2種のAPOA2タンパク質のバリアントのそれぞれと特異的に結合可能な物質を用いて測定する方法が挙げられる。
【0116】
本明細書において「特異的に結合可能」とは、ある物質が、本発明の標的であるAPOA2タンパク質の特定のバリアントのみと実質的に結合し得ることを意味する。この場合、特定のAPOA2タンパク質のバリアントの検出に影響を与えない程度の非特異的な結合が存在してもよい。
【0117】
「特異的に結合可能な物質」としては、例えば、APOA2結合タンパク質が挙げられる。より具体的には、例えば、APOA2タンパク質のバリアントを抗原とし、C末端領域の構造の違いを認識して結合する「抗APOA2タンパク質末端抗体」、好ましくは配列番号1、2又は3のアミノ酸配列を含むヒトAPOA2タンパク質のバリアントを抗原とした時、APOA2タンパク質のバリアントのいずれか1種のみを認識して結合する「抗ヒトAPOA2タンパク質末端抗体」又はそれらの抗体断片である。あるいは、それらの化学修飾誘導体であってもよい。ここで、「化学修飾誘導体」とは、例えば、前記抗APOA2タンパク質末端抗体又はその抗体断片において、APOA2タンパク質の特定のバリアントとの特異的な結合活性を獲得又は保持する上で必要な機能上の修飾、又は前記抗APOA2タンパク質末端抗体又はその抗体断片を検出する上で必要な標識のための修飾のいずれをも含む。
【0118】
機能上の修飾には、例えば、グリコシル化、脱グリコシル化、PEG化が挙げられる。標識上の修飾には、例えば、蛍光色素(FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、蛍光タンパク質(例えば、PE、APC、GFP、EGFP)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、又はビオチン、アビジン、ストレプトアビジンによる標識が挙げられる。
【0119】
APOA2タンパク質のバリアントの測定に用いる抗体は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体のいずれであってもよい。特異的検出を可能にするため、好ましくはモノクローナル抗体である。例えば、APOA2タンパク質末端と特異的に結合する抗APOA2タンパク質末端ポリクローナル抗体等は、前述の方法によって作製することができる。
【0120】
2種のAPOA2タンパク質のバリアントは、APOA2タンパク質の特定のバリアントにのみ結合する抗APOA2抗体を用いた免疫学的方法により測定可能である。免疫学的方法は、抗APOA2抗体を用いる限り、いずれの方法でも良いが、好ましくは、抗APOA2タンパク質末端抗体を固相化抗体又は標識抗体として用い、APOA2タンパク質のC末端以外の領域と結合するもう一つの抗体(抗APOA2タンパク質非末端抗体)と組み合わせて行うELISA法である。例えば、APOA2−ATQタンパク質の量は、抗APOA2−ATQ末端抗体を標識抗体として用い、抗APOA2−ATQ非末端抗体を固相化抗体として用いたサンドイッチELISA法により測定できる。また、APOA2−ATタンパク質は、抗APOA2−AT末端抗体を固相化抗体として用い、抗APOA2−AT非末端抗体を標識抗体として用いたサンドイッチELISA法により測定可能である。抗APOA2タンパク質非末端抗体は、Abcam社、FITZGERALD社等より市販されており、それらを利用することもできる。
【0121】
2−2.罹患決定工程
「罹患決定工程」とは、前記膵腫瘍検出用マーカー測定工程で測定されたタンパク質の量に基づいてインビトロで膵臓癌又は膵良性腫瘍の罹患を決定(又は評価)する工程である。測定された膵腫瘍検出用マーカー、すなわち、被験体の体液試料中におけるAPOA2タンパク質のバリアントの量(APOA2−ATQタンパク質及びAPOA2−ATタンパク質の量)を測定して、膵腫瘍の検出を行い、膵腫瘍の罹患の有無を決定し、又は罹患の可能性を評価する。本工程は、さらに第1工程〜第3工程の3つの工程で構成される。以下、それぞれの工程について詳細に説明する。
【0122】
第1の工程では、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるAPOA2−ATQタンパク質のC末端領域と特異的に結合する抗APOA2−ATQ末端抗体と、該C末端領域以外のアミノ酸配列と結合する抗APOA2−ATQ非末端抗体を用いて、被験体の体液試料中におけるAPOA2−ATQタンパク質の量を測定する。
【0123】
次に、第2の工程では、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるAPOA2−ATタンパク質のC末端領域と特異的に結合する抗APOA2−AT末端抗体と、該C末端領域以外のアミノ酸配列と結合する抗APOA2−AT非末端抗体を用いて、APOA2−ATタンパク質の量を測定する。ここで、APOA2−ATQタンパク質及びAPOA2−ATタンパク質の前記C末端領域は、それぞれC末端を含む6以上の連続したアミノ酸を含む配列であることが望ましい。APOA2タンパク質のバリアントの量は、例えばELISA法により測定することができるが、この方法に限定されない。さらに、第1の工程において抗APOA2−ATQ末端抗体と共に用いる抗APOA2−ATQ非末端抗体と、第2の工程において抗APOA2−AT末端抗体と共に用いる抗APOA2−AT非末端抗体は、抗APOA2タンパク質非末端抗体として同一であってもよい。つまり、第1の工程において抗APOA2−AT非末端抗体を、また第2の工程において抗APOA2−ATQ非末端抗体を用いることができる。
【0124】
第3の工程では、第1の工程で得たAPOA2−ATQタンパク質の量の測定値と第2の工程で得たAPOA2−ATタンパク質の量の測定値を、予め設定した判別式に入力して被験体における判別値を求め、健常体における判別値と比較して統計学的に有意に差があるときに膵腫瘍に罹患していると決定する。ここで用いる判別式は、後述する方法にて設定することができる。
【0125】
また、判別値を求めなくても、被験者から採取された試料中のAPOA2−ATQタンパク質又はAPOA2−ATタンパク質のどちらか一方の量が、健常者から採取された検体中の量と比べて有意に差がある場合、具体的には測定された量が有意に少ない場合にも、被験者が膵腫瘍に罹患していると簡便に決定できる場合がある。
【0126】
本発明による膵腫瘍の検出方法は、上記第3の工程において膵腫瘍に罹患していると決定された被験体について、さらに第4の工程を行うことができる。第4の工程では、該被験体の体液試料中における既知の膵臓癌マーカーの量を測定することにより、被験体が膵臓癌又は膵良性腫瘍のいずれに罹患しているのかを区別して決定することができる。この方法で使用する既知の膵臓癌マーカーとしては、膵臓癌を検出できるが、膵良性腫瘍を検出できないことが知られているものを使用する。具体的には、シアリルLewisA抗原である「CA19−9」(Carbohydrate Antigen 19−9)や、ムチン様糖蛋白である「DU−PAN−2」(Pancreatic cancer−associated antigen−2)を用いることができる(臨床検査データブック 2013−2014、高久史麿監修、医学書院、p.636−638)。膵臓癌判別を行う際の基準値は、CA19−9では37(U/mL)であり、DU−PAN−2では150(U/mL)である。CA19−9、DU−PAN−2の量は、例えばELISA法によって測定することができるが、この方法に限られない。
【0127】
上記第4の工程における罹患の決定は、具体的には、以下の通りに行うことができる。まず、被験者の体液試料中におけるCA19−9又はDU−PAN−2の量を測定する。次に、そのCA19−9又はDU−PAN−2の量の測定値が、上記膵臓癌判別のための各基準値を超える場合には、被験体は膵臓癌に罹患していると決定することができる。また、測定値が各基準値以下である場合には、被験体は膵良性腫瘍に罹患していると決定することができる。これは、APOA2タンパク質のバリアントの量を測定する本発明の方法が、従来は不可能であった膵良性腫瘍を検出することができることによるものである。
【0128】
本発明による膵腫瘍の検出方法は、APOA2−Aタンパク質など、APOA2タンパク質のその他のバリアント、又はAPOA2タンパク質の総量と組み合わせて利用することもでき、本発明にはかかる態様も包含される。
【0129】
「健常体」とは、少なくとも膵腫瘍に罹患していない個体、好ましくは健康な個体をいう。さらに、健常体は、被験体と同一の生物種であることを要する。例えば、検出に供する被験体がヒト(被験者)の場合には、健常体もヒト(本明細書では、以降「健常者」とする)でなければばらない。健常体の身体的条件は、被験体と同一又は近似することが好ましい。身体的条件とは、例えば、ヒトの場合であれば、人種、性別、年齢、身長、体重等が該当する。
【0130】
健常体の体液中における膵腫瘍検出用マーカーの濃度は、前記膵腫瘍検出用マーカー測定工程で説明をした被験体の体液中における膵腫瘍検出用マーカーの濃度の測定方法と同様の方法で測定することが好ましい。健常体の体液中における膵腫瘍検出用マーカーの濃度は、被験体の体液中における膵腫瘍検出用マーカーの濃度を測定する都度、測定することもできるが、予め測定しておいた膵腫瘍検出用マーカーの濃度を利用することもできる。特に、健常体の様々な身体的条件における膵腫瘍検出用マーカー質の濃度を予め測定しておき、その値をコンピューターに入力してデータベース化しておけば、被験体の身体的条件を当該コンピューターに入力することで、その被験体との比較に最適な身体的条件を有する健常体の膵腫瘍検出用マーカーの濃度を即座に利用できるので便利である。
【0131】
本明細書において、「統計学的に有意」とは、例えば、得られた値の危険率(有意水準)が小さい場合、具体的には、p<0.05、p<0.01又はp<0.001の場合が挙げられる。ここで、「p」又は「p値」とは、統計学的検定において、統計量が仮定した分布の中で、仮定が偶然正しくなる確率を示す。したがって「p」又は「p値」が小さいほど、仮定が真に近いことを意味する。「統計学的に有意に差がある」とは、被験体と健常体のそれぞれから得られた膵腫瘍検出用マーカーの量、又は判別式に入力して得た判別値の差異を統計学的に処理したときに両者間に有意に差があることをいう。健常体との比較において、統計学的に有意に差がある場合、その被験体は膵腫瘍に罹患していると評価する。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法、多重比較検定法を用いることができる。
【0132】
本明細書において、「判別式」は、多変量解析の最終生成物であり、1つ以上の値セットによって特徴づけられ、最終的に判別値を算出する。「多変量解析」とは、本明細書では膵腫瘍検出用マーカーの測定値を使用して判別式を構築するために使用される数学的手法である。また、明細書において、「値セット」とは、膵腫瘍検出用マーカーの特徴についての値の組み合わせ又は値域である。この値セット及びその中の値の性質は、膵腫瘍検出用マーカーに存在する特徴のタイプ及び値セットを指示する判別式を構築するために使用される多変量解析に依存的である。
【0133】
本明細書において、「判別値」は、対象検体が膵腫瘍に罹患しているであろう予測の指標として利用できる値である。一つの具体例において、判別値により、対象検体が膵腫瘍に罹患していると予測できる。もう一つの例において、判別値により、対象検体が膵腫瘍に罹患していないと予測できる。
【0134】
判別式は、データ解析アルゴリズムを用いた多変量解析によって構築することができる。判別式の構築に使用できるデータ解析アルゴリズムとしては、ロジスティック回帰分析を含む一般化線形モデル、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシーン(SVM)、判別分析、ノンパラメトリック手法、PLS (Partial Least Squares)、決定木、主成分分析、一般化加法モデル、ファジィ論理、SOM(Self−organizing maps)、又は遺伝的アルゴリズムが挙げられる。中でもロジスティック回帰分析、ニューラルネットワーク、SVM又は判別分析を好ましく用いることができる。ただし、これらのデータ解析アルゴリズムに限定されない。これらの統計的方法に関する詳細は、以下の参考文献:Ruczinski,I.ら、2003年、Journal of Computational and Graphical Statistics,第12巻、p.475−511;Friedman,J.、Journal of the American Statistical Association、1989年、第84巻、p.165−175;Hastie,T.ら著、2001年、The Elements of Statistical Learning,Springer Series in Statistics;Breiman,L.著、1984年、Classification and regression trees,Chapman and Hall:Breiman,L.、2001年、Machine Learning,第45巻、p.5−32;Pepe,M.著、2003年、The Statistical Evaluation of Medical Tests for Classification and Prediction,Oxford Statistical Science Series;ならびにDuda,R.ら著、2000年、Pattern Classification,Wiley Interscience,第2版中に見られる。
【0135】
本発明において、判別式を用いた解析は、以下に示す工程で行われる。まず、判別を行いたい事象を目的変数として設定する。「目的変数」とは、判別式において判別を行いたい事象である。本発明においては、被験者の膵腫瘍への罹患の有無を示す。例えば、ロジスティック回帰分析の場合には、判別を行いたい事象が被験者の膵腫瘍の罹患の有無であった場合、目的変数は、被験者が膵腫瘍患者である場合に「1」、健常者である場合に「0」、と設定することができる。次に、目的変数を予測するための説明変数を設定する。「説明変数」とは、判別式において、前記目的変数の予測のために使用する変数である。例えば、ロジスティック回帰分析の場合には、説明変数として、膵腫瘍検出用マーカー、すなわち、APOA2−ATQタンパク質及びAPOA2−ATタンパク質の測定値を設定することができる。次に、前述したいずれかのデータ解析アルゴリズムを使用して、説明変数を組み合わせた判別式を構築し、判別値を算出する。得られた判別値に基づいて、判別を行いたい事象の予測を行う。例えば、ロジスティック回帰分析の場合には、判別値により、被験者が膵腫瘍患者(すなわち「1」)、又は健常者(すなわち「0」)であると予測できる。最終的に、事象の予測結果と、目的変数の値を比較し、判別式の判別性能を評価する。ここで、「判別性能」とは、判別を行いたい事象をどの程度正確に予測できたかという指標のことを指す。判別性能としては、症例データの判別成績(感度、特異度)、又はAUC値を利用することができる。膵腫瘍の罹患の有無を決定し、又は罹患の可能性を評価するためには、判別式から得られた判別値を基準に行うと良い。
【0136】
本明細書において、「AUC(area under the curve:曲線下面積)値」とは、受信者動作特性曲線(ROC曲線)下の面積を意味し、患者を陽性群と陰性群に分けるための予測、判定、検出又は診断の方法の精度を測る指標となる。これらの曲線では、評価対象となる方法が示す結果に関して、陽性患者において陽性の結果がでる確率(感度)と、陰性患者において陰性の結果がでる確率(特異性)を1から減算した値(偽陽性率)がプロットされる。
【0137】
本明細書において、「感度」とは、(真陽性の数)/(真陽性の数+偽陰性の数)の値を意味する。感度が高ければ膵臓癌の早期発見や膵良性腫瘍の発見が可能となり、完全な患部の切除や再発率の低下につながる。
【0138】
本明細書において、「特異度」とは、(真陰性の数)/(真陰性の数+偽陽性の数)を意味する。特異度が高ければ健常体を早期膵臓癌患者又は膵良性腫瘍患者と誤判別することによる無駄な追加検査の実施を防ぎ、患者の負担の軽減や医療費の削減につながる。
【0139】
以下に、APOA2タンパク質のバリアントの測定値を用いて、ロジスティック回帰分析を使用した判別式によって、被験者の膵腫瘍の罹患の有無を解析する方法を具体的に示す。
【0140】
2−2−1.ロジスティック回帰分析を用いた判別法
膵腫瘍への罹患の有無を決定し又は罹患の可能性を評価するための分析法としては、ロジスティック回帰分析を用いて判別式を得る方法を使用できる。
【0141】
まず、臨床情報から、全被験者を膵腫瘍患者と、健常者の2群に群分けし、目的変数として膵腫瘍患者を「1」、健常者を「0」と設定する。次に、それらの臨床情報を持つ生体試料から得たAPOA2タンパク質の2種のバリアントの測定値から判別式を設定する。判別式は、説明変数としてAPOA2−ATQタンパク質の測定値とAPOA2−ATタンパク質の測定値、及び/又はAPOA2−ATタンパク質の測定値とAPOA2−ATQタンパク質の測定値の積を変数として含むロジスティック回帰式として、予め設定することができる。ロジスティック回帰式の判別式としての妥当性は、最尤法(maximun likelihood method)の範疇に属するAIC値(赤池情報量規準)、又はSchwarzのBIC値等などの指標を用いて評価できる。
【0142】
ロジスティック回帰式としては、数式1、数式2、数式3のように、説明変数としてAPOA2−ATQタンパク質の測定値、APOA2−ATタンパク質の測定値、APOA2−ATタンパク質の測定値とAPOA2−ATQタンパク質の測定値の積が含まれる式が利用できる。
数式1:a x (APOA2−ATQ) + b x (APOA2−AT) + d
数式2:a x (APOA2−ATQ) + b x (APOA2−AT)+ c x (APOA2−
ATQ) x (APOA2−AT) +d
数式3:c x (APOA2−ATQ) x (APOA2−AT) + d
(数式1〜3において、a,b,c,dはゼロでない任意の実数、(APOA2−ATQ)はAPOA2−ATQタンパク質の測定値、(APOA2−AT)はAPOA2−AT
タンパク質の測定値である。)
【0143】
ロジスティック回帰式として判別式を得た場合には、被験者と健常者から得られたAPOA2−ATQタンパク質又はAPOA2−ATタンパク質の測定値を前記ロジスティック回帰式に入力して得た判別値を比較し、被験者が膵腫瘍に罹患していると決定することができる。例えば、前記統計学的に有意に差のあるときの被験者の判別値が、健常者の判別値の3分の2以下である場合に、より好ましくは2分の1以下、さらに好ましくは4分の1以下である場合に、被験者が膵腫瘍に罹患していると決定することができる。
【0144】
3.膵腫瘍検出用キット
本発明の第三の態様は、膵腫瘍検出用キットである。
【0145】
本明細書において「膵腫瘍検出用キット」とは、膵腫瘍への罹患の有無、罹患の程度若しくは改善の有無や改善の程度を評価するために、また膵腫瘍の予防、改善又は治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接又は間接的に利用されるものをいう。
【0146】
本態様のキットは、その構成物として、膵腫瘍への罹患に関連して体液試料中、特に血液、血清、血漿において発現が変動するAPOA2タンパク質のバリアント、好ましくは配列番号1及び2で示されるAPOA2タンパク質の2種のバリアントを特異的に認識し、また結合可能な物質が包含される。具体的には、例えば、抗APOA2タンパク質末端抗体等若しくはその断片又はそれらの化学修飾誘導体が含まれる。これらの抗体は、上記のような固相担体に結合されていてもよく、この場合、好ましくは上記のような検査用ストリップに結合されていてもよい。その他、例えば、標識二次抗体、さらには標識の検出に必要な基質、担体、洗浄バッファー、試料希釈液、酵素基質、反応停止液、精製された標準物質としてのAPOA2タンパク質、使用説明書等を含んでいてもよい。
【実施例】
【0147】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。しかし、本発明は、この実施例によって制限されないものとする。
【0148】
(実施例1)APOA2−ATQタンパク質のC末端領域を特異的に認識するモノクローナル抗体(抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体)の作製
(a)APOA2−ATQタンパク質のC末端領域を認識する抗体産生細胞の作製
APOA2−ATQタンパク質のC末端領域の配列である配列番号29で示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、水に対して難溶性であり、抗原性も低いため、N末端側に、3つのアルギニン残基を付加することで親水性を付与し、さらにそのN末端にシステイン残基を付加したペプチドを合成した。続いて、Maleimide−Activated Ovalbumin(ピアス社製)を用いて、前記ペプチドのシステイン残基に、OVAタンパク質を結合させた。これを免疫原とし、免疫原が1匹当たり100μgとなるように、マウス(BALB/c)に2週間間隔で腹腔内投与を行った。免疫の初回から4回目までは、前記免疫原溶液に、さらにSigma Adjuvant System(シグマ社製)を混合し、投与した。4回目の投与の後、ELISA法により、マウスの血清中の抗体価の測定を行った。
【0149】
前記免疫原をPBS溶液で0.3μg/mLに調製した後、イムノプレートマキシソープ(NUNC社製)のウェルに100μLずつ入れ、一晩固相化した。翌日、前記溶液を廃棄し、ブロッキングバッファーA溶液(0.5%BSA、0.05%TWEEN20、PBS)400μLを添加して1時間室温で静置した。ウェル内の溶液を廃棄後、PBS−T(0.05%TWEEN20、PBS)400μLを添加して洗浄し、ブロッキングバッファーA溶液で希釈した前記マウス血清を100μL添加して1時間室温で反応させた。ウェル内の溶液を廃棄後、PBS−Tによる洗浄を行った後、ブロッキングバッファーA溶液で5000倍希釈したPolyclonal Rabbit Anti−Mouse Immunoglobulins/HRP(ダコ・ジャパン社製)100μLを添加して、1時間室温で反応させた。PBS−Tにて洗浄後、TMB溶液(ピアス社製)50μLを添加して酵素反応を行った。その後、0.5N硫酸溶液50μLを添加して反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。その結果、充分な抗体価の上昇を見出したため、さらに前記マウスに前記免疫原溶液を投与し、最終免疫とした。そして、最終免疫の日から3日後に、脾臓から抗体産生細胞を取得した。
【0150】
(b)マウスからの抗体産生細胞の回収と細胞融合
RPMI1640培地中で、前記(a)でマウスから得た抗体産生細胞と、SP2/0(マウスミエローマ)細胞を1:10の割合で混合し、80%ポリエチレングリコールの存在下にて融合反応を行った。続いて、HAT培地にて約1週間培養し、ハイブリドーマを選別した。
【0151】
(c)APOA2−ATQタンパク質のC末端領域を認識する抗体を産生するハイブリドーマの選抜
次に、HAT培地で選択されたハイブリドーマから、組換え型ヒト由来のAPOA2−ATQタンパク質又はAPOA2−ATタンパク質に対する結合活性の違いを指標として、APOA2−ATQタンパク質のC末端領域を特異的に認識する抗体の選抜を行った。前記(a)と同様にELISA法にてスクリーニングを行った結果、クローン7F2とクローン6G2の2種のハイブリドーマを取得した。モノクローナル抗体をコードする遺伝子の配列解析の結果、7F2のCDR配列は配列番号4〜9、6G2のCDR配列は配列番号10〜15、で示されるアミノ酸配列であることが明らかとなった。
【0152】
(実施例2)抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体を用いたELISA法によるAPOA2−ATQタンパク質の検出
実施例1で取得した抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体7F2又は6G2を用いて、ELISA法によるAPOA2−ATQタンパク質の検出を行った。組換え型ヒト由来、APOA2−ATQタンパク質、APOA2−ATタンパク質又はAPOA2−Aタンパク質を、PBS溶液で1μg/mLに調製した後、イムノプレートマキシソープのウェルに100μLずつ入れ、一晩固相化した。翌日、前記溶液を廃棄し、ブロッキングバッファーA溶液400μLを添加して1時間室温で静置した。ウェル内の溶液を廃棄後、PBS−T400μLを添加して洗浄し、希釈液(1%NP40、50mM トリス塩酸、150mM NaCl、1mM EDTA、1%BSA、pH8.0)で0.2μg/mLに希釈した抗体7F2又は6G2を100μL添加して2時間室温で反応させた。ウェル内の溶液を廃棄後、PBS−Tによる洗浄を行った後、希釈液で5000倍希釈したPolyclonal Rabbit Anti−Mouse Immunoglobulins/HRP100μLを添加して、1時間室温で反応させた。PBS−Tにて洗浄後、TMB溶液100μLを添加して酵素反応を行った。その後、0.5N硫酸溶液100μLを添加して反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。
【0153】
結果を
図1に示す。本発明において取得した抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体クローン7F2とクローン6G2は、いずれもAPOA2−ATQタンパク質を特異的に認識することが確かめられた。
【0154】
(実施例3)APOA2−ATQタンパク質に対する抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体と抗APOA2−ATQ末端ポリクローナル抗体の結合特異性の評価
実施例1で取得した抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体クローン7F2、クローン6G2と、前記「1−4.抗APOA2ポリクローナル抗体の作製」(方法の詳細は「抗ペプチド抗体実験プロトコール」、第2版、秀潤社に記載)に記載した方法を用いて取得した抗APOA2−ATQ末端ポリクローナル抗体の計3種の抗体について、抗原に対する特異性を評価した。本実験では、クローン7F2、クローン6G2、及び抗APOA2−ATQ末端ポリクローナル抗体のPOD標識体を用いた。抗体のPOD標識化は、PEROXIDASE LABELING KIT−SH(DOJINDO社製)を用いて行った。
【0155】
組換え型ヒト由来APOA2−ATQタンパク質、又はAPOA2−ATタンパク質を、PBS溶液で1μg/mLに調製した後、イムノプレートマキシソープのウェルに100μLずつ加え、2時間固相化した。PBS−Tで洗浄の後、ブロッキングバッファーB溶液(1%スキムミルク、0.05%TWEEN20、PBS)400μLを添加して1時間室温で静置し、ウェル内の溶液を廃棄した。続いて、希釈液で0.5μg/mLに希釈したモノクローナル抗体7F2、6G2、又は抗APOA2−ATQ末端ポリクローナル抗体のPOD標識体を、100μL加え、2時間室温で反応させた。さらに、PBS−Tによる洗浄を行った後、TMB溶液100μLを添加して発色させた。最後に、0.5N硫酸溶液100μLを添加して反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。
【0156】
図2(A)に、各抗体を、タンパク質を固相化していないウェル(ブランク)、APOA2−ATタンパク質を固相化したウェル、APOA2−ATQタンパク質を固相化したウェルで反応させた際の測定値を示す。
図2(B)には、各抗体のAPOA2−ATタンパク質を固相化したウェルの測定値からブランクを差し引いた値をAPOA2−ATタンパク質に対する結合活性値、APOA2−ATQタンパク質を固相化したウェルの測定値からブランクを差し引いた値をAPOA2−ATQタンパク質に対する結合活性値として算出し、APOA2−ATQタンパク質に対する結合活性値をAPOA2−ATタンパク質に対する結合活性値で乗じた値を抗APOA2−ATQ末端抗体の結合特異性として表したグラフである。抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体7F2と6G2はいずれも、抗APOA2−ATQ末端ポリクローナル抗体と比較して、APOA2−ATQタンパク質に対する結合特異性が強いことが確かめられた。
【0157】
(実施例4)抗APOA2−AT末端抗体を用いたELISA法によるAPOA2−ATタンパク質の検出
APOA2−ATタンパク質のC末端領域を特異的に認識する抗APOA2−AT末端ポリクローナル抗体を用いて、ELISA法によるAPOA2−ATタンパク質の検出を行った。
【0158】
(a)抗APOA2−AT末端ポリクローナル抗体の作製
抗APOA2−AT末端ポリクローナル抗体は、前記「1−4.抗APOA2ポリクローナル抗体の作製」(方法の詳細は「抗ペプチド抗体実験プロトコール」、第2版、秀潤社に記載)に記載した方法を用いて取得した。免疫原は、配列番号28で示されるAPOA2−ATタンパク質のC末端領域を示すペプチドのN末端にシステイン残基を付加し、さらにキャリアータンパク質であるKLHと結合させたものを用いた。この免疫原をウサギに対して1週間間隔で投与を行った。4回目の投与の後、前記実施例1と同様に、ELISA法によりウサギ血清中の抗体価の測定を行った。その結果、充分な抗体価の上昇を見出したため、最終免疫の日から1週間後に抗血清を回収した。
【0159】
前記ペプチドをホルミルセルロファイン担体に結合させたものをアフィニティーカラムとして用いて、前記抗血清の精製を行った。具体的には、精製後の抗血清を、前記ペプチドのC末端をアミド化したものをホルミルセルロファイン担体に結合させたアフィニティーカラムに通して、ペプチドのC末端領域以外への結合性を示すイムノグロブリンを吸着除去した。最終的に、この非吸着画分を抗APOA2―AT末端ポリクローナル抗体として取得した。
【0160】
(b)ELISA法を用いたAPOA2−ATタンパク質の検出
組換え型ヒト由来、APOA2−ATタンパク質、APOA2−ATQタンパク質、又はAPOA2−Aタンパク質を、PBS溶液で1μg/mLに調製した後、イムノプレートマキシソープのウェルに100μLずつ入れ、一晩固相化した。翌日、前記溶液を廃棄し、ブロッキングバッファーA溶液400μLを添加して1時間室温で静置した。ウェル内の溶液を廃棄後、400μLのPBS−Tを添加して洗浄し、希釈液で0.2μg/mLに希釈した上記抗APOA2−AT末端ポリクローナル抗体を100μL添加して2時間室温で反応させた。ウェル内の溶液を廃棄後、PBS−Tによる洗浄を行った後、希釈液で10000倍希釈したAnti−Rabbit IgG,HRP−Linked F(ab’)
2 Fragment Donkey(GEヘルスケア社製)100μLを添加して、1時間室温で反応させた。PBS−Tにて洗浄後、TMB溶液100μLを添加して酵素反応を行った。その後、0.5N硫酸溶液100μLを添加して反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。
【0161】
結果を
図3に示す。本発明において取得した抗体は、APOA2タンパク質のバリアントのうち、APOA2−ATタンパク質のみを特異的に認識することが確かめられた。
【0162】
(実施例5)抗APOA2タンパク質非末端抗体を用いたELISA法によるAPOA2タンパク質の検出
前記実施例1に記載の方法を用いて、APOA2タンパク質のC末端領域以外のアミノ酸配列を認識する抗体を作製した。
【0163】
ハイブリドーマのスクリーニングにおいては、APOA2タンパク質非末端領域に対して結合活性を持つことを指標に、抗体の選抜を行った。スクリーニングの結果、クローンMAB1とクローンMAB2の2種の抗APOA2タンパク質非末端モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを取得した。また当該モノクローナル抗体をコードする遺伝子の配列解析の結果、MAB1のCDR配列は配列番号16〜21、MAB2のCDR配列は配列番号22〜27、で示されるアミノ酸配列であることが明らかとなった。
【0164】
前記抗APOA2タンパク質非末端モノクローナル抗体MAB1又はMAB2を用いて、ELISA法によるAPOA2タンパク質のバリアントの検出を行った。組換え型ヒト由来、APOA2−ATタンパク質、APOA2−ATQタンパク質、又はAPOA2−Aタンパク質を、PBS溶液で1μg/mLに調製した後、イムノプレートマキシソープのウェルに100μLずつ入れ、一晩固相化した。翌日、前記溶液を廃棄し、ブロッキングバッファーA溶液400μLを添加して1時間室温で静置した。ウェル内の溶液を廃棄後、400μLのPBS−Tを添加して洗浄し、ブロッキングバッファーAで0.5μg/mLに希釈した抗体を100μL添加して1時間室温で反応させた。ウェル内の溶液を廃棄後、PBS−Tによる洗浄を行った後、ブロッキングバッファーAで5000倍希釈したAnti−Mouse IgG,HRP−Linked F(ab’)
2 Fragment Donkey(GEヘルスケア社製)100μLを添加して、1時間室温で反応させた。PBS−Tにて洗浄後、TMB溶液100μLを添加して酵素反応を行った。その後、0.5N硫酸溶液100μLを添加して反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。
【0165】
図4(A)と(B)にMAB1抗体とMAB2抗体をそれぞれ用いたELISA法による、APOA2タンパク質のバリアントの測定結果を示す。本発明によって取得したモノクローナル抗体MAB1、MAB2はいずれも、APOA2タンパク質のバリアントに対する結合活性が同程度であったことから、C末端領域以外のアミノ酸配列を認識する抗APOA2タンパク質非末端抗体であることが確かめられた。
【0166】
(比較例1)質量分析法を用いた血中APOA2タンパク質二量体(APOA2−ATQ/AT)の検出
国立がんセンター中央病院において、インフォームドコンセントを得て、膵臓癌患者と健常者各40名から採取した血漿から、特許第5200246号公報に記載された実験1と同様の手法に従い、SELDI−QqTOF−MS(surface−enhanced laser desorption/ionization high−resolution performance hybrid quadrupole time of flight mass spectrometry)法を用いて、17252(m/z)の質量を有するペプチドピークのイオン強度を測定した。
【0167】
図5に、健常者と膵臓癌患者の判別を行った結果を示す。本手法はAUC値=0.894を示し、高い膵臓癌判別精度を持つことが確かめられた。
【0168】
(比較例2)サンドイッチELISA法を用いた血中APOA2タンパク質二量体(APOA2−ATQ/AT)の検出
前記比較例1と同様の血漿を対象に、APOA2−ATQタンパク質のC末端領域を特異的に認識する前記抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体7F2とAPOA2−ATタンパク質のC末端領域を特異的に認識する前記抗APOA2−AT末端ポリクローナル抗体のPOD標識体を用いたサンドイッチELISA法により、APOA2タンパク質二量体(APOA2−ATQ/AT)の検出を試みた。
【0169】
抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体のPOD標識化はPEROXIDASE LABELING KIT−SHを用いて行い、詳細は付属のプロトコールに従った。抗APOA2−AT末端ポリクローナル抗体をPBS溶液で5μg/mLに調製した後、イムノプレートマキシソープのウェルに100μLずつ入れ、一晩固相化した。翌日、前記溶液を廃棄し、PBS−Tを400μL添加して洗浄し、ブロッキングバッファーC溶液(1%BSA、0.05%TWEEN20、PBS)400μLを添加して1時間室温で静置した。前記溶液を廃棄し、抗体固相化プレートとした。次に、希釈液を用いて16倍希釈した血漿を、各ウェルに100μLずつ添加し1時間室温で反応させた。ウェル内の溶液を廃棄後、PBS−Tによる洗浄を行い、希釈液で0.4μg/mLに希釈した抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体のPOD標識体100μLを添加し、1時間室温で反応させた。PBS−Tによる洗浄を行った後、TMB溶液100μLを添加して酵素反応を行った。その後、0.5N硫酸溶液100μLを添加して反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。
【0170】
図6に、健常者と膵臓癌患者の判別を行った結果を示す。本手法はAUC値=0.529を示し、前記比較例1の質量分析法と同等の膵臓癌判別精度は得られなかった。本結果は、APOA2―ATQ/ATタンパク質二量体は、2つのC末端領域が互いに近接しているため、立体障害によって抗APOA2−AT末端ポリクローナル抗体と抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体が同時に結合できない可能性を示すものである。
【0171】
(比較例3)サンドイッチELISA法を用いた血中APOA2−ATQタンパク質の検出
前記比較例1と同様の血漿を対象に、前記抗APOA2−ATQ末端モノクローナル抗体7F2のPOD標識体と、APOA2タンパク質のC末端領域以外の部位を認識する抗APOA2タンパク質非末端ポリクローナル抗体(FITZGERALD社)を用いたサンドイッチELISA法により、APOA2−ATQタンパク質の測定を行った。
【0172】
抗体7F2のPOD標識化は前記比較例2と同様に行った。抗APOA2タンパク質非末端ポリクローナル抗体をPBS溶液で2μg/mLに調製した後、イムノプレートマキシソープのウェルに100μLずつ入れ、一晩固相化した。翌日、前記溶液を廃棄し、PBS−Tを400μL添加して洗浄し、ブロッキングバッファーC溶液400μLを添加して1時間室温で静置した。その後、前記溶液を廃棄し、抗体固相化プレートとした。次に、希釈液を用いて10000倍希釈した血漿を、各ウェルに100μLずつ添加し1時間室温で反応させた。ウェル内の抗原溶液を廃棄後、PBS−Tによる洗浄を行い、希釈液で0.2μg/mLに希釈した抗体7F2のPOD標識体100μLを添加し、1時間室温で反応させた。PBS−Tによる洗浄を行った後、TMB溶液100μLを添加して酵素反応を行い、0.5N硫酸溶液100μLを添加して反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。
【0173】
図7に、健常者と膵臓癌患者の判別を行った結果を示す。本手法はAUC値=0.515を示し、優れた膵臓癌判別精度は得られなかった。
【0174】
(比較例4)サンドイッチELISA法を用いた血中APOA2−ATタンパク質の検出
前記比較例1と同様の血漿を対象に、前記抗APOA2−AT末端ポリクローナル抗体と前記抗APOA2タンパク質非末端ポリクローナル抗体のPOD標識体を用いたサンドイッチELISA法により、APOA2−ATタンパク質の測定を行った。抗APOA2タンパク質非末端ポリクローナル抗体のPOD標識化、及びサンドイッチELISAについては、前記比較例3と同様に行った。血漿の希釈倍率は6000倍とした。
【0175】
図8に、健常者と膵臓癌患者の判別を行った結果を示す。本手法はAUC値=0.814を示し、前記比較例1の質量分析法と比べると判別性能は劣っていたものの、高い膵臓癌判別精度を持つことが確かめられた。
【0176】
(実施例6)血中APOA2タンパク質2種(APOA2―ATQタンパク質とAPOA2―ATタンパク質)の測定値の組み合わせによる膵臓癌の判別
図9に、前記比較例3と比較例4で得られたAPOA2―ATQタンパク質とAPOA2―ATタンパク質の測定値の積をプロットし、健常者と膵臓癌患者の判別を行った結果を示す。本手法はAUC値=0.906を示し、前記比較例1の質量分析法と比べても優れており、高い膵臓癌判別精度を示すことが確かめられた。
【0177】
(実施例7)サンドイッチELISA法を用いた膵臓癌の判別
国立がんセンター中央病院において、インフォームドコンセントを得て、膵臓癌患者244名と健常者109名から採取した血漿を対象に、前記実施例6の手法に従い、2種の血中APOA2タンパク質のバリアント(APOA2―ATQタンパク質とAPOA2―ATタンパク質)の測定を行った。さらに、組換え型ヒト由来タンパク質APOA2−ATQタンパク質とAPOA2−ATタンパク質の抗原溶液を標品として、血漿中の前記2種のタンパク質濃度を算出した。
【0178】
図10に、各血漿における2種のタンパク質をプロットした散布図を示す。前記2種のタンパク質を用いて、膵臓癌患者と健常者を高精度で判別可能であることが示された。
【0179】
(実施例8)測定値のデータ解析アルゴリズム処理による膵臓癌判別
前記実施例7で得られた測定値の統計解析処理により、膵臓癌判別精度が高い判別式を得ることが可能である。以下の統計処理を行い、前記比較例1と同様の質量分析法を用いた膵臓癌判別法との比較を行った。
【0180】
(a)ロジスティック回帰分析を用いた膵臓癌の判別
目的変数として、膵臓癌患者を「1」、健常者を「0」と定義し、前記(1)で得られた2種のAPOA2タンパク質のバリアント(APOA2―ATQタンパク質とAPOA2―ATタンパク質)の血中濃度を説明変数として、ロジスティック回帰分析を行い、判別式を算出した。表1に、得られた判別式における、AUC値、症例データの判別成績(感度、特異度)の算出結果を示す。この中で、早期の膵臓癌(ステージI)の判別性能が良かったのは、前記実施例6と同様、2種のタンパク質の濃度(APOA2−ATQタンパク質とAPOA2−ATタンパク質)の積を説明変数とした判別式を構築した場合であった。APOA2―ATQタンパク質とAPOA2―ATタンパク質の各検体の測定値を、この判別式に入力し得られた判別値を用いて、健常者と膵臓癌患者(ステージIとII)を判別した際のROC曲線を
図11(A)に示す。
図11(B)は、前記質量分析法により測定したAPOA2−ATQ/ATタンパク質二量体の量を用いて、健常者と膵臓癌患者を判別した際のROC曲線である。また、表2に、膵臓癌の各ステージにおける判別性能を比較した結果を示す。表2において、膵臓癌のステージはUICCのステージ分類に従い、ステージIは、UICCのステージ分類におけるIA、IBを指し、ステージIIは、UICCのステージ分類におけるIIA、IIBを指す。表2において、「ELISA法」は、ELISA法により得られた2種のタンパク質(APOA2−ATQタンパク質とAPOA2−ATタンパク質)の量の積を説明変数とする判別式を用いた場合の解析結果を示し、「質量分析法」は、質量分析法により得られたAPOA2タンパク質二量体(APOA2−ATQ/AT)の量を用いた場合の解析結果を示す。本手法は、前記質量分析法と比較して、極めて高い感度で早期膵臓癌を検出可能であることが確認された。
【表1】
【表2】
【0181】
(実施例9)測定値のデータ解析アルゴリズム処理による膵良性腫瘍の判別
APOA2による健常者と各種膵良性腫瘍患者の判別を行い、CA19−9との判別性能の比較を行った。
【0182】
APOA2を用いた判別では、前記実施例8において健常者と膵臓癌患者の判別に用いた際と同様の判別式(APOA2−ATQタンパク質とAPOA2−ATタンパク質の量の積)を用いた。APOA2を用いた判別性能については、表1において判別成績(感度、特異度)を算出した際と同様の方法で算出した。
【0183】
被験者の体液試料中におけるCA19−9の量は、免疫学的方法により測定した。通常、CA19−9により健常者と膵臓癌患者の判別を行う際、判別の基準値は37(U/mL)であり、CA19−9の量が基準値以下である場合は健常者、基準値を上回る場合は膵臓癌患者であると判別される(臨床検査データブック 2013−2014、高久史麿監修、医学書院、p.636−637)。本実施例では、前記基準値をもとに、CA19−9を用いて膵良性腫瘍患者と健常者との判別が可能であるかを検証するために、CA19−9の量が前記基準値を上回る場合に、膵良性腫瘍患者であるとして判別した。
【0184】
APOA2により、健常者と膵良性腫瘍患者を判別した際のROC曲線を
図12(A)に示す。CA19−9により、健常者と膵良性腫瘍患者を判別した際のROC曲線を
図12(B)に示す。また、表3に各膵良性腫瘍の判別性能を比較した結果を示す。本発明のAPOA2を用いた判別方法は、極めて高い感度で膵良性腫瘍を検出可能であることが確認された。その一方で、CA19−9を用いた場合には、感度はほぼゼロに等しく、膵良性腫瘍を検出することは困難であることが判明した。
【表3】
【0185】
(実施例10)APOA2とCA19−9を組み合わせた膵臓癌と膵良性腫瘍の判別
APOA2とCA19−9を組み合わせた膵臓癌と膵良性腫瘍の判別を行った。まず、前記実施例8及び9に記載の方法を用いて、APOA2により、膵良性腫瘍、早期膵臓癌(ステージI、II)、及び膵臓癌(全ステージ)の検出を行い、いずれかが検出された罹患者の人数をAPOA2の陽性数として算出した。次に、APOA2陽性の患者について、前記実施例9に記載の方法を用いてCA19−9による判別を行い、CA19−9の基準値を上回った数としてCA19−9の陽性数を算出した。さらに、APOA2陽性数に占めるCA19−9陽性数の割合を算出した。これらの結果を表4に示す。
【0186】
本手法により、APOA2陽性かつCA19−9陽性である患者を膵臓癌に罹患していると決定し、APOA2陽性かつCA19−9陰性である患者を膵良性腫瘍に罹患していると決定できる確率が高いことが確認された。すなわち、本発明の方法により、APOA2とCA19−9とを組み合わせることにより、膵臓癌の罹患と膵良性腫瘍の罹患とを区別して判別することができることが示された。
【表4】
【0187】
(実施例11)APOA2とDU−PAN−2を組み合わせた膵臓癌と膵良性腫瘍の判別
APOA2とDU−PAN−2を組み合わせた膵臓癌と膵良性腫瘍の判別を行った。CA19−9の代わりにDU−PAN−2を用い、前記実施例10に記載の方法と同様にして判別を行った。被験体の体液試料中におけるDU−PAN−2の量は、免疫学的方法により測定した。通常、DU−PAN−2により健常者と膵臓癌患者の判別を行う際、判別の基準値は150(U/mL)であり、DU−PAN−2の量が基準値以下である場合は健常者、基準値を上回る場合は膵臓癌患者であると判別される(臨床検査データブック 2013−2014、高久史麿監修、医学書院、p.637−638)。本実施例では、DU−PAN−2について、この基準値を使用して判別を行った。その結果を表5に示す。
【表5】
【0188】
本手法により、APOA2陽性かつDU−PAN−2陽性である患者を膵臓癌に罹患していると決定し、APOA2陽性かつDU−PAN−2陰性である患者を膵良性腫瘍に罹患していると決定できる確率が高いことが確認された。すなわち、本発明の方法により、APOA2とDU−PAN−2とを組み合わせることにより、膵臓癌の罹患と膵良性腫瘍の罹患とを区別して判別することができることが示された。
【0189】
以上、実施例7〜11の結果から、本発明は、APOA2のバリアントの測定値について判別式を用いた解析を行うことで、これまで困難とされてきた早期膵臓癌(ステージI、II)を含む膵臓癌、又は膵良性腫瘍の高感度検出において有用であることが判明した。また、本発明は、前記検出結果について、膵臓癌マーカー(CA19−9又はDU−PAN−2)を組み合わせた解析を行うことで、従来は不可能であった膵臓癌と膵良性腫瘍の高精度判別が可能となる点で有用であることが判明した。