特許第6519737号(P6519737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6519737ガラス板合紙用木材パルプ及びガラス板用合紙
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6519737
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】ガラス板合紙用木材パルプ及びガラス板用合紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/63 20060101AFI20190520BHJP
   B32B 17/12 20060101ALI20190520BHJP
   B65D 85/48 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   D21H17/63
   B32B17/12
   B65D85/48
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-73025(P2015-73025)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-191180(P2016-191180A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年9月26日
【審判番号】不服2018-7205(P2018-7205/J1)
【審判請求日】2018年5月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507369811
【氏名又は名称】特種東海製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】浅井 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 泰栄
【合議体】
【審判長】 井上 茂夫
【審判官】 門前 浩一
【審判官】 竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−118663(JP,A)
【文献】 特開2008−297661(JP,A)
【文献】 特開2008−143542(JP,A)
【文献】 特開2003−41498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00-D21J 7/00
D06N 1/00-7/06
B65D 57/00-59/08
B65D 81/00-81/17
B65D 85/30-85/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板合紙用木材パルプであって、
前記木材パルプを用いてJIS P 8222に準拠した方法で調製された手すき紙の表面に存在する、粒径20μm以上の、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム及びケイ酸アルミニウムからなる群から選択される1種以上のアルミニウム系化合物の割合が25個/m以下であるガラス板合紙用木材パルプ。
【請求項2】
前記アルミニウム系化合物の平均粒径が20〜300μmである、請求項1記載のガラス板合紙用木材パルプ。
【請求項3】
前記ガラス板がディスプレイ用である請求項1又は2記載のガラス板合紙用木材パルプ。
【請求項4】
前記ディスプレイがTFT液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイである請求項3記載のガラス板合紙用木材パルプ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のガラス板合紙用木材パルプからなるガラス板合紙。
【請求項6】
ガラス板合紙の製造のための請求項1乃至4のいずれかに記載の木材パルプの使用。
【請求項7】
木材パルプを原料とするガラス板用合紙であって、
表面に存在する、粒径20μm以上の、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム及びケイ酸アルミニウムからなる群から選択される1種以上のアルミニウム系化合物の割合が20個/m以下のガラス板用合紙。
【請求項8】
前記アルミニウム系化合物の平均粒径が20〜300μmである、請求項7記載のガラス板用合紙。
【請求項9】
前記ガラス板がディスプレイ用である請求項7又は8記載のガラス板用合紙。
【請求項10】
前記ディスプレイがTFT液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイである請求項9記載のガラス板用合紙。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれかに記載のガラス板用合紙及びガラス板からなる積層体。
【請求項12】
請求項7乃至10のいずれかに記載のガラス板用合紙を複数のガラス板の間に挿入する工程を含む、ガラス板の保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の運搬や保管をする過程において、ガラス板を包装する紙、及び、ガラス板の間に挟み込む紙(合紙)、並びに、これらの紙の製造に使用される木材パルプに関するものである。特に、本発明は、液晶パネルディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイ等のフラットパネル・ディスプレイ用のガラス合紙として好適に用いることができる紙に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラス板を複数枚積層して保管する過程、トラック等で運搬する流通過程等において、ガラス板同士が衝撃を受けて接触してガラス板の表面に割れ、傷等が発生するおそれがある。
【0003】
特にフラットパネル・ディスプレイ用のガラス板は、一般の建築用窓ガラス板、車両用窓ガラス等に比べて、高精細ディスプレイ用に使用されることから、ガラス表面は割れ、傷等が無くクリーンな表面を保持していること、また、高速応答性や視野角拡大のために平坦度に優れていること、が求められる。例えば、ガラス板の表面の割れ、傷等が微小なものであっても、当該箇所では素子が形成されない、配線が切断される、等の問題がある。そのため、ガラス表面の割れ、傷等を防止する目的でガラス板の間に合紙(ガラス合紙)を挟み込む方法がある。
【0004】
このような用途で使用されるガラス合紙として、ガラス板の割れ又は表面の傷つきを防止できる合紙、また、ガラス表面を汚染しない合紙がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、合紙の表面にフッ素コーティング皮膜を形成する手法が開示されている。また、特許文献2にはポリエチレン系樹脂製発泡シートとポリエチレン系樹脂製フィルムが貼合された合紙が、特許文献3にはさらしケミカルパルプ50質量%以上を含有するパルプからなる紙であって、特定のアルキレンオキサイド付加物や水可溶性ポリエーテル変性シリコーンを含有するガラス用合紙が、特許文献4には、紙中の樹脂分の量を規定し、ガラス表面の汚染対策に考慮した原料を使用したガラス合紙がそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−188785号公報
【特許文献2】特開2010−242057号公報
【特許文献3】特開2008−208478号公報
【特許文献4】特開2006−44674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ガラス板の割れ、傷等を防止する目的で合紙を使用しても、これらを完全に防ぐことができるわけではなく、場合によっては、何らかの原因によるガラス板表面の割れ、傷等、更には、ガラス板表面の汚染のため、ガラス板の欠陥率が上昇することがあるのが実状である。
【0007】
特にフラットパネル・ディスプレイ用に使用されるガラス板は、その表面に微少な割れ及び傷、又は、汚染が存在すると断線や短絡が生じる可能性が高まるため、従来のガラス合紙よりもガラス板に与える割れ及び傷、及び、汚染が少ない合紙が求められている。また、ガラス板表面が画像表示面となるため、綺麗さや美麗さも求められ、この点からも割れ、傷、汚染等が少ないことが必要となる。そして、これら割れ、傷、汚染等によって不良率が上がると採算性の観点からも問題となるため、フラットパネル・ディスプレイ用に使用されるガラス板表面の割れ、傷、汚染等をいかに防止するか、いかに高い歩留まりを実現するか、が大きな課題となっている。
【0008】
そこで本発明は、高い傷品位が要求されるフラットパネル・ディスプレイ用の基板材料として用いられるガラス板について、ガラス表面の割れ、傷、汚染等を格段に防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
例えばTFT液晶ディスプレイの製造工程の一つであるアレイ工程のカラーフィルター基板作製時に、ガラス板表面に割れ、傷、汚染等がある場合、断線等の問題が生じるおそれがある。カラーフィルター基板は、ガラス板に半導体膜、ITO膜(透明導電膜)、絶縁膜、アルミ金属膜等の薄膜をスパッタリングや真空蒸着法等で形成して作製されるが、ガラス板表面に割れ、傷、汚染等が存在すると薄膜から形成した回路パターンに断線が生じたり、絶縁膜の欠陥による短絡が生じる可能性が高まるからである。また、カラーフィルター基板の作製において、ガラス板にフォトリソグラフィによるパターンを形成するが、この工程でレジスト塗布時のガラス板面に割れ、傷、汚染等が存在すると、露光や現像後のレジスト膜にピンホールや部分的な欠陥が生じ、その結果断線や短絡が生じるおそれがある。このようなガラス板の割れ、傷、汚染等の原因は特定が困難であったが、ガラス合紙表面に存在するアルミニウム系固体無機物質とガラス板表面に発生する割れ、傷、汚染等に相関があることが本発明者らの検証によって初めて判明した。特に、このアルミニウム系固体無機物質が微小なものであってもガラス板表面を傷つけ、ガラス板や合紙が動いたりする際に引っ掻き傷となって微細な傷が長く傷跡として残ることが見出された。
【0010】
そして、本発明者らは、ガラス板用合紙の表面に現れる問題となりうるアルミニウム系固体無機物質を低減することによって、又は、ガラス板用合紙の製造に使用される木材パルプに含まれるアルミニウム系固体無機物質の量を低減することで最終的にガラス板用合紙の表面に現れる問題となりうるアルミニウム系固体無機物質を低減することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明の第一の態様は、ガラス板合紙用木材パルプであって、
前記木材パルプを用いてJIS P 8222に準拠した方法で調製された手すき紙の表面に存在するアルミニウム系固体無機物質の割合が25個/m以下であるガラス板合紙用木材パルプに関する。
【0012】
前記アルミニウム系固体無機物質の平均粒径は20〜300μmであることが好ましい。
【0013】
前記アルミニウム系固体無機物質は水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム及びケイ酸アルミニウムからなる群から選択される1種以上のアルミニウム系化合物を含みうる。
【0014】
前記ガラス板はディスプレイ用であることが好ましく、特にディスプレイがTFT液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイであることが好ましい。
【0015】
本発明の第二の態様は、木材パルプを原料とするガラス板用合紙であって、
表面に存在するアルミニウム系固体無機物質の割合が20個/m以下のガラス板用合紙に関する。
【0016】
前記アルミニウム系固体無機物質の平均粒径は20〜300μmであることが好ましい。
【0017】
前記アルミニウム系固体無機物質は水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム及びケイ酸アルミニウムからなる群から選択される1種以上のアルミニウム系化合物を含みうる。
【0018】
前記ガラス板はディスプレイ用であることが好ましく、特にディスプレイがTFT液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイであることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、本発明の第一の態様の前記木材パルプからなるガラス板合紙、及び/又は、本発明の第二の態様の前記ガラス板用合紙及びガラス板との積層物にも関する。
【0020】
更に、本発明は、ガラス板合紙、特に本発明の第二の態様のガラス板合紙、の製造のための本発明の第一の態様の前記木材パルプの使用、並びに、本発明の第二の態様のガラス板合紙を複数のガラス板の間に挿入する工程を含む、ガラス板の保護方法にも関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の木材パルプからなるガラス板合紙並びに本発明のガラス板用合紙は、ガラス板に長時間接触してもガラス板の表面に問題となる割れ、傷を付けることがなく、また、ガラス板表面を汚染することがない。
【0022】
すなわち、本発明の木材パルプからなるガラス板合紙又は本発明の合紙をガラス板に用いると、合紙がガラス板表面に接触してもガラス板表面の割れ、傷、汚染等の発生を防止できるため、特にフラットパネル・ディスプレイ用のガラス板の生産歩留まりを向上させることができる。そして、本発明のガラス合紙はガラス板の割れ、傷、汚染等の発生を極力抑えることができる。これにより、例えばTFT液晶の製造工程においてカラーフィルム等の回路断線を防止することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ガラス板へ合紙が使用される際に、合紙表面のアルミニウム系固体無機物質がガラス板に接触して当該ガラス板の割れ、傷、汚染等の原因となる傾向があり、特に、表面に存在するアルミニウム系固体無機物質の数が25個/mを超える紙を調製しうる木材パルプからなる合紙、或いは、表面に存在するアルミニウム系固体無機物質の数が20個/mを超える合紙をガラス板に使用すると、ガラス板表面に発生する微少な割れ、傷、汚染等が著しく増加し、その結果、パネル形成時の問題を引き起こすことが今回明らかとなった。
【0024】
したがって、本発明のガラス板合紙用木材パルプは、
前記木材パルプを用いてJIS P 8222に準拠した方法で調製された手すき紙の表面に存在するアルミニウム系固体無機物質の割合が25個/m以下である。20個/m以下が好ましく、15個/m以下がより好ましく、10個/m以下が更により好ましい。
【0025】
前記手すき紙の厚みは、0.01〜2mmであることが好ましく、0.05〜1mmであることがより好ましく、0.05〜0.2mmであることが更により好ましい。
【0026】
前記手すき紙の坪量は、20〜80g/mであることが好ましく、25〜70g/mであることがより好ましく、30〜60g/mであることが更により好ましい。
【0027】
アルミニウム系固体無機物質は、アルミニウム元素を含んでおり固体の状態にある。ここで「固体」とは常圧(1気圧)下、且つ、常温(25℃)の状態で固体の状態にあることを意味している。したがって、前記アルミニウム系固体無機物質の融点は25℃を超えており、50℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上が更により好ましい。
【0028】
アルミニウム系固体無機物質のモース硬度は4以上であることが好ましい。モース硬度とは、硬さの指標を10段階で表したものであり、それぞれに対応する標準物質と測定する物質とを擦り、傷がつくかどうかで標準物質に対する硬さの大小を相対的に評価した値である。標準物質は、柔らかいもの(モース硬度1)から硬いもの(モース硬度10)の順に、1:滑石、2:石膏、3:方解石、4:蛍石、5:燐灰石、6:長石、7:石英、8:トパーズ、9:コランダム、10:ダイヤモンドである。モース硬度の測定方法は、表面の平滑なモース硬度既知の板2枚を用意し、測定したいアルミニウム系固体無機物質を2枚の板の間に挟み、両方の板をこすり合わせて板表面の傷の発生有無を調べる。
【0029】
前記アルミニウム系固体無機物質の種類は限定されるものではないが、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム及びケイ酸アルミニウムからなる群から選択される1種以上のアルミニウム系化合物を含むことが好ましい。
【0030】
本発明では、アルミニウム系固体無機物質の体積は0.03mm未満に制御することが好ましく、0.01mm未満がより好ましく、0.001mmが更により好ましく、0.0001mmが更により好ましいい。アルミニウム系固体無機物質は汚れとは異なり、立体物として合紙の表面や内部に存在して問題を引き起こす。特に、アルミニウム系固体無機物質の大きさが0.03mm以上になると、当該ガラス合紙を使用した際にアルミニウム系固体無機物質がガラス板表面と接触して傷又は割れを残す可能性が高くなる傾向にある。例えば、ガラス合紙とガラス板を積層した際に、ガラス板の重量によって合紙表面に存在するアルミニウム系固体無機物質が押圧される場合があるが、アルミニウム系固体無機物質の大きさが小さければ押圧されても合紙の紙中にアルミニウム系固体無機物質が埋没するのでガラス板表面に傷をつける可能性が下がる。なお、アルミニウム系固体無機物質は上記したように立体物であるので、特にその投影面積が小さくても高さのある場合には、ガラスやガラス合紙が動く際に発生するひっかき傷として目視できるような傷を残すおそれがある。逆に、その高さが低くても投影面積が大きい場合は、ガラス板の表面に傷をつけるおそれがあるのでやはり好ましくない。
【0031】
前記アルミニウム系固体無機物質は、球体積相当径の平均粒径が20〜250μmであることが好ましく、20〜200μmであることがより好ましく、20〜150μmであることが更により好ましく、20〜100μmであることが更により好ましく、20〜50μmであることが特に好ましい。球体積相当径とは、アルミニウム系固体無機物質の粒子を同体積の球に換算した場合の当該球の直径であり、レーザー回折法等によって測定することができる。
【0032】
本発明において使用可能な木材パルプは、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の木材パルプを単独あるいは混合したものである。針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)及び針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)が好ましい。この木材パルプを主体とし、必要に応じてこれに麻、竹、藁、ケナフ、楮、三椏や木綿等の非木材パルプ、カチオン化パルプ、マーセル化パルプ等の変性パルプ、レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリエステル等の合成繊維や化学繊維、またはミクロフィブリル化パルプを単独で、あるいは混合して併用することができる。ただし、パルプ中に樹脂分が多く含まれると、当該樹脂分がガラス板表面を汚す等の悪影響を及ぼす可能性があるので、できるだけ樹脂分の少ない化学パルプ、例えば針葉樹晒クラフトパルプを単独で使用することが好ましい。また、砕木パルプのような高収率パルプは、樹脂分が多く含まれるので好ましくない。なお、合成繊維や化学繊維を混合させると削刀性が向上し、合紙を平判にする際の作業性が向上するが、廃棄物処理の面においてリサイクル性が悪くなるので注意が必要である。
【0033】
また、本発明の性能を損なわない範囲で、上記した木材パルプを主体とした製紙用繊維に対して、必要に応じて接着剤、防黴剤、各種の製紙用填料、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤、サイズ剤、着色剤、定着剤、歩留まり向上剤、スライムコントロール剤等を添加し、次いで公知・既存の長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、長網と円網のコンビネーション抄紙機等で抄造して得ることができる。また、これら薬品添加の際には虫やごみ等が混入しないように細心の注意を要する。
【0034】
本発明の木材パルプを製造する際に、木材パルプの叩解を進めると紙層間強度が増す効果が期待できる。しかしながら、叩解を進めることによって木材パルプ中の微細繊維が増加すると、合紙として使用中に紙粉が発生する恐れがあるので、必要以上に叩解度を進めることは好ましくない。よって本発明において好ましい叩解度は300〜650mlc.s.f.である。
【0035】
本発明の木材パルプを用いてJIS P 8222に準拠した方法で調製された手すき紙の表面に存在するアルミニウム系固体無機物質の割合を25個/m以下とするためには、原料となるパルプ、製紙用薬品、填料等の製紙用原材料の吟味と管理、及び、抄造時における原料の調製工程から仕上げ工程まで全般を含む一連の工程管理が重要となるが、特に、原料となる木材パルプがアルミニウム系固体無機物質等の異物を多く含まないことが重要である。異物の少ない木材パルプを原料として使用することによって、本発明の木材パルプ及びガラス合紙を製造することができる。
【0036】
一般に、木材パルプ中には種々の異物が含有されている。例えば、木材パルプの原料となる木材由来の異物、パルプ製造時の蒸解薬品に由来する異物や未晒洗浄工程で用いられる薬品に由来する異物、古紙原料由来の金属異物、あるいは各工程で使用される水由来の異物などが原因として挙げられる。そのため、本発明では、ガラス合紙の原料となるパルプの洗浄および精選が重要となり、異物を高レベルで除去する必要がある。
【0037】
一般にパルプ製造の工程では、木材チップを蒸解して得られたパルプを脱リグニン処理した後、パルプを洗浄し、更に漂白する。そこで、まずは木材チップの段階でチップの異物除去および洗浄しておく。例えばチップウォッシャー等の公知の異物除去システムで金属や砂などの異物を除去しておくことが好ましい。また、パルプ製造工程中において、蒸解後の洗浄の目的はパルプ液に残存する蒸解薬液やリグニン分解物や有色成分の除去であるが、同時に異物を除去することも可能である。例えば真空式フィルタ洗浄機、加圧ドラム式フィルタ洗浄機、プレス型洗浄機及びディフューザー洗浄機等の各種洗浄装置を用いた向流洗浄方式等の公知の方法が採用できる。特に、異物を除去しパルプの清浄度を向上させるために、使用する洗浄水の量を増加させたり、2段以上のすすぎ洗浄段数を有する多段洗浄方式とすることが好ましい。なお、洗浄時に用いる界面活性剤、pH調整剤、ピッチコントロール剤、キレート剤、消泡剤等の薬品として、異物の原因となる物質を使用しないことがより好ましい。例えば、消泡剤として用いられる鉱物油系消泡剤はガラス合紙の鉱物系の異物の原因となりうるので、鉱物油系消泡剤の使用量を抑えたり、他の消泡剤で代用することが好ましい。
【0038】
上記洗浄工程の後に漂白工程があり、ここでも異物を極力除去することが好ましい。例えば、漂白段ごとに洗浄装置を設置することが挙げられる。ここでも公知の洗浄機が使用でき、例えばプレッシャーディフューザー、ディフュージョンウォッシャ、加圧型ドラムウォッシャ、水平長網型ウォッシャ、プレス洗浄機等が使用できる。特にこれらを複数使用することで各種の異物を高度に除去することができる。なお、洗浄水にはアルカリ、酸、キレート剤、界面活性剤、消泡剤等の薬品を添加することもできるが、異物の原因となるものは使用しない方が好ましい。また、各工程間においても異物の混入を防止する策を講じることが好ましい。また、工程の最後に超純水等で洗浄することが好ましい。
【0039】
本発明において古紙パルプを原料として使用する場合は、古紙パルプ製造工程において、パルパーやスクリーンやクリーナー等で金属等の異物を高レベルで除去することが好ましい。
【0040】
本発明の木材パルプを使用して、抄紙工程を経る通常の方法により、ガラス板合紙、特に本発明のガラス板合紙、を得ることができる。また、通常の木材パルプであっても、例えば、上記の異物除去処理を行い、及び/又は、抄紙工程での後述する異物除去処理を行うことによって、本発明のガラス板合紙を得ることができる。なお、ガラス板合紙の抄造の途中および/または製造後でカレンダー処理、スーパーカレンダー処理、ソフトニップカレンダー処理、エンボス等の加工を行っても構わない。加工処理により、表面性や厚さを調整することができる。
【0041】
本発明のガラス板用合紙は、木材パルプを原料とするガラス板用合紙であって、
表面に存在するアルミニウム系固体無機物質の割合が20個/m以下である。15個/m以下が好ましく、10個/m以下がより好ましく、5個/m以下が更により好ましい。これにより、本発明のガラス板合紙は、ガラス板に使用しても、ガラス板表面に微少な割れ、傷、汚染等を形成し、その結果、パネル形成時の問題を引き起こすことがない。
【0042】
前記ガラス合紙の厚みは、0.01〜2mmであることが好ましく、0.05〜1mmであることがより好ましく、0.1〜0.5mmであることが更により好ましい。
【0043】
本発明のガラス板用合紙の坪量は、20〜80g/mであることが好ましく、25〜70g/mであることがより好ましく、30〜60g/mであることが更により好ましい。
【0044】
ガラス合紙に異物が混入する原因としては抄紙工程での混入がある。例えば、製紙用薬品に混入する場合や各種装置の素材が脱落して紙に混入する場合等が挙げられる。このような抄紙工程の異物の除去方法として、クリーナーやスクリーン装置等の除塵装置やその他洗浄装置を用いるとよい。本発明において、これらの除去方法には公知の装置が使用でき、例えば、遠心クリーナー、特重量クリーナー、中濃度クリーナー、軽量クリーナー、ホールスクリーン、スリットスクリーン、ヤンソンスクリーン、フラットスクリーン、その他洗浄機等が使用できる。また、紙料や白水の配管内からも異物が混入する可能性があるので、配管等を常に清浄に保つとよい。
【0045】
また、ガラス合紙の熱水抽出pHを調節してアルミニウム系固体無機物質の析出を低減乃至回避してもよい。
【0046】
本発明のガラス合紙は、JIS P−8133に準拠して測定した熱水抽出pHが3.5〜6.0であることが好ましい。この範囲に設計されたガラス板用合紙からは、アルミニウム系固体無機物質が著しく減少する一方で、熱水抽出pHが6.0を超えるとアルミニウム系固体無機物質が増加し、その結果、パネル形成時の問題を引き起こす傾向が強まる。これは、アルミニウムが水溶液のpHによってその安定状態が変わることが影響していると推測される。アルミニウムは酸性領域ではAl3+で存在するが、中性領域では水酸化アルミニウムとなって固形物として析出しやすい。この点を考慮して鋭意検討した結果、ガラス板用合紙の熱水抽出pHを上記の範囲に設計することで本発明のガラス板用合紙中のアルミニウム系無機固形物の存在を抑制することができる。なお、熱水抽出pHが3.5を下回るガラス板用合紙を設計した場合、抄紙条件が極端な酸性領域となるので合紙の地合が悪くなる等の問題が生じる。
【0047】
ガラス板用合紙の熱水抽出pHを3.5〜6.0とする手法に特に制限はなく、各種の酸性物質又はアルカリ性物質を使用することができる、例えば、ガラス板用合紙の製造工程における抄紙時において汎用される硫酸アルミニウムの内添量を調整するとよい。特に、通常の抄紙環境下であって他の酸性物質やアルカリ性物質を添加しない場合、硫酸アルミニウムをセルロース繊維の乾燥100重量部に対して0.5〜3.5重量部程度添加するとよい。もちろん、硫酸アルミニウムの配合量は、硫酸アルミニウムの配合前の白水のpHの程度によって適宜調整すればよい。硫酸アルミニウムの量は、乾燥した状態のセルロース繊維の100重量部に対して0.7〜3.5重量部が好ましく、1.0〜3.5重量部がより好ましく、1.2〜3.5重量部が更により好ましく、1.5〜3.5重量部が更により好ましく、2.0〜3.5重量部が特に好ましい。硫酸アルミニウム配合後の白水のpHは3.5〜5.8が好ましく、3.5〜5.3がより好ましく、3.5〜4.8が更により好ましく、3.5〜4.6が特に好ましい。
【0048】
上記範囲の熱水抽出pHとなるようにガラス板用合紙を抄紙した場合、白水中のアルミニウムは酸性領域でアルミニウムイオンとして存在するので、析出せず合紙中の固形異物にはなり難い。一方で、白水が中性領域であると水酸化アルミニウムや酸化アルミニウムとなって析出しやすい。そして、この水酸化アルミニウムが析出する過程で水中のケイ酸イオン等の無機イオンと更に融合してより体積の大きなケイ酸アルミニウム等を形成する。これらが合紙中の固形異物の原因となる。したがって、アルミニウム系固体無機物質としては、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウムが挙げられる。このように、アルミニウムは水中のpHによって安定な状態が変わるので、例えば硫酸アルミニウムを添加することでアルミニウム自体の量は増すが、合紙中の固形異物であるアルミニウム系無機物はむしろ減少する。
【0049】
本発明においては、ガラス板用合紙の熱水抽出pHを3.5〜5.5の範囲にすることが好ましく、3.5〜5.0の範囲がより好ましく、3.5〜4.9の範囲が更により好ましい。熱水抽出pHが5.0を超える場合(特に熱水抽出pHが5.5を超える場合)、携帯端末等に使用される非常に高精細なディスプレイを必要とする場面において、ガラスに転移した微量のアルミニウム系無機物が要因で発生するカラーフィルムの断線箇所が、高精彩であるが故に目立ち、品質不良と判断されてしまうおそれが高いからである。
【0050】
本発明の木材パルプから得られた合紙、特に本発明のガラス板合紙、はガラス板の間に挿入されて使用される。例えば、前記ガラス板合紙は複数のガラス板の間に、典型的には、1枚ずつ挿入され、全体として、積層体とされ、当該積層体が保管、運搬の対象となる。また、本発明の木材パルプからなる合紙、特に本発明のガラス板合紙、を用いてガラス板単体又は前記積層体を包装してもよい。このように、本発明ガラス板合紙を複数のガラス板の間に挿入してガラス板を保護することができる。
【0051】
ガラス板としては特に限定されるものではないが、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイパネル(特にTFT液晶ディスプレイパネル)、有機ELディスプレイパネル等のフラットパネル・ディスプレイ用のガラス板であることが好ましい。フラットパネル・ディスプレイ用のガラス板の表面には微細な電極、隔壁等が形成されるが、本発明のガラス合紙を使用することにより、ガラス板の表面の割れ、傷、汚染等が抑制乃至回避されるので、ガラス板の表面に微細な電極、隔壁等が形成されても、割れ、傷、汚染等による不都合を抑制乃至回避することができ、結果的に、ディスプレイの欠陥を抑制乃至回避することができる。
【0052】
特に、ディスプレイの大型化に伴い、フラットパネル・ディスプレイ用のガラス板のサイズ及び重量は増大しているが、本発明のガラス合紙はそのような大型乃至大重量のガラス板の表面を良好に保護することができる。特に、本発明のガラス合紙の表面にはアルミニウム系固体無機物質が極めて少ないので、大重量のガラス板によって押圧されてもアルミニウム系固体無機物質がガラス板表面に傷をつけること及びガラス板表面を汚染することが抑制乃至回避される。したがって、本発明のガラス合紙は表面の傷品位や清浄性が特に求められるフラットパネル・ディスプレイ用のガラス板に好適に使用することができる。
【0053】
すなわち、フラットパネル・ディスプレイ基板用ガラス板は、その表面上に配向膜等の所望の膜が形成されるため、傷の防止が大きく要求されると共に、そのガラス表面が画像表示面となるため、綺麗さや美麗さも要求され、更には外国市場に輸出されることがあるため、長期輸送や長期保管に耐え得ることも要求される。これについて、本発明を使用した場合、長期に亘ってガラス合紙とガラス板とが接触していても、ガラス板表面の傷が生じず、ガラス板表面が汚染されず、さらにはガラス板とのブロッキングも生じないため、上記の各要求に的確に応じることができるのである。
【0054】
本発明のガラス合紙の含有水分は2〜10質量%であることが好ましく、3〜9質量%がより好ましく、4〜8質量%が更により好ましい。含有水分が2質量%未満であるとガラス合紙自体が静電気を帯びやすくなり、ガラス板との間で静電気によるブロッキング現象が発生するため好ましくない。また、含有水分が10質量%を超えると、水分過多によるガラス板とのブロッキング現象や、使用時の水分減少により寸法安定性が悪くなるおそれがある。
【0055】
本発明のガラス合紙の表面電気抵抗値(JIS K 6911 1995年に準拠)は、当該合紙を温度が23℃、相対湿度が50%の条件で24時間以上調湿したあとに、同条件下で測定したとき、1×10〜1×1013Ωの範囲内であることが好ましく、5×10〜5×1012Ωの範囲内がより好ましく、1×10〜1×1012Ωの範囲内が更により好ましい。表面電気抵抗値が1×10Ω未満では、ガラス板と合紙の密着性が低下するため、ハンドリング性が悪くなるおそれがある。更に、表面電気抵抗値が1×10Ω未満ということは、必要以上に水分や導電性物質(例えば界面活性剤)が添加されたことを意味する。過剰の水分はガラス合紙の寸法安定性に悪影響を及ぼす可能性があり、また、導電性物質の多くは有機性の物質であるため接触するガラス板表面にこれらの物質が移行して汚れ等の問題を引き起こす恐れがある。一方、ガラス合紙の表面電気抵抗値が1×1013Ωを越えるような高抵抗値になると、静電気を帯びやすくなり、接触するガラス板表面に合紙が密着してハンドリング性を著しく阻害するおそれがある。表面電気抵抗値を所望の範囲に調節する方法としては、例えば、乾燥等による水分調整が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0057】
[ガラス板への転写試験方法(輸送テスト)]
アルミ製で75度の角度がつけられたL 字架台上のガラス載置面に発泡ウレタンを敷き、ガラス板を垂直方向に載置するための載置面と、載置面の後端部から垂直方向に延びる背もたれ面に向けて、サイズ680mm×880mm×0.7mmのガラス板120枚と各ガラス板の間にガラス板合紙を挿入して、背もたれ面に平行となるように立てかけ、架台に固定された帯状のベルトを後端部から背もたれ面へ全周にわたり掛け渡してガラス板を固定した。上記のようにセットされた架台は、外部からの埃や塵等の混入を防ぐため包装資材で全面を被覆した。その後、トラックでの輸送テストを実施した。輸送テスト条件は、輸送距離1000km(輸送途中に40℃×95%RHの環境下に5日間保管)でテストを実施した。
【0058】
[アルミニウム系固体無機物質の測定方法]
を30cm×100cmに切断したサンプルを4枚用意し、これを(地面から見て垂直になるように)吊り下げた。合紙の両面をそれぞれ150mLの超純水で上方から洗浄し、洗浄後の水を採取して、これを膜フィルター(孔径10μm)で濾過した。残渣を電子顕微鏡で観察し、粒径20μm以上の異物をEDS分析に供し、アルミニウム系固体無機物質の個数を測定した。なお、異物が無数に存在する場合は、無機固形物と思われる異物を50個観察して、そのうちアルミニウム系固体無機物質の個数割合を算出した。
【0059】
[実施例1](木材パルプの製造)
蒸解工程と、洗浄工程と、酸素脱リグニン反応工程と、二酸化塩素及び過酸化水素による多段晒漂白工程とからなる針葉樹晒クラフトパルプの製造装置において、漂白工程後に、超純水による洗浄を4回繰り返した。以上のようにして、針葉樹晒クラフトパルプAを得た。この針葉樹晒クラフトパルプAを原料としてJIS P 8222に準拠した方法で手すき紙を作製した。この手すき紙の表面に存在するアルミニウム系固体無機物質は9.3個/mであった。
【0060】
[比較例1](木材パルプの製造)
前記の超純水による洗浄を行わない以外は上記と同様にして針葉樹晒クラフトパルプBを得た。この針葉樹晒クラフトパルプBを原料としてJIS P 8222に準拠した方法で手すき紙を作製した。この手すき紙の表面に存在するアルミニウム系固体無機物質は27.9個/mであった。
【0061】
[実施例2](ガラス板合紙の製造)
木材パルプとして実施例1の針葉樹晒クラフトパルプAを100質量部用意し、これを離解して叩解度を520mlc.s.f.に調製したスラリーに紙力増強剤としてポリアクリルアミド(商品名:ポリストロン1250、荒川化学工業社製)を全パルプ質量に対して0.5質量部添加し、0.4質量%濃度のパルプスラリーを調成した。さらにこのパルプスラリーに硫酸を加え、パルプスラリーのpHを5.6に調整した。これを、長網抄紙機を使用して、坪量50g/mのガラス板合紙を得た。このガラス板合紙の表面に存在するアルミニウム系固体無機物質は3.7個/mであった。
【0062】
[比較例2](ガラス板合紙の製造)
木材パルプとして比較例1の針葉樹晒クラフトパルプBを100質量部用意し、これを離解して叩解度を520mlc.s.f.に調製したスラリーに紙力増強剤としてポリアクリルアミド(商品名:ポリストロン1250、荒川化学工業社製)を全パルプ質量に対して0.5質量部添加し、0.4質量%濃度のパルプスラリーを調成した。このパルプスラリーのpHは6.6であった。これを、長網抄紙機を使用して、坪量50g/mのガラス板合紙を得た。このガラス板合紙の表面に存在するアルミニウム系固体無機物質は24.1個/mであった。
【0063】
実施例2及び比較例2で得たガラス板合紙のガラス板への転写を輸送テストにて確認したところ、実施例2の合紙を使用したガラス板を用いた液晶パネルのアレイ形成の際には、カラーフィルムの断線が認められなかった。一方、比較例2の合紙を使用したガラス板を用いた液晶パネルのアレイ形成の際には、カラーフィルムの断線が認められた。