特許第6519713号(P6519713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6519713
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20190520BHJP
   H02M 1/08 20060101ALI20190520BHJP
   H03K 17/687 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   H02M7/48 M
   H02M1/08 C
   H03K17/687 F
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-533484(P2018-533484)
(86)(22)【出願日】2017年8月8日
(86)【国際出願番号】JP2017028705
(87)【国際公開番号】WO2018030381
(87)【国際公開日】20180215
【審査請求日】2018年7月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-156118(P2016-156118)
(32)【優先日】2016年8月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】平形 政樹
(72)【発明者】
【氏名】小高 章弘
【審査官】 栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−082810(JP,A)
【文献】 特開平07−058615(JP,A)
【文献】 特表2013−506390(JP,A)
【文献】 特開2000−014184(JP,A)
【文献】 特許第5638079(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 1/08
H03K 17/687
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一相分の上アームを構成するスイッチング素子を駆動する第1の駆動回路と、前記一相分の下アームを構成するスイッチング素子を駆動する第2の駆動回路と、前記第1,第2の駆動回路に対する制御信号を生成する第1の制御回路と、を有する電力変換装置において、
前記第1,第2の駆動回路に電源をそれぞれ供給する第1,第2の電源回路と、
前記第1,第2の電源回路のうちの一方に電源を供給する高圧電源と、
前記第1,第2の電源回路のうちの他方に電源を供給する低圧電源と、
を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載した電力変換装置において、
前記第1,第2の駆動回路の電源電圧の異常を検出して異常検出信号を出力する異常検出手段と、前記異常検出信号を前記第1の制御回路に伝送する異常信号伝送回路と、を備え、
前記第1の制御回路は、前記異常検出信号による異常原因に応じて生成した制御信号を、制御信号伝送回路を介して前記第1または第2の駆動回路に伝送し、上アームまたは下アームを構成するスイッチング素子をオンさせることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した電力変換装置において、
前記高圧電源及び前記低圧電源の両方から電源が供給され、かつ、異常発生時に、前記第1または第2の駆動回路に対する制御信号を生成して制御信号伝送回路を介し前記第1または第2の駆動回路に伝送する第2の制御回路を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項3に記載した電力変換装置において、
前記第1の制御回路は、
前記低圧電源を電源供給元とする低圧側電源生成回路により生成された電源によって動作可能であると共に、前記低圧側電源生成回路への供給電圧または前記第1の制御回路への供給電圧もしくは前記第1の制御回路自身の異常を検出して生成した異常検出信号を、前記第2の制御回路に出力することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項4に記載した電力変換装置において、
前記第1の制御回路からの異常検出信号が入力された前記第2の制御回路は、
当該異常検出信号に基づいて前記低圧側電源生成回路への供給電圧の異常を認識した場合に、前記高圧電源を電源供給元とする前記第1または第2の電源回路を介して対応する駆動回路により対応するアームのスイッチング素子をオンさせる制御信号を生成することを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載した電力変換装置において、
前記第1の制御回路からの異常検出信号が入力された前記第2の制御回路は、
当該異常検出信号に基づいて前記低圧側電源生成回路への供給電圧の異常以外の異常を認識した場合に、前記第1または第2の電源回路を介して対応する駆動回路により上アームまたは下アームのスイッチング素子をオンさせる制御信号を生成することを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
一相分の上下アームのうち一方のアームのスイッチング素子を駆動する第1の駆動回路と、前記上下アームのうち他方のアームのスイッチング素子を駆動する第2の駆動回路と、前記第1の駆動回路に対する制御信号を生成する第1の制御回路と、前記第2の駆動回路に対する制御信号を生成する第2の制御回路と、
を有する電力変換装置において、
前記第1の駆動回路及び前記第1の制御回路に対する電源供給元である第1の電源と、
前記第2の駆動回路及び前記第2の制御回路に対する電源供給元である第2の電源と、
を備え
前記第1,第2の電源のうち一方が高圧電源であり、他方が低圧電源であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
一相分の上下アームのうち一方のアームのスイッチング素子を駆動する第1の駆動回路と、前記上下アームのうち他方のアームのスイッチング素子を駆動する第2の駆動回路と、前記第1の駆動回路に対する制御信号を生成する第1の制御回路と、前記第2の駆動回路に対する制御信号を生成する第2の制御回路と、
を有する電力変換装置において、
前記第1の駆動回路及び前記第1の制御回路に対する電源供給元である第1の電源と、
前記第2の駆動回路及び前記第2の制御回路に対する電源供給元である第2の電源と、
を備え、
前記第1の電源から所定の電源電圧を生成する電源生成回路の出力電圧が所定の閾値を下回ったときに、前記第1の電源を前記第2の電源に切り替える切替手段を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項に記載した電力変換装置において、
前記第1の電源が高圧電源であり、前記第2の電源が低圧電源であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
一相分の上下アームのうち一方のアームのスイッチング素子を駆動する第1の駆動回路と、前記上下アームのうち他方のアームのスイッチング素子を駆動する第2の駆動回路と、前記第1の駆動回路に対する制御信号を生成する第1の制御回路と、前記第2の駆動回路に対する制御信号を生成する第2の制御回路と、
を有する電力変換装置において、
電源供給元を共通にした第1の電源生成回路と第2の電源生成回路とを備え、
前記第1の電源生成回路により前記第1の制御回路に電源を供給すると共に、前記第2の電源生成回路により前記第2の制御回路に電源を供給することを特徴とする電力変換装置。
【請求項11】
請求項7〜請求項10の何れか1項に記載した電力変換装置において、
前記第1の制御回路は、自己の異常を検出した時に異常検出信号を前記第2の制御回路に送信する手段と、電力変換装置または負荷が所定の動作状態になったことを検出して前記第1の駆動回路により上アームまたは下アームのスイッチング素子を駆動して前記負荷を短絡させる手段と、を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項12】
請求項11に記載した電力変換装置において、
前記第2の制御回路は、前記第1の制御回路から送信された前記異常検出信号を受信する手段と、電力変換装置または負荷が所定の動作状態になったことを検出した時に前記第1の制御回路によって生成された制御信号を遮断すると共に前記第2の駆動回路により上アームまたは下アームのスイッチング素子を駆動して前記負荷を短絡させる手段と、を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項13】
請求項7〜請求項の何れか1項に記載した電力変換装置において、
前記第1の制御回路は、前記第2の電源を電源供給元とする電源生成回路の出力電圧の異常を判定する手段と、当該出力電圧の異常を判定した時に、前記第1の駆動回路により上アームまたは下アームのスイッチング素子を駆動して負荷を短絡させる手段と、を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項14】
請求項7に記載した電力変換装置において、
前記第1の制御回路及び前記第2の制御回路は、各制御回路へ電源を供給する電源生成回路の出力電圧の異常を検出する手段と、当該出力電圧の異常を判定した時に、当該異常が判定された一方の電源生成回路とは異なる他方の電源生成回路から電源が供給される駆動回路により上アームまたは下アームのスイッチング素子を駆動して負荷を短絡させる手段と、を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項15】
請求項7〜請求項14の何れか1項に記載した電力変換装置において、
前記上下アームの直列回路の両端電圧である直流母線電圧が第1の閾値に達したらアームまたは下アームのスイッチング素子をオンさせて負荷を短絡させる短絡動作と、当該短絡動作を、前記直流母線電圧が前記第1の閾値より低い第2の閾値に達したら解除する短絡解除動作と、前記直列回路に並列に接続された平滑コンデンサを放電させる放電動作と、を実行可能とし、
前記短絡動作により前記直流母線電圧が前記第2の閾値に達したら前記放電動作を停止してその停止状態を維持することを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電動機等の回転電機を駆動するインバータ等の電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車等の電動車両に用いられるインバータ及び回転電機からなる電機システムにおいて、システムを構成する部品に何らかの不具合が生じた場合には、システムを継続的な損傷から保護するために、インバータを構成する半導体スイッチング素子を操作して回転電機の巻線を短絡させる短絡モードに切り替える技術が知られている。
【0003】
ここで、インバータを構成するスイッチング素子を制御して回転電機の巻線を短絡する方法を説明する。回転電機の巻線を短絡するには、例えば、図8のように、直流電源100、平滑コンデンサ201及び直流/交流変換部202からなる三相インバータ200と、回転電機300とを備えた電機システムにおいて、インバータ200の下アームを構成する3つのスイッチング素子をオンし、上アームを構成する3つのスイッチング素子をオフすれば良い。また、各アームのスイッチング素子のオン・オフは上記の逆でも良い。
【0004】
さて、システムを構成する部品の不具合には、インバータ200のスイッチング素子を駆動する駆動回路や制御回路、これらの回路に電源を供給する電源回路(何れも図示せず)等の不具合も含まれる。しかし、例えば電源回路に不具合が発生すると、前述した短絡モードに切り替えてシステムを保護しようとしても、スイッチング素子の制御が不可能であるため短絡操作を行うことができない。
【0005】
上記の問題を解決するための手段が、例えば特許文献1に記載されている。
図9は、特許文献1に記載された従来技術を示す回路図である。図9において、401はDC/DCコンバータ、402は作動状態検知装置、403は制御回路、404はスイッチ装置であり、その他の部分には図8と同一の符号を付してある。
【0006】
この従来技術において、通常時は外部電源からの直流電圧(低圧)Uが電源として制御回路403に供給されている。作動状態検知装置402は、電圧Uを含む各部の電圧、電流等を監視しており、電圧Uの異常を検知した場合には、直流電源100の電圧(高圧)UをDC/DCコンバータ401により所定値に変換して制御回路403に供給し、スイッチング素子の制御を継続させている。
すなわち、この従来技術では、制御回路403に対する供給電源を低圧電源及び高圧電源を用いて冗長化することにより、電源回路の故障に対処している。
【0007】
一般に、インバータを構成するスイッチング素子の駆動回路には、制御回路と絶縁された絶縁電源回路を設ける必要がある。
特許文献1では、この種の絶縁電源回路について何ら言及されておらず、供給電源を冗長化したとしても、電源回路が故障した場合には前述の短絡モードを実現することができない。
【0008】
これに対し、特許文献2には、駆動回路に対する電源の供給元を低圧電源及び高圧電源により冗長化すると共に、駆動回路への供給電源を生成する電源回路についても冗長化する技術が開示されている。
【0009】
図10は、この従来技術を示すブロック図であり、回転電機を駆動するインバータの一相分の構成を示している。
図10において、501は低圧電源としての給電ユニット、502は駆動回路用電源回路としての相給電ユニット、503は緊急動作時制御部、504は相給電ユニット502の出力電圧を監視する比較回路、505は駆動回路用補助電源回路507の出力電圧を監視する比較回路、506は高圧電源としてのエネルギー供給網、508はオア回路、509は制御ユニット、510は駆動回路、511は切替スイッチ、512はスイッチング制御手段、513は出力段としてのインバータ主回路である。なお、A,Bは閾値、Cは緊急動作時制御信号を示す。
【0010】
この従来技術において、通常時は給電ユニット501から相給電ユニット502、オア回路508を介して駆動回路510に電源が供給されている。また、給電ユニット501や相給電ユニット502の故障時には、エネルギー供給網506から駆動回路用補助電源回路507、オア回路508を介して駆動回路510に電源が供給されるようになっている。
【0011】
図11は、特許文献2に記載されたインバータの全体構成図であり、前記給電ユニット501や制御ユニット509を共通にして他の部分を三相分備えることにより、インバータ500が構成されている。
図11において、514U,514V,514Wは同一構成の出力段ユニット、515は高圧電源であるバッテリー、516はスイッチであり、他の部分については図10と同一の参照符号を付してある。
【0012】
特許文献2においては、低圧電源が供給される相給電ユニット502及び高圧電源が供給される駆動回路用補助電源回路507等によって電源回路自体も冗長化されている。これにより、何れかの電源回路が故障した場合でも回転電機の短絡モードを実現可能とし、特許文献1が有する問題点を解決することができる。
【0013】
しかし、特許文献2では、低圧電源または高圧電源の何れか一方で所要の電力を賄えるように、インバータ500の全相で電源回路を設計する必要があるので、図11の出力段ユニット514U,514V,514Wの構成も複雑になり、インバータ500の大型化、高コスト化を招くという問題があった。
【0014】
なお、特許文献1,2に記載されているように、システムに不具合が発生した場合には回転電機の巻線を短絡して回路を保護すると共に、特に電動車両の衝突等の緊急時には、乗員の安全を確保するために、メインのバッテリーを切り離してインバータの出力電圧を所定時間内に規定値以下に低下させることが要求される。
このような状態で回転電機の短絡モードを継続すると、主回路の直流母線にはエネルギーが供給されなくなり、正負の直流母線間に接続された平滑コンデンサの蓄積エネルギーを使い切ると、回転電機の巻線を短絡させるための巻線短絡制御回路を動作させる電源回路が停止してしまう。その結果、回転電機が発電状態であるにも関わらず、短絡モードが解除されて直流母線電圧が上昇することになり、巻線短絡制御回路の動作によって回転電機の巻線を再度短絡するまでの間に直流母線電圧が規定値を超えてしまう恐れがある。
【0015】
そこで、主回路の直流母線電圧を検出し、この電圧が予め設定した閾値(短絡オフ閾値)以下になったら回転電機の巻線短絡を解除し、直流母線電圧が再び上昇して閾値(短絡オン閾値)を超えた場合に巻線を再度短絡させるようにした技術が、特許文献3に記載されている。
【0016】
図12は、特許文献3に記載されたインバータのブロック図である。
図12において、600はインバータ、601は12[V]電源等の低圧電源、602はモータコントロール基板、603はゲートドライブ基板、604は高電圧分圧回路、605はマイコン、606は電源回路、607はドライバ回路、608は三相ブリッジ構成のIGBTモジュール、609はコンタクタ、610は高圧電源、611は平滑コンデンサである。
図示されていないが、IGBTモジュール608の交流出力側には三相モータ等の回転電機が接続されている。
【0017】
この従来技術では、高圧電源610に接続された電源回路606が電源電圧を生成してドライバ回路607及びマイコン605に供給する。また、コンタクタ609がオフされた場合には、電源回路606が平滑コンデンサ611の電圧を用いて電源電圧を生成する。
高電圧分圧回路604は、正側の直流母線電圧を分圧してマイコン605に供給しており、マイコン605はこの電圧を検出することで高圧電源610または平滑コンデンサ611の電圧を測定可能となっている。
【0018】
更に、マイコン605には、低圧電源601からモータコントロール基板602に供給される制御電源電圧(例えば12[V])がカプラを介して入力されており、この電圧を検出して制御電源の正常/異常を監視している。
そして、制御電源の異常を判定した場合には、マイコン605がIGBTモジュール608の全相の下アームのIGBTをオンして回転電機の巻線を短絡させるために、ドライバ回路607に対して三相短絡信号を出力する。
【0019】
図13は、上記インバータ600における制御電源喪失時の動作を示すタイミングチャートである。以下、この動作を概略的に説明する。
時刻tにおいて制御電源(低圧電源601)が喪失すると、上位の制御装置からの信号によりコンタクタ609をオフする。このため、高圧電源610が遮断されてコンデンサ611から電源回路606に電圧が供給され、IGBTモジュール608の各相各アーム及びマイコン605に電源電圧が供給される。また、モータコントロール基板602からの12[V]active信号が「Low」レベルとなり、下アームゲート制御信号は全てオフとなる。
【0020】
マイコン605は、時刻tから遅延時間経過後の時刻tに電源電圧が短絡オン閾値を超えていることを確認して三相短絡制御信号をactiveとし、三相短絡信号及び下アームゲート駆動信号をオンして回転電機の三相の巻線を短絡させる短絡モードに移行する。この短絡モードでは、回転電機からの回生電流が平滑コンデンサ611に流れないため、時刻t以降、電源電圧は徐々に低下していく。
【0021】
電源電圧が時刻tにおいて短絡オフ閾値より低下したことを確認したマイコン605は、遅延時間経過後の時刻tに三相短絡信号及び下アームゲート駆動信号をオフさせる。これによって電源電圧の低下が止まり、時刻t以後は回転電機からの回生電流により平滑コンデンサ611が再び充電されて電源電圧が上昇していき、その後は上記の動作が繰り返される。すなわち、インバータ600の主回路に供給する電源が遮断された状態で回転電機が発電状態であると、直流母線電圧は予め設定された短絡オン閾値と短絡オフ閾値との間の範囲に維持されることになる。
【0022】
一方、特許文献4には、放電抵抗とスイッチング素子との直列回路を平滑コンデンサに並列に接続し、電動車両を停止させた時に、コンタクタをオフすると共に上記スイッチング素子をオンして平滑コンデンサを急速放電させる技術が開示されている。
従って、特許文献3に記載された回転電機の巻線短絡手段と特許文献4に記載された急速放電手段とを組み合わせてインバータに実装すれば、主回路への供給電源が遮断されて回転電機が発電状態である場合でも、直流母線電圧を所定範囲に維持する安全対策を一層万全なものにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2000−14184号公報(段落[0028]〜[0039]、図1等)
【特許文献2】特許第5638079号公報(段落[0019]〜[0025]、図1図2等)
【特許文献3】特許第5433608号公報(段落[0032]〜[0036],[0048]〜[0056]、図4図7等)
【特許文献4】特許第5648000号公報(段落[0033]〜[0036]、図2図3等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
さて、前述したごとく、半導体スイッチング素子の駆動回路の電源は絶縁する必要があるので、プリント基板上では相応の絶縁距離を確保することが求められる。
特許文献2に記載された技術では、電源供給元である低圧電源と高圧電源との間で所定の絶縁距離を確保する必要が生じ、更には、冗長化された電源回路の相互間でも所定の絶縁距離を確保する必要があるので、これらが装置全体の一層の大型化を招いていた。
【0025】
また、特許文献3に記載された巻線短絡手段と特許文献4に記載された急速放電手段とを組み合わせてインバータに実装した場合を想定すると、新たに以下のような課題が生じる。
すなわち、図13における短絡オン閾値,短絡オフ閾値は、人が感電しないような低電圧(例えば、「JIS D5305−3 電気自動車−安全に関する仕様−第3部:電気危害に対する人の保護」に記載されているように、60[V]以下)に設定される。ここで、特許文献4における急速放電を停止させる閾値(放電オフ閾値)についても、同様に人が感電しないような低電圧に設定される。そして、特許文献4の技術により最初に急速放電を行った後に、特許文献3の技術により巻線短絡が解除され、直流母線電圧が上昇しても再び急速放電することがないように、各閾値は次の関係を満たすように設定される。
・規定電圧(安全電圧)>放電オフ閾値>短絡オン閾値>短絡オフ閾値
【0026】
図7は、直流母線電圧、上述した各閾値の大小関係、上(下)アーム短絡信号及び急速放電制御信号の一例を示している。
放電抵抗が焼損する危険を回避するため、短絡オン閾値と短絡オフ閾値とは、放電オフ閾値に対してマージンを十分にとる必要があるので、短絡オン閾値及び短絡オフ閾値は放電オフ閾値よりも低電圧側にそれぞれ設定されている。すなわち、直流母線を電源供給元として短絡モードを実現するための電源生成回路は、直流母線電圧が低い場合でも動作するように設計する必要がある。
一方、通常運転時の直流母線電圧の最大値が600V以上になる装置も存在するので、主回路の直流母線を電源供給元とする電源生成回路の入力電圧は広くなる傾向にある。
このように広範囲の入力電圧に対応可能とするためには、電源生成回路の動作周波数の上限が制約されることになり、その結果、トランス等の周辺部品が大型化して電源生成回路の寸法が大きくなるという問題があった。
【0027】
そこで、本発明の解決課題は、電源や電源生成回路等の電源供給経路を必要最小限に冗長化しつつ、回路や装置全体の大型化、高コスト化を防ぎ、システムの異常発生時における短絡モードの実現を可能にした電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、一相分の上アームを構成するスイッチング素子を駆動する第1の駆動回路と、前記一相分の下アームを構成するスイッチング素子を駆動する第2の駆動回路と、前記第1,第2の駆動回路に対する制御信号を生成する第1の制御回路と、を有する電力変換装置において、
前記第1,第2の駆動回路に電源をそれぞれ供給する第1,第2の電源回路と、
前記第1,第2の電源回路のうちの一方に電源を供給する高圧電源と、
前記第1,第2の電源回路のうちの他方に電源を供給する低圧電源と、を備えたものである。
【0029】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した電力変換装置において、
前記第1,第2の駆動回路の電源電圧の異常を検出して異常検出信号を出力する異常検出手段と、前記異常検出信号を前記第1の制御回路に伝送する異常信号伝送回路と、を備え、
前記第1の制御回路は、前記異常検出信号による異常原因に応じて生成した制御信号を、制御信号伝送回路を介して前記第1または第2の駆動回路に伝送し、上アームまたは下アームを構成するスイッチング素子をオンさせるものである。
【0030】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載した電力変換装置において、
前記高圧電源及び前記低圧電源の両方から電源が供給され、かつ、異常発生時に、前記第1または第2の駆動回路に対する制御信号を生成して制御信号伝送回路を介し前記第1または第2の駆動回路に伝送する第2の制御回路を備えたものである。
【0031】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載した電力変換装置において、
前記第1の制御回路は、
前記低圧電源を電源供給元とする低圧側電源生成回路により生成された電源によって動作可能であると共に、前記低圧側電源生成回路への供給電圧または前記第1の制御回路への供給電圧もしくは前記第1の制御回路自身の異常を検出して生成した異常検出信号を、前記第2の制御回路に出力するものである。
【0032】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載した電力変換装置において、
前記第1の制御回路からの異常検出信号が入力された前記第2の制御回路は、
当該異常検出信号に基づいて前記低圧側電源生成回路への供給電圧の異常を認識した場合に、前記高圧電源を電源供給元とする前記第1または第2の電源回路を介して対応する駆動回路により対応するアームのスイッチング素子をオンさせる制御信号を生成するものである。
【0033】
請求項6に係る発明は、請求項4または請求項5に記載した電力変換装置において、
前記第1の制御回路からの異常検出信号が入力された前記第2の制御回路は、
当該異常検出信号に基づいて前記低圧側電源生成回路への供給電圧の異常以外の異常を認識した場合に、前記第1または第2の電源回路を介して対応する駆動回路により上アームまたは下アームのスイッチング素子をオンさせる制御信号を生成するものである。
【0034】
請求項7に係る発明は、一相分の上下アームのうち一方のアームのスイッチング素子を駆動する第1の駆動回路と、前記上下アームのうち他方のアームのスイッチング素子を駆動する第2の駆動回路と、前記第1の駆動回路に対する制御信号を生成する第1の制御回路と、前記第2の駆動回路に対する制御信号を生成する第2の制御回路と、
を有する電力変換装置において、
前記第1の駆動回路及び前記第1の制御回路に対する電源供給元である第1の電源と、
前記第2の駆動回路及び前記第2の制御回路に対する電源供給元である第2の電源と、
を備え
前記第1,第2の電源のうち一方が高圧電源であり、他方が低圧電源であるものである。
【0036】
請求項に係る発明は、一相分の上下アームのうち一方のアームのスイッチング素子を駆動する第1の駆動回路と、前記上下アームのうち他方のアームのスイッチング素子を駆動する第2の駆動回路と、前記第1の駆動回路に対する制御信号を生成する第1の制御回路と、前記第2の駆動回路に対する制御信号を生成する第2の制御回路と、
を有する電力変換装置において、
前記第1の駆動回路及び前記第1の制御回路に対する電源供給元である第1の電源と、
前記第2の駆動回路及び前記第2の制御回路に対する電源供給元である第2の電源と、
を備え、
前記第1の電源から所定の電源電圧を生成する電源生成回路の出力電圧が所定の閾値を下回ったときに、前記第1の電源を前記第2の電源に切り替える切替手段を備えたものである。
【0037】
請求項に係る発明は、請求項に記載した電力変換装置において、
前記第1の電源が高圧電源であり、前記第2の電源が低圧電源であることを特徴とする。
【0038】
請求項10に係る発明は、一相分の上下アームのうち一方のアームのスイッチング素子を駆動する第1の駆動回路と、前記上下アームのうち他方のアームのスイッチング素子を駆動する第2の駆動回路と、前記第1の駆動回路に対する制御信号を生成する第1の制御回路と、前記第2の駆動回路に対する制御信号を生成する第2の制御回路と、
を有する電力変換装置において、
電源供給元を共通にした第1の電源生成回路と第2の電源生成回路とを備え、
前記第1の電源生成回路により前記第1の制御回路に電源を供給すると共に、前記第2の電源生成回路により前記第2の制御回路に電源を供給するものである。
【0039】
請求項11に係る発明は、請求項7〜請求項10の何れか1項に記載した電力変換装置において、
前記第1の制御回路は、自己の異常を検出した時に異常検出信号を前記第2の制御回路に送信する手段と、電力変換装置または負荷が所定の動作状態になったことを検出して前記第1の駆動回路により上アームまたは下アームのスイッチング素子を駆動して前記負荷を短絡させる手段と、を備えたものである。
【0040】
請求項12に係る発明は、請求項11に記載した電力変換装置において、
前記第2の制御回路は、前記第1の制御回路から送信された前記異常検出信号を受信する手段と、電力変換装置または負荷が所定の動作状態になったことを検出した時に前記第1の制御回路によって生成された制御信号を遮断すると共に前記第2の駆動回路により上アームまたは下アームのスイッチング素子を駆動して前記負荷を短絡させる手段と、を備えたものである。
【0041】
請求項13に係る発明は、請求項7〜請求項の何れか1項に記載した電力変換装置において、
前記第1の制御回路は、前記第2の電源を電源供給元とする電源生成回路の出力電圧の異常を判定する手段と、当該出力電圧の異常を判定した時に、前記第1の駆動回路により上アームまたは下アームのスイッチング素子を駆動して負荷を短絡させる手段と、を備えたものである。
【0042】
請求項14に係る発明は、請求項7に記載した電力変換装置において、
前記第1の制御回路及び前記第2の制御回路は、各制御回路へ電源を供給する電源生成回路の出力電圧の異常を検出する手段と、当該出力電圧の異常を判定した時に、当該異常が判定された一方の電源生成回路とは異なる他方の電源生成回路から電源が供給される駆動回路により上アームまたは下アームのスイッチング素子を駆動して負荷を短絡させる手段と、を備えたものである。
【0043】
請求項15に係る発明は、請求項7〜請求項14の何れか1項に記載した電力変換装置において、
前記上下アームの直列回路の両端電圧である直流母線電圧が第1の閾値に達したらアームまたは下アームのスイッチング素子をオンさせて負荷を短絡させる短絡動作と、当該短絡動作を、前記直流母線電圧が前記第1の閾値より低い第2の閾値に達したら解除する短絡解除動作と、前記直列回路に並列に接続された平滑コンデンサを放電させる放電動作と、を実行可能とし、
前記短絡動作により前記直流母線電圧が前記第2の閾値に達したら前記放電動作を停止してその停止状態を維持するものである。
【発明の効果】
【0044】
請求項1〜6に係る発明によれば、電源生成回路の異常や電源回路または制御回路への供給電圧の異常発生時に、健全側の電源回路及び駆動回路を介してスイッチング素子を制御することにより、短絡モードを確実に実現してシステム及び人体を保護することができる。
また、駆動回路に電源を供給するための回路構成を必要以上に冗長化することもなく、最小限の回路規模、絶縁距離のもとで装置全体の小型化を図ることが可能である。
【0045】
請求項7,10に係る発明は、第1の駆動回路及び第1の制御回路に対する電源供給元と、第2の駆動回路及び第2の制御回路に対する電源供給元とが分離され、あるいは、第1の電源生成回路と第2の電源生成回路との電源供給元を共通にして第1の電源生成回路から第1の駆動回路及び第1の制御回路に電源を供給し、かつ、第2の電源生成回路から第2の駆動回路及び第2の制御回路に電源を供給するものである。
このため、一方の電源供給元または電源生成回路に異常が発生した場合でも他方の電源供給元または電源生成回路により所定のアームのスイッチング素子に対する駆動回路及び制御回路に電源を供給することができ、負荷の短絡モードを確実に実現してシステムを保護することができる。
また、電源生成回路を相ごとに冗長化する必要がないため、装置の小型化、コストの低減を図ることができる。
【0046】
請求項7,9に係る発明によれば、二つの電源供給元のうち、高圧電源を電源供給元とする回路は高圧部に残存しているエネルギーがある限り電源が供給されるので、電源喪失等による保護動作の失効を回避して人体に対する安全性を向上させることができる。
【0047】
請求項に係る発明によれば、第1の電源からの電源供給タイミングが第2の電源より遅れたとしても、第1の電源に代えて第2の電源から電源を供給することができる。これにより、第1の電源を電源供給元とする回路の起動遅れが解消され、電源投入後の電力変換装置の起動待ち時間を短縮することができる。
【0048】
請求項11〜14に係る発明によれば、電源生成回路の出力電圧の異常を検出した場合に健全な電源生成回路から電源を供給することにより、短絡モードを確実に実現してシステム及び人体を保護することができる。
【0049】
請求項15に係る発明によれば、スイッチング素子をオンして負荷を短絡する動作を解除するための第2の閾値を直流母線電圧の規定電圧(安全電圧)近傍に設定することができ、直流母線から電源を生成する電源生成回路の動作最低電圧を高く設定可能として回路の小型化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本発明の第1実施形態を示すブロック図である。
図2図1における主要部の構成図である。
図3】本発明の第2実施形態を示すブロック図である。
図4】本発明の第3実施形態を示すブロック図である。
図5】本発明の第2,第3実施形態における直流母線電圧、各閾値の大小関係、上(下)アーム短絡信号及び急速放電制御信号の説明図である。
図6】本発明の第4実施形態を示すブロック図である。
図7】先行技術における直流母線電圧、各閾値の大小関係、上(下)アーム短絡信号及び急速放電制御信号の説明図である。
図8】インバータ及び回転電機等からなる電機システムの構成図である。
図9】特許文献1に記載された従来技術を示す回路図である。
図10】特許文献2に記載されたインバータの一相分のブロック図である。
図11】特許文献2に記載されたインバータの全体構成を示すブロック図である。
図12】特許文献3に記載されたインバータの全体構成を示すブロック図である。
図13】特許文献3に記載されたインバータにおける制御電源喪失時の動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。図1は、第1実施形態に係る電力変換装置の主要部を示すブロック図である。
図1では、便宜的にインバータの主回路一相分とその制御装置とが示されており、例えば三相インバータにおける他の二相のスイッチング素子や負荷が省略されているが、他の二相のスイッチング素子の駆動回路に対しても、図1に示す制御装置から並列的に電源を供給することができる。
なお、図1では、後述する低圧側電源生成回路8及び下アーム側駆動回路用電源回路12b以降の電源供給経路を太線にて示すこととする。
【0052】
図1において、高圧電源1の正負極間には、コンタクタ等の高圧電源用スイッチ2と平滑コンデンサ3とが直列に接続され、平滑コンデンサ3には、インバータの一相分のスイッチング素子4,5が直列に接続されている。また、11aは上アーム側駆動回路、11bは下アーム側駆動回路である。
上アーム側駆動回路11aには、後述する上アーム側駆動回路用電源回路12aから電源が供給され、下アーム側駆動回路11bには、平滑コンデンサ3の両端に接続された下アーム側駆動回路用電源回路12bから電源が供給されている。
各電源回路12a,12bは、それぞれの入力電圧を所定の電圧に変換して駆動回路11a,11bに供給する機能を備えている。
【0053】
一方、低圧電源6の正負極間には、低圧電源用スイッチ7を介して、低圧側電源生成回路8と上アーム側駆動回路用電源回路12aとが並列に接続されている。低圧側電源生成回路8からは、第1の制御回路9及び第2の制御回路10に電源が供給されている。また、第2の制御回路10には、平滑コンデンサ3の両端に接続された制御回路用補助電源8cからも電源が供給されている。
図示されていないが、低圧電源6を電源供給元とする電源回路12aを下アーム側駆動回路用電源回路として下アーム側駆動回路11bに電源を供給し、高圧電源1を電源供給元とする電源回路12bを上アーム側駆動回路用電源回路として上アーム側駆動回路11aに電源を供給しても良い。
【0054】
第1の制御回路9は、スイッチング素子4,5をオン・オフさせるための制御信号15a,15bと、低圧側電源生成回路8への供給電圧(低圧電源6の電圧)や第1の制御回路9への供給電圧または第1の制御回路9自身の異常を知らせる異常検出信号17と、を生成する機能を有する。これらの信号15a,15b,17は、第2の制御回路10に送られている。
上アームのスイッチング素子4に対する制御信号15aは、第2の制御回路10及び制御信号伝送回路13aを介して駆動回路11aに送られ、下アームのスイッチング素子5に対する制御信号15bは、第2の制御回路10及び制御信号伝送回路13bを介して駆動回路11bに送られている。
【0055】
また、駆動回路11a,11bは、自己に供給される電源の異常を示す異常検出信号16a,16bを生成し、それぞれ、異常信号伝送回路14a,14bを介して第1の制御回路9に伝送する。
上記の「自己に供給される電源の異常」とは、各電源回路12a,12bを介して検出された低圧電源6や高圧電源1の異常、低圧側電源生成回路8の異常、電源供給線路の断線等による異常、電源回路12a,12bの異常等を含む。
【0056】
ここで、一般的に、制御回路の基準電位とスイッチング素子の基準電位とは異なるため、図1に示すように、回路を構成するブロックごとに基準電位が分離されている。
すなわち、Gは低圧電源6、低圧側電源生成回路8、第1の制御回路9、第2の制御回路10、及び、伝送回路13a,13b,14a,14bの低圧側を含む基準電位、Gは伝送回路13a,14aの高圧側の基準電位、Gは伝送回路13b,14bの高圧側の基準電位、Gは主回路の基準電位である。
【0057】
制御信号伝送回路13a,13bは、基準電位がGである制御信号15a,15bを絶縁してそれぞれ異なる基準電位G,Gを持つ信号に変換し、駆動回路11a,11bに伝送する。また、異常信号伝送回路14a,14bは、それぞれ異なる基準電位G,Gを持つ異常検出信号16a,16bを絶縁して同一の基準電位Gを持つ信号に変換し、第1の制御回路9に伝送する。
【0058】
通常、伝送回路13a,13b,14a,14bを構成する信号絶縁回路には、光絶縁手段や磁気絶縁手段を用いた回路部品が用いられるが、これらの回路部品には、絶縁部を介した高圧側と低圧側とに、それぞれ電源を供給する必要がある。
図1では、伝送回路13a,13b,14a,14bの低圧側及び高圧側への電源供給手段が示されていないが、これらの電源供給手段は、例えば以下のように構成すれば良い。
【0059】
すなわち、伝送回路13a,14aの低圧側は、低圧電源6から供給するか、あるいは、低圧電源6と高圧電源1とを供給元として(高圧電源1については絶縁したうえで)、両電源1,6から供給すれば良い。伝送回路13a,14aの高圧側は、低圧電源6を供給元として絶縁して供給すれば良い。
また、伝送回路13b,14bの低圧側は、高圧電源1を供給元として絶縁したうえで供給するか、あるいは、低圧電源6と高圧電源1とを供給元として(高圧電源1については絶縁したうえで)、両電源1,6から供給すれば良い。伝送回路13b,14bの高圧側は、高圧電源1から供給すれば良い。
ここで、各伝送回路に対し、高圧電源1と低圧電源6との両方を電源供給元として電源を供給する手段としては、後述する第2の制御回路10に対する電源供給手段と同様のものを適用することができる。
【0060】
次に、図2は、図1における主要部の構成図であり、主として第2の制御回路10の構成を示している。
図2に示すように、低圧電源6を電源供給元として低圧側電源生成回路8により生成した電圧と、高圧電源1を電源供給元として制御回路用補助電源8cにより生成した電圧とを、ダイオード18,19により突き合わせて処理部10aに入力する。
【0061】
この時、例えば、低圧側電源生成回路8により生成される電圧Vを5.0[V]、制御回路用補助電源8cにより生成される電圧V8cを5.0[V]より低い電圧、例えば4.5[V]にしておけば、低圧側電源生成回路8の正常時にはこの低圧側電源生成回路8から処理部10aに電源を供給することができる。また、低圧電源6や低圧側電源生成回路8に異常が発生して電源供給が不能になった時には、制御回路用補助電源8cから処理部10aに電源を供給することができる。
図2において、20は電圧Vの検出信号、21は電圧V8cの検出信号、22は低圧電源6の電圧の検出信号を示す。
【0062】
また、低圧側電源生成回路8及び制御回路用補助電源8cによる生成電圧をダイオード18,19によって突き合わせるだけでなく、以下のような方法を用いても良い。すなわち、低圧側電源生成回路8及び制御回路用補助電源8cにそれぞれスイッチ(図示せず)を設け、低圧側電源生成回路8による生成電圧に異常が検出された場合には上記スイッチを動作させて低圧側電源生成回路8からの電源供給を遮断し、制御回路用補助電源8cから処理部10aに電源を供給しても良い。
【0063】
ここで、処理部10aには、上述したように高圧電源1から制御回路用補助電源8cを介して電源を供給することができる。従って、仮に低圧電源6の異常や第1の制御回路9の異常、または、低圧側電源生成回路8から第1の制御回路9への供給電圧の異常等が発生した場合には、高圧電源1を電源供給元として、スイッチング素子4または5をオンさせて短絡モードを実現するための制御信号15a,15bを生成し、制御信号伝送回路13a,13bを介して駆動回路11a,11bに伝送することが可能になっている。
【0064】
次に、この実施形態の全体的な動作を説明する。
前述したように、本実施形態では、駆動回路11a,11b用の電源回路12a,12bの電源供給元が、低圧電源6と高圧電源1とに分離されている。このため、各電源6,1や低圧側電源生成回路8、電源回路12a,12bを含む電源供給経路が何れも正常である場合には、駆動回路11a,11bがそれぞれ制御信号15a,15bに応じてスイッチング素子4,5をオン・オフ動作させる。
【0065】
また、例えば、上アーム側の電源回路12aに異常(低圧電源6との間の接続線の断線等による異常も含む)が発生した場合には、駆動回路11aに電源が供給されなくなってスイッチング素子4の制御は不能になるが、下アーム側の電源回路12bが正常に動作していれば(電源回路12a,12b等を含む電源供給経路が同時に異常となる確率は極めて低いという前提による)、駆動回路11bの動作によってスイッチング素子5をオンさせることが可能である。よって、三相インバータの場合には、上記動作を行って三相全ての下アームのスイッチング素子5をオンさせれば、負荷である回転電機の巻線を短絡させる短絡モードを実現してシステムを保護することができる。
下アーム側の電源回路12bを含む電源供給経路に異常が発生した場合には、正常な上アーム側の電源回路12a及び駆動回路11aによりスイッチング素子4をオンさせれば、同様に短絡モードを担保することができる。
【0066】
電源回路12a,12bのうちのどちらに異常が発生したかについては、異常検出信号16a,16bが入力される第1の制御回路9によって判別可能であり、第1の制御回路9は、その結果に応じて適切な制御信号15a,15bを生成することができる。
これらの制御信号15a,15bは、低圧側電源生成回路8または制御回路用補助電源8cから電源が供給される第2の制御回路10内の処理部10aにより中継され、制御信号伝送回路13a,13bを介して駆動回路11a,11bに送出される。
【0067】
また、第2の制御回路10に、低圧電源6の電圧や第1の制御回路9への供給電圧または第1の制御回路9自身の異常を知らせる異常検出信号17が入力された場合には、制御回路用補助電源8cから電源が供給されている処理部10aが、高圧電源1側の駆動回路11bに対する制御信号15bを生成してスイッチング素子5をオンさせるように制御すれば良い。
ここで、処理部10aが行う上記の処理は限定的なものであることから、処理部10aに対する電源の冗長化に必要な電源の容量も少なくて済み、回路規模が増加するおそれはない。
【0068】
なお、駆動回路11a,11bが電源回路12a,12bを含む電源供給経路の異常以外の異常を検出した場合でも、前記同様の動作によって短絡モードを実現することができる。
【0069】
以上のように、第1実施形態によれば、電源生成回路や電源回路の異常、電源回路または制御回路等への供給電圧の異常発生時に、健全側の電源回路及び駆動回路を動作させてスイッチング素子を制御することにより、負荷としての回転電機の巻線を短絡する短絡モードを確実に実現することができる。
また、電源や電源回路を必要以上に冗長化することもなく、最小限の回路規模、絶縁距離のもとで装置全体の小型化を図ることができる。
【0070】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。図3は、この第2実施形態を示すブロック図である。図3において、図1と同じ機能を有する部分には同じ参照符号を付して説明を省略し、以下では図1との相違点を中心に説明する。
【0071】
図3には、負荷としての永久磁石同期電動機PMの一相の固定子巻線に接続された上下アームのスイッチング素子及び制御装置が示されているが、他の二相のスイッチング素子の駆動回路に対しても、図3に示す制御装置から並列的に電源を供給すれば良い。
なお、以下の実施形態では、低圧側電源生成回路8及び後述の高圧側電源生成回路35以降の電源供給経路を太線にて示すこととする。
【0072】
図3において、主回路の平滑コンデンサ3には電圧検出回路31が並列に接続されている。また、平滑コンデンサ3には、スイッチング素子33と放電抵抗34とを直列に接続してなる放電回路が並列に接続されている。
スイッチング素子33は放電用駆動回路32によって駆動されるものであり、この放電用駆動回路32には、制御信号伝送回路37を介して放電制御信号24が入力されている。放電用駆動回路32の電源は、下アーム側駆動回路用電源回路12bから供給されている。
【0073】
主回路の正負の直流母線間には高圧側電源生成回路35が接続され、その出力電圧は、第2の低圧側電源生成回路38、及び、下アーム側駆動回路用電源回路12bに入力されている。
また、電圧検出回路31から出力された電圧検出信号23は、制御信号伝送回路36を介して第1の制御回路9及び第2の制御回路10に入力されている。
ここで、上アーム側駆動回路用電源回路12a,下アーム側駆動回路用電源回路12b、及び高圧側電源生成回路35は、多出力トランスを用いて一つにまとめても良い。
【0074】
一方、低圧側の第1の制御回路9には、第1の低圧側電源生成回路8からの電源電圧が供給されると共に、高圧側電源生成回路35及び第2の低圧側電源生成回路38によりそれぞれ生成された電源電圧を検出する信号が入力されている。また、第1の制御回路9には、上位の制御装置から出力されるシステム構成機器や回路の異常検出信号が上位信号として入力されている。この上位信号には、図1と同様に、上アーム側駆動回路11a及び下アーム側駆動回路11bからの異常検出信号16a,16bを含めても良い。
【0075】
第2の制御回路10には、第2の低圧側電源生成回路38により生成された電源が供給されると共に、第1の低圧側電源生成回路8により生成された電源電圧を検出する信号が入力されている。また、第2の制御回路10には、制御信号15a,15b、電圧検出信号23及び異常検出信号17が入力され、第2の制御回路10からは、3ステートバッファ39に対する制御信号25と、制御信号伝送回路37に対する放電制御信号24とが出力される。
【0076】
3ステートバッファ39には、第1の低圧側電源生成回路8から電源が供給され、第2の制御回路10からの制御信号25に応じて、上アーム側駆動回路11a用の制御信号15aを「High」レベル、「Low」レベル、「Highインピーダンス状態」に切り替えて出力する。
第2の低圧側電源生成回路38により生成された電源はオア回路40にも供給され、オア回路40は、第1の制御回路9または第2の制御回路10から出力される下アーム側駆動回路11b用の制御信号15bを出力する。
【0077】
次に、この第2実施形態の動作を説明する。
高圧電源1及び低圧電源6を含む全ての回路が正常である場合、上アーム側駆動回路11aには、第1の低圧側電源生成回路8、上アーム側駆動回路用電源回路12aを介して電源が供給され、下アーム側駆動回路11b及び放電用駆動回路32には、高圧側電源生成回路35、下アーム側駆動回路用電源回路12bを介して電源が供給されている。また、第1の制御回路9には第1の低圧側電源生成回路8から電源が供給され、第2の制御回路10には第2の低圧側電源生成回路38から電源が供給されている。
【0078】
第1の制御回路9または第2の制御回路10は、電圧検出回路31からの電圧検出信号23に基づいて直流母線電圧が所定の閾値を超えたことを検出すると、上アーム側駆動回路11aまたは下アーム側駆動回路11bによりスイッチング素子4,5を制御して同期電動機PMの巻線を短絡させるための制御信号を生成する。また、第2の制御回路10は、放電用駆動回路32を介して放電回路(スイッチング素子33及び放電抵抗34)を動作させるための放電制御信号24を生成する。
【0079】
仮に、高圧電源1の異常(電源喪失を含む)や高圧側電源生成回路35の異常が発生したとしても、低圧電源6や第1の低圧側電源生成回路8、第1の制御回路9が正常である限り、第1の制御回路9を介して上アーム側駆動回路用電源回路12aにより上アームのスイッチング素子4を制御して同期電動機PMの巻線を短絡させるための制御信号を生成することが可能である。更に、高圧電源1に異常が発生しても平滑コンデンサ3にエネルギーが残っている限り、高圧側電源生成回路35及び下アーム側駆動回路用電源回路12bが正常であれば、下アーム側駆動回路11bに電源を供給して下アームのスイッチング素子5を制御することができる。
【0080】
また、低圧電源6の異常(電源喪失を含む)や第1の低圧側電源生成回路8の異常が発生した場合には、上アーム側駆動回路用電源回路12a及び上アーム側駆動回路11aに電源が供給されなくなり、上アームのスイッチング素子4は制御不能になる。
しかし、高圧電源1や高圧側電源生成回路35、下アーム側駆動回路用電源回路12b、下アーム側駆動回路11bが正常である限り、下アームのスイッチング素子5は制御可能であるから、同期電動機PMの巻線を短絡させる動作に支障は生じない。更に、下アーム側駆動回路用電源回路12bには、高圧電源1から間接的に電源を供給可能であるから、下アーム側駆動回路用電源回路12bが正常である限り、放電用駆動回路32には常に電源を供給することができ、放電回路の動作による平滑コンデンサ3の放電も可能となっている。
【0081】
上記のように、この実施形態では、上アーム側駆動回路11a及び下アーム側駆動回路11bに対する電源供給経路が分離されている。また、高圧電源1による電源供給経路と低圧電源6による電源供給経路とが同時に異常となる確率は極めて低いので、電源生成回路等を必要以上に冗長化する必要がない。従って、スイッチング素子4または5による短絡モードを常に実現可能として信頼性や安全性を向上させることができる。
更に、三相インバータを構成する他の二相の上下アームのスイッチング素子の駆動回路に対しても図3の制御装置から並列的に電源を供給可能であるから、特許文献2(図11)のように相ごとに電源生成回路を備える必要がなく、制御装置全体の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0082】
次いで、本発明の第3実施形態を図4に基づいて説明する。図4は、この第3実施形態を示すブロック図であり、以下では図3との相違点を中心に説明する。
図4の第3実施形態では、第1の低圧側電源生成回路8の正側出力端子と高圧側電源生成回路35の正側出力端子との間に、単方向スイッチ42が接続されている。また、高圧側電源生成回路35の正側出力電圧が所定の閾値を下回ったことを検出する電圧監視回路41が設けられ、この電圧監視回路41の出力信号によって単方向スイッチ42がオンするように構成されている。
【0083】
この第3実施形態では、例えば高圧電源1や高圧側電源生成回路35に異常が発生した場合や、これらの電源供給経路による電源供給のタイミング遅れによって高圧側電源生成回路35の正側出力電圧が所定の閾値を下回った時に、単方向スイッチ42がオンする。これにより、第1の低圧側電源生成回路8による電源電圧が単方向スイッチ42を介して下アーム側駆動回路用電源回路12bに供給されるため、下アーム側駆動回路11bに対する電源供給経路を確保することができる。
従って、高圧電源1側の異常発生時だけでなく、高圧電源投入後におけるインバータの起動待ち時間の短縮が可能である。
【0084】
ここで、図5は、本発明の第2,第3実施形態における直流母線電圧、各閾値の大小関係、上(下)アーム短絡信号及び急速放電制御信号の説明図である。図5において、短絡オン閾値は、上(下)アームのスイッチング素子をオンさせて同期電動機PMの巻線を短絡させるための第1の閾値に相当し、短絡オフ閾値は、前記短絡動作を解除するための第2の閾値に相当する。
これらの実施形態では、短絡オフ閾値を規定電圧(安全電圧)の近傍に設定可能として、直流母線電圧(高圧電源1)から電源を生成する高圧側電源生成回路35の動作最低電圧V図7のVに比べて高く設定することができる。
【0085】
次に、本発明の第4実施形態を説明する。図6は、この第4実施形態を示すブロック図である。
第4実施形態では、第2,第3実施形態に比べて構成が簡略化されており、主回路における放電回路(図3図4のスイッチング素子33,放電抵抗34)や放電用駆動回路32、電圧検出回路31のほか、制御装置における高圧側電源生成回路35、制御信号伝送回路36,37、第1,第2の低圧側電源生成回路8,38等が除去されている。
【0086】
図6において、低圧電源6には低圧電源用スイッチ7を介して上アーム側駆動回路用電源回路12a及び下アーム側駆動回路用電源回路12bが接続されている。上アーム側駆動回路用電源回路12aによって生成された電源電圧は、上アーム側駆動回路11a、第1の制御回路9、及び3ステートバッファ39に供給され、更に、この電源電圧を検出する信号が第2の制御回路10に入力されている。
下アーム側駆動回路用電源回路12bによって生成された電源電圧は、下アーム側駆動回路11b、第2の制御回路10、及びオア回路40に供給され、更に、この電源電圧を検出する信号が第1の制御回路9に入力されている。
【0087】
この実施形態においては、低圧電源6が正常である限り、上アーム側駆動回路用電源回路12a及び下アーム側駆動回路用電源回路12bが同時に異常になる確率は極めて低いため、上アーム側駆動回路11aまたは下アーム側駆動回路11bの動作によりスイッチング素子4またはスイッチング素子5をオンさせて同期電動機PMの巻線を短絡することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、上下アームのスイッチング素子を個別の駆動回路によってそれぞれ駆動するようにしたインバータやコンバータ等、各種の電力変換装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1:高圧電源
2:高圧電源用スイッチ
3:平滑コンデンサ
4,5:半導体スイッチング素子
6:低圧電源
7:低圧電源用スイッチ
8:低圧側電源生成回路
8c:制御回路用補助電源
9:第1の制御回路
10:第2の制御回路
10a:処理部
11a:上アーム側駆動回路
11b:下アーム側駆動回路
12a:上アーム側駆動回路用電源回路
12b:下アーム側駆動回路用電源回路
13a,13b:制御信号伝送回路
14a,14b:異常信号伝送回路
15a,15b:制御信号
16a,16b,17:異常検出信号
18,19:ダイオード
20,21,22,23:電圧検出信号
24:放電制御信号
31:電圧検出回路
32:放電用駆動回路
33:スイッチング素子
34:放電抵抗
35:高圧側電源生成回路
36,37:制御信号伝送回路
38:低圧側電源生成回路
39:3ステートバッファ
40:オア回路
41:電圧監視回路
42:単方向スイッチ
PM:永久磁石同期電動機
図1
図2
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図5
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図13