(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6519790
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】接地装置
(51)【国際特許分類】
H01R 4/66 20060101AFI20190520BHJP
H02B 5/01 20060101ALI20190520BHJP
H02G 13/00 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
H01R4/66 Z
H02B5/01
H02G13/00 040
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-152805(P2015-152805)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-33772(P2017-33772A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141060
【氏名又は名称】株式会社関電工
(73)【特許権者】
【識別番号】390014649
【氏名又は名称】日本地工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100516
【弁理士】
【氏名又は名称】三谷 惠
(72)【発明者】
【氏名】榊原 宏行
(72)【発明者】
【氏名】日向野 明
(72)【発明者】
【氏名】荘田 崇人
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 元
(72)【発明者】
【氏名】山本 和男
【審査官】
杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−166104(JP,A)
【文献】
特開2006−089584(JP,A)
【文献】
特開昭54−144952(JP,A)
【文献】
特開平10−149851(JP,A)
【文献】
特開2002−271964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/66
H02B 5/01
H02G 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の内部に設置された機器のために構造物の外部に独立接地される内部接地極と、
前記機器を共用接地した構造物の鉄骨または鉄筋に連接線で接続され前記内部接地極の周囲を包囲する外部接地極と、
前記内部接地極と前記外部接地極との間に充填され前記外部接地極及び前記内部接地極の接地極の長さや前記外部接地極の半径に対応して前記接地極に流れる地絡電流を確実に検出できる接地抵抗にするための抵抗率を調整する充填材と、
を備えたことを特徴とする接地装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設備や機器毎に独立して接地するための接地装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、接地は人等に対する感電防止、漏電による火災防止、変圧器内部の混触事故による低圧側電路への高電圧の侵入防止、変圧器低圧側の中性点の系統接地等の目的のために施され、その工事種別にはA種接地工事、B種接地工事、C種接地工事、D種接地工事等の種類がある。A種接地工事は、高圧用機器の金属製外箱や避雷器などに施され、B種接地工事は高圧と低圧とを変成する変圧器の低圧側に施される。C種接地工事は、300Vを超える低圧電気機械器具の金属製外箱や金属管などに施され、また、D種接地工事は300V以下の低圧電気機械器具や金属製外箱及び金属管などに施される。
接地方式には、設備や機器毎に独立した接地工事を施す独立接地方式と、複数の接地工事を一つの接地極に繋げて共用する共用接地方式とがある。独立接地方式は、接地極相互の影響をなくすために離隔距離を十分に確保することが必要となるが、現実には敷地の制限もあるため、B種接地以外のA種接地、C種接地、D種接地については、構造物の鉄骨や鉄筋に接続し共用接地されることがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、B種接地は、A種接地、C種接地、D種接地と共通接地にすると、地絡時の回路には短絡電流に相当する大電流が流れ、他回路との保護協調が取れないことから、独立接地方式とし地絡事故時に微弱な地絡電流を確実に検出できるように所望の接地抵抗とすることが要請される。そのために、独立接地極の接地棒の本数、形状や長さを調整して所望の接地抵抗を得るようにしている。また、接地棒に接地導電体を螺旋状に巻回して所望の接地抵抗を得るようにしたものもある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−271964号公報
【特許文献2】特開2008−152927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、接地抵抗は土中の抵抗率が未知であること、均一でないなどの理由や、近傍の構造体の影響を受けること等から、所望の値を確保するための事前検討から求めた接地棒の本数、形状や長さでは確保できず、施工場所での調整が必要となることが多い。特に土中の抵抗率が高い場合には所望の抵抗値を確保するには多大な労力を費やす作業である。
【0006】
図4は、構造物の接地装置の一例を示す従来例の構成図である。構造物11は例えばビルであり、
図4では構造物11は3階建てのビルであり、構造物11の鉄骨や鉄筋(以下、鉄筋12という)の一部を地面13より下の土中に埋め込み鉄筋12を共用接地極とし、また、構造物11の外部に接地棒を埋め込み独立接地極14としたものである。
【0007】
構造物11の内部に設置された変圧器15の中性点は、B種接地され接地線16xにより構造物11の外部の独立接地極14に接続されている。また、変圧器15の外箱はA種接地され接地線16yにより鉄筋12yに接続されている。負荷17a、17b、17cの外箱はD種接地され接地線16a、16b、16cにより鉄筋12a、12b、12cに接続されている。
【0008】
いま、
図4のF1で地絡事故が発生したとすると、地絡電流は、矢印で示すように、地絡点F1→負荷17cの外箱(D種接地)→接地線16c→構造物11の鉄筋12c→土中18→独立接地極14→接地線16x→変圧器15の中性点(B種接地)→変圧器15の低圧巻線→電源線19c1、19c2→地絡点F1のルートで流れる。従って、独立接地極14を構造物の外部に設けなければならない場合には、構造物11の外部の土中18の大地抵抗率と構造体11と独立接地極14の位置関係により抵抗が変化するため、接地抵抗の調整も煩雑となる。
【0009】
本発明の目的は、所望の接地抵抗を容易に得ることができる接地装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の接地装置は、構造物の内部に設置された機器のために
構造物の外部に独立接地される内部接地極と、
前記機器を共用接地した構造物の鉄骨または鉄筋
に連接線
で接続され前記内部接地極の周囲を包囲する外部接地極と、前記内部接地極と前記外部接地極との間に充填され
前記外部接地極及び前記内部接地極の接地極の長さや前記外部接地極の半径に対応して前記接地極に流れる地絡電流を確実に検出できる接地抵抗にするための抵抗率を調整する充填材とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本装置の接地抵抗は、内部接地極の周囲を包囲する外部接地極を設け、外部接地極は必要とする接地抵抗値に対して十分低い抵抗値を持つ構造体を構成する鉄骨または鉄筋からの連接線で接続するので、無限遠方から外部接地極までの接地抵抗を無視できる。接地装置の接地抵抗の大きさは内部接地極と外部接地極との間に充填される充填材の抵抗率や内部接地極と外部接地極の半径、長さを調整することによりに決定することができる。これにより、事前に接地抵抗値の大きさ、接地極の形状を計画でき、所望の接地抵抗を容易に得ることができる。また、接地装置取り付け後に接地抵抗の調整が必要な場合には、充填材の抵抗率を調整することで容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る接地装置の一例を示す構成図。
【
図2】本発明の実施形態に係る接地装置の接地極部分の一例の構成図。
【
図3】本発明の実施形態に係る接地装置の抵抗を電磁界解析により構造物の影響を考慮して求める場合の接地極部分の説明図。
【
図4】構造物の接地装置の一例を示す従来例の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態に係る接地装置の一例を示す構成図である。本発明の実施形態は、
図4に示した従来例に対し、独立接地極14の接地棒に代えて、事前に所望の抵抗値になるように設定されたた寸法を持つ独立接地される内部接地極20と、内部接地極20の周囲を包囲する外部接地極21とで構成され、外部接地極21は共用接地に連接線22で接続され、内部接地極20と外部接地極21との間に充填材23を充填したものである。その他の構成は
図4と同一であるので、同一要素には同一符号を付し重複する説明は省略する。
【0014】
図1において、内部接地極20は、構造物11の内部に設置された機器を独立接地する接地極であり、構造物11の外部に設けられている。
図1では、内部接地極20は棒状に形成され、構造物11の内部に設置された機器は変圧器15であり、B種接地された変圧器15の中性点を接地線16xにより構造物11の外部の内部接地極20に接続したものを示している。
【0015】
外部接地極21は、内部接地極20の周囲を包囲して設けられる。
図1では、外部接地極21は円筒形に形成され、その円筒内に棒状の内部接地極20を収納して内部接地極20の側面を包囲したものを示している。また、外部接地極21は、構造物11の内部に設置された機器を共用接地した構造物11の鉄筋12に連接線22で接続されている。これにより、外部接地極21は共用接地した構造物11の鉄筋12と同じ電位に維持される。
【0016】
さらに、内部接地極20と外部接地極21との間、すなわち、外部接地極21の円筒内に、事前に所望の抵抗値になるように設定された抵抗率を持つ充填材23が充填されている。
【0017】
いま、
図1のF1で地絡事故が発生したとすると、地絡電流は、矢印で示すように、地絡点F1→負荷17cの外箱(D種接地)→接地線16c→構造物11の鉄筋12c→連接線22→外部接地極21→充填材23→内部接地極20→接地線16x→変圧器15の中性点(B種接地)→変圧器15の低圧巻線→電源線19c1、19c2→地絡点F1のルートで流れる。なお、構造物11の鉄筋12cから外部接地極21には、連接線22に加えて土中18を通って地絡電流が流れるが、連接線22の抵抗は土中18の抵抗より小さいので、ほとんどの地絡電流は連接線22に流れる。
【0018】
外部接地極21は共用接地した構造物11の鉄筋12cに連接線22で接続されるので、外部接地極21は共用接地した構造物11の鉄筋12cと同じ電位に維持される。従って、近傍の構造体の影響を受けることがなく、土中18の抵抗を考慮する必要がないので、事前に所望の抵抗値になるように設定されたた寸法を持つ内部接地極、外部接地極および充填材からなる接地装置を取り付けるだけで所望の接地抵抗を容易に得ることができる。また、接地装置取り付け後、接地抵抗値の変更が必要な場合でも充填材の抵抗率を調整するだけで所望の接地抵抗を容易に得ることができる。
【0019】
以上の説明では、内部接地極20は、B種接地された機器を独立接地する場合について説明したが、B種接地に代えて、A種接地、C種接地、D種接地された機器を独立接地する場合であってもよい。また、内部接地極20と外部接地極21とで構成された接地装置を構造物11の外部に設けた場合を示したが、構造物11の内部に設けるようにしてもよい。
【0020】
次に、本発明の実施形態に係る接地装置の接地抵抗について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る接地装置の接地極部分の一例の構成図である。
図2に示すように、内部接地極20及び外部接地極21の長さをlとし、地面13から埋設深さtの位置に内部接地極20及び外部接地極21を埋設するものとする。また、棒状の内部接地極20の半径はaであり、外部接地極21の半径はbであるとする。充填材23の抵抗率はρであるとする。
【0021】
いま、表1に示す4種類の接地装置を用意した。すなわち、条件1、条件2、条件3及び条件4の接地装置を用意した。これら条件1、条件2、条件3及び条件4の接地装置の内部接地極20及び外部接地極21が設置される箇所の大地抵抗率ρeは100Ωmとした。条件1及び条件2の充填材の抵抗率ρは大地抵抗率ρeと同じ100Ωmとし、条件3及び条件4では充填材の抵抗率ρは、条件1、2の100Ωmと比較するため、50Ωm、80Ωmとした。
【0022】
【表1】
条件1、条件2、条件3及び条件4の接地装置の内部接地極20と外部接地極21との間の抵抗は(1)式で示す算出式から求められる。
【0023】
R=(ρ/2πl)・ln(b/a) …(1)
(1)式は、近傍の構造体11の影響を考慮せず、内部接地極20を包囲する外部接地極21を円筒形で構成した接地装置単体を独立接地極とした場合の抵抗値を表す式である。
【0024】
一方、本発明の実施形態では、接地装置の外部接地極21と構造体11の鉄筋12cとを連接線22で接続し、かつ内部接地極20と接地線16xとが接続されていることから、これらの条件を加味した構造物11の影響を考慮した接地装置の抵抗値を、電磁界解析のうちFDTD(Finite-difference time-domain method)法(有限差分時間領域法による電磁界解析(以下、単に電磁界解析という))により求めた。
【0025】
図3は、接地装置の抵抗を電磁界解析により構造物11の影響を考慮して求める場合の接地極部分の説明図であり、
図3(a)は構造物11の影響を考慮して内部接地極20と構造体11と間の電圧を電磁界解析により求め接地装置の抵抗値を求める場合の説明図、
図3(b)は構造物11を考慮して内部接地極20と無限遠方との間の電圧を電磁界解析により求め接地装置の接地抵抗値を求める場合の説明図である。
【0026】
図3(a)において、内部接地極20に注入線24を接続し、外部接地極21と構造体11の鉄筋12cとを連接線22で接続する回路において、構造物11の影響を考慮した接地装置の抵抗値を求めるものである。
図3(a)の注入線24から地絡事故発生時に流れる模擬電流を流し、注入線24(内部接地極20)と構造体11(鉄筋12c)と間の電圧を電磁界解析により計算して接地装置の抵抗値を求めた。これにより、構造物11の影響を考慮したB種接地を想定した接地装置の抵抗値の算出ができる。
【0027】
また、
図3(b)においても同様に、
図3(a)と同様の回路において、注入線24から地絡事故発生時に流れる模擬電流を流し、注入線24(内部接地極20)と無限遠方の基準点25と間の電圧を電磁界解析により計算して接地装置の接地抵抗値を求めた。これにより、無限遠方から見た構造物11の影響を考慮したB種接地を想定した接地装置の接地抵抗値が算出できる。
【0028】
表2に、(1)式の算出式から求めた抵抗値と、
図3(a)、(b)の電磁界解析により求めた抵抗値を示す。
【0029】
【表2】
表2において、条件1、条件2、条件3、条件4の(1)式の算出式から求めた抵抗値と、電磁界解析から求めた抵抗値とは、それぞれの条件において近い値になっていることがわかる。(1)式の算出式と
図3の電磁界解析から求めた抵抗値の差は、外部接地極21が構造物11の鉄筋12cに接続されているためと考えられるが、接地装置の抵抗値は(1)式で近似できることが分かる。
【0030】
表2において、外部接地極21の半径b、接地極の長さlを変更した条件1、条件2より、外部接地極の半径bや接地極の長さlを変更することで任意の抵抗値を確保することができることがわかる。
【0031】
表2において、
充填材23の抵抗率ρを変更した条件1(条件2)、条件3、条件4より
充填材23の抵抗率ρを変更することで任意の抵抗値を確保することができることがわかる。
【0032】
また、条件1、条件2、条件3、条件4において電磁解析により求めた独立接地極としての接地抵抗値も(1)式の算出式から求めた接地抵抗値や電磁界解析から求めた抵抗値と、それぞれの条件において近い値になっていることは、構造物11の鉄骨または鉄筋からの連接線22に接続した本発明の実施形態の接地装置を使用することで独立接地極としての値を確保していることになる。
【0033】
以上述べたように、本発明の実施形態によれば、構造物11の外部に独立接地される内部接地極20の周囲を包囲する外部接地極21を設け、外部接地極20は共用接地された鉄骨または鉄筋からの連接線22に接続されて共用接地の電位に保持されるので、地絡電流による接地装置の内部接地極20と構造物11との間の電圧Vを小さくできる。内部接地極20と外部接地極21との間に充填される充填材23の抵抗率ρを調整するだけで接地抵抗を調整できる。これにより、地絡電流を確実に検出できる所望の接地抵抗を容易に得ることができる。
【0034】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
11…構造物、12…鉄筋、13…地面、14…独立接地極、15…変圧器、16…接地線、17…負荷、18…土中、19…電源線、20…内部接地極、21…外部接地極、22…連接線、23…充填材、24…注入線、25…無限遠方の基準点