【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例を比較例と共に説明する。
【0052】
なお、本実施例で用いる各種特性の測定方法は、以下のとおりである。
【0053】
(1)標準状態(20℃×65%RH)で破断強度の20%荷重下でのクリープ率(クリープ率)
織物を分解して得られた糸をJIS L1013:2010(化学繊維フィラメント糸試験方法)に準じて標準状態で破断強力を測定する。一方、標準状態で繊維の一端を固定して、他端に繊維にかかる張力がこの破断強度の20%となる荷重を吊り下げ、1時間経過した後に、その長さ(Lc1)を測定し、初期長さ(Lc0)に対してどれだけ伸びたかで次式によってクリープ率を求めた。初期長さは、(5.88mN×表示テックス数)の初荷重をかけた状態での長さとした。
クリープ率(%)=[(Lc1−Lc0)/Lc0]×100
【0054】
(2)引張強力(破断強力)
織物を分解して得られた糸をJIS L1013:2010(化学繊維フィラメント糸試験方法)に準じて破断強力を測定した。
【0055】
(3)摺動織物の表面に観察されるPTFE繊維の比率(摺動面フッ素繊維比率)
摺動織物側の織物表面をキーエンス製マイクロスコープVHX−2000にて30倍に拡大した写真をもとに、フッ素繊維を含んだ繊維とそれ以外の表面積の比率を計算した。
【0056】
(4)摺動織物とベース織物の絡み合い結合の頻度(絡合頻度)(タテ糸を絡み糸とする場合、ヨコ糸を絡み糸とする場合( )内に読み替え)
少なくとも1cm四方のサイズの多重織物を分解し摺動織物のタテ糸(ヨコ糸)がベース織物側を通る回数に対して、摺動織物のタテ糸(ヨコ糸)とベース織物のヨコ糸(タテ糸)が絡み合う割合と、ベース織物のタテ糸(ヨコ糸)が摺動織物側を通る回数に対して、ベース織物のタテ糸(ヨコ糸)と摺動織物のヨコ糸(タテ糸)が絡み合う割合の平均値である。
A=摺動織物のタテ糸(ヨコ糸)とベース織物のヨコ糸(タテ糸)が絡み合う回数/摺動織物のタテ糸(ヨコ糸)がベース織物側を通る回数
B=ベース織物のタテ糸(ヨコ糸)と摺動織物のヨコ糸(タテ糸)が絡み合う回数/ベース織物のタテ糸(ヨコ糸)が摺動織物側を通る回数
摺動織物とベース織物の絡み合い結合の頻度割合=(A+B)/2
【0057】
(5)織り密度
JIS1096:2010(織物及び編物の生地試験方法)に準じ、試料を平らな台上に置き、不自然なしわ及び張力を除いて異なる箇所について50mmのたて糸及びよこ糸の本数を数え、それぞれの平均値を単位長さについて算出した。
【0058】
(6)トライボギア動摩擦係数
新東化学(株)製表面性測定機 トライボギア(TYPE:HEIDON−14DR)を用い、移動速度100mm/min、荷重1.0kgで、平面圧子(面積63×63mm)に布帛をビス固定し摺動織物面とステンレス板(鏡面仕上げ)との摩擦係数を求めた。測定は恒温恒湿環境下(20±2℃、60±5%RH)にて、織物タテ方向、ヨコ方向について行った。
【0059】
(7)リング摩耗試験(摩擦摩耗試験1〜3)
JIS K7218:1986 (プラスチックの滑り摩耗試験方法)A法に準じ、織物は、タテ30mm、ヨコ30mmにサンプリングし、同じ大きさの厚さ2mmのPOM樹脂板の上にのせてサンプルホルダーに固定した。
【0060】
相手材はS45Cで作られた、外径 25.6mm、内径 20mm、長さ 15mm の中空円筒形状の表面をサンドパーパーで磨き、粗さ測定器(ミツトヨ製SJ−201)にて測定し0.8μmm±0.1Raの範囲の相手材を使用した。
【0061】
リング摩耗試験機は、オリエンテック製MODEL:EFM−III−ENを用い、摩擦荷重(MPa)を変更して、摩擦速度:10mm/秒にて試験を行い摩擦摺動距離100mまでの摺動トルクを測定し、安定部分の摩擦係数を計算するとともに、摺動後の織物サンプルの表面状態を観察し、PTFE部の摩滅がほとんどないものを◎、摩滅はあるが摩擦係数が安定しているものを○、摩滅して摩擦係数が上昇したものを△、織物が破壊されたものを×とした。
【0062】
(8)撚糸数
撚糸数は、織物を分解しタテ糸、ヨコ糸それぞれをJIS L1013:2010(化学繊維フィラメント糸試験方法)に準じ、検ねん器を用い、つかみ間隔を50cmとして規定の初期荷重の下で試料を取り付け、より数を測定し、2倍して1m当たりのより数を求めた。
【0063】
(9)耐加水分解性
オートクレーブを用い160℃の飽和水蒸気中で24時間処理を行い、織物の強伸度をJIS1096:2010(織物及び編物の生地試験方法)に準じて測定し、処理前後の強度保持率を測定した。
【0064】
(10)布充填度 (New tightness factor)
布充填度は、布地を平面に照射したとき、理論的に糸が隙間なく詰まっている状態を100%とし、実際に糸がしめる面積の割合をパーセンテージで表したものであり、基本的には、尚絅学院大学紀要第54集 P139−P147 (New tightness factorによる織物構造の解析)に記載されたものである。
【0065】
ベース織物について、単位長さ(cm)に糸の最大密度として完全組織内に理論的に隙間無く詰まっている場合の糸の本数と実際の織密度の比を充填度とし、100を乗じてパーセンテージで表した。また、算出にあたり、ベース織物側に絡む摺動織物のタテ糸及びヨコ糸はカウントせず、算出した。
【0066】
単位長さ(cm)あたりに理論的に隙間なく詰まっている糸の本数は織物のタテ糸とヨコ糸の交錯状態を考慮し、幾何学的に式1.で表される。
【0067】
織物の幾何学的構造
tm=e/{(e−i)πd/4+2id} 式1.
ここで、e:一完全組織の糸の数
i:一完全組織の交錯の数
d:糸の直径(cm)
tm:単位長さ(1cm)中の理論的な最大糸本数
e、iの係数
【表1】
【0068】
糸の直径として、文献中にはその測定方法が、繊維の太さ、繊維の比重、パッキングファクターから算出すると記載されているが、パッキングファクターの算出には、織物の目付け、織物の厚みが必要である。多重織物の場合、ベース織物単独の正確な目付け、厚みを得ることができないため、パッキングファクターを1(単糸同士が隙間なく密着していると仮定)とし、糸の直径を式2.で求めた。
d(cm)= 0.00357×(糸の太さ(tex)/Φ×ρf)^(1/2) 式2.
Φ :パッキングファクター(=1)
ρf:繊維の比重
【0069】
織物の構造密度比を示すNew Tightness Factor(T)は式3.で求めた。
T(%)=[(ta1+ta2)/(tm1+tm2)]×100 式3.
ta1:単位長さ(1cm)中の実際に糸が占めるタテ糸本数
ta2:単位長さ(1cm)中の実際に糸が占めるヨコ糸本数
tm1:単位長さ(1cm)中の理論的な最大タテ糸本数
tm2:単位長さ(1cm)中の理論的な最大ヨコ糸本数
【0070】
実施例1
ベース織物繊維として、220dtex、50フィラメント、撚糸数300t/mのクリープ率2.0%のPPS繊維をタテ糸、ヨコ糸に用い、摺動織物として440dtex、60フィラメント、撚糸数300t/m、PTFE繊維をタテ糸、ヨコ糸に用い、それぞれの織り密度がタテ70+70本/inch(2.54cm)(摺動織物タテ+ベース織物タテ(本/inch(2.54cm)、以下同じ)、ヨコ60+60本/inch(2.54cm)(摺動織物ヨコ+ベース織物ヨコ(本/inch(2.54cm)、以下同じ)、摺動織物とベース織物の絡み合いは摺動織物とベース織物のタテ糸を絡み糸として結合の頻度が0.2となるように、レピア織機にて2重平織物を製作した。その後80℃の精練槽にて精練を行い、200℃でセットした。
【0071】
この織物を分解してタテ糸、ヨコ糸の強力、クリープ率、撚糸数を測定するとともに、織物としてトライボギア、摩擦摩耗試験機等で評価した結果を表2にまとめた。
【0072】
比較例1
440dtex、60フィラメント、撚糸数300t/m、クリープ率4.5%のPTFE繊維をタテ糸、ヨコ糸に用い、その織り密度をタテ70本/inch(2.54cm)、ヨコ60本/inch(2.54cm)の平織物を作成し、実施例1と同様の精練、セット処理を行った。この織物を分解してタテ糸、ヨコ糸の強力、クリープ率、撚糸数を測定するとともに、織物としてトライボギア、摩擦摩耗試験機等で評価した結果を表2にまとめた。
【0073】
比較例2
ベース織物繊維として、220dtex、50フィラメント、撚糸数500t/mのクリープ率7.5%のナイロン6繊維をタテ糸、ヨコ糸に用いた以外は実施例1と同様に2重平織物を製作し、実施例1と同様の精練、セット処理を行った。この織物を、トライボギア、摩擦摩耗試験機等で評価した結果を表2にまとめた。
【0074】
実施例2
ベース織物として、220dtex−134フィラメント、撚糸数300t/mでクリープ率0.7%のポリパラフェニレンテレフタルアミド(商標“ケブラー”)繊維をタテ糸、ヨコ糸に用いた以外は実施例1と同様に2重平織物を製作し、実施例1と同様の精練、セット処理を行った。この織物を分解してタテ糸、ヨコ糸の強力、クリープ率、撚糸数を測定するとともに、織物としてトライボギア、摩擦摩耗試験機等で評価した結果を表2にまとめた。
【0075】
実施例3〜7
ベース織物、摺動織物の条件を表2、3のように種々変更して織物を作成し、実施例1と同様の精練、セット処理を行った。この織物を分解してタテ糸、ヨコ糸の強力、クリープ率、撚糸数を測定するとともに、織物としてトライボギア、摩擦摩耗試験機等で評価した結果を表2、3にまとめた。
【0076】
このように本発明の耐摩耗性多重織物とすることにより、高荷重下での耐摩耗性が飛躍的に向上することが明らかとなった。
【0077】
比較例3
440dtex、60フィラメント、撚糸数300t/m、クリープ率4.5%のPTFE繊維と、560dtex、96フィラメント、無撚り、クリープ率2%のポリエチレンテレフタレート繊維を用い、ダブルラッセル編機にて交編率をフッ素系繊維:ポリエチレンテレフタレート繊維=60:40、コース数29コース/inch(2.54cm)、ウェル数19ウェル/inch(2.54cm)、になるように編み立てし実施例1と同様の精練、セット処理を行った。この編み物を分解して糸の強力、クリープ率、撚糸数を測定するとともに、編み物として、トライボギア、摩擦摩耗試験機等で評価した結果を表3にまとめた。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】