特許第6519913号(P6519913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6519913
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】IgE結合性エピトープペプチドの利用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20190520BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20190520BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20190520BHJP
   C07K 11/00 20060101ALN20190520BHJP
【FI】
   G01N33/53 Q
   A61K38/00
   A61P37/08
   !C07K11/00
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-20989(P2015-20989)
(22)【出願日】2015年2月5日
(65)【公開番号】特開2016-142704(P2016-142704A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2018年1月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年8月5日発行、第66回日本生物工学会大会講演要旨集、第166頁、公益社団法人日本生物工学会発行 〔刊行物等〕 平成26年8月5日掲載、掲載ウェブサイトのアドレス http://www.sbj.or.jp/2014/ 〔刊行物等〕 平成26年9月10日開催、第66回日本生物工学会大会、札幌コンベンションセンター(札幌市白石区東札幌6条1丁目1−1)
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大河内 美奈
(72)【発明者】
【氏名】本多 裕之
(72)【発明者】
【氏名】神谷 知宏
(72)【発明者】
【氏名】荻原 沙緒理
(72)【発明者】
【氏名】山内 望
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−532158(JP,A)
【文献】 特表2010−519194(JP,A)
【文献】 特表2013−512279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
A61K 38/00
A61P 37/08
C07K 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗アレルギー剤のスクリーニング方法であって、
アレルギー疾患を有する個体由来のIgEと特異的に結合し、前記アレルギー個体由来のIgEとアレルゲンとによる脱顆粒を阻害する1又は2以上の脱顆粒阻害性エピトープペプチドを選択する選択工程、
を備え、
前記1又は2以上の脱顆粒阻害性エピトープペプチドを前記抗アレルギー剤とする、方法であり、
前記選択工程は、
前記アレルギー疾患を有する個体が有するアレルギーのアレルゲンである1又は2以上のタンパク質のアミノ酸配列に基づいて調製した複数のオーバーラップペプチドに対する結合情報に基づいて、前記アレルギー疾患を有する個体由来のIgEが特異的に結合する1又は2以上のIgE結合性エピトープペプチドを同定する同定工程と、前記1又は2以上のIgE結合性エピトープペプチドの前記アレルギー疾患を有する個体由来のIgEとアレルゲンとによる脱顆粒の阻害作用を評価する評価工程と、を備える、
方法。
【請求項2】
前記オーバーラップペプチドは、前記アミノ酸配列をN末端から所定のアミノ酸残基長で2以上6以下のアミノ酸残基ずつずらして取得される、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記アレルギー疾患を有する個体は、食物アレルギーを有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記食物アレルギーは、ミルクアレルギーである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
抗アレルギー剤候補のスクリーニング方法であって、
アレルギー疾患を有する個体由来のIgEが特異的に結合する1又は2以上のIgE結合性エピトープペプチドを同定する同定工程、
を備え、
前記同定工程は、前記アレルギー疾患を有する個体が有するアレルギーのアレルゲンである1又は2以上のタンパク質のアミノ酸配列に基づいて調製した複数のオーバーラップペプチドに対する結合情報に基づいて、前記1又は2以上のIgE結合性エピトープペプチドを同定する工程である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、IgE結合性エピトープペプチドの利用に関する。特に、抗アレルギー剤としての利用に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー疾患は、近年、日本において広範に認められている。乳児から小児期において、特に食物アレルギーが問題である。ミルクは子供における食物アレルギーの主な原因食物である。ミルクアレルギーの重症度は個体によって様々であり、皮膚、消化器系や呼吸器系の炎症を引き起こす恐れがある。
【0003】
ミルクアレルギーは、多くの場合、年齢とともに症状が軽減しアレルゲン食物を食べることができるようになる(自然寛解あるいは耐性獲得)。
【0004】
従来、ミルクアレルギーを治療するためには、医師の指示のもとミルクアレルゲンを除いた除去食を摂取し、定期的にアレルギー症状や抗原特異的IgE量の検査を実施していくことが主流となっている。また、近年、アレルギーの治療方法としては、経口免疫療法が一部の専門病院で実施されている。これはアレルゲンとなる食物を少量ずつ継続的に摂取することで耐性を獲得させる方法である。IgEに結合する抗体と経口免疫療法とを組み合わせた治療も試みられている(非特許文献1)。
【0005】
こうしたミルクアレルギー疾患の検出方法には、IgEとIgGの反応性を利用できることが報告されている(特許文献1)。すなわち、この方法によれば、IgEやIgGが認識(反応)するアレルゲンにおけるエピトープや、IgE等が認識するエピトープのパターンを知ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/110454号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D Bedoretら、Mucosal Immunology, volume 5 number 3, 267-276 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、経口免疫療法は、治療中にアレルギー症状が必ず現れる。このため、個体にとって危険である。また、治療対象個体となる小児の親としては子供が苦しむ状況を目の当たりにすることになるため精神的苦痛も大きい。
【0009】
こうした過酷な経口免疫療法を代替できる治療法が求められている。また、アレルギー個体の有するアレルギー疾患やその状況に応じた抗アレルギー剤も求められている。
【0010】
そこで、本明細書は、アレルギー症状を回避又は抑制できる抗アレルギー剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、アレルギー疾患を有する個体(アレルギー個体)のIgEやIgGが結合性を示すエピトープの探索方法を既に提供している。今回、本発明者らは、アレルギー個体のIgEが結合性を示すエピトープペプチドを用いてアレルギー反応を抑制できる可能性に着目した。アレルギー個体について特定されたエピトープペプチドをアレルギー個体に供給することで、当該IgEが結合するアレルゲンタンパク質の存在下であっても脱顆粒を阻害でき、アレルギー反応を抑制又は回避できるという知見を得た。本明細書は、こうした知見に基づき以下の手段を提供する。
【0012】
(1)抗アレルギー剤のスクリーニング方法であって、
アレルギー個体由来のIgEと特異的に結合し、前記アレルギー個体由来のIgEとアレルゲンとによる脱顆粒を阻害する1又は2以上の脱顆粒阻害性エピトープペプチドを選択する工程、
を備え、
前記1又は2以上の脱顆粒阻害性エピトープペプチドを前記抗アレルギー剤とする、方法。
(2)前記アレルギー個体由来のIgEが特異的に結合する1又は2以上のIgE結合性エピトープペプチドを同定する同定工程と、前記1又は2以上のIgE結合性エピトープペプチドの前記アレルギー個体由来のIgEとアレルゲンとによる脱顆粒の阻害作用を評価する工程と、を備える、(1)に記載の方法。
(3)前記同定工程は、前記アレルギー個体が有するアレルギーのアレルゲンである1又は2以上のタンパク質のアミノ酸配列に基づいて調製した複数のオーバーラップペプチドに対する結合情報に基づいて、前記1又は2以上のIgE結合性エピトープペプチド同定する工程である、(2)に記載の方法。
(4)前記オーバーラップペプチドは、前記アミノ酸配列をN末端から所定のアミノ酸残基長で2以上6以下のアミノ酸残基ずつずらして取得される、(3)に記載の方法。
(5)前記アレルギー個体は、食物アレルギーを有する、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記食物アレルギーは、ミルクアレルギーである、(5)に記載の方法。
(7)抗アレルギー剤候補のスクリーニング方法であって、
アレルギー個体由来のIgEが特異的に結合する1又は2以上のIgE結合性エピトープペプチドを同定する同定工程、
を備える、方法。
(8)アレルギー疾患の予防又は治療用組成物の製造方法であって、
アレルギー個体由来のIgEと特異的に結合し、前記アレルギー個体由来のIgEとアレルゲンとによる脱顆粒を阻害する1又は2以上の脱顆粒阻害性エピトープペプチドを選択する工程、
を備え、
前記1又は2以上の脱顆粒阻害性エピトープペプチドを有効成分として含む前記組成物を調製する、方法。
(9)アレルギー疾患の予防又は治療用組成物であって、
アレルギー個体由来のIgEと特異的に結合し、前記アレルギー個体由来のIgEとアレルゲンとによる脱顆粒を阻害する1又は2以上の脱顆粒阻害性エピトープペプチドを有効成分とする、組成物。
(10)アレルギー疾患の予防又は治療用医薬であって、
アレルギー個体由来のIgEと特異的に結合し、前記アレルギー個体由来のIgEとアレルゲンとによる脱顆粒を阻害する1又は2以上の脱顆粒阻害性エピトープペプチドと、
前記アレルギー個体のアレルゲンであるタンパク質又はその一部と、
を有効成分とする、医薬。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】作製したアレルギーマウス(カゼイン)の血清中のIgE量の測定結果を示す図である。
図2】作製したアレルギーマウス血清を感作したRBL-2H3細胞のカゼインによる脱顆粒率の測定結果を示す図である。
図3】作製したアレルギーマウスへのカゼイン投与時における直腸体温の測定結果を示す図である。
図4】作製したアレルギーマウスの血清IgEに結合するエピトープペプチドの評価結果を示す図である。
図5】IgE結合性エピトープペプチドによる脱顆粒阻害作用の評価結果を示す図である。
図6】作製したアレルギーマウスに脱顆粒阻害作用性エピトープペプチドとカゼインとの投与時における直腸体温の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書の開示は、IgE結合性エピトープペプチドの利用に関する。より具体的には、本開示は、アレルギー個体の産生するIgEが結合することを同定できたエピトープペプチドを当該ミルクアレルギー個体(以下、単に個体ともいう。)のアレルギー症状の抑制又は回避のための抗アレルギー剤としての利用に関する。また、IgE結合性エピトープペプチドの耐性獲得への免疫療法への利用に関する。
【0015】
本開示のIgE結合性エピトープペプチドは、アレルギー個体に応じて同定されうる。また、本開示のIgE反応性エピトープペプチドは、複数のアレルギー個体に共通して同定されうる。こうして同定されたアレルギー個体におけるIgE反応性エピトープペプチドは、アレルギー個体に投与することで、IgEが結合するアレルゲンが投与されたときでも、脱顆粒反応を抑制してアレルギー反応を抑制することができる。また、このIgE結合性エピトープペプチドは、免疫療法としてのアレルゲン投与とともに用いることで、治療中のアレルギー反応を抑制することができる。
【0016】
本明細書において、個体とは、哺乳動物個体をいい、典型的にはヒトである。本明細書においてアレルギー個体とは、アレルギー疾患と診断された個体のほかアレルギー疾患の可能性のある個体について適用することができる。また、アレルギー疾患の可能性のある個体とは、既にアレルギー症状を呈する個体のほか、アレルギー症状を呈しない個体も包含する。こうした個体の年齢は特に限定しないが、乳幼児から学童期(0才以上6才以下程度)において有用である。こうした年齢期において、治療負担が大きいからである。
【0017】
本明細書において、アレルギー個体が罹患しているアレルギー疾患は、特に限定しない。ミルクや小麦などの食物に対する食物アレルギーほか、スギ、ヒノキなどの木本植物の花粉やブタクサなどの草本植物等の花粉に対する花粉アレルギー、ダニ等に由来するアレルギー等、アレルゲンの種類や由来を問うものではない。また、ミルクアレルギーとは、ヒトにおいては、ウシ、ヒツジ、ヤギなど、ヒト以外の哺乳動物、典型的にはウシの乳、その加工品(飲料のほか食品も含む。)にアレルギー症状を呈する疾患をいう。
【0018】
以下、本明細書の開示を実施するための形態について説明する。なお、本明細書及び図面において、ミルクアレルギーのアレルゲンとされている、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、αs1−カゼイン(αS1カゼイン)、αs2−カゼイン(αS2カゼイン)、β−カゼイン、κ−カゼインは、それぞれaL、bLg、aS1C、aS2C、bC、kCなどと表記されることがある。
【0019】
(抗アレルギー剤のスクリーニング方法)
本開示の抗アレルギー剤のスクリーニング方法は、アレルギー個体由来のIgEと特異的に結合し、前記アレルギー個体由来のIgEとアレルゲンとによる1又は2以上の脱顆粒を阻害する脱顆粒阻害性エピトープペプチドを選択する工程を備え、前記1又は2以上の脱顆粒阻害性エピトープペプチドを前記抗アレルギー剤とする、方法である。
【0020】
本開示のスクリーニング方法によれば、アレルギー個体における脱顆粒反応阻害性エピトープペプチドを選択して、当該エピトープペプチドをアレルギー個体の抗アレルギー剤として利用できるようになる。
【0021】
本スクリーニング方法は、より具体的には、以下の工程を備えることができる。すなわち、アレルギー個体由来のIgEが特異的に結合する1又は2以上のIgE結合性エピトープペプチドを同定する同定工程と、前記1種又は2種以上のIgE結合性エピトープペプチドの前記アレルギー個体由来のIgEとアレルゲンとによる脱顆粒の阻害作用を評価する評価工程と、を備えることができる。これらの工程により、効率的に脱顆粒阻害能に優れるエピトープペプチドをスクリーニングできる。以下、これらの工程について説明する。
【0022】
(IgE結合性エピトープペプチドの同定工程)
IgE結合性エピトープペプチドの同定工程は、アレルギー個体由来のIgEと、アレルギー個体の可能性あるアレルゲン(タンパク質)に由来するエピトープペプチドとの特異的結合に関する結合情報に基づいて、前記IgEが結合性を有する1種又は2種以上のエピトープペプチドを同定する工程である。この工程により、アレルギー個体のIgEが結合性を有するエピペプチド(IgE結合性エピトープペプチド)を同定することができる。
【0023】
同定工程は、特に限定しないで、アレルギー個体から取得したIgEと、アレルギー個体のアレルギーの対象となるアレルゲンタンパク質を断片化してペプチドと、を接触させ、次いで、IgEとペプチドとの特異的結合を検出し、その結合に関する結合情報を取得するものであればよい。本選択方法では、アレルギー個体のIgEが結合性を示すエピトープペプチドを効率的に同定するために以下の方法を採用することができる。同定工程は、例えば、以下の接触工程及び結合情報取得工程を備えることができる。
【0024】
(接触工程)
接触工程は、個体由来のIgE(抗体)を含有する被験試料と、アレルゲンタンパク質に由来する1又は2以上のエピトープペプチドとを接触させる工程を備えることができる。接触工程により、被験試料中に存在する抗体とエピトープペプチドとが特異的結合を形成させることができる。
【0025】
被験試料は、少なくともIgEを含んでいればよい。本選択方法では、IgEとエピトープとの特異的結合を利用するからである。被験試料は、IgE以外の免疫グロブリンを含んでいてもよい。被験試料は、こうした抗体を含んでいる限り特に限定されないが、例えば、個体から採取される血液や血清などが用いられる。被験試料は、複数であってもよい。すなわち、予測対象となる個体につき2以上の被験試料を本明細書の開示の予測方法に供してもよい。
【0026】
本スクリーニング方法では、個体のアレルギー疾患において可能性あるアレルゲンタンパク質のアミノ酸配列の一部を有する複数のエピトープペプチドを用いる。エピトープペプチドは、可能性あるアレルゲンタンパク質に関しアレルギー疾患に関連のあるエピトープと考えられる部位のアミノ酸配列を含むかあるいは当該部位のアミノ酸配列からなっていればよく、その長さや配列は特に限定されない。
【0027】
スクリーニングに用いるエピトープペプチドは、可能性あるアレルゲンタンパク質又はその部分のアミノ酸配列に基づいて、適当な長さ(例えば、12〜20残基程度)であることが好ましい。また、エピトープペプチドは、可能性あるアレルゲンタンパク質又はその一部のアミノ酸配列に関し、N末端から所定のアミノ酸残基を2〜6アミノ酸残基ずつずらして得たオーバーラップペプチドであってもよい。また、オーバーラップペプチドは、アレルゲンタンパク質のアミノ酸配列をN末端から所定アミノ酸残基長のアミノ酸配列を、オーバーラップが8〜17残基程度となるような数の複数のオーバーラップペプチドであってもよい。
【0028】
かかるオーバーラップペプチドは、IgEと特異的に結合し、優れた脱顆粒阻害作用を呈するエピトープペプチドをスクリーニングするのに好適である。より好ましくは、アミノ酸残基数は14〜18残基であり、オーバーラップは、例えば、11〜15残基である。典型的には、アミノ酸残基数が14残基のオーバーラップペプチドのときには11残基オーバーラップし、同15残基のときには12残基オーバーラップし、同16残基のときには13残基オーバーラップし、同17残基のときには14残基オーバーラップし、同18残基のときには15残基オーバーラップする。
【0029】
より好ましくは、アレルゲンタンパク質の一次構造をカバーするアミノ酸配列にわたって必要数のオーバーラップペプチドを準備する。一つのアレルゲンタンパク質について準備するオーバーラップペプチドの数は、カバーする一次構造の大きさやオーバーラップペプチドの長さ及びオーバーラップ残基数によって異なる。アレルゲンタンパク質又はその一部のアミノ酸配列についてのオーバーラップペプチドを準備することで、IgEが結合性を呈するエピトープペプチドを高い確度で同定することができる。また、オーバーラップペプチドを対象とすることで、脱顆粒阻害作用を発揮するエピトープペプチドを効果的に選択することができる。
【0030】
ミルクアレルギーなど複数のタンパク質がアレルゲンとして関与する場合には、これらの複数のアレルゲンタンパク質から選択される1種又は2種以上のアレルゲンタンパク質につき、オーバーラップペプチドをエピトープペプチドとして準備することができる。
【0031】
例えば、アレルギー個体がミルクアレルギーである場合には、エピトープペプチドは、ミルクアレルギーのアレルゲンタンパク質のアミノ酸配列の一部により構成されている。ミルクアレルギー疾患に関しては主要な6つのミルクアレルゲンタンパク質であるα−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼインがあり、アレルゲンタンパク質としてはこれらから選択されることが好ましい。これらの特定のアレルゲンタンパク質のアミノ酸配列からエピトープペプチドを構成することが好ましい。
【0032】
例えば、アレルギー個体がミルクアレルギーの場合に好適に用いることができるエピトープペプチドを以下に示す。
【0033】
表1中、No.1〜38は、α−ラクトアルブミンのアミノ酸配列をN末端から16残基の長さで3塩基ずつずらした配列である。No.39〜42は、アルブミンのバリアント配列である。また、No.16及び17は、それぞれ、No.15のアミノ酸配列のC末端側を含むアミノ酸配列及びN末端側の配列となっている。なお、Pep No.は、配列番号に対応している(以下、同様である。)。
【0034】
【表1】
【0035】
表2中、No.43〜104は、α−S1-カゼインのアミノ酸配列をN末端から16残基の長さで3塩基ずつずらした配列である。No.105〜132は、α−S1-カゼインのバリアント配列である。
【0036】
【表2】
【0037】
表3中、No.133〜197は、α−S2-カゼインのアミノ酸配列をN末端から16残基の長さで3塩基ずつずらした配列である。No.198〜218は、α−S2-カゼインのバリアント配列である。
【0038】
【表3】
【0039】
表4中、No.219〜268は、β−ラクトグロブリンのアミノ酸配列をN末端から16残基の長さで3塩基ずつずらした配列である。No.269〜328は、β−ラクトグロブリンのバリアント配列である。
【0040】
【表4】
【0041】
表5中、No.329〜393は、β−カゼインのアミノ酸配列をN末端から16残基の長さで3塩基ずつずらした配列である。No.394〜474は、β−カゼインのバリアント配列である。
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
表6中、No.475〜526は、κ−カゼインのアミノ酸配列をN末端から16残基の長さで3塩基ずつずらした配列である。No.527〜583は、κ−カゼインのバリアント配列である。
【0045】
エピトープペプチドは公知のペプチド合成方法、例えば全自動ペプチド合成装置、酵母、大腸菌、哺乳動物細胞等による遺伝子組換えを用いた方法により製造することができる。
【0046】
エピトープペプチド、必要に応じて塩の形態、好ましくは生理学的に許容される酸付加塩の形態であってもよい。そのような塩としては、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)の塩、有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸)、この他、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)の塩等が挙げられる。
【0047】
準備したエピトープペプチドに対する個体の被験試料(血清等)の結合性(結合量)などの結合情報の比較から、個体についてのIgE結合性エピトープを見出すことができる。
【0048】
被験試料とエピトープペプチドとの接触工程に関し、公知の抗原抗体反応における種々の実施態様を適宜適用することができる。例えば、複数個のエピトープペプチドを適合な材料で構成された基板状の固相担体上にアレイ化した状態で被験試料と接触させてもよいし、エピトープペプチドをビーズ状の固相担体に固定化した状態で被験試料と接触させてもよい。また、固相担体を用いることなく液性媒体内で接触反応を行ってもよい。
【0049】
接触工程に供されるエピトープペプチドは、適当な固相担体に固定化されていることが好ましい。固相担体は、抗原抗体反応の反応系で溶媒に不溶な担体であれば、その材質及び形状は特に制限されず、公知の固相担体が使用できる。固相担体の形状としては、使用目的に応じて適宜の形状を選択すれば良く、例えば、テストプレート状、ビーズ状、球状、ディスク状、チューブ状、フィルター状等が挙げられる。好ましくは、固相担体は、テストプレート状、ディスク状、フィルター状等の平板状である。また、その材質としては、通常の免疫測定法用担体として用いられるもの、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド等の合成樹脂、または、これらに公知の方法によりスルホン酸基、アミノ基などの反応性官能基を導入したもの、ガラス、多糖類、シリカゲル、多孔性セラミックス、金属酸化物等が挙げられる。
【0050】
固相担体へのエピトープペプチドの固定化方法は、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、架橋法などの公知の方法が使用できるが、特に限定されない。当業者であれば、公知の方法から適宜選択してエピトープペプチドを固相担体に固定化することができる。
【0051】
接触工程では、固相担体に固定化されたエピトープペプチドに対して被験試料をそれぞれ供給して、エピトープペプチドと抗体との抗原抗体反応を生じさせる条件を付与する。抗原抗体反応が生じる条件は、当業者であれば容易に設定でき、例えば、適当な緩衝液でpHを調整し、適当な時間程度反応させることで、抗原抗体反応を生じさせることができる。なお、被験試料中の抗体とエピトープペプチドとの特異的結合を検出するには、非特異的結合を排除するためのコントロール実験を実施することが好ましい。典型的には、適当なコントロール液を準備し、当該コントロール液も被験試料に用いるのと同様の固相担体に対して供給し、各エピトープペプチドについてシグナル強度を測定することが行われる。
【0052】
(結合情報取得工程)
結合情報取得工程は、被験試料中のIgEとエピトープペプチドとの特異的結合に関する結合情報を取得する工程である。結合情報を取得することで、それぞれの被験試料中の抗体のエピトープペプチドに対する特異的結合の強度(換言すれば、エピトープペプチドに対して反応する抗体量)に基づき、被験試料の採取源である個体由来のIgEが特異的に結合するIgE結合性エピトープペプチドを取得できる。
【0053】
抗体とエピトープペプチドとの特異的結合に基づく結合情報は、例えば、特異的結合の検出に用いた標識物質等の種類に応じた検出装置を用いて所定のシグナルとして取得できる。結合情報は、被験試料中のエピトープペプチドに特異的に結合したIgE量に関連付けすることができる。特異的結合に関する結合情報は、抗原抗体反応等における公知の方法により取得できる。概して、固相担体上の抗原抗体反応は、イムノアッセイに用いられる周知の標識物質などを利用して検出することができる。結合情報は、例えば、標識物質に基づいて検出される蛍光色素や色素の強度等として取得される。標識物質としては、蛍光物質、発光物質、色素、酵素、補酵素、あるいはラジオアイソトープ等が挙げられる。標識物質は、エピトープペプチドに結合する抗体に対する二次抗体に直接結合して用いることもできる。また、標識物質を認識する抗体やアビジン−ビオチン系などを利用して間接的に用いることもできる。
【0054】
これらの工程により、個体由来のIgEとエピトープペプチドとの結合情報(標識物質に基づくシグナルの強度等)に基づいて、個体由来IgEが結合性を有する1種又は2種以上のエピトープペプチドを同定することができる。概して、標識物質のシグナルの強度の大きさに基づいて、両者の特異的な結合及びその結合しやすさ(特異性の高さ)を評価し、IgE結合性エピトープペプチドを同定することができる。こうしたIgE結合性エピトープペプチドは、脱顆粒阻害性エピトープペプチドの候補となる。
【0055】
なお、IgE結合性エピトープペプチドの同定にあたっては、シグナル強度等に基づいて複数個選択することが好ましい。後段での脱顆粒阻害作用の評価工程において脱顆粒阻害作用の評価の確度を高めることができる。
【0056】
複数のエピトープペプチドが、IgE結合性を呈してIgE結合性エピトープペプチドとして選択できる場合、後段の脱顆粒阻害作用の評価工程に供するIgE結合性エピトープペプチドをさらに選別することもできる。すなわち、連続する複数のオーバーラップペプチドであるエピトープペプチドがIgE結合性エピトープペプチドとして選択される場合には、以下のようにしてIgE結合性エピトープペプチドをさらに選別できる。例えば、これらのエピトープペプチドにおいて重複するアミノ酸配列を有効なエピトープ配列として特定し、当該エピトープ配列からなるペプチド又は当該エピトープ配列を含んでN末端側及びC末端側においてより短いペプチド鎖を有するペプチドをIgE結合性エピトープペプチドとして選択してもよい。
【0057】
こうして、エピトープ配列をより高度に特定し、エピトープペプチド全体の長さを制限することで、標的とするIgE抗体への特異性を高めて標的とするIgE抗体以外の他のIgE抗体への結合部位を有する可能性を低くすることができる。すなわち、別のエピトープを備える可能性を低くすることができる。これにより、投与時にアレルギー症状を引き起こす可能性を低減又は回避することができる。
【0058】
例えば、残基数が16残基であってN末端側から3残基ずつずれて連続してオーバーラップする3つのオーバーラップペプチドがいずれも、IgE結合性を呈する場合、これら3つのオーバーラップペプチドにおいて10残基からなるアミノ酸配列が共通することになる。したがって、当該10残基からなるアミノ酸配列を有用なエピトープ配列として選択し、上述の手法でIgE結合性エピトープペプチドとして選択することができる。
【0059】
(脱顆粒阻害作用の評価工程)
次いで、前記アレルギー個体由来のIgEとアレルゲンとに基づく脱顆粒に対するIgE結合性エピトープペプチドによる阻害作用を評価する工程を実施する。この工程によれば、IgE結合性エピトープペプチドが脱顆粒阻害作用を呈するか否か、あるいは脱顆粒阻害作用の程度を評価することができる。
【0060】
本評価工程は、かかる脱顆粒阻害作用を評価できる方法で実施すればよく、その手法は、特に限定されない。エピトープペプチドに由来するアレルゲンとアレルギー個体由来のIgEとによって脱顆粒が生じることが予め確認されている系に対して、同定されたIgE結合性エピトープペプチドを適用して、脱顆粒阻害作用に関する阻害情報を取得することによって行うことができる。
【0061】
こうした系として、例えば、好塩基球によるカゼインの脱顆粒反応系がある。ラット好塩基球様細胞株(例えば、ラット好塩基球性白血病細胞RBL-2H3)は、細胞表面に結合したIgEが抗原により架橋されることで、ヒスタミンなどを含む顆粒球を細胞外へ放出することが知られている。このため、この細胞株をアレルゲンで刺激することで脱顆粒系を構築できる。そして、ここにIgE結合性エピトープペプチドを添加したとき、脱顆粒をどの程度抑制するかを、顆粒中に豊富に存在するβ-ヘキソサミニダーゼの活性を測定することで脱顆粒率又は脱顆粒阻害率を求めて脱顆粒に対する作用(阻害作用)を評価できる。
【0062】
この反応系においてはアレルゲンであるカゼイン投与に先だって、同定されたIgE結合性エピトープペプチドを細胞株に投与したときの脱顆粒を検出することで、IgE結合性エピトープペプチドによる脱顆粒阻害作用を検出することができる。
【0063】
β−ヘキソサミニダーゼの活性は、例えば、以下のようにして測定することができる。すなわち、当該酵素に対してp−ニトロフェニル−N−アセチル−β−D−グルコサミニドを基質として加えて酵素反応を行い、その後、酵素反応を停止させて所定の吸光度(例えば、405nm)での吸光度を測定する。なお、エピトープペプチド投与時の脱顆粒率を測定するには、細胞中の全顆粒が放出されるように調製した全放出サンプルを準備し、脱顆粒率(%)を算出する。脱顆粒率(%)は、例えば、以下の式で表される。
【0064】
脱顆粒率(%)=(被験試料の吸光度−ネガティブコントロール(アレルゲンがない状態でのβ−ヘキソサミニダーゼの自然遊離量に基づく)の吸光度)/(全放出サンプルの吸光度−ネガティブコントロールの吸光度)×100
【0065】
なお、ポジティブコントロールとして、細胞に対してカルシウムイオンを流入させるイオノフォアであるA23187(製品番号100105、CALBIOCHEM, MA, USA)等を投与することができる。
【0066】
なお、阻害情報としては、例えば、IgE結合性エピトープペプチド投与時の脱顆粒の阻害率(%)として算出することができる。例えば、阻害率(%)は、以下の式で表される。
【0067】
阻害率(%)=(カゼインのみの投与時の吸光度−IgE結合性エピトープペプチドとカゼイン投与時の吸光度/(カゼインのみ投与時の吸光度−ネガティブコントロールの吸光度)×100
【0068】
例えば、阻害情報としての阻害率が大きいほど、脱顆粒阻害作用が高いことを肯定することができる。例えば、阻害率は、特に限定しないが、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、一層好ましくは90%以上であり、より一層好ましくは95%以上である。
【0069】
本選択方法によれば、阻害情報に基づきIgE結合性エピトープペプチドの中から優れた脱顆粒阻害作用のある1又は2以上をアレルギー個体の脱顆粒阻害性エピトープペプチドとして選択することができる。そして、この脱顆粒阻害性エピトープペプチドを、アレルギー個体の抗アレルギー剤として選択することができる。こうした抗アレルギー剤によれば、アレルギー個体においてアレルギー反応を抑制することができる。
【0070】
この場合においても、既述のIgE結合性エピトープペプチドの場合と同様、選択された1又は2以上の脱顆粒阻害性エピトープペプチドを、そのままアレルギー剤として選択できるが、連続する複数のオーバーラップペプチドであるIgE結合性エピトープペプチドが脱顆粒阻害性エピトープペプチドとして選択される場合には、例えば、以下のようにして脱顆粒阻害性エピトープペプチドとして最も有効なエピトープ配列を選択し、当該エピトープ配列に基づいて脱顆粒阻害性エピトープペプチドすることができる。すなわち、これらの脱顆粒阻害性エピトープペプチドにおいて重複するアミノ酸配列を有効なエピトープ配列として特定し、当該エピトープ配列からなるペプチド又は当該エピトープ配列を含んでN末端側及びC末端側においてより短いペプチド鎖を有するペプチドを脱顆粒阻害性エピトープペプチドとすることができる。この場合においても、既述のIgE結合性エピトープペプチドの場合と同様、これにより、投与時にアレルギー症状を引き起こす可能性を低減又は回避することができる。
【0071】
また、脱顆粒阻害性エピトープペプチドについても、既述のIgE結合性エピトープペプチドと同様、連続するオーバーラップペプチドにおいて共通するアミノ酸配列を特定し、当該アミノ酸配列を有用なエピトープ配列として選択して、上記手法により脱顆粒阻害性エピトープペプチドとして選択できる。
【0072】
以上の説明においては、単独のアレルギー個体について当該個体の脱顆粒反応阻害性ペプチドを当該個体の抗アレルギー剤として選択することについて説明したが、複数の同一又は類似のアレルギー疾患に罹患するアレルギー個体について、上記工程を実施して、共通するIgE結合性エピトープペプチドについて脱顆粒阻害作用を評価することで、これらに共通する脱顆粒阻害性エピトープペプチドを選択することも可能である。
【0073】
また、以上の説明においては、抗アレルギー剤のスクリーニング方法として説明したが、IgE結合性エピトープペプチドを同定する工程、を備える、抗アレルギー剤候補のスクリーニング方法としても実施できる。抗アレルギー剤のスクリーニング方法の1つの工程であるIgE結合性エピトープペプチドの同定工程によって、脱顆粒阻害性エピトープペプドの候補をスクリーニングすることができるからである。
【0074】
(脱顆粒阻害性エピトープペプチドの抗アレルギー剤としての使用)
本スクリーニング方法によって選択された1又は2以上のアレルギー個体の脱顆粒反応阻害性ペプチドは、アレルギー個体のIgEと特異的結合してアレルゲンによる脱顆粒反応を阻害する。したがって、このペプチドを、アレルギー個体に投与することで、アレルギー個体におけるアレルゲンによるアレルギー症状を抑制又は回避することができる。
【0075】
アレルギー個体が、複数のアレルゲンによるアレルギー疾患を有する場合もある。本スクリーニング方法によって選択される抗アレルギー剤は、アレルギー個体が有する1又は複数のアレルギー疾患に応じた適切な抗アレルギー剤のセットを構築することができる。
【0076】
また、アレルギー個体のアレルギー疾患の罹患状況は、年齢によっても変化する。本スクリーニング方法によって選択される抗アレルギー剤は、アレルギー個体のアレルギー疾患の罹患状態に応じた抗アレルギー剤を選択することができる。
【0077】
(アレルギー疾患の予防又は治療用組成物)
こうして選択された抗アレルギー剤は、アレルギー疾患の予防又は治療用組成物の有効成分として利用できる。本組成物は、各種の投与形態でアレルギー個体に投与してそのアレルギー症状を抑制又は回避させることができる。また、この抗アレルギー剤を有効成分とする組成物は、抗アレルギー剤がターゲットとするアレルゲンとを組み合わせた減感作又は寛解を目的とする免疫療法に適用することができる。こうした免疫療法と組み合わせることで、アレルゲン投与によるアナフィキラシーなどのアレルギー反応を抑制又は回避できる。
【0078】
なお、抗アレルギー剤としてのエピトープペプチドは、上記したように、そのアミノ酸配列を維持しつつ投与方法等に応じて各種の誘導体として用いることができる。また、抗アレルギー剤の投与経路は、特に限定されないで、皮下投与、局所投与(経粘膜投与を含む)、静脈投与、経腸投与、腹腔内投与、経口投与(舌下投与を含む)等適宜選択される。また、製剤形態等も、投与経路に応じて適宜選択される。なお、アレルゲンは、脱顆粒阻害作用エピトープペプチドのターゲットとなるアレルゲンである。
【0079】
(アレルギー疾患の予防又は治療用医薬)
また、こうして選択された抗アレルギー剤は、ターゲットとなるアレルゲンであるタンパク質又はその一部と組み合わせた、アレルギー疾患の予防又は治療用医薬の有効成分として利用できる。この医薬は、アレルゲン又はその一部を、別個の製剤としてあるいは合剤として備えることができる。この医薬は、特に、アレルギー疾患の減感作又は寛解のための医薬として利用できる。
【0080】
なお、抗アレルギー剤とアレルゲン又はその一部との投与タイミングは、特に限定されない。アレルギー個体のIgEの反応性やアレルゲン量等に応じて適宜選択される。アナフィラキシーを回避するためには、脱顆粒阻害性エピトープペプチドを投与して、アレルギー個体のIgEにこれらが結合している状態でアレルゲン又はその一部を投与することができる。
【0081】
(アレルギーの予防又は治療用組成物の製造方法)
本開示のアレルギー疾患の予防又は治療用組成物の製造方法は、アレルギー個体由来のIgEとアレルゲンとによる脱顆粒の阻害作用を有する脱顆粒阻害性エピトープペプチドを選択する工程と、前記脱顆粒阻害性エピトープペプチドを抗アレルギー性の有効成分として、前記組成物を製造する工程と、を備えることができる。この方法によれば、アレルギー個体のアレルギー疾患に応じた適切なアレルギーの予防又は治療用の組成物を製造することができる。
【0082】
脱顆粒阻害性エピトープペプチドの選択工程は、既に説明した抗アレルギー剤のスクリーニング方法において説明した実施態様に基づいて実施することができる。
【0083】
組成物の製造工程は、選択された脱顆粒阻害性エピトープペプチドを有効成分として、アレルギー個体への投与経路や製剤形態に応じて、公知の方法によって製剤を製造する工程である。
【0084】
(ミルクアレルギー個体のアレルギー剤をスクリーニングするためのペプチドセット及び装置)
本開示のペプチドセットは、既に記載したミルクアレルギー疾患を有する個体においてIgE結合性エピトープペプチドを同定するためのエピトープペプチドを含む。かかるエピトープペプチドとしては、表1〜表6に示すエピトープペプチドの少なくとも一部を含むことができる。
【0085】
また、本開示のスクリーニング装置は、こうしたペプチドセット固定化した固相担体を備えることができる。固相担体及びエピトープペプチドの固相担体への固定化方法は、既に記載したように特に限定されないで公知手法に基づくことができる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を、具体例を挙げて説明するが、以下の実施例は、本発明を説明するものであって本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0087】
(アレルギーマウスの作製及び血清の取得)
ミルクアレルギーモデルマウスはBALB/ cAJcl(日本クレア, Tokyo)を用いて作製した。まずカゼインナトリウム200μg/mlとAl(OH)3ゲル(アラムゲル)20mg/mlを等量混和した溶液を作製し、1匹あたり200μl腹腔内投与を行った。この操作を2週間に一度の頻度で行い、計3回投与した。
【0088】
免疫から1週間後に尾静脈から採血し(計3回)、血清を取得した。この血清を-80℃で保存した。また、マウスIgE測定キット(MS341, TaKaRa, Shiga, Japan)を用いて血清中のtotal Mouse IgEを測定した。結果を図1に示す。
【0089】
図1に示すように、カゼインを免疫していないコントロールマウス群と比較し、カゼイン免疫をしたマウス群ではTotal IgE量の増加が見られ、アレルギーマウスが作製できたことが確認された。
【実施例2】
【0090】
(作製したアレルギーマウスの血清におけるカゼインによる脱顆粒の確認)
実施例1で測定した血清のIgE量は血清中のTotal IgEである。このIgEがカゼイン特異的であることを確認するために、作製したアレルギーマウスの血清を用いて脱顆粒検出を行った。脱顆粒検出では細胞に血清IgEを感作させ抗原を添加することで脱顆粒反応を観察する。よって脱顆粒検出にカゼインを抗原として検出を行うことで用いた血清にカゼイン特異的IgEが含まれているか確認することが可能である。
【0091】
(ラット好塩基球白血病細胞の準備)
ラット好塩基球白血病細胞(RBL-2H3;American Type Culture Collection, CRL-2256, USA)を使用した。培地はMinimum Essential Medium(MEM) (763985, Invitrogen, Gaithersburg, MD, U.S.A.) を使用し、血清は10% fetal bovine derum(FBS)(invitrogen, MD, USA)、抗生物質としてペニシリンストレプトマイシン(PS)(invitrogen, MD, U.S.A)を用いた。細胞培養には100 mm細胞接着性ポリスチレン製ディッシュ(Culture dish, IWAKI、東京)を用いた。
【0092】
細胞の継代は、以下の通りに行った。サブコンフルエント状態の細胞をPBSで洗浄した後、トリプシン溶液を1ml加えて1分間インキュベーター(37℃、95 % air、5 % CO2)で静置した。その後、1000 rpmで3分間遠心して上清を除いた後、培地を加えて得られた細胞懸濁液を細胞数が1×106 個になるように新しい培養ディッシュに播種し、インキュベーターで培養した。3〜4日後細胞数が107個となりサブコンフルエントになった後、同様の操作を行い継代した。なお、細胞数はトリプシン溶液で処理してからディッシュから剥がし、トリパンブルー色素排除法により測定した。
【0093】
(マウス血清・抗原の調製)
抗体は実施例1で取得したマウス血清を用いた。抗原はカゼインナトリウム(149-02842, Wako, Osaka)を用いた。カゼインは水に難溶であるため、ナトリウム塩を用いた。また、カゼインナトリウムは50、100、250、500 μg/mlとなるように以下に示すHepes Tyrode緩衝液に溶解させた。
【0094】
【表7】
【0095】
(A23187の調製)
脱顆粒反応のポジティブコントロールとしてカルシウムイオンを流入させるイオノフォアであるA23187(100105,CALBIOCHEM, MA, USA)を使用した。これを終濃度が10-2 Mになるようにエタノール(EPL0683,Wako, Osaka)を用いて溶解して使用した。
【0096】
(β-ヘキソサミニダーゼを用いた脱顆粒試験)
(細胞の調製)
先と同様に細胞をディッシュからはがしてセルカウントを行い遠心し、RBL-2H3を2.5×105 cells/mlに調整した。細胞懸濁液にはマウス血清 を希釈率が50、75、100倍となるように添加した。96 wellプレートに細胞懸濁液を100 μl/wellになるように加えて36時間CO2インキュベーター(37℃、95 % air、5 % CO2)に静置した。
【0097】
(β-ヘキソサミニダーゼ吸光度測定)
36時間培養した細胞の培地をアスピレーターによって除き、Hepes Tyrode 150 μl/wellで2回洗った。さらにHepes Tyrodeを80μl/wellで加えて30分間 CO2インキュベーター(37℃、95 % air、5 % CO2)で静置した。その後、上記で調製した各種濃度のカゼインナトリウムを20 μl加え、ポジティブコントロールであるA23187は25 μMとなるように調整し、20 μl加えた。30分間 CO2インキュベーター(37℃、95 % air、5 % CO2)で静置した。また、脱顆粒の割合を求めるため、細胞中の全顆粒を放出させるサンプルとして界面活性剤 1 % Triton-X 100(Sigma Chemical CO., St. Louis, Mo. U.S.A)を20 μl/well加えてピペッティングし、細胞膜を破壊することで作製した。well中の溶液をすべて1.5 mlマイクロチューブに移し、氷上で3分間冷やして反応を停止させた。それを5000 rpmで3分間遠心し、上清を分取した。その上清50μlを96 wellプレートに入れた。次に、0.1 M citrate buffer, pH 5に溶解した1 mM p-nitorophenyl-N-acetyl-β-D-glucosaminide(Sigma Chemical CO., St.Louis, MO, U.S.A)を50μlずつ加えて1時間 CO2インキュベーター(37℃、95 % air、5 % CO2)で酵素反応を行った。1時間後、0.1 M carbonate buffer, pH10.5を200μl加えて酵素反応を停止させ、プレートリーダー(Model 550; Nippon Bio-Rad Laboratories K.K., 東京)を用い、405 nmでの吸光度測定を行った。吸光度の値から脱顆粒の割合を計算した。

脱顆粒の割合(%)=(サンプルの吸光度−ネガティブコントロールの吸光度)/(トータルの吸光度−ネガティブコントロールの吸光度)×100
【0098】
なお、ネガティブコントロール(ネガコン)はβ-ヘキソサミニダーゼの自然遊離量、Totalは1 % Triton-X 100により処理した細胞内全量を示す。血清を細胞に感作させ脱顆粒検出した結果を図2に示す。
【0099】
図2においては、左から抗原(カゼイン)濃度50〜500 μg/ml、ポジティブコントロールであるA23187の脱顆粒率を示す。抗体のみのときの脱顆粒率を0 %として既述の脱顆粒率の式に基づいて算出した。
【0100】
図2に示すように、血清50倍希釈、抗原100 μg/mlで最も脱顆粒し、約36 %の脱顆粒率となったことから、作製したアレルギーマウスの血清にはカゼイン特異的IgEが含まれており、ミルクアレルギーマウスの作製に成功したことがわかった。
【実施例3】
【0101】
アレルギーマウスにおいては抗原を摂取すると、アナフィラキシーによって直腸温が低下する。よって直腸温の測定を行うことでアナフィラキシーの確認を行った。作製したアレルギーマウスにカゼインナトリウムを400 μg/mlとなるようにPhosphate Buffered Saline(以下 PBS)に溶解した。直腸温測定にはプローブ温度計(ANRITSU METER CO., LTD Tokyo, Japan)を用い、プローブ先端をミネラルオイル(Cat.#M5904; Sigma-Aldrich Japan K.K., Tokyo)に浸し、マウスの直腸に挿入することで測定を行った。結果を図3に示す。
【0102】
図3に示すように、コントロールマウスは抗原投与後も直腸温がほぼ一定であったことに対し、アレルギーマウスでは抗原投与後約45分で直腸温が最も低下し、約1.6℃の低下が観察されたことからアナフィラキシーを起こしていることが確認された。
【実施例4】
【0103】
ミルクタンパク質全6種類、α-S1-casein(aS1C)、α-S2-casein(aS2C)、α-lactalbumin(aL)、β-lactoglobulin(bC)、β-casein(bC)、κ-casein(kC)のアミノ酸配列を16残基の長さ3残基ずらしで合成した計583種のペプチド(表1〜表6)を、ガラス基板上に固定化させることで、高集密なミルクタンパク質配列全網羅ペプチドアレイ(ミルクペプチドアレイ)を作製した。
【0104】
(ペプチドアレイの作製)
583種類のペプチドへのアレイへの固定化は以下の通りとした。なお、固相担体としては、ガラス基板を用いた。ペプチドの固定化及びブロッキング等は以下のようにして行った。
【0105】
まず、ペプチドをガラス基板上の所定の位置に所定量をスポットした後、80℃で1時間加熱処理をして固定化した。その後、アレイ上のシランコーティングやスポッティングされているペプチドの塩を取り除き、ペプチド間のS-S結合による構造変化に伴う非特異結合を抑えるために、2×SSC(15557-044, Invitrogen), 0.2 % SDS(15553-027, Invitrogen), 100 mM dithiothreitol(DTT)(042-29222, Wako)溶液に浸け(15 min、室温)、さらに、95℃に加熱した2×SSC, 0.2 %SDS溶液に浸けた(5 min)。次に、超純水中でアレイを10回程度振とうさせる操作を3回行った後、遠心乾燥した。
【0106】
このアレイに対してブロッキングバッファ(50 mM Ethanolamine (09-0590-5, Sigma-Aldrich)、0.1%SDS、0.1M Tris((hydroxymethyl)aminomethane)溶液に浸けた(90 min、室温)後、PBS-T(1×PBS、0.1 %Tween20(655205, Calbiochem))に浸けた(5 min、室温、3回)。これにより、スライド基板上の未反応アミノ基のブロッキングを行った。
【0107】
次いで、ミルクアレルギー患者から採取した血清を0.5 %BSA(Albumin, from Bovine Serum, Low Salt、019-15123, Wako)を含む、PBS溶液で25倍希釈した後、その溶液をカバーガラス(Gasket slide 1 microarray/slide format, G2534-60008, Agilent Technologies)に500μlアプライし、その上にアレイのペプチドが固定されている面を重ね合わせ、ハイブリダイゼーション用チャンバ(Microarray hybridization chamber, stainless steel, G2534A, Agilent Technologies)で固定した後、ハイブリダイゼーションオーブン(Hybridization Oven, G2545A, Agilent Technologies)で撹拌しながら反応させた(30 min、37 ℃、20 rpm)。
【0108】
血清反応後、オーブンからアレイを取り出し、PBS-T中でカバーガラスを外し、PBS-T(1×PBS、0.1 %Tween20)に浸けた(5min、室温、3回)。
【0109】
次に、Rat monoclonal Secondary Antibody to Mouse IgE-epsilon chain (ab99571, abcam, UK) を1 %BSA、PBS-T溶液で500倍希釈した後、血清を作用させた場合と同様の手順にて、オーブンで撹拌した(30 min、37 ℃、20rpm)。抗体反応後、オーブンからアレイを取り出し、PBS-T中でカバーガラスを外し、PBS-T(1×PBS、0.1 %Tween20)に浸けた(5min、室温、3回)。次に、Alexa Fluor 647-conjugated AffiniPure Goat Anti-Rat IgG, Fcγ Fragment Specific (112-605-008, Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc., U.S.A.) を1 %BSA、PBS-T溶液で800倍希釈した後、血清を作用させた場合と同様の手順にて、オーブンで撹拌した(30 min、37 ℃、20rpm)。抗体反応後、オーブンからアレイを取り出し、PBS-T中でカバーガラスを外した。PBS-T(1×PBS、0.1 %Tween20)に浸け(5 min、室温、3回)、さらに、超純水中でアレイを10回程度振とうさせる操作を3回行った後、900 rpmで3 min遠心乾燥させた。
【0110】
以上の操作を終えたペプチドアレイのスポットは、マイクロアレイスキャナー(scanner model G2505B, software G2565BA/DA, Agilent Technologies)で検出した。得られた画像データは、数値解析ソフト(Gene Pix Pro 7, Agilent Technologies)を用いて解析し、それぞれのスポットの蛍光強度を数値化した。基板内n=3の平均蛍光強度をペプチドに対する蛍光強度値として評価した。
【0111】
コントロールマウスの血清を用いてもアッセイを行った。PBSで3回免疫したコントロールマウス1 匹の1 サンプルを扱った。また、血清なしでもアッセイした。なお、血清なしで同様に操作して得られた蛍光強度を差し引いて解析に使用した。
【0112】
以上の操作を、3回免疫を行ったアレルギーマウス10匹の合計10サンプルにつき、行った。アレイスキャナーを用いて得られたIgEの蛍光強度の値を5 サンプルを1つのグラフにまとめたものをまとめて図4に示す。結果を図4に示す。なお、図4においては、サンプルにおけるIgEの縦軸の最大値を60000に統一してグラフ化した。
【0113】
図4に示すように、今回免疫に用いたタンパクはカゼインであることから、κ-カゼインやβ-カゼインにおいて大きなピークが見られ、ラクトアルブミンやラクトグロブリンではピークが見られなかった。なお、コントロールマウスの血清には特異的IgEは含まれていないため、図4に示すようなピークは全く見られなかった。寄って、図4に示すピークはカゼイン特異的IgEが結合するペプチド配列であることが示唆された。
【0114】
また、エピトープの位置についてはほとんどのマウスにおいて、ペプチド番号で、 No.221,372,377,378,387〜390,445〜447,476〜479,492,504〜508,524,525,544〜547,550,551,560〜562,566〜568,574〜577が認識された。
このグラフ中のペプチド配列のうち、全てのマウスにおいて認識されたペプチド配列21種をIgE結合性エピトープペプチドとして選出、取得した。なかでも、図4に示す3つのエピトープペプチド(No.387, 446, 506)は、強く認識された。
【実施例5】
【0115】
(エピトープペプチドの脱顆粒阻害作用の評価)
実施例4において同定したIgE結合性エピトープペプチドの脱顆粒阻害作用について評価した。評価は、実施例2にて用いたβ―ヘキソサミニダーゼによる脱顆粒評価系に替えて、脱顆粒の際に起こる細胞内へのカルシウム流入による蛍光によって脱顆粒反応を検出可能であるFluo-4 Directを含む Fluo-4 Directカルシウムアッセイキット(商品名)を用いるとともに、実施例2に準じて脱顆粒阻害作用を評価した。脱顆粒阻害作用の評価にあたっては、抗体としてエピトープペプチドの同定に用いたマウス血清を用いた。実施例2におけるカゼイン投与に先立って、RBL-2H3細胞に対して同定したエピトープペプチドの溶液を終濃度で300μMとなるように添加した。さらに、カゼインのみを投与したときと、カゼインなしでエピトープペプチドのみを投与したときの脱顆粒阻害作用も同様に評価した。これらの結果から、阻害率(%)を求めた。結果を、図5に示す。
【0116】
図5に示すように、実施例4で同定したIgE結合性エピトープペプチドは、いずれも、脱顆粒阻害作用を呈した。したがって、これらの脱顆粒阻害性エピトープペプチドであるといえる。これらの中から、実施例4で同定された、全てのマウスに共通のエピトープペプチドであるbc59(ペプチド番号:387)、bc118(同446)及びkc32(同506)を最も好適な脱顆粒阻害性エピトープペプチドとして選択した。
【実施例6】
【0117】
(エピトープペプチドの調製)
実施例4及び5で特定した3種のエピトープペプチドを混合して、エピトープペプチドとして用いた。これらのペプチドはそれぞれ等量を用いて総濃度が1200 μMとなるようにHepes Tyrodeに溶解させた。また、ネガティブコントロール配列として、IgE結合性エピトープペプチドでない蛍光強度が観察できなかったエピトープペプチドを用いた。
【0118】
(エピトープペプチドの投与)
実施例1で作製したアレルギーマウスに対して、投与方法として免疫のときと同様に腹腔内投与を行った。まず、エピトープペプチド混合液100μlの投与を行い、15分後に抗原であるカゼイン100μlを同様にして投与した。その後15分毎に、先の実施例と同様に直腸温の測定を行い、アレルギー症状が起こるか確認した。結果を図6に示す。
【0119】
図6に示すように、エピトープペプチド混合液を投与した15分後にカゼインを投与した場合では直腸温の低下は見られなかった。これに対して、ペプチドを投与せず(PBS投与)にカゼインを投与した際には、直腸温の挙動が観察された。また、カゼイン免疫をしていないコントロールマウスにカゼインを投与したときは、直腸温の低下は見られなかった。
【0120】
以上の結果から、脱顆粒阻害性エピトープペプチドをアレルギーマウスに投与することによって、カゼイン、すなわち、アレルゲン投与時においても、アレルギー症状を抑制できることがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0121】
配列番号1〜583:合成ペプチド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]