(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
<水分捕捉の原理>
本発明のガスバリア性積層体における水分トラップ層での水分捕捉の原理を示す
図1を参照して、水分トラップ層は、イオン性ポリマーによりマトリックスが形成され、このマトリックス内に粒状の吸湿剤が分散されている。
図1(a)では、カチオン性基(NH
2基)を多く有しているカチオン性ポリマーによりマトリックスが形成されており、
図1(b)では、アニオン性基(COONa基,COOH基)を多く有しているアニオン性ポリマーによりマトリックスが形成されている(
図1中、(A)参照)。
【0017】
このような水分トラップ層が形成されている積層体において、プラスチック基材(
図1では省略)や無機バリア層を通過した微量の水分は、水分トラップ層で捕水され、マトリックスに吸収されることとなる(
図1中、(B)参照)。マトリックス自体が高い吸湿性を示すため、水分を漏れなく捕水し、吸収するわけである。
【0018】
ところで、単に水分がマトリックスに吸収されたに過ぎない場合には、温度上昇などの環境変化により、吸収された水分は容易に放出されてしまうこととなる。また、水分の侵入により、マトリックスを形成するポリマー分子の間隔を広げ、この結果、水分トラップ層は膨潤してしまうことにもなる。
しかるに、本発明では、マトリックス中に吸収された水分は、このマトリックスよりも吸湿性の大きい(即ち、到達湿度が低い)吸湿剤によってさらに捕捉されることとなる(
図1中、(C)参照)。このため、吸収された水分子による膨潤が有効に抑制されるばかりか、この水分子は、水分トラップ層中に閉じ込められ、この結果、水分トラップ層からの水分の放出も有効に防止されることとなる。このように、本発明における水分トラップ層は、高い吸湿能力と共に水分の捕捉と閉じ込めとの2重の機能を有しているため、後述するように、極低湿度の雰囲気下でも水分を捕捉することができ、水分が無機バリア層を透過する速度よりも十分速い速度で捕捉して更に層全体で水分を捕捉するために外部へ漏らすことも無い。この結果、このような水分トラップ層が無機バリア層と共にプラスチック基材上に形成されている本発明のガスバリア性積層体では、僅か5層の基本構造で著しく高度の水分バリア性、例えば有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)パネルに適用可能な10
−5g/m
2/day以下の水分透過度を実現できる。
また、
図1からも理解されるように、上記マトリックスに架橋構造が導入されているときには、水分の侵入によるイオン性ポリマーの分子間の拡大が抑制されるため、水分の吸収による膨潤も一層有効に抑制することが可能となる。
本発明の水分トラップ層が、極低湿度の雰囲気下でも水分を捕捉することができ、水分が無機バリア層を透過する速度よりも十分速い速度で捕捉することが可能であることは、後述する実施例中の水分捕捉試験により示されている。
【0019】
<ガスバリア性積層体の層構造>
上述した水分トラップ層を備えた本発明のガスバリア性積層体の概略断面を示す
図2を参照して、全体として10で示すこの積層体は、プラスチック基材1と、プラスチック基材1の表面に形成された第1の無機バリア層3と、第1の無機バリア層3上に形成された水分トラップ層5とを備えており、水分トラップ層5の上には、有機層7を介して第2の無機バリア層9が設けられている。
【0020】
<プラスチック基材1>
本発明において、プラスチック基材1のプラスチックは、それ自体公知の熱可塑性或いは熱硬化性の樹脂から形成されたものであってよい。
【0021】
このような樹脂の例としては、これに限定されるものではないが、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体等のポリオレフィン、環状オレフィン共重合体など、そしてエチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル化合物共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の熱可塑性ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフエニレンオキサイドや、その他、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂、アリル樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ケトン樹脂、アミノ樹脂、或いはポリ乳酸などの生分解性樹脂等を例示することができ、さらに、これらのブレンド物や、これら樹脂が適宜共重合により変性されたものであってもよいし、多層構造を有していてもよい。
特に、透明性が要求される用途においては、上記の中でもPETやPENなどのポリエステル樹脂が好適であり、更に耐熱性も要求される用途においては、ポリカーボネートやポリイミド樹脂が好適である。
勿論、上述した各種の樹脂には、それ自体公知の樹脂配合剤、例えば酸化防止剤、滑剤等が配合されていてもよい。
【0022】
また、プラスチック基材1の形態は、水分に対するバリア性が十分に発揮されるようなものであれば特に制限されず、用途に応じた適宜の形態を有していればよいが、板状或いはフィルム乃至シートの形態を有している場合が最も一般的である。
さらに、その厚み等は、用途に応じた特性(例えば可撓性、柔軟性、強度等)、適宜の範囲に設定される。
【0023】
このようなプラスチック基材1は、その形態やプラスチックの種類に応じて、射出乃至共射出成形、押出乃至共押出成形、フィルム乃至シート成形、圧縮成形性、注型重合等の公知の成形手段により成形することができる。
【0024】
<第1の無機バリア層3>
プラスチック基材1上に形成される第1の無機バリア層は、基本的には、後述する第2の無機バリア層9と同じものであってよく、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティングなどに代表される物理蒸着や、プラズマCVDに代表される化学蒸着などによって形成される無機質の蒸着膜、例えば各種金属乃至金属酸化物により形成される膜であるが、特に、凹凸を有する面にも均一に成膜され、緻密で且つプラスチック基材1との間に高い密着性を確保し、優れたバリア性を発揮させるという点で、プラズマCVDにより形成される蒸着膜であることが好ましい。
【0025】
プラズマCVDによる蒸着膜は、所定の真空度に保持されたプラズマ処理室内に無機バリア層を形成すべきプラスチック基材1を配置し、膜形成する金属若しくは該金属を含む化合物のガス(反応ガス)及び酸化性ガス(通常酸素やNOxのガス)を、適宜、アルゴン、ヘリウム等のキャリアガスと共に、ガス供給管を用いて、金属壁でシールドされ且つ所定の真空度に減圧されているプラズマ処理室に供給し、この状態でマイクロ波電界や高周波電界などによってグロー放電を発生させ、その電気エネルギーによりプラズマを発生させ、上記化合物の分解反応物をプラスチック基材1の表面に堆積させて成膜することにより得られる。
尚、マイクロ波電界による場合は、導波管等を用いてマイクロ波をプラズマ処理室内に照射することにより成膜が行われ、高周波電界による場合は、プラズマ処理室内のプラスチック基材1を一対の電極の間に位置するように配置し、この電極に高周波電界を印加して成膜が行われる。
【0026】
上記の反応ガスとしては、一般に、プラスチック基材表面に炭素成分を含む柔軟な領域を有し且つその上に酸化度の高いバリア性に優れた領域を有する膜を形成できるという観点から有機金属化合物、例えばトリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物や、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ケイ素化合物等のガスを用いることが好ましく、特に、酸素に対するバリア性の高い第1の無機バリア層3を比較的容易に効率良く形成できるという点で、有機ケイ素化合物が最も好ましい。
【0027】
このような有機ケイ素化合物の例としては、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の有機シラン化合物、オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン等の有機シロキサン化合物等が使用される。また、これら以外にも、アミノシラン、シラザンなどを用いることもできる。
【0028】
尚、上述した有機金属化合物は、単独でも或いは2種以上の組合せでも用いることができる。
【0029】
本発明において、上記のような有機金属化合物の反応ガス及び酸化性ガスを用いてのプラズマCVDによる成膜に際しては、グロー放電出力(例えばマイクロ波或いは高周波出力)を低くし、低出力で成膜を開始した後、高出力でプラズマ反応による成膜を行うことが好適である。
【0030】
即ち、有機金属化合物の分子中に含まれる有機基(CH
3やCH
2など)は、通常、CO
2となって揮散するが、低出力では、その一部はCO
2まで分解せず、プラスチック基材1の表面に堆積して膜中に含まれることとなる。一方、出力が高められるほど、有機基はCO
2まで分解していくこととなる。従って、出力を高めることにより、膜中のC含量を少なくし、有機金属化合物中に含まれる金属の酸化度の高い膜を形成することが可能となる。しかるに、金属の酸化度の高い膜は、酸素等のガスに対するバリア性は極めて高いが、可撓性が乏しく、プラスチック基材1との密着性が十分でないのに対して、金属の酸化度が低く、有機成分含量の多い膜は、ガスに対するバリア性は十分ではないが、可撓性に富み、プラスチック基材1に対して高い密着性を示すこととなる。
【0031】
上記の説明から理解されるように、本発明では、反応ガスとして有機金属化合物を使用し且つプラズマCVDによる成膜初期に低出力で成膜を行った後に出力を増大させて成膜を行うことにより、プラスチック基材1の表面に接する部分に有機成分(炭素)を多く含む密着性の高い領域が形成され、その上に、金属の酸化度が高く、ガスバリア性の高い領域が形成されることとなる。
【0032】
従って、本発明のガスバリア性積層体10における無機バリア層3は、優れたガスバリア性を確保するために、金属(M)の酸化度をx(x=O/Mの原子比)としたとき、この酸化度xが1.5乃至2.0の高酸化度領域を含んでいることが好ましい。また、この高酸化度領域の下側(プラスチック基材1の表面と接する側)には、金属(M)、酸素(O)及び炭素(C)の3元素基準で、炭素(C)濃度が20元素%以上の有機領域が形成されていることが好ましい。さらに、この金属(M)としては、ケイ素(Si)が最も好ましい。
【0033】
尚、第1の無機バリア層3における上記高酸化度領域は、第1の無機バリア層3の全体厚みの60%以上の割合で存在していることが好ましく、上記有機領域は、無機バリア層3の全体厚みの5乃至40%程度の厚みでプラスチック基材1の表面と接触側に形成されていることが好ましい。
【0034】
上述した有機領域や高酸化度領域を有する第1の無機バリア層3をプラズマCVDにより成膜する際のグロー放電出力は、マイクロ波による場合と高周波による場合とで多少異なっている。例えばマイクロ波の場合は、30乃至100W程度の低出力で有機領域の形成が行われ、高酸化度領域では、90W以上の高出力で成膜が行われる。また、高周波の場合は、20乃至80W程度の低出力で有機領域の形成が行われ、高酸化度領域では、100W以上の高出力で成膜が行われる。
成膜時間は、各領域の厚みが、前述した範囲内となるように設定すればよい。
【0035】
また、上述した第1の無機バリア層3の全体厚みは、ガスバリア性積層体10の用途や要求されるガスバリア性のレベルによっても異なるが、一般的には、プラスチック基材1の特性が損なわれずに、且つ10
−2g/m
2/day以下、特に10
−3g/m
2/day以下の水蒸気透過度が確保できる程度の厚みとするのがよく、上述した高酸化度領域が占める割合によっても異なるが、一般に、4乃至500nm、特に30乃至400nm程度の厚みを有していればよい。
【0036】
<水分トラップ層5>
上記の第1の無機バリア層3上に形成される水分トラップ層5は、先にも説明したように、イオン性ポリマー、即ちカチオン性ポリマー或いはアニオン性ポリマーから形成された吸湿性マトリックスを有しており、このマトリックス中に、該マトリックスよりも到達湿度の低い吸湿剤が分散された構造を有する。
即ち、このような分散構造の水分トラップ層5を第1の無機バリア層3上に形成することにより、先に述べたように、水分に対して著しく高い超バリア性を得ることができる。
【0037】
吸湿性マトリックス(カチオン性ポリマー);
本発明において、吸湿性マトリックスの形成に使用するカチオン性ポリマーは、水中で正の電荷となり得るカチオン性基、例えば、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、4級ピリジニウム基などを分子中に有しているポリマーである。このようなカチオン性ポリマーは、カチオン性基が、求核作用が強く、かつ水素結合により水を捕捉するため、吸湿性マトリックスを形成することができる。
カチオン性ポリマー中のカチオン性基量は、一般に、形成される吸湿性マトリックスの吸水率(JIS K−7209−1984)が湿度80%RH及び30℃雰囲気下において20%以上、特に30%〜45%となるような量であればよい。
【0038】
また、カチオン性ポリマーとしては、アリルアミン、エチレンイミン、ビニルベンジルトリメチルアミン、[4−(4−ビニルフェニル)−メチル]−トリメチルアミン、ビニルベンジルトリエチルアミン等のアミン系単量体;ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の含窒素複素環系単量体;及び、それらの塩類;に代表されるカチオン性単量体の少なくとも1種を、適宜、共重合可能な他の単量体と共に、重合乃至共重合し、さらに必要により、酸処理により部分中和させて得られるものが使用される。
尚、共重合可能な他の単量体としては、これに限定されるものではないが、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−ハロゲン化スチレン類、アクリロニトリル、アクロレイン、メチルビニルケトン、ビニルビフェニル等を挙げることができる。
【0039】
また、上記のカチオン性単量体を使用する代わりに、カチオン性官能基を導入し得る官能基を有する単量体、例えば、スチレン、ブロモブチルスチレン、ビニルトルエン、クロロメチルスチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン等を使用し、重合後に、アミノ化、アルキル化(第4級アンモニウム塩化)などの処理を行ってカチオン性ポリマーを得ることもできる。
【0040】
本発明においては、上記のカチオン性ポリマーの中でも、特にアリルアミンが成膜性等の観点から好適である。
【0041】
上述したカチオン性ポリマーを形成するための重合は、一般には、重合開始剤を用いての加熱によるラジカル重合により実施される。
重合開始剤としては、特に制限されず、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパ−オキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物が代表的であり、一般に、前述したアニオン性或いはカチオン性単量体(或いはアニオン性基もしくはカチオン性基を導入し得る単量体)100重量部に対して、0.1〜20重量部、特に0.5〜10重量部程度の量で使用される。
【0042】
上記のようにして重合を行うことによりカチオン性ポリマーが得られるが、カチオン性の官能基を導入可能な単量体が使用されている場合には、重合後に、アミノ化、アルキル化処理などのカチオン性基導入処理を行えばよい。
【0043】
本発明においては、前述したカチオン性ポリマーを用いて形成される吸湿性マトリックスに、架橋構造を導入しておくことが、吸湿能力を低下させることなく機械的強度を確保すると同時に、寸法安定性を向上させる上で好ましい。
即ち、吸湿性マトリックス中に架橋構造が導入されていると、該マトリックスが水を吸収したとき、カチオン性ポリマーの分子が架橋によって互いに拘束されることとなり、膨潤(水分吸収)による体積変化を抑制し、機械的強度や寸法安定性の向上がもたらされる。
【0044】
上記の架橋構造は、水分トラップ層5を形成するためのコーティング組成物中に架橋剤を配合しておくことにより導入することができる。この架橋剤の種類により、例えば、架橋構造にシロキサン構造または多脂環構造を導入することにより、吸湿に適した空間の網目構造を形成する。特にシロキサン構造が導入される架橋剤では第1の無機バリア層3との密着性を高めることができる。ここで使用する架橋剤については、後述するカチオン性ポリマーをマトリックスとする水分バリア層形成用コーティング組成物の項で説明する。
【0045】
吸湿性マトリックス(アニオン性ポリマー);
本発明において、吸湿性マトリックスの形成に使用するアニオン性ポリマーは、水中で負の電荷となり得るアニオン性の官能基、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基や、これらの基が部分的に中和された酸性塩基を分子中に有しているポリマーである。このような官能基を有するアニオン性ポリマーは、上記官能基が水素結合により水を捕捉するため、吸湿性マトリックスを形成することができる。
アニオン性ポリマー中のアニオン性官能基量は、官能基の種類によっても異なるが、前述したカチオン性ポリマーと同様、形成される吸湿性マトリックスの吸水率(JIS K−7209−1984)が湿度80%RH及び30℃雰囲気下において20%以上、特に30%〜45%となるような量であればよい。
【0046】
上記のような官能基を有するアニオン性ポリマーとしては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等のカルボン酸系単量体;α−ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸系単量体;ビニルリン酸等のホスホン酸系単量体;及びこれら単量体の塩類;などに代表されるアニオン性単量体の少なくとも1種を、適宜、共重合可能な他の単量体と共に重合乃至共重合させ、さらに必要により、アルカリ処理により部分中和させて得られるものが使用される。
尚、共重合可能な他の単量体としては、これに限定されるものではないが、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−ハロゲン化スチレン類、アクリロニトリル、アクロレイン、メチルビニルケトン、ビニルビフェニル等を挙げることができる。
【0047】
また、上記のアニオン性単量体を使用する代わりに、上記のアニオン性単量体のエステルや、アニオン性官能基を導入し得る官能基を有する単量体、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−ハロゲン化スチレン類等を使用し、重合後に、加水分解、スルホン化、クロルスルホン化、ホスホニウム化などの処理を行ってアニオン性ポリマーを得ることもできる。
【0048】
本発明において、好適なアニオン性ポリマーは、ポリ(メタ)アクリル酸及びその部分中和物(例えば一部がNa塩であるもの)である。
【0049】
尚、上述したアニオン性ポリマーを形成するための重合は、一般には、重合開始剤を用いての加熱によるラジカル重合により実施される。
重合開始剤としては、特に制限されず、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパ−オキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物が代表的であり、一般に、前述したアニオン性単量体(或いはアニオン性基を導入し得る単量体)100重量部に対して、0.1〜20重量部、特に0.5〜10重量部程度の量で使用される。
【0050】
上記のようにして重合を行うことによりアニオン性ポリマーが得られるが、アニオン性官能基を導入可能な単量体が使用されている場合には、重合後に、加水分解、スルホン化、クロルスルホン化、ホスホニウム化などのアニオン性基導入処理を行えばよい。
【0051】
また、本発明においては、前述したアニオン性ポリマーを用いて形成される吸湿性マトリックスに、架橋構造を導入しておくことが特に好ましく、これにより、水分トラップ能力がさらに高められ、しかも、寸法安定性のさらなる向上がもたらされている。
即ち、アニオン性ポリマーの場合、カチオン性ポリマーとは異なって、水素結合による水の捕捉のみなので、吸湿に適した空間の網目構造(架橋構造)をマトリックス中に導入することにより、その吸湿性を大きく高めることができる。このような架橋構造は、例えば、網目構造中に脂環構造のような疎水部位を有しているものであり、これにより、親水部位の吸湿効果がより高められる。
さらに、吸湿性マトリックス中に架橋構造を導入することにより、該マトリックスが水を吸収したとき、アニオン性ポリマーの分子が架橋によって互いに拘束され、膨潤(水分吸収)による体積変化が抑制され、寸法安定性が向上する。このような寸法安定性向上効果は、前述したカチオン性ポリマーの場合と同様である。
【0052】
また、カチオン性ポリマーの場合と同様、上記の架橋構造は、カチオン性水分トラップ層5を形成するためのコーティング組成物中に架橋剤を配合しておくことにより導入される。ここで使用する架橋剤については、後述するアニオン性ポリマーをマトリックスとする水分バリア層形成用コーティング組成物の項で説明する。
【0053】
尚、カチオン性ポリマーやアニオン性ポリマーを形成するための重合性単量体組成物中に、ジビニルベンゼンなどの多官能モノマーを配合して重合することにより、マトリックス中に架橋構造を導入することも可能ではあるが、この場合には、イオン性ポリマーを含むコーティング組成物を用いての水分トラップ層5の形成が困難となってしまうので(コーティング組成物の均一分散性や塗布性の低下など)、あまり望ましくない。
【0054】
粒状吸湿剤;
本発明において、上述したイオン性ポリマーをマトリックス(吸湿性マトリックス)とする水分トラップ層5には、粒状吸湿剤が分散されている。この吸湿剤は、上記の吸湿性マトリックスを形成するイオン性ポリマー(カチオン性或いはアニオン性ポリマー)よりも到達湿度が低く、極めて高い吸湿性能を有する。即ち、水分トラップ層5には、マトリックスよりも高い吸湿性を有する吸湿剤が分散されているため、かかる吸湿剤により、前述した吸湿性マトリックスに吸収された水分が直ちに吸湿剤に捕捉され、吸収された水分のマトリックス中への閉じ込めが効果的に行われることとなる。
この結果、本発明においては、水分トラップ層5に捕捉された水分の放出が有効に抑制され、しかも、極めて低湿度雰囲気でも水分の吸湿能力を有効に発揮することができるばかりか、水分の吸収による吸湿性マトリックスの膨潤も有効に抑制される。
【0055】
上記のような高吸湿性の粒状吸湿剤としては、イオン性ポリマーよりも到達湿度が低いことを条件として、例えば後述する実施例で示されているように、湿度80%RH及び温度30℃の環境条件での到達湿度が6%以下のものが好適に使用される。即ち、この吸湿剤の到達湿度がイオン性ポリマーよりも高いと、吸湿性マトリックスに吸収された水分の閉じ込めが十分でなく、水分の放出等を生じ易くなるため、水分バリア性の著しい向上が望めなくなってしまう。また、到達湿度がイオン性ポリマーよりも低い場合であっても、上記条件で測定される到達湿度が上記範囲よりも高いと、例えば低湿度雰囲気での水分のトラップが不十分となり、水分バリア性を十分に発揮できないおそれがある。
【0056】
上記のような粒状吸湿剤は、一般に湿度80%RH及び温度30℃雰囲気下において50%以上の吸水率(JIS K−7209−1984)を有しており、無機系及び有機系のものがある。
無機系の吸湿剤としては、ゼオライト、アルミナ、活性炭、モンモリロナイト等の粘土鉱物、シリカゲル、酸化カルシウム、硫酸マグネシウムなどを挙げることができる。
有機系の吸湿剤としては、アニオン系ポリマー若しくはその部分中和物の架橋物を挙げることができる。このアニオン系ポリマーとしては、カルボン酸系単量体((メタ)アクリル酸や無水マレイン酸など)、スルホン酸系単量体(ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸など)、ホスホン酸系単量体(ビニルリン酸など)及びこれら単量体の塩類等に代表されるアニオン性単量体の少なくとも1種を、重合或いは他の単量体と共重合させて得られるものを挙げることができる。特に透明性が求められる用途においては、有機系の吸湿剤が有効である。例えば、架橋ポリ(メタ)アクリル酸Na、架橋ポリ(メタ)アクリル酸K等のポリ(メタ)アクリル酸の1価金属塩の架橋物の微細粒子などが代表的な有機系吸湿剤である。
【0057】
本発明においては、比表面積が大となり、高い吸湿性を示すという観点から粒径が小さな吸湿剤が好ましく(例えば、レーザ回折散乱法で測定した体積換算での平均一次粒子径D
50が100nm以下、特に80nm以下)、特に粒径の小さな有機系ポリマーの吸湿剤が最適である。
即ち、有機系ポリマーの吸湿剤は、イオン性ポリマーのマトリックスに対する分散性が極めて良好であり、均一に分散させることができるばかりか、これを製造するための重合法として乳化重合や懸濁重合などを採用することにより、その粒子形状を微細で且つ揃った球形状とすることができ、これをある程度以上配合することにより、極めて高い透明性を確保することが可能となるからである。このような透明性は、おそらく、水分トラップ層と隣接する層(例えば第1の無機バリア層3)との界面の近傍に微細で且つ球形状の吸湿剤粒子が層状に分布し、この界面での光の散乱などが抑制されるためと考えられる。特に透明性の確保は、このガスバリア性積層体10を有機ELパネルなどの基板や封止層の用途に使用するときは大きな利点となる。
また、有機系の微細な吸湿剤では、前述した到達湿度が著しく低く、高い吸湿性を示すばかりか、架橋によって膨潤による体積変化も極めて少なくすることができ、従って、体積変化を抑制しながら、環境雰囲気を絶乾状態もしくは絶乾状態に近いところまで湿度を低下させる上で最適である。
このような有機系の吸湿剤の微粒子としては、例えば架橋ポリアクリル酸Na微粒子(平均粒子径約70nm)がコロイド分散液(pH=10.4)の形で東洋紡株式会社よりタフチックHU−820Eの商品名で市販されている。
【0058】
また他の好適な有機系吸湿剤としては、カルボキシル基の80%以上がカリウム塩で中和されているカリウム塩型カルボキシル基を有する架橋重合体から成る微粒子を挙げることができる。このカリウム塩型の吸湿剤は、高温時においても吸収した水分を放出しないことから、高温時における吸湿性に優れている。
このようなカリウム塩型カルボキシル基を有する架橋重合体は、(i)(メタ)アクリル酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有ビニル系単量体のカリウム塩単量体の単独重合、或いはこれらの2種以上の共重合、或いはこれらの単量体と共重合可能な他の単量体の共重合、により重合する方法、(ii)カルボキシル基を有する重合体を得た後にカリウム塩型に変える方法、(iii)化学変性によりカルボキシル基を導入し、カリウム塩型に変える方法、或いは(iv)グラフト重合により上記(i)〜(iii)の方法を行う方法、により調製できるが、特に、上記(iii)の加水分解処理により重合体にカルボキシル基を導入した後、イオン交換してカリウム塩型に変える方法により調製することが好適である。
【0059】
加水分解処理を用いた方法に、使用できる加水分解によりカルボキシル基が得られる単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基を有する単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸等の誘導体を挙げることができる。
また上記単量体と共重合可能な他の単量体としては特に限定はないが、グリシジルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド等の架橋性ビニル化合物を挙げることができる。
またカリウム塩型カルボキシル基以外の極性基としてスルホン酸基及び/又は塩型スルホン酸基を含有することが好ましく、このようなスルホン酸(塩)基を有する単量体としては、ビニルスルホン酸(塩)、(メタ)アリルスルホン酸(塩)、スチレンスルホン酸(塩)、4−スルホブチル(メタ)アクリレートおよびその塩、メタリルオキシベンゼンスルホン酸(塩)、アリルオキシベンゼンスルホン酸(塩)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)、2−スルホエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。このスルホン酸(塩)基含有単量体を上記単量体と共重合する方法、開始剤或いは連鎖移動剤によりポリマー末端にスルホン酸(塩)基を導入する方法等によって導入することができる。
【0060】
具体的には、加水分解によりカルボキシル基が得られる単量体とジビニルベンゼンを単量体組成として含む架橋共重合体を、水酸化カリウムを用いて加水分解する方法がある。または、カルボン酸基に変換した後、水酸化カリウム水溶液、塩化カリウム水溶液等のカリウムイオンを大量に含む溶液或いはイオン交換樹脂を作用させてイオン交換することにより調製されたカリウム塩型カルボキシル基を有する架橋重合体を吸湿剤として好適に用いることができる。
【0061】
本発明において、上記のような粒状吸湿剤の量は、その特性を十分に発揮させ、水分バリア性の著しい向上及び膨潤による寸法変化を有効に抑制させると同時に、第1の無機バリア層3が示すバリア性よりも高い水分バリア性を長期間にわたって確保するという観点から、イオン性ポリマーの種類に応じて設定される。
例えば、マトリックスがカチオン性ポリマーにより形成されている場合には、水分トラップ層5中のイオン性ポリマー100重量部当り、50重量部以上、特に100乃至900重量部の量で存在することが好ましく、更には200乃至600重量部の量であることがより好ましい。また、マトリックスがアニオン性ポリマーにより形成されている場合には、水分トラップ層5中のアニオン性ポリマー100重量部当り、50重量部以上、特に100乃至1300重量部の量で存在することが好ましく、更には150乃至1200重量部の量であることがより好ましい。
【0062】
水分トラップ層5の形成用コーティング組成物;
上述した水分トラップ層5は、イオン性ポリマー及び粒状吸湿剤、さらには架橋剤が適宜、溶媒に溶解もしくは分散されたコーティング組成物を使用し、該組成物を塗布し、乾燥して溶媒を除去することにより形成される。
このコーティング組成物の組成は、マトリックスがカチオン性ポリマーにより形成されている場合(以下、単に「カチオン性マトリックス」と呼ぶ)と、アニオン性ポリマーにより形成されている場合(以下、単に「アニオン性マトリックス」と呼ぶ)とで多少異なる。
【0063】
カチオン性マトリックスの場合;
かかるコーティング組成物において、カチオン性ポリマーと粒状吸湿剤とは、前述した量比で使用される。即ち、100重量部のカチオン性ポリマーに対して、前述した量で、カチオン性ポリマーと共に、粒状吸湿剤はコーティング組成物中に配合される。
【0064】
また、上記のコーティング組成物中には、前述したカチオン性ポリマーの吸湿性マトリックスに架橋構造を導入するための架橋剤が適宜配合される。
この場合の架橋剤としては、カチオン性基と反応し得る架橋性官能基(例えば、エポキシ基)と、加水分解と脱水縮合を経て架橋構造中にシロキサン構造を形成し得る官能基(例えば、アルコシシリル基)を有している化合物を使用することができ、特に、下記式(1):
X−SiR
1n(OR
2)
3−n (1)
式中、Xは、末端にエポキシ基を有する有機基であり、
R
1及びR
2は、それぞれ、メチル基、エチル基、もしくはイソプロピ
ル基であり、
nは、0、1、もしくは2である、
で表されるシラン化合物が好適に使用される。
【0065】
式(1)のシラン化合物は、官能基としてエポキシ基とアルコキシシリル基とを有しており、エポキシ基がカチオン性ポリマーの官能基(例えばNH
2)と付加反応する。一方アルコキシシリル基は、加水分解によりシラノール基(SiOH基)を生成し、縮合反応を経てシロキサン構造を形成して成長することにより、最終的にカチオン性ポリマー鎖間に架橋構造を形成する。これにより、カチオン性ポリマーのマトリックスには、シロキサン構造を有する架橋構造が導入されることとなる。一方、アルコキシシリル基の加水分解により生成するシラノール基は、第1の無機バリア層3の表面に存在するMOH基(M:金属元素)、例えばSiOH基(シラノール基)と脱水縮合して強固に結合する。
しかも、このコーティング組成物は、カチオン性ポリマーを含んでいるため、アルカリ性であり、この結果、カチオン性基とエポキシ基の付加反応やシラノール基間或いは第1の無機バリア層3の表面のMOH基との脱水縮合も速やかに促進されることとなる。
従って、上記のような式(1)の化合物を架橋剤として使用することにより、マトリックス中に架橋構造を導入すると同時に、格別の密着剤を用いることなく、水分トラップ層5と第1の無機バリア層3との密着性を高めることが可能となる。
上記の説明から理解されるように、上記の架橋構造にシロキサン構造が導入されるときには、同時に、第1の無機バリア層3との密着性も高められる。
【0066】
本発明において、上記式(1)中のエポキシ基を有する有機基Xとしては、γ−グリシドキシアルキル基が代表的であり、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランやγ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランが架橋剤として好適に使用される。
また、上記式(1)中のエポキシ基が、エポキシシクロヘキシル基のような脂環式エポキシ基であるものも架橋剤として好適である。例えば、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのような脂環式エポキシ基を有する化合物を架橋剤として使用した場合には、マトリックスの架橋構造中に、シロキサン構造と共に、脂環構造が導入される。このような脂環構造の導入は、吸湿に適した空間の網目構造を形成するというマトリックスの機能を更に効果的に発揮させることができる。
【0067】
さらに、架橋構造中に脂環構造を導入するために、複数のエポキシ基と脂環基とを有している化合物、例えば、下記式(2):
G−O(C=O)−A−(C=O)O−G (2)
式中、Gは、グリシジル基であり、
Aは、脂肪族環を有する2価の炭化水素基、例えばシクロアルキレン基で
ある、
で表されるジグリシジルエステルを、架橋剤として使用することができる。このようなジグリシジルエステルの代表的なものは、下記の式(2−1)で表される。
【化1】
(2−1)
【0068】
即ち、式(2)のジグリシジルエステルは、アルコキシシリル基を有していないため、第1の無機バリア層3との密着性を高める機能は乏しいが、架橋構造中に脂環構造を導入するため、マトリックス中に吸湿に適した空間の網目構造を形成するという点では効果的である。
【0069】
このようなカチオン性マトリックスの場合においてのコーティング組成物では、上述した架橋剤は、カチオン性ポリマー100重量部当り、5乃至60重量部、特に15乃至50重量部の量で使用することが望ましく、このような架橋剤の少なくとも70重量%以上、好ましくは80重量%以上が、前述した式(1)のシラン化合物であることが望ましい。
架橋剤の使用量が多すぎると、機械強度的に脆くなりハンドリング性が損なわれたり、塗料にした際に増粘が速く有効なポットライフが確保できなくなるおそれがあり、また、少なすぎると、これに伴い、厳しい環境下(例えば高湿度下)に曝された場合の耐性(例えば機械的強度)が確保できなくなるおそれがある。さらに、前述した式(1)のシラン化合物の使用割合が少ないと、第1の無機バリア層3との密着性が低下する傾向がある。
【0070】
上述した各種成分を含むコーティング組成物に使用される溶媒としては、比較的低温での加熱により揮散除去し得るものであれば特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール性溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒、或いはこれら溶媒と水との混合溶媒、或いは水、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒などを使用することができるが、特にコーティング組成物中の架橋剤中のアルコキシシリル基を有するシラン化合物の加水分解を促進させるために、水或いは水を含む混合溶媒を使用することが望ましい。
【0071】
尚、上述した溶媒は、コーティング組成物がコーティングに適した粘度となるような量で使用されるが、コーティング組成物の粘度調整のため、或いは形成される吸湿性マトリックスの吸水率を適宜の範囲に調整するため、非イオン性重合体を適宜の量で配合することもできる。
このような非イオン性重合体としては、ポリビニルアルコール、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブチレン等の飽和脂肪族炭化水素系ポリマー、スチレンーブタジエン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリ塩化ビニル、或いは、これらに、各種のコモノマー(例えばビニルトルエン、ビニルキシレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレン、α−ハロゲン化スチレン、α,β,β´−トリハロゲン化スチレン等のスチレン系モノマーや、エチレン、ブチレン等のモノオレフィンや、ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィンなど)を、共重合させたものなどを挙げることができる。
【0072】
アニオン性マトリックスの場合;
この場合の水分トラップ層5を形成するためのコーティング組成物において、アニオン性ポリマーと粒状吸湿剤とは、100重量部のアニオン性ポリマーに対しての粒状吸湿剤の量が前述した範囲となるように、コーティング組成物中に配合される。
【0073】
また、このコーティング組成物においても、前述したカチオン性マトリックスの場合と同様、適宜、架橋剤が配合される。
この架橋剤としては、アニオン性ポリマーが有しているイオン性基と反応し得る架橋性官能基(例えばエポキシ基)を2個以上有している化合物を使用することができ、カチオン性マトリックス用のコーティング組成物でも挙げられた式(2):
G−O(C=O)−A−(C=O)O−G (1)
式中、Gは、グリシジル基であり、
Aは、脂肪族環を有する2価の炭化水素基、例えばシクロアルキレン基で ある、
で表されるジグリシジルエステルが好適に使用される。
【0074】
即ち、上記式(2)のジグリシジルエステルにおいては、エポキシ基がアニオン性基と反応し、2価の基Aによる脂環構造を含む架橋構造がマトリックス中に形成される。このような脂環構造を含む架橋構造によりされ、膨潤の抑制がもたらされる。
特に、上記のジグリシジルエステルの中でも好適なものは、先にも挙げられており、特に、吸湿に適した空間の網目構造を形成できるという観点から、先の式(2−1)で表されるジグリシジルエステルが最も好適である。
【化2】
(2−1)
【0075】
このようなアニオン性マトリックス用のコーティング組成物において、上記の架橋剤は、アニオン性ポリマー100重量部当り、1乃至50重量部、特に10乃至40重量部の量で使用することが望ましい。架橋剤の使用量が多すぎると、機械強度的に脆くなりハンドリング性が損なわれたり、塗料にした際に増粘が速く有効なポットライフが確保できなくなるおそれがあり、また、少なすぎると、これに伴い、厳しい環境下(例えば高湿度下)に曝された場合の耐性(例えば機械的強度)が確保できなくなるおそれがある。
【0076】
また、このコーティング組成物には、水分トラップ層5と第1の無機バリア層3との密着性を向上させるための密着剤を配合することもできる。
かかる密着剤は、第1の無機バリア層3の表面とアニオン性ポリマーのマトリックスに対して反応性を示す官能基を有するものであり、例えば、エポキシ基とアルコキシシリル基を有するものであり、前述したカチオンマトリックス用のコーティング組成物では、架橋剤として使用されるシラン化合物が好適である。
このシラン化合物は、前述した式(1):
X−SiR
1n(OR
2)
3−n (1)
式中、Xは、エポキシ基を有する有機基であり、
R
1及びR
2は、それぞれ、メチル基、エチル基、もしくはイソプロピ
ル基であり、
nは、0、1、もしくは2である、
で表される。
【0077】
即ち、先にも説明したが、アルコキシシリル基が加水分解して生じるシラノール基(SiOH基)が、第1の無機バリア層3の表面に分布しているMOH(Mは、無機バリア層を形成する金属元素であり、例えばSi)と脱水縮合するため、マトリックスにはシロキサン構造が導入され、このシロキサン結合により、この密着剤(シラン化合物)は第1の無機バリア層3の表面に密着結合する。また、エポキシ基は、アニオン性ポリマー(a)が有する酸性基(例えばCOOH)やその塩(例えばCOONa)と反応(エステル化)して結合する。従って、この密着剤は、水分トラップ層5のマトリックスとも結合する。かくして、このような密着剤は、第1の無機バリア層3と水分トラップ層5との密着性を高め、その接合強度を向上させ、この結果、水分トラップ層5の剥離等が有効に防止され、長期にわたって、高度の水分バリア性が維持されることとなる。
特に、第1の無機バリア層3が有機ケイ素化合物のプラズマCVDにより形成された蒸着膜である時は、その表面にSiOH基が分布しており、水分トラップ層5(マトリックス)と無機バリア層3との間にシロキサン結合を形成し易く、その密着性向上効果は極めて大きい。
【0078】
上記式(1)のシラン化合物の中では、アルコキシシリル基を複数有するもの(式(1)中のnが0または1であるもの)、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランやγ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。また、エポキシ基がエポキシシクロヘキシル基のような脂環式エポキシ基であるもの、例えば、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が密着剤として最も好適である。
【0079】
本発明において、上記のような密着剤は、前述した水分バリア性を損なうことなく、その特性を十分に発揮させるため、水分トラップ層5中のアニオン性ポリマー100重量部当り、0.1乃至10重量部、特に1乃至8重量部の量で存在することが好ましい。
【0080】
上述した各種成分を含むコーティング組成物に使用される溶媒としては、比較的低温での加熱により揮散除去し得るものであれば特に制限されず、カチオンマトリックス用のコーティング組成物でも挙げられたものと同種のものを使用することができる。特に、前述した式(1)の化合物のように、アルコキシシリル基を有するシラン化合物を密着剤として使用する場合には、少なくとも水を含む溶媒を使用することが好ましい。アルコキシシリル基の加水分解を促進せしめ、架橋剤或いは密着剤としての機能を高めるためである。
【0081】
さらに、上述したアニオンマトリックス用のコーティング組成物には、pH調整のために、アルカリ(例えば水酸化ナトリウムなど)を添加することもできる。このようなアルカリの添加は、密着剤として使用する上記のシラン化合物から生じるシラノール基と無機バリア層3の表面のMOH基との脱水縮合を促進させる上で効果的であり、例えば、pHが8乃至12程度となるようにアルカリを添加するのがよい。
【0082】
上述した溶媒は、カチオンマトリックス用のコーティング組成物と同様、コーティング組成物がコーティングに適した粘度となるような量で使用され、且つコーティング組成物の粘度調整のため、或いは形成される吸湿性マトリックスの吸水率を適宜の範囲に調整するため、先にも例示した非イオン性重合体を適宜の量で配合することができる。
【0083】
水分トラップ層5の形成;
上述したカチオン性マトリックス形成用或いはアニオン性マトリックス形成用のコーティング組成物を用いての水分トラップ層5の形成は、上述したコーティング組成物を、第1の無機バリア層3の表面に塗布し、80〜160℃程度の温度に加熱することにより行われる。加熱時間は、例えば加熱オーブン等の加熱装置の能力にも依るが、一般に、数秒から数分間である。この加熱により、溶媒が除去され、さらに、架橋剤がイオン性ポリマーや第1の無機バリア層3の表面のMOHと反応し、架橋構造がマトリックス中に導入され且つ第1の無機バリア層3との密着性に優れた水分トラップ層5を形成することができる。
【0084】
このような水分トラップ層5の厚みは特に制限されるものではなく、その用途や要求される水分バリアの程度に応じて適宜の厚みに設定することができるが、一般に、水蒸気透過度が10
−5g/m
2/day以下となるような超バリア性を発揮させるには、少なくとも1μm以上、特に2乃至20μm程度の厚みを有していれば十分である。
即ち、本発明では、水分トラップ層5が、水分の吸収と閉じ込めとの2重の機能を有しているため、第1の無機バリア層3上に、適度な厚みの水分トラップ層5を一層形成するのみで、水分に対して上記のような超バリア性を発揮することができる。従って、本発明では、層の数を少なくして高いバリア性を得ることができるのであり、生産性や生産コストなどの点で極めて有利である。
【0085】
<有機層7>
本発明のガスバリア性積層体10において、上記の水分トラップ層5上に設けられている有機層7は、その上に形成される第2の無機バリア層9の下地層となるものである。
即ち、水分トラップ層5は、表面の平滑性が乏しいことに加え、吸湿により微妙な体積変化を生じる。従って、有機層7を設けずに、直接第2の無機バリア層9を水分トラップ層5上に成膜すると、第2の無機バリア層9と水分トラップ層5との間に十分な密着性を確保することができず、デラミネーション等を生じ易く、特に経時と共に、吸湿による微妙な体積変化に伴って、第2の無機バリア層9と水分トラップ層5との密着性が低下していくなどの不都合を生じてしまう。しかるに、両者の間に下地層となる有機層7を設けることにより、このような不都合を有効に回避できる。
【0086】
このような有機層7は、表面平滑性を有しており且つ非吸湿性(例えば、前述した吸水率(80%RH、30℃)が1.0%以下)の膜を形成することができ、水分トラップ層7との間に高い密着力(例えば1.0N/15mm以上)を確保し得るものであれば、任意の樹脂で形成されていてよい。ただ、一般的には、第2の無機バリア層9を成膜する際の熱変形を防止し且つコーティングにより容易に形成し得るという観点から、ガラス転移点(Tg)が60℃以上の樹脂で形成されていることが好ましい。
【0087】
上記のような観点から、有機層7を形成する樹脂としては、ポリエステル樹脂、シクロオレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ハロゲン系樹脂が好適であり、これらの中から、上記のような高ガラス転移点(Tg)のものが選択されて使用される。
【0088】
ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が代表的であり、何れもコポリマー単位を含んでいてよい。
かかるコポリマー単位における二塩基酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;等が代表的である。また、ジオール成分としては、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等が代表的である。の1種又は2種以上が挙げられる。
【0089】
また、シクロオレフィン系樹脂としては、シクロヘキセンから誘導されるポリシクロヘキセンが代表的であるが、シクロヘキサン環の内部に橋絡基(例えばメチレン基やエチレン基など)を有しているビシクロ環や、ビシクロ環にさらに脂肪族環が結合した多環構造を有するオレフィン(多環オレフィン)から誘導されるものも好適である。
このような多環オレフィンとしては、例えば、下記式(3):
【化3】
(3)
式中、Zは、メチレン基またはエチレン基である、
で表されるビシクロ環構造を含むものが挙げられる。
【0090】
上記多環オレフィンの具体例としては、これに限定されるものではないが、以下のものを例示することができる。
【0091】
【化4】
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0092】
【化5】
トリシクロ[4.4.0.1
2.5]−3−ウンデセン
【0093】
【化6】
テトラシクロ[4.4.0.1
2.5.1
7.10]−3
−ドデセン
【0094】
【化7】
ペンタシクロ[8.4.0.1
2.5.1.
9.12.
0
8.13]−3−ヘキサデセン
【0095】
【化8】
ペンタシクロ[6.6.1.1
3.6.0.
2.7.
0
9.14]−4−ヘキサデセン
【0096】
また、(メタ)アクリル樹脂としては、例えば以下のモノ(メタ)アクリレート系単量体及び多官能(メタ)アクリレート系単量体を、1種単独或いは2種以上の組み合わせで重合することにより得られたものを挙げることができる。
1.モノ(メタ)アクリレート系単量体;
メチル(メタ)アクリレート
エチル(メタ)アクリレート
グリシジル(メタ)アクリレート
2−シアノメチル(メタ)アクリレート
ベンジル(メタ)アクリレート
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート
アリル(メタ)アクリレート
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート
グリシジル(メタ)アクリレート
3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート
グリセリルモノ(メタ)アクリレート
2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート
2.多官能(メタ)アクリレート系単量体;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート
ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート
プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート
ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン
2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン
1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート
1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート
ウレタン(メタ)アクリレート
エポキシ(メタ)アクリレート
【0097】
尚、上記以外にも、例えば、(メタ)アクリル酸の長鎖アルキルエステル(例えば炭素数が3以上)を重合して得られるポリマーもあるが、この種のポリマーはガラス転移点(Tg)がかなり低いため、通常、多官能の(メタ)アクリレートとの共重合体の形で使用される。
【0098】
ハロゲン系樹脂としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、四フッ化樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)、フッ化ビニリデン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、フッ化ビニル樹脂(PVF)、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体樹脂(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体樹脂(ECTFE)などが挙げられる。
【0099】
本発明において、このような有機層7は、上述した各種の樹脂を揮発性有機溶剤に溶解し、この塗工液を水分トラップ層5上に塗布し乾燥することにより形成される。また、有機層7に相当するフィルム乃至シートを別途形成しておき、これを適当な接着剤を用いて、ドライラミネーションにより水分トラップ層5上に貼り付けることにより、有機層7を形成することもできる。
何れの方法により有機層7を形成するにしろ、水分トラップ層5を第1の無機バリア層3上に形成した後、引き続いて連続的に有機層7が形成されるようにするのがよい。水分トラップ層5が雰囲気中に露出している時間が長くなるほど、吸湿により失活していくからである。
【0100】
上述した有機層7の厚みは、水分トラップ層5の粗い表面や吸湿による微妙な体積変化が有機層7の表面に反映されない程度の厚みを有していればよく、また、必要以上に厚みを大きくしても経済的に不利となるだけである。このような点を勘案して、有機層7の厚みは、通常、1乃至200μm、特に2乃至100μm程度に設定される。
【0101】
<第2の無機バリア層9>
上記の有機層7を下地層として形成される第2の無機バリア層9は、前述した水分トラップ層5への水分の侵入を可及的に抑制し、水分トラップ層5の吸湿による失活を抑えるためのものである。即ち、第2の無機バリア層9が設けられていない場合には、製造時の搬送ラインなどの実際に販売され使用される前の段階で水分トラップ層5が吸湿により失活してしまったり、また実際の使用時においても、過度の水分が水分トラップ層5にトラップされてしまい、水分トラップ層5の優れた吸湿性能を長期にわたって維持することができない。しかるに、有機層7上に第2の無機バリア層9を形成することにより、上記のような不都合は有効に回避できる。
【0102】
このような第2の無機バリア層9は、先にも述べたように、前述した第1の無機バリア層3と全く同じであってよい。
ただ、第2の無機バリア層9は、水分トラップ層5に過度の水分が侵入しないように設けられるものであり、且つ水分トラップ層5自体が、第1の無機バリア層9と比較しても著しく優れた水分バリア性を示す。従って、このガスバリア性積層体10として高い水分バリア性を確保するために、第2の無機バリア層9は、ある程度の水分バリア性を示すものであれば、第1の無機バリア層3ほどの水分バリア性は要求されず、第1の無機バリア層3よりも水分バリア性が低いものであってもよい。例えば、前述したように、第1の無機バリア層3の水蒸気透過度は10
−2g/m
2/day以下、特に10
−3g/m
2/day以下であることが好ましいが、この場合、第2の無機バリア層9の水蒸気透過度は、第1の無機バリア層3の水蒸気透過度よりも大きくともよく、10
−1g/m
2/day以下程度の水蒸気透過度を有するものであれば、水分トラップ層5の失活を抑制するという本発明の目的を十分に達成することができる。
【0103】
また、上記のように、第2の無機バリア層9が第1の無機バリア層3に比して水蒸気透過度が高くともよいことは、成膜条件がマイルドでよく、低出力でのCVDにより成膜できるし、さらには、成膜時間を短くして第1の無機バリア層よりも厚みが薄くすることができる。例えば、第2の無機バリア層9の厚みは、第1の無機バリア層3の厚みの70%以下、特に50乃至60%の厚みとすることができ、生産性や製造コストの点で大きな利点となる。
また、前記有機層7に相当するフィルム乃至シートの片面に、第2の無機層9を予め形成し、適当な接着剤を用いたドライラミネーションにより、水分トラップ層5上に貼り付けることで、有機層7と第2の無機層9を形成することも可能である。更には適当なドライラミネーション用接着層を有機層7とし、予め第2の無機層9を形成したフィルム乃至シートを、無機層9を接着層側にして貼り付けても良い。
【0104】
<その他の層>
本発明において、上述した第2の無機バリア層9の上には格別の層を設ける必要はないが、本発明の利点が損なわれない範囲で、この種のガスバリア性積層体に形成され得る公知の層を設けることも可能である。
例えば、水分トラップ層5からの水分の放出を確実に防止し、水分放出による電気絶縁性の低下などを回避するために、撥水性の層、例えばオレフィン系樹脂の層を設けることができる。
また、酸素に対するバリア性をさらに向上させるために、エチレンビニルアルコール共重合体や芳香族ポリアミドなどからなる酸素バリア層を設けることもできるし、鉄、コバルト等の遷移金属を含む酸素吸収性層を設けることも可能である。
上述した各層は、公知の手段、例えば共押出、コーティング等により容易に形成することができる。
【0105】
<用途>
本発明のガスバリア性積層体10は、水分トラップ層5が極めて優れた水分トラップ能力を示し、その失活も有効に抑制され、長期間にわたってその水分バリア性が維持されるばかりか、水分トラップ層5の吸湿による寸法変化も防止され、寸法変化による密着性の低下(バリア性の低下をもたらす)も有効に回避され、少ない層数で水蒸気透過度が10
−5g/m
2/day以下という水分に対する超バリア性を実現することができる。
従って、このガスバリア性積層体10は、各種の電子デバイス、例えば有機EL素子、太陽電池、電子ペーパーなどの電子回路を封止するためのフィルムとして好適に使用することができ、さらには、プラスチックフィルム基材1としてPET、PEN、ポリカーボネート、ポリイミド樹脂等の透明性に優れたものが使用されている場合には、この上に、透明電極を形成し、その上に発光層などを有する有機ELの発光素子や太陽電池の光発電素子を形成することもできる。
【実施例】
【0106】
本発明のガスバリア性積層体の優れた性能を、以下の実験例により説明する。
尚、以下の例において、実施例1〜10、14は、水分トラップ層のマトリックスがカチオン性ポリマー(ポリアリルアミン)である例であり、実施例11〜13は、水分トラップ層のマトリックスがアニオン性ポリマー(ポリアクリル酸)
を用いた参考例である。
また、各実験で行った各種の測定は、以下の方法で行った。
【0107】
<到達湿度の評価>
140℃で1時間乾燥させた後、30℃80%RH雰囲気下で、内容積85cm
3の水分不透過性のスチール箔積層カップに、測定物0.5gとワイヤレス式温湿度計(ハイグロクロン:KNラボラトリーズ製)を入れ、アルミ箔積層フィルム蓋で容器口部をヒートシールした。その後、30℃で経時し、1日後の容器内部の相対湿度を到達湿度とした。
【0108】
<水蒸気透過度(g/m
2/day)の測定>
特開2010―286285号公報に記載の方法に基づき、以下のような方法で測定している。
試料のガスバリア性積層体の無機バリア層面に、真空蒸着装置(日本電子株式会社製、JEE−400)を用いて、真空蒸着により300nmの厚みのCa薄膜(水腐食性金属の薄膜)を形成し、さらに、Ca薄膜を覆うように540nmの厚みのAl蒸着膜(水不透過性金属薄層)を成膜して試料片を作製した。
尚、Ca薄膜は、金属カルシウムを蒸着源として使用し、所定のマスクを介しての真空蒸着により、1mmφの円形部分6箇所に形成した。また、Al蒸着膜は、上記のマスクを真空状態のまま取り去り、装置内のAl蒸着源から引き続き真空蒸着を行うことにより成膜した。
上記のようにして形成された試料を、吸湿剤としてシリカゲル(吸湿能力
300mg/g)を充填したガス不透過性カップに装着し、固定リングで固定して評価用ユニットとした。
このようにして作製された評価用ユニットを、40℃90%に雰囲気調整された恒温恒湿槽に520〜720時間保持した後、レーザー顕微鏡(Carl
Zeiss社製、レーザスキャン顕微鏡)により試料のCa薄膜の腐食状態を観察し、金属カルシウムの腐食量から水蒸気透過度を算出した。水蒸気透過度が、10
−5g/m
2/day以下のものを◎、10
−5g/m
2/dayを超え10
−3g/m
2/day未満のものを○、10
−3g/m
2/day程度のものを×とした。
【0109】
<含水率の測定>
下記の手順に従って、ガスバリア性積層体の水分トラップ層の含水率を求めた。
試料のガスバリア性積層体を作製し、22℃60%RH雰囲気下で、12時間放置した
後に、微量水分測定装置(三菱化学社製、CA−06型)を用いて含水率を測定した。
また、ブランクとして、
図3に示されているように、水分トラップ層5が設けられていない層構造の積層体11を作製し、同様に含水率を測定した。
上記のように測定された試料の含水率からブランクでの含水率を差し引くことにより、水分トラップ層5の含水率を算出した。この含水率が、5%以下のものを○、5%を超えるものを×とした。
【0110】
<密着強度>
試料のガスバリア性積層体の両面に、厚さ4μmのウレタン系接着剤を介して、厚さ7μmのアルミ箔をドライラミネートし、接着層の硬化のため、50℃×3日間エージングを行い、T型剥離試験用サンプルを作製した。
前記T型剥離試験用サンプルを100mm×15mmの短冊に裁断し、引っ張り試験機により引っ張り速度300mm/minにてT型剥離試験を行った(N=3)。このときの平均の強度を密着強度とし、1.0(N/15mm)以上のものを○、1.0(N/15mm)未満のものを×とした。
【0111】
<第1の無機バリア層3被覆ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの作製>
厚み100μmの2軸延伸PETフィルム1の片面に、プラズマCVD装置を用いて、酸化ケイ素の無機バリア層3を形成した。以下に、製膜条件を示す。
周波数27.12MHz、最大出力2kWの高周波出力電源、マッチングボックス、直径300mm、高さ450mmの金属型円筒形プラズマ処理室、処理室を真空にする油回転真空式ポンプを有するCVD装置を用いた。処理室内の並行平板にプラスチック基材を設置し、ヘキサメチルジシロキサンを3sccm、酸素を45sccm導入後、高周波発振器により50Wの出力で高周波を発振させ、2秒間の製膜を行い、密着層を形成した。次に、高周波発振器により200Wの出力で高周波を発振させ、100秒間の製膜を行い、バリア層を形成した。得られた無機バリア層被覆PETフィルムは、40℃90%RH雰囲気下で測定した水蒸気透過率が、1〜3×10
−3g/m
2/dayである。
【0112】
<第2の無機バリア層9の作製>
有機層7上に、プラズマCVD装置を用いて、酸化ケイ素の無機バリア層9を形成した。以下に、製膜条件 を示す。
周波数27.12MHz、最大出力2kWの高周波出力電源、マッチングボックス、直径300mm、高さ450mmの金属型円筒形プラズマ処理室、処理室を真空にする油回転真空式ポンプを有するCVD装置を用いた。処理室内の並行平板にプラスチック基材を設置し、ヘキサメチルジシロキサンを3sccm、酸素を45sccm導入後、高周波発振器により50Wの出力で高周波を発振させ、2秒間の製膜を行い、密着層を形成した。次に、高周波発振器により100Wの出力で高周波を発振させ、50秒間の製膜を行い、40℃90%RH雰囲気下で測定した水蒸気透過率が、1〜2×10
−1g/m
2/dayである無機バリア層9を形成した。
【0113】
<実施例1>
イオン性ポリマーとしてポリアリルアミン(ニットーボーメディカル製、PAA−15C、水溶液品、固形分15%)を、固形分5重量%になるように水で希釈し、ポリマー溶液を得た。一方、架橋剤として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用い、5重量%になるように水に溶かして架橋剤溶液を調製した。次いで、ポリアリルアミン100重量部に対してγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが15重量部になるように、ポリマー溶液と架橋剤溶液とを混合し、さらに、この混合溶液に、粒状吸湿剤として、ポリアクリル酸Naの架橋物(東洋紡製、タフチックHU−820E、水分散品、固形分13%、平均粒径D
50:70nm)を、ポリアリルアミンに対して400重量部になるように加え、更に固形分が5%になるよう水で調整した上で良く撹拌し、水分トラップ層用のコーティング液Aを調製した。
【0114】
上記で得られたコーティング液Aをバーコーターにより、先に作成された無機バリア層3被覆PETフィルムの蒸着面上に塗布した。塗布後の上記フィルムをボックス型の電気オーブンにより、ピーク温度120℃、ピーク温度保持時間10秒の条件で熱処理し、厚み4μmの水分トラップ層5を形成し、コーティングフィルムAを得た。
【0115】
ポリエステル樹脂(東洋紡社製、バイロンGK880)を、2―ブタノンに固形分が10重量%になるように溶解して、有機層用のコーティング液Bを調整した。
上記コーティング液Bを、前記で得られたコーティングフィルムAの水分トラップ層5上に、水分トラップ層形成後速やかに、バーコーターにより塗布した。塗布後の上記フィルムをボックス型の電気オーブンにより、ピーク温度120℃、ピーク温度保持時間10秒の条件で熱処理し、厚み4μmの有機層7を形成し、コーティングフィルムBを得た。
【0116】
次いで、前記コーティングフィルムBの有機層7上に、プラズマCVD装置を用いて、無機バリア層9を速やかに形成し、
図2に示すような層構造のガスバリア性積層体10を得た。
【0117】
<実施例2>
実施例1において、有機層用のコーティング液Bの樹脂としてシクロオレフィン系樹脂(ポリプラスチックス社製、TOPAS8007)、溶剤としてトルエンを用いた以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア性積層体10を得た。
【0118】
<実施例3>
実施例1において、有機層用のコーティング液Bの樹脂としてアクリル樹脂(住友化学社製、スミペックスLG35)、溶剤としてトルエンを用いた以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア性積層体10を得た。
【0119】
<実施例4>
実施例1において、有機層用のコーティング液Bの樹脂としてポリ塩化ビニル(和光純薬工業社製、重合度=1100)、溶剤としてテトラヒドロフランを用いた以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア性積層体10を得た。
【0120】
<実施例5>
実施例1と同様の方法でコーティングフィルムAを形成し、速やかに窒素濃度99.95%以上に調整したグローブボックス内に移行した。有機層7に相当する厚さ12μmのPETフィルムの片面に無機バリア層9を形成したものを、厚さ4μmのウレタン系接着剤の層6を介して、前記コーティングフィルムAの水分トラップ層5上に、無機バリア層9が外側になるようにドライラミネートした。吸湿しないように接着樹脂層を硬化するため、50℃×3日間真空下にてエージングを行い、
図4に示すような層構造のガスバリア性積層体12を得た。
【0121】
<実施例6>
実施例1と同様の方法でコーティングフィルムAを形成し、速やかに窒素濃度99.95%以上に調整したグローブボックス内に移行した。厚さ12μmのPETフィルムの片面に無機バリア層9を形成したものを、厚さ4μmのウレタン系接着剤の層を有機層7として、前記コーティングフィルムAの水分トラップ層5上に塗布して、更に無機バリア層9が有機層7に接するようにドライラミネートした。吸湿しないように接着樹脂層を硬化するため、50℃×3日間真空下にてエージングを行い、
図5に示すような層構造のガスバリア性積層体13を得た。
【0122】
<実施例7>
実施例5において、片面に無機バリア層9を形成した厚さ12μmのPETフィルムの替わりに、市販のバリアPETフィルム(凸版印刷社製、GXフィルム)を用いた以外は、実施例5と同様の方法でガスバリア性積層体12を得た。
【0123】
<実施例8>
実施例6において、片面に無機バリア層9を形成した厚さ12μmのPETフィルムの替わりに、市販のバリアPETフィルム(凸版印刷社製、GXフィルム)を用いた以外は、実施例6と同様の方法でガスバリア性積層体13を得た。
【0124】
<実施例9>
実施例1において、粒状吸湿剤をポリアリルアミンに対して50重量部になるように配合する以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア性積層体10を得た。
【0125】
<実施例10>
実施例1において、粒状吸湿剤をポリアリルアミンに対して1000重量部になるように配合する以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア性積層体10を得た。
【0126】
<実施例11>
実施例1において、イオン性ポリマーとして、ポリアクリル酸(日本純薬製、AC−10LP)を水酸化ナトリウムを用いて80%部分中和したもの、溶媒として水/アセトン混合溶媒(重量比で80/20)を用い、架橋剤として、1,2―シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルがポリアクリル酸部分中和物に対して15重量部、密着剤として、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランがポリアクリル酸部分中和物に対して3重量部、さらに、粒状吸湿剤がポリアクリル酸部分中和物に対して420重量部になるように配合する以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア性積層体10を得た。
【0127】
<実施例12>
実施例11において、粒状吸湿剤がポリアクリル酸部分中和物に対して50重量部になるように配合する以外は、実施例11と同様の方法でガスバリア性積層体10を得た。
【0128】
<実施例13>
実施例11において、粒状吸湿剤がポリアクリル酸部分中和物に対して1300重量部になるように配合する以外は、実施例11と同様の方法でガスバリア性積層体10を得た。
【0129】
<実施例14>
イオン交換樹脂(オルガノ製、アンバーライト200CT)を用いて、上記ポリアクリル酸Naの架橋物(HU−820E)のNa塩型カルボキシル基をH型カルボキシル基に変換した後、水酸化カリウムの1N水溶液を用いて、カリウム塩型カルボキシル基を有するポリアクリル酸Kの架橋物(水分散品、固形分10%、平均粒径D
50:70nm、中和率80%)を得た。
粒状吸湿剤として、上記のポリアクリル酸Kの架橋物を用いた以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア性積層体10を得た。
【0130】
<比較例1>
実施例1において、有機層7を形成しない以外は、実施例1と同様の方法で、
図6に示すような層構造の積層体14を得た。
【0131】
<比較例2>
実施例1において、第2の無機バリア層9を形成しない以外は、実施例1と同様の方法で、
図7に示すような層構造の積層体15を得た。
【0132】
<比較例3>
実施例1において、粒状吸湿剤として、平均粒径900nmのポリアクリル酸Naの架橋物(東洋紡製、タフチックHU−700E、水分散品、固形分20%、平均粒径D
50:900nm)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層体10を得た。
【0133】
<比較例4>
実施例1において、イオン性ポリマーとして、ポリビニルアルコール(クラレ製、PVA103)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、積層体10を得た。
【0134】
<比較例5>
粒状吸湿剤として、平均粒径4μmポリアクリル酸Naの架橋物(東洋紡製、タフチックHU−720SF、平均粒径:4μm)をLDPE(東ソー製、LUMITAC08L55A)に対して43重量部となるようにドライブレンドし、2軸混練押出機により150℃で混練し、厚さ12μmのPETフィルム2枚とラミネーターを使用して、PETフィルム間に水分トラップ層5の厚みが20μmになるように巻き取り、水分トラップ層5の両面をPETフィルムで保護した。窒素濃度99.95%以上に調整したグローブボックス内にて、PETフィルムを剥離して、一方の面に、厚さ4μmのウレタン系接着剤の層6を介して、実施例1で用いた無機バリア層3被覆PETフィルムを蒸着面が内側になるようにドライラミネートした。次いで、もう一方の面に、厚さ12μmのPETフィルムの片面に無機バリア層9を形成したものを、厚さ4μmのウレタン系接着剤の層を有機層7として、蒸着面が内側になるようにドライラミネートした。吸湿しないように接着樹脂層を硬化するため、50℃×3日間エージングを行い、
図8に示すような層構造の積層体16を得た。
【0135】
<評価試験>
上記で作製された試料のラミネート積層体について、前述した方法で各種特性を測定し、その結果を表1に示した。
【0136】
【表1】
【0137】
尚、表1の(注1)において、剥離界面が、水分トラップ層/有機層の界面以外であるときは、水分トラップ層/有機層の界面での密着力は、その剥離界面での密着力の値以上であるとする。
【0138】
<水分トラップ層用組成物の水分捕捉試験>
イオン性ポリマー(ポリアリルアミン)100重量部に対して、粒状吸湿剤(タフチックHU820E)を420重量部、架橋剤(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を20重量部配合した組成物0.5gを、140℃で1時間乾燥させた後、重量を測定し、温度30℃及び湿度20、30、40%RHの各雰囲気下で5分間放置し、再び重量を測定した。
求めた重量増加分から、水分トラップ層形成用組成物の各湿度における吸湿速度を算出し、その結果を
図9に示した。また、極低湿度雰囲気下における吸湿速度を外挿によって求めた。
【0139】
外挿から求めた、水分トラップ層の極低湿度雰囲気下での吸湿速度は10
−4g/m
2・minであり、実施例1で用いた無機バリア層被覆PETフィルムの、40℃90%RH雰囲気下における水蒸気透過率は、10
−3g/m
2/day、つまり、10
−7g/m
2・minであるので、この水分トラップ層用組成物により形成される水分トラップ層は極低湿度の雰囲気下でも水分を捕捉することができ、水分が無機バリア層を透過する速度よりも十分速い速度で捕捉することが可能となることが判る。
【0140】
また、捕捉した水分のマトリックスから吸湿剤への閉じ込めを証明するために、以下の実験を行った。
測定試料0.5gを、140℃で1時間乾燥させた後、30℃80%RH雰囲気下で、内容積85cm
3の水分不透過性のスチール箔積層カップに、ワイヤレス式温湿度計(ハイグロクロン:KNラボラトリーズ製)と共に入れ、アルミ箔積層フィルム蓋で容器口部をヒートシールし、1日放置した。その後、−20、5、22、30、40℃の各温度で、3時間ずつ放置し、その際の容器内部の相対湿度を、各温度での到達湿度とした。
図10に、測定試料として、イオン性ポリマー(ポリアリルアミン)、粒状吸湿剤(タフチックHU820E)、イオン性ポリマーと粒状吸湿剤の1:1混合物を用いたときの、各温度における到達湿度を示す。
イオン性ポリマーが、温度上昇に伴って容器内湿度が上昇するのに対して、粒状吸湿剤、イオン性ポリマーと粒状吸湿剤の混合物は、容器内湿度を絶乾状態まで低下させることができた。混合物が、吸湿剤単体と同等の吸湿性能を示したことから、イオン性ポリマーが吸湿した水分は、温度が上昇しても外気に放出されることはなく、より吸湿性の大きい(即ち、到達湿度が低い)吸湿剤によってさらに捕捉されていることを示している。