(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下、運転支援制御装置を車両の電動パワーステアリング装置に適用した一実施形態について説明する。
【0016】
図1に示すように、EPS1は、操舵機構(図示しない)にアシスト力を付与するモータ10、および車両に搭載される各種のセンサの検出結果に基づいてモータ10を制御する制御装置(ECU)20を有している。各種のセンサとしては、操舵機構に加えられる操舵トルクThを検出するトルクセンサ11と、車速Vを検出する車速センサ12と、車両に作用する横加速度LAを検出する横加速度センサ13と、モータ10の回転角θmを検出する回転角センサ14と、モータ10へ供給される実電流値Iを検出する電流センサ15が用いられる。ECU20は、各種のセンサを通じて検出される車両の状態量(Th,V,LA,θm)に基づいて、操舵機構に付与すべき目標アシスト力を決定し、当該目標アシスト力を発生させるための駆動電力をモータ10に供給する。
【0017】
ECU20は、モータ制御信号を生成するマイクロコンピュータ(マイコン)30と、そのモータ制御信号に基づいてモータ10に駆動電力を供給する駆動回路40とを備えている。
【0018】
図2に示すように、マイコン30は、アシスト指令値演算部31と、電流指令値演算部32と、モータ制御信号生成部33とを有している。
アシスト指令値演算部31は、トルクセンサ11、車速センサ12、および横加速度センサ13を通じて取得される操舵トルクTh、車速V、および横加速度LAに基づき、アシスト指令値Ta*を演算する。
【0019】
電流指令値演算部32は、アシスト指令値Ta*に基づいて電流指令値I*を演算する。
モータ制御信号生成部33は、電流指令値I*、実電流値I、およびモータ10の回転角θmを取り込む。モータ制御信号生成部33は、モータ10の回転角θmを用いて実電流値Iの相を変換し、電流指令値I*と実電流値Iの偏差に応じてフィードバック制御を行うことにより、モータ制御信号を生成する。
【0020】
つぎに、アシスト指令値演算部31の構成を詳しく説明する。アシスト指令値演算部31は、基本アシスト成分演算部50、目標ピニオン角度演算部51、角度分配比演算部52、LKA角度指令値演算部53、LA判定部54、LKA角度指令値補正部55、加算器56、ピニオン角度演算部57、角度フィードバック制御部58、および加算器59を有している。
【0021】
基本アシスト成分演算部50は、操舵トルクThおよび車速Vに基づいてアシスト指令値Ta*の基本成分である基本アシスト成分Ta1*を演算する。基本アシスト成分演算部50は、操舵トルクThの絶対値が大きくなるほど、また車速Vが小さくなるほど、基本アシスト成分Ta1*の絶対値をより大きい値に設定する。
【0022】
目標ピニオン角度演算部51は、基本アシスト成分演算部50により演算される基本アシスト成分Ta1*およびトルクセンサ11により検出される操舵トルクThを用いて、運転者の操舵に応じたピニオン角度指令値θpを理想モデルに基づいて演算する。ピニオン角度指令値θpは、操舵に応じて転舵輪を転舵させるラックアンドピニオン機構におけるピニオンシャフト(図示しない)の回転角であるピニオン角θの目標値である。ピニオン角θは、モータ10の回転角θm等から求められる。理想モデルは、基本アシスト成分Ta1*および操舵トルクThに対応して、車両が取るべき理想的なピニオン角度指令値θpを予め実験などによりモデル化したものである。
【0023】
LKA角度指令値演算部53は、運転支援制御の一例として、レーンキーピングアシスト(LKA)制御を行う。LKA角度指令値演算部53は、操舵トルクThおよび車速Vに基づいてLKA角度指令値θLKを演算する。LKA制御では、たとえばカメラ等の外部検出手段53aで認識した道路の白線に沿って車両が走行するように、モータ10を制御する。
【0024】
角度分配比演算部52は、目標ピニオン角度演算部51で演算されるピニオン角度指令値θpおよびLKA角度指令値演算部53で演算されるLKA角度指令値θLKに基づいて、次式(1)を用いて角度分配比Daを演算する。
【0025】
角度分配比Da=|LKA角度指令値θLK|/(|LKA角度指令値θLK|+|ピニオン角度指令値θp|) …(1)
角度分配比Daは、LKA角度指令値θLKおよびピニオン角度指令値θpの総和のうち、LKA角度指令値θLKの占める割合を示す。ここで、式(1)の右辺において、分母および分子に絶対値が用いられるのは、角度分配比Daが過大に大きく見積もられることを抑制するためである。すなわち、LKA角度指令値θLKとピニオン角度指令値θpの符号が逆である場合、式(1)の分母において、LKA角度指令値θLKとピニオン角度指令値θpが打ち消しあってしまうため、式(1)の分母の絶対値は小さくなる。式(1)の分母が0に近づくと、角度分配比Daは本来の値に比べて過大に大きくなってしまう。このため、LKA角度指令値θLKおよびピニオン角度指令値θpを絶対値にする処理を行った後に角度分配比Daを求めることにより、角度分配比Daをより正確に演算することが可能となる。
【0026】
LA判定部54は、入力された角度分配比Da、横加速度LA、および横加速度閾値(LA閾値)Tに基づいてLA判定フラグを生成する。すなわち、LA判定部54は、次式(2)に基づき演算されるLKA角度指令値θLK分の横加速度LA’とメモリ(図示しない)などに格納されたLA閾値T1を比較することにより、LA判定フラグを生成する。なお、横加速度LA’は、横加速度LAにおけるLKA制御によって生じた横加速度である。LA閾値T1は、マッピングや経験則から設定される値であって、たとえば、運転者が不快と感じない横加速度LAの限界値に設定される。
【0027】
横加速度LA’=横加速度LA×角度分配比Da …(2)
ところで、横加速度LAが大きくなると、運転者の不快感などが増すおそれがあるために、横加速度LAを減らすことが好ましい。しかし、単純に横加速度LAを減らしてしまうと、LKA制御によって生じた横加速度LA’だけでなく、運転者が操舵したことによって生じた横加速度まで減らしてしまう。すなわち、運転者が操舵したことによって生じるピニオン角度指令値θpを減衰させることにより横加速度を減衰させるので、運転者の要求するアシスト力が得られないおそれがある。このため、単純に横加速度LAを減衰させるのではなく、運転者が操舵したことによって生じる横加速度は減衰させず、LKA制御によって生じる横加速度LA’を減衰したい。すなわち、運転者が操舵したことによって生じるピニオン角度指令値θpを減衰させることなしに、LKA制御によって生じるLKA角度指令値θLKを減衰する。
【0028】
このため、本実施形態では、式(2)により演算した横加速度LA’とLA閾値T1を比較することにより、LKA角度指令値θLKを補正する。すなわち、LA判定部54は、LA閾値T1よりも横加速度LA’が大きい場合には、横加速度LA’を減衰させる旨のLA判定フラグを生成する。これに対し、LA判定部54は、LA閾値T1よりも横加速度LA’が小さい場合には、横加速度LA’を減衰させない旨のLA判定フラグを生成する。
【0029】
また、アシスト指令値演算部31は、加加速度Jによっても、LKA角度指令値θLKを減衰させる。加加速度Jは、車両の横加速度LAの微分値であり、横加速度LAの時間あたりの変化量である。アシスト指令値演算部31は、角速度分配比演算部52a、Jerk判定部54a、微分器60,61,62も有している。微分器60は、ピニオン角度指令値θpを微分することにより、ピニオン角速度指令値ωpを演算する。微分器61は、LKA角度指令値θLKを微分することにより、LKA角速度指令値ωLKを演算する。微分器62は、車両の横加速度LAを微分することにより、加加速度Jを演算する。なお、LKA角度指令値演算部53および微分器61から第1の演算部が構成される。また、目標ピニオン角度演算部51および微分器60から第2の演算部が構成される。
【0030】
角速度分配比演算部52aは、ピニオン角速度指令値ωpおよびLKA角速度指令値ωLKを取り込み、これら取り込まれるピニオン角速度指令値ωpおよびLKA角速度指令値ωLKに基づいて、次式(3)を用いて角速度分配比Dvを演算する。
【0031】
角速度分配比Dv=|LKA角速度指令値ωLK|/(|LKA角速度指令値ωLK|+|ピニオン角速度指令値ωp|) …(3)
角速度分配比Dvは、LKA角速度指令値ωLKおよびピニオン角速度指令値ωpの総和のうち、LKA角速度指令値ωLKの占める割合を示す。ここで、式(3)の右辺において、分母および分子に絶対値が用いられるのは、角速度分配比Dvが過大に大きく見積もられることを抑制するためである。
【0032】
Jerk判定部54aは、角速度分配比Dv、加加速度J、およびJerk閾値T2に基づいてJerk判定フラグを生成する。すなわち、Jerk判定部54aは、加加速度J’とメモリ(図示しない)に格納されたJerk閾値T2を比較することにより、Jerk判定フラグを生成する。なお、加加速度J’は、次式(4)に基づき演算されるLKA角速度指令値ωLK分の加加速度Jである。Jerk閾値T2は、マッピングや経験則から設定される値であって、たとえば、運転者が不快と感じない加加速度Jの限界値に設定される。
【0033】
加加速度J’=加加速度J×角速度分配比Dv …(4)
LKA角度指令値補正部55は、LA判定フラグおよびJerk判定フラグに応じて、LKA角度指令値θLKを補正する。すなわち、LKA角度指令値補正部55は、LKA角度指令値θLKを漸減させるローパスフィルタ(LPF)55aを備えている。LA判定フラグおよびJerk判定フラグの少なくとも一方が、横加速度LA’を減衰させる旨を示すものである場合、LKA角度指令値補正部55は、LPF55aによってLKA角度指令値θLKを漸減させることにより、フィルタ後LKA角度指令値θLK’を生成する。これに対して、LA判定フラグおよびJerk判定フラグが横加速度LA’を減衰させない旨を示すものである場合、LKA角度指令値補正部55は、LKA角度指令値θLKを補正しない。換言すれば、LPF55aによりLKA角度指令値θLKは減衰されない。
【0034】
加算器56は、目標ピニオン角度演算部51で演算されるピニオン角度指令値θpおよびLKA角度指令値補正部55で演算されるフィルタ後LKA角度指令値θLK’またはLKA角度指令値θLKの総和を演算して、角度指令値θ*を演算する。
【0035】
ピニオン角度演算部57は、モータ10の回転角θmに基づいてピニオン角θを演算する。
角度フィードバック制御部58は、ピニオン角θを角度指令値θ*に一致させるべく、これらの偏差に基づくフィードバック制御を行い、補正アシスト成分Ta2*を演算する。
【0036】
加算器59は、基本アシスト成分Ta1*に補正アシスト成分Ta2*を加算することで、アシスト指令値Ta*を演算する。
ところで、
図3(a)に示すように、加加速度Jを考慮しないで横加速度LAのみを考慮する場合、LKA制御によって生じるLKA角度指令値θLKを減衰するタイミングが遅れてしまう。たとえば、矢印Aで示すように、車両が直進している状態からたとえば右方向に旋回し始めようとしている場合には、横加速度LAは小さいため、LKA角度指令値θLKは減衰されない。そして、矢印Bに示すように、車両が右方向に旋回することにより、横加速度LAが大きくなってから、LKA角度指令値θLKが減衰される。すなわち、横加速度LAの変化量である加加速度Jが大きい場合であっても、横加速度LAが小さい場合にはLKA角度指令値θLKは減衰されない。このため、LKA角度指令値θLKは、横加速度LAがLA閾値T1を超えてから急激に減衰されることとなり、このLKA角度指令値θLKの急激な減衰によって、急激な横加速度LAの変化が生じるおそれがある。なお、左へ旋回する場合も同様である。
【0037】
この点、
図3(b)に示すように、本実施形態では、横加速度LAに加えて加加速度Jを考慮してLKA角度指令値θLKを減衰しているため、横加速度LAが大きくなる前のより早いタイミングでLKA角度指令値θLKを減衰できる。たとえば、矢印Cに示すように、車両が直進している状態からたとえば右方向に旋回しようとしている場合には、横加速度LAは小さいが加加速度Jは大きくなるときがある。このとき、横加速度LAが大きくなる前にLKA角度指令値θLKを減衰できるので、運転者が不快に感じるような急激な横加速度LAの変化を抑制できる。
【0038】
つぎに、LKA角度指令値補正部55について詳しく説明する。
図4に示すように、LKA角度指令値補正部55は、LA判定フラグおよびJerk判定フラグが共にLKA角度指令値θLKを減衰させる旨示すものであるとき、たとえば、LPF55aのフィルタ係数を最も大きく設定することにより、LKA角度指令値補正部55はLKA角度指令値θLKを最も大きく漸減させる(第1の漸減パターン)。LA判定フラグがLKA角度指令値θLKを減衰させる旨示すものであるのに対し、Jerk判定フラグがLKA角度指令値θLKを減衰させない旨示すものであるとき、LKA角度指令値補正部55はLKA角度指令値θLKを第1の漸減パターンに次いで大きく漸減させる(第2の漸減パターン)。LA判定フラグがLKA角度指令値θLKを減衰させない旨示すものであるのに対し、Jerk判定フラグがLKA角度指令値θLKを減衰させる旨示すものであるとき、LKA角度指令値補正部55はLKA角度指令値θLKを第2の漸減パターンに次いで大きく漸減させる(第3の漸減パターン)。すなわち、LKA角度指令値補正部55は、第1〜3の漸減パターンの順に、LKA角度指令値θLKを大きく漸減させる。なお、LA判定フラグもJerk判定フラグもLKA角度指令値θLKを減衰させない旨示すものであるとき、LKA角度指令値補正部55は、LKA角度指令値θLKを漸減させない。
【0039】
つぎに、アシスト指令値演算部31で行われるLKA角度指令値θLKの補正処理の手順を説明する。
図5のフローチャートに示すように、まず、LKA角度指令値θLK分の横加速度LA’およびLKA角度指令値θLK分の加加速度J’を演算する(ステップS1)。
【0040】
つぎに、LKA角度指令値θLK分の横加速度LA’がLA閾値T1より大きいか否かを判定する(ステップS2)。
LKA角度指令値θLK分の横加速度LA’がLA閾値T1より大きい場合(ステップS2でYES)、LKA角度指令値θLK分の加加速度J’がJerk閾値T2より大きいか否かを判定する(ステップS3)。
【0041】
LKA角度指令値θLK分の加加速度J’がJerk閾値T2より大きい場合(ステップS3でYES)、第1の漸減パターンでLPF処理を行うことにより(ステップS4)、フィルタ後LKA角度指令値θLK’を生成し(ステップS5)、処理を終了する。
【0042】
LKA角度指令値θLK分の加加速度J’がJerk閾値T2より小さい場合(ステップS3でNO)、第2の漸減パターンでLPF処理を行うことにより(ステップS6)、フィルタ後LKA角度指令値θLK’を生成し(ステップS5)、処理を終了する。
【0043】
LKA角度指令値θLK分の横加速度LA’がLA閾値T1より小さい場合(ステップS2でNO)にも、LKA角度指令値θLK分の加加速度J’がJerk閾値T2より大きいか否かを判定する(ステップS7)。
【0044】
LKA角度指令値θLK分の加加速度J’がJerk閾値T2より大きい場合(ステップS7でYES)、第3の漸減パターンでLPF処理を行うことにより(ステップS8)、フィルタ後LKA角度指令値θLK’を生成し(ステップS5)、処理を終了する。
【0045】
LKA角度指令値θLK分の加加速度J’がJerk閾値T2より小さい場合(ステップS7でNO)には、LKA角度指令値θLKの補正を行わずに、そのままのLKA角度指令値θLKを採用し(ステップS9)、処理を終了する。
【0046】
以上の処理により、横加速度LAのうち、運転者の操舵に対応するピニオン角度指令値θpは減衰させることなしに、LKA制御に対応するLKA角度指令値θLKを減衰させることができる。このため、より的確に横加速度LA’を減衰できる。
【0047】
本実施形態の効果を説明する。
(1)LKA角度指令値θLKを減衰させることにより、より的確にLKA制御によって生じる横加速度LA’を減衰させることができる。すなわち、LA判定フラグまたはJerk判定フラグがLKA角度指令値θLKを減衰させる旨示すものであるとき、各漸減パターンのLPF55aにLKA角度指令値θLKを通過させることで、LKA角度指令値θLKを減衰させることができる。このため、運転者の操舵に対応するピニオン角度指令値θpを減衰させることなしに、LKA制御に対応するLKA角度指令値θLKを減衰させることができる。
【0048】
(2)横加速度LAに加えて加加速度Jを考慮してLKA角度指令値θLKを減衰しているため、より早いタイミングでLKA角度指令値θLKを減衰できる。たとえば、横加速度LAのみを考慮してLKA角度指令値θLKを減衰する場合に急激な横加速度LAの変化(加加速度Jが大)が生じたとき、横加速度LAが小さいとLA判定フラグがLKA角度指令値θLKを減衰させない旨示すものとなるため、急激な横加速度LAの変化によって運転者に不快感を与えてしまう。この点、横加速度LAに加えて加加速度Jを考慮してLKA角度指令値θLKを減衰する場合には、横加速度LAが小さいときであっても、急激な横加速度LAの変化が生じたときにはJerk判定フラグがLKA角度指令値θLKを減衰させる旨示すものとなる。このため、急激な横加速度LAの変化による運転者の不快感は抑制される。
【0049】
(3)ピニオン角度指令値θpの微分値であるピニオン角速度指令値ωpとLKA角度指令値θLKの微分値であるLKA角速度指令値ωLKから演算される角速度分配比Dvを用いて、加加速度J’がJerk閾値T2よりも大きいか否かを判定するだけで、LKA角度指令値θLKを減衰させるか否かを判定できる。また、ピニオン角度指令値θpとLKA角度指令値θLKから演算される角度分配比Daを用いて、横加速度LA’がLA閾値T1よりも大きいか否かを判定するだけで、LKA角度指令値θLKを減衰させるか否かを判定できる。すなわち、加加速度J’がJerk閾値T2よりも大きいか否か、および横加速度LA’がLA閾値T1よりも大きいか否かという単純な判定によって、LKA角度指令値θLKを減衰させるか否かを判定することができる。
【0050】
(4)LKA角速度指令値ωLKおよびピニオン角速度指令値ωpを絶対値にする処理をしてから角速度分配比Dvを求めることにより、より正確な角速度分配比Dvを求めることができる。また、LKA角度指令値θLKおよびピニオン角度指令値θpを絶対値にする処理をしてから角度分配比Daを求めることにより、より正確な角度分配比Daを求めることができる。たとえば、絶対値処理をしない場合には、LKA角度指令値θLKおよびピニオン角度指令値θpの符号が反対のとき、角度分配比Daの分母が小さく見積もられるために、角度分配比Daが過大に大きく見積もられる場合がある。この点、本実施形態では、LKA角度指令値θLKおよびピニオン角度指令値θpの絶対値処理をしてから角度分配比Daを求めることにより、より正確な角度分配比Daを求めることができる。
【0051】
<第2実施形態>
つぎに、運転支援制御装置を電動パワーステアリング装置に適用した第2実施形態について説明する。ここでは、第1実施形態との違いを中心に説明する。
【0052】
図6に示すように、第1実施形態とは異なり、第2実施形態では、LA判定フラグを演算する部分(角度分配比演算部52およびLA判定部54)が設けられていない。このため、LKA角度指令値θLKは、Jerk判定フラグのみに基づいて漸減される。
【0053】
図7に示すように、Jerk判定フラグがLKA角度指令値θLKを減衰させる旨示すものであるとき、LKA角度指令値θLKは漸減される。このため、急激に横加速度LAが変化している場合の横加速度LAは低減されることとなる。
【0054】
これに対し、Jerk判定フラグがLKA角度指令値θLKを減衰させない旨示すものであるとき、LKA角度指令値θLKは漸減されない。
つぎに、アシスト指令値演算部31で行われるLKA角度指令値θLKの補正処理の手順を説明する。
【0055】
図8のフローチャートに示すように、まず、LKA角度指令値θLK分の加加速度J’を演算する(ステップS10)。
つぎに、LKA角度指令値θLK分の加加速度J’がJerk閾値T2より大きいか否かを判定する(ステップS11)。
【0056】
LKA角度指令値θLK分の加加速度J’がJerk閾値T2より大きい場合(ステップS11でYES)、既定の漸減パターンでLPF処理を行うことにより(ステップS12)、フィルタ後LKA角度指令値θLK’を生成し(ステップS13)、処理を終了する。
【0057】
LKA角度指令値θLK分の加加速度J’がJerk閾値T2より小さい場合(ステップS11でNO)、LKA角度指令値θLKの補正を行わずに、そのままのLKA角度指令値θLKを採用し(ステップS14)、処理を終了する。
【0058】
以上の処理により、加加速度Jのうち、運転者の操舵に対応するピニオン角度指令値θpは減衰させることなしに、LKA制御に対応するLKA角度指令値θLKを減衰させることができる。
【0059】
本実施形態の効果を説明する。
(1)加加速度Jを考慮してLKA角度指令値θLKを減衰する。加加速度JがJerk閾値T2より大きければ、LKA角度指令値θLKを減衰できる。横加速度LAが小さくても加加速度Jが大きい場合には、横加速度LAが大きい場合と同様に運転者に不快感を与えてしまう。この点、加加速度Jを考慮することによって、LKA角度指令値θLKを減衰できるので、運転者に不快感を与えることを抑制できる。
【0060】
なお、本実施形態は次のように変更してもよい。
・各実施形態では、LKA角度指令値補正部55はLA判定フラグおよびJerk判定フラグにより、LKA角度指令値θLKをLPF55aに通過させるか否かを決定したが、これに限らない。たとえば、減衰させない旨のLA判定フラグが入力された場合には、LKA角度指令値補正部55への給電を停止し、LKA角度指令値演算部53がLKA角度指令値θLKを加算器56へ出力するようにしてもよい。また、減衰させない旨のJerk判定フラグが入力された場合にも同様に、LKA角度指令値補正部55への給電を停止し、LKA角度指令値演算部53がLKA角度指令値θLKを加算器56へ出力するようにしてもよい。そして、加算器56でピニオン角度指令値θpとLKA角度指令値θLKを足し合わせることにより演算された角度指令値θ*を用いて、角度フィードバック制御部58は、ピニオン角θを角度指令値θ*に一致させるべく、フィードバック制御を行う。
【0061】
・第1実施形態において、角度分配比Daの求め方は式(1)に限らない。たとえば、実験による経験則などから、LKA角度指令値θLKおよびピニオン角度指令値θpの重み付けを行ってもよい。同様に、角速度分配比Dvの求め方も式(3)に限らない。また、第2実施形態において、角速度分配比Dvの求め方は式(3)に限らない。
【0062】
・各実施形態では、LKA角度指令値θLKおよびピニオン角度指令値θpを絶対値にする処理をしてから角度分配比Daおよび角速度分配比Dvを求めたが、絶対値処理は行われなくてよい。この場合、たとえばLKA角度指令値θLKおよびピニオン角度指令値θpの符号が反対のとき、角度分配比Daは過大に大きく見積もられるが、LKA角度指令値θLKおよびピニオン角度指令値θpの符号が同じ場合には、正確な角度分配比Daを求めることができる。
【0063】
・第1実施形態では、LA閾値T1は一定の値であったが、車速Vに応じて変化するようにしてもよい。すなわち、車速Vによって運転者が不快に感じる横加速度LAは変化するからある。同様に、Jerk閾値T2は一定の値であったが、車速Vに応じて変化するようにしてもよい。また、LA閾値T1およびJerk閾値T2を設けずに、横加速度LAおよび加加速度Jに応じて、LKA角度指令値θLKを漸減させる演算処理を行うようにしてもよい。同様に、第2実施形態では、Jerk閾値T2は一定の値であったが、車速Vに応じて変化するようにしてもよい。
【0064】
・第1実施形態では、LA判定フラグおよびJerk判定フラグに基づいて、第1〜第3の異なる漸減パターンでLKA角度指令値θLKを漸減するLPF55aが設けられたが、同一の漸減パターンでLKA角度指令値θLKを漸減するLPF55aが設けられてもよい。この場合、LKA角度指令値補正部55は、LA判定フラグまたはJerk判定フラグのいずれか一方がLKA角度指令値θLKを減衰させる旨示すものであるとき、それぞれ同一の漸減パターンでLPF処理を行う。また、LA判定フラグおよびJerk判定フラグを更に細かく規定して、これらの判定フラグに基づいてLPF55aの漸減パターンをマッピングしてもよい。
【0065】
・第1実施形態では、LA判定フラグおよびJerk判定フラグに基づいて、LKA角度指令値θLKが漸減されたが、これに限らない。
・各実施形態では、ピニオン角θが用いられたが、これに限らない。たとえば、操舵角であってもよい。
【0066】
・各実施形態では、運転支援制御の一例として、レーンキーピングアシスト制御が用いられたが、これに限らない。たとえば、駐車支援や車線変更支援などの先進運転支援システム(ADAS)を用いてもよい。
【0067】
・各実施形態では、LKA角度指令値演算部53は、EPS1の制御を行うECU20に設けられたが、たとえば車体のECUに設けられてもよい。
・各実施形態では、電動パワーステアリング装置と運転支援制御装置を組み合わせたが、これに限らない。たとえば、ステアバイワイヤと運転支援制御装置を組み合わせてもよい。
【0068】
・各実施形態の運転支援制御装置はどのような電動パワーステアリング装置に具体化してもよい。たとえば、コラム型の電動パワーステアリング装置であってもよいし、ラックパラレル型の電動パワーステアリング装置であってもよい。