(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、表面物性改良剤組成物を0.1〜20質量部含有し、
前記表面物性改良剤組成物は、(A)ワックスと、(B)ビニル(共)重合体と、(C)炭素数5〜14の脂肪族炭化水素と、含み、
前記(A)成分が、(a1)パラフィンワックス、(a2)マイクロクリスタリンワックス、(a3)フィッシャートロプシュワックス、及び(a4)ポリエチレンワックスの中から選ばれる少なくとも1種のワックスであり、
前記(B)成分が、(b1)(メタ)アクリロニトリル、(b2)(メタ)アクリル酸、(b3)(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルまたは(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(b4)スチレン、及び(b5)下記式(1)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、の中から選ばれる少なくとも1種のビニル単量体をラジカル重合して得られるビニル(共)重合体であり、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計100質量部中、前記(A)成分を50〜98質量部含有し、
前記(A)成分の全量に対して前記(C)成分を0.001〜1.0質量%含有する、熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
(R
1:HまたはCH
3、R
2:炭素数1〜4の直鎖または分岐炭化水素基)
ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、表面物性改良剤組成物を0.1〜20質量部含有し、
前記表面物性改良剤組成物は、(A)ワックスと、(B)ビニル(共)重合体と、(C)炭素数5〜14の脂肪族炭化水素と、を含み、
前記(A)成分が、(a1)パラフィンワックス、(a2)マイクロクリスタリンワックス、(a3)フィッシャートロプシュワックス、及び(a4)ポリエチレンワックスの中から選ばれる少なくとも1種のワックスであり、
前記(B)成分が、(b1)(メタ)アクリロニトリル、(b2)(メタ)アクリル酸、(b3)(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルまたは(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(b4)スチレン、及び(b5)下記式(1)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、の中から選ばれる少なくとも1種のビニル単量体と、(b6)1分子内にポリオルガノシロキサン基を有するビニル単量体と、をラジカル重合して得られるビニル共重合体であり、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計100質量部中、前記(A)成分を50〜98質量部含有し、
前記(A)成分の全量に対して前記(C)成分を0.001〜1.0質量%含有し、
前記(B)成分中における前記ビニル単量体(b6)の構成比率が1〜30質量%である、熱可塑性樹脂組成物。
【化2】
(R
1:HまたはCH
3、R
2:炭素数1〜4の直鎖または分岐炭化水素基)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の組成物はPPの耐擦傷性向上に関する記載はあるが、ポリカーボネート樹脂に対して効果を発現する記載はなく、しかも軋み音低減に関する記載もない。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、耐擦傷性向上および軋み音低減効果に優れる熱可塑性樹脂組成物と、その樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのための手段として、本発明は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、表面物性改良剤組成物を0.1〜20質量部含有する熱可塑性樹脂組成物である。前記表面物性改良剤組成物は、(A)ワックスと、(B)ビニル(共)重合体と、(C)炭素数5〜14の脂肪族炭化水素と、を含み、前記(A)成分が、(a1)パラフィンワックス、(a2)マイクロクリスタリンワックス、(a3)フィッシャートロプシュワックス、及び(a4)ポリエチレンワックスの中から選ばれる少なくとも1種のワックスであり、前記(B)成分が、(b1)(メタ)アクリロニトリル、(b2)(メタ)アクリル酸、(b3)(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルまたは(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(b4)スチレン、及び(b5)下記式(1)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル類の中から選ばれる少なくとも1種のビニル単量体をラジカル重合して得られるビニル(共)重合体であり、前記(A)成分と前記(B)成分との合計100質量部中、前記(A)成分を50〜98質量部含有し、前記(A)成分の全量に対して、前記(C)成分を0.001〜1.0質量%含有する。
【化1】
(R
1:HまたはCH
3、R
2:炭素数1〜4の直鎖または分岐炭化水素基)
【0008】
さらにもう一つの手段として、本発明は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、異なる表面物性改良剤組成物を0.1〜20質量部含有する熱可塑性樹脂組成物である。前記表面物性改良剤組成物は、(A)ワックスと、(B)ビニル(共)重合体と、(C)炭素数5〜14の脂肪族炭化水素と、を含み、前記(A)成分が、(a1)パラフィンワックス、(a2)マイクロクリスタリンワックス、(a3)フィッシャートロプシュワックス、及び(a4)ポリエチレンワックスの中から選ばれる少なくとも1種のワックスであり、前記(B)成分が、(b1)(メタ)アクリロニトリル、(b2)(メタ)アクリル酸、(b3)(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルまたは(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(b4)スチレン、及び(b5)下記式(1)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、の中から選ばれる少なくとも1種のビニル単量体と、(b6)1分子内にポリオルガノシロキサン基を有するビニル単量体と、をラジカル重合して得られるビニル共重合体であり、前記(A)成分と前記(B)成分との合計100質量部中、前記(A)成分を50〜98質量部であり、前記(A)成分の全量に対して前記(C)成分を0.001〜1.0質量%含有し、前記(B)成分中における前記ビニル単量体(b6)の構成比率が1〜30質量%である。
【化2】
(R
1:HまたはCH
3、R
2:炭素数1〜4の直鎖または分岐炭化水素基)
【0009】
以上二つの手段に係る熱可塑性樹脂組成物は、所定形状に成形して樹脂成形品とすることもできる。
【0010】
なお、本発明において数値範囲を示す「○○〜××」とは、特に明示しない限り「○○以上××以下」を意味する。また、本発明における「(A)ワックス」には、副成分として(C)成分を若干含む「ワックス混合物」も含む概念である。したがって、(C)成分の含有量には、(A)成分に元々含有されていた量も含まれている。また、「(共)重合体」とは、単一のビニル単量体からなる重合体と、2種以上のビニル単量体からなる共重合体とを含む概念である。また、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の双方を含む概念である。同様に、「(メタ)アクリロニトリル」とは、メタクリロニトリルとアクリロニトリルの双方を含む概念である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、従来のPCと比べて高い耐擦傷性能および軋み音低減性能を達成することができる。なお、一般的にPCに滑剤を添加すると、得られるポリカーボネート樹脂成形品の成形外観が低下したり、表面がべたついたりする傾向にある。しかし、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなるポリカーボネート樹脂成形品は、滑剤として表面物性改良剤組成物を含有しているにも関わらず、その成形外観を低下させることなく良好な耐擦傷性能および軋み音低減性能を達成することができる。特に、表面物性改良剤組成物中の(C)成分は(A)ワックスの滑性をさらに向上する機能を有しており、これによりポリカーボネート樹脂成形品表面の平滑性を向上することができる。而して、成形品外観が良好で、且つ耐擦傷性向上および軋み音低減効果に優れる樹脂成形品を得ることができる。
【0012】
また、ビニル単量体(b6)は表面配向性および滑性を有しているため、表面物性改良剤組成物中にビニル単量体(b6)も含有していれば、表面物性改良剤組成物をポリカーボネート樹脂成形品表面に微分散化し、且つポリカーボネート樹脂成形品表面の平滑性をより向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪熱可塑性樹脂組成物≫
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂に対し、添加剤(滑剤)として後述の表面物性改良剤組成物を添加してなり、これらを溶融混練して得ることができる。
【0014】
<ポリカーボネート樹脂(PC)>
ポリカーボネート樹脂は、公知のホスゲン法、または溶融法等により作られた芳香族ポリカーボネートであればよい。具体的な製造方法は、例えば特開昭63−215763号公報や特開平2−124934号公報等に記載されている。原料として使用される代表的なジフェノールとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(いわゆるビスフェノールA)が挙げられる。また、カーボネートを導入するための前駆物質としては、ホスゲン、ジフェニルカーボネート等が挙げられる。製造されたポリカーボネート樹脂は、末端OH基を封止してあるもの、末端OH基を封止してないもののどちらも使用可能である。
【0015】
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂は無着色のものよりも、着色したものである方が好ましい。無着色のポリカーボネート樹脂を利用した場合、透明性が低下するためである。
【0016】
<表面物性改良剤組成物>
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含有される表面物性改良剤組成物は、(A)ワックスと、(B)ビニル(共)重合体と、(C)炭素数5〜14の脂肪族炭化水素と、を含んで成る。
【0017】
〔(A)ワックス〕
(A)ワックスは低摩擦性等の性質を発現できる化合物であり、主としてポリカーボネート樹脂成形品の表面平滑性を向上させる機能を有する。当該ワックスとしては、25℃1気圧下で固体の炭素数20〜80の炭化水素成分を使用できる。具体的には、石油から精製される(a1)パラフィンワックスや(a2)マイクロクリスタリンワックス、天然ガスから合成される(a3)フィッシャートロプシュワックス、およびエチレンから合成される(a4)ポリエチレンワックスの中から選ばれる少なくとも1種、若しくは2種以上を使用することができる。
【0018】
なお、(a1)パラフィンワックス、(a2)マイクロクリスタリンワックス、および(a3)フィッシャートロプシュワックスはワックス混合物であり、主成分としてこれらのワックス成分を含むと共に、副成分として後述の(C)成分も若干(0.01〜0.9質量%程度)含んでいる。一方、(a4)ポリエチレンワックスは純粋なワックスであり、当該ポリエチレンワックスのみからなる。
【0019】
〔(B)ビニル(共)重合体〕
(B)ビニル(共)重合体は、(A)ワックスとPCとを相容化し、(A)ワックスをPC中に微分散化させる機能を有する。当該(B)ビニル(共)重合体は、(b1)(メタ)アクリロニトリル、(b2)(メタ)アクリル酸、(b3)(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルまたは(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(b4)スチレン、および(b5)下記式(1)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル類の中から選ばれる少なくとも1種、若しくは2種以上のビニル単量体をラジカル重合して得られる(共)重合体である。中でも、耐擦傷性の観点から、(b1)(メタ)アクリロニトリルと(b4)スチレンとの共重合体が好ましい。
【化3】
(R
1:HまたはCH
3、R
2:炭素数1〜4の直鎖または分岐炭化水素基)
【0020】
また、(B)ビニル(共)重合体として、上記ビニル単量体(b1)〜(b5)の中から選ばれる少なくとも1種と共に、(b6)1分子内にポリオルガノシロキサン基を有するビニル単量体(少なくとも片末端にビニル基を有する単量体)もラジカル重合して得られる共重合体を使用することが好ましい。このようなビニル単量体(b6)は、ポリオルガノシロキサン基を有することで、(B)ビニル共重合体の表面配向性を著しく向上させることができる。そのため、(B)ビニル共重合体によって相容化された(A)ワックスも表面に配向するため、ポリカーボネート樹脂成形品表面の滑性を向上することができる。さらに、ポリオルガノシロキサン自体も滑性を有していることから、ビニル単量体(b6)が共重合された(B)ビニル共重合体には滑性が付与され、そのためポリカーボネート樹脂成形品表面の平滑性を著しく改善することができる。
【0021】
ビニル単量体(b6)としては、例えば信越化学工(株)の製品名:X−22−164、X−22−164AS、X−22−164A、X−22−164B、X−22−164C、X−22−164E、X−22−2445、X−22−1602、X−22−174ASX、X−22−174BX、X−22−2426、X−22−2475、KF−2012、JNC(株)の製品名:サイラプレーンFM−0711、サイラプレーンFM−0721、サイラプレーンFM−0725、等が挙げられる。中でも片末端のみを(メタ)アクリル変性した、X−22−174ASX、X−22−174BX、X−22−2426、X−22−2475、KF−2012、サイラプレーンFM−0711、サイラプレーンFM−0721、サイラプレーンFM−0725が好ましい。これらビニル単量体(b6)は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用することもできる。
【0022】
〈ラジカル重合開始剤〉
上記ビニル単量体(b1)〜(b6)は、ラジカル重合開始剤によってラジカル重合される。当該ラジカル重合開始剤としては、アゾ系重合開始剤、有機過酸化物、過硫酸塩、過酸化水素水、レドックス重合開始剤(酸化剤および還元剤を組合せた重合開始剤)等を使用できる。
【0023】
アゾ系重合開始剤としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1−フェニルエチルアゾジフェニルメタン等が挙げられる。
【0024】
有機過酸化物としては、例えば1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、クミルパーオキシルネオデカノエート、t−ブチルパーオキシルネオデカノエート等のパーオキシエステル類等が挙げられる。
【0025】
レドックス重合開始剤に用いられる酸化剤としては、ハイドロパーオキサイド類または過硫酸塩が使用できる。ハイドロパーオキサイド類としては、例えばクメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。過硫酸塩としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。還元剤としては、例えばグルコース、デキストロース、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート(ロンガリット)、チオ硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸銅およびヘキサシアノ鉄(III)カリウム等が挙げられる。
【0026】
上記に例示したラジカル重合開始剤の中でも、取り扱いのし易さ、および重合反応の制御のし易さから、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイドまたは過硫酸カリウムが好ましい。
【0027】
〈(B)ビニル(共)重合体の製造方法〉
(B)ビニル(共)重合体は、ラジカル重合開始剤を使用した公知の懸濁重合法または乳化重合法によって合成することができる。このとき、ビニル単量体(b1)〜(b5)の中から選ばれる少なくとも1種と共に、(b6)のビニル単量体も使用する場合は、(B)ビニル(共)重合体の全量(100質量%)基準で、ビニル単量体(b6)の含有量が1〜30質量%となるように配合する。ビニル単量体(b6)の配合割合(含有量)が31質量%以上になると、得られるポリカーボネート樹脂成形品の表面物性が低下する。
【0028】
また、ラジカル重合開始剤の配合量(含有量)は、各単量体の総量100質量部に対して、好ましくは0.001〜10質量部とする。ラジカル重合開始剤の含有量が0.001質量部未満の場合には、重合を完結させるために長時間の反応が必要となるばかりでなく、反応が完結しないため好ましくない。一方、10質量部を超える場合には発熱が大きくなり、重合反応の制御が困難となる傾向にある。
【0029】
乳化重合法によって合成する場合は、各単量体と共に界面活性剤も混合しておく。当該乳化重合に使用される界面活性剤としては、公知のノニオン系、アニオン系またはカチオン系の界面活性剤が使用できる。塩析によって重合物を取り出す場合は、アニオン系界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤としては、例えば脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単量体(b1)〜(b6)の総量100質量部に対して0.1〜10質量部程度の割合で配合すればよい。
【0030】
乳化重合に際しては、必要に応じて公知のpH調整剤、キレート剤、重合(粘度)調節剤、重合安定剤等を添加することができる。pH調節剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等が挙げられる。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム等が挙げられる。粘度調節剤または重合安定剤等としては、無機電解質、有機電解質、高分子電解質等が挙げられる。さらに、重合度を制御するために、公知の架橋剤、連鎖移動剤、重合禁止剤等を添加することも可能である。
【0031】
重合が完結した後、乳化重合で得られた乳化液は、例えば塩酸、硫酸、硝酸等の酸類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸銅、硝酸カルシウム等の電解質類を用いて塩析した後、濾過、乾燥することで(共)重合体が得られる。
【0032】
また、懸濁重合法によって合成する場合は、各単量体と共に分散剤も混合しておく。分散剤としては、例えば無機系化合物として、第三リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ベントナイト、シリカ、アルミナ、磁性体、フェライト等が挙げられる。また、有機系化合物としては、ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、デンプン等が挙げられる。分散剤の配合量は、各単量体の総量100質量部に対して0.01〜10質量部程度とすればよい。そして、懸濁重合が完結した後、濾過および乾燥することで(共)重合体が得られる。
【0033】
各単量体のラジカル重合によって合成される(B)ビニル(共)重合体の数平均分子量(Mn)は、通常1,000〜6,000,000である。この数平均分子量が1,000未満であるとビニル(共)重合体の耐熱性が低下する傾向があり、数平均分子量が6,000,000を超えるとビニル(共)重合体を溶融させたときの流動性が悪化し、成形性が低下する傾向にある。
【0034】
したがって、表面物性改良剤組成物には、必要に応じて分子量調整剤を添加することも好ましい。当該分子量調整剤としては、N−ドデシルメルカプタン、フェニルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類、α-メチルスチレンダイマー、四塩化炭素等のハロゲン化アルキル類、イソプロピルアルコール等のアルコール類、等が挙げられる。
【0035】
〔(C)炭素数5〜14の脂肪族炭化水素〕
(C)炭素数5〜14の脂肪族炭化水素は、25℃1気圧下で液体の炭化水素成分であって、(A)ワックスの滑性をさらに向上する機能を有する。(C)炭素数が5〜14の脂肪族炭化水素の具体例としては、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン等がある。これら(C)炭素数5〜14の脂肪族炭化水素は、1種のみを単体で使用してもよいし、2種以上の混合物として使用してもよい。
【0036】
(C)成分の含有量は、(A)ワックス(混合物)の全量(100質量%)に対して、0.001〜1.0質量%とする。この範囲を外れると、得られるポリカーボネート樹脂成形品の表面物性が低下する。なお、当該(C)成分の含有量には、(A)ワックス中に元々含有されている量も加算されている。
【0037】
表面物性改良剤組成物は、(A)ワックスの融点以上の温度で、(A)ワックスと(B)ビニル(共)重合体と混合することで得ることができる。このとき、(B)ビニル(共)重合体を製造してから(A)ワックスと混合してもよいし、同一容器内に(A)ワックスと、各ビニル単量体(b1)〜(b6)とを投入して、(A)ワックスの存在下で(B)ビニル(共)重合体を製造してもよい。また、表面物性改良剤組成物は、(A)ワックスと(B)ビニル(共)重合体とが共有結合により結合し、グラフト共重合体及び/又はブロック共重合体の形態を取っていてもよい。このグラフト共重合体及び/又はブロック共重合体は、同一容器内に(A)ワックスと、各ビニル単量体(b1)〜(b6)とを投入して、(A)ワックスの存在下で(B)ビニル(共)重合体を製造することにより得られる。
【0038】
(A)ワックスと(B)ビニル(共)重合体の配合割合(含有量)は、(A)+(B)=100質量部中、(A)ワックスが50〜98質量部(換言すれば、(B)ビニル(共)重合体が50〜2質量部)とする。(A)ワックスが50質量部より少ないと、滑剤量が少なくなるので、得られるポリカーボネート樹脂成形品の表面平滑性が低下してしまう。
【0039】
<配合比率>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、表面物性改良剤組成物を0.1〜20質量部、好ましくは1〜20質量部含有する。ポリカーボネート樹脂100質量部に対して表面物性改良剤組成物が0.1質量部より少ない場合、十分な耐擦傷性および軋み音低減効果を得ることができない。一方、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して表面物性改良剤組成物が20質量部より多い場合、得られる熱可塑性樹脂成形品の成形外観が悪化する。
【0040】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、離型剤、界面活性剤、滑剤、可塑剤、着色剤、抗菌剤、核剤、分散剤、充填剤、ガラス繊維等の樹脂用添加剤を加えることができる。これらは1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と表面物性改良剤組成物とを同時に溶融混練することで得ることができる。ポリカーボネート樹脂は市販されており、Bayer製のMakrolon2407、SABIC製のレキサン241R、住化スタイロン製のカリバー301−30等が挙げられる。溶融混練の方法としては、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等の公知の溶融混練方法が採用される。
【0042】
≪樹脂成形品≫
本発明の樹脂成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物を所定形状に成形することにより得られ、熱可塑性樹脂組成物に含まれる表面物性改良剤組成物の効果が発現される。樹脂成形品の形態としては、シート、フィルム、中空体、ブロック体、板状体、筒体、複雑形状体等、特に限定されない。成形方法としては、熱可塑性樹脂の一般的な成形方法であれば特に限定されず、押出成形法、射出成形法、ブロー成形法、発泡成形法、カレンダー成形法、圧空成形法、加熱成形法、真空成形法、パウダースラッシュ成形法等が挙げられる。樹脂成形品は優れた表面物性改良効果により、自動車部品、家電部品、雑貨等の幅広い分野における多種の製品、半製品に使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれに限られることはない。
【0044】
(表面物性改良剤組成物)
容量0.5Lの反応槽に、表1に示す(a1)〜(a4)の(A)ワックス(混合物)を表3に示す割合と、表2に示すビニル単量体(b1)〜(b6)を表3に示す割合と、表3に示す(C)炭化水素を表3に示す種類と割合でそれぞれ投入し、そこに水280gと、分散剤として1.6gの第三リン酸カルシウムおよび0.4gのヒドロキシプロピルメチルセルロースと、分子量調整剤として0.02gのα-メチルスチレンダイマーと、ラジカル重合開始剤として0.66gのジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイドとを混合して反応槽に投入し、70℃で3時間攪拌しながら反応させた。次いで、ラジカル重合開始剤として0.1gの過硫酸カリウムを0.5gの水に溶解させて反応槽に投入し、70℃で1時間反応させた。その後、40℃以下に冷却して濾過、乾燥工程を経て表面物性改良剤組成物を得た。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
(ポリカーボネート樹脂成形品)
PCとしてマクロロン2407(Bayer製)100質量部に対し、上記で得られた表面物性改良剤組成物を、表4に示す割合で配合し、二軸押出機(PCM−30、池貝製)により押出温度240℃で溶融混練を行い、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。次いでこのペレットをシリンダ温度260℃、金型温度80℃で射出成形し、JIS K 7113の1号形試験片、および55mm×80mm×t2mmのプレート状試験片を作成した。
【0049】
得られた各試験片について、次の方法にて成形外観、耐引っ掻き傷性、耐擦り傷性、軋み音を評価した。その結果も表4に示す。
【0050】
<成形外観>
本実施例および比較例中で評価した射出成形品の外観については、目視により以下の基準で判断した。
○:白色で、成形品表面にフローマーク等の射出ムラがない
×:白色以外、あるいは成形品表面にフローマーク等の射出ムラがある
【0051】
<耐引っ掻き傷性>
装置はカトーテック社製スクラッチテスター KK−01を使用し、試験片はJIS K 7113の1号形試験片を使用して、ISO19252に準じてスクラッチ荷重:1〜30N、スクラッチ距離:100mm、スクラッチ速度:100mm/sec、チップ:ステンレスφ=1.0mmにて試験を行った。白化傷がつき始めた荷重を耐引っ掻き傷性の評価点とした。評価点が10N以上のものを合格とした。
【0052】
<耐擦り傷性>
装置は安田精機製作所社製NO416−TMI CROCK METERを使用し、試験片は55mm×80mm×t2mmのプレート状試験片を使用した。試験荷重:1kg、試験回数:100往復、試験速度:1往復/sec、相手材:綿布(かなきん3号)にて試験を行った。評価はHORIBA社製GLOSS CHECKER IG−330を使用して、試験前後の試験片表面のグロスを測定(60°)し、下記に示す式(2)よりグロス保持率を算出した。グロス保持率90%以上を合格とした。
グロス保持率=試験後グロス/試験前グロス×100(%)・・・(2)
【0053】
<軋み音>
軋み音の評価は、例えば特許第5425535号に示されている方法を採用することができる。装置はZiegler社製スティックスリップ測定装置SSP−02を使用し、試験片は55mm×80mm×t2mmのプレート状試験片を使用した。また相手材として、PCを射出成形し、55mm×80mm×t2mmの試験片を用意した。試験片を装置に固定し、荷重5N、10N、40N、速度1mm/sec、4mm/sec、10mm/secの条件において、3回ずつ相手材と擦り合わせ、軋み音リスク値を測定した。なお、当該の測定装置では、軋み音リスク値が1〜10の10段階で表示される。
【0054】
【表4】
【0055】
表4の結果から、各実施例の表面物性改良剤組成物を配合したポリカーボネート樹脂成形品は良好な耐擦傷性改良および軋み音低減効果を示していた。中でも、実施例2−1〜実施例2−11のように、ビニル単量体(b6)を共重合した表面物性改良剤組成物を配合したポリカーボネート樹脂成形品は、特に良好な効果を示していた。また、表面物性改良剤組成物の配合比率に関して、実施例1−1〜実施例1−11を比較すると、PC100質量部に対する表面物性改良剤組成物の配合比率が1〜20質量部である実施例1−2〜実施例1−11において、耐擦傷性の改良効果が良好な結果となった。同様に、実施例2−1〜実施例2−11を比較すると、PC100質量部に対する表面物性改良剤組成物の配合比率が1〜20質量部である実施例2−2〜実施例2−11において、耐擦傷性の改良効果が良好な結果となった。
【0056】
一方、比較例1−1は、表面物性改良剤組成物を使用していないため、耐擦傷性及び軋み音が悪かった。比較例1−2及び比較例2−1は、表面物性改良剤組成物の含有量が過少なため、耐擦傷性及び軋み音が悪かった。逆に比較例1−3及び比較例2−2は、表面物性改良剤組成物の含有量が過多なため、成形外観が悪かった。比較例3−1は、表面物性改良剤組成物に(B)成分が添加されていない比較製造例1−1を使用したため、成形外観が悪かった。比較例3−2は、表面物性改良剤組成物中の(A)成分の含有量が過少な比較製造例1−2を使用したため、耐擦傷性及び軋み音が悪かった。比較例3−3は、表面物性改良剤組成物に(C)成分が添加されていない比較製造例1−3を使用したため、軋み音が悪かった。逆に比較例3−4は、表面物性改良剤組成物中の(C)成分の含有量が過多な比較製造例1−4を使用したため、成形外観及び軋み音が悪かった。比較例4−1は、表面物性改良剤組成物に(A)成分が添加されていない比較製造例2−1を使用したため、耐擦傷性及び軋み音が悪かった。一方、比較例4−2は、表面物性改良剤組成物中の(A)成分の含有量が過多な比較製造例2−2を使用したため、成形外観が悪かった。他方、比較例4−3は、表面物性改良剤組成物中の(A)成分の含有量が過少な比較製造例2−3を使用したため、耐擦傷性及び軋み音が悪かった。比較例4−4は、(B)成分中の(b6)の構成割合が過多な比較製造例2−4を使用したため、成形外観が悪かった。