特許第6519981号(P6519981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6519981
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】歩容の評価方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20190520BHJP
【FI】
   A61B5/11 230
   A61B5/11 210
   A61B5/11ZDM
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-81753(P2014-81753)
(22)【出願日】2014年4月11日
(65)【公開番号】特開2015-202141(P2015-202141A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 元喜
(72)【発明者】
【氏名】宮永 真澄
【審査官】 松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−235328(JP,A)
【文献】 特開2009−106391(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0035509(US,A1)
【文献】 床反力計による健常者歩行の研究,リハビリテーション医学,1987年 3月,vol.24, no.2,93-101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行時の足裏の圧力データの解析により歩容を評価する歩容の評価方法であって、歩行時の足裏の圧力の時系列データを得、該足裏の圧力の時系列データの立脚期を経時的に第1の区間、第2の区間及び第3の区間に3等分し、第1の区間の圧力の最大値、第2の区間の圧力の平均値、及び第3の区間の圧力の最大値を求め、これらの大小関係に基づいて歩容を評価する歩容の評価方法。
【請求項2】
第1の区間の圧力の最大値、第2の区間の圧力の平均値、及び第3の区間の圧力の最大値の大小関係から、立脚期における圧力ピークの有無を判断する請求項1記載の歩容の評価方法。
【請求項3】
第1の区間の圧力の最大値、第2の区間の圧力の平均値、及び第3の区間の圧力の最大値の大小関係から、歩容を、二峰性タイプ、踏み込み時にピークのある一峰性タイプ、蹴り出し時にピークのある一峰性タイプ、ピークのない平坦タイプの4タイプに分類する請求項2記載の歩容の評価方法。
【請求項4】
左右の足のそれぞれについて歩容を評価する請求項1〜3のいずれかに記載の歩容の評価方法。
【請求項5】
歩容の評価結果の表示方法であって、歩行時の足裏の圧力の時系列データの立脚期を経時的に第1の区間、第2の区間及び第3の区間に3等分し、第1の区間の圧力の最大値、第2の区間の圧力の平均値、及び第3の区間の圧力の最大値を各々求め、第1の区間の圧力の最大値、第2の区間の圧力の平均値、及び第3の区間の圧力の最大値の大小関係から、歩容が、二峰性タイプ、踏み込み時にピークのある一峰性タイプ、蹴り出し時にピークのある一峰性タイプ、ピークのない平坦タイプの4タイプのいずれであるかを判定し、該判定結果を歩容の評価結果として表示する歩容の評価結果の表示方法。
【請求項6】
前記歩容の評価結果を、時間軸に対して足裏の圧力をプロットした足圧波形と共に表示する請求項記載の歩容の評価結果の表示方法。
【請求項7】
前記歩容の評価結果を、第2の区間の圧力の平均値に対する第1の区間の圧力の最大値の比率、及び第2の区間の圧力の平均値に対する第3の区間の圧力の平均値の比率とともに表示する請求項記載の歩容の評価結果の表示方法。
【請求項8】
左右の各々の足の歩容の評価結果を表示する請求項のいずれかに記載の歩容の評価結果の表示方法。
【請求項9】
二峰性タイプの足圧波形に、つま先と踵にマークを付した足裏画像を表示し、踏み込み時にピークのある一峰性タイプの足圧波形に、踵にマークを付した足裏画像を表示し、蹴り出し時にピークのある一峰性タイプの足圧波形につま先にマークを付した足裏画像を表示し、平坦タイプの足圧波形に、踵とつま先にマークの無い足裏画像を表示する請求項のいずれかに記載の歩容の評価結果の表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行時の歩容の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
床反力計は、被験者が乗るフォースプレートの四隅に三分力型ロードセルを設け、直交3成分(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向)の応力を測定できるようにしたものである。床反力計で健常者の歩行時のZ軸方向の分力(垂直分力)Fzを測定し、垂直分力を時間に対してプロットすると、図3に示すように、二峰性のピークを有する床反力波形を得ることができる。この床反力波形は、歩行時の体重移動、制動力、駆動力、捻転力等の影響を受け、加齢や性別により変化する(非特許文献1)。そこで、床反力計を用いて歩容を評価したり(特許文献1)、つまずきのリスクを評価したりすること(特許文献2)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11―113884号公報
【特許文献2】特開2013−138783号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】リハビリテーション医学,vol.24,No.2,93(1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、歩容によっては、床反力波形において二峰性のピークが現れずに一峰性のピークが現れる場合や、扁平でピークが現れない場合がある。また、老若男女、健常者、種々の歩行障害者の全ての床反力のデータを予め取得し、全ての歩容と床反力波形を関連づけておくこともできない。そのため、二峰性のピークを前提とした床反力波形の解析方法を任意の被験者に適用することはできず、任意の被験者に適用できる床反力波形の解析方法が求められている。
【0006】
一方、歩行時の足裏の圧力を簡便に計測できる装置として、シート式圧力センサが知られている(例えば、アニマ株式会社製シート式下肢加重計シリーズウォークWay、AMTI社製床反力計等)。シート式圧力センサは床反力計に比して安価であるが、歩行時の足裏の圧力の測定精度が低い。
【0007】
以上の従来技術に対し、本発明は、歩行時の足裏の圧力データを解析して歩容を評価するにあたり、より簡便で、また、任意の被験者の足裏の圧力データを解析対象にすることができる方法の提供を課題にする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、歩行時の足裏の圧力を経時的に計測することにより得た時系列データを経時的に3つの区間に分割した場合の第1区間の最大値、第2区間の平均値、及び第3区間の最大値の大小関係から歩容を評価できることを見出し、これらの大小関係を利用する本発明を想到するに到った。
【0009】
即ち、本発明は、歩行時の足裏の圧力データの解析により歩容を評価する歩容の評価方法であって、歩行時の足裏の圧力の時系列データを得、該足裏の圧力の時系列データの立脚期を経時的に3つの区間に分割し、第1の区間の圧力の最大値、第2の区間の圧力の平均値、及び第3の区間の圧力の最大値を求め、これらの大小関係に基づいて歩容を評価する方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、歩容の評価結果の表示方法であって、歩行時の足裏の圧力の時系列データの立脚期を経時的に3つの区間に分割し、第1の区間の圧力の最大値、第2の区間の圧力の平均値、及び第3の区間の圧力の最大値を各々求め、第1の区間の圧力の最大値、第2の区間の圧力の平均値、及び第3の区間の圧力の最大値の大小関係から、歩容が、二峰性タイプ、踏み込み時にピークのある一峰性タイプ、蹴り出し時にピークのある一峰性タイプ、ピークのない平坦タイプの4タイプのいずれであるかを判定し、該判定結果を歩容の評価結果として表示する歩容の評価結果の表示方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の評価方法によれば、任意の被験者について、歩行時の足裏の圧力の時系列データを解析し、歩容を評価することができる。この場合、足裏の圧力データは、床反力計で得たものに限られない。シート式圧力センサで計測した足裏の圧力データであってもよいし、その他、足裏の圧力を測れる装置であれば、いかなる態様のもののデータを用いてもよい。
【0012】
また、本発明の表示方法によれば、本発明による歩容の評価結果を被験者にわかりやすく伝えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、二峰性の足圧波形の説明図である。
図1B図1Bは、踏み込み時にピークのある一峰性の足圧波形の説明図である。
図1C図1Cは、蹴り出し時にピークのある一峰性の足圧波形の説明図である。
図1D図1Dは、ピークの無い平坦な足圧波形の説明図である。
図2図2は、足圧波形のタイプを示すために解析結果と共に表示する足裏画像である。
図3図3は、二峰性のピークを有する床反力波形の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明を具体的に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0015】
本発明の解析方法においては、まず、例えば床反力計などの計測装置を用いて歩行時の足裏の圧力データを計測し、時系列データを取得する。ここで、足裏の圧力データは、Z軸方向あるいは垂直方向の圧力データをいう。
【0016】
ここで足裏の圧力の計測装置としては、床反力計だけでなく、シート式圧力センサ(例えば、アニマ株式会社製シート式下肢加重計シリーズウォークWay、AMTI社製床反力計等)を使用することができる。
【0017】
足裏の圧力の時系列データをシート式圧力センサを用いて得る場合、例えば、被験者が、5〜10mの歩行路の中央に敷かれたシート式圧力センサの上を自由歩行したときの圧力を所定のサンプリング周期で計測すればよい。この場合、サンプリング周期としては、60Hz以上が好ましく、100Hz以上がより好ましい。
【0018】
本発明では、上記のようにして計測され、記憶された足裏の圧力の時系列データを、パーソナルコンピュータなどの情報処理装置を用いて解析するのが好ましく、さらに、情報処理装置に付属した表示装置にて結果を表示するのが好ましい。
【0019】
本発明では、予め測定され、時系列で記憶された足裏の圧力データのうち、立脚期のデータを抽出して使用する。歩行では左右一方の足の踵が床に接地することにより踏み込みが始まり、歩行者に制動力がかかる。次いで、その足がつま先で床を後方に蹴ることにより歩行者に駆動力が生じ、更に蹴り出すことにより、その足が離床する。この足の接地から離床までの時間が立脚期であり、離床後、足が宙にういている時間(遊脚期)を経て、足は接地と離床を繰り返す。一方、この足の立脚期の間に、他方の足の接地が始まり、この足も接地と離床を繰り返す。すなわち、本発明では、足裏の圧力データのうち、足裏の圧力が0を超えてから0に戻るまでの区間のデータを用いる。容易に分かるように立脚期に費やされる時間は歩行ごとに異なり、左右の足でも異なる。そこで、左右それぞれの足について、立脚期の時間を100%として、圧力データの時間軸を基準化する。
【0020】
次に、抽出された圧力データの時間軸を3つの区間に区分する。この区分は、立脚期を3等分することが処理を単純にでき、情報処理装置で行うのが容易になるので好ましい。具体的には、例えば、上述のごとく立脚期の時間軸を基準化、すなわち時間軸が0〜100となるように圧力データを時間軸方向で補完あるいは圧縮してから、第1の区間を立脚期の時間軸の0〜33に割り当て、第2の区間を立脚期の時間軸の34〜66に割り当て、第3の区間を立脚期の時間軸の67〜100に割り当てる。このように区分することで。足圧波形にピークが存在する場合、ピークが第1の区間又は第3の区間に存在するようにできる。
【0021】
情報処理装置を用いてデータ解析を行うにあたり、上述のごとく予め区分の割合を設定しておき、自動的に演算することが好ましいが、操作者が波形を観察して、区分を設定するようにしてもよい。
【0022】
次に、足圧波形から歩容を評価するため、第1の区間、第2の区間、及び第3の区間の特徴量として、第1の区間の圧力の最大値P1、第2の区間の圧力の平均値P2、及び第3の区間の圧力の最大値P3を求め、これらの大小関係を比較する。
図1A図1Dは、足裏の圧力データについて、時間に対して足裏の圧力をプロットした足圧波形の典型的な4パターンの模式図である。
【0023】
例えば、第1の区間の最大値P1と第2の区間の平均値P2の大小を比較し、P1>P2であれば、少なくとも第1の区間には、ピークがある。また、第2の区間の平均値P2と第3の区間の最大値P3の大小関係を比較し、P2<P3であれば、少なくとも第3の区間にはピークがある。以上により、P1、P2、P3の大小関係から、足圧波形を圧力ピークの有無および位置に応じた次の4タイプのいずれに分類されるかを判定する。
(i)P1>P2、P2<P3の場合:図1Aのような二峰性のピーク
(ii)P1>P2、P2>P3の場合、P1=P2、P2>P3の場合、又はP1>P2、P2=P3の場合:図1Bのような踏み込み時にピークのある一峰性タイプ
(iii)P1<P2、P2<P3の場合、P1=P2、P2<P3の場合、又はP1<P2、P2=P3の場合:図1Cのような蹴り出し時にピークのある一峰性タイプ
(iv)P1<P2、P2>P3の場合又はP1=P2=P3の場合:図1Dのようなピークの無い平坦タイプ
【0024】
なお、足圧波形から歩容を分類するために、第2の区間の特徴量として、この区間の平均値P2を使用するのは、任意の被験者の足圧波形について、特徴量の大小関係から歩容を分類できるようにするためである。即ち、仮に、第2の区間の特徴量として第2の区間の最小値P2’を使用した場合、上述の(i)、(ii)、(iii)において、平均値P2に代えて最小値P2’を使用することにより、P1、P2'、P3の大小関係から図1A図1B図1Cの足圧波形を分類することができる。しかしながら、図1Dの足圧波形の場合には、P1=P2’のときに第1の区間にピークが無く、また、P2'<P3であるにもかかわらず、第3の区間にピークが無い。このため、第1の区間、第2の区間及び第3の区間の特徴量の大小関係から統一的に足圧波形を分類することができない。
【0025】
上述の(i)〜(iv)の判定により、次のように歩容を評価することができる。
(i)P1>P2、P2<P3の場合、踵の踏み込みとつま先の蹴り出しに十分な力がでており、歩行にめりはりがある。
(ii)P1>P2、P2>P3の場合、P1=P2、P2>P3の場合、又はP1>P2、P2=P3の場合:踵で踏み込む力は出ているが、つま先で蹴り出す力が不十分である。この歩容は、通常ふくらはぎの筋力が低下しているときに観察される。また、つまずいた後にもう片方の足を素早く着く筋瞬発力の低下が懸念される歩容である。
(iii)P1<P2、P2<P3の場合、P1=P2、P2<P3の場合、又はP1<P2、P2=P3の場合:踵で踏み込む力は不十分であるが、つま先で蹴り出す力は十分である。この歩容は、通常すねの筋力が低下しているときに観察される。これは、転倒のきっかけとなるつまずき頻度の増加が懸念される歩容である。
(iv)P1<P2、P2>P3の場合又はP1=P2=P3の場合:踵で踏み込む力もつま先で蹴り出す力も不十分である。これは、つまずきの増加と、筋瞬発力の低下をともなうすり足の歩容であり、転倒が懸念される。
【0026】
本発明の評価方法では、左右の足のそれぞれについて圧力データを解析し、歩容を評価することができる。これにより、左右どちらの足の歩き方を改善すべきかが容易にわかる。
【0027】
本発明の方法による評価結果の表示方法としては、表示用媒体であるディスプレイ又は紙面に、足圧波形が上述の4つのタイプ(i)〜(iv)のいずれであるかを表示すると共に、図1A図1Dに示したような足圧波形を示すことが好ましい。これにより、解析結果を視覚的に容易に理解することができる。
【0028】
その場合、第2の区間の圧力の平均値P2に対する第1の区間の圧力の最大値P1の比率(%)、及び第2の区間の圧力の平均値P2に対する第3の区間の圧力の平均値P3の比率(%)を合わせて表示することが好ましい。
【0029】
さらに、解析された足圧波形が、4つのタイプ(i)〜(iv)のいずれであるかを示すために、評価結果と共に、図2に示す足裏の模式図1を表示することが好ましい。この足裏の模式図1は、踵の踏み込み力が十分な場合に、踵にマーク2を付し、つま先の蹴り出し力が十分な場合につま先にマーク2を付すものである。したがって、上述の(i)P1>P2、P2<P3の場合には、同図(i)の足裏画像を付し、(ii)P1>P2、P2>P3の場合、P1=P2、P2>P3の場合、又はP1>P2、P2=P3の場合には、同図(ii)の足裏画像を付し、(iii)P1<P2、P2<P3の場合、P1=P2、P2<P3の場合、又はP1<P2、P2=P3の場合には、同図(iii)の画像を付し、(iv)P1<P2、P2>P3の場合又はP1=P2=P3の場合には、同図(iV)の画像を付すことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の解析方法は、歩容に基づき、歩き方、生活改善、健康増進モチベーション向上等のアドバイスをする場合に有用である。
【符号の説明】
【0031】
1 足裏の模式図
2 マーク
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3