特許第6519989号(P6519989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6519989
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】インダクタ素子
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20190520BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20190520BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20190520BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   H01F17/04 F
   H01F41/04 B
   H01F27/255
   H01F27/24 J
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-113306(P2014-113306)
(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2015-228411(P2015-228411A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2017年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】杉本 聡
(72)【発明者】
【氏名】山下 保英
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 千緒美
(72)【発明者】
【氏名】小池 信太朗
【審査官】 鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−123376(JP,A)
【文献】 特開平11−121234(JP,A)
【文献】 特開2008−041879(JP,A)
【文献】 特開平08−069872(JP,A)
【文献】 特開2014−090158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/04
H01F 27/24
H01F 27/255
H01F 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル状に導体が巻回してある巻線部と、前記巻線部から引き出されたリード部とを有するコイルと、
バインダを含み、前記巻線部の内周面が押し当てられた外周面を有する柱状であって強磁性の巻芯体と、
前記巻線部及び前記巻芯体を覆っており、前記バインダ及び磁性粉体を含む圧縮成形体である外側コア部と、を有し、
前記巻芯体の前記外周面には、前記巻線部の前記内周面の形状に沿う凹凸が形成されており、
前記凹凸の内部では、前記巻芯体と前記巻線部とが結合されているインダクタ素子。
【請求項2】
前記巻芯体は、バインダ及び前記外側コア部に含まれる磁性粉体とは異なる磁性粉体を含む圧縮成形体である請求項1に記載のインダクタ素子。
【請求項3】
前記巻線部は、軸方向に関して、前記巻芯体における前記軸方向一端面から他端面までの間に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のインダクタ素子。
【請求項4】
前記巻芯体は磁性粉体を含む圧縮成形体であり、
前記巻芯体における磁性粉体の密度は4.5〜7.0g/cmであり、前記外側コア部における磁性粉体の密度は4.0〜6.5g/cmであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のインダクタ素子。
【請求項5】
前記巻線部には、前記導体がコイル状に多層で巻回されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインダクタ素子。
【請求項6】
前記導体の外周は絶縁被覆層で被覆されており、
前記巻芯体に含まれるバインダと前記絶縁被覆層とが結合されることにより、前記巻芯体と前記巻線部とが結合される請求項1〜5のいずれかに記載のインダクタ素子。
【請求項7】
硬化前の巻芯体を準備する工程と、
導体を前記硬化前の巻芯体の外周面に押し当てながらコイル状に巻回して巻線部を形成する工程と、
金型内に前記巻線部及び前記硬化前の巻芯体を配置し、これを磁性紛体及びバインダで構成された顆粒で覆い、加圧成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を硬化させ、前記巻芯体の外周面に凹凸を形成するとともに、前記凹凸の内部で、前記巻芯体と前記巻線部とを結合させる工程と、を含むインダクタ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粉体の内部にコイルを埋設したインダクタ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ素子として、たとえばパソコンや携帯型電子機器などに搭載されるDC/DCコンバータ等の回路素子として使用される表面実装タイプのインダクタ素子が知られている。
【0003】
従来のインダクタ素子は、例えば、バインダである熱硬化性樹脂と粉末状の磁性体である磁性粉体とを含む粉体を、空芯コイルを内蔵した状態で加圧成形することにより得られる(特許文献1等参照)。また、他のインダクタ素子として、空芯コイルの内部に、周辺部より透磁率の大きい磁性体を配置し、高インダクタンス特性を狙う技術も提案されている(特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−10425号公報
【特許文献1】特開2003−168610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、磁性粉体内にコイルを内蔵するインダクタ素子の製造方法では、加圧成形時に金型内の磁性粉体を均一に加圧することが難しい。そのため、従来のインダクタ素子は、特に空芯コイルの内側部分にクラックを生じ、特性劣化を引き起こす問題がある。また、加圧成形時における磁性粉体の流動等の影響により、金型内部のコイルの巻形状が乱れる巻乱れを発生し、特性劣化を引き起こす問題も報告されている。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、クラックや巻乱れが少ないインダクタ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るインダクタ素子は、
コイル状に導体が巻回してある巻線部と、前記巻線部から引き出されたリード部とを有するコイルと、
前記巻線部の内周面が押し当てられた外周面を有する柱状であって強磁性の巻芯体と、
前記巻線部及び前記巻芯体を覆っており、バインダ及び磁性粉体を含む圧縮成形体である外側コア部と、を有する。
【0008】
本発明に係るインダクタ素子は、空芯コイルを用いるのではなく、強磁性の巻芯体及びこれに巻回された巻線部が、外側コア部に内蔵されている。したがって、外側コア部を加圧成形する際に、巻線部等によりその内側部分への圧力伝達が阻害されるとしても、この部分に巻芯体が存在するため、巻線部の内側部分でのクラック発生を防止できる。さらに、巻線部が巻回されている巻芯体は、外側コア部の加圧成形時における変形又は流動が少なく、また、巻線部の内周面は巻芯体の外周面に接触しているため、加圧成形時における巻線形状の乱れが防止され、巻乱れの少ないインダクタ素子を実現できる。
【0009】
本発明に係るインダクタ素子において、前記巻芯体の前記外周面には、前記巻線部の前記内周面の形状に沿う凹凸が形成されていても良い。
【0010】
巻芯体の外周面に形成された凹凸は、巻線部の内周面と巻芯体の外周面との密着度を高め、さらに、巻芯体と巻線部との結合を補強する。
【0011】
また、例えば、前記巻芯体は、バインダ及び前記外側コア部に含まれる磁性粉体とは異なる磁性粉体を含む圧縮成形体であっても良い。
【0012】
巻芯体と外側コア部とを、互いに異なる磁性粉体を含む圧縮成形体とすることにより、直流重畳特性や耐酸化性などの特性を向上させることが可能である。また、巻芯体を外側コア部と同様に圧縮成形体とすることにより、巻芯体と外側コア部との間に隙間やクラックが形成される問題を防止できる。
【0013】
また、例えば、前記巻線部は、軸方向に関して、前記巻芯体における前記軸方向一端面から他端面までの間に配置されていても良い。
【0014】
巻線部が巻芯体の軸方向一端面から他端面の間に配置されていることにより、巻線部の全体について、外側コア部の加圧成形時における形状の乱れが防止され、より巻乱れの少ないインダクタ素子を実現できる。
【0015】
また、例えば、前記巻芯体は磁性粉体を含む圧縮成形体であり、
前記巻芯体における磁性粉体の密度は4.5〜7.0g/cmであり、前記外側コア部における磁性粉体の密度は4.0〜6.5g/cmであっても良い。
【0016】
巻芯体及び外側コア部における磁性粉体の密度を上記の範囲とすることにより、クラックが少なく、電気・磁気的な特性も良好なインダクタ素子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は本発明の一実施形態に係るインダクタ素子の全体斜視図である。
図2図2図1に示すII−II線に沿う概略断面図である。
図3図3図2の部分拡大図である。
図4図4は本発明のインダクタ素子の製造過程を示すフローチャートである。
図5図5は本発明のインダクタ素子の製造過程を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1および図2に示すように、本発明の一実施形態におけるインダクタ素子10は、磁性体粉を含む圧縮成形体である外側コア部40と、外側コア部40に内蔵された巻芯体30と、同じく外側コアに内蔵された巻線部22を有するコイル20と、外側コア部40に取り付けられており、コイル20のリード部24の端部が接続される端子電極50とを有する。
【0019】
本実施形態では、外側コア部40の下面は、相互に垂直なX軸およびY軸を通る平面と略平行に形成してあり、巻線部22の巻軸が、X軸およびY軸を通る平面と垂直なZ軸に対して略平行になっている。本実施形態では、外側コア部40の上面は、その下面に対して略平行であり、外側コア部40の側面は、これらの上面および下面に対して略垂直となっている。ただし、外側コア部40及びインダクタ素子10の外形状は特に限定されず、六面体、円柱形、楕円柱及び多角柱などが例示されるが、実装スペースなどを考慮して任意の形状とすることができる。
【0020】
本実施形態のインダクタ素子10のサイズは、特に限定されないが、たとえばX軸方向幅が1.0〜20mm、Y軸方向幅が1.0〜20mm、高さ1.0〜10mmである。
【0021】
このインダクタ素子10は、表面実装可能であり、たとえばパソコンや携帯型電子機器などに搭載されるDC/DCコンバータ等の回路素子などとして用いることができる。
【0022】
図2及び図3に示すように、コイル20の巻線部22は、巻芯体30の外周面32に、導体20aがコイル状に巻回してある。リード部24は、巻線部22から引き出された導体20aで構成してある。導体20aは、たとえば、導線と、必要に応じて導線の外周を被覆してある絶縁被覆層とで構成してある。
【0023】
図2に示すように、巻線部22は、1本以上の導体20aがコイル状に巻回してある部分であり、巻線部22からは導体20aの両端である少なくとも一対のリード部24が、外側コア部40の外部に引き出される。図示する実施形態では、巻線部22からは、X軸方向に沿って一対のリード部24が引き出され、外側コア部40の外部に位置するリード部24の先端が外側コア部40の外面に沿って折り曲げられ、一対の端子電極50に、溶接または導電性接着剤の手段でそれぞれ接続してある。各端子電極50は、本実施形態では、コの字状の断面形状を有する導電性板材で構成してあり、外側コア部40の上面、側面および下面に密着して接合してある。
【0024】
導線は、たとえばCu、Al、Fe、Ag、Au、リン青銅などで構成してある。絶縁被覆層は、たとえばポリウレタン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエステル−イミド、ポリエステル−ナイロンなどで構成してある。導体20aの横断面形状は、特に限定されず、円形、平角形状などが例示される。
【0025】
図2に示すように、巻線部22の内側には巻芯体30が配置されている。巻芯体30は、外側コア部40とは別体に成形されたものであって、巻線部22の内周面22aが押し当てられた外周面32を有しており、外形状は円柱状である。ただし、巻芯体30の外形状は、導体20aを巻回して巻線部22を形成可能な柱状であれば特に限定されず、楕円柱状、多角柱状等、その他の形状であっても良い。また、巻芯体の角部のワレ、カケを低減する目的で巻芯体にC面を設けても良い。
【0026】
図3に示すように、巻芯体30の外周面32には、巻線部22の内周面22aの形状に沿う凹凸32aが形成されている。凹凸32aの高さ(最も中心軸に近い凹部の底から、最も中心軸から離れた凸部の頂点までの径方向長さ)は、特に限定されないが、導体20aの直径の1/10〜1/2程度である。巻線部22の内周面22aに沿う凹凸32aが形成されているため、巻芯体30の外周面32が巻線部22の内周面22aに食い込む状態となっており、巻線部22と巻芯体30の密着性及び結合性が向上する。
【0027】
図2に示すように、巻線部22は、巻線部22の巻軸方向(Z軸方向)に関して、巻芯体30における巻軸方向(Z軸方向)上端面34aから下端面34bまでの間に配置されていることが好ましい。図示する実施形態とは異なり、上端面34aより上方又は下端面34bより下方に巻線部22の一部が存在する場合、当該部分については、巻芯体30が導体20aを径方向に支持することが難しい。それに対して、図2に示す実施形態のように、上端面34aから下端面34bまでの間に巻線部22を配置することにより、巻芯体30は、巻線部22の全体に対して、巻芯として機能する。
【0028】
巻芯体30の磁気特性は強磁性であり、特に磁心材料として好適な軟磁性体であることが好ましい。実施形態の巻芯体30は、バインダ及び磁性粉体を含む圧縮成形体であり、磁性粉体としては、特に限定されないが、純鉄(Fe)、Mn−Zn系フェライトやNi−Cu−Zn系フェライトなどのフェライト、センダスト(Fe−Si−Al系合金)、Fe−Si−Cr系合金、パーマロイ(Fe−Ni系合金)などが例示される。バインダとしては、特に限定されないが、たとえばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコン樹脂、これらを組み合わせたものなどが例示される。なお、例示する各材料には、要求特性を満足する範囲内で不純物が含まれる場合がある。
【0029】
図1及び図2に示すように、外側コア部40は、コイル20の巻線部22及び巻芯体30を覆っている。外側コア部40の上面及び下面には、両端部に端子電極50が係合する電極用凹部が形成されている。
【0030】
外側コア部40は、バインダ及び磁性粉体を含む圧縮成形体であり、磁性粉体としては、特に限定されないが、Mn−Zn系やNi−Cu−Zn系などのフェライト、センダスト(Fe−Si−Al系合金)、Fe−Si−Cr系合金、パーマロイ(Fe−Ni系合金)などが例示される。バインダとしては、特に限定されないが、たとえばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコン樹脂、これらを組み合わせたものなどが例示される。外側コア部40の磁気特性は、巻芯体30と同様に強磁性であり、磁心材料として好適な軟磁性体であることが好ましい。
【0031】
巻芯体30に含まれる磁性粉体と、外側コア部40に含まれる磁性粉体は、同じであっても良いが、異なっていても良い。巻芯体30が、外側コア部40に含まれる磁性粉体とは異なる磁性粉体を含むことにより、巻芯体30と外側コア部40の特性を調整し、インダクタ素子10の性能を改善できる。例えば、巻芯体30に含まれる磁性粉体を純鉄とし、外側コア部40に含まれる磁性粉体としてFe及びSiを含む合金を用いることにより、インダクタ素子10のコアロスを低減し、直流重畳特性を向上させるとともに、耐酸化性を向上させることができる。
【0032】
また、巻芯体30及び外側コア部40における磁性粉体の密度は特に限定されないが、例えば、巻芯体30における磁性粉体の密度が4.5〜7.0g/cmであり、外側コア部40における磁性粉体の密度が4.0〜6.5g/cmであることが好ましい。巻芯体30及び外側コア部40における磁性粉体の密度を所定の範囲に調整することにより、インダクタ素子10におけるクラックの発生を防止し、初透磁率を高め、直流重畳特性を向上させることが可能である。
【0033】
次に、図1図3に示すインダクタ素子10の製造方法について、図4および図5に基づき説明する。
図4は、インダクタ素子10の製造方法の一例を表すフローチャートであり、図5(a)〜図5(e)は、フローチャートが示す製造方法を表す概念図である。ステップS01では、導体20aを巻くための巻芯体を準備する。図5(a)は、ステップS01で準備される巻芯体である硬化前の巻芯体130の断面を表している。硬化前の巻芯体130は、例えば磁性粉体およびバインダで構成される顆粒を加圧成形して得られる。
【0034】
巻芯体130の加圧成形(ステップS01)で用いる顆粒に含まれる磁性粉体は、金属磁性粒子(好ましくはFe粒子)であり、その粒子外周は、絶縁被膜してあることが好ましい。絶縁被膜としては、金属酸化物被膜、樹脂被膜などが例示される。磁性粉体の粒径は、好ましくは0.5〜50μmである。硬化前の巻芯体130を形成する際の加圧力は、好ましくは5.6ton/cm(5.5×10MPa)以下である。
【0035】
磁性粉体に対するバインダの含有割合は、磁性粉体100重量部に対して、バインダが2.0〜5.0重量部程度が好ましい。また、顆粒には、磁性粉体およびバインダ以外に、溶剤、可塑剤、滑材、酸化防止剤、難燃剤、熱安定剤などが含まれていても良い。
【0036】
ステップS02では、硬化前の巻芯体130に対して導体20aを巻回し、巻線部22及びリード部24を有するコイル20を形成する(図5(b))。導体20aの巻回は、例えば巻芯体130の外周面に導体20aを押し当てながら開始され、巻線部22の内周面22aを形成した後、必要に応じて外周側に重ねて導体20aを巻き付けることにより進行する。なお、実施形態のステップS02でコイル20が形成された時点では、巻芯体130の外周面は平坦であり、図3に示すような凹凸32aは形成されていない。
【0037】
図5(c)は、ステップS03の状態における金型160の概略断面図である。図5(c)〜図5(e)に示すように、本実施形態の金型160は、巻軸方向であるZ軸方向の上下に相対移動自在可能な下側パンチ162と上側パンチ164とを有する。下側パンチ162、上側パンチ164及び外枠を組み合わせることにより、キャビティが形成される。
【0038】
ステップS03では、外側コア部40を形成する顆粒142の第1充填を行う。顆粒142の第1充填では、図5(c)に示すように、最終的にキャビティの内部に充填すべき顆粒の全量の一部を充填する。その後、ステップS04では、硬化前の巻芯体130及び巻芯体130に巻回された巻線部22を有するコイル20を、キャビティの内部に設置する。
【0039】
図5(d)は、ステップS05の状態における金型160の概略断面図である。ステップS05では、外側コア部40を形成する顆粒142の第2充填を行う。顆粒142の第二充填では、図5(d)に示すように、キャビティの内部に充填すべき顆粒の全量のうちの残りを充填する。
【0040】
第1充填(ステップS03)及び第2充填(ステップS05)で用いる顆粒142は、相互に同じ磁性粉体およびバインダで構成してあり、磁性粉体の種類、粒径、構造および含有割合が同じであり、バインダの種類および含有割合も同じである。顆粒142に含まれる磁性粉体は、金属磁性粒子(好ましくはFe及びSiを含む合金の粒子)であり、その粒子外周は、絶縁被膜してあることが好ましい。絶縁被膜としては、金属酸化物被膜、樹脂被膜などが例示される。磁性粉体の粒径は、好ましくは0.5〜50μmである。
【0041】
磁性粉体に対するバインダの含有割合は、ステップS01で用いる顆粒と同様に、磁性粉体100重量部に対して、バインダが2.0〜5.0重量部程度が好ましい。また、顆粒142には、磁性粉体およびバインダ以外に、溶剤、可塑剤、滑材、酸化防止剤、難燃剤、熱安定剤などが含まれていても良い。ただし、巻芯体130に用いる顆粒に含まれる磁性粉体は、外側コア部40を形成する顆粒142に含まれる磁性粉体とは異なることが好ましい。例えば、巻芯体130に含まれる磁性粉体を純鉄の粉体とし、外側コア部40に含まれる磁性粉体をFe−Si−Cr系合金の粉体とすることができる。
【0042】
図4に示すステップS06では、金型160による加圧成形を実施する。図5(e)に示すように、上下のパンチ162、164を相互に近接する方向に移動させ、キャビティの内部を加圧する。この場合の加圧力は、好ましくは4.0ton/cm(3.92×10MPa)以下である。
【0043】
ステップS06の加圧により、顆粒142は、流動及び圧縮され、外側コア部40の形状に成形される。また、巻芯体130についても、この段階では完全に硬化していないため、ステップS06の加圧により変形及び構成粒子の流動を生じる場合があり、これにより巻芯体130の外周面に、硬化後に凹凸32aとなる凹凸形状が形成される。ただし、硬化前の巻芯体130は事前に加圧成形されているため、巻芯体130で生じる流動は、外側コア部40を形成する顆粒142の流動と比較して小さい。
【0044】
図4に示すステップS07では、ステップS06で形成された成形体を金型160から取り出し、熱処理を実施する。ステップS07での熱処理により、巻芯体130及び顆粒142に含まれるバインダが硬化し、図4に示す巻芯体30及び外側コア部40が形成される。
【0045】
その後、ステップS08では、図1及び図2に示す端子電極50の外側コア部40への取り付け及びリード部24の端子電極50への接続を行うことにより、図1図3に示すインダクタ素子10を得る。リード部24と端子電極50との接続は、溶接、導電性接着剤による接着、はんだ付け等により行うことができるが、導通が確保できる接続方法であれば特に限定されない。
【0046】
上述したインダクタ素子10は、別途加圧成形された硬化前の巻芯体130を用いてコイル20を形成し、これをキャビティ内に配置してインサート成形するため、外側コア部40相当部分の加圧成形時(ステップS007)に生じる巻芯体130の圧縮量が小さく、巻線部22の内側部分が加圧不足となる問題も解消される。したがって、巻線部22の内側部分でのクラック発生を防止でき、さらに巻線部22の内周面22aが、変形の少ない巻芯体30の外周面32に支持されるため、加圧成形時における巻線形状の乱れが防止され、巻乱れの少ないインダクタ素子10を実現できる。また、硬化前の巻芯体130を用いてコイル20の形成を行い、巻芯体30に含まれるバインダの硬化を、外側コア部40に含まれるバインダの硬化と同時に行うことにより、巻芯体30と外側コア部40の界面でのクラック発生を防止できる。
【0047】
またインダクタ素子10は、コアの内部に存在するコイル状の導体20aに過度な加圧力が印加されず、コイル状の導体20aが潰されるおそれが少なく、したがって、コイル状の導体20aにおける絶縁被覆破壊が発生するおそれが少なく、ショート不良が発生し難い。さらに、巻芯体30の外周面32に形成された凹凸32aは、巻線部22の内周面22aと巻芯体30の外周面32との密着度を高め、巻芯体30と巻線部22との結合を補強する。
【0048】
さらに、本実施形態の方法により得られたインダクタ素子10では、巻芯体30及び外側コア部40の磁性粉体の密度を所定の範囲とすることにより、初透磁率や直流重畳特性を向上させることができる。巻芯体30と外側コア部40における磁性粉体の密度は、含まれる磁性粉体の粒径を巻芯体30と外側コア部40とで異ならせたり、硬化前の巻芯体130を成形する際(ステップS01)の圧力とインサート成形時(ステップS06)の圧力とを異ならせることにより、適切な範囲内とすることができる。
【0049】
上述した製造方法では、キャビティ内部に充填すべき顆粒142の全量の一部を、キャビティ内に充填した後、金型160の内部に、インサート部材としての巻芯体130及びこれに巻回されたコイル20を配置し、その後に、キャビティ内を顆粒142で満たす。このような順序で顆粒142をキャビティ内に充填することで、スペーサなどを用いること無く、巻線部22及び巻芯体130を有するインサート部材をキャビティ内に配置しやすくなり、製造コストの低減に寄与する。
【0050】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
たとえば、上述した実施形態では、金型160の下側パンチ162及び上側パンチ164をZ軸方向に沿って鉛直方向の上下に配置したが、Z軸方向に沿って水平方向、あるいは鉛直と水平との間の角度方向に配置しても良い。
【0051】
また、硬化前の巻芯体130は、加圧成形後であってコイル20が形成される前に、乾燥又は予備的熱処理が施されることにより、巻芯体130に含まれる顆粒の流動性が調整されていても良い。ただし、コイル20形成前における硬化前の巻芯体130に対する熱処理温度(第1の温度)は、巻芯体130に含まれるバインダを完全に硬化させない温度であることが好ましく、例えば、外側コア部40形成の際(ステップS07)における熱処理温度(第2の温度)より低温であることが好ましい。
【0052】
また、巻芯体は、コイル形成時に既に硬化されていても良く、また、圧縮成形体以外の鋳造や加工により形成されても良い。
【符号の説明】
【0053】
10… インダクタ素子
20… コイル
20a… 導体
22… 巻線部
24… リード部
30… 巻芯体
32… 外周面
32a… 凹凸
図1
図2
図3
図4
図5