(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6519947
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】ガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 8/00 20060101AFI20190520BHJP
C03B 19/02 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
C03B8/00 B
C03B19/02 A
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-112002(P2015-112002)
(22)【出願日】2015年6月2日
(65)【公開番号】特開2016-222509(P2016-222509A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太志
【審査官】
松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−063410(JP,A)
【文献】
特開2015−059074(JP,A)
【文献】
特開2014−141389(JP,A)
【文献】
特開2015−096452(JP,A)
【文献】
特開2005−255487(JP,A)
【文献】
特開2016−160162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/00
19/00,19/02
5/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型の成形面上にガラス原料塊を配置し、前記成形面に開口するガス噴出孔から第1のガスを噴出させながら、レーザー光を照射することにより前記ガラス原料塊を融解して溶融ガラスを得た後、均質化する溶融工程と、
前記ガス噴出孔から第2のガスを噴出させながら前記溶融ガラスを冷却固化する冷却工程と、
を含み、
前記溶融工程において、少なくとも前記溶融ガラスが前記成形面上で浮遊するように、前記第1のガスを噴出させ、かつ、
前記冷却工程において、少なくとも前記溶融ガラスが前記成形面上で浮遊するように、前記第2のガスを噴出させる、ガラス材の製造方法であって、
前記第2のガスが前記第1のガスよりも熱伝導率が高いことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記第2のガスの熱伝導率が40mW/m・K以上であることを特徴とする請求項1に記載のガラス材の製造方法。
【請求項3】
前記第2のガスがヘリウムであることを特徴とする請求項2に記載のガラス材の製造方法。
【請求項4】
前記第1のガスが酸素、窒素、アルゴン及び空気から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項5】
前記第1のガスの噴出を停止すると同時またはその直前から、前記第2のガスを噴出させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項6】
前記第1のガスの流量を漸減させながら、前記第2のガスの流量を漸増させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項7】
前記第1のガスと前記第2のガスの最大流量が略同一であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項8】
前記第2のガスを噴出させながら、レーザー出力を低下させることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項9】
前記溶融ガラスの温度が少なくともガラス転移点以下の温度になるまで、前記溶融ガラスを前記成形面上に浮遊させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項10】
ガス噴出孔が開口した成形面を有する成形型と、
前記成形面上で前記ガラス原料塊を融解して溶融ガラスを得た後、均質化するためのレーザー光を照射する照射装置と、
前記ガラス原料塊を融解して溶融ガラスを得た後、均質化する溶融工程において、少なくとも前記溶融ガラスを前記成形面上に浮遊させるための第1のガスを供給する第1のガス供給機構と、
前記溶融ガラスを冷却固化する冷却工程において、少なくとも前記溶融ガラスを前記成形面上に浮遊させるための第2のガスを供給する第2のガス供給機構と、
を備える、ガラス材の製造装置であって、
前記第2のガスが前記第1のガスよりも熱伝導率が高いことを特徴とするガラス材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス材の製造方法として、無容器浮遊法に関する研究がなされている。例えば、特許文献1には、ガス浮遊炉で浮遊させたバリウムチタン系強誘電体の試料にレーザービームを照射して加熱溶融した後、冷却することにより、バリウムチタン系強誘電体の試料をガラス化させる方法が記載されている。容器を用いてガラスを溶融する従来の方法では、溶融ガラスが容器の壁面に接触することによって、結晶が析出することがあるが、無容器浮遊法では、容器の壁面との接触に起因する結晶化の進行を抑制できる。そのため、従来の容器を用いた製造方法ではガラス化させることができなかった材料であっても、無容器浮遊法ではガラス化し得る場合がある。従って、無容器浮遊法は、新規な組成を有するガラス材を製造し得る方法として注目に値すべき方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−248801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無容器浮遊法を利用しても、製造工程で結晶化が生じ、ガラス材を得ることが困難である場合がある。特に、ガラス化しにくい組成の場合はそのような傾向が顕著である。
【0005】
従って、本発明は、無容器浮遊法によりガラス材を製造する際に、結晶化を効果的に抑制できる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のガラス材の製造方法は、成形型の成形面上にガラス原料塊を配置し、成形面に開口するガス噴出孔から第1のガスを噴出させながら、レーザー光を照射することによりガラス原料塊を融解して溶融ガラスを得た後、均質化する溶融工程と、ガス噴出孔から第2のガスを噴出させながら溶融ガラスを冷却固化する冷却工程と、を含み、少なくとも溶融ガラスが成形面上で浮遊するように、第1のガス及び/または第2のガスを噴出させる、ガラス材の製造方法であって、第2のガスが第1のガスよりも熱伝導率が高いことを特徴とする。
【0007】
本発明者らの調査によると、無容器浮遊法によるガラス材の製造工程において、特に溶融ガラスを冷却する際に結晶化が生じやすいことがわかった。当該結晶化を抑制するためには、溶融ガラスの冷却速度を高めることが有効である。そこで、本発明では、溶融ガラスを冷却する工程で使用するガスとして、ガラス原料塊を融解させて溶融ガラスを得る工程で使用するガスよりも熱伝導率の高いガスを使用することで、溶融ガラスの冷却速度を高めることを可能とした。結果として、ガラス化しにくいガラス組成であっても、無容器浮遊法により歩留り良くガラス材を得ることができる。
【0008】
本発明のガラス材の製造方法において、第2のガスの熱伝導率が40mW/m・K以上であることが好ましい。
【0009】
本発明のガラス材の製造方法において、第2のガスがヘリウムであることが好ましい。
【0010】
ヘリウムは熱伝導率が高く、安全性にも優れるため好ましい。
【0011】
本発明のガラス材の製造方法において、第1のガスが酸素、窒素、アルゴン及び空気から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
酸素、窒素及び空気は安定性に優れ、かつ安価であり製造コストを低減できるため好ましい。また、これらのガスは熱伝導性が比較的低いため、溶融温度を高温に保持しやすい。よって、ガラスを均質化する点で有利である。また、ガラスの溶融に必要なエネルギー(つまりレーザー光の出力)を低減できるため製造コストを低減できるという利点がある。さらに、ガラス化のために還元性雰囲気が嫌われる組成の場合は、これらのガスを第1のガスとして使用することにより、歩留り良くガラス材を得ることができる。特に、ガラス化のために酸化性雰囲気が望まれる組成の場合は、酸素または空気を用いることが好ましい。
【0013】
本発明のガラス材の製造方法において、第1のガスの噴出を停止すると同時またはその直前から、第2のガスを噴出させることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、第1のガスから第2のガスに切り替える際に、溶融ガラスへのガスの供給が途切れることがなくなるため、溶融ガラスの浮遊状態を保持することが可能となる。
【0015】
本発明のガラス材の製造方法において、第1のガスの噴出量を漸減させながら、第2のガスの噴出量を漸増させることが好ましい。
【0016】
この方法によっても、第1のガスから第2のガスに切り替える際に、溶融ガラスへのガスの供給が途切れることがなくなるため、溶融ガラスの浮遊状態を保持することが可能となる。また、第1のガスの流量と第2のガスの流量を適宜調整することにより、第1のガス及び第2のガスの総流量を一定に保ちやすいことから、第1のガスから第2のガスに切り替える際における溶融ガラスの浮遊状態を安定化することが可能となる。その結果、溶融ガラスの成形面への接触を抑制することができる。
【0017】
本発明のガラス材の製造方法において、第1のガスと第2のガスの最大流量が略同一であることが好ましい。
【0018】
このようにすれば、第1のガスから第2のガスに切り替える際における溶融ガラスの浮遊状態を安定化することが可能となる。
【0019】
本発明のガラス材の製造方法において、第2のガスを噴出させながら、レーザー出力を低下させることが好ましい。
【0020】
このようにすれば、溶融ガラスの冷却速度を効果的に向上させることが可能となる。
【0021】
本発明のガラス材の製造方法において、溶融ガラスの温度が少なくともガラス転移点以下の温度になるまで、溶融ガラスを成形面上に浮遊させることが好ましい。
【0022】
一般に、ガラスはガラス転移点以上で結晶化が進行する傾向があるため、当該温度以上では溶融ガラスが成形面に接触しないよう、浮遊状態を保持することが好ましい。そこで、溶融ガラスを、ガラス転移点以下になるまで成形面上に浮遊させることにより、溶融ガラスの結晶化の進行を抑制することができる。
【0023】
本発明のガラス材の製造装置は、ガス噴出孔が開口した成形面を有する成形型と、成形面上でガラス原料塊を融解して溶融ガラスを得た後、均質化するためのレーザー光を照射する照射装置と、ガラス原料塊を融解して溶融ガラスを得た後、均質化する溶融工程において、少なくとも溶融ガラスを成形面上に浮遊させるための第1のガスを供給する第1のガス供給機構と、溶融ガラスを冷却固化する冷却工程において、少なくとも溶融ガラスを成形面上に浮遊させるための第2のガスを供給する第2のガス供給機構と、を備え、第2のガスが第1のガスよりも熱伝導率が高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、無容器浮遊法によりガラス材を製造する方法において、ガラス化しにくい組成であっても、結晶化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1の実施形態に係るガラス材の製造装置の模式的断面図である。
【
図2】第1の実施形態における成形面の一部分の略図的平面図である。
【
図3】第1の実施形態におけるガス流量とレーザー出力のタイムチャートである。
【
図4】第2の実施形態におけるガス流量とレーザー出力のタイムチャートである。
【
図5】第3の実施形態におけるガス流量とレーザー出力のタイムチャートである。
【
図6】第4の実施形態におけるガス流量とレーザー出力のタイムチャートである。
【
図7】第5の実施形態に係るガラス材の製造装置の模式的断面図である。
【
図8】比較例1、2におけるガス流量とレーザー出力のタイムチャートである。
【
図9】実施例1及び比較例1におけるガラス原料塊、溶融ガラス及びガラス材の温度プロファイルである。
【
図10】実施例2及び比較例2におけるガラス原料塊、溶融ガラス及びガラス材の温度プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0027】
(第1の実施形態)
本実施形態では、通常のガラス材をはじめ、容器を用いた溶融法によってはガラス化しない、例えば、網目形成酸化物を含まないような組成を有するガラス材であっても好適に製造し得る。具体的には、チタン酸バリウム系ガラス材、ランタン−ニオブ複合酸化物系ガラス材、ランタン−ニオブ−アルミニウム複合酸化物系ガラス材、ランタン−ニオブ−タンタル複合酸化物系ガラス材、ランタン−タングステン複合酸化物系ガラス材等を好適に製造し得る。
【0028】
図1は、第1の実施形態に係るガラス材の製造装置1の模式的断面図である。
図1に示すように、ガラス材の製造装置1は成形型10を有する。成形型10は、曲面状(具体的には球面状)の成形面10aを備える。
【0029】
成形型10は、成形面10aに開口するガス噴出孔10bを有する。
図2に示すように、本実施形態では、ガス噴出孔10bが複数設けられている。具体的には、複数のガス噴出孔10bは、成形面10aの中心から放射状に配列されている。なお、成形型10は、連続気孔を有する多孔質体により構成されていてもよい。その場合、ガス噴出孔10bは連続気孔により構成される。
【0030】
照射装置14は、成形面10a上に配置されたガラス原料塊13に対してレーザー光を照射する。それにより、成形面10a上でガラス原料塊13を融解して溶融ガラスを得ることができる。また、溶融ガラスを得た後、さらに当該溶融ガラスにレーザー光を照射することにより均質化することができる。照射装置14としては、CO
2レーザー発振器等を用いることができる。
【0031】
ガス噴出孔10bは、ガスボンベなどの第1のガス供給機構11及び第2のガス供給機構12に接続されている。第1及び第2のガス供給機構11、12からガス噴出孔10bを通じて、成形面10aにガスが供給される。具体的には、第1のガス供給機構11からは第1のガスが供給され、第2のガス供給機構12からは第2のガスが供給される。第1のガスは、ガラス原料塊13を融解して溶融ガラスを得た後、均質化する溶融工程において、少なくとも溶融ガラスを成形面10a上に浮遊させるために使用される。第2のガスは、溶融ガラスを冷却固化する冷却工程において、少なくとも溶融ガラスを成形面10a上に浮遊させるために使用される。
【0032】
第1及び第2のガス供給機構11、12とガス噴出孔10bとの間には、第1のガス流量調整部11a及び第2のガス流量調整部12aが設けられており、ガス噴出孔10bから噴出されるガスの流量を制御することができる。第1及び第2のガス流量調整部11a、12aは、例えば、バルブ等により構成することができる。本実施形態では、第1及び第2のガスは同じガス噴出孔から噴出されるが、噴出孔をガスの種類ごとに独立して設置しても良い。
【0033】
次に、製造装置1を用いたガラス材の製造方法について説明する。本実施形態では、成形型10の成形面10a上にガラス原料塊13を配置し、成形面10aに開口するガス噴出孔10bから第1のガスを噴出させながら、照射装置14からレーザー光を照射することによりガラス原料塊13を融解して溶融ガラスを得た後、均質化する溶融工程と、ガス噴出孔10bから第2のガスを噴出させながら溶融ガラスを冷却固化する冷却工程とを行う。ここで、少なくとも溶融ガラスが成形面10a上で浮遊するように、第1のガス及び/または第2のガスを噴出させる。例えば、ガラス原料塊13は、レーザー照射開始時には成形型10の成形面10aに接地しており、その後、ガラス原料塊13の融解が完了して溶融ガラスになる時、またはそれまでに成形面10a上に浮遊するように、第1のガスの流量を調整する。あるいは、ガラス原料塊13をレーザー照射開始以前から成形面10a上に浮遊させ、浮遊状態を保持したまま、レーザー光を照射することにより融解させて溶融ガラスにする。その後、溶融ガラスの浮遊状態がしばらく保持されて均質化が行われる。最終的に、レーザー光の照射停止により、溶融ガラスが冷却固化するまで浮遊状態が保持される。なお、本実施形態ではレーザー光の照射を瞬時に停止させているが、レーザー出力を漸減させても構わない。
【0034】
ガラス原料塊13は、例えば、ガラス材の原料粉末をプレス成形等により一体化したもの、ガラス材の原料粉末をプレス成形等により一体化した後に焼結させた焼結体、目標ガラス組成と同等の組成を有する結晶の集合体等が挙げられる。また、ガラス原料塊13の形状は、特に限定されず、例えば、レンズ状、球状、楕球状、円柱状、多角柱状、直方体状等にすることができる。
【0035】
第1のガスとしては、熱伝導率が比較的低い(例えば、35mW/m・K以下、さらには30mW/m・K以下。測定温度は300K。以下同様。)ものが挙げられる。具体的には、第1のガスとしては、酸素(26mW/m・K)、窒素(26mW/m・K)、アルゴン(18mW/m・K)、空気(26mW/m・K)等が挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して用いられる。これらを第1のガスとして用いることにより、溶融温度を高温に保持しやすいという利点がある。また、ガラス化のために還元性雰囲気が嫌われる組成の場合は、これらのガスを第1のガスとして使用することにより、歩留り良くガラス材を得ることができる。特に、ガラス化のために酸化性雰囲気が望まれる組成の場合は、酸素または空気を用いることが好ましい。なお、上記ガスのうち、酸素、窒素及び空気は安価であるため好ましい。
【0036】
第2のガスは第1のガスよりも熱伝導率が高いことを特徴とする。具体的には、第2のガスの常温での熱伝導率は40mW/m・K以上、70mW/m・K以上、特に100mW/m・K以上であることが好ましい。第2のガスの熱伝導率が低すぎると、溶融ガラスの冷却速度を向上させる効果が得られにくい。結果として、溶融ガラスの冷却時における結晶化抑制効果が得られにくくなる。第2のガスの具体例としては、ヘリウム(151mW/m・K)、水素(181mW/m・K)、ネオン(49mW/m・K)等が挙げられる。これらのガスは単独または2種以上を混合して用いられる。なかでも、熱伝導率が高く、安全性にも優れるヘリウムを用いることが好ましい。
【0037】
図3は、第1の実施形態におけるガス流量とレーザー出力のタイムチャートである。本実施形態では、
図3に示すように、レーザー光の照射を開始すると同時に第1のガスの噴出を開始する。ここで、ガラス原料塊13にレーザー光の照射を開始した直後は、ガラス原料塊13が成形型10の成形面10aに接地した状態となるように第1のガスの流量を調整する。詳細には、レーザー光の照射を開始すると同時に第1のガスの噴出を開始した後、流量を漸増させていき、ガラス原料塊13の融解が完了して溶融ガラスとなった時、またはその前に、溶融ガラスが安定して浮遊するのに適した流量L1となるよう制御する。
【0038】
その後、ガラスの均質化のために、一定時間その状態を保った後、レーザー光の照射を停止すると同時に、第1のガスの噴出を停止する。ここで、第1のガスの噴出を停止すると同時に、第2のガスを流量L1で噴出開始する。このように、第1のガスと第2のガスの最大流量を同一(あるいは略同一)にすることにより、溶融ガラスの浮遊状態を安定化することができる。その後、第2のガスの流量を一定時間L1のまま維持して、溶融ガラスを成形面10a上に浮遊させながら冷却固化させた後、第2のガスの流量を漸減することによりガラス材を得る。なお、ガラス原料塊13の温度が軟化点以下となるまで、第2のガスの噴出を継続し、成形面10a上で浮遊させることが好ましい。
【0039】
流量L1は、例えば、ガラス原料塊13の重量、体積や、ガス噴出孔10bの形状寸法等によって適宜設定することができる。流量L1は、例えば、0.5〜15L/分程度とすることができる。
【0040】
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態におけるガス流量とレーザー出力のタイムチャートである。本実施形態では、第1のガスの噴出を停止する直前(例えば0.5〜5秒前、さらには1〜3秒前)から第2のガスの噴出を開始し、第1のガスの噴出が停止と同時、またはその直後に流量L1となるように、第2のガスの流量を漸増させる点で、第1の実施形態とは異なる。このようにすれば、第1のガスから第2のガスに切り替える際に、溶融ガラスへのガスの供給が途切れにくくなるため、溶融ガラスの浮遊状態を保持しやすくなる。また、第2のガスを噴出させながら、レーザー光の照射を停止(またはレーザー出力を漸減)させることにより、溶融ガラスの冷却速度を効果的に向上させることできる。
【0041】
(第3の実施形態)
図5は、第3の実施形態におけるガス流量とレーザー出力のタイムチャートである。第3の実施形態では、レーザー光の照射を停止する直前から第1のガスの流量を漸減させる点で、第2の実施形態とは異なる。具体的には、第1のガスの流量を漸減させながら、第2のガスの流量を漸増させる。このようにすれば、第1のガス及び第2のガスの総流量を一定に保ちやすいことから、溶融ガラスの浮遊状態を安定化することできる。ここで、第1のガスの流量を漸減し始めると同時に、第2のガスの噴出を開始することが好ましい。また、第1のガスの噴出が停止すると同時に、第2のガスの流量がL1になることが好ましい。第1のガスの流量を漸減し始めてから停止するまで、あるいは第2のガスの噴出を開始してから流量L1になるまでの時間は0.5〜5秒、さらには1〜3秒であることが好ましい。
【0042】
(第4の実施形態)
図6は、第4の実施形態におけるガス流量とレーザー出力のタイムチャートである。第4の実施形態では、第1のガスの流量を、レーザー照射開始時からレーザー照射を停止するまでL1に保持する点で、第1の実施形態とは異なる。このようにすれば、ガラス原料塊13を、融解開始前の段階から成形型10の成形面10a上に浮遊させることができるため、ガラス原料塊13の融解部分が成形面10aに接触して結晶化が進行することを効果的に抑制できる。
【0043】
なお、第1〜4の実施形態では、第1のガスの噴出を停止すると同時または停止する直前から第2のガスの噴出を開始しているが、その前の段階から、本発明の効果を損なわない範囲で、第2のガスを噴出させても良い。例えば、溶融工程において、第1のガスと第2のガスの総流量に対し、10%以下、さらには5%以下の割合で第2のガスを噴出させることができる。また、第1〜4の実施形態では、冷却工程において第1のガスの噴出は停止しているが、本発明の効果を損なわない範囲で、冷却工程において第1のガスを噴出させても良い。例えば、冷却工程において、第1のガスと第2のガスの総流量に対し、10%以下、さらには5%以下の割合で第1のガスを噴出させることができる。
【0044】
(第5の実施形態)
図7は、第5の実施形態に係るガラス材の製造装置2模式的断面図である。第1〜第4の実施形態では、複数のガス噴出孔10bが成形型10の成形面10aに開口している例について説明した。但し、本発明はこの構成に限定されない。例えば、
図7に示すガラス材の製造装置2のように、成形面20aの中央に開口する一つのガス噴出孔20bが設けられていてもよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
表1は本発明の実施例1、2及び比較例1、2を示す。
【表1】
【0047】
表1に記載のガラス組成になるように調合した原料粉末0.2〜0.3gをプレス成型して、1100℃で12時間焼結することによりガラス原料塊を作製した。
【0048】
上記で得られたガラス原料塊を用いて、
図1に準じた装置を用いた無容器凝固法によって直径約3mmの略球形状のガラス材を作製した。ガス流量プロファイル及びガスの種類は表1に従って選択した。各例とも、ガス流量は0〜15L/minの範囲で調製した。また、熱源としては100W CO
2レーザー発振器を用い、最大出力は約35Wとした。各例におけるガラス原料塊、溶融ガラス及びガラス材の温度プロファイルを
図9、10に示す。温度は放射温度計を用いて測定した。温度プロファイルより読み取った冷却速度及び溶融ガラスの最高温度を表1に示す。また、得られたガラス材を観察し、失透物や原料未融解物等が観察されなかったものを「○」、失透物や原料未融解物等が観察され均質性に劣っていたものを「×」として評価した。
【0049】
なお、表1では、比較例1、2において使用したガスを、便宜上、第1のガスと第2のガスに分けて記載しているが、実際には、
図8に示すタイムチャートに従って、比較例1では酸素ガスのみを、比較例2ではヘリウムガスのみを、同じガス供給機構から連続して供給した。
【0050】
図9及び表1に示すように、第2のガスとしてヘリウムを使用した実施例1では、冷却速度が高く、得られたガラス材は均質性に優れていた。一方、第2のガスとして酸素を使用した比較例1では、実施例1と比較して冷却速度が低く、得られたガラス材は失透していた。なお、比較例1の温度プロファイルにおいて、冷却時に見られる温度ピークは結晶析出時の発熱に起因するものである。
【0051】
また、
図10及び表1に示すように、第1のガスとしてヘリウムを用いた比較例2では、第1のガスとして酸素を用いた実施例2と比較して、溶融ガラスの最高温度が低くなった。そのため、比較例2で得られたガラス材には原料未融解物が含まれており、均質性に劣っていた。ここで、比較例2において溶融ガラスの温度を高めるためレーザー光の出力を高めることも考えられるが、その場合は製造コストが高くなる。また、そもそもヘリウム自体が比較的高価なガスであるため、比較例2では製造コストが高くなりやすい。
【符号の説明】
【0052】
1、2 製造装置
10、20 成形型
10a、20a 成形面
10b、20b ガス噴出孔
11 第1のガス供給機構
11a 第1のガス流量調整部
12 第2のガス供給機構
12a 第2のガス流量調整部
13 ガラス原料塊
14 照射装置