(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ベースライン負荷調整方式の選択時に、選択の指標となるデータを前記ベースライン負荷調整方式とともに前記需要家の表示部に提示させる調整方式提示部を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のベースライン負荷推定装置。
前記ベースライン負荷調整方式は、前記ベースライン負荷の計算対象日のうち、前記ベースライン負荷の推定日に最も近い日の実績データを用いて、前記推定されたベースライン負荷を調整する方式であることを特徴とする請求項1又は2に記載のベースライン負荷推定装置。
前記ベースライン負荷調整方式は、前記ベースライン負荷の計算対象日のうち、前記ベースライン負荷の推定日の気象に類似した気象類似日の実績データを用いて、前記推定されたベースライン負荷を調整する方式であることを特徴とする請求項1又は2に記載のベースライン負荷推定装置。
前記ベースライン負荷の推定方式の選択時に、選択の指標となるデータを前記推定方式とともに前記需要家の表示部に提示させる推定方式提示部を更に備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のベースライン負荷推定装置。
【背景技術】
【0002】
デマンドレスポンス(DR)とは、米国エネルギー省(DOE)の定義によると、「時間ごとに変化する電力価格単価や卸電力価格が高い場合、また電力系統が信頼度面で危機にある場合に、電力の節約を促すように設計されたインセンティブの支払いに応じて、最終需要家自らが通常の電力消費パターンから電力消費を変化させること」である。
【0003】
EMS(エネルギーマネジメントシステム)と呼ばれる需給制御システムは、発電予測、需給予測などを行い、電力需給の運用計画を立てるとともに、発電機、蓄電池などを制御し需給バランスをとる。電力需給の運用計画を作成する際には、需給バランスを考慮して、需要家の需要変化を促すDRを実施する。
【0004】
DRの中でも、需要家が需要抑制を行った対価として報酬を得るインセンティブ型DRが注目されている。需要削減量に応じて需要家に払い戻しを行うので、通常のピーク料金以上の負担がなく、需要家にとって受容しやすい利点がある。
【0005】
インセンティブ型DRでは、もしDRを実施しなかったら、どれだけ電力を使用していたかという基準線(ベースライン負荷:BL)を用いて、実際にDRを実施して消費した電力、すなわち消費電力を示す負荷実績値と比較して負荷削減量を算出する。この負荷削減量を基に、需要家に支払われるインセンティブが決定される。したがって、BLを正確に推定することはインセンティブ型DRにとって重要である。BLを推定するBL推定方式の従来技術が下記の非特許文献1に開示されている。
【0006】
BLの推定には、DRを実施しなかった平日(BL計算対象日)、すなわち需要家が需要抑制を行わなかった平日の需要家の過去の負荷実績値を用いる。BL推定値の計算は、例えば以下の4つのBL推定方式のいずれかで行う。
・BL計算対象日の至近の5日の平均値を求める。
・BL計算対象日の至近の10日の平均値を求める。
・BL計算対象日の至近の10日の気温回帰で求める。
・BL計算対象日の前週同曜日の負荷とする(該当日が無い場合は過去に遡る)。
【0007】
上記の推定方式で求めたBL推定値を、過去の負荷実績値を含む実績データを用いて、以下の式(1)及び式(2)で調整する。
【0008】
【数1】
【0009】
【数2】
【0010】
D
BLad(d、e、t):調整後のBL(ベースライン負荷)推定値
c(d、e):調整係数
D
BL(d、t):調整前のBL(ベースライン負荷)推定値
d:BLを推定する日
t:BLを推定する時刻
e:負荷調整の基準となる日
s:負荷調整の基準となる時刻
D
T(e、s):需要家の負荷実績値
ここで、当日負荷調整と呼ばれる調整方式では、負荷調整の基準となる日(e)はBLを推定する日(d)である。つまり、e=dである。また、負荷調整の基準となる時刻(s)は、BLを推定する時刻(t)の1から2時間前の時刻である。
【0011】
非特許文献1では、夏季の午後(13時から17時)に行ったDRにおいて、当日負荷調整を行うとBL推定精度が向上することが報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、非特許文献1では、冬季の朝(8時から10時)に行ったDRにおいて、当日負荷調整を行うとBL推定精度が悪くなることが報告されている。つまり、冬季の朝に行うDRでは当日負荷調整により、BLの推定精度が悪くなる。これは以下の要因によると考えられている。
【0014】
DRを実施すると、DR時間帯の負荷は減少する。減少した負荷の一部は、DR時間帯以外の時間帯で消費されることが分かっている(負荷シフト)。例えば、冬季の朝にDRを実施すると、DR時間帯に消費される電力が、DR直前の時間帯に消費される。したがって、DR直前の時間帯の負荷は、DRを実施していないときに比べて増加することになる。
【0015】
従来のBL推定方式の当日負荷調整では、当日のDR時間帯の直前の負荷実績値を基準に用いる。冬季においては、DR時間帯の直前の負荷実績値は、負荷シフトにより増大するため、基準の値が増大してしまう。つまり、当日負荷調整が過剰に行われてしまい、BL推定値が大きくなってしまう。これにより、BL推定精度が悪くなってしまい、正確なDRの評価ができなくなるという問題がある。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑み、精度高くDR評価を行うことができる装置(エネルギーマネジメントシステム)などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明のベースライン負荷推定装置は、前記需要家によって選択された前記需要家のベースライン負荷の推定方式に応じて、前記需要家の過去の消費電力の情報を含む実績データを用いて前記ベースライン負荷を推定するベースライン負荷計算部と、前記需要家によって選択された、前記推定されたベースライン負荷を調整するベースライン負荷調整方式であって、前記ベースライン負荷の推定日と異なる日の実績データを基準として調整する前記ベースライン負荷調整方式に応じて、前記実績データを用いて前記推定されたベースライン負荷を調整するベースライン負荷調整部とを備える。ベースライン負荷推定装置は後述するEMSに相当し、消費電力は後述する電力需要に相当する。
【0018】
また、本発明のベースライン負荷推定装置において、前記ベースライン負荷調整方式の選択時に、選択の指標となるデータを前記ベースライン負荷調整方式とともに前記需要家の表示部に提示させる調整方式提示部を更に備えることは、好ましい態様である。調整方式提示部は、後述するBL調整方式決定部に相当する。
【0019】
また、本発明のベースライン負荷推定装置において、前記ベースライン負荷調整方式が、前記ベースライン負荷の計算対象日のうち、前記ベースライン負荷の推定日に最も近い日の実績データを用いて、前記推定されたベースライン負荷を調整する方式であることは、好ましい態様である。
【0020】
また、本発明のベースライン負荷推定装置において、前記ベースライン負荷調整方式が、前記ベースライン負荷の計算対象日のうち、前記ベースライン負荷の推定日の気象に類似した気象類似日の実績データを用いて、前記推定されたベースライン負荷を調整する方式であることは、好ましい態様である。
【0021】
また、本発明のベースライン負荷推定装置において、前記ベースライン負荷の推定方式の選択時に、選択の指標となるデータを前記推定方式とともに前記需要家の表示部に提示させる推定方式提示部を更に備えるは、好ましい態様である。推定方式提示部は、後述するBL推定方式決定部に相当する。
【0022】
また、本発明のベースライン負荷推定プログラムは、前記需要家によって選択された前記需要家のベースライン負荷の推定方式に応じて、前記需要家の過去の消費電力の情報を含む実績データを用いて前記ベースライン負荷を推定するステップと、前記需要家によって選択された、前記推定されたベースライン負荷を調整するベースライン負荷調整方式であって、前記ベースライン負荷の推定日と異なる日の実績データを基準として調整する前記ベースライン負荷調整方式に応じて、前記実績データを用いて前記推定されたベースライン負荷を調整するステップとをコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、精度高くDR評価を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。
図1には、実施の形態に係るエネルギーマネジメントシステム(EMS)10を含むシステムの構成の一例を示す構成図が示されている。EMS10と、需要家側の需要家スマートメータ17及び需要家用モニタ18とは、ネットワーク19を介して接続されている。EMS10は、例えば電気事業者(例えば、発電事業者など)側に設置されている。
【0026】
スマートメータ17及び需要家用モニタ18は、各需要家側(オフィス、工場、一般家庭など)に備えられている。各需要家側に備えられるスマートメータ17及び需要家用モニタ18は、それぞれ1つに限られるものではなく、複数備えられている場合もある。また、
図1に示す例では、1つの需要家のみが示されているが、一般的には複数の需要家が存在し、それぞれがネットワーク19を介してEMS10に接続されている。また、需要家は、上記のようにオフィス、工場、一般家庭など個別の単位ではなく、オフィス、工場、一般家庭などを含む一定の範囲のコミュニティを単位としてもよい。
【0027】
ネットワーク19は、インターネットや専用回線などの通信回線である。ネットワーク19を介して、EMS10、スマートメータ17、需要家用モニタ18の間でデータの送受信が行われる。
【0028】
スマートメータ17は、通信機能を備える電力などの計測器である。スマートメータ17は、各種のデータを需要家用モニタ18や、ネットワーク19を介してEMS10へ送信する。送信されるデータは、例えば電力需要計測値(後述する
図5に示す電力需要の値)などである。電力需要とは、消費電力や負荷実績値と同義である。
【0029】
需要家用モニタ18は、電力の使用状況やEMS10からの情報を表示する装置である。DRを実施する需要家の需要家用モニタ18は、EMS10からDR実施予定日時などのデータを受信し、受信したデータに応じて、例えば
図2に示すような表示を行う。
図2では、需要家用モニタ18の液晶画面にDRの実施予定日時(2012年8月2日 13:00から17:00)が表示されており、この表示により、需要家はDRの実施日時を確認することができる。なお、
図2に示すように、DRの実施予定日時のデータ送信は、DR実施予定日の前日(2012年8月1日)などに行われる。
【0030】
また、需要家用モニタ18は、後述するBL推定方式、BL調整方式、推定又は調整されたBLを液晶画面などに表示する。これら表示される情報は、ネットワーク19を介してEMS10から受信する。なお、需要家用モニタ18は、不図示のベースライン負荷推定方式表示部、BL調整方式表示部、BL表示部を有し、それぞれの表示部に、BL推定方式、BL調整方式、推定又は調整されたBLをそれぞれ表示するようにしてもよい。
【0031】
EMS10は、データ入力部11、電力需要予測部12、需要計画部13、ベースライン負荷(BL)推定部14、デマンドレスポンス(DR)評価部15、実績データベース16から構成されている。なお、実績データベース16は、不図示の補助記憶装置に記憶させ、電力需要予測部12、需要計画部13、BL推定部14、DR評価部15は、RAM上に読み出されて、CPUにより実行されるプログラムとして機能させることもできる。
【0032】
データ入力部11は、各種のデータを入力する。データ入力部11は、例えば、キーボードやマウスなどの入力手段からのデータや、ネットワーク19を介してスマートメータ17から送信されるデータなどを入力する。また、ネットワーク19には、例えば不図示の気象予報サイトが接続されており、気象予報サイトから翌日以降の気温や湿度などの気象条件の予報情報のデータをデータ入力部11から入力することができる。
【0033】
実績データベース16は、少なくとも需要家の電力需要を含む各種データを実績データとしてテーブル形式で記憶している。EMS10は、ネットワーク19を介して需要家のスマートメータ17から実績データを収集している。収集された実績データは実績データベース16に蓄積されていく。
【0034】
電力需要予測部12は、予測対象の日のデータ(予測対象日データ)と、気象予報データと、実績データベース16の実績データとを用いて、予測対象日(例えば、翌日)の電力需要予測を行う。予測対象日データは、予測対象日の年月日、曜日、平日/休日などのデータである。予測対象日データは、データ入力部11から入力することができる。気象予報データは、予測対象日(翌日又はそれ以降)の気温、湿度、風速、天候などの気象条件に関するデータであり、上述したように、例えば気象予報サイトから取得することができる。実績データは、実績データベース16から取得することができる。
【0035】
予測対象日データと、気象予報データと、実績データとを用いて、電力需要を予測する手法は既知であり、例えば参考文献(Proceedings of the IASTED International Conference 248-039, “Peak Load Forecasting using Neutral Networks and Fuzzy Interference”)に記載されている既存手法を用いることができる。つまり、需要予測は、実績データの過去の電力需要、天候、気温、季節、曜日、電力価格単価などを入力データとして、出力が電力需要予測値となるような需要予測モデルにより算出される。需要予測モデルとしては、上記参考文献に開示されているニューラルネットワークなどを用いることができる。
【0036】
需給計画部13は、電力需要予測部12が算出した翌日の電力需要予測値と需要目標値を比較して、差異がある場合(例えば、電力需要予測値が需要目標値を上回る場合など)にはDRを実施し、差異がない場合にはDRを実施しない判定を行う。ここで、需要目標値とは、電力需給の運用計画などで算出される供給計画値を言う。電力需要予測値と需要目標値との差を計算し、需給バランスをとるために需要変化が必要な場合に、需要変化を起こすためのDRが実施される。
【0037】
DRを実施する場合には、上述したように、需要家用モニタ18にDR実施予定日時などを表示させるために、表示に必要なデータがネットワーク19を介してEMS10から需要家用モニタ18へ送信される。
【0038】
BL推定部14は、DRを行うときのBLを推定するものであり、
図3に示すように、ベースライン負荷(BL)推定方式決定部31、ベースライン負荷(BL)計算部32、ベースライン負荷(BL)調整方式決定部33、ベースライン負荷(BL)調整部34から構成されている。BL推定部14の各構成の詳細については後述する。
【0039】
DR評価部15は、推定したBLとDRにより変化した負荷実績値の差異を計算し、DRの効果を評価する。DRの手法の1つであるピーク時リベート(PTR)では、ピーク時間帯の電力需要の変化量(kwh)に応じて、需要家にインセンティブを与える。インセンティブは以下の式(3)により求められる。
【0041】
ここで、電力需要の変化量は、ベースライン負荷(BL)と実際の負荷実績値との差である。なお、インセンティブとしては、金銭的な報酬に限られるものではなく、例えばポイントの付与やクーポン券の付与など何らかの形で需要家に報酬が与えられるものであってもよい。
【0042】
次に、EMS10を実現するハードウェア構成の一例について
図4を用いて説明する。
図4に示すハードウェア構成は、例えば、CPU(Central Processor Unit)41、RAM(Random Access Memory)42、HDD(Hard Disk Drive)43、通信インタフェース44、バス45を備えている。CPU41、RAM42、HDD43、通信インタフェース44は、例えば、バス45を介して互いに接続されている。
【0043】
CPU41は、バス45を介して、HDD43などに格納されるEMS10の各種処理を行うためのプログラムを読み込み、読み込んだプログラムをRAM42に一時的に格納し、そのプログラムにしたがって各種処理を行うものであり、例えば、主として上述した電力需要予測部12、需要計画部13、BL推定部14、DR評価部15として機能する。
【0044】
RAM42には、CPU41に実行させるためのOS(Operating System)プログラムやアプリケーションプログラムの一部が一時的に格納される。また、RAM42には、CPU41による処理に必要な各種データが格納される。HDD43には、EMS10の各種処理を行うためのアプリケーションプログラムや、EMS10の処理に必要なデータなどが格納され、例えば、主として上述した実績データベース16として機能する。
【0045】
通信インタフェース44は、外部(スマートメータ17や需要家用モニタ18)とデータの送受信を行うものであり、例えば、主として上述したデータ入力部11として機能する。バス45は、各装置間の制御信号、データ信号などの授受を媒介する通信路である。
【0046】
次に、実施の形態に係るEMS10を含むシステムの動作フローの一例について
図5を用いて説明する。
図5に示すように、需要家のスマートメータ17は、ネットワーク19を介して、電力需要を含む実績データを所定間隔ごと(例えば、30分ごとや1時間ごと)にEMS10に対して送信し、EMS10は実績データを取得する(ステップS501)。そして、EMS10は、取得した実績データを実績ベータベース16に蓄積(記憶)する(ステップS502)。
【0047】
ここで、
図6は実績データベース16のデータ構成例を示している。実績データベース16に蓄積される実績データは過去のデータである。
図6では、実績データベース16に蓄積される実績データはテーブル形式になっているが、テーブル形式以外の形式で記憶されてもよい。
【0048】
図6に示すように、実績データベース16の実績データは、ヘッダー部とデータ部から構成されている。ヘッダー部は需要家番号(
図6では需要家No)又はグループ番号(
図6ではグループNo)を有している。上述したように、需要家番号は、予め各需要家に割り当てられる需要家識別用IDである。需要家は所定数のグループ(例えば、オフィスビルや商業施設などのグループ)に分けられる場合もあり、その場合には、各グループをグループ番号(グループNo)により識別する。なお、
図6に示す実績データでは、需要家番号又はグループ番号は「1」となっている。
【0049】
データ部は、日時、曜日、休日/平日、気温、湿度、電力需要、電力価格単価、DRフラグのデータ項目を有している。電力価格単価は、例えば、上述したインセンティブ係数に相当するものであり、金銭的なインセンティブを算出する際などに用いられる。また、DRフラグは、DRを実施したか否かを示す指標で、実施した場合は「1」、実施しなかった場合は「0」が記憶される。なお、
図6に示すデータ部の各情報は一例であり、これら以外の情報を有していてもよく、全ての情報を有していなくてもよい。
【0050】
図6に示す実績データの最初の行は、「2012年4月1日の10:00」、「月曜日」、「平日」、「気温20℃」、「湿度45%」、「電力需要75kw」、「電力価格単価20円/kwh」、「DRフラグ0」であることを示している。
図6に示す例では、30分ごとに各種データが取得され、実績データベース16に蓄積されていく。そのため、30分ごとに蓄積される過去の実績データになる。
【0051】
図5の動作フローに戻り、BL推定方式決定部(推定方式提示部とも言う)31は、需要家によってあらかじめ選択されたBL推定方式を用いることを決定する(ステップS503)。例えば、BL推定方式決定部31は、需要家番号(又はグループ番号)とあらかじめ需要家によって選択されたBL推定方式の情報とが関連付けられた関連付け情報を記憶する不図示の記憶部などの記憶情報を参照し、需要家に対応するBL推定方式を認識して、その推定方式を用いることを決定する。後述するBL調整方式決定部(調整方式提示部とも言う)33においても同様に、需要家番号(又はグループ番号)とあらかじめ需要家によって選択されたBL調整方式の情報とが関連付けられた関連付け情報を記憶する不図示の記憶部などの記憶情報を参照し、需要家に対応するBL調整方式を用いることを決定する。
【0052】
ここで、BL推定方式をあらかじめ需要家に選択させる方法について説明する。BL推定方式を需要家に選択させるために、BL推定方式決定部31は、後述するように、BL推定方式及びその方式によるBL推定精度を需要家に対して提示する。具体的には、BL推定方式決定部31は、1つ又は複数のBL推定方式を用意しており、これらを需要家に対して提示するとともに、それぞれのBL推定方式のBL推定精度を算出し、算出されたBL推定精度を需要家に対して提示する。
【0053】
提示するBL推定方式の一例としては以下の4つが考えられるが、これらに限られるものではなく、他のBL推定方式であってもよい。これらのBL推定方式は、BL推定値を算出する際に用いられる。BL推定値の具体的な算出については後述する。なお、BL計算対象日は、上述したように、DRを実施しなかった平日(需要家が需要抑制を行わなかった平日)を言う。
・BL計算対象日の至近の5日の平均値を求める。
・BL計算対象日の至近の10日の平均値を求める。
・BL計算対象日の至近の10日の気温回帰で求める。
・BL計算対象日の前週同曜日の負荷とする(該当日が無い場合は過去に遡る)。
【0054】
ここで、BL推定方式の一例の「BL計算対象日の至近の5日の平均値を求める」というBL推定方式について説明する。「BL計算対象日の至近の5日の平均値を求める」とは、DRを実施しなかった平日の5日間(任意であってもよい)の需要家の負荷実績値の平均値を所定の時刻ごと(例えば、30分ごと)に算出することを言い、算出されたそれらをこのBL推定方式におけるBL推定値とする。より具体的には、あるBL計算対象日(8月1日(金))を含む至近5日のDRを実施しなかった平日(8月1日(金)、7月31日(木)、7月30日(水)、7月28日(月)、7月25日(金))の需要家の負荷実績値の平均値を所定の時刻ごとに算出することを言う。
【0055】
また、BL推定方式決定部31は、過去のBL計算対象日(例えば、30日分)についてBL推定値を計算し、負荷実績値との絶対誤差を求めることで、BL推定精度を算出する。絶対誤差が小さいほど推定精度が高い。絶対誤差は以下の式(4)によって求められる。この場合、mは30であり、24時間を30分ごとの時刻で区切る場合であればnは48である。これらの値に基づいて絶対誤差を求める。
【0057】
d:BL計算対象日(m個)
t:BL計算対象時刻(n個)
D
BL(d、t):BL推定値
D
C(d、t):負荷実績値
BL推定方式及びBL推定精度を需要家に提示する方法として、EMS10(例えば、BL推定方式決定部31)が、ネットワーク19を介して提示用のデータ(BL推定方式及びBL推定精度の情報)を送信し、需要家用モニタ18に提示する方法がある。需要家用モニタ18の液晶画面におけるBL推定方式及びBL推定精度の提示の一例が
図7に示されている。
図7では、4つのBL推定方式とそれぞれのBL推定精度(絶対誤差)が提示されており、この例では「BL計算対象日の至近の10日の平均値」というBL推定方式の絶対誤差が最も小さく、推定精度が最もよい。
【0058】
なお、BL推定方式を需要家に選択してもらう方法は、需要家用モニタ18に提示する具体例に限定されない。BL推定方式を選択する頻度は、新たに契約を結んだり契約を継続したりするときに実施することが多いので、年に一回程度である。よって、BL推定方式を需要家に選択してもらう方法の他の具体例としては、書面でやり取りしたり、インターネット上のサイトで選択してもらうことが考えられる。
【0059】
需要家は、需要家用モニタ18に提示されたBL推定方式及びBL推定精度を確認し、BL推定方式を決定する。選択時の信号がネットワーク19を介してEMS10に送信される。そして、上述したように、BL推定方式決定部31は、需要家によって選択されたBL推定方式を用いることを決定することができる。
【0060】
なお、ここでは、需要家によるBL推定方式の決定(選択)をサポートする指標としてBL推定精度を提示しているが、需要家が納得できる決定を行うことが可能な1つ又は複数のシナリオ(データ)を需要家に提示するようにしてもよい。例えば、あるBL推定方式を選択した場合、夏場にはメリットを受けられるが冬場にはメリットをあまり受けられないなどの情報を、BL推定方式ごとに提示するようにしてもよい。後述するBL調整方式決定部33によるBL推定精度の提示においても同様である。
【0061】
BL計算部32は、決定されたBL推定方式に需要家の実績データを適用してBLを推定(BL推定値を算出)する(ステップS504)。例えば、BL推定方式として、「BL計算対象日の至近の5日の平均値を求める」というBL推定方式が選択された場合、DRを実施しなかった平日の5日間の負荷実績値の平均値を所定の時刻ごと(例えば、30分ごと)に算出し、それらをBL推定値とする。ここでは、30分ごとのBL推定値を24時間分算出しているが、所望の時間帯(例えば、DRを実施する時間帯)の分のみを算出するようにしてもよい。
【0062】
次に、BL調整方式決定部33は、需要家によって選択されたBL調整方式を用いることを決定する(ステップS505)。
ここで、BL調整方式をあらかじめ需要家に選択させる方法について説明する。BL調整方式を需要家に選択させるために、BL調整方式決定部33は、後述するように、BL調整方式及びその方式によるBL推定精度を需要家に対して提示する。具体的には、BL調整方式決定部33は、1つ又は複数のBL調整方式を用意しており、これらを需要家に対して提示するとともに、それぞれのBL調整方式のBL推定精度を算出し、算出されたBL推定精度を需要家に対して提示する。
【0063】
実施の形態で提示するBL調整方式は、BL計算対象日のうち、BL推定日と同日ではない異なる日の実績データを基準として調整するBL調整方式であって、一例として以下の2つが考えられるが、これらに限られるものではない。ここで、BL推定日とは、BLを推定しようとする日、すなわちBLを推定したい日を言う。ここでのBL調整方式は、例えば、BL推定日が8月1日(金)の場合、8月1日(金)と異なる日のBL計算対象日の7月31日(木)の実績データを基準として調整するBL調整方式である。
【0064】
1つのBL調整方式は、至近日負荷調整方式である。この方式は、BL計算対象日のうち、BL推定日に最も近い日(至近日)の実績データを基準にしてBLを調整する方式であり、上述した式(1)及び式(2)において、負荷調整の基準となる日(e)をBL計算対象日のうちBL推定日(d)に最も近い日とする方式である。
【0065】
もう1つのBL調整方式は、気象類似日負荷調整方式である。この方式は、BL計算対象日のうち、BL推定日の気象類似日の実績データを基準にしてBLを調整する方式であり、上述した式(1)及び式(2)において、負荷調整の基準となる日(e)をBL計算対象日のうちBL推定日(d)の気象類似日とする方式である。気象類似日とは、例えば、最高気温、最低気温、最高湿度、最低湿度、天気など気象に関する指標の1つ又は複数が類似している日を言う。類似していると判断する場合としては、例えば、対比する指標の差分が所定の閾値以内である場合などである。最高気温の対比の場合、例えば温度差が±3℃以内であれば類似すると判断する。類似すると判断される実績データがない場合には、温度差を、例えば±4℃以内に広げて類似の判断を行うようにしてもよい。
【0066】
また、BL調整方式決定部33は、過去のBL計算対象日(例えば、30日分)についてBLを調整し、負荷実績値との絶対誤差を求めることで、BL推定精度を算出する。絶対誤差は上述した式(4)を用いて求める。
【0067】
BL調整方式及びBL推定精度を需要家に提示する方法は、上述したBL推定方式及びBL推定精度の提示の方法と提示される内容が異なるのみで、提示用のデータの送信方法や提示形式は同様であるため、説明を省略する。
【0068】
需要家は、需要家用モニタ18に提示されたBL調整方式及び推定精度を確認し、BL調整方式を決定する。選択時の信号がネットワーク19を介してEMS10に送信される。そして、上述したように、BL調整方式決定部33は、需要家によって選択されたBL調整方式を用いることを決定することができる。
【0069】
BL調整部34は、決定されたBL調整方式に応じた需要家の実績データを適用し、上述した式(1)及び式(2)を用いてBLを調整(BL推定値を調整)する(ステップS506)。例えば、BL調整方式として、「至近日負荷調整方式」が選択された場合、DRを実施しなかった平日のうち、BL推定日に最も近い日(至近日)の実績データを用いて、BL計算部32によって推定されたBL推定値を式(1)及び式(2)で調整する。
【0070】
図8では、本発明のEMS10による効果が示されている。
図8は、従来のBL調整方式で算出したBLと、本発明のBL調整方式で算出したBLとの精度評価を行った結果を示すものである。本発明のBL調整方式で算出したBLの方が、従来のBL調整方式で算出したBLよりも絶対誤差が小さく、推定精度が高いことがわかる。BLの推定精度が高ければ、精度高くDRの評価を行うことができ、信頼性の高いエネルギーマネジメントシステムを提供することができる。
【0071】
なお、上述した実施の形態では、EMSの主な処理をCPUによるソフトウェア処理によって実行するものとして説明したが、この処理の全部又は一部をハードウェアによって実現するようにしてもよい。
【0072】
また、上述した実施の形態は、上述したものに限定されるものではなく、実施の形態の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。