特許第6520337号(P6520337)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6520337
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】Sm−Fe−N系希土類磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/059 20060101AFI20190520BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   H01F1/059 160
   C22C1/04 H
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-83005(P2015-83005)
(22)【出願日】2015年4月15日
(65)【公開番号】特開2016-207677(P2016-207677A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 博文
(72)【発明者】
【氏名】永峰 佑起
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 将志
(72)【発明者】
【氏名】福地 英一郎
【審査官】 田中 崇大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−320831(JP,A)
【文献】 特開2002−270416(JP,A)
【文献】 特開平07−240307(JP,A)
【文献】 特開平05−166614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−8/00
C21D 7/00−8/10
C22C 1/04−1/05
5/00−25/00
27/00−28/00
30/00−30/06
33/02
35/00−45/10
H01F 1/00−1/117
1/40−1/42
41/00−41/04
41/08
41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対密度90%以上のSm−Fe−N系希土類磁石であって、SmFe相(1.0≦x≦2.5)断面積の面積比率で5%以下(0を含まず)含むことを特徴とするSm−Fe−N系希土類磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sm−Fe−N系希土類磁石に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高性能希土類磁石としては、Sm−Co系磁石やNd−Fe−B系磁石が実用化されているが、近年、新規な希土類磁石の開発が盛んに行われている。
【0003】
例えば、Sm−Fe結晶にNが侵入型に固溶したSm−Fe−N系の希土類窒化磁石が提案されている。Sm−Fe−N系磁石はキュリー温度が高く、且つNd−Fe−B系磁石と同等の磁気特性を示すことから、高耐熱性に優れた希土類磁石として、改良が進められている。
【0004】
特許文献1では、2相分離型のRe−Fe−N−H−M系磁石を提案している。Reは希土類元素であり、Mは、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Pd、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Pb、Biの元素およびこれらの元素ならびに希土類元素の酸化物、フッ化物、炭化物、窒化物、水素化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、塩化物、硝酸塩のうち少なくとも1種である。同公報では、M添加によりSm−Co系やNd−Fe−B系でみられるような2相分離型の微構造を形成させ、これにより、焼結磁石やボンディッド磁石のようなバルク磁石としたときにも粉体のときと同様な高い磁気特性を引き出すことを目的としている。具体的には、粒子境界部にMの含有量が多い相を有し、粒子中心部にはMの含有量が少ないか、または、Mを含有しない相を有する2相分離型のバルク磁石を製造している。
【0005】
また、特許文献2では、このR−T系化合物中にN原子を混入したSmFe17等の含窒素希土類磁石は600℃以上に加熱すると結晶構造がRNとα−Feに分解してしまうため、Nd−Fe−B 系合金等のように、1000℃以上の高温と長時間を要する従来の高温液相焼結法やホットプレス法等の成形固化法を用いることができないという課題に対し、R−T−N合金粉末(Rは希土類元素,Tは遷移金属,Nは窒素)を所定の形状に成形し、その後この成形体を焼結して固形化する含窒素希土類磁石の製造方法において、上記成形体を、昇温速度600〜1000℃/min、焼結温度550℃以下、焼結時間1分以内、焼結圧力6〜10ton/cm 、電流密度0.7〜2.0kA/cmの条件でプラズマ焼結する含窒素希土類磁石の製造方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平3−16102
【特許文献2】特開平7−240307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Sm−Fe−N系磁石における磁気特性の一つである保磁力(Hcj)の発生機構は、ニュークリエーションタイプであると言われている。その為、磁気特性が粒子の表面の影響を受け易い。すなわち、粉砕時の機械的衝撃や粒子の酸化等により磁石粒子表面には欠陥が生じ、この欠陥により磁壁が発生するが、ニュークリエーションタイプの磁石では結晶粒内に磁壁のピンニングサイトがないため容易に磁壁移動が起こるので、保磁力が劣化し易い。上記先行文献では、原料磁石粉末の作製の際にボールミル等での粉砕を行っている事から、酸化の影響により、低温かつ短時間のプラズマ焼結法であっても高い磁気特性を得ることができなかった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、高い磁気特性、且つ高密度のSm−Fe−N系希土類磁石を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
Sm−Fe−N系希土類磁石の酸化による磁気特性劣化を抑制するためには、主相であるSmFe17相に加え、SmFe相を導入するが有効であることを見出し、本発明に至った。
【0010】
本発明にかかる希土類磁石は、相対密度90%以上のSm−Fe−N系希土類磁石であって、副相としてSmFe相(1.0≦x≦2.5)を断面積の面積比率で5%以下(0を含まず)含むことを特徴とするSm−Fe−N系希土類磁石である。
【発明の効果】
【0011】
高い磁気特性、且つ高い相対密度のSm−Fe−N系希土類磁石を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明の実施態様は、後述する形態例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0013】
本発明におけるSm−Fe−N系希土類磁石は、ThZn17型結晶構造にNが侵入したSmFe17相を主相とする。また、TbCu型結晶構造相でもよい。また、Sm、Fe、Nの比率は化学両論比の2:17:3に近い組成であれば、組成比がずれていても良い。
【0014】
本発明での相対密度、つまり嵩密度は、焼結磁石の密度に対して主相の理論密度で除したものと定義され、焼結磁石の密度は、アルキメデス法によって測定されるものである。磁性粒子外の部分は、空隙であってもZn等の低融点金属バインダー、その他の粒界成分であってもよい。相対密度を90%以上とすることで、従来のボンド磁石を比較して、磁気特性がすぐれた磁石を得ることができる。
【0015】
本発明におけるSm−Fe−N系希土類磁石は副相としてSmFe相を含む。SmFe相は、主相のSmFe17相と比較して、酸化しやすい為、粉砕過程などで粒子表面に付着した酸素や炭化水素が焼成中に蒸発する際に、選択的にSmFe相が酸化されることで、主相であるSmFe17相の酸化を防ぎ、磁気特性劣化を抑制することができる。なお、SmFe相は主として製造工程において主相の酸化を抑制する効果を担うが、焼結磁石になった後にも、外部から侵入する酸素や水分による主相の酸化を防ぐことができる。
【0016】
また、副相として含むSmFe相のxは、1.0以上2.5以下である。xがこの範囲であるときに、SmFe相が安定して存在することができ、且つ、酸化抑制相としての機能を発揮することができる。
【0017】
副相として含むSmFe相は断面積の面積比率で5%以下(0を含まず)である。SmFe相は高い磁気特性を有さないことから、前記の範囲を超えることで、副相が磁気特性の低下要因となり、焼結磁石全体としての磁気特性が劣化する。
【0018】
副相として含むSmFe相は、その一部が酸化していても良い。主相の酸化を抑制する機能を発揮した場合、その一部が酸化する。
【0019】
以下、本発明の磁石の製造方法の好適な例について説明する。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例および比較例を記述する。磁石の製造方法は、焼結法、急冷凝固法、蒸着法、HDDR法などあるが、急冷凝固法で得た合金を粉砕し、プラズマ焼結PAS(通電固化)を用いて固化する方法を説明する。
【0021】
まず、副相原料のSmFe粉末を作製する。所望の組成比を有するSm−Fe合金を準備する。原料合金は、R、Feそれぞれの原料を不活性ガス、望ましくはAr雰囲気中でアーク溶解、その他公知の溶解法により作製することができる。
【0022】
上記方法で作製されたSm−Fe合金を乳鉢で粉砕し、数十μm以下の粉体を作製する。乳鉢粉砕以外にも、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等の粗粉砕機を用いて行うようにしてもよい。粉砕粉の結晶性が良好でない場合には、ここで結晶化処理として600℃程度の熱処理を施してもよい。 次に、前記粉砕粉は窒化処理に供される。窒化処理は、窒化雰囲気中で、450〜550℃で2時間から16時間の熱処理を行えばよく、窒素ガスの替わりにアンモニアガスとすることもでき、また水素ガスとの混合ガスでもよい。得られた窒化粉末をさらに平均粒径が数μmになるように粉砕する。
【0023】
主相とするSmFe17粉についても、適宜、合金配合組成を調整し、上記SmFe粉と同様に作製する。次に、SmFe17粉に対し、SmFe粉を所望の比率となるように配合し、混合粉末を作製した。さらに、焼結の助剤とするZn粉末の適量を添加する。
【0024】
得られた混合粉を超硬合金金型に充填し、真空雰囲気下で、プラズマ焼結PASを行って焼結体を形成した。尚、この通電固化条件としては圧力:10ton/cm以上、昇温速度:20℃/min以上、焼結温度400℃〜480℃、焼結時間1分以内とする。
【0025】
得られた焼結体を所望のサイズに加工した後、アルキメデス法によって密度を、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)によって磁気特性(残束磁束密度B、保磁力HcJ)を測定する。密度は理論値を(6.76g/cm)とした場合の相対密度(%)を算出する。
【0026】
また、焼結体の断面を走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)に備えられたエネルギー分散型X線分析(EDS:Energy Dispersive Spectroscopy)装置にて観察し、SmFe相の有無、面積比率を評価する。元素マッピング像から、主相よりもRリッチであり、Nを含有する領域を抽出し、さらに前記領域の中心付近の定量分析値において、SmとFeとNの原子数の比が、1:3:1.0〜2.5に近い場合に、前記領域がSmFe相であると判別できる。ここで、5点以上のSmFe相の定量分析値の平均を取ることで、xを決定する。また、SmFe相の領域を指定し、画像解析により面積を求めることで、単位面積あたりのSmFe相の面積比率を算出する。SmFe相の酸化状態についても、ここで評価が可能である。
【0027】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>
先ず、SmメタルとFeメタルを1:3の割合で配合し、Arで置換した真空溶解炉で溶解して合金化した。この合金の組成を分析したところ、SmFe相が確認された。次に、合金を乳鉢で粉砕し、平均粒径32μm以下の粉体を形成した。次に、この粉末をステンレスバットに入れ、これにHを含んだNガスを流すと共に500℃に加熱しながら10時間窒化処理を行い、SmFe粉末を作製した。この窒化粉末をさらにボールミルで平均粒径1.7μmに粉砕した。
【0029】
また、主相とするSmFe17粉についても、適宜、合金配合組成を調整し、上記SmFe粉と同様に作製した。得られた粉末は、XRDにてSmFe17相の単相であることを確認した。平均粒径は、1.1μmであった。
【0030】
SmFe17粉に対し、SmFe粉を断面の面積比率で約5%となるよう配合し、混合粉末を作製した。さらに、Zn粉末を5重量%添加した。
【0031】
得られた混合粉2gを10φの超硬合金金型に充填し、真空雰囲気下で、プラズマ焼結PASを行って2つの固形体を形成した。尚、この通電固化条件としては圧力:12ton/cm、昇温速度:50℃/min、焼結温度450℃、焼結時間1分にて焼結を行った。
【0032】
得られた焼結体の相対密度、磁気特性を測定した。また、焼結体の断面観察を行い、SmFe相のxの値、面積比率について評価した。その結果を表1に示す。
【0033】
<比較例1>
SmFe粉を添加しなかった他は、実施例1と同様に焼結体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0034】
<実施例2、比較例3、比較例2>
SmFe粉の添加量を、面積比率で0.1%、1%、10%となるようにした他は、実施例1と同様に焼結体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0035】
<比較例3、実施例4、実施例5>
SmFe粉の作製時における窒化処理時間を1時間、3時間、15時間とした他は、実施例1と同様に焼結体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0036】
<実施例6>
通電固化条件として、昇温速度:1000℃/min、焼結時間0分に変更して焼結を行ったほかは、実施例1と同様に焼結体を作製し、評価を行った結果を表1に示す。
【0037】
<比較例4>
通電固化条件として、焼結温度を350℃に変更して焼結を行ったほかは、実施例1と同様に焼結体を作製し、評価を行った結果を表1に示す
【0038】
【表1】
【0039】
表1より、SmFe相を断面積の面積比率で0.1%から5%存在させることで、SmFe相を添加しなかった比較例1と比較して、保磁力HcJの向上が見られた。これらの焼結体中のSmFe相の多くは酸化しており、また、SmFe相を添加しなかった比較例1の主相粒子は、実施例の主相粒子よりも酸化している領域が多かったことから、SmFe相は主相の酸化抑制相として機能したことが推察される。ただし、実施例の焼結体中のSmFe相の一部には酸化していない領域もあった。また、比較例2のように、SmFe相が多く存在した場合は、残留磁化Bおよび保磁力HcJの低下が見られた。添加したSmFe相自体が特性の低下要因となったものと考えられる。さらに、SmFe相のxが小さい場合には、保磁力が低下した。この焼結体のSmFe相近傍には、α−Feが散見され、SmFe相の分解によって生成した軟磁性相が磁気特性劣化の要因になったと推察される。一方、相対密度が低い場合には、SmFe相の状態によらず、磁気特性が低いことがわかった。