(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6520169
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】アイアン型ゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20190520BHJP
【FI】
A63B53/04 F
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-23152(P2015-23152)
(22)【出願日】2015年2月9日
(65)【公開番号】特開2016-144572(P2016-144572A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2018年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】512237361
【氏名又は名称】株式会社金属表面工学舎
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】湯川 晃宏
【審査官】
谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−054364(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3028726(JP,U)
【文献】
特開2011−234748(JP,A)
【文献】
特開2004−190062(JP,A)
【文献】
特開2003−064499(JP,A)
【文献】
特開2000−042148(JP,A)
【文献】
特開2000−296193(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0310946(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC A63B53/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェースのインパクト面に粗面化処理を施した軟鉄鍛造ヘッドの全面に下地層を形成するとともに、その上の全面に無電解Ni−P−Wめっき皮膜の表層を形成し、前記下地層の硬度を表層よりも低くし、前記インパクト面に対応する表層の表面粗さが、Ra:3.0〜4.57μm、Ry:20.0〜25.0μmであることを特徴とするアイアン型ゴルフクラブ。
【請求項2】
前記下地層が、電解めっき法で形成したCuめっき層又はNiめっき層からなる請求項1記載のアイアン型ゴルフクラブ。
【請求項3】
前記下地層の厚みが5〜20μm、前記表層の厚みが10〜30μmである請求項1又は2記載のアイアン型ゴルフクラブ。
【請求項4】
前記無電解Ni−P−Wめっき皮膜を形成する際に、300〜700℃の範囲で熱処理を施した請求項1〜3何れか1項に記載のアイアン型ゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイアン型ゴルフクラブに係わり、更に詳しくはヘッドに表面処理を施したアイアン型ゴルフクラブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルフ競技規定におけるゴルフクラブのルール改定により、2010年から施行された「新溝ルール」によって、フェース面のスコアラインと呼ばれている溝(グルーブ)をバックスピンのかかりにくい形状に規定された。背景として、これまでの旧溝クラブは、プレー中のミスショットでたとえフェアウェイから外れたラフからでもリカバリーできるだけのスピン性能があった。これについて、ラフに入れる事が『ミス』とはならなくなり、フェアなゲーム性が失われると考えられるようになり、新ルールの改定となった。改定後、溝のエッジが丸くなり、スピン性能が著しく低下することとなり、想定不能な挙動を示す結果となっている。即ち、距離、方向等のコントロール性が損なわれるようになった。特に、ラフからのショット時に、フライヤーが発生し易くなった。
【0003】
2010年1月1日からはすでに主要プロツアーには適用されており、2014年1月1日からはエリートアマチュア競技下部ツアーに適用される。また、2024年1月1日からは一般アマチュア、倶楽部競技レベルにおいても適用されることが決まっている。
【0004】
アイアンのスピン性能を改善するために、ルール規定範囲内でフェース面に微細な溝を追加加工したものや粗面化したもの(特許文献1参照)、あるいは軟質めっき処理にて低反発化し(特許文献2参照)、ボールとの摩擦抵抗を増大する目的で改良されていた。表面処理としては、ニッケルめっき、クロムめっきの2種類が主流であり、錆防止、装飾用として使用されていた。皮膜厚さも数〜数十μmであった。
【0005】
また、特許文献3には、金属を母材とするゴルフ用アイアンヘッドにおいて、表面に向って、電解めっきによるニッケル被膜、次いでいずれも無電解めっきによるニッケル−リン(Ni−P)被膜、ニッケル−リン−タングステン(Ni−P−W)被膜を順次積層した層を有するゴルフ用アイアンヘッドが開示されている。ここで、Ni−P−Wめっき被膜を設ける目的は、被膜強度が高く、耐摩耗性に優れ、更に腐食性の強い肥料や農薬等に対する耐食性を高めることにある。その目的のために更に、Ni−P−Wめっき被膜の上にクロメート(Cr)被膜を形成することも開示されている。しかし、Ni−P−Wめっき被膜を、アイアンヘッドの打感や振り抜き感等の何らかのスイング特性を改善するために利用されたことはこれまでなかった。
【0006】
ところで、上級者ゴルファーやプロゴルファーにとって、軟鉄鍛造ヘッドは打感の良さにおいて格別な存在である。しかし、軟鉄鍛造ヘッドは、製造過程で生じる凹凸部やピンホール等の表面欠陥が多いため、特許文献4では、下地として電解Niめっき層を形成し、その上に無電解Niめっき層を形成して、更にその上にCrめっきやNiBめっき等の装飾用めっき層を形成し、耐食性と装飾性を高めている。因みに、軟鉄鍛造ヘッドは、特別な場合には熱処理を施すことによって、素地硬度を低下させ、マイルドで上級者好みの打感を出す工夫も行われている。
【0007】
アイアン型ゴルフクラブに求められる機能として、(1)スピン性能、(2)弾道の方向性、(3)打感、(4)振り抜き感、(5)距離コントロール性、(6)フライヤー改善等が挙げられる。本発明者は、フェースのインパクト面をある一定の面粗度に整え、無電解Ni−P−Wめっき皮膜を組み合わせることによって、課題にある1〜6の諸性能を飛躍的に向上させ得ることを見出し、特許文献5に記載のアイアン型ゴルフクラブを提案した。つまり、軟鉄鍛造ヘッドの全面に無電解Ni−Pめっき皮膜の下地層を形成するとともに、その上の全面に無電解Ni−P−Wめっき皮膜の表層を形成し、更にインパクト面にAgめっき皮膜を形成し、更にAgめっき皮膜をショットブラスト処理して粗面化したアイアン型ゴルフクラブである。粗面化したAgめっき皮膜は、柔らかい打感を備えているものの、硬度が低いため使っているうちに表面の凸部が擦れて効果が持続しないという欠点がある。また、ショットブラスト処理により緻密化しているとは言え、Agめっき皮膜は変色の問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−110425号公報
【特許文献2】特開2011−125542号公報
【特許文献3】特許第2500159号公報
【特許文献4】特開平11−76476号公報
【特許文献5】特開2014−054364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、特許文献5に記載のアイアン型ゴルフクラブの特性が優れていることの本質を追求し、柔らかい打感の発現がインパクト面の硬度が低いからではなく、粗面化によるものであることを見出し、耐久性に乏しいAgめっき皮膜を用いずに柔らかい打感を備え、耐久性にも優れた新たなアイアン型ゴルフクラブを提案するのである。つまり、本発明は、軟鉄鍛造ヘッドに表面処理を施すことによってアイアン型ゴルフクラブの特性改善を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の課題解決のために、本発明は、フェースのインパクト面に粗面化処理を施した軟鉄鍛造ヘッドの全面に下地層を形成するとともに、その上の全面に無電解Ni−P−Wめっき皮膜の表層を形成し、前記下地層の硬度を表層よりも低くし
、前記インパクト面に対応する表層の表面粗さが、Ra:3.0〜4.57μm、Ry:20.0〜25.0μmであることを特徴とするアイアン型ゴルフクラブを構成した。
【0012】
そして、前記下地層が、電解めっき法で形成したCuめっき層又はNiめっき層からなることが好ましい。更に、前記下地層の厚みが5〜20μm、前記表層の厚みが10〜30μmであることが好ましい。
【0013】
また、前記無電解Ni−P−Wめっき皮膜を形成する際に、300〜700℃の範囲で熱処理を施すことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上にしてなる本発明のアイアン型ゴルフクラブは、フェースのインパクト面に粗面化処理を施した軟鉄鍛造ヘッドの全面に下地層を形成するとともに、その上の全面に無電解Ni−P−Wめっき皮膜の表層を形成し、前記下地層の硬度を表層よりも低くしたので、以下の効果を奏する。先ず、下地層は腐食に対する犠牲皮膜として耐食性の向上を図るとともに、高硬度の無電解Ni−P−Wめっき皮膜の応力を分散させ、曲げに対する応力割れを防止できる。また、表層の無電解Ni−P−Wめっき皮膜は表面硬度が高く且つ摩擦係数が低く滑り性に優れているので、耐摩耗性及び接触抵抗(クラブヘッドのソール面)が軽減するのである。つまり、軟鉄鍛造ヘッドの全面に形成した無電解Ni−P−Wめっき皮膜は、Crめっき皮膜よりも表面硬度が高く、摩擦係数も低いことから、振り抜け性を改善でき、それにより距離コントルール性にも優れるとともに、インパクト面の表面粗さ状態を長期間維持でき、耐久性にも優れたものになる。また、下地層は無電解Ni−P−Wめっき皮膜の表層よりも硬度が低いので、ホーゼルを曲げてライ角やロフト角を微調整しても表層がひび割れることがない。
【0015】
そして、前記インパクト面に対応する表層の表面粗さを、Ra:3.0〜4.57μm、Ry:20.0〜25.0μmの範囲に設定することにより、ボールがインパクト面に長い時間接触するような感覚、つまり柔らかい打感が得られ、特に公式競技のルールブック(世界統一基準)の上限付近のRa:4.0〜4.2μm、Ry:23.0〜24.0μmにすれば、更に優れた打感になる。本発明のインパクト面の粗面化は、装飾目的で施される粗面化に比べて遥かに粗い面となる処理であり、その粗面化処理によって、バックスピン性能とフライヤーが改善され、弾道のコントロール性も良くなるのである。
【0016】
前記下地層が、電解めっき法で形成したCuめっき層又はNiめっき層であると、更に前記下地層の厚みが5〜20μm、前記表層の厚みが10〜30μmであると、犠牲皮膜による耐食性向上と表層より低硬度となるので好ましい。
【0017】
前記無電解Ni−P−Wめっき皮膜を形成する際に、300〜700℃の範囲で熱処理を施すことにより、Ni−P−Wめっき皮膜の硬度が高くなる反面、軟鉄鍛造ヘッドには低温焼きなましの作用が働き、軟鉄素地の硬度を低下させるような物性的変化が生じているものと予想され、打感等の向上にも繋がったものと思われる。
【0018】
フェアウェイ、ラフ、ディポット跡、バンカー等でショットすることで、本発明のアイアン型ゴルフクラブにおける優位性が顕著になった。特に、ボールが沈んでしまうようなライでも、表層にNi−P−Wめっき皮膜を形成しているので、ヘッドソール部分にかかる抵抗が少なく、非常に抜け性が良い結果が得られた。通常、このようなケースでは、芝による抵抗によりボールにパワーが十分に伝わらなかったり、抵抗に負けたりと結果が悪くなることの方が多い状況になるにも関わらず、そのような状態でも安定にショットでき、フライヤーが防止できる。通常品と比較しても、様々な状況で振り抜け感が優れている。また、ゴルフシミュレータでスピン量を測定した際に、Ni−P−Wめっき皮膜を形成したゴルフクラブは、クロムめっき皮膜を形成した市販品と比較してスピン量の増加が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】アイアン型ゴルフクラブのヘッド部分の正面図である。
【
図2】アイアン型ゴルフクラブのヘッド部分の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。
図1及び
図2は本発明に係るアイアン型ゴルフクラブのヘッド部分を示し、図中符号1はヘッド、2はシャフト、3はフェース、4はインパクト面、5はスコアライン、6はホーゼル、7はヒール、8はトウ、9はトップ、10はヒールをそれぞれ示している。一般的なヘッド1は、フェース3におけるスィートスポットを含む中央領域がインパクト面4となっており、該インパクト面4には水平に複数本の凹溝からなるスコアライン5,…が平行に形成されている。本発明では前記ヘッド1の形状は特に限定されない。
【0021】
本発明は、軟鉄鍛造ヘッド1に表面処理を行ったアイアン型ゴルフクラブを対象としている。一般的に、炭素含有量が0.02%〜約2%の範囲の鋼を炭素鋼、炭素含有量が0.1%以下の鋼を軟鉄と分類されている。ゴルフ業界では軟鉄鍛造ヘッドと称されるものには、厳密には軟鉄ではないものの、S25C(炭素含有量が0.25%)を使用したものも含まれている。ここで、炭素鋼のうち、炭素含有量が約0.3%以下のものを低炭素鋼と細分類されている。従って、本発明において「軟鉄」という場合には、この「低炭素鋼」に相当する鋼を含む概念として使用している。
【0022】
一般的に、クラブの標準ロフトは、ピッチングウェッジ(PW)が約48度、サンドウェッジ(SW)が約56度である。通常、アイアンのロフトは4度刻みであるので、その間だけが8度では中間距離(大体80〜90ヤード)を打つのが難しい、ということで中間の52度をアプローチウェッジ(AW)と設定して提供されている。更に、微妙な飛距離を制御するために、ロフトを2度刻みで調節したアプローチウェッジも存在する。本発明は、特にこれらウェッジ型の軟鉄鍛造ヘッド1に適用すると、特に効果が顕著であるが、1番から9番のアイアンにおいても効果は高い。
【0023】
図3及び
図4は、実施形態を示し、軟鉄鍛造ヘッド1におけるフェース3のインパクト面4に粗面化処理を施して粗面11を形成し、全面に下地層12を形成するとともに、その上の全面に無電解Ni−P−Wめっき皮膜13の表層を形成し、前記下地層12は表層13よりも硬度を低くしたものである。無電解Ni−Pめっき皮膜13の下地層12を設けるのは、ヘッド素材と無電解Ni−P−Wめっき皮膜13の熱膨張率の違いを吸収するバッファとしての作用と密着性を高めるため、更には腐食に対する犠牲皮膜として耐食性の向上、表層13の応力分散を目的としている。
【0024】
図1に示すように、前記インパクト面4には水平方向にスコアライン5を設けてあり、ショットブラスト処理して粗面化し、その上に下地層12と表層13を形成した状態は
図4に模式化して示している。
【0025】
前記インパクト面4に粗面化には、ショットブラスト処理を用いる。ここで、前記インパクト面4に対応する表層の表面粗さを、Ra:3.0〜4.57μm、Ry:20.0〜25.0μmの範囲にする。特に、表面粗さを、Ra:4.0〜4.2μm、Ry:23.0〜24.0μmの範囲にすることが最も特性が良い。ここで、表面粗さは、公式競技のルールブック(世界統一基準)では、算術平均粗さ(Ra)4.57μm以下、最大高さ(Ry)25μm以下の範囲になるように定められている。本発明は表面粗さの許容範囲の上限に近い範囲である。
【0026】
また、前記下地層12は、電解めっき法で形成したCuめっき層又はNiめっき層である。特に、Cuめっき層を下地層12とすることが密着性、硬度の点で好ましい。そして、前記下地層12の厚みを5〜20μm、前記表層13の厚みを10〜30μmの範囲に設定する。
【0027】
通常、Ni−P−Wめっき皮膜は、無電解めっきで形成したままでは非晶質であるが、その後、熱処理を行うことにより、非晶質から結晶質へ変化して硬度が高くなる。ここで、Ni−P−Wめっき皮膜の熱処理温度は通常は200〜600℃であり、好ましくは300℃〜400℃程度で、処理時間は1〜2時間である。
【0028】
ところで、軟鉄鍛造ヘッドは、加熱→鍛造→焼きなましの工程を繰り返して加工する。軟鉄鍛造ヘッドは、作業工程で季節変動も含めて温度管理にバラツキがあることが原因で同じアイアンセットでもヘッド素材の硬さが異なる場合がある。また、鍛造工程で表面の変質部分が酸化スケールとなって脱落するので、同じ番手のヘッドでも製作時に重さのバラツキが生じることは避けられない。また、軟鉄鍛造ヘッドは、熱処理(低温焼なまし)を行って加工硬化したヘッド素材の硬度を低下させ、打感を良くすることも行われている。ここで、一般的に、0.02%以上炭素が含まれている炭素鋼では、A
1変態点以下の温度(例えば700℃)で低温焼きなましを行うことにより、鍛造工程で生じた内部応力を除去することも行われている。
【0029】
本発明では、無電解Ni−P−Wめっき皮膜形成後の熱処理温度を300〜700℃とし、該Ni−P−Wめっき皮膜の硬度を高めると同時に、軟鉄鍛造ヘッドの低温焼きなましを付随的に実施できるようにし、ヘッド素材の硬さを低下させて打感を改善し、また内部応力が除去されることを期待している。
【0030】
また、無電解めっきは、めっき浴組成、温度、めっき時間などのめっき条件を制御することによって、めっき皮膜の厚さを正確に制御できる。つまり、軟鉄鍛造ヘッドの表面に正確な厚さ、正確な重さのめっき皮膜を形成することができ、ヘッドの重さのバラツキを、めっき皮膜の重さで調節することができ、製品品質を向上させることも可能である。しかも、無電解めっきは、複雑な形状のヘッドの表面に均一厚さでめっき皮膜を形成することができるので、ヘッド自体の重量バランスを崩すことがなく、使用者の好みに応じて、重さを微調節することができる。
【実施例1】
【0031】
先ず、サンドウェッジの軟鉄鍛造ヘッドのインパクト面以外の部分をマスクで覆い、ショットブラスト処理によってインパクト面を粗面化した。その上に、全面にわたり下地層として厚さ5μmの銅めっき層を形成し、その上に厚さ25μmの無電解Ni−P−Wめっき皮膜を形成した。めっき皮膜を形成したヘッド1を、大気炉中で、330℃、1時間の条件で熱処理した。
【0032】
ここで、下地層に使用した銅めっき浴は、ピロリン酸銅及びピロリン酸カリウムを含有した水溶液で汎用的なものであるが、表1にその欲組成を示す。
【0033】
【表1】
また、表層に使用した無電解Ni−P−Wめっき浴は、無電解ニッケルめっき浴に、タングステン酸及またはその塩含有し、リン酸またはその塩を含有する水溶液である。表2に具体的な浴組成を示している。
【0034】
【表2】
【0035】
このように表面処理を行った本発明品と他社市販品(A〜C社の市販品)のインパクト面4の表面粗さを、それぞれ5点測定して比較した結果を表3に示す。また、本発明品と他社市販品のヒール10の表面硬度及び摩擦係数を測定して比較した結果を表4に示す。表面硬度はA〜C社の市販品をそれぞれ1点測定した結果であり、摩擦係数は3社の測定値の平均値である。
【0036】
【表3】
【0037】
表3より、他社市販品のインパクト面の表面粗さは、Ra:0.8〜2.0μm、Ry:5.0〜12.0μm程度であるのに対し、本発明品では、Ra:4.0〜4.2μm、Ry:23.0〜24.0μmと大幅に粗面化されていることが分かる。粗面化されたインパクト面によってバックスピン性能が改善される。
【0038】
【表4】
【0039】
表4より、本発明品は一般市販品(Cr/Niめっき)よりも表面硬度(ビッカース)がHv100程度高く、また摩擦係数が静摩擦、動摩擦とも半分程度に低くなっていることが分かる。このことにより、本発明品は、高硬度ゆえに、インパクト面の粗面化表面を長期間維持でき、またソールの滑りが良くなって振り抜け感を改善でき、更に傷付き難く、耐久性が高くなることが分かった。
【0040】
そして、本発明(NiPW/Cu)と一般の他社市販品(Cr/Niめっき)のサンドウェッジを、プロゴルファー5名に各種フィールド環境で実際にボールを打って貰い6項目について評価を行った。6項目とは(1)バックスピン性能、(2)弾道の方向性、(3)打感、(4)振り抜け感、(5)距離コントロール性、(6)フライヤー改善である。評価基準は、◎:極めて良好、○:良好、△:普通、×:劣る、の4段階である。ここで、フライヤーとは、ラフからのショット時に、ボールとフェース面に芝を巻き込み、ボールが滑ることでバックスピン発生せず、使用クラブによる想定飛距離で止まらない状態になるこという。打感とは、ショット時の感触で、低反発である程、繊細なコントロールが可能である。振り抜け感とは、ボールがフェースのインパクト面に当たった後のスイングの軽やかさをいう。
【0041】
【表5】
【0042】
表5より、本発明品は、全項目とも全体的に評価が高く、特に振り抜け感、距離コントロール性、フライヤー改善は顕著であり、打感にも優れていることがわかる。Ni−P−W処理によりソール面の滑り特性が向上しているものと考えられ、振り抜け感に表れている。硬度的には市販品の「Ni+Crめっき仕様」よりHv100程度高いが、摩擦係数は大幅に低くなっており、振り抜け感の良さともリンクしている。また、インパクト面の粗面化によって、バックスピン性能が向上することが確認できた。総合的な評価として、「ボールがフェース面に乗っている時間が長く感じられる。ソールの滑りが良く、振り抜け感が向上している。ボールコントロールが容易になり、狙い通りの距離、方向を定め易い。」といったコメントがある。
【符号の説明】
【0043】
1 ヘッド、
2 シャフト、
3 フェース、
4 インパクト面、
5 スコアライン、
6 ホーゼル、
7 ヒール、
8 トウ、
9 トップ、
10 ソール、
11 粗面
12 下地層、
13 Ni−P−Wめっき皮膜、
I インパクト面領域。