(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に設けられている複数の玉と、前記複数の玉を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器と、を備え、前記外輪と前記内輪との間にオイルが軸方向一方側から流入し軸方向他方側から流出する玉軸受であって、
前記保持器は、オイル流入側に設けられている円環部と、前記円環部からオイル流出側へ延びている柱部とを有し、
前記円環部の外周端部は、当該円環部の軸方向外側の端面と当該円環部の外周面とが交差する角部から成り、
前記外輪は、内周側に、前記玉が転動する軌道面が形成されている環状本体部と、前記円環部の外周面と対向する位置に前記環状本体部から突出して設けられている突起部と、を有していて、
前記突起部の軸方向外側の側面の軸方向位置は、前記環状本体部の軸方向外側の側面の軸方向位置よりも軸方向内側にあり、
前記角部の先端の軸方向位置が、前記環状本体部の前記側面よりも軸方向内側でかつ前記突起部の前記側面の軸方向位置とほぼ等しいことを特徴とする玉軸受。
外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に設けられている複数の玉と、前記複数の玉を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器と、を備え、前記外輪と前記内輪との間にオイルが軸方向一方側から流入し軸方向他方側から流出する玉軸受であって、
前記保持器は、オイル流入側に設けられている円環部と、前記円環部からオイル流出側へ延びている柱部とを有し、
前記円環部の外周端部は、当該円環部の軸方向外側の端面と当該円環部の外周面とが交差する角部から成り、
前記外輪は、内周側に、前記玉が転動する軌道面が形成されている環状本体部と、前記円環部の外周面と対向する位置に前記環状本体部から突出して設けられている突起部と、を有していて、
前記突起部の軸方向外側の側面の軸方向位置は、前記環状本体部の軸方向外側の側面の軸方向位置よりも軸方向内側にあり、
前記角部の先端の軸方向位置が、前記突起部の前記側面の軸方向位置よりも軸方向外側に設けられていることを特徴とする玉軸受。
前記円環部の内周側でかつ軸方向外側の端部の軸方向位置は、前記内輪の側面と当該内輪の外周面との間に設けられた面取りの軸方向位置よりも軸方向内側に設けられている請求項1〜5のいずれか一項に記載の玉軸受。
外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に設けられている複数の玉と、前記複数の玉を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器と、を備え、前記外輪と前記内輪との間にオイルが軸方向一方側から流入し軸方向他方側から流出する玉軸受であって、
前記保持器は、オイル流入側に設けられている円環部と、前記円環部からオイル流出側へ延びている柱部とを有し、
前記円環部の軸方向外側の端面は、径方向外側に向かうにしたがって軸方向内側に傾斜する内側傾斜面を有していて、
前記円環部の内周側でかつ軸方向外側の端部は、当該円環部の内周面と前記内側傾斜面とが交差する角部から成り、当該角部の先端の軸方向位置は、前記内輪の側面と当該内輪の外周面との間に設けられた面取りの軸方向位置よりも軸方向内側に設けられていることを特徴とする玉軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図8に示す玉軸受99では、外輪98の内周面98aが、軸方向一方側から他方側に向かって拡径していることから、回転軸94と共に内輪97が回転すると、外輪98と内輪97との間をオイルが軸方向一方側から他方側に向かって流れる作用(ポンプ作用)が生じる。このような玉軸受99の回転に伴うポンプ作用により、軸受外部のオイルが、軸方向一方側から軸受内部に流入し、軸方向他方側から流出する。なお、
図8において、このオイルの流れを二点鎖線の矢印で示している。
【0006】
軸受内部を通過するオイルは玉軸受99に撹拌抵抗を生じさせることから、通過するオイルが多くなると撹拌抵抗も増大し、この結果、玉軸受99の回転トルクが増加し、回転性能を低下させる。
なお、前記のようなポンプ作用は、複列アンギュラ玉軸受以外に、単列のアンギュラ玉軸受においても発生し、更に、玉が内輪及び外輪にアンギュラ接触しなくても外輪の内周面や内輪の外周面の形状によって発生したり、保持器の回転によって発生したりすることもある。
【0007】
なお、特許文献1に記載の玉軸受では、オイル流入側に位置する保持器の環状部を大きくすることで、内輪と外輪との間に形成される隙間を狭くし、オイルの流入を抑制している。
【0008】
そこで、本発明は、他の技術的手段により、軸受内部へのオイルの流入を抑制することが可能となる玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に設けられている複数の玉と、前記複数の玉を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器と、を備え、前記外輪と前記内輪との間にオイルが軸方向一方側から流入し軸方向他方側から流出する玉軸受であって、前記保持器は、オイル流入側に設けられている円環部と、前記円環部からオイル流出側へ延びている柱部とを有し、前記円環部の外周端部は、当該円環部の軸方向外側の端面と当該円環部の外周面とが交差する角部から成り、前記角部の先端の軸方向位置が、前記外輪の側面の軸方向位置とほぼ等しい。
【0010】
本発明では、保持器が有するオイル流入側の円環部の外周端部は、この円環部の軸方向外側の端面と外周面とが交差する角部から成る。そして、玉軸受の回転に伴う遠心力により、オイルが円環部の軸方向外側の端面に沿って径方向外側に向けて流れ、角部を通過するときにその流れが剥離して、その角部の後ろ側(背面側)に低圧領域が生じる。
ここで、円環部の外周面と外輪の内周面との間の空間(外周隙間)には、オイル流路が形成されるが、本発明では、前記角部の先端の軸方向位置が、外輪の側面の軸方向位置とほぼ等しいので、前記低圧領域は、前記オイル流路の入り口部分(軸方向外側部分)に生じることになる。この結果、オイル流路の入り口部分(軸方向外側部分)から玉軸受の内部へ向かう方向には、オイルの流れが生じにくくなる。以上より、前記外周隙間を通じて玉軸受の内部へのオイルの流入を抑制することが可能となる。
【0011】
本発明は、外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に設けられている複数の玉と、前記複数の玉を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器と、を備え、前記外輪と前記内輪との間にオイルが軸方向一方側から流入し軸方向他方側から流出する玉軸受であって、前記保持器は、オイル流入側に設けられている円環部と、前記円環部からオイル流出側へ延びている柱部とを有し、前記円環部の外周端部は、当該円環部の軸方向外側の端面と当該円環部の外周面とが交差する角部から成り、前記角部の先端の軸方向位置が、前記外輪の側面の軸方向位置よりも軸方向外側に設けられている。
【0012】
本発明では、保持器が有するオイル流入側の円環部の外周端部は、この円環部の軸方向外側の端面と外周面とが交差する角部から成る。そして、玉軸受の回転に伴う遠心力により、オイルが円環部の軸方向外側の端面に沿って径方向外側に向けて流れ、角部を通過するときにその流れが剥離して、その角部の後ろ側(背面側)に低圧領域が生じる。
ここで、円環部の外周面と外輪の内周面との間の空間(外周隙間)には、オイル流路が形成されるが、本発明では、前記角部の先端の軸方向位置が、外輪の側面の軸方向位置よりも軸方向外側に設けられているので、角部を剥離したオイルは前記オイル流路の入り口部分(軸方向外側部分)に到達し難くなり、また、前記低圧領域は、前記オイル流路の入り口部分(軸方向外側部分)に生じることになる。この結果、オイル流路の入り口部分(軸方向外側部分)から玉軸受の内部へ向かう方向には、オイルの流れが生じにくくなる。以上より、前記外周隙間を通じて玉軸受の内部へのオイルの流入を抑制することが可能となる。
【0013】
また、前記円環部の軸方向外側の端面は、径方向外側に向かうにしたがって軸方向外側に傾斜する外側傾斜面を有しているのが好ましい。
この場合、円環部の外側傾斜面に沿って流れ角部を剥離したオイルは、前記オイル流路の入り口部分(軸方向外側部分)に到達し難くなり、玉軸受の内部へのオイルの流入を抑制することが可能となる。
また、この場合において、前記円環部の外周端部は、当該円環部の外周面と前記外側傾斜面とが鋭角に交差する角部から成るのが好ましい。
この場合、角部をオイルが通過するときに流れが剥離しやすくなり、前記低圧領域を安定して発生させることが可能となる。
【0014】
また、前記外輪は、内周側に、前記玉が転動する軌道面が形成されている環状本体部と、前記円環部の外周面と対向する位置に前記環状本体部から突出して設けられている突起部と、を有しているのが好ましい。
この場合、保持器の成形が容易となる場合がある。なお、この突起部が設けられている場合、前記のとおり、角部の先端と軸方向位置について比較の対象となる外輪の側面は、突起部の軸方向外側の側面となる。
【0015】
また、前記円環部の外周面及び当該外周面に対向する前記外輪の一部の内周面は、前記保持器及び前記外輪の軸線を中心線とする円筒面を有しているのが好ましい。
この場合、円環部の外周面と外輪の一部の内周面との間の空間(外周隙間)には、円筒形状のオイル流路が形成される。そして、本発明では、前記のとおり、角部の先端の軸方向位置が、外輪の側面の軸方向位置とほぼ等しい又は外輪の側面の軸方向位置よりも軸方向外側に設けられているので、前記低圧領域は、円筒形状である前記オイル流路の入り口部分(軸方向外側部分)に生じることになる。
ここで、この円筒形状のオイル流路を構成する円環部の外周面は、保持器の軸線を中心線とする円筒面であるため、この円筒面上のオイルは、遠心力により径方向外側に流れるが、軸方向には流れにくい構成となる。そして、前記のとおり、低圧領域は、円筒形状であるオイル流路の入り口部分(軸方向外側部分)に生じる。この結果、円筒形状のオイル流路の入り口部分(軸方向外側部分)から玉軸受の内部へ向かう方向には、オイルの流れがより一層生じにくくなる。
【0016】
また、前記円環部の内周端部の軸方向位置は、前記内輪の側面の軸方向位置よりも軸方向内側に設けられているのが好ましい。
玉軸受の回転に伴って遠心力により径方向外向きの速度成分を有するオイルが、内輪の側面に沿って流れ、この側面から離脱すると、そのオイルの一部は軸方向内側に向かって流れるが、前記構成によれば、保持器が有するオイル流入側の円環部の内周端部の軸方向位置が、内輪の側面の軸方向位置よりも軸方向内側に設けられているので、前記一部のオイルを、円環部の軸方向外側の端面に沿って流すことができる。このため、オイルを径方向外側へ導くことができ、軸受内部へのオイルの流入を抑制することが可能となる。
また、オイルの流れが保持器に衝突して阻害されると、その衝突する領域で圧力が高まり、この圧力が高まった領域のオイルが、比較的圧力の低い内輪の外周面と円環部の内周面との間の円筒空間を通じて、玉軸受の内部側へ流れやすくなる。しかし、前記構成によれば、円環部の軸方向外側の端面に沿ってオイルを流すことができることから、オイルの流れが保持器(円環部)によって阻害されにくくなり、この結果、玉軸受の内部側へのオイルの流れの発生を抑制することが可能となる。
【0017】
また、本発明は、外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に設けられている複数の玉と、前記複数の玉を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器と、を備え、前記外輪と前記内輪との間にオイルが軸方向一方側から流入し軸方向他方側から流出する玉軸受であって、前記保持器は、オイル流入側に設けられている円環部と、前記円環部からオイル流出側へ延びている柱部とを有し、前記円環部の内周端部の軸方向位置は、前記内輪の側面の軸方向位置よりも軸方向内側に設けられている。
【0018】
玉軸受の回転に伴って遠心力により径方向外向きの速度成分を有するオイルが、内輪の側面に沿って流れ、この側面から離脱すると、そのオイルの一部は軸方向内側に向かって流れるが、本発明によれば、保持器が有するオイル流入側の円環部の内周端部の軸方向位置が、内輪の側面の軸方向位置よりも軸方向内側に設けられているので、前記一部のオイルを、円環部の軸方向外側の端面に沿って流すことができる。このため、オイルを径方向外側へ導くことができ、軸受内部へのオイルの流入を抑制することが可能となる。
また、オイルの流れが保持器に衝突して阻害されると、その衝突する領域で圧力が高まり、この圧力が高まった領域のオイルが、比較的圧力の低い内輪の外周面と円環部の内周面との間の円筒空間を通じて玉軸受の内部側へ流れやすくなる。しかし、本発明によれば、円環部の軸方向外側の端面に沿ってオイルを流すことができることから、オイルの流れが保持器(円環部)によって阻害されにくくなり、この結果、玉軸受の内部側へのオイルの流れの発生を抑制することが可能となる。
【0019】
また、前記各玉軸受において、前記円環部の軸方向外側の端面は、径方向外側に向かうにしたがって軸方向内側に傾斜する内側傾斜面を有しているのが好ましい。
この場合、玉軸受の回転に伴って遠心力により径方向外向きの速度成分を有するオイルが、内輪の側面に沿って流れ、この側面から離脱すると、そのオイルの一部は軸方向内側に向かって流れるが、前記構成によれば、保持器が有するオイル流入側の円環部の軸方向外側の端面は、径方向外側に向かうにしたがって軸方向内側に傾斜する内側傾斜面を有するので、前記一部のオイルを、円環部の当該内側傾斜面に沿って流すことができ、径方向外側へ導くことができ、軸受内部へのオイルの流入を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
軸受内部へのオイルの流入を抑制することが可能となり、この結果、オイルの撹拌抵抗が小さくなり、回転中のトルクを低減した玉軸受が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔玉軸受の全体構成〕
本発明の実施形態を、
図1を用いて説明する。
この玉軸受1は、複列アンギュラ玉軸受であり、内周に外側軌道面16a,16bを有する外輪2と、外周に内側軌道面11a,11bを有する内輪3と、軸方向一方側(
図1では右側)の外側軌道面16aと内側軌道面11aとの間に転動自在に配置された複数の玉4と、軸方向他方側(
図1では左側)の外側軌道面16bと内側軌道面11bとの間に転動自在に配置された複数の玉4と、軸方向一方側の列に含まれる複数の玉4を円周方向に等しい間隔で保持する保持器17と、軸方向他方側の列に含まれる複数の玉4を円周方向に等しい間隔で保持する保持器18とを有している。なお、以下に説明する各形態において、外輪2、内輪3及び保持器17,18は、共通する軸線Cを中心線とする環状(円筒状)である。
【0023】
外輪2は、外周面23が円筒形状に形成されていて、軸方向両端に、大端面21と小端面22が軸線Cと直角な平面として形成されている。外側軌道面16a,16bは円弧形状であって、軸方向一方側の外側軌道面16aは、軸線Cと同軸に形成された肩部の内周円筒面31に連続している。外側軌道面16aは外側軌道面16bよりも直径が小さく、外輪2の内周面は、全体として軸方向一方側から軸方向他方側へ向かって拡径した形状を有している。また、外側軌道面16a,16bはそれぞれ、軸方向一方側から他方側に向かって拡径した形状を有している。
【0024】
また、本実施形態では、外輪2は、内周側に、玉4が転動する外側軌道面16a,16bが形成されている環状本体部32と、この環状本体部32の軸方向一方側の端部から径方向内側に向かって突出して設けられている突起部33とを有している。
外輪2は、軸受鋼を用いて製作されていて、焼入れ硬化処理をした後、各面がそれぞれ研削加工によって仕上げられている。
【0025】
内輪3は、内周面25が円筒形状に形成されていて、軸方向両端に、大端面26と小端面27がそれぞれ軸線Cと直角な平面で形成されている。内輪3の軸方向一方側の端部外周には軸線Cと同軸の円筒面24が形成されている。内側軌道面11a,11bは円弧形状であって、軸方向一方側の内側軌道面11aは、円筒面24と連続している。内側軌道面11aは内側軌道面11bよりも直径が小さく、内輪3の外周面は、全体として軸方向一方側から軸方向他方側へ向かって拡径した形状を有している。
内輪3は、軸受鋼を用いて製作されていて、焼入れ硬化処理をした後、各面がそれぞれ研削加工によって仕上げられている。
【0026】
本実施形態の保持器17,18は、それぞれ、小径の円環部5と、大径の円環部6と、周方向に等間隔に配置され円環部5,6を連結している複数の柱部7とを有している。保持器17,18は、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド等の合成樹脂を射出成形することによって製作される。円環部5,6の間であって周方向に隣接する柱部7と柱部7との間の空間が、玉4を1個ずつ保持するポケットとなる。保持器17,18の径方向及び軸方向についての位置決めは、ポケットが玉4に接触することで行われる。
こうして、保持器17,18は複数の玉4と近接することによって位置決めされているが、玉4が自在に転動できるためには、保持器17,18と玉4との間に、ある程度の隙間が必要である。このため、玉軸受1が回転する際に保持器17,18と内外輪2,3とが接触しないように、これらの間にはそれぞれ、ある程度の大きさに設定された隙間が設けられている。
【0027】
そして、内輪3が回転して玉4が公転運動をすると、保持器17はこの玉4に案内されて公転し、内輪3と同軸で回転する。
また、この玉軸受1では、前記のとおり、外輪2の内周面が、軸方向一方側から他方側に向かって拡径している。このため、後にも説明するが、玉軸受1(内輪3)が回転すると、外輪2と内輪3との間に形成されている環状空間をオイルが軸方向一方側から他方側に向かって流れる作用(ポンプ作用)が生じる。このような玉軸受1の回転に伴うポンプ作用により、軸受外部のオイルが、軸方向一方側から、外輪2と内輪3との間の軸受内部に流入し、軸方向他方側から流出する。つまり、オイルが軸受内部を通過する。
【0028】
〔軸方向一方側の保持器17の構成〕
軸方向一方側(
図1において右側)の保持器17が有する小径側の円環部5の形状を、
図2により説明する。なお、この円環部5は、前記ポンプ作用によるオイル流入側の円環部となる。そして、柱部7は、このオイル流入側に設けられている円環部5からオイル流出側へ延びている部分となる。また、軸方向他方側(
図1において左側)の保持器18については、従来と同様の構成とすることができる。
【0029】
図2において、円環部5の外周には外周円筒面51が形成されており、この外周円筒面51は柱部7の外周面と連続している。外周円筒面51は、外輪2の内周に形成された内周円筒面31と同軸に配置され、更に、本実施形態の外輪2は突起部33を有していることから、この突起部33の内周面34とも同軸に配置されている。なお、この内周面34は、軸線Cと同軸の円筒面からなる。また、この突起部33は、円環部5の外周円筒面51(外周面)と対向する位置に環状本体部32から突出して設けられている。このため、外周円筒面51と突起部33の内周面34が所定の隙間を有して径方向に対向しており、これら外周円筒面51と内周面34との間に、軸線Cと平行な円筒空間Rが形成されている。
【0030】
円環部5の軸方向外側の端面19は、その径方向外寄りの領域に、径方向外側に向かうにしたがって軸方向外側に傾斜する外側傾斜面45を有している。この外側傾斜面45は、軸線Cを含む断面において、外周円筒面51と鋭角で交差する円すい面となっている。このため、円環部5の外周端部は、外側傾斜面45と外周円筒面51とが鋭角に交差する角部52から成る。
【0031】
そして、この角部52の先端の軸方向位置が、この先端の径方向外側の近い位置に存在する外輪2の側面の軸方向位置と概ね一致している。本実施形態では、前記のとおり、外輪2が突起部33を有していることから、角部52の先端の径方向外側の近い位置に存在する外輪2の側面は、突起部33の軸方向外側の側面33aとなる。つまり、この玉軸受1は、角部52の先端の軸方向位置が、外輪2が有する突起部33の側面33aの軸方向位置とほぼ等しくなるようにして構成されている。この円環部5(外側傾斜面45)と外輪2との位置関係についてはあとで詳述する。
なお、外輪2が突起部33を有していない場合、図示しないが(
図2を参考に説明すると)、角部52の先端の径方向外側の近い位置に存在する外輪2の側面は、外輪2の軸方向端面である大端面21となる。したがって、この場合の玉軸受1は、角部52の先端の軸方向位置が、外輪2の大端面21の軸方向位置とほぼ等しくなるようにして構成される。
【0032】
また、円環部5の軸方向外側の端面19は、その径方向内寄りの領域に、径方向外側に向かうにしたがって軸方向内側に傾斜する内側傾斜面46を有している。この内側傾斜面46は、軸線Cを含む断面において、円筒状である円環部5の内周面53と鋭角で交差する円すい面となっている。このため、円環部5の内周端部は、内側傾斜面46と内周面53とが鋭角に交差する角部55から成る。
そして、この円環部5の内周端部、つまり、前記角部55の先端は、軸方向の配置に関して、内輪3の側面である小端面27よりも軸方向内側の位置に設けられており、かつ、この角部55は、径方向の配置に関して、内輪3の外周面の内の円筒面24の近傍に設けられている。
【0033】
以上より、円環部5の軸方向外側の端面19は、その径方向内寄りの領域に、円環部5の内周端部(角部55)から径方向外側に向かって軸方向内側に傾斜する内側傾斜面46を有している。この内側傾斜面46は、角部55を始点とする傾斜面からなる。そして、この内側傾斜面46から傾斜角度を90度以上変えて、この内側傾斜面46から連続する前記外側傾斜面45を、その径方向外寄りの領域に有している。この外側傾斜面45は、角部52を終点とする傾斜面からなる。
【0034】
〔オイルの流れについて〕
次に、内輪3が回転する際のオイルの流れを、
図2により説明する。なお、以下の説明では、玉軸受1について、内輪3の小端面27の側(軸方向一方側)を「小径側」と称し、内輪3の大端面26(
図1参照)の側(軸方向他方側)を「大径側」と称して説明する。
【0035】
内輪3が回転すると、玉4が存在する軸受内部のオイル(更に詳細には、隣り合う玉4と玉4の間に存在するオイル)は、遠心力によって外側軌道面16a側へ移動する。外側軌道面16a(
図1参照)は、軸方向一方側から他方側に向かって拡径した円弧形状であるために、遠心力により外側軌道面16a側へ移動したオイルは、この外側軌道面16aに沿って大径側に移動する。こうして玉軸受1には、その小径側から大径側にオイルが流れる作用、いわゆるポンプ作用が生じる。
軸受内部を貫通する油量が多い場合、玉4がオイルを撹拌することによる撹拌抵抗によって回転トルクが増大し、この玉軸受1を装着した装置の動力損失が増加する。
【0036】
上記のようにポンプ作用が生じることで、オイルは、玉軸受1の小径側における外輪2と内輪3との間の開口部から軸受内部に流入する。そして、この開口部には、
図2に示すように、保持器17の小径側の円環部5が位置している。したがって、軸受内部を貫通する油量を低減するためには、この円環部5の外周側と内周側の双方からのオイルの流入量を低減すればよい。
【0037】
〔円環部5の内周側からのオイルの流入〕
円環部5の内周側は、内輪3の外周との間が狭くされており、ラビリンスが形成されている。このため、円環部5と内輪3との隙間の大きさがある程度の範囲内にあれば、円環部5の内周側からのオイルの流入量を低減することができる。
さらに、本実施形態の玉軸受1は、円環部5の内周側におけるオイルの流入を抑制(流入量を低減)するために、前記ラビリンスによる機能の他、次に説明する機能も備えている。
【0038】
すなわち、
図2に示す本実施形態では、円環部5の内周端部の角部55の先端が、内輪3の小端面27よりも軸方向内側の位置であって、かつ内輪3の円筒面24の近傍に設けられている。さらに、この円環部5の軸方向外側の端面19は、径方向内寄りの領域に前記角部55から径方向外側に向かって軸方向内側に傾斜する内側傾斜面46を有している。
【0039】
したがって、内輪3の回転に伴って遠心力により径方向外向きの速度成分を有するオイルが、内輪3の小端面27に沿って流れ、この小端面27から離脱すると、そのオイルの一部は軸方向内側に向かって流れるが、本実施形態の前記構成によれば、前記一部のオイルを、内側傾斜面46に沿って流すことができ、径方向外側へ導く(整流する)ことができる。このため、軸受内部へのオイルの流入を抑制することが可能となる。
【0040】
仮に、オイルの流れが円環部5に衝突して阻害されると、その衝突する領域で圧力が高まり、この圧力が高まった領域のオイルが、比較的圧力の低い内輪3の円筒面24と円環部5の内周面53との間の円筒空間P2(内周隙間)を通じて、軸受内部へ流れやすくなる。
しかし、本実施形態の構成によれば、円環部5の軸方向外側の端面(内側傾斜面46)に沿ってオイルを流すことができることから、オイルの流れが円環部5によって阻害されにくくなり、この結果、軸受内部へのオイルの流れの発生を抑制することが可能となる。つまり、円環部5の内周側におけるオイルの流入を抑制(流入量を低減)することが可能となる。
【0041】
ここで、保持器17の角部55の先端と内輪3の小端面27との軸方向の位置関係、及び、内側傾斜面46の傾斜角度に関して、
図3により説明する。
図3は、保持器17の円環部5と内輪3との間に形成される円筒空間P2(内周隙間)におけるオイルの流量特性を計算した結果のグラフである。この
図3には、内輪3の小端面27に対する角部55の先端の軸方向位置を変えて数値解析した結果が示されている。
図3の横軸は、内輪3の小端面27に対する角部55の先端の軸方向位置を示しており、小端面27と角部55の先端との軸方向位置が一致する場合を0としており、角部55の先端が小端面27よりも軸方向内側(
図3の略図では左側)に位置する方向を+方向としている。
図3の縦軸は、円筒空間P2を通過するオイルの量(流量)である。
【0042】
図3の実線のグラフは、内側傾斜面46の傾斜角度α(
図3の略図参照)が、15°である場合の解析結果を示している。これに対して、
図3の破線のグラフは、傾斜角度αが0°である場合の解析結果を示している。なお、この数値解析では、内輪回転数:5000/min、オイルの油温:80℃、円筒空間P2の径方向の隙間:0.5mmとしている。また、外輪2は固定され、内輪3の回転により保持器17が公転する条件である。
【0043】
この
図3から明らかなように、内側傾斜面46を傾斜させる場合(α=15°)の方が、円筒空間P2を通過するオイルの流量が減少する。つまり、内側傾斜面46を傾斜させることで、この内側傾斜面46に沿ってオイルが流れやすくなり、円筒空間P2側へのオイルの流入が抑制される。
【0044】
また、角部55の先端が小端面27から軸方向に離れることで円筒空間P2を通過するオイルの流量が減少する。特に、角部55の軸方向位置が、小端面27から軸方向に沿って0より大きく1mm以下の範囲で離れる形態が好ましい。これは、小端面27に沿って流れるオイルが小端面27の外周端部から剥離することで、その流れの裏側に負圧領域が形成されるが、角部55の先端の軸方向位置が0より大きく1mm以下の範囲で比較的小端面27に接近している場合、前記負圧領域が円筒空間P2の入口部(
図3の略図では右側部)に形成されるためであると推測される。この結果、円筒空間P2では、相対的に圧力が高くなる中央部(
図3の略図では左側部)から、圧力が低くなる入口部(負圧領域)側へと向かう流れが発生し、軸方向外側から円筒空間P2へとオイルが浸入するのを、より効果的に抑制することができると考えられる。なお、角部55の先端が小端面27から軸方向に離れれば離れるほど、小端面27に沿って流れるオイルが円筒空間P2に届きにくくなるので、円筒空間P2を通過するオイルの流量は減少する。
【0045】
以上より、内側傾斜面46は、径方向外側に向かって軸方向内側に傾斜しており、また、角部55の先端は、小端面27から0より大きく1mm以下の範囲で軸方向内側の位置に設けられているのが好ましい。なお、玉軸受1の縦断面において軸線Cに直交する仮想面と内側傾斜面46とのなす角度α(
図3の略図参照)は、10°〜30°とするのが好ましく、このときに流量を低減する効果が大きい。
【0046】
〔円環部5の外周側からのオイルの流入〕
次に、円環部5の外周側からのオイルの流入について説明する。
図2において、玉軸受1の内部では、保持器17と外輪2の内周面との間のオイルが、遠心力により外輪2の内周面に沿って小径側から大径側に向かって流れる。このため従来では、保持器17の小径側端部において保持器17(円環部5)と外輪2との間にあるオイルは、外輪2の内周面に沿うオイルの流れに吸引されて、軸受内部に誘導される。このため、玉軸受1を貫通する油量を十分に減少させることが困難であった。
【0047】
そこで、本実施形態では(
図2参照)、円環部5の外周と外輪2の内周との間が狭くされており、ラビリンスが形成されている。このため、円環部5と外輪2との隙間の大きさがある程度の範囲内にあれば、円環部5の外周側からのオイルの流入量を低減することができる。
【0048】
円環部5の外周に軸線Cと平行な外周円筒面51が形成されており、同じく軸線Cと平行な円筒面からなる突起部33の内周面34と、この外周円筒面51との間に円筒空間Rが形成されている。つまり、本実施形態では、円環部5の外周面(外周円筒面51)、及び、この外周面(51)に対向する突起部33の内周面34は、保持器17及び外輪2の軸線Cを中心線とする円筒面となっているので、これら外周面(外周円筒面51)と内周面34との間に、円筒空間Rが形成されている。
そして、この突起部33の内周面34は、軸線Cと平行な母線で形成された円筒面であるため、円筒空間Rのオイルに遠心力が作用しても、小径側から大径側への積極的なオイルの流動が生じない。
【0049】
あわせて本実施形態では、円環部5の端面19が有する外側傾斜面45は、径方向外側に向かうにしたがって軸方向外側に傾斜するとともに、角部52の先端の軸方向位置が、外輪2が有する突起部33の側面33aの軸方向位置とほぼ等しい位置に設けられている。
または、
図4の変形例に示すように、円環部5の端面19が有する外側傾斜面45は、径方向外側に向かうにしたがって軸方向外側に傾斜するとともに、角部52の先端の軸方向位置が、外輪2が有する突起部33の側面33aよりも軸方向外側(軸方向一方側)に設けられている。
【0050】
このため、
図2及び
図4の各形態において、例えば、円環部5の端面19に跳ね掛けられたオイルや、この円環部5の端面19が有する内側傾斜面46及び外側傾斜面45に沿って流れてきたオイルが、遠心力によって角部52から径方向外側に飛ばされた際に、その飛散する方向は、外輪2の突起部33の側面33aから離れる向きとなるので、このオイルが円筒空間Rに流入するのを防ぐことが出来る。
【0051】
さらに、
図2及び
図4の各形態において、円環部5の端面19に沿って径方向外側へ流動するオイルは、角部52で端面19から剥離して、角部52の裏側(
図2,4の場合、角部52の左側)に圧力が低下した領域(低圧領域)を生成する。角部52の軸方向位置が、突起部33の側面33aの軸方向位置とほぼ等しい位置、又は、側面33aよりも軸方向外側に設けられているため、この低圧領域は、円筒空間Rの角部52側の開口部に形成される。
【0052】
オイルは高圧側から低圧側に向けて流動するので、円筒空間Rに存在するオイルは、比較的高圧側となる軸受内部から、突起部33の側面33a側に向けて流動する。この結果、円筒空間Rのオイルが、軸受内部に吸引されるのを低減でき、円環部5の外周側からのオイルの流入を抑制できる。
【0053】
前記低圧領域の大きさは、保持器17の回転数やオイルの温度などによって変化する。玉軸受1が使用される条件として、内輪回転数:5000/min、オイルの油温:80℃、円筒空間Rの径方向の隙間:0.65mmの条件、及び、外輪2は固定され、内輪3の回転により保持器17は玉4と共に公転する条件で、外輪2の側面(突起部33の側面33a)に対する保持器17の角部52の先端の軸方向位置を変えて数値解析した結果を
図5のグラフに示す。
図5の縦軸は、円筒空間Rを通過するオイルの量(流量)である。このグラフは、下側(横軸)に示すように、保持器端面位置(角部52の先端の位置)が外輪2の側面33aの軸方向位置と一致するときを0として、保持器端面位置(角部52の先端の位置)が側面33aよりも、軸方向外側に突出する方向を+方向としている。
図5によれば、側面33aから角部52が軸方向に突出する大きさは、0〜1mm程度の領域が最も適正である。
【0054】
また、上記の条件下で、軸線Cを含む断面において、角部52の角度θ(
図4参照)を変えて計算した結果、θは45°〜75°の場合に、流量を低減する効果が大きいことを確認できた。
【0055】
以上の説明によって理解できるように、
図2(及び
図4)に示す形態を有する玉軸受1は、保持器17の外周側において、オイルが流動する隙間をオイルの低圧領域で塞ぐことによって軸受内部へのオイルの流入量を抑制することができる。このため、小径側から大径側に軸受内部を貫通して流れるオイルの量を低減できる。この結果、オイルの撹拌抵抗を小さく抑えて、回転中のトルクを低減した玉軸受を提供することができる。
【0056】
また、前記のとおり(
図2参照)、角部52の先端の軸方向位置が、外輪2の突起部33の側面33aの軸方向位置とほぼ等しい位置に設けられている場合において、この「ほぼ等しい位置」の具体例として、
図5により説明したとおり、側面33aから角部52の先端が軸方向外側に突出する大きさ(突出寸法ともいう)が、1mm以下である形態が、適正であることを説明した。しかし、この軸方向外側に突出する大きさは、1mmを越える場合であっても、
図5に示すように、約2.6mm以下では、円環部5の外周側から玉軸受1の内部側へのオイルの流入を抑制することができる。つまり、この突出寸法が2.6mm以下の場合も、前記「ほぼ等しい位置」に含まれてもよい。なお、前記「ほぼ等しい位置」には、突出寸法が0(ゼロ)、つまり、大端面21と角部52との軸方向位置が完全に一致する場合も、当然含まれる。
【0057】
更に、前記「ほぼ等しい位置」には、
図6に示すように、角部52の先端の位置が、外輪2の側面33aよりも僅かに軸方向内側(玉4が存在する軸受内部側)となる場合も含まれる。つまり、突出方向が−方向(マイナス方向)となる場合も含まれる。
このように、突出方向が−方向となる場合における前記「ほぼ等しい位置」の具体例としては、例えば、−0.4mm以上であり0mm未満である。この場合においても、円環部5の外周側から軸受内部へのオイルの流入を抑制することができる(
図5参照)。つまり、突出寸法が、−0.4mm以上であり0mm未満となる場合についても、前記「ほぼ等しい位置」に含まれてよい。
【0058】
また、
図6に示すように、外輪2の一部である突起部33の側面33aと、この突起部33の内周面34との間に、アール面60が形成されている場合、このアール面60の内周面34側の始点60aよりも軸方向外側に、角部52の先端が位置している形態についても、角部52の先端の軸方向位置が、外輪2の側面33aの軸方向位置と「ほぼ等しい位置」に設けられている場合に含まれてよい。すなわち、側面33aからアール面60の前記始点60aまでの軸方向範囲に、角部52の先端が位置している場合、前記「ほぼ等しい位置」に含まれる。なお、アール面60の代わりに、
図6の二点鎖線で示すように、面取り60が付されている場合、この面取り60の内周面34側の始点60aよりも軸方向外側に、角部52の先端が位置している形態についても、前記「ほぼ等しい位置」に含まれる。なお、アール面60の半径(面取り60の大きさ)は、0.5mm以下程度とすることができる。
【0059】
また、
図2(
図4)に示す形態では、円環部5の軸方向外側の端面19が、内周端部の角部55から径方向外側に向かうにしたがって軸方向内側に傾斜する内側傾斜面46と、この内側傾斜面46から傾斜方向を変えて軸方向外側に傾斜する外側傾斜面45とを有することで、保持器17の小径側の円環部5が軸方向に拡大するのを防ぐことができ、この結果、玉軸受1の軸方向寸法が大きくなるのを防止することが可能となる。
すなわち、仮に、円環部5の軸方向外側の端面19の径方向外寄りの領域が、外側傾斜面45ではなく、軸線Cに直交する「円環面」である場合、その円環部5の外周側の角部52の軸方向位置を、外輪2の側面33aの軸方向位置とほぼ等しい位置(又は側面33aよりも軸方向外側の位置)に設け、前記「円環面」と内側傾斜面46とを繋げると、その円環部5の内周側の角部55を、本実施形態よりも、軸方向外側に位置させる必要があり、これにより、円環部5の断面形状は径方向内側に向かうにしたがって軸方向に拡大する。そして、本実施形態と同様に、この角部55よりも軸方向外側に内輪3の小端面27を位置させると、この内輪3の小端面27の位置は、外輪2の大端面21よりも大きく軸方向外側へ飛び出した形態となり、この結果、玉軸受の軸方向寸法が大きくなってしまう。
しかし、本実施形態では、前記のとおり、円環部5の軸方向外側の端面19は、傾斜方向が異なる内側傾斜面46と外側傾斜面45とを有することで、内輪3の小端面27と、外輪2の大端面21とを、軸方向についてほぼ同じ位置とすることができ、玉軸受1の軸方向寸法が大きくなるのを防止することが可能となる。
【0060】
〔他の形態の玉軸受1に関して〕
図7は、他の形態の玉軸受1を示す断面図である。この玉軸受1は、玉4が単列であるアンギュラ玉軸受である。この玉軸受1は、外輪2と、内輪3と、外輪2と内輪3との間に設けられている複数の玉4と、複数の玉4を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器17とを備えている。
なお、
図1に示す保持器17は、一対の円環部5,6と複数の柱部7とを有する構成であるが、
図7に示す保持器17は、軸方向一方側にのみ円環部5を有しており、この円環部5から軸方向他方側へ柱部7が延びて設けられており、いわゆる冠型の保持器である。
【0061】
また、この玉軸受1においても、外輪2の内周面が軸方向一方側から他方側に向かって拡径している部分を有していることから、外輪2と内輪3との間にオイルが軸方向一方側から流入し軸方向他方側から流出する構成となっている。
そこで、
図1に示す玉軸受1と同様に、
図7に示す玉軸受1においても、オイルが軸受内部に流入するのを抑制するために、保持器17が有するオイル流入側となる円環部5の形状が、
図1(
図2)又は
図4に示す保持器17の円環部5と同じ形状となっている。
【0062】
〔更に他の形態の玉軸受1に関して〕
図1及び
図7に示す形態では、外輪2が軸方向一方側(オイル流入側)に突起部33を有する場合について説明したが、突起部33を省略したものであってもよい。この場合、円環部5は、図示したものよりも径方向に長く構成され、これにより、外輪2と内輪3との間に形成されるオイル流入側の環状空間を塞いでいる。
そして、この場合、保持器17が有する円環部5の角部52の先端の軸方向位置は、外輪2の大端面21の軸方向位置とほぼ等しくなるようにして構成される。または、保持器17が有する円環部5の角部52の先端の軸方向位置は、外輪2の大端面21の軸方向位置よりも軸方向外側に設けられる。
【0063】
なお、
図1に示す形態では、保持器17は一対の円環部5,6を有している。この場合において、この保持器17を、金型を用いた射出成形により製造する場合、その金型を、軸方向に移動させて分割する割金型とする。そして、この割金型を軸方向にスライドして成形品(保持器17)を脱型するが、保持器17の一方側の円環部5の外径が、他方側の円環部6の内径よりも大きい場合、前記のように軸方向にスライドさせる割型のみではなく、径方向にも移動可能とする割型も必要となる。そこで、
図1に示す形態のように、一方側の円環部5の外径が、他方側の円環部6の内径よりも小さくなるように保持器17は構成されている。この場合、円環部5は、径方向に短く構成される。そこで、この円環部5と外輪2との間に形成される隙間を小さくするために、外輪2は突起部33を有するのが好ましい。
【0064】
また、前記各形態では、玉4が外輪2及び内輪3にアンギュラ接触する玉軸受1について説明したが、更に他の形態として、玉4が外輪2及び内輪3にアンギュラ接触しない(接触角が0である)玉軸受1であっても、例えば、軸方向一方側と他方側とで外輪2と内輪3との間の径方向の間隔が相違する玉軸受1や、外輪2の肩部の直径が軸方向一方側と他方側とで相違するような玉軸受1においても、外輪2と内輪3との間にオイルが軸方向一方側から流入し軸方向他方側から流出する場合には、前記各形態の円環部5を備えた保持器17を適用することができる。つまり、軸方向一方側と他方側とで非対称となる玉軸受1では、回転に伴う遠心力によりポンプ作用が生じ、これによりオイルが軸受内部に流入することから、このような玉軸受1において、前記各形態の円環部5を備えた保持器17を適用することができる。更に、軸方向一方側と他方側とで外輪2及び内輪3の形状が対称となる玉軸受1であっても、その玉軸受1の回転により保持器17が回転すると、その保持器17(柱部7)がファンのように作用して、外輪2と内輪3との間にオイルが軸方向一方側から流入し軸方向他方側から流出するような場合においても、前記各形態の円環部5を備えた保持器17を適用することができる。
【0065】
また、
図1に示す複列アンギュラ玉軸受1においても、
図7に示す玉軸受1が有するような冠型の保持器17を適用しても、また、これとは反対に、
図7に示す玉軸受1においても、
図1に示す玉軸受1が有するような一対の円環部5,6を有する保持器17を適用してもよい。
【0066】
また、本発明の玉軸受1は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。前記各形態では、円環部5の外周端部の角部52は、鋭角である場合を説明したが、その他として、例えば角部52の位置が外輪2の側面33aからプラス方向に突出する場合は特に、角部52は、90度であってもよい。
【0067】
〔付記〕
前記各形態の玉軸受1(保持器17)が備えている特徴点は、個々においても成立する。すなわち、
(1)玉軸受は、
外輪2と、内輪3と、前記外輪2と前記内輪3との間に設けられている複数の玉4と、前記複数の玉4を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器17と、を備え、前記外輪2と前記内輪3との間にオイルが軸方向一方側から流入し軸方向他方側から流出する玉軸受1であって、
前記保持器17は、オイル流入側に設けられている円環部5と、前記円環部5からオイル流出側へ延びている柱部7とを有し、
前記円環部5の軸方向外側の端面19は、径方向外側に向かうにしたがって軸方向外側に傾斜する外側傾斜面45を有している。
【0068】
そして、前記(1)の玉軸受の場合、
前記円環部5の外周端部は、当該円環部5の外周面(51)と前記外側傾斜面45とが鋭角に交差する角部52から成るのが好ましい。
【0069】
(2)また、別の玉軸受は、
外輪2と、内輪3と、前記外輪2と前記内輪3との間に設けられている複数の玉4と、前記複数の玉4を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器17と、を備え、前記外輪2と前記内輪3との間にオイルが軸方向一方側から流入し軸方向他方側から流出する玉軸受1であって、
前記保持器17は、オイル流入側に設けられている円環部5と、前記円環部5からオイル流出側へ延びている柱部7とを有し、
前記外輪2は、内周側に、前記玉4が転動する軌道面16aが形成されている環状本体部32と、前記円環部5の外周面(51)と対向する位置に前記環状本体部32から突出して設けられている突起部33と、を有している。
このように突起部33を有することで、外輪2(突起部33)と保持器17の円環部5との間に形成される隙間を小さくすることが可能となる。
【0070】
(3)また、別の玉軸受は、
外輪2と、内輪3と、前記外輪2と前記内輪3との間に設けられている複数の玉4と、前記複数の玉4を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器17と、を備え、前記外輪2と前記内輪3との間にオイルが軸方向一方側から流入し軸方向他方側から流出する玉軸受1であって、
前記保持器17は、オイル流入側に設けられている円環部5と、前記円環部5からオイル流出側へ延びている柱部7とを有し、
前記円環部5の軸方向外側の端面19は、径方向外側に向かうにしたがって軸方向内側に傾斜する内側傾斜面46を有している。