【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例および比較例を記述する。磁石の製造方法は、焼結法、急冷凝固法、蒸着法、HDDR法などあるが、急冷凝固法で得た合金を粉砕し、プラズマ焼結PAS(通電固化)を用いて固化する方法を説明する。
【0021】
まず、副相原料のSmFe
3N
x粉末を作製する。所望の組成比を有するSm−Fe合金を準備する。原料合金は、R、Feそれぞれの原料を不活性ガス、望ましくはAr雰囲気中でアーク溶解、その他公知の溶解法により作製することができる。
【0022】
上記方法で作製されたSm−Fe合金を乳鉢で粉砕し、数十μm以下の粉体を作製する。乳鉢粉砕以外にも、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等の粗粉砕機を用いて行うようにしてもよい。粉砕粉の結晶性が良好でない場合には、ここで結晶化処理として600℃程度の熱処理を施してもよい。 次に、前記粉砕粉は窒化処理に供される。窒化処理は、窒化雰囲気中で、450〜550℃で2時間から16時間の熱処理を行えばよく、窒素ガスの替わりにアンモニアガスとすることもでき、また水素ガスとの混合ガスでもよい。得られた窒化粉末をさらに平均粒径が数μmになるように粉砕する。
【0023】
主相とするSm
2Fe
17N
3粉についても、適宜、合金配合組成を調整し、上記SmFe
3N
x粉と同様に作製する。次に、Sm
2Fe
17N
3粉に対し、SmFe
3N
x粉を所望の比率となるように配合し、混合粉末を作製した。さらに、焼結の助剤とするZn粉末の適量を添加する。
【0024】
得られた混合粉を超硬合金金型に充填し、真空雰囲気下で、プラズマ焼結PASを行って焼結体を形成した。尚、この通電固化条件としては圧力:10ton/cm
2以上、昇温速度:20℃/min以上、焼結温度400℃〜480℃、焼結時間1分以内とする。
【0025】
得られた焼結体を所望のサイズに加工した後、アルキメデス法によって密度を、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)によって磁気特性(残束磁束密度B
r、保磁力H
cJ)を測定する。密度は理論値を(6.76g/cm
3)とした場合の相対密度(%)を算出する。
【0026】
また、焼結体の断面を走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)に備えられたエネルギー分散型X線分析(EDS:Energy Dispersive Spectroscopy)装置にて観察し、SmFe
3N
x相の有無、面積比率を評価する。元素マッピング像から、主相よりもRリッチであり、Nを含有する領域を抽出し、さらに前記領域の中心付近の定量分析値において、SmとFeとNの原子数の比が、1:3:1.0〜2.5に近い場合に、前記領域がSmFe
3N
x相であると判別できる。ここで、5点以上のSmFe
3N
x相の定量分析値の平均を取ることで、xを決定する。また、SmFe
3N
x相の領域を指定し、画像解析により面積を求めることで、単位面積あたりのSmFe
3N
x相の面積比率を算出する。SmFe
3N
x相の酸化状態についても、ここで評価が可能である。
【0027】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>
先ず、SmメタルとFeメタルを1:3の割合で配合し、Arで置換した真空溶解炉で溶解して合金化した。この合金の組成を分析したところ、SmFe
3相が確認された。次に、合金を乳鉢で粉砕し、平均粒径32μm以下の粉体を形成した。次に、この粉末をステンレスバットに入れ、これにH
2を含んだN
2ガスを流すと共に500℃に加熱しながら10時間窒化処理を行い、SmFe
3N
x粉末を作製した。この窒化粉末をさらにボールミルで平均粒径1.7μmに粉砕した。
【0029】
また、主相とするSm
2Fe
17N
3粉についても、適宜、合金配合組成を調整し、上記SmFe
3N
x粉と同様に作製した。得られた粉末は、XRDにてSm
2Fe
17N
3相の単相であることを確認した。平均粒径は、1.1μmであった。
【0030】
Sm
2Fe
17N
3粉に対し、SmFe
3N
x粉を断面の面積比率で約5%となるよう配合し、混合粉末を作製した。さらに、Zn粉末を5重量%添加した。
【0031】
得られた混合粉2gを10φの超硬合金金型に充填し、真空雰囲気下で、プラズマ焼結PASを行って2つの固形体を形成した。尚、この通電固化条件としては圧力:12ton/cm
2、昇温速度:50℃/min、焼結温度450℃、焼結時間1分にて焼結を行った。
【0032】
得られた焼結体の相対密度、磁気特性を測定した。また、焼結体の断面観察を行い、SmFe
3N
x相のxの値、面積比率について評価した。その結果を表1に示す。
【0033】
<比較例1>
SmFe
3N
x粉を添加しなかった他は、実施例1と同様に焼結体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0034】
<実施例2、比較例3、比較例2>
SmFe
3N
x粉の添加量を、面積比率で0.1%、1%、10%となるようにした他は、実施例1と同様に焼結体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0035】
<比較例3、実施例4、実施例5>
SmFe
3N
x粉の作製時における窒化処理時間を1時間、3時間、15時間とした他は、実施例1と同様に焼結体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0036】
<実施例6>
通電固化条件として、昇温速度:1000℃/min、焼結時間0分に変更して焼結を行ったほかは、実施例1と同様に焼結体を作製し、評価を行った結果を表1に示す。
【0037】
<比較例4>
通電固化条件として、焼結温度を350℃に変更して焼結を行ったほかは、実施例1と同様に焼結体を作製し、評価を行った結果を表1に示す
【0038】
【表1】
【0039】
表1より、SmFe
3N
x相を断面積の面積比率で0.1%から5%存在させることで、SmFe
3N
x相を添加しなかった比較例1と比較して、保磁力H
cJの向上が見られた。これらの焼結体中のSmFe
3N
x相の多くは酸化しており、また、SmFe
3N
x相を添加しなかった比較例1の主相粒子は、実施例の主相粒子よりも酸化している領域が多かったことから、SmFe
3N
x相は主相の酸化抑制相として機能したことが推察される。ただし、実施例の焼結体中のSmFe
3N
x相の一部には酸化していない領域もあった。また、比較例2のように、SmFe
3N
x相が多く存在した場合は、残留磁化B
rおよび保磁力H
cJの低下が見られた。添加したSmFe
3N
x相自体が特性の低下要因となったものと考えられる。さらに、SmFe
3N
x相のxが小さい場合には、保磁力が低下した。この焼結体のSmFe
3N
x相近傍には、α−Feが散見され、SmFe
3N
x相の分解によって生成した軟磁性相が磁気特性劣化の要因になったと推察される。一方、相対密度が低い場合には、SmFe
3N
x相の状態によらず、磁気特性が低いことがわかった。