特許第6520319号(P6520319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6520319
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20190520BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20190520BHJP
   C08L 47/00 20060101ALI20190520BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20190520BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   C08L9/06
   C08L15/00
   C08L47/00
   C08K3/36
   B60C1/00
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-76512(P2015-76512)
(22)【出願日】2015年4月3日
(65)【公開番号】特開2016-196547(P2016-196547A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2018年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】中島 美由紀
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/151067(WO,A1)
【文献】 特開2013−234330(JP,A)
【文献】 特開2013−082826(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/050341(WO,A1)
【文献】 特開2012−149239(JP,A)
【文献】 特開2014−231550(JP,A)
【文献】 特開2015−007194(JP,A)
【文献】 特開2014−208796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08K 3/00 − 13/08
C08L 1/00 − 101/14
C08C 19/00 − 19/44
C08F 6/00 − 246/00
C08F 301/00
B60C 1/00 − 19/12
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単位含有量が30〜48重量%である芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムを10〜100重量%含むジエン系ゴム100重量部に対し、シリカを40〜150重量部、重量平均分子量が5万〜15万である芳香族ビニル−ファルネセン共重合体を2〜20重量部配合したことを特徴するタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記シリカの窒素吸着比表面積が150m2/g以上であることを特徴する請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムが、活性末端を有する重合体ブロック(A)および活性末端を有する重合体ブロック(B)からなる活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の活性末端に変性剤を反応させた変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムであって、前記活性末端を有する重合体ブロック(A)が、イソプレン単量体単位80〜95重量%および芳香族ビニル単量体単位5〜20重量%を含む活性末端を有し、前記活性末端を有する重合体ブロック(B)が1,3−ブタジエン単量体単位50〜100重量%および芳香族ビニル単量体単位0〜50重量%を含む活性末端を有し、前記変性剤がエポキシ基およびアルコキシ基から選ばれる少なくとも1つの基を1分子中に3以上有することを特徴する請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ用ゴム組成物に関し、更に詳しくはシリカの配合量が多くても、機械的物性および長期物性安定性を従来レベル以上に向上するようにしたタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの転がり抵抗を小さくし、ウェットグリップ性能を高くするため、タイヤ用ゴム組成物にシリカを多く配合することがある。しかしシリカを多量に配合すると、ゴム組成物の引張り破断特性が低下して耐摩耗性が悪化するという問題があった。またシリカの分散性を改良するため、オイルや分散剤を配合すると加工性が悪化したり、耐摩耗性やブリードアウトが起きて長期物性安定性が低下するという問題があった。
【0003】
特許文献1は、ゴム成分にカーボンブラックおよび/またはシリカ、芳香族ビニル−ファルネセン共重合体を配合したタイヤ用ゴム組成物を提案する。しかし、需要者が空気入りタイヤに求めるウェットグリップ性能、機械的物性および長期物性安定性のレベルはより高く、更なる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5400989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、シリカの配合量が多いゴム組成物であっても、機械的物性および長期物性安定性を従来レベル以上に向上するタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、芳香族ビニル単位含有量が30〜48重量%である芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムを10〜100重量%含むジエン系ゴム100重量部に対し、シリカを40〜150重量部、重量平均分子量が5万〜15万である芳香族ビニル−ファルネセン共重合体を2〜20重量部配合したことを特徴する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、芳香族ビニル単位含有量が30〜48重量%である芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムを含むジエン系ゴム100重量部に、シリカを40〜150重量部、重量平均分子量が5万〜15万である芳香族ビニル−ファルネセン共重合体を2〜20重量部配合したので、ウェットグリップ性能に優れた特性を確保しながら、機械的物性および長期物性安定性を従来レベル以上に向上することができる。
【0008】
前記シリカとしては窒素吸着比表面積が150m2/g以上であることよい。
【0009】
また、前記芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムとしては、活性末端を有する重合体ブロック(A)および活性末端を有する重合体ブロック(B)からなる活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の活性末端に変性剤を反応させた変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムであって、前記活性末端を有する重合体ブロック(A)が、イソプレン単量体単位80〜95重量%および芳香族ビニル単量体単位5〜20重量%を含む活性末端を有し、前記活性末端を有する重合体ブロック(B)が1,3−ブタジエン単量体単位50〜100重量%および芳香族ビニル単量体単位0〜50重量%を含む活性末端を有し、前記変性剤がエポキシ基およびアルコキシ基から選ばれる少なくとも1つの基を1分子中に3以上有するであるとよい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、そのゴム成分をジエン系ゴムで構成し、そのジエン系ゴムとして、芳香族ビニル単位含有量が30〜48重量%である芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムを含む。芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムとしては、スチレンブタジエンゴムが例示される。芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの芳香族ビニル単位含有量は30〜48重量%、好ましくは35〜45重量%、より好ましくは38〜45重量%にする。芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの芳香族ビニル単位含有量を30〜48重量%にすることにより、芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムおよび芳香族ビニル−ファルネセン共重合体の相溶性を高くし、機械的物性および長期物性安定性を改良することができる。本明細書において芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの芳香族ビニル単位含有量は赤外分光分析(ハンプトン法)により測定するものとする。
【0011】
また芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの含有量は、ジエン系ゴム100重量%中、10〜100重量%、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは75〜100重量%である。芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの含有量が10重量%未満であると、芳香族ビニル−ファルネセン共重合体との相溶性を改良する効果が十分に得られない。
【0012】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、芳香族ビニル単位含有量が30〜48重量%である芳香族ビニル−共役ジエン系ゴム以外に、他のジエン系ゴムを含むことができる。他のジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン含有量が30重量%未満のスチレンブタジエンゴム、スチレン含有量が48重量%超のスチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム等を例示することができる。これらは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。上述した他のジエンゴムは、ジエン系ゴム100重量%中、0〜90重量%、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0〜25重量%含有することができ、タイヤ用ゴム組成物に要求される特性を改良することができる。
【0013】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、芳香族ビニル−ファルネセン共重合体を配合することにより、ウェットグリップ性能、機械的特性および長期物性安定性を向上することができる。また芳香族ビニル−ファルネセン共重合体は、芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムとの親和性が高く、かつ比較的高分子量であるとともに架橋性構造を有するため、加硫後にタイヤ用ゴム組成物の機械的特性を従来レベル以上に高くし、タイヤ耐久性や耐摩耗性を改良することができる。さらにブリードアウトを抑制し長期物性安定性を改良することができる。
【0014】
芳香族ビニル−ファルネセン共重合体とは、少なくとも芳香族ビニル化合物からなるモノマーおよびファルネセンからなるモノマーにより構成された共重合体である。ファルネセンからなるモノマーとしては、α−ファルネセン、β−ファルネセンが挙げられ、それぞれ単独または両者を組合せてモノマーとしてもよい。好ましくはβ−ファルネセンがよい。なおβ−ファルネセンは、芳香族ビニル化合物との共重合体にするのがよい。例えばβ−ファルネセンの単独重合体では、ガラス転移温度が低いため、ウェットグリップ性能を向上する効果が十分に得られない。
【0015】
芳香族ビニル化合物からなるモノマーとしては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、4−シクロヘキシルルスチレン、4−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N−ジエチル−4−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、4−メトキシスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジビニルベンゼン等が例示される。なかでもスチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレンが好ましい。
【0016】
芳香族ビニル−ファルネセン共重合体の重量平均分子量は5万〜15万、好ましくは5万〜12万、より好ましくは5万〜10万であるとよい。芳香族ビニル−ファルネセン共重合体の重量平均分子量が5万未満であると、ゴム組成物の機械的強度が低下し、さらにゴム組成物からブリードアウトしやすくなる。また芳香族ビニル−ファルネセン共重合体の重量平均分子量が15万を超えると加工性が悪化する。本明細書において芳香族ビニル−ファルネセン共重合体の重量平均分子量Mw、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定し標準ポリスチレン換算により求めるものとする。
【0017】
芳香族ビニル−ファルネセン共重合体の分子量分布(Mw/Mn;Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量)は、好ましくは1.0〜4.0、より好ましくは1.0〜3.0、さらに好ましくは1.0〜2.0であるとよい。芳香族ビニル−ファルネセン共重合体の分子量分布がこのような範囲内であると、粘度のばらつきが小さくなる。芳香族ビニル−ファルネセン共重合体の数平均分子量Mnは、重量平均分子量Mwと同様にGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定し標準ポリスチレン換算により求めるものとする。
【0018】
芳香族ビニル−ファルネセン共重合体の溶融粘度は、好ましくは0.1〜3000Pa・s、より好ましくは0.6〜2800Pa・s、さらに好ましくは1.5〜2600Pa・sであるとよい。芳香族ビニル−ファルネセン共重合体の溶融粘度がこのような範囲内であると、ゴム組成物の混練が容易になりシリカの分散性が向上する。本明細書において、芳香族ビニル−ファルネセン共重合体の溶融粘度は、ブルックフィールド型粘度計により測定した38℃における溶融粘度である。
【0019】
芳香族ビニル−ファルネセン共重合体は、芳香族ビニル化合物およびファルネセン以外の他のモノマーを含むことができ、他のモノマーとしては例えばブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、2−メチル−1,3−オクタジエン、1,3,7−オクタトリエン、ミルセン、クロロプレン等を例示することができる。芳香族ビニル−ファルネセン共重合体は、芳香族ビニル化合物からなるモノマーおよびファルネセンからなるモノマー、任意に他のモノマーを通常の方法で共重合することができ、例えば乳化重合法、溶液重合法を例示することができ、好ましくは溶液重合法で合成するとよい。
【0020】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、芳香族ビニル−ファルネセン共重合体の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し、2〜20重量部、好ましくは2〜15重量部、より好ましくは2〜10重量部である。芳香族ビニル−ファルネセン共重合体の配合量が2重量部未満であると、ウェットグリップ性能、機械的特性および長期物性安定性を改良する効果が十分に得られない。また芳香族ビニル−ファルネセン共重合体の配合量が20重量部を超えると、耐久性が悪化してしまう。
【0021】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、シリカを配合することにより、ウェットグリップ性能を高くする。シリカの配合量は、ジエン系ゴム100重量に対し40〜150重量部、好ましくは60〜130重量部、より好ましくは70〜120重量部である。シリカの配合量が40重量部未満であると、ウェットグリップ性能を十分に高くすることができない。またシリカの配合量が150重量部を超えると、シリカが分散し難くなり、粘度の上昇による加工性の悪化や転がり抵抗との両立が難しくなる。
【0022】
本発明で使用するシリカは、窒素吸着比表面積N2SAが好ましくは150m2/g以上、より好ましくは150〜230m2/gであるとよい。N2SAをこのような範囲にすることにより、ウェットグリップ性能、タイヤ耐久性、耐摩耗性をバランスさせることができる。シリカのN2SAは、JIS K6217−2に準拠して、測定するものとする。
【0023】
本発明のゴム組成物において、シリカと共にシランカップリング剤を配合することが好ましく、シリカの分散性を向上しジエン系ゴムとの補強性をより高くすることができる。シランカップリング剤は、シリカ配合量に対して好ましくは3〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%配合するとよい。シランカップリング剤の配合量がシリカ重量の3重量%未満の場合、シリカの分散性を向上する効果が十分に得られない。また、シランカップリング剤が20重量%を超えると、シランカップリング剤同士が重合してしまい、所望の効果を得ることができなくなる。
【0024】
シランカップリング剤としては、特に制限されるものではないが、硫黄含有シランカップリング剤が好ましく、例えばビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0025】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムが、以下の変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムであるとよい。この変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムは、活性末端を有する重合体ブロック(A)および活性末端を有する重合体ブロック(B)からなる活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の活性末端に変性剤を反応させた変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムであって、活性末端を有する重合体ブロック(A)が、イソプレン単量体単位80〜95重量%および芳香族ビニル単量体単位5〜20重量%を含む活性末端を有し、活性末端を有する重合体ブロック(B)が1,3−ブタジエン単量体単位50〜100重量%および芳香族ビニル単量体単位0〜50重量%を含む活性末端を有し、前記変性剤がエポキシ基およびアルコキシ基から選ばれる少なくとも1つの基を1分子中に3以上有するとよい。
【0026】
変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムを製造する方法は、不活性溶媒中で、イソプレンおよび芳香族ビニル単量体を含む単量体混合物を、重合開始剤により重合し、イソプレン単量体単位80〜95重量%および芳香族ビニル単量体単位5〜20重量%を含む活性末端を有する重合体ブロック(A)を形成させる工程、活性末端を有する重合体ブロック(A)と、1,3−ブタジエン、または1,3−ブタジエンおよび芳香族ビニル単量体を含む単量体混合物と、を混合して重合反応を継続させ、1,3−ブタジエン単量体単位50〜100重量%および芳香族ビニル単量体単位0〜50重量%を含む活性末端を有する重合体ブロック(B)を、重合体ブロック(A)と一続きにして形成させることにより、重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)を有する、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を得る工程、および、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の活性末端に、エポキシ基およびアルコキシ基から選ばれる少なくともいずれかの基を1分子中に3以上有する変性剤を、重合に使用した重合開始剤に対する変性剤中のエポキシ基およびアルコキシ基の合計モル比が0.1〜1となる範囲で反応させる工程、を含むことができる。
【0027】
変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムを製造するとき、最初に不活性溶媒中で、イソプレンおよび芳香族ビニル単量体を含む単量体混合物を、重合開始剤により重合し、イソプレン単量体単位80〜95重量%および芳香族ビニル単量体単位5〜20重量%を含む活性末端を有する重合体ブロック(A)を形成させる工程を実施し、次いで、活性末端を有する重合体ブロック(A)と、1,3−ブタジエン、または1,3−ブタジエンおよび芳香族ビニル単量体を含む単量体混合物と、を混合して重合反応を継続させ、1,3−ブタジエン単量体単位50〜100重量%および芳香族ビニル単量体単位0〜50重量%を含む活性末端を有する重合体ブロック(B)を、重合体ブロック(A)と一続きにして形成させることにより、重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)を有する、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を得る工程を実施することができる。
【0028】
共役ジエン系重合体鎖中の重合体ブロック(A)は、重合体ブロック(A)中、イソプレン単量体単位80〜95重量%および芳香族ビニル単量体単位5〜20重量%を含んでいれば特に限定されず、イソプレン単量体単位85〜95重量%および芳香族ビニル単量体単位5〜15重量%を含んでいることが好ましく、イソプレン単量体単位89〜95重量%および芳香族ビニル単量体単位5〜11重量%を含んでいることがより好ましい。イソプレン単量体単位と芳香族ビニル単量体単位との含有割合が上記範囲内にあると、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムにシリカを配合した場合に、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムとシリカとの親和性が良好となり、そのゴム組成物を用いて得られるタイヤは、低発熱性、ウェットグリップ性、および強度に優れる。
【0029】
重合体ブロック(A)に含まれる芳香族ビニル単量体単位を構成するために用いられる単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ジメチルアミノメチルスチレン、およびジメチルアミノエチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体が挙げられる。これらの中でも、スチレンが好ましい。これらの芳香族ビニル単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
重合体ブロック(A)は、イソプレン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位のみからなることが好ましいが、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、所望により、イソプレン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位以外に、さらに、その他の単量体単位を含んでいてもよい。その他の単量体単位を構成するために用いられるその他の単量体としては、1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、および1,3−ヘキサジエンなどのイソプレン以外の共役ジエン単量体;アクリロニトリル、およびメタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル;アクリル酸、メタクリル酸、および無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸または酸無水物;メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、およびアクリル酸ブチルなどの不飽和カルボン酸エステル;1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、ジシクロペンタジエン、および5−エチリデン−2−ノルボルネンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。これらのその他の単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合体ブロック(A)中、その他の単量体単位の含有割合は、15重量%以下であり、10重量%以下であることが好ましく、6重量%以下であることがより好ましい。
【0031】
共役ジエン系重合体鎖中の重合体ブロック(A)は、不活性溶媒中、イソプレン、芳香族ビニル単量体、および必要に応じて加えられるその他の単量体、を含む単量体混合物を、重合開始剤により重合することにより形成される。形成された重合体ブロック(A)は、活性末端を有する。
【0032】
重合体ブロック(A)を形成するために、イソプレンおよび芳香族ビニル単量体を含む単量体混合物の重合に用いられる不活性溶媒としては、溶液重合において通常使用されるものであって、重合反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。その具体例としては、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、および2−ブテンなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、およびシクロヘキセンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、およびキシレンなどの芳香族炭化水素;などが挙げられる。不活性溶媒の使用量は、単量体濃度が、例えば、1〜80重量%であり、好ましくは10〜50重量%である。
【0033】
重合体ブロック(A)を形成するために用いられる重合開始剤としては、イソプレンおよび芳香族ビニル単量体を含む単量体混合物を重合させて、活性末端を有する重合体鎖を与えることができるものであれば、特に限定されない。その具体例としては、例えば、有機アルカリ金属化合物および有機アルカリ土類金属化合物、ならびにランタン系列金属化合物などを主触媒とする重合開始剤が好ましく使用される。有機アルカリ金属化合物としては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、およびスチルベンリチウムなどの有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、1,4−ジリチオブタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン、1,3,5−トリリチオベンゼン、および1,3,5−トリス(リチオメチル)ベンゼンなどの有機多価リチウム化合物;ナトリウムナフタレンなどの有機ナトリウム化合物;カリウムナフタレンなどの有機カリウム化合物;などが挙げられる。また、有機アルカリ土類金属化合物としては、例えば、ジ−n−ブチルマグネシウム、ジ−n−ヘキシルマグネシウム、ジエトキシカルシウム、ジステアリン酸カルシウム、ジ−t−ブトキシストロンチウム、ジエトキシバリウム、ジイソプロポキシバリウム、ジエチルメルカプトバリウム、ジ−t−ブトキシバリウム、ジフェノキシバリウム、ジエチルアミノバリウム、ジステアリン酸バリウム、およびジケチルバリウムなどが挙げられる。ランタン系列金属化合物を主触媒とする重合開始剤としては、例えば、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムおよびガドリニウムなどのランタン系列金属と、カルボン酸、およびリン含有有機酸などとからなるランタン系列金属の塩を主触媒とし、これと、アルキルアルミニウム化合物、有機アルミニウムハイドライド化合物、および有機アルミニウムハライド化合物などの助触媒とからなる重合開始剤などが挙げられる。これらの重合開始剤の中でも、有機モノリチウム化合物を用いることが好ましく、n−ブチルリチウムを用いることがより好ましい。なお、有機アルカリ金属化合物は、予め、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジベンジルアミン、ピロリジン、ヘキサメチレンイミン、およびヘプタメチレンイミンなどの第2級アミンと反応させて、有機アルカリ金属アミド化合物として使用してもよい。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
重合開始剤の使用量は、目的とする分子量に応じて決定すればよいが、単量体混合物100g当り、好ましくは4〜250mmol、より好ましくは6〜200mmol、特に好ましくは10〜70mmolの範囲である。
【0035】
単量体混合物を重合するに際し、重合温度は、例えば、−80〜+150℃、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜90℃の範囲である。重合様式としては、回分式、連続式など、いずれの様式をも採用できる。また、結合様式としては、例えば、ブロック状、テーパー状、およびランダム状などの種々の結合様式とすることができる。
【0036】
重合体ブロック(A)におけるイソプレン単量体単位中のビニル結合含有量を調節するために、重合に際し、不活性溶媒に極性化合物を添加することが好ましい。極性化合物としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、および2,2−ジ(テトラヒドロフリル)プロパンなどのエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミンなどの第三級アミン;アルカリ金属アルコキシド;ホスフィン化合物;などが挙げられる。これらの中でも、エーテル化合物、および第三級アミンが好ましく、その中でも、重合開始剤の金属とキレート構造を形成し得るものがより好ましく、2,2−ジ(テトラヒドロフリル)プロパン、およびテトラメチルエチレンジアミンが特に好ましい。極性化合物の使用量は、目的とするビニル結合含有量に応じて決定すればよく、重合開始剤1molに対して、0.01〜30molが好ましく、0.05〜10molがより好ましい。極性化合物の使用量が上記範囲内にあると、イソプレン単量体単位中のビニル結合含有量の調節が容易であり、かつ重合開始剤の失活による不具合も発生し難い。上記範囲内で極性化合物の使用量を増加させることで、イソプレン単量体単位中のビニル結合含有量を増加させることができる。
【0037】
重合体ブロック(A)におけるイソプレン単量体単位中のビニル結合含有量は、5〜90重量%が好ましく、5〜80重量%がより好ましい。イソプレン単量体単位中のビニル結合含有量が上記範囲内にあると、得られるタイヤの低発熱性およびウェットグリップ性が優れたものとなる。なお、本明細書中において、イソプレン単量体単位中のビニル結合含有量とは、イソプレン単量体単位中の、1,2−構造を有するイソプレン単量体単位および3,4−構造を有するイソプレン単量体単位の合計量の割合を指すものとする。
【0038】
重合体ブロック(A)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによって測定されるポリスチレン換算の値として、500〜15,000であることが好ましく、1,000〜12,000であることがより好ましく、1,500〜10,000であることが特に好ましい。重合体ブロック(A)の重量平均分子量が上記範囲内にあると、得られるタイヤは、低発熱性、ウェットグリップ性、および強度に優れる。
【0039】
重合体ブロック(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、1.0〜1.5であることが好ましく、1.0〜1.3であることがより好ましい。重合体ブロック(A)の分子量分布の値(Mw/Mn)が上記範囲内にあると、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの製造がより容易となる。
【0040】
共役ジエン系重合体鎖中の重合体ブロック(B)は、重合体ブロック(B)中、1,3−ブタジエン単量体単位50〜100重量%および芳香族ビニル単量体単位0〜50重量%を含んでいれば特に限定されず、1,3−ブタジエン単量体単位55〜95重量%および芳香族ビニル単量体単位5〜45重量%を含んでいることが好ましく、1,3−ブタジエン単量体単位55〜90重量%および芳香族ビニル単量体単位10〜45重量%を含んでいることがより好ましい。1,3−ブタジエン単量体単位と芳香族ビニル単量体単位との含有割合が上記範囲内にあると、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの製造がより容易となる。
【0041】
重合体ブロック(B)に含まれる芳香族ビニル単量体単位を構成するために用いられる単量体としては、上述した重合体ブロック(A)で例示された芳香族ビニル単量体を同様に用いることができ、スチレンが好ましい。
【0042】
重合体ブロック(B)においては、1,3−ブタジエン単量体単位のみ、または1,3−ブタジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位のみからなることが好ましいが、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、所望により、1,3−ブタジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位以外に、さらに、その他の単量体単位を含んでいてもよい。その他の単量体単位を構成するために用いられるその他の単量体としては、1,3−ブタジエンを除き、上述した重合体ブロック(A)で例示された化合物を同様に用いることができる。また、重合体ブロック(B)においては、その他の単量体としてイソプレンを用いることもできる。重合体ブロック(B)中、その他の単量体単位の含有割合は、50重量%以下であり、40重量%以下であることが好ましく、35重量%以下であることがより好ましい。
【0043】
共役ジエン系重合体鎖中の重合体ブロック(B)は、活性末端を有する重合体ブロック(A)と、1,3−ブタジエン、または1,3−ブタジエンおよび芳香族ビニル単量体を含む単量体混合物と、を混合して重合反応を継続させることにより、重合体ブロック(A)と一続きに形成される。形成された重合体ブロック(B)は、活性末端を有する。
【0044】
重合体ブロック(B)を形成するために用いられる不活性溶媒は、上述した重合体ブロック(A)の調製に用いられる不活性溶媒と同様である。
【0045】
重合体ブロック(B)を形成させる際の活性末端を有する重合体ブロック(A)の使用量は、目的とする分子量に応じて決定すればよいが、1,3−ブタジエン、または1,3−ブタジエンおよび芳香族ビニル単量体を含む単量体混合物100g当り、例えば、0.1〜5mmol、好ましくは0.15〜2mmol、より好ましくは0.2〜1.5mmolの範囲である。
【0046】
重合体ブロック(A)と1,3−ブタジエン、または1,3−ブタジエンおよび芳香族ビニル単量体を含む単量体混合物との混合方法は、特に限定されず、1,3−ブタジエン、または1,3−ブタジエンおよび芳香族ビニル単量体を含む単量体混合物の溶液中に活性末端を有する重合体ブロック(A)を加えてもよいし、活性末端を有する重合体ブロック(A)の溶液中に1,3−ブタジエン、または1,3−ブタジエンおよび芳香族ビニル単量体を含む単量体混合物を加えてもよい。重合の制御の観点より、1,3−ブタジエン、または1,3−ブタジエンおよび芳香族ビニル単量体を含む単量体混合物の溶液中に活性末端を有する重合体ブロック(A)を加えることが好ましい。
【0047】
1,3−ブタジエン、または1,3−ブタジエンおよび芳香族ビニル単量体を含む単量体混合物を重合するに際し、重合温度は、例えば、−80〜+150℃、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜90℃の範囲である。重合様式としては、回分式、連続式など、いずれの様式をも採用できる。重合体ブロック(B)を共重合体鎖とする場合には、結合のランダム性を制御しやすい点で、回分式が好ましい。
【0048】
重合体ブロック(B)を共重合体鎖とする場合の各単量体の結合様式は、例えば、ブロック状、テーパー状、およびランダム状などの種々の結合様式とすることができる。これらの中でも、ランダム状が好ましい。ランダム状にすることにより、得られるタイヤは低発熱性に優れる。1,3−ブタジエンおよび芳香族ビニル単量体の結合様式をランダム状にする場合、重合系内において、1,3−ブタジエンと芳香族ビニル単量体との合計量に対する芳香族ビニル単量体の比率が高くなりすぎないように、1,3−ブタジエンまたは1,3−ブタジエンと芳香族ビニル単量体とを、連続的または断続的に重合系内に供給して重合することが好ましい。
【0049】
重合体ブロック(B)における1,3−ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量を調節するためには、重合体ブロック(A)におけるイソプレン単量体単位中のビニル結合含有量の調節時と同様、重合に際し、不活性溶媒に極性化合物を添加することが好ましい。ただし、重合体ブロック(A)の調製時に、不活性溶媒に、重合体ブロック(B)における1,3−ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量を調節するのに十分な量の極性化合物を添加している場合は、新たに極性化合物を添加しなくてもよい。ビニル結合含有量を調節するために用いられる極性化合物についての具体例は、上述の重合体ブロック(A)の調製に用いられる極性化合物と同様である。極性化合物の使用量は、目的とするビニル結合含有量に応じて決定すればよく、重合開始剤1molに対して、好ましくは0.01〜100mol、より好ましくは0.1〜30molの範囲で調節すればよい。極性化合物の使用量がこの範囲にあると、1,3−ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量の調節が容易であり、かつ、重合開始剤の失活による不具合も発生し難い。
【0050】
重合体ブロック(B)における1,3−ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量は、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは20〜80重量%、特に好ましくは25〜70重量%である。重合体ブロック(B)における1,3−ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量が上記範囲内にあると、得られるタイヤは低発熱性に優れる。
【0051】
このようにして、重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)を有する、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を得ることができる。活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖は、生産性の観点より、重合体ブロック(A)−重合体ブロック(B)で構成され、重合体ブロック(B)の末端が活性末端であることが好ましいが、重合体ブロック(A)を複数有していてもよいし、その他の重合体ブロックを有していてもよい。例えば、重合体ブロック(A)−重合体ブロック(B)−重合体ブロック(A)、および重合体ブロック(A)−重合体ブロック(B)−イソプレンのみからなるブロックなどの、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖が挙げられる。共役ジエン系重合体鎖の活性末端側にイソプレンのみからなるブロックを形成させる場合、イソプレンの使用量は、初めの重合反応に使用した重合開始剤1molに対して、10〜100molであることが好ましく、15〜70molであることがより好ましく、20〜35molであることが特に好ましい。
【0052】
活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖における重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)との重量比(重合体ブロック(A),(B)が複数ある場合は、それぞれの合計重量を基準とする)は、(重合体ブロック(A)の重量)/(重合体ブロック(B)の重量)として、0.001〜0.1であることが好ましく、0.003〜0.07であることがより好ましく、0.005〜0.05であることが特に好ましい。重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)との重量比が上記範囲内にあると、得られるタイヤは、強度と低発熱性とのバランスが良好となる。
【0053】
活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによって測定されるポリスチレン換算の値として、100,000〜1,000,000が好ましく、150,000〜700,000がより好ましく、150,000〜500,000が特に好ましい。活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の重量平均分子量(Mw)が上記範囲内にあるとき、得られるタイヤは、強度と低発熱性とのバランスが良好となる。
【0054】
活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、1.0〜3.0であることが好ましく、1.0〜2.5であることがより好ましく、1.0〜2.2であることが特に好ましい。活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の分子量分布の値(Mw/Mn)が上記範囲内にあると、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの製造が容易となる。
【0055】
活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖におけるイソプレン単量体単位および1,3−ブタジエン単量体単位の合計単量体単位と、芳香族ビニル単量体単位との含有割合は、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖中、イソプレン単量体単位および1,3−ブタジエン単量体単位の合計単量体単位50〜99.995重量%、および芳香族ビニル単量体単位0.005〜50重量%を含んでいることが好ましく、イソプレン単量体単位および1,3−ブタジエン単量体単位の合計単量体単位55〜95重量%、および芳香族ビニル単量体単位5〜45重量%を含んでいることがより好ましく、イソプレン単量体単位および1,3−ブタジエン単量体単位の合計単量体単位55〜90重量%、および芳香族ビニル単量体単位10〜45重量%を含んでいることが特に好ましい。また、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖におけるイソプレン単量体単位中および1,3−ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量は、上述した重合体ブロック(B)における1,3−ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量と同様である。
【0056】
変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムを製造するとき、次に、上述した活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の活性末端に、エポキシ基およびアルコキシ基から選ばれる少なくともいずれかの基を1分子中に3以上有する変性剤を、重合に使用した重合開始剤に対する変性剤中のエポキシ基およびアルコキシ基の合計モル比が0.1〜1となる範囲で反応させる工程を実施することにより、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムを得ることを特徴とする。
【0057】
本明細書において「変性剤」とは、分子中に、共役ジエン系重合体鎖の活性末端と反応する官能基を有するものであり、本発明において、この官能基は、エポキシ基およびアルコキシ基から選ばれる少なくともいずれかの基である。本発明において、この官能基の数は、1分子中に3以上である。エポキシ基およびアルコキシ基から選ばれる少なくともいずれかの基を1分子中に3以上有する変性剤を用いることにより、共役ジエン系重合体鎖を高効率に変性させることができるため、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムは、シリカとの親和性が高まる。その結果、得られるタイヤは、低発熱性に優れる。なお、本明細書において「エポキシ基およびアルコキシ基から選ばれる少なくともいずれかの基を1分子中に3以上有する」とは、一分子中にエポキシ基を3以上有する場合、一分子中にアルコキシ基を3以上有する場合、一分子中に1のエポキシ基および2以上のアルコキシ基を有する場合、一分子中に2のエポキシ基および1以上のアルコキシ基を有する場合、ならびに一分子中に3以上のエポキシ基および1以上のアルコキシ基を有する場合を含むことを意図している。
【0058】
変性剤としては、エポキシ基およびアルコキシ基から選ばれる少なくともいずれかの基を1分子中に3以上有するものであれば特に限定されないが、例えば、下記一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)エタンなどのアルコキシシラン;などを挙げることができる。これらの中でも、下記一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサンが好ましい。下記一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサンを用いることにより、得られるタイヤは、低発熱性、ウェットグリップ性、および強度により優れる。
【化1】
(上記一般式(I)中、R1〜R8は、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。X1およびX4は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜5のアルコキシ基、および、エポキシ基を含有する炭素数4〜12の基からなる群より選ばれるいずれかの基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。X2は、炭素数1〜5のアルコキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基であり、複数あるX2は互いに同一であっても相違していてもよい。X3は、2〜20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基であり、X3が複数あるときは、それらは互いに同一であっても相違していてもよい。mは3〜200の整数、nは0〜200の整数、kは0〜200の整数である。)
【0059】
一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサンにおいて、一般式(I)のR1〜R8、X1およびX4を構成し得る炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基およびシクロヘキシル基などが挙げられる。炭素数6〜12のアリール基としては、例えば、フェニル基およびメチルフェニル基などが挙げられる。これらの中でも、ポリオルガノシロキサン自体の製造の容易性の観点から、メチル基およびエチル基が好ましい。
【0060】
一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサンにおいて、X1、X2およびX4を構成し得る炭素数1〜5のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基およびブトキシ基などが挙げられる。これらの中でも、共役ジエン系重合体鎖の活性末端との反応性の観点から、メトキシ基およびエトキシ基が好ましい。
【0061】
また、一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサンにおいて、X1、X2、およびX4を構成し得るエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基としては、例えば、下記一般式(II)で表される基が挙げられる。
【化2】
一般式(II)中、Z1は、炭素数1〜10のアルキレン基、またはアルキルアリーレン基であり、Z2はメチレン基、硫黄原子、または酸素原子であり、Eはエポキシ基を有する炭素数2〜10の炭化水素基である。
【0062】
一般式(II)で表される基において、Z2が酸素原子であるものが好ましく、Z2が酸素原子であり、かつ、Eがグリシジル基であるものがより好ましく、Z1が炭素数1〜3のアルキレン基であり、Z2が酸素原子であり、かつ、Eがグリシジル基であるものが特に好ましい。
【0063】
一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサンにおいて、X1およびX4としては、上記の中でも、エポキシ基を含有する炭素数4〜12の基、または、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。また、X2としては、上記の中でも、エポキシ基を含有する炭素数4〜12の基が好ましい。さらに、X1およびX4が炭素数1〜6のアルキル基であり、X2がエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基であることがより好ましい。
【0064】
一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサンにおいて、X3、すなわち2〜20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基としては、下記一般式(III)で表される基が好ましい。
【化3】
一般式(III)中、tは2〜20の整数であり、Pは炭素数2〜10のアルキレン基またはアルキルアリーレン基であり、Rは水素原子またはメチル基であり、Qは炭素数1〜10のアルコキシ基またはアリールオキシ基である。これらの中でも、tが2〜8の整数であり、Pが炭素数3のアルキレン基であり、Rが水素原子であり、かつ、Qがメトキシ基であるものが好ましい。
【0065】
一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサンにおいて、mは3〜200、好ましくは20〜150、より好ましくは30〜120の整数である。mが3以上であると、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムは、シリカとの親和性が高まる。その結果、得られるタイヤは、低発熱性に優れる。また、mが200以下であると、ポリオルガノシロキサン自体の製造がより容易になると共に、その粘度が高くなりすぎず、取り扱いもより容易となる。
【0066】
また、一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサンにおいて、nは0〜200の整数、好ましくは0〜150の整数、より好ましくは0〜120の整数である。kは0〜200の整数、好ましくは0〜150の整数、より好ましくは0〜130の整数である。m、nおよびkの合計数は、3〜400であることが好ましく、20〜300であることがより好ましく、30〜250であることが特に好ましい。m、nおよびkの合計数が上記範囲内にあると、ポリオルガノシロキサン自体の製造が容易になると共に、その粘度が高くなりすぎず、取り扱いも容易となる。
【0067】
なお、一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサンにおいて、ポリオルガノシロキサン中のエポキシ基が共役ジエン系重合体鎖の活性末端と反応する場合、ポリオルガノシロキサン中の少なくとも一部のエポキシ基が開環することにより、エポキシ基が開環した部分の炭素原子と共役ジエン系重合体鎖の活性末端との結合が形成されると考えられる。また、ポリオルガノシロキサン中のアルコキシ基が共役ジエン系重合体鎖の活性末端と反応する場合、ポリオルガノシロキサン中の少なくとも一部のアルコキシ基が脱離することにより、脱離したアルコキシ基が結合していたポリオルガノシロキサンにおけるケイ素原子と共役ジエン系重合体鎖の活性末端との結合が形成されると考えられる。
【0068】
変性剤の使用量は、重合に使用した重合開始剤1molに対する変性剤中のエポキシ基およびアルコキシ基の合計mol数の比が0.1〜1の範囲となる量であり、0.2〜0.9の範囲となる量であることが好ましく、0.3〜0.8の範囲となる量であることがより好ましい。変性剤の使用量が上記範囲内にあると、得られるタイヤは、低発熱性、ウェットグリップ性、および強度に優れる。変性剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムを製造するとき、上述した変性剤にて、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を変性する他に、重合停止剤、上述した変性剤以外の重合末端変性剤、およびカップリング剤などを重合系内に添加することにより、一部の共役ジエン系重合体鎖の活性末端を、本発明の効果を阻害しない範囲で、不活性化してもよい。すなわち、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムは、一部の共役ジエン系重合体鎖の活性末端が、本発明の効果を阻害しない範囲で、重合停止剤、上述した変性剤以外の重合末端変性剤、およびカップリング剤などにより不活性化されていてもよい。
【0070】
このときに用いられる重合末端変性剤およびカップリング剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−フェニル−2−ピロリドン、およびN−メチル−ε−カプロラクタムなどのN−置換環状アミド類;1,3−ジメチルエチレン尿素、および1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノンなどのN−置換環状尿素類;4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、および4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどのN−置換アミノケトン類;ジフェニルメタンジイソシアネート、および2,4−トリレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート類;N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドなどのN,N−ジ置換アミノアルキルメタクリルアミド類;4−N,N−ジメチルアミノベンズアルデヒドなどのN−置換アミノアルデヒド類;ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのN−置換カルボジイミド類;N−エチルエチリデンイミン、N−メチルベンジリデンイミンなどのシッフ塩基類;4−ビニルピリジンなどのピリジル基含有ビニル化合物;四塩化錫;四塩化ケイ素、ヘキサクロロジシラン、ビス(トリクロロシリル)メタン、1,2−ビス(トリクロロシリル)エタン、1,3−ビス(トリクロロシリル)プロパン、1,4−ビス(トリクロロシリル)ブタン、1,5−ビス(トリクロロシリル)ペンタン、および1,6−ビス(トリクロロシリル)ヘキサンなどのハロゲン化ケイ素化合物;などが挙げられる。1分子中に5以上のケイ素−ハロゲン原子結合を有するハロゲン化ケイ素化合物をカップリング剤として併用して得られる高分岐変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムを用いて得られるタイヤは、操縦安定性が優れる。これらの重合末端変性剤およびカップリング剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
共役ジエン系重合体鎖の活性末端に、上述した変性剤およびカップリング剤などを反応させる際、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を含有する溶液に、変性剤などを添加することが好ましく、反応を良好に制御する観点から、変性剤などを不活性溶媒に溶解して重合系内に添加することがより好ましい。その溶液濃度は、1〜50重量%の範囲とすることが好ましい。
【0072】
変性剤などを添加する時期は、特に限定されないが、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖における重合反応が完結しておらず、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を含有する溶液が単量体をも含有している状態、より具体的には、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を含有する溶液が、好ましくは100ppm以上、より好ましくは300〜50,000ppmの単量体を含有している状態で、この溶液に変性剤などを添加することが望ましい。変性剤などの添加をこのように行なうことにより、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖と重合系中に含まれる不純物との副反応を抑制して、反応を良好に制御することが可能となる。
【0073】
共役ジエン系重合体鎖の活性末端に、上述した変性剤などを反応させるときの条件としては、温度が、例えば、0〜100℃、好ましくは30〜90℃の範囲であり、それぞれの反応時間が、例えば、1分〜120分、好ましくは2分〜60分の範囲である。
【0074】
共役ジエン系重合体鎖の活性末端に、上述した変性剤、および所望により添加するカップリング剤などを反応させた後は、メタノールおよびイソプロパノールなどのアルコールまたは水などの、重合停止剤を添加して未反応の活性末端を失活させることが好ましい。
【0075】
共役ジエン系重合体鎖の活性末端を失活させた後、所望により、フェノール系安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤などの老化防止剤、クラム化剤、およびスケール防止剤などを重合溶液に添加し、その後、直接乾燥またはスチームストリッピングなどにより重合溶液から重合溶媒を分離して、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムを回収する。なお、重合溶液から重合溶媒を分離する前に、重合溶液に伸展油を混合し、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムを油展ゴムとして回収してもよい。
【0076】
変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムを油展ゴムとして回収する場合に用いる伸展油としては、例えば、パラフィン系、芳香族系およびナフテン系の石油系軟化剤、植物系軟化剤、ならびに脂肪酸などが挙げられる。石油系軟化剤を用いる場合には、IP346の方法(英国のTHE INSTITUTE PETROLEUMの検査方法)により抽出される多環芳香族の含有量が3%未満であることが好ましい。伸展油を使用する場合、その使用量は、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴム100重量部に対して、例えば、5〜100重量部、好ましくは10〜60重量部、より好ましくは20〜50重量部である。
【0077】
変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムは、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖と、エポキシ基およびアルコキシ基から選ばれる少なくともいずれかの基を1分子中に3以上有する変性剤とを反応させることにより生じる、3以上の共役ジエン系重合体鎖が結合している構造体を、5〜40重量%含有していることが好ましく、5〜30重量%含有していることがより好ましく、10〜20重量%含有していることが特に好ましい。3以上の共役ジエン系重合体鎖が結合している構造体の割合が上記範囲内にあると、製造時における凝固性、および乾燥性が良好となり、さらには、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムにシリカを配合したときに、より加工性に優れるゴム組成物、および低発熱性に優れたタイヤを与えることができる。なお、最終的に得られた変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの全量に対する、3以上の共役ジエン系重合体鎖が結合している構造体の割合(重量分率)を、共役ジエン系重合体鎖の3分岐以上のカップリング率として表す。これは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(ポリスチレン換算)により測定することができる。ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定により得られたチャートより、全溶出面積に対する、分子量の最も小さいピークが示すピークトップ分子量の2.8倍以上のピークトップ分子量を有するピーク部分の面積比を、共役ジエン系重合体鎖の3分岐以上のカップリング率とする。
【0078】
変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの重量平均分子量は、ポリスチレン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定される値として、100,000〜3,000,000が好ましく、150,000〜2,000,000がより好ましく、200,000〜1,500,000が特に好ましい。変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの重量平均分子量が上記範囲内にあると、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムへのシリカの配合が容易となり、ゴム組成物の加工性が優れたものとなり、得られるタイヤの低発熱性が優れたものとなる。
【0079】
変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、1.1〜3.0であることが好ましく、1.2〜2.5であることがより好ましく、1.2〜2.2であることが特に好ましい。変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの分子量分布の値(Mw/Mn)が上記範囲内にあると、得られるタイヤの低発熱性が優れたものとなる。
【0080】
変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、20〜100であることが好ましく、30〜90であることがより好ましく、35〜80であることが特に好ましい。なお、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムを油展ゴムとする場合は、その油展ゴムのムーニー粘度を上記の範囲とすることが好ましい。
【0081】
本発明において、変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの含有量は、ジエン系ゴム100重量%中、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは30〜90重量%、さらに好ましくは40〜80重量%、特に好ましくは50〜70重量%であるとよい。変性芳香族ビニル−共役ジエン系ゴムの含有量がジエン系ゴム中の10重量%未満であると、シリカとの親和性が悪化し、その分散性を良好にすることができない。
【0082】
本発明において、上記以外の他の配合剤を添加することができる。他の配合剤としては、シリカ以外の他の補強性充填剤、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂など、一般的に空気入りタイヤに使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量にすることができる。また混練機としは、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用することができる。
【0083】
他の補強性充填剤としては、例えばカーボンブラック、クレー、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等を例示することができる。なかでもシリカが好ましい。
【0084】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0085】
表2に示す配合剤を共通配合とし、表1に示す配合からなる11種類のタイヤ用ゴム組成物(実施例1〜、比較例1〜7)を、硫黄及び加硫促進剤を除く成分を、1.7Lの密閉式バンバリーミキサーで混練りし、所定時間の経過後、ミキサーから放出して室温冷却させた。これを1.7Lの密閉式バンバリーミキサーに投入し硫黄及び加硫促進剤を加えて混合することにより、タイヤ用ゴム組成物を調製した。なお表1のスチレンブタジエンゴム(SBR1,SBR2,SBR3)の欄に、製品の配合量に加え、括弧内に油展成分を除く正味のSBRの配合量を記載した。また表2に記載した配合剤の配合量は、表1に記載したジエン系ゴム100重量部に対する重量部で示した。
【0086】
得られた11種類のゴム組成物を所定の金型中で、160℃で20分間プレス加硫してタイヤ用ゴム組成物からなる試験片を作製した。得られた試験片の引張り破断強度(耐摩耗性)、引張り破断伸度、ゴム硬度、0℃のtanδ(ウェットグリップ性能)および長期物性安定性を以下の方法で評価した。
【0087】
引張り破断強度および引張り破断伸度
得られた試験片から、JIS K6251に準拠してJIS3号ダンベル型試験片を切り出した。JIS K6251に準拠し500mm/分の引張り速度、雰囲気温度20℃の条件で、引張り破断強度および引張り破断伸度を測定した。得られた結果は、比較例1の値をそれぞれ100とする指数として「引張り強度」および「引張り伸度」の欄にそれぞれ示した。引張り強度の指数が大きいほど引張り破断強度が大きく、引張り伸度の指数が大きいほど引張り破断伸度が大きく、優れることを意味する。
【0088】
ゴム硬度
得られた試験片のゴム硬度を、JIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃で測定した。比較例1の値をそれぞれ100とする指数として「ゴム硬度」の欄に示した。この指数が大きいほどゴム硬度が高いことを意味する。
【0089】
0℃のtanδ(ウェットグリップ性能)
得られた試験片の動的粘弾性を、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件で、雰囲気温度0℃におけるtanδを測定した。得られた結果は、比較例1の値を100とする指数で表わし表1の「ウェットグリップ性能」の欄に示した。この指数が大きいほど0℃のtanδが大きく、タイヤにしたときウェットグリップ性能が優れることを意味する。
【0090】
長期物性安定性
ゴム組成物を160℃で20分加硫して、得られた加硫ゴム2g中の試料をアセトン100mlでソックスレー抽出器(JIS K6229に準拠)を用いて48時間抽出して、試料全体に占める抽出したオイルの含有量の割合(アセトン抽出量)を求めた。得られた結果は、比較例1の値を100とする指数で表わし表1の「長期物性安定性」の欄に示した。この指数が小さいほどアセトン抽出量が小さく、タイヤにしたとき長期物性安定性が優れることを意味する。
【0091】
【表1】
【0092】
なお、表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
・SBR1:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol NS460、スチレンブタジエンゴム100重量部にオイル成分37.5重量部を配合した油展製品、スチレン量が25重量%、ビニル単位量が63重量%、重量平均分子量が78万
・SBR2:スチレンブタジエンゴム、旭化成社製SBR E581、スチレンブタジエンゴム100重量部にオイル成分37.5重量部を配合した油展製品、スチレン量が40重量%、ビニル単位量が44重量%、重量平均分子量が126万
【0093】
・SBR3:下記の合成例1により重合された末端変性スチレンブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム100重量部にオイル成分37.5重量部を配合した油展製品、スチレン量が42重量%、ビニル単位量が32重量%、重量平均分子量が75万
合成例1
〔SBR3の製造方法〕
窒素置換された内容量10Lのオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン4533g、スチレン338.9g(3.254mol)、ブタジエン468.0g(8.652mol)、イソプレン20.0g(0.294mol)およびN,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン0.189mL(1.271mmol)を仕込み、攪拌を開始した。反応容器内の内容物の温度を50℃にした後、n−ブチルリチウム5.061mL(7.945mmol)を添加した。重合転化率がほぼ100%に到達した後、さらにイソプレン12.0gを添加して5分間反応させた後、1,6−ビス(トリクロロシリル)ヘキサンの40wt%トルエン溶液0.281g(0.318mmol)を添加し、30分間反応させた。さらに、下記に示すポリオルガノシロキサンAの40wt%キシレン溶液18.3g(0.318mmol)を添加し、30分間反応させた。メタノール0.5mLを添加して30分間攪拌した。得られたポリマー溶液に老化防止剤(イルガノックス1520、BASF社製)を少量添加し、伸展油としてフッコールエラミック30(新日本石油(株)製)を25部添加した後、スチームストリッピング法により固体状のゴムを回収した。得られた固体ゴムをロールにより脱水し、乾燥機中で乾燥を行い、SBR3を得た。
【0096】
合成例2
窒素置換された100mlアンプル瓶に、シクロヘキサン28gおよびテトラメチルエチレンジアミン8.6mmolを添加し、さらに、n−ブチルリチウム6.1mmolを添加した。次いで、イソプレン8.0gをゆっくりと添加し、60℃のアンプル瓶内で120分反応させることにより、イソプレンブロック(開始剤1とする)を得た。この開始剤1は、重量平均分子量が2200、分子量分布(Mw/Mn)が1.08、およびイソプレン単位由来のビニル結合含有量が72.3重量%であった。
次に、撹拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン4000g、1,3−ブタジエン357.7gおよびスチレン132.3gを仕込んだ後、開始剤1を全量加え、40℃で重合を開始した。重合を開始してから10分経過後、1,3−ブタジエン195.3g、スチレン14.7gを60分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は60℃であった。連続添加終了後、さらに20分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、次いで、1,6−ビス(トリクロロシリル)ヘキサン0.08mmolを20質量%濃度のシクロヘキサン溶液の状態で添加し、10分間反応させた。さらに、前記合成例1で使用したものと同じポリオルガノシロキサンAを、0.027mmolを20質量%濃度のキシレン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。その後、重合停止剤として、使用したn−ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、SBR4を含有する溶液を得た。この溶液に、老化防止剤として、イルガノックス1520L(チバスペシャリティーケミカルズ社製)を、100質量部のSBR4に対して0.15質量部添加した後、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状のSBR4を得た。
【0097】
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220
・シリカ1:ローディア社製Zeosil 115GR、窒素吸着比表面積が160m2/g
・シリカ2:ローディア社製Zeosil Premium 200MP、窒素吸着比表面積が200m2/g
・カップリング剤:硫黄含有シランカップリング剤、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック社製Si69
【0098】
・ファルネセン重合体:下記の合成例3により重合されたβ−ファルネセンの重合体、重量平均分子量が14万、分子量分布が1.2、溶融粘度が69Pa・s
【0099】
合成例3(ファルネセン重合体の重合)
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、ヘキサン274g、n−ブチルリチウム(17重量%ヘキサン溶液)1.2gを仕込み、50℃に昇温した後、β−ファルネセン272gを加えて1時間重合した。得られた重合反応液にメタノールを添加後、重合反応液を水で洗浄した。水を分離して、重合反応液を70℃で12時間乾燥することにより、β−ファルネセンの重合体(ファルネセン重合体)を得た。
【0100】
・ファルネセン共重合体:下記の合成例4により重合されたスチレンとβ−ファルネセンの共重合体、重量平均分子量が10万、分子量分布が1.08、溶融粘度が460Pa・s
【0101】
合成例4(ファルネセン共重合体の重合)
窒素置換し乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン1790g、開始剤としてsec−ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)9.0gを仕込み、50℃に昇温した後、テトラヒドロフラン3gを添加し、予め調製したスチレンとβ−ファルネセンとの混合物(スチレン276gとβ−ファルネセン924gとをボンベ内で混合)1200gを10ml/分で加えて1時間重合した。得られた重合反応液をメタノールで処理し、水を用いて重合反応液を洗浄した。洗浄後の重合反応液と水とを分離して、70℃で12時間乾燥することにより、スチレンとβ−ファルネセンのランダム共重合体(ファルネセン共重合体)を得た。
【0102】
【表2】
【0103】
表2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・カーボンブラック:東海カーボン社製シースト6
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸YR
・酸化亜鉛:正同化学工業社製亜鉛華3種
・老化防止剤:フレキシス社製サントフレックス 6PPD
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤1:CBS、大内新興化学社製ノクセラーCZ−G
・加硫促進剤2:DPG、住友化学工業社製ソクシノールD−G
【0104】
表1から明らかなように実施例1〜により製造されたタイヤ用ゴム組成物は、引張り破断強度、引張り破断伸度、ゴム硬度、ウェットグリップ性能および長期物性安定性に優れることが確認された。
【0105】
比較例2のゴム組成物は、比較例1のゴム組成物のファルネセン重合体をスチレン−ファルネセン共重合体に変更したので、引張り破断強度、引張り破断伸度、ウェットグリップ性能および長期物性安定性が改良される傾向があるが十分でない。
【0106】
比較例3のゴム組成物は、スチレン含有量が30〜48重量%であるSBR2の配合量が10重量%未満であるので、十分な物性向上効果が得られない。
【0107】
比較例4のゴム組成物は、スチレン−ファルネセン共重合体の配合量が2重量部未満であるので、十分な物性向上効果が得られず、長期物性安定性が得られない。
【0108】
比較例5のゴム組成物は、スチレン−ファルネセン共重合体の配合量が20重量部を超えるので、ゴム硬度が低下する。
【0109】
比較例6のゴム組成物は、シリカ1の配合量が40重量部未満であるので、ゴム硬度が低下する。
【0110】
比較例7のゴム組成物は、シリカ1の配合量が150重量部を超えるので、ゴム硬度が低下する。