特許第6519996号(P6519996)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6519996シアン化合物の分解促進剤、及びそれを用いた分解促進方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6519996
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】シアン化合物の分解促進剤、及びそれを用いた分解促進方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/00 20060101AFI20190520BHJP
   A62D 3/02 20070101ALI20190520BHJP
   B09C 1/10 20060101ALI20190520BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20190520BHJP
   A62D 101/45 20070101ALN20190520BHJP
【FI】
   C02F3/00 DZAB
   A62D3/02
   B09B3/00 E
   C09K3/00 S
   A62D101:45
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-135637(P2014-135637)
(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公開番号】特開2016-13506(P2016-13506A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大島 義徳
(72)【発明者】
【氏名】西川 直仁
(72)【発明者】
【氏名】石川 洋二
(72)【発明者】
【氏名】西田 憲司
【審査官】 松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−235796(JP,A)
【文献】 特開平10−324861(JP,A)
【文献】 特表2002−513324(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/054368(WO,A1)
【文献】 特表2005−512770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00
A62D 3/02
B09C 1/10
C09K 3/00
A62D 101/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化合物を含んだ汚染地下水又は汚染土壌に添加され、前記シアン化合物の分解微生物を活性化することで、前記シアン化合物の分解を促進させる分解促進剤であって、
リチル酸及び/又はサリチル酸塩を含有することを特徴とするシアン化合物の分解促進剤。
【請求項2】
シアン化合物を含んだ汚染地下水又は汚染土壌に添加され、前記シアン化合物の分解微生物を活性化することで、前記シアン化合物の分解を促進させる分解促進剤であって、
−アミノサリチル酸を含有することを特徴とするシアン化合物の分解促進剤。
【請求項3】
分解性有機物をさらに含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のシアン化合物の分解促進剤。
【請求項4】
シアン化合物を含んだ汚染地下水又は汚染土壌に分解促進剤を添加することで前記シアン化合物の分解微生物を活性化し、前記シアン化合物の分解を促進させる分解促進方法であって、
前記分解促進剤は、サリチル酸及び/又はサリチル酸塩を含有することを特徴とするシアン化合物の分解促進方法。
【請求項5】
シアン化合物を含んだ汚染地下水又は汚染土壌に分解促進剤を添加することで前記シアン化合物の分解微生物を活性化し、前記シアン化合物の分解を促進させる分解促進方法であって、
前記分解促進剤は、5−アミノサリチル酸を含有することを特徴とするシアン化合物の分解促進方法。
【請求項6】
分解性有機物をさらに含有することを特徴とする請求項4又は5に記載のシアン化合物の分解促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン化合物の分解促進剤、及びそれを用いた分解促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン化合物(シアノ錯体,遊離シアン)で汚染された地下水や土壌を浄化する安価な方法として、シアン化合物を分解する分解微生物を活性化する方法が知られている。例えば、窒素を含まない易分解性炭化水素を汚染水や汚染土壌に添加し、窒素不足の環境下で分解微生物を活性化する方法が知られている。窒素不足の環境下で活性化された分解微生物は、シアン化合物から窒素分を取り込むべく、このシアン化合物を分解して吸収する。
【0003】
シアン化合物の分解微生物による分解期間を短縮化するため、EDTA、クエン酸、及びグルコン酸といったキレート剤の添加が有効という知見がある。例えば、特許文献1に記載されたシアン化合物の無害化剤は、ペプトンやグルコン酸等の浄化剤と、EDTAと、硫化物とを含んでいる。また、特許文献2に記載された浄化方法は、シアン化合物を含有する土壌に、シアン化合物を分解する能力を有する微生物、及び生分解性キレート剤(クエン酸、グルコン酸等)を添加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−235796号公報
【特許文献2】国際公開第09/054368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
キレート剤の添加により、分解微生物によるシアン化合物の分解時間を短縮できる。しかしながら、汚染地下水や汚染土壌の浄化に際しては、分解時間をできる限り短くして、短期間で浄化を完了させることが望ましい。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シアン化合物の分解時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の目的を達成するため、本発明は、シアン化合物の分解を促進させる分解促進剤として、サリチル酸及び/又はサリチル酸塩を含有するものを用いることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、シアン化合物の分解を促進させる分解促進剤として、5−アミノサリチル酸を含有するものを用いることを特徴とする。
【0009】
なお、これらの発明において、易分解性有機物を併用することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シアン化合物で汚染された地下水や土壌を、シアン化合物の分解微生物を活性化することで分解するに際し、分解時間の短縮化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1試験における試験体の作成条件を説明する図である。
図2】第1試験における全シアン濃度の経時変化と近似曲線を説明する図である。
図3】第1試験における試験ケース毎の分解速度定数を説明する図である。
図4】第2試験における試験体の作成条件を説明する図である。
図5】第2試験における全シアン濃度の経時変化を説明する折れ線グラフである。
図6】第2試験における全シアン濃度の経時変化と近似曲線を説明する図である。
図7】第2試験における試験ケース毎の分解速度定数を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態では、シアン化合物を含有する地下水を採取して試験に供した。この供試地下水は、全シアン濃度が約0.5mg/Lであり、遊離シアン濃度が0.01mg/L未満であった。
【0013】
なお、この供試地下水に関し、遊離シアンについては、分解微生物によって速やかに分解されることを事前に確認している。例えば、易分解炭化水素としてグルコン酸を添加した場合には、試験用に添加した濃度3mg/L程度の遊離シアンが、グルコン酸の添加から2〜3日で検出限界未満まで低下されることを確認している。
【0014】
試験は、第1試験と第2試験の2種類を行った。第1試験では、図1に示すように、分解微生物の栄養物質としてグルコン酸ナトリウムとリン酸の組を用い、さらに実施例の添加剤としてサリチル酸カルシウム(SA)と5−アミノサリチル酸(5AS)をそれぞれ用い、採取した地下水に対するシアン化合物の分解試験を行った。第2試験では、図4に示すように、分解微生物の栄養塩としてグルコン酸ナトリウムとリン酸の組を用い、さらに実施例の添加剤として5−アミノサリチル酸を用いると共に、比較例の添加剤としてEDTAとフェニルアラニンをそれぞれ用い、採取した地下水に対するシアン化合物の分解試験を行った。そして、栄養物質と添加剤の組が、シアン化合物の分解を促進させる分解促進剤に相当する。
【0015】
ここで、各試験で用いたグルコン酸ナトリウムは、易分解性有機物の一種である。このグルコン酸ナトリウムは、地下水に生息するシアン化合物の分解微生物に吸収されて、この分解微生物を活性化する。同様に、リン酸は、リン源として分解微生物に吸収される。これらのグルコン酸ナトリウムとリン酸の組を分解微生物に与えると、分解微生物は窒素不足の環境下で活性化され、シアン化合物から窒素分を取り込むべく、このシアン化合物を分解して吸収する。
【0016】
第1試験の添加剤として用いたサリチル酸カルシウム、及び、各試験の添加剤として用いた5−アミノサリチル酸は、本発明に係る分解促進剤の主成分である。また、第2試験において比較例の添加剤として用いたEDTAは、生分解性が低いキレート剤である。同じくフェニルアラニンは、芳香族を持つアミノ酸である。
【0017】
以下、第1試験について詳細に説明する。この第1試験では、代表的なシアン化合物(金属シアノ錯体)であるフェロシアン([Fe(CN)64-)を前述の地下水に加え、添加剤としてのサリチル酸カルシウム、及び5−アミノサリチル酸の分解促進効果を確認した。図1に第1試験における試験体作成条件を示す。この第1試験では、ケースNo1〜4までの4種類の試験体を作成し、全シアン濃度の経時変化を測定した。No1〜4の各試験ケースにおいて、供試地下水とフェロシアンを培養ビンに注入した。培養ビンは、容積が170mLの耐圧ビンを用いた。供試地下水は50mLを注入し、フェロシアンはシアンとして3mg/Lの濃度となるように注入した。そして、ケース毎に定めた栄養物質と添加剤を添加した後に純水を加え、液量を80mLに調整した。
【0018】
ケースNo1は、第1対照区の試験体である。この第1対照区では、栄養物質としてリン酸のみを添加し、添加剤は添加していない。そして、リン酸に関しては、リン酸イオン(PO43-)の濃度が5mg/Lとなるように添加した。このケースNo1に関し、炭化水素源であるグルコン酸ナトリウムが添加されていないことから、便宜上、図1では、栄養無添加と記載している。
【0019】
ケースNo2は、第2対照区の試験体である。この第2対照区では、栄養物質としてグルコン酸ナトリウムとリン酸を添加し、添加剤は添加していない。そして、グルコン酸ナトリウムについては、その濃度が250mg/Lとなるように添加した。また、リン酸については、リン酸イオン(PO43-)の濃度が5mg/Lとなるように添加した。このケースNo2に関し、添加剤が添加されていないことから、便宜上、図1では、グルコン酸のみと記載している。
【0020】
ケースNo3は、添加剤としてサリチル酸カルシウムを用いた試験体である。すなわち、サリチル酸カルシウムを、その濃度が0.5mmol/Lとなるように添加した。ケースNo4は、添加剤として5−アミノサリチル酸を用いた試験体である。すなわち、5−アミノサリチル酸を、その濃度が0.5mmol/Lとなるように添加した。なお、これらのケースNo3,4において、栄養物質についてはケース2と同条件で添加した。すなわち、グルコン酸ナトリウムについては、その濃度が250mg/Lとなるように、リン酸については、リン酸イオン(PO43-)の濃度が5mg/Lとなるようにそれぞれ添加した。
【0021】
各試験ケースの培養ビンには2本のシリンジ針を刺して通気性を確保した。この状態で温度を35℃に保ち、供試地下水に生息している分解微生物の振とう培養を行った。そして、試験体作成時(0日目)、5日目、12日目、28日目、及び41日目のそれぞれにおいて、全シアン濃度の測定を行った。なお、全シアン濃度の測定には、全シアン測定器(株式会社共立化学研究所、型式WA−CNT)を用いた。
【0022】
図2は、各試験ケースにおける全シアン濃度の経時変化を説明する図である。また、分解微生物の増殖に伴って全シアン濃度が指数関数的に減少すると仮定し、全シアン濃度を次式(1)で表して近似曲線を描いた。
【0023】
C=C0×e-kt・・・(1)
【0024】
この式(1)において、C:その経過日数における全シアン濃度(mg/L),C0:全シアンの初期濃度(mg/L),k:分解速度定数(d-1),t:経過時間(d)である。
【0025】
なお、全シアンの測定において5−アミノサリチル酸は、窒素を含有していることからシアンとしてカウントされてしまう。このため、ケースNo4では、0日目と5日目の全シアン濃度が、他のケースの全シアン濃度よりも高くなっている。ここで、5−アミノサリチル酸は易分解性であり、2週間前後で検出されなくなることから、ケースNo4における近似曲線の設定に際しては、初期濃度がケースNo1(対照区1)と同等であったと仮定した。また、0日目と5日目の全シアン濃度については、考慮しなかった。
【0026】
図2には、各試験ケースの近似曲線と近似式を記載した。また、図3には、近似式から得た分解速度係数を記載した。この分解速度係数に関しては、値が大きいほどシアン化合物(シアノ錯体)の分解速度が大きいことを示している。
【0027】
ケースNo1(対照区1)における分解速度定数は0.0004であり、ケースNo2(対照区2)における分解速度定数は0であった。近似に伴うばらつきも考慮すると、これらのケースNo1,2では、シアン化合物(シアノ錯体、遊離シアン)はほぼ分解されていないといえる。なお、ケースNo2では、グルコン酸ナトリウムが添加されているため、地下水に含まれている遊離シアンは分解されたと解される。しかし、新たに添加されたフェロシアンの量が、地下水に含まれている遊離シアンの量よりも十分に多いことから、全シアンの測定値に影響を及ぼさなかったと解される。
【0028】
ケースNo3(SA添加区)における分解速度定数は0.008であり、ケースNo4(5AS添加区)における分解速度定数は0.003であった。ケースNo1における分解速度定数が0.0004であったことを考慮すると、ケースNo3ではケースNo1の20倍、ケースNo4ではケースNo1の7.5倍、シアン化合物の分解速度が向上することが判る。
【0029】
以下、第2試験について詳細に説明する。この第2試験でも、代表的なシアン化合物であるフェロシアンを用いた。そして、実施例の添加剤として5−アミノサリチル酸を用い、比較例の添加剤としてEDTAとフェニルアラニンを用いた。そして、添加剤の種類によるシアン化合物の分解促進効果を確認した。
【0030】
図4に第2試験における試験体作成条件を示す。この第2試験では、ケースNo5〜9までの5種類の試験体を作成し、全シアン濃度の経時変化を測定した。No5〜9の各試験ケースにおいて、培養ビンは、容積が170mLの耐圧ビンを用いた。フェロシアンはシアンとして3mg/Lの濃度となるように注入した。栄養物質は、グルコン酸ナトリウムとリン酸を用いた。グルコン酸ナトリウムは50mg/Lの濃度となるように注入した。リン酸は、リン酸イオンの濃度が5mg/Lとなるように添加した。そして、ケース毎に定めた量の地下水及び添加剤を後に純水をさらに加え、液量を80mLに調整した。
【0031】
ケースNo5は、第1対照区の試験体である。この第1対照区では、純水にフェロシアン、グルコン酸ナトリウム、及びリン酸を添加したものである。このケースNo5に関し、地下水を用いていないことから、便宜上、図4では地下水なしと記載している。
【0032】
ケースNo6は、第2対照区の試験体である。この第2対照区では、地下水を50mL用いると共に、この地下水にフェロシアン、グルコン酸ナトリウム、及びリン酸を添加したものである。分解微生物の活性化に寄与する物質が、主にグルコン酸ナトリウムであることから、便宜上、図4ではグルコン酸のみと記載している。
【0033】
ケースNo7は、添加剤として5−アミノサリチル酸(5AS)を用いた試験体であり、実施例の試験体である。すなわち、地下水を50mL用いると共に、この地下水にフェロシアン、グルコン酸ナトリウム、リン酸、及び5−アミノサリチル酸を添加したものである。このケースNo7において、5−アミノサリチル酸は、その濃度が0.5mmol/Lとなるように添加した。
【0034】
ケースNo8は、添加剤としてEDTAを用いた試験体であり、比較例の試験体である。すなわち、地下水を50mL用いると共に、この地下水にフェロシアン、グルコン酸ナトリウム、リン酸、及びEDTAを添加したものである。このケースNo8において、EDTAは、その濃度が0.5mmol/Lとなるように添加した。
【0035】
ケースNo9は、添加剤としてフェニルアラニン(Phe)を用いた試験体であり、比較例の試験体である。すなわち、地下水を20mL用いると共に、この地下水にフェロシアン、グルコン酸ナトリウム、リン酸、及びフェニルアラニンを添加したものである。このケースNo9において、フェニルアラニンは、その濃度が0.5mmol/Lとなるように添加した。
【0036】
この第2試験でも、各試験ケースの培養ビンには2本のシリンジ針を刺して通気性を確保した。この状態で温度を35℃に保ち、供試地下水に生息している分解微生物の振とう培養を行った。そして、試験体作成時(0日目)、9日目、15日目、22日目、及び30日目のそれぞれにおいて、全シアン濃度の測定を行った。なお、全シアン濃度の測定には、前述の全シアン測定器を用いた。
【0037】
図5は、各試験ケースにおける全シアン濃度の経時変化を示す折れ線グラフである。同図より、ケースNo5の試験体(対照区1)やケースNo6の試験体(対照区2)では、シアン化合物の分解速度が遅く、30日という試験期間における全シアン濃度は、3.5〜2.7mg/Lであった。特にケースNo5の試験体では、分解微生物が存在しないことから、3.5〜3.3mg/Lとほぼ横ばいであった。
【0038】
これに対し、実施例であるケースNo7の試験体(5AS)では、9日目以降の全シアン濃度が2.2〜1.7mg/Lと、ケースNo5,6の試験体における全シアン濃度よりも概ね1mg/L程度低くなった。また、比較例であるケースNo8の試験体(EDTA)やケースNo9の試験体(Phe)では、0日目の全シアン濃度が4.0mg/L程度であり、30日目の全シアン濃度が2.6mg/L程度であったことから、ケースNo7の試験体には及ばないが、全シアン濃度が緩やかに低下する傾向が確認された。
【0039】
ところで、0日目の全シアン濃度に関し、ケースNo7〜9の各試験体における数値は、ケースNo6の試験体における数値よりも高くなっている。これは、ケースNo7の添加剤である5−アミノサリチル酸、ケースNo8の添加剤であるEDTA、及びケースNo9の添加剤であるフェニルアラニンの何れもCN結合による窒素を含有しており、全シアンの測定において窒素が全シアン濃度を上昇させたと考えられる。
【0040】
各試験ケースにおける全シアンの分解速度を比較する場合、これらの添加物による影響をできるだけ抑制することが求められる。そこで、ケースNo7〜9の各試験体における全シアンの初期濃度を、ケースNo6の試験体における全シアンの初期濃度と同等と仮定し、ケースNo7〜9の各試験体における全シアン濃度を補正した。そして、ケースNo5〜9の各試験体について、図2と同様の手法で近似曲線を描き、分解速度定数を算出した。図6に、補正後の全シアン濃度、近似曲線、及び近似式を示す。また、図7に、算出した分解速度定数を示す。
【0041】
図6及び図7に示すように、対照区であるケースNo5,6の試験体と、比較例の添加剤を添加したケースNo8,9の試験体との間では、シアン化合物(フェロシアン)の分解に対する明確な促進効果が見られなかった。一方で、実施例の添加剤(5AS)を添加してケースNo7の試験体では、ケースNo6,8,9の試験体に比べ、シアン化合物の分解速度が3倍強にまで促進された。
【0042】
以上説明した各試験より、次のことがいえる。まず、ケースNo2,6の試験体による試験結果より、遊離シアンの分解を促進するグルコン酸のような栄養物質(易分解性有機物)を、シアン化合物の分解微生物に添加しただけでは、シアン化合物(フェロシアン)の分解はほとんど促進しないことが確認できた。
【0043】
次に、ケースNo3,4,7の試験体による試験結果より、栄養物質の他に、添加剤としてサリチル酸カルシウムや5−アミノサリチル酸を用いた場合には、フェロシアンに対する顕著な分解促進効果が得られることが確認できた。ケースNo8,9の試験体による試験結果との比較により、EDTAやフェニルアラニンを添加剤として用いるよりも、数倍高い速度で、鉄シアノ錯体を分解し得ることが確認できた。
【0044】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。
【0045】
前述の各試験では、栄養物質(グルコン酸ナトリウム,リン酸)と添加剤(サリチル酸カルシウム,5−アミノサリチル酸)とを含有する分解促進剤を例示した。ここで、栄養物質を分解微生物に添加しただけではシアン化合物の分解が殆ど促進されなかったことを考慮すると、栄養物質に関しては必要に応じて添加すればよいと考えられる。そして、栄養物質を添加剤と併用することで、相乗効果によりシアン化合物の速やかな分解が可能になる。また、本発明に係る添加剤の効果を阻害しない範囲において、他の成分が含有されていてもよい。要するに、分解促進剤の主成分としては、少なくとも添加剤が含まれていればよい。
【0046】
また、実施例の添加剤に関し、第1試験では、サリチル酸塩の一種であるサリチル酸カルシウムを用いた。ここで、サリチル酸カルシウムは、水溶液中で、サリチル酸イオンとカルシウムイオンとに電離される。そして、シアン化合物の分解微生物に対しては、サリチル酸イオンが有用であるといえる。このため、水溶液でサリチル酸イオンを生じる他のサリチル酸塩(例えばサリチル酸ナトリウム,サリチル酸カリウム)、あるいは、サリチル酸を添加剤として用いても、同様の作用効果を奏すると解される。さらに、これらは、単独で用いても混合して用いても同様の作用効果を奏すると解される。
【0047】
易分解性有機物に関し、グルコン酸ナトリウムを例示したがこれに限られない。グルコン酸であってもよいし、グルコン酸カリウムであってもよい。また、窒素を含まないグルコース等の糖類や低級アルコールであってもよい。要するに、易分解性有機物としては、窒素分を含有せず生分解性の高い有機物系の化合物であれば、好適に使用できる。
【0048】
前述の各試験では、リン分の供給源としてリン酸を添加したが、シアンの分解に着目すると、リン酸は必ずしも必要ではない。しかしながら、リン酸等のリン供給源を添加することにより、シアン化合物の分解微生物が活性化されるので、より好ましい。
【0049】
また、前述の各試験では汚染地下水を浄化対象に挙げたが、本発明は、汚染地下水に限らず汚染土壌についても同様に適用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7