(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置、接続形態、ステップ及びステップの順序等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。本発明は、特許請求の範囲によって特定される。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、本発明の課題を達成するのに必ずしも必要ではないが、より好ましい形態を構成するものとして説明される。
【0033】
(実施の形態1)
[1.メタルコア基板の構成]
まず、
図1を参照しながら、実施の形態に係るメタルコア基板を有する基板について説明する。
図1は、本実施の形態に係るメタルコア基板の構造を示す断面図である。
【0034】
図1に示すように、本実施の形態に係るメタルコア基板1は、メタル基板10と、絶縁層12とで構成されている。また、メタルコア基板1の絶縁層12上には、配線層14が形成され、メタルコア基板1と配線層14とで回路基板2が構成されている。
【0035】
メタル基板10は、例えばアルミニウム基板で構成されている。絶縁層12は、例えばアルミナで構成され、電着によりメタル基板10の表面に形成されている。つまり、メタル基板10は絶縁層12によりコーティングされた構成である。このメタル表面のコーティングは、フォトリソグラフィ技術を用いることで、基板上で選択的に行うことができる。
【0036】
さらに、絶縁層12の上には、例えば銅で構成される配線層14がパターニングにより形成されている。
【0037】
この構成によれば、メタルコア基板1を露出させ、ヒートシンク等の放熱部品をメタルコア基板1に直接実装することにより、高温で動作する部品の熱を効率よく外部に放出することができる。
【0038】
[2.メタルコア基板の製造方法]
次に、本実施の形態におけるメタルコア基板の製造工程について説明する。
【0039】
図2は、本実施の形態に係るメタルコア基板の製造工程を示すフローチャートである。本実施の形態にかかるメタルコア基板の製造方法としては、(1)電気泳動電着法によりメタル基板10に電着膜を形成する製造方法と、(2)メタル基板10にプラズマ電解酸化膜を形成し、その後電気泳動電着法により封孔処理を行う製造方法の2種類がある。
【0040】
(1)の電気泳動電着法によりメタル基板10に電着膜を形成する製造方法については、
図2の(a)に示すように、はじめに、メタル基板10であるアルミニウム基板を準備し、洗浄する(ステップS10)。その後、アルミニウム基板に、上述した電気泳動電着法により電着膜(絶縁層12)を形成する(ステップS12)。なお、電気泳動電着法において使用する電着液は、あらかじめ作成しておく。また、電着膜を形成する際に、アルミニウム基板の一部は、放熱効率を向上するために電着膜から露出していてもよい。なお、電気泳動電着法により形成した層のことを電着膜と呼ぶ。さらに、電着膜(絶縁層12)の上に配線層14を形成する(ステップS14)。これにより、回路基板2が完成する。配線層14については、半硬化状態の電着膜を介して張り合わせ、その後、バインダ材料の硬化に伴う接着によっても形成することができる。
【0041】
また、(2)のメタル基板10にプラズマ電解酸化膜を形成し、その後電気泳動電着法により封孔処理を行うという製造方法については、
図2の(b)に示すように、はじめに、メタル基板10であるアルミニウム基板を準備し、洗浄する(ステップS10)。次に、アルミニウム基板に、プラズマ電解酸化を行い、プラズマ電解酸化膜(PEO膜)を形成する(ステップS22)。その後、上述した電気泳動電着法によりプラズマ電解酸化膜表面に電着膜を形成する封孔処理を行う(ステップS23)。このとき、アルミニウム基板の一部は、放熱効率を向上するために電着膜から露出していてもよい。さらに、封孔処理されたプラズマ電解酸化膜(絶縁層12)の上に配線層14を形成する(ステップS14)。これにより、回路基板2が完成する。
【0042】
以下では、上述した(1)の電気泳動電着法によりメタル基板10に電着膜を形成する製造方法について具体的に説明する。なお、(2)のメタル基板10にプラズマ電解酸化膜を形成し、その後電気泳動電着法により封孔処理を行うという製造方法については、実施の形態2で具体的に説明する。
【0043】
[3.電気泳動電着法による電着膜の形成]
図3A、
図3B、
図4〜
図11を用いて、電気泳動電着法によりメタル基板10に電着膜を形成する製造方法について説明する。
図3Aは、本実施の形態に係る電着装置の概略構成図である。
図3Bは、本実施の形態に係る電着膜の形成過程を示す図である。
図4は、バインダの特性を説明するための図である。
図5は、本実施の形態に係る電着液の作成手順を示す図である。
【0044】
メタル基板10への絶縁層12の形成は、電気泳動電着法により行われる。電気泳動電着法は、以下に説明する電着装置20において行われる。
【0045】
図3Aに示すように、電着装置20は、容器22と、容器22内に入れられた電着液28と、電着液28に浸された電極10aおよび10bと、電極10aおよび10bとに接続された電源26とを備えている。
【0046】
電極10aは、例えばアルミニウム基板で構成されている。電極10bはステンレス鋼材あるいは炭素材等により構成される。電極10aには正の電圧が印加され、電極10bには負の電圧が印加される。したがって、電極10aは陽極、電極10bは陰極となる。以下、電極10aおよび10bを、それぞれ、アルミニウム基板10aおよびSUS基板10bと呼ぶ。
【0047】
また、電着液28中には、セラミックス粒子の一例である球状のアルミナ粒子28aが浮遊している。電気泳動電着法では、溶液中にて、アルミナ粒子28aが負電荷に帯電する。
図3Aおよび
図3Bに示すように、アルミナ粒子28aは電界印加により陽極であるアルミニウム基板10aに引き寄せられ、アルミニウム基板10a上へ固定、または堆積される。このとき、アルミナ粒子28aと共に電着された有機・無機ハイブリッド材料の原料成分は、未硬化もしくは半硬化状態であり、その後、水の存在下で加水分解、重縮合反応によって硬化して、有機・無機ハイブリッド材料となり、
図4に示すように、電着膜におけるバインダ28bとして機能する。
【0048】
したがって、本実施の形態において、アルミニウム基板10aは、メタルコア基板1におけるメタル基板10となり、アルミニウム基板10aの表面に付着して層状に形成されたアルミナ粒子28aとバインダ28bとからなるセラミックス層は、メタルコア基板1の絶縁層12となる。
【0049】
なお、
図3Aに示した電着装置20では、アルミニウム基板10aにおけるSUS基板10bと対向する面に絶縁層12が形成される。したがって、アルミニウム基板10aの両面に絶縁層12を形成する場合には、アルミニウム基板10aの向きを裏返すか、アルミニウム基板10aの両面と対向するように2つのSUS基板10bをそれぞれ配置することが好ましい。
【0050】
電着液28は、
図5に示す作成手順にて作成される。
【0051】
まず、球状のアルミナAl
2O
3(アルミナ粒子28a)を用意する。このアルミナ粒子28aを、130℃で2時間乾燥させる。その後、脱水イソプロピルアルコール(IPA)および安定化剤であるモノクロロ酢酸(MCAA)を加える。このときの電着液28は、例えば、純度が99.9%より大きく平均粒径が0.5μmのαアルミナ(住友化学製スミコランダムAA−05)を15wt%と、MCAA(和光純薬Chloroacetic Acid)を12.75wt%と、脱水IPA(和光純薬2−プロパノール(超脱水))を72.25wt%とが配合されたものである。
【0052】
次に、
図5に示したように、アルミナ粒子28aが含まれた脱水IPAおよびMCAAに対して、hielcher製UP100Hによる超音波ホモジナイザー処理3分、Fine製FU−3Hによる超音波バス処理1時間が行われる。これらの処理は、脱水IPAおよびMCAA内にアルミナ粒子28aが均一に混合されるように、アルミナ粒子28aを含む脱水IPAおよびMCAAを攪拌しながら行われる。
【0053】
次に、アルミナ粒子28aを含む脱水IPAおよびMCAAに、バインダ原料を添加する。バインダ原料には、オルガノポリシロキサン組成物を用いる。より具体的には、例えば、アルコキシシラン等の金属アルコキシド、および、金属アルコキシドを末端に有するオルガノポリシロキサン(金属アルコキシド末端変性オルガノポリシロキサン)の混合液を用いる。この混合液のことを、オルガノポリシロキサンPDMS(ポリジメチルシロキサン)系ハイブリッドの原料液と呼び、この原料が水に接触した後に、加水分解・脱水重縮合をしてできるオルガノポリシロキサン硬化体をオルガノポリシロキサン系有機・無機ハイブリッド材料と呼ぶ。フレキシブルで、耐熱性を有するオルガノポリシロキサン系有機・無機ハイブリッド材料をバインダとすることで、耐熱性、温度変化に対する応力緩和性に優れるセラミックス層(絶縁層)を形成することができる。
【0054】
例えば、オルガノポリシロキサン組成物として、
図6の(a)に示すようなエチルシリケート(ES)を末端にもつオルガノポリシロキサンである質量平均分子量(以下、単に分子量ともいう)8000のエチルシリケート末端変性PDMS(ES−PDMS−Aと呼ぶ。)、質量平均分子量22000のエチルシリケート末端変性PDMS(ES−PDMS−Bと呼ぶ。)、質量平均分子量42000のエチルシリケート末端変性PDMS(ES−PDMS−Cと呼ぶ。)、または、質量平均分子量76000のエチルシリケート末端変性PDMS(ES−PDMS−Dと呼ぶ。)と、エチルシリケート(以降、ESと呼ぶ。)とを含むハイブリッド材料(PDMS系ハイブリッド)を用いる。
【0055】
これらオルガノポリシロキサン組成物の加水分解・脱水重縮合による硬化体は、
図6の(b)に示すようなシリカナノガラス29を介して架橋した硬化体、すなわち、オルガノポリシロキサン系有機・無機ハイブリッド材料となる。オルガノポリシロキサン系有機・無機ハイブリッド材料は、高い耐熱性(連続200℃、短時間400℃以上)と柔軟性を有する。
図6の(a)に示すエチルシリケートにおいては、例えば、n=8〜10である。これらの材料を用いることにより、バインダの原料としてのオルガノポリシロキサン組成物は電着液中で加水分解が生じにくく凝集体を形成しにくくなる。なお、ES−PDMS−A、ES−PDMS−B、ES−PDMS−C、およびES−PDMS−D(これらを総称してES−PDMSと呼ぶ)の合成方法は、例えば、以下のとおりである。
【0056】
ES−PDMS−A、ES−PDMS−B、およびES−PDMS−Cの場合、密閉された窒素雰囲気下、25℃にて、ES:PDMS=2:1のモル比にて、ES(多摩化学工業製品ES45)とPDMS(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製品YF3800(質量平均分子量6000)あるいはXF−3905(質量平均分子量20000)、YF−3057(質量平均分子量40000))をスクリュー管瓶に入れマグネチックスターラーを用いて30分間撹拌する。その後、あらかじめチタニウムテトラエトキシド(メルク社製、以後、「TTE」と略する)とDL−リンゴ酸ジエチルエステル(東京化成工業株式会社製、以後、「MA」と略する)とを同モルで混合した溶液を、上記ESとPDMSの混合液に、ESとPDMSの混合液1モルに対して0.0165モル加える。さらに、混合溶液を、マグネチックスターラーを用い密封したまま130℃で8時間加熱撹拌する。このときの混合溶液の反応は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)およびゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて確認することができる。TTEとMAの上記混合液は、TTEとMAとを同モルでスクリュー管瓶の中に入れ、25℃で30分間攪拌して作製する(WO2010/143357(特許文献2)の実施例1を参照)。ES−PDMS−Dの場合、配合条件、作製条件はES−PDMS−Bと同様であるが、重合処理を130℃で24時間行って作製した。
【0057】
アルミナ粒子28aを含む脱水IPAおよびMCAAにバインダ材料が添加される工程は、
図5に示したように、アルミナ粒子28aを含む脱水IPAおよびMCAAを攪拌しながら行われる。
【0058】
以上のようにして、電着液が作成される。
【0059】
次に、上述のようにして形成された電着液28を用いて、アルミニウム基板10aへ電着法により電着膜(絶縁層12)が形成される。電着法は、
図3Aに示した電着装置20により行われる。電源装置はAnatech製Pro−3900を用いた。
【0060】
電着の条件は、電流を一定とし、例えば、電着膜の膜厚が50μmとなるように電着時間を適宜調整する。膜厚50μmの電着膜の形成後、250℃で2時間の加熱処理を行い、電着膜を硬化した電着硬化膜が得られる。本明細書における、これ以降の実施例についてはすべて250℃2時間の加熱処理を施した電着膜の性質を記述したが、例えば、室温から300℃までの他の温度条件でも硬化体を得ることが出来る。
【0061】
ここで、アルミニウム基板10aとアルミナの電着膜とでは熱膨張率が異なるため、バインダ材料として、上述したオルガノポリシロキサン系ハイブリッドを使用することにより、アルミニウムとアルミナとの熱膨張率の差を緩和することができる。変性ES−PDMSの加熱により得られる重合体(オルガノポリシロキサン系有機・無機ハイブリッド材料)は、高い耐熱性(連続200℃、短時間400℃以上)と柔軟性を有するため、これをバインダとするアルミナ電着膜も高い耐熱性を有する。
【0062】
図7は、アルミニウム基板10a上に形成された電着膜の表面の状態を示す光学顕微鏡像である。
図7に示すように、電着膜の表面形状は均一であるとわかる。また、電着膜が形成されたメタルコア基板1を折り曲げても電着膜は剥離されず、柔軟性を有している。
【0063】
[4.電着膜が形成されたメタルコア基板の性質]
ここで、アルミニウム基板10a上にアルミナの電着膜が形成されたメタルコア基板1の性質、および、電着時の好ましい条件について説明する。
【0064】
はじめに、電着液への変性ES−PDMSの添加が電着膜の性質に与える影響について説明する。アルミニウム基板10a上に形成されたアルミナの電着膜について、電着液への変性ES−PDMSの添加が電着膜の性質に与える影響は、変性ES−PDMSの分子量の違いおよび変性ES−PDMSの添加量により異なる。
【0065】
次に、メタルコア基板1の熱伝導率について説明する。
【0066】
図8は、本実施の形態に係る熱伝導率の評価装置を示す図である。
【0067】
図8に示すように、評価装置30は、断熱材31の上に、ヒータ32と、アルミブロック34と、サンプル36と、アルミブロック34と、空冷フィン38とを備えている。また、ヒータ32と、アルミブロック34と、サンプル36と、アルミブロック34と、空冷フィン38とのそれぞれの間には、放熱グリースが塗布されている。2つのアルミブロック34のそれぞれに穴を開け、熱電対を挿入してヒータ32側の温度T1、空冷フィン38側の温度T2をそれぞれ測定する。一定のパワーでヒータ32を加熱し、十分に時間をおくと、ヒータからの発熱はすべてサンプルへ伝わるとみなせ、その熱量はヒータ32への入力パワー(=Q)と等しいとみなせる。アルミブロック34間の温度差△T=T1−T2と熱流量Qから、熱抵抗が測定される。測定される熱抵抗は、アルミブロック34(の半分)と、サンプル36と、アルミブロック34(の半分)の熱抵抗と、アルミブロック34(の半分)とサンプル36間の接触熱抵抗、アルミブロック34とサンプル36間の接触熱抵抗の合計である。サンプル36なしでも同様に熱抵抗の測定を行い、全熱抵抗からサンプル36以外の熱抵抗、接触熱抵抗を差し引くことで、サンプル36の熱抵抗を求めることができる。さらに、サンプル36の厚さ、面積からサンプル36の熱伝導率は求められる。
【0068】
ここで、サンプル36として、メタルコア基板1を用いた場合の熱伝導率について以下に示す。
【0069】
図9は、本実施の形態に係る電着膜の熱伝導率の変化について示す図である。
【0070】
図9に示すように、電着電流密度が高くなるにつれて、電着膜熱伝導率は低くなる。言い換えると、電着電流密度が低くなるにつれて、電着膜熱伝導率は高くなる。電流密度の低下により、電着膜は緻密化し、電着膜中のアルミナの占有率が増大するためである。したがって、電着時の電着電流密度を下げることで、電着膜の熱伝導率を高くすることができる。しかし、電流密度を下げすぎると、基板全体に均一な電着膜を形成することが困難であり、均一な電着膜を得られる程度に電着電流密度を下げることが好ましい。
【0071】
次に、メタルコア基板1の絶縁破壊電界強度について説明する。
【0072】
図10は、本実施の形態に係る電着膜の絶縁破壊電界強度の評価装置を示す図である。
【0073】
図10に示すように、絶縁破壊電界強度の評価装置40は、容器中に下部電極42と、計測試料44と、上部電極46と、電源48とを備えている。容器中には、例えば3M製品のフロリナート(登録商標)等のフッ素系不活性液体が入れられ、フッ素系不活性液体中に下部電極42と、計測試料44と、上部電極46とがこの順に配置される。下部電極42と上部電極46との間には、電源48が接続されている。
【0074】
下部電極42および上部電極46は、例えばステンレス鋼製の平板電極で構成される。上部電極46は、例えば平坦部の直径が10mmφ、端部曲率は10mmである。下部電極42の大きさは、計測試料44が載置できる大きさで、例えば50mmφである。また、電源48から下部電極42と上部電極46との間に印加することができる最大の電圧は、10kVである。絶縁破壊電界強度の評価装置40において、下部電極42と上部電極46との間にかかる電圧を徐々に増加させ、5.0mA以上の電流が流れたときを絶縁膜破壊とする。
【0075】
この条件において、計測試料44をメタルコア基板1として、メタルコア基板1の絶縁破壊電界強度を計測した。一例として、分子量8000の変性ES−PDMS(ES−PDMS−A)を含む電着液を用いて製造されたメタルコア基板1では、電着膜の膜厚が35μmの場合に絶縁耐電圧が3.4kVであり、絶縁破壊電界強度は98kV/mmという特性が得られた。
【0076】
ここで、
図11は、本実施の形態に係るメタルコア基板1について、電着膜の硬度、熱伝導率および絶縁破壊電界強度の特性をまとめた図である。ここで、電着膜の硬度とは、ひっかき硬度のことである。電着膜の硬度は、例えばひっかき硬度計(ERICHSEN製MODEL318−S)により測定される。また、
図11では、エチルシリケート(ES)と、変性ES−PDMS−A(分子量Mw=8000)、変性ES−PDMS−B(分子量Mw=22000)、または、変性ES−PDMS−C(分子量Mw=42000)とを混合したPDMS系ハイブリッド(図中の「変性PDMS」)とアルミナ粒子とを含む電着液を用いて製造されたメタルコア基板の特性について示している。
【0077】
図11において、示されたPDMS系ハイブリッド(図中の「変性PDMS」)のうち、ES(ES45)の配合量を5重量部、ES−PDMS(変性ES−PDMS−A、変性ES−PDMS−B、または、変性ES−PDMS−C変性)の配合量を15重量部として配合したPDMS系ハイブリッドについて、アルミニウム基板10aに電着膜を形成した場合のメタルコア基板1について比較する。
【0078】
硬度については、変性ES−PDMS−Aでは2.0N、変性ES−PDMS−Bでは2.0N、変性ES−PDMS−Cでは1.0Nであり、ES−PDMS−AまたはES−PDMS−Bのときに、特に高強度の電着膜が作成されていることがわかる。
【0079】
熱伝導率については、変性ES−PDMS−Aでは2.4W/mK、変性ES−PDMS−Bでは2.9W/mK、変性ES−PDMS−Cでは1.1W/mKであり、分子量22000のときに最も熱伝導率の高い電着膜が作成されていることがわかる。
【0080】
絶縁破壊電界強度については、変性ES−PDMS−Aでは76.0kV/mm、変性ES−PDMS−Bでは97.1kV/mm、変性ES−PDMS−Cでは30.9kV/mmであり、分子量22000のときに最も絶縁破壊電界強度の高い電着膜が作成されていることがわかる。
【0081】
また、
図11において、示されたPDMS系ハイブリッド(図中の「変性PDMS」)のうち、変性ES(ES45)の配合量を5重量部とし、ES−PDMS−A(分子量Mw=8000)の配合量を15重量部と17.5重量部として配合したPDMS系ハイブリッドについて、アルミニウム基板10aに電着膜を形成した場合のメタルコア基板1について比較する。
【0082】
硬度については、ES−PDMS−Aの配合量を15重量部とした場合では2.0N、ES−PDMS−Aの配合量を17.5重量部とした場合では3.3Nであり、ES−PDMSの配合量が高いほうが高強度の電着膜が作成されていることがわかる。
【0083】
熱伝導率については、ES−PDMS−Aの配合量を15重量部とした場合では2.4W/mK、ES−PDMS−Aの配合量を17.5重量部とした場合では3.1W/mKであり、ES−PDMS−Aの配合量が高いほうが熱伝導率の高い電着膜が作成されていることがわかる。
【0084】
絶縁破壊電界強度については、ES−PDMS−Aの配合量を15重量部とした場合では76.0kV/mm、ES−PDMS−Aの配合量を17.5重量部とした場合では79.5kV/mmであり、ES−PDMS−Aの配合量が高いほうが絶縁破壊電界強度の高い電着膜が作成されていることがわかる。
【0085】
また、
図11において、示されたPDMS系ハイブリッド(図中の「変性PDMS」)のうち、変性ESの配合を5重量部と7.5重量部とし、ES−PDMS−Aの配合量を17.5重量部としてアルミニウム基板10aに電着膜を形成した場合のメタルコア基板1について比較する。
【0086】
硬度については、ESの配合量を5重量部とした場合では3.3N、ESの配合量を7.5重量部とした場合では3.5Nであり、ESの配合量が高いほうが高強度の電着膜が作成されていることがわかる。
【0087】
熱伝導率については、ESの配合量を5重量部とした場合では3.1W/mK、ESの配合量を7.5重量部とした場合では2.2W/mKであり、ESの配合量が低いほうが熱伝導率の高い電着膜が作成されていることがわかる。
【0088】
絶縁破壊電界強度については、ESの配合量を5重量部とした場合では79.5kV/mm、ESの配合量を7.5重量部とした場合では89.1kV/mmであり、ESの配合量が高いほうが絶縁破壊電界強度の高い電着膜が作成されていることがわかる。
【0089】
以上の全ての実施例は、
図11に示されるように、比較例(特許文献1)で得られた電着膜に比べて高い絶縁性と熱伝導性を有している。
【0090】
また、主鎖PDMS分子量が8000(変性ES−PDMS−A)より小さい場合には、電着膜の応力緩和性が不十分で基板のそりが大きくなりやすい。また、主鎖PDMS分子量80000を超える場合、電着液中で変性PDMS成分の分離が起こりやすく一様な電着膜の形成には不適である。以上の結果から、変性ES−PDMSの分子量は8000から80000程度が好ましい。
【0091】
以上より、本技術によれば、アルミニウム基板10aにアルミナの電着膜を形成する際の電着液28のバインダ材料として、上述したPDMS系ハイブリッドを使用することにより、アルミニウムとアルミナとの熱膨張率の差を緩和することができる。変性ES−PDMSの加熱により得られる重合体は、高い耐熱性(連続200℃、短時間400℃以上)と柔軟性を有する。よって、メタルコア基板1において、高い熱伝導率と絶縁耐圧(絶縁耐電圧)を有する電着膜を得ることができる。
【0092】
なお、ES5重量部、ES−PDMS−Bを15重量部添加した電着液により作製された電着膜を300℃で200時間保管したが、熱伝導率、絶縁耐圧、接着強度に変化はなく、300℃から室温までの急冷、急加熱の熱ショックに対しても耐性を有することが確認できている。
【0093】
また、未硬化の電着膜を接着層として、メタルコア基板1上に金属配線層の形成も可能である。基材として、エタノールとアセトンにて脱脂した長さ80mm、幅20mm、厚さ2mmのアルミニウム基板(A2017S)と長さ80mm、幅20mm、厚さ0.2mmの銅板の上に、ES5重量部、分子量22000の変性ES−PDMS15重量部を添加した電着液により形成された厚さ25μmの電着膜を形成する。その後、アルミニウム板と銅板の電着面同士を張り合わせて、ピンチ2個を用いて圧締した状態で、250度で2時間の加熱処理を施すと、銅/絶縁層/アルミニウム積層構造が形成される。銅板およびアルミニウム板間の接着強度を、JIS K6850 剛性被着材の引張りせん断接着強さの試験方法に準拠し、引張り試験機(株式会社島津製作所製精密万能試験機オートグラフAGS−J)を用いて各アルミニウム板の端部を反対方向に試験速度5mm/minで引張り、接着面が剥がれるときの応力を接着面積(20mm×20mm)で除することにより、接着強度(MPa)を算出すると、接着強度は、例えば0.5MPa(1.8MPaなど)となることが確認されている。
【0094】
次に、以上で説明したメタルコア基板1の特性評価(測定)に加えて、さらに詳細にメタルコア基板1の特性評価(測定)を行ったので、以下、4−1.電着時の電流条件による電着膜の構造への影響、4−2.電着時の電流条件による電着膜の耐熱性への影響、4−3.電着膜の組成比の測定、4−4.誘電特性についての検討として、説明する。
【0095】
[4−1.電着時の電流条件による電着膜の構造への影響]
図12は、本実施の形態に係る各種メタルコア基板1について、電着時の電流条件(電流値)を変化させたときに得られた電着膜の硬度についての測定結果を示す図である。ここでは、メタルコア基板1の製造に用いられた電着液に含まれるPDMS系ハイブリッドに含まれるESの配合量(g)並びにES−PDMSの配合量(g)及び分子量(Mw)の組み合わせが異なる6種類について、電着時の電流が5A、7.5A、10A、12Aで電着して得られたメタルコア基板1の電着膜の硬度に関する測定結果が示されている。なお、配合量(g)は、電着液100gに対する配合量を示している。また、図中の測定結果において、「×」はその条件で作製した電着膜のすべてにクラックが発生したことを示し、「△」は一部の電着膜にクラックが発生したことを示し、「○」はすべての電着膜にクラックが全く発生しなかったことを示し、「△」または「○」とともに記載された数値(N)は、測定された硬度を示す。
【0096】
図12に示される測定結果より、電着時に低い電流を印加した場合には、電着膜として、アルミナが緻密に堆積されやすく、かつ、バインダの割合が低いため、クラックが入りやすいと考えられる。
【0097】
図13は、本実施の形態に係る各種メタルコア基板1について、電着時の電流条件(電流密度)を変化させたときに得られた電着膜の硬度についての測定結果(
図13の(a))、および、推定される電着膜中のバインダの成分量(
図13の(b))を示す図である。
【0098】
つまり、
図13の(a)は、
図12に示された硬度(測定値)を、電着時の電流密度(A/cm
2)と硬度(N)との関係を示すグラフとしてプロットした図である。ただし、
図12に示す測定結果に対して若干の測定結果が追加されている。4種類のカーブは、用いられた電着液に含まれるPDMS系ハイブリッドを構成するES−PDMSの配合量(g)及び分子量(Mw)の組み合わせ(4種類)に対応する。
【0099】
また、
図13の(b)は、ES−PDMSの配合量(g)及び分子量(Mw)の組み合わせが異なる5種類の電着液を用いて得られる電着膜に含まれるバインダ(樹脂)の重量比(%;推定値)を示している。
【0100】
図13の(a)および(b)から、次のことが分かる。つまり、電着時の電流密度が小さすぎると、電着とは関係なくメタル基板10の表面に付着するバインダ(樹脂)の成分が相対的に大きくなり、バインダの重量比が高くなる(
図13の(b)における電流密度0.8mA/cm
2でのデータ参照)。また、電着時の電流密度が大きくなるに従い、電着膜中のバインダの割合が高くなり(
図13の(b)における電流密度が2.0mA/cm
2以上でのデータ参照)、電着膜の硬度が低下する(
図13の(a)における電流密度が2.0mA/cm
2以上でのデータ参照)。
【0101】
また、
図13の(a)から、ES−PDMSの分子量と電着膜の硬度との関係について、次のことが分かる。つまり、ES−PDMSの分子量が小さいと、電着膜の硬度は大きくなり、クラックが入りやすい。一方、ES−PDMSの分子量が大きいと、電着膜の硬度は小さくなり、クラックが発生しにくい。また、電着時の電流を大きくすれば、電着膜はポーラスにやりやすく、応力緩和しやすくなる。その結果、クラックがない電着膜ができる(つまり、ポーラスなため、熱伝導性が低下する)。
【0102】
図14は、本実施の形態に係る各種メタルコア基板1について、電着時の電流条件(電流または電圧)を変化させたときに得られる電着膜におけるバインダ成分(推定値)の堆積速度を示す図である。つまり、
図14の(a)は、
図13の(b)と同一であり、
図14の(b)は、
図14の(a)における長円で囲まれたデータをバインダ成分の堆積速度に換算して得られるカーブを示す。
【0103】
図14の(b)から分かるように、電着液に含まれるPDMS系ハイブリッドを構成するES−PDMSの分子量の違いによって、バインダ成分の堆積速度が異なる。低分子量のES−PDMSを用いると、低い電流でバインダ成分の堆積速度が増加すると考えられる。
【0104】
以上の
図12〜
図14で得られた知見をまとめると、電着時の電流量が与える電着膜のアルミナ成分およびバインダ成分への影響は、次の通りである。
【0105】
(1)アルミナ成分への影響
アルミナ粒子は、粒度分布を持つ。つまり、電着時の電流が小さいときは、小さなアルミナ粒子が電着されやすい。また、電流量の増大につれて、大きなアルミナ粒子が相対的に多く堆積されるようになる。
【0106】
言い換えると、低電流条件では、粒度分布の狭いアルミナ粒子の堆積がなされ、高電流条件では、粒度分布の広い条件での堆積がなされる。
【0107】
よって、低電流条件では緻密な電着膜に、大電流条件ではポーラスな電着膜になりやすい。
【0108】
(2)バインダ成分への影響
電流量の増大につれて、電着速度が上がるのはアルミナ粒子と同様である。
【0109】
厳密には、ESとES−PDMSでは、電気泳動条件が異なる。すなわち、低分子量のESの方が、高分子量のES−PDMSと比べて、低電流条件でも堆積されやすいと考えられる。よって、電流条件によって、バインダ成分としてのESとES−PDMSとの割合は異なる可能性もあるが、分子量の違いによる密度の違いはわずか(1.04〜1.2の範囲)であるため、電着膜の組成評価の際には、電流条件の異なる場合も非電着膜と同一と仮定している。
【0110】
大電流条件ほど、電着膜中のバインダの割合が高くなる。
【0111】
[4−2.電着時の電流条件による電着膜の耐熱性への影響]
図15は、本実施の形態に係る各種メタルコア基板1について、電着時の電流条件(電流密度)を変化させたときに得られた電着膜の耐熱性についての測定結果を示す図である。つまり、
図15の(a)は、電着膜の重量が3%減少する温度(3%重量減少温度(℃))を示し、
図15の(b)は、600℃における電着膜の重量の減少割合(重量減少@600℃(%))を示す。
図15の(a)および(b)において、5種類のカーブは、用いられた電着液に含まれるPDMS系ハイブリッドを構成するES−PDMSの配合量(g)及び分子量(Mw)の組み合わせ(5種類)に対応する。
【0112】
図15に示される測定結果から、電着液に配合されるES−PDMSの割合が増大するに従い、形成された電着膜の耐熱性が低下することが分かる。
【0113】
上記で述べた4−1.電着時の電流条件による電着膜の構造への影響、および、4−2.電着時の電流条件による電着膜の耐熱性への影響を考慮して、電着層を形成(あるいは、選択的に形成)する工程では、バインダの分子量に依存して定まる電流密度の電流を用いた電着法を用いることで、電着膜に含まれるバインダの割合を制御し、電着膜の硬度および耐熱性を制御できることが分かる。
【0114】
[4−3.電着膜の組成比の測定]
メタルコア基板1に形成された電着膜の組成比を評価したので、その評価方法と評価結果を説明する。
【0115】
図16は、電着膜の組成比の評価方法(推定方法)を示す図である。つまり、
図16の(a)は、電着膜の構造を示す模式図であり、
図16の(b)は、組成比の推定方法を示すフロー図である。
【0116】
図16の(a)に示されるように、電着膜は、アルミナとバインダと空孔(空気)とから構成されていると仮定する。そして、
図16の(b)に示されるように、熱重量分析(TG)により、アルミナ・バインダ比(重量比)を推定し、一方、アルキメデス法により、電着膜の密度を測定し、得られたアルミナ・バインダ比(重量比)と電着膜の密度とから、電着膜に示すアルミナ、バインダおよび空孔の体積比を推定した。
【0117】
図17は、
図16の(b)に示される「TGによるアルミナ・バインダ比(重量比)の推定」の詳細な方法を示す図である。
【0118】
まず、
図17の(a)に示されるように、アルミナとバインダとを含む電着膜、アルミナのみの電着膜、及び、バンダの硬化体のそれぞれを1000℃まで加熱した時の重量減少量を測定する。
図17の(a)は、その測定結果を示す図である。ここでは、左の図が、アルミナとバインダ(ここでは、ESと分子量Mwが22000のES−PDMS−Bとを、ES:ES−PDMS=5:15で配合したPDMS系ハイブリッドで形成したバインダ)を含む電着膜の温度依存による重量減少量(残留重量(%))を示し、右の図が、アルミナのみの電着膜(「バインダ添加無 電着膜」)およびバインダの硬化体(「ES+ES−PDMS」)の温度依存による重量減少量(残留重量(%))を示す。
【0119】
次に、
図17の(b)に示されるように、求めた重量減少量からアルミナおよびバインダの重量比(wt%)を推定する。
図17の(b)は、その重量比の推定方法を示す図である。ここでは、電着膜の熱重量減少を示す模式図、電着膜をアルミナ成分とバインダ成分とに分けたときの熱重量減少を示す模式図、アルミナの重量比xとセラミックスの重量減少分a(%)とバインダの重量減少分b(%)と電着膜の重量減少分c(%)との関係を示す式(c=ax/100+b(100−x)/100、x=100(c−b)/(a−b))、および、その式と
図17の(a)に示される測定結果(a=2.8%、b=71.2%、c=6.5%)から求められたアルミナおよびバインダの重量比の例が示されている。アルミナ成分の重量比として94.6%、バインダ成分として5.4%の例が示されている。
【0120】
図18は、
図16の(b)に示される「アルキメデス法による電着膜の密度測定」の詳細な方法を示す図である。
【0121】
図18の(a)は、アルキメデス法の装置の概要と密度の算出式を示している。アルキメデス法の装置として、IPA(密度ρ=0.785)が満たされたビーカーの中に、上方に載置された電子天秤からつり糸で吊り下げられた密度測定籠が浸されている様子が示されている。また、密度の算出式として、物体の密度ds={物体の空気中で秤量したときにつりあう質量w/(w−物体が液体中にあるときにつりあう質量w’)}×(物体を浸す液体の密度d1)が示されている。
【0122】
図18の(b)は、
図18の(a)に示される方法で算出されたバインダおよび電着膜の密度の計算例を示す。ここでは、バインダの密度として1.1g/m
3、電着膜の密度として3.30±0.03g/m
3の例が示されている。
【0123】
図19は、
図17に示された「TGによるアルミナ・バインダ比(重量比)」および
図18に示された「アルキメデス法による電着膜の密度」から算出される電着膜の体積比の例を示す図である。ここでは、
図17で説明したように、ESと分子量Mwが22000のES−PDMSとを、ES:ES−PDMS=5:15で配合したPDMS系ハイブリッドを含む電着液で形成された電着膜とその電着膜を構成するアルミナ、バインダおよび空孔の重量比(wt%)、密度(g/cm
3)および体積比(%)の例が示されている。
【0124】
図20は、電着液におけるES−PDMSの添加量を変えた場合の電着膜の構造変化の例を示す図である。ここでは、
図16〜
図19で示された方法によって実測された各種電着膜の成分の重量比(wt%、
図20の(a))および体積比(%、
図20の(b)、
図20の(c))の例が示されている。用いられたES−PDMSの分子量Mwは6000であり、ESとの配合量(ES:ES−PDMS)は、5:5、5:10、5:15、5:20の4種類である。
【0125】
図20に示された結果から分かるように、ESに対するES−PDMSの配合量が増えるに従って、電着膜に占めるバインダ成分および空孔成分の体積が増えていく。
【0126】
図21は、電着液におけるES−PDMSの分子量を変えた場合の電着膜の構造変化(体積比の変化)の例を示す図である。ここでは、
図16〜
図19で示された方法によって実測された各種電着膜の成分の体積比(%)の例が示されている。ES−PDMSの分子量が8000での結果と22000での結果が示されている。
【0127】
図21に示された結果から分かるように、ES−PDMSの分子量が大きいほど電気泳動がされにくいので、相対的にアルミナの占有率が増加し、空孔率も増大する恐れがある。
【0128】
図22は、Bruggemanの式を用いて得られる電着膜の熱伝導率についての推測値と実測値との比較結果を示す図である。フィラーとマトリックスの2成分からなる複合体(コンパウンド)の熱伝導率は、
図22の(a)のBruggemanの式で示される。
図22の(b)は、アルミナの体積充填率(%)とアルミナ―バインダからなる電着膜の熱伝導率(W/mK)との関係を示す図である。ここには、
図22の(a)に示されたBruggemanの式から得られる熱伝導率の理論曲線(推測値)と、分子量22000および分子量8000のES−PDMSを用いて得られた電着膜の熱伝導率の実測値とが描かれている。ただし、アルミナとバインダの熱伝導率をそれぞれ、20W/mK、0.2W/mKとしている。
図22の(c)は、
図22の(b)に示された2つの実測値と理論値(推測値)とを比較して示す図である。
【0129】
図22の(b)および(c)から分かるように、Bruggemanの式を用いて得られる電着膜の熱伝導率についての推測値に比べて、実測値は、小さな値となる。これは、電着膜に含まれる空孔の影響によるものと考えられる。
図20の結果からわかるように、より分子量の大きなES−PDMSを用いて得られた電着膜は、空孔成分の堆積が大きいため、実測値は理論値(推測値)から大きく異なる値となる。
【0130】
図23は、各種電着液を用いた製造されたメタルコア基板1の特性を示す図である。本図は、
図11に示された測定結果に対して測定結果が追加されたものに相当し、左から、「ES−PDMSの種類」(電着液に配合されたES−PDMSの分子量)、「ES45配合量(部)」(ESの配合量)、「ES−PDMSの配合量(部)」、得られた電着膜の「硬度(N)」、「熱伝導率(W/mK)」、「絶縁破壊(電界)強度(kV/mm)」、「耐熱温度(3%重量減少温度)(℃)」、「複合体に示すバインダ成分の重量比(wt%)」、「アルミナの体積比(%)」、「バインダの体積比(%)」、「空孔(空気)の体積比(%)」が示されている。
【0131】
図23に示される実測値から、次のことが分かる。つまり、ES−PDMSの配合量の増大に伴い、電着膜におけるバインダ成分が増大する。このとき、バインダ成分の増大によって、耐熱温度は低下する傾向となる。
【0132】
また、同じ配合量(ES5g+ES−PDMS15g)で比較した場合、ES−PDMSの分子量の増大により、耐熱性は向上する傾向がある。これは、ES−PDMSの分子量の増大により電着膜を占めるバインダ成分の割合が低下するためである。前記の
図22に示すように、空孔がない場合であれば、複合体の熱伝導率が2.0W/mK以上となるためには、アルミナの占有率(体積充填率)は)58%以上、複合体の熱伝導率が3.0W/mK以上となるためには、アルミナの占有率(体積充填率)は)65%以上でなければならない。一方、複合膜に空孔(ボイド)がある場合、複合体の熱伝導率は低下する。空孔率が低い場合(5%以下)、空孔率fのときの複合体の熱伝導率keと母材の熱伝導率kmの関係は、小さな球状空孔が一様に分散するものとみなしたBruggemanの式
ke/km=(1−f)
3/2
に従う。この式によれば、空孔率が0.05のとき、熱伝導率は7.5%程度低下し、空孔率が0.1のとき、熱伝導率は15%程度低下することが推測される。しかし、空孔率が大きくなるにつれ空孔のサイズは大きくなり、上記のBruggemanの式で求められる複合体の熱伝導率からの乖離が大きくなり、急激に熱伝導率が低下する。また、空孔の増加は絶縁特性を低下させる。以上のことから、空孔率は5%以下であることが望ましい。
【0133】
さらに空孔の存在による複合体熱伝導率の低下を見込むならば、アルミナの占有率は65%以上出ることが望ましい。
図23に示したように、複合体を占めるアルミナ、空孔(空気)の割合が、それぞれ65%以上、5%以下となる複合体が製作されている。
【0134】
図24は、
図23に示された測定結果のうち、「熱伝導率(W/mK)」に関する測定結果の一部を示すグラフである。ここでは、電着液100gに含まれるPDMS系ハイブリッド(5gのESとES−PDMS)として配合されるPDMSの添加量(横軸(g))と、その電着液で形成されたメタルコア基板の熱伝導率(縦軸(W/mK))との関係がプロットされている。
【0135】
図24において、同じ量のPDMS系ハイブリッド(5gのESと15gのES−PDMS)が配合された電着液で形成されたメタルコア基板の熱伝導率(横軸が15gにおけるプロット)に着目すると、次のことが分かる。つまり、PDMSの分子量が小さい場合は(Mw=8000)、バインダ量が多くなりやすく、その結果、アルミナのアルミナ占有率が低下しやすいため、熱伝導率は低くなる。PDMSの分子量が大きくなると(Mw=22000)、バインダ量は低下して、相対的にアルミナ占有率は高くなり、熱伝導率が増大する。PDMSの分子量がさらに大きくなると(Mw=76000)、バインダ量がさらに減少する。電着条件は大電流条件となるため、電着膜はポーラスになりやすいと考えられる。その結果、熱伝導率は低下する。
【0136】
図25は、
図23に示された測定結果のうち、「耐熱温度(3%重量減少温度)(℃)」に関する測定結果の一部(追加された測定結果含む)を示すグラフである。ここでは、電着液100gに含まれるPDMS系ハイブリッド(5gのESとPDMS)として配合されるPDMSの添加量(横軸(g))と、その電着液で形成された電着膜の耐熱温度(3%重量減少温度)(℃)との関係がプロットされている。
【0137】
図25に示されるプロットから、次のことが分かる。つまり、電着液へのPDMSの添加量が増加するにしたがい、耐熱性が低下する。これは、電着膜中のポリマー成分が増大するためと考えられる。また、電着液へのPDMSの添加量が同じでも、PDMSの分子量により、電着膜でのポリマー比が異なり、耐熱性は変化する。PDMSの分子量が大きいほど、電着膜を占めるポリマー成分の割合は低下し、その結果、電着膜の耐熱性は高くなる。
【0138】
[4−4.誘電特性についての検討]
図26は、本実施の形態に係る2種類のメタルコア基板1の電着膜の比誘電率の測定値およびその測定値を用いて求めたアルミナ占有率の推定値などを示す図である。より詳しくは、
図26の(a)は、本実施の形態に係る2種類のメタルコア基板1の電着膜の比誘電率の1kHzにおける測定値を示すグラフである。
図26の(b)は、
図26の(a)に示される測定値から電着膜中のアルミナ占有率を求めるのに用いた有効媒質理論に基づく関係式である。
図26の(c)は、
図26の(a)に示される測定値(「比誘電率」)、その測定値と
図26の(b)に示される関係式とから求めたアルミナ占有率の推定値(「誘電率測定による推定値」)、および、熱重量測定と密度測定とから推定されるアルミナ占有率(「TG測定、密度測定からの推定値」)を示す表である。2種類のメタルコア基板1の電着膜は、PDMS系ハイブリッドに配合されるESとES−PDMSの配合量が、ES:ES−PDMS=5:5、および、ES:ES−PDMS=5:15である場合に得られる電着膜である。
【0139】
ES:ES−PDMS=5:5、および、ES:ES−PDMS=5:15である場合に得られる電着膜の1kHzにおける比誘電率は、
図26の(a)のグラフおよび
図26の(c)の表の「比誘電率」に示されるように、それぞれ6.9、5.9となった。
図26の(b)に示される関係式は、電着膜におけるアルミナの充填率X、アルミナの比誘電率ε
1、PDMS系ハイブリッドの比誘電率ε
2、および、電着膜の比誘電率ε
effの間で成り立つ式である。ここで、この関係式において、アルミナの比誘電率ε
1として9.0(文献値)、PDMS系ハイブリッドの比誘電率ε
2として2.8(@1kHz)を代入することで、アルミナの充填率Xを推測すると上記2種類の電着膜のそれぞれについて、74%および59%が得られた(
図26の(c)の「誘電率測定による推定値」)。これは、熱重量測定および密度測定で見積もられた値(
図26の(c)の「TG測定、密度測定からの推定値」に示される78%および53%)とほぼ等しい値である。
【0140】
本実施の形態に係る電着膜の比誘電率(6.9および5.9)がアルミナの比誘電率(9.0)に比べて低いことから、本実施の形態に係るメタルコア基板は、マイクロ波デバイス向けの基板としても有用であることが分かる。
【0141】
[5.効果]
以上、本実施の形態に係るメタルコア基板によると、高耐熱性、耐熱衝撃性を有する絶縁放熱基板を形成することができる。すなわち、フレキシブルで、耐熱性を有するポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッド材料をバインダとする電着液を用いることで、耐熱性、温度変化に対する応力緩和性に優れるセラミックス層を形成することができる。
【0142】
具体的には、本実施の形態に係るメタルコア基板は、(1)折り曲げてもセラミックス層は剥離しない、(2)300℃の耐熱性を有する、室温から300℃の熱衝撃に耐える応力緩和性を有する、(3)高絶縁性を有する(3.0kV/50um)、(4)高い放熱性(2.5W/mK)、(5)電着膜を介した接着により配線層の貼り付けが可能などの特徴を有することがわかる。一例として、2W/mK以上の熱伝導率および50kV/mm以上の絶縁破壊電界強度を有し、かつ、耐熱温度が200℃以上であるメタルコア基板が実現される。
【0143】
なお、上述した実施の形態では、バインダ材料について、オルガノポリシロキサン系有機・無機ハイブリッド材料を例として説明したが、その他の材料であってもよい。例えば、オルガノポリシロキサン系有機・無機ハイブリッド材料を含む、オルガノポリシロキサン組成物の硬化体であればよい。
【0144】
金属アルコキシド末端変性オルガノポリシロキサンの例として、エチルシリケート末端変性オルガノポリジメチルシロキサン(ES−PDMS)を示したが、その他の金属アルコキシド末端変性オルガノポリシロキサンを用いることが出来る。金属アルコキシド末端変性オルガノポリシロキサンは、一般式(1)に示すオルガノポリシロキサンの主鎖の片末端若しくは両末端、あるいは側鎖の少なくとも一方側を、一般式(2)、(3)または(4)に示す金属アルコキシド若しくはその加水分解縮合物にて修飾したものである。
【0149】
オルガノポリシロキサンとしては、例えば、ポリジアルキルシロキサン、ポリジアリールシロキサン、ポリアルキルアリールシロキサン等を好適に挙げられ、より具体的には、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルジメチルシロキサン等を挙げられる。これらの内の1種類を用いても良く、あるいは2種類以上を併用しても良い。
【0150】
オルガノポリシロキサンの主鎖の少なくとも片末端あるいは側鎖の少なくとも一方であって少なくとも一部を修飾する金属アルコキシドとしては、特に制限は無いが、アルコキシシランが特に好ましい。アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランなどのトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−i−プロピルジメトキシシラン、ジ−i−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどのジアルコキシシラン類を例示できる。これらのアルコキシシランの内の1種類を用いても良く、あるいは2種類以上を併用しても良い。アルコキシシランとしては、特に、テトラメトキシシランおよびトリメトキシメチルシランが好ましい。オルガノポリシロキサンとして、特に、ポリジメチルシロキサンおよびポリジフェニルジメチルシロキサンが好ましい。上記好ましいアルコキシシランと上記好ましいオルガノポリシロキサンとを組み合わせると、好適に、末端をメトキシシランにて修飾したポリジメチルシロキサンまたはポリジフェニルジメチルシロキサンを生成できる。
【0151】
アルコキシシランの加水分解縮合物としては、ポリメチルシリケート、ポリエチルシリケート、ポリプロポキシシリケート、ポリブトキシシリケート、ポリブトキシシリケートを好適に例示できる。これらのアルコキシシランの加水分解縮合物の内の1種類を用いても良く、あるいは2種類以上を併用しても良い。アルコキシシランの加水分解縮合物としては、特に、エチルシリケートが好ましい。オルガノポリシロキサンとしては、先に述べたように、ポリジメチルシロキサンおよびポリジフェニルジメチルシロキサンが好ましい。
【0152】
また、メタル基板10としては、上記したアルミニウム基板に限らず、他の導電性基板を用いてもよく、例えば、銅、SUS鋼等の金属基板や炭素基板等が例示される。また、セラミックス粒子についても、上記したアルミナ粒子28aに限らず、AlN、MgO、SiC等の他のセラミックス材料であってもよい。
【0153】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2について説明する。本実施の形態では、実施の形態1の[2.メタルコア基板の製造方法]で示した(2)のメタル基板にプラズマ電解酸化膜を形成し、その後電気泳動電着法により封孔処理を行うという製造方法について具体的に説明する。
【0154】
図27〜
図32を参照しながら、メタル基板にプラズマ電解酸化膜を形成し、電気泳動電着法により封孔処理を行う製造方法について説明する。
【0155】
図27は、本実施の形態に係るプラズマ電解酸化(PEO)装置を示す図である。
図28は、本実施の形態に係るPEO膜の特性を示す図である。
【0156】
プラズマ電解酸化(PEO)法は、水溶液中でプラズマを発生させてアルミニウム表面の薄い酸化膜をマイクロアークで放電破壊して、新たな酸化膜を形成する手法である。
【0157】
図27に示すように、PEO装置50は、アルミニウム基板で構成されるアノード電極55aとカソード電極55bと電源58とを備えている。アノード電極55aとカソード電極55bとの間には、例えば、600Vの電圧が印加される。なお、上述した電気泳動電着法では、2枚のアルミニウム基板10aおよびSUS基板10bの間には、40V程度の電圧が印加される。
【0158】
プラズマ電解酸化を行ったメタル基板は、セラミックスのように、プラズマ電解酸化を行わないメタル基板に比べて硬度、耐蝕性、耐熱性、絶縁性が高い。
図28に示すように、硬度については、PEOを行っていないアルミニウム基板では30〜100Hvであるのに対し、PEOを行った基板では、800〜1400Hvである。
【0159】
耐蝕性(塩水噴霧に対する耐蝕性)については、PEOを行っていないアルミニウム基板が100時間程度の耐蝕性を有するのに対し、PEOを行った基板では5000時間程度の耐蝕性を有する。
【0160】
瞬間耐熱性については、PEOを行っていないアルミニウム基板では640℃程度であるのに対し、PEOを行った基板では2000℃程度である。
【0161】
絶縁性については、PEOを行っていないアルミニウム基板では0であるのに対し、PEOを行った基板では厚さ50μmで2.5kVである。
【0162】
したがって、PEOにより形成されたプラズマ電解酸化膜(PEO膜)は、耐摩耗性、耐蝕性の高い酸化膜である。
【0163】
しかし、PEO膜は、高い機械的強度を有するが、成膜時に発生するガスによりポーラスとなるため、表面の粗度は大きく、絶縁性に劣る場合がある。具体的には、PEO膜は、熱伝導率が1W/mK以下、絶縁耐圧が2.5kV以下に留まる。したがって、電子回路基板として用いるためには、熱伝導性および絶縁性を強化するためにプラズマ電解酸化膜上に電着膜を形成するという封孔処理を行うことが有効である。
【0164】
電着膜を形成するには、上述した電気泳動電着法が用いられる。すなわち、
図3Aにおけるアルミニウム基板10aを、PEO膜が形成されたアルミニウム基板として、PEO膜上に電着膜を形成する。電着の条件は、電流を一定とし、例えば、電着膜の膜厚が50μmとなるように電着時間を適宜調整する。膜厚50μmの電着膜の形成後、250℃で2時間の加熱処理を行い、電着膜を硬化する。これにより、電着硬化膜が得られる。
【0165】
図29Aは、実施の形態に係る封孔処理前のPEO膜の表面を示す図である。
図29Bおよび
図29Cは、実施の形態に係る封孔処理後のPEO膜の表面を示す図である。
【0166】
図29Aに示すように、封孔処理前のPEO膜は、陽極酸化膜に比べてはるかに緻密な膜が得られているが、空孔による凹凸形状が存在する。これに対し、ES5重量部、PDMS−Bを15重量部添加した電着液により表面に5μmの厚さの電着膜を形成した封孔処理後のPEO膜では、
図29Bに示すように空孔が封止され、
図29Aと比較してPEO膜の表面の凹凸形状がなだらかになっている。また、表面に10μmの厚さの電着膜が形成された、封孔処理後のPEO膜では、
図29Cに示すように空孔が封止され、
図29Aおよび
図29Bと比較してさらにPEO膜の表面の凹凸形状がなだらかになっている。したがって、封孔処理により、PEO膜の表面の空孔をなくし、表面を平滑化できていることがわかる。
【0167】
次に、封孔処理による絶縁破壊電界強度、絶縁特性および熱伝導特性について説明する。
図30は、実施の形態に係る各膜における絶縁破壊電界強度を示す図である。
図31は、実施の形態に係る各膜における熱伝導率および絶縁耐電圧を示す図である。
図32は、実施の形態に係る封孔処理前後における熱伝導率を示す図である。
【0168】
はじめに、封孔処理によるPEO膜の絶縁特性について説明する。
【0169】
図30では、PEO膜50μm、PEO膜50μmの上に電着膜13μmを形成した膜、電着膜のみ35μmについての絶縁破壊電界強度を示している。
図30に示すように、PEO膜上に電着膜を形成することによって絶縁破壊電界強度は大きくなる。
【0170】
図31では、
図30に示された各膜(「PEO膜(PEO膜50μm)」、「本技術による電着膜(電着膜のみ35μm)」、「電着膜で封孔処理されたPEO膜(PEO膜50μmの上に電着膜13μmを形成した膜)」)の絶縁耐電圧および熱伝導率を示している。
図31に示すように、熱伝導率については、「PEO膜」の熱伝導率が0.89W/mK、「本技術による電着膜」の熱伝導率が2.56W/mK、「電着膜で封孔処理されたPEO膜」の熱伝導率が1.71W/mKである。これは、PEO膜を封孔処理した後、PEO膜部分の熱伝導率は約10%増加することを意味する(この説明は、
図32を用いて後述する)。また、PEO膜封孔処理後の絶縁耐電圧は、3.8kVとなり、電着膜部分の誘電率をPEO膜と変わらないものとして、破壊電圧印加時のPEO膜の分担電圧を概算すると3.1kVとなる。したがって、封孔処理を行う前のPEO膜の絶縁耐電圧が2.5kVであることと比較すると、封孔処理によりPEO膜の耐電圧が25%増大することがわかる。
【0171】
次に、封孔処理によるPEO膜の熱伝導特性向上の効果について説明する。
【0172】
図32に示すように、封孔処理前のPEO膜については、熱伝導率は0.89W/mKであるのに対し(
図31参照)、電着膜が形成され封孔処理された後のPEO膜については、膜全体の熱伝導率が1.71W/mKであることから(
図31参照)、PEO膜の熱伝導率が0.98W/mK、電着膜の熱伝導率が2.54W/mKである。したがって、PEO膜を封孔処理することにより、PEO層の熱伝導率は10%増大することがわかる。
【0173】
以上より、メタル基板にプラズマ電解酸化膜を形成した後、封孔処理を行うことで、メタルコア基板1の耐熱性、温度変化に対する応力緩和性を向上することができる。
【0174】
以上、本実施の形態に係るメタルコア基板によると、PEO膜を形成した後、封孔処理を行うことにより、高耐熱性、耐熱衝撃性がより優れた絶縁放熱基板を形成することができる。
【0175】
以上、本発明の実施の形態に係るメタルコア基板およびメタルコア基板の製造方法について説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0176】
例えば、上述した実施の形態では、電着液に添加されるバインダ材料について、オルガノポリシロキサン系有機・無機ハイブリッド材料を例として説明したが、その他の材料であってもよい。例えば、ポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッド材料を含む、オルガノポリシロキサン組成物の硬化体であればよい。
【0177】
また、メタル基板10としては、上記したアルミニウム基板に限らず、他の金属基板あるいは炭素基板など、導電性基板を用いてもよい。また、セラミックス粒子についても、上記したアルミナ粒子に限らず他のセラミックス材料であってもよい。
【0178】
また、電着液を構成する材料の配合は、上述したαアルミナを15wt%と、MCAAを12.75wt%と、脱水IPAを72.25wt%に限らず、他の配合であってもよい。
【0179】
さらに、上記実施の形態をそれぞれ組み合わせるとしてもよい。