(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
パワー半導体素子は、放熱性に優れたパッケージに組み込まれて、パワー半導体モジュールとなり、産業機械や輸送機械等の電力変換器として用いられる。
【0003】
図5を用いて、一般的なパワー半導体モジュールの構造について説明する。パワー半導体モジュール10は、半導体素子1と、絶縁基板2aの一方の主面に第1金属層2bと他方の主面に第2金属層2cを有する絶縁回路基板2と、金属板3と、ボンディングワイヤ4と、外部端子5と、ケース7と、封止材8とを備える。半導体素子1の裏面は接合部材6aを介して絶縁回路基板2の第1金属層2bに接合され、絶縁回路基板2の第2金属層2cは接合部材6bを介して金属板3に接合されている。半導体素子1で発生した熱は、接合部材6a、第1金属層2b、絶縁基板2a、第2金属層2c、接合部材6b、金属板3の順に伝えられ、更には金属板3から図示しない冷却器に伝えられて放熱される。第1金属層2bは、複数の島状領域に分かれ、ボンディングワイヤ4によって相互に接続されて電気回路をなしている。さらに、第1金属層2bには、接合部材6aによって外部接続端子5が接合されており、外部回路に電気的に接続できるようになっている。半導体素子1と絶縁回路基板2は、外部環境から保護するために、ケース7に収納され、ケース7内に充填されるシリコーンゲル等の封止材8により封止されている。
【0004】
下記の特許文献1には、オルガノシロキサンを構成する二官能性シロキサン単位と三官能性シロキサン単位の比率を変えて、枝分かれの多いオルガノポリシロキサンと、枝分かれの少ないオルガノポリシロキサンを混合し、加熱しても剥離や亀裂を生じ難い、半導体モジュールの封止材が開示されている。そして、引張剪断試験と、温度サイクル試験後の絶縁耐圧の結果が記載されている。
【0005】
一方、特許文献2には、脱アルコール縮合、脱ケトン縮合又は脱水素縮合架橋によって硬化する、ポッティング用途のシリコーンゲル組成物が開示されている。そして、火花放電によって発生したO
3、NO
xに300時間晒しても、シリコーンゲルの硬さを表す針入度は殆ど変化しないと記載されている。
【0006】
特許文献3には、半導体素子及び絶縁回路基板をシリコーンゲルで封止した後、更にシリコ―ゲル熱可塑性樹脂(例えばエポキシ樹脂)で被覆する半導体モジュールの構造体が開示されている。そして、高温高湿試験(85℃、85%RH)後に、超音波映像装置を用いて観察したところ、ボイド、クラック、剥離などの欠陥はなかったと記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シリコーンゲルは透湿性が高く、パワー半導体モジュールのシリコーンゲルは水分を多く含んでいる。高温高湿試験で加速された場合は吸水率の増大はいっそう顕著である。
図6に示すように、水分は、シリコーンゲル(封止材8)と絶縁回路基板2との界面9の接着力が弱い場所に集まって気泡11となり、絶縁回路基板2からシリコーンゲルを剥離させながら矢印の方向へ更に成長していく。このため、シリコーンゲルに気泡11が発生したパワー半導体モジュール10では、絶縁耐圧が低下する。
【0009】
しかしながら、前記の特許文献1及び2には、シリコーンゲルが吸湿した時の気泡発生の問題については考慮されていない。また、特許文献3には高温高湿試験に耐えることが明らかにされているが、シリコーンゲルの改良ではなく、熱可塑性樹脂で被覆する方法に依るため、工程数を増やし、生産性が低下するという別の問題がある。
【0010】
よって、本発明の目的は、絶縁回路基板との接着性を高め、且つ吸湿しても気泡の発生を防止でき、耐熱性に優れ、亀裂などの問題もない封止材用シリコーン樹脂組成物及び該組成物を用いたパワー半導体モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の第1態様の封止材用シリコーン樹脂組成物は、パワー半導体モジュールの封止材として用いるシリコーン樹脂組成物であって、硬化後に、針入度が35〜70となり、且つ表面にCu層を配置した絶縁回路基板との接着強度が50kPa〜180kPaとなることを特徴とする。
【0012】
本発明の第1態様の封止材用シリコーン樹脂組成物において、該シリコーン樹脂組成物は、下記(A)の主剤100質量部に対し、下記(B)の架橋剤5質量部〜20質量部と、下記(C)の接着改良剤0.2質量部〜3質量部と、を含有することが好ましい。
【0013】
(A)(CH
2=CH)SiO
1.5単位、RSiO
1.5単位、R(CH
2=CH)SiO単位、R
2SiO単位、R
3SiO
0.5単位、R
2(CH
2=CH)SiO
0.5単位、及びRH(CH
2=CH)SiO
0.5単位(ここで、RはSiに結合する炭化水素基である)からなる群から選択された構造単位で構成され、且つ分子中にSi原子に結合したビニル基を平均で1.5個以上含有する有機ポリシロキサン。
【0014】
(B)HSiO
1.5単位、RSiO
1.5単位、RHSiO単位、R
2SiO単位、RH
2SiO
0.5単位、R
2HSiO
0.5単位及びR
3SiO
0.5単位(ここで、RはSiに結合する炭化水素基)からなる群から選択された構造単位で構成され、且つ分子中にSi原子に結合したH基を平均で1.5個以上含有する有機ポリシロキサン。
【0015】
(C) H
3SiO
0.5単位を必須単位として有し、HSiO
1.5単位、RSiO
1.5単位、RHSiO単位、R
2SiO単位、RH
2SiO
0.5単位、R
2HSiO
0.5単位、R
3SiO
0.5単位(ここで、RはSiに結合する炭化水素基である)からなる群から選択された構造単位で構成され、且つ分子中にH
3SiO
0.5単位を平均で0.1個以上含有する有機ポリシロキサン。
【0016】
本発明の第1態様のシリコーン樹脂組成物において、前記(A)、前記(B)、前記(C)のSiに結合する炭化水素基Rは、全てメチル基、又はメチル基とフェニル基が混在していてもよいが、全てフェニル基ではない、ことが好ましい。
【0017】
本発明の第2態様のパワー半導体モジュールは、上記のシリコーン樹脂組成物を硬化させて封止することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施態様によれば、シリコーンゲルを硬くして気泡の成長を抑制し、シリコーンゲルと絶縁回路基板との接着性を向上させて、界面剥離による気泡成長に抗することができる。その結果、パワー半導体モジュールの絶縁耐圧を向上するという作用効果がもたらされる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、発明の実施形態を通じ、本発明の封止材用シリコーン樹脂組成物について、具体的に説明する。以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。
【0021】
本発明の封止材用シリコーン樹脂組成物は、硬化後に、針入度が35〜70となり、且つ表面にCu層を配置した絶縁回路基板との接着強度が50kPa〜180kPaとなることを特徴とする。このようなシリコーン樹脂組成物としては、主剤(A)と、架橋剤(B)と、接着改良剤(C)とを含有し、他に触媒と有機溶媒とを含むものが好ましく採用される。
【0022】
主剤(A)は、(CH
2=CH)SiO
1.5単位、RSiO
1.5単位、R(CH
2=CH)SiO単位、R
2SiO単位、R
3SiO
0.5単位、R
2(CH
2=CH)SiO
0.5単位、及びRH(CH
2=CH)SiO
0.5単位(ここで、RはSiに結合する炭化水素基である)からなる群から選択された構造単位で構成される有機ポリシロキサンであって、且つ分子中にSi原子に結合したビニル基を平均で1.5個以上、好ましくは2〜5個含有する。ポリシロキサンの分子構造は直鎖状でも、分岐状、環状のいずれであってもよいが、付加重合を円滑に進めるためには、直鎖状であることがより好ましい。なお、Siに結合する炭化水素基Rは、特に限定されず、メチル基、エチル基等の脂肪族飽和炭化水素基、フェニル基等の芳香族炭化水素基などが挙げられ、メチル基とフェニル基が特に好ましいが、全てのRをフェニル基にすると有機ポリシロキサンを硬化させたシリコーンゲルが絶縁耐圧が低下となるために好ましくない。
【0023】
架橋剤(B)は、HSiO
1.5単位、RSiO
1.5単位、RHSiO単位、R
2SiO単位、RH
2SiO
0.5単位、R
2HSiO
0.5単位及びR
3SiO
0.5単位(ここで、RはSiに結合する炭化水素基)からなる群から選択された構造単位で構成される有機ポリシロキサンであって、且つ分子中にSi原子に結合したH基を平均で1.5個以上、好ましくは2〜5個含有し、分子構造は直鎖状でも、分岐状、環状のいずれであってもよいが、付加重合を円滑に進めるためには、直鎖状であることがより好ましい。なお、Siに結合する炭化水素基Rは、特に限定されず、メチル基、エチル基等の脂肪族飽和炭化水素基、フェニル基等の芳香族炭化水素基などが挙げられ、メチル基とフェニル基が特に好ましいが、全てのRをフェニル基にすると有機ポリシロキサンを硬化させたシリコーンゲルの絶縁耐圧が低下するため、好ましくない。
【0024】
接着改良剤(C)は、H
3SiO
0.5単位を必須単位として有し(すなわち、Si原子に結合したSiH
3O基を有し)、HSiO
1.5単位、RSiO
1.5単位、RHSiO単位、R
2SiO単位、RH
2SiO
0.5単位、R
2HSiO
0.5単位、R
3SiO
0.5単位(ここで、RはSiに結合する炭化水素基である)からなる群から選択された構造単位で構成される有機ポリシロキサンであって、且つ分子中にH
3SiO
0.5単位を平均で0.1個以上含有し、分子構造は直鎖状でも、分岐状、環状のいずれであってもよいが、付加重合を円滑に進めるためには、直鎖状であることがより好ましい。なお、Siに結合する炭化水素基Rは、特に限定されず、メチル基、エチル基等の脂肪族飽和炭化水素基、フェニル基等の芳香族炭化水素基などが挙げられ、メチル基とフェニル基が特に好ましいが、全てのRをフェニル基にすると有機ポリシロキサンを硬化させたシリコーンゲルの絶縁耐圧が低下するため、好ましくない。
【0025】
本発明に用いられる触媒としては、特に限定されず、従来公知の有機溶媒に可溶な白金化合物(例えば、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸−ビニルシロキサン錯体等)又はロジウム化合物等を挙げることができる。
【0026】
本発明に用いられる有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール等の脂肪族アルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族もしくは脂環式炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、フッ化塩化炭化水素等のハロゲン化炭化水素等を挙げることができる。
【0027】
上記を混練して得られるシリコーン樹脂組成物は、主剤(A)のビニル基と、架橋剤(B)及び接着改良剤(C)のSiに結合したH基とが、触媒作用により、ヒドロシリル化反応によって付加重合する、一液性の付加重合型シリコーン樹脂組成物であって、500〜1000mPa・sとなる低粘度の液体であることが好ましい。低粘性にすることによって、半導体モジュールを格納したケースの狭い隙間にも容易に充填することができる。
【0028】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、シリコーン樹脂組成物を充填した後、減圧状態にして脱気してから加熱硬化させ、シリコーンゲルにすることが好ましい。脱気が不十分であると気泡を抱き込んだまま硬化するので好ましくない。加熱硬化の際の気泡は、充填する時に噛み込まれた空気であって、脱泡が十分であれば防ぐことができる性質のものであり、後述する高温高湿放置後の気泡とは全く異なる原因によるものである。
【0029】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、高温高湿放置によって発生する気泡を防止するために、特定の硬さ、及び特定の接着性を有することを特徴とする。
【0030】
主剤(A)に対する架橋剤(B)の配合比を高めると、架橋密度が増し、シリコーンゲルが硬くなる。シリコーンゲルの硬さが増すと、吸湿された水分が気泡となって膨張しようとしても、シリコーンゲルの分子間隔を押し広げて膨張することは困難となり、気泡発生を抑制することができる。
【0031】
シリコーンゲルの硬さは、JIS K2220に準拠して測定した針入度によって数値化できる。本発明においては、針入度を指標として、気泡成長に対する抵抗力を特定するものである。
【0032】
本発明の封止材用シリコーン樹脂組成物は、硬化後の針入度が、35〜70、より好ましくは35〜50となるように調製されている。
【0033】
上記の針入度は、例えば、主剤(A)100質量部に対し、架橋剤(B)の5質量部〜20質量部を配合することによって達成できる。
【0034】
架橋剤(B)の配合量が5質量部よりも少ないと、針入度は70よりも高くなりやすく、気泡が発生しやすくなる。逆に、架橋剤(B)の配合量が20質量部よりも多いと、針入度は35よりも低くなりやすく、シリコーンゲルに亀裂が生じやすくなる。
【0035】
一方、主剤(A)に対する接着改良剤(C)の配合比を高めると、Si原子に結合したSiH
3O基の数が増え、金属やセラミックスと結合して、接着性を向上させる。接着性が向上すると、気泡成長によるシリコーンゲルの剥離を抑制することができる。
【0036】
接着強度を測定する方法としては、例えばJIS K6850等が知られているが、本発明では、後述する、シリコーンゲルからの絶縁回路基板の引き抜き試験によって、接着力を測定した。この測定方法によれば、絶縁回路基板の表面状態や、幾何学的な因子が反映されるため、最も信頼できるデータが得られる。本発明における接着強度とは、上記引き抜き試験によって測定した接着力を意味している。
【0037】
本発明の封止材用シリコーン樹脂組成物は、硬化後の接着強度が、50kPa〜180kPa、より好ましくは60kPa〜170kPaとなるように調製されている。
【0038】
上記の接着力は、例えば、主剤(A)100質量部に対し、接着改良剤(C)の0.2質量部〜3質量部を配合することによって達成できる。
【0039】
接着改良剤(C)が0.2質量部よりも少なく、接着強度が50kPaよりも弱い場合は、シリコーンゲルが剥離して気泡が発生しやすくなる。
【0040】
一方、接着改良剤(C)を、3質量部を越えて更に多く加えた場合は、接着強度は180kPaを越えて340kPa付近まで向上するが、耐熱性が劣化しやすくなるため、接着強度の上限は180kPaとする。なお、耐熱性とは、高温放置による絶縁耐圧の低下のことである。
【0041】
以上のように、本発明の封止材用シリコーン樹脂組成物は、硬化させてシリコーンゲルとした時に針入度が35〜70となり、且つ接着強度が50kPa〜180kPaとなることを特徴とするシリコーン樹脂組成物であり、吸湿による気泡発生を防止できるパワー半導体モジュール用封止材として使用される。
このようなシリコーン樹脂組成物は、主剤(A)100質量部に対して、架橋剤(B)を5質量部〜20質量部、且つ接着改良剤(C)を0.2質量部〜3質量部加えることによって調製することができる。
【0042】
これによって、本発明のシリコーン樹脂組成物を充填して硬化したシリコーンゲルには、気泡も亀裂もなく、絶縁耐圧も向上するという、優れた作用効果がもたらされる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により、本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。以下の実施例において、主剤(A)としてはフェニルメチル構造のシロキサンを用い、架橋剤(B)としてはポリアルキル水素シロキサンを用い、接着改良剤(C)としてはアルコキシシリル基を有するシロキサンを用いた。
【0044】
[シリコーン樹脂組成物の調製]
主剤(A)の100質量部に対し、架橋剤(B)を1質量部、5質量部、10質量部、20質量部、22質量部、25質量部、30質量部の7段階に変化させ、架橋剤(B)を0質量部、0.2質量部、0.5質量部、1質量部、3質量部、5質量部の6段階に変化させて混練し、41種類のシリコーン樹脂組成物を調製した。
【0045】
[針入度測定]
針入度は、JIS K2220に準拠し、1/4コーンを使用して、荷重9.38gを加え、針の貫入度を測定した。
【0046】
[接着力測定]
図4(a)を参照し、試験サンプルについて説明する。接着力の測定に用いる絶縁回路基板2として、アルミナ製の絶縁基板2aの両面にCu膜を接合したものを使用した。絶縁基板2aの外形は、幅35.2mm×長さ52.5mm×厚さ0.7mmで、外周に沿って幅1mmを残して、その内側はすべてCu膜2b、2c(各厚さ0.05mm)に覆われている。
【0047】
図4(b)を参照し、試験方法について説明する。ビーカー12にシリコーン樹脂組成物を注入し、絶縁回路基板2の40%が浸漬されるように吊し、80℃で60分間加熱して硬化させシリコーンゲル8とする。室温まで冷却した後、絶縁回路基板2の一端を掴み、図示しない引張試験機によって引張速度100mm/minで引き抜く。本発明においては、引き抜く時の最大荷重をサンプル両面の濡れ面積で割った値を接着強度とした。
【0048】
[パワー半導体モジュール組立]
パワー半導体モジュール用パッケージは、富士電機製M249(外形62mm×108mm)を使用した。絶縁回路基板としては、M249に適合するアルミナ基板にCu膜を接合したDCB基板を用い、パワー半導体素子としてIGBT1個とFWD素子2個を搭載して、パッケージに組み込んだ。このようにして組み立てたパッケージを150℃で、60分間加熱して十分乾燥させた後、常温まで冷却し、上述の配合量を変えたシリコーン樹脂組成物を注入し、80℃で60分間加熱して硬化させた。
【0049】
[高温加湿試験]
上記の手順で組み立てた半導体モジュールを高温加湿槽に入れ、85℃、85%RHの下で24時間放置した後、高温加湿槽から取り出して室温まで冷却し、次いで120℃の熱板上に60分間放置したものを目視で観察して、気泡発生の有無を評価する試験である。
【0050】
[耐熱性試験]
上記の手順で組み立てた半導体モジュールを恒温槽に入れ、215℃で2000時間放置した後、恒温槽から取り出して室温まで冷却し、エミッター端子とコレクタ端子との間に4.1kVの電圧を10秒間印加し、絶縁破壊の有無を判定した。
【0051】
[信頼性試験]
上記の手順で組み立てた半導体モジュールを温度サイクル試験機に入れ、−40℃での70分間保持と、125℃での70分間保持を交互に300サイクル繰り返す温度サイクル試験を実施し、温度サイクル試験機から取り出して目視で観察し、シリコーンゲルの亀裂を評価する試験である。
【0052】
[試験結果]
表1には、実施例1〜10、比較例1〜31の試験結果が示されている。表1中の不良モードの欄の○印は、試験においてその不良モードが観測されたことを示す。
【0053】
図2には、架橋剤の配合量と針入度の関係が示されている。架橋剤を多く配合するほどシリコーンゲルが硬くなり、針入度が低下する。針入度は、主として架橋剤の配合量で調節できることが分かる。架橋剤を20質量部よりも多く配合すると、針入度が35よりも低くなり、シリコーンゲルに亀裂が生じやすくなる。
【0054】
図3には、接着改良剤の配合量と接着強度の関係が示されている。接着改良剤を多く配合するほど、接着強度が高くなる。接着強度は、架橋剤の配合量を増やすことによっても高くなるが、接着改良剤の配合量を増やす方がより効果的であり、接着改良剤の配合量を高めることにより、接着強度を高めることができる。しかし、接着改良剤を3質量部よりも多く配合すると、シリコーンゲルの耐熱性が低下しやすくなり、シリコーンゲルが熱分解して絶縁耐圧が低下しやすくなる。
【0055】
気泡発生はシリコーンゲルの硬さにも接着強度にも関係する。
図1には、接着強度を縦軸、針入度を横軸とする図面を作成し、パワー半導体モジュールの封止材として好適な本発明の実施例の範囲と、同用途として適さない比較例の範囲を示した。
【0056】
本発明で規定する、針入度が35〜70、且つ接着強度が50kPa〜180kPaの範囲である実施例では、シリコーンゲルに亀裂が入ることもなければ、耐熱性が低下することもなく、そして吸湿しても気泡が発生しないという好ましい特性が付与される。
【0057】
上記範囲に入らない比較例では、亀裂発生、耐熱性低下、気泡発生のいずれかにより、パワー半導体モジュールへの適用は適切ではない。
【0058】
【表1】