特許第6520287号(P6520287)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6520287水性塗料、水性塗料の製造方法および被覆缶
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  • 特許6520287-水性塗料、水性塗料の製造方法および被覆缶 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6520287
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】水性塗料、水性塗料の製造方法および被覆缶
(51)【国際特許分類】
   C09D 151/06 20060101AFI20190520BHJP
   C09D 161/12 20060101ALI20190520BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20190520BHJP
   C09D 133/26 20060101ALI20190520BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20190520BHJP
【FI】
   C09D151/06
   C09D161/12
   C09D5/02
   C09D133/26
   C09D7/63
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-63723(P2015-63723)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-193834(P2015-193834A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2018年1月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-67901(P2014-67901)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】夏本 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】山下 泰則
(72)【発明者】
【氏名】池田 高康
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−089716(JP,A)
【文献】 特開2003−261626(JP,A)
【文献】 特開2008−255205(JP,A)
【文献】 特開2005−179490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00〜 10/00
101/00〜201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の存在下に、カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共重合体(B)によって乳化されたモノマー(A)を、ノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)によって重合してなるポリマーエマルション(D1)と、
フェノール樹脂(E)と、
酸触媒(F)とを
有する、飲料もしくは食品を収容するための缶材の内面被覆用水性塗料であって、
前記モノマー(A)は、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれるいずれかのアミド系モノマー(A1)をモノマー(A)100重量%中、0.01〜5.03重量%、およびスチレンを含み、
前記水性塗料は、前記ポリマーエマルション(D1)の樹脂不揮発分100重量部に対してフェノール樹脂(E)0.5〜20重量部を含み、
前記フェノール樹脂(E)が、石炭酸、およびp−クレゾールからなる群より選択される多官能性フェノールと、アルデヒドとを反応させてなるものであり、
前記酸触媒(F)を、前記ポリマーエマルション(D1)および前記フェノール樹脂(E)の樹脂不揮発分の合計100重量部に対して0.005〜5重量部含む、
飲料もしくは食品を収容するための缶材の内面被覆用水性塗料。
【請求項2】
カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共重合体(B)および水を含む、ポリマー水溶液またはポリマー分散液の存在下に、モノマー(A)をノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)によって重合してなるポリマーエマルション(D2)と、
フェノール樹脂(E)と、
酸触媒(F)とを
有する、飲料もしくは食品を収容するための缶材の内面被覆用水性塗料であって、
前記モノマー(A)は、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれるいずれかのアミド系モノマー(A1)をモノマー(A)100重量%中、0.01〜5.03重量%、およびスチレンを含み、
前記水性塗料は、前記ポリマーエマルション(D2)の樹脂不揮発分100重量部に対してフェノール樹脂(E)0.5〜20重量部を含み、
記フェノール樹脂(E)が、石炭酸、およびp−クレゾールからなる群より選択される多官能性フェノールと、アルデヒドとを反応させてなるものであり、
前記酸触媒(F)を、前記ポリマーエマルション(D1)および前記フェノール樹脂(E)の樹脂不揮発分の合計100重量部に対して0.005〜5重量部含む、
飲料もしくは食品を収容するための缶材の内面被覆用水性塗料。
【請求項3】
飲料もしくは食品を収容するための缶材の内面を請求項1または2記載の飲料もしくは食品を収容するための缶材の内面被覆用水性塗料で被覆してなることを特徴とする被覆缶。
【請求項4】
水の存在下に、カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共重合体(B)を使用して乳化したモノマー(A)を、ノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)を使用して重合させ、ポリマーエマルション(D1)を得る工程と;
前記ポリマーエマルション(D1)、フェノール樹脂(E)および酸触媒(F)を混合する工程;とを含む、飲料もしくは食品を収容するための缶材の内面被覆用水性塗料の製造方法であって、
前記モノマー(A)は、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれるいずれかのアミド系モノマー(A1)をモノマー(A)100重量%中、0.01〜5.03重量%、およびスチレンを含み、
前記水性塗料は、ポリマーエマルション(D1)の樹脂不揮発分合計100重量部に対してフェノール樹脂(E)0.5〜20重量部を含み、
前記フェノール樹脂(E)が、石炭酸、およびp−クレゾールからなる群より選択される多官能性フェノールと、アルデヒドとを反応させてなるものであり、
前記酸触媒(F)を、前記ポリマーエマルション(D1)および前記フェノール樹脂(E)の樹脂不揮発分の合計100重量部に対して0.005〜5重量部含む、
飲料もしくは食品を収容するための缶材の内面被覆用水性塗料の製造方法。
【請求項5】
カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共重合体(B)および水を含む、ポリマー水溶液またはポリマー分散液の存在下に、モノマー(A)をノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)を使用して重合させ、ポリマーエマルション(D2)を得る工程と;
前記ポリマーエマルション(D2)、フェノール樹脂(E)および酸触媒(F)を混合する工程;
とを含む、飲料もしくは食品を収容するための缶材の内面被覆用水性塗料の製造方法であって、
前記モノマー(A)は、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれるいずれかのアミド系モノマー(A1)をモノマー(A)100重量%中、0.01〜5.03重量%、およびスチレンを含み、
前記水性塗料は、アクリル系共重合体(B)およびモノマー(A)の合計100重量部に対してフェノール樹脂(E)0.5〜20重量部を含み、
前記フェノール樹脂(E)が、石炭酸、およびp−クレゾールからなる群より選択される多官能性フェノールと、アルデヒドとを反応させてなるものであり、
前記酸触媒(F)を、前記ポリマーエマルション(D1)および前記フェノール樹脂(E)の樹脂不揮発分の合計100重量部に対して0.005〜5重量部含む、
飲料もしくは食品を収容するための缶材の内面被覆用水性塗料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶の被覆に使用する水性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、缶用塗料ではエポキシ樹脂を主体とする塗料が一般的である。その中でも特にビスフェノールA(BPA)型エポキシ樹脂をアクリル樹脂で変性した樹脂を主体とした水性塗料は、耐レトルト性、加工性等に優れるといった理由から幅広く用いられている。
しかし、近年、環境ホルモン等の毒性の懸念からほ乳瓶などの乳幼児向け容器についてBPAを構成成分とする樹脂の使用を禁止するなどの規制が世界各国で進んでいる。
そのため食品容器・包装分野では、BPA型エポキシ樹脂を使用しない缶内面用塗料が要求されていた。
【0003】
BPA型エポキシ樹脂以外で、BPA型エポキシ樹脂と同等の加工性、密着性を持つ樹脂として、例えば、乳化重合法により合成したエマルション型アクリル樹脂がある。乳化重合法で合成したエマルション型アクリル樹脂は、一般に、溶液重合法で合成したアクリル樹脂と比べ、非常に高分子量になることが知られており、エマルション型アクリル樹脂は高分子量になることで、良好な加工性、密着性が得られると考えられる。しかし、一般に乳化重合法は、乳化剤として界面活性剤を使用するので、塗料から形成した塗膜中に残存する界面活性剤の影響により耐レトルト性が悪化し、塗膜の白化やブリスター(点状剥離)を生じる問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1では、界面活性剤の代わりカルボキシル基及びカルボキシル基以外の架橋性官能基を有する水性アクリル重合体を高分子量乳化剤として使用したN−ブトキシメチロールアクリルアミドを含むモノマーの水性分散液を別途準備した水溶性樹脂の存在下に、乳化重合をした樹脂を含む水性塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−155234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の水性塗料を使用した缶は、レトルト処理を行うと塗膜の白化、およびブリスター(点状剥離)が発生する問題があった。また、一般的にアミド結合を有するアミド系モノマーには、不純物としてアクリルアミドが含まれるが、欧州連合のREACH規則では、アクリルアミドは毒性の懸念のある「SVHC」として指定されているためアクリルアミドをできるだけ除去したいが、アクリルアミドが塗膜に残留するという衛生性の問題があった。
【0007】
本発明は、BPA由来の構成成分を全く用いず、耐レトルト性が良好で塗膜の白化やブリスターを抑制した、衛生性の良好な水性塗料およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水性塗料は、水の存在下に、カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共重合体(B)によって乳化されたモノマー(A)を、ノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)によって重合してなるポリマーエマルション(D1)、およびフェノール樹脂(E)を含有し、
前記モノマー(A)は、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれるいずれかのアミド系モノマー(A1)をモノマー(A)100重量%中、0.01〜5重量%含み、
前記ポリマーエマルション(D1)の樹脂不揮発分100重量部に対してフェノール樹脂(E)0.5〜20重量部を含む。
【発明の効果】
【0009】
上記の本発明によれば、特定の官能基を有するアクリル系高分子乳化剤を使用して乳化重合したポリマーエマルションを含む水性塗料は、耐レトルト性が良好で、塗膜の白化およびブリスターが生じ難いのみならず、水性塗料中のアクリルアミドの残留モノマー量を抑制できたため良好な衛生性という効果が得られた。
【0010】
本発明により、BPA由来の構成成分を全く用いず、耐レトルト性が良好で塗膜の白化やブリスターを抑制した、衛生性の良好な水性塗料およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、加工性試験の試験片の作製方法を説明する。(a)テストパネルを折り曲げる前の模式図、(b)テストパネルを折り曲げて試験片を作製する説明の模式図、(c)試験片におもりを落下させる方法を説明した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を詳細に説明する前に用語を説明する。まず、本発明において用いられるモノマーは、エチレン性不飽和モノマーである。また(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタクリル酸を含む。同様に(メタ)アクリレートは、アクリレートおよびメタクリレートを含む。また、本発明において用いられるノニオン性のラジカル開始剤については、水への溶解度が20℃条件下で1.0重量%以上のものを「水溶性」と定義し、水への溶解度が1.0重量%未満であるものについては「非水溶性」とする。また「ノニオン性」とは、水中において分子構造中にカチオン部分、アニオン部分のいずれもが生成し得ない性質のこといい「ノニオン性」の対義語として表記する「イオン性」とは、水中において分子構造中にカチオン部分、もしくはアニオン部分が存在し得る性質をいう。塗膜は、水性塗料を金属板等に塗装し、架橋が完了した後の被膜をいう。Tgは、ガラス転移温度である。
【0013】
本発明の水性塗料は、水の存在下に、カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共重合体(B)(以下、アクリル系共重合体(B)という)によって乳化されたモノマー(A)を、ノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)によって重合してなるポリマーエマルション(D1)、およびフェノール樹脂(E)を含有し、
前記モノマー(A)は、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれるいずれかのアミド系モノマー(A1)をモノマー(A)100重量%中、0.01〜5重量%含み、
前記ポリマーエマルション(D1)の樹脂不揮発分100重量部に対してフェノール樹脂(E)0.5〜20重量部を含む。
【0014】
本発明の水性塗料は、金属、プラスチックス等の部材を被覆する塗膜を形成する目的で使用する。本発明の水性塗料を用いることにより塗膜を形成する対象は、具体的には、鋼材、プラスチックス成形品、被覆缶等が好ましく、内容物として飲料水、清涼飲料水、コーヒー、お茶、ビール、チュウハイ、日本酒、ウイスキー、水割りおよびその他アルコール飲料等の飲料、ならびに魚肉、畜肉、野菜、果実、油、およびソース等の食品や飲料を収納する被覆缶がより好ましいが、エンジンオイル等の食品用途以外のものを収納することもできる。
【0015】
まず、本発明の水性塗料の第一の実施態様を説明する。
本発明においてポリマーエマルション(D1)は、カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共重合体(B)を高分子乳化剤として使用し、アミド系モノマー(A1)を含むモノマー(A)をノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)で乳化重合して得る。
【0016】
<アクリル系共重合体(B)>
アクリル系共重合体(B)は、カルボキシル基を有するモノマーと、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないモノマーとを共重合して得た共重合体である。そのためアクリル系共重合体(B)は、カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有さない。
なお架橋性官能基は、架橋反応が可能な官能基であり、例えばカルボキシル基、エポキシ基、水酸基およびアミノ基等である。
【0017】
アクリル系共重合体(B)は、水に溶解ないし分散することで、モノマー(A)を乳化し、モノマー(A)の乳化重合を可能にする。
【0018】
カルボキシル基含有モノマーは、例えば(メタ)アクリル酸、(無水)イタコン酸、(無水)マレイン酸等が挙げられる。なお、2つのカルボキシル基から脱水されて生成する酸無水物基含有モノマーも、本発明におけるカルボキシル基含有モノマーに含む。
【0019】
架橋性官能基を有しないモノマーは、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
スチレン、メチルスチレン等の芳香族系モノマー等が挙げられる。なお、アミド系モノマーをアクリル系共重合体(B)に使用することは好ましくない。
【0020】
カルボキシル基含有モノマーは、カルボキシル基を有するモノマーおよび架橋性官能基を有しないモノマーの合計100重量%中、10重量%以上含むことが好ましく、15〜90重量%含むことがより好ましく、20〜80重量%含むことがさらにより好ましい。
【0021】
架橋性官能基を有しないモノマーのなかでアルキル(メタ)アクリレートは、カルボキシル基を有するモノマーおよび架橋性官能基を有しないモノマーの合計100重量%中、5〜90重量%含むことが好ましく、6〜85重量%含むことがより好ましく、10〜80重量%がさらにより好ましい。5重量%以上配合することで加工性が向上し、90重量%以下とすることで耐食性が向上する。
【0022】
架橋性官能基を有しないモノマーのなかで芳香族系モノマーは、カルボキシル基を有するモノマーおよび架橋性官能基を有しないモノマーの合計100重量%中、1〜80重量%含むことが好ましく、5〜75重量%含むことがより好ましく、10〜70重量%がさらにより好ましい。1重量%以上配合することで耐食性が向上し、80重量%以下とすることで加工性が向上する。
【0023】
アクリル系共重合体(B)の合成は、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、および塊状重合等の公知の重合手法を使用できるが、本発明では、分子量および反応のコントロールが容易な溶液重合が好ましい。なお溶液重合の際、水も使用できる。
【0024】
また、モノマー(A)の乳化重合の際に非水溶性の有機溶媒が存在すると塗膜の物性が低下する傾向にある。そこで溶液重合でアクリル系共重合体(B)を得た場合は、減圧法等により脱溶剤を行い有機溶剤を留去してからモノマー(A)の乳化重合に使用することが好ましい。
【0025】
アクリル系共重合体(B)の数平均分子量は、5000〜10万であることが好ましく、7000〜9万であることがより好ましく、1万〜7万であることがさらにより好ましい。数平均分子量が5000以上になることで得られるポリマーエマルション(D1)の溶液安定性がより向上し、凝集物の生成をより低減できる。また、数平均分子量が10万以下になることで、塗料の粘度を塗装しやすい粘度に調整し易くなり、凝集物もより低減できる。
【0026】
アクリル系共重合体(B)のTgは、−15℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましい。前記Tgの上限は、アクリル系共重合体(B)が高分子乳化剤として機能すれば良いため特に限定されないが、130℃以下程度が好ましく、100℃以下がより好ましい。
【0027】
<ノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)>
本発明の水性塗料は、モノマー(A)の重合反応にノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)を使用する。
水溶性ラジカル開始剤は、その分子構造上、イオン性とノニオン性との大きく二種類に分けられる。これら二種類の水溶性ラジカル開始剤は、モノマーと反応し、ポリマーエマルションを形成するという点では共通であるが、ポリマーエマルションそのものの性質に着目した場合に大きな差が生じる。
例えば、過硫酸アンモニウムのように分子内にイオン性官能基である過硫酸塩構造を有するイオン性の水溶性ラジカル開始剤を使用して乳化重合を行った場合、ラジカル開始剤由来のイオン性官能基は、重合反応を通してポリマーエマルション中に組み込まれる。このイオン性官能基は親水性に富むため、ポリマーエマルションの粒子の表層に存在し、ポリマーエマルションの親水性が高まる。そのため前記ポリマーエマルションを含む塗料から形成した塗膜の親水性を高めてしまう。それゆえ塗膜の耐水性、耐レトルト性が低下し、塗膜の白化やブリスター(点状剥離)が生じやすくなる。
一方、過酸化物ないしアゾ開始剤のようなノニオン性の水溶性ラジカル開始剤を使用して乳化重合を行った場合、得られたポリマーエマルションには親水性を高める、水溶性ラジカル開始剤由来のイオン性官能基が存在することはなく、塗膜の親水性を高めることがない。そのためノニオン性の水溶性ラジカル開始剤を使用すると耐水性、耐レトルト性が良好な塗膜を形成できる。
【0028】
ノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)は、過酸化物およびアゾ開始剤が好ましい。
前記過酸化物は、例えば、過酸化水素、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、およびp−メンタンヒドロパーオキサイド等が挙げられる。
前記アゾ開始剤は、例えば2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2'−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等が挙げられる。
これらの中でも過酸化物が好ましく、過酸化水素およびtert−ブチルハイドロパーオキサイドがより好ましい。
ノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)は、単独で使用するかまたは2種類以上を併用することができる。
【0029】
また、本発明では重合反応の際、ノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)(この場合、酸化剤になる)に還元剤を併用して重合(レドックス系重合)することが好ましい。モノマーをレドックス系重合で重合反応を行うと、重合速度を速めること、および低い温度で重合反応が可能になること、というメリットがある。
【0030】
前記還元剤は、還元性有機化合物、還元性無機化合物等が好ましい。
前記還元性有機化合物は、例えばアスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラートなどの金属塩等が挙げられる。
前記還元性無機化合物は、例えばチオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0031】
ノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)は、モノマー(A)100重量部に対して、0.01〜1重量部程度を使用することが好ましい。
また、還元剤は、モノマー(A)100重量部に対して、0.01〜2重量部程度を使用することが好ましい。
【0032】
<モノマー(A)>
モノマー(A)は、アミド系モノマー(A1)および他のモノマーを含む。
アミド系モノマー(A1)は、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれるいずれかである。具体的には、例えばN−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−、イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド;、及び(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0033】
前記他のモノマーは、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するモノマー;
スチレン、メチルスチレン等の芳香族系モノマー等が挙げられる。
モノマー(A)は、単独で使用するかまたは2種以上併用することができる。
【0034】
アミド系モノマー(A1)は、モノマー(A)100重量部中、0.01〜5重量部含むことが好ましく、0.1〜4重量部含むことがより好ましく、0.2〜3重量部がさらにより好ましい。アミド系モノマー(A1)を0.01重量部以上含むことで架橋密度がより向上するため、塗膜の硬化性がより向上する。またアミド系モノマー(A1)を5重量部以下含むことで残留モノマーをより抑制できるため衛生性がより向上する。
【0035】
本発明の水性塗料は、塩基性化合物を含むことが好ましい。
前記塩基性化合物は、本発明において、アクリル系共重合体(B)中のカルボキシル基の一部ないし全部を中和するために使用する。
塩基性化合物は、有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等が好ましい。
前記有機アミン化合物は、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
前記アルカリ金属の水酸化物は、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
塩基性化合物は、水性塗料のpHを5〜9程度に調整できれば良いため使用量は限定されないところ、アクリル系共重合体(B)中のカルボキシル基の100重量部に対して、20〜70重量部程度の割合で使用することが好ましい。
塩基性化合物は、単独で使用するかまたは2種類以上併用することができる。
【0036】
<ポリマーエマルション(D1)>
本発明においてポリマーエマルション(D1)は、モノマー(A)の重合体をコア部、アクリル系共重合体(B)をシェル部としたコアシェル型ポリマーエマルションである。なお、ポリマーエマルション(D1)は重合体および水等の溶媒で構成されている。
【0037】
ポリマーエマルション(D1)の合成は、水の存在下に、カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共重合体(B)を高分子乳化剤としてモノマー(A)を、乳化重合して行う。
乳化重合は、公知の重合方法を使用できる。1例を挙げると、モノマー(A)をアクリル系共重合体(B)および塩基性化合物を使用して乳化(プレ乳化という)を行った後、反応槽へ供給して乳化重合することができる。
【0038】
ノニオン性の水溶性ラジカル重合開始剤(C)の使用方法は、乳化重合反応の際、アクリル系共重合体(B)と共に混合して使用する方法、モノマー(A)を添加する際または添加した後、反応槽中に添加して使用する方法が好ましい。ノニオン性の水溶性ラジカル重合開始剤(C)の添加方法は、間欠的、連続的、および一括添加等から適宜できる。
前記プレ乳化の際にアクリル系共重合体(B)と共に水溶性ないし水分散性樹脂を使用できる。前記水溶性ないし水分散性樹脂は、カルボキシル基を含有するポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、およびポリビニルアルコール、ならびにその誘導体等を適宜使用できる。
【0039】
乳化重合に際し、アクリル系共重合体(B)は、モノマー(A)100重量部に対して10〜200重量部使用することが好ましく、15〜150重量部使用することがより好ましく、20〜100重量部使用することがさらにより好ましい。アクリル系共重合体(B)が10重量部以上になることでモノマー(A)の乳化が容易になる。またアクリル系共重合体(B)が200重量部以下になることで塗膜の加工性が向上する。
【0040】
ポリマーエマルション(D1)中のポリマーのガラス転移温度(以下、「Tg」という)は、0℃〜100℃が好ましく、0℃〜70℃がより好ましい。Tgが0℃以上になることで塗膜がより傷つきにくくなる。またTgが100℃以下になることで塗膜の加工性がより向上する。
【0041】
なお、ポリマーのTgは、モノマー(A)およびアクリル系共重合体(B)を構成するモノマーのホモTgと配合比から算出した計算値である。本発明では、FOXの式を使用することが好ましい。
【0042】
本発明では、乳化重合の際、水と共に水溶性有機溶剤を併用できる。前記併用によりモノマー(A)のプレ乳化が容易になる場合がある。
【0043】
本発明の水性塗料は、フェノール樹脂(E)を含有する。フェノール樹脂(E)は、自己架橋ないしアクリル系共重合体(B)のカルボキシル基、水酸基等の反応性官能基と反応する硬化剤として機能する。
フェノール樹脂(E)は、多官能性フェノールとアルデヒドとをアルカリ触媒の存在下で反応させた化合物が好ましい。
【0044】
前記フェノールとしては、例えば、o−クレゾール、p−パラクレゾール、p−フェニルフェノール、p−ノニルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノール、フェノール、m−クレゾール、3,5−キシレノール、レゾルシノール、ビスフェノールF、ビスフェノールB、ビスフェノールE、ビスフェノールH、ビスフェノールS、カテコール、およびハイドロキノン等が挙げられる。
【0045】
なお、フェノールは、フェノール性の水酸基に対して、オルト位とパラ位とが反応部位となる。従って、o−クレゾール、p−クレゾール、p−フェニルフェノール、p−ノニルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノール等は、1分子中に反応部位が2箇所あるため、当量数が2のフェノールであり、官能基が2となる。又、フェノール、m−クレゾール、3,5−キシレノール、レゾルシノール等は1分子中に反応部位が3箇所あるため、当量数が3のフェノールであり官能基が3となる。又、ビスフェノールF、ビスフェノールB、ビスフェノールE、ビスフェノールH、ビスフェノールS等のビスフェノールや、カテコール、ハイドロキノン等は1分子中に反応部位が4箇所あるため、当量数が4のフェノールであり、官能基が4となる。
【0046】
したがって、本発明において前記多官能性フェノールは、例えば石炭酸、m−クレゾール、3,5−キシレノール等の3官能性フェノールや、o−クレゾール、p−クレゾール、およびp−tert−ブチルフェノール等の2官能性フェノールが挙げられる。
また、前記アルデヒドは、ホルムアルデヒド等が好ましい。
【0047】
本発明の水性塗料は、さらにアミノ樹脂を含むことができる。アミノ樹脂は、フェノール樹脂(E)と同様に自己架橋ないしアクリル系共重合体(B)のカルボキシル基と反応する硬化剤として機能する。
前記アミノ樹脂は、例えば尿素、メラミンまたはベンゾグアナミンと、ホルムアルデヒドとを付加反応させた化合物等が挙げられる。
【0048】
本発明の水性塗料は、アミノ樹脂以外にもポリビニルアルコールおよびポリビニルアルコールならびにその誘導体等を硬化剤として使用できる。
【0049】
フェノール樹脂(E)やアミノ樹脂がホルムアルデヒドを使用して合成した化合物である場合、ホルムアルデヒドの付加により生成したメチロール基の一部ないし全部を、炭素数が1〜12なるアルコール類によってエーテル化を行い使用することがより好ましい。
これにより塗膜の基材への密着性を向上させることが出来る。
【0050】
フェノール樹脂(E)は、ポリマーエマルション(D1)の樹脂不揮発分100重量部に対して、0.5〜20重量部添加することが好ましく、1〜20重量部添加することがより好ましく、2〜15重量部添加することがさらにより好ましい。なお、アミノ樹脂を配合する場合でもフェノール樹脂(E)との合計配合量は、ポリマーエマルション(D1)の樹脂不揮発分100重量部に対して、0.5〜20重量部であることが好ましく、1〜20重量部であることがより好ましく、2〜15重量部であることがさらにより好ましい。
【0051】
本発明の水性塗料は、さらに酸触媒(F)を含むことができる。酸触媒(F)を含むと塗膜の硬度が向上する。これは、酸触媒(F)を含有させることにより、アミド系モノマー(A1)同士の自己架橋、アミド系モノマー(A1)とフェノール樹脂(E)との架橋、およびフェノール樹脂(E)同士の自己架橋の形成がより促進されるためであると考えられる。
酸触媒(F)は、例えばドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、および硫酸、ならびにこれらの中和物等が挙げられる。
酸触媒(F)は、ポリマーエマルション(D1)およびフェノール樹脂(E)の樹脂不揮発分の合計100重量部に対して0.005〜5重量部配合することがより好ましく、0.01〜5重量部配合することがより好ましい。酸触媒(F)を5重量部以下使用することで硬化性とブリードアウト性を両立しやすくなる。
【0052】
本発明の水性塗料は、必要に応じてワックス等の滑剤を配合できる。滑剤を配合すると、例えば、缶を製造する工程で塗膜の傷付きを防止し易くなる。
ワックスは、例えばカルナバワックス、ラノリンワックス、パーム油、キャンデリラワックス、ライスワックス等の天然系ワックス;、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;、ポリオレフィンワックス、テフロン(登録商標)ワックス等の合成ワックス等が挙げられる。
【0053】
本発明の水性塗料には、塗装性を向上させる目的で、親水性有機溶剤を配合できる。
親水性有機溶剤は、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、エチレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、1,3−ブチレングリコール−3−モノメチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジヘキシルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、プロピレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、ジプロピレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル等の各種エーテルアルコールないしはエーテル;
メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、フルフリルアルコール等のアルコール;
メチルエチルケトン、ジメチルケトン、ジアセトンアルコール等のケトン;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアルコキシエステル等が挙げられる。
親水性有機溶剤は、単独で使用するかまたは2種類以上併用することができる。
【0054】
本発明の水性塗料は、塗装性を向上させる目的で任意成分として疎水性有機溶剤や、界面活性剤、消泡剤等の各種助剤を配合できる。
【0055】
次に本発明の水性塗料の第二の実施態様を説明する。
第二の実施態様の水性塗料は、カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共重合体(B)および水を含む、ポリマー水溶液またはポリマー分散液の存在下に、モノマー(A)をノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)によって重合してなるポリマーエマルション(D2)、およびフェノール樹脂(E)を含有し、
前記モノマー(A)は、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれるいずれかのアミド系モノマー(A1)をモノマー(A)100重量%中、0.01〜5重量%含み、
前記ポリマーエマルション(D2)の樹脂不揮発分100重量部に対してフェノール樹脂(E)0.5〜20重量部を含む。
第一の実施態様との具体的な違いは、モノマー(A)をプレ乳化せずに乳化重合を行い、ポリマーエマルション(D2)を得ることである。その他は第一の実施態様と同様である。
【0056】
<ポリマーエマルション(D2)>
本発明においてポリマーエマルション(D2)は、モノマー(A)の重合体をコア部、アクリル系共重合体(B)をシェル部としたコアシェル型ポリマーエマルションである。
【0057】
ポリマーエマルション(D2)は、反応槽に水、およびアクリル系共重合体(B)を仕込み、次いでモノマー(A)を添加しながら乳化重合することで得る。かかる場合、アクリル系共重合体(B)は、塩基性化合物を使用して、ポリマー水溶液、またはポリマー分散液として使用することができる。
第二の実施態様は、プレ乳化した水溶液の粘度が非常に高く、反応装置の滴下槽からプレ乳化した水溶液を安定的に滴下することが難しいときに特にメリットがある。
【0058】
ポリマーエマルション(D2)の合成に使用する原料は、ポリマーエマルション(D1)の合成で使用する原料およびその配合量を使用できる。
【0059】
本発明の水性塗料の第三の実施態様を説明する。第三の実施態様は、第一の実施態様の変形例であり、次の通りである。
第三の実施態様の水性塗料は、水の存在下に、カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共重合体(B)によって乳化されたモノマー(A)を、ノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)によって重合してなるポリマーエマルション(D1)と、
フェノール樹脂(E)
とを含有する水性塗料であって、
前記モノマー(A)は、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれるいずれかのアミド系モノマー(A1)をモノマー(A)100重量%中、0.01〜5重量%含み、
前記水性塗料は、前記ポリマーエマルション(D1)の樹脂不揮発分100重量部に対してフェノール樹脂(E)0.5〜20重量部を含み、前記アクリル系共重合体(B)はスチレンを含まず、前記モノマー(A)もスチレンを含まない。各国で法規制や衛生基準が異なる場合がある。このような場合、水性塗料の原料にスチレンを使用しないことで、法規制や衛生基準に適応させることができる。
【0060】
本発明の水性塗料の第四の実施態様を説明する。第四の実施態様は、第二の実施態様の変形例であり、次の通りである。
第四の実施態様の水性塗料は、カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共重合体(B)および水を含む、ポリマー水溶液またはポリマー分散液の存在下に、モノマー(A)をノニオン性の水溶性ラジカル開始剤(C)によって重合してなるポリマーエマルション(D2)と、
フェノール樹脂(E)
とを含有する水性塗料であって、
前記モノマー(A)は、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれるいずれかのアミド系モノマー(A1)をモノマー(A)100重量%中、0.01〜5重量%含み、
前記水性塗料は、前記ポリマーエマルション(D2)の樹脂不揮発分100重量部に対してフェノール樹脂(E)0.5〜20重量部を含み、前記アクリル系共重合体(B)はスチレンを含まず、前記モノマー(A)もスチレンを含まない。各国で法規制や衛生基準が異なる場合がある。このような場合、水性塗料の原料にスチレンを使用しないことで、法規制や衛生基準に適応させることができる。
【0061】
本発明の水性塗料は、金属、プラスチックス等の部材を被覆する塗膜を形成する目的で使用する好ましく、飲料や食品等を収納する缶を被覆する用途が好ましく、缶の内面を被覆する用途がより好ましい。
前記金属は、アルミニウム、錫メッキ鋼板、クロム処理鋼板、ニッケル処理鋼板等が好ましく、さらにジルコニウム処理や燐酸処理等の表面処理を施すことができる。
【0062】
前記プラスチックスは、ポリエチレンおよびポリプロピレンポリオレフィン、ならびにポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等が好ましい。
【0063】
本発明の水性塗料の塗装方法は、エアースプレー、エアレススプレー、静電スプレー等のスプレー塗装、ロールコーター塗装、浸漬塗装、電着塗装等が好ましく、スプレー塗装がより好ましい。塗装の際、乾燥ないし焼き付け工程を行うことが好ましい。焼き付け条件は、150℃〜280で10秒〜30分間程度が好ましい。
【0064】
前記塗膜の厚みは、通常1〜50μm程度である。
【0065】
本発明の被覆缶は、飲料缶、食品用缶の缶胴部や缶蓋部等の用途に使用することが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。実施例中、「部」は、重量部を、「%」は、重量%をそれぞれ表す。
【0067】
数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することにより決定することができる。
【0068】
[合成例1]アクリル系共重合体(B1−1)の合成
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル8部、イオン交換水18.2部を仕込んで、加熱を開始し100℃程度で還流した。還流を維持したままメタクリル酸10部、スチレン6部、アクリル酸エチル4部、および過酸化ベンゾイル0.3部の混合物を滴下槽から4時間にわたって連続滴下し重合した。
滴下終了から1時間後、及び2時間後に過酸化ベンゾイル0.03部をそれぞれ添加し、滴下終了から3時間反応を継続した。次いで冷却することで数平均分子量25000、ガラス転移温度80℃のアクリル系共重合体の溶液(不揮発分41%)を得た。
次に、ジメチルエタノールアミン5.2部を添加して、10分間撹拌した後、イオン交換水46.3部を加えアクリル系共重合体を水に溶解させた。その結果、不揮発分20%の、カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共重合体(B1−1)水溶液を得た。
【0069】
[合成例2]アクリル系共重合体(B1−3)の合成
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル8部、イオン交換水18.2部を仕込んで、加熱を開始し100℃程度で還流した。還流を維持したままメタクリル酸10部、メタクリル酸メチル6部、アクリル酸エチル4部、および過酸化ベンゾイル0.3部の混合物を滴下槽から4時間にわたって連続滴下し重合した。
滴下終了から1時間後、及び2時間後に過酸化ベンゾイル0.03部をそれぞれ添加し、滴下終了から3時間反応を継続した。次いで冷却することで数平均分子量25000、ガラス転移温度80℃のアクリル系共重合体の溶液(不揮発分41%)を得た。
次に、ジメチルエタノールアミン5.2部を添加して、10分間撹拌した後、イオン交換水46.3部を加えアクリル系共重合体を水に溶解させた。その結果、不揮発分20%の、カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共重合体(B1−3)水溶液を得た。
【0070】
[比較合成例1]アクリル系共重合体(B1−2)の合成
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル8部、イオン交換水18.2部を仕込んで、加熱を開始し100℃程度で還流した。還流を維持したままメタクリル酸10部、スチレン6部、アクリル酸エチル4部、N−ブトキシメチルアクリルアミド1.05部、及び過酸化ベンゾイル0.3部の混合物を滴下槽から4時間にわたって連続滴下し重合した。
滴下終了から1時間後、及び2時間後に過酸化ベンゾイル0.03部をそれぞれ添加し、滴下終了から3時間反応を継続した。次いで冷却することで数平均分子量25000、ガラス転移温度80℃のアクリル系共重合体の溶液(不揮発分41%)を得た。
次に、ジメチルエタノールアミン5.0部を添加して、10分間撹拌した後、イオン交換水46.5部を加えアクリル系共重合体を水に溶解させた。その結果、不揮発分21%の、カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共重合体(B1−2)水溶液を得た。
【0071】
アクリル系共重合体(B1−1)、アクリル系共重合体(B1−3)およびアクリル系共重合体(B1−2)の組成を下記表1に示す。
【表1】
【0072】
[実施例1]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、スチレン5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N−ブトキシメチルアクリルアミド0.22部の混合物を合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部を用いて乳化し、滴下槽1に仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、触媒のドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料(1)を得た。
【0073】
参考例13]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、メタクリル酸メチル5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N−ブトキシメチルアクリルアミド0.22部の混合物を合成例2で得られたアクリル系共重合体(B1−3)水溶液45部を用いて乳化し、滴下槽1に仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、触媒のドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料(16)を得た。
【0074】
水性塗料(1)および(16)の組成を下記表2に示す。
なお、下記表2における実施例13は、参考例13の意である。
【0075】
[実施例2]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にスチレン5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N−ブトキシメチルアクリルアミド0.22部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料(2)を得た。
【0076】
[実施例3]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にスチレン5.84部、アクリル酸エチル15.12部、N−ブトキシメチルアクリルアミド0.01部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料(3)を得た。
【0077】
[実施例4]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にスチレン5.36部、アクリル酸エチル15.02部、N−ブトキシメチルアクリルアミド1.08部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.7%の水性塗料(4)を得た。
【0078】
[実施例5]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にスチレン5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N−ブトキシメチルアクリルアミド0.22部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水55部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル8.6部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.15部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂0.3部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料(5)を得た。
【0079】
[実施例6]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にスチレン5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N−ブトキシメチルアクリルアミド0.22部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール14.0部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.5部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩触媒0.16部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂4.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.9%の水性塗料(6)を得た。
【0080】
[実施例7]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にスチレン5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N−ブトキシメチルアクリルアミド0.22部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、p−クレゾール・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料(7)を得た。
【0081】
参考例8]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にスチレン5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N−ブトキシメチルアクリルアミド0.22部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、m−クレゾール・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料(8)を得た。
【0082】
[実施例9]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にスチレン5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N−メチロールアクリルアミド0.22部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料(9)を得た。
【0083】
[実施例10]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にスチレン5.69部、アクリル酸エチル15.09部、アクリルアミド0.22部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料(10)を得た。
【0084】
[実施例11]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にスチレン5.69部、アクリル酸ブチル15.09部、N−ブトキシメチルアクリルアミド0.22部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料(11)を得た。
【0085】
参考例12]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にメタクリル酸メチル5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N−ブトキシメチルアクリルアミド0.22部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料(12)を得た。
【0086】
参考例14]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にスチレン5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N−ブトキシメチルアクリルアミド0.22部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料(17)を得た。
【0087】
参考例15]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例2で得られたアクリル系共重合体(B1−3)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にメタクリル酸メチル5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N−ブトキシメチルアクリルアミド0.22部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料(18)を得た。
【0088】
水性塗料(2)〜(12)、(17)、および(18)の組成を下記表3−1、表3−2、および表3−3に示す。
なお、下記表3−1、表3−2、および表3−3における実施例8、12、14、15は、参考例8、12、14、15の意である。
【0089】
[比較例1]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にスチレン4.68部、アクリル酸エチル14.85部、N−ブトキシメチルアクリルアミド1.47部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが26.3℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料(13)を得た。
【0090】
[比較例2]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−1)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にスチレン5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N−ブトキシメチルアクリルアミド0.22部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水58部、n−ブタノール14.3部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.8部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.17部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂6.6部を添加し、ろ過することで不揮発分が19.1%の水性塗料(14)を得た。
【0091】
[比較例3]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、比較合成例1で得られたアクリル系共重合体(B1−2)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、滴下槽1にスチレン5.88部、アクリル酸エチル15.12部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、理論Tgが27.5℃のポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水59部、n−ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩触媒0.16部、石炭酸・ホルムアルデヒド型フェノール樹脂1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.3%の水性塗料(15)を得た。
【0092】
水性塗料(13)〜(15)の組成を下記表4に示す。
【表4】
【0093】
[塗料の評価]
<残留モノマー量>
得られた水性塗料に含まれるアクリルアミドモノマーについて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量を行いアクリルアミドモノマーの残留モノマーを測定した。なお評価は、残留モノマーが50ppm未満か否かで行った。
A : 50ppm未満(良好)
C : 50ppm以上(実用不可)
【0094】
[塗膜の評価]
得られた水性塗料を、厚さ0.26mmのアルミ板上に塗膜の厚さが5μmになるように塗装し、ガスオーブンを用い雰囲気温度200℃で2分間焼き付け、テストパネルを得た。得られたテストパネルについて下記の評価を行った。
【0095】
<ゲル分率>
テストパネルを幅15cm・長さ15cmの大きさに準備した。次いでテストパネルを80℃にて還流させたメチルエチルケトン(MEK)中に60分間浸漬し、浸漬前後のテストパネルの重量変化からゲル分率を算出した。
A : 90%以上(良好)
B : 80%以上90%未満(使用可)
C : 80%未満(実用不可)
【0096】
<外観>
テストパネルの塗膜の表面状態を目視で評価した。
A : 塗膜が平滑で良好。
B : 僅かに微細なブツがあるが、実用上問題ない。
C : 塗膜にブツが多く、(実用不可)。
【0097】
<耐レトルト性>
テストパネルを水に浸漬したまま、レトルト釜で125℃−30分間レトルト処理を行い、レトルト処理後の塗膜の表面状態を目視で評価した。
A : 未処理の塗膜と変化なし(良好)
B : やや白化が見られるが、実用上問題ない。
C : 著しく白化やブリスターが見られ、実用上問題あり。
【0098】
<加工性>
テストパネルを幅30mm縦50mmの大きさに準備した。次いで、図1の(a)のようにテストパネル1の塗膜を外側にして、縦長さ30mmの位置に直径3mmの丸棒2を添える。そして。図1の(b)のように丸棒2に沿ってテストパネル2を2つ折りにして幅30mm・縦約30mmの試験片3を作製した。この2つ折りにした試験片3の間に厚さ0.26mmのアルミ板(省略)2枚はさみ、図1の(c)のように幅15cm×高さ5cm×奥行き5cmの直方体状の1kgのおもり4を高さ40cmから試験片3の折り曲げ部に落下させて完全に折り曲げた。
次いで、試験片4の折り曲げ部を濃度1%の食塩水中に浸漬させた。次いで、試験片4の、食塩水中に浸漬されていない平面部の金属部分と、食塩水との間を6.0V×6秒通電した時の電流値を測定した。
塗膜の加工性が乏しい場合、折り曲げ加工部の塗膜がひび割れて、下地の金属板が露出して導電性が高まるため、電流値が高くなる。
A :10mA未満(良好)
B : 10mA以上20mA未満(使用可)
C : 20mA以上(不良)
【0099】
<鉛筆硬度>
テストパネルをJIS K5400に準拠し、23℃雰囲気下、三菱鉛筆「ユニ」を使用して鉛筆硬度を測定した。なお塗膜が剥離しない鉛筆の最高硬度を鉛筆硬度とした。
A : 2H以上(良好)
B : H−2H(使用可)
C : F以下(不良)
【0100】
<衛生性>
テストパネルを水に浸漬したまま、レトルト釜で125℃−30分間レトルト処理を行った。レトルト処理後の水を「TOC−L CPH」(島津製作所社製)を使用して分析し、全有機炭素(TOC)量を測定した。なお、TOC量とは、水中に存在する有機物の総量を有機物中の炭素量で示したものである。
A : 2ppm未満(良好)
B : 2ppm以上5ppm未満(使用可)
C : 5ppm以上(不良)
【0101】
水性塗料(1)〜(18)の評価を下記表5−1および表5−2に示す。
【表5-1】
【表5-2】
【符号の説明】
【0102】
1 テストパネル
2 丸棒
3 試験片
4 おもり
図1